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ボスニア・ヘルツゴビナ紛争の貯蔵武器をイラクへ

【ベオグラードIPS=ヴェスナ・ペリチ・ジモニッチ】

ボスニア・ヘルツゴビナ紛争終結のための1995年デイトン和平合意の重要点は、膨大な貯蔵兵器の破壊であった。 

しかし、ボスニアの日刊紙「Nazavisne Novine」およびクロアチアの日刊紙「Vecernji List」は、「9・11テロ攻撃後、米国の圧力によって貯蔵された武器/弾薬をアフガニスタンおよびイラクへ売却する命令が下され、少なくとも29万丁のライフルが米国内の民間企業に売却された」とのオーストリア人元UE軍メンバーの証言を伝えている(ライフルは、イラク/アフガニスタンの治安部隊用という)。 

Vecernji List紙は更に、サラエボを拠とする国営武器貿易企業ユニス・プロメックスのMaglajlija社長が、米国のスカウト社との取引を認め、「スカウトとの取引は国が承認しており問題はない。武器の最終売却先については知らない」と語ったと述べている。 

アムネスティ・インターナショナルが昨年発表した武器不法取引に関する報告書によると、2004年7月31日―2005年6月31日の間にボスニア/ヘルツゴビナ紛争時の小型/軽兵器数10万および数千万の弾丸が、米国防省の仲介で秘密裏に武器ブローカーの手に渡ったという。アムネスティーはまた、2004年12月の紛争の際にこれら武器の一部がルワンダにも送られたと述べている。 

平和維持部隊は、1998年以降5万2千の小型兵器、3万8千5百の地雷、22万5千の手榴弾などを回収しているが、UNDP(国連開発計画)および地元当局は作業完了には20年を要し、密売の危険性も高いとしている。ボスニア・ヘルツゴビナの貯蔵武器がイラク/アフガニスタンに密売されているとの地元新聞報道を紹介する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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|ナイジェリア|過去との決別を願う人権活動家

|UAE|中東分断の架け橋となるイランの芸術

【ドバイIPS=ミーナ・ジャナルダン】

5月にイランのアフマディネジャド大統領がアラブ首長国連邦(UAE)を訪問した頃、UAEのシャルジャー(7つの首長国のうちのひとつ)では、イラン芸術フェスティバルが開かれていた。絵画、映画、写真、彫刻、音楽、舞台などさまざまな分野の芸術作品がイランから出された。

湾岸協力会議(GCC、加盟国:サウジアラビア、クウェート、バーレーン、カタール、UAE、オマーン)は、1979年のイスラム革命以来、イランに対する恐れを持っている。イランとUAEは、イランが1971年に占領した3つの島(アブムサ、大タンブ、小タンブ)をめぐって長年にわたって領土紛争を行っている。また、自国の核計画をめぐって軍事攻撃の脅しを米国からかけられているイランは、湾岸諸国にある米軍基地に対して報復するとして、湾岸諸国を恐れさせている。

 しかし、今回行われている芸術フェスティバルは、芸術の力を借りて、こうした緊張関係を解きほぐそうとの試みだ。そもそも、UAEには40万人のイラン人が住んでいるし、両国間の貿易も2006年には110億ドル規模に達しており、緊張緩和にいたる素地はある。

米国の世論調査機関「ゾグビー・インターナショナル」が昨年11月から12月にかけて行った世論調査でも、民衆レベルでは湾岸諸国間に不信感が少ないことがわかっている。イランが主要な脅威であると答えた人はわずか6%に過ぎなかった。他方で、約80%の回答者が、イスラエルと米国が2大脅威であると回答した。

イランへの脅威認識を取り除く芸術フェスティバルについて伝える。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan


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メッセージの意味をひっくり返す活動芸術家

メキシコで中南米からの移民への人権侵害

【メキシコシティIPS=ディエゴ・セバージョス】

メキシコの移民支援組織「国境なき社会」(Sin Fronteras)が、中米から米国へ向かう途中の移民に対してメキシコ当局がひどい人権侵害を加えている、と訴えた。

メキシコでは、中米から(ごく一部は南米から)の移民が毎年20万人も逮捕・強制送還される。そして、移民たちは、当局からの人権侵害に対してきわめて弱い立場にある。嫌がらせを受けたり、殴られたり、金品を奪われたり、拉致されたり、強姦されたりすることが頻繁に起こっている。また、メキシコ北部に向かう列車から振り落とされて死んだり大怪我をしたりすることも少なくない。そのため、これは「死の列車」と呼ばれている。

こうした苦難の末にメキシコを抜けることができたとしても、それで苦しみは終わらない。米国にたどり着いた中米からの移民のうち毎年約7万3000人が強制送還されているからだ。米国に居住する権利を最終的に得るのは、約7万人ほどでしかない。

「国境なき社会」は、5月23日、米州人権委員会に対して、同グループのメンバー20名の人身を保護するよう要請した。

同グループのカリーナ・アリアス広報担当によると、今年に入ってからの人権侵害はすさまじいという。今年3月には、グループのファビエネ・ベネット代表がメキシコ国立移民研究所を訪ねて当局と移民問題について議論したが、この会談の間、ベネット代表のID情報の入った文書を当局が勝手にビデオ撮影していた。

また、移民を支援する弁護士が、収容所内の移民との接見を妨害されることがしばしばある。3月20日には、収容所の移民と面談するためメキシコ南部に向かっていた同グループのメンバーが、当局から逮捕される事件も起こっている。

しかし、昨年12月に就任したフェリペ・カルデロン大統領は、移民の取り扱いは改善されてきていると開き直っている。

メキシコを通過する中米からの移民への人権侵害についてレポートする。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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 ディエゴ・セバージョスの記事

|イラン|世界の傾向に逆行する処刑の増加

【テヘランIPS=キミア・サナティ】

2006年にイランで行われた死刑は177人とほぼ2倍に増えた。イランの人権活動家は、死刑に犯罪抑止効果はなく廃止されるべきだとして、人々の意識を高めようと決意を新たにしている。 

この数字はアムネスティ・インターナショナルの最新の報告書から明らかになった。処刑数は中国がトップで1,010人だったが、人権活動家は、実態はその8倍に上るのではないかと見ている。イランでは政府統計は公表されず、今回の数字は報道機関や活動家による推定である。 

この報告書によると、世界的には処刑数は大幅に減って、2005年より26%少ない。けれどもイランの傾向は逆であり、5月の2週間で18人が処刑されるなど、減少する兆候も見られない。イランでは死刑が犯罪を防ぐ極めて重要な要素だと考えられている。 

イランで死刑になるのは、殺人、麻薬犯罪、思想的および経済的犯罪、さらに性的犯罪である。処刑は通常絞首刑で、性犯罪者、テロリスト、麻薬密売者の場合は公開でおこなわれる。性犯罪には石打の刑もある。今年は麻薬密売による死刑が増えている。またイランでは国際法で禁じられている未成年者の処刑も行われている。 

イランの法制度は関連するイスラム法に基づいている。議会で可決された法案も、イランの最高指導者アヤトラ・ハメネイ師が任命した6名の委員からなる、全能で厳格な聖職者評議会で承認されなければならない。この評議会は宗教法と法律の整合性を審査する。イスラム法に反することは異端とされて死刑となる。 

1999年に改革派の有力新聞「ネシャト」紙は、報復を認めるイランの宗教法は過失致死には適用されないと論じ、当局に異端だとされ新聞社は閉鎖となった。その執筆記者エマデディン・バギ氏が、イラン初の死刑反対組織を創設した。バギ氏は持論を本にしようとしたが、当局による出版差し止めを受け、アフガニスタンでの出版を計画している。イランの死刑制度の実態について報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|ナイジェリア|過去との決別を願う人権活動家

【ラゴスIPS=トイ・オロリ】

ナイジェリアの金融の中心都市、ラゴスを本拠とする人権団体「市民自由機構(CLO)」によると、長く続いた軍事独裁政権の後、1999年にナイジェリアに民主主義がもたらされたが、超法規的殺害は止むことなく、むしろ数は2倍に増えて、いまや日常茶飯事となりつつある。 

「軍事独裁の時代には、無益な殺生や器物損壊がほとんど国策のように行われていたが、新たな民主主義政権ではそうした醜い現象が、衝撃的なことだが、治安警備員、特に警察官による無実の民間人の不法な殺害というさらに悪化した形で目撃されている」とCLOが過去に発行した報告書は指摘している。 

この調査は1999年5月から2005年6月までの6年間に焦点を当てている。だが著者でありCLOの法執行プロジェクト代表であるダミアン・ウグ氏は、「現在も状況は改善されていない」とIPSの取材に応じて語った。「過去8年間に膨大な数の超法規的殺害を見てきた。警察、軍、国が雇った自警団が手を下している」。 

超法規的殺害とは法律によって認められていない処刑である。ナイジェリアの刑法では人間の不法な殺害は死刑に処される犯罪である。 

ナイジェリアでは、平均して少なくとも1日に5人が超法規的な状況で殺害されていると、CLOは推測している。そのほとんどが警察署で行われるとされ、武装強盗の容疑者は即座にその場で尋問中に処刑されるといわれている。一方警察側は容疑者の逃亡を阻止しようとして殺害が起きると主張している。 

「1日に5人という数字はかなり控えめなものだ」とウグ氏は語り、「地方の警察署や自警団では報告されない殺害もある。しかも、警察と軍隊が頻発する紛争に躍起になっている、問題の多い石油埋蔵量の豊富なニジェール・デルタで起きている事件は、数字に含まれていない」と言い添えた。 

CLOの報告書は、超法規的殺害が増加したのは、経済状況の悪化に原因があるとしている。オルシェグン・オバサンジョ大統領が政権にあった最後の数年に石油の歳入は増大したが、国連開発計画によると、ナイジェリアの1億4,000万の人口の80%以上が1日1ドル以下でいまだに生活している。この状況が銃犯罪、強盗、誘拐の増加を招いている。 

オバサンジョ大統領は今週退陣した。政権の座にあった8年の間に、50万人もの労働者が失業したとウグ氏はいう。多くは貧窮のまま放っておかれ、家族を養うために苦しんだ。「子供は授業料が払えず学校へ通えない。20歳以下の若者の多くが狂信的宗教や犯罪組織に加わり、犯罪に関わっていった」。 

警察は無法状態の広まりに「圧倒」された。「そのために問題を超法規的殺害により解消しようとしている」とウグ氏は語る。「この人間を殺せば、舞い戻ってきてまた面倒をかけられることはないと考えている。犯罪の可能性のあるものを減らすために超法規的殺害という手段を取っている」。 

警察が、自分たちの経済状態に憤りを感じ、その憤りを人々に放出しているという側面もある。ウグ氏は「数ヶ月給料を支払ってもらえない警察官は腹を立てている。検問所で警察官が賄賂を受け取ることは現在禁止されているのに、政府の役人や政治家が大金を流用しているのを見て、怒りを社会に向けている」と指摘する。 

IPSの取材では、自警団を備えている州の知事は、武装強盗の発生件数の多さに対処するために自警団が必要だと主張しているが、そうした自警団もまた、容疑者の不法な処刑を行ったとして非難されている。 

退陣するナイジェリア政府は、バカシ・ボーイズなど、こうした自警団のいくつかの禁止に乗り出し、これらの自警団が政治的目的のために利用されているとして告発していた。 

「当局が超法規的殺害の苦情について行動を起こしたのは極めてまれだった」とウグ氏はいう。「過去8年間で、政府や警察当局によって検挙された警察官はほとんどいない」。また、ウグ氏の知る限り、超法規的殺害にかかわったとして裁判所に訴えられた兵士は皆無である。 

