【パリ/東京INPS Japan】
インタビュー担当:ラザ・サイードLondon Post, Managing Director
撮影担当:浅霧勝浩、ケヴィン・リン(INPS Japan) 編集担当:ケヴィン・リン, ゲーリー・キルバーン
Q: パリ平和フォーラムが核軍縮に関する幅広い国際対話にどのように貢献するとお考えですか?
寺崎:今回の会議は、ローマに本部がありますカトリック系の団体である聖エディジオ共同体が主催をしてくれた会議です。彼らは毎年、このような大きな、特にインタフェース(諸宗教間)の国際会議を開き、多様な現代社会が抱える課題に対話と、そしてそれぞれの知見の共有、そういう場をこのように提供してくださっています。そういう会議の中で、特に核軍縮をテーマにしたフォーラムに私たちが創価学会インタナショナル(SGI)として参加できることは大変有難いことだと感じています。核兵器の問題は言うまでもなく、現代社会においては、とりわけ重要な課題です。それを世界各国の宗教者の代表とともに問題意識を共有する機会を作れることは、大変私たちにとってもやりがいのあるチャレンジの場だと感じています。
Q: SGIの代表として、グローバルな平和と安全保障の問題にどのような独自の哲学的視点をもたらしますか?
寺崎:私たちの平和運動の、とりわけ核兵器のない世界を目指す取り組みというのは、1957年の9月に創価学会の第二代会長である戸田城聖先生による原水爆禁止宣言というものを源流にしています。その当時は言うまでもなく、核実験の競争によって、核の拡大が懸念されている状況下でした。この中で戸田会長がポイントとして、当時集まった青年たちに遺訓の第一として伝えたかったことは、「人類の生存の権利を守る戦い」であるという視点でした。核兵器を物理的に無くすと言うことは第一の目標ですが、しかし核兵器を持ってまで、人類が戦争を起こすというその事態が、人類の生存の権利を侵すという視点を持って、私たちは核兵器の具体的な取り組みとともに、その人類の生存の権利を守るというその後の大きな活動につながっていく運動になったわけです。
その意味で私たちの核軍縮、あるいは核廃絶への取り組みというのは、一つはやはり人類の生存という視点から言うと核兵器を使うことによってどのようなことが起こるのか、その人道上の問題、あるいは被爆の実相というものを大きくクローズアップさせ、訴える活動を長年にわたって取り組んできました。もう一つは、戸田会長の後を継いだ池田大作会長が仰った言葉ですけども、要するに核兵器の問題の本質というのは、核兵器という無差別の大量殺戮兵器を所有してまでさえ、自分たちの支配欲を貫徹するという、その「核兵器を所有するその思想との闘い」である。こういう観点を私たちは明確にして取り組んでいるところが我々の大きな特徴だと思っています。
Q: 差し迫る地政学的緊張の中で、核軍縮を加速するために世界のリーダーが今すぐ取れる具体的なステップは何だとお考えですか?
寺崎:大変難しい危機的な状況にあると思いますが、多くの人たちがこの近況の中でまさに悲観している、あるいはなす術を持たない、そのことで大変に差別というものが増幅されかねない状況下にある。今回のこの会議でも、テーマとして掲げられましたけども、Imagine peace、要するに「平和を想像しよう」というテーマになっています。今我々にとって一番これは大きなテーマだと思っています。
過去にどうやったかという、もちろん教訓を学ぶことも重要ですが、やっぱり新しい発想、新しい挑戦に、そのことにどれだけ全人類が集中しているのか、私はそういう意味ではまさにこの悲観、あるいは無関心との戦いこそが、今の危機にとってまず乗り越えなければならない課題だと思っています。
我々市民社会でも、あらゆる可能性、あらゆるチャレンジというものを模索して、市民社会もその危機を共有しながら、これまでかつてないほど連帯して声を上げていく、その中で大きな突破口を見出す、あるいは政策決定者に影響を与えていく。そういう意味では若い人たちが受け身ではなく、この時代の危機をともに乗り越える側に立つ。こういう連帯の仕方を私たちは望まなければいけないと思っています。そういう意味では、このような会議は非常に重要です。だから私たちも参加しています。
Q: あなたは「先制不使用」政策の強力な提唱者ですが、この政策が世界的な核軍縮にとってなぜ重要であるのか、詳しくお聞かせいただけますか?
寺崎:もちろん20世紀にもこの議論はありました。この時は一方でこれは核保有国に時間を与えるだけのもので、真の核軍縮にはならないという批判もあったことは、私たちもよく承知しています。
しかし、今ある危機はそれとは比べ物にもならないぐらいの危機だと言ってもいいと思っています。今までのNPTの体制を担う側にいた核保有国が紛争の当事者になっているという、未だかつてない事態が生じているわけです。そういう意味では、すぐに核軍縮の方向に向きを変えることは大変に困難です。むしろ今、核兵器が使える兵器として近代化を図るという流れさえある状態です。そういう中である意味では、どのようにしてこの事態に対応したら良いか、多分いろんなこの事態を真剣に考えている人ほど非常に苦労の思索の中にあると思います。私たちは運動家に留まらずに、いわゆるアカデミックの専門家の人たちとこの議論をずっと続けてきましたが、まずできることは何か、その中で唯一可能性があるのはNo First Use(先制不使用)という結論に至りました。そのことを入り口にして、信頼醸成のための、まず会話のテーブルを作る。このことにつながっていく流れを私たちは目指したいと思っています。よって、このテーマで年内に大きな国際会議を開いて、さらに発信を高めたいと今検討を進めているところです。
Q: 長年にわたって核軍縮と平和のために尽力されてこられたわけですが、個人的にこうした活動に携わる動機或いはきっかけは何でしょうか?
寺崎:日本の創価学会が、被爆の実相を伝えていくために、戦争を知らない世代が直接被曝をされた方々に、あるいは戦争を経験された方々に取材を出向いて聞き書き運動をして、その記録を残し、出版するという運動を1970年代に始めました。12年間で80冊出版しました。私も若い青年として、当時この運動の事務局長をさせていただくようになり、被爆者の方々のところを訪問して話を伺うということにも取り組みました。今でもそうですけども、当時はさらに被曝をされた方々が自分の体験を語るということを大変に苦痛に思われている方々が多い時代でした。何回も通う中でこの活動の趣旨を理解していただいて、重い口を開きながら時には嗚咽を吐きながら一言一言紡ぎ出される被爆者の方達の言葉を聞いて私は強い衝撃を受けるとともに、生涯この活動には関わっていこうとした、それが私たちの大きなベースになっています。その思いは、核被害者の方々への核問題だけに留まらずに世界中のいろんなサポートを必要としている地域や人々へ何かしらできることはないかと常に考える自分自身のベースにもなっていると思います。
Q: SGIは平和構築の取り組みにおいて若者の積極的な参加を促進してきました。若者は核軍縮のための戦いにおいて、さらに幅広い役割を果たすことができます。若者に向けたメッセージをお願いします。
寺崎:もちろん、時代を変えてきたのはいつでも若い方々の力です。時代を、社会を大きく変える時に、青年のエネルギーなくして成立したことなど一つもないと思います。そういう意味では、若い方々に何かをしてあげるという感覚は私にはありません。
彼らに一つでも多くの活動の場を与え、そして自分自身の経験を積んでもらって、自分たちの活動として、特に世界中の若い方々と連帯の輪を広げる、このことに全力をあげてほしいし、そのためにできることを私も応援をしていきたいと思っています。それが伝統的な私たちSGIの考え方です。
Q: SGIの核軍縮に関する取り組みは、気候変動や経済的不平等といった地球規模の課題にどのように交差していますでしょうか?
寺崎:もちろん私たちが、団体としてできることも挑戦してることはありますが、より大きな意味では、私たちは、一人一人に色々と教育や啓発の機会を与えてそれぞれ一人ひとりが自分にできることに挑戦する、その流れの中でしか大きな仕事は形成されない、という運動論を自覚しています。例えば核兵器の問題、あるいは気候変動の問題、あるいは人権や貧困の問題、優秀なまた非常に感受性の豊かな方々にとっては自分ごととして取り組んでいただく、そういう素晴らしい方々もたくさんいらっしゃると思います。しかし、もっと大きな流れを作るためには、自分自身が身近な人たちに親切で優しく接し、その方々の苦労に同苦ができるような、そういう自分の生き方を大事にするかどうか、その一人一人の生き方が広がる中でしか、大きな意味のある連帯はできないし、また社会を変えていく力にはならない。私たちは社会市民側の人間ですけれども、とりわけ信仰をベースにしている団体として、そのことの重要さを強く感じています。時々国連の場等で紹介されることもありますけども、SGIは一貫して市民社会において平和のための教育を推進している団体だ、とこのように紹介されることがあります。それはそういう背景を持っているからだと思います。
Q: 非国家主体の役割が国際外交においてますます重要になる中で、SGIのような市民社会組織が世界平和の取り組みにどのような貢献ができるとお考えですか?
寺崎:先ほども述べたかもしれませんが、やはり国連という多国間の対話の場においても市民社会に席が用意されるようになって、私は非常に良い流れができていると思います。もちろん国をマネージする人、リーダーたちの仕事も重要ですけども、同時に、やはり実際の生活の現場の中で人々がどのような安心や安寧、平和というものを感じられるか、それは我々がそっちに近い側にいる人間ですよね、市民社会の声が圧倒的に大きくなっていくことが私は平和や民主主義のベースというものを強固にしていくものだと確信しています。そのためには普通の人々が懸命になり、また信念を持ち、強くなっていく中で、事実を知る権利というものを確保していくことが、より重要だと思います。市民社会の私たちがそういうことに大きな役割を果たせると信じています。 (英語版)
INPS Japan
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