ホーム ブログ ページ 293

ソマリアから脱出するジャーナリスト

【ナイロビIPS=ジョイス・ムラマ】

 マーティン・アドラー(2006年)、ケイト・ペイトン(2005年)、ドゥニヤ・ムヒャディン・ヌール(2005年)、アブドゥラヒ・マドキール(2003年)、アフメド・カフィ・アワレ(2000年)、マルセロ・パルミサーノ(1995年)、ミラン・クロヴァチン(1994年)、イラリア・アルピ(1994年)、ピエール・アンソー(1994年)、ジャン-クロード・ジュメル(1993年)、ハンシ・クラウス(1993年)、ホセア・マイナ(1993年)、ダン・エルドン(1993年)、アンソニー・マカリア(1993年)。

 これら14人の名前は、1991年にソマリアの独裁者ムハマド・シアド・バレが失脚して以来殺害されたジャーナリストのものである。そして、ソマリアが大規模紛争再開の瀬戸際に立っている今、このリストはさらに長くなる可能性がある。暫定政権と、「イスラム法廷連合」(UIC)の下に集まっているイスラム系武装集団との間の協議は失敗に終わっている。

 記者にとっては危険な国内情勢が続いているため、「テロとの闘い」において果たす役割に関して、そしてその他の東アフリカ諸国を不安定化する可能性の点に関してメディアの主要な関心の的になってよいはずの場所で起こっている出来事が報道されなくなってしまう。

 英紙『ガーディアン』のザン・ライス記者に対して、ソマリアにすぐ戻る気はあるかと尋ねたところ、「まさか、まさか、まさか、今はありません。何年か後だったらわかりませんが、今日明日の話ではありませんよ」との答えが返ってきた。

 ライス氏は、スウェーデンのフリー記者、マーティン・アドラー氏の殺害を目撃している。彼は、2006年6月23日、ソマリアの首都モガディシュで法廷連合のデモを取材中、何者かに撃たれた。

 ライス氏は語る。「現地で動くことはきわめて危険です。一般人と接触する際には常に危険が伴います。本当に危険なんです。誰からも殺される可能性があります。誰がそうするかもわからないし、どこから弾が飛んでくるかもわかりません」。

 しかし、ソマリアから脱出する恩恵に浴することのできない地元記者にとっては、事態はさらに悪い。

 モガディシュのある記者は、IPSに対してこう語った。「ソマリアのジャーナリストの権利は常に侵害されています。毎年、ジャーナリストは逮捕され、収監され、拷問され、ひどいときは殺害されるのです」。結果として、「紛争のせいで、あえて重要な報道をしようという有名なジャーナリストはほとんどいなくなっています。(そして)彼らの報道に不満を持つ人たちの怒りを買うことになるのです」。

 このモガディシュの記者によれば、地元の記者は、たとえ国際紙のために働いていたとしてもターゲットにされることがあるという。そのため彼らは記事に自分の名前を載せることを避け、特別記事のための情報集めをしながらも、自分の素性を明らかにしようとはしない。

 「ソマリアジャーナリスト全国連合」(NUSOJ)も、『報道の自由報告2005』において、同じような事態を描いている。それによれば、「非常に幅広い印刷メディア、電子メディアの双方が存在しているが…ソマリアのメディアのすべてが、存続のために非常に苦労している」。「ソマリアジャーナリスト全国連合は、今年になってようやく、殺害された記者、収監されたジャーナリスト、業務停止命令を受けたメディア組織、検閲を受けたメディアの施設、ジャーナリストに対する継続的な脅迫に関する15のケースについて監視・調査・報道を行った」。

 NUSOJは、ソマリアには、2005年の報告の時点で、17のラジオ局、60の新聞に加え、ソマリアに関するニュースを提供する200以上のウェブサイトがあるとしていた。それらのサイトは主に海外で運営されている。

 人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によれば、多くのケースにおいて、ジャーナリストの殺害や人権侵害に関与した者は刑罰を免れている。しかし、一部、犯人が責任を問われたケースもあるという。

 アムネスティは、7月中旬に行われたNUSOJの第1回総会に寄せたメッセージで、情報を収集しメディアの自由の侵害を報告する仕組みを立ち上げることを勧告した。

 「このプロセスは、報道の自由を求める国際的な組織からも支援を受けており、いくつかのケースにおいて間違いなく成功を収めている。多くの事例において、当局は異議申し立てに耳を貸しそれに関して議論を拒まないようになった。また、報告された人権侵害は調査され、聞くところによれば、事態の改善を目指す措置も取られた」とアムネスティは述べている。

 にもかかわらず、7月22日にアブドゥラヒ・ユスフ大統領の暫定政権とイスラム系武装集団が初めて衝突し、ソマリアの報道の自由に関する懸念が高まってきた。

 これは、7月20日にユスフ政権支援のためバイドアにエチオピア軍が到着した直後の出来事である。暫定政権は勢力が弱体で、モガディシュに留まり続けることが困難であると判断し、ソマリア南中部のバイドアに陣取っている。

 エチオピアはまた、南西部のワージドにも兵を送り、現地の空港を支配下に収めたとされる。エチオピアとソマリアの関係は長い間波乱含みであった。両国は、1970年代、オガデン地方の支配をめぐって交戦した。エチオピア政府は、イスラム系武装集団が同地方の領有権を主張するのではないかと恐れている。

 今週末にはスーダンの首都ハルツームでソマリア政府と法廷連合の交渉が再開される予定だった。しかし、エチオピア軍が展開してきたために交渉再開はなくなった。イスラム系武装集団は現在、エチオピアに対するジハード(聖戦)を始めると脅しをかけている。

 交渉は、6月に、米国からの支援を受けていると広く考えられている軍閥からイスラム系武装集団がモガディシュを奪った後に始められていた。米国は、法廷連合がアルカイダとつながっている可能性があるとの懸念を示している。

 しかし、法廷連合側はこうしたつながりを否定し、単にソマリアの法と秩序の回復を願っているだけだと主張する。ソマリアは、バレ大統領が失脚して以来、対立する軍閥の指導者のなすがままにされてきた。政府は10年以上存在せず、ユスフ暫定政権も2004年になってようやくケニアで設立されたばかりである。

 法廷連合は、約5ヶ月にわたる戦闘の後にモガディシュを落としただけではなく、ソマリア南部のほとんどを制圧し、バイドアを伺う勢いであるという。

 国連によれば、過去数ヶ月で数百人が亡くなり、1万7,000人が家を追われたという。

翻訳=IPS Japan

「世界と議会」2006年8・9月号

特集:憲法改正と日本のゆくえ

■講演
『憲法改正のゆくえ―自民党新憲法草案について』
舛添要一(参議院議員)

■「咢堂塾21」特別シンポジウム
『今、憲法を問う-憲法改正と日本のゆくえ』
枝野幸男(民主党憲法調査会長)
葉梨康弘(自由民主党新憲法起草委員)
福島瑞穂(社会民主党党首)

世界と議会
1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。

|アフガニスタン|タリバンの復権

【ロンドンIPS=サンジャイ・スリ】

「タリバンが再びアフガニスタン南部の支配権を握り、日ごとに勢力を拡大している」と、カブール、

ロンドン、パリ、ブリュッセルに事務所を持つ国際的なシンクタンク、サンリス協議会の報告書が伝えた。このアフガニスタン復興に関する報告書は、治安の悪化するヘルマンド、カンダハル、ヘラート、ナンガハルの各州にわたる広範囲の現地調査に基づいている。

報告書によると「飢餓や貧困といった人道的危機がアフガニスタン南部を襲い、タリバンが救いの手を差し伸べたために、人々はタリバン支持に回っている」。サンリス協議会のE.レイナート事務局長は、「麻薬撲滅運動が農民の生計の糧を奪い、それに乗じてタリバンが困窮した人々を支援している」とIPSの取材に応じて語った。


 
「米国主導の国家再建は、効果の上がらない政策と支援や開発計画の資金不足から失敗した」と報告書は指摘する。「その結果、再びテロの温床を創出してしまう可能性がある」
 
 アフガニスタンの国際部隊は国際的テロ集団を封じ込めるために5年もこの地に駐留してきた。だがレイナート事務局長は、「ネオ・タリバンは地元のアフガニスタン人であり、外国の要素は確認されていないために、今のところテロ集団と決め付けられない」という。

報告書は「国際社会からの援助不足でアフガニスタン政府も国連世界食糧計画もアフガニスタンの飢餓を解決できないでいる」とする。「米国主導の国際社会は援助資金を軍事作戦や治安維持に費やしている」

2001年の同時多発テロから5年が過ぎたが、アフガニスタンはいまだに最貧国のままでいる。この重大な事実を国際社会が見過ごしたために、人々はタリバンに目を向け始めた。粗末な難民キャンプには連合軍の作戦で家を破壊された人々も多い。

報告書は米国と国際社会はただちにアフガニスタンへの取り組みを見直すべきだとする。「タリバンの復活は人々の困窮が根本的な原因なのだから、緊急の貧困救済が最優先課題だ」とレイナート事務局長はいう。タリバンの復権が懸念されるアフガニスタン情勢について報告する。(原文へ)

翻訳/サマリー=IPS Japan 
 
関連記事:
NATOはタリバンを制圧できるか
タリバンの命令で閉鎖される学校

|アルゼンチン|司法がコンドルを捕らえる

【ブエノスアイレスIPS=マルセラ・バレンテ】

アルゼンチン法廷において、ついにコンドル作戦の罪を問う口頭審理が始まろうとしている。コンドル作戦は1970年代から1980年代にアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、パラグアイ、ウルグアイの軍事政権が反体制派と左派勢力の一掃を目的に展開したもの。 

1976年にアルゼンチンでウルグアイの議員2人と市民4人、ボリビアのトーレス元大統領の死体が見つかった。ワシントンでチリのアウグスト・ピノチェト大統領に追われた元外相が暗殺され、ブラジルではウルグアイの反体制派と家族が拉致され軍事政権に引き渡された。

 アルゼンチンにおいて1985年に軍政時代に起こった人権侵害で有罪判決が出されたが、1989年と1990年に恩赦となった経緯がある 

IPSの取材に応じたアルベルト・ペドロンチーニ弁護士は、「コンドル作戦はInter-American Convention on Forced Disappearance of Persons(拉致に関する米州協定)に基づいて責任を問うことができる」として各国1人の原告を立て、多国籍弁護士団を結成。継続中の犯罪に恩赦は適用されないと主張。さらに、各国首長が結託して行った犯罪として共謀罪の罪も訴えた。 

アルゼンチン控訴審はこれらの主張を認め、アルゼンチンの司法がコンドル作戦の捜査に及ぶことを確認した。ビデラ元大統領、ビデラ政権の内相、陸軍司令官、トゥクマン州知事などの政府、軍要人が告訴、予防拘禁された。さらにチリのピノチェット元大統領をはじめチリ、パラグアイ、ウルグアイの軍事政府要人、秘密警察幹部などの国際手配、告訴などが実行された。 

裁判では目撃者の証言に加えて、「非常に重要な証拠」として幾つかの文書が提出される予定。その1つは、ブエノスアイレスの米国大使館に駐在のFBI捜査官が、アルゼンチンとチリを首謀国としてコンドル作戦の詳細を本国に報告した米国務省の機密文書。 

モンテネグロ裁判官の法廷にはこれらの証拠が提出されるが、軍弁護士から相当の抗議が予想される。ペドロンチーニ弁護士は人々の関心が薄れる前に、ぜひとも口頭尋問を行いたいとする。 

南米6ヶ国の軍事政権による犯罪、コンドル作戦の罪を問う活動について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

関連記事: 
|チリ|今こそ過去の人権犯罪の真相究明に乗り出す時

|ドミニカ共和国|兵士が街路を占拠

【サント・ドミンゴIPS=ディオゲネス・ピナ】

ドミニカ共和国政府は7月24日、強力な犯罪取締りに乗り出し、およそ15,000人の警官と兵士が夜間、主要都市の街頭パトロールに当たった。この背景には、殺人事件を含む犯罪率の急増がある。公式統計によれば、殺人事件の件数は2001年の1,086件から2005年には2,382年に増加、その間の殺人事件総件数は9,300件にのぼっている。

政府は、日曜日から木曜日までは午前0時に、金曜日と土曜日は午前2時にアルコールの販売を停止する法令を発布。年間400万人近くもの観光客が訪れ、観光が主要収入源であるドミニカのスーパーマーケット、バー、レストランに大打撃を与えている。