一般市民の抗議を受けて当局が行動を起こしたことは一度だけあった。それはナイジェリアの首都アブジャのアポで2年前に警察によって6人の若者が殺害されたときのことだ。アムネスティ・インターナショナルの2006年8月22日の声明によると、「いわゆるアポの6人とは、5人の若いイボ人の商人グループと1人の女子学生で、武装強盗の疑いで逮捕され、アブジャで拘留中に処刑された。この事件では死体が警察との銃撃戦で殺された武装強盗として公開された」。 

ウグ氏によると、「当時ナイジェリアは国連の安全保障理事会の一員になろうとしていたため、この事件は特殊だった。国連の超法規的殺害に関する特別報告官がナイジェリアを訪問する予定にもなっていたため、政府は何かをする必要があり、査問を行ってみせた。だがそれ以来、数千人が殺害されながら、何もなされていない」。 

活動家は軍事政権の間も超法規的殺害の数は多かったと認める。しかし軍隊が国を支配していた頃には、殺害をめぐる報復として、町や村が兵士や警察の手で壊滅状態にされることはなかった。1999年11月にはニジェール・デルタのバイエルサ州にあるオディの町が破壊された。その2年後、兵士たちはナイジェリア中央部のベヌエ州にあるザキ・ビアムとバアセ地区に大挙して押しかけ、数百人の民間人が死亡し、活動家が検挙された。 

IPSはラゴス警察に人権組織とウグ氏の主張についてコメントを求めた。広報官は、自分自身が今の任務にある過去2年間に、ラゴス州で略式処刑が行われた事実はないと否定した。「超法規的殺害は起きていない。それがコメントである」と警察のオルボデ・オジャジュニ広報官は答えた。 

このように警察が問題を認めようとしないため、CLOは積極的に国民の意識を高めるキャンペーンに乗り出し、政府役人や国際社会に向けてアピールしているという。さらに、「拷問と超法規的殺害に関する国家的警告」というネットワークを立ち上げ、拷問や超法規的処刑などの行動を監視している。このネットワークは全国に3,000人を超える会員がいる。 

「だれかが、どこかで、『この人々は自らの罪をあがなうべきだ』という日がやってくるのを期待している」とウグ氏は語った。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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|メキシコ|堕胎は犯罪ではなくなった

【メキシコシティーIPS=ディエゴ・セバジョス】

メキシコシティー議会は4月24日、妊娠12週間までの中絶を合法化する法案を可決。同法案は、民主革命党(PRD)のマルセロ・エブラルド市長の署名を待つばかりとなった。

投票に先立ちPRDメンバーのもとには電話/電子メールによる殺人予告や脅迫が相次いだという。エブラルド市長は、新法は堕胎を奨励するものではなく、闇手術による死亡や事故を防ぐためのものと語り、性教育や避妊方法の普及に努力していくと語っている。

しかし、市民投票を要求し7万人の署名を提出していたカソリック教会および保守派は、法案可決に猛反発。堕胎反対組織Comite Pro Vidaのリーダーは、「病院/診療所に押しかけ中絶手術を阻止する」と警告している。また、メキシコのアギーレ大司教も、堕胎を補助した者は全て破門すると発表している。

民間調査会社および全国紙が行った世論調査によると、首都住民の過半数は中絶合法化を支持している。(反対は約40パーセント)

保守の国民行動党(PAN)のカルデロン政権は堕胎に反対しているが、政府スポークスマンは新法を尊重すると発言。しかし、PAN幹部は最高裁への異議申し立てを行う旨明らかにしている。

メキシコでは強姦による妊娠、母体の危険を除き中絶は犯罪であり、1-6年の懲役と定められているが、年間100万件といわれる施術にも拘らず、2000-2006年の逮捕者は僅か28人となっている。

WHOによれば、国連加盟193カ国の内188カ国が母体の健康を考慮した中絶を認めており、理由の如何に拘らず禁止しているのはチリ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、バチカンのみという。ラテンアメリカでは、中絶が認められているのはキューバとガイアナのみ。しかし、同地域では毎年約4百万人が中絶手術を受けており、5千人が死亡。30-40パーセントが重度の合併症に苦しんでいるという。首都メキシコシティーの左派市議会が可決した妊娠中絶合法化法案について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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国連は米国の資金援助をものともせず

|国連|武器貿易条約案、策定の動き本格化

【国連IPS=タリフ・ディーン】

米バージニア工科大学で発生した銃乱射事件で銃規制の強化を求める国際世論の高まりを受け、国連は小型武器の世界的拡散を規制する新たな国際条約の協議に乗り出している。

アムネスティ・インターナショナルと International Action Network on Small Arms(小型武器規制に取り組む国際ネットワーク: IANSA)と共に武器貿易条約(Arms Trade Treaty: ATT)の実現に向けた活動を続けている、オックスファム・インターナショナルのジェニファー・アブラハムソン氏は「各国政府は国際人道法および国際人権法に基づき具体的な計画案を今月末までに国連に提出することになっている」と現在の状況を述べた。

国連総会で昨年12月、加盟国中153カ国の支持を受けて採択された武器貿易条約(ATT)では、拳銃を含む小型武器の製造・販売の規制が項目として盛り込まれる予定だ。

現在、同条約に関して米国、中国、ロシア、一部のアラブ諸国は懐疑的な立場を示している。元アイルランド共和国大統領であり元国連人権問題担当高等弁務官のメアリー・ロビンソン氏は、「小型武器貿易の規制を求めるキャンペーンを通じて、反対国に対して銃規制の必要性を説いていくことが重要だ」と語った。

アブラハムソン氏は「法案策定に何らかの障害が出たとしても、(『対人地雷禁止条約』の時のように)国連の外でも活動は継続できる。ATT実現に向けた強力なコンセンサスはすでに形成されているのだ」と強調した。

武器移転を規制する条約作りの具体化に向けて一歩を踏み出そうとする国連の動きを報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|スリランカ|茶農園の労働力不足

【コロンボIPS=フェイザル・サマト】

かつてスリランカの特産品であり、輸出額第1位を誇った紅茶が、もはや国の経済問題の解決策ではなくなってきた。1960年代に始まったインド系タミール人の大量追放以来、プランテーションの労働者不足が深刻になったためである。 

記事本文1964年10月、インドとスリランカはスリランカのプランテーションで働く「インド系タミール人」60万人を段階的にインドへ送還するという協定を結んだ。37万5,000人はスリランカの市民権を得たが、その多くはスリランカ北東部の「スリランカ系タミール人」が優勢な地域に移った。 

茶農園に残った人々の中でも、茶摘みの仕事を子供が受け継ぐという習慣が失われている。さまざまなチャンスが広がり、大学に進んで医者などの職業に就く農園労働者の子供もいる。

 「自分の2人の子供を茶農園で働かせたくない。もっといい仕事に就いて幸せになってほしい」と、ハットンの丘陵地のプランテーションで働くP.ジャヤラニさんはいう。「茶畑の仕事には労働の尊厳がない」。

また別のインド出身の茶農園労働者のS.ラジェスワリさんは、自分の子供には農園から出て行って欲しいと思っている。「13年間この農園で働いてきたが、生活は良くならない。子供たちが望んでも茶農園では働かせたくない。もっといい生活をしてほしい」。 

 プランテーションの関係者の話では、祖父母や両親の跡を継ぎたがらない茶園労働者の子供が増えている。1世紀以上前の植民地時代を支配していた英国人の農園主に、南インドのタミール・ナドゥ州からスリランカへ連れてこられた人々の子孫が、代々の仕事を厭うようになった。 
 
 加えて、もはや紅茶産業は優秀な人材に魅力的なものでなくなっている。数十年前には首都コロンビアの一流の学校の優秀な卒業生が、プランテーション経営に幹部補佐として参入し、多くの使用人に囲まれて植民地時代からの邸宅で贅沢な生活を送り、英国人の残した壮大なクラブハウスを中心とした華やかな社交生活を楽しんだ。 
 
だが今日の状況は植民地時代とは全く様変わりし、労働組合の力が強まり、労働者の権利意識が高まって、ストライキがひんぱんに起きるなど、若い管理職にとって経営は容易ではなくなった。 
 
 「中間管理職の既婚男性は、以前とは異なり、プランテーションで働くことを好まない」とプランテーション省のJ.アベーウィックラマ秘書官はIPSの取材に応じて語った。 
 
 プランテーション企業2社を経営するダヤン・マダワラさんは、ライフスタイルの変化により管理職は農園の仕事に就くのを思いとどまるという。「子供の教育と多様な職業のチャンスを考えると、茶農園から遠ざかる」。関係者によると、毎年、中間管理職も茶園労働者も10%ずつ減っているのが現状である。 

茶農園で働く親と同居しながら、別の仕事先で働くものが増え、現在、茶農園で仕事をしながら生活している人口は100万人だが、実際に茶園で働いているのは40万人に過ぎない。プランテーション企業を代表する農園主協会のM.Goonatillake事務局長は、世界銀行の調査を引用して、「農園に住む一家庭当たりの茶農園労働者の数は、統計によると2.6人から1.9人に減った」という。 

「これは茶農園に住みながら、農園内で働く人の数が減っていると意味している。おそらく茶農園で無料の家に住み、子供の医療も診てもらい、親が仕事をしている間は子供の世話を任せるなど、あらゆる恩恵を享受しながら、農園の外で仕事をしている」とGoonatillake事務局長は語った。 

Goonatillake事務局長は、労働力不足に悩むプランテーションを経営する企業が、手摘みの代わりに「一心二葉」を摘みとる刈り取り機の利用などの機械化を進めるよう期待している。「すでに取り入れているところもある」。 

だが、スリランカの紅茶は特に女性労働者による手摘みを売り物にしているため、機械化は打開策にならないかもしれない。機械の利用によって客を失う恐れがある。「機械摘みにするとこれまでの客を失う可能性がある」とアベーウィックラマ秘書官はいう。 

労働力不足を克服するために一部で検討されているのは、企業がプランテーションの区画を労働者へ貸し出すという方策である。企業は労働者から葉を買い、工場を経営するだけでいい。 

商工会議所連盟支部のG.ラサイア副部長は、多くの若者が、さらに教育を受けて、この地域に次々に誕生している教育機関で、コンピュータ技能を学び、英語に堪能になりたいと望んでいるという。 

スリランカの紅茶は、中部丘陵地、内陸部、起伏のある低地で栽培され、世界で最高の品質を誇っている。ケニアなどの新たな茶の生産国との競合で、スリランカでは従来のバルク梱包から個別包装へと切り替え、リプトンやインドのタタ紅茶などの世界的なブランドとの争いも首尾よく進めている。 

茶農園経営への新規参入はなく、スリランカ最大の企業連合のジョン・キールズ・グループなどの大企業は、数年前にプランテーション事業を売却し、その資金を不動産業やレジャー産業につぎ込んでいる。 

茶農園の若者も、生活の質を高める携帯電話、衛星テレビ、三輪自動車、分割払い、バイクなどに心を奪われ、先祖たちのように茶農園で単調な重労働をして生活を送る必要性を感じていない。 

けれども農園主協会のGoonatillake事務局長は、多くの若者がよりよい仕事を求めてコロンボに出かけていくが、小さなうらぶれた道路わきの食堂や宝石店で長時間労働を強いられるはめになるという。「茶農園での生活より、ずっと大変だ」。 

被服縫製工場や毎年数千人を海外へ送り出す移住労働者産業も、茶農園の労働者を奪っている。特に女性は、中東や東南アジアでの家政婦の仕事を求めて、茶農園を去る。 

移住労働者からの送金と服飾産業は、紅茶を追い抜いて主要な外貨の稼ぎ手になっている。2006年には、スリランカは紅茶により8億ドルの収益を得た。それに比べて、服飾品の輸出は27億ドル、移住労働者からの送金は21億ドルに上った。 

興味深いことだが、こうした分野すべてにおいて女性が特別な役割を果たしていること考えると、やはり女性はスリランカの経済を動かす原動力に思える。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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|ナイジェリア|死刑囚に希望の光

【ラゴスIPS=トーイ・オロリ】

IPSが入手したナイジェリアの司法行政改革に関する大統領委員会の文書によれば、囚人4万人が裁判にかけられることもあるいは判決が下されることもないまま放置されているという。この結果、刑務所は過密状態にあり、更正や社会再統合プログラムもままならないと報告書は述べている。国連の特別報告者も昨年、囚人の事件簿のうちおよそ3.7パーセントが紛失されていると、刑事司法制度の無秩序ぶりを報告した。 

報告書はまた、マラリア、結核、インフルエンザ、肺炎など予防可能な疾病が刑務所では見られており、その原因は主に崩れ落ちそうな建物と貧しい食事にあるとしている。 

報告書をすでに大統領に提出した委員会は、ナイジェリアの司法制度、さらには死刑執行の恐怖の中で暮らすおよそ700人の死刑囚の運命を一夜にして変える大胆な提案を行った。 

15年以上が経過した死刑囚は釈放し、10年以上および病人(精神病を含む)の死刑囚は事件の見直しを行い、現時点で111人を数えるその他死刑囚は終身刑に減刑するというものである。さらに、5年以上経過した囚人で事件簿が紛失している者は釈放すべきとも提言している。 

委員会の書記長Olawale Fapohunda氏はIPSの取材に応えて、「正式なモラトリアム(死刑執行停止)が必要。死刑制度は憲法で認められているが、南アフリカで実現されたようにすべての死刑囚を終身刑に減刑できるよう憲法改正の道を探っている」と述べた。 

一方国会でも司法制度を拡充し、近代化を図るための法案が審議されている。1999年に初めて提出された法案だが、これまで国会の会期が変わるたびに一から審議がやり直されてきた。Fapohunda氏は、現会期中に採択されるよう、委員会は懸命に努力していると述べた。 

ナイジェリアの司法制度改革の動きを報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

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|アフガニスタン|タリバン、アフガン人通訳者を殺害

【カブールIPS=ダウド・カーン、サマド・ロハーニ】

(タリバンの指揮を執るムラー・ダドゥラー最高司令官のスポークスマン)シャブディン・アタル氏は8日、パジュワク・アフガン・ニュースの電話取材に応じて、アフガン人通訳者マドゥジマル・ナシュクバンディ氏が殺害されたことを明らかにした。

同氏はイタリア人記者ダニエレ・マストロジャコモ氏と共にイスラム原理主義勢力タリバンに誘拐・拘束されていた。ナシュクバンディ氏の切断遺体は、アフガニスタン南部ヘルマンド州で発見されたが、この現場は(先月19日に解放された)マストロジャコモ氏がイタリア政府関係者に引き渡された場所でもある。

マストロジャコモ氏の解放の裏では、投獄されていたタリバン兵士5人の身柄と交換することを条件とした交渉が行われていたされている。しかし今回アフガニスタン政府は、タリバン幹部の解放要求をめぐる交渉を拒否したため、ナシュクバンディ氏は殺害されたと見られている。

 ランギーン・ダドファル・スパンタ外務大臣は先月29日、アフガニスタンメディア会議(IPS-The Killid Group共催)の席で「テロリストの釈放を求めるタリバンと交渉を進めるつもりはない」と述べた。タリバンが拘束していたアフガニスタン人通訳者の殺害事件について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan