ニューストランプ大統領の初月:情報洪水戦略

トランプ大統領の初月:情報洪水戦略

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ロバート・R.カウフマン】

ドナルド・トランプが2期目の大統領職に就任してから最初の30日間で、彼とその側近たちは、ある種の「政治クーデター」を緩慢に進行させていると評されている。新政権は、制度的な抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)や市民的・政治的権利に対する全面的な攻撃を開始し、公衆衛生、社会福祉、環境保護といった重要分野での政策を急速に転換させた。外交政策においても、ロシアや中国のような権威主義的なライバル国の侵略に備えて築かれてきた長年の政治的・軍事的同盟を覆している。世界の他の国々では、こうした動きが「競争的権威主義体制」と呼ばれる形態の政治体制を生み出してきた。これは、一見すると民主的な制度が存在しているように見えても、実際には権威主義的な支配が行われている体制を指す。(英語版

トランプの今回の攻撃がどのような結末を迎えるかはまだ分からないが、彼の1期目と現在の状況には重要な違いがあることを強調する必要がある。トランプ1.0は政治的言論や慣習の根幹を揺るがし、彼を勝利に導いた社会の分断をさらに激化させた。しかし、当時のアメリカの政治制度と憲法上の機関は大きく損なわれることなく存続していた。1期目の民主主義への脅威は、議会の反対、司法の判断、報道機関、市民社会によって抑えられていた。共和党内の反発もまた、トランプの権力乱用を制限する重要な要素となっていた。

しかし、現在のトランプ2.0がアメリカ民主主義に与える脅威ははるかに深刻である。それは、単なる政治的慣習の破壊ではなく、法制度や憲法機関そのものを標的にしているからだ。共和党が完全に支配する議会は、独立機関への攻撃、監察官の解任、大量解雇や予算凍結を通じた政府機関の弱体化を許容している。USAID(米国国際開発庁)の実質的な解体が、その象徴的な例だ。上院は、かつては主流から逸脱していると見なされていた人物の政治的高官への任命を容認し、イーロン・マスクによる官僚機構の「改革」に対しても沈黙を保っている。下級裁判所はいくつかの政策を阻止しようとしているが、保守派が多数を占める最高裁がそれを支持するか、あるいはトランプがその判決を無視する可能性も否定できない。さらに、報道機関や市民運動、そして大企業といった、1期目にはトランプの暴走を抑える役割を果たした勢力も、今回は混乱し、萎縮しているように見える。

トランプの圧倒的な行動のスピードと量によって、支持者も反対派も対応が追いつかず、混乱している。明らかに違法な政策もある一方で、法律のグレーゾーンを巧みに利用しており、それが反対勢力の結束を困難にしている。さらに、彼(およびマスク)がすでに行った行政機関の破壊は、回復不可能な影響を及ぼしている可能性がある。例えば、医療、環境、教育、国際援助などの分野では、専門知識の喪失、研究の中断、重要なサービスの停止、国家安全保障への脅威の増大といった形で、その損害はすでに顕在化し始めている。

アメリカが直面している脅威の大きさを理解するには、これを国際的な視点から分析することが有効である。政治学者のステファン・ハガードと筆者は、16か国の「民主主義の後退」の事例を分析し、権威主義的支配を確立した国(ハンガリー、トルコ、ベネズエラ)と、それを防いだ国(ブラジル、アメリカ1期目)に分類した。ブラジルのボルソナロ政権やトランプ1.0のアメリカでは、司法や議会、地方政府の抵抗によって権威主義的な動きが制御されていた。しかし、権威主義化した国では、支配政党が制度を掌握し、それを利用して反対派を無力化し、民主主義を形骸化させていた。

今回のトランプ2.0は、こうした権威主義的な国家のモデルにより近づいている。議会はトランプの権限拡大を容認し、最高裁の独立性には疑念が残り、反対派は分裂し、士気を失っている。

それでも、アメリカが完全に権威主義へ転落したわけではない。いくつかの要因が、トランプの権力掌握を阻んでいる。

第一に、弱体化したとはいえ、憲法上の制度はまだ機能している。下級裁判所は依然としてトランプの政策を遅らせる手段となっており、地方自治体は対抗の拠点となり得る。市民社会も、時間が経つにつれて再び声を上げる可能性がある。メディアも圧力を受けているが、それでもなお、他国の権威主義体制と比べれば強力な批判の場となっている。

第二に、トランプの支持基盤内にも亀裂がある。企業は減税や規制緩和を期待して政権に接近しているが、サプライチェーンの混乱、高関税、移民労働力の縮小、地政学的リスクの増大といった問題に直面するにつれ、反発が強まる可能性がある。特に自動車産業は、輸入制限や鉄鋼関税の影響を受け、共和党支持基盤の州でも経済的不満を引き起こすかもしれない。

第三に、トランプの政策は、彼の有権者にとっても打撃となる可能性がある。貿易政策や移民政策が物価の上昇や雇用不安を引き起こせば、支持の低下につながる。さらに、新たな公衆衛生危機への対応や、ウクライナや中東、アジアの紛争処理に失敗すれば、不満はさらに高まるだろう。

トランプの2期目の政権運営は非常に危険なものであり、すでに国家機能に回復困難な損害を与えている。しかし、彼の権威主義的な野望を阻止できる可能性はまだ残されている。仮にトランプの動きを封じ込められたとしても、アメリカの民主主義が今後長期的に健全な形で存続するためには、新しいアプローチが必要となる。それが成功するかどうかは不透明だが、少なくとも、権威主義への転落を防ぐことができれば、トランプ退場後に公正で強固な民主主義を再建する道は開かれるだろう。

ロバート・R・カウフマンは、ラトガース大学の政治学名誉教授である。彼は、『バックライディング:現代世界における民主主義の退行』(ケンブリッジ大学出版、2021年)の共著者である。

INPS Japan

関連記事:

|視点|トランプ大統領とコットン上院議員は核実験に踏み出せば想定外の難題に直面するだろう(ロバート・ケリー元ロスアラモス国立研究所核兵器アナリスト・IAEA査察官)

|視点|トランプ・ドクトリンの背景にある人種差別主義と例外主義(ジョン・スケールズ・アベリー理論物理学者・平和活動家)

|視点|コフィ・アナン―価値と理想のために犠牲を払った人物(ロベルト・サビオIPS創立者)

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken