【ナイロビIPS=ジョイス・ムラマ】
東アフリカのケニアでは、政府統計によると国民の8割が生活の糧を直接農業から得ている。しかし、農作物に価値を付加することができないため、思うような収入を上げることができずに困窮する農民も少なくない。
「アフリカ人造り拠点」は、このような農民の苦難を克服するために技術支援を行っている。これはケニア、ウガンダ、タンザニアの3カ国と日本政府が支援する独立行政法人国際協力機構(JICA)の合同プログラムである。
AICADはケニアの首都ナイロビの北ジュジャ(Juja)所在のジョモケニヤッタ農工大学に本部を置き、技術開発によるアフリカの貧困削減を目的に活動している。
AICADは付加価値の技術研修を昨年11月より始めている。今までにケニア、ウガンダ、タンザニアの農業従事者に研修を行い、現在2回目の研修を計画中。AICADの研修責任者ジェーン・ケンボ(Jane Kembo)氏によれば、各国から30人ずつがプログラムに参加した。
農産物の付加価値は、より値段が高く、品質保持期限の長い製品に加工することであり、生産者の収入増加が見込まれる。たとえば、牛乳をチーズやバターなどの製品に加工する。
開始間もないAICADプログラムは、すでに利益を生んでいる。
「2度にわたる調査活動で、6割の農家が3割以上の収入増を記録している」とケンボ氏はIPSの取材に応えて語った。
「成功談は多い。サヤエンドウなどの農産物加工研修を受けた農家の中には、1回の収穫から120万ケニア・シリング(16,200ドル)を得た者もいる」
しかし一方で、成功は新しい問題をもたらす。
ケニアのエガートン大学テゲメオ農業政策開発研究所(Tegemeo Institute of Agriculture Policy and Development at Egerton University)のジェームズ・ヌヨロ(James Nyoro)所長は「農作物に価値を付加すると農家は生産者ではなく加工者となり、地域のみならず世界中から輸入される製品との競争に巻き込まれる」と指摘。
ヌヨロ氏はアフリカ東部の道路、鉄道網の不備を挙げ、「ケニアではインフラストラクチャと通信技術が不備なため、農家は価値不可に要する高額な電力、輸送費を負担しなければならずビジネスのコストが高い」と説明する。
ケンボ氏も「農家には生産を支えるインフラが必要。増産を促しておきながら、農場で作物を腐らせるようなことがあってはならない」と言う。
この問題を回避する1つの方法は、農家が協同組合を作って加工所を設立し、集団で電力・輸送費を負担することである。
これを実践しているのが中部ギツンガリ(Githunguri)の酪農協同組合。組合指導で幾つかの農家集団が低温殺菌牛乳、ヨーグルト、チーズの加工工場を設立し、製品を国中のスーパーマーケット・チェーンで販売している。
しかし、電力・輸送費問題を克服しても、生産者には重税政策の難題が降りかかる。
「価値を付加したとたんに加工業者とみなされて、工業化関連政策の重税の対象となる」とヌヨロ氏は指摘する。
内閣には価値付加を奨励する政策が求められるようになり、ケニア当局もこれに応える意向。
昨年ナイロビで開催された農産物への価値付加に関するワークショップに提出された政府報告書では、加工に使用される輸入品の免税、工場機器への投資支援を検討している。
製品加工の立ち上げに必要な信用を得ることができない問題も指摘されている。一方、豊かな国の農業補助金も問題である。アフリカの農家は製品に価値を付加しても、先進国の農産加工品と同程度まで価格を下げて競争することは困難である。
「アフリカの農家にのしかかる製造コストは高く、自国の農家に補助金を与える欧米諸国の製品と競争することはできない」とヌヨロ氏は言う。
ドーハ・ラウンドでは豊かな国が農業補助金の排除を拒否し、合意形成の大きな障害となっている。
開催中のジュネーブの閣僚会議でも先進国と途上国は農業保護政策で対立を続け、6月29日には、アメリカが大幅な補助金削減に応じない限りインドが離脱も辞さない姿勢を示した。
2001年にカタールのドーハで始まったドーハ・ラウンドは、途上国の経済成長促進を主要目標の1つとして掲げている。当初2004年に終了の予定が、本年末まで延長されている。 (原文へ)
翻訳=IPS Japan
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