ニュース途上国では疾病よりも死の原因となる公害

途上国では疾病よりも死の原因となる公害

【アックスブリッジ(カナダ)IPS=スティーブン・リーヒー

途上国では疾病ではなく公害こそが最大の死亡原因であり、毎年840万人以上が公害が原因で亡くなっているとの分析調査結果が明らかになった。この数値は、マラリアによる死者数の3倍、HIV/AIDSによる死者数の14倍である。にもかかわらず、公害問題は依然として国際社会からほとんど注目されていないのが現状である。

Richard Fuller/ Blacksmith Institute
Richard Fuller/ Blacksmith Institute

公害と健康に関するグローバルアライアンス(GAHP)」のメンバーとしてこの分析調査を実施した「ピュア・アース/ブラックスミス研究所」のリチャード・フラー所長は、「汚染地域は、大気汚染、水質汚染を引き起こし途上国の保健システムに多大な負担を及ぼしています。」と語った。GAHPは、中・低所得国における化学物質・廃棄物・毒性汚染の除去をめざす国際協力組織(2国間・多国間国際組織、政府、学会、市民社会組織が加盟)である。

「大気汚染や化学物質による環境汚染が途上国で急速に広がっています。地域住民が晒されている健康被害を考えると、今後の影響は極めて深刻です。」とフラー所長はIPSの取材に対して語った。

「しかし、途上国が直面しているこうした深刻な未来は、先進国が概ね自国の公害問題の解決に成功していることからも明らかなように、支援の手さえ差し伸べれば、十分防ぐことが可能なのです。ところが、公害問題は、現在策定中の持続的可能な開発目標(SDGs)からは外れているのが現状です。」とフラー所長は語った。

UNDESA
UNDESA

SDGsは(2015年以降の)向こう15年間にわたって国連開発援助計画を規定する「ポストミレニアム開発目標(MDGs)」に組込まれる重要な要素で、援助機関や世界の援助供与国は、2015年9月に発表されるこの新開発目標に沿って、資金拠出や援助を実施していくことになっている。

「公害はしばしば『見えない殺し屋(Invisible Killer)』と呼ばれています。…保健統計は公害ではなく疾病関連のデータを計測するため、公害がもたらしているインパクトは把握しづらいのです。」「その結果、公害問題は、実際には早急に真剣な対策が必要であるにもかかわらず、しばしば比較的小さな問題として誤って扱われてしまう傾向にあるのです。」とフラー氏は語った。

GAHPの分析は、世界保健機関(WHO)などによる最新のデータを利用して行われたもので、年間740万人の死因が、大気汚染、水質汚染、及び衛生状態の不良によるもの、さらに約100万人の死因が、貧しい国々の中小規模の製造業が垂れ流している毒性化学物質や産業廃棄物が大気中や、水、土壌、食物を汚染したことによるもの、と結論付けている。

「こうした国々においては、環境汚染が及ぼす健康被害が感染症や喫煙による被害を上回っています。」と、ニューヨーク市立大学環境衛生学の教授でブラックスミス研究所の技術アドバイザーを務めているジャック・カラバノス氏は語った。

「鉛、水銀、六価クロム、旧式の農薬で汚染された何千何万という汚染地域で起こっている健康被害を評価するのは極めて至難の業です。」とカラバノス氏はIPSの取材に対して語った。

しかし、この問題に関する調査はまだ緒に就いたばかりであることを考えると、100万人という数値は過小評価である可能性がある。「私たちはつい最近も、東ヨーロッパで、極めて毒性が強い化学物質を含む旧式の農薬が大量に投棄されていた場所を発見しました。」とカラバノス氏は言う。

Blacksmith Institute
Blacksmith Institute

「こうした化学物質はひとところに留まるというわけではありません。雨で地中や河川に押し流されたり、風で遠くまで飛散して農作物に付着することも少なくないのです。」とカラバノス氏は語った。ブラックスミス研究所の2012年の調査では、鉱山からの廃棄物や鉛溶鉱炉、産業廃棄物などのために、49か国で1億2500万人の健康が侵されているという。

「私たちはこれまでに、周辺の大気、土壌、水を汚染している200ヵ所以上のホットスポットを特定してきました。健康被害を被ってきた周辺人口の数は約600万人にのぼります。」「そしてそうしたホットスポットの中には、鉛酸蓄電池や中古車バッテリーのリサイクル過程で流出した鉱毒が周辺に鉛中毒を引き起こした事例や、電子廃棄物解体施設で焼却されたケーブル類から発生した毒性の強い煤煙が周辺地域を汚染した例などが含まれます。」とガーナ環境保護庁のジョン・オウワマン氏は語った。

「また近年次々と発表されている科学的証拠から、癌、心臓病、糖尿病、肥満、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、自閉症、アルツハイマー病、鬱病など多くの疾病が、体内に増え続けている有害化学物質と関係していることが明らかになってきています。」と新書『毒された惑星:いかにして化学物質への恒常的露出が命を危険に晒しているか』の著者であるジュリアン・クリッブ氏は語った。

またクリッブ氏は、「これまでに14万3000種類の人工的化学物質が作られ、それとほぼ同種類の化学物質が採鉱活動や化石燃料の燃焼、ゴミの廃棄によって自然界に放出されてきました。」と指摘したうえで、「国連によると、人体や環境への影響が未確認の新しい産業化学物質約1000種類が、毎年新たに自然界に排出されています。」と語った。

世界各地のGAHPメンバー(支援団体リスト)は、国連に対してSDGs策定過程において公害問題を重視するよう強く働きかける一方で、立場表明文書と独自のSDG改訂版テキストを作成した。これらの文書は、来週ニューヨークで開催される「SDGsに関するオープンワーキンググループ」に提出される予定である。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:

世界で最も体に悪い場所

|リオ+20|仏教指導者、より持続可能な世界に向けたパラダイム・シフトの必要性を訴える

|日中関係|環境対策で変貌を遂げたアジアの二都物語

「それはものの見方の完全な転換だ」(ジェームズ・キャメロン監督インタビュー)

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

「G7広島サミットにおける安全保障と持続可能性の推進」国際会議

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN
IDN Logo

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken