SDGs|視点|人間性を忘れるな(カレン・ホールバーグ教授パグウォッシュ会議事務総長)

|視点|人間性を忘れるな(カレン・ホールバーグ教授パグウォッシュ会議事務総長)

【INPS Japan=カレン・ホールバーグ

米国ニューメキシコ州で実施された世界初の核実験、そして広島・長崎への悲劇的な原子爆弾投下によって幕を開けた「核時代」から80年が経ちました。今日、人類は深刻な存亡の危機に直面しています。その危機は、冷戦期における最も緊迫した対立をも上回るほど、不安定で予測困難なものとなっています。

1955年、核兵器保有国がわずか3か国であり、水素爆弾の開発が始まったばかりの時代に、「ラッセル=アインシュタイン宣言」は人類に対して次のような根源的な問いを投げかけました。

「私たちは人類を滅亡させるのか。それとも、人類は戦争を放棄するのか。」

現在では9か国が核兵器を保有し、数千発もの熱核兵器が配備されています。この問いは、いまや人類が直面する究極の選択となっています。

パグウォッシュ会議は、国際秩序が著しく悪化し、外交よりも武力による威嚇や行使が優先されるようになっている現状を深く憂慮しています。核兵器保有国が関与する現在の軍事的対立は、人類文明そのものの存続を脅かす危険を孕んでおり、新たな核拡散の波が起これば、その危険性は飛躍的に高まるでしょう。

米国とロシア連邦の間で締結されていた新戦略兵器削減条約(New START)の失効により、国際社会は、世界最大の二つの核兵器保有国の核戦力を拘束し、検証可能な法的枠組みを持たない時代へと正式に入りました。

1972年の第一次戦略兵器制限交渉(SALT I)以来、50年以上にわたり続いてきた軍備管理の枠組みが初めて失われたことになります。これらの枠組みは、国際社会に管理・安定・予測可能性・透明性をもたらす重要な安全装置として機能し、1980年代半ばに約7万発あった世界の核弾頭数を、現在のおよそ1万2,200発(広島型原爆約14万6,000発分以上の爆発力に相当)まで削減する上で重要な役割を果たしてきました。

しかし、核軍縮において歴史的な前進があったにもかかわらず、現在の動向は、その長年にわたる成果が逆行しかねないことを示しています。核軍拡競争の再燃、国際的緊張の高まり、そして核保有国同士の軍事対立が、その流れを加速させています。

さらに、多くの核保有国が核戦力の近代化と増強を進めており、軍備管理に関する対話が停滞する中で、世界の戦略的安定性に新たな圧力を加えています。こうした動向は、国際安全保障における核兵器の重要性が再び高まっていることを示しており、核不拡散・核軍縮の努力、とりわけ半世紀以上にわたり核兵器の拡散を抑制してきた核兵器不拡散条約(NPT)第6条の履行を著しく困難なものとしています。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

その一方で、「核兵器禁止条約(TPNW)」への支持が広がっていることは、多くの国々と市民社会が核兵器の完全廃絶という目標の実現に向けて強い決意を持っていることを示しています。軍縮への具体的な道筋については見解の違いがあるものの、この条約は核兵器廃絶の人道的必要性を改めて国際社会に訴え、「核兵器のない世界」という理念を国際政治の重要課題として維持する上で大きな役割を果たしています。

また、欧州において核抑止の適用対象を新たな非核兵器国へ拡大しようとする議論や、東アジアをはじめとする地域で核武装を支持する政治的主張が台頭していることは、自国の安全保障を理由とした制御不能な新たな核拡散の連鎖を引き起こしかねません。

同様に深刻なのは、一部の核兵器保有国による核実験再開を示唆する無責任な発言です。こうした言説は危険な緊張の激化を招くだけでなく、「包括的核実験禁止条約(CTBT)」の発効を見据えて長年維持されてきた核実験モラトリアムを損なう恐れがあります。同条約は、依然として主要国による批准を待っている状況です。

現在の状況は極めて重大な課題を突き付けています。しかし、それらはいずれも直ちに取り組むべき課題です。

  • 核兵器保有国は、2022年1月に発表した「核戦争の防止及び軍拡競争の回避に関する共同声明」を改めて確認し、国際安全保障における核兵器の役割を縮小する政治的意思を明確に示すべきです。それは同時に、核軍拡競争の終結と核軍縮に向けた誠実な交渉を義務づけるNPT第6条の履行を改めて確認することにもなります。
  • 核兵器保有国は、共通の利益を見いだす責任を自覚し、多国間軍備管理交渉の再活性化に向けて真摯な外交努力を行わなければなりません。
  • すべての核兵器保有国は、核爆発実験のモラトリアムを維持するとの自主的な約束を改めて表明するとともに、CTBTの早期発効に向けて必要な措置を講じるべきです。核実験の再開は、新たな軍拡競争と戦略的不安定化への危険な一歩となります。
  • 核兵器保有国は、非核兵器国に対して核兵器を使用せず、その使用を威嚇しないことを改めて確認するとともに、「先制不使用(No First Use)」政策を採用し、これらの安全保障上の保証を法的拘束力のあるものへと発展させる努力を進めるべきです。
  • 国際原子力機関(IAEA)の検証・監視機能を一層強化し、非核兵器国を含む国際的な核不拡散体制において、透明性・信頼性・遵守を確保していくことが不可欠です。
  • 核兵器のない地域(非核兵器地帯)をさらに拡充するとともに、1995年および2010年のNPT運用検討会議で合意された中東非核兵器地帯の設立を実現すべきです。
Nuclear Weapon Free Zones
Nuclear Weapon Free Zones

これらの措置は、信頼醸成と核リスク低減のための現実的な一歩となり、世界の安定を高めるとともに、制御不能な「核拡散の連鎖(nuclear breakout)」を防ぐことにつながります。

さらに、それらは、人工知能、量子技術、極超音速兵器、ミサイル防衛、宇宙空間の軍事利用、自律型兵器システムなど、新たな安全保障上の課題に対応できる、より協調的で包括的かつ現代的な国際安全保障体制への橋渡しともなり得るでしょう。

核兵器が人類の存続に及ぼす危険について、市民と政治指導者双方の理解を深めることは極めて重要です。ノーベル賞受賞者会議による最近の宣言でも、次のように呼びかけています。

「私たちは、科学者、研究者、市民社会、そして宗教共同体に対し、世界の指導者が核リスク低減のための措置を実行するよう促すために必要な世論を築くことを呼びかける。」

その責任は、私たち一人ひとりにあります。

最後に、ラッセル=アインシュタイン宣言の結びの言葉を、改めて胸に刻みたいと思います。

「私たちは、人間として、同じ人間である皆さんに訴えます。人間性を心に刻み、それ以外のことは忘れてください。」

この文章は、INPS Japanが創価学会インタナショナルと推進している核廃絶メディアプロジェクトの報告書(2025年4月~26年3月までに配信されたプロジェクト記事をまとめたもの)の序文として寄稿されたものである。
Toward a World free from Nuclear Weapons
Toward a World free from Nuclear Weapons

INPS Japan

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