【ウィーンIDN=ラメシュ・ジャウラ】
「国際的な核軍縮・不拡散レジームの中核として包括的核実験禁止条約(CTBT)を発効させる火急の重要性」が、5月2日から12日にオーストリアの首都で開催された2020年核不拡散条約(NPT)運用検討会議第1回準備委員会(NPT締約国のうち111カ国が参加)で強調された。
ジュネーブで1994年から96年にかけて交渉されたCTBTはほぼ普遍的に受け入れられているが、未だに発効していない。183カ国が条約に署名し、このうち核兵器国であるフランス、ロシア連邦、英国を含む164カ国が批准している。
しかし、核技術を持つ特定44カ国(=附属書2諸国)がCTBTを署名・批准することが、既に20年も停滞している同条約の発効要件となっている。この中でまだ締約国になっていないのが、中国・エジプト・インド・イラン・イスラエル・北朝鮮・パキスタン・米国の8か国である。インド・北朝鮮・パキスタンは署名も済ませていない。
準備委員会の議長をつとめたヘンク・コル・ファンデルクワスト軍縮大使(オランダ)は、議長総括のなかで、「包括的核実験禁止条約とNPTの目標・目的との間の本来的なつながりが強調された」と述べている。
CTBTは、核兵器の開発および質的向上を抑制する手段として、核爆発実験あるいはその他の核爆発を禁止する恒久的で非差別的、検証可能で法的拘束力のある約束を国際社会に提供し、それによって水平拡散と垂直拡散の両方を抑えるものであるとの包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)準備委員会のラッシーナ・ゼルボ事務局長の意見に、会議参加者らは賛成した。
会議参加者らは、核保有国によるCTBTに関する前向きな決定が、同条約の批准に向けて望ましい効果を生み出すだろうと強調した。そして未だ未署名・未批准の国々、とりわけ条約発効に必要な付属書2諸国の残り8か国に対して、他の国が批准するのを待たずに条約を批准するよう呼びかけがなされた。
この点についてファンデルクワスト議長の議長総括の草案には、「核兵器保有国には、包括的核実験禁止条約の附属書2諸国に対してCTBTを署名・批准するよう呼びかける特別の責任があることが再確認され、核兵器国に対してこの点でリーダーシップを発揮するよう呼びかけがなされた。」と記されている。
締約国は自発的な核実験の中断(モラトリアム)が実施されていることを歓迎しつつも、その内多くの国々が、核実験やその他すべての核爆発を禁止する恒久的で法的拘束力のある約束の代替にはならないとの見解を表明した。そのことは、包括的核実験禁止条約の発効によってのみ達成できることだ。CTBTの目標及び目的に反するいかなる行動も慎むことの重要性が強調された。
不拡散・軍縮イニシアチブ(NPDI)によって提出された作業文書は、CTBTの「できるだけ早い時期の」発効、さらには「グローバルな核不拡散・軍縮の前進」を含めた核実験禁止体制の強化に対する締約国の強いコミットメントを再確認した。
NPDIは、オーストラリア・カナダ・チリ・ドイツ・日本・メキシコ・オランダ・ナイジェリア・フィリピン・ポーランド・トルコ・アラブ首長国連邦といった12の非核兵器国から成る、地域横断的な有志国グループである。
しかし、第1回準備委員会のもう一つの注目点は、1945年に長崎とともに原爆が投下された広島出身の日本の岸田文雄外相が参加したことだ。岸田外相は、核兵器保有国と非保有国の対立の深刻化に言及し、「双方を巻き込んでいくことこそが核兵器のない世界につながると確信している」と指摘し、核兵器の拡散を防ぐために核兵器国と非核兵器国間の協力を強く訴えた。
岸田外相は5月2日に準備委員会で行った演説の中で、「核兵器のない世界に向けての努力は,北朝鮮情勢をはじめ、厳しさを増している安全保障環境を考慮しつつ、現実的に進めていく必要があります。」と語った。
また中満泉国連軍縮問題担当上級代表(事務次長)は、就任から1週間後の5月8日(準備委員会2週目の初日)に行った演説の中で、準備委員会が優先すべきことは、「過去の約束を完全に履行するための勧告を形成することです。」と指摘したうえで、「1995年、2000年、2010年のNPT運用検討会議で合意された成果が依然として完全に有効であることについて、あらゆる主体が同意しているように思われることに勇気づけられます。」「この点に関しては、アカウンタビリティや透明性、相互の信頼を促進する措置がきわめて重要であり、過去の運用検討サイクルの中で成し遂げた成果の上に構築していくことが可能です。準備委員会はまた、1995年の中東決議の履行に向けた新たな共通のビジョンを早急に確定するよう努力を傾けるべきです。そしてその中には、中東地域の国々よる包摂的な対話を早期に開始する努力も含まれるべきです。」と述べた。
中満上級代表の発言の重要性は、2005年と同様に2015年にニューヨークで開かれた運用検討会議(2015年4月27日~5月22日)もまた、実質的な成果文書に関する合意に達することができなかったという事実に現れている。米国・英国・カナダの3つの締約国が、NPT非締約国であるイスラエルが合意に反対したことを理由として、会議を頓挫させてしまったからだ。
これら3か国は、中東非核兵器地帯創設への呼びかけを運用検討会議の最終文書で繰り返すべきだと主張したエジプトの要求が会議を失敗に終わらせたと非難した。
しかし、中東非核兵器地帯は、2010年運用検討会議でもすでに想定されていたものであった。同年の運用検討会議では、核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用、中東問題(とりわけ中東に関する1995年決議の履行)の領域におけるフォローアップ(行動計画)について合意に達していた。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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