ニュース|ウクライナ戦争|より悪く、より広範な事態への第一歩か?

|ウクライナ戦争|より悪く、より広範な事態への第一歩か?

【ルンド(スウェーデン)IDN=ジョナサン・パワー】

Portrait of Trotsky/ By LeonidasTheodoropoulos - Own work, CC BY-SA 4.0
Portrait of Trotsky/ By LeonidasTheodoropoulos – Own work, CC BY-SA 4.0

かつてウラジーミル・レーニンに近い立場にあったレフ・トロツキー「あなたは戦争に関心がないかもしれないが、戦争の方ではあなたに関心があるのだ」と言ったとされる。核兵器使用の可能性が取りざたされるこの時代にあって、立ち止まってこの言葉の意味をゆっくり考えてみるべきだ。

対ロシア・対ウクライナ政策について、ジョセフ・バイデン大統領こそがこのことをよく考えてみるべきだと思われる。それはロシア自体に直接挑戦する危険性があるからだ。米国がビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマの歴代政権を通じて北大西洋条約機構(NATO)の境界線を強引に(東に)前進させたのち、バイデン大統領が、外交政策に関する豊かな経験を活かして、その動きに歯止めをかけてくれるものだと期待した人もいただろう。

NATOに加盟する国の数が増えたことで、1991年に冷戦が終結した時点では消滅したと考えられていたロシアと米国および欧州の敵対関係が、このようなレベルにまで拡大したのである。

私たちが生きているうちは国際協調を基調とする平和な時代が続くだろうと考えられていたが、実際には、ロシアが核の威嚇を繰り返し、米国はロシアの国境ぎりぎりまでNATOの境界線を広げようとし、ウクライナへのロシアの軍事介入に激高して経済制裁に訴え、ウクライナの戦争機構に物資を送り続けている。

西側諸国とロシアの間に戦争が起こるという観測もある。トロツキーは正しかったのか? フランスがフランスであり続け、NATOのいかなる軍事行動にも拒否権を発動する限り、そのようなことは起きそうにないが、(ワーテルローの戦いでナポレオン・ボナパルトに勝利したウェリントン公爵が言ったとされる)「とんでもない危機一髪の出来事」になるかもしれない。

ウラジーミル・プーチン大統領に領土的野心はないものと私は見ているが、他国から脅威を受けることはないロシアをめざしてはいるだろう。

米国はいかにロシアを騙したか

それは、ロシアの初の民選大統領であるボリス・エリツィンの時代にまで遡る。エリツィン大統領は時をうまく利用したが、時としてクリントン大統領に利用されることもあった。クリントン大統領はしばしば、あまり体調の良くないエリツィンが疲労し、ウォッカを飲みすぎた夜間を狙って難しい交渉を持ちかけてきた。

Mihail Gorbachev/ Katsuhiro Asagiri
Mihail Gorbachev Photo:Katsuhiro Asagiri、President of INPS Japan.

冷戦終結において西側のパートナーであったソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領は、ブッシュ大統領やドイツのハンス=ディートリッヒ・ゲンシャー外相と、ドイツの再統一を認め、統一ドイツをNATO加盟国とする見返りとして、NATOのこれ以上の東方拡大は行わないという了解を得たと考えていた。

実際、ゴルバチョフ大統領がプーチン大統領と同じように表現したように、ロシア自身がNATO加盟国になり、ロシアが「ヨーロッパの家」に加わる構想が真剣に協議されたこともある。ヘンリー・キッシンジャー、ズビグニュー・ブレジンスキー、ジョージ・ケナンといった米国外交の重鎮たちはみな揃って、NATOをあまりに(東に向かって)遠く、あまりに早急に拡大することでロシアを追い詰めないよう警告していた。

NATO's Eastward Expansion/ Der Spiegel
NATO’s Eastward Expansion/ Der Spiegel

クリントン政権時の国防長官ウィリアム・ペリーもまた、英国紙『ガーディアン』が主催した会議で、「(冷戦の終結によって)米ロ間で得られた利益はロシアではなく米国の行動によって「浪費」されてしまった。」と指摘したうえで、「この数年、非難の大部分はプーチン大統領の行動に向けられてきた。しかし、初期には米国にも非難されるべき点があったと指摘せざるを得ない。我々を悪い方向に導いた最初の行動は、東欧諸国を取り込んだNATOの東方拡大であった。」と語った。ペリー元国防長官はさらに、「困難に陥ったかつての超大国に対して米当局が侮蔑的な態度を取ったことがこの決定の背景にある。」と指摘した。

第二の大きな過ちは、ブッシュ政権が、ロシアからの激しい反発を押し切って、東欧にミサイル防衛システムを導入したことだ。「イランからの核ミサイルから防衛するというのがその正当化理由であった。しかし、イランのミサイルにそのような射程はなく、核兵器を運搬する能力もなかった。ロシアは『ちょっと待ってくれ、それではロシアの防衛能力が弱まる』と抗議した。しかし、米国の決定は、それ自体に利点があるかどうかという観点よりも、『ロシアがどう考えようが関係ないだろう?』という見方からなされてしまった。」

ウクライナの革命を支援

オバマ政権はその後、東欧を拠点とするミサイル防衛システムを変更し、長距離迎撃ミサイルを中距離迎撃ミサイルに置き換えた。ロシアはこれを歓迎したが、ミサイルが依然としてロシアに向けられる可能性があることを指摘し、ミサイルがロシアに向けられないという保証と確約を求めた。

その後、米国とEUは、ウクライナの革命を支援するという決定を下した。しかし当時控えていた選挙は、おそらくロシアに同調する政府を退陣に追い込むものであったため、それを正当化する理由はなかった。また、西側の政策は、ファシストの流れを汲む組織のメンバーである過激派を容認することを意味した。

非常に腐敗した国家の政治的渦中に介入する代わりに、オバマとその後継政権は、米国とロシアが保有する核兵器の削減にエネルギーを集中すべきだった。(オバマはロシアと核軍縮協定を結んだ最後の大統領であったが、それはかなり限定的なものであり、それまで米国によって破棄された核軍縮条約を補うものではなかった)

バイデン大統領は正しいことをして損害を修復し、トロツキーの間違いを証明できるだろうか?彼の現在の政策から判断すると、私はそれを疑い始めている。ウクライナ紛争は、より悪く、より包括的なものへの足がかりになるかもしれない。「戦争は西側諸国を追いかけている」のである。(原文へ

INPS Japan

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