【ニューヨークIPS=カール・P・ソーヴァント、ルイス・T・ウェルズ】
「重要鉱物(critical minerals)」が先進国の企業や政府にとって文字通り「重要」なのは、現代の自動車、人工知能(AI)、コンピューター、ドローンをはじめ、数多くの民生品や防衛関連製品に欠かせないからである。|英語版|
現在、多くの重要鉱物は採掘、とりわけ精製・加工が中国に集中している。そのため、欧米諸国との緊張が高まった際、中国にとってこれらの鉱物へのアクセスを制限することは、強力な交渉手段となり得る。このため先進国の政府や企業は、供給を確保しようと、中国国外で新たな鉱山や加工施設の開発を急いでいる。
重要鉱物の鉱床の多くは開発途上国に存在する。しかし、その多くは、レアアースをはじめとする重要鉱物の採掘に必要な資本やノウハウを外国企業に頼らざるを得ない。探鉱・開発契約は、投資家と受入国政府双方の権利と責任を、多くの場合、数十年にわたって規定する。しかも、多くの投資家は投資協定によって保護されているため、資源保有国にとっては、契約締結の段階から適切な条件を確保することが極めて重要となる。
資源保有国に広がる交渉の余地
重要鉱物をめぐっては、開発途上国の交渉力が他の鉱物資源の場合より強くなることが多い。先進国の民間企業だけでなく、その本国政府も重要鉱物へのアクセス確保に強い関心を持ち、同時に競争相手にその資源を押さえられることを避けようとしているからだ。
投資家側の開発意欲が強ければ、資源保有国は税やロイヤルティーなど、より有利な財政条件を求めることができる。また、政府の政策変更などに対して投資家を広範に保護する「安定化条項」を過度に認めないことや、現地サプライヤーを育成するプログラム、適切な鉱山閉鎖措置などを契約に盛り込むことも可能になる。場合によっては、採掘した鉱石を国内で加工するよう投資家に求めることもできる。
もう一つの機会は、重要鉱物を自国企業に確保させたい投資家本国の政府の強い関心を活用することである。資源保有国は、鉱山そのものに必要なインフラにとどまらず、プロジェクトへの資金提供やインフラ整備への援助拡大などの便益を、投資家の本国政府に求めることができる。
本国政府から実質的な利益を引き出せる可能性を高めるには、受入国政府が投資家やその本国の政策について深い知識を持つとともに、他国で締結された鉱業契約についても十分な情報を得ておく必要がある。
重要鉱物に特有の動きとして、その供給網を構築・安定化させるための多国間・二国間の枠組みが形成されつつある。これにはFORGEや、Project Vaultのような備蓄構想も含まれる。
こうした新たな機会を活用し、投資家の本国政府から利益を得るためには、通常の鉱業担当省庁だけでなく、外務省も交渉に関与する必要があるかもしれない。その結果、政府内の省庁間調整という、以前からある課題がさらに重要になる。
「契約したのに開発しない」リスク
一方、資源保有国には一定のリスクもある。
とりわけ重要なのは、投資家が契約を締結したにもかかわらず、実際には投資を行わないリスクである。あるいは、期待された水準まで生産を拡大しない可能性もある。企業が他社による鉱床の取得を阻止するためだけに契約を結んだり、「万一に備えた」予備資産として権益を確保したりする場合もあり得る。
さらに、技術は急速に変化している。例えば、現在バッテリーに必要とされている鉱物が、数年後にも同じように必要とされているとは限らない。
だからこそ、契約には「use-it-or-lose-it(利用しなければ権利を失う)」条項を盛り込むことが不可欠である。投資家が合意した期限までに鉱山を開発しなかったり、定められた生産要件を満たさなかったりした場合、その権利を失うことを契約で明記し、政府が別の投資家を探せるようにしておく必要がある。
情報と専門知識の格差
受入国政府が投資家と交渉する際、一般に大きな不利となるのは、鉱物資源の価値について投資家側の方が政府より多くの情報を持っていることである。
また政府側には、十分な資金と人材を擁する国際的な投資家と交渉するために必要な法律、財務、技術面の専門知識が不足していることも少なくない。
過去に鉱業契約の交渉経験があったとしても、その際に蓄積された専門知識が、すでに別の政府機関や民間部門へ異動した担当者個人の経験にとどまっている場合もある。
重要鉱物をめぐる契約交渉には特有の複雑さと新たな可能性があるだけに、こうした知識や能力の格差はさらに大きくなり得る。したがって、開発途上国が自らの立場を生かし、こうした機会を十分に活用することは容易ではない。
外部の専門家を活用すれば、政府がより有利で適切な鉱業契約をまとめる助けとなる。しかし、最貧国の多くには、弁護士、地質学者、技術者、金融アナリスト、市場専門家、環境専門家といった国際的な専門人材を雇うための資金が不足している。
世界銀行や国際金融公社(IFC)などの国際機関は、外国投資や鉱業に関する政策・法制度の整備を支援できる。しかし、個々の企業との具体的な契約交渉になると、そうした機関の支援は及ばなくなる。
無償の専門家支援を活用する

一方、交渉段階で無償(プロボノ)の助言を提供する機関も存在する。
International Senior Lawyers ProjectとAfrican Legal Support Facilityは法的支援を提供している。また、CONNEX Support Unitは法的支援だけでなく、個々のプロジェクトに必要となるその他の専門知識も提供している。
重要鉱物の契約を交渉する際、各国政府はこうした外部支援の活用を検討すべきである。ただし、自国の具体的なニーズに合致し、信頼して協力できる専門家を選ぶため、支援機関と緊密に連携する必要がある。
選ばれる専門家には、必要な技術的知識だけでなく、鉱山開発計画に関係する複数の省庁や政府機関をまとめるためのコンサルティング能力も求められる。これはしばしば難しい仕事である。
最終的に、個々の専門家であれ、異なる専門能力を持つ専門家チームであれ、できるのはあくまで助言である。決定を下すのは、鉱物資源を保有する国の政府である。
長期的に持続する契約を
ただし、一つ注意すべき点がある。資源保有国政府は、自らの交渉力を過信し、要求を過度に押し通さないよう慎重でなければならない。
目指すべきなのは、関係するすべての当事者の長期的な利益を、バランスよく反映した契約である。そうして初めて、その契約は長期にわたって持続するものとなる。
カール・P・ソーヴァント(Karl P. Sauvant)は、コロンビア大学持続可能な投資センター(CCSI)シニアフェローで、国連貿易開発会議(UNCTAD)投資部の元部長。ルイス・T・ウェルズ(Louis T. Wells)は、ハーバード・ビジネス・スクールのハーバート・F・ジョンソン国際経営学名誉教授。両氏はCONNEX Advisory Committee(CONNEX諮問委員会)のメンバーである。
INPS Japan/ IPS UN Bureau Repor
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