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|タイ|鳥インフルエンザに安価なジェネリック薬製造

【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール】
 
タイはジェネリック薬品を製造し、エイズ患者の延命に成功している。今度はジェネリック薬品でもう1つの致死的ウイルス、鳥インフルエンザから市民を守る準備が整った。

タイの科学者はタミフルのジェネリック薬製造に成功したと発表した。現在のところタミフルは、鳥インフルエンザの大流行を阻止することのできる唯一の薬品であり、発表のタイミングは絶妙だった。同国では7ヵ月の小康状態の後、伝染力の強いH5N1型ウイルスが家禽に発生して対応を迫られているところに、より安価な治療の可能性がもたらされたからだ。

 タイ科学技術開発局のシリレルク・ソンシビライ(Dr. Sirirerk Songsivilai)副局長はIPSの取材に応じ、「タミフル錠を製造するのは商業目的ではなく、社会の安全保障のためである。国内で製造できるようになったので、在庫を増やしたい」と語った。

政府医薬品局(Government Pharmaceutical Organisation:GPO)のモンコル・ジワサンチカーン(Dr. Mongkol Jiwasantikarn)局長は4日『ザ・ネーション(The Nation)』紙で「タミフルが不足すれば鳥インフルエンザの大流行は避けられず、今回の成功はタイを救うことになろう」と語ったと報じられた。

政府機関であるGPOは、率先して同国の患者に安価なジェネリック医薬品を提供してきた。2002年にはジェネリック抗エイズ薬の提供を開始し、1ヶ月に必要な投薬量の薬価を30米ドルに抑制する目覚しい業績を上げている。当時、先進国の医薬品業界大手が製造する抗エイズ薬は1ヶ月で450ドルもしていた。

3日の記者会見で今回の成功が発表され、GPOも国内生産薬が薬価を大幅に抑制すると確認した。ジェネリック薬は公立病院で処方し、1カプセル70バーツ(1.85ドル)とする予定。これはブランド版タミフルの1カプセル120バーツ(3.15ドル)と比較するとほぼ半額である。

タイの2人の科学者がジェネリック版タミフル抗ウイルス薬の製造開発に要した6ヶ月の間に、スイス医薬品大手ロシュが製造する特許版タミフルの供給不足が世界中で問題となった。同社は、タミフル特許権の放棄を迫られた。ロシュに批判的な人々の中には米上院有力者もいる。鳥インフルエンザが引き金となって大流行が起きることも予想される状況で、タミフルの特許権保護を図ることは、多国籍企業である同社が人の命より利益を優先する姿勢を露骨に示すものとみなされた。
 
 この致死的ウイルスの発生地である東南アジアの開発途上国では、タミフル供給不足の不安はいっそう高まった。西側の裕福な国がロシュの提供する限られたブランド版タミフルを買占めたからである。

現在、タイは100万錠のタミフルを備蓄している。このなかにはオリジナル版と、インドから輸入した成分で製造したジェネリック版がある。GPOは、初回製造期間でタイ版タミフル100万錠を製造し、備蓄に加えることを望んでいる。

WHO(世界保健機構)東南アジア局の広報官ハーサラン・パンデイ(Harsaran Pandey)氏は電話取材に応じ、「各国がジェネリック医薬品を製造することには何の問題もない。危機の第1段階に対処する薬品を入手することになるのだから。しかし、どの国も、アメリカのように裕福な国でさえ、全国民に行渡る量の備蓄をしようとしていない」とニューデリーから応えた。

WHOは、発生地において患者に適切な投薬を行うなど様々な予防策を講じない限り、鳥インフルエンザは世界的大流行を引き起こすと警告を発している。ヒトの間で新型ウイルスの感染が起きるような事態になれば、何百万人もの犠牲者が出るだろう。

世界的な人道主義団体である国境なき医師団(Medecins Sans Frontieres:MSF)も、今回のGPOのジェネリック薬開発を支持する。「膨大な数の人間に感染する恐れのある疾病について、国にジェネリック薬品を製造する能力があるなら製造すべきである。ただし、薬品の質はよいものでなければならない」とMSFベルギー支部のタイ国コーディネーであるターポール・コーソーン(Paul Cawthorne)氏はIPSの取材に応じて語った。

「ロシュは現在の需要に対して供給能力がなく、特許保護を訴える立場にはない。特許を保護しようとすれば、公的分野の競争に敗れるだろう」

GPOが大流行に歯止めをかける希望を与える一方、7月以来、鳥インフルエンザがタイ北部、中部地域で急速に拡大している。4日までに、15地域の家禽にH5N1型ウイルスが拡大したことを動物疾病の専門家は確認した。

国民保健省は鳥インフルエンザ感染が疑われる者のリストに164人を加えた。先月には17歳の少年が亡くなり、2004年以来の鳥インフルエンザによる死亡者は15人となった。

ウイルスに感染した家禽類との接触でヒトに死亡者が出ているのは10カ国に上り、タイはその1国である。WHOによれば2003年の冬以来、感染者は232人に上り、そのうち134人が現在までに亡くなっている。鳥インフルエンザの死亡者が最も多いのはベトナムとインドネシアで、それぞれ42人が亡くなっている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|チリ|今こそ過去の人権犯罪の真相究明に乗り出す時

【サンチアゴIPS=グスタボ・ゴンザレス】

チリのO.Izurieta軍司令官は、亡命先のブラジルで死去したアルフレド・ストロエスネル氏(93)の訃報について触れ、ピノチェト元大統領の死後に訴追が行われる場合、軍は有罪であることが証明されるまでは法的に無罪であるとして、ピノチェト元チリ大統領に対して栄誉ある称号を授与すると明言した。 

アウグスト・ピノチェト(90)は現在、糖尿病や心臓疾患、痴呆症など健康問題を理由に人権侵害や公金横領などの罪に関して訴追免責を受けている。

 しかし人権擁護団体は、痴呆症であるという事実に信憑性がないとし、さら

に病気を理由に罪を問われないのはおかしいと訴えている。活動家やアナリストも、訴訟が再開される可能性はあるものの、ピノチェトが本当に痴呆であるのか、または裁判を避けているだけなのかと疑問に感じている。 

J.Guzman裁判官は、ピノチェトが『死のキャラバン』事件(1973年にピノチェト将軍の指示・命令で左翼57人が殺害、18人が拉致された事件)に対する法的責任があるとして審理されるべきであると裁決を下したが、チリ最高裁はピノチェトが精神的に裁判に耐えられないのではないかと判断。しかし最高裁は2005年、ピノチェトの痴呆が嘘であるという見解から免責特権を剥奪した。さらに最高裁は、カルロス・プラッツ軍司令官をクーデターの翌年(ピノチェトの創設した秘密警察)DINAの爆弾テロによって暗殺した事件についても免責特権を剥奪した。 

一方、軍はピノチェトに対して元最高司令官として軍葬を行う準備が整っていること、年金の支給や裁判での弁護費用など様々な特権が用意されていることを明らかにしている。 

多くの国際監視員は、複数の人権犯罪や汚職問題に関わってきたとされるピノチェトが軍の恩典や退役軍人の地位を受けることが出来るのは理解しがたいと見ている。しかし、これは元DINA長官マヌエル・コントレラスの訴訟についても当てはまる。コントレラスは、オルランド・レテリエル外相の暗殺(1976年)で有罪判決を受け、現在も別の人権侵害の裁判で収監中であるにも関わらず、軍の解雇や降格といった処遇も受けていない。 

軍政時代に重大な人権犯罪に関わった軍部、警察、極右団体などの罪を問わない「無処罰」制度を非難する声が高まりをみせようとしている。(軍事独裁政権を率いた)南米パラグアイ元大統領の死亡により、論争に再び火がついた『冷酷非情な独裁者、ピノチェト元大統領』に対する政府や軍の対応について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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|アフガニスタン|深刻な小麦不足は干ばつとケシ栽培が原因

【カブールIPS=セディクラ・バデル(The Killid Group)】

アフガニスタンの主要作物であり、主食の小麦の生産量が今年は440万トンから370万トンに減少。7月25日には緊急援助委員会の委員長を務めるモハマド・カリム・カリリ副大統領が、250万人が深刻な食料不足に苦しんでいると明らかにした。

農業省は長引く干ばつが原因としていているが、専門家と一般市民は、利益の多いケシ栽培に転換している農民が増えていることも重大な要因と訴えている。背景には、周辺諸国からの安い輸入小麦粉がある。

農民は、政府の問題への対応が遅く、未解決の問題が食料不足の原因だと主張する。

地球温暖化の中、水不足、干ばつ、自然災害が問題の根源にはあるが、農地の3分の2が灌漑用水に頼っているアフガニスタンにとって、ダムの建設や配水システムの整備が緊急課題である。

 安い輸入小麦を規制する法律の制定や手続きの導入など、政府による農民に対する保護策も求められる。国内外の農産物の価格や市場に関する情報、金融融資や原材料の供与、改良種・肥料・農薬の提供なども不十分なままである。

国連とアフガニスタン政府は7640万米ドルの食料援助の要請を共同で行なった。これまでに米国際開発庁(USAID)(世界食糧計画に2000万ドルの拠出を約束)、日本(300万ドル)などから拠出の申し出が来ている。

農業灌漑相は、水の供給に700万ドル、動物飼料900万ドル、食料に5000万ドルが必要としている。

政府が小麦危機への迅速な対応策を見出せないでいると、アフガニスタンの農民は確実にケシ栽培への転向を図るだろう。これは長期的に政府を深刻な窮地に追い込むものである。アフガニスタンの小麦不足の原因について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 

|ソマリア|糾弾、暗殺、辞任

【ナイロビIPS=ジョイス・ムラマ】


 今週末に行なわれた不信任投票で、ソマリアのアリ・モハメド・ゲディ首相は解任を免れた。ゲディ首相率いる政府は、東アフリカの国ソマリアに秩序と調和をもたらさないと、国会議員から糾弾されていた。投票は、閣僚が暗殺され、議員が銃撃され、さらに政府報道官によると11人の大臣が辞任するという騒然とした週を締めくくるものとなった。

不信任決議では、ソマリア暫定政権の88人の国会議員がゲディ首相を支持した。126票は不支持だったが、決議成立に必要な3分の2以上の多数となる139票にはわずかに及ばなかった。

 現暫定政権は、地域的組織である「政府間干ばつ開発機構」が陣頭指揮を取った2年を超える話し合いを経て、2004年に隣国ケニアで成立した。暫定政府は昨年ソマリア中南部のバイドアに移ったが、政権の影響力をソマリア全土に及ぼすことができないでいる。ソマリアの国土は、1991年に独裁者モハメド・シアド・バレが失脚して以来、抗争を続ける部族により、それぞれの領地に切り刻まれている。

先月、イスラム過激派が米国に支援されていると見られていた派閥の領袖から首都モガディシュの支配権を奪い、南部の大半における権力も掌握した。米国政府はこのイスラム過激派がアルカイダの活動家を匿っていると主張しているが、母体であるイスラム法廷連合(UIC)は否定している。
 
7月29日の不信任決議は、275議席の国会でゲディ首相の退陣を求めて行なわれた2度目のものだった。2004年に退陣を求めた決議は、ゲディ首相の任命が暫定国家憲章(暫定憲法)に違反していると考えた国会議員により可決された。しかしながらアブドゥラヒ・ユスフ・アフメド大統領はその後ゲディを再び首相に任命した。

今回の不信任案が可決されていれば、すでに多くの大臣が辞任して弱体化している政府は崩壊していただろう。

報道によると、イスラム過激派が数十キロまで迫っているバイドアに、議会の承認を得ないまま暫定政府支援のためのエチオピア部隊が7月初めに到着したことに大臣たちは反発した。大臣たちはなぜ軍隊の配備に国会の承認を得ようとしないのか質問したが、エチオピアは依然答えようとしない。

さらに大臣たちは政府とUICとの対決を防ぐための交渉におけるゲディの無能と、交渉進展の障害となっていることを非難した。この交渉はエチオピアの部隊が姿を見せたことによって中止となっている。エチオピア部隊の出現は過激派を刺激して、エチオピアに対する「聖戦(ジハード)」を宣言させることにもなった。ソマリア人の多くはエチオピアに根強い反感を抱いている。ここ数十年、両国が何度も衝突を繰り返しているせいである。

イスラム法廷連合(UIC)と暫定政府の交渉はスーダンの首都ハルツームで8月1日に再開される予定だが、イスラム側はエチオピアの部隊がソマリアから撤退すれば参加すると言っている。6月に始まった交渉はアラブ連盟が主導している。

ソマリアのもうひとつの隣国エリトリアも、ソマリアは1992年に武器を禁輸しているにもかかわらず、UICに武器を供給し続けて事態をいっそう複雑にしている。

「先週、エリトリアからイスラム過激派への武器を搭載していると見られる貨物輸送機2機がモガディシュに到着した」とモガディシュの現地ジャーナリストはIPSの取材に応じて語った。この事実は、エリトリアとエチオピアとの長年の緊張関係がソマリアにおける紛争として表面化するのではないかという不安を掻き立てる。

 両国は1998年から2000年まで激しい国境紛争を起こしており、その前の戦いで1993年にエリトリアはエチオピアから分離している。

「ソマリアは最悪の状況に進んでいる。人々は事態の展開を敏感に観察していて、もうまもなくエチオピアとエリトリアの代理戦争がソマリアの地で行なわれるのを目撃するのではないかと考えている」と現地ジャーナリストはいう。

週末の報道によると、ゲディ政府はイラン、リビア、エジプトもイスラム過激派を支援していると非難した。

近隣地域が煽る戦争がソマリアで起こる可能性の迫っている中で、29日には数百人の人々が田舎町バイドアのモスクの外で前日に暗殺されたアブダラ・イサク・ディロウ憲法連邦問題大臣の葬儀に参列するためにバイドアに集まった。

「殺害の原因はまだ分かっていないが、警察は犯人を逮捕して投獄した」と、暫定政府のアブディラーマン・ディナリ報道官は、バイドアからIPSの取材に応じて語った。バイドアでは28日の暗殺をきっかけに暴動が起きた。

その前々日にも国会の憲法問題委員会のモハメド・イブラヒム・モハメド委員長が銃撃を受けた。同委員長は一命を取り留めている。

匿名を条件に、ある政治評論家は、「ソマリアの情勢を改善するためにはアフリカ連合(AU)の介入が鍵だ」と語った。「アフリカ連合を通じたアフリカの存在がソマリアに介入し平和をもたらす手伝いをする必要がある」とモガディシュを訪れた評論家はいう。

しかしながら、平和維持部隊をソマリアに送るという、AU53カ国によって先月行なわれた提案は、UICに拒否された。UICはそのような部隊はソマリアの混乱をより刺激し、より深めるだけだとしている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

IPS関連ヘッドラインサマリー:
ソマリアから脱出するジャーナリスト

|アフガニスタン|タリバンの命令で閉鎖される学校

【カブールIPS=ハディ・ガファリ、アディラ・カビリ】

アフガニスタンのウルズガン州のいくつかの地区には、学校が全くない。学校があったとしても、教員不足・教材不足のために生徒が集まらない。これは、反政府勢力のタリバンが学校を自らの闘争のターゲットのひとつとしているためだ。

中部のダイクンディ県では、38の学校が教員不足のために閉鎖の危機にある。8,000人の生徒が影響を受けている。

街の建物の壁には「夜の手紙」と呼ばれる警告書が張り出されている。ここには、宗教教育のために子供をモスクの学校に通わせるよう書かれている。

7月18日には、パクティカ県ワザクワ地区において、ある高校が放火された。

米国の団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、過去18ヶ月の間に教員や生徒、学校に対する暴力事件が約200件記録されている。また、少なくとも18人の教員・教育当局者が暗殺されている。

教員の不足や学校の閉鎖には、国際的なドナーがアフガンの教育への支援を徐々に減らしつつあるというもうひとつの原因もある。しかし、マンスリ経済大臣はこうした関係を否定している。

不安定化するアフガンの教育について報告する。(原文へ)

翻訳/サマリー=IPS Japan


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|ネパール|武装解除はまだできないと国連に主張するマオイスト

【カトマンズIPS=スマン・プラダン】

ネパールのコイララ首相の要請で和平プロセスを支援するため国連のミッションがカトマンズに派遣されて1週間になるが、ネパール共産党毛派マオイストと主要7政党の対立は鮮明になるばかりで、未だ打開の道は見出せないままだ。

国連ミッションの任務のひとつは武装勢力の武器管理の道を探る手助けをすることと、憲法制定議会の自由で公正な選挙の実施に向けて技術その他支援を行なうことである。同議会による新憲法の制定こそ、13,000人もの命を奪った10年に及ぶ紛争の恒久的解決策、とすべての陣営が見ている。

 だが国連にできることは各当事者が認めることに限られており、彼らの間に共通の理解を生み出すことは困難な様相を呈してきている。マオイストは、武器を国連の監視下に置くのは、政府軍も同様の行動をとることが条件と主張。一方政府は、正規軍である政府軍が武装解除に従うことはあり得ないとの論だ。

この決定的な意見の対立に、国連ミッションを率いるスウェーデンの外交官Staffan deMistura氏は7月31日、「国連ミッションには残り3日半しかない。ネパールの対話者全員がとりわけ武器管理の問題について共通の理解に早急に達することがきわめて重要」と述べ、不満をあらわにした。

しかしこうした苛立ちに、マオイスト側は「国連の仕事は我々に圧力をかけることではない。合意に達するのは我々であって、国連は仲介役にすぎない」と述べ、主要7政党側も、「国連の圧力は余計なこと」とまったく同じ反応を見せている。

しかし国連ミッションに近い筋は、和平プロセスを制度化できるチャンスが今であればあると指摘。しかし関係双方が武器管理の細かな点でもめている間に、レバノン、スーダン、スリランカの危機が国連の注意を奪い始めており、「このチャンスをつかまなければネパールは忘れ去られるだろう」と危惧する。

武器管理を巡るマオイストと主要7政党の対立に、国連の関与ばかりでなく、暫定政権の樹立と憲法制定議会の選挙の実施まで危ぶまれているネパールの和平プロセスについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリー:IPS Japan浅霧勝浩

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法の裁きを受けることなく死んだクメール・ルージュの「屠殺人」

【バンコクIPS=マルワン・マカン・マルカール】

7月20日、クメール・ルージュの「屠殺人」と呼ばれたタ・モク(80)が、多機能不全で死亡した。

クメール・ルージュ崩壊から27年。国連の支援を得て、カンボジア裁判所内に、国際法学者13人、カンボジア裁判官17人で構成されるExtraordinary Chambers in the Courts of Cambodiaが7月3日に開設され、7月10日から立証調査が開始されたばかりであった。タ・モクは、裁判に引き出される最初の司令官と見られていた。

 クメール・ルージュの残虐行為を綴った本「裁かれるべき7人」(Seven Candidates for Prosecution)は、クメール・ルージュ政策に直接係った人物としてヌオン・チー、イエン・サリ等7人の名を上げている。タ・モクの死亡により、国民の関心はこれら高齢の旧政権要人に向けられている。

プノンペンにある独立機関「カンボジア資料センター」は、収集していた資料を裁判所に提出。資料の中には、約2万ヶ所の合同埋葬所、189の刑務所、犠牲者3万人の証言等が含まれるという(クメール・ルージュは1975-1979年の5年間で、当時の人口の1/4に当る約170万人を殺害したとされている)。

注目されるのは、同裁判が、米国、中国、タイといった外国政府のカンボジアに対する関与まで踏み込んだ審議ができるかどうかである。1960年代後半のベトナム戦争では、米国はカンボジアへの秘密爆撃を行っており、ポル・ポト失権後のベトナム軍カンボジア侵攻に当たっては、米国、中国、タイはクメール・ルージュ残党の支援を行っていた。

カンボジア人権開発協会のサライ会長は、「モクの死で、重要な証人かつ大罪人を失った。この様なことが起こらないよう、迅速な裁判が必要」と語っている。カンボジアで開始されたクメール・ルージュ裁判について報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan:

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|タイ|製薬大手が供給を拒む新エイズ薬

【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール
 
タイのエイズ患者にとって暑さと湿度はもうひとつの敵である。エイズ薬は冷蔵しなければならないからだ。そのため熱帯の常温である30度でも保存できる新薬開発のニュースは喜ばしいものだった。だがタイのエイズ患者はまだその薬を入手できないでいる。

国境なき医師団(MSF)によると、ロピナビル/リトナビルの新薬を開発した米国の製薬大手アボット・ラボラトリーズ社が問題となっている。「アボット社はタイには旧薬があるとしてタイへの供給を拒否しているが、欧州と米国では新薬を旧薬に交換するというダブルスタンダードを用いている」とMSFで医薬品入手を担当するネイサン・フォード氏はIPSの取材に応じて語った。

 MSFはアボット社がエイズ問題に取り組む姿勢を批判し、かつて南アでエイズの第一選択薬を安価に入手できるようにしたように、タイでの新薬入手を可能にしようとしている。フォード氏は「新薬を製造する会社が一社だけで、ジェネリック医薬品がないことが典型的な問題だ」という。タイのエイズ支援組織も、「第一選択薬が効かなくなり第二選択薬に期待するしかない患者も多いため、アボット社の新薬の入手か、政府製薬機構(GPO)による製造を認めてほしい」と訴える。

タイはエイズ拡大を食い止めることに成功し、患者の治療が進んでいる国のひとつである。GPOが安価なジェネリック医薬品を製造しているため、患者の治療費は1ヶ月当たり1200バーツ(約3500円)である。一方で第一選択薬に耐性ができてしまったために求められる高価な新薬の価格は患者1人当たり年間35万円となる。

世界保健機関(WHO)バンコク事務所のウィリアム・オルディス氏は、「新薬への切り替えでタイ政府のエイズ治療プログラムのコストは年間3800万ドルから5億ドルへと跳ね上がる」という。国連合同エイズ計画(UNAIDS)によると、エイズの第二選択薬の問題はタイだけではなくエイズに取り組む他の国にも共通し、今後広く議論していかなければならない。

新薬は保存が容易というだけでなく服薬量が少なく食事制限を伴わない。この新薬が利用できれば、多大な効果をあげるだろう。現在のところ入手の難しい新しいエイズ治療薬について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan


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|ネパール・インド|「性産業」犠牲者の声なき声:売春宿から1人でも多くの犠牲者を救いたい 

【カトマンズAPIC=浅霧勝浩、ラムヤッタ・リンブー】

私は当時22歳で、長距離トラックの運転手をしている夫と生後数カ月の娘の3人家族で、慎ましいながらも幸せな生活を送っていました。当時の夫の仕事は、荷物を遠くカトマンズやインドのダージリンにまで運送するものだったので、一度の仕事で、数日は家に帰ってこられませんでした。私は、娘の面倒を見ながら、道端に屋台を設けてお茶を商っていました。

そんな私達の日常が突然狂わされたのは、夫が仕事で留守中のある日のことでした。幼い娘が突然肺炎に罹り、村のクリニックに連れていったところ、抗生物質がないので、何とかカトマンズの病院まで行くしかないと言われたのです。私の村からカトマンズまではバスで7時間の距離でした。途方にくれていると、夫の運転手仲間と知人が「カトマンズよりもインドのパンタにいい病院がある。望むなら子供をすぐに乗せていってあげよう」と申し出てくれました。

私達親子は藁にも縋る思いでその運転手の車に乗せてもらい、インドを目指しました。ところが、国境を越えるとその人物は豹変し、私達親子を人買いに売り払ったのです。私達はその仲買人に、インド国境の町からムンバイのKamatipura地区にある売春宿まで連れて行かれ、そこで親子で約200ドルで転売されました。ムンバイは私には初めての土地だったし、ネパール語しか話さない私は、自分の存在を証明するものを何も持っていませんでした。 

 売春宿に到着するとすぐ私は愛する娘から引き離されました。売春宿の男達は「娘を返して」と必死に抵抗する私を殴りつけ、強姦したうえで、「借金を返すまで『性奴隷』としてここで働くか、娘の命を諦めるか好きなほうを選べ」と脅迫してきました。娘の命を守るため、売春婦になる道を選択するしかありませんでした。

売春宿で私に与えられた仕事場兼住居は、染みだらけの等身大のマットレスより若干大きなスペースのみで、病院のカーテンのようなものでかろうじて仕切られた空間で客をとらされました。そこには当時13人の少女達が監禁されており、皆私のように騙されて連れてこられたネパール人の少女達でした。生き地獄の中で、同郷の彼女達に囲まれていたことが唯一の心の慰めでした。

それから2年間、「Pleasure:快楽」という名の下に、毎日20人近くの男性を相手に、言葉では説明できないような行為を強制されました。最初のうちは、売春宿のオーナーに「なんとか娘に会わせてほしい」と繰り返し懇願しました。しかし、その話を持ち出すと、必ず激しく怒鳴られ、殴りつけられました。私はそのうち懇願するのをやめ、代りに、娘の笑顔を心に思い浮かべながら「きっとこの地獄を生き抜いて娘を取り戻す日がくる」と自分に言い聞かせることにしました。

その後、私を逃がしてくれるという客が現れたこともありましたが、娘の身の上を考えて断りました。そんなある日、通りで皿洗いをしている女性が親しく声をかけてくれるようになり、私の娘を探し出してくれると約束してくれました。私はひたすら日々の生活を耐え、祈り続けました。 

そしてこの地獄から解放される日がやってきました。「MAITI NEPAL」というNGOが、警察と合同で私達のいる売春宿に踏み込んでくれたのです。そしてその日は、奇しくもあの皿洗いの女性が約束を守って、私の愛する娘を連れてきてくれた日だったのです。2歳半になっていた娘は、体中傷だらけで皮膚病に犯され、まだ話すこともできませんでした。でも、生きて再会することができたことを、神に心から感謝しました。MAITI NEPALは私達親子をシェルターに受け入れてくれたほか、私達に代って夫を探してくださり、お陰で数カ月後に、カトマンズで親子3人再会を果たすことができました。

私はその後、MAITI NEPALのフルタイムスタッフとして夫と共にムンバイに戻ってきました。私達はMAITI NEPALのスタッフや心あるインドのボランティアと共に、かつての私達親子が経験した境遇にある娘達を見つけ出し、救出するために日々活動しています。娘は、今は6歳になり、私の故郷で母に育ててもらっています。娘には4~6カ月おきに会いに行っています。

私がムンバイに敢えて戻ってきたのには多くの動機付けがありましたが、その中でも最も大きなものは娘の存在でした。彼女はMAITI NEPALのお陰で、今は母の下で普通の人生を夢見て生きていくことができます。しかし、私達のように救出を待っている人達はまだたくさんいます。彼女達の娘達には、売春宿で育ち、いずれは売春宿のオーナーに母と同じ「性奴隷」として引き渡される運命が待っているのです。

私が売春宿で出会った不幸な娘達–14歳までに12回も堕胎手術を受けさせられた娘、わずか8歳で売られてきた娘、売春宿のオーナーに接客を拒否して陰部に硫酸を撒かれて拷問をうけた娘、激しい拷問と殴打で酷い姿にされた娘、胸や乳首に煙草の火を押し付けられて接客を強要された娘–世間は私達を売春婦として軽蔑し無視する。彼女達の痛みがわかる私達が立ち上がらなければ、世界の誰も彼女達を助けてはくれないもの。

Maiti Nepal/ photoby Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan
Maiti Nepal/ photoby Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan

私は決して「犠牲者」として見られたくはありません。私は、この人間の尊厳を踏みにじる人身売買を根絶するためにはいつでもこの命を捧げる覚悟をもつ「Activist:活動家」、あるいは人身売買の「生き残り」としての気概を持ってこの問題に取り組んでいくつもりです。


Kamatipura:
世界有数の歓楽街で、地元では「Cages:かご」と呼ばれている。ここで売春婦達は施錠された檻の中での生活を余儀なくされており、外から見ると「かご」に見えるところからその呼称がついたと言われている。マイリは、肌の白いネパール人少女達が多く売春を強要されていると言う。 

マイリ親子の場合、救出後、夫との再会を果たせたが、MAITI NEAPLが保護した少女達の中には、家族に引き取りを拒否され、村に帰ることもできない娘達も少なくない。ましてや、配偶者が受け入れるケースは極めて稀である。


(ネパール取材班:財団法人国際協力推進協会浅霧勝浩、ラムヤッタ・リンブー)

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レバノンの激震に動揺広がるシリア

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【ダマスカスIPS=ダール・ジャマイル】

イスラエルとレバノンの民兵組織ヒズボラとの報復合戦が激化する中、シリアの人々はイスラエルのレバノン空爆に怒りを向けている。

「ガザ、西岸そして今はシリアでのイスラエルの行動を非難しないシリア人は見つからないだろう」とIPSの取材に応えて語ったのは、60歳の元ジャーナリストで広告コンサルタントのIbrahim Yakhour氏だ。彼は、シリアの政党はこの30年間中東の平和的政治プロセスを呼びかけてきたが、「人々が侮辱され、攻撃され、殺害されれば、過激な反応が起き、政治的プロセスは阻害される」と述べた。

 ダマスカスの人々は、また、地域戦争がシリアにも広がることを恐れている。45歳の文芸評論家Emad Huria氏は、「今や地域全域が巻き込まれている。すべてのアラブ人はイスラエルのレバノン侵攻に非難の声を上げるべきだ」と述べた。

ダマスカス市内の時計店に働く35歳のMaher Skandyran氏は、「イスラエルに収監されているパレスチナ人の95%は女性や子どもを含む罪のない一般市民だ。これについてもの言う人はいない。しかしイスラエル兵3人が拘束されたら、これは重大犯罪で、皆が激怒している。これが正義なのか」と言い、イスラエルのダブルスタンダードに人々が憤慨しているのだと述べた。
 
 55歳の商人Faez Ashoor氏はIPSの取材に応え、「今起きていることはすべて、イスラエル人がパレスチナに侵攻・占拠し、土地を奪取しているという重大問題を浮き彫りにしている。このような状況が終結すれば、平和が訪れる」と述べ、レバノン問題の根はパレスチナの占領にあると示唆した。

さらには怒りを必然的に米国に向ける人もいる。ダマスカス市内で携帯電話販売店を経営する26歳のHamad al-Khatib氏は、「レバノン、イラク、パレスチナなど隣国への攻撃に憤慨している。イスラエルは国際法などおかまいなしだ。アメリカは平和な国だと思っていたが、女性や子どもを殺しているイスラエルを支持するアメリカをどう思えと言うのか」と語った。

6年ぶりのイスラエルのレバノン侵攻に、自らについても不安を深めているシリアの市民の声を報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan