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|中東|シリアと「戯れる」イスラエル?

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【エルサレムIPS=ピーター・ヒルシュバーグ】

パレスチナとの交渉が不調に終わったイスラエルが、今度はシリアとの和平交渉を進めようとしているかにみえる。

イスラエルのインフラ大臣であるベン=エリーザー氏は「イスラエルはシリアを交渉のテーブルにつかせるためのあらゆる努力を行っている」と述べた。また、オルメルト首相も、シリア政府との直接交渉を示唆する発言をしている。

シリア側も、第3者を介してイスラエルと接触していることを認めた。シリア外務省のカンファニ報道官は、トルコを交渉のチャンネルとして利用しているとクウェートの新聞に対してコメントした。

シリアの要求は1967年の中東戦争で奪われたゴラン高原を奪還することにあり、それが和平交渉成立の条件となる。2000年にイスラエルのバラク首相とシリアのアシャラ外相が米ウェストバージニア州シェパーズタウンで会談した際には、交渉が成立しなかった。この時は、シリア側が、(ゴラン高原とイスラエル領土に挟まれた)ガリラヤ湖岸までイスラエルが撤退することを要求した。

今回のシリアの和平姿勢は、強硬なブッシュ政権に対するポーズに過ぎないとの見方もある。また、イスラエルは、最大の同盟国であるアメリカの顔色を伺って、シリアに接近することができずにいる。

他方では、イスラエルからの報復を恐れてシリア軍が予備兵の動員を初めたとの報道もある。イスラエルでいわれている一つの説明は、2月にダマスカスで起こった Imad Mughniyah の暗殺事件にヒズボラが報復するとの情報をシリア政府がつかんでおり、その報復に対してイスラエルが反撃してきた時に備えているのではないか、というものだ。Mughniyahはヒズボラのテロリストであるとイスラエルは長らく主張していた。しかし、イスラエル政府は暗殺への関与は否定している。

イスラエル・シリア間和平の見通しについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|ウガンダ|性的暴力に怯える難民キャンプの女性達

【ナイロビIPS=クワンボカ・オヤロ】

ウガンダ北部では、神の抵抗軍(LRA)と政府軍の武力闘争が続いている。ジョセフ・コニー( Joseph Kony )率いる反乱軍は、聖書の10戒に基づく政府の樹立を主張しているが、子供を兵士や慰安婦、召使に使うなどの人権侵害で悪名を馳せている。 

20年に亘るこの紛争は、2006年に最初の休戦で合意したが、最終和平合意の目途は立っていない。コーニーは、4月10日にスーダンとコンゴ民主共和国の国境地点で和平合意に署名する予定であったが、更なる話し合いを要求していると伝えられる。国際刑事裁判所(ICC)がコーニーを始めとする反乱軍リーダーを戦争犯罪者として裁こうとしていることが、和平交渉を一層難しいものにしている。LRAは武装解除の条件として、ICCの裁判中止命令を要求しているのだ。

 ジュネーブを拠とする「国内難民監視センター」によれば、同紛争により現在約123万の人々が難民キャンプや仮設居住地での暮らしを余議なくされているという。 

カンパラに本部を置く市民団体「女性のための民主主義フォーラム」のローズマリー・ニャキコンゴロ氏は、「難民キャンプの女性達は性的迫害に遭っている。夫さえ、彼女達に兵隊の所へ行き金を貰って来いという始末だ」と言う。また、国連人口基金(UNFPA)のプリモ・マドラス氏は、「8歳の女子も食糧を得るため体を売ることを余儀なくされている」と語っている。 

UNFPAの2007年調査によると、難民キャンプ内では避妊具の需要が高く、配布されるとすぐに無くなるという。しかし、これらは容易に手に入るものではなく、無料で1か月配られたかと思うと、翌月には有料になったりする。その上、戦争状況下では、“産めよ増やせよ”の感覚が浸透しており、失った家族の代わりを産まなければとのプレッシャーも強い。 

その結果、難民キャンプの女性1人当たりの出産は7.4人と全国平均の6.7人を上回る。(ウガンダ統計局)また、全国的には18歳以下の母親は全体の25パーセントであるが、キャンプ内では40パーセントを超える。言うまでもなく、エイズも蔓延しており、全国感染率の6.5パーセントに対しキャンプ内では12パーセントに達している。 

ウガンダ難民キャンプの惨状について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|国連|母親から子供へのエイズ感染防止を強化

【国連IPS=タリフ・ディーン

国連は4月3日、母体からのエイズ感染防止は可能だとする報告書を発表した。

2007年現在、15歳以下のエイズ死亡者は29万人。サハラ以南のアフリカ諸国では1,210万人の子供が両親あるいは片親をエイズで失っていると予測される。

「子供とエイズ」と題された同報告書は、1)エイズ/HIVは子供の成長に深刻な影響を与えており、貧困、途中退学、差別を余儀なくされる子供は数百万人に達する、2)HIVに感染している子供210万人の殆どは出産あるいは授乳中の感染による、3)15歳以上の感染者の内15-24歳の若者が40%を占める、と述べている。

ユニセフのアン・ヴェネマン事務局長は、「今日の子供、若者は、エイズの無い社会を知りません。毎年数千人がこの病気で死亡し、数百万の親、親族を失っています。グローバル・エイズの課題は子供を中心に据える必要があります」と語っている。

国連報告によれば、エイズ感染を防ぐ手段を持たない青少年が最もエイズに犯され易く、エイズ対策の重要な鍵になるという。

母体感染防止キャンペーンは、2005年10月に国連が「子供のための連帯、エイズに対する連帯」と称し国連合同エイズ計画(UNAIDS)、WHO、ユニセフと共同で成果の見直しをし、母親から子供への感染防止、小児科治療の提供、青少年間の感染の防止、エイズに感染した子供達の保護/支援の4つを今後の課題に設定したことに遡る。

同報告書は、資金拠出のギャップは存在するものの、政府、ドナーのリソース提供は増加しており、2004年には61億ドルであった資金が2007年には100億ドルに増加。特に母親から子供への感染防止はかなりの成果、進歩を遂げていると述べている。

今回、国連は子供への感染防止を目的に、1)コミュニティー、家族の連携強化、2)保健、教育、社会保障システムの強化、3)母親、乳幼児のための母子感染予防対策の統合、4)防止活動強化のためのデータ、評価システムの統合の4つの分野で行動を強化するよう呼びかけている。国連の新エイズ防止策について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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汚い水で毎日4,000人の子供が死亡

ヨルダンは米国のテロ容疑者引き渡しの拠点、と人権団体の報告書

【ニューヨークIPS=ウィリアム・フィッシャー】

有力メディアではアラブ中東地域の中でもっとも穏健な国と報じられているヨルダンだが、「CIAの真の代理看守として」囚人を引き受けた最初の国であり、世界でもっとも多くの「特例拘置引き渡し」の犠牲者を受入れている、とヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の新しい報告書は伝えた。 

HRWは、CIAからヨルダンに引き渡された拘留者の大半に対して「拷問および残虐・非人道的処遇を組織的に行っているようだ」と非難している。報告書は、引き渡された囚人は「赤十字の国際委員会が視察に来る時にはいつも隠蔽された」と主張している。 

さらに、CIAのヨルダンの治安部隊との長年にわたる関係が、ヨルダン人は拘留の事実を他言しないとの確信を米政府高官に与えたようだと、報告書は述べている。 

HRWのテロおよび反テロ・プログラムのディレクター、ジョアンヌ・マリナー氏はIPSの取材に応えて「ヨルダンで私たちが実証した引き渡し事件は、拷問が待っているような引き渡しは行っていないというブッシュ政権の主張が偽りであることを示すもの」と述べた。

 彼女はさらに「9・11以後、CIAは囚人をCIAの収容所に不法に拘留するだけでなく、ヨルダンにおいて十数人もの囚人の尋問・拘留・拷問を秘密裏に委託した」と述べている。 

HRWによれば、ヨルダンに引き渡された正確な人数は判明していないが、引き渡しの目的はただひとつ、テロ活動の自白を引き出すことにあった。拘留者の多くが、ヨルダンにおいて虐待的な尋問を集中的に受けた後直ちにCIAの監督下に戻され、一部は自国に、他はグアンタナモ米軍基地に移送され、一部は未だ拘留されている、と報告書は明らかにしている。 

HRWは、2001年9月以降、CIAの引き渡しの慣行は変わったと、次のように指摘している。「CIAは、容疑者を本国に送還して『公正な裁き』(但し、拷問や極めて不公正な裁きを含む)を受けさせるのではなく、虐待的尋問を手助けする第三国に引き渡し始めた」 

米国の囚人引き渡しに協力するヨルダンについて報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

新しい「緑の革命」へ向けて

【ヨハネスブルクIPS=スティーブン・リーヒ】

Rice ready for harvest. Credit: Amantha Perera/IRIN
Rice ready for harvest. Credit: Amantha Perera/IRIN

食料価格が高騰し、世界の数億人が飢えに苦しむなか、食料安全保障を守るための新しい方法が模索されている。これについて、「開発のための農業科学技術国際評価」(IAASTD)をめぐる国際会議が4月7日から12日まで南アフリカのヨハネスブルクで開かれる。 

昨年は、食料価格が猛烈な勢いで高騰した。たとえば、トウモロコシは前年比31%、大豆が87%、小麦が130%といった具合である。世界の食糧備蓄はわずか40日分しかない。他方で、2050年までの間に人口がさらに30億人拡大するとみられている。 

IAASTDには、30ヶ国の政府代表、バイオ技術産業、農薬産業、グリーンピースやオックスファムなどの国際NGOが参加している。彼らの報告は、人々を貧困から救い出すには地元の伝統的な知と定式的な知識を組み合わせることが必要だと結論づけた。

 しかし、2つの巨大バイオ技術企業であるシンジェンタ社とBASF社が、IAASTD報告草案が遺伝子組み換え作物に対して警戒的すぎるとしてIAASTDプロセスから降りることになった。 

ハーバード大学の農業政策の研究者であるロバート・パールバーグ氏は、IAASTDは1960年代の「緑の革命」をたんに失敗としてのみ描いていると批判し、バイオ技術を中心とした科学を貧しいアフリカ農業にもっと適用すべきだと主張している。 

これに対してトロント大学のハリエット・フリードマン氏は、IAASTDはたんなる「意見」ではなく明確に「科学」的知見に基づいたものであると反論する。「バイオ技術産業は農業科学に対する視野が狭すぎる」と氏は批判した。 

貧困層を救うための新しい農業のあり方について考察する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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将来に向けてのセーフガードとして農作物の多様性を急速冷凍

|スーダン|拷問を受けたとの申し立てで死刑判決に疑念

【ハルツームIPS=ブレイク・エヴァンス・プリッチャード】

2006年にスーダンの著名ジャーナリスト、ムハンマド・タハを殺害した容疑で2007年11月に有罪判決が下った10人について、弁護団が自白は拷問によって強要されたものだとし、免訴を主張。しかし3月8日、控訴が棄却された。 

日刊紙「al-Wifaq」の編集長だったタハ氏は、預言者ムハンマドの出自に疑問を呈した記事を発表したとして2005年に冒涜的な言動を非難されていた。後にこうした容疑は撤回されたものの、死刑を求める一般の声は高かった。 

拷問の申し立ては困難を伴う。人権団体で活動する医師がIPSの取材に述べたように、「刑務所も裁判所も、拷問が立証されないように、身体検査を遅らせる」さらに身体検査は担当裁判官が任命する公立病院の者が実施することが義務付けられており、人権団体や独立した病院による検査は容認されない。

 10人の主任弁護士カメル・オマール氏は、こうした拷問の申し立てを理由に逮捕され、1晩拘留された。彼はIPSの取材に、訴訟について発言を拒んでいる。 

しかし、昨年まで弁護団の一員だったムハンマド・シェリフ氏も、拷問が行われたことは明らかと、IPSの取材に対し述べている。 

スーダンの多くの人権派弁護士が、拷問はスーダンの深刻な問題と主張している。だが、依頼人に対する守秘義務からこうした主張を立証する具体的事例を明らかにできない場合が多い。ロンドンに本拠を置く「拷問に反対するスーダン組織(Sudan Organization Against Torture)」も、「スーダンの拷問者は法執行組織の一員であるため、一般に法の網を逃れる」と主張している。 

IPSの取材に応えた政府機関「人権諮問委員会」の報告者アブドゥール・モネイム・オスマン氏は、「スーダンは拷問の件数がもっとも少ない国のひとつ。人権派弁護士の主張は政治的目的のためであり、国際社会の同情を集めるためのものだ」と話し、タハ事件の公正さを主張した。 

アムネスティ・インターナショナルの最新の報告書によれば、スーダンはアフリカで死刑執行件数が最多であり、2006年には65人以上が死刑に処せられた。 

他の死刑判決についても疑念が生じるスーダンの拷問慣行について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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|オーストラリア|地位を確立したアボリジニのラジオ局

【ブリスベンIPS=カリンガ・セレヴィラトネ】

オーストラリアの大都市でアボリジニの運営による初のコミュニティラジオ放送局「ブリスベン先住民メディア協会」(Brisbane Indigenous Media Association: BIMA)がこの4月5日で開局15周年を迎えた。

通称「98.9FM」がライセンスを取得し、開局にこぎ着けた1993年当時は、ブリスベンにはアボリジニよりもキリスト教徒の人口が多いとして放送ライセンスの優先権を主張するキリスト教団体に対し、主要メディアを通じて発言権が確保されている彼らよりも、アボリジニこそ発言の場を得る権利があると放送当局を説得しなければならなかった。

 今や98.9FMは、非主流のコミュニティ放送というよりは主流ラジオにとなった。

このラジオ放送局の創設者でゼネラルマネジャーのTiga Bayles氏は、IPSの取材に応えて「私たちはたまたま黒人で、たまたまコミュニティラジオであるが、ブリスベンの主流ラジオ業界のステークホルダーだと自認している。週当たりの白人のリスナーも12万人にのぼる」と述べた。

白人にもアボリジニにも人気のあるカントリーミュージックが、この24時間放送のラジオ局の売り物である。ブリスベンのグリフィス大学のマイケル・メドーズ教授も「カントリーミュージックが先住民族と非先住民族の2つのコミュニティの架橋となっている」とし、このラジオ局の成功要因に挙げている。

98.9FMではこの他、午前6時から午後8時まで毎時間5分間のアボリジニ・コミュニティに関連するニュースを放送している。Bayles氏が会長を務める全国先住民族ニュースサービス(National Indigenous News Service?NINS)が制作するニュースは、先住民族の視点からニュースを伝えるもので、オーストラリア全国およそ150のコミュニティラジオ放送局にも衛星で配信されている。

Bayles氏はまた、週5日1時間のトーク番組を生放送し、これもNINSを通じて全国に配信。「白人リスナーに黒人の体験を伝えている」と述べている。

メドーズ教授がラジオを中心にクイーンズランド州のアボリジニ・メディアの視聴者調査を行ったところ、このトーク番組は医療従事者や公務員の白人専門職のリスナーも多く、先住民族の考え方を知ることのできる貴重な機会と評価が高かった。

「人民の声」として先住民族社会と外部社会を結ぶ重要な役割を果たすコミュニティラジオについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

IPS Japan日本の国会議員連盟で活動紹介を行う

【東京IPS=浅霧勝浩】

IPS Japanは、3月25日に東京の衆議院第一議員会館において開催された途上国貧困問題解決国会議員連盟の総会に招かれ、IPSについてのプレゼンテーションを行った。同国会議員連盟は、2007年に海部俊樹元首相、同議連名誉総裁によって設立されたもので、現在総裁は鳩山邦夫法務大臣が務めている。 

総会に先立ち、欧州議会の超党派国会議員連盟”Friedns of IPS”を代表して、パスカリーナ・ナポレターノEU議員より海部・鳩山両氏に対してレターが送られた。ナポレターノ議員はIPSを推薦したそのレターの中で、「声なき声」に光をさす同通信社を通じて、欧州連合の議員と方向性を同じくする日本の国会議員の間で新たな対話のチャンネルが開けることを切に希望している旨を伝えた。 

議連会合では、まずIPS Japanの浅霧勝浩理事長よりInter Press Serviceの設立理念、歴史、活動概要、そして同通信社特有のユニークな国際支援体制について説明がなされた。IPSは、開発問題に関わる様々な機関(国連諸機関、各国政府、開発援助機関、市民社会組織、民間財団)による支援体制が確立されている。浅霧理事長は、また、プレゼンテーションの中で、IPSグループがTICAD、洞爺湖G8サミットを通じて日本政府に対する初めてのメディア協力を実施する予定であることに言及し、5月下旬にラメシュ・ジャウラ欧州総局長が外務省の招聘でTICAD取材に来日すること、そしてIPS総裁も今年来日予定であることを述べた。 

広中和歌子同議連幹事長、元環境庁長官からは、日本の議連や市民社会組織を含む、世界各地において厳しい境遇にある人々のために活動している様々な活動が今後IPSによって報道されることを期待する旨の発言がなされた。広中幹事長は、日本の国会においても、言葉の壁とメディア報道についての議論が高まっており、日本国内の様々な社会各層において活発に活動が展開されている各種団体・個人によるイニシャティブについても積極的に国際社会に発信していく必要性が議論されている現状を披露した。その上で広中幹事長は、IPS Japanが、今後の活動を通じて、日本国内のメディアが殆ど取り上げてこなかった(開発問題に真摯に取り組んできた)人々と海外のIPS報道を通じて既に繋がっている世界の方向性を同じくする人々を「橋渡しする」役割を期待したい旨の発言があった。 

上田勇同議連事務局長からは、今年の議連の活動計画に言及し、5月の月例会合にIPS欧州総局長、そして後の会合でIPS総裁をゲストに迎え、IPSグループとのさらなる意見交換の機会を持つことによって、同議員連盟とIPSの将来に向けた連携の可能性について引き続き協議をしたい旨の対案がなされ、一同の了承を得た。 

また、4月3日には浅霧理事長らが再び同議員連盟の4月月例会議に招待された。同議連は、5月下旬のTICADに向けてアフリカ7カ国から在京大使をゲストに迎え、意見交換の機会を設けた。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

|米国|拷問の合法化(クミ・ナイドゥー)

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【IPSコラム=クミ・ナイドゥー】

恐ろしいことに、民主主義と自由を標榜するはずの政府が拷問を擁護するようになり、拷問が再び公共の場で議論されるようになったと、CIVICUS(市民参加のための世界同盟)の前事務局長クミ・ナイドゥは書いている。この記事の中で著者は、ブッシュ大統領が最近、拷問を違法とする法案に拒否権を発動し、テロリスト容疑者に対する拷問の使用を全面的に認め、米国当局者による拷問の実施を実質的に容認した、と書いている。この決定は、CIA長官マイケル・ヘイデンが、CIAは水責めの技術を被拘禁者に使用したと最近証言したことを受けてのものである。米国が公に拷問を認め、容認することは、米国が1984年に批准した拷問禁止条約の効力を弱め、政治的自由と被拘束者の善処を提唱してきた多くの米国の活動家や進歩的政治家の前向きな活動を損なうものである。このアプローチが送るメッセージは明確だ。正当化できるのであれば、拷問は問題ない(ほら、アメリカ人だってやっているじゃないか!)。

ジョージ・ブッシュ米大統領は最近、テロ容疑者に対する拷問の使用を全面的に認め、拷問を違法とする法案に拒否権を発動し、米当局者による拷問の実践を実質的に容認した。

2008年の情報認可法は、CIAを含むすべての政府機関に尋問に関する米陸軍野戦教範を適用するものであった。現在、国防総省にのみ適用されているこのマニュアルは、水責め(擬似溺死)を含む特定の拷問・虐待行為を禁止し、一連の合法的な尋問方法を認めている。

今回の決定は、CIAのマイケル・ヘイデン長官が最近、CIAが被拘束者に水責めの技術を使用したと証言したこと、グアンタナモ収容所の囚人に対する拷問の疑いが続いていること、2004年にイラクのアブグレイブ刑務所での米兵による被拘束者への虐待の衝撃写真が公表されたことを受けて行われたものである。

米国は1988年4月18日に1984年の「拷問禁止条約」を批准し、63番目締約国となった。この条約は、拷問を特に違法とし、罰を与えるため、あるいは情報を引き出すために、「肉体的であれ精神的であれ、激しい痛みや苦痛を意図的に人に与える行為」、「そうした痛みや苦痛が、公務員や公的資格で行動する他の者によって、あるいはその扇動によって、あるいは同意や黙認の下に与えられる場合」と定義している。

当時の米国大統領ロナルド・レーガンは、「この条約の批准に助言と同意を与えることによって、米国上院は、拷問という忌まわしい行為を終わらせたいという我々の願いを明確に示すだろう」と述べている。

残念ながら、現在、米国(および他の多くの条約署名国)は、テロとの戦いという文脈で拷問を正当化しているように見える。テロとの戦いが、拷問からの自由といった基本的人権を守ることを保証するのではなく、むしろそのような行為を正当化することを許しているのだ。

南アフリカでは、アパルトヘイトの時代、テロという概念は、政権による広範かつ組織的な人権侵害の道具として使われた。しかし、アパルトヘイト国家は、その残忍さゆえに、残酷な尋問方法の使用を公表すれば、国際的なスポットライトを浴びることになると考え、その使用を公に否定していたのである。

民主主義国家が、自国の民主主義の欠陥や世界的地位の深刻な低下にもかかわらず、公に拷問を認め、容認することは、拷問禁止条約の効力を弱め、政治的自由と被拘束者の良い待遇を提唱した多くの米国の活動家や進歩的政治家の前向きな活動を損なうものである。このアプローチが送るメッセージは明確だ。正当化できるのであれば、拷問は問題ない(ほら、アメリカ人だってやっているじゃないか!)。米国国務省の報告書では、多くの国で被拘禁者が虐待されていることが強調されているが、この報告書は今や空虚で不誠実なものに思えるだろう。

さらに心配なのは、グアンタナモ基地の軍事委員会裁判で、公式の残虐行為によって得られた証拠が使われていることである。これを許すことで、米政権は自国の司法制度を弱体化させ、テロ法で訴えられた多くの人々が明らかに不公正な裁判を受けることを確実にしているのだ。ヒューマン・ライツ・ファーストが、このような証拠の使用を記録した最近の報告書で指摘したように、拷問を受けた容疑者は、単に虐待を止めるため、あるいは精神的・身体的機能が損なわれたために、しばしば虚偽または誤解を招く情報を提供していることが、調査で一貫して示されている。

ハリウッド映画『レンディション』では、拷問と虚偽または誤解を招くような情報との関連性が示され、米国政府によるもう一つの疑わしい慣行、すなわち過酷な尋問技術を採用していることが知られている国に容疑者を移送する代理人による拷問システムである特別移送が強調されている。

私たちCIVICUSは、ブッシュ大統領がこの法案に拒否権を発動したことに不信と憤りを表明している全米の市民社会組織とともに、この法案に反対している。オルタナティブ・ニュースワイヤーであるコモン・ドリームスが発表したアピールは、支持者に立ち上がり、「それは私のアメリカではない」と叫ぶよう求めている。私のアメリカは拷問をしない!」と叫ぶようにと。国際的な組織として、私たちはこのアピールに参加し、米国は自国民だけでなく、米国の政策に影響され、長い間自らの残忍な行為の正当性を求めてきた政府を持つ国々の人々も失望させていることを表明する。

民主主義の真の試練は、すべてが順調なときに人権侵害を控えることではなく、むしろ内外の脅威に直面したときにその価値を維持することである。テロとの闘いの名の下に、民主主義のある種の基本的な信条を損なうことは、民主主義の理念や人権の実践を損ない、ひいてはテロとの闘いを弱体化させるだけである。(原文へ

翻訳=IPS Japan

|中央アジア|イスラムを通じた近代化

【ワシントンIPS=ジョン・フェファー】

中央アジアの中心にあるフェルガナ盆地は、不安定性、武力紛争、イスラム原理主義でよく知られている。この人口の密集した山岳地域で国境を接している3共和国ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスは、ソ連解体後、近代国家構築に苦心してきた。それはまさに激動のプロセスである。 

タジキスタンでは1990年代、政治勢力間の紛争から内戦が勃発。キルギスでは2005年の「チューリップ革命」で独裁的指導者が失脚。2005年後半には、ウズベキスタンのアンディジャン市で反政府暴動が発生、政府は数百人を殺害してデモを制圧した。その一方で、3国政府はいずれも、ヒズブ・タフリール(解放党)やウズベキスタン・イスラム運動などのイスラム原理主義過激派に対し行動を起こしてきた。最近では、ウズベキスタンのコカンドにおいて新たなグループ「ブラック・ターバン」の組織化が報道されている。

 しかしこうしたフェルガナ盆地のイスラム原理主義に傾倒した暴力的なイメージは不正確だと、ジョン・ホプキンス大学中央アジア・コーカサス研究所所長のS・フレデリック・スター氏は言う。 

「未解決問題山積の地域と見なし、破局が近いように言う傾向がある。それは事実とは異なる」と、スター氏は3月初旬ワシントンにおいて笹川平和財団との共催で開いたフェルガナ盆地に関するセミナーで述べた。「地域は一触即発の状態にはない。3区域いずれにおいても紛争は起きている。1991年以前の紛争は民族紛争の傾向にあった。しかし驚くべきことに、国境に変化はない。独立がもたらしたあらゆる混乱においても、民族間の衝突は比較的限られたものにとどまっている」

3つの要素が緩和効果を発揮していると、スター氏は次のように論じている。「移民労働者が安全弁となっている。土壌は肥沃で、灌漑が十分であれば、農地として最適だ。ものを買うお金がないとしても、人民は食べるに困らない。そして人々はお互いを良く知っている。何百、何千前年も共に暮らしてきたのだから」 

タジキスタン有数の学者であるPulat Shozimov氏も同様に、新たな観点で地域をとらえる。Shozimov氏は、中央アジア・コーカサス研究所の支援の下3カ国から24人の学者の協力を得て8つの異なる社会経済問題について論文を作成する新たな学際研究プロジェクトをまとめる編集者3人のうちの1人である。Shozimov氏は、この研究プロジェクトについて「フェルアナ盆地の新たな可能性を発見するため重要な問題や課題について自由に議論する場としてモデルとなるもの」と述べている。 

研究プロジェクトは「この極めて重要な地域に関してこの半世紀に実施された中であらゆる分野にわたるもっとも包括的な研究となるだろう」とスター氏も言う。「3カ国3人の編集者が成し遂げたことは、地域全域に及ぶ真の協力を生み出すための建設的な環境づくりである」 

 フェルアナ盆地はイスラム教徒が圧倒的に多く、大半がスンニ派である。ソ連崩壊後、地域の共通の要素として挙げられるのは、宗教的な関心が急速に高まっていることである。 

ジョージ・メイソン大学の政治学教授Eric McGlintchey氏も、「明らかにイスラム教の復興が見られる。金曜日の祈祷に行く人の数や人々の服装を見るだけでそれは明らかだ。50年以上実践が禁じられていた宗教上の教えを今は公然と守ることができるようになった。好奇心が起きるのも当然だ」と言う。 

外部のアナリストの中には、フェルアナ盆地における宗教的急進主義の脅威に注目する者もいる。しかしMcGlintchey氏は、イスラム過激派はそれほど受入れられていないと考える。「ヒズブ・タフリールはキルギスではかなり公然と活動しているが、しかしウズベキスタンではそうでもない。彼らは文献や論点は知っているが、しかしイスラム教やそれより広範なことについて少しでも問いつめると、『ウンマ』(イスラム共同体)に関する物事はすぐにも崩れてくる。大半の人は、自らの信仰をヒズブ・タフリールで無駄にする気はない。彼らの地位は誇張されている」と報告している。 

重要ながらもあまり分析されていない点として、イスラム教と経済の近代化の関係性がある。Pulat Shozimov氏によれば、タジキスタン・イスラム復興党(IPRT)が新興中流階級への働きかけを強めている。Shozimov氏は、「現時点で彼らに明確な経済プログラムはないが、しかし独自の経済ネットワークを構築しようとしている」と述べ、IPRTは、イスラム教の価値観と民主的な機構そして世界に連結した近代的な経済との融合を図ろうと、その手本としてトルコの与党に関心を向けていると指摘する。 

McGlintchey氏も同じ意見だ。「トルコを民主的な方向に動かすのにイスラム教政党が政権を握ることが必要だった。タジキスタンでも同様の原動力を見ることができよう」と述べている。 

ウズベキスタンについても、McGlintchey氏は同じ原動力を指摘する。「イスラムの社会資本と経済成長を結びつける好循環が見られる」とし、次のように主張する。「アンディジャンでは、信頼しあい、お互いに誠実だと認めあうビジネスマンが力を合わせている。腐敗が横行し、資金を無理矢理引き出し、信頼を寄せ難い国家当局とは対照的である。こうしたビジネスマンらはグループ内に資本をプールし、さまざまなビジネスを育ててきた。これらの有能なイスラム教徒ビジネスマンを見て、その成功を目の当りにしている人々は『彼らの工場で働きたい、宗教について学びたい』と話すようになっている」 

このように、フェルアナ盆地は、イスラム過激派の拠点とも言われ、散発的に暴力が発生して不安定な地域というイメージの脱却を図っている。イスラム教近代化の新たな経済的・政治的モデルとともに、新たな協力のイニシアティブも生まれている。3国のいささか冷ややかな公的関係がこうした新しいダイナミクスの推進に役立つことはほとんどないだろうが、しかしそれでも下からのチャレンジを受けている。 

スター氏は「3国間には明白な緊張があるものの、3国の国民はお互いを知り尽くしているし、何世紀もの間親密に交流してきた。緊張関係にあっても、彼らは、現実の関係をどのように維持するかは十分承知している」と指摘する。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩 

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