【ブリュッセルIPS=サミュエル・キング】
2026年7月24日、国連総会はフォルカー・テュルク国連人権高等弁務官をさらに4年間の任期で再任した。反対票を投じたのは、イスラエル、ロシア、米国など、わずか10カ国だった。|英語版|
テュルク氏はオーストリア出身の法律家で、コソボでの現地勤務から国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、そして現在のジュネーブでの職務に至るまで、キャリアのほぼすべてを国連機関で積んできた。
そのため、2022年10月に人権高等弁務官に就任した当初は、歴代の高等弁務官に比べて慎重な姿勢を取るのではないかとの懸念もあった。しかし実際には、強大な国々による人権侵害についても声を上げてきた。
ロシアによるウクライナへの全面侵攻を批判し、米国の移民収容施設で相次いだ死亡事案について調査を求め、イスラエルによるガザでの残虐行為も非難してきた。一方で、イスラエルのガザでの行為を「ジェノサイド」と明言していないことや、中国、とりわけ新疆ウイグル自治区のウイグル人をめぐる状況について十分に声を上げていないとの批判も受けている。
今回の再任により、テュルク氏は1993年に同職が創設されて以来、初めて2期8年の任期を完全に務める人物となる見通しだ。
初期の人権高等弁務官の1人であるメアリー・ロビンソン氏も続投を望んでいた。しかし、9・11同時多発テロ後の米国による軍事介入や、2001年の国連「反人種主義世界会議」(ダーバン会議)をめぐる同氏の立場に米国が強く反発したため、任期延長は1年間にとどまった。
ダーバン会議ではイスラエル・パレスチナ問題が大きく取り上げられ、これに抗議したイスラエルと米国が会議から退席している。
現在、国連の人権制度全体が深刻な資金危機に直面しており、組織の継続性を確保することの重要性は増している。
国際秩序全般、とりわけ人権機関に対する米国の攻勢の一環として、国連機関への資金拠出が削減・停止されたことで、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は深刻な財政難に陥っている。職員削減を余儀なくされ、人権侵害が起きている国々で活動する能力も低下している。
こうした困難な時期に高等弁務官ポストが空席となったり、後任選びをめぐって対立が長期化したりすれば、さらなる混乱を招くことになっただろう。
急ぎ進められ、異論を呼んだ再任手続き
今回の投票は突然持ち上がり、手続きも急ピッチで進められた。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、公募や公開の選考手続きを行わず、加盟国にも十分な検討時間を与えないまま、テュルク氏を再任する意向を各国に伝えた。グテーレス氏の2期目の任期が今年で終了することを考えれば、この措置には、次期事務総長に判断を委ねることを避けるとともに、再任への反対が広がる前に決着をつけたいとの意図があったとみられる。
大半の加盟国はこれを受け入れたが、米国は反発した。
米国は協議が不十分だったとして、直ちに投票の延期を求めた。欧州連合(EU)を代表して発言したアイルランドは米国の動議に反対し、延期案は63票対27票で否決された。米国代表は、この手続きを「典型的な国連の身内びいき」と非難。グテーレス事務総長が密室で取引を行ったと主張し、「相応の結果を招くことになる」と警告した。
一方、ロシアは別の手段に出た。テュルク氏の任期を2026年末までのわずか81日間だけ延長し、最終的な判断を次期事務総長に委ねる案を提出したのである。しかし、この提案も71票対19票で否決された。
テュルク氏の再任に反対票を投じたのは、アルゼンチン、ブルキナファソ、イスラエル、マリ、ニカラグア、ニジェール、北朝鮮、ロシア、トリニダード・トバゴ、米国の10カ国だった。その顔ぶれには、アルゼンチンやイスラエルのように米国と緊密な関係にある国々に加え、北朝鮮や、近年一つの勢力として連携を強めているサヘル地域の軍政3カ国など、ロシアと歩調を合わせる国々が含まれている。
トランプ政権下では、米国とロシアが同じ投票行動を取ることも、もはや驚くべきことではない。反対した国々の多くは、ニカラグアを含め、組織的な人権侵害を指摘されている。ロシアと北朝鮮はいずれも人権侵害に対する責任追及に強く抵抗している。米国はとりわけ、対イラン戦争や移民収容施設での死亡事案をめぐるテュルク氏の批判に反発していた。イスラエルはOHCHRについて、「10月7日の残虐行為を消し去り、国連の中立性を裏切った」と非難した。
一方、テュルク氏に反対するとみられていた国々の中にも、再任を支持した国があった。
再任に賛成した144カ国には、コンゴ民主共和国、スーダン、シリアも含まれている。いずれも現在、国連による厳しい人権監視の対象となっている国々だ。これは、特定の人権監視の仕組みに反発しているからといって、必ずしも国連の人権制度全体に敵対しているわけではないことを示している。また、国連から厳しい監視を受けている国であっても、OHCHRとの実務的な関係を維持することに一定の価値を見いだしている場合があることを示唆している。
脆弱さを増す国連の人権制度
13カ国が棄権し、26カ国が投票に参加しなかったことにも注目する必要がある。
その一部は手続き上の理由によるものだった。エクアドルとパラグアイは後に、検討するための時間がもっと必要だったと説明している。ペルーは、次期事務総長の裁量を狭めることへの懸念を棄権の理由として挙げた。ただし、その判断には、1980年から2000年まで続いた武力紛争の際に重大な人権侵害に関与したとされる治安部隊関係者に恩赦を与える法律など、ペルーの人権状況をテュルク氏が最近批判したことも影響していた可能性がある。
イラク、ニュージーランド、韓国、スリランカ、ウガンダも棄権した。
ニュージーランド政府は、その判断について「政策上ではなく、手続き上の理由によるもの」と説明した。しかし国内では強い批判を招いた。とりわけ、同国が最近、パレスチナ国家の承認を見送ったこともあり、反発は大きかった。
投票で明確な態度を示さなかった小国の中には、強大な国々から経済的あるいは政治的な圧力を受け、沈黙を選んだ国もあった可能性がある。また、明確な立場を示した場合に生じ得る不利益から自国を守るだけの力がないと判断した国もあっただろう。
つまり今回の投票は、人権高等弁務官への支持の度合いを示すだけでなく、各国、とりわけ小国が国際社会で置かれている脆弱な立場を映し出したものともいえる。強大な国々が国際秩序の中でますます力を振りかざすようになるなか、小国は、いつ明確な立場を取ることができ、いつ沈黙せざるを得ないのかを慎重に見極めなければならなくなっている。
再任がもたらした「継続性」

今回の再任によって、少なくとも当面、制度的な継続性は確保された。そしてテュルク氏自身も、その継続性を何のために生かすのかを明確にしている。
6月の演説でテュルク氏は、現在世界で起きていることを「国際法に対する前例のない、恥知らずな攻撃」と表現し、それが甚大な人的被害を引き起こしていると警告した。そのうえで、国際社会は基本原則を見失ってはならないと強調し、世界人権宣言と主要な人権条約は「これまで以上に重要になっている」と訴えた。
近隣で首脳会議を開いていたG7に向けたメッセージも明快だった。人権を単なる付け足しとして扱うのではなく、安定をもたらす力として議論の中心に据えるべきだ、というものだ。
しかし、正統性や道義的権威だけでは、OHCHRの活動資金を賄うことはできない。今後4年間、テュルク氏は、国連の人権保護機関を弱体化させようとする中国、ロシア、米国からの圧力に立ち向かわなければならない。
そして今回、テュルク氏の再任を支持した144カ国には、その一票を具体的な行動へとつなげる責任がある。
各国はOHCHRに十分な資金を確保するとともに、棄権した国々、とりわけ圧力や報復への懸念から棄権した国々を、人権制度を支える側に取り込んでいく必要がある。
人権を守るための国際社会の集団的な意思が、今なお力を持っていることを示さなければならない。
サミュエル・キングは、市民社会組織の国際ネットワーク「CIVICUS:市民参加のための世界同盟」で、欧州連合(EU)の研究・イノベーション枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」の助成を受ける研究プロジェクト「ENSURED:移行期の世界における協力の形成」に携わる研究員。
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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