全国ホテル・レストラン協会は、売上が25~40%落ち込んだとし、制限規定の緩和を政府に求める公開書簡を発表した。

 
政府は、パトロール要員を増強するため、従来は警察が担当していた公共機関の警備を陸海空軍部隊に任せ、さらには公人の警護も警察ではなく軍の職務とすることを発表した。

重装備の兵士が街頭を警備するこの防犯策は直ちに効果を見せた。最初の1カ月で逮捕者は10,303人にのぼり、取り調べにあった車両は29,525台、1,179台が適切な書類がないとの理由で押収された。

サント・ドミンゴ技術大学の社会学部長エルサ・ロペス氏は、IPSの取材に応え「戦争でもないのに、街には兵士が溢れている。住民は外出もできない」、まるで「非常事態」にあるようだと述べた。

フェルナンデス大統領は、取締りの効果を評価し、人命第一を理由に取締り強化の意向を強調しているが、専門家からはこうした「軍事化」は犯罪防止の解決策にはならないとの批判が上がっている。保健・教育・住宅サービスの不足と高い失業率が犯罪の要因と指摘する専門家らは、政府がこうした基本サービスへの予算を増大し、地域社会自体が自らの治安に関わることが有効と訴えている。

犯罪の取締りに警察と軍の連携を進めるドミニカ政府の施策について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan


関連記事:
|カリブ海地域|奴隷制の歴史を記憶するプロジェクト

石油収入のほんの一部を最貧国援助にと国連が提案

【国連IPS=タリフ・ディーン

国連のA・チョードリー事務次長(LDCs担当)は、国連経済社会理事会の会合で、産油国に対し、今後10年間石油収入から1バレル当たり10セントを後発開発途上国(LDCs)のインフラ整備の援助に充当する案を正式に提案した。但しこれまでのところ確約は得られていない。

LDCsは、世界の最貧国として国連に分類されているアフリカ34カ国を含む50カ国である。

事務次長の事務所によれば、アルジェリア、カナダ、ベネズエラ、中国、ノルウェー、メキシコ、インドネシア、米国を含む世界産油国上位17カ国が1バレル当たり10セントをLDCs 向けに拠出すると、その額は1月当たり、石油総収入1億7,660万ドルに対し1,760万ドルに達するという。

これには前例があると、事務次長はIPSの取材に対し説明した。1980年代半ば、石油輸出国機構(OPEC)が「一次産品共通基金」(CFC)へのすべてのLDCsの拠出分を肩代わりする決定を下し、OPEC基金は現在もそれを継続している。

ネパールに本拠を置く「LDCウォッチ」のアルン・カルキ会長は、IPSの取材に対し、「開発支援の他の特定財源に影響を及ぼすことなく特別資金を調達できる」とし国連事務次長の提案を強く支持した。

ニューヨーク市立大学の客員教授で「トランスアフリカ・フォーラム」の前会長ビル・フレッチャー氏は、「1970年代の石油危機によって南側世界の非産油国の多くは大きな打撃を受け、その影響は長年続いた。従って今日、産油国に対し石油収入の一定の割合を南側世界の開発援助に充てるよう要請することは正しい」とIPSの取材に応えて述べた。

「拡大する格差を是正する試み」として評価する一方で「過去の経験から慎重さが必要」と警告したのは、オークランド研究所のアヌラダ・ミッタル氏である。1970年代に国連総会において世界の最富裕国22カ国に対し政 
府開発援助(ODA)を対GNP比0.7%とするよう要請があったが、その目標を達成したのはノルウェー、デンマーク、スウェーデン、オランダ、ルクセンブルクの6カ国だけであったと指摘した。

産油国に対しLDC支援を呼びかけた国連の提案を巡る議論を報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

汚い水取引で貧しい人々が犠牲に

【ストックホルムIPS=タリフ・ディーン】

水の供給/管理に関わる腐敗の拡大を重く見て、6つの国際NGOが共同で新たな国際腐敗監視組織 Water Integrity Network(WIN)を設立した。

ストックホルム国際水研究所、Transparency International、スウェーデン・ウォーターハウス、国際水衛生センター、水保健プログラム、Africa and AquaFedの6組織は8月22日、スウェーデンの首都ストックホルムで開催された「国際水週間」においてWIN設立を発表。水資源セクターにおけるガバナンスと透明性の向上を図りモラルに反する行動を徹底的に追求していくと誓った。

ベルリンを拠とするTransparency Internationalのデイビッド・ナッスバウム代表は、記者団に対し、腐敗には小型腐敗と大型腐敗の2種類があり、どちらも供給のメカニスムを破壊していると指摘。


 
アフリカ水衛生プログラムが同日発表したレポートによると、小型腐敗には膨大な数の公務員の職権乱用による小額賄賂受け取り、大型腐敗には少数の政府高官による公共セクター資金の横領があり、これらの不正行為により予算/収入の盗み・横領、超過支払いやクォリティー規制の見逃し、支払いシステムの不正管理といった資源乱用を生み出しているという。また、不正は、資金提供国の代表、私企業、多国籍企業、全国/地方の建設企業、コンサルティング会社、仲介者、消費者、中央/地方政治家、公共事業担当官、あらゆるレベルの公務員を巻き込んでいるという。

また、スウェーデンのウォーター・ハウスは、腐敗により悪化している水危機の最大の犠牲者は貧困層と環境それ自体という。しかし、取締りは容易ではなく、法及び財務の改革、公共サービス提供システムの改正、民間セクターの取り締まり、市民の問題認識向上、人材育成が必要としている。

水セクターの腐敗取締りを目的に設立されたWater Integrity Networkについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

IPS関連ヘッドラインサマリー:
|カンボジア|公営水道が人々を救う

|アフガニスタン|NATOはタリバンを制圧できるか

【カブールIPS=ダド・ノラニ】

2週間前、NATOは暴動が激化するアフガニスタン南部の統制を米国から引継ぎ、指揮官は「必要があれば容赦なく攻撃する」と宣言した。だが暴徒鎮圧に本当に必要なものは何か。

今週、トラックで移動中の12人のアフガニスタン人警察官が、連合軍の誤爆により死亡した。連合軍はトラックがタリバン所有のものだったと主張している。事件のあったパクティカ州の知事はカルザイ大統領に報告し、大統領は即座に亡くなった警察官への十分な補償と詳細な調査を命じた。

3年前にアフガニスタンに配備されたNATOの国際治安支援部隊(ISAF)が徐々に存在感を拡大している中、もっとも危険な地域と見られているアフガニスタン南部では、昨秋からタリバンが活発な動きを示している。

 NATOは治安維持、中央政府の権威拡大、復興プロセスの加速を任務とし、アフガニスタン政府および国際社会から活動への助言を受け、定期的に戦略の評価を行なうとしている。米軍主導の部隊は政府および国際社会との協調という点が問題とされていた。

NATOの高官は対テロ軍事作戦には従事しないと言明したが、アフガニスタンの人々が知りたいのは、NATOが地域社会や外国からの支援を受けている反乱勢力との戦いに勝てるのかということだ。さらに麻薬マフィア、危険な近隣諸国、政府の腐敗などの問題もある。南部における最大の問題は、反乱勢力への外国からの支援だろう。

反乱勢力を追いつめるだけではなく、パキスタンとの国境から侵入してくるテロの支援を食い止めなければならないのは周知である。より強固な行動が国際社会に求められている。

また国内および国際部隊に対する国民の信頼を高めることも必要である。人々は反乱勢力の抑圧と極度の貧困から逃れたいと切実に願っている。かつてのソビエトと同じように国際部隊は大都市に基地をおいて活動し、アフガニスタン南部を意図的に回避してきた。南部に展開したNATO軍は変化をもたらすことができるだろうか。

タリバンの活動が活発化しているアフガニスタン南部へのNATO軍の展開について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 

『慎重な楽観主義(cautious optimism)』へ移行するHIV/AIDS問題

【カナダ、ブルックリンIPS=スティーブン・リーヒ
 
2年に一度開催されている国際エイズ会議が今月13日、カナダのトロントで開催される。UNAIDS(国連合同エイズ計画)によれば、エイズに対する効果的治療や予防、エイズ対策資金の拡大、さらにHIV感染率の安定化により、最近ではエイズ撲滅に向け大きく前進しているとの見方がある。今回の6日間にわたる最大規模の国際会議は、『慎重ながらも明るい見通し』が期待できるものになるだろう。

 現在、世界のHIV感染者の累計は約4000万人に達しているという。そのうちアフリカは約2530万人を占めている。国連の最新の統計によると1981年以降、世界中で約2500万人がエイズで死亡していると見られている。

しかし一方で、エイズウイルスに関する多くの知識や効果的な治療法の研究開発は順調に進められている。Austrian AIDS Societyの代表であり医師のB.シュミート氏は「重要なのはこれら大量の知識や経験を今後、AIDS治療や予防に広く役立てる方法を見出すことである。今年の会議のテーマ『Time to Deliver』は、エイズの適切な予防や治療法を全世界に広げることがいかに差し迫った問題であるかを世界に強くアピールしてくれるだろう」とIPSの取材に応じて語った。

会議では研究者たちによるHIV-1型の新しい研究成果の報告や、感染に抑制的な影響を及ぼす要因の調査が実施される予定である。また、エイズウイルスに有効なワクチンを製造するため(現在進行中である)取り組みについても発表されることになっている。

専門家の間には、HIV/AIDSとの闘いも終盤に入ったと楽観視している者もいるが、東ヨーロッパ、インド北部、一部の中国では未だに感染率は上昇傾向にある。AIDS感染率が最も高いアフリカでは、効果的な対策により一部の地域では感染率が低下したものの、特に極度の貧困に喘ぐ地域では医療関係者の不足や運搬・インフラの不備が原因で適切な治療や診断さえできない状況である。さらに、ウイルス感染を加速させる原因にもなりかねない食料不足や水資源の確保など問題は山積している。

(HIV/AIDS撲滅へ向けた先行きの展望が開けつつあると判断する一方で、今後も慎重な目で様々な運動をフォローしていくとする)『慎重な楽観主義(cautious optimism)』の時期に入ったとされるエイズ問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

関連記事:

二重苦に苦しむ子どもたちの暗い将来

|イスラエル|狙いは米国の対イラン戦争の地ならしか

0

【ワシントンIPS=ガレス・ポーター

国際戦略問題研究所顧問でイスラエルの国防政策の専門家エドワード・ルトワック氏は、イスラエルの

ヒズボラ攻撃は、対イラン攻撃に関する米政権の考えを転換させるためのものだったと指摘している。

同氏によれば、過去においてブッシュ政権の高官らは、イランの核施設空爆のオプションについて、ヒズボラによるイスラエル北部へのロケット弾の報復攻撃で数千に及ぶ犠牲者が出ると推定し、非公式に却下してきた。イスラエルの高官は、ヒズボラのロケット兵器を破壊し、イランからの再供給を阻むための対レバノン攻撃は対イラン攻撃という軍事オプションに対するそうした反対を排除する手段と考えている、とルトワック氏は言う。

 イランがヒズボラに供給してきたミサイルは、イスラエルの対イラン攻撃の抑止を明確に意図するものである、というのがイランとヒズボラに関する専門家らの長年にわたる見方である。イスラエルのジャフィ戦略研究所のイランの専門家エフライム・カム氏は、イスラエル北部に対するヒズボラの脅威は、米国からの攻撃に対するイランの抑止力における重要な要素と2004年12月に書いている。
 
 イスラエルは何カ月もかけて対ヒズボラ攻撃の計画を練ってきた。5月23日のブッシュ大統領との会談におけるオルメルト首相の目的は、イランのウラン濃縮計画の阻止に必要な場合には武力行使を行なうことに同意を迫ることであったのは明らかである。

オルメルト首相は、イランの核施設空爆のリスクを大幅に削減する策としてヒズボラのミサイル能力を低下させる計画を議論し、ブッシュ大統領が了解したものと思われる。米国では報道されなかったが、首相が会談後イスラエルのメディアに言った「とても、とても、とても満足」とのコメントもこれでうなずける。

さらに、イスラエルに停戦を求める動きに対しブッシュ大統領が同意していないことも、大統領がイスラエル政府にいかなる名目を使っても攻撃を始めるよう促したことを示唆している。イスラエルの計画は、チェイニー副大統領とラムズフェルド国防長官にイランの核施設攻撃を主張する新たな手立てを与えたかもしれない。

イスラエルのヒズボラ攻撃について歴史家で安全保障政策のアナリストであるガレス・ポーターの論説を紹介する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

関連記事:

米国に直接対話のシグナルを送るイラン