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|中東|歩み寄るイスラエルとシリア

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【ラマラIPS=メル・フリクバーグ

パレスチナの党派間の調整交渉が行き詰まり、中東和平が程遠い見通しの中、イスラエルとシリアの歩み寄りはひとつの可能性を期待させる。数週間前にイスラエルの最大の後援国である米国はダマスカスに特使を派遣し、両国の関係改善の兆しとみられている。 

トルコの仲介によるシリアとイスラエルの間接的な定期和平交渉も行われているが、イスラエルのガザ攻撃により中断していた。

 これまで米国はイスラエルにシリアとの交渉を思いとどまらせようとしてきた。米国は中東で力を強めているイランに危機感を抱いており、シリアはイランの主要同盟国で、この両国はレバノンのヒズボラやパレスチナのハマスなどの抵抗組織を支援している。 

しかしオバマ政権の緊張緩和政策は、対立を避ける方向にある。シリアのアサド大統領は米国からの特使を歓迎している。これまでの強硬姿勢は問題解決をもたらさず、かえって悪化させてきた。ハマスとヒズボラに影響力があるシリアとの関係は看過できない。 

さらに反米のイスラム民兵がシリア経由でイラクに入り込むのを防ぐためにも、シリアの協力は必要である。シリア側も、レバノンの元首相暗殺事件以来の米国による銀行送金、技術導入、ジェット機などに関する制裁が解除されるのを望んでいる。 

だがシリアの最優先事項はイスラエルによるゴラン高原の返還だ。イスラエルは返還にはシリアがハマスとヒズボラへの支援を止めることを条件にしている。イスラエル国民の70%は領土の譲歩に反対しているが、上層部はイランの影響力および抵抗勢力を弱体化するシリアとの和平の価値を認めている。経済、外交、観光の発展も期待できる。 

シリアにはその前にイランとの関係の調整という問題もある。そこにトルコが再び仲介役として登場する可能性がある。トルコはイランと政治、経済、安全保障上の関係は良好でありながら、イランの同盟国ではない。 

イスラエルとシリアの紛争の根源はこれまでの交渉でほぼ解決されている。最終的な合意とイスラエルのシリア領からの撤退の実現にはまだ時間がかかりそうだが、シリアと米国との関係改善はプラスに作用するだろう。和平には米国の関与が大きな意味を持つ。 

イスラエルとシリアの和平交渉の進展について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 


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寒気を抜け出したシリア

|ボツワナ|世界的景気低迷で失業する鉱山労働者

【ガボロネIPS=エフライム・ヌシンゴ】

「景気悪化で採掘労働者だけでなく全ての従業員が困窮している」。Christian Motsamai(仮名)はかつてダイヤモンド鉱山で働いていたが、鉱山の操業停止により職を失った。 

世界的な不況のあおりを受け、ボツワナではダイヤモンド採掘企業最大手デブズワナ(Debswana)が2か所の鉱山(オラパ鉱山第2プラント、およびDamtshaa鉱山)を年内に操業停止すると発表。これに伴い多くの鉱山労働者が苦境に陥っている。

 Motsamaiは「歴史的に見てもこの業界でこれほど需要が激減したことはない。雇用状況は益々悪化するだろう。我々はこの先どうなるか予測すらできない」と、不安を隠しきれない様子で語った。 

フランシスタウンの西190kmにあるLetlhakane鉱山近くの村に暮らすKaone NaremoもIPSの取材に応じ、村の現状を説明した。「失業者の急増は小規模事業者にも打撃を与えている。この小さな村は徐々に『地獄』へと変化しつつある」 

「我々はすでに退職金についてデブズワナ社と契約を交わしている。従って、従業員には残るよう説得しているところだ」と、労働者支援に取り組む『ボツワナ鉱山労働組合(BMWU)』のJack Tlhagale氏は話した。 

不況による鉱山閉鎖に揺れるボツワナについて報告する。 (原文へ

INPS Japan 



|メキシコ|遺伝子組み換え問題で揺れるトウモロコシ発祥の地

【メキシコシティIPS=ディエゴ・セバジョス】

トウモロコシ発祥の地であるメキシコは、1999年の遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの実験栽培禁止令を解除した。この政府決定に活動家や農民は憤慨している。GM作物は多収穫性、除草剤や病気の耐性などを遺伝子操作により付加したもの。反対派は多国籍企業による市場の独占と、9,000年前からある在来種の多様性の危機を警告している。 

GMトウモロコシの実験栽培への投資を待ち望んでいたアグロバイオ・メキシコ代表のF.サラマンカ氏は「活動家は農民の保護を主張しているが、良識が勝利した。実験栽培は北部のみで許可され、多様な在来種が栽培されている南部では許可されないため、遺伝的多様性の保護は配慮されている」とIPSの取材に応じて語った。

 実験栽培の範囲や方法は細かく制限されているが、バイオ企業は実験栽培によりGM種子の有効性が証明されて、近いうちに商業用作付が許可されるのを期待している。一方、民主農民戦線(FDC)のM.コルンガ代表は、「政府は大きな過ちを犯した。メキシコの生物多様性と食の主権が危機に陥った」と述べた。FDCは抗議デモを計画している。 

3月6日に政府はバイオセーフティ法を改正し、実験栽培を可能にした。在来種の多様性の保護も規定されており、実験の条件も厳しいが、ETCグループ(NGO)のS.リベイロ氏は、法改正が「多国籍企業の圧力に屈したもの」という。「法律で禁止されているはずのGM作物の痕跡は後を絶たず、きちんとした捜査も行われていない」 

メキシコは主食となるトウモロコシを年間2,100万トン生産している。300万人の農民の多くは貧しく、大規模なアグリビジネスが進出を図っている。さらに1,000万トンの主に飼料用トウモロコシを米国から輸入している。 

米国ではGMトウモロコシが栽培されているが、その危険性については、消費者にアレルギーが発症したケースや、動物実験でラットに害があったなど、いくつか報告されている。だが決定的なデータはなく、安全性を主張する著名な科学者もいる。 

国際環境保護団体グリーンピースや農民、科学者の組織はGMトウモロコシに反対するデモや議論を行い、種子を売ることで農民を意のままに操ろうとする企業の横暴を非難している。もっとも懸念されるのは、生物種の多様性への影響である。

メキシコで実験が許可された遺伝子組み換えトウモロコシの栽培について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

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|ドイツ|遺伝子組み換え作物は解決法でなく問題

|ニュージーランド|アジア系イスラム教徒の本音

【シドニーINPS=ニーナ・バンダリ

多様なニュージーランド社会で確固たる存在感を持つアジア系イスラム教徒に新たな光を当てる本が出版され、展示会も同時に開催されている。 

「The Crescent Moon: The Asian Face of Islam in New Zealand」(仮題:三日月-ニュージーランドのアジア系イスラム教徒)は、ニュージーランドを社会経済学的、文化的に豊かにしてきたイスラム教と多様なアジア文化をより良く理解し正しい認識を深めるため、インド、マレーシア、インドネシア、フィジー出身のイスラム教徒に関して伝えている。

 ニュージーランド最初のイスラム教徒は130年前、中国から人里離れた海岸に到着した南島ダンスタンの金鉱で働く5人だ。(1874年4月ニュージーランド政府調査に基づく)1950年時点で信者は150人だったが、1996年実施の調査でイスラム教徒は14,000人弱登録された。 

2001年の調査では、イスラム教徒の数は先住民マオリ族の伸びが最も多く、10年で99人から708人に増えていた。2001年以来、ニュージーランドのイスラム教徒は52.6%増加し、2006年実施の最新調査ではほとんどがアジア出身の36,072人だった。アジアには世界のイスラム教徒の半分以上が居住する。現在、ニュージーランド在住イスラム教徒の人口はなだらかな伸びを示している。 

今日、ニュージーランドには40カ国から来たイスラム教徒がおり、ヨーロッパ出身の3,000人とマオリ族700人がいる。 

著者エイドリアン・ジャンセン氏と写真家アンス・ウェストラ氏は2年以上ニュージーランド内を旅して回り、民族も、文化も、神学的にも異なるアジア系イスラム教徒のニュージーランド人37人に正直で率直なインタビューを行い、写真を撮り、この本を製作した。中には第3、第4世代の移民もいる。ジャンセン氏は次のようにIPSに語った。 

本の中で、フィジー出身のイスラム教向け肉屋、アフガニスタン政府で外務大臣を務めたオタゴ大学の政治学教授、ラグビー選手、ITの教師、芸術家、科学者等ニュージーランド社会の中核の一部となっているアジア系イスラム教徒を紹介するのが目的。しかし、幅が広すぎて全部は紹介出来ておらず、最も保守的な意見は入っていない。国で少数派の中のさらにその隅にいると感じると、公に意見を述べるのも慎重になる、とインタビュー中多くの人が語った。 

50年ものキャリアを持つ著名なドキュメンタリー写真家ウェストラ氏は、ポートレートに各個人の毎日の暮らしで関わりの深い物を一緒に写そうとしたが、大切な物を隠しておきたいと言ってポーズだけ取った人も多いと言う。様々な写真からは個性が伝わってくる、と自身もオランダに生まれ、十代後半にニュージーランドに移民したウェストラ氏はIPSに語った。 

9・11テロ事件の影響を受けた人も多い。事件をきっかけにイスラム教への見方が変わったと感じている人、米国を祖国と思っていたがイスラム教徒への差別の子供への影響を恐れニュージーランドに移住した人などだ。 

ニュージーランドも事件の影響を免れなかった。「“互いへの関心、尊敬し合う心”を築く助けをするのが大切」と、アジア・ニュージーランドの文化財団(Culture at the Asia New Zealand Foundation)責任者、ジェニファー・キング氏は言う。「ロンドン同時爆破事件(2005年)後、ニュージーランドでも少ないが反イスラム教の動きがあったので、本と展覧会の参加者に率直な思いを述べてもらった。“生ぬるい”本にするつもりは当初からない。」 

長期に渡り、移民に英語を教えてきたジャンセン氏は、「インタビューで多くの人がマスコミの事件の報道の仕方について述べており、イスラム教徒といえば自爆テロのイメージを植えつけるなど、イスラム教への偏見を生んでいるのが心配だ。そして、イスラム教の習慣と見られているものが文化的習慣でしかないこともあり、多くの人がイスラム教とその人の属する民族性を分けて理解して欲しいと願っている。少数派は孤立しがちだから気を付けなければならない。」と言う。 

9・11以降、若者はイスラム教から離れる者と、以前よりはっきりイスラム教徒だと表明するようになった者に分かれるという。 

キング氏はこの展示会がニュージーランドが外交関係のあるイスラム諸国でも開催されることを願っている。 

多様なニュージーランド社会のアジア系イスラム教徒に新たな光を当てる本について報告する。 (原文へ)


翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

│エジプト│インフレで労働者のストが頻発

【カイロIPS=アダム・モロー、カレッド・ムーサ・アルオムラ】

最近エジプトでは、トラック運転手から弁護士に到るまで、さまざまな職業の人々によるデモが頻発している。 

2月中旬には、トラック運転手が、連結トラックを禁止する政府の新方針に対する5日間のストを打った。その数日後には、薬局の店主ら4万人以上が、薬剤に遡及的に課税するという政府の決定に対して抗議行動を繰り広げた。

 2月末から3月にかけては、法廷での手数料値上げに反対する弁護士のデモや、未払いボーナスの支給を求める教育省職員によるストも行われた。3月5日には、最近民営化されたばかりの織物工場において、利益分配をめぐる労働者ストが展開された。 

政府側はかなりの譲歩を強いられている。トラック運転手は、新しい安全基準に適応するための準備期間をより長く与えられることになった。また、薬剤課税や法廷手数料については、政府が政策見直しを決めている。 

このように労働者の抗議行動が頻発する背景には年率20%にのぼるインフレがある、と経済学者のハムディ・アブデラジム氏(サダト・アカデミー元代表)は話す。物価上昇に対して収入増が追いついていないことが問題なのだ。 

また、世界的な不況にある現在においても、独占傾向にあるエジプト市場にあっては、物価がそれほど下がっていない。 

エジプトでは、2007年初頭から2008年にかけても、労働者による多数の抗議行動が起こった。このときは、食料価格の暴騰と政治的停滞が原因であった。このときの行動の成功が、労働者たちを今また立ち上がらせているのである。 

エジプトで活発化する労働運動について報告する。 

翻訳/サマリ=山口響/IPS Japan浅霧勝浩 

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|ベトナム|枯れ葉剤被害者救済の道は断たれたか

【ハノイIPS=ヘレン・クラーク】

ベトナム戦争中に米軍によって大量に撒布された猛毒ダイオキシンを含む枯れ葉剤のベトナム人被害者に正義は訪れるのだろうか。3月2日米国最高裁は、米化学薬品大手ダウモンサント2社に対するベトナム被害者の上告審を棄却した。

以来地元紙は人権が踏みにじられたと報じ、外務省のLe Dung広報官は国は憤慨していると述べたが、2004年に始まった訴訟は終わりを迎えるようだ。米国の裁判所は、枯れ葉剤と奇形などの先天的異常の因果関係は認められないと裁定。さらに米国の法律では、これらの企業は政府の命令で行動したので訴追を免れる。

 希望の道は、友好協会やNGOそしてオバマ新政権に対する圧力強化など、「ソフトパワー」の面から開けるかもしれない。

オーストラリア国防軍士官学校のカール・タイヤー氏は「現政府はこれを二国間関係の障害にはしたくないと考えているが、何らかの補償を要求している有権者を抱えている。国家統制下にあるメディアや政府高官の非難は、真の不満の表れと言えるだろう」と述べている。 

さらに続けてタイヤー氏は「枯れ葉剤の汚染地帯の浄化の援助に300万ドルを割当てるなど米政府の対応と、次第に改善しつつある国家安全・防衛上の提携には、暗黙の関連があると思う。枯れ葉剤問題は、ベトナムの政治制度や社会全体に影響力を及ぼしうる道を米国に与えている」と言った。 

オバマ政権に期待を寄せる者もいる。英越友好協会のレン・アルディス事務局長は3月2日の最高裁の決定に抗議して、オバマ大統領宛の公開書状を2通用意、「裁判所の決定にもかかわらず、大統領には枯れ葉剤被害者と家族に損害賠償を支払う政策を策定する権限がある。それは大統領の道義的責任である」と訴えている。 

ベトナムの人々は、枯れ葉剤の使用を引き起こした戦争についてもはやこだわっていないと言いながらも、枯れ葉剤に対する思いは大きい。戦争は過去のことだ。しかし先天的異常をもって生まれてきた子どもたちや癌に苦しむ復員兵は違う。 

1984年には米復員兵との和解で1億8,000万ドルの補償金を支払った米政府だが、ダイオキシンと先天的異常の因果関係を否定している。 

第3世代まで影響が出ているベトナム枯れ葉剤被害者問題について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

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│ハイチ・ドミニカ│連帯するハイチの移住労働者

【サントドミンゴIPS=エリザベス・イームス・ローブリング、オーグスト・キャンテイブ】

雨の降るある土曜の夕方、サントドミンゴの労働者街にある雨漏りのする車庫にハイチの移住労働者たちが集まり、住民組織を結成した。彼らはみなドミニカ共和国において差別された共通の体験を持っている。 

ある人は、ハイチ人がドミニカ人に殴られ、歯を6本も折るのを目撃した。しかし、目撃していた彼は不法滞在だったため、助けを呼ぶことができなかった。

 ある人は、ハイチ人がドミニカ人に殴られ、歯を6本も折るのを目撃した。しかし、目撃していた彼は不法滞在だったため、助けを呼ぶことができなかった。 

建設現場で働くフランソワ・フェリペさんはこう言う。「ハイチ人に対するいじめは毎日のようにある。建設現場はハイチ人を労働者として必要としていて、ドミニカ経済にとってハイチ人は重要なのに、私たちの権利は侵害され続けている」「他の外国人なら、お巡りから身分証明を求められても、『家においてきた』といえば、それで見逃してもらえる。でも、ハイチ人はそうはいかない」。 

ハイチ人移民の教育程度は低く、身分を証明するものを何も持たないというイメージは、今回ここに集まった人々に関しては誤っているようだ。住民組織結成の集まりに来た54人のうち、ハイチのパスポートを持っていないのはわずか1人だけ。20人は、ドミニカ共和国の正式なビザを持っていた。 

しかし、ハイチ人がドミニカで居住権を得るのは非常に困難だ。第一ステップは1年間の暫定居住権を得ることだが、手続きはきわめて煩雑である。申請者は、資格を持った翻訳者がスペイン語に訳した出生証明、有効なパスポートから必要部分のコピー、HIV・結核の感染や麻薬使用などがないことを証明する血液検査、写真4枚、ドミニカ警察からの善行証明、ドミニカの合法的な住民からの身元保証などをそろえなくてはならない。さらに、少なくとも2800ドルの預金が必要だ。 

こうして初めて1年間の暫定居住権がえられるが、永住権を獲得するには、1年後にまた同じ手続きを踏まなくてはならない。 

ハイチの移住労働者たちの集まりは、ハイチで皆がそうするように、祈りの儀式に始まり、祈りの儀式に終わった。 

ドミニカ共和国での差別と闘うハイチ人移住労働者について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=山口響/IPS Japan浅霧勝浩 

|政治|危機感漂うオバマ政権のアフガン新戦略

【ワシントンIPS=アリ・ガリブ】

米国主導のアフガン戦争の新戦略が来週にも発表される予定で、戦争で荒廃した中央アジアと不安定な隣国パキスタンにおけるその詳細が徐々に明らかになってきた。オバマ大統領はアフガニスタンに17,000人の増派を決定し、特殊部隊からの要望があればさらに13,000人増派の予定である。

ニューヨークタイムズと米政府高官のインタビューによると、タリバンによる反乱増加を静めるためにタリバンの強硬派のイデオロギー信奉者たちを寝返らせる計画を取ると言う。

オバマ米大統領はアフガニスタン兵士の少なくとも70パーセントはタリバンやアルカイダの原理主義の目的に忠実ではないという見方をしている。

 
アフガン新戦略は、マイク・マレン総合参謀本部議長、デイビッド・ペトレアス米中東軍司令官、ダグラス・ルート米陸軍中将、ボスニア戦争和平合意の立役者リチャード・ホルブルック特別代表ら、軍指導者の個々の評価に基づいて作られる。元中央情報局(CIA)中東専門家でアフガン新政策提案の責任者として起用されたブルース・リーデル氏がこれらの評価をまとめる。

オバマ政権のアフガン新戦略の概要は国際危機グループ(ICG)が13日に発表した報告書「Afghanistan: New U.S. Administration, New Directions」に重複する部分が多くあるが、ICGの戦略の方が戦闘を起こすことにより慎重で、アフガン政府が目指す目的を達成させることにもっと焦点を当てている。

タリバン構成員の中には必ずしもタリバン指導者の原理主義の熱意を持ち合わせていない人も多く存在し、米軍は彼らに報酬金を与えて米軍側に寝返らせればアフガン政府に対抗する反乱を抑えることができる。実際敵の戦闘人員を徐々に減らしていくこの方法はイラクで成功した。しかしICGはその戦略をアフガニスタンで採用することに賛成してはおらず、アフガニスタンはすでに武器と武装グループであふれており、責任所在のない傭兵を増やすことは結局民族緊張と暴力を悪化させるだけだと報告書で述べている。

ICGはまた報告で、並列構造に焦点をあてるよりも、アフガニスタンという国家づくり、法の原則強化、蔓延した政治汚職、民主主義の実現を図ることに力を注ぐべきだと言う。

楽観できないオバマ政権のアフガニスタン新戦略について報告する。(原文へ) 
 
翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩

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不当な扱いを受けるHIV陽性の女性移民労働者

【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール】

裕福なアラブ首長国連邦には家庭内労働者の職を求め、年間何千という女性がアジアからやってくる。しかし、HIV陽性の告知を受けると、彼女達の生計を立てるための旅は屈辱的な結末を迎える。 

移民に取組むNGOネットワークの一員で、マニラに拠点を置く「達成(Achieve)」とも呼ばれる「健康イニシアチブ活動(Action for Health Initiative)」の責任者マル・マリン氏はIPSの電話によるインタビューに次のように述べている。

 「家庭内労働者達は2年毎の契約更新の際、HIV抗体テストを受けねばならないが、結果に対するカウンセリングはない。労働者がHIV陽性とわかると雇用主に連絡がいき、労働者であり弱い立場の女性たちは帰国日まで病院の収容センターで行動を制限される。そして、自分の荷物もそのままで、支払い予定の給与も受取ることを許されず強制送還させられる。その後は2度とアラブ首長国連邦で働くことが出来ない。」 

国連開発計画(UNDP) と国連エイズ合同計画(UNAIDS)により3月第2週に発表された「アジアからアラブ諸国への移民女性のHIV感染脆弱性」の中で、女性達が直面する問題の規模が明らかになった。 

女性達は安全性が保障されていない所で仕事に就き、困難な環境に居住し、滞在中や母国との移動中に性的搾取や暴力を受けることも多い。医療サービスや社会的保護を受けられないことが相まってHIV感染脆弱性が高い。また、調査をしたバーレンやアラブ首長国連邦等の湾岸諸国では特に司法や補償制度を受けられないか、受けられても限られていることが多い。母国へ帰ると、差別、社会的孤立が待っており、生計を立てる代わりの手段も見付けにくい。 

インドネシア、フィリピン、スリランカ等移民労働者の母国で家庭内労働者のHIV感染者が報告されており、バングラデシュ、パキスタン、フィリピン、スリランカなど、HIV患者数が少ない国ではHIV患者数の大半を移民労働者が占めている。 

2007年ジュネーブで開催された世界保健機構 (WHO) 加盟国の年次総会で、パキスタンが南アジア諸国のこうした現状に憂慮を表明したことを受けこの国連報告は作成された。その時パキスタンは、この問題に関して他のアジア諸国と話し合う機会を設けたが、アラブ諸国にとってはデリケートな問題だとUNDP-UNAIDS報告書の編集者マルタ・ファレホ氏は言う。 

報告書によれば、移民労働者が本国に送金する額はかなりの額の外国為替となり、母国と働き先の国にかなりの経済的恩恵をもたらしているのでアジア諸国は心配なのだという。 

2007年、アラブ諸国で働くフィリピン人が母国へ送金した額は21億7,000万ドル、報告書発行時点でスリランカの移民労働者の送金額は30億ドルだ。バングラデシュ中央銀行によると、貧しいバングラデシュでは去年の6月までの会計年度中、アラブ首長国連邦からのみで8億480万ドルが送金され、それは全送金額約60億ドル中の7.4%にあたる。 

 国際労働機関(ILO)によると、湾岸協力会議(GCC)(アラブ首長国連邦・バーレーン・クウェート・オマーン・カタール・サウジアラビア)内の外国人労働者数は約950万人にのぼり、内750万人がアジアからだった。 ILOアジア・太平洋総局専門委員長マノロ・アベーラ氏は、「インドネシアの移民労働者のほとんどがサウジアラビア行きの女性で、スリランカは75%が女性、フィリピンは85%が女性だ」と言う。 

「家庭内労働は中東では労働法下にないので労働者は弱者になる。給料の未払いにも労働法違反にも法的手段は一切取れない。」 

「雇用契約で保護がうたわれていても、屋内に閉じ込められている労働者達はめったに権利を訴えられない。家庭内労働者は100%雇用主の支配下にいる。」 

家庭内労働者として海外へ働きに出掛け、過酷な労働条件のなか性的虐待によりHIV陽性となり、将来が閉ざされるアジアの女性達について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

|パキスタン|「長征(long march)」と長期展望

【カラチIPS=ビーナ・サルワル】

総選挙から1年、パキスタンの政治状況はいまだ不穏である。弁護士たちを先頭にした多くの政治勢力が、long marchに参加している。 

2009年2月18日の総選挙では、宗教色のない政党が支持を集め、ベネジール・ブットのPPP(パキスタン人民党)もナワズ・シャリフのPML-N(イスラム教徒連盟シャリフ派)も拒絶された。政治的対立の収束と政治と宗教の分離を望む、選挙民の声である。 

80年代パキスタン政府は、米国からの圧力もあり、ソビエトをアフガニスタンから排するために、宗教心を利用して軍事力を強めていた。「ジハード・インターナショナル」が誕生したのも、その中からであった。2001年の9.11以来、今度は国内のイスラム武装勢力と戦う、前線としての役割を担うことになった。その結果、世界で軍事攻撃のもっとも多い地域となっている。

 long marchは、チョードリー前最高裁長官の復職を求めるものである。チョードリーは、2007年1月、当時のムシャラフ大統領により、非常事態宣言の直前に解任された。さまざまな政治組織が、この復職要求運動に組みしている。シャリフ以外は2008年の国民投票をボイコットした勢力である。 

今回PPPとPMD-Nの間で緊張が高まったのは、最高裁が2月25日にシャリフとその兄が出馬することを停止したことにある。ブットの夫、アシフ・アリ・ザルダリ大統領が促したと言われている。シャリフがlong marchに参加しているのは、チョードリー解任の不合理を純粋に訴えるものではなく、政権交代が目的である。 

アナリストのクアドリ氏はガーディアン紙で、「個人的なパワーゲームや、部族闘争を超えて、民主主義を育てていこうという大きな視点に立てない」と、政治家たちを批判している。(“Long march to nowhere”, The Guardian, Mar.10,2009) 

 またムシャラフ元大統領による、先週のインド訪問も無関係でない。同氏はインド政府に対し、タリバンら武装勢力に対抗する砦となっているパキスタン軍を、敵視しないよう要請したと言われている。ムシャラフは、チョードリーを解任したのち、政治力を行使して、大量の逮捕者を出し、当時のlong marchを阻止した。 

ザルダリ大統領も今回、同様のことをするであろうと思われている中、long marchを支援する女性活動家タヒラ・アブドラの家に警察が押し入り、身柄を拘束した。事件はメディアの注目を集め、困惑した政府は同氏を3時間で釈放した。アブドラ氏は、「タリバンの首領たちを逮捕せずに、私のような一般市民を事前逮捕する政府に、失望している。」とIPS記者に語った。 

アブドラ氏のような生粋の活動家ですら、チョードリーの復職を求めるlong marchにおいては、右派連合と協調していることは、皮肉である。市民活動家らは、IPS記者の取材に応え、「我々は少人数であり、弁護士にしても全国で10万ほどである。他のことはともかく、チョードリーに関して歩調を合わせ、お互いに利用しあうことはやむを得ない。」と語った。 

しかしこのような“相互利用”が右傾化を促すと危惧する人々もある。かつて学生活動家で政治経済学者のS.M.ナシームは、「弁護士らの活動は、与野党の両方を批判しながら、新しい政治的組織、制度を構築できないのが、弱点である。正直だ、勇敢だ、とはいえ、ひとりの復職のためだけに、2年が過ぎている。」と述べている。 

さらにギーラニ首相は、long marchを「民主的な権利」として、否定していない。ザルダリ大統領に反旗を翻すことになるが、首相解任は、政治混乱を避けるためにも、ないであろうと言われている。 

PPPとPML-Nの妥協への動きがあるものの、各都市から弁護士らを先頭にしたlong marchはイスラマバードに向かっている。3月16日に集結し、座り込みに入る。long marchのリーダーたちは否定しているが、暴力に発展するのではと懸念されている。 

さまざまな政治勢力の思惑が交錯するパキスタンの政治状況について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