【アスタナINPS Japan/IDN=カリンガ・セレヴィラトネ】
ローマ法王フランシスコが、東西をつなぐ新たなルート(道筋)の中心として中央アジアのカザフスタン共和国が台頭してくる見通しを提起した。しかし今回は、人間関係と尊重を基盤としたルートの話である。
カザフスタンはかつて、シルクロードと呼ばれる、東西をつなぐルート(交易路)を通る貿易商や旅人たちが出会う場所だった。この21世紀にあっては、中国が「一帯一路」構想として知られる鉄道や高速道路網を通じた新たなシルクロードを構築しようとしている。
カザフスタンの首都ヌルスルタン(17日にアスタナに改称)で第7回「世界伝統宗教指導者会議」が9月14日に開会されるにあたって、ローマ法王は、人間を純然たる物質的な欲望の追求から引き離すこうしたルート(道筋)に新たな定義を与えた。
ローマ法王は「私たちは、かつて隊商たちが数世紀にわたって旅してきた国に集っています。この土地では、とりわけ古代のシルクロードを通じて、多くの歴史や思想、宗教的信条、希望が交錯してきました。」「カザフスタンが再び、遠くからやってきた人々の出会いの地となりますように。」と、50カ国以上から参加した主に宗教指導者から成る約1000人の聴衆に語り掛けた。
法王はまた、そうしたルートは「尊敬、真摯な対話、人間尊重、相互理解を基盤とした人間関係を中心としなければなりません。」と語った。
カザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領は、12世紀から14世紀にかけてヌルスルタンには仏教寺院、キリスト教の教会、イスラム教のモスクが建っていたことを指摘し、「カザフの大地は、昔から東西の架け橋でした。しかし、残念なことに、(今日の国際情勢を見渡せば)不審と緊張、紛争が国際関係に舞い戻ってきています。」と語った。
トカエフ大統領はまた、「これまでの国際安全保障体制が崩壊しつつあります。」と指摘したうえで、「これらの危機を克服する方途は、善意と対話、協調の中にしかありません。」と断言した。
ローマ法王は、新型コロナウィルス感染症の世界的な流行(パンデミック)によって「強制的にもたらされた世界の不平等と不均衡という不公正」を根絶するために協力するよう、世界各国から集った宗教指導者らに熱心に語りかけた。
「今日でも依然として、どれだけの人々がワクチンを受けることができずにいるでしょうか?より多くを手にし、僅かしか与えないものたちの側ではなく、困っている人々の側に寄り添おうではありませんか。自ら予言的で勇気をもった良心の声となろうではありませんか。」とローマ法王フランシスコは語りかけた。
「貧困はまさに、伝染病やその他の巨悪の蔓延を可能にするものです。不平等と不公正が増殖し続ける限り、新型コロナウィルス感染症よりもさらに悪いウィルス、すなわち憎悪、暴力、テロリズムといウィルスがなくなることはないでしょう。」と法王は警告した。
全体会議では、主要宗教や各地域を代表する多くの講演者が同様のメッセージを発した。
カイロのアルアズハル大学の総長で同モスクのグラントイマームであるアフマド・アル・タイーブ師は、パンデミックから回復しようとしているときに、別の災害が出てきている状況を嘆いた。「私たちは最近、グローバル経済に影響を及ぼす傲慢な政策の影響を受け、民衆の生活が破壊されています。道徳的な教えを持つ宗教が、現代文明を導いていないことは痛ましいことです。」と語った。
ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局長であるボロコラムスク府主教アンソニーは、キリル総主教の声明を引用して、「私たちは、事実が捻じ曲げられるのを見たり、国々や人々に対する憎悪にまみれた言葉を投げつけることで、人々を対話と協力から遠ざけたりする様を見てきました。」と述べたうえで、そうした対話を行う機会を与えてくれた「世界伝統宗教指導者会議」への謝意を述べた。
「文明は善悪で分割することはできません。私たちは相互の尊重を育んでいく必要があります。」と語ったのは、中国道教協会の李 光富(リ・コウフ)会長である。
二聖モスクの守護者(サウジアラビア国王)を公的に代表するサレー・ビン・アブドゥル=アジズ・アル・アシュ=シェイク師はまた、宗教間に橋を架けることの重要性を語った。「宗教が社会に混乱をもたらすために利用されないようにしなくてはなりません。私たちは社会的責任の価値を促進する必要があります。従って、宗教指導者の役割は、慈善、正義、公正さ、思いやりを実践するよう、他の人々を動機づけることであるべきです。」と師は訴えた。
日本の仏教団体・創価学会の寺崎広嗣副会長は、「苦境にある人々に手を差し伸べることが以前にも増して重要になっています。」と指摘した。寺崎副会長は、法華経の教え(「自他共の幸福」の思想)を紹介しつつ、「(さまざまな脅威を克服する“万能な共通解”は存在しないからこそ、)困難を抱える人のために自らが『支える手』となり、共に喜び合えるような関係を深めていくことが重要である」との池田大作SGI会長の2022年平和提言の趣旨を強調した。また、「生きる喜びを皆で分かち合える社会を目指し、宗教間の連帯を広げていきたい。」と述べた。
アフリカから唯一の代表であった「全アフリカ教会協議会」のフィドン・ムウォンベキ博士は、他者の尊厳を尊重せずに、他者が反応した際に紛争を引き起こしてしまうような人物はあらゆる宗教にいる、と指摘した。この点の説明をIDNが後にさらに詳しく求めたところ、博士は「人間がお互いに顔を合わせないときには、ステレオタイプを持ってしまう。しかし、互いに顔を合わせれば、そうしたステレオタイプが違っていたことに気がつくだろう。」と説明した。
ムウォンベキ博士は、アフリカでは、ソマリアやコンゴ、ナイジェリア北部で起こっていることから、多くの人がイスラム教は暴力的だと考えていると説明した。「私はここでイスラム教徒に会い、彼らがイスラム教についてどのように話しているか、すべての人の人間の尊厳へのコミットメントを見て、(私は)彼らの人生に対する態度が(ステレオタイプとは)異なっていることを理解しました」と指摘した。
最終宣言
ローマ法王フランシスコの参加を得て2日間の日程で開催された第7回会議の最終宣言には35の項目と勧告が盛り込まれた。この宣言は、世界のどの国の行政機関でも、また国連などの国際機関でも利用可能な文書を作成することによって、人類の現在および将来の世代が、相互尊重と平和の文化を促進するための指針とすることを確認したものである。
「世界伝統宗教指導者会議」事務局長でカザフスタン議会の上院議長をつとめるマウレン・アシムバエフ氏は、この宣言は発表後に次の国連総会において加盟国に提示されることになると語った。
宣言はまた、会議の事務局に対して、2023年から33年の10年間、世界伝統宗教指導者会議を世界的な宗教間対話のプラットフォームとして発展させるためのコンセプト・ペーパーを策定するよう、会議事務局に指示した。
第7回会議の閉会にあたって、トカエフ大統領は、「宗教が持つ平和構築の潜在力を有効に活用し、宗教指導者の努力を結集して長期的な安定を追求することが重要である。」と語った。
「コロナ後の世界において地政学的な混乱が激化する中、グローバルなレベルで文明間の対話と信頼を強化するための新しいアプローチを構築することがより重要となっています。今回の会議は、このような重要な取り組みに大きく貢献できたと確信しています。」と、トカエフ大統領は語った。
また、カザフスタンを訪問し会議に出席したローマ法王に対する謝意を表明し、「今回の法王のご訪問により、最終宣言に盛り込まれたアイディアや提言が世界的に一層よく知られるようになると考えています。」と語った。
第8回世界伝統宗教指導者会議は3年後の2025年9月に同じヌルスルタン(アスタナ)で開催されることが最終セッションで合意されている。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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