ニュース米国はイランが拒絶できない核協定を持ちかけるべき

米国はイランが拒絶できない核協定を持ちかけるべき

【ルンド(スウェーデン)IDN=ジョナサン・パワー】

イラン政府の方針は、評論家がしきりに指摘するように固定されたものではない。12月初旬には、イランの検察総長が「道徳警察を解散させる」と発言したと報じられた。明らかに、2カ月にわたるデモは、主に女性が主導し、カタールで競技中のイランサッカーワールドカップチームが公然と支援したことで、イラン政府の一部の勢力が長期的な政策に対して根本的再考を加えたのだろう。

突き詰めていうなら、世界の爪弾き者にとどまりつづけるのか、それとも、隣人に並び立つべく、豊かで、健全で、抑圧のない社会の実現という任務に取りくんでいこうとするのか、自らに問うたということだ。とはいえ、最近逮捕されたデモ参加者が処刑されたように、依然として強硬派が優勢であることに変わりはない。

U.S. President Barack Obama / Official White House Photo by Pete Souza
U.S. President Barack Obama / Official White House Photo by Pete Souza

国内の社会的不満への対処と、米国への対処は別物である。これもまた、大きな再考が必要である。バラク・オバマ大統領と交渉した、ある程度の相互信頼に基づく核取引の条件に戻る覚悟があるのか、それともドナルド・トランプ大統領がそれを破棄したので、将来の米国大統領は信用できないと思い込んでいるのだろうか。

現在の米国の敵の中で、長期にわたって一貫してナンバーワンであり続けているのはイランである。イランは、1979年のイスラム革命で世俗的な国王を倒し、過激で時には戦争も辞さないイスラム神政を導入して以来、米国にとっての不倶戴天の敵となった。(しかし、欧州にとっては、どの国も米国政府と仲間割れをおこしてはいないものの、イランを米国人ほど脅威とはみなしていない。)

フォーリン・アフェアーズ誌の2019年11月号で、ダニエル・ベンジャミンとスティーブン・サイモンの2人の教授は、「『冷戦後期からの数十年、米国が最も恐れていた外国勢力はどこだったか』という問いに100年後の歴史家が取り組んでいたとしよう。ロシアは、当初は宿敵として、次に友人として、最後に挑戦する厄介者とみなすだろう。中国は大国のライバルと見るだろう。北朝鮮は脇役に過ぎない。そしてイラン一国だけが、執拗なまでの敵として描かれることになるだろう…。」と述べている。

初期のころと同じように、イランの体制は米国にとって根本的に頭痛の種であり続けている。イランがそう望めば、即時に核兵器を作りうるだけのレベルのウラン濃縮も再開している(もちろん、運搬手段は別の問題)。イランはまた、シリアのバシャール・アルアサド大統領を支持し、レバノンにおける代理勢力ヒズボラを通じてイスラエルを挑発し、イラクの反体制シーア派に支援を与えている。イエメンではフーシ派の反乱に小規模な支援を与えてきた。

世界の石油輸出の5分の1は、イランが長い海岸線を持つペルシャ湾を経由している。米国に輸出される石油は皆無だが、中断されれば石油価格に影響を与える。皮肉なことに、その多くはイランの支援国である中国へと送られている。しかし、米国政府内にパニックを引き起こしているにも関わらず、ホルムズ海峡は閉鎖することができない。そのぐらい海峡は広いのである。

Map of Strait of Hormuz with maritime political boundaries /Public Domain
Map of Strait of Hormuz with maritime political boundaries /Public Domain

彼我のパワーバランスを考えると、米国がイランにそこまでこだわるのは愚かなことだ。イラン経済は米国経済の2%程度しかない米国と中東の同盟国であるイスラエル、サウジアラビア、アラブ首長国連邦は、合わせてイランの50倍以上の経済規模を有している。イランはミサイルを保有しているが飛翔距離はそれほどでもない。イランは、レーダーをかいくぐって飛ぶドローンでサウジアラビアの石油貯蔵施設を攻撃したとされるが、その技術レベルは比較的初歩のものにとどまっている。

バラク・オバマ大統領は、この力の差を利用し、ロシアと欧州連合からの支援を得て、イランの核研究能力を制約し核兵器開発能力を除去する協定を締結した(しかし、おそらくイランはそもそも核兵器開発の意図などなかった。少なくとも、CIAは長らくそのような見解であった。)

イラン核合意として知られる2015年のこの協定は、中東でのイランによる挑発的な介入を抑えるためにイランと話し合いを持つための入り口になるはずであった。しかし、オバマ大統領もこの機会を逃した。オバマ政権の初期にイランはオバマ大統領にオリーブの枝を差し出した(=平和へのジェスチャー)のに、オバマ大統領はそれを折ってしまった。イラン核開発を抑える交渉をようやく始めようとしたが、遅すぎた。オバマ政権が達成したものなら何でも壊してやろうという動機に突き動かされていたトランプ大統領は、協定の実施が具体化する前に、そこから「電源」を取り去って(=同意から脱退して)しまった。

米国やその同盟国から40年にわたって疎外され懲罰を受けたのちにイランがそれに対抗しようとしたからと言って、なぜそれが驚きに値しようか。特に、米国などの介入はまさにイランの裏庭に損害を与えかねないのである。イスラエルをイランが常に敵視しているのは、イスラエルがイランの体制打倒に動いているのではないかと恐れているためだ。2003年の米国による対イラク戦争がなければ、イラクにおいてイランのプレゼンスは存在しなかったであろう。かつてサダム・フセイン大統領は、イラン・イラク戦争に際しては、米英によって支援されていたのである。

サウジアラビアは、一部には政治的、一部には宗教的な理由で、イランの体制を打倒したいという衝動を持っている。イランがフーシ派を通じてサウジアラビアの弱体化を図っているのはそのためだ。しかし、女性も子どもも病院も保護しないサウジアラビアの戦術を支援することで得する者は誰だろうか? イランの対シリア関係は、中東の多数派スンニ派からの脅威を受けている2つのシーア派国家による便宜上の結婚のようなものだ。米国の本質的な利益を侵すものではない。

Photo: A protester holds a portrait of Mahsa Amini during a demonstration in support of the young Iranian woman, who died after being arrested in Tehran by the Islamic Republic's morality police, on September 20, 2022. three days in a coma. Credit: Ozan KOSE / AFP via Getty Images. Source: WBUR.
Photo: A protester holds a portrait of Mahsa Amini during a demonstration in support of the young Iranian woman, who died after being arrested in Tehran by the Islamic Republic’s morality police, on September 20, 2022. three days in a coma. Credit: Ozan KOSE / AFP via Getty Images. Source: WBUR.

イランと米国の関係はこれほどまで悪化したことはない。EUは中間的な立場に立とうとしているが、米国の経済制裁によって及び腰になっている。それでも、もし米国がイランの経済・政治の不安定化を図ろうとするならば、それは自らに銃口を向けるようなものだ。中東はさらに不安定化し、ふたたび大規模な難民危機が訪れることになるだろう。

イランは好戦的であっても、常に対峙していても仕方がない。オバマ大統領は、EUやロシアの支持を得て、その道を提示した。米国がその方向に戻れば、中東はより平和になるであろう。

今年、テヘランの街をヒジャブをつけずに歩くイラン人女性を見ることができるかもしれない。言うまでもなく、このような前進は外交政策とはほとんど関係がない。しかし、政権の有力者が、選択すれば柔軟に対応できることを示すものである。米国は今を逃さず、イラン政府が無視できないような核協定案を持ちかけるべきだ。両者はすでに非常に接近している。その差を縮めることは、それほど難しいことではないはずだ。(原文へ

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※著者のジョナサン・パワーは、かつては『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』、現在は『ニューヨーク・タイムズ』に17年間にわたって外交時評を寄せてきた。『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』『ボストン・グローブ』『ロサンゼルス・タイムズ』にも論評を寄せ、これらの新聞の論評欄に最も多く登場した欧州人である。

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