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|紅海|アラブ安全保障を脅かす海賊監視戦隊

【カイロIPS=アダム・モロー&カレド・ムッサ・アルオムラニ】

11月20日カイロにおいて、エジプトおよびイエメン主催による海賊取り締まり会議が行われた。同会議には、両国の他にサウジアラビア、スーダン、ヨルダン、ソマリア、エリトリア、ジブチ代表が参加。特にエジプトは、紅海と地中海を繋ぐスエズ運河の使用料を主要外貨源としているため、この問題を深刻に受け止めている。 

最近数カ月、特にソマリア沖アデン湾の海賊行為が増加している。国際海事局の統計によれば、今年だけで既に80隻を超える船舶が攻撃されている。11月15日には、サウジアラビアのスーパー・タンカー「MVシリウス」がソマリアの海賊にハイジャックされ、海賊は引き渡しの条件として巨額の身代金を要求している。その3日後には、インドの小型駆逐艦が、激しい銃撃戦の後同じアデン湾で海賊の母船を破壊したと報じられたが、後にそれはハイジャックされたタイの船舶であったことが明らかとなった。最近では、11月25日に鉄鋼を積んだイエメンの船がハイジャックされている。

 同問題に対処するため、インド、米国、ロシア、南アフリカ、NATOは、海運保護を目的に同地域に軍艦を配備。EUは11月半ばにソマリア沖の海賊行為を取り締まるため初のミッションを開始した。報道によれば、これには駆逐艦だけでなく偵察機、ヘリコプターも参加するという。 

会議後の共同声明で、参加国は「ソマリア沿岸の海賊行為は、同国の政治、治安、社会情勢の悪化がもたらしたものの1つである」と述べた上で、アラブ諸国による共同海軍オペレーションおよびイエメンを拠とする海賊監視センターの設立を提案した。参加代表は外国の戦艦配備を歓迎しながらも、地域諸国の主権尊重を主張している。 

イエメンのアル・クルビ外務大臣は11月10日、外国戦艦の存在はアラブ諸国の安全保障にとって脅威となり、紅海の国際化に繋がると警告した。 

エジプトの軍事専門家ガマル・マズロウム氏は、同大臣の発言は根拠の無いことではないと言う。同氏は、1980年代にイスラエルは紅海への戦艦配備を提案したが、アラブ諸国は直ちにこれを拒否。それ以来同問題は議論されていないが、海賊問題出現によりイスラエルが商船保護を理由に戦艦配備を再び主張するのではとの見方もある」と指摘する。 

同氏はまた、船隊の海賊行為阻止能力にも疑問を呈している。「これまでにも米国第5艦隊やNATOの150戦隊が地域に配備されていたが、海賊行為防止にはならなかった。最近の配備増強にも拘わらず海賊事件は増加しており、効果の程に疑問が残る」と語っている。 

エジプト/イエメン主催のアラブ諸国海賊対策会議について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|ラテンアメリカ|先住民族出身のジャーナリストが立ち上がる

【ラパスIPS=フランツ・チャベス】

国際農業開発基金(IFAD)とインタープレスサービス(Inter Press Service: IPS)が共催する社会開発ワークショップ『Journalistic Minga: Development Indigenous Reporting in Latin America』が11月25日、26日に開催された。Mingaとは伝統的先住民たちによる集会を指している。 

コロンビア・エクアドル・ベネズエラ・ペルー・グアテマラ・ボリビアの先住民族社会出身のジャーナリスト20数名がラパスに集結。各国を代表する記者たちは社会開発促進に向けた共通の利害の確認と各国間の情報交換の必要性について協議した。 

IFADのFarhana Haque-Rahman氏は「ワークショップの目的は、先住民が抱える様々な問題をジャーナリストが詳細かつ正確に報道できるようにすることである」と説明した。世界にはおよそ3億7,000万人の先住民が暮らしているが、(世界人口の5%を占める)彼らの殆どは貧困層である。

 「メディアにおける先住民問題への関心の低さも深刻だ。現地の人々の置かれた危機的状況を世界に発信し、ジャーナリスト同士で包括的な情報ネットワークを構築していくべきである」と、IPSラテンアメリカ総局長のJoaquin Costanzo氏は述べた。 

2日間にわたるワークショップでは、情報伝達の観点や(権利・機会の平等を求める)先住民社会が果たす役割の視点から、彼らの現状について詳しい報告と分析が行われた。 

先住民族ジャーナリストたちの取り組みについて報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩 

|カンボジア|裁かれるクメール・ルージュ幹部は増えるのか

【プノンペンIPS=アンドリュー・ネット】

2009年初めまで初公判が延期されているクメール・ルージュ裁判に、新たな問題が起きている。裁判の独立性を示すために逮捕者の追加を求める圧力にどう対処するか、である。戦犯法廷で誰を起訴するかは複雑な問題で、特にカンボジアでは歴史的な事情と国内外の司法官からなる法廷システムの構造によりさらに込み入っており、合意を得るのが困難な状況だ。 

現在拘束されているクメール・ルージュ幹部は5人で、トゥール・スレン虐殺の首謀者、カン・ケック・イウ別名ドゥック、クメール・ルージュNo2のヌオン・チャ、元民主カンプチア国家主席キュー・サムファン、元外相イエン・サリとその妻イエン・シリト。

 逮捕者追加の憶測が強まったのは、6月半ばに外国人のR.プチ司法官が他のクメール・ルージュ幹部の

捜査を明らかにしたときだった。国連で裁判の予算を話し合う会議の直前のことだった。それ以来、この追加問題についてカンボジア人と外国人の司法官の間で話し合いが続いている。公式情報ではないが、2~6人の名前が挙がっていると言われている。 

10月の裁判公報では、問題については検討中とされ、その後の報告はない。個々の司法官はコメントを拒否している。追加決定に関しては法廷の規則により外国人司法官の方が優位な立場にある。起訴の基準は、1975年4月17日~79年1月6日のクメール・ルージュ支配下で起きた犯罪の「幹部」であり「重大な責任がある」というものだ。 

裁判はカンボジアで行われ、政府の要職にある旧クメール・ルージュのメンバーも多数いることから、ほとんどの観測筋が追加はないとみている。一方で、正義と平和を原則として、追加を求める市民の声もある。カンボジア政府は、政府での要職を交換条件にクメール・ルージュからの離脱を進めた経緯もあり、追加逮捕は回避したいし、資金の問題もある。 

誰を追加逮捕するかも明確ではない。すでに死亡している幹部も多い。ジャーナリストや学者がクメール・ルージュの戦犯について資料を提供し、特に2人の名が戦犯として挙がっているが、この2人を含めるとさらに範囲は拡大していく。クメール・ルージュの旧施設から収集される資料は各地に散らばっている。だがこうした施設の犠牲者を援助しているNGOは、証言や証拠を多数収集していると主張している。 

逮捕者の追加が憶測されているクメール・ルージュ裁判について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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|Q&A|「支援資金が減ればエイズによる死者が増大する」

【国連IPS=タリフ・ディーン】

世界規模の経済危機により、国連が掲げる重要な開発目標の一つ「2015年までに今なお世界中で数百万の人々を苦しめているエイズの蔓延を阻止する」もまた脅かされている。 

ジュネーブに本部のある、国連エイズ合同計画(UNAIDS)事務局長のピーター・ピオット博士は、「エイズの支援金は潤沢だ」と繰り返し指摘されるのは誤解を招きかねないという。エイズ対策資金はなお不足しているというのが「厳然たる事実」なのである。

 昨年、世界的なHIV/エイズとの戦いの資金は大幅に増え、総計100億ドルに上り、2006年と比べて12%の増加となり、10年足らずで10倍に増えた。 

しかしそれでも昨年の不足額は81億ドルを超えていた。2008年にはその不足額がさらに拡大するおそれがある。 

12月1日の世界エイズデーを前にピオット事務局長は、「世界的な金融危機が支援の縮小という事態を招く懸念があり、そうなると途上国世界全般に、特にエイズ対策において、有害な影響をもたらすだろう」と語った。 

先週の時点で世界のHIV感染者は3,300万人。2007年の新たな感染者は全世界で270万人で、エイズによる死亡者は200万人だった。 

 「この疫病はいまだに対策を上回る勢いで広まっている」と、UNAIDS ニューヨーク事務所のバーティル・リンドブラード所長はタリフ・ディーン国連総局長の取材に応じて語った。 

「この病との戦いは延々と続いており、対策にも持続性が必要だ」とリンドブラード所長は続けた。 

「現在の新たな局面は、重大な課題も提示している。現在の気運を将来に持続させ、それを踏まえて今日の人々だけでなく今後20年30年後の人々のためにできる限り最善の成果を確実にもたらす体制を整えるという課題である」 

リンドブラード(BL)UNAIDS ニューヨーク事務所長とのインタビューの抜粋を以下に記す。 

IPS:低中所得国のHIVプログラムに対する支援資金は6倍に増えたにもかかわらず、世界では3,300万人がいまだにHIV感染者であり、昨年は270万人の新たな感染者が生じた。今日の世界的な状況をどのように考えるか。 

BL:エイズは時代を特徴づける問題であり、今日でもそうだが、21世紀を通じてずっと優先課題であり続けるだろう。というのもエイズは気候変動と同じように長期的で地球規模の影響を持つ地政学的な事象だからである。私たちは今、エイズ対策の新たな局面に入りつつある。初めて、エイズ対策が現実に成果を生み出している。 

特に深刻な影響を受けている国々で、HIVの予防と治療に関して大きな進展が見られた。低中所得国では今日、300万人以上が延命効果のあるHIV治療薬を利用できている。 

UNAIDSの2008年版エイズ報告書によると、2007年の新たな感染者は、前年の300万人から270万人へと減少した。原因の一つとして、多くの国で人々が、安易に性行為をしない、性行為の相手を減らす、性行為の時には避妊具を使用する、など性行動を変化させ始めたことがあげられる。HIVに感染して生まれる子どもの数も減った。子どもへのHIV感染を防ぐための医療サービスが必要な女性の33%は、そうしたサービスを利用できている。 

こうした事実は端緒に過ぎない。この世界規模の疫病は感染者の割合(有病率)については横ばいとなったが、それでもHIV感染者の総数は世界で3,300万人に増えており、毎日7,500人近くが新たに感染している。 

エイズ禍は世界のどの地域でも終焉を迎えていない。新たに治療を受ける2人ごとに、5人の新たな感染者がいる。さらに、ドイツ、英国、オーストラリアなどで報告されているように、流行が収まったと思われている地域で新たなHIV感染者の数が増えている。 

IPS:国連の最優先課題の一つであるミレニアム開発目標(MDGs)は2015年までにエイズの蔓延を阻止すると提唱している。潘基文国連事務総長は現在の金融危機が全てのMDGsを揺るがせる可能性があると懸念している。今回の経済危機には、エイズとの戦いへの影響もあるだろうか。 

BL:何の手だてもなく資金不足の犠牲になるのは承服できない。この先数年間の死者が数百万単位で増えることになり、一方で予防が後手になれば感染者がさらに増えてその後のコストがいっそう増大する。支援国および各国政府はエイズ対策を持続し拡大するために全力を尽くし続けることが不可欠である。それができないと、数百万の人々が悲惨な状況に陥る。これまでの膨大な投資もまったく無効になってしまうし、2015年という期限までにMDGsを実現するという気運をそぐことになる。 

資金拠出が制約される時期においては、プログラムのいっそうの効率化および実施の強化もかつてないほど重要になってくる。援助国および被援助国政府双方による、2005年の援助効果向上に関するパリ宣言の完全な実施が必須である。 

IPS:過去数年にわたり、世界の全HIV患者の半数を女性が占めている。改善が遅れているのはなぜか。経済的な問題か、それとも政治的な、或いは、文化的な問題か。 

BL:HIVは、特に女性の間で蔓延し、影響が強まるという状態が続いている。これは男女の不平等、婦女子に対する執拗な汚名や差別、HIVに対する女性の脆弱性を緩和するための権利拡大の欠如などの、根深い要素による。 

女性をHIVに対して脆弱にし、病の影響(特に看護の分野)を過度に負わせている社会的、文化的、経済的な要素は、各国のエイズ対策にとって大きな障害となっている。 

IPS:国連の積極的な運動にもかかわらず、多くの国がHIV患者を保護する法律を持たないことから、エイズに押された社会的烙印ははびこっている。世界には反差別法の成否の例はあるのか。 

BL:67%もの多数の国がHIV感染者を差別から保護する法律を備えていると報告している。たとえばナミビア議会は2007年に可決されたナミビアの労働法案でHIVを差別の禁止基準に含めた。 

バハマ、マラウィ、南アフリカ、ジンバブエの法律は民間企業の雇用の条件としてHIVテストの強制を認可していない。カンボジア、ガイアナ、その他では、質の高い医療を平等に受けるHIV患者の権利を法律で明記している。 

けれどもこうした法律の実施レベルはこれまで実証されていない。さらに、2008年6月のエイズに関するハイレベル会議の際、国連事務総長等が国連加盟国にHIV感染者に課せられた旅行規制を解除するよう求めたが、63カ国がいまだにHIV患者というだけで入国、滞在、居住を何らかの形で規制している。 

いかなる理由があろうといかなる期間であろうとすべてのHIV患者の入国を認めないと宣言している国が8カ国あり、さらに短期滞在ビザの発券さえ拒否している国が5カ国ある。28カ国はHIV陽性と判明した時点で患者を国外退去させている。(原文へ) 
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

|テロとの戦い|「アフィア女史を釈放せよ」とUAE紙

【ドバイWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙は論説の中で、3人の子どもを持つ母親が、如何にして証明されていない「テロ容疑」の犠牲となったかについて報じた。 

「明らかに彼女は『テロとの戦い』の一環として拉致された数百人に及ぶ犠牲者(その大半は無実の人々)の一人である。」とカリージタイムスは「アフィア・シディキを釈放せよ」と題した論説の中で述べた。 

「アフィア・シディキ博士(38歳)は既に5年に亘って米国により身柄を拘束されており、近い将来拘束を解かれる見通しはない。」

 「シディキ博士をテロ容疑で審議した米国の判事は、彼女を公判に耐えうる精神状態ではないと述べた。これは言うまでもなく、米軍がアフガニスタンと米国で尋問戦術に基づいて拘留中の同女史に加えた拷問と高圧的な尋問の結果である。ところが、パキスタン政府が新たに女史の本国送還を米政府に求めたことから、今後の展開について多くの注目を集めている。」 

”Grey Lady of Bagram”(バグラム=アフガニスタンのバグラム空軍基地内の刑務所)とあだ名されるシディキ女史は3人の子どもの母親で神経科学者である。シディキ女史がどのようにしてアフガニスタンにたどり着き、(米軍によって)アルカイダ指導部を支援したとの容疑で逮捕されるに至ったかの経緯についてはあまり知られていない。 

「シディキ女史の弁護士の主張によれば、パキスタン生まれの同女史は、2003年3月にカラチ空港で子ども達とともに拉致され、以来5年間に亘ってパキスタン或いは米国当局の手によってアフガニスタンで身柄を拘束されてきた。そして今年7月、母国パキスタンが黙認する中、彼女は裁判を受けるため身柄を米国に移送された。」 

「しかし、パキスタン政府は、人権団体やメディアによる圧力に動かされて、米国に対してシディキ女史の本国送還を要請した。しかし米国の法律の下では、本国送還よりも米国の精神病院に終生収容されることになるのではないかとの懸念がある。アフィアの家族や人権団体が繰り返し主張しているように、彼女に対するテロ容疑の論拠にはなぞの部分が多い。」 

「パキスタン当局は、5年前のシディキ女史のカラチ空港からの失踪について詳細不明で事態を把握していないとしている。また、米国当局も、シディキ女史訴訟の理由をアルカイダとの関連容疑ではなく、『尋問官襲撃容疑』としていることからも分かるように、そもそも同女史を訴える論拠を持ち合わせていない。この茶番劇はどこまで行くのだろうか?介助なく自ら立ち上がることもできない独りの女性がどのようにして米軍や尋問官を襲うことができるのだろうか?もし彼女が米国に対するテロ攻撃を計画していたならば、実際彼女が(失踪時)そうしていたように幼い子ども達を連れて行くだろうか?」 

 「明らかに、シディキ女史は、米国による『テロとの戦い』の名の下に拉致された数百人に及ぶ、そしてその大半が無実の、犠牲者の一人である。今日、悪名高いグアンタナモ湾の収容所の閉鎖を約束したバラク・オバマ米国次期大統領に対する国際社会の注目が集まる中、アフィア・シディキ女史の事件は、テロとの戦いの名の下に行われている恐ろしい人権侵害の残酷な事例を示すものである。」 

「この3人の子どもを持つ若い母親は、彼女が犯した可能性が極めて低い犯罪の代償を既に払わされてきた。しかも、シディキ女史が有罪というならばそれを立証する責任は米国政府にあるのである。シディキ女史は既に医学、精神医学双方の治療を必要としている状態である。米国当局は、シディク女史の本国帰還を直ちに認め、彼女を今日の状態に陥れた補償を行うべきである。」と論説を締めくくった。 (原文へ
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

禁止された後も数千人を殺害する地雷

【ブリュッセルIPS=デイビッド・クローニン】

地雷の使用禁止が国際的に合意されてから10年が過ぎたが、新しい報告書の推計によると、この武器は2007年にもなお数千人の命を奪っている。 

未だに地雷の使用を続けているのはビルマとロシアの2国だけだが、世界各地の数々の紛争の間に敷設され、いまだに不活性化されていない地雷による死傷者が後を絶たない。 

地雷監視年次報告書によると、地雷および手榴弾、迫撃砲、クラスター爆弾などの「戦争の爆発性残留物」は昨年5,426人を殺害した。

 11月21日にブリュッセルでこの報告書を発表したハンディキャップ・インターナショナルのスタン・ブラバン広報担当官は、この調査結果を「非常におそろしい」と表現した。実際の死亡者の数はこれをはるかに上回る可能性もある。 

それにもかかわらず、ブラバン広報官は、「1997年に国際的な地雷禁止条約が合意されてから、地雷による犠牲者の削減に関しては着実な進展がみられる」と指摘した。1990年代には、地雷および関連した武器による死亡者は毎年およそ2万6,000人に上っていた。 

 156の国が批准したこの条約の下では、各国政府にはその領土内の地雷を撤去するために10年が与えられている。英国はフォークランド諸島の地雷撤去をほとんど進めていないことから、「条約違反となる危険性のある」国のひとつだとブラバン氏はいう。フォークランド諸島は南大西洋上にあり、その領有をめぐって1982年にマーガレット・サッチャー英国首相の政権(当時)がアルゼンチンと戦争を行った。 

この条約のもっともプラスとなる影響のひとつは、条約への署名を拒否した国の多くへの抑止となり、少なくとも備蓄分を部分的に廃棄するまで、地雷に烙印を押したように思えることである。昨年は4,200万個の地雷が廃棄された。ロシアは最近のチェチェン紛争では地雷を使用しているが、100万個の地雷を廃棄した。 

さらに報告書によると、2007年には地雷の影響を扱う国際支援の総額は4億3,100万ドルだったが、前年と比べて4,500万ドル減っている。最大の資金提供者である欧州連合(EU)は、2億ドルの貢献を行ったが、2006年と比べると25%の減少だった。 

クラスター爆弾に反対する運動は、5月にダブリンでの会議で107カ国がその使用禁止を支持し、大きな後押しとなった。条約は来月オスロで行われる式典で正式に調印が始まることになっている。 

けれども禁止が合意されたにもかかわらず、8月のロシアとグルジアとの短い戦争でクラスター爆弾の使用を防ぐことにはならなかった。 

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、犠牲者の体から手足をもぎ取るこうした武器の使用により少なくとも16人が死亡し、56人が負傷したと断定した。 

ロシアはクラスター爆弾を投下したという申し立てを否定しているが、グルジア側はこれらの武器の使用を認め、その武器はイスラエルのメーカーから購入したといっている。 

ヒューマン・ライツ・ウォッチの上級軍事分析官のマルク・ガルラスコ氏は、これらの武器の使用を調査するためにグルジアに赴いた。ガルラスコ氏は「ゴリ地方で数千個のクラスター爆弾が不発のまま残っていて、除去には半年かかるだろう」という。グルジアは使用した大量の爆弾が不良品のようだったのはなぜか調査中である。 

米国は国際的な禁止に対して、もっとも執拗に反対してきた。ジョージ・W・ブッシュ現大統領が個人的に各国指導者に電話して完全な禁止に抵抗するよう要請したことは知られている。しかし活動家は後継者となるバラク・オバマ氏が、この合意と米国が批准していない1997年の地雷禁止条約に、より建設的な立場を取ることを期待している。 

ガルラスコ氏は、「米国は北大西洋条約機構(NATO)の他のほとんどの国と対立している」と主張する。「米国のNATO内の同盟国、英国、ドイツ、カナダ、フランスなどのほとんどがこうした地雷とクラスター爆弾という二つの武器の放棄に快く応じている。そのため米国が放棄しない理由が考えられない」 

一方で、EUの執行機関である欧州委員会の出資した調査は、拷問用具を製造する1万6,000社を超える企業を特定した。 

英国のマンチェスターを本拠とするオメガ財団によって行われたこの調査はまた、拘束者に苦痛を与えるため使用される可能性のある6,000品目を特定した。 

この調査は「拷問の商売」を規制するEUの法令が導入されてからどのような進展があったかを追跡調査するために企画されている。この法令の主要な弱点を指摘した、オメガ財団とアムネスティ・インターナショナルが共同で行った2007年の報告に続くものである。だが拷問者が使用する道具の中でもっとも悪名が高い、スティング・スティックとして知られている針のつきでた棒や死刑執行のために作られたロープなどは含まれていない。 

EUの職員の話では、評価基準の範囲の拡大についての話し合いが2009年初めにブリュッセルで予定されている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩 

|人権|カンボジア|『民主カンプチア時代』の真実とは

【プノンペンIPS=アンドリュー・ネット】

「30年前の1978年、27歳の私がカンボジアを初めて訪れた頃はこの国の苛酷な運命を想像もしなかった」。共産主義政党クメール・ルージュを支持するSweden-Kampuchean Friendship Association(SKFA)の代表団の1人、ガンナー・ベルグストローム(Gunnar Bergstrom)氏は今週、カンボジアを歴訪。14日間の旅の中で様々な土地を案内され、ポルポト派指導者らやイエン・サリ外務大臣との会食も行った。 

カンボジアではクメール・ルージュ統治時代に過労や飢餓、処刑などでおよそ200万人もの犠牲者を出した真実が国際社会に明らかにされなかった。ベルグストローム氏も当時の状況を回顧する。「60年代の思想家と同様に、私も若い頃、ラオス・ベトナム・カンボジアの革命を強く支持し、クメール・ルージュ政権がより良い社会をもたらすものと思い込んでいた」。

 同氏は、今回のカンボジア訪問が同国のプロパガンダの役目を果たしかねないとの懸念を示した。ベルグストローム氏を含む代表団は国内の工場、農業関連企業、学校、病院などを案内され、港町Sihanoukville(Kompong Som)では大量のコメが中国行きの船に積荷されている様子を見せられた。 

そして、ベルグストローム氏ら代表団が撮った写真にも本当のカンボジアの姿を垣間見ることはできない。笑顔の子供たち、工場労働者、公共施設で食事する男女、米作りに精を出す農民など。 

「何が嘘で何が真実であるかを判断できるまでまだ多くの時間が必要だ」と、ベルグストローム氏は話す。外国人から見たカンボジアの現在と過去について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩

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|カンボジア|市場経済を学ぶクメール・ルージュの拠点

|キューバ・中国|友好関係強化

【ハバナIPS=パトリシア・グロッグ】

中国の胡錦濤主席は11月19日、2日間のキューバ訪問を終え、アジア太平洋経済協力サミット参加のためペルーへ向かった。同主席は、18日には病気療養中のフィデル・カストロ前大統領を見舞い、その様子はゴールデン・タイムのニュース番組で報道された。 

ラウル・カストロ現首相は、来賓および300人の中国留学生の前で、1953年にウィーンで開催された社会・共産青年大会で習ったという毛沢東に捧げる歌を中国語で歌い、中国への謝意を表したという。(現在1,917人の中国人留学生が、キューバの大学でスペイン語、医学、看護、観光、心理学などを学んでいる)

 両国首脳はは公式会談の後、キューバ産砂糖およびニッケルの輸入、キューバ港湾施設の改善、キューバのバイオテクノロジーへの投資などを含む数多くの合意に調印。また中国は、キューバの負債支払延期、病院改装のための7千万ドルの融資などで合意した。 

キューバの共産党紙グランマは、同会議は両国共産党および政府間の友好関係を再確認すると共に今後の関係の更なる強化を約束するものと評価。また、胡錦濤主席を空港で見送ったラウル・カストロ首相は、毎回の事ながら、中国主席の訪問は今回も有意義なものであったとコメントした。(両国は1960年9月28日に外交関係の正常化を行っており、中国はベネズエラに次ぐキューバ第2の貿易相手国となっている。2007年の貿易は前年比23パーセント増の26億ドル) 

胡錦濤主席の訪問に先立ち、10月後半にはブラジルのルラ大統領もキューバを訪れ、両国は石油戦略協定で合意した。11月にはロシアのメドヴェージェフ大統領もキューバ政府の要請により同国を訪れ、エネルギー、観光、鉱業への投資で話し合いを行う予定だ。また、10月末には、75人の政治犯投獄に抗議して2003年から外交を断絶していた欧州連合(EU)も政治対話を再開している。 

キューバ政府は、11月13日のリオ・グループ参加承認に伴いラテンアメリカにおける地位強化にも乗り出している。ラウル・カストロ首相はルラ大統領の要請を受けて12月中旬にブラジルを公式訪問すると共に同国で開催されるラテンアメリカ・カリビアン・サミットに出席する予定だ。ベネズエラのチャベス大統領は、カラカスにおいて、カストロ首相は、ブラジル、中国、ロシアなどの国々から訪問を要請されているが、ベネズエラが最初の訪問先になるだろうと語った。しかし、キューバ政府からは同発言に対するコメントは出ていない。 

米国のオバマ次期大統領もキューバ制裁の緩和を約束しており、キューバ外交は更なる展開を見せるだろう。活発化するキューバ外交について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩

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|キューバ|嵐に慣れるしか選択肢はない

米国からの送金に頼るキューバ市民に新たな試練

 

|文化|パキスタンの自由な一面を示す国際舞台芸術祭

【ラホールIPS=ビーナ・サルワル】

外国から約370人の俳優、音楽家、舞踊家、人形師が集まり、パキスタンの文化都市ラホールで11月13日から世界舞台芸術祭が開催された。民間主催の同芸術祭は、今は亡きラフィ・ピールが1980年代初めにカラチに創設したラフィ・ピール・シアター・ワークショップ(RPTW)主催の国際フェスティバルを含めると26回目のフェスティバルとなる。 

ラフィ・ピールはドイツで教育を受けた近代パキスタン舞台芸術の祖である。彼の双子の息子ファイザーンとサダーンは人形劇および演劇のキャリアをカラチで開始。人形劇に情熱を燃やしていたファイザーンは、1992年、生まれ故郷のラホールで世界の人形師を招き第1回国際フェスティバルを開催した。ピール兄弟はそれ以来、人形劇、舞踊、音楽演劇、映画関係のフェスティバルを年3回主催している。

 しかし、ファイザーン(50)によれば、今年は治安問題で大手スポンサーの支援が得られず苦労したという。「各国政府は、以前にはパキスタン渡航は商用に限るよう勧めていたが、現在では渡航の全面延期を勧めている。今やパキスタンは投資に値しない国となり、ヨーロッパからの参加者は約250人減った」と同氏は言う。 

今回は、イラン、アフガニスタン、インドおよびチェコ、米国、英国、アイルランド、イタリア、ドイツ、オーストリア、ノルウェー、オランダ、フランスの代表とパキスタンから約700人の芸術家が参加した。 

2005年から同フェスティバルに参加している。ジャック&ジョー・シアターのアドリアーノは、「パキスタンは確かに危険なようだ。しかし、主催団体の人々は親切だし、雰囲気は盛り上がっている。参加した海外のアーティストとも知り合いになり、ここは快適だ」と語る。 

レバノン生まれでフランスのアルゼンチン音楽のバンド・メンバーであるマノ・サンタは、同フェスティバルの精神をヨーロッパに紹介する努力を続けており、南フランスのアールで行われるレ・スッド音楽祭の姉妹フェスティバルとする計画だ。 

参加アーティストは一様に治安に問題はないと言うが、観客に対するセキュリティー・チェックは厳しい。娘と一緒にチェコの人形劇を見にきたアレフィア・ハッサンは、「駐車は会場の遥か遠くにしなければならず、3回も持ち物をチェックされた。でも、用心するにこしたことはない」と語った。 

ラホールで開催された国際舞台芸術祭について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|ハイチ・ドミニカ共和国|メディア、相互理解に立ち上がる

【ペデルナレスIPS=エリザベス・エアメス・ローブリング

ヒスパニオラ島にあるハイチとドミニカ共和国の格差は、特に国境地帯で明らかだ。ドミニカ南西部の砂漠地帯ペデルナレスは確かに貧しいが、そこには停電もなく、水道も舗装された道路も完備している。しかし、川を渡った配置のアンス・ア・ピトルは、舗装道路どころかわずかな井戸と、ソラー・パネルを設置した床屋、発電機を装備した小さなホテルがあるだけだ。ドミニカ側の岸壁には大型の船外モーター付きボートが並んでいるが、ハイチ側のモーター付き漁船は1隻のみ。残る10数隻は帆船だ。

A group of Haitian journalists meets their Dominican colleagues at a three-day gathering to promote cross-cultural understanding. Credit: Elizabeth Roebling/IPS
A group of Haitian journalists meets their Dominican colleagues at a three-day gathering to promote cross-cultural understanding. Credit: Elizabeth Roebling/IPS

 水道や電気、ガスコンロ、豊富な食料を享受する者がそうでない者を下に見るのはよくあることだ。開発機関「プラン・インターナショナル」の文化交流プログラム・コーディネーターを務めるジゼルダ・リベラト氏は、「小さい時からハイチに対する悪いイメージを教え込まれているのだからドミニカ人を責める訳にはいかない。我々は、ハイチの人間は野蛮人で人肉を食べるという様な酷い話を聞かされてきた。ドミニカ人の多くはハイチの高等教育を受けた人と会う機会もない。我々はドミニカのジャーナリストとハイチのジャーナリストを会わせたかった」と語った。 

この様な背景から、espaninslar.orgを運営する6人のドミニカ人ジャーナリストがプラン・インターナショナルの支援を得て、11月14日から16日までハイチ・ジャーナリストとの会議を開催した。同会議には両国から新聞、ラジオ、テレビ報道に携わるそれぞれ25人のジャーナリストが参加。相互理解の向上、政府に対する国境地帯政策立案の呼びかけ、人権犯罪の取り締まりなどで合意した。また、両国ジャーナリストのネットワーク設立のため8人の代表を選出した。 

会議の席上、カリブ諸国連合の元事務総長で社会学者のルーベン・シリー氏は、参加者にコロンブスの発見から現在までの島の歴史を説明。何故ドミニカ人はアフリカの伝統を意識しないのかとの質問に対し、トルヒーヨ政権(1930年~61年)が教科書から奴隷に関する項目をすべて削除し、ドミニカ人はスペイン植民地支配者および先住民の子孫であると教育したからだと説明。ハイチ人ジャーナリストからどよめきが起こった。 

ドミニカ共和国の駐ハイチ大使ホセ・セルエレ氏は、「独裁者のトルヒーヨは、ハイチ問題を政治利用したが、人種差別はドミニカ人の心の中ではなく学校教育にある。しかし、ドミニカ市民および政府は同問題の解決に努力している。フェルナンデス大統領は人種差別に反対しており、宗教、肌の色による差別を認めることはない。我々は同じ島に住み、共通の歴史およびエコシステムを共有しているのだから、相互理解を深め、愛する島の保全に努めなければならない」と語った。 

ドミニカ共和国とハイチの相互理解のため開催された両国ジャーナリスト会議について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩 

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