この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=チャンイン・ムーン】
この記事は、2022年11月28日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。
危機安定性は抑止力に劣らず重要であり、戦争に勝つことと同じほど、戦争を防ぐことに注力すべきである。
韓国および米国と北朝鮮の対立関係は日々硬直化しており、いずれの側も出口を見つけられない状況となっている。
北朝鮮は11月18日、一連の短距離・中距離弾道ミサイル発射実験に続き、東海に向けて大陸間弾道ミサイルの発射実験を行った。韓米はB-1B戦略爆撃機を前方展開することで対抗した。(日・英)
今や残されているのは北朝鮮の7回目の核実験のみである。韓国と米国は、北朝鮮がそのような実験を強行するなら厳しい措置を取ると警告済みである。朝鮮半島での軍事的緊張と安全保障上の不安が高まる悪循環は極めて悩ましいものとなっている。
韓国政府はこれに対し通常兵器と拡大抑止力の強化によって対応し、その中で米国が定期的に戦略兵器を朝鮮半島に展開するのを認めて報復攻撃能力を増強し、共同軍事演習を拡大、戦闘即応態勢を強化し「3軸体系」を運用してきた。
これは北朝鮮に対して、その効力において前例のないレベルの抑止力を構築、また平壌を圧倒することが可能な軍事態勢を整備し、危機の際に勝利を保障するということである。
しかし、国家安全保障の極めて重要な目標は、国民の生命、安全および財産を守ることであるが、韓国の現在の安全保障戦略はその目標を達成することができるかどうかだ。
問題は、朝鮮半島における軍事的脅威には本質的な非対称性があることだ。
韓国は裕福な国であり北朝鮮はそうではない。北朝鮮の首都・平壌は要塞化され前線からは離れているが、韓国の人口の半分近くは首都圏に集中している。さらに、ソウルは北朝鮮の短距離弾道ミサイル、巡航ミサイルおよび前線で展開される多連装ロケット砲に対して脆弱である。
これが、裕福で開かれた社会に固有の脆弱性である。
もし北朝鮮が侵攻してきたとしたら、韓米の連合戦力が反撃し勝つことは明白に見える。しかし、その過程で多くの人命が失われることを防ぐのは困難だろうというのが事実だ。従って、危機を安定化させる予防志向の外交政策が重要なのだ。
さらに懸念されるのが、韓国の防衛システムがミサイルの脅威に対して脆弱だという事実である。
ミサイル防衛は、四つの要素からなるといわれる。アクティブ防衛(ミサイルの発射後に迎撃すること)、パッシブ防衛(迎撃が失敗した場合に備える民間人防衛訓練および爆撃防護シェルターの構築)、攻撃的防衛(敵の攻撃の意図が前もって確認された時の先制攻撃)、および戦闘管理(指揮、統制、通信、情報、偵察および監視の機能を効果的に連携させること)である。
しかし現時点において、韓国のミサイル対応では、迎撃と先制攻撃が重視されている。以前実施されていた民間人防衛訓練は中止され、市民は自分の住む地域に、地下鉄の駅以外にどのような爆撃防護シェルターがあるか、ほとんど知らない。
迎撃と先制攻撃に信頼を置きすぎ、それらをバックアップするパッシブ防衛を行わないということは、破滅的な結果を招き得る。
もう一つの深刻な懸念は、韓国の過剰な対米依存である。北朝鮮が軍事的脅迫を行う時はいつでも、韓国政府は米国との同盟を強化するという、予想通りのカードを切る。
韓国の安全保障にとって同盟が極めて重要な価値があることを否定する者はいない。しかし、同盟を盲目的に信奉することは自衛と外交努力をおろそかにすることに繋がりかねない。
さらに、米国の韓国に対する安全保障の約束は、米国国内の政治状況に直結している。2024年の大統領選挙でドナルド・トランプまたは同様な外交政策を掲げる共和党の候補が勝利した場合、あるいはバーニー・サンダースのようなラディカルな民主党候補が勝利した場合、韓米同盟は現在の状態のまま継続するだろうか?
ウクライナの戦争が激化した場合、または、台湾海峡における米国と中国の軍事衝突が現実のものとなった場合、米軍が朝鮮半島で大規模な介入を行うのは難しくなるだろう。それどころか、そのような情勢となれば在韓米軍が縮小される可能性さえある。
筆者が言いたいのは、韓米関係の可変性を軽視するべきでないということだ。
政治と外交の両方において、根本的なアプローチは敵対勢力を最小化し、友好勢力を最大化し、中立勢力を味方につけることである。しかし、与党のリーダーらの一部は、このアプローチに反する行動をとっている。
与党「国民の力」の暫定代表である鄭鎮碩(チョン・ジンソク)は最近、「韓国が四つの北朝鮮に包囲されているのを見て、気の毒に思うでしょう」と嘆いた。
「四つの北朝鮮」という言い方で、チョンは北朝鮮そのものに加え、中国、ロシア、そして、米国との共同軍事演習の凍結を求めている国内の革新的グループを指している。
しかし、ジョー・バイデン米大統領の見方通り、新たな冷戦はまだ到来しておらず、北朝鮮、中国、ロシアの同盟が復活するかは確かではない状況が継続している。
韓国には、中国とロシアによる北朝鮮政府との協力を後押ししかねない、早まった仮定を余儀なくするいかなる理由があるというのか?
確固とした安全保障政策の基礎には国民の同意がある。そのことを無視して、違いを強調し、分断を煽ることは、韓国の安全保障体制を砂上の楼閣にする自己破壊的行為になりかねない。
長い歴史の教訓であり、また現代の常識でもあるが、危機安定性は抑止力に劣らず重要であり、戦争に勝つことと同じほど、戦争を防ぐことに注力すべきである。
また、戦略的優位性が重要である一方、市民の生命が国家安全保障の中心にあるべきだという基本原則を忘れてはならない。
今こそ、われわれはそのようなパラダイムシフトを熟考する時だ。
チャンイン・ムーン(文正仁)は、世宗研究所理事長。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。
INPS Japan
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