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|バルカン半島|複雑化する組織犯罪に民族・宗教の壁はない

【ベオグラードIPS=ベスナ・ペリッチ・ジモニッチ

ユーゴスラビア崩壊以降、ボスニア・クロアチア・セルビアといったバルカン諸国内では民族、宗教、国境を越えた大規模な組織犯罪が深刻化している。 

先月23日、クロアチアの首都ザグレブで地元週刊新聞社『Nacional』のオーナー、イボ・プカニッチ氏(47)と販売責任者のニコ・フラニッチ氏(35)が車に仕掛けられた爆弾により殺害された。プカニッチ氏は、バルカン諸国地域で蔓延する組織犯罪に関する記事を頻繁に取り上げていた人物である。 

事件には3人のクロアチア人、爆弾を仕掛けたボスニア系セルビア人、共犯のクロアチア人の逃亡を助けたモンテネグロ出身のセルビア人など、異なる民族の人間が犯行に関与した。 

この事件を受け、組織犯罪問題の専門家Milos Vasic氏はIPSの取材で「同地域の組織的犯罪集団の間には国境や民族紛争という概念は存在しない」とし、このような犯罪がバルカン諸国のEU加盟への道を阻む原因になると指摘した。


プカニッチ氏の殺害事件後、欧州連合(EU)はクロアチア政府に対しEU加盟条件として組織犯罪の撲滅を強く要求。クロアチアのIvan Simonovic法相は、犯罪組織の取締りを強化すると明言した。 

「バルカン諸国は地域間の相互協力・連携を図り、早急に組織的犯罪や汚職を撲滅しなければならない」と、フランスのミシェル・アリヨマリ内相はザグレブでのEU首脳会合で語った。バルカン諸国を悩ます組織犯罪について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 


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|バルカン半島|学校にも宗教の違い

|環境|ハイチはこれ以上の被害に耐えられない

【カナダ、アクスブリッジIPS=ステファン・リーヒ】

西半球で最も貧しい国、ハイチは今、歴史上最悪の自然災害を経験しており、環境への脆弱性を軽減する大規模な解決策を必要としていると当局者や人道支援要員は言う。 

8月、9月で4つの大暴風雨がハイチを襲い、1,000人が亡くなり、100万人が家を失った。国際援助隊が人命救助を行い仮設住宅を造っているが、国中広範囲にわたる枯れた土地はさらにダメージを受け、穀物や肥沃な土地や残り少ない木まで洗い流した。 

「今この国は最悪な状態で、地球上上で最も環境危機がある場所だ。」人道支援団体の責任者で、国連開発計画(UNDP)ポルトープランスの責任者でもあるJoel Boutroue氏はTierraméricaの取材に応じて語った。

 しかし、世界各国の支援への反応は非常に良く、深刻な栄養失調の傾向はまだあるものの、きれいな水が手に入り、10月時点で仮設住宅がないのが3,000家族のみだと言う。とはいえ、国民950万人を長期間国際援助で食糧支給するのは不可能だ。今ハイチは自給出来ておらず、何年も経たないと食料自給率50パーセント分の穀物さえ育てられないとBoutroue氏は恐れる。 

ハイチでは、森林の98パーセントを燃料用に伐採し、水をせき止める物がなくなり、通常の暴風雨でも大洪水を引き起こして被害が拡大。表土がほとんど侵食してしまった。また、水を浄化する森林や植物の生えた土地がないので、子供の90パーセントが水系感染症(伝染病) にかかり、腸内寄生虫がいる。 

不毛でやせた土地という環境危機への改善対策では、森林再生、台地形成、水流の水路化といった流域復旧が最優先事項だが、遅々として進まず、1つの修復プロジェクトの開始準備に3年かかるとBoutroue氏は嘆く。北部ゴナイブ市周辺流域2パーセントを200万ドルから300万ドルかけて修復したが、今年の暴風雨で最もひどい災害を被り、作業のほとんどが破壊した。他の地方も同じ状況だ。 

ハイチは貧困のサイクルから抜けられない。農民は懸命に努力しても、家族をやっと養う食料しか作れず、長期的に健康な土地を作れない。慈善団体は救済活動として新しい農作方法を提案するが、資金が無くなると数カ月や数年で去ってしまうとルイス氏は言う。 

先月、ロバート・B・ゼーリック世界銀行総裁はハイチを視察し、追加の緊急無償援助2,500万ドルを行い、主要な橋を建設し、ハイチの自然災害への脆弱性を軽減するために実行中のプログラムをさらに広げていくと発表した。これは世界銀行が国際開発協会(IDA)経由で2005年から行っている無利子の融資・補助金2億4,000万ドルに追加で行うものだ。 

国連や世界銀行などの「ハイチ復興フレームワーク」では、3年にわたり流域復旧、基本サービス、食料安全保証のために数十億ドル規模というこれまでにない力とお金を注ぎ、「国が思い切った手段で再出発し、復興する」計画を2008年末までに開始する予定だとBoutroue氏は言う。 

「流域を復旧する方法は知っている。うまくいくのもわかっているし、人もいるし、作業能力もある。お金だけが足りない」と国連職員は言う。 

史上最悪の自然災害に苦しむハイチと復旧支援状況について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|キューバ|嵐に慣れるしか選択肢はない

【ハバナIPS=パトリシア・グロッグ】

最新の公式推計によると、グスタフ、アイク、パロマと3つのハリケーンが3カ月足らずでキューバに総額100億ドルの被害を引き起こし、キューバの住宅の脆弱性が明らかになった。「気候変動の結果、ハリケーンが強大化し、我々には慣れるしか選択肢はない」と、8日にハリケーン・パロマの被害を受けた中東部を視察したラウル・カストロ国家評議会議長は語った。 

ハリケーンの強風、豪雨、高波で、沿岸部の町では多くの人々が家を失った。ハリケーン・パロマによる被害はテレビ放映されたが、1932年に3,000人の命を奪ったキューバ史上最悪のハリケーン9号から76年目という日の直後の放映だった。だが今回は住民の避難は迅速に行われた。

 カストロ議長は地元の人々に、できるだけ早く家を同じ地域に、けれども海からは離れた場所に再建するといい、被害の保障を約束した。議長はキューバにはハリケーンと「共存」していく用意が必要だとし、「手段を尽くして対処していく」と述べた。 

キューバ共産党の機関紙「グランマ」は12日に、グスタフの被害額は20億7,000万ドル、アイクは72億7、000万ドルだったと報じ、カストロ議長はパロマも合わせて総額100億ドルだと語った。 

市民防衛システムが運営する、国際的に高い評価を受けているキューバの災害防止システムが人的被害を最小限に食い止めたが、物的損害は甚大であり、キューバですでに差し迫った問題となっていた住宅不足がさらに悪化した。 

専門家は、気候の変化、粗悪な建築資材、定期整備が行われていないインフラ、海に近い住宅地などの問題が重なって、ハリケーンの被害を受けやすくなっているという。ハリケーン被害後に、キューバ住宅研究所は、わらぶき屋根、木造あるいはタイル屋根の家は壊れやすく、強化コンクリートの屋根だけが強風に耐えられると報告した。 

カストロ議長は「建材産業の基礎を築き、国内のすべての家の屋根を強化していく」と言明した。今年初めにキューバの住宅不足は60万棟に及んでいた。2005年の計画では年間10万棟の建設が予定されていたが、実際には半数しか実現していない。 

キューバのハリケーンによる被害について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩 

|オーストラリア・米国|オバマ氏との争点になる可能性のあるアフガニスタン

【メルボルンIPS=スティーブン・デ・タルチンスキ】

オバマ次期米大統領により米国に変革が訪れるのを、オーストラリアは歓迎している。オーストラリアと超大国米国との同盟関係は揺るぎないままだろう。「これまでもこれからも両国の関係は繁栄を続ける」とラッド首相はアフリカ系アメリカ人初の米国大統領の誕生を歓迎して述べた。 

オーストラリアのあらゆるメディアもすばやくオバマ氏勝利を歓迎する報道を行った。シドニー大学のUS研究センター(USSC)が選挙前に行った調査によると、オーストラリア人のほとんどがオバマ氏を支持していた。3分の1は選挙結果がオーストラリアに影響しないと答えたが、49%がオバマ氏の勝利の方が有利だと答えた。

 米豪の二重国籍を持つUSSCのジョフリー・ガレット教授は、オバマ氏の勝利はブッシュ政権と決別したかったオーストラリア国民には大きな意味を持つが、オーストラリアの政権に影響はないという。オーストラリアは第二次世界大戦後に米国と緊密な関係を築いた。1951ANZUS条約で結ばれた軍事同盟であり、ベトナム、イラク、アフガニスタンで米軍を支援する役割を果たしてきた。 

ラッド首相とオバマ氏の若さ、現実派、多国間主義者といった類似性も同盟を強化するとみられている。受諾演説でオバマ次期大統領は気候変動問題、テロとの戦い、米国の経済問題を最大の課題としたが、ラッド首相も同様の認識をしている。 

オバマ氏もラッド首相も、温室効果ガスの大幅削減を目指し、金融システムに規制強化を図り、テロとの戦いではアフガニスタンを重視している。オバマ氏は就任後16カ月以内のイラクからの米軍撤退を望んでおり、6月にイラクから撤退しているオーストラリアのラッド首相は、アフガニスタンでの長期的活動を重視する姿勢を明言している。 

だが国際治安支援部隊(ISAF)での負担が公平でないという不満もあり、オバマ次期大統領がオーストラリアへの要求を増すのではないかとガレット教授はみている。イラクに関わっている米軍には余裕がなくNATO諸国も部隊の増員は期待できない。 

オーストラリアはアフガニスタンにおける非NATO国最大の貢献国であり、1,100人規模の部隊を派遣している。ラッド首相は先週、オーストラリア軍の負担が増える可能性を否定したことから、この点が米豪の関係にとってひとつの争点となるかもしれない。 

オバマ次期大統領が選出された米国とオーストラリアの今後の関係について報告する。 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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│アフガニスタン│対アフガン新戦略はどうなるか

│アルゼンチン│地主による小農への嫌がらせが続く

【ブエノスアイレスIPS=マルセラ・バレンテ

アルゼンチン北部のサンチアゴ・デルエステロ州で、小農に対する地主の嫌がらせに対抗して、新しい新聞が創刊された。 

サンチアゴ・デルエステロ小農運動(MOCASE)が10月に創刊したこの新聞の題名は『El Ashupulitu』といい、先住民族のケチュア語で「地球に満たされて」を意味する。約4000部発行。MOCASEは約9000世帯の小農の権利擁護のために闘っている。 

新聞では、水不足の問題や、土地からの追い出し、地主が派遣した民間警備業者・ヤクザ者や警察による不当逮捕などが報告されている。 

非番の警官や武装した民間人は、農家に突然やってくる。そして、家人を殴ったり、物を盗んだり、農民たちを拘置所に引っ張っていったりするのである。 

MOCASEのリーダーであるエンジェル・ストラパッソンによると、この数ヶ月間地主からの攻撃が激しく、すでに50人以上の小農が不当逮捕されているという。

しかし、小農運動による抗議活動が功を奏して、逮捕されていた人々はすでに釈放されている。それでもなお、運動関係者150人以上が、起訴されているか、逮捕状を発行されているという。 

この背景にあるのは、大豆の大規模輸出を狙う地主たちの動きである。公的な統計によると、2002年から06年の間に、50万ヘクタール以上の森林が遺伝子組み換え大豆の生産のために農地に変えられた。 

アルゼンチンの法律では、ある農地に20年以上住んでいるか、あるいは営農していた場合に、その土地の権利を主張できることになっている。地元の人権団体「法律・社会問題センター」によると、サンチアゴ・デルエステロ州の小農のうち実に73%が、すでに同じ土地で20年以上営農しているという。 

しかし、小農たちを取り巻く環境は厳しい。3月から7月にかけて、アルゼンチン全土で農民たちがストライキや交通封鎖などを行った。彼らの要求は、大豆輸出にかかる税金の引き下げだ。交通は寸断され、食料危機が引き起こされた。しかし、主要なメディアはこの動きを支持している。MOCASEなどのように、地場での小規模農業を守りたい勢力にとっては逆風だ。 

こうした流れを受けて、9月は地主らによる攻勢が激しい。MOCASEは、新聞が少なくとも地主らによる人権侵害に目を向けてくれれば、と願っている。 

アルゼンチンの小農と地主の闘いについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリ=IPS Japan

|スリランカ|新たな規制に立ち向かう報道機関

【コロンボIPS=フェイザル・サマト】

スリランカのメディアは北部のタミル人反乱勢力との戦いに関して報道規制を受けている。さらに10月27日には発表された新たな法律により、政府はテレビ、ラジオ、マルチメディア・メッセージング・サービス(MMS)の報道内容を規制していく計画である。 

スリランカの自由メディア運動(FMM)のデシャプリヤ広報担当官はメディアに対する「検閲」であるとして、報道機関や市民運動が法律の施行前に最高裁に提訴する計画だという。新たな法律は情報メディア大臣に、報道内容が「国家安全保障上の利益に有害、治安の悪化を扇動、民族的宗教的文化的嫌悪を煽る、道義に反するか低俗、子どもの権利と特権に有害」とされる場合などに、報道機関の免許を取り消す権利を与えている。

 FMMは「民間テレビ局法」が新技術を規制し、外国人による報道機関の運営を妨げるものだと声明を出し、「新法は報道の自由とメディアの独立性への政府による侵害を認めるもので、誤っている」とFMMの代表は述べた。また、野党のウィクラマシンハ党首は記者会見で、「新法はラージャパクサ大統領の一族の会社によるメディア支配を目指したものだ」と訴えた。 

 ヤパ情報メディア相は急成長する電子通信分野に統一性をもたらすために新法が必要であると述べた。これまでテレビとラジオは期限を特定しない暫定的な許可を受けていたが、ここ数年、基準の整備が行われてきた。新法は特にブログなどによるインターネットを通じたニュース配信も規制する。 

現在、タミル反乱勢力のニュースを報じているのは国営テレビだけである。政府軍はタミル勢力を追い詰めているが、激しい抵抗にあっている。ラージャパクサ大統領の2005年11月の就任以来、スリランカでは少なくとも15人のジャーナリストが死亡している。国家機関が関与している事件もある。 

国境なき記者団による最新の世界報道自由ランキングでは、スリランカは民主主義国の中で最下位である。国際ジャーナリスト連盟、国際メディアサポート、国際ニュース安全インスティチュート、国境なき記者団からなる国際的なメディアチームは、10月25~29日に事実調査を行い、メディアを抑圧あるいは検閲する新法に遺憾の意を表明した。

メディアチームは言論の自由の悪化を指摘し、「戦争に関する情報を抑圧するのは、国民の知る権利を侵害するものだ」としている。 

スリランカで厳格化する報道規制について報告する。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 


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|スリランカ|民間人、国連に対し支援続行を要請

│アフガニスタン│対アフガン新戦略はどうなるか

【カブールIPS=アナンド・ゴパル】

アフガニスタンの治安状況はますます悪化し、イラクより状況が悪いのではないかとみられつつある。軍閥勢力は首都カブール近くで活動し、アフガン政府への支持はきわめて低い。そうした中、米国政府は、対アフガン戦略の練り直しを迫られている。 

米国政府の中には、部族勢力に武器を流して治安維持にあたらせようとの構想がある。アフガン政府の一部もこの戦略を支持している。 

しかし、この戦略が機能するのは、パキスタン国境沿いのホースト、パクティヤー、パクティーカーの各州だけではないかとの意見もある。ここでは、部族の力がいまだ強く、中央政府の権威が及んでいないからだ。部族の一部はすでに、パシュトゥン族の伝統的な自衛組織であるアルバカイを作っている。NATO軍のマクニール司令官も、今年初め、アルバカイが機能しているのはこれらの州だけだとの見方を示している。

 これに対して、アフガン科学アカデミーのハビブラー・ラフェ氏は、こうした打開策は武器の拡散を招くだけだと警告する。 

他方、米軍の敵であるタリバンとの交渉を開始すべきだとの意見もある。10月には、アフガン政府が元タリバンの重鎮をサウジアラビアに招き、タリバンと交渉する余地があるかどうかを探っている。アフガン政府は、タリバンの指導者であるムラー・オマールを含め、あらゆる軍閥と協議するとの立場だ。 

しかし、タリバンが中央政界に復帰してくることへの恐れもある。「アフガン女性ネットワーク」のシエラ・サミミ氏は「タリバンが戻ってくれば、封建制の時代に逆戻りだ」と不信感をあらわにした。 

米国、アフガニスタン両政府による、和平戦略の模索について分析する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩 


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|権利|ブッシュの民主アジェンダ、シリアで躓く


【ワシントンIPS=アリ・ガリブ&ザイナブ・ミネエイア】

国際社会/メディアの関心が米軍のシリア越境攻撃に集中する中、シリア政府は10月29日、密かに民主主義活動家グループに30か月の懲役刑を言い渡した。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)はシリアのバッシャール・アル・アサド大統領に対し有罪判決の即時撤回と2007年後半から2008年初めに行われたダマスカス宣言運動弾圧で逮捕された活動家の釈放を要求する声明を発した。 

ダマスカス宣言フォーラムに参加し逮捕された40人の活動家の内未だ拘束されていた12人に対し、わずか20分の裁判で厳しい刑が下された。


ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東のサラ・リー・ウィトソン部長は、「政府は批判を抑えるため、ただ会議に出席したというだけで民主主義活動家を投獄しようとしている。裁判は、政府の反対派弾圧を覆い隠す手段に過ぎない」と批判している。

 オクラホマ大学のシリア研究家ジョシュア・ランディス教授は、「米国のシリア攻撃ばかりが注目され、誰も12人のことを問題にしていない。シリア政府にとって最高の隠れ蓑は、米国が与えてくれたようなものだ」と語っている。 

2005年に設立されたダマスカス宣言は、野党政党や弁護士、医師、作家、芸術家などを含む独立活動家の連合であった。当時政府は比較的弱い立場にあった。ブッシュ大統領がシリアを悪の枢軸の一部と呼び、枢軸メンバーのイラクは体制転覆を目的とする米国の攻撃に晒されていた。ランディス氏は、その不安定な状況と世界の民主主義運動に刺激されて反対派の統一、組織化が始まったという。 

政治活動家の弾圧で知られるシリアであるが、アサド政権は当初ダマスカス宣言を力でねじ伏せようとはしなかった。しかし、2006年に連合メンバーがレバノンの学識者、活動家と手を組み両国の関係改善を要求するに及んで、シリア当局の弾圧が始まったのだ。 

ランディス氏は、ダマスカス宣言に対する弾圧はアサド大統領が活動家に対する反感を民衆に植えつける能力を身につけた結果だという。2005年には米国主導のイラク侵攻は全面的な暴力、混乱に至っていなかった。占領の不手際でイラクの混乱が拡大した時、独裁政権はただちに西側の利益との衝突、特に西側の関与が民主主義の促進を唱えている場合にどうなるかを知ったのだと同氏は言う。 

ランディス氏は更に、「すべての中東社会は、彼らの政府が崩壊することによって見舞われる混沌と危険を非常に恐れているため、独裁体制を固守しているのだ」と語った。 

シリアの政治活動家弾圧について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 


│パラグアイ│「恐怖のファイル」が発見される

【アスンシオンIPS=ナタリア・ルイス・ディアス

パラグアイの首都アスンシオンで、アルフレード・ストロエスネルによる独裁期(1954-89)に集積された政治囚に関する秘密ファイルが発見された。ファイルは、政治囚個人の情報や写真などを多く含む。 

発見したのは、人権活動家マルチン・アルマダ。発見された場所は、かつて内務省に属していた建物の地下の一室で、ストロエスネル時代に内務省で勤務していた元軍人の内部告発によって、発見されることになった。

 この建物は現在、全国知事会が会議を行う場所として使われている。地下室に最初に踏み込んだのは、アルマダ氏とミシオネス州のビクトル・ペレイラ知事。知事は検察局に通報もした。 

 1992年12月にも、同じくアルマダ氏によってアスンシオン郊外のランバレの警察署から独裁期の秘密ファイルが見つかっており、「恐怖のファイル」と呼ばれている。今回見つかったファイルは、これにちなんで、「恐怖のファイルII」と呼ばれることになった。 

パラグアイの「真実・正義委員会」が8月に提出した報告書によると、独裁による犠牲者は、強制的失踪や超法規処刑も含めて、12万8076人とされている。そのうち、政治囚は1万9682人いた。 

パラグアイの裁判所は、ストロエスネル時代の内務大臣であり、現在はホンジュラスに亡命しているサビーノ・アウグスト・モンタナロの身柄引き渡しをすでに請求している。 

パラグアイで見つかった独裁政権の活動に関する秘密ファイルについて報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=山口響/IPS Japan浅霧勝浩 

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|国連報告書|石油価格高騰、ミレニアム目標に影響か

【バンコクIPS=マルワン・マカン・マルカール】

石油価格値上がりがアジアの途上国に与える影響について新たなメカニズムを用い行われた調査で、暗澹たる結果が出た。同地域の貧困緩和努力に脅威が存在するのは明らかだ。 

最近開発されたOPVI(石油価格脆弱性指数。異なる18の指標を用いる)で、2003年の1バレル約22米ドルからその後80ドルに値上がりした石油価格の高騰により、程度の差こそあれ、調査対象国にその影響が出ていることが判明した。石油価格は、先週1バレル当たり90.07ドルの最高値を記録。100ドルを超えるのではないかとの予測も出ている。

 国連開発計画(UNDP)は、10月25日発表の調査報告書の中で、「最も脆弱な国は、経済力、経済パフォーマンスが低く、石油依存の高い国」と述べている。UNDPは、アジア大陸の貧しい人々が燃料価格高騰にどのように対処しているかのアセスメント確認を行うためOPVIを使用した。 

南アジアで最も影響を受ける国はアフガニスタン、バングラディシュ、モルジブ、ネパール、パキスタン、スリランカ。東南アジアでは、カンボジア、ラオス、フィリピン。太平洋地域では、フィジー、サモア、ソロモン諸島、バヌアツとなっている。 

また、ブータン、インド、ビルマ、タイ、ベトナム、インドネシア、パプア・ニューギニア、モンゴルなどでも中度の影響があるという。「石油価格に対する脆弱性の克服」と題されたUNDP報告書は、これら諸国は、第1グループに比べ石油価格ショックを吸収できる経済力、高あるいは中度の国内総生産/経済成長率を有し、石油依存率も低い、あるいは石油輸出国であるためと述べている。 

同報告書はまた、「しかし、価格の高止まりが続けば、極端な貧困と飢餓の撲滅のため掲げられた国連ミレニアム目標(MDGS)達成への影響は避けられない」としている。 

同報告書の主筆ナンディア・モンギア氏は、IPSに対し「MDGsへの脅威は、石価格上昇の期間による。もし、価格上昇が3~5年続けば、我々は大きな問題に直面することになる」と語った。 

 MDGsは、2000年にニューヨークの国連本部で行われた国連サミットで世界のリーダーが合意した8つの開発目標からなる。第1目標は、2015年までに収入が1日1米ドル以下の人々の数を半減させること。アジア太平洋地域は、貧困率が地域住民の32%から17%に減少したことで称賛された。しかし、2004年には約6億4,100万人が依然極端な貧困生活を送っていた。 

もう1つ、2015年までに全世界の子ども(男女共)の初等教育終了を義務化するというMDGに大きな影響が出るのではないかと懸念される。149ページのUNDP報告書は、「交通費の値上がりで、地方の子供達の良い学校へのアクセスが妨げられるのではないか」と述べている。 

MDGsが具体化した頃は、石油価格の値上がりが目標達成の大きなハードルになるとは思いもよらなかった。モンギア氏は、「7年前には、石油価格高騰の問題がMDGsの障害になるかもしれないなどと誰も議論しなかった。我々は1バレル約25ドルという幸せな世界に住んでいたのだ」と語る。 

しかし、価格高騰が地域の開発に与える影響は大きい。同報告書の発表に際し、国連のハフィズ・パシャ事務次長は、「アジア・太平洋地域は、石油コストとして2003年比で4千億ドルの追加支出を余儀なくされた。これは、同地域に対する年間援助金の20倍に相当する。これにより、地方、都市コミュニティーは、従来のよりダーティーな生活に戻らざるを得ず、燃料アクセスは更に難しくなった。また、貧困撲滅努力も一層困難となった」と語った。 

UNDP調査官が中国、インド、インドネシア、ラオスの地方/都市家庭に対し行った聞き取り調査で、新たな現実が浮かび上がった。同報告によると、これら家庭は、2002~2005年の間に大幅な価格高騰に直面し、必要エネルギー・コストは全体で74%増加したという。調理用燃料は171%、交通燃料は120%、電気は67%、照明用燃料は55%の高騰だ。 

UNDPの表現を借りれば「エネルギーの階段を下ることを余議なくされた」数百万の人々にとって選択肢は殆ど残されておらず、多くの家庭が夜は暗闇の中で過ごしている。都会の貧困層は、燃料になる木やバイオマスといった代替燃料を集めることができないためより厳しい状況に陥る傾向にあるが、地方の貧しい人々も、特に電化されていない村々では、照明用燃料の値上がりに対しより脆弱で、同じく困難な状況に置かれているという。 

ネパールの様な後発途上国では、価格高騰の圧力は生活の質そのものに影響している。同国の国家計画委員会のメンバー、ラジ・パンディ氏は、「貧しい者と富める者の格差が広がった。これはMDGs達成に大きな脅威となっている」と語っている。 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