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中東戦争が北朝鮮の核戦力増強に拍車

【国連IPS=タリフ・ディーン】 米国、イスラエル、パレスチナ、イラン、レバノンを巻き込む中東の軍事衝突が、間接的に北朝鮮の核戦力増強を後押ししている。北朝鮮の金正恩総書記は、米国によるイラン攻撃が自国の軍事力強化を正当化するものだと主張し、トランプ大統領の外交政策によって形づくられる世界の中で、それが最終的に自国の安全確保につながるとの認識を示したと伝えられている。 先週のニューヨーク・タイムズ紙は、「中東戦争から教訓、北朝鮮が新兵器を実験」との見出しで報じた。記事によれば、実験された兵器には、クラスター弾や黒鉛爆弾の弾頭を搭載したミサイルも含まれていた。いずれも中東で使用が確認されている兵器に類似しているという。こうした動きは、北朝鮮が中東戦争から軍事的教訓を引き出そうとしていることをうかがわせる。 トランプ大統領が金総書記との会談に意欲を示す中、金総書記は、米国が北朝鮮を正式な核保有国として認めるのであれば会談に応じる考えを示した。また、イラクやリビアの指導者たちは、もし核抑止力を持っていれば米国の攻撃を受けずに済んだはずだとも主張した。昨年2月の演説では、「米国が対朝鮮敵視政策を撤回し、われわれの現在の(核)地位を尊重するなら、米国とうまくやっていけない理由はない」と述べている。 トランプ氏は第1次政権期の2017年から2021年にかけて金総書記と3度会談した。2018年6月のシンガポール、2019年2月のハノイでの首脳会談に続き、同年6月には非武装地帯(DMZ)で短時間の会談も行った。この際、トランプ氏は現職の米大統領として初めて北朝鮮に足を踏み入れた。 一方、ワシントンのスティムソン・センターは、主として国連安全保障理事会を通じて課された厳しい国際経済制裁にもかかわらず、北朝鮮の核・ミサイル開発や核ドクトリンの整備は著しく進展してきたと指摘している。特に、トランプ政権との交渉が2018~2019年に停滞して以降、その傾向が際立っているという。非核化は交渉の対象ではないとの北朝鮮の立場は、2026年2月に開かれた最近の党大会でも改めて強調された。 カナダのブリティッシュコロンビア大学で公共政策・グローバル問題大学院の暫定院長を務めるM・V・ラマナ博士はIPSの取材に対し、米国とイスラエルによるイラン攻撃は挑発を受けていない一方的なものであり、各国が核兵器の取得に向かう誘因をさらに強めていると語った。 ラマナ博士は、「そうした核兵器の取得が、常に国家を守る保証になるわけではない。とりわけ、米国のような軍事大国がこれほど好戦的に振る舞う状況では、なおさらだ。」と指摘した。そのうえで、「進むべき道はそこではない。各国が軍事的暴力や他国への攻撃に訴えるのではなく、相違を平和的かつ外交的手段で解決することにこそ、努力を集中すべきである。」と述べた。さらに、各国指導部の多くは必ずしもそうした方向を向いていないかもしれないが、政府をより平和な方向へ導くうえで、市民社会や社会運動の役割は重要だと強調した。 英紙ガーディアンによれば、国連の原子力監視機関トップは、北朝鮮がさらなる核兵器製造能力の面で「極めて深刻な」進展を遂げていると述べた。これは、体制維持のために核戦力を活用しようとする北朝鮮の姿勢を示す新たな兆候だという。 北朝鮮は約50発の核弾頭を保有しているとみられているが、それらを長距離弾道ミサイルに搭載できるほど小型化しているとの主張には懐疑的な専門家もいる。国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長はソウル訪問中、北朝鮮の主要核施設である寧辺で活動が急速に活発化しているとの報告を確認した。グロッシ事務局長によれば、寧辺の5メガワット原子炉、再処理施設、軽水炉などで作業が強化されており、北朝鮮は数十発規模の核弾頭を保有しているとみられる。 一方、「World Beyond War」および「宇宙における兵器と原子力に反対するグローバル・ネットワーク」の理事を務め、「核時代平和財団」の国連NGO代表でもあるアリス・スレーター氏はIPSの取材に対し、イラクやリビアを破壊した米国の行動を踏まえれば、北朝鮮が軍事力強化を正当化するのは理解できるにもかかわらず、今回もまた北朝鮮だけが「ならず者国家」として扱われていると語った。 スレーター氏によれば、北朝鮮は2016年、国連総会第1委員会で核兵器禁止条約の交渉開始を支持した唯一の核保有国だった。だが、その事実はほとんど報じられていない。この交渉を経て、2017年に核兵器禁止条約が採択された。これに対し、すべての核保有国と米国の「核の傘」の下にある国々は交渉会議をボイコットし、例外は議会の採決で出席を義務づけられたオランダだけだったという。スレーター氏は、「本当のならず者国家はどちらなのか。」と問いかけた。 スレーター氏はまた、退役軍人情報専門家協会(Veteran Intelligence Professionals for Sanity)の創設者レイ・マクガヴァン氏が、軍・産業・議会・情報機関・メディア・学界・シンクタンクの複合体(MICIMATT)の一角とみなす報道が、核兵器のさらなる拡散の危険性ばかりを喧伝していると批判する。その一方で、加速する核軍拡競争や、米国による宇宙兵器化の動きに歯止めをかける機会には、ほとんど目が向けられていないという。そうした動きの象徴として挙げられるのが、今後数年間で1500億ドル規模に達すると見積もられる米国の「ゴールデン・ドーム」構想である。 スレーター氏はさらに、「宇宙を平和の場として維持することと、ロシアと中国が核軍縮交渉に応じる意思との間には、明確なつながりがある」と指摘する。それは、ゴルバチョフがレーガン大統領に対し、米国が『ビジョン2020』に示した宇宙支配構想を放棄するのであれば、米ソ両国の核兵器廃絶に応じると提案した時代にまでさかのぼる。だがレーガン大統領は、核廃絶の考え自体には好意的だったものの、「スター・ウォーズ」構想を断念しようとはしなかった。 ロシアと中国は2014年と2018年、ジュネーブの国連軍縮会議で、宇宙空間への兵器配備と武力行使の防止に関する条約案を提出した。だが、米国はこれを阻み、協議そのものにも応じなかった。さらに両国は、2025年5月の第2次世界大戦終結80年に際して、世界的な協力を呼びかける提案を公表し、「国連の中心的な調整役割」を支持するとともに、「戦略的安定性」を高めるための複数の措置を打ち出した。とりわけ、米国の「ゴールデン・ドーム」計画を批判し、自ら提案してきた条約案に基づく法的拘束力のある多国間文書の締結に向けた交渉を早期に開始する必要があると訴えた。さらに、「宇宙空間に最初に兵器を配備しない」との国際的な誓約を推進していく姿勢も示した。 スレーター氏は、世界の平和運動と軍備管理運動がこの呼びかけを真剣に受け止め、宇宙を兵器や戦争のない空間として維持するための条約交渉に各国政府が参加するよう促せば、核兵器廃絶に向けた新たな道が開かれる可能性があると述べ、「いまこそ平和に機会を与える時だ。」と訴えた。 一方、核不拡散条約(NPT)の締約国は、2026年4月27日から5月22日まで国連本部で開かれる2026年NPT運用検討会議に臨む。今回の運用検討会議は、核兵器保有国が関与する武力紛争、とりわけロシアによるウクライナ侵攻と米国・イスラエルによるイラン侵攻によって核の脅威が高まる中で開かれる。 核不拡散・軍縮のための国会議員連盟(PNND)は、「このため、ニューヨークでの審議と交渉はきわめて困難になるだろう。しかし同時に、きわめて重要でもある」と指摘している。PNNDは、核リスクの低減、核軍備管理、共通の安全保障、そして核兵器の世界的廃絶の前進を通じてNPTを支えるため、各国議会での活動とも連携しながら、今回の運用検討会議に積極的に関与していく方針だ。(原文へ) INPS Japan 関連記事: 「力こそ正義」の新世界秩序 軍事支出の増大を止める機会を逸してきた代償 世界の核保有国による核実験の後遺症は、膨大な数に及ぶ被害者に壊滅的な影響を与え続けている

森林なくして、経済なし

森林産品への需要が高まるなか、自然を守り育てる持続可能な管理を 【カトマンズNepali Times=ジーミン・ウー】 お金が木になるわけではない。だが、私たちの繁栄の多くは木々に支えられている。 森林は、何兆ドル規模もの経済活動や何百万という雇用、そして私たちが口にする食べ物、吸う空気、依拠する気候といった不可欠な基盤を、静かに支えている。現実には、健全な森林なしに世界経済は成り立たない。 森林の価値は、木材にとどまらない。森林は土壌を安定させ、農業・食料システムや産業生産に欠かせない水を調節し、エネルギーや多様な森林産品を供給し、さらにレクリエーションやエコツーリズムの場も生み出している。 森林セクターだけでも、世界経済に年間約1兆5200億ドルの価値をもたらしていると推計される。さらに、世界の国内総生産(GDP)の半分以上にあたる約44兆ドルが、森林を含む自然に依存している。 20億人以上にとって、薪などの木質燃料は調理や暖房に欠かせない。さらに数億人が、生計を森林に直接依存している。木材以外にも、森林は食料、薬用資源、樹脂、繊維、飼料、観賞用植物を提供しており、世界で約58億人を支えている。こうした非木材林産物の価値は、少なくとも年間94億1000万ドルにのぼり、今後さらに拡大する可能性がある。 森林は炭素を蓄えることで、数十億ドル規模の損失をもたらしかねない気候変動の影響から経済を守る役割も果たしている。たとえばブラジルでは、熱帯林を農地に転換した結果、蒸発散、すなわち地表から大気へ水分が移動する働きが30%低下し、地域の気温上昇と天水農業へのリスク増大を招いている。森林がなければ、世界の食料生産は持続しえない。 さらに森林は、世界が鉄鋼やコンクリート、プラスチックといった高排出資材に代わる、気候にやさしい代替素材を基盤とするバイオエコノミーへと移行し始めるなかで、自然に根ざした解決策の一部でもある。人口が増加するなか、住宅建設に用いられる再生可能で持続可能な木材は、低炭素経済の柱となりうる。木材由来の繊維、食品包装材、さらには透明な「ガラス」に相当する新素材まで、すでに実用化されている。 これは、すでに過去最高水準にある森林産品への需要が、今後さらに増加することを意味する。たとえば2050年までに、世界は工業用丸太を10億立方メートル必要とする可能性がある。現在の年間生産量は40億立方メートルだが、そこにさらに需要が上積みされることになる。 もっとも、森林はすでに大きな圧力にさらされている。陸上生物多様性の最大80%が森林に生息しているにもかかわらず、森林減少と森林劣化の進行は世界全体で鈍化しつつあるとはいえ、なお他の経済用途のために伐採や転用が続いている。 気候変動が深刻化するなか、未来の世界経済は、より持続可能で、より循環型で、より自然と結びついたものへと変わらなければならない。そのためには、保全と生産を対立するものとしてではなく、一体のものとして結びつける必要がある。 国連食糧農業機関(FAO)は、生計を支え、生態系サービスを提供し、持続可能な産品を生み出す健全な森林というビジョンを実現するために必要な具体的措置を推進している。 まず重要なのは、需要の増大に応えることが、自然の再生能力を超えて資源を利用することを意味しないようにすることである。木材をより効率的に使い、木材製品のリサイクルと再利用を賢く進めれば、森林への圧力を軽減できる。 木造建築のように長期にわたって利用される用途では、炭素が数十年にわたり固定され、伐採された一本一本の丸太をより有効に活用できる。木材や非木材林産物の採取を生態学的限界の範囲内にとどめ、森林生態系の健全性を維持するうえで、持続可能な森林管理は不可欠である。 国際貿易もまた、世界の需給バランスを調整し、森林資源の豊かな地域が資源の乏しい地域を支えることを可能にする。だが、その前提として、貿易は強固な持続可能性基準と適切なガバナンスに支えられていなければならない。森林減少や非木材林産物の過剰採取を防ぎ、地域社会が確実に利益を得られるようにするためである。 また、小規模生産者から大規模生産者に至るまで、森林を守り責任ある管理を行う人々に報いるうえで、奨励制度や革新的な資金調達の仕組みも役立つ。 木材や竹などの再生可能資源を基盤とする拡大するバイオエコノミーは、さらなる発展の準備が整っており、有望な道筋を示している。ただし、それはあくまで持続可能な林業にしっかり根ざしている場合に限られる。そのためには、セーフガード、明確なルール、そして適切なガバナンスが不可欠である。 3月21日の「国際森林デー」にあたり、ひとつの結論が鮮明に浮かび上がる。森林なくして、経済は成り立たない。いま下される決定が、森林を守りながら、同時に将来世代のために強靱な経済を築けるかどうかを左右するのである。(原文へ) ジーミン・ウーは、国連食糧農業機関(FAO)林業部門ディレクター兼事務局長補である。 INPS Japan 関連記事 |アフリカ|森林景観を復興するには大きな後押しが必要 森林破壊と生命多様性喪失の代償 ケニアの環境保護活動家を追悼し、地球への投資を呼びかける

|視点|核兵器の先制不使用政策:リスク低減への道(相島智彦創価学会インタナショナル平和運動局長)

【東京IDN=相島智彦】 この夏に開かれた核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議では、最終文書の採択には至らなかったが、核兵器使用のリスクを減らすための議論が繰り返されたことは、わずかではあるが希望となった。核兵器の先制不使用(NFU)の方針が、会議の歴史で初めて最終文書案の中で言及されたのである。 核軍縮の進展が止まったこの最も激動の年に、核リスク低減に関する多国間での進展があったことを認識することができる。 第一委員会の一般討論の初日(10月3日)、中満泉・国連軍縮担当上級代表は次のように述べた。「私はすべての核兵器保有国に対し、人類を絶滅の危機から救うための緊急措置として、いかなる核兵器についても先制不使用を約束するよう緊急に訴える」。この呼びかけは、8月のNPT再検討会議において、多くの非核保有国や市民社会の代表が上げた深い懸念の声と完全に調和している。 池田大作SGI会長は、NPTの核兵器国5カ国(P5)に対し、1月の核戦争防止に関する共同声明を順守し、「先制不使用」の原則を直ちに宣言するよう促した。また、核兵器を保有するすべての国や核依存国の安全保障政策として普遍化するよう求めた。 第一委員会の討議に参加した国の発言には、この文脈で重要なものがいくつもある。まず、すでにNFUを宣言しているインドと中国の2つの核保有国が、この政策を世界の理想像として推進していることである。そして、中国は、核保有国は核兵器の先制不使用を約束すべきであるとし、P5に対して、核兵器の相互先制不使用に関する条約を制定することを促した。 また、米国は、核政策においてリスク低減の追求を優先させるとしている。これに対してロシアは、自国の核抑止政策は純粋な防衛的性格のものであると宣言している。また、英仏は、「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」とした1月の共同声明に引き続きコミットすることを表明している。これは核軍縮の努力を長年支えてきた精神であり、国際社会が厳粛に見守る中で行われたこれらの声明に見合った行動をとることが肝要である。 リスクの低減は軍縮と同じではないが、「先制不使用」の姿勢を貫くことで、安全保障政策における核兵器の役割を低減することができる。これは、世界的なイデオロギーの闘争によって高められた緊張を和らげ、すべての当事者が崖っぷちから一歩下がり、恐怖と不信による自縄自縛の連鎖を断ち切って、核軍縮に向けた有意義な交渉を再開させるための条件を整えることができるだろう。 釈尊が水利権をめぐる2つのコミュニティーの対立を調停したときの言葉は次のようなものである。「殺そうと争闘する人々を見よ。武器を執って打とうとしたことから恐怖が生じたのである」(『ブッダのことば』中村元訳、岩波文庫)。 この言葉は、軍備を増強することで、真の意味で持続的な安全保障を実現することはできず、むしろ恐怖感や相互不信、危険性を増大させるという現実を証明している。中満氏が指摘するように、核兵器の場合、その危険性は人類の存亡に関わるものである。 この機会を捉えて、すべての国が核保有国の先制不使用を求め、この原則を支持することで、消極的安全保障をすべての非核兵器国に事実上、拡大することが必要である。 核兵器のない世界の実現は、人類社会のすべての構成員に固有の生存権を保障するために、実現しなければならない重要な目標であることは言うまでもない。核兵器は決して使われてはならず、この悲惨な事態を防ぐために有効な手段を講じるという明確な認識こそが、この目標への道筋を支えるのである。(原文へ) INPS Japan 関連記事: |NPT再検討会議|サイドイベントで核兵器先制不使用を要求 核不拡散条約再検討会議、失敗に終わる 核兵器がわれわれを滅ぼす前にわれわれが核兵器を廃絶しよう。

|ウズベキスタン|ナウルズに響く文化のモザイクと若者たちの旋律

【タシケントINS Japan/London Post=グルミラ・シュクロワ】 きょう、ウズベキスタン・ジャーナリズム・マスコミュニケーション大学に春が訪れ、私の心もまた春の息吹に包まれた。キャンパスでは、「ナウルズ(=ナウルーズ)の精神とアミール・ティムール帝国の文化」をテーマに、華やかな祝祭が繰り広げられていた。しかし、それは単なる催しではなかった。祖国と伝統、春とそれを育む大地、そして訪れるすべての人々が、ウズベク文化の時を超えた美しさの中で出会う、愛に満ちたひとときであった。 そこにあったのは、誇りに満ち、伝統が息づく文化の祭典であった。教員と学生たちは大学を壮大な文化の祭典へと変え、20を超えるパビリオンがそれぞれ異なる民族の文化を紹介していた。きらめく絹の民族衣装から、伝統料理の滋味豊かな香りに至るまで、キャンパスのあらゆる場所が一つの物語を語っていた。情熱と誇りをまとった学生たちは、古くからの風習、貴重な工芸品、春の空気に響き渡る民俗芸能を来場者に紹介する、いきいきとした語り部となっていた。一本の糸、一粒の香辛料、一つひとつの旋律が故郷をささやくようで、私はこの国への愛おしさで胸がいっぱいになった。 祭典には、各国大使、海外からの来賓、ウズベキスタン高等教育・科学・イノベーション相、政府関係者、メディア関係者、そして多くの熱意あふれる学生たちが集った。参加者は、演劇仕立ての寸劇、手仕事による装飾、歴史の一場面から響いてくるような旋律に彩られた、多彩な展示を巡った。なかでも私の心を最も動かしたのは、若者から年配者まで、人々が自らのルーツをこれほど誇らかに受け止めている姿であった。一つひとつのほほ笑み、刺繍を施した衣装の袖、古くから伝わる歌の一節一節に、心を奪われずにはいられなかった。 大学そのものが春への詩となり、私はその空気までも愛おしく感じている自分に気づいた。創造的な活気は人々へと広がり、キャンパスはまさに文化のモザイクとなった。それは多様性の祝祭であると同時に、調和の祝祭でもあった。穏やかなナウルーズの陽光の下で、民族間の結束、寛容、共有された価値は、単なるスローガンではなく、人々が実際に生きる現実としてそこにあった。この大地に生まれた者として、私は涙が込み上げるほどの祖国への誇りを感じた。これこそがウズベキスタンである。多くの心が一つになって鼓動し、あらゆる文化が大切な客人として迎えられ、春が単なる季節ではなく、帰郷のように訪れる国なのである。 この集いは、祝日の楽しいひとときにとどまらず、人々に愛される伝統へと育ってきた。共同体の絆を強め、春がもたらす本当の力は再生と連帯にあることを、すべての人に思い起こさせるものでもある。深紅のベルベットのドレスをまとった若いウズベクの少女が、外国からの来賓に優雅に茶を差し出す姿を見たとき、私の胸は温かな思いで満たされた。学生たちが伝統的な帽子を年配の教授の頭にそっと載せると、教授が涙をぬぐう場面もあった。合唱団が5つの言語でナウルーズの歌を歌うのを聞きながら、私は祖国を愛するとはどういうことかを悟った。それは旗や演説によって示されるものではない。こうして静かに、喜びとともに、自らの文化遺産を分かち合うことなのである。 古代から伝わる旋律の胸に迫る響きから、料理を囲む人々の笑い声まで、この催しは幾世紀にもわたる時を一つにつないでいた。ナウルズの華やぎとアミール・ティムール帝国の不屈の精神は、現代の息吹と見事に溶け合い、すべての来場者の心に忘れがたい記憶を残した。そして、喜びの中で分かち合われる文化こそが、平和を語る最も誠実な言葉であるという静かな理解をもたらした。 しかし私にとって、それはさらに深い意味を持っていた。人々の中に立ちながら、私はこの祝祭を一つの愛の表明として受け止めた。春への愛、伝統への愛、きらめく衣装をまとった少女たちへの愛、ドゥタールを奏でる少年たちへの愛。そして何より、ウズベキスタンへの愛である。この国は、美と愛国心が別々のものではなく、同じ鼓動の中に息づくものだということを、私に教えてくれた。 太陽が屋根の向こうへ沈み、最後のパビリオンが敷物をたたむ頃、私は満ち足りた心でその場を後にした。そして、この愛をいつまでも胸に抱き続けようと、静かに心に誓った。なぜなら、この祭典は単なる一日ではなかったからである。それは、ウズベク人であるということが、春を愛し、人々を愛し、魂を揺さぶるほど豊かな文化とともに生きることなのだと、改めて思い出させてくれる一日であった。(原文へ) INPS Japan 関連記事: アスタナのナウルズ舞踏会、外交・伝統・再生を鮮やかに体現 闇に対する光の勝利を祝う タジキスタン探訪:未踏の自然美と文化遺産を解き明かす旅 |アゼルバイジャン|国際バカロレア(IB)認定校の生徒がナウルーズで多文化共生をアピール

骨折も出血もなければ犯罪ではない

タリバン新刑法が女性への暴力をどう扱うか 筆者は、タリバン復権前にフィンランドの支援を受けて研修を受けた、アフガニスタン在住の女性ジャーナリストである。安全上の理由から氏名は伏せられている。 【カブール IPS=匿名】 タリバンは、女性と子どもに対する家庭内暴力を事実上合法化する新たな法律を発表した。アフガニスタンの最高指導者ムッラー・ヒバトゥラー・アクンザダは1月、新たな刑法を導入する布告に署名した。この刑法は3部、10章、119条で構成され、暴力を合法化し、社会的不平等を制度化するとともに、奴隷制への回帰として広く非難される懲罰的措置を盛り込んでいる。 「これらの法律は、女性に対するさらなる攻撃であり、人権を露骨に侵害するものです」と、アフガニスタン国内で活動する女性の権利活動家ミトラさん(プライバシー保護のため仮名)は語る。 この法律は、複数の団体やメディアによって外部に漏れ、公にされた。人びと、とりわけ女性たちは衝撃を受けている。しかし、行動を起こすことも、声を上げることもできない。新刑法の下では、タリバン支配に反対したり、否定的に語ったりすること自体が犯罪とみなされ、刑事罰の対象となり得るからだ。 タリバン刑法第32条によれば、夫には妻や子どもを身体的に「しつける」権利が認められている。骨折がなく、目に見える出血もなければ、男性の行為は犯罪とはみなされず、刑事罰も科されない。 たとえ女性への暴力によって目に見える傷や骨折が生じたことが法廷で証明されたとしても、男性に科される刑罰は最長15日の禁錮にとどまる。 このタリバンの法律は、家庭内暴力を事実上合法化し、女性が司法に訴える道を閉ざすものとなっている。 また、同刑法第34条によれば、女性が夫の許可なく繰り返し父親の家や親族を訪ね、夫の家に戻らない場合、その女性と家族の双方が犯罪を犯したとみなされる。刑罰は最長3カ月の禁錮である。 新法の下では、妻が夫に従わない場合、夫には暴力によって妻を罰する権利が認められている。 このタリバンの布告は、脅迫や家庭内暴力に直面している場合であっても、女性にあらゆる状況で家にとどまることを強いるものだ。女性はもはや、自分の実家に身を寄せ、保護や避難を求めることさえできない。 人権団体ラワダリの文書によれば、タリバン刑法は2026年1月7日、ムッラー・ヒバトゥラー・アクンザダによって署名され、その後、施行のため各州の司法機関に配布された。 タリバンが出す布告は通常、司法機関の内部で秘密裏に保持され、一般市民にはモスクや地域の長老を通じて伝えられる。市民がその内容を知るのは、メディアや人権団体が文書を入手し、公表した場合に限られる。 タリバン支配の下で、アフガニスタン社会は事実上4つの階層に分けられている。犯罪に対する処罰は、犯罪そのものの性質ではなく、加害者の社会的地位によって左右される。 最上位に置かれるのは宗教学者であり、彼らには刑事罰ではなく、助言や注意が与えられるにとどまる。 次に位置づけられるのは、支配層に属する有力者たちである。村の長老や裕福な商人などがこれに含まれる。彼らには軽い処罰基準が適用され、通常は禁錮刑を免れる。 中間層にはより厳しい処罰が科される。そして最下層に置かれる人びとには、公開むち打ちや過酷な禁錮刑が科される可能性がある。 新法はまた、「自由人」と区別する形で、奴隷を指す用語も用いている。アフガニスタンでは1923年に奴隷制が公式に廃止された。しかし新刑法の下では、人を奴隷のように扱う考え方が再び通常の慣行として位置づけられている。 たとえば、主人には従属する者をしつける法的権利があり、夫には妻をしつける権利があるとされる。これは、法の下の平等という原則を事実上解体するものだ。 ミトラさんは、これらのタリバン法は女性に対する明白な攻撃であり、あらゆる人権を侵害していると指摘する。こうした規則の施行によって、タリバンは女性を家の中に閉じ込め、どのような虐待にも沈黙して耐えることを強いているという。 「タリバンが第32条と第34条に記した内容は、身の毛がよだつものです。タリバンは女性を性的対象としてしか見ていません。これらの法律は、女性に対するあらゆる形の暴力を正当化するものです。女性は正義を求めることも、父親や兄弟の家に避難することもできません。実質的には、家庭内暴力の重圧の下で、女性を公式に監禁するものです」と、ミトラさんは語る。 これらの規定は、十分な議論もなく起草され、社会的な議論も国民の関与もほとんどないまま施行された。その存在が明らかになったのは、人権団体ラワダリが法律文書を入手し、パシュトー語のウェブサイトで公表したためである。署名後まもなく、同法はタリバンが運営する裁判所で処理されるよう、各州に送付された。 バダフシャン州ラーグ地区の住民マリヤムさんは、タリバンの法律が地元のムッラーによってモスクで告知されると、直ちに地区や村で施行され、すべての事件がその規則に基づいて裁かれると指摘する。 「私たちの村では、ほとんどの人が読み書きできません。教育を受けている人や女性の権利について知っている人でさえ、恐ろしくて何も言えません。たった一言でも口にすれば、地元の人びとがその人に敵対し、問題が起きます。女性たちはほかに選択肢がないため、夫の言うことを何でも受け入れざるを得ません」と、マリヤムさんは語る。 タリバンがアフガニスタンを掌握して以来、同勢力は人権を一貫して侵害する布告や法律を出し続け、女性を家の中に閉じ込めてきた。だが今回はさらに踏み込み、女性に対するあらゆる暴力に法的正当性を与えたのである。 ミトラさんは、すべての人権団体と国際社会に対し、タリバンのこうした行為に立ち向かい、女性たちが前時代的な奴隷制同然の制度に引き戻されることを許してはならないと訴えている。そして、世界がアフガニスタンの女性たちと連帯しなければ、彼女たちは取り返しのつかない状況に追い込まれ、深刻な人道危機に直面することになると警告している。(原文へ) INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: 沈黙か抵抗か―タリバン下で闘う若きアフガン女性テコンドー指導者 才能の浪費:タリバンの制約下で「適応」を迫られるアフガンの高学歴女性たち

NPT再検討会議が開幕、イランめぐる対立で「コンセンサス」の脆弱性露呈

【国連本部INPS Japan/ATN=アハメド・ファティ】 核兵器不拡散条約(NPT)の2026年再検討会議が4月27日(月)、ニューヨークの国連本部で開幕した。世界が再び核の危険に向かいつつあるとの警告が相次ぐ中、開幕早々、イランの副議長職をめぐる対立が表面化し、NPTのコンセンサス重視の枠組みの下に潜む政治的脆弱性を露呈した。 アントニオ・グテーレス国連事務総長は各国代表に対し、核時代をめぐる記憶が危険なほど風化しつつあると警鐘を鳴らした。かつて子どもたちは机の下に身を隠す訓練を受け、核攻撃に備えたシェルターが建設され、核実験は地域社会と環境に甚大な被害をもたらした。核の脅威や軍拡競争、不信が再び強まる中で、そうした記憶は薄れつつある、とグテーレス氏は指摘した。 グテーレス氏は各国に対し、NPT上の義務を履行し、保障措置を強化し、核戦争を防止するとともに、人工知能(AI)や量子コンピューティングを含む新たなリスクに対応できるよう条約を適応させることを求めた。その訴えは明快だった。世界は、知らぬ間に再び核の危険へと向かう余裕などない、というものである。 第11回再検討会議の議長を務めるベトナムのドー・フン・ヴィエト大使も、冒頭から強い危機感を示した。世界の軍事支出は過去最高水準に達し、核兵器は近代化・増強され、軍備管理の枠組みは弱体化している。核兵器使用の可能性は、もはや外交官や軍事計画担当者が想定する最悪のシナリオの中だけにとどまらない、と同氏は述べた。さらに、NPT締約国がコンセンサスに基づく最終文書に合意できたのは2010年が最後であることも指摘した。 「これは単なる会議ではない」とヴィエト氏は各国代表に語り、その成否は国連の壁の内側にとどまらず、今後5年間を超えて影響を及ぼすと警告した。 しかし、最初の本格的な試練は、軍縮に関する文言や最終文書をめぐるものではなかった。焦点となったのはイランだった。 米国は、イランが会議の副議長の一人に選出されたことに異議を唱えた。米国は、保障措置や国際原子力機関(IAEA)との協力をめぐるイランの実績を踏まえれば、同国はNPT体制を守ることを使命とする会議で指導的役割を担うにふさわしくないと主張した。さらに、イランは条約上の義務を軽視し、IAEAに十分協力せず、正当な民生上の必要性を大きく超える水準までウラン濃縮を進めていると非難した。 オーストラリアも米国の異議を支持し、イランはIAEAに協力せず、保障措置上の義務を尊重していないと述べた。英国も英仏独3カ国を代表して発言し、イランが会議指導部に加わったことへの懸念を公式記録に残した。 アラブ首長国連邦(UAE)は、地域諸国の中でもとりわけ厳しい異議を表明した。UAEは、イランの行動が再検討会議の信頼性を損なっていると述べ、同国が検証を妨害し、地域を不安定化させ、航行の自由を脅かし、ホルムズ海峡を経済的威圧の手段として利用しようとしていると非難した。 イランはこれらの非難を退け、政治的動機に基づくものであり、会議の進行を操作しようとするものだと反論した。テヘランは、2015年の核合意からの米国の離脱、米国による核戦力の近代化、イスラエルへの支援、さらに、保障措置下にあるイランの核施設への攻撃とされる行為を挙げ、ワシントンの二重基準を批判した。またイランは、米国とオーストラリアの副議長選出についても、同意しない立場を示した。 その後、ロシアはイランを公然と標的にする動きに反発し、会議初日から政治問題化すべきではないと警告した。モスクワは、懸念事項は一般討論や主要委員会の場で扱うべきであり、一締約国に対する政治的攻撃として持ち込むべきではないと述べた。 この対立は採決には至らなかった。代わりに、異議を唱えた国々が異議を公式記録に残すことが認められた。これにより、NPTが長年維持してきたコンセンサスの慣行は守られたものの、政治的な傷口は開いたままとなった。 この問題は、ヴィエト氏が記者会見場に移った後も尾を引いた。 同日遅くに開かれた記者会見で、ATNニュースはヴィエト氏に対し、核問題に関わる主要国、地域グループ、締約国との数カ月に及ぶ協議を経ても、なぜイランの立候補を事前に収拾できなかったのかと質問した。とりわけ、2025年にイランが関与した紛争後の緊迫した政治環境を踏まえた問いだった。 ヴィエト氏は、イランは数カ月前、非同盟運動(NAM)によって副議長候補の一団の一部として指名されたと説明した。ただ、その立候補に対する懸念が表面化したのは、会議開幕の約1週間前だったという。同氏は、規則上、各国は無記名投票を含む採決を求めることができると述べる一方、NPT再検討会議では、手続き上または実質的な問題について、これまで採決が行われたことはないと指摘した。 ヴィエト氏は、多くの締約国の支援を受けながら、採決の回避に努めたと述べた。採決に踏み切れば、条約のコンセンサスに基づくプロセスに有害な前例を残す可能性があったためである。その結果、各国は決定に同調しない立場を記録に残すことで合意した。 この説明は、会議が抱える中心的なジレンマを端的に示していた。NPTが権威あるメッセージを発するにはコンセンサスが不可欠である。一方で、コンセンサスは外交上の圧力弁にもなり得る。各国が決裂を回避しつつも、根底にある対立を未解決のまま残すことを可能にするからである。 ヴィエト氏は、NPT体制が平穏な状況にあるとは見ていなかった。同氏は記者団に対し、NPT体制はその歴史上、最も困難な局面の一つに直面しており、条約の存在意義と信頼性が問われていると述べた。また、過去2回の再検討会議が成果文書でコンセンサスに達しなかったことを踏まえ、今回の会議では、履行を強化するための実践的かつ具体的な措置を打ち出す必要があると強調した。 合意に基づく成果文書を得られない会議でも成功とみなし得るのかと問われると、ヴィエト氏は、コンセンサスによる成果文書こそが締約国間の合意を最も明確に示すものだと述べた。3回連続で合意に至らなければ、NPT体制の信頼性と強さについて極めて憂慮すべきメッセージを発することになる、と同氏は警告した。 1970年に発効したNPTは、不拡散、核軍縮、原子力の平和利用という三つの柱に基づいている。核兵器の拡散を抑制する中核的な法的枠組みであり続けている。しかし4月27日の開幕は、これら三つの柱すべてが大きな圧力にさらされている現実を示した。 核兵器国は核戦力の近代化を進めている。軍備管理協定は弱体化している。北朝鮮はNPTの枠外にとどまり、核開発を続けている。イランは、保障措置とウラン濃縮をめぐる深刻な対立の中心にある。ロシアによるウクライナ戦争は、核による威嚇と原子力施設の安全という問題を、国際安全保障の中心課題として再び浮上させた。中東では、1995年NPT再検討・延長会議で採択された「中東に関する決議」が求めた、核兵器およびその他の大量破壊兵器のない地帯の創設がいまだ実現せず、影を落とし続けている。 一般討論では、ウクライナと同国を支持する国々が、ロシアによる戦争、核をめぐる威嚇、ザポリージャ原子力発電所の占拠を非難した。フランスと北欧諸国は、ロシア、中国、イラン、北朝鮮をめぐる懸念を表明した。オーストラリアは、AUKUSに基づく原子力推進潜水艦計画について透明性を強調し、同計画が不拡散体制の強化につながるようIAEAと協力していると述べた。カザフスタンと中央アジア諸国は、非核兵器地帯を実践的なモデルとして示し、途上国は保健、農業、エネルギー、開発のために原子力技術を平和利用する権利を強調した。 今のところ、会議はイランをめぐる手続き上の決裂を回避した。しかし、それを引き起こした政治的亀裂を解消したわけではない。 NPT再検討会議は、コンセンサスという従来の理念の下で幕を開けた。だが初日の終わりまでに、そのコンセンサスは、不信、戦争、二重基準、そして核をめぐる不安によって早くも試されていた。条約は最初の衝突を乗り越えた。抑制よりも抑止へと傾きつつある世界の中で、4週間にわたる外交を乗り切れるかどうかが、今や真の試練である。(原文へ) Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/iran-clash-tests-npt-consensus-as-treaty-review-opens-at-u-n INPS Japan 関連記事: 国連、核不拡散条約再検討会議を前に「重大な圧力」を警告 世界の核保有国による核実験の後遺症は、膨大な数に及ぶ被害者に壊滅的な影響を与え続けている。 |中東|核の火種となり得る地域:戦略力学と核リスク

「『ディープフェイクによる虐待は虐待だ』―生成AIが広げる新たな児童搾取危機にユニセフが警鐘」

【国連IPS=オリトロ・カリム】 国連児童基金(ユニセフ)の新たな調査で、生成型人工知能(AI)を用いて、何百万人もの子どもの画像が性的に加工・改変される被害が広がっている実態が明らかになった。ユニセフは、強固な規制枠組みと、各国政府とテック・プラットフォームの実効的な協力がなければ、この拡大する脅威は次世代に壊滅的な影響を及ぼしかねないと警告している。 独立機関で、児童の性的搾取・虐待を追跡する「チャイルドライト(Childlight)・グローバル子ども安全研究所」の2025年報告書は、近年、テクノロジーを介した児童虐待が急増していることを示した。米国では、2023年に4700件だった関連事案が、2024年には6万7000件超へと跳ね上がった。これらの相当部分に、ディープフェイク(現実に見えるよう精巧に生成されたAI画像・動画・音声)が関与していたという。なかでも「ヌーディフィケーション(nudification)」と呼ばれる、AIツールで写真の衣服を剥いだように見せたり改変したりして、捏造の裸体画像を作り出す行為が広く拡散している。 ユニセフ、国際刑事警察機構(インターポール)、そしてECPATインターナショナル(End Child Prostitution in Asian Tourism=子どもの性的搾取に反対する国際組織)による共同研究は、11か国におけるオンライン上の児童性的虐待コンテンツ(CSAM)の流通状況を調査し、過去1年だけで少なくとも120万人の子どもが、性的に露骨なディープフェイクに画像を加工される被害に遭ったと推計した。これは、およそ「子ども25人に1人」―「教室に1人」―が、すでにこの新たなデジタル虐待の犠牲になっていることを意味する。 「子どもの画像や身元が使われた場合、その子どもは直接、被害者である」とユニセフの担当者は述べた。「たとえ特定可能な被害者がいない場合でも、AI生成の児童性的虐待コンテンツは、子どもの性的搾取を『当たり前』のものとして正当化し、虐待コンテンツへの需要をあおり、支援が必要な子どもを特定し保護するという点で、法執行機関に重大な困難を突き付ける。ディープフェイクによる虐待は虐待であり、そこにもたらされる害は、決して『偽物』ではない」 英国の全国警察本部長協議会(NPCC)による2025年の世論調査は、2019年から2024年の間にディープフェイク虐待が1780%増加したと報告した。クレスト・アドバイザリーが実施した英国全土の代表性を備えた調査では、回答者の約59%(3人に2人近く)が、自分がディープフェイク虐待の被害者になることを懸念していると答えた。 さらに34%は、知人の性的または親密なディープフェイクを作成した経験があると認め、14%は、面識のない相手のディープフェイクを作成したと答えた。調査はまた、女性と少女が不均衡に標的にされていること、そして拡散の場として最も多いのがソーシャルメディアであることも示した。 研究では、ある人物が恋人の「親密な」ディープフェイクを作成し、本人にそれを明かしたうえで、口論の後に第三者へ拡散する、という想定事例も提示した。驚くべきことに、回答者の13%がこの行為を「道徳的にも法的にも容認できる」とし、さらに9%が「どちらでもない」と答えた。NPCCは、この行為を容認する傾向が、ポルノを積極的に消費し、「一般に女性蔑視とみなされ得る」信条に同意する若年男性ほど強い、とも報告した。 受賞歴のある活動家でインターネット著名人のキャリー=ジェーン・ビーチ氏はNPCCに対し、次のように語った。「私たちは極めて憂慮すべき時代に生きている。デジタル空間で早急に決定的な行動を取らなければ、娘たち(そして息子たち)の未来が危機にさらされる。安全策も、法律も、ルールもないまま育った子どもたちの世代があり、その『自由』が生んだ暗い波及効果を、いま目の当たりにしている」 ディープフェイク虐待は、子どもに深刻で長期的な心理的・社会的影響をもたらし得る。強い羞恥、不安、抑うつ、恐怖を引き起こすことが多く、ユニセフは新たな報告書で、ディープフェイク虐待によって子どもの「身体、アイデンティティ、評判」が、遠隔から、見えない形で、しかも恒久的に侵害され得ると指摘した。加害者による脅迫、恐喝、金銭要求につながるリスクもある。侵害の感覚に、デジタル内容の恒久性と拡散性が重なることで、被害者は長期的トラウマや不信感、社会的発達の阻害に直面しかねない。 「自分の画像が性的に加工されたコンテンツに改変されたと知ったとき、多くの子どもが急性の苦痛と恐怖を経験する」と、ユニセフの子ども保護専門官アフルーズ・カヴィアニ・ジョンソン氏はIPSに語った。「子どもたちは羞恥心や烙印(スティグマ)を訴え、それは自分のアイデンティティをコントロールできないという喪失感によっていっそう深まる。被害は現実で、長く続く。性的に加工されたディープフェイクとして描かれることは、子どものウェルビーイングに深刻な打撃を与え、デジタル空間への信頼を損ない、日常の『オフライン』の生活においてすら安全でないと感じさせる」 国際電気通信連合(ITU)電気通信開発局のコスマス・ザヴァザヴァ局長は、オンライン虐待が身体的被害へと転化し得る点も付け加えた。 「人工知能と子どもの権利」に関する共同声明で、ユニセフ、ITU、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国連子どもの権利委員会(CRC)など主要な国連機関は、子ども、親、養育者、教師の間で、AIリテラシーが広く不足していると警告した。AIリテラシーとは、AIシステムの仕組みを理解し、批判的かつ効果的に関わるための基礎的能力を指す。この知識ギャップは若年層をとりわけ脆弱にし、被害者や周囲の支援者が、標的化の兆候を見抜き、通報し、十分な保護や支援サービスにつながることを難しくする。 国連はまた、責任の相当部分がテック・プラットフォーム側にあると強調し、多くの生成AIツールが、デジタル上の児童搾取を防ぐ実効的な安全策を欠いていると指摘した。 「ユニセフの見立てでは、ディープフェイク虐待が広がる一因は、法・規制の枠組みが技術の進展に追いついていないことにある。多くの国では、AI生成の性的に加工された子どもの画像が、児童性的虐待コンテンツ(CSAM)として明確に認識されていない」とジョンソン氏は述べた。 ユニセフは各国政府に対し、CSAMの定義をAI生成コンテンツまで更新し、「その作成と流通の双方を明確に犯罪化」するよう求めている。ジョンソン氏によれば、テクノロジー企業には、同氏が「セーフティ・バイ・デザイン(安全性の組み込み)」と呼ぶ措置や、「子どもの権利への影響評価」を導入することを義務付ける必要がある。 ただし同氏は、法律や規制は不可欠である一方、それだけでは十分ではないとも強調した。「性的虐待や搾取を容認したり軽視したりする社会規範も変わらなければならない。子どもを効果的に守るには、より良い法律だけでなく、意識、執行、そして被害を受けた人への支援をめぐる実質的な変化が必要だ」 問題は、商業的インセンティブによってさらに複雑化している。AI画像ツールが生む利用者の関与、購読、話題性からプラットフォームが利益を得ることで、より厳格な保護策を導入する動機が弱まるためだ。 その結果、テック企業がガードレール(安全策)を導入するのは、重大な社会的批判が噴出した後―子どもがすでに被害を受けた後―になりがちだ。例として挙げられるのが、X(旧ツイッター)のAIチャットボット「Grok」である。ユーザーのプロンプトに応じて、同意のない性的ディープフェイク画像を大量に生成していたことが判明した。国際的な反発が広がるなか、Xは1月、Grokの画像生成ツールをXの有料購読者に限定すると発表した。 ただしGrokをめぐる捜査は継続している。英国と欧州連合(EU)は1月以降、調査を開始し、フランスでは2月3日、検察が、CSAMとディープフェイクの流通にプラットフォームが関与した疑いに関する捜査の一環として、Xのオフィスを捜索した。Xのオーナーであるイーロン・マスク氏も事情聴取のため召喚された。 国連関係者は、AIシステムの成長や収益創出を認めつつも、子どもをオンラインで守る規制枠組みが不可欠だと強調する。「当初、彼らはイノベーションを阻害することを懸念しているように感じられた。しかし私たちのメッセージは極めて明確だ。AIを責任ある形で展開すれば、利益も出せるし、事業もできるし、市場シェアも取れる」と、国連の高官は語った。「民間セクターはパートナーである。だが望ましくない結果につながる動きが見えたときには、危険信号を出さなければならない」(原文へ) INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: 人工知能は社会への脅威 AIによる「情報汚染」から選挙を守れという呼びかけ 報道の自由と気候ジャーナリズム、危機の中の連帯(ファルハナ・ハクラーマンIPS北米事務総長・国連総局長)

骨折も出血もなければ犯罪ではない

タリバン新刑法が女性への暴力をどう扱うか 筆者は、タリバン復権前にフィンランドの支援を受けて研修を受けた、アフガニスタン在住の女性ジャーナリストである。安全上の理由から氏名は伏せられている。 【カブール IPS=匿名】 タリバンは、女性と子どもに対する家庭内暴力を事実上合法化する新たな法律を発表した。アフガニスタンの最高指導者ムッラー・ヒバトゥラー・アクンザダは1月、新たな刑法を導入する布告に署名した。この刑法は3部、10章、119条で構成され、暴力を合法化し、社会的不平等を制度化するとともに、奴隷制への回帰として広く非難される懲罰的措置を盛り込んでいる。 「これらの法律は、女性に対するさらなる攻撃であり、人権を露骨に侵害するものです」と、アフガニスタン国内で活動する女性の権利活動家ミトラさん(プライバシー保護のため仮名)は語る。 この法律は、複数の団体やメディアによって外部に漏れ、公にされた。人びと、とりわけ女性たちは衝撃を受けている。しかし、行動を起こすことも、声を上げることもできない。新刑法の下では、タリバン支配に反対したり、否定的に語ったりすること自体が犯罪とみなされ、刑事罰の対象となり得るからだ。 タリバン刑法第32条によれば、夫には妻や子どもを身体的に「しつける」権利が認められている。骨折がなく、目に見える出血もなければ、男性の行為は犯罪とはみなされず、刑事罰も科されない。 たとえ女性への暴力によって目に見える傷や骨折が生じたことが法廷で証明されたとしても、男性に科される刑罰は最長15日の禁錮にとどまる。 このタリバンの法律は、家庭内暴力を事実上合法化し、女性が司法に訴える道を閉ざすものとなっている。 また、同刑法第34条によれば、女性が夫の許可なく繰り返し父親の家や親族を訪ね、夫の家に戻らない場合、その女性と家族の双方が犯罪を犯したとみなされる。刑罰は最長3カ月の禁錮である。 新法の下では、妻が夫に従わない場合、夫には暴力によって妻を罰する権利が認められている。 このタリバンの布告は、脅迫や家庭内暴力に直面している場合であっても、女性にあらゆる状況で家にとどまることを強いるものだ。女性はもはや、自分の実家に身を寄せ、保護や避難を求めることさえできない。 人権団体ラワダリの文書によれば、タリバン刑法は2026年1月7日、ムッラー・ヒバトゥラー・アクンザダによって署名され、その後、施行のため各州の司法機関に配布された。 タリバンが出す布告は通常、司法機関の内部で秘密裏に保持され、一般市民にはモスクや地域の長老を通じて伝えられる。市民がその内容を知るのは、メディアや人権団体が文書を入手し、公表した場合に限られる。 タリバン支配の下で、アフガニスタン社会は事実上4つの階層に分けられている。犯罪に対する処罰は、犯罪そのものの性質ではなく、加害者の社会的地位によって左右される。 最上位に置かれるのは宗教学者であり、彼らには刑事罰ではなく、助言や注意が与えられるにとどまる。 次に位置づけられるのは、支配層に属する有力者たちである。村の長老や裕福な商人などがこれに含まれる。彼らには軽い処罰基準が適用され、通常は禁錮刑を免れる。 中間層にはより厳しい処罰が科される。そして最下層に置かれる人びとには、公開むち打ちや過酷な禁錮刑が科される可能性がある。 新法はまた、「自由人」と区別する形で、奴隷を指す用語も用いている。アフガニスタンでは1923年に奴隷制が公式に廃止された。しかし新刑法の下では、人を奴隷のように扱う考え方が再び通常の慣行として位置づけられている。 たとえば、主人には従属する者をしつける法的権利があり、夫には妻をしつける権利があるとされる。これは、法の下の平等という原則を事実上解体するものだ。 ミトラさんは、これらのタリバン法は女性に対する明白な攻撃であり、あらゆる人権を侵害していると指摘する。こうした規則の施行によって、タリバンは女性を家の中に閉じ込め、どのような虐待にも沈黙して耐えることを強いているという。 「タリバンが第32条と第34条に記した内容は、身の毛がよだつものです。タリバンは女性を性的対象としてしか見ていません。これらの法律は、女性に対するあらゆる形の暴力を正当化するものです。女性は正義を求めることも、父親や兄弟の家に避難することもできません。実質的には、家庭内暴力の重圧の下で、女性を公式に監禁するものです」と、ミトラさんは語る。 これらの規定は、十分な議論もなく起草され、社会的な議論も国民の関与もほとんどないまま施行された。その存在が明らかになったのは、人権団体ラワダリが法律文書を入手し、パシュトー語のウェブサイトで公表したためである。署名後まもなく、同法はタリバンが運営する裁判所で処理されるよう、各州に送付された。 バダフシャン州ラーグ地区の住民マリヤムさんは、タリバンの法律が地元のムッラーによってモスクで告知されると、直ちに地区や村で施行され、すべての事件がその規則に基づいて裁かれると指摘する。 「私たちの村では、ほとんどの人が読み書きできません。教育を受けている人や女性の権利について知っている人でさえ、恐ろしくて何も言えません。たった一言でも口にすれば、地元の人びとがその人に敵対し、問題が起きます。女性たちはほかに選択肢がないため、夫の言うことを何でも受け入れざるを得ません」と、マリヤムさんは語る。 タリバンがアフガニスタンを掌握して以来、同勢力は人権を一貫して侵害する布告や法律を出し続け、女性を家の中に閉じ込めてきた。だが今回はさらに踏み込み、女性に対するあらゆる暴力に法的正当性を与えたのである。 ミトラさんは、すべての人権団体と国際社会に対し、タリバンのこうした行為に立ち向かい、女性たちが前時代的な奴隷制同然の制度に引き戻されることを許してはならないと訴えている。そして、世界がアフガニスタンの女性たちと連帯しなければ、彼女たちは取り返しのつかない状況に追い込まれ、深刻な人道危機に直面することになると警告している。(原文へ) INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: 沈黙か抵抗か―タリバン下で闘う若きアフガン女性テコンドー指導者 才能の浪費:タリバンの制約下で「適応」を迫られるアフガンの高学歴女性たち

ウズベキスタン―日本:戦略的パートナーシップの境界を広げる

【タシケントINPS Japan/London Post】 両国が1992年1月26日に外交関係を樹立して以来、ウズベキスタンと日本の協力関係の発展は、ウズベキスタンの対アジア太平洋外交の重要な柱であり続けてきた。相互尊重と信頼を基盤に、タシケントと東京は現在、政治、安全保障、経済、投資、イノベーション、教育、文化、観光に加え、地域協力の枠組みでの連携まで、幅広く活発な協力関係を築いている。 日本はこれまで、産業・エネルギーインフラの近代化、デジタル変革の推進、持続可能な開発の促進において、ウズベキスタンにとって主要な戦略的パートナーとなってきた。教育、科学、文化、人的交流の分野でも、前進を後押ししてきた。 二国間協力は多岐にわたり、近年は一段と弾みがついた。転機となったのは、2019年12月のシャフカト・ミルジヨエフ大統領の公式訪日である。この訪問は、主要な共同の経済・投資・人道(人的)プロジェクトの実施を強く後押しし、二国間関与の長期的な方向性を示した。 国際舞台でも、ウズベキスタンと日本は国際機関で緊密に連携し、互いの立場を支え合っている。ウズベキスタンはこれまで、日本の国連機関などのポストへの立候補を40回以上支持してきた。他方、日本は、中央アジア非核兵器地帯、教育と宗教的寛容、若者支援、持続可能な開発目標(SDGs)達成における議会の役割など、ウズベキスタンが主導した国連総会決議の共同提案国となってきた。 関係の戦略性は、議会間協力にも表れている。両国議会には友好議員連盟が設置され、ウズベキスタン―日本議員フォーラムも定期的に開かれている。相互訪問に加え、オンラインでの協議や折衝も進む。 外務省間の連携も緊密だ。2002年以降、両国外務省は19回にわたり政治協議を実施してきた。 大きな節目となったのが、2025年8月25日にタシケントで開催された、両国外相による初の「戦略対話」である。この新たな枠組みは、二国間関係の長期性と、あらゆる分野で互恵的協力を広げる双方の意思を明確にした。 外相間の定期的な接触—電話会談や国際会議の場での会談、相互訪問—は、二国間・多国間の課題で立場をすり合わせ、協力を他分野にも波及させる役割を果たしている。 また、日本におけるウズベキスタン名誉領事も、両国協力の推進で重要な役割を担い、経済・文化面の取り組みを後押ししている。 経済面では、産業、エネルギー、通信、インフラ、イノベーション、輸送、「グリーン経済」まで幅広い分野で協力が進む。貿易は最恵国待遇の下で行われており、二国間貿易額の着実な伸びにつながってきた。 2024年には「ウズベク・日本トレードハウス」が名古屋に開設され、日本側で対ウズベキスタン貿易拡大への関心が高まっていることを示した。 二国間経済プロジェクトの調整の要となっているのが、ウズベキスタン―日本、ならびに日本―ウズベキスタンの経済協力委員会による合同会合である。 現在、ウズベキスタンでは日本資本の合弁企業が84社活動し、日本の主要企業13社が現地代表部を置く。石油・ガス、化学、機械、物流、教育、観光などの分野で事業を展開している。 日本の政府系協力機関を含む金融分野の支援も、ウズベキスタン経済の近代化で重要な役割を果たしている。2025年1月には、国際協力機構(JICA)との間で、神経内科・脳卒中共和国センターの建設・設備整備に向けた1億5000万ドルの円借款契約がタシケントで署名された。医療体制の高度化に向けた重要な一歩となるプロジェクトだ。 文化・人道面の交流は層が厚く、人的な結びつきも強い。20年以上にわたり、ウズベキスタン―日本友好協会をはじめ、福島―ウズベキスタン協会、日本―ウズベキスタン協会などの友好団体が活動を続けてきた。タシケントに設置された「広島平和の石」や、首都中心部の日本庭園は、両国の友好を象徴する存在となっている。 ウズベキスタンでは日本文化フェスティバルや映画上映、舞台公演、展覧会が定期的に開かれている。一方、日本でもウズベキスタンの食文化や民族衣装、音楽、舞踊などが幅広く紹介されている。こうした相互交流が、尊重と信頼に基づく長期協力の土台を形づくっている。 近年は現代的な文化プロジェクトも、人道交流の象徴となってきた。2022年4月、東京で「シルクロードの精神―友情の架け橋」が開催され、2024年には日本のアンサンブル「Japanese Pearl」が伝統的なボイスン・バホリ祭で3位に入賞した。 教育は、人道協力の中でも特に伸びが大きい分野である。ウズベキスタンでは7大学で2500人以上が日本語を学び、ウズベキスタン―日本人材開発センターが運営されている。日本開発奨学金(JDS)プログラムも実施され、東京、名古屋、筑波、慶應、豊橋などの大学との共同プロジェクトが進む。JDSでは400人以上のウズベキスタン人学生が奨学金を得ており、日本で研修を受けた人材は約2500人に上る。交換留学や教員交流も活発で、大学学長フォーラムも開催されている。 共同研究は、古代史、考古学、東洋学、農業、気候過程など多分野に及ぶ。 日本はウズベキスタンの医療分野の発展にも資金・技術支援を提供してきた。医療施設の機器整備、専門人材の育成、ワクチン供給などに6000万ドル以上が拠出されている。日本人ボランティアは100人以上がウズベキスタンで活動し、ウズベキスタンの医療従事者200人以上が日本で研修を受けた。 地方自治体レベルの交流(地域間交流)も、二国間関係で比重を増している。姉妹都市・姉妹地域関係は、リシタンと舞鶴、タシケントと名古屋、サマルカンド州と奈良県の間で結ばれた。この枠組みの下、日本では「サマルカンド・デー」が定期的に開催され、名古屋でも文化行事が行われている。 日本人旅行者の間でウズベキスタンの文化・歴史への関心が高まり、観光分野の協力も促されている。航空便の拡充、文化観光の発信強化、インフラ改善を追い風に、日本人訪問者数は増加傾向にある。 とりわけ関心を集めているのが、ウズベキスタンの仏教遺産である。カラ・テペ、ファヤズ・テペ、ダルヴェルジン・テペ、テルメズおよび周辺の寺院遺跡群が注目されている。日本人研究者の調査を背景に、これらの遺跡は国際的な認知を高め、世界各地から観光客や研究者を呼び込んでいる。 日本国内の関心の高さを示す例として、2025年の大阪・関西万博でのウズベキスタン館「知の庭:未来社会の実験室」の成功が挙げられる。ウズベキスタン館は印象的な展示の一つとして評価され、金賞を受賞した。両国友好に捧げたウズベキスタン国立交響楽団の公演「Celestial Dance(天空の舞)」の世界初演も、日本の観客を魅了した。 ミルジヨエフ大統領が今回の訪日で参加する「『中央アジア+日本』対話」(Central Asia–Japan Dialogue)の首脳会合は、ウズベキスタンの地域優先課題と合致し、中央アジア諸国の政治的結束の高まりを映し出す枠組みでもある。 この枠組みは、2004年8月24日に川口順子外相(当時)がタシケントを訪問した際に提起された。当時の優先目標には、地域の平和と安定の確保、改革と社会発展の支援、域内連携の強化、周辺地域および国際社会とのパートナーシップ拡大、地域・地球規模課題への協力が含まれていた。 現在、この対話は、持続可能な開発をめぐる議論と信頼に基づく協力を進める、安定した枠組みへと発展している。 実務面を充実させるため、局長級など高官実務者による定期会合や分野別の専門家協議、「東京知的対話」などが開かれている。近年では、2023年から2025年にかけて東京で閣僚級として行われた経済・エネルギー対話が、特に重要な柱となった。 インフラ支援は、対話枠組みにおける日本の優先分野の一つであり続けてきた。JICAや国際協力銀行(JBIC)など日本の機関は、輸送回廊、物流拠点、道路、関連施設、空港、鉄道インフラの近代化に体系的に関与している。これらの事業は地域の接続性を高め、中央アジアが東アジア・中東・欧州を結ぶ要衝として果たす役割を強めている。 デジタル化と自動化で先行する日本は、地域諸国と知見を積極的に共有している。ウズベキスタンにとってこの協力はとりわけ重要である。同国はIT産業を急速に育成し、ITパークやテクノパークを整備し、デジタル経済の取り組みを進める中で、日本の専門家を招いて人材育成を進めている。 日本が環境配慮型開発や省エネ技術で長年の実績を持つことから、環境協力もパートナーシップの中核要素となっている。 地域最大の人口を抱え、主要な輸送・物流ハブでもあるウズベキスタンは、対話枠組みの議題形成で中心的役割を担う。近年は多分野で新規プロジェクトを提起し、協力の実務面の強化に大きく寄与してきた。 この20年余りで、中央アジア+日本対話は、地域諸国と日本が幅広い分野で体系的に協力を進めるための、安定した実効的な枠組みとして定着してきた。 したがって、ミルジヨエフ大統領の今回の訪日と中央アジア+日本首脳会合への参加は、二国間および多国間の政治対話を深化させ、経済・投資協力を拡大し、教育・科学分野の結びつきを一段と強めることになるだろう。相互利益に資するパートナーシップ拡大に向けた大統領の取り組みは、地域統合と開かれた建設的な国際対話へのウズベキスタンのコミットメントを改めて示すものとなる。(原文へ) INPS Japan/London Post Original URL: https://londonpost.news/uzbekistan-japan-expanding-the-boundaries-of-strategic-partnership/ 関連記事: 中央アジア・日本首脳会合、トランス・カスピ回廊を後押し トカエフ大統領は核リスク再上昇に警鐘 日本とウズベキスタンが労働力交流を拡大へ―今後5年間で1万人受け入れオンライン就職支援 中央アジア:混乱から恒久平和へ

国連報告書、詐欺拠点に人身取引された人々への重大虐待を詳述

【ジュネーブIPS=国連人権高等弁務官事務所】 国連人権高等弁務官事務所が2月23日に公表した報告書は、世界各地の数十カ国から、主に東南アジアに定着した詐欺拠点へ人身取引された数十万人の被害実態を、生存者の証言とともに詳細に記録した。詐欺拠点は東南アジアにとどまらず、さらに広い地域へ拡散しているとしている。 報告書は、拷問やその他の虐待、性的虐待・搾取、強制中絶、食料の剥奪、独房拘禁など、重大な人権侵害を列挙した。生存者はまた、国境当局が勧誘に加担した事例や、警察による脅迫・恐喝についても証言している。 衛星画像と現地報告によれば、詐欺拠点のほぼ4分の3はメコン地域に集中している。活動は太平洋島嶼国の一部や南アジア、湾岸諸国、西アフリカ、米州にも広がっているという。 「詐欺拠点に置かれた人々が受ける扱いは憂慮すべきものだ」と報告書は結論づけた。報告書は、バングラデシュ、中国、インド、ミャンマー、スリランカ、南アフリカ、タイ、ベトナム、ジンバブエ出身の生存者への聞き取りに基づく。生存者は2021年から2025年にかけて、カンボジア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、アラブ首長国連邦(UAE)の詐欺拠点へ人身取引された。さらに、警察・国境当局者や市民社会関係者など、実態を把握する立場の関係者にも聞き取りを行った。 被害者は、虚偽の条件で「詐欺の仕事」に誘い込まれた後、なりすまし詐欺、オンライン恐喝、金融詐欺、ロマンス詐欺などのオンライン詐欺を実行するよう強要されたと証言した。 報告書によれば、こうした運営は移転や形態の変更を繰り返すなど拠点は移転し、運営は姿を変えるという。生存者の一部は、500エーカーを超える敷地に要塞化された多層建築が立ち並び、有刺鉄線を張り巡らせた高い塀で囲まれ、武装した制服警備員が巡回する―「自己完結した町」のような巨大複合施設に拘束されていたと語った。 報告書は、スリランカ出身の被害者が「月間ノルマを達成できない者は、水を張った容器に何時間も沈められる『水の牢獄(water prisons)』と呼ばれる罰を受けた」と証言したと紹介している。今回の報告書は、国連人権高等弁務官事務所が2023年に公表した報告書の更新版である。 報告書はさらに、服従を確保するため、他者への重大な虐待を目撃させたり、場合によっては虐待を加えるよう命じたりしたとする証言を紹介した。バングラデシュ出身の被害者は、他の労働者を殴るよう命令されたと証言し、ガーナ出身の被害者は、友人が目の前で殴打されるのを強いられたと語った。 脱出を試みて命を落とした例もある。報告書は、複合施設からの逃走中にバルコニーや屋根から転落した事例を挙げている。 救出の試みが失敗した場合の懲罰も苛烈だったという。ベトナム出身の被害者は、姉の逃走を手助けしようとした妹が殴打され、スタンガンで感電させられ、食料のない部屋に7日間閉じ込められたと証言した。 報告書はまた、加害者が家族にビデオ通話をかけ、虐待の様子を見せつけることで、法外な身代金の支払いを迫った事例も確認したとしている。 被害者の多くは「賃金は支払われた」と述べたが、聞き取り対象者全員が、さまざまな名目で控除が段階的に増やされたと証言し、約束された給与を全額受け取った者はいなかった。タイ出身の被害者は、罰金や暴行、さらにはより過酷な環境の別拠点へ「売られる」ことを避けるため、1日あたり約9,500米ドルという高額な詐欺ノルマを課されたと証言した。 国連人権高等弁務官のフォルカー・テュルク氏は、「虐待の実態は衝撃的で、胸が痛む」と述べた。そのうえで、「本来保障されるべき保護、ケア、リハビリテーション、そして正義と救済への道筋が与えられるどころか、被害者はしばしば疑われ、烙印を押され、さらなる処罰に直面している。」と強調した。 テュルク氏は、対策は人権法と国際基準に基づくべきだとしたうえで、「とりわけ、人身取引対策法制の中で『強制された犯罪行為(forced criminality)』を明確に認識し、人身取引被害者に対する『不処罰原則(non-punishment principle)』を保障することが決定的に重要だ」と述べた。 またテュルク氏は、被害者には「連携の取れた、迅速で、安全かつ効果的な救出作戦」が必要だとし、送還禁止原則(ノン・ルフールマン)の尊重に加え、拷問やトラウマのリハビリテーション、報復や再被害(再度の人身取引)のリスクに対処する支援体制の整備も求めた。 報告書は、行動科学とシステム分析を独自に適用し、なぜ人々が詐欺拠点への詐欺的な勧誘に繰り返し巻き込まれるのかを検討するとともに、人権に根ざした実効的な予防策を提案している。 テュルク氏は、安全な労働移住のルートをより利用しやすくする必要があると述べ、オンライン求人情報の検証や、疑わしい勧誘パターンの把握など、募集過程に対する実効的な監督を求めた。 さらに同氏は、各国政府や関係主体は、被害リスクが高いとみられる人々への働きかけにあたり、生存者主導のグループなど、信頼される地域に根差した主体と連携すべきだとした。啓発活動は、具体的で分かりやすく、信頼できるメディアを通じて提供される必要があるという。 テュルク氏はまた、巨額の利益を生む詐欺産業に深く根付いた腐敗に対し、各国と地域機関が実効的に取り組み、背後で動く犯罪シンジケートを訴追するよう促した。併せて、独立メディア、人権擁護者、市民社会組織が妨害を受けることなく人身取引対策に取り組める環境の重要性も改めて強調した。(原文へ) INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: 欧州の公務員が児童人身売買に関与した疑い |ネパール・インド|「性産業」犠牲者の声なき声:売春宿から1人でも多くの犠牲者を救いたい |カンボジア|宗教の違いを超えた「人間の尊厳」重視のHIV陽性者支援とHIV/AIDS防止の試み

中央アジア、新たな環境協力の段階へ

アスタナ地域環境サミット、気候・水・土地劣化に共同で対応 【アスタナ・タシケントINPS Japan/London Pos】 2026年4月22日から24日にかけてカザフスタンの首都アスタナで開かれている地域環境サミットは、中央アジアが気候変動、水不足、土地劣化といった複合的課題に対し、地域として本格的に共同対応へ踏み出す節目となる。環境問題を自然保護にとどまらず、安全保障、経済の安定、社会的福祉に関わる政策課題として位置づける動きが鮮明になっている。 中央アジアの環境問題は、一国だけで完結しない。アラル海の危機、国境をまたぐ水資源の非効率な利用、砂漠化、大気汚染はいずれも、個別の国家課題にとどまらず、地域全体の将来を左右する問題である。 とりわけ、アムダリヤ川とシルダリヤ川の流域で続いてきた持続可能性を欠く水管理は、生態系のみならず、各国経済の強靱性にも深刻な影響を及ぼしてきた。今回のサミットは、こうした共通課題を共有する段階から、共同で対処する段階へと進む具体的な一歩となる。 関連記事:アラル海は不死鳥の如く「灰」のなかから蘇りつつある 会議では、環境政策を包括的に捉える8つの重点分野が議論されている。(1)気候変動の緩和、(2)食料安全保障と生態系の強靱性の確保、(3)自然災害リスクへの適応と経済的強靱性の強化、(4)大気汚染の削減と廃棄物管理の改善、(5)環境目標達成に向けた制度整備、(6)天然資源の持続可能な管理、(7)公正で包摂的なグリーン移行、さらに(8)環境・デジタル分野の能力強化である。 https://www.youtube.com/watch?v=yk6DEqup0cY この議題設定は、環境問題を単なる保全の枠内に閉じ込めるのではなく、社会・経済の持続可能性と一体のものとして捉える発想を示している。 また、この取り組みが国連レベルで支持されていることは、会議に大きな政治的・国際的重みを与えている。環境問題がもはや自然保護だけの領域ではなく、安全保障や経済安定に直結する課題として認識されていることの表れでもある。 世界銀行やアジア開発銀行など国際金融機関の参加も重要である。環境分野の構想を具体的な事業へと結び付けるには、政治的意思だけでなく、多額の資金と高度な技術が不可欠だからだ。 今回のサミットで中心的な位置を占めるのが「グリーン移行(GX:グリーントランスフォーメーション:化石燃料中心の産業・社会構造をクリーンエネルギー主体へ転換し、脱炭素と経済成長を両立させる取り組み)」である。中央アジア諸国にとって、それは大きな機会であると同時に、重い課題でもある。 関連記事:コロナ禍からのグリーン・リカバリーと日本における炭素中立社会の実現に向けた課題 一方で、グリーン経済への転換は、投資の呼び込み、技術革新の促進、新たな雇用の創出につながり得る。再生可能エネルギー、省資源技術、持続可能な農業の拡大は、今後の経済成長を支える柱となる可能性がある。 他方で、その実現には大規模な制度・産業改革が求められる。老朽化したインフラの更新、産業構造の転換、市民の環境意識の向上はいずれも容易ではない。だからこそ、「公正で包摂的なグリーン移行」が強調されている点は重要である。移行の負担と利益を社会全体でどう分かち合うかが問われている。 ウズベキスタンにとって、このサミットは自国の環境政策を国際社会に示す重要な場でもある。近年、同国は「Yashil Makon」「Toza Havo」「Bio Meros」「Territory Without Waste」「Eco-Culture」などの取り組みを進め、環境分野での積極姿勢を打ち出してきた。 中でも、アラル海地域の再生に向けた取り組みは大きな注目を集めている。この分野で進められている具体策は、ウズベキスタンを地域内のみならず国際的にも重要な協力相手として位置づけるものであり、投資誘致や国際連携の拡大にもつながり得る。 サミットでは、中央アジア各国首脳による共同宣言をはじめ、2026年から2030年を対象とする国連との地域協力プログラム、生物多様性、エコツーリズム、生態系保護に関する覚書、森林火災に対応する地域早期警戒システムの創設に向けた合意、さらに国境を越える「平和公園」構想など、複数の重要文書がまとまる見通しである。 これらは、環境事業の長期的推進と資金確保の基盤となり、地域協力を制度面から支えることになる。 今回の地域環境サミットは、中央アジアが地球規模の環境課題に対して、地域としてより主体的な役割を果たそうとしていることを示す場である。気候リスクの低減、天然資源の保全、持続可能な発展の確保に向け、統一的な地域戦略を築く試みが本格化している。 この会議は自国の成果を示す機会にとどまらない。国際連携を強め、投資を呼び込み、グリーン経済への移行をさらに前進させるための重要な外交・政策の舞台となる。(原文へ) INPS Japan/London Post 関連記事: 中央アジアの水資源問題と解決策 日本とカザフスタンが接近―イラン危機がエネルギーと安全保障の優先課題を再編 ウズベキスタン―日本:戦略的パートナーシップの境界を広げる

少数の漁師が示す、銛漁の持続可能性

【インド・ティルヴァナンタプラムIPS=バラト・タンピ】 インド南部ケララ州の海辺の町コヴァラムで、わずかな漁師たちが実践する「銛漁」が、海洋資源の持続可能な利用のあり方として注目されている。対象を見極めて仕留めるこの漁法は、乱獲や混獲、放置網による海洋汚染を避けやすく、専門家からも環境負荷の低い漁法の一つと評価されている。|英語版|スワヒリ語| スディ・クマールは、銛の使い方を説明しながら、まるで舞を演じるように両手を動かしてみせた。最近は海が荒れているため銛漁をしばらく休んでおり、この日は道具を手元に持っていなかった。それでも、30年以上にわたって銛を扱ってきた経験は、その身ぶりからも十分に伝わってくる。 51歳のスディは、インド最南部ケララ州ティルヴァナンタプラム県にある観光地コヴァラムの漁師である。沿岸部の人口が多いこの地域でも、彼は特異な存在だ。地元で初めて銛漁を学び、実践した人物であり、州内でもごく少数しかいないこの珍しい漁法の担い手の一人だからである。 「銛漁とヤス漁は、部外者には似て見えるかもしれないが、実際には大きく異なる」とスディは語る。「祖先たちは丈夫な木などで作ったヤスを使っていたといわれているが、銛はこの地域の漁師にとってまったく未知の道具だった。」 1990年代、コヴァラムは人気のビーチ観光地としてにぎわっていた。当時、10代を出たばかりだったスディは、すでに泳ぎと潜水に長けており、父親の漁を手伝う一方で、外国人観光客のシュノーケリングガイドも務めていた。 「ある時、フランス人の観光客が銛を持ってきて、海での漁を手伝ってほしいと言った。あの道具を見たのは、生まれて初めてだった。」スディは、35年ほど前の出来事をそう振り返る。 その観光客が漁を終えた後、スディは一度その銛を使わせてほしいと頼んだ。相手は、初めて銛を手にしたとは思えないほどのスディの潜水技術と道具さばきに驚いたという。その日、スディは大きなヴェラ・パーラ(シルバー・ムーニー)まで仕留めた。 「彼がコヴァラムを離れる前、その銛を私に贈ってくれた。本当に驚いたし、うれしかった。ここで銛を持っているのは私だけだったからだ。」 それ以来、スディは銛漁を頻繁に行うようになった。その姿は、当初、コヴァラムのほかの漁師たちにとって物珍しいものだったという。「父の船に乗って漁を手伝うより、銛漁のほうがはるかに稼げることにも気づいた。」 もっとも当時、銛はケララ州内はもちろん、インド全体でも入手が難しい道具だった。高価で、多くの漁師には手が届かなかったからである。スディ自身も、銛を壊したり失ったりすることを恐れ、大型魚を狙うことは控えていた。 インド農業研究評議会・中央海洋漁業研究所(ICAR-CMFRI)の硬骨魚類漁業部門責任者、ショーバ・ジョー・キジャクダン博士も、銛漁は科学的に見ても最も持続可能な漁法の一つと評価されていると話す。ただし、かつてはその漁法に「残酷」という印象がつきまとっていたという。 「たとえば、銛はかつてジンベエザメやほかのサメ類を捕獲する主要な手法の一つだった。禁止される以前は、銛が刺さった魚が命がけで抵抗するなか、生きたまま岸まで引きずられることもあった」とキジャクダン博士は説明する。 SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」は、海洋の保全と海洋資源の持続可能な利用を掲げ、過剰漁獲や違法・破壊的な漁業慣行の是正を重要な課題としている。その観点から見れば、スディの実践する銛漁は、この理念にかなう漁法の一つといえる。 もっともスディ自身も、一度の銛打ちで仕留めきれないような大型魚は狙わないという。それは残酷で、道義的にも許されない行為だと考えるからだ。ただ、若い頃からそうした考えを持っていたわけではない。 「若かった頃、ポールという観光客と海に出たことがある。彼は水中の生息環境や、私の銛漁の様子を撮影していた。ポールは、明らかに求愛行動をしているように見えるブルーフィン・トレバリーのつがいに見入っていた。私は待ちきれず、そのうちの一匹を銛で仕留めてしまった。すると彼は、悲しそうな表情で振り返り、静かに首を振った。私は強い後悔を覚えた。その気持ちは今も残っている。」 スディによれば、銛漁は決して容易な技術ではない。それが実践者の少ない大きな理由でもある。魚が十分近づき、その動きを見極めて狙えるようになるまで、水中で何分も息を止めて待たなければならないからだ。 ティルヴァナンタプラムを拠点とする沿岸先住民の市民団体「フレンズ・オブ・マリンライフ(FML)」は、地域の海洋生物多様性、とりわけ自然の岩礁生態系の映像記録を長年続けてきた。FML創設者で認定スキューバダイバーでもあるロバート・パニッピラ氏は、スディによる銛漁の記録にも取り組んできた。 「銛漁は岩場のある海域でしか成り立たない。その意味で、コヴァラムは理想的な場所だ」とパニッピラ氏は話す。さまざまな漁法を記録してきた経験から、銛漁は最も独特で、しかも難度の高い技能の一つだとみている。 「優れた水中での持久力と機動力だけでなく、海底地形や魚の行動に対する十分な理解も欠かせない。単に銛を持っているだけでは、効果的に使いこなすことはできない。」 パニッピラ氏によれば、コヴァラムの銛漁師と、近隣のビジンジャムに点在する少数の実践者を除けば、ケララ州で銛漁が行われている場所はほとんどないという。彼は、銛漁が非常に持続可能な漁法である理由として、その高い選択性を挙げる。 「乱獲の危険が少なく、ほかの魚に交じって稚魚が捕れることもない。網漁のように、海底に放置されたゴーストネットが生態系に悪影響を及ぼす問題も起きにくい。」 かつてはスディだけが銛を持っていたが、いまでは地域内にもこの漁法に携わる漁師が増えてきた。その多くは、中東から帰国した人々を通じて海外製の銛を入手したという。独立して漁を始める前に、スディから手ほどきを受けた者も少なくない。 現在、コヴァラムとその周辺では、およそ25人の漁師が銛漁に従事しているとスディはみている。ただ、彼の知る限り、銛漁はいまなおインド全体で見ても珍しく、実践されているとしても島しょ部などに限られる可能性が高い。 スディによれば、ケララ州では南西モンスーンの時期、とりわけ8月が銛漁に最も適している。ティルヴァナンタプラム沿岸ではハタ類が豊富で、豊漁の季節には数十万ルピー相当の水揚げを得たこともある。エイやバラクーダも、よく狙う魚種だという。スディは銛漁のほか、ムール貝の潜水採取やロブスターのかご漁にも従事している。 This article is brought to you by IPS NORAM, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International in consultative status with the UN’s Economic...

