NVIDIAのジェンスン・フアン氏がアスタナを訪問。資源と産業の経験を、AI時代の仕事や事業へと変える取り組みが進んでいる。
【東京/アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】
カザフスタンは長年、地下から採掘した資源を世界へ供給してきた。10月23日に首都アスタナを訪れた米半導体大手エヌビディア(NVIDIA)のジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、そのエネルギーの一部を、新たな輸出品へと変える可能性を語った。

「将来はエネルギーを輸出するだけでなく、それを知能へと変換し、知能を輸出することができる」|英語版|
舞台となったのは、球体の旧万博施設を活用した国際人工知能センター「alem.ai」だ。フアン氏はここで、ジャスラン・マディエフ副首相兼AI・デジタル開発相と公開対談を行った。子どもたちが新しい技術に触れ、学生が学び、起業家や研究者が活動するこの施設で、同氏は、電力、産業の知識、技術人材を組み合わせることで、カザフスタンがAI経済の一翼を担えると論じた。
対談では、その構想を国際資本と具体的に結びつける発表もあった。マディエフ氏は、NVIDIAがAI動画生成企業Higgsfieldに投資したと明らかにした。
カザフスタンと米国に拠点を持つ同社について、フアン氏は、創業者らの構想と技術力、豊富な資金を持つ世界の競合企業に挑む姿勢を評価した。
「投資するのは企業ではなく、人だ」と述べた。
主催者によると、Higgsfieldではカザフスタン国内で600人超が働いている。フアン氏は、2つの国の文化と専門知識を結びつけ、国際市場で競争するチームの能力を強調した。対談では投資額や出資比率は明らかにされなかったが、この発表はカザフスタンが育てようとしている企業像を示した。国内の人材を生かし、世界に向けて製品を開発する企業である。
フアン氏の訪問は、9月23日に始まった一連の催し「AI月間」を締めくくるものだった。10月初旬の「AI & Digital Bridge 2026」では、政府当局者や経営者らが、計算基盤、投資、通信、教育を結びつける計画を示していた。10月23日には、世界のAI産業の多くを技術面で支える企業のトップが、その方向性への支持を表明した。
NVIDIA自身も、この市場の拡大から利益を得る立場にある。カザフスタンが計画する計算施設では同社の半導体の利用が想定され、現地の通信会社も同社の技術を使った基盤整備を進めている。
カザフスタンの目的は、天然資源に依存する経済の多角化だ。資源産業を支える電力や、そこで培われた知識を、新たな技術、仕事、輸出収入へとつなげようとしている。

マディエフ氏は、2035年までに発電設備容量をほぼ倍増させ、40ギガワットを超える水準へ引き上げる計画を説明した。政府はAI戦略を、エネルギー、半導体、クラウド基盤、AIモデル、応用サービスという5つの層で捉えている。
フアン氏の説明も、電力から始まった。AIは利用者の求めに応じて出力を生成するため、継続的な計算処理を必要とする。その処理を担う施設を、同氏は「AI工場」と呼ぶ。電力とデータを使い、経済活動を支える価値を生み出す場所という意味だ。
エキバストゥズで計画されている「データセンター・バレー」は、その構想を実現するための取り組みである。最新の公式発表では、初期容量を250メガワットとし、1ギガワットまで拡張できるとしている。フアン氏は、通信網の改善によって、カザフスタンが欧州のAI経済につながる計算拠点になりうると述べた。
基盤を整えるだけでは、新たな産業は生まれない。研究者や企業が計算能力を利用し、顧客の課題を解決する製品やサービスを開発することで、投資の効果は経済全体へと広がる。
INPS Japanが10月初旬にアスタナで行った取材でも、当局者らは、計算資源へのアクセス、教育、スタートアップ支援を一体的な取り組みとして説明していた。今回の対談は、そのつながりを、同国が蓄積してきた産業の専門知識へと広げた。
フアン氏は、現実の物理的な環境を理解し、その中で動作するシステムを支える「フィジカルAI」について論じた。その応用はロボットにとどまらず、鉱山や油井の地図化、地質の分析、鉱物加工、新素材の開発にも及ぶ。
鉱業、農業、エネルギー、物流は、カザフスタンが長年にわたり知識を蓄積してきた分野だ。これらの産業を理解する人々とAI開発者が協力すれば、その経験を新たな製品へと変える道が開ける。
主催者の発表では、国内の産業現場を、技術の開発、訓練、実証に向けた国際協力の場として開く構想が示された。目標には、生産性の向上とともに、職場の安全性の改善も含まれる。

フアン氏は、フィジカルAIはまだ発展の初期段階にあり、カザフスタンにもその将来を形づくる機会があると述べた。訪問中に見たロボット関連企業にも触れ、現地の開発者との協力に期待を示した。
対談では、自国の言語と文化を反映するAIも焦点となった。
マディエフ氏は、公開されている基盤モデルをカザフ語やその文化的背景に適応させる取り組みを説明し、独自の基盤モデルをゼロから開発する意義について尋ねた。
フアン氏は、国のデータには歴史、文化、価値観が含まれていると強調した。それを管理し、国内でAIサービスを提供する能力は、電力網や通信網に匹敵する基盤になると論じた。
そのうえで、公開された技術を自国の言語や文化に適応させ、国内で運用する道を支持した。カザフスタンの科学、数学、ソフトウエア開発の専門知識が、その能力を育てる土台になるという。
学校や公共サービスでAIの利用を広げるには、人々が使う言語で機能し、その暮らしの実情に応えるシステムが必要だ。それぞれの地域の言語に対応することは、AIの恩恵を広く行き渡らせるうえで欠かせない。
そうした道具を使う人々をどう育てるかも、対談を通じて繰り返し取り上げられた。
フアン氏は、AIが農業者の事業拡大、科学者によるより多くの問いの探究、技術者によるより優れた設計の検討を助けると論じた。その際に何度も用いたのが、意欲や志を意味する「ambition」という言葉だった。
マディエフ氏は、子どもがAIに頼りすぎず、考える力を育てるにはどうすればよいかと尋ねた。フアン氏は、もっと学びたいと願う子どもにとってAIは助けになると答え、好奇心や向上心を育む親や教育者の役割を強調した。
同様の問題意識は、10月初旬のINPS Japanの取材でも聞かれた。アティラウから来た18歳の学生ダスタンさんは、翻訳アプリを介したやり取りで、自分自身で理解を深める代わりにAIへ頼ることへの懸念を示した。
alem.aiでは、12~18歳を対象とするTUMOや、成人向けのTomorrow Schoolなどが、実践的な学習機会を広げている。フアン氏は、訪問先で若者がすでにAIを使い、開発に取り組んでいたことを評価した。
教育を担う機関の国際協力も進む。公式発表によると、12の技術系大学の代表者が、NVIDIAのDeep Learning Institute(DLI)の試行プログラムに参加した。カザフAI研究大学(QAIRU)に地域DLIセンターを設ける案も検討されている。
今、カザフスタンに暮らす18歳なら、これから5年間に何を学び、何をつくるか。そう問われたフアン氏は、AIを自在に使いこなす力を磨くことに専念すると答えた。

その助言は、指示文の書き方にとどまらなかった。技術的な技能と社会科学のどちらが必要かという質問には、双方が重要だと答えた。AIの能力を十分に活用するには、その原理、強み、弱みを理解することが不可欠だという。
創作も、学びを実践につなげる道の一つだ。

10月1~3日に開催された第1回アスタナAI映画祭には、主催者によると、125カ国から8067作品が寄せられた。賞金として100万ドルが割り当てられ、有望なAIチームやカザフスタンでの映画制作を支援するため、別枠で100万ドルが用意された。
映画祭とHiggsfieldへの投資は、動画生成技術を開発する人々と、その技術で物語をつくる人々の双方に、新たな機会が生まれつつあることを示している。
フアン氏は同時に、AIの恩恵を社会へ届けるには、責任ある開発と運用が不可欠だと述べた。AIエージェントが利用するファイルや道具へのアクセスを、作業に必要な範囲に限定し、その動作を監視する重要性を説明した。
カザフスタンの取り組みは、かつては別々の省庁や産業が扱っていたであろう課題を結びつけようとしている。電力をどう生み出すか。若者をどう育てるか。言語に蓄積された知識をどう生かすか。そして、企業が海外で顧客を獲得するのをどう支えるか。
それらのつながりが実際に役立つものとなったとき、新たな経済が形を取り始める。鉱山技術者が地下の状況をより正確に把握する手法を開発する。学生が身につけた技能を事業へ育てる。限られた予算で活動する映画制作者が、これまで届かなかった観客に作品を届ける。
INPS Japan
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