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ボイコットだけでは事態は悪化する(エーリク・ソールハイム)

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【IPSコラム=エーリク・ソールハイム】

ハマスとの接触を断て!イスラエルと話をするな!ビルマから距離をとれ!過去の長きにわたって、望ましくない体制とは接触するなとのこうした叫びが繰り返されてきた。 

しかし、タカ派というべきイスラエルのダヤン元外相の次の発言を思い出してみるべきだ。「もし平和を作り出したければ、友人と話をするな。敵と話をすべきである」。

 私は、20年以上にわたって、ビルマの人権と民主主義の問題にかかわり続けてきた。事態が大きく展開しそうだと思ったことが何度もあったが、そのたびに期待は裏切られてきた。1月の末にビルマに行ったが、自分の目で確かめてみて、ビルマがこの数十年全く変わっていないことを思い知らされた。 

1988年にビルマに軍政が誕生して以来、西側諸国はビルマ孤立策を採ってきた。しかし、軍政は政治的・経済的改革を行うことを拒否してきた。いまこそ、別のアプローチを考えるべきだ。 

孤立策が事態の改善に結びつくことはほとんどない。民主化が中産階級の登場と深い関係にあることは経験上明らかだ。表現の自由などの社会の進歩を求める力は、そうした動きを起こす資源を持つ中産階級から出てくる。ある国が世界から孤立していれば、そのような中産階級は出てきようがない。 
 
 ノルウェーは、誰とでも分け隔てなく協議を行う外交政策で評判を博してきた。ノルウェーは、ハマスと協議を行ったがゆえに、中東和平プロセスにおいて独自の地位を占めることができる。スリランカでは、「タミル・イーラム解放の虎」と接触をとれる数少ない関与者のひとつである。ネパールの毛派とも協議してきたが、その毛派からは、いまや、首相を出すまでに到っている。我々は、フィリピンの共産主義者とも会うし、ブルンジやスーダンの反体制派とも話をする。 

 ビルマもまた、金融危機のために難題に直面している。軍政は総選挙を予定しているが、自由でも公正なものでもないだろう。アウン・サン・スー・チー氏はいまだに軟禁状態にある。残念ながら、近い将来に民主化するとの希望はない。しかし、私たちは、より長期的で歴史的な視点を持つべきである。すなわち、孤立よりも、開放と対話こそがより効果的なのだということを。 (原文)

翻訳/サマリー=IPS Japan 

*エーリク・ソールハイム氏は、ノルウェー環境・国際開発大臣。 

日豪核軍縮委員会の報告書に批判

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【東京IDN=浅霧勝浩】

賢人会議「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)は、12月15日、2025年までに世界の核兵器を90%以上削減することを求めた報告書を発表した。報告書の提出を受けた日本の鳩山由紀夫首相とオーストラリアのケビン・ラッド首相は大いに満足したようだ。

 日豪両政府の支援を受けた委員会は、ギャレス・エバンズ、川口順子の両外務大臣経験者を共同議長とし、ニューヨークで5月に開かれる核不拡散条約(NPT)運用検討会議に5ヶ月先立って、待望の報告書を提出した。 

しかし、両首相の満足は、日豪を含めた世界の市民社会組織からの批判の嵐によって水を差されることになった。報告書はエヴァンズ・川口両氏を筆頭とする15人の委員によって書かれ、全会一致の賛成を得ている。 

「核の脅威を除去する―世界の政策決定者への現実的な提案」と題された332ページの報告書は、冷戦後20年を経てもなお、広島型原爆15万発の威力に相当する2万3000発の核弾頭が世界に存在するという事実を考えると、きわめて重要な意味を持っている。米ロで2万2000発を保有し、フランス・イギリス・中国・インド・パキスタン・イスラエルで残りの1000発を保有している。 

全核弾頭の約半数が実戦使用可能な状態に置かれており、米ロはそれぞれ2000発の弾頭をすぐに発射可能な危険な警戒態勢下においている。攻撃があったと認知した場合、それぞれの大統領には4~8分しか判断の時間がない。ちなみに冷戦期を通じて、指揮・管制システムには人為的なミスや誤作動が絶えなかった。 

こうした状況の中、鳩山首相は、報告書について、「世界を平和に導くガイドブックが完成した。大変素晴らしいことだと思う。」と述べた。ラッド首相は、「2010年という重要な年にあたり、核不拡散と核軍縮に関する議論の重要な枠組みを提供すると思う。」と発言した。 

報告書は、「1970年に発効したNPT(5年ごとに運用検討会議がある)には大きな制約がある」と指摘している。2005年のNPT運用検討会議は、当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領のようなキープレイヤーが軍縮に関する約束を果たそうとせず、「完全なる失敗」に終わったと報告書はみている。そのうえ、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮といった核兵器保有国はNPTに批准していない。 

日豪などのNGOが出した共同声明は、報告書を歓迎しつつも、「報告書が示した核軍縮の行動計画はあまりに遅く、期待からは大きくかけ離れたものだった。」と断じている。さらに、「これでは、核廃絶に向けた世界的な機運を後押しするよりも、むしろブレーキをかける危険性をはらんでいる。」と警告している。 

共同声明には、広島の秋葉忠利市長(平和市長会議議長)や長崎の田上富久市長も名を連ねている。両市は世界で唯一、核兵器による大虐殺の犠牲となった地だ。またその他の署名者の中には、ノーベル平和賞を受賞した「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」、核軍縮キャンペーン、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のティルマン・ラフ議長もいる。 

核兵器ゼロを目指して―いつまでに? 

報告書が市民社会に失望を与えた最大の理由は、核廃絶に向けた現実的な道筋を、緊急かつ実現可能な目標として導き出さなかった点にある。報告書は、世界の核兵器を2000発以下にまで削減する「最小化地点」として2025年を目指すとしたが、核廃絶に到るその後のプロセスや時間枠をまったく示していない。 

市民社会の共同声明は、「このような行動計画では、委員会が示した核兵器のない世界という目標に向けて前進するのではなく、核兵器が削減されるが保持され続けるという世界の永続化に利用されてしまう危険性があります。」と批判している。 

被爆者たちは、10月に広島でICNND会合が行われた際に証言を行い、こうした悲劇が地球上で繰り返されてはならないと委員たちに訴えた。彼らは、核兵器の使用は「人道に対する罪」であり、人類は核兵器と共存できないと主張した。 

科学者たちは、ほんのわずかであっても核兵器が使用されることがあるならば、地球の環境は破壊されるだろうと警告している。最近の国際的動向を見れば、核兵器を保有し続けたり、その価値を認めたりする国々が存在する限り、他国がそれに追従しようとする動きが出てくることは明らかだ。 

このため、市民社会は核廃絶に向けた包括的なアプローチを要求している。世界の市長たちは、核兵器は2020年までに廃絶されるべきだと主張している。広島・長崎両市長は、その年に核兵器なき世界を祝福しようと呼びかけている。 

「これらの声に真摯に耳を傾けるとき、今回の報告書が掲げる行動計画は、緊急性の意識と危機感をあまりにも欠くものであったと言わざるをえません。」と共同声明は述べている。 
ICNNDの報告書は、包括的な核兵器禁止条約(NWC)が核兵器なき世界の達成のために必要になるだろうと示唆している。共同声明はその点で委員会を評価している。しかし、報告書は、NWCの起草は2025年ごろでかまわないとしている。 

共同声明は、これではあまりに遅すぎると指摘し、「現実には、すでに10年以上前にNGOによって起草されたモデル核兵器禁止条約がマレーシアとコスタリカ政府によって国連に提出されており、潘基文国連事務総長はそのような条約を真剣に検討するようくり返し呼びかけています。オーストラリア議会の超党派委員会は今年、核兵器禁止条約の支持を同政府に全会一致で勧告しています。求められているのは、各国政府が市民社会と協力して、核兵器禁止条約への作業を『いま』開始することです。」と述べている。 

核兵器の価値を否定する 

共同声明の署名者らは、報告書が核兵器の価値を否定し、安全保障政策における核兵器の役割を限定すべきだとしたことを歓迎した。ICNND報告書は、「先制不使用」の核態勢をめざしつつ、核兵器の唯一の役割は核攻撃の抑止であるとの宣言をすべての核保有国に求めた。 

市民社会の共同声明は、拡大核抑止(いわゆる核の傘)に依存する日豪両国が主導した委員会がこのような勧告を行ったことの「意義は大きい」としている。しかし、委員会の議論においては、日本の参加者が核兵器の役割を限定することに抵抗したといわれている。 

したがって、市民社会は「今後の日本政府の行動に注目したい」と述べている。彼らは、「核不拡散条約(NPT)に加盟する非核兵器保有国の政府の役人が、核兵器保有国の軍縮に抵抗したり、核の傘がなくなって非核の抑止力や防衛力に置き換えられるなら自らが核兵器を持つと脅したり暗示したりするようなことはまったく容認できない。」との立場をとっている。 

ICAN豪州支部は、6ページからなる別の声明においてより厳しい見方を示した。「ICNNDは独立の委員会であるとされていたが、米国の同盟国である日豪両政府の支援を受け有力者を集めたこの試みは、自らの役割をもっと明確にすべきだった。」と批判している。 

ICANによれば、日本の外務省が、公式見解に反して、米国による日本への核持ち込みを長年にわたって黙認してきたことが最近わかったという。 

さらには、日本政府は、オバマ政権の核軍縮の動きにさかんに反対してもいるという。また、米国が核兵器の先制不使用政策へと動こうとしていることに対して日本が頑強に反対し、ICNNDの委員たちを困らせたとも伝えられている。同声明は「国内の2都市が核攻撃を受けた国の行動だけに、やっかいで残念なことである。」と述べている。 

また同声明は、「オーストラリアの今年の防衛白書は、米国の核抑止力に2030年以降も依存し続けることを確認しており、核軍縮を目指すとの同国の公式目標に完全に反している。また、核兵器国に対するオーストラリアのウラン輸出は継続しているが、ウラン濃縮に関する保障措置は十分でないし、使用済み核燃料の再処理についても規制がかけられていない。」と指摘している。 

さらに、ICAN声明は、「拡大抑止は核兵器である必要はない。日本の新政権では、岡田克也外相が核の先制不使用政策を支持し、鳩山首相が『核兵器なき世界』という目標を口にしている。オバマ大統領の核軍縮目標と先制不使用政策を積極的に支援する日豪の共同の取り組みは、すばらしい機会を提供することになるであろう。」「豪日両国は、核兵器の使用を排除した新しい同盟関係を米国と結ぶべきだ。これこそが、オバマ大統領と『核兵器なき世界』を支持するために両国がとれるもっとも強力な行動であろう。NATOをはじめとして、世界全体に影響力を持つはずだ。」と述べている。 

原子力にNoを 

ICNNDの報告書は、核テロリズムの脅威と、原子力平和利用に伴うリスクについて言及している。しかし、市民声明は、ウランやプルトニウムなど、核兵器に転用可能な物質および技術に対する具体的な規制措置の提案は「不十分」だと述べている。 

この報告書は、おりしも気候変動枠組み条約に関するコペンハーゲン会合(COP15)のさなかに提案されており、「地球温暖化によって世界的なエネルギー政策が転機にあるなか、原子力にともなう核拡散の脅威に対処するために、より一層強い措置が必要です」と市民声明は述べている。 

ICAN豪州支部のティルマン・ラフ議長は、「ウラン濃縮と、プルトニウム抽出のための使用済み核燃料再処理は、必然的に軍民両用的な性格を持っている。ICNNDの明白な原子力推進の姿勢は、これらを規制する必要性を一方で示していることと折り合わない。委員会が原子力を推進することは矛盾している。既存の核不拡散体制の失敗に対処しそれをどう修正していくのかを示さないまま、核拡散の危険性を高めることになるであろう。」と述べている。 

ICAN豪州の立場は、「核兵器なき世界」を達成し維持していくには、原子力を次第になくしていく方が手っ取り早いというものである。しかし、原子力が現実に使用されている中、原子力産業は、ウラン濃縮を厳格な国際監視の下でのみ行い、プルトニウム抽出のための使用済み核燃料の再処理を中止する大きな方向転換を必要としている。 
ICANは、「核兵器なき世界」達成に向けた努力の一環として、安全保障政策における核兵器の役割を低減することは、核兵器保有国だけではなくすべての国々の責任だと考えている。また、核兵器保有国の同盟国は、特に大きな責任を持っている。 

批判の封じ込め 

しかし、ICNNDの共同議長2人は、予測される批判の先回りをして、2008年7月に共同議長就任を要請された際、同委員会の使命は、「あくまでハイレベルの国際的議論を促すことを主目的とし、冷戦終了直後に軍備管理への熱情が失われて以来、国際的な核政策が陥っていた夢遊状態から目を覚まさせることが目的だった。」と述べた。 

特に共同議長の両氏は、「彼らの任務は、2010年5月に開催予定のNPT運用検討会議において、前回の2005年運用検討会議と同年の世界サミットにおいて何の合意にも到らなかった失敗を繰り返させないようにすることであった。」と述べた。 

シュルツ、ペリー、キッシンジャー、ナンの4人が2007年1月に発表した論文で、現実主義者の観点から、核兵器は以前に持っていた有用性を失ってしまったと論じてから新しい論争に火がつけられていたが、2008年半ばぐらいまでは、政策決定者たちは現実にその問題に目を向けてはいなかった。 

しかし、2009年初めに事態は一転した。新たに選出されたバラク・オバマ米大統領が核軍縮、核不拡散、核セキュリティに関する一連の方向性を打ち出し、ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領も直ぐに賛意を示した。こうして、核問題は世界的な課題として再登場することになったのである。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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緊急性を増した核軍縮(ミハイル・ゴルバチョフ)

|カンボジア|宗教の違いを超えた「人間の尊厳」重視のHIV陽性者支援とHIV/AIDS防止の試み

【IPS HIV/AIDS研究事業現地取材からの抜粋】

Seedling of Hopeは、カトリック教会系の慈善団体で、一般市民やハイリスク集団に対してHIV/AIDSに関する啓蒙活動を行う一方、HIV/AIDS感染者に対しては、患者の自宅や入院先を訪問してカウンセリングを提供している。

また、Seedling of Hopeでは独自のシェルター/ホスピスを擁しており、エイズ患者に対する精神/肉体両面にわたる支援を行っている。本稿では、人口の95%を仏教徒が占めるカンボジアにおいて、宗教の違いを超えた「人間の尊厳」に対する共感を信条に活動を展開している牧師から見た、HIV/AIDSの現状と課題を概説する。(以下、Jim Noonan神父への取材内容の抜粋)

 
エイズ患者に最も必要なもの
 
「エイズ患者が抱える精神的なストレスは想像を絶するものです。エイズに対する社会の偏見は依然として厳しいものがあり、HIV感染者は、差別や迫害を恐れて病気のことを周りから必死に隠そうとします。しかし、ここ(シェルター)では、皆彼女達の病気のことは了解した上で受け入れているので、エイズ感染者やそうでない者も等しく家族のように自然体で触れ合っています。
 
私は、このエイズ患者の精神的なストレスを取り除く生活環境が、患者の免疫力の維持/向上のための重要な要素となっていると考えています。実際に、ここの収容者達の健康状態は、入所後概ね向上しており、人間の健康は環境さえ整えば、かくも回復する力があるものかと改めて驚かされています。私達は元々専門的に訓練されたカウンセラーではありませんが、収容者に対して彼女達の『人間としての尊厳』に留意し、最大限の愛情を注ぐよう努力しています。私達の信条は、相手が誰であっても等しく接することです。つまり、収容者に向き合う私達の姿勢は、例えば相手が女王陛下であったとしても全く変わりません。」(Jim Noonan, Seedling of Hope)

「ホスピスでは、ビタミン剤といくつかの合併症に使用する薬があるのみで、カンボジアにはエイズ治療薬はないのが現状です。もし、海外からの支援国/団体に『なにが今のカンボジアに最も必要か』と問われれば、〈1〉質の高い血液検査施設と、〈2〉エイズ治療薬を現地生産できる施設、が最も求められていると確信しています。」(Jim Noonan, Seedling of Hope)

宗教の違いを超えた「人間の尊厳」への共感

「私は、ただ助けを必要としている人々に手を差し伸べる活動をしている1老人に過ぎません。私は牧師だが、ここでは人々をキリスト教へ改宗させるといった試みは行っていません。それは、彼らには彼らの価値観に基づく宗教があり、私には私の宗教と信仰があるからである。それよりも、エイズ患者への具体的な支援活動を通じて『人のためになる』活動に従事できることが、私の牧師としての信仰の実践と考えており、それだけで満足です。

また、助けを必要とする人々に『慈しみの心』をもって接することは宗教の違いを超えて人間共通の行いであると思います。エイズ患者の死に際して、私は私流に祈り、仏教徒のカンボジア人達は仏教式に祈りを捧げている。そこに宗教の違いに起因する違和感はありません。また、臨終に際して、私がエイズ患者に、『あなたの為に祈らせてほしい』旨伝えるようにしていますが、彼女達は皆、異教徒の私の祈りを喜んで受け入れてくれています。」(Jim Noonan, Seedling of Hope)
 
エイズを克服するもの

「現在のカンボジア社会における女性の『性』をとりまく現状は非常に歪められたものだと思います。『性』に対する男性の態度は一般に露骨であり、女性の『性』はあたかも人格を失った物かのように見なされ、不当な扱いを受けたり騙されたりしています。また男性の間では、複数の女性との交際を『男らしさの証』と勘違いしている風潮もあり、中には女性に対する性的虐待/搾取の経験を周りに自慢するものさえいます。このような男性達の歪んだ性意識/性行動を1世代の間に転換させることはほぼ不可能に等しいと思いますが、とにかく行動変容をもたらす努力を1日でも早く開始することが重要だと思います。」(Jim Noonan, Seedling of Hope)

「現在のカンボジア社会に必要なものは早期からの性教育の実践です。1996年、国連合同エイズ計画(UNAIDS)では若者の性意識/性行動を変えていくための長期戦略を作成しました。そこで強調されたことは、若者への対策が遅れれば遅れるほど、(エイズ問題は)取り返しのつかない事態に進展するという危機感でした。現在のカンボジアの若者を取り巻く環境は一刻の猶予も許さない深刻なものであり、本格的な若者を対象とした性教育に着手するには絶好の時期でだと確信しています。

また、若者達の健全な性意識を育んでいく上で、両親の説明能力を向上させる努力をしていくことが重要だと思います。『性』をもっと幅広い人間関係の中で若者達が捉えられるよう親達が子供達と真剣に向き合える環境を作っていく必要があると思います。」(Jim Noonan, Seedling of Hope)

「すなわち『エイズを克服するもの』は、異性に対する『誠実さ:Faithfulness』だと思います。自分と異性のパートナーの人生を大切にするためにも、できるだけ婚前交渉を避けることが重要です。そしてそれがどうしても実践できなければ、結婚を誓った相手にのみに性交渉の相手を限定することです。

ポル・ポト時代に禁止され、激しい迫害を受けたカンボジア仏教ですが、元来カンボディア社会における仏教の位置付けは大きく、仏教の僧侶は民衆から深く尊敬されています。宗教は『誠実さ』をはじめHIV/AIDSから身を守る上で重要な諸要素を説いてきており、HIV/AIDS対策を実践していく上で重要なパートナー勢力となりうると思います。カンボジア政府もその点に着目し、近年は僧侶を積極的に活用したHIV/AIDS対策を進めています。私達の団体も1995年頃より僧侶、コミュニティー指導者、NGO等と宗教を活用したHIV/AIDS対策について協議を重ねてきており、多くのことを学んでいます。」(Jim Noonan, Seedling of Hope)

Seedling of Hopeの活動について:

8人のスタッフと4人のボランティアとともに、週2回、一般市民及び工場労働者を対象としたHIV/AIDS教育を実施しており、その際、コンドームを配布している。

「目の前の人々を救うことが最も重要であり、そのためにはカトリック教会も現地のニーズに応じた柔軟な対応が必要だと思います。」

シェルターでは、自分の身の回りの世話は出来るが、一般社会で働くことができなくなったエイズ患者を収容している。ここでは、収容者に対して、敢えて体調の許す限り、裁縫などいくつかの作業グループに割り当てて労働に従事させている。(作業を通じてネガティブ思考に陥ることを防ぐとともに、社会に貢献しているという誇りを感じてもらうため。)一方、ホスピスでは12床の設備と6人の24時間スタッフ体制で、身寄りのないエイズ末期患者を引き取って、最後の日々を共にしている。

(カンボジア取材班:IPS Japan浅霧勝浩、ロサリオ・リクイシア)


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|視点|原子力にイエス、核拡散にノー

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【ウィーンIDN=クリーブ・バネルジー】

原子力という言葉は、クリーン・エネルギーを主唱している者にとって禁句である。従って、重要な非化石エネルギー源として原子力を擁護するにはちょっとした勇気を要する。 

日本のベテラン外交官である天野之弥氏が、国際原子力機関(IAEA)の事務局長職について7日後の12月9日にやろうとしたのは、まさにこのことであった。 

天野氏は、151加盟国の代表に対して、原子力は「地球温暖化の影響を軽減する安定的でクリーンなエネルギー源としてますます受け入れられるようになっている。」と演説した。 

この発言がなされたのは、デンマークの首都コペンハーゲンで気候変動に関する歴史的な国際会議が開催される2日前のことで、途上国・新興国が、先進国と角を突き合せんとしているところであった。 

「多くの加盟国が、新しい原子力計画の開始、あるいは既存計画の拡張を非常に重視していることを表明しています。」「原子力新興国のニーズに対応するため、IAEAは活動の焦点をかなりの程度変えてきました。これまでの成果を生かし、できるだけ現実的で、受け手国の役に立つように、能力構築(キャパシティ・ビルディング)などの分野で支援を行っていきたいと考えています。」と、天野氏は語った。

 さらに天野氏は、「私の希望は、IAEAの活動によって、加盟国が原子力を導入する道への明確な前進を4年以内に実感し始められるようにすることです。」とも述べた。 

こうした発言は時代遅れのものに聞こえるかもしれない。しかし、IAEAの新事務局長がここで示しているのは、中期的に力を入れようとしている分野の見取り図であり、そこには、国連の一部として「平和のための原子力」を実現すべく1957年に設立されたIAEAの理念が見据えられている。 

米国が広島・長崎に投下した原子爆弾の惨禍を繰り返すことなく、人類の福利のために原子力を利用する支援をするというのがIAEAの任務である。 

IAEAは、核不拡散を推進し、核の安全とセキュリティを高めるために活動している。加盟国が「原子力技術の適用を通じて、エネルギー需要を満たし、気候変動への懸念に対応し、食料安全保障と清潔な水を確保し、医療サービスを改善する」ことを支援する役割も担っている。 

天野氏は加盟国代表に対して、「原子力科学技術の利点を広めていくIAEAの技術協力プログラムは、すべての加盟国にとって重要です。私は、技術協力に焦点をあて、加盟国のニーズをより効果的に満たすようにしたいと考えています。」と演説した。 

この点で優先されるのは、原子力科学技術に関する専門能力を各国が確立するのを支援することになるだろう。 

天野氏は、初年度はガン征圧に力を入れるとの計画を明らかにした。この計画に関する成果を視察するために、最初の公式訪問地としてナイジェリアに向かう予定である。 

また1月には、ダボスでの「世界経済フォーラム」に出席する機会を利用して、世界的なガン拡大の問題に注目を集めることをねらう。さらに9月の「IAEA科学フォーラム」ではガン問題を主要に取り上げる予定である。 

天野氏は、核不拡散の分野における自身の任務は、保障措置協定が締結・完全履行されるようにすること、加盟国に事実に基づく客観的なデータと分析を提供すること、国連安保理とIAEA理事会の関連決議に従って行動することだと考えている。 

「追加議定書を発効させ履行することは、原子力を平和利用に限ろうとするIAEAの活動に対して、非常に重要な意味を持ちます。事務局長としての任期の早い段階で、追加議定書の締結国(現在91カ国:IPSJ)を100カ国の大台に乗せたいと考えています。」と天野氏は語った。 
天野氏は、米露両国による核兵器削減の努力を歓迎し、戦略核兵器削減条約(START)の後継条約に関する交渉の進展に満足感を示した。 

また天野氏は、「2010年には、来年5月の核不拡散条約(NPT)運用検討会議の成功や、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の策定協議開始をそれぞれ期待している。」と発言した。 

この関連で、天野氏は、日豪両政府の肝いりで始まった「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)の報告書を読むことを楽しみにしていると述べた。ICNNDは10月18日から20日にかけて広島で4回目の会合を開催した。しかし、「同委員会は『核兵器なき世界』という目標から外れていってしまっているのではないか」との市民団体からの強い批判にさらされている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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米国と北朝鮮政府、核問題で2005年の合意を再確認

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【ワシントンIPS=エリ・クリフトン】

米国のスティーブン・ボズワース北朝鮮問題特別大使は、12月10日、「3日間に亘った今回の訪朝では、北朝鮮の非核化を目指した多国間協議への復帰の約束を取り付けることができなかった。」と語った。ただし、朝鮮民主主義人民共和国が経済支援などの見返りと引き換えに自国の核開発を中止することを約束した2005年の共同声明については、米朝両国が再確認した。 

ボズワース大使は、ソウルで開いた記者会見において、「バラク・オバマ大統領が明確にしたように、米国は、北朝鮮に別の将来をもたらすために、地域の同盟国やパートナーと協力する用意がある。北朝鮮がこの将来を実現する道筋は、6カ国協議において対話のドアを開くことであり、朝鮮半島非核化のための不可逆的な措置をとることである。」と述べた。 

北朝鮮は、国連安全保障理事会が北朝鮮による核実験への非難決議を出した後、6カ国協議(米国、中国、韓国、ロシア、日本、北朝鮮)から抜けて、米国との二国間協議を求めていた。

 ビル・クリントン元米大統領が8月に北朝鮮を訪問して、中国から越境して北朝鮮に入国したとして3月以降身柄を拘留されていた米国人ジャーナリスト2名を救出した以外は、4月以降めだった成果は見られない。 

ボズワース大使は用心深く、今回の協議は「あくまで今後に向けてのもの」であり、「交渉の必要性に関する『共通の理解』を打ち立てるためのものだった。」と述べた。しかし、そうならば、6カ国協議の他の当事者との協議が必要となってくるだろう。 

北朝鮮政府はオバマ政権との直接交渉に熱心であり、中国当局は、米朝接触は北朝鮮が6カ国協議に復帰する条件のひとつだとしていた。 

ボズワース大使は金正日総書記と会わなかったが、姜錫柱(カン・ソクチュ)第一外務次官、金桂寛(キム・ゲグァン)核問題上級大使とは面談している。 

ボズワース大使は、「今回の会談で、経済支援と引き換えに北朝鮮が核開発を放棄することを約した2005年の共同声明を再確認すべきとの『共通の理解』に達した。」と語った。 

ヘンリー・L・スチムソン・センターの朝鮮専門家で元国務省高官であるアラン・ロンバーグ氏は、「6カ国協議への復帰は米朝協議の成果いかんにかかっているとの北朝鮮の立場を慮ったような内容をボズワース大使の発言に見出すことはできない。今後それがどう定義されるかが、非常に重要になる。」と語った。 

さらにロンバーグ氏は、「ある意味でさらに興味深いことは、北朝鮮がかつて死んだ文書だと述べ、そうした約束は無効だとしていた2005年の共同声明の必要性と重要性に関して両国が共通の理解に達したという事実であり、しかも、極めて重要な時期にそういう合意を行ったという点だ。少なくとも、米朝両国は、和解不可能な立場からは後退したようだ。しかし、この時点で、両国がどれほど柔軟に立場を変えうるのかは未知数だ。」と語った。 

確かに、北朝鮮を6カ国協議に復帰させることはできなかったかもしれないが、2005年の共同声明を再確認したことは、北朝鮮がさまざまな見返りを受けて核開発を放棄する可能性を検討する意思があることを示している。 

それでもなお、ボズワース大使は、「ひとたび6カ国協議が再開され、北朝鮮の核放棄に向けて『相当の見通しが得られる』ならば、米国は、経済支援や、朝鮮戦争の公的終結のための平和条約、関係正常化、安全の保証など、2005年の共同声明に言及された見返りについて議論する用意がある。」と強調した。 

ブルッキングス研究所北東アジア政策研究センター所長のリチャード・C・ブッシュ3世は、「この行き詰まりを打開するひとつの前提条件は、米韓、米中、米日間にくさびを打ち込むことや米国から譲歩を引き出すことは無理だということを北朝鮮が認識することだろう。この私的立場は、同時に公的立場でもある。これは、我々の立場を強化するための重要な第一歩だ。」と語った。 

北朝鮮を6カ国協議に復帰させるという動きの前途は多難だ。しかし、国連は、北朝鮮の秋の収穫は貧弱なものであり再び食糧難に直面する可能性があると報告していることから、北朝鮮が支援を求めて2009年初頭の時期より協議への復帰により積極的になるかもしれないとの見方も出てきた。 

しかし、今回米国は、支援の条件は北朝鮮が6カ国協議に復帰し、核開発放棄という約束を破らないことと明言してきた。 

ある米国政府高官は、12月7日、「我々は当初から、これは6カ国協議の全当事者が合意していることだと明言してきた。つまり、北朝鮮が以前の約束に単純に戻るだけのことに対して見返りは与えないこということだ。以前にも北朝鮮のこうしたやり方を見てきが、それはむしろ全体の目標達成にとっては逆効果であることが明らかになっている。従って、彼らが交渉に復帰してはじめて、非核化に進んだ際に可能となるものを追求しうる立場に立てるということであって、それ以外に誘引や見返りを与えるつもりはない。」と語った。 

ボズワース大使は、日本・中国・ロシアなど他の6カ国協議の当事国を今後数日の間に訪問し、協議の行く末について議論する予定だ。(原文へ) 
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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│メディア│語られないストーリー―女性に対する暴力

【ローマIPS=ミレン・グティエーレス、オリアナ・ボセッリ】

「遠くを見る必要はありません。身近を見渡してみればいいのです」―オランダ外務省ジェンダー局のRobert Dijksterhuis局長は、部屋を埋め尽くした女性たちに対してこう訴えかけた。「世界の女性の3人に1人が、なんらかの形で、とくに知り合いからの暴力を受けています」。これは国連人口基金の統計である。 

聴衆は、意志ある女性、そして男性たちだ。彼(女)らは、イタリア外務省とローマ市の後援を受けてIPSが主催した、女性の状況とそれにメディアが与える役割について討議する集会の参加者たちである。 

国連女性基金(UNIFEM)の報告書『世界における女性への暴力』によれば、70%の女性が人生の中で男性からの物理的・性的暴力を経験したことがあるという。それもほとんどは、夫やパートナーなど自分の知った人間からだ。15~44才の女性の中では、ガンやマラリア、交通事故、戦争による死者の合計よりも、そうした暴力を原因とする死者の方が多い。

 女性に対する暴力はきわめて広がりのある現象である。 

南アフリカでは、6時間に1人、女性が自分の知った人間によって殺されている。グアテマラでは、毎日平均2人の女性が殺される。ブラジルのサンパウロでは、15秒に1人女性が襲われている。コロンビアやスーダンのダルフールなどの紛争地帯では女性へのレイプが発生しやすい。 

こうした現象は途上国だけではなく先進国でも起こっている。米国では、12~16才の女性のうち83%が学校で何らかの形のセクハラを体験し、女性の殺害のうち3分の1のケースがパートナーによるものである。欧州連合では、40~50%の女性が、職場において、自ら望まない性的行為や身体的接触、セクハラなどを受けている。 

しかし、国連人口基金によると、市民社会やメディア、政治家は、ようやく最近になって女性に対する暴力という現象への見方を変え、無関心と誤った描き方を変えようとしはじめている。 

そこで、メディアの役割というものが出てくる。 

イタリア外務省のビンセンツォ・スコッティ次官によれば、この種の暴力をなくすには「外部との意思疎通が重要な役割を果たす」という。 

世界保健機構(WHO)は、暴力を支える文化的・社会的規範を変えるには、保健問題に関しても大きな役割を果たしてきたメディアが、女性の暴力についても役割を果たせるとしている。 

米国医学協会は、「若者への暴力に対するメディアの影響」という文章の中で、メディアで出されている女性への暴力の描き方によって、現実の暴力のあり方への観点がゆがめられてしまう、と述べている。 

女性がメディアで取り上げられることそのものが少ないこと、間違った役割が女性に与えられてしまっていることによって、さらに問題は悪化する。公正なジャーナリズムの推進を目指す団体「メディア・モニタリング・アフリカ」はメディア業界における女性の少なさや、被害者や「誰かの親戚」といった形で女性がつねに周辺的な存在としてしか描かれないことに警告を発している。 

Monika Djerf-Pierreが書いた報告書「ジェンダーとジャーナリズム」は、「ジャーナリズムにおける女性の影響は、フェミニストのメディア研究における重要な研究テーマである」と述べる。 

この研究では、女性の地位が高いとしばしば思われているスウェーデンにおいてすら、「ひとつの分野としてのジャーナリズムは男性によって支配されている」との知見が明らかにされている(スウェーデンは、世界経済フォーラムが発表している世界ジェンダーギャップ[GGG]指標において世界第4位)。 

Dijksterhuis氏によれば、新技術によって変転しつつある時代の中で、ある種のコミュニケーションのやり方が有効であるという。たとえば、NGOやメディアなどとの連携を強化するとか(会議では多くの人がこの点に言及した)、その結果をモニタリングすることなどである。というのも「多くの情報は男性的な偏見がかかっているから」である。 

通信の権利がこうした努力の一部であるべきだ、と語るのは、進歩的通信連盟の「女性の権利グループ」コーディネーターであるジャック・SM・キー氏だ。このグループは、女性への暴力をなくすために「ICT技術を私たちの手に取り返せ」と主張し、通信の権利と女性の人権との間を架橋しようとしている。 

グローバル・メディア・モニタリング・プロジェクト(イタリア)のモナ・アッツァリーニ氏は、メディアにおける女性の参加についての世界的調査について話した(調査事態は2010年に発表予定)。 

このプロジェクトは「女性の描き方を変え」、差別とたたかいメディアにおけるステレオタイプを破る「集団のネットワーク」をつくることを目的としている。2005年に行われた前回のモニタリングは次の4つの問題に焦点をあてた――情報の素材としての女性の描かれ方、ジャーナリスト、ステレオタイプや差別を含んだニュースの内容、ジャーナリストの実践。 

2010年の調査結果は2005年のそれと比較されることになる。前回調査では、情報源のわずか21%が女性であり、引用された専門家のほとんどにあたる83%が男性であった。女性の視点はほとんどみることができない。政治面では情報源の14%が女性、経済面では20%だった。取り上げる問題が女性への暴力である場合ですら、情報源の64%が男性であった。 

では、メディアはこの問題をどう語ったらいいのだろうか? 

「暴力は弱さ、弱さは暴力であり、メディアは暴力を愛するのだ」と語るのは、アルジャジーラのキャスター、ライラ・アルシャイクリ氏だ。彼女は、女性が話したがらないとき、悪いイメージが残ってしまうことを恐れるとき、女性が差別のサイクルに自ら参加してしまうとき(子どもに同じような見方を伝える、など)に、本当の事実を伝えることは難しい、と語る。 

そうして、女性のイメージはゆがめられてしまうことになる。 

たとえば、イタリア上院のエマ・ボニーノ副議長は、イタリアでは「8割の人びとがテレビを見て自分の意見を形成する」と語る。「でも、メディアでの女性イメージの伝えられ方に私は不満です。バカにしていますし……働く女性は出てきません。暴力と闘うことを考えたとき、メディアにどういう役割を持たせるかが非常に重要になってきます。それは、女性のイメージ形成に際して、周縁的でも補完的でもなく、中心的な役割を果たすのです」。 

イタリアでは、シルビオ・ベルルスコーニ首相が、自らの保有するメディア帝国「メディアセット」と国営テレビRAIと通じて、テレビの90%をおさえている。 

南アフリカのテンジウェ・ムティンツォ駐イタリア大使は、ジェンダー活動家であり、アパルトヘイト時代にはジャーナリストだった経験から、ニュースとその所有とは何であり、それを伝えるのは誰かという問題について話した。それは女性ではない、と彼女はいう。もし、女性に対する暴力を終わらせようとするならば、まさにそのことを変えなくてはならないのだ、と彼女は訴えた。 (原文へ


翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

*本IPS年次会合にはIPS Japanから海部俊樹会長・元内閣総理大臣、浅霧勝浩理事長らが参加しました。

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|軍縮|諸宗教会議が核兵器廃絶を訴える

【メルボルンIPS=ニーナ・バンダリ

世界の宗教界にとって、核兵器の使用は、人間社会のきわめて重要な倫理的問題である。このため世界の指導者らが即時に核兵器を廃絶することを主張しているのだ―オーストラリア・メルボルンで開かれている世界宗教会議(Parliament of the World’s Religions)の参加者達はこう考えている。 

世界最大の宗教者会議である同会議には、平和や多様性、持続可能性に関する問題に対処するために多くの宗教界の代表や学識者らが集まった。12月3日から9日まで、メルボルンコンベンションセンターで開かれている。

 「新たな世界に向けて:互いに耳を傾け、地球を癒す」という今大会のテーマは、世界の生存に脅威を及ぼしている重要問題に、宗教界と市民社会が対処する緊急の必要性を示している。核兵器の問題はそのひとつだ。 

「核兵器は、人類の作り出した地上最大の破壊力であり、人類にとって存在上の脅威というだけではなく、精神的な意味においても脅威なのです。」と、会議参加者らは主張した。 

「いまこそ決定的な一歩を踏み出すべきです。」と語るのは、スー・ウェアハム博士(オーストラリア核戦争防止医学協会前会長、国際核廃絶キャンペーン(ICAN)オーストラリア理事会メンバー)だ。 

2010年5月に5年ごとの核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議が開催されることに関連して、ウェアハム氏は「核兵器のさらなる拡散を防ごうとするならば、この会議で核軍縮に向けた前進をもたらすことが重要になってきます。もはや、核兵器をステータス・シンボルや正当な兵器とみなす時代は終わりました。核兵器は、『違法で非人道的な恐怖の道具』というその本来の姿で捉えられるべき時なのです。」と語った。 

ICANの目標は、核兵器の開発・実験・生産・使用・使用の威嚇を禁ずる核兵器禁止条約を採択することにある。 

「核軍縮の必要性とその達成に向けた措置」と題する分科会において、ウェアハム氏は、「核兵器禁止条約の締結は必要であるし、実現可能です。」「それは、核のホロコーストの恐怖から逃れて人々が生きる権利を主張するものです。それは人権問題であり、環境、経済、保健、政治、安全保障の問題であり、なによりも、倫理的な問題なのです。」と語った。 

6月には国連の潘基文事務総長が、核軍縮は世界が直面する「もっとも緊急な政治問題です。」と強調した。9月には核不拡散・軍縮に関するはじめてのサミットが国連安全保障理事会を舞台に開催され、「NPTの目標にしたがって、核兵器なき世界に向けた条件を作り出す」との決議が採択された。 

世界中の市民団体も2010年のNPT運用検討会議で本当の前進をもたらすべくエネルギーを傾けている。 

アメリカムスリム協会(MAS)自由財団(本部:ワシントンDC)人権・公民権部長のイブラヒム・ラミー氏は「人類を絶滅から救うために、奴隷制廃止のときと同じように、世界中の人びとが核兵器に対して立ち上がらねばなりません。」と語った。 

MAS自由財団は、2008年から2012年にかけた米国内の重要な立法事項としてあげた12項目のうちのひとつに世界的な核廃絶を含めている。「コーランの啓示やイスラムの社会的価値のうち最良の部分を実現する必要から、私達は、核兵器の廃絶と、莫大な核兵器(と通常兵器)関連予算を社会的向上と人間生活の持続のための予算に転換することを要求しなければなりません。」とラミー氏は語った。 

2008年に米国が核兵器維持のために使った予算は524億ドルにのぼる。他方で、貧困下に暮らす米国人が3700万人、医療保険がない米国人が5000万人いる。 

またラミー氏は、「インドやパキスタンのような新興核兵器保有国は、長きにわたる貧困と、不安定な治安状況に悩まされているにも関わらず、希少な資源を危険で持続不可能な核開発に振り向けています。しかし、核兵器は相互の破壊を確実にもたらさずにはおかないのです。」と語った。 

ラミー氏は、NPT第6条が核兵器保有国に対して、究極的核廃絶に向けた交渉に入るようとくに義務づけている点を指摘したうえで、「核兵器廃絶を推進し、各国政府がNPTを支持するよう圧力をかけるネットワークを世界中で形成すべきだ」と訴えた。 

ラミー氏はまた、各国に対して「先制不使用」の宣言を2国間で行うよう強く求めた。とりわけ、継続中の紛争当事国や、イスラエルとイラン、インドとパキスタンなど、対立中の諸国間においてそうすべきだと訴えた。 

また、ラミー氏によれば、米国では「バラク・オバマ大統領に対して、核弾頭を戦略的ミサイル運搬手段からはずすことで警戒態勢を解除し、潜在的な敵国に対する偶発的な核攻撃の危険性を低減させるべきだと訴えている。」という。 

信仰の如何に関わらず、すべての人々は、核兵器をなくすためのキャンペーンを進めている創価学会インタナショナル(SGI)のような組織を支援しなくてはならないとラミー氏は語った。SGIは2007年に「核兵器廃絶へ向けての民衆行動の10年」キャンペーンを開始し、世論を喚起し、核廃絶に向けて行動する世界的な草の根ネットワークの形成を支援している。 

東京に本部を持ち、世界192カ国に1200万人を超える会員がいるSGIは、世界でも長年に亘って核軍縮を訴えてきた仏教組織であるが、このところ核兵器廃絶に向けた世界的キャンペーンを一層強化している。1957年にはじまった同キャンペーンは、「(核攻撃を行った唯一の国である)米国は、核兵器なき世界に向けた具体的な措置を取ってゆく」というオバマ大統領の宣言を受けて、熱を帯びてきている。SGI本部の平和運動局長・寺崎広嗣氏は、「各国政府には、核の脅威を減らすために責任ある行動をとってもらう必要があるが、市民社会にも明らかに重要な役割があります。」と語った。 

「突き詰めて言えば、核兵器は人間のエゴの特殊な形態によって生み出されたものです。つまり、自らの利益や社会を守るために他者を犠牲することもいとわない自己中心主義がそれです。人間の心のこの側面を表に出し解体していかないかぎり、核兵器の脅威に対する本当の永続的な解決策はないといってよいでしょう。」と寺崎氏は語った。 

SGIの核兵器廃絶に向けた取組みの中心には、人間のよりよい性質に訴え、対話の力への信頼を取り戻したいとの希望がある。寺崎氏は、「国家と国益の対立という論理からは、核兵器によって国家の安全保障上の地位が高まるとの立場が出てくることになります。しかし、市民社会は、核兵器は兵士よりも非戦闘員を傷つけ戦後も長らく人びとを傷つけ続ける不正義の兵器との観点からこの論理を拒否したのです。」と語った。 

SGIのような様々な宗教組織が、広範に亘る草の根活動、署名活動、教育・啓蒙活動を展開している。その中には、被爆者の証言を収録したDVDや、世界的な核軍縮に向けた世論を高めるために個人が何をできるかを示した本の出版などがある。 

分科会「核廃絶:宗教界による反応と活動」に出席したSGI平和プログラム担当・河合公明氏はこう訴えた。「核廃絶に向けた行動は、恐怖や罪悪感などの消極的・ネガティブな感情によって動機づけられるべきではないと思います。むしろ人間の良心と高い道義的関心に動機づけられた平和の文化を創造しようとの積極的な取組みとなるべきだと思います」。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan

|カンボジア|宗教の違いを超えた「人間の尊厳」重視のHIV陽性者支援とHIV/AIDS防止の試み

【IPS HIV/AIDS研究事業現地取材からの抜粋】

Seedling of Hopeは、カトリック教会系の慈善団体で、一般市民やハイリスク集団に対してHIV/AIDSに関する啓蒙活動を行う一方、HIV/AIDS感染者に対しては、患者の自宅や入院先を訪問してカウンセリングを提供している。 

また、Seedling of Hopeでは独自のシェルター/ホスピスを擁しており、エイズ患者に対する精神/肉体両面にわたる支援を行っている。本稿では、人口の95%を仏教徒が占めるカンボジアにおいて、宗教の違いを超えた「人間の尊厳」に対する共感を信条に活動を展開している牧師から見た、HIV/AIDSの現状と課題を概説する。(以下、Jim Noonan神父への取材内容の抜粋)

 
エイズ患者に最も必要なもの 
 
「エイズ患者が抱える精神的なストレスは想像を絶するものです。エイズに対する社会の偏見は依然として厳しいものがあり、HIV感染者は、差別や迫害を恐れて病気のことを周りから必死に隠そうとします。しかし、ここ(シェルター)では、皆彼女達の病気のことは了解した上で受け入れているので、エイズ感染者やそうでない者も等しく家族のように自然体で触れ合っています。 
 
私は、このエイズ患者の精神的なストレスを取り除く生活環境が、患者の免疫力の維持/向上のための重要な要素となっていると考えています。実際に、ここの収容者達の健康状態は、入所後概ね向上しており、人間の健康は環境さえ整えば、かくも回復する力があるものかと改めて驚かされています。私達は元々専門的に訓練されたカウンセラーではありませんが、収容者に対して彼女達の『人間としての尊厳』に留意し、最大限の愛情を注ぐよう努力しています。私達の信条は、相手が誰であっても等しく接することです。つまり、収容者に向き合う私達の姿勢は、例えば相手が女王陛下であったとしても全く変わりません。」(Jim Noonan, Seedling of Hope) 

「ホスピスでは、ビタミン剤といくつかの合併症に使用する薬があるのみで、カンボジアにはエイズ治療薬はないのが現状です。もし、海外からの支援国/団体に『なにが今のカンボジアに最も必要か』と問われれば、〈1〉質の高い血液検査施設と、〈2〉エイズ治療薬を現地生産できる施設、が最も求められていると確信しています。」(Jim Noonan, Seedling of Hope) 

宗教の違いを超えた「人間の尊厳」への共感 

「私は、ただ助けを必要としている人々に手を差し伸べる活動をしている1老人に過ぎません。私は牧師だが、ここでは人々をキリスト教へ改宗させるといった試みは行っていません。それは、彼らには彼らの価値観に基づく宗教があり、私には私の宗教と信仰があるからである。それよりも、エイズ患者への具体的な支援活動を通じて『人のためになる』活動に従事できることが、私の牧師としての信仰の実践と考えており、それだけで満足です。 

また、助けを必要とする人々に『慈しみの心』をもって接することは宗教の違いを超えて人間共通の行いであると思います。エイズ患者の死に際して、私は私流に祈り、仏教徒のカンボジア人達は仏教式に祈りを捧げている。そこに宗教の違いに起因する違和感はありません。また、臨終に際して、私がエイズ患者に、『あなたの為に祈らせてほしい』旨伝えるようにしていますが、彼女達は皆、異教徒の私の祈りを喜んで受け入れてくれています。」(Jim Noonan, Seedling of Hope) 
 
エイズを克服するもの 

「現在のカンボジア社会における女性の『性』をとりまく現状は非常に歪められたものだと思います。『性』に対する男性の態度は一般に露骨であり、女性の『性』はあたかも人格を失った物かのように見なされ、不当な扱いを受けたり騙されたりしています。また男性の間では、複数の女性との交際を『男らしさの証』と勘違いしている風潮もあり、中には女性に対する性的虐待/搾取の経験を周りに自慢するものさえいます。このような男性達の歪んだ性意識/性行動を1世代の間に転換させることはほぼ不可能に等しいと思いますが、とにかく行動変容をもたらす努力を1日でも早く開始することが重要だと思います。」(Jim Noonan, Seedling of Hope) 

「現在のカンボジア社会に必要なものは早期からの性教育の実践です。1996年、国連合同エイズ計画(UNAIDS)では若者の性意識/性行動を変えていくための長期戦略を作成しました。そこで強調されたことは、若者への対策が遅れれば遅れるほど、(エイズ問題は)取り返しのつかない事態に進展するという危機感でした。現在のカンボジアの若者を取り巻く環境は一刻の猶予も許さない深刻なものであり、本格的な若者を対象とした性教育に着手するには絶好の時期でだと確信しています。 

また、若者達の健全な性意識を育んでいく上で、両親の説明能力を向上させる努力をしていくことが重要だと思います。『性』をもっと幅広い人間関係の中で若者達が捉えられるよう親達が子供達と真剣に向き合える環境を作っていく必要があると思います。」(Jim Noonan, Seedling of Hope) 

「すなわち『エイズを克服するもの』は、異性に対する『誠実さ:Faithfulness』だと思います。自分と異性のパートナーの人生を大切にするためにも、できるだけ婚前交渉を避けることが重要です。そしてそれがどうしても実践できなければ、結婚を誓った相手にのみに性交渉の相手を限定することです。 

ポル・ポト時代に禁止され、激しい迫害を受けたカンボジア仏教ですが、元来カンボディア社会における仏教の位置付けは大きく、仏教の僧侶は民衆から深く尊敬されています。宗教は『誠実さ』をはじめHIV/AIDSから身を守る上で重要な諸要素を説いてきており、HIV/AIDS対策を実践していく上で重要なパートナー勢力となりうると思います。カンボジア政府もその点に着目し、近年は僧侶を積極的に活用したHIV/AIDS対策を進めています。私達の団体も1995年頃より僧侶、コミュニティー指導者、NGO等と宗教を活用したHIV/AIDS対策について協議を重ねてきており、多くのことを学んでいます。」(Jim Noonan, Seedling of Hope) 

Seedling of Hopeの活動について: 

8人のスタッフと4人のボランティアとともに、週2回、一般市民及び工場労働者を対象としたHIV/AIDS教育を実施しており、その際、コンドームを配布している。 

「目の前の人々を救うことが最も重要であり、そのためにはカトリック教会も現地のニーズに応じた柔軟な対応が必要だと思います。」 

シェルターでは、自分の身の回りの世話は出来るが、一般社会で働くことができなくなったエイズ患者を収容している。ここでは、収容者に対して、敢えて体調の許す限り、裁縫などいくつかの作業グループに割り当てて労働に従事させている。(作業を通じてネガティブ思考に陥ることを防ぐとともに、社会に貢献しているという誇りを感じてもらうため。)一方、ホスピスでは12床の設備と6人の24時間スタッフ体制で、身寄りのないエイズ末期患者を引き取って、最後の日々を共にしている。 

(カンボジア取材班:IPS Japan浅霧勝浩、ロサリオ・リクイシア) 

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|アフガニスタン|10代の若者たちが軍・警察に入隊

【カブールIPS=ラル・アカ・シェリン】

ニアマトゥッラ君がアフガニスタン国軍に入隊した理由は、アフガニスタン人男性の多くと同じ動機によるものだった。 

「私は読み書きができません。」とカンダハルのアダンダブ地区にある警察の兵舎で首からカラシニコフ銃をぶらさげ座っているニアマトゥッラ君は言う。「仕事を見つけられなかったから警察に入隊するしかなかったのです。僕達に選択肢は2つしかないのです。警察に入るか乞食になるかどちらかです。」


ニアマトゥッラ君と多くの警察、国軍兵士の間にはもう一つの共通点がある。それは彼が弱冠16歳ということだ。

 政府筋によると、公式記録ではアフガニスタン国家警察(ANP)、国軍に18歳未満の者は存在していないとされている。しかし取材に応じた警察官や兵士の多くが、匿名を条件に、18歳未満の入隊者がいることを認めた。 

取材に応じた10代の兵士達は、家族を養うために仕事が必要なこと、そして警察も軍も彼らの雇入れに積極的で偽造身分証まで発行してくれると語った。すなわち、アフガニスタンの少年は数週間の内に、高校生から制服を着た兵士にと変貌を遂げることができるのだ。 

アブドゥルラーマン君(17歳)は、バグラムの軍病院で、ヌーリスタン州バージマタル地区で最近起こった戦闘で負った傷の入院治療を受けている。彼はANPの警察官として、戦闘には直接加わらなかったものの反乱軍と外国軍の間の銃撃戦に巻き込まれ銃弾を受けてしまった。 

「私はホテルの入口で銃を持って立っていました。そして戦闘が始まると流れ弾が私に当たったのです。」と、アブドゥルラーマン君は恐怖に顔をこわばらせて語った。 

アブドゥルラーマン君が実際の戦闘を見たり巻き込まれたりしたのは今回が初めてではない。あどけない彼の表情からは、まだ学校の校庭と母親の台所以外あまり世間を知らない(平和に暮らす国々の)普通の10代の少年に見えるが、彼はそうした同世代の少年達よりはるかに多くを体験してきたのだ。 

アブドゥルラーマン君を定期的に見舞いに来る叔父ロフラーさん(45歳)は、取材に応じ、「私の甥が警察官だなんて信じられないでしょう。でもそうなのですよ。」と、彼が今もANPの警察官であることを証明する身分証明書をみせながら語った。 

アフガニスタン労働省によると、失業状況は深刻で労働人口の実に4割に及んでいる。食糧事情が逼迫しているアフガニスタン人家庭にとって、警察と軍は直ぐにでも就職でき、かつ長期的な雇用を保証する存在として映る。そのような背景から、中には家族に勧められて軍や警察に入隊する10代の若者もいるのが現状である。 

 ナジブラ政権期に兵士だったマルジャン・ガルさん(48歳)は、「紛争が続いてきたアフガニスタンでは若者が戦争に参加するのは珍しいことではありません。私の家族は 
今は16歳の息子が軍から受け取る給与収入を必要としているのです。息子はいつも軍服を着て、前戦にも出かけます。私は盲目ですから、もし息子が除隊したりするようなことがあれば、誰が私達の生活を支えるというのですか?」と語った。 

未成年の兵士に関するアフガニスタンの法律の規定は明確である。2003年のハーミド・カルザイ大統領布告によると、「児童の権利に関する条約」第38条の規定を順守し18歳未満の青少年が軍や警察に就労することを明確に禁止している。 

しかしこの法律にも関わらず、内務省は偽造身分証明書の取得を支援することにより、青少年の治安部隊加入を促進していると主張するものもいる。 

カブールの警察官ザイ・ウル・ハク君(17歳)は、当局により未成年者の勧誘について、「内務省は年齢を水増しした身分証明書を新規に発行するか、既存の身分証明書を書き換えることで、年齢制限の問題を解決している。」と語った。 

ハク君は警察に入隊申請をした時のことを振返り、「私は身分証明書の年齢を偽りました。警察官や兵士が不足している状況なので年齢制限以下の少年達に身分証明書が発行されているのです。当局は簡単に年齢を水増ししてくれます。」と語った。 

ホースト州に在住の元警察官(匿名希望)は、現在も18歳に達していないが、警察に入隊した際、彼を雇用した人物は彼が規定の年齢に達していないことを知っていたが、身分証明書を偽造して入隊手続きをとってくれたと語った。 

「私は警察官に知人がいて、自分も警察官になりたいと相談したところ、身分証明書を作って採用してくれたのです。私の本当の年齢について尋ねた人なんて誰もいません。」彼は、昨年警察官を退職したと語った。 

またこうした未成年の警察官、軍人がどの程度本来の職務、つまりアフガニスタンの人々の保護、を遂行できるのかという問題がある。一般市民が制服を着た子供たちが銃を持って通りを巡回しているのを見ても、国内の治安について殆ど安心感が持てないのが現状だ。 

カンダハル在住のオバイドゥラーさん(38歳)は、「未成年の警察官を見ていると、私達市民を守ってくれるはずの治安組織のことを連想するというより、彼らは益よりも害の方が多いのではと心配になってしまう。」と語った。 

「彼らは軍事のことを分かっていないしプロフェッショナルではありません。彼らが携行している銃の使い方だって分かっていないかもしれない。」とオバイドゥラーさんは言う。 

反乱グループやタリバンは、長らくアフガニスタン政府や連合軍との戦いに最も若い層の子供を利用してきた。彼らは、よく子供達に爆発物を運ばせたり、自爆テロ要員や作戦展開中の見張りとして使用している。 

そうした中で、子供達は気付かないうちに反乱軍の片棒を担がされていることも少なくない。 

先月サウジアラビアの日刊紙「アカズデイリー」は、エイドゥラー君(11歳)が反乱グループのメンバーに小麦粉の入った袋を地元の国軍司令官への贈物だといわれて送り届けようとした事件を記事に取り上げた。 

エイトゥラー君が知らなかったのは、袋の中身が爆発物であり、予定よりも早く爆発したため、エイドゥラー君の両足を吹き飛ばした。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

*この調査記事はアフガニスタンの独立メディアキリッドグループの発行するキリッドウィークリーに掲載。IPSは2004年以来、同グループと提携関係にある。 

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暴力からの解放はあらゆる女性の権利(ニコール・キッドマン)

【IPSコラム=ニコール・キッドマン】

女性の3人に1人は、虐待や暴力を耐え忍んで暮らしています。これは広く行われている恐ろしい人権侵害ですが、目に見えない、認識の薄い現代の‘疫病’の1つとなっています。考えてみてください。女性あるいは少女であることで危険に晒されるのです。更に驚くのは、多くの人々、社会の中枢あるいは政府の回廊にいる人々までもが、女性に対する暴力は避けられないと思っている事実です。 

私たちはこの精神構造を変える必要があります。女性に対する暴力を認識し、人権侵害として対応することが重要です。家庭内暴力であれ戦時下の暴行であれ、女性性器切除や強制結婚あるいは若年結婚といった慣習であれ、女性に対する暴力は許されない犯罪です。女性に対する暴力は、何処で起ころうとも法的裁きを受けるべきです。

Nicole Kidman

 私は、暴力や虐待に晒されてきた女性や少女の声を広く伝えるため、国連女性開発基金(UNIFEM)の親善大使となりました。より多くの国で、女性たちは無抵抗の犠牲者となることを拒否しています。彼女たちは団結し、声を上げ、責任と処罰を要求し、女性あるいは少女であるために暴力に晒されることにノーと言っています。 

女性に対する暴力を終わらせるのは私たちの努めです。そのため、UNIFEMは、2007年11月の「女性に対する暴力撤廃国際デー」に「女性に対する暴力にノーと言おう」というインターネット・キャンペーンを開始して、世界の人々に対し発言を呼びかけると共に、この広がり行く運動に署名するよう呼びかけたのです。 

それから1年近く経ち、このキャンペーンに応え世界各地から数10万の投書、署名が集まりました。200を超える組織が参加しました。50以上の国々の首脳、大臣が立ち上がり、同キャンペーンを通じて(問題解決への)コミットメントを公表しました。 

最近のニューヨーク訪問に際し、私は声高らかにノーと言い、性差に基づく暴力に勝利した2人のヒロインに会いました。強制結婚を逃れイエメンからきた10歳の少女ヌジョード・アリと少女の自由を守るため尽力した弁護士のシャダ・ナッセールです。9歳で結婚したヌジュードは度重なる殴打、暴行を受け、助けを求めて裁判所に駆け込みました。若年結婚の被害に耐えている数万の少女と異なるヌジョードの勇気は、人権弁護士のシャダの中にも見てとれます。シャダの尽力により、ナジュードは4月に離婚だけでなく勇気の勝利そして少女や女性の人権に勝利を勝ち取ったのです。ナジュードは現在復学し、将来は弁護士になりたいと語っています。 

またコソボでは、紛争に巻き込まれ、兵士による酷い性的暴力を経験した多くの女性たちの声を聞きました。彼女たちの話は、まさに新聞の大見出しから抜き出したようでした。性的暴力は戦争の武器であり、人々の生活を震撼させ、コミュニティーを崩壊させ、女性を家庭から逃げ出させる恐怖の道具です。それにも拘わらず、戦時下の性的暴力は長い間歴史の沈黙に覆い隠されて来たのです。 

2008年6月20日、国連安全保障理事会は満場一致で決議1820号を採択することでこれまでの沈黙を破り、コミュニティーが性的恐怖の陰で暮らす限り平和も安全保障もあり得ないことを明確にしたのです。決議は、紛争関係者全員が女性や少女を攻撃から守る努力を強化するよう求めています。今や、女性に対する暴力の撤廃が、各国政府および国連を始めとする重要機関にとっての優先課題となっています。 

UNIFEMは、国連安全保障理事会と協力し、女性に対する暴力の撤廃を目的に国連基金への支援大幅拡大を呼びかけています。問題の実質的、直接的解決を行うため、基金を通じて途上国の現場組織に資源の提供を行います。国連資金受給者は、ウクライナの人身売買防止、ハイチの家庭内暴力犠牲者への支援、戦争に引き裂かれたリベリアにおける暴行防止法の施行支援を行って来ました。 

これらのプロジェクトそして世界中の多くの努力により、対女性暴力という大問題も解決可能であることが証明されています。コミットメントそして資源があれば、効果をもたらす変革の可能性が広がります。政策の修正、サービスの確立、裁判官や警察官の訓練も可能となるのです。 

ですから、我々は、各国政府にはコミットメントの実行を、市民の方々には女性に対する暴力の撤廃を目指すコミュニティー活動に参加し、政府担当官に暴力撤廃政策の実施がいかに重要であるかを訴えて頂きたいのです。なぜなら、暴力からの解放はあらゆる女性の権利だからです。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 

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