中東戦争が北朝鮮の核戦力増強に拍車

【国連IPS=タリフ・ディーン】 米国、イスラエル、パレスチナ、イラン、レバノンを巻き込む中東の軍事衝突が、間接的に北朝鮮の核戦力増強を後押ししている。北朝鮮の金正恩総書記は、米国によるイラン攻撃が自国の軍事力強化を正当化するものだと主張し、トランプ大統領の外交政策によって形づくられる世界の中で、それが最終的に自国の安全確保につながるとの認識を示したと伝えられている。 先週のニューヨーク・タイムズ紙は、「中東戦争から教訓、北朝鮮が新兵器を実験」との見出しで報じた。記事によれば、実験された兵器には、クラスター弾や黒鉛爆弾の弾頭を搭載したミサイルも含まれていた。いずれも中東で使用が確認されている兵器に類似しているという。こうした動きは、北朝鮮が中東戦争から軍事的教訓を引き出そうとしていることをうかがわせる。 トランプ大統領が金総書記との会談に意欲を示す中、金総書記は、米国が北朝鮮を正式な核保有国として認めるのであれば会談に応じる考えを示した。また、イラクやリビアの指導者たちは、もし核抑止力を持っていれば米国の攻撃を受けずに済んだはずだとも主張した。昨年2月の演説では、「米国が対朝鮮敵視政策を撤回し、われわれの現在の(核)地位を尊重するなら、米国とうまくやっていけない理由はない」と述べている。 トランプ氏は第1次政権期の2017年から2021年にかけて金総書記と3度会談した。2018年6月のシンガポール、2019年2月のハノイでの首脳会談に続き、同年6月には非武装地帯(DMZ)で短時間の会談も行った。この際、トランプ氏は現職の米大統領として初めて北朝鮮に足を踏み入れた。 一方、ワシントンのスティムソン・センターは、主として国連安全保障理事会を通じて課された厳しい国際経済制裁にもかかわらず、北朝鮮の核・ミサイル開発や核ドクトリンの整備は著しく進展してきたと指摘している。特に、トランプ政権との交渉が2018~2019年に停滞して以降、その傾向が際立っているという。非核化は交渉の対象ではないとの北朝鮮の立場は、2026年2月に開かれた最近の党大会でも改めて強調された。 カナダのブリティッシュコロンビア大学で公共政策・グローバル問題大学院の暫定院長を務めるM・V・ラマナ博士はIPSの取材に対し、米国とイスラエルによるイラン攻撃は挑発を受けていない一方的なものであり、各国が核兵器の取得に向かう誘因をさらに強めていると語った。 ラマナ博士は、「そうした核兵器の取得が、常に国家を守る保証になるわけではない。とりわけ、米国のような軍事大国がこれほど好戦的に振る舞う状況では、なおさらだ。」と指摘した。そのうえで、「進むべき道はそこではない。各国が軍事的暴力や他国への攻撃に訴えるのではなく、相違を平和的かつ外交的手段で解決することにこそ、努力を集中すべきである。」と述べた。さらに、各国指導部の多くは必ずしもそうした方向を向いていないかもしれないが、政府をより平和な方向へ導くうえで、市民社会や社会運動の役割は重要だと強調した。 英紙ガーディアンによれば、国連の原子力監視機関トップは、北朝鮮がさらなる核兵器製造能力の面で「極めて深刻な」進展を遂げていると述べた。これは、体制維持のために核戦力を活用しようとする北朝鮮の姿勢を示す新たな兆候だという。 北朝鮮は約50発の核弾頭を保有しているとみられているが、それらを長距離弾道ミサイルに搭載できるほど小型化しているとの主張には懐疑的な専門家もいる。国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長はソウル訪問中、北朝鮮の主要核施設である寧辺で活動が急速に活発化しているとの報告を確認した。グロッシ事務局長によれば、寧辺の5メガワット原子炉、再処理施設、軽水炉などで作業が強化されており、北朝鮮は数十発規模の核弾頭を保有しているとみられる。 一方、「World Beyond War」および「宇宙における兵器と原子力に反対するグローバル・ネットワーク」の理事を務め、「核時代平和財団」の国連NGO代表でもあるアリス・スレーター氏はIPSの取材に対し、イラクやリビアを破壊した米国の行動を踏まえれば、北朝鮮が軍事力強化を正当化するのは理解できるにもかかわらず、今回もまた北朝鮮だけが「ならず者国家」として扱われていると語った。 スレーター氏によれば、北朝鮮は2016年、国連総会第1委員会で核兵器禁止条約の交渉開始を支持した唯一の核保有国だった。だが、その事実はほとんど報じられていない。この交渉を経て、2017年に核兵器禁止条約が採択された。これに対し、すべての核保有国と米国の「核の傘」の下にある国々は交渉会議をボイコットし、例外は議会の採決で出席を義務づけられたオランダだけだったという。スレーター氏は、「本当のならず者国家はどちらなのか。」と問いかけた。 スレーター氏はまた、退役軍人情報専門家協会(Veteran Intelligence Professionals for Sanity)の創設者レイ・マクガヴァン氏が、軍・産業・議会・情報機関・メディア・学界・シンクタンクの複合体(MICIMATT)の一角とみなす報道が、核兵器のさらなる拡散の危険性ばかりを喧伝していると批判する。その一方で、加速する核軍拡競争や、米国による宇宙兵器化の動きに歯止めをかける機会には、ほとんど目が向けられていないという。そうした動きの象徴として挙げられるのが、今後数年間で1500億ドル規模に達すると見積もられる米国の「ゴールデン・ドーム」構想である。 スレーター氏はさらに、「宇宙を平和の場として維持することと、ロシアと中国が核軍縮交渉に応じる意思との間には、明確なつながりがある」と指摘する。それは、ゴルバチョフがレーガン大統領に対し、米国が『ビジョン2020』に示した宇宙支配構想を放棄するのであれば、米ソ両国の核兵器廃絶に応じると提案した時代にまでさかのぼる。だがレーガン大統領は、核廃絶の考え自体には好意的だったものの、「スター・ウォーズ」構想を断念しようとはしなかった。 ロシアと中国は2014年と2018年、ジュネーブの国連軍縮会議で、宇宙空間への兵器配備と武力行使の防止に関する条約案を提出した。だが、米国はこれを阻み、協議そのものにも応じなかった。さらに両国は、2025年5月の第2次世界大戦終結80年に際して、世界的な協力を呼びかける提案を公表し、「国連の中心的な調整役割」を支持するとともに、「戦略的安定性」を高めるための複数の措置を打ち出した。とりわけ、米国の「ゴールデン・ドーム」計画を批判し、自ら提案してきた条約案に基づく法的拘束力のある多国間文書の締結に向けた交渉を早期に開始する必要があると訴えた。さらに、「宇宙空間に最初に兵器を配備しない」との国際的な誓約を推進していく姿勢も示した。 スレーター氏は、世界の平和運動と軍備管理運動がこの呼びかけを真剣に受け止め、宇宙を兵器や戦争のない空間として維持するための条約交渉に各国政府が参加するよう促せば、核兵器廃絶に向けた新たな道が開かれる可能性があると述べ、「いまこそ平和に機会を与える時だ。」と訴えた。 一方、核不拡散条約(NPT)の締約国は、2026年4月27日から5月22日まで国連本部で開かれる2026年NPT運用検討会議に臨む。今回の運用検討会議は、核兵器保有国が関与する武力紛争、とりわけロシアによるウクライナ侵攻と米国・イスラエルによるイラン侵攻によって核の脅威が高まる中で開かれる。 核不拡散・軍縮のための国会議員連盟(PNND)は、「このため、ニューヨークでの審議と交渉はきわめて困難になるだろう。しかし同時に、きわめて重要でもある」と指摘している。PNNDは、核リスクの低減、核軍備管理、共通の安全保障、そして核兵器の世界的廃絶の前進を通じてNPTを支えるため、各国議会での活動とも連携しながら、今回の運用検討会議に積極的に関与していく方針だ。(原文へ) INPS Japan 関連記事: 「力こそ正義」の新世界秩序 軍事支出の増大を止める機会を逸してきた代償 世界の核保有国による核実験の後遺症は、膨大な数に及ぶ被害者に壊滅的な影響を与え続けている

中央アジア、新たな環境協力の段階へ

アスタナ地域環境サミット、気候・水・土地劣化に共同で対応 【アスタナ・タシケントINPS Japan/London Pos】 2026年4月22日から24日にかけてカザフスタンの首都アスタナで開かれている地域環境サミットは、中央アジアが気候変動、水不足、土地劣化といった複合的課題に対し、地域として本格的に共同対応へ踏み出す節目となる。環境問題を自然保護にとどまらず、安全保障、経済の安定、社会的福祉に関わる政策課題として位置づける動きが鮮明になっている。 中央アジアの環境問題は、一国だけで完結しない。アラル海の危機、国境をまたぐ水資源の非効率な利用、砂漠化、大気汚染はいずれも、個別の国家課題にとどまらず、地域全体の将来を左右する問題である。 とりわけ、アムダリヤ川とシルダリヤ川の流域で続いてきた持続可能性を欠く水管理は、生態系のみならず、各国経済の強靱性にも深刻な影響を及ぼしてきた。今回のサミットは、こうした共通課題を共有する段階から、共同で対処する段階へと進む具体的な一歩となる。 関連記事:アラル海は不死鳥の如く「灰」のなかから蘇りつつある 会議では、環境政策を包括的に捉える8つの重点分野が議論されている。(1)気候変動の緩和、(2)食料安全保障と生態系の強靱性の確保、(3)自然災害リスクへの適応と経済的強靱性の強化、(4)大気汚染の削減と廃棄物管理の改善、(5)環境目標達成に向けた制度整備、(6)天然資源の持続可能な管理、(7)公正で包摂的なグリーン移行、さらに(8)環境・デジタル分野の能力強化である。 https://www.youtube.com/watch?v=yk6DEqup0cY この議題設定は、環境問題を単なる保全の枠内に閉じ込めるのではなく、社会・経済の持続可能性と一体のものとして捉える発想を示している。 また、この取り組みが国連レベルで支持されていることは、会議に大きな政治的・国際的重みを与えている。環境問題がもはや自然保護だけの領域ではなく、安全保障や経済安定に直結する課題として認識されていることの表れでもある。 世界銀行やアジア開発銀行など国際金融機関の参加も重要である。環境分野の構想を具体的な事業へと結び付けるには、政治的意思だけでなく、多額の資金と高度な技術が不可欠だからだ。 今回のサミットで中心的な位置を占めるのが「グリーン移行(GX:グリーントランスフォーメーション:化石燃料中心の産業・社会構造をクリーンエネルギー主体へ転換し、脱炭素と経済成長を両立させる取り組み)」である。中央アジア諸国にとって、それは大きな機会であると同時に、重い課題でもある。 関連記事:コロナ禍からのグリーン・リカバリーと日本における炭素中立社会の実現に向けた課題 一方で、グリーン経済への転換は、投資の呼び込み、技術革新の促進、新たな雇用の創出につながり得る。再生可能エネルギー、省資源技術、持続可能な農業の拡大は、今後の経済成長を支える柱となる可能性がある。 他方で、その実現には大規模な制度・産業改革が求められる。老朽化したインフラの更新、産業構造の転換、市民の環境意識の向上はいずれも容易ではない。だからこそ、「公正で包摂的なグリーン移行」が強調されている点は重要である。移行の負担と利益を社会全体でどう分かち合うかが問われている。 ウズベキスタンにとって、このサミットは自国の環境政策を国際社会に示す重要な場でもある。近年、同国は「Yashil Makon」「Toza Havo」「Bio Meros」「Territory Without Waste」「Eco-Culture」などの取り組みを進め、環境分野での積極姿勢を打ち出してきた。 中でも、アラル海地域の再生に向けた取り組みは大きな注目を集めている。この分野で進められている具体策は、ウズベキスタンを地域内のみならず国際的にも重要な協力相手として位置づけるものであり、投資誘致や国際連携の拡大にもつながり得る。 サミットでは、中央アジア各国首脳による共同宣言をはじめ、2026年から2030年を対象とする国連との地域協力プログラム、生物多様性、エコツーリズム、生態系保護に関する覚書、森林火災に対応する地域早期警戒システムの創設に向けた合意、さらに国境を越える「平和公園」構想など、複数の重要文書がまとまる見通しである。 これらは、環境事業の長期的推進と資金確保の基盤となり、地域協力を制度面から支えることになる。 今回の地域環境サミットは、中央アジアが地球規模の環境課題に対して、地域としてより主体的な役割を果たそうとしていることを示す場である。気候リスクの低減、天然資源の保全、持続可能な発展の確保に向け、統一的な地域戦略を築く試みが本格化している。 この会議は自国の成果を示す機会にとどまらない。国際連携を強め、投資を呼び込み、グリーン経済への移行をさらに前進させるための重要な外交・政策の舞台となる。(原文へ) INPS Japan/London Post 関連記事: 中央アジアの水資源問題と解決策 日本とカザフスタンが接近―イラン危機がエネルギーと安全保障の優先課題を再編 ウズベキスタン―日本:戦略的パートナーシップの境界を広げる

ネパールでNRN市民権を取得するまで

入り組んだ手続きではあったが、NRN市民権は在外ネパール人の権利と願いを支える【カトマンズNepali Times=宮原ソニア】 最近、Nepali TimesのSubstackに掲載された「Unresident Nepalis(非居住ネパール人)」という記事を読み、私自身も、形式上は「非居住ネパール人(NRN)」に分類されながら、「ネパール国内に恒久的に住みたい」と願うネパール人の一人なのだと気づかされた。 冗談のつもりで言ったことではあったが、そこには皮肉もある。海外に出た人々の多くが故郷に戻りたいと願う一方で、移住していない人々は、ネパールにとどまるに足る十分な理由を見いだせずにいる。 NRN市民権が2023年末に正式に導入されると、私はすぐに申請を試みた。だが、書類を提出する前の段階で却下されてしまった。郡行政庁(District Administration Office)が当時の私の弁護士に対し、父方について「तिन पुस्ता」、すなわち3世代にわたるネパール人であることの証明が必要だと強く伝えたためである。 亡き父は日本出身で、2006年に日本国籍を放棄してネパールに帰化した。3年前、私は申請を退けられたものの、こうした申請に政府当局がもう少し慣れた頃に改めて挑戦すればよいと考え、その時はひとまず引き下がった。 しかし今は、病を抱える母と元気な幼子を抱え、早めに動く必要があると感じて、NRN市民権申請を専門とする法律事務所に相談した。すると意外にも、書類を確認した事務所は前向きな見解を示した。ただし、いくつかのハードルを越える必要があるかもしれないとも言われた。 2023年に私が申請したのは、父が帰化市民権を取得した郡の行政庁だった。だが今回は、母がネパールの家系上の出自を示す「बंसागज」市民権を取得した郡で申請するよう助言された。 弁護士たちは、NRN市民権の規定には、ネパールに出自を持つ父、母、祖父、または祖母を通じて取得できると明記されていると指摘した。事務所は必要書類の準備を進めてくれ、最初のステップは、母の居住区のワードオフィスから「सिफारिस」、つまり推薦状を取得することだった。 これが最初のハードルとなった。ワードオフィスは、そのような推薦状を発行できるのか判断がつかず、本庁に確認を取った。幸い、発行の許可が下りた。事務所の担当者たちが粘り強くフォローしてくれたおかげで、私たちは推薦状を受け取り、申請書類の記入を済ませることができた。 法律事務所は、必要があれば事情説明を支援できるよう自分たちは後方に回りつつ、書類は私自身が母の郡の行政庁へ持参するよう勧めた。 私は大きな笑顔と明るい口調で、言われた手続きを忠実に進めた。すると意外なことに、多くの担当者は不必要な障害を作ることなく、協力的な姿勢を見せてくれた。申請には郡長官(Chief District Officer, CDO)または副郡長官の承認が必要で、ここまで順調に進んだことで、「これはすんなりいけるかもしれない」と思ったその時、一人の担当者が、父の帰化市民権が別の郡で発行されたものであることに気づき、私のNRN申請もそちらの郡で行うべきだと告げた。 私は説明した。父はすでに亡くなっており、しかも父はもともとネパール人ではない。そのため、父の書類を根拠に手続きを進めるのは現実的ではない。求められているのは、祖先系譜に基づく「बंसागज(वंशज=血統に基づく)」市民権である。職員は上司に確認したうえで、「追加の措置として警察の確認(照会)が必要だ」と告げた。 私は警察本部へ向かった。そこで封印された紹介文書を受け取り、母のワード事務所と同じ地域を管轄する警察署へ提出するよう指示された。 警察署では、「親族以外の4人に、提出書類が事実であることを証言してもらう必要がある」と説明された。ここでの対応は、役所での手続き以上に精神的な負担となった。母の古い近隣住民の多くはすでに亡くなっていたり、別の地域で市民権を取得していたりした。協力を約束してくれた人も、その後予定が合わなくなることが続いた。だが、親切な高齢の隣人が奔走してくれ、最終的に必要な人数をそろえることができた。 ようやく先が見えてきたところで、求められた書類一式を持って郡行政庁へ戻った。最初は再び受理を渋られたものの、最終的には、CDOの決裁に回す前に書類へ署名する担当職員に会うよう案内された。 ところが運悪く、担当者たちは2時間以上も会議中だった。私は待合スペースで母にインスリン注射を打ち、売店の麺を食べさせながら時間をつぶした。 ようやく面会できた担当者は、書類を十分に確認しないまま、弁護士に向かって「法律を読んだのか」「日本のパスポートを持っているのに、なぜネパール市民権を申請できるのか」などと詰め寄った。どうやら、私が母方を通じて通常のネパール市民権を取得しようとしていると誤解していたようだった。私は、申請しているのは通常の市民権ではなくNRN市民権だと説明した。すると職員の口調は和らぎ、「規定をさらに確認する必要がある」と述べた。 ここまでで、私は段階を追って3日間手続きを進めてきた。結論が翌日に持ち越されること自体は、特に問題ではなかった。 NRN市民権は導入されて間もない制度で、申請の多くは居住国のネパール大使館を通じて行われている。そのため、手続きの過程では職員から「あなたのようなケースは扱ったことがない」と繰り返し言われた。 私の事情はこうである。私はこれまで一度もネパール市民権を取得したことがない。父は帰化ネパール市民権を取得していた。一方、家族の中で生まれながらのネパール市民であるのは母だけだった。私は繰り返し伝えた。「前例がないことは、不可能を意味しない」と。 そして実際、翌日、職員は書類に署名した。父の死とネパールへの貢献を知ったうえで、「本来、あなたの申請はもっと尊重されてしかるべきものだった」と言葉を添えた。 土地所有権の移転など、NRN市民権法の細部はいまだ十分に整っていない。だが、それでもこの制度は、多くのNRNの権利と願いを支える前向きな一歩である。私たちがどこへ行こうとも、「यो मन त मेरो नेपाली हो!(この心はネパールのものだ)。」(原文へ) 宮原ソニア(Hotel Everest View 代表取締役、Trans Himalayan Tours & Trekking Pvt Ltd、Himalaya...

ホルムズ海峡―世界経済のボトルネック

【メルボルンLondon Post=マジット・カーン】 最も狭い地点でも、ホルムズ海峡の幅は英仏海峡をわずかに上回るにすぎない。北にはイランの岩がちな海岸線、南にはオマーンの乾いた海岸が延びる。有史以来の大半の時代、この海峡は単なる通過点にすぎなかった。船舶が別の目的地へ向かう途中で通り過ぎる場所だったのである。だが今日、ここは地球上で最も重要な水路となり、その封鎖は、アナリストらがすでに「1970年代の石油危機以来最大の世界的エネルギー供給混乱」と呼ぶ事態を引き起こしている。 ホルムズ海峡の封鎖は、1970年代以来で最大の原油供給ショックを招き、WTI原油価格は1バレル=100ドルを突破、ブレント原油も112ドルに達した。2026年2月下旬に米国がイランに対する軍事作戦を開始して以降、その影響は驚くべき速さで広がり、湾岸からマニラのガソリンスタンドへ、カタールのLNGターミナルからブリュッセルの企業経営陣にまで及んでいる。 海峡には一方通行の2つの航路が設けられており、1日あたり約2000万バレルの石油が通過する。これは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イラク、カタールなどから輸送される、世界の海上石油取引量のおよそ20%に当たる。世界の1日の石油供給の5分の1が、超大型タンカー2列がようやく通れるほどの狭い水路を流れている。この事実は、長年にわたり戦略家たちを不安にさせてきた。かつては理論上の脆弱性にとどまっていたものが、いまや現実の危機となっている。 今回の危機は、何の前触れもなく訪れたわけではない。ワシントン、テルアビブ、テヘランの緊張は長年にわたって高まり続け、2025年6月には12日間に及ぶ空爆の応酬も起きた。ジュネーブでの新たな核交渉が決裂すると、全面戦争への流れを食い止めることは難しくなった。 2026年2月28日、米国はイランを攻撃した。テヘランの対応は即座に示された。3月2日、イスラム革命防衛隊(IRGC)の司令官は国営メディアを通じてホルムズ海峡の封鎖を表明し、通航を試みるあらゆる船舶を攻撃すると警告した。 この宣言は、海運各社の一斉撤退を招いた。マースク、CMA CGM、ハパックロイドなどの大手コンテナ海運会社は、ホルムズ海峡および関連航路の通航停止を決めた。同時に、フーシ派が支配するイエメンは、イスラエルおよび紅海を航行する商船への攻撃再開を表明し、スエズ運河を通る船舶はアフリカ南端の喜望峰経由への迂回を余儀なくされた。その結果、輸送日数は数週間延び、海運コストも上昇している。 3月中旬以降、イランは商船に対して少なくとも21件の攻撃を行ったことが確認されており、タンカーの通航量は当初約70%減少し、最終的にはほぼゼロに近づいた。150隻を超える船舶が湾内の沖合で停泊したまま、乗組員は待機を続け、積み荷は行き場を失っている。3月27日には、IRGCがさらに事態をエスカレートさせ、米国、イスラエル、およびその同盟国の港に「向かう、またはそこから出る」すべての船舶に対し、海峡を閉鎖すると発表した。 その後の価格上昇の速さは驚異的だった。ブレント原油価格は2026年3月8日、4年ぶりに1バレル=100ドルを突破し、ピーク時には126ドルまで上昇した。その上昇ペースは、近年のどの紛争時をも上回った。米政府当局者やウォール街のアナリストたちは、原油価格が前例のない1バレル=200ドルに達する可能性まで検討し始めている。ゴールドマン・サックスは4月のWTI価格を105ドルと予測しており、オプション市場でも、数カ月前なら現実味がないと見られていたシナリオが織り込まれつつある。 しかし、この危機は単なる石油危機ではない。現代世界がこれまで経験したことのない規模の、より広範な商品市場の混乱である。ホルムズ海峡は事実上閉鎖されたままであり、石油やガスだけでなく、アルミニウム、肥料、硫黄、ナフサなどの世界供給にも影響を及ぼしている。 湾岸地域は世界の尿素のほぼ半分、アンモニアの30%を生産しており、世界の肥料輸送の約3分の1がホルムズ海峡を通過している。尿素価格は戦争開始以降50%上昇した。LNG供給の混乱は肥料生産にも打撃を与え、北半球の春の作付け期を脅かすとともに、2026年後半にかけて世界の食料価格を押し上げる可能性がある。 経済モデルが示す影響も深刻だ。2026年第2四半期にホルムズ海峡の閉鎖によって世界の石油供給の約20%が市場から失われた場合、WTI原油の平均価格は1バレル=98ドルまで上昇し、世界の実質GDP成長率は、その四半期だけで年率換算2.9ポイント押し下げられると見込まれている。封鎖が第3四半期まで続けば、影響はさらに深刻化する。 この危機の影響が最も深刻に表れているのはアジアである。2024年には、ホルムズ海峡を通過した原油・コンデンセート輸送量の推計84%がアジア市場向けだった。中国も、自国の石油の3分の1をこの海峡経由で受け取っていた。その依存の代償が、いまアジア全域で現実のものとなっている。 影響は世界中に及んでいるが、とりわけ中東産石油への依存度が極めて高いアジアでは、この戦争が深刻なエネルギー不安を招いている。各国政府は対応に追われているものの、短期的な打開策をほとんど持ち合わせていない。バングラデシュでは、新たに発足した政権が大学を閉鎖し、石油備蓄施設の管理を軍に委ねた。インドでは、燃料価格をめぐる全国的な抗議行動が再燃し始めている。 フィリピンでは、ディーゼル価格がほぼ倍増した。紛争前は1リットルあたり52~53フィリピン・ペソ程度だったが、一部地域ではほぼ100ペソにまで跳ね上がり、物流網と公共交通部門に深刻な打撃を与えている。 台湾は、とりわけ深刻な脆弱性に直面している。世界的な半導体生産拠点である台湾は、ガス供給があと11日分しかないと報告した。世界のテクノロジー供給網を支える半導体工場を抱えるこの島にとって、これは単なるエネルギー危機ではない。現代世界のデジタル基盤そのものを揺るがす脅威である。 LNGへの影響はとりわけ深刻だ。石油には限られてはいるがパイプラインによる代替ルートがある一方、カタールのLNG輸出の約93%、UAEのLNG輸出の96%はホルムズ海峡を通過しており、これは世界のLNG取引量の19%を占める。世界のLNG供給は1日あたり3億立方メートル以上減少する見通しで、これは2021年にノルド・ストリームを通じて輸送された平均ガス量の2倍に相当する。 サウジアラビアとUAEはいずれもホルムズ海峡を迂回するパイプライン網を保有しているが、両国を合わせた迂回能力は日量350万~550万バレルにとどまる。一定の代替にはなるものの、ホルムズ海峡全体の輸送量を埋め合わせるには到底足りない。サウジ当局は原油輸出の一部を紅海沿岸のヤンブー港経由に切り替え、OPECプラスも追加増産を約束したが、規模からみて十分な解決策とは言えない。 イランは独自の代替航路も設けた。ララク島南側の主航路ではなく、同島北側に新たな輸送ルートを設定したのである。ある船舶はこのイラン航路の通航に200万ドルを支払ったと報じられ、その料金は中国元で革命防衛隊に支払われたという。これは異例の展開である。かつて世界が国際公共財の一部とみなしていた水路に、事実上、通行料を強制徴収する新ルートが出現したことになる。 各国は戦略石油備蓄の放出に踏み切り、サウジアラビアとUAEは海峡を迂回するパイプライン経由での原油輸送拡大を急いでいる。米国を含む各国政府も、価格抑制のため、過去最大規模の備蓄原油放出を打ち出した。だが、備蓄は本質的に有限である。石油業界幹部やアナリストたちは、4月中旬までにホルムズ海峡が再開されなければ、供給混乱はさらに深刻化すると警告している。 湾内に足止めされている一隻一隻のタンカーの背後には、極めて複雑な地政学的計算がある。イランは衝動的にホルムズ海峡を封鎖したのではない。イラン指導部が長年、自らの「切り札」と位置づけてきた手段――すなわち、ワシントンやテルアビブに1発のミサイルも撃ち込むことなく、世界のエネルギー市場を麻痺させる能力――を行使しているのである。 ホルムズ海峡の封鎖が過去の石油供給混乱と異なるのは、その影響範囲の広さにある。湾岸地域からの石油輸出が完全に止まれば、世界の石油供給のおよそ20%が市場から消えることになり、その約80%はアジア向けである。 一方、ロシアは思いがけず有利な立場に立っている。この紛争は、原油市場におけるロシアの競争力を実質的に高めている。中東産原油が物流面で混乱に直面するなか、インドと中国はいずれも、ロシア産原油への依存を深める強い誘因を持つことになった。 3月29日には、パキスタンがエジプト、サウジアラビア、トルコとの外交会合を開き、海峡の再開について協議した。これは、この戦争を始めた当事国ではない国々までもが、その経済的打撃の拡大を抑えようと動いていることを示すものだ。米軍は3月19日に海峡再開に向けた作戦を開始したが、3月30日時点でも通航の混乱はなお深刻なままである。 30人を超える石油・ガストレーダー、企業幹部、ブローカー、海運関係者、顧問らとの対話で、繰り返し聞かれたのは、ひとつの認識だった。すなわち、世界はいまだこの事態の深刻さを十分に理解していない、ということである。多くが1970年代の石油危機との類似を指摘し、ホルムズ海峡の封鎖が長引けば、さらに大きな危機を招くと警告した。 ホルムズ海峡は、単なる航路以上の意味を持つ存在であり続けてきた。それは、集中と依存、そして途切れることのない輸送を前提に築かれてきた世界のエネルギー体制を象徴する場所である。その体制はいま、自然災害ではなく、人間の意図的な選択によって壊れつつある。いま世界に問われているのは、単にこの水路をどう再開するかではない。わずか21マイルの係争水域に世界経済の命運を委ねるような仕組みから、何かを学んできたのかどうかである。 イランが海峡で海運を脅かす意思と能力を保ち続ける日々は、世界をより深刻な経済的損害へと近づけていく。時間は刻々と過ぎている。マニラのガソリンスタンドの行列、カシミールの空になったガスボンベ、シカゴの商品先物市場の画面――世界はいま、依存の代償が現実のものとなっていく光景を見つめている。(原文へ) INPS Japan 関連記事: ホルムズ海峡危機で進む静かな同盟シフト―トランプ政権の論理に近づく日本と欧州 勝利ではなく持久―イランの消耗戦略が鮮明に 米国/イスラエルによる対イラン爆撃―国際法軽視のケーススタディ

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