ヒマラヤの栄光とリスク

2025年春、記録を追い求める登山隊が続々とヒマラヤへ

【カトマンズNepali Times=ヴィシャド・ラジ・オンタ】

2025年春の登山シーズンが始まり、ヒマラヤの山々における栄光とリスクの微妙な均衡を、早くも思い知らされる事態が起きている。

エベレストは例年どおり最大の注目を集めているが、初登頂から75周年を迎えるアンナプルナでも記録的な数の登山隊が集結しており、カンチェンジュンガの初登頂から70周年となる節目も、多くの登山者に記憶されている。

しかし、気候変動によって一層深刻化しているヒマラヤ登山の危険性が、アンナプルナでの2人の有望な若手高所ガイドの悲劇的な死によって、あらためて突きつけられた。

エベレストはエベレストであるがゆえに、多くの登山者を引きつける。今年すでに22隊、約220人の外国人登山者とガイドがベースキャンプに到着しており、今後その数は450人を超え、2023年の外国人登山者478人という過去最高記録を更新する可能性もある。

登山許可証の料金がこの秋から1万1000ドルから1万5000ドルに引き上げられることもあって、許可証の需要が高まっているようだ。しかし、4000ドルの値上げが登山者数の抑制、すなわちリスクの低減にはつながらないと見られている。

ネパール政府観光局では、登山許可証の発行は毎年4月上旬から開始されるが、登山者たちは数年前から準備を始めているため、これには不満も多い。「これが現在の制度なのです。登山者がネパール到着時にすべての書類が揃っていることを確認したいのです。」と、観光局のゴマ・ライ氏は語った。

Nepali Times
Nepali Times

エベレストではすでに氷河の危険地帯クンブ・アイスフォールに最初のアタックが始まっているが、他のヒマラヤの峰々でも活動は活発だ。標高8485メートルのマカルーでは、すでに登頂に成功したチームも出ている。4月10日にはロープ固定を担当した10人のガイドが、世界第5位の高峰の頂上に到達した。

標高8586メートルで世界第3位のカンチェンジュンガには、インド隊が2隊入っており、インド側からの登山が認められていないため、ネパール側からのアプローチとなっている。その1隊は、エベレストを3度制覇したランヴィール・シン・ジャムワル大佐が率い、「ハル・シカール・ティランガ(すべての州の最高峰にインド国旗を掲げる)」キャンペーンの最後の行程に挑んでいる。

“カンチ”の北壁は天候が読めず技術的にも困難なため、非常に危険である。1953年以来エベレストには1万2884回の登頂がある一方で、カンチェンジュンガは70年でわずか250回の登頂しか記録されていない。

アンナプルナでは4月6~7日にかけて45人が登頂に成功したが、天候の悪化により事態は一変した。7日には雪崩が発生し、ニマ・タシ・シェルパとリマ・リンジェ・シェルパの2人が命を落とした。ともにロープで結ばれていたペンバ・テンドゥク・シェルパは奇跡的に生還した。

「家よりも高い巨大な雪崩でした」と、ペンバは振り返る。「私とクライアントはセラックの真下にいて助かりました。2人が巻き込まれたことに気づきましたが、発見できませんでした。」

4日間にわたりヘリ2機を使って捜索が続けられたが、遠征会社セブンサミット・トレックはついに捜索の打ち切りを決定した。ニマ・タシは、前年エベレストで身動きの取れなくなったマレーシア人登山者を標高8400メートルから背負って救出し、国際的な注目を浴びた“無名の英雄”だった。

しかし今回、アンナプルナでは彼とリマ・リンジェの2人の命が尽きた。セブンサミットは声明で「我々が誇る2人の優秀なシェルパガイドを失いました。これだけの時間が経過した氷の下では生存の可能性はなく、捜索の継続は他のシェルパの命を危険にさらす行為です」と述べた。

アンナプルナは、過去75年間でヒマラヤの峰の中でも最も致死率が高く、登ろうとした者の3人に1人が帰らぬ人となっている。今年も北壁のクレバスが多すぎてロープが足りず、落石や雪崩も例年以上に頻発した。

南アフリカの登山者ジョン・ブラックは、この雪崩に巻き込まれる寸前だった。彼は第3キャンプを出発して間もなく登頂を断念した。

「直感という人もいれば、計算だという人もいますが、私は不安を拭えませんでした」とブラックは語る。実は彼は雪崩に巻き込まれた2人のシェルパと直前にチョコレートを分け合っていた。「これは、リスクが現実であること、そして状況が一瞬で変わることを突きつける警告です。」

この雪崩の後、緊急事態でないにもかかわらず、一部の登山者がヘリで北壁から撤退したことには批判も集まっている。

近年のヒマラヤ登山では、未熟な登山者が増加しており、自身のみならずガイドや他の登山者にも危険を及ぼしている。苦しいときに撤退の判断ができない者も多い。

「アイゼンを使いこなせない人もいれば、岩や氷を登る基本的な技術すら身に付いていない人もいました」とブラックは言う。「技術がないうえに、動きが遅く、困難な地形で効率的に進むことができないのです。アンナプルナのような山では、スピードこそが危険にさらされる時間を減らす唯一の手段です。」

この傾向に拍車をかけているのが、SNSを通じた即時満足への欲求だ。ヒマラヤ登山の本来の挑戦は、「インスタグラムの登頂自慢」へと変質し、遠征会社も顧客の希望に応じざるを得なくなっている。

もう一つの論争を呼んでいるのは、イギリス軍退役兵による4人組の登山隊である。彼らは登山前にキセノンガスを吸引して赤血球の増加を図っており、「実験」とされているが、これはアンチ・ドーピング機関が禁止しているパフォーマンス向上手段である。

スリランカのIT技術者ディマンタ・ディラン・テヌワラは、美しいアマ・ダブラム登頂を目指している。スリランカとネパールの国旗を山頂に掲げ、ネパールの民族衣装ダウラ・スルワルを着て登る予定だ。「南アジアの団結による繁栄」というメッセージを伝えたいという。

テヌワラは、2004年のスリランカ津波で父親を亡くした元“甘やかされた子ども”だった。その悲劇が、彼の登山の原動力となっている。

「この遠征は、20年前に始まった私の使命です」と語るテヌワラは、自立のために技術学校に通い、自ら資金を工面してこの旅に臨んでいる。アマ・ダブラムは、年内に計画しているK2遠征の準備でもある。

注目すべき遠征のもうひとつは、スロバキアのピーター・ハモールとイタリア人カップルのニヴェス・メロイ&ロマーノ・ベネットのチームで、カンチェンジュンガ山塊の7590メートル峰ヤルンピークで新ルート開拓を試みている。

また、イギリス人2人によるチームはすでにエベレスト・ベースキャンプに入り、ローツェフェイスを登ったのち、ウィングスーツで山から飛び降りる挑戦を再び試みようとしている。(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

関連記事:

雨漏りする屋根: 「アジアの世紀」脅かすヒマラヤ融解

ヒマラヤ山脈の氷河、融解速まる

ネパールのエネルギー転換に適した環境

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken