最新記事

カザフスタン―アゼルバイジャン間フェリー、2026年前半に運航開始へ

【ローマThe Astana Times=ナジマ・アブォヴァ】 カスピ海で、カザフスタン西部のクルィク港とアゼルバイジャンのアラト港を結ぶフェリー航路が、2026年に開設される見通しとなった。貨物取扱量の拡大と地域の海上連結性強化が期待されるとして、カザフスタン国営通信カジンフォルムが12月23日に報じた。 マンギスタウ州のヌルダウレト・キリバイ州知事(アキム)は、中央コミュニケーション・サービスでの会見で、「2026からジョージア側の企業と協力し、クルィク港とアラト港の間でフェリー6隻の就航を計画している。すでに2隻がカスピ海に入り、2026年前半に運航を開始する。その後は毎年2隻ずつ追加し、2028年までに6隻すべてが運航する。」と語った。 キリバイ知事は、この取り組みがカザフスタン独自のフェリー船隊の形成につながるほか、貨物量の増加と、カスピ海域の海上輸送の発展を後押しするとの見通しを示した。 また、中国から中央アジアとカスピ海経由で欧州までを結ぶトランス・カスピ国際輸送ルート(TITR、ミドル・コリドー)について、今年マンギスタウ州を経由する貨物輸送は前年比20%増の250万トンに達したという。 運航会社セムルグ・インベストは船隊を2027年までに6隻へ拡充する計画で、今年は積載能力7000トンの船舶1隻を同ルートに追加投入した。 マンギスタウ州では新港の建設も計画されている。着工は2026年で、投資協定は最終段階にあり、2025年内または26年初めの署名が見込まれる。建設は2026年第2四半期に開始予定で、港湾用地はすでに指定され、登録手続きが進められている。 新港整備は、中国、カザフスタン、アクタウ、バクー、ポティを経て欧州へ至る新たな国際輸送回廊の形成を後押しすると期待されている。 INPS Japan/The Astana Times Original URL: https://astanatimes.com/2025/12/ferries-between-kazakhstan-and-azerbaijan-to-launch-in-2026/ 関連記事: 中央アジア・日本首脳会合、トランス・カスピ回廊を後押し トカエフ大統領は核リスク再上昇に警鐘 カザフスタン共和国大統領直属カザフスタン戦略研究所(KazISS)副所長にダウレン・アベン氏が就任 トカエフ大統領とトランプ大統領、170億ドル規模の協定で関係を深化

続発する世界の紛争が浮き彫りにする核保有国と非核保有国の対立構図

2025年8月に迎えた被爆80年の節目にあたり、国連軍縮担当上級代表の中満泉氏は、アントニオ・グテーレス国連事務総長のメッセージを代読し、次のように述べた。「私たちは、命を落とした人々を追悼する。そして、その記憶を受け継いできた家族と共に立つ。」中満氏はまた、広島と長崎の原爆投下を生き延びた人々を指す「被爆者(hibakusha)」に敬意を表し、「その声は、平和のための道義的な力となってきた。年々その数は少なくなっているが、彼らの証言、そして平和を訴える永遠のメッセージが、私たちから失われることは決してない」と語った。 【国連IPS=タリフ・ディーン】 いま続く2つの紛争は、核保有国と非核保有国の間で起きている。ロシア対ウクライナ、イスラエル対パレスチナである。両紛争では、それぞれ多数の死者が出ており、犠牲者数は万単位に達している。さらに、核保有国と非核保有国が衝突しかねない潜在的な火種として、中国対台湾、北朝鮮対韓国、米国対イランなどがある(ほかにベネズエラ、メキシコ、コロンビア、キューバ、デンマークをめぐる対立も指摘されている)。|英語版|中国語||ドイツ語| この増え続けるリストに、新たな潜在的対立が加わりつつある。核保有国・中国と非核保有国・日本の対立である。日本は、1945年8月に広島と長崎で米国の原爆投下を受け、主に民間人15万~24万6000人が死亡したとされる、世界で唯一の被爆国だ。 日本の高市早苗首相は昨年11月の国会答弁で、中国が台湾に武力攻撃を行った場合、日本にとって「存立危機事態」に当たり得るとの認識を示し、日本が軍事的に関与する可能性に言及した。発言は、アジアで新たな緊張を招きかねない。 ニューヨーク・タイムズ紙によれば、中国は「激しく反発」し、事実上自治を行う台湾は中国領土の不可分の一部だと主張した。中国はまた、数百万人規模の観光客に対し日本渡航を控えるよう促し、水産物の輸入を制限し、軍の哨戒を強化したという。 こうした軍事的緊張が高まるなか、日本政府は新政権への国民の信任を改めて問うとして、衆院を解散し、2月8日に総選挙を実施すると表明した。 タイムズ紙は1月22日付の記事「不安に揺れる国家が国内最大級の原発を再稼働」(An Anxious Nation Restarts One of its Biggest Nuclear Plants)で、東京電力(TEPCO)—福島第一原発を運転していたのと同じ電力会社—が、世界最大級の原子力施設の一つである柏崎刈羽原発で、6号機の再稼働を開始したと報じた。 同紙は、2011年以前、日本の電力の約30%を原子力が供給していたとも指摘している。 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、日本の2024年の軍事予算は世界10位まで拡大した。中国の軍事予算も増加を続け、2024年には米国に次いで世界2位となっている。 米カリフォルニア州オークランドのウエスタン・ステーツ法律財団(Western States Legal Foundation)事務局長で、「平和首長会議(Mayors for Peace)」北米コーディネーターのジャッキー・カバッソ氏はIPSの取材に対して、高市首相が中国による台湾への武力攻撃が日本にとって「存立危機事態」になり得ると述べたことは、きわめて憂慮すべきだと語った。 カバッソ氏によれば、1967年、日本の佐藤栄作首相(当時)は「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則を打ち出し、1971年には衆議院がこれを正式決議として採択した。 しかし、この三原則への日本のコミットメントは長年にわたり疑問視されてきた。政治決定があれば、日本は核兵器を短期間で製造し得る能力を有している、という見方が広く存在するとカバッソ氏は語った。 中国は言葉の応酬をさらに激化させている。真偽は別として、中国軍備管理・軍縮協会(China Arms Control and Disarmament Association)と、中国核工業集団(China National Nuclear Corporation)系のシンクタンクである核戦略計画研究所(Nuclear Strategic...

パリから車椅子へ:ギラン・バレー症候群、リハビリ、そして連帯の力

【東京INPS Japan=浅霧勝浩】 2024年9月、私は中央アジアと欧州を巡る出張の途上にありました。数々の有意義な出会いと意見交換に恵まれ、各地の人々との交流は実り多いものでした。パリで3日間の国際会議を取材を終え、旅の締めくくりに差しかかっていた夜、突如としてすべてが一変しました。 夜10時頃、ホテルの部屋で、太ももと指先に焼けつくような激しい痛みが走り始めました。数分のうちにその痛みは胸のあたりまで這い上がり、私は汗だくとなり、横になることも眠ることもできなくなりました。同行していた同僚のケビン・リンがすぐに救急病院へ連れて行ってくれました。私の酸素濃度は93%まで低下しており、アメリカン・ホスピタルに3日間緊急入院することになりました。酸素投与と一連の検査が行われましたが、命にかかわる異常は見つからなかったが、できるだけ早く帰国するよう勧められました。 ケビンは終始私のそばにいて、医師との連絡を取り合い、帰国の手続きをサポートしてくれました。私たちは医師の見立てに納得がいかず、帰国を決意。片道航空券を購入し、ケビンはシャルル・ド・ゴール空港まで私を付き添って送り届けてくれました。日本航空の乗務員の皆さんが脚を伸ばせる手配してくださったおかげで、何とか長時間のフライトを乗り越えることができました。 しかし、真の試練はここから始まったのです。 帰国後:制度の限界と向き合う 帰宅後、症状はさらに悪化し、激しい痛みのために立ち上がることも困難になりました。3日目、ついに救急車を呼ぶことにしました。そこで直面したのは、まさにパンデミック時代の慎重な対応を思い起こさせるような現実でした。海外渡航歴があることを理由に、4つの病院から受け入れを拒否されたのです。幸い、5件目の秀和病院がようやく診察を引き受けてくれました。診察の結果、医師からはギラン・バレー症候群(GBS)の疑いがあると告げられました。これは、免疫システムが自らの神経を攻撃するという、稀ながらも重篤な自己免疫疾患です。私は直ちに、獨協医科大学埼玉医療センターへ緊急搬送されることになりました。 同大学埼玉医療センターに入院した当初、麻痺は脚だけにとどまらず、顔面にも広がっていました。顔の筋肉がまったく動かせず、笑うことも、眉をひそめることも、自力でまばたきすることすらできませんでした。食事も困難で、麺をすすることはもちろん、口まわりの動きを要するものは口にできず、おかゆや細かく刻んだ食事をなんとか飲み込むのが精一杯でした。医師からは、症状がさらに進行すると、喉にまで麻痺が及び、飲み込むことすらできなくなったり、肺に達して呼吸ができなくなる危険性があると説明されました。幸いにも、麻痺は顔面で止まりました。言語聴覚士(ST)による集中的なリハビリを受け、少しずつ表情筋の機能を取り戻していきました。 激痛と日常の崩壊 治療にもかかわらず、激しい痛みは続きました。特にベットで横になると、両脚の筋が激しくつって激痛が走りました。ベッドの端に座ることでわずかな緩和が得られ、私は3週間以上、昼夜を問わずリクライニング車椅子で過ごしました。この不自然な姿勢は足の腫れを引き起こし、毎日のマッサージが欠かせませんでした。さらに深刻だったのが、パリでの初発症状の晩から始まった重度の便秘です。最大限の薬を投与しても、2週間近く排便がなく、身体的にも精神的にも極限に追い詰められました。 免疫グロブリン療法とステロイドパルス療法により、状態は安定しましたが、すでに13キロの体重が減り、筋力は著しく低下していました。歩くことも立つこともできず、リハビリに望みを託すしかありませんでした。 静かなるヒーローたち──PTとOTの力 11月8日、私は社会医療法人敬愛会・天草リハビリテーション病院に転院し、本格的な回復への道のりが始まりました。そこで始まったリハビリは、私にとって奇跡のような変化をもたらしてくれたのです。 病院では、担当医をはじめ、理学療法士(PT)と作業療法士(OT)で構成されるチームが、私のために全力を尽くしてくれました。毎日3時間にわたる集中的なリハビリの中で、筋力の再構築、筋肉の再訓練、そして基本的な運動機能の回復に取り組みました。 PTの皆さんは、麻痺した下肢に少しずつ刺激を与えながら、最も基本的な動作から一つひとつ丁寧に指導してくださいました。OTは、動作の協調性やバランス感覚を取り戻すための訓練を重ね、日常生活の自立に向けて寄り添ってくれました。 彼らは単なる医療従事者ではありません。私にとっては、まさに「命の綱」と言える存在でした。自分自身が回復を信じられなくなったときでも、彼らは常に私を信じ、励まし続けてくれました。そのおかげで、私は少しずつ立ち上がる力を取り戻し、歩けるようになり、再び日常を取り戻す希望を見出せたのです。 https://www.youtube.com/watch?v=ucVJ_LGrwyE&t=2s 2025年2月7日、私は退院しました。そしてその1カ月後には、ニューヨークで開催された国際会議の取材に出かけ、仕事に復帰しました。いまも杖を必要とし、手足の感覚は完全には戻っていませんが、プロジェクトパートナーや同僚たちの支えを得て、生きがいと使命感を持って現場に復帰しています。 GBSから学んだこと:健康、共感、そして責任 私はこれまで、核廃絶や持続可能な開発目標(SDGs)をテーマに、ウクライナ、スーダン、イエメンといった地域の人道危機を報道してきました。しかし、自身が病を患ったことで、それらの出来事を単なる「取材対象」としてではなく、「他人事ではない、共に生きる人々の現実」として、改めて捉え直すようになりました。 私の取材活動を支えてきた理念の一つに、「同苦(どうく)」という仏教の言葉があります。これは「共に苦しむ」「他者の痛みを自分の痛みとして受け止める共感的連帯」を意味します。この考え方は、今の私にとって一層深い意味を持つようになりました。報道の中で紹介される人々の立場になって想像してみると、医療にアクセスできずに病気やケガに直面することが、どれほど恐ろしいことかを身をもって実感しています。 だからこそ、特に米国のような大国による人道支援の削減を目にするたびに、胸が締めつけられるような思いになります。それは単なる予算の数字ではなく、実際の人間の命や暮らしに直結する重大な決断なのです。 私はたまたま、世界でも有数の医療体制が整った国に住んでいたからこそ、生き延びることができました。その幸運に報いるためにも、誰もが公平に医療を受けられる世界の実現を、これからも強く訴えていきたいと思います。 感謝の言葉 この危機を乗り越えられたのは、以下の方々のおかげです。 パリで迅速に対応してくれた救急病棟の医師と看護師の皆さん 常にそばにいてくれたケビン・リン氏 帰国便で配慮してくださった日本航空の客室乗務員の皆さん 入院を断られても搬送を諦めなかった救急隊員の皆さん GBSの兆候を見抜いてくれた秀和病院の医療チームの皆さん 確実な診断と治療を行ってくれた獨協医科大学埼玉医療センターの医療チームの皆さん 睡眠もままならぬ夜を支えてくれた看護師の皆さん 獨協医科大学埼玉医療センターと天草リハビリテーション病院のST、PT、OT、看護師の皆さん 彼らの仕事は決してニュースの見出しになることはありません。しかし、彼らなしでは回復はあり得ませんでした。これは、ギラン・バレー症候群からの生還の物語にとどまりません。リハビリの奇跡、介護者の人間性、そして「誰もが癒される権利」を支える連帯の力を語る記録でもあるのです。(原文へ)|中国語版| INPS Japan 浅霧勝浩:東京を拠点に活動するジャーナリスト。国際通信社INPS Japanの代表として、核兵器廃絶や持続可能な開発目標(SDGs)に関する国際メディアプロジェクトを推進している。2024年には、「外国メディアが見たカザフスタン」コンテストにおいて、アジア太平洋地域の最優秀賞を受賞。彼の研究成果には、2000年7月にニューヨークで発行されている学術誌『Geographical Review』に掲載された「ドミニカ共和国に渡った日本人移民の軌跡」がある。 |米国|国際援助庁(USAID)の閉鎖は世界の貧困国を危険にさらす恐れ 崩壊の危機にあるスリランカの医療制度 なぜアイ・ケアが重要なのか―バングラデシュなど多くの国々のために

1989年からの教訓(ヴィクトル・ガエタン ナショナル・カトリック・レジスター紙シニア国際特派員)

米国の侵攻に立ちはだかった教皇大使 【Agenzia Fides/INPS Japanカラカス/パナマ=ヴィクトル・ガエタン】 先週、米軍がベネズエラでニコラス・マドゥロ・モロス大統領を標的に軍事作戦を行ったことは、36年前に米国が行ったよく似た作戦を想起させる。1989年の一件は、バチカン外交に注目を集めると同時に、聖座(教皇庁)の意思決定が世俗国家の計算とは異なることを浮き彫りにした。|イタリア語版|スペイン語|フランス語|ドイツ語|中国語|英語| 標的は「一人の男」 1989年12月20日、米国のジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、2万7500人の兵員をパナマに投入して侵攻し、政権を転覆させ、軍事独裁者マヌエル・ノリエガの逮捕を命じた。ノリエガは元CIA協力者ともされ、コカイン密輸、マネーロンダリング、反民主的行為で告発されていた。こうした罪状は、現在マドゥロ大統領と妻のシリア・フローレス氏が直面している告発と重なる。 1989年当時の公式推計では、死者はパナマ側500~560人、米軍側23人とされた。一方、地元の情報源は、死者が最大4000人に上り、被害額も20億米ドルを超えたと見積もっている。 ノリエガは間一髪で拘束を免れたが、懸賞金100万ドルが懸けられていた。米軍が首都で行方を追い、家族も潜伏する中、ノリエガが頼ったのは教皇大使館だった。クリスマスイブ、彼は教皇大使ホセ・セバスティアン・ラボア・ガジェゴ大司教(1923~2013) 2023に電話をかけ、教皇大使館での即時庇護を求めた。 ノリエガは教会の友ではなかった。実際、ラボア本人に嫌がらせをしたこともある。それでも教皇大使は、暴力の拡大を避けるため迅速に動き、独裁者と数人の側近に庇護を与えた。 まもなく米軍が教皇大使館を包囲し、ヘリコプターが上空を旋回した。しかし外交特権により、館内は守られ、逃亡者を含む全員の安全が確保された。 聖座は、米国の示威的な武力行使を評価しなかった。パナマ侵攻は国際法違反だと考えたのである。 主権 領土主権は国際秩序の中核をなす概念である。聖座は、ノリエガ本人の同意なしに、聖座の外交トップが「占領権力」と呼んだ米国へ彼を引き渡すことはなかった。 教皇大使は、ノリエガが教皇大使館にとどまれると保証したという。「最後の瞬間まで私は言い続けた。『ここにいなさい。われわれは決してあなたを追い出さない』と」 当初、米国務長官は「犯罪者に庇護の権利はない」として聖座に圧力をかけ、引き渡しを迫った。しかし聖座は、米国のパナマ侵攻は国際法違反だとして、ノリエガを本人の意思に反して米国に引き渡すことはできないとした。 同様に、教皇レオ14世が1月4日のアンジェルスでベネズエラに言及した際も、「国家主権の擁護」を明確に打ち出した。主権主体である聖座は、主権国家から成る国際秩序の一員として、この世界秩序を守る立場にある。米国は、それを1989年のパナマ、2003年のイラク、そして2026年のベネズエラで侵害してきた、との認識に立っている。 聖座の主権は、1929年のラテラノ条約によって明確化された。これは聖座の独立を守る盾であり、このため教皇とその外交官たちは、国際法秩序という考え方の強い擁護者となっている。 中立性と司牧的配慮 パナマでの対峙で聖座が守ったもう一つの価値は、中立性である。聖座は政治的、あるいは軍事的対立のいずれにも与せず、中立を保つことを重視する。 教皇大使は、ノリエガ一行、新たなパナマ当局、米国政府という当事者に対し、等距離を保った。 ノリエガは教皇大使館で約1週間半、何をして過ごしたのか。米軍が建物に向けて大音量のロック音楽を流し、投光器で窓を照らし続ける中、彼は眠り、本を読み、ミサに参列した。 教皇大使が予期せぬ客に対して用いた主な手段は、言葉による説得だった。ラボアはノリエガと長く話し合い、考え得る展開を一つひとつ検討しながら、最善の道を選ぶよう促した。さらに司牧者としても向き合い、説教を行い、キリスト教の徳を思い起こさせた。 つまりラボアは、ローマと常に連絡を取りながら、司牧者として逃亡者に寄り添い、導く役割を果たしていた。ここにこそ、カトリック教会が外国の指導者と関わる際の特徴が表れている。 指導者はまず一人の人間として扱われる。私たちと同じく罪を抱える存在である一方、立ち直り(救い)の可能性を持つ存在でもある。状況を分析する際の中心には、常に個人とその尊厳が置かれる。人間は決して「使い捨て」にされる存在ではない。 終局 最終的にノリエガ将軍は折れた。きっかけとなったのは、数千人規模の反ノリエガ派市民が教皇大使館の門の外で抗議した日のことだった。教皇大使は、群衆が敷地に押し寄せれば、米軍に攻撃の口実を与えかねないとノリエガに説明した。 朝のミサで、将軍は最後列に座っていた。洗礼は受けていたが、霊的な助言をブラジル人の呪術師に求めていたとも報じられている。ラボアは説教で「忠誠は移ろうが、神は変わらない」と語り、ノリエガは聖体を受けた。 数時間後、独裁者は軍服を着て「行く準備ができた」と告げた。聖書は手元に置きたいと頼んだという。ノリエガは3人の司祭とともに教皇大使館の前庭を横切って正門へ向かい、そこで投降した。流血のない投降によって、目先の危機は収束した。米国は聖座の要請を受け、ノリエガに死刑を科さないと約束し、その約束は守られた。 ラボアは、個人に仕えながら、暴力を忌み嫌う教会の立場に沿って、緊張が極限に達した局面を非暴力で収拾した。 暴力にノーを こうした姿勢は、レオ14世のアンジェルスの言葉にも表れている。教皇は祈りの中で、こう語った。「愛するベネズエラの人々の善が、あらゆる他の考慮に優先され、暴力を乗り越える道を開きますように」 さらに、ベネズエラ司教協議会は、米軍の作戦で命を落とした約80人(治安部隊32人を含む)を悼んだ。こうした犠牲に同様に言及する声は、ほかに多くはなかった。司教団は「負傷者と遺族に連帯する。国民の一致のため、祈り続けよう」と記した。 聖座はベネズエラについて、現地に情報源を持つ。国務長官ピエトロ・パロリン枢機卿は2009~13年に教皇大使として同国に赴任していた。現教皇大使のアルベルト・オルテガ・マルティン大司教も1年以上滞在し、ヨルダン、イラク、チリでの勤務経験を持つ。昨年7月には、拘束されていた米国人司祭の解放に関与したとも報じられた。 教皇の指導の下、聖座の外交官は目立たない形で動く。36年前のラボア大司教と同様、ベネズエラにおいても、複雑な国際的対立の中で解決の道を粘り強く探っているとみられる。 ヴィクトル・ガエタンは、米誌『ナショナル・カトリック・レジスター』の上級特派員(国際問題担当)。『フォーリン・アフェアーズ』にも寄稿し、カトリック・ニュース・サービスにも寄与してきた。著書に『God’s Diplomats: Pope Francis, Vatican Diplomacy, and America’s Armageddon』(Rowman & Littlefield、2021年。2023年7月にペーパーバック版刊行)。ウェブサイトは VictorGaetan.org。INPS Japanは、この記事について、著者とAgenzia Fidesの許可を得て、7つ目の翻訳言語(日本語)を担当した。 INPS Japan/ Agenzia Fides 関連記事: |核兵器なき世界| 仏教徒とカトリック教徒の自然な同盟(ヴィクトル・ガエタン ナショナル・カトリック・レジスター紙シニア国際特派員) 歴史的殉教地ナガサキ:隠れキリシタンから原爆投下まで |第8回世界伝統宗教指導者会議|危機を超えて対話を(長岡良幸創価学会国際渉外局長インタビュー)

核時代80年:ラテンアメリカの軍縮路線が示す「対抗モデル」

【メキシコシティーINPS Japan=ギレルモ・アヤラ・アラニス】 核抑止が再び世界の権力構造の柱として前面に出つつある中で、ラテンアメリカ・カリブ海地域は、核兵器に依存しない安全保障という立場を粘り強く掲げている。安全は核によってではなく、核兵器を持たないことによってこそ確かなものになる―という考え方である。 |英語版|スペイン語| その確信を中心に据えるのが、新刊『A 80 años de la era nuclear: ¿Dónde estamos y a dónde vamos? Una mirada desde México y América Latina(核時代80年―私たちはどこにいて、どこへ向かうのか。メキシコとラテンアメリカからの視座)』である。本書は、世界初の「非核兵器地帯(NWFZ)」の視点から、核という大量破壊兵器の軍縮をめぐる歩みとリスク、そして未解決の課題を検証する。 編纂を担ったのは、メキシコ外務省の軍縮・不拡散・軍備管理調整官であるマリア・アントニエタ・ハケス・ウアクハと、イベロアメリカーナ大学の教授・研究者であるアベラルド・ロドリゲス・スーマノである。両氏は本書を、緊張が再燃する国際環境の中で、核兵器をめぐる理論的・政策的議論を更新する試みと位置づけている。 本書は、冷戦期の従来型の議論をなぞるものではなく、核テロ、サイバー上の脆弱性、人工知能(AI)がもたらす不安定化、さらには抑止ドクトリンの揺らぎといった、近年浮上する新たな争点に焦点を当てている。 抑止に頼らない安全保障という選択 本書が刊行された背景には、世界の安全保障を支えてきた前提が大きく揺れ始めているという現実がある。ウクライナでの戦争に加え、米国によるベネズエラでの軍事行動や、グリーンランドをめぐる強硬な発言は、国際秩序が新たな段階へ移行しつつあることを示している。 こうした動きが広がる中でも、ラテンアメリカ・カリブ海地域は、「核兵器があってこそ国家は守られる」という考え方には距離を保ってきた。むしろ、この地域は長年にわたり、大量破壊兵器を広げないこと、そして非核兵器地帯を維持・強化することを安全保障の柱としてきた。 イベロアメリカーナ大学のロドリゲス・スーマノ教授は、INPS Japanの取材に対し、「核兵器を持たないことこそが、ラテンアメリカ・カリブ海にとって最も確かな安全の保証だ」と語る。 この考え方によれば、核兵器を持たない国は、大国からの軍事的圧力や介入の対象になりにくい。核兵器の有無は大国の判断に大きな影響を与え、核を持たないことで、緊張の高まりや武力衝突へと発展するリスクを抑えることができるという。 「核兵器を持たないことは、米国が敵対的、あるいは自国の利益に反すると見なした国に対し、軍事介入を検討する追加的な理由を与えない。その結果、衝突や介入、さらには政権転換に至る可能性を大きく下げることになる」とロドリゲス・スーマノ教授は説明する。 トラテロルコ条約という転換点 本書の中心にあるのが、トラテロルコ条約である。この条約は2月14日に59周年を迎える。1962年のキューバ危機(ミサイル危機)を受けて採択され、ラテンアメリカ・カリブ海地域を世界で初めての非核兵器地帯として確立した。 条約は、地域を構成する33カ国において、核兵器の製造や保有、配備を禁止した。軍事力の均衡に頼るのではなく、ルールによって安全を確保するという、画期的な枠組みだった。 ロドリゲス・スーマノ氏は、この条約の意義は地域にとどまらないと指摘する。トラテロルコ条約は、その後、世界の他地域で非核兵器地帯が生まれる際のモデルとなり、同様の枠組みがさらに4つの地域(南太平洋〈ラロトンガ条約〉、東南アジア〈バンコク条約〉、アフリカ〈ペリンダバ条約〉、中央アジア〈セミパラチンスク条約〉)に広がった。 現在では、こうした非核兵器地帯に参加する国は117カ国にのぼり、対象となる範囲は地球の表面積の半分以上を占めている。 「ラテンアメリカは、最初の核戦争の舞台になりかねなかった。」とロドリゲス・スーマノ氏は振り返る。1962年、米国とソ連が戦争寸前まで追い込まれたキューバミサイル危機が、その象徴だ。「しかし現実には、この地域は核対立の最前線ではなく、核軍縮の試みを進める実験場となった。」 覇権と生存のための「抑止」 本書は、理想論だけでなく、現実の国際政治の動きにも目を向けている。ロドリゲス・スーマノ氏によれば、核兵器を持つ国々は今も、世界での影響力を保ち、自国を守るために「抑止」という考え方に頼っている。 「米国もロシアも、核兵器を持つことで国が生き残れると考えている。国際社会の中で自国の立場を守れる限り、主権は保証されるという発想だ。だから核兵器が、そのための手段として位置づけられている。」と同氏は説明する。 核兵器を持っているかどうかは、大国の行動を大きく左右する。ロドリゲス・スーマノ氏は、対応の違いがはっきり表れる例として、中国や北朝鮮への姿勢を挙げる。 「ロシアは、中国や北朝鮮に対して慎重に振る舞っている。米国も現在、北朝鮮に対して直接的な軍事行動を取っていない。核兵器を持つ相手には、対応が変わるのだ。」と同氏は語る。 さらに同氏は、ヨーロッパが難しい立場に置かれているとも指摘する。国際秩序が変化する中で、欧州はロシアの勢力拡大への対応を迫られる一方、グリーンランドをめぐる強硬な発言や取得をちらつかせる圧力といった、新しい形の脅しにも向き合わなければならないという。 技術変化がもたらす新たなリスク 本書の大きな特徴の一つは、これまでの軍備管理の考え方では十分に対応できなくなりつつある、新しいリスクを正面から取り上げている点にある。サイバー攻撃や人工知能(AI)、情報戦の広がりが、核兵器を管理する仕組みを一段と複雑にしているという問題だ。 たとえば、核兵器の指揮や管理を担うシステムに不正に侵入される可能性や、ミサイル発射を察知する早期警戒データが改ざんされる危険性が指摘されている。さらに、AIを使った判断が誤作動を起こせば、誤った決定につながるおそれもある。こうした事態は、もともと不安定な核抑止の仕組みに、新たな不安定要因を加えかねない。 編者たちは、これらの問題を「遠い将来の話ではなく、すでに直面している現実的な課題」だと位置づける。そのため、時代に合った新たなルール作りと、国境を越えた協力を改めて強化する必要があると訴えている。 この点で、外交や検証制度、国際的な取り決めを重視してきたラテンアメリカの経験は、地域を超えて参考になる教訓を含んでいると本書は示している。 世界に開かれた無料公開の書籍 『核時代80年』は、印刷版に加え、メキシコ国際研究協会(AMEI)のウェブサイトから無料でダウンロードできる。英語版の準備も進められており、日本語版についても翻訳に向けた支援が模索されている。 本書には、国際原子力機関(IAEA)事務局長のラファエル・マリアーノ・グロッシ、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のヤンス・フロモウ・ゲラ、ラテンアメリカ・カリブ海核兵器禁止機構(OPANAL)の国際関係担当官マルタ・マリアナ・メンドサ・バスルト、国連常駐コスタリカ代表のマリツァ・チャン・バルベルデなど、国際的に影響力のある専門家や外交官の論考も収録されている。 寄稿者たちの分析が共通して伝えるのは、核のリスクが再び高まる時代にあっても、ラテンアメリカ・カリブ海が歩んできた軍縮の道は、決して時代遅れではないという点だ。むしろ、それは現実の国際政治の中で成り立つ、もう一つの安全保障の選択肢である。 核時代の幕開けから80年。世界が再び「抑止」に立ち戻ろうとする今、この地域の経験は、安全は本当に核兵器に依存しなければ守れないのかという根本的な問いを、改めて私たちに投げかけている。(原文へ) INPS Japan 関連記事: 核兵器不拡散条約再検討会議に向けた軍縮対話の促進 |視点|被爆者の思いを胸に 核禁止条約の参加拡大を(池田大作創価学会インタナショナル会長) アルフォンソ・ガルシア・ロブレスの精神は若者から蘇る カザフスタンで国際会議 非核兵器地帯の強化をテーマに

国連が直面するAIをめぐる新たな試練

【国連ATN=アハメド・ファティ】 私がアントニオ・グテーレス国連事務総長に対し、選挙や紛争の行方を左右し得るほど強力な技術を、いまなお各国政府が制御できているのかと問うと、返答は異例なほど率直だった。国連には、事態を左右できるだけの決定的な手段(レバレッジ)がない、と語ったのだ。つまり国連には、仕組みやプラットフォーム、プロセスはあるが、結果を強制する力はないという。 その瞬間が重要だったのは、意外だったからではなく、率直だったからだ。人工知能が政治や法律の仕組みを追い越す速さで進歩しているという現実を、事務総長がはっきりと言葉にしたからである。 事務総長は続いて、包括的な規制を求める主張ではなく、国連に何ができ、何ができないのかを冷静に説明した。そして、国連がAI分野で現実的に果たせる役割を挙げた。専門家を集め、科学パネルを設け、評価報告を作り、世界規模の対話を開く。いずれも重要な取り組みだが、国連には、ルール違反を取り締まったり罰したりする強制力はない。国連が築けるのは「統治の土台」までで、規則を押し付ける権限までは持たない。 この隔たりこそが、世界のAI議論の核心にある。国連が目指しているのは、人工知能をめぐる共通理解と共通言語をつくることだ。罰則を伴う拘束力のある国際ルールを作り、守らせることではない。これは制度の弱さというより政治の現実を反映している。AIは国家安全保障、経済競争、そして国の力の源泉と直結するため、各国は主導権を手放したがらない。その結果、国連は結論を決める場ではなく、議論の枠組みを整える場にとどまっている。 近年の国連のAI関連の取り組みでも、この「野心」と「権限」の差ははっきりしている。声明や決議は倫理、包摂、協力を強調する一方で、有力国や巨大企業を縛り得る強い約束は意図的に避けてきた。だから国連は、リスクを可視化し、社会の規範を形づくることはできても、影響力のある主体が抵抗すれば変化を強制できない。 実効的な歯止めは何かと問われると、事務総長は一つの考え方を強調した。つまり、「人間が意思決定の主導権を握ること」である。とりわけ命に関わる場面では、人間が決定権を手放してはならない。誰を、どこで、なぜ殺すのかを機械が自律的に決める「自律型兵器」を認めないという事務総長の発言は、記者会見で示された最も明確な倫理的な一線の一つだった。 テクノロジー企業の影響力拡大についての答えも、控えめながら示唆に富むものだった。事務総長は、「規制は最終的に各国政府の責任であり、国連が直接取り締まるものではない。」と語った。競争や独占を取り締まる法律は、デジタル時代に合わせて見直す必要があるかもしれない。だが、法律を実際に適用し、企業を監督し、必要なら是正を求めるのは各国政府の役割である。 こうしたやり取りの根底には、権力そのものが変わりつつあるという、より大きな問題がある。今日の権力は、領土や軍事力、経済規模だけでは測れない。データ、そしてそれを集め、処理し、活用する仕組みを誰が握っているかが、影響力を左右するようになっている。その変化は、公的機関から民間の巨大企業へと力を引き寄せ、世界の制度やルールが追いつけない速さで進んでいる。 これは規制の問題にとどまらない。社会の正当性、つまり「誰が、どのように決定するのか」という根本を問い直す。社会を形づくる重要な選択が、民主的な監視が届きにくい場所で設計されたアルゴリズムによって下される度合いが増せば、従来の説明責任の考え方は揺らぎ始める。事務総長はこれを陰謀や道徳の崩壊としてではなく、制度が理解しきれず、是正にも至っていない構造的な偏りとして捉えていた。 さらに、公平性の問題も解決していない。多くの国は、AI政策を形づくり、その恩恵を十分に受けるための資金や人材、制度を欠いている。技能、インフラ、制度への継続的な投資がなければ、国際的な議論は、すでに力を持つ国や企業に左右されかねない。資金や人材、インフラといった基盤が不足したままでは、格差は埋まらず、むしろ広がってしまう。 総じて、このやり取りは、人工知能をめぐる国連の立ち位置をはっきりと示した。国連は、リスクを明らかにし、価値を言葉にし、規範を議論する場であり続ける。だが、結果を強制する場ではない。事務総長はその現実を隠さずに語り、率直さが印象に残った。 残るのは、会合を開き、警告し、助言することを主な役割としてきた国連の仕組みが、実際に各国や企業の行動を変えられる枠組みへと発展できるのか、という問いだ。いま国連のAI対応が映し出しているのは、より広い世界の現実でもある。権力は法より速く動き、制度はそのスピードに追いつけずにいる。(原文へ) INPS Japan 関連記事: 国連のAI決議:野心あるも実効性に欠ける カリブ諸国、「殺人ロボット」禁止へ 岐路に立つ 自律型兵器システム:国際的な規制へ緊急の呼びかけ

軍事費の急増が世界の貧困層向け開発援助を蝕む

【国連IPS=タリフ・ディーン】 数字は衝撃的である。軍事支出が急増を続ける一方、富裕国から途上国への政府開発援助(ODA)は大幅に減少している。 国連が先週公表したファクトシートによれば、2024年の世界の軍事支出は2兆7000億ドルに達し、地球上の1人当たりでは334ドルに相当する。この額はアフリカ全諸国のGDP総額に匹敵し、ラテンアメリカ全体のGDPの半分を上回る。国連の通常予算(2024年)の750倍であり、OECDが2024年に拠出したODAのほぼ13倍でもある。|タイ語版|英語| 100を超える国が軍事予算を増額し、上位10カ国だけで総額の73%を占めた。国連加盟国のおよそ4分の1、世界人口の約2割を占めるアフリカ諸国の軍事支出は、合計しても世界全体の2%未満にとどまる。 この傾向が続けば、グテーレス国連事務総長は、世界の軍事支出が2030年までに3兆5000億ドルへ増え、2035年には4兆7000億ドルを超え、最大で6兆6000億ドルに達する恐れがあると警告した。6兆6000億ドルは、冷戦終結時の水準のほぼ5倍、世界の軍事支出が最も低かった1998年の6倍、そして2024年(2兆7000億ドル)の2・5倍に相当する。 国際NGO「コンシエンス・インターナショナル」のジェームズ・E・ジェニングス会長(博士)は、世界が1月1日に新年を祝うさなか、「2026年の世界の軍事予算を読めば、涙を流すほかない。」とIPSの取材に対して語った。 先ごろ公表された国連のファクトシートは、兵器や軍事費への支出が今後数十年にわたり人類にとって深刻な帰結をもたらし得ることを示している。ジェニングス氏は「それは、力と支配への渇望と、極度の貧困の中で暮らす人々が増え続けている現実への無関心との間に、巨大な隔たりがあるからだ。」と述べた。 ジェニングス氏は、こうした状況が続けば、清潔な水や衛生設備を欠く子どもたちが、本来は治療可能な病気に苦しみ、教育へのアクセスも乏しいままになると指摘した。「戦闘機や戦車や爆弾を買うことは、赤ん坊の口から食べ物を奪うことに直結している。毎年兵器に費やされる資金のほんの一部でも振り向ければ、世界の飢餓は数年で緩和できる」と語った。 さらにジェニングス氏は、富の世界的な偏在がグローバル・サウスを不利にしている点も問題だと述べた。とりわけ健康、特に子どもの健康は最優先事項である。軍事装備や軍事技術に比べれば、ワクチンや医薬品は比較的安価で入手可能であり、接種や治療を通じて状況を大きく改善し得るという。 教育は、人々の人生と社会を変える最も重要な鍵である。しかし、最も困窮する国々では、いまなお多くの人々に教育が行き届いていない。ジェニングス氏は、とりわけ憂慮すべきなのは軍事支出が増え続けている事実だとして、この流れが続けば将来は深刻だと警告した。 一方、国連のファクトシートは次の点を示している。・2兆7000億ドルのうち、年間930億ドル(4%未満)で、2030年までに世界の飢餓を終わらせるための必要額を賄える。・同じく2兆7000億ドルの1割強(2850億ドル)で、すべての子どもに必要な予防接種を実施できる。・5兆ドルがあれば、低所得国および下位中所得国のすべての子どもに対し、質の高い12年間の教育を提供できる。・軍事に10億ドルを投じると1万1200の雇用が生まれる一方、同額で教育は2万6700、医療は1万7200、クリーンエネルギーは1万6800の雇用を生む。・軍事費2兆7000億ドルの15%(3870億ドル)を振り向ければ、途上国における気候変動適応の年間コストを賄うのに十分以上である。・軍事に1ドルを使うと、民生部門に1ドルを投資する場合に比べ、2倍超の温室効果ガスを排出する。 加盟38カ国からなるOECDは、政府開発援助(ODA)が現在「著しい減少局面」にあると指摘している。米国、フランス、ドイツ、英国といった主要ドナー国が援助予算を削減しており、2024年に9%落ち込んだ後、2025年にはさらに9〜17%の減少が見込まれる。最貧国や、保健をはじめとする重要な公共サービスへの影響が懸念されている。 これは、数年にわたって続いてきた増加傾向からの急激な反転である。これまでのODA増加は、難民受け入れ費などの国内支出に支えられてきたが、政策の優先順位が転換しつつある。 「ワールド・ビヨンド・ウォー」および「宇宙における兵器と核戦力に反対するグローバル・ネットワーク」の理事を務め、「核時代平和財団」の国連NGO代表でもあるアリス・スレーターは、国連ファクトシートが示した昨年の軍事支出2兆7000億ドルという過去最高額について、人々の福祉や環境、気候崩壊を回避する取り組みに深刻な打撃を与えているとIPSに語った。さらに、雇用の創出や、飢餓・貧困の解消、医療や教育に必要な資金が不足するなど、連鎖的な悪影響を招いていると指摘した。 同ファクトシートは、国家による巨額の軍事支出の配分がいかに偏っているかを明らかにするとともに、その資金があれば、飢餓や栄養失調の終結、清潔な水と衛生の確保、教育、環境修復など、多くの分野で何が可能になるかを具体的に示している。 グテーレス国連事務総長は先週、世界の指導者に向けたメッセージの中で、次のように訴えた。 「新年を迎え、世界は岐路に立っている。混乱と不確実性が私たちを取り巻く中、人々は問いかけている。指導者は本当に耳を傾けているのか。行動する用意があるのか、と。」 「いま、人間の苦しみの規模は甚大である。人類の4分の1以上が紛争の影響下にある地域で暮らしている。世界で2億人以上が人道支援を必要とし、約1億2000万人が、戦争や危機、災害、迫害から逃れ、強制的に移動を余儀なくされている。」 「激動の年を越えてページをめくる中で、ひとつの事実が言葉以上に響く。世界の軍事支出は2兆7000億ドルへと膨れ上がり、ほぼ10%増加した。」 一方で、世界の人道危機が深刻化する中、現在の傾向が続けば、軍事支出は2024年の2兆7000億ドルから、2035年には驚異的な6兆6000億ドルへと2倍以上に増えると見込まれている。データによれば、2兆7000億ドルは世界の開発援助総額の13倍に当たり、アフリカ大陸のGDP総額に等しい。 グテーレス事務総長は「この新年、優先順位を正す決意をしよう。より安全な世界は、戦争に投資するのではなく、貧困との闘いに投資することから始まる。平和が勝たねばならない。」と呼びかけた。 事務総長は2025年9月、2024年の「未来のための協定(Pact for the Future)」を受け、加盟国の要請に基づいて、世界の支出構造の深刻な不均衡を明らかにする報告書を公表した。題名は「必要とされる安全保障:持続可能で平和な未来のための軍事支出の再均衡(The Security We Need: Rebalancing Military Spending for a Sustainable and Peaceful Future)」である。同報告書は、世界的な軍事支出の拡大がもたらす難しいトレードオフを検討し、平和と人々の未来への投資を強く訴えている。 グテーレス事務総長は「世界には、人々の暮らしを引き上げ、地球を癒し、平和と正義の未来を確かなものにする資源があることは明らかである」と述べた。そのうえで、「私は2026年、あらゆる指導者に呼びかける。本気で取り組め。苦痛を拡大させる道ではなく、人と地球を選べ。」と訴えた。 「この新年、共に立ち上がろう。正義のために。人間性のために。平和のために。」(原文へ) INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: 未来のための国連パクトは、地球規模の連帯と地域に根ざした解決策を求めている |視点|政治はタイタニック号の旅を楽しみ、かくて地球は破壊される(ロベルト・サビオIPS創立者)(前編) 地球上で最も寒い場所に迫る地球温暖化

将軍たちを擁護した彼女を、その将軍たちが投獄する―国際司法裁判所がミャンマーの「ジェノサイド」事件の審理を開始

【ミャンマー・ヤンゴン/タイ・チェンマイIPS=ガイ・ディンモア】 厳しい刑務所環境のもとで約5年にわたり外部と遮断され、連絡も取れないまま拘束され続けるアウンサンスーチー氏は、国際司法裁判所(ICJ)が今週、ミャンマーによるロヒンギャ少数派へのジェノサイド(集団殺害)をめぐる画期的な審理を開始したことを、知らない可能性が高い。 仮に独房の外から何らかの情報が届いたとしても、ノーベル平和賞受賞者で、民選政権の指導者として失脚した同氏は、2019年にハーグで予備的手続に臨み、自ら擁護した将軍たちが、いまや自分の「看守」となっているという皮肉を、思い起こさずにはいられないだろう。 ICJで争われる本件は、ガンビアが提訴した。争点は、2016~2017年にかけて軍と仏教徒民兵が、主としてイスラム教徒のロヒンギャ少数派に対して行った掃討作戦をめぐるジェノサイドの疑いである。数千人が殺害され、村は焼き払われ、女性が性的暴力を受け、最終的に70万人を超える人々が国境を越えてバングラデシュへ逃れた。 スーチー氏の評価は、ハーグ行き以前から西側で大きく損なわれていた。2017年には、母校である英オックスフォード大学セント・ヒューズ・カレッジが、同氏の肖像画を公の場から撤去した。2018年には、アムネスティ・インターナショナルが、同氏が政府首班として暴力を非難する道義的影響力すら行使しなかったことに失望し、他の多くの機関や自治体とともに、授与していた賞を取り消した。1991年のノーベル平和賞は維持されたが、これは取り消す規則が存在しなかったためである。 一方、国際刑事裁判所(ICC)の検察官は昨年11月、ロヒンギャに対する人道に対する罪の疑いで、ミン・アウン・フライン最高司令官の逮捕状を請求した。 こうした中で、スーチー氏がミャンマーの法務チームを率いてICJに立ったことは、軍と文民の間にあった不安定な権力共有の均衡を保つどころか、結果的に将軍たちが彼女の運命を決定づける一因となった可能性がある。 「その時点で彼女の信認は崩れ、西側を失った」。ヤンゴンのベテラン分析者はそう語る。「その時、軍は彼女に手を打つと決め、クーデターの準備を始めたのだ」とも述べ、ミン・アウン・フライン氏が「国際社会はスーチー氏を支えない」と見込んだことが、クーデターの判断に織り込まれていたと説明した。 スーチー氏は昨年6月、拘禁下で80歳を迎えた。1988年に英国から帰国して以来、投獄または自宅軟禁下に置かれた期間は通算で約20年に及ぶ。2年前から弁護士とも面会できず、支持者が「捏造だ」とする汚職など複数の罪状で、有罪判決に基づく刑期は合計27年に達する。 国外では忘れられ、あるいは「もはや無関係」と見なされがちだが、国内では「マザー・スー」として、少なくとも仏教徒のバマー(ビルマ)多数派の間で、いまなお広い支持を保ち、象徴的存在であり続けている。彼女の運命は、ミャンマーの将来の行方にも影を落とし続ける。 軍政は、支配地域で段階的な選挙を進めている。多くの国民はこれを出来レースだと退けるが、それでも人々の間には、4月に名目上の民政が発足した後、次期大統領になる可能性があるミン・アウン・フライン将軍が、スーチー氏や、失脚したウィン・ミン大統領を含む政治犯の一部を釈放するのではないか、というかすかな期待が残る。軍の代理政党が、名目上の政権移行に合わせて何らかの譲歩を示すかもしれない、という見方である。 だが、抵抗勢力や、軍政の支配外で活動する「国民統一政府(NUG)」関係者は懐疑的だ。 「ドー・アウンサンスーチー氏の釈放は、現在の勢力均衡に強く左右される。ミン・アウン・フラインにとって、彼女の自由は体制の権威を根本から揺るがす。したがって、軍が実権を握り続ける限り、彼女を隔離し続ける動機は強い」。NUGのデービッド・グム・アウン副外相は、国外からIPSにそう語った。 同氏によれば、「信頼できる前進の道筋」とは、スーチー氏が収監されているとみられる首都ネピドーを掌握し、軍政を解体すると同時に、抵抗勢力の間で幅広い政治合意、あるいは連立を形成することである。 「それには、途方もない総力と大規模な連携、そして、はるかに強固な政治・軍事同盟と協定が不可欠だ」。同氏はそう付け加え、NUGが、数十年にわたり軍政に抵抗し、ときに相互に戦ってきた多様な少数民族武装勢力との合意形成に苦闘している現状にも言及した。 また、軍から離反し、国外で市民抵抗勢力に加わった元陸軍大尉はIPSの取材に対し、家族そろって2020年総選挙で、スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)に投票したと語った。NLDは圧勝したが、将軍たちは2021年のクーデターで選挙結果を無効にした。 「自分は『マザー・スー』が好きだ」。元兵士はそう述べたうえで、こう続けた。「だが、いま彼女が指導者になるのは非常に難しい。何も変化が起きていない。ミン・アウン・フラインは可能な限り長く彼女を拘束する。私は彼と仕事をし、性格を知っている。あの人物は絶対に釈放しない。執念深い男だ」。 2021年初頭の大規模な街頭抗議は軍に弾圧され、その後、各地で立ち上がった抵抗勢力に合流した若い世代の間では、スーチー氏の時代から前に進むべきだという見方も強まっている。 「新しい指導者の時だ。彼女は高齢だ。Z世代は彼女の言うことを聞かない」。そう語ったのは、あるホテル従業員である。ただし同氏は、スーチー氏の歴史的功績自体は評価していた。 NUGと新世代の一部は、歴代のミャンマー指導者が、国籍を持たない人々が多いロヒンギャ共同体に対して重ねてきた虐待と不正にも、目を向け始めている。今週のICJ審理の動きを追う者の中には、2019年にスーチー氏が軍を擁護したことは道義的に誤っており、結果的に自らの立場を弱めた――と率直に語る者もいる。 「いま、彼女は彼らを守るためにそこにいない」。軍が活動家の父親を追い詰めたため国外へ逃れたという若者は、そう語った。 一方で、彼女を長年知る人々の間では、スーチー氏がハーグ行きを決断した動機をめぐり、いまなお見方が分かれている。 独立の英雄で、現代ミャンマー軍の創設者でもあるアウンサン将軍の娘として、国家を守るという矜持だったのか。将軍たちの権力を抑え込みつつ政治・経済改革を進めるため、これしか道がないと誤算したのか。あるいは彼女自身が、バマー多数派の仏教ナショナリストとして実質的な連邦制に懐疑的で、ロヒンギャを「ミャンマーに属さない移民」と見なし、支配的宗教への脅威と捉える点で、将軍たちと同質だったのか――。 強大な一勢力が、国民の多数が退ける「過去」に固執し続ける国において、ミャンマーの未来像をめぐるこれらの問いは、いまなお重い意味を持つ。ひとりの女性の運命もまた、その問いの只中にある。(原文へ) INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: 爆撃と投票—ミャンマー、緊張下の総選挙 ミャンマーにおける残虐なクーデターと「保護する責任」 軍事政権が支援を妨害、地震被災地に空爆命令

米国の国際機関離脱、世界に警鐘

【国連IPS=オリトロ・カリム】 ドナルド・トランプ米大統領が、国際機関66組織(うち国連関連31機関)への米国支援停止を命じる大統領令に署名したことを受け、関係機関や国際社会、人道・気候分野の専門家から反発が広がっている。世界的協力や持続可能な開発、国際平和と安全保障への悪影響が懸念されている。 この大統領令は、米国がこれまでに世界保健機関(WHO)、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、国連人権理事会(UNHRC)、国連教育科学文化機関(UNESCO)から離脱してきた流れを引き継ぐものだ。米国は最近、対外援助関連機関への資金も削減している。|英語版|日本語|韓国語| 対象となった国際機関・団体の多くは、気候変動、労働、平和維持活動(PKO)、移民、市民社会の活動空間(civic space)などに関わる。米国務省は声明で、見直しの結果、これらの組織は「無駄が多く、非効率で、有害」だとした。 また同省は、対象組織を、米国の納税者資金で支えられる「進歩的イデオロギー」の媒体であり、米国の国益と整合しないと位置づけた。 マルコ・ルビオ国務長官は「これらの機関は任務が重複し、運営も不全で、不要かつ浪費的だ。さらに、管理が不十分で、私たちと相反する議題を進める主体の影響下に置かれている場合もある。わが国の主権、自由、繁栄への脅威となり得る」と述べた。 その上で「成果がほとんど見えないまま、米国民の税金をこうした機関に注ぎ続けることは容認できない。自国民の負担を犠牲にして、外国の利益へ資金が流れ込む時代は終わった。」と強調した。 大統領令は、連邦政府のすべての省庁・機関に対し、離脱の実施に直ちに着手するよう指示している。影響を受ける国連機関については、米国の参加を終了し、拠出を停止することになる。ルビオ国務長官は、追加の国際機関についても見直し作業が継続中だと明らかにした。 人道支援の専門家や、影響を受ける多くの組織の報道官は、この措置に警戒と非難の声を上げている。気候行動、人権、平和構築、多国間ガバナンス、世界的な危機対応体制に深刻な影響を及ぼすとし、国際的不安定が増す局面での打撃を問題視している。 「きょう私たちは、世界的な協力から取引的な関係へと完全に転じていくのを目の当たりにしている。」と、NRDC(天然資源保護協議会)のヤミデ・ダグネット国際担当上級副代表は語った。 「共有された原則や法の支配、連帯よりも、取引主義が優先されつつあり、さらなる世界的不安定を招きかねない。地球規模の主要な環境・経済・保健・安全保障上の脅威に向き合うことを避ければ、米国は多くを失う。将来産業における信認と競争力を損ない、雇用創出や技術革新の機会を取り逃がし、科学技術の主導権を他国に明け渡すことになる。」 グネットは、各国指導者に多国間主義への関与を改めて求めた。「世界は米国より大きい。そして、私たちの問題の解決策も、米国だけでは完結しない。いま必要なのは、国だけでなく州や都市を含む国際的な協力であり、その重要性はかつてなく高い。世界の指導者が多国間の協働に断固として取り組まなければ、これらの地球規模の脅威を乗り越え、すべての人にとって安全で持続可能な未来を確保することはできない」と語った。一方で、米国が国際的義務の履行を取捨選択し、トランプ大統領の優先事項に合致する事業や機関のみを支援する姿勢にも批判が集まっている。 「いま起きているのは、米国の多国間主義への姿勢が『こちらの言い分をのむか、さもなくば去れ』という形で、より鮮明に表れていることだ。ワシントンの条件でのみ国際協力を求めるという、きわめて明確な構図である。」と、国際危機グループのダニエル・フォーティ国連担当責任者は語った。 生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)は、米国がIPBESからの参加撤回を意図していることについて、「極めて失望させられる知らせ」だとして遺憾の意を表明した。今回の大統領令では、IPBESを含む60を超える国際機関・団体が離脱の対象とされている。 IPBES議長のデービッド・オブラ博士は、米国は創設メンバーであり、「2012年の設立以来、米国の科学者や政策担当者、先住民や地域コミュニティを含む利害関係者は、IPBESの活動に最も積極的に関与してきた貢献者の一部で、科学に基づく客観的な評価に重要な貢献をしてきた」と述べた。 さらにオブラは、IPBESの成果が、米国内のあらゆるレベルと領域の意思決定者に広く活用され、政策や規制、投資、将来の研究をより的確に方向づける一助となってきたとも指摘した。 オブラは米国の貢献に謝意を示しつつ、離脱はIPBESと地球に重大な影響を及ぼすと述べた。「残念ながら、100万種を超える動植物が絶滅の危機にあるという現実から、私たちは目を背けることはできない。環境影響によって世界経済が年に最大25兆ドルを失っているという事実も変えられない。いま行動しないことで、2030年までに10兆ドル超のビジネス機会と3億9500万人の雇用を生み出し得たはずの機会を失う。その損失は取り戻せない。」 歴史的に米国は国連最大の資金拠出国であり、国連の通常予算の約22%、PKO予算全体の約28%を拠出してきた。 米国が国連関連31機関への支援を引き揚げれば、大幅な予算不足に加え、人道支援要員の削減や、米国人職員が担ってきた重要な技術的専門性の喪失が見込まれる。こうした影響は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた進捗を鈍らせ、長期化する危機下の人々への食料支援や医療サービスを縮小させる恐れがある。さらに、権威主義的な政府が人道的監視や介入への抵抗を強めることにもつながりかねない。 ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の国連担当ディレクター、ルイ・シャルボノーは、「数十の国連計画・機関を含む国際機関から手を引くという米国の決定は、人権保護と国際的な法の支配に対するトランプ大統領の最新の攻撃にほかならない」と語った。 さらに「人権理事会からの離脱であれ、世界中の数百万人の女性と少女を支援する国連人口基金(UNFPA)への資金停止であれ、この政権は、米国が過去80年にわたり築いてきた人権制度そのものを破壊しようとしてきた。国連加盟国は、人権を守るための手段を解体しようとする米国の動きに抗し、重要な国連事業が必要な資金と政治的支えを確保できるようにすべきだ。」と訴えた。 国連本部での記者会見で、国連事務総長報道官のステファン・デュジャリックは、米国の離脱に対する国連の立場を説明し、米国の参加の有無にかかわらず、困窮する人々への支援を継続すると強調した。 「私たちが一貫して強調してきたように、総会が承認した国連の通常予算およびPKO予算への分担金は、国連憲章に基づくすべての加盟国の法的義務であり、米国も例外ではない。すべての国連機関は、加盟国から付与されたマンデートの実施を継続する。国連には、支援を必要とする人々のために責務を果たす責任がある。私たちは、引き続き断固として任務を遂行する。」と、デュジャリック報道官は語った。(原文へ) INPS Japan/ IPS UN Bureau Report 関連記事: 国連は「肥大化し、焦点を欠き、時代遅れで非効率」なのか? 第2期トランプ政権:多国間主義と国連への試練(アハメドファティATN国連特派員・編集長) 国連改革に「痛みを伴う人員削減」―帰国強制の恐れも

爆撃と投票—ミャンマー、緊張下の総選挙

【ミャンマー・ヤンゴン/バンコクIPS=ガイ・ディンモア】 内戦が数年にわたり続き、民間人の死者は数千人に上る。政治犯もなお2万2000人以上が収監されたままだ。こうした状況下で、ミャンマーが2021年のクーデター後に初めて実施した、しかし厳しく管理された選挙の早期開票結果が、軍の「代理政党」の勝利を示していても、驚く者はいなかった。 「民間人を爆撃しながら、同時に選挙を行うことなどできるのか。」国外で情勢を監視する人権活動家キン・オーマーは、抵抗勢力と影の政府(国民統一政府=NUG)が「茶番(sham)」として拒否する今回の投票を念頭に、そう問いかけた。 軍政はすでに、自らが掲げる「真に規律ある複数政党制民主主義」へ向けた地ならしを進めていた。選挙を不当として登録を拒んだ約40政党を解散させ、指導者や支持者の多くはいまも獄中にある。 解散対象には、国民民主連盟(NLD)と党首アウン・サン・スー・チーも含まれる。NLDは2020年総選挙で圧勝し、2期目の続投を決めたが、クーデターを主導し、自ら大統領代行を名乗るミン・アウン・フライン上級大将が結果を無効化した。2021年初頭の大規模な街頭抗議は弾圧され、内戦は全土に拡大した。 ヤンゴンのベテラン分析者は「潮目は軍に有利に変わった」と述べ、中国とロシアの影響を指摘した。国境を接する少数民族武装勢力を中国が抑え込み、ミン・アウン・フラインを全面的に受け入れたうえ、ロシアとともに、抵抗勢力を押し返すために必要な武器、技術、訓練を供給したという。 軍政は、航空戦力と新たに獲得したドローンを容赦なく投入してきた。攻撃は、抵抗勢力が草の根の支持を持つ比較的遠隔地で行われることが多く、民間人がしばしば標的となっている。選挙が近づくにつれ、空爆は激しさを増した。ヤンゴンのような大都市は比較的落ち着いていたものの、社会全体には重苦しい空気が漂っていた。 AFPによると、12月5日にはサガイン地方タバイン郡区への爆撃で18人が死亡し、混雑する茶屋にいた人々も犠牲となった。12月10日には、ラカイン州の古都ミャウ・ウーで病院が空爆され、入院患者10人を含む23人が死亡した。軍政側は、アラカン軍や人民防衛隊(PDF)が病院を拠点として使用していたと主張している。 国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、投票を前に地域を訪問した際、「自由で公正な選挙になると信じている者は誰もいない。」と語った。さらに、軍政に対し「嘆かわしい」暴力を終わらせ、市民統治への「信頼できる道筋」を示すよう求めた。 一方、トランプ政権は11月、軍政が進める選挙計画を「自由で公正なもの」と位置づけ、米国内にいるミャンマー難民に対する一時的保護資格(TPS)を終了させた。政権は、ミャンマーに帰還しても安全だと判断した。 「投票しなければ投獄されるかもしれない。」投票前日、ヤンゴンでタクシーを運転するミンは、半ば冗談めかしてそう語った。「どうせ何も変わらない。この国を動かしているのは、ミン・アウン・フラインではなく、中国と習近平だ。」 投票は3段階で実施される。第1回は12月28日に102郡区で行われ、残りは1月11日と1月25日に続く。対象は、二院制の国民議会と、14の管区・州の議会で、計330郡区のうち265郡区で投票が予定されている。 残る65郡区では、選挙管理当局が治安上の理由で投票を実施しない。 第1回投票が行われたヤンゴン(都市部と周辺の半農村地帯が広がり、人口約700万人)では、静かな日曜日、投票は落ち着いた雰囲気のまま、ゆっくりと進んだ。軍政は投票率の引き上げに強い圧力をかけ、脅しがあったとの指摘もあるが、現場は大きな混乱が見られなかった。 2015年と2020年には、ミャンマーは地域で最も開かれ公正な選挙を実施したとも評された。ミャンマー国軍の代理政党である連邦団結発展党(USDP)は大敗し、人々は投票の証しとして、消えないインクで染まった小指の写真をソーシャルメディアに競うように投稿した。数週間にわたる大規模集会と活気ある選挙戦が続いた。 だが今回は違う。ソーシャルメディアには体制への罵倒があふれ、滑稽で下品な投稿も少なくない。抵抗勢力が呼びかけたボイコットを支持したい一方、報復を恐れる人々は、有権者名簿から自分の名前が「誤って」漏れているのを見つけると安堵した。初めて導入された電子投票機では、候補者欄を空欄のまま提出することもできなかった。 それでも、従来の選挙と同様に、軍とその強大な経済利権ネットワークに近い人々からなる「中核層」は、連邦団結発展党(USDP)に投票するため投票所に足を運んだ。 「私たちは自分たちの政府を選んでいる」。ヤンゴン中心部の投票所から家族とともに出てきた男性は、そう宣言した。男性はUSDP支持者とみられ、同行者の1人は、消えないインクに浸した小指を誇らしげに掲げた。 第1回投票の投票率について、軍政当局は52%と発表した。過去2回の選挙での約70%と比べ、低下している。中国は、特使を「公式オブザーバー」として派遣し、ロシア、ベラルーシ、ベトナム、カンボジアなどの代表団とともに選挙を評価した。 1月2日、選挙管理委員会は予告なく部分開票結果を公表した。開票が終わった下院40議席のうち、退役将軍が率いるUSDPが38議席を獲得したという。誰も驚かなかった。 USDPの選挙メッセージは、主に2点に集約されていた。家族そろって投票に行くこと、そして「安定と前進」を取り戻すためUSDP政権を支持すること、である。 その底流にあるのは、過去の「実績」への想起だった。NLDなどが不在だった2010年総選挙で大勝した後、テイン・セイン大統領(当時)が、社会経済・政治改革と、少数民族武装勢力との停戦交渉を導入したことを強調する構図である。 スー・チーは当時、自宅軟禁下にあったが、2010年選挙直後に解放され、2012年の補欠選挙で当選した。さらに2015年にはNLDが圧勝し、政権を奪取する。だがスー・チーは、その後5年間、軍との難しい権力分有の下で統治を行い、クーデターで再び投獄された。 現時点で、ミャンマー人口の多くは軍政支配地域に暮らす。14の管区・州の首都はすべて軍政の管理下にあり、紛争から逃れた人々の流入で膨張している。軍はまた、主要港湾と空港を押さえ、中国およびタイとの主要な国境検問所も、程度の差はあれ掌握している。 しかし領域で見れば、ミャンマーの半分以上は、分散した少数民族武装勢力や抵抗勢力の手にある。連携は流動的で、交渉可能なものだ。 影の国民統一政府(NUG)は、解放地域で独自の統治権限を確立しようとしている。軍の干渉を排し、民主的で連邦制のミャンマーを築くという理念の下で合意形成を固める狙いだ。だが、それは英国植民地支配から独立した1948年以来、この国が達成できずにきた課題でもある。 前線は揺れ動いている。軍は、かつて自らの牙城とみなしてきた中部のバマー(ビルマ)中核地帯の掌握回復を図る一方、クーデター後に国境地帯の広大な領域を失い、他地域でも戦線を引き伸ばされている。国外へ逃れた人々、あるいは国内避難を余儀なくされた人々は、数百万人に達した。 一方で、今回の選挙が「円滑に」進み、4月に連邦団結発展党(USDP)政権が発足すれば、軍は自信を誇示するかたちで、強制徴兵の停止や一部政治犯の釈放といった措置を打ち出すのではないか、との見方もある。まず力を誇示し、次に正統性を回収する―そうした構図である。 「政治犯は餌として使われている。」 バンコクを拠点とする人権活動家キン・オーマーは、そう語った。軍政が選挙後に政治犯の一部釈放などの“譲歩”を示せば、弾圧の構造が変わらなくても、国際社会はそれを「前進」と受け取り、一定の評価を示さざるを得なくなるという。 「世界は、少なくとも拍手を送らざるを得なくなる」と、彼女は皮肉を込めて付け加えた。(原文へ) INPS Japan/ IPS UN Bureau Report 関連記事: ミャンマーにおける「組織的拷問」を国連報告書が暴く ロヒンギャ、「ミャンマーの暴力と支援削減の中で国連に『正義はどこにあるのか』と訴える」 ヤンゴン、分裂するミャンマーにおける軍政バブル

労働搾取に挑み、すべての菓子で環境保護を掲げるベーカリー

飲食店での搾取経験を踏まえ、パトリシア・フィゲロアは、適正な労働条件と環境配慮にこだわるプロジェクトを立ち上げた。 【メキシコ市INPS Japan=ギレルモ・アヤラ・アラニス】 菓子づくりは創造性と情熱がものを言う営みだと語られがちだ。だが、この業界の労働環境が注目されることは多くない。長時間労働や低賃金、権利の侵害が起きることもある。|英語版|中国語|ポルトガル語|インドネシア語|スペイン語| 6年前、フランスとメキシコの高級レストランで10年以上の経験を積んだパティシエ、パトリシア・フィゲロアは、社会と環境に配慮したデリバリー型のパティスリー事業を立ち上げた。材料は「メキシコ産100%」にこだわる。国連の持続可能な開発目標(SDGs)では、目標8「働きがいも経済成長も」に通じるディーセント・ワーク(適正な労働)と、目標12「つくる責任 つかう責任」に通じる責任ある生産と消費を柱に据える。 「『Ñam(ニャム)』は新型コロナのパンデミックのさなかに生まれた。私はレストランでパティシエをしていたが、辞職届に署名するよう求められた。これまでの職歴でも、権利を認められないまま長時間働かされ、賃金も低い―そんなことが少なくなかった。だから思った。なぜ、こんなに好きな仕事が、こんな形でしか成り立たないのか。変えられるなら、変えていこう、と。」 この経験を転機に、彼女は製造のあり方だけでなく、働き方そのものを見直した。注文が増える時期には、スタッフを正式な手続きを踏んで雇用するという。「契約書に署名してもらい、法律に基づき必要なことはすべて説明する」。労働搾取の連鎖を自らの事業で再生産しないための「約束」だとしている。 メキシコの風味を、ケーキとペストリーに このプロジェクトの倫理的な姿勢は、商品づくりにも反映されている。Ñamは受注生産を基本とし、食品ロスを抑えながら鮮度も保つ。メニューには、イチゴとホワイトチョコレート、ハイビスカスを組み合わせたケーキや、赤ワインを効かせたピンクグアバのチーズケーキ、バジルを添えたマンゴームースなど、印象的な組み合わせが並ぶ。 さらに、メキシコらしさを前面に打ち出した菓子も用意する。米、シナモン、砂糖、牛乳、水で作る伝統飲料「オルチャータ」を取り入れたケーキは、9月の祝祭シーズン向けに考案されたものだ。11月の「死者の日」の時期には、伝統菓子「パン・デ・ムエルト」も提供する。 こうした社会・環境への配慮は、仕入れ先との関係にも及ぶ。フィゲロアは「互いに利益を分かち合う」経済の循環を重視する。 「自分の商品と、その影響に自信を持っている。購入してくれる人が私を支え、私もまた別の人を支える。こうした互恵的な関係はとても良いものだ。人々はおいしいデザートを楽しみ、その購入が誰かの幸せにもつながる。」と、彼女はINPS Japanの取材に語った。 現在、使用する食材のおよそ70%は、環境再生型農業(アグロエコロジー)によるもので、国内各地から調達している。ベラクルス州トトナカパン地方からはシナモンやゴマ、ミカンを仕入れ、米とピンクグアバはモレロス州トラヤカパン産を使用する。地域の生産者と直接つながることが、地域経済の活性化にもつながるという。 責任ある生産・消費と、オンデマンド製造のモデル Ñamは、SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に通じる「責任ある生産と消費」にも力を入れる。受注生産のモデルは、食品ロスを減らすだけでなく、調理に伴うガスや水の使用、過剰な包装も抑えやすい。外食産業には、こうした廃棄や資源消費が構造的に生じやすい側面がある。 国連環境計画(UNEP)の「Food Waste Index Report 2024」によれば、メキシコでは家庭部門だけで年間約1,337万トンの食品廃棄が発生していると推計される。 プロジェクト名は、スペイン語で「おいしい」を表す擬音的な表現「ñam」に由来し、英語の「yummy」に近い意味合いだという。現在は主にウェブサイトとインスタグラムで注文を受け付け、菓子の情報とともに、事業に込めた物語も発信している。 フィゲロアはメキシコ市で事業を続ける一方、「社会・環境ビジネス管理」の修士課程で学んでいる。中期的には、店頭で菓子を味わえる拠点へ移行し、ディーセント・ワークと責任ある生産という原則を、より日常的に体現できる場にしたい考えだ。 This article is brought to you by INPS Japan in partnership with Soka Gakkai International, in consultative status with...

雨水の収集がグアテマラ東部の干ばつを緩和

【サンルイス・ヒロテペケIPS=エドガルド・アヤラ】 干ばつに苦しむグアテマラ東部のドライ・コリドー(乾燥回廊)地域に暮らす農家の家族が、雨水収集という手法によって生計の糸口を見いだしている。この取り組みにより、これまで耕作が困難だった土地でも食料生産が可能になった。 スウェーデン政府の資金提供を受け、国際機関が実施するこの事業は、雨水貯留タンクの設置に必要な技術や資材を提供し、同国東部における水不足の緩和を目的としている。現在、約7,000世帯がこのプログラムの恩恵を受けている。 対象となっているのは、グアテマラ東部のチキムラ県とハラパ県にある7自治体の小規模流域周辺に暮らす家庭である。対象自治体は、ホコタン、カモタン、オロパ、サン・フアン・エルミタ、チキムラ、サンルイス・ヒロテペケ、サン・ペドロ・ピヌラである。 「ここはドライ・コリドーで、作物を育てるのが難しい。育てようとしても水が足りず、実が十分な重さまで育たない。」ハラパ県サンルイス・ヒロテペケ郡サン・ホセ・ラス・ピラス村で、支援を受ける家族の一人、メルリン・サンドバルはIPSの取材に対して語った。 全長1,600キロに及ぶ中米ドライ・コリドーは、中米全体の35%を占め、1,050万人以上が暮らしている。国連食糧農業機関(FAO)によると、この地域では農村人口の73%以上が貧困状態にあり、710万人が深刻な食料不安に直面している。 事業の一環として、サンドバルは自宅裏の敷地で雨水収集に取り組んでいる。底部に不透水性のポリエチレン製ジオメンブレンを敷いた円形タンクを設置し、容量は16立方メートルに及ぶ。 雨が降ると、屋根を伝って流れた雨水がPVCパイプを通じ、「集水槽」と呼ばれるタンクに集められる。蓄えられた水は、家庭菜園や果樹の灌漑に使われるほか、11月から5月にかけての乾季には生活用水としても利用されている。 家庭菜園では、セロリ、キュウリ、コリアンダー、チャイブ、トマト、青唐辛子を栽培している。果樹としては、バナナやマンゴー、ホコテ(熱帯果実)などが実を結ぶ。 https://www.youtube.com/watch?v=OypCxWcn9X8 さらに、500匹のティラピアの稚魚を育てる養魚池も設けられている。底部にポリエチレン製ジオメンブレンを敷いた構造で、長さ8メートル、幅6メートル、深さ1メートルである。 同様に支援を受けるリカルド・ラミレスも、設置した雨水収集タンクからの水を利用して作物を育てている。タンクの隣にはマクロトンネルと呼ばれる小型温室があり、そこでキュウリ、トマト、青唐辛子などを栽培している。灌漑は点滴方式で行われる。 「1畝からキュウリが950本、トマトは450ポンド(約204キロ)収穫できました。唐辛子も次々に実をつけています。雨水収集タンクに水があったからこそです。バルブを少し開いて30分ほど点滴灌漑するだけで、土壌がしっかり潤いました。」ラミレスは語った。(原文へ) INPS Japan/IPS 関連記事: 「男女の双子」がもたらす気象被害の緩和に奮闘する国連 洪水と旱魃ーそして銃器ーにより加速する広範な飢餓 |ジンバブエ|ペットボトルでレタス栽培

米「平和委員会」は国連を弱体化させる狙いか

【ニューヨークIPS=タリフ・ディーン】 ホワイトハウスから発せられる相反するシグナルを踏まえると、ドナルド・トランプ大統領が創設した「平和委員会(Board of Peace)」は、最終的に国連安全保障理事会、ひいては国連そのものを置き換えることを狙っているのだろうか。 トランプ氏は先週、スイス・ダボスでの式典で同委員会の憲章を正式に批准し、「公式の国際機関」として設立した。トランプ氏が委員長を務め、創設メンバーとして「ガザに、住民にとって永続的な平和、安定、機会をもたらす安全で繁栄した未来を築くことにコミットした各国代表」が参加したとされる。 米「インスティテュート・フォー・パブリック・アキュラシー(Institute for Public Accuracy)」事務局長で、RootsAction.org全国ディレクターのノーマン・ソロモン氏はIPSの取材に対して、トランプ氏の「平和委員会」は、2003年のイラク侵攻に正統性を与えようとした「有志連合」に類似する「グローバル同盟」として設計されていると語った。 ソロモン氏によれば、トランプ氏は自らの指導に従う政府を取り込み、支配と略奪のために世界を一層「戦争の方向」へ押しやっているという。同氏は、加盟国が支払う代償は各国が負担する「10億ドル超」とされる加盟費をはるかに上回るとし、トランプ氏の手法を「世界的なギャングのような振る舞い」になぞらえた。 「同時に、彼の手法は透明でもある。世界のできる限り多くを米国が支配するための新たな仕組みを作ろうとしているのだ。」 トランプ氏は、米国が経済的・軍事的な影響力を得るためのアジェンダを覆い隠す「二重話法(ダブルスピーク)」の境界を押し広げ続けている、とソロモン氏はみる。アンクル・サムが発するメッセージの骨子は、「もう“いい人”ではない」ということだ。 著書『War Made Invisible: How America Hides the Human Toll of Its Military Machine』の著者でもあるソロモン氏は、歴代の大統領が二枚舌や高尚な美辞麗句で実際の優先事項を覆い隠してきた一方、トランプ氏は婉曲表現を捨て去り、「米国政府こそ世界の光であり、他の国々は皆その後ろに並ぶべきだ」という考えを露骨に示していると述べた。 一方、国連のステファン・デュジャリック報道官は先週、記者団から「平和委員会」について問われ、次のように述べた。 「はっきりさせよう。われわれは安保理決議2803の完全実施を確実にするため、できる限りのことを行う。ご承知の通り、この決議はガザのための平和委員会の創設を歓迎した。」 同氏はまた、同決議とトランプ大統領が提示した計画の一部として、国連が人道支援物資の配送で主導的役割を担うことになっていると説明した。 「ガザには大規模な人道支援を届けてきた。許される範囲で可能な限りやってきた。制約についても話してきたが、停戦以降、どれだけ多くのことができるようになったかはご存じの通りだ。その一環として、われわれは米当局と非常に良好に協働してきた。今後もそうする。」 デュジャリック氏は、国連は普遍的加盟を有する唯一の国際機関であるとも改めて強調した。 「ダボスでの発表はもちろん見た。事務総長の仕事は、国際法と国連憲章に支えられ、われわれに与えられた任務を実行するために、引き続き断固として続いている。つまり、われわれの仕事は続く」 国連のロゴと「平和委員会」のロゴが似ている点について問われると、同氏は著作権や商標の侵害は見当たらないと述べた。 ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の国連担当ディレクター、ルイ・シャルボノー氏は先週公表した声明で、米国は国連設立で主導的役割を果たした一方、いまトランプ大統領が国連の大部分を弱体化させ、資金を断っていると指摘した。 同氏によれば、この1年、米政府はトランプ政権が国連を「反米的」で「敵対的なアジェンダを持つ」組織だとみなしているため、国連のプログラムや諸機関に「大ハンマー」を振り下ろしてきた。 国連交渉では、米当局者が決議や声明から「ジェンダー」「気候」「多様性」といった言葉を排除しようとしてきたともいう。外交官らはHRWに対し、米当局者が「woke(意識高い系)」あるいは政治的に正しいとみなす人権関連の文言に、攻撃的に反対していると語った、とシャルボノー氏は述べた。 シャルボノー氏は、国連安保理を脇に追いやろうとする見え透いた試みとして、トランプ氏が自ら議長を務める「平和委員会」を提案したと指摘する。さらにトランプ氏は、ベラルーシ、中国、ハンガリー、イスラエル、ロシア、ベトナムなど、抑圧的な政府の指導者に議席を提示したと報じられているという。 もともと「平和委員会」は、イスラエル軍による2年以上に及ぶ攻撃と破壊の後、ガザの統治を監督するためのものとされた。米国はその行為に加担していた、とシャルボノー氏は述べる。ところが、委員会の憲章にはガザへの言及すらなく、当初の構想以降、この組織をめぐるトランプ氏の野心が著しく拡大したことを示唆しているという。 同憲章案には人権への言及がない。さらに、委員長であるトランプ氏が「決議その他の指令を採択する」最高権限を、自身の判断で行使できることが明確にされている、とシャルボノー氏は警告した。 「平和委員会」の議席は安くない。加盟費は10億ドルである。フランスのエマニュエル・マクロン大統領のように、すでに参加の提案を拒否した例もある。トランプ氏はこれに対し、仏産ワインやシャンパンへの関税を大幅に引き上げると脅した。 シャルボノー氏は、国連システムには問題があるとしつつも、「世界版ポリトビューロー(政治局)」よりはましだと述べた。「トランプ氏の委員会に加わるために何十億ドルも払うのではなく、各国政府は国連が人権を守る能力を強化することに注力すべきだ。」 ソロモン氏はさらに、「平和委員会」構想全体が、危険な茶番であり、今世紀に入って経済面ではすでに大きく崩れた単極世界を再構築しようとする試みだと述べた。 同氏はまた、共和党が議会で多数を占める中でのトランプ氏のアプローチについて、「犯罪性を帯びた手法」として批判し、米軍の力によって裏打ちされていると指摘した。これまで以上に、米国の外交政策が世界に提供しているものは、ギャング的ふるまい、恐喝、脅迫であり、ときに国際法の外観すら粉砕する軍事攻撃へと転じる「大規模暴力の脅し」だ、という。 同氏は、今世紀のすべての米大統領が、従来通り実際の国際法を無視し、軍産複合体の好みを外交政策に置き換えてきたと批判する。トランプ氏はその政策を、恥じることなく極端な形に押し進め、ジョージ・オーウェルのディストピア的信条「戦争は平和なり(War Is Peace)」に露骨に従いながら、建設的な国際秩序の残滓を破壊しようとしている、と述べた。 前例として、インドネシアのスカルノ大統領が国連を脱退し、代替として「新興勢力会議(CONEFO)」を立ち上げようとしたことがあった。しかし、スカルノ氏の後継であるスハルト氏がインドネシアの国連参加を「再開」し、この試みは長続きしなかった。国連に永続的な害は生じなかった、とソロモン氏は指摘する。 国連のファルハン・ハク副報道官は、追加の説明として記者団に対し、「平和委員会」はガザでの活動についてのみ、安保理によって権限付与されていると述べた。 「厳密にガザについてのものだ。ここ数日、メディアで取り上げられているような、より広い活動や側面について話しているのではない。われわれが話しているのはガザにおける活動である」 「われわれはガザの停戦と、それを支える措置―平和委員会を含む―を歓迎してきた。停戦が維持されるよう、現地のすべての当事者と引き続き取り組む。これはガザについての話だ。」 一方でハク氏は、より大きな側面については、この枠組みに参加したい者が検討すべき事柄だとした。そのうえで、国連には独自の憲章とルールがあり、両組織を比較することは可能だと述べた。 「国連はこれまでも数多くの組織と並存してきた。地域機構もあれば、準地域機構もある。世界にはさまざまな防衛同盟もある。関係協定を結んでいるものもあれば、そうでないものもある。」 「平和委員会が実際に設立され、どのようなものになるのか、詳細を見極めたうえで、われわれがどのような関係を持つことになるのかを判断する必要がある。」 先週ジュネーブで行われた署名イベントの参加者には、次の面々が含まれていた。 バーレーン:イサ・ビン・サルマン・ビン・ハマド・アル・ハリーファ(首相府長官) モロッコ:ナセル・ブリタ(外相) アルゼンチン:ハビエル・ミレイ(大統領) アルメニア:ニコル・パシニャン(首相) アゼルバイジャン:イルハム・アリエフ(大統領) ブルガリア:ローゼン・ジェリャズコフ(首相) ハンガリー:ビクトル・オルバン(首相) インドネシア:プラボウォ・スビアント(大統領) ヨルダン:アイマン・アル・サファディ(外相) カザフスタン:カシムジョマルト・トカエフ(大統領) コソボ:ヴィヨサ・オスマニ=サドリウ(大統領) パキスタン:ミアン・ムハンマド・シェhbaz・シャリフ(首相) パラグアイ:サンティアゴ・ペニャ(大統領) カタール:ムハンマド・ビン・アブドゥルラフマン・アル・サーニ(首相兼外相) サウジアラビア:ファイサル・ビン・ファルハーン・アル・サウード(外相) トルコ:ハカン・フィダン(外相) UAE:ハルドゥーン・ハリーファ・アル・ムバラク(対米特使) ウズベキスタン:シャフカト・ミルジヨエフ(大統領) モンゴル:ゴンボジャビン・ザンダンシャタル(首相) カナダ、フランス、ドイツ、イタリアを含む欧州諸国など、多くの国は署名に参加しなかった。招待を明確に拒否した国もある。(原文へ) INPS Japan/ IPS UN Bureau...

UNAIDSの早期閉鎖で脆弱層が苦境に陥る恐れ

【ブラチスラバIPS=エド・ホルト】 「すでに燃えている火に油を注ぐようなものです。」アディティア・タスリム氏はそう語る。 「私たちは年初の米国の資金削減による打撃から、いまだに回復できていません。国連合同エイズ計画(UNAIDS)が閉鎖されることになれば、状況はさらに悪化します。特に、薬物使用者を含むハイリスク層や、しばしば刑事罰の対象とされる集団にとって深刻です」と、国際薬物使用者ネットワーク(INPUD)のアドボカシー責任者であるタスリム氏はIPSの取材に対して語った。 こうした懸念は、世界のHIV活動家の間で広く共有されている。国連改革の進捗報告の中で、アントニオ・グテーレス国連事務総長が、国連の主たるHIV/AIDS対策機関であるUNAIDSを翌年に閉鎖する方針を9月に初めて示したためだ。 これまで、UNAIDSと理事会に参加する市民社会組織、専門家、各国政府は、2030年の現在のHIV目標の終了時をめどに、UNAIDSを段階的に移行させる「トランスフォーメーション計画」を進めてきた。にもかかわらず、なぜ2026年での閉鎖案が突然浮上したのかについて、いまも多くの関係者が説明を得られずにいる。 「現時点で混乱が大きいのは事実です。なぜ2026年が選ばれたのか、私たちにも判断材料がありません。すでに移行プロセスが進行していたことが影響している可能性はあります」と、UNAIDSプログラム部副事務局長のアンジェリ・アクレカル氏はIPSの取材に対して語った。 しかし、この提案は強い反発を招いている。UNAIDSプログラム調整委員会(PCB)のNGO代表団は、事務総長あてに見直しを求める書簡を提出し、これには1000を超えるNGOが賛同した。 これまでの成果が損なわれ、命が危険にさらされる恐れがある 多くの市民社会団体は、早期閉鎖が実施されれば、HIVとの闘いで積み重ねてきた前進が危機にさらされ、場合によっては不必要な死が生じると警告している。 「もし閉鎖されれば、予防と治療の効果は大きく低下し、完全に予防・治療可能な病気で人々が命を落とすことになります。UNAIDSの閉鎖は、HIV感染と死亡の増加につながるでしょう。」と、オランダのAidsfondsの戦略顧問ジュリア・ルコムニク氏はIPSの取材に対して語った。 1996年に活動を開始したUNAIDSは、国連機関の中でも特異な存在だ。理事会に市民社会組織が参加しており、現場で患者やハイリスク層を支援する団体が政策策定や実施に直接関与してきた。治療プロジェクトだけでなく、UNAIDSは多くの国で政府、地域当局、NGO、コミュニティを結ぶ重要な架け橋として機能してきた。 「もし2026年にUNAIDSが閉鎖されれば、影響は甚大です。特にベトナムのように、コミュニティ主導の組織がデータ、技術ガイダンス、調整、政策形成の場としてUNAIDSに依存している国では深刻です。」と、ベトナム最大級のLGBTQ+団体のひとつ、LighthouseVietnamのドアン・タイン・トゥン事務局長は語った。 多くの国でHIVとともに生きる人々(PLHIV)や、HIV流行の影響を強く受ける主要集団が差別や犯罪化に直面するなか、UNAIDSは人権擁護の中心的役割を果たしてきた。同機関は、性的少数者、薬物使用者、セックスワーカーなどの権利保護を支援し、各国で画期的な法律の制定にも寄与してきた。 「UNAIDSが存在しなければ、こうしたコミュニティは迅速に周縁化され、犯罪化の動きが加速するでしょう。UNAIDSが繰り返し示してきたとおり、権利侵害はHIV感染の増加を招きます。性的マイノリティやトランスジェンダーの人々を犯罪化すれば感染は拡大し、セックスワーカーを犯罪化すれば感染は拡大し、安全な薬物使用支援サービスを禁止すれば感染は拡大します」と、ルコムニク氏は語った。 「権利侵害が深刻化する中で、最も強力に人権を擁護してきた国連機関を閉じれば、権利侵害もHIV感染も増加を招くことになります」と述べた。 「UNAIDSがなくなれば、HIV流行の影響を強く受ける主要集団へのアドボカシーを誰が担うのか。政府に対して課題を明確に提起できる主体はどこに残るのか」と、UNAIDSアジア太平洋・東欧・中央アジア地域支援チーム長のイーモン・マーフィー氏は語った。 アクレカル氏もこう強調する。「私たちの重要な役割のひとつは、コミュニティの声を代弁することです。この声は地域・国家・世界レベルで守られなければなりません。」 さらにUNAIDSは、各国政府以上にコミュニティの状況を把握できる立場にあり、精密なデータ収集と分析を通じて、効果的な政策形成や目標設定を支えてきた。 「UNAIDSが提示した国際エイズ対応目標は、各国が戦略計画を策定し、実証に基づく介入を展開するための基盤となりました。」と、Pan African Positive Women’s Coalition – Zimbabwe(PAPWC)のカントリーディレクター、テンデイ・ウェスターホフ氏は語った。 「UNAIDSは各国の取り組みを監視する『Global Aids Programme』報告書を作成してきました。閉鎖されれば、各国の進捗監視に大きな空白が生じます。」 今年初め、国際HIV/AIDS対策資金の73%を担っていた米国が拠出を停止し、多くの現場組織が活動停止や閉鎖に追い込まれている。 UNAIDSの試算によれば、この資金削減により2029年までに新規HIV感染が約660万件、エイズ関連死が約420万件増加する可能性がある。 こうした状況下でUNAIDSを閉鎖すれば、特に資金逼迫に直面する国やコミュニティでは、HIV対応の持続性が一層損なわれる恐れがある。 「米国の突然の資金削減は、ハームリダクション(減害)サービスに深刻な打撃を与え、薬物使用者ネットワークの活動停止を招きました。UNAIDSまで閉鎖されれば、政府がサービスや支援を縮小する口実として利用されかねません。」と、タスリム氏は指摘する。 「低・中所得国では、薬物使用者を含む主要集団向けサービスの多くが国際支援に依存しています。UNAIDSを早期に閉鎖すれば、こうしたサービスは国家政策における優先度を大幅に失う可能性があります。」 トゥン氏も警鐘を鳴らす。「世界のHIV資金が縮小する中でUNAIDSを終結させれば、国際・地域間の連携やコミュニティ主導の参画が弱まり、データシステムの脆弱化を招き、長年の成果が失われる恐れがあります。」 とはいえ、活動家らは、この提案はまだ確定ではないと強調している。 「2026年にUNAIDSの機能を終結させる案は事務総長が提示したものですが、最終的な決定権はPCB(UNAIDSプログラム調整委員会)にあります。」と、ルコムニク氏は語った。 UNAIDS側は、機関自身がすでに抜本的改革プロセスを進めていた点を指摘する。PCBは2025〜27年の再編計画を承認し、2027年に進捗評価を実施し、2030年までに主要機能を国連諸機関および他のアクターに段階的に移管する構想を有していた。 その初期段階として、今年UNAIDSは世界の職員および事務所を50%以上削減する大規模な組織再編を開始した。 アクレカル氏はこう語る。「私たちの改革は、資金の不安定化に対応するためでもありますが、同時に、それ以前から不可欠とされていたものです。2030年以降、HIV対応が各国で持続的に担われる体制へ移行するためにも、機関の在り方を再設計する必要がありました。」 「グテーレス事務総長の提案が撤回されるかは現時点では不透明です。ただし、私たちが進めてきた改革計画と整合させる道は依然存在すると考えています。UNAIDSは変化そのものを恐れてはいません」と述べた。 もし閉鎖が現実化した場合、UNAIDSは他の国連機関や地域組織が役割を引き継ぎ、対策を維持することに期待を寄せている。 「UNAIDSはHIV対応の唯一ではなく一角を担う存在であり、他のアクターにも重要な役割があります。今後も国際的な連帯を維持し、最も重要な領域と当事者コミュニティを守っていかなければなりません」とアクレカル氏は語った。(原文へ) This article is brought to you by IPS Noram, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative...

爆発性兵器、紛争下の子どもの犠牲の主因に — 世界の衝突地域で深刻化する被害

【国連IPS=オリトロ・カリム】 近年、世界各地の紛争は一段と苛烈さを増し、爆発性兵器による死傷者が、これまで主因だった栄養失調や疾病、医療不足を上回るようになっている。紛争が激化するなか、最も大きな犠牲を強いられているのは子どもたちであり、不処罰と資金不足が必要不可欠な保護サービスの欠如に拍車をかけている。 11月20日、セーブ・ザ・チルドレンは『Children and Blast Injuries: The Devastating Impact of Explosive Weapons on Children, 2020–2025(子どもと爆発外傷:爆発性兵器が与える壊滅的影響、2020〜2025年)』を発表した。報告書は、現在進行中の11の紛争で深刻化する爆発性兵器の脅威を、臨床研究と現地調査に基づいて分析し、小児の爆発外傷が医療現場に及ぼす影響を明らかにするとともに、予防と回復支援への国際的投資を優先すべきだと訴えている。 報告書の主任著者で、セーブ・ザ・チルドレン英国の紛争・人道アドボカシー上級顧問ナルミナ・ストリシェネッツ氏は次のように述べた。「今日の戦争で最も高い代償を払っているのは子どもたちです。武装勢力だけでなく、本来彼らを守るべき政府の行為によっても命が奪われています。ミサイルは子どもが眠り、遊び、学ぶ場所を直撃し、最も安全であるべき家庭や学校が死の罠と化しています。かつて国際社会が強く非難した行為が、いまや『戦争のコスト』として片付けられる。この倫理の後退こそ、時代の危険な兆候です。」 報告書は、紛争下で暮らす子どもたちが置かれた極めて不安定な状況を浮き彫りにする。子どもは身体の発達が不十分で回復力も弱く、爆発性兵器がもたらす外傷に特に脆弱である。にもかかわらず、医療、リハビリ、心理社会的支援は慢性的に資金不足で、大半が成人を想定して設計されているため、子ども向けの必要なケアが欠落している。 セーブ・ザ・チルドレンのデータによれば、特に頭部や胴体の損傷、火傷では、子どもは大人より死亡リスクが著しく高い。7歳未満の子どもは「生命を脅かす脳損傷」を負う割合が成人の約2倍に上り、負傷した子どもの65〜70%が体の複数部位に重度の火傷を負っている。 小児救急医で、小児爆発外傷パートナーシップ(セーブ・ザ・チルドレンと医療者の協働枠組み)の共同創設者ポール・リーヴリー医師はこう指摘する。「子どもは解剖学的・生理学的特徴、行動、心理社会的ニーズのすべてにおいて大人より脆弱です。病院に到達する前に命を落とす例も多い。生存しても多数の重傷を負い、生涯にわたる治療とケアを必要とします。しかし紛争下の医療対応の大半は大人を前提としており、子どもの特有のニーズは見落とされています。」 報告書によれば、爆発性兵器は都市中心部へ戦闘が移行するにつれて子どもに前例のない被害を与えており、昨年の紛争下で死亡・負傷した約12,000人の子どものうち、70%が爆発性兵器によるものだった。2024年の子どもの死傷の70%超が爆発性兵器由来で、2020〜2024年の59%から大幅に増加している。 この増加は、現代の紛争において子どもがどのように危険にさらされているかの変化を示すものだ。セーブ・ザ・チルドレンは、被害増大の背景にある5つの要因として、①破壊力を増幅する新技術の拡散、②民間人被害の「常態化」、③説明責任の欠如、④子どもの死傷の深刻化、⑤爆発性暴力の長期的な社会コスト──を挙げている。 2024年に子どもへの被害が最も大きかった地域は、被占領パレスチナで2,917人、次いでスーダン1,739人、ミャンマー1,261人、ウクライナ671人、シリア670人で、いずれも多数が爆発性兵器による犠牲だった。また、地雷や不発弾による犠牲者の約43%を子どもが占め、農地や学校、家屋に何十年も残存する爆発物が深刻な脅威となっている。 この2年間、セーブ・ザ・チルドレンは紛争下の子どもの保護規範が「危険なまでに後退している」と警告してきた。2023年に地雷対策として拠出された10億ドルのうち、除去に充てられたのは半分に満たず、被害者の医療支援は6%、地雷リスク教育はわずか1%にとどまった。 同団体は各国政府に対し、人口密集地での爆発性兵器の使用停止、子ども保護政策の強化、そして被害児童の支援・研究・回復への投資拡大を求めている。 国連児童基金(UNICEF)とパートナー団体は、紛争下の子どもに食糧、避難所、医療、社会支援といった基本サービスを提供し、給水・衛生インフラの復旧や避難民への現金給付、精神的ケアや教育支援にも取り組んでいる。また、爆発性兵器の生存者には医療、義肢装具、心理社会的支援を提供し、障害のある子どもを含む保護サービスの強化に向け、政府や市民社会と協働している。(原文へ) INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: |コンゴ民主共和国|紛争孤児がブラジル格闘技で痛みを乗り越える すべての子ども、すべての権利のために-危機的な影響を受けた子どもたちに心理社会的支援を届ける 助けられるなら、助けよう。―ウクライナ人支援に立ちあがったイスラエル人ボランティアたち(2)ダフネ・シャロン=マクシーモヴァ博士、「犬の抱き人形『ヒブッキー(=抱っこ)』を使った心のケアプロジェクト」

カザフスタン―アゼルバイジャン間フェリー、2026年前半に運航開始へ

【ローマThe Astana Times=ナジマ・アブォヴァ】 カスピ海で、カザフスタン西部のクルィク港とアゼルバイジャンのアラト港を結ぶフェリー航路が、2026年に開設される見通しとなった。貨物取扱量の拡大と地域の海上連結性強化が期待されるとして、カザフスタン国営通信カジンフォルムが12月23日に報じた。 マンギスタウ州のヌルダウレト・キリバイ州知事(アキム)は、中央コミュニケーション・サービスでの会見で、「2026からジョージア側の企業と協力し、クルィク港とアラト港の間でフェリー6隻の就航を計画している。すでに2隻がカスピ海に入り、2026年前半に運航を開始する。その後は毎年2隻ずつ追加し、2028年までに6隻すべてが運航する。」と語った。 キリバイ知事は、この取り組みがカザフスタン独自のフェリー船隊の形成につながるほか、貨物量の増加と、カスピ海域の海上輸送の発展を後押しするとの見通しを示した。 また、中国から中央アジアとカスピ海経由で欧州までを結ぶトランス・カスピ国際輸送ルート(TITR、ミドル・コリドー)について、今年マンギスタウ州を経由する貨物輸送は前年比20%増の250万トンに達したという。 運航会社セムルグ・インベストは船隊を2027年までに6隻へ拡充する計画で、今年は積載能力7000トンの船舶1隻を同ルートに追加投入した。 マンギスタウ州では新港の建設も計画されている。着工は2026年で、投資協定は最終段階にあり、2025年内または26年初めの署名が見込まれる。建設は2026年第2四半期に開始予定で、港湾用地はすでに指定され、登録手続きが進められている。 新港整備は、中国、カザフスタン、アクタウ、バクー、ポティを経て欧州へ至る新たな国際輸送回廊の形成を後押しすると期待されている。 INPS Japan/The Astana Times Original URL: https://astanatimes.com/2025/12/ferries-between-kazakhstan-and-azerbaijan-to-launch-in-2026/ 関連記事: 中央アジア・日本首脳会合、トランス・カスピ回廊を後押し トカエフ大統領は核リスク再上昇に警鐘 カザフスタン共和国大統領直属カザフスタン戦略研究所(KazISS)副所長にダウレン・アベン氏が就任 トカエフ大統領とトランプ大統領、170億ドル規模の協定で関係を深化

ガエタン博士、被爆地長崎を取材

未来アクションフェス~今、ここから、持続可能な未来への行動を~

中央アジア地域会議(カザフスタン)

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

反核国際運動カザフスタン代表団歓迎交流会

米国桜寄贈110周年記念集会

「共和国の日」レセプション

核兵器なき世界への連帯ー勇気と希望の選択展

第7回世界伝統宗教指導者会議

NPT再検討会議:関連行事(核の先制不使用)

2022NPT再検討会議:SGIインタビュー

Vienna ICAN Forum 2022

Vienna ICAN Forum 2022

第4回核兵器の人道的影響に関する会議

TPNW第1回締約国会議関連行事(積極的義務)

関連ウェブサイト

client-image
client-image
client-image
client-image
IPS Logo
ATN
client-image
client-image
client-image
The Nepali Times
The Astana Times
London Post News
UN News

書籍紹介

seijikanojoken
18karanotouhxyokokoroe
Soka Gakkai Hiroshima Peace Committee