【ハーグIDN=ラメシュ・ジャウラ】
マーシャル諸島共和国は、小国ながらも著名な国際法律家チームの支援と、「核兵器ゼロ」の実現を主唱する支持者を背景に、断固とした決意で、国連の主要な司法機関である国際司法裁判所(ICJ)に訴えて、9つの核兵器国(米・露・英・仏・中・イスラエル・インド・パキスタン・北朝鮮)に核軍縮の義務を果たさせようとしている。
「核時代平和財団」の事業責任者リック・ウェイマン氏によれば、これは世界の最高裁判所に持ち込まれた核軍縮をめぐる初めての案件であるという。
マーシャル諸島共和国は2014年4月、9つの核兵器国すべてを提訴した。しかし、米国、ロシア、中国、フランス、イスラエル、北朝鮮はICJの強制的管轄権を受諾しておらず、自国に対する提訴を無視した。その結果、「強制管轄権」を受諾していたインド、パキスタン、英国のみが提訴を受け入れることとなった。
他方で、インド、パキスタン、英国のみが受諾している。
マーシャル諸島共和国は、核武装国は既存の国際法の下における核軍縮義務に違反していると主張している。これは、核不拡散条約(NPT)の締約国である5大国(米・露・英・仏・中)だけではなく、非NPT締約国である4ヶ国(イスラエル・インド・パキスタン・北朝鮮)についても慣習国際法の下で適用される。
国連の潘基文事務総長は、2009年に発表した核軍縮に関する5項目提案のなかで、「すべてのNPT締約国、とりわけ核兵器国は、核軍縮につながる効果的な措置に関する交渉を行う条約上の義務を果たすべき」だと訴えている。
ICJの公聴会に先んじて、(核兵器禁止に向けた具体的な法的措置の問題を話し合うべく国連総会が設置した)公開作業部会(OEWG)がジュネーブにおいて2月22~26日の日程で開催されたが、核兵器の軍縮に関する停滞を打破するには至らなかった。国際弁護団を率いてきたアムステルダムの弁護士であるファンデンビーゼン氏は、「私たちは基本的にICJに対して、被告の国々(インド、パキスタン、英国)に国際法の下での義務を果たし、あらゆる側面での核軍縮という、必要とされる結果を導くような交渉を行うよう求めているのです。」と語った。
とりわけ、マーシャル諸島共和国はICJに対して、核兵器の威嚇と使用に関する違法性が問われた1996年の勧告的意見のフォローアップを求めている。当時ICJは、核兵器の合法性に関する国際的議論が続くことは、国際秩序の安定を脅かすと判断し、「長らく約束されてきた完全核軍縮こそが、もっとも適切な手段であるかに見える」と述べて(第98段落)、批判に耐えられない(核兵器を巡る)当時の状況に終止符を打とうとした。
ICJは、3月7日に始まった公聴会を3月16日に終わらせた。今後は、ICJがこの件に関する管轄権を有するかどうかを決定することになっている。その決定が下されるまでに数か月はかかる見通しだ。
「法的観点からすると、この案件によって提示された問題は通常のものですが、前向きな結果が出れば、劇的に世界が変わることになるでしょう。」とファンデンビーセン氏は語った。
英国、インド、パキスタンは、マーシャル諸島共和国が提訴したこの案件におけるICJの「受理可能性(本案審議に進む可能性)と管轄権」に強く反対している。英国は、他のNPT締約国と同じく、条約第6条の義務を認識し、軍縮に向けて努力していると主張している。一方インドは、NPTは差別的であり、5大国にその核兵器の近代化を事実上許容していると主張している。
マーシャル諸島共和国を支持する国際弁護団は、ICJに対して、少なくとも「厳格かつ実効的な国際管理のもとで、(諸国には)全面的な核軍縮に向けた交渉を誠実に行い、その交渉を完結させる義務がある」とした1996年の勧告的意見を再び表明することを期待している。
マーシャル諸島共和国のビキニ環礁には、かつて核実験場があった。1945年に核攻撃の惨禍を被った日本の広島と長崎と並んで、マーシャル諸島共和国は、核兵器が引き起こす惨状を身近で目の当たりにした数少ない非核兵器国である。
在マーシャル諸島共和国の米大使館によると、米国政府は、悪名高い「キャッスル・ブラボー」実験も含めて、1946年から58年にかけて67回の核爆発実験を行っている。「ブラボー実験は爆発力15メガトンで、それまでの大気圏内核実験で最も強力な核装置を利用した。」とアンキット・パンダ氏が記している。
1954年3月1日の「キャッスル・ブラボー」の規模は予想をはるかに上回るものであり、広範な放射性物質による汚染を引き起こした。放射性物質を含んだ降下物は、オーストラリアやインド、日本、果ては米国や欧州の一部にまで到達した。「ブラボー実験」は秘密実験として実施されたが、たちどころに国際的事件として知られるようになり、水爆装置の大気圏内実験禁止の声が高まることになった。
マーシャル諸島共和国のトニー・デブルム元外相は、幼少時代にマーシャル諸島で目撃した米国による核実験の様子について、「空全体が血のような赤色に染まり、島々は核実験によって蒸発しました。」と証言するとともに、「わが国民は、こうした核兵器による破滅的で回復不能な損害を被ってきました。私たちは、地球上の誰もこのような悲劇を二度と味わうことがないよう、戦い続ける決意でいます。」と語った。
提訴にも関わらず、マーシャル諸島共和国と米国は、1983年に締結され、米国にマーシャル諸島共和国の安全保障・防衛の責任を委ねた自由連合協定の下で、良好な外交関係を維持している。
マーシャル諸島共和国のトニー・デブルム元外相は、同国政府がICJへの提訴に踏み切った動機について、「私はこの目で核兵器がもたらす惨状を目撃し、核兵器が人類に対して再び使われることがあってはならないと確信しています。核兵器は人類の生存を無差別に脅かす存在であり、核保有国には核軍縮を追求し最終的には廃絶するよう義務づける基本的な規範が存在します。これが、我が国がICJに提訴した理由です。」と語った。
創価学会インタナショナル(SGI)の石渡一夫平和運動局次長は、「核兵器とその使用が招く結果について世論を喚起しなくてはなりません……。知識を得ることで、人々は、核兵器なき世界に向かってより効果的に動くことができるようになります。究極的には、民衆の犠牲の上にしか成り立たない安全保障をとるか、或いは、人間の安全保障を最優先した思考や行動をとるか、私たちの目前には2つの選択肢があることを理解する必要があります。」と語った。
池田大作SGI会長は、こうした考え方の論拠として、今年の平和提言「万人の尊厳 平和の大道」のなかで、「どの地域であれ、ひとたび核兵器が使用され、核攻撃の応酬が始まるような事態が起これば、どれほど多くの人々が命を奪われ、後遺症に苦しむことになるのか計り知れません。」と明言している。
なぜなら今日世界には、15000発を超える核兵器が存在しているからである。核兵器が使用されれば、山積する地球的な課題に対し、人類がどれだけ努力を尽くしていったとしても、すべて一瞬にして無に帰してしまいかねない。
「例えば、難民問題一つをとってみても、核兵器の爆発による影響は国境を超えて非人道的な被害を及ぼすだけに、6000万人という現在の世界の難民の数をはるかに上回る、数億もの人々が住み慣れた場所から逃れ、避難生活を強いられる恐れがあります。」と池田会長は記している。
事実、最近の研究によれば、核攻撃の応酬が局地的に行われただけでも、深刻な気候変動が生じることが予測されており、「核の飢饉」と呼ばれる食糧危機が起こるとともに、人間の生存基盤である生態系に甚大な影響が及ぶことへの警鐘が鳴らされている。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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