この駆け引きの本質は、キューバの変革の条件を誰が決めるのかという一点にある。
【メキシコシティーIPS=サンドラ・ヴァイス】
ベルリンの壁が崩壊し、東側共産圏が消滅してから37年。キューバでは社会主義体制の経済改革をめぐる議論が続いてきた。その論点は一貫している。国家による計画経済を縮小し、個人の裁量と責任を拡大すること―言い換えれば、非効率で腐敗した国家官僚機構を立て直すために、市場経済の要素をより積極的に取り入れるという発想である。|英語版|

しかし、この間に大きな前進はほとんど見られなかった。自由化や市場開放の時期が訪れても、そのたびに統制強化へと揺り戻しが起きた。党や軍、官僚機構の保守派が何度も改革にブレーキをかけてきたのである。その背景には、改革が所得格差を拡大し、新たな富裕層への反発を生み出したことがある。そして何よりも、権力と統制を失うことへの恐れ、さらには「階級の敵」、すなわちキューバの文脈では米国帝国主義の浸透に対する警戒感があった。
底なしの穴への資金投入
ところが先週、事態は一気に動いた。
燃料不足のため多くの議員がハバナへ移動できず、定足数も十分ではないまま急遽招集された国会は、176項目に及ぶ包括的な改革プログラムを可決した。その内容は極めて広範囲に及び、多くの専門家が「歴史的改革」と評価している。
今回の改革では、社会主義経済の「聖域」とされてきた制度にもメスが入った。
まず、すべての国民を対象とした一律補助金制度は廃止され、今後は社会的弱者への重点的支援へと転換される。これは半世紀以上にわたり、国民がほぼ無料で食料や日用品を受け取ることを可能にしてきた配給制度「リブレタ(Libreta)」の終焉を意味する。近年、この制度は深刻な経済危機によって実質的に機能を失い、名目だけが残る状態となっていた。
もう一つの大きな転換点は地方分権である。
今後、国営企業や地方政府はハバナ中央政府への依存を減らし、人事や賃金を含む経営判断をより自主的に行えるようになる。
この極端な中央集権体制を痛烈に風刺した作品として知られるのが、フアン・カルロス・タビオ監督とトマス・グティエレス・アレア監督による1995年の名作映画『グアンタナメラ』である。同作品では、官僚主義のために遺体を埋葬するだけでも、島の東端サンティアゴ・デ・クーバから西端ハバナまで運ばなければならないという不条理が描かれている。
民間投資と市場開放へ
今回の改革では、国外へ移住したキューバ人(亡命者・移民)による国内への直接投資も認められる。
さらに、これまで協同組合に限られていた農業分野にも民間企業の参入が認められる。
かつて砂糖輸出大国として栄えたキューバ農業は現在、機械や肥料、技術、労働力の不足により壊滅的な状況にある。数百万ヘクタールもの農地が耕作されないまま放置され、食料の大半を輸入に頼っている。
輸入先には中国、トルコ、アラブ諸国が含まれるが、皮肉なことに、経済制裁下にある隣国アメリカからも食料を輸入している。
エネルギー分野でも民間投資が解禁される。また、個人が複数の民間企業を所有することも可能となる。
自由化はこれだけにとどまらない。
政府は貿易、外国投資、国際経済への統合を加速させる方針である。
具体的には、
- 民間銀行やマイクロファイナンス機関の設立を認可
- 外貨取引規制の大幅緩和
- 個人・企業による外貨口座の自由な開設
- 外国企業が国営人材派遣会社を介さず直接従業員を採用することを許可
- 外国企業に対する国営企業との合弁義務の撤廃
- 在外キューバ人による直接投資の解禁
などが盛り込まれた。
これらの措置によって、外国資本と新たな投資を呼び込むことが狙いである。
すでに遅すぎた改革か
実は、これらの改革の多くは何年も前から議論されてきたものだった。
中国やベトナムも長年にわたりキューバ指導部に市場改革を促してきた。歴史的な友好関係や地政学的・イデオロギー的な結び付きはあったものの、成果の見えないキューバ経済へ資金を注ぎ込み続けることに限界を感じていたからである。
15年前、ベネズエラから潤沢な石油供給を受け、米国ではバラク・オバマ政権が対キューバ関係改善を進めていた時期こそ、本来であれば改革を断行する絶好の機会だった。
しかし現在は状況がまったく異なる。
石油禁輸という「ダモクレスの剣」が頭上にぶら下がり、米国による介入の可能性も取り沙汰される中、国庫は空になり、国民からの政治的正統性も大きく失われている。
しかも、この改革が成果を上げるには、米国が制裁を解除し、キューバの世界経済への統合を後押しすることが不可欠である。
だが、現状ではそれは期待できない。
米国は地政学的優位を握っており、それ以上の政治改革を求めている。
マルコ・ルビオ米国務長官は数か月前、「政治改革と指導部交代が必要だ」と公言したが、ハバナ政府はこれを全面的に拒否している。
民主化の可能性
キューバ国会のホセ・ルイス・トレド議長は改革可決に際し、「改革は国家の社会的役割を放棄することを意味しない」と強調した。

一方、ワシントンの反応は冷ややかだった。
米国務省は今回の改革を「規模が小さく、遅すぎる上、表面的な煙幕に過ぎない」と一蹴した。
これは、体制への脅威が生じれば改革をすぐ撤回するという、キューバ政府の従来のやり方だという見方である。
双方の戦略は明確だ。
キューバは時間稼ぎを図り、秋の米中間選挙でトランプ大統領が勢いを失い、対キューバ強硬策への関心も薄れることを期待している。
一方、米国は当面ハバナを圧迫し続け、改革が本当に実行されるのかを見極める構えだ。
水面下での交渉では政治的圧力がさらに強まり、軍事介入という選択肢も完全には消えていない。
結局、このポーカーゲームの争点は一つである。
キューバの変革の条件を誰が決めるのか。
国民なき改革
しかし、この駆け引きの中で最も発言権が小さいのがキューバ国民である。
停電、水不足、食料不足に対する抗議デモは日常化しているが、そのたびに迅速かつ厳しく鎮圧されている。
ベネズエラとは異なり、キューバにはカリスマ的指導者や明確な政治綱領、幅広い支持基盤を持つ組織的野党は存在しない。
この状況は、当面は支配層に有利に働いている。
しかし、それが永続する保証はない。
改革が進み、国家への依存から自立する国民が増えれば、状況は変わる可能性がある。
東欧の民主化移行が示したように、市民社会はもちろん、残念ながら組織犯罪もまた、こうした変革期を巧みに利用する。
その結果として生まれる体制は、長期的混乱かもしれないし、マフィア型寡頭制かもしれない。あるいは民主主義へ向かう可能性もある。
民主化を実現するには、改革プロセスそのもの、とりわけハバナ政権に対し、慎重かつ国際的な支援が必要になる。
現時点でその役割を担いうるのは、メキシコやブラジル、そして国連やバチカンくらいしか考えられない。

欧州の存在感低下
現在のラテンアメリカにもEUにも、この問題を主導できる有効な超国家的枠組みや指導者は存在しない。
むしろEUは、キューバ問題において自ら影響力を失いつつある。
第一に、トランプ政権による制裁の結果、多くの欧州企業はキューバから撤退したが、ブリュッセルは有効な対抗措置を講じなかった。
さらに数日前、欧州議会では右派・保守派が多数を占める中、ミゲル・ディアス=カネル大統領への制裁と、キューバとの協力停止を求める決議が採択された。
これは、トランプ政権の対キューバ政策とほぼ軌を一にするものであり、欧州独自の戦略や利益を守ろうとする発想はほとんど見られなかった。
それは、EUが地政学・地経学の両面で存在感を失いつつあることを示す、また一つの象徴と言えるだろう。
サンドラ・ヴァイスは政治学者、元外交官。現在はフリーランス・ジャーナリストとして、『ディー・ツァイト』『ディー・ヴェルト』などドイツの主要紙に中南米情勢を寄稿している。出典: International Politics and Society(ドイツ・フリードリヒ・エーベルト財団〈Friedrich-Ebert-Stiftung〉Global and European Policy Unit発行)掲載記事。
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