SDGsGoal2(飢餓をゼロに)腐ったトマトからAIへ―ウガンダのコモンウェルス青年賞受賞者がアフリカの飢餓に挑む

腐ったトマトからAIへ―ウガンダのコモンウェルス青年賞受賞者がアフリカの飢餓に挑む

【ロンドン/ダルエスサラームIPS=キジト・マコエ

ウガンダのシフラ・アイノムギシャ氏が、2026年の「コモンウェルス・ヤング・パーソン・オブ・ザ・イヤー(Commonwealth Young Person of the Year)」に選ばれた。受賞はロンドンで開かれた2026年コモンウェルス青年賞授賞式で発表され、同氏はアフリカ地域最優秀賞もあわせて受賞した。|英語版

しかし、彼女が「イノベーター」と呼ばれるようになるずっと前から、その原点はすでに形づくられていた。

人工知能(AI)が農業の文脈で語られるようになる前、太陽光発電を利用した低温貯蔵施設や「持続可能な開発」という言葉に出会う前から、シフラ・アイノムギシャ氏は、「食料が失われていく」という現実を身をもって知っていた。

夜明けになると、彼女はバケツを手に、西ウガンダにある家族のトマト畑へ向かった。

Map of Uganda
Map of Uganda

そこには、市場に届く前に失われていく収穫物があった。

遠目には健康そうに見えるトマトも、市場へ運ばれる前に柔らかくなり、割れ、腐ってしまうものが少なくなかった。

それが、彼女にとっての「食品ロス」の現実だった。

「毎朝、腐ったトマトを拾い集めて捨てながら、少しでも売れるものを救おうとしていました。」

彼女はそう振り返る。

こうして、家族の収穫のほぼ半分が失われていた。

それでも農作業は終わらない。

両親は懸命に働き続けた。

季節は巡り、畑には作物が実る。

しかし、収入はなかなか安定しなかった。

「それなのに、私たちは学費を払うことにも苦労していました。」

「学校の休暇中は家族総出で畑仕事をしていたにもかかわらず、学校を辞めざるを得なかった子どももいました。私たちは食料を生産していたのに、教育を受け続けるためのお金さえ十分に得られなかったのです。」

「なぜ食べ物を作る人が飢えるのか」

豊かな収穫が無駄になり、どれほど働いても暮らしが良くならない――。

そんな幼少期の体験が、後に彼女の人生を決定づける使命となった。

その取り組みは、2026年コモンウェルス青年賞において、SDG2「飢餓をゼロに」部門のアフリカ地域最優秀賞として高く評価された。

同賞には、コモンウェルス加盟56か国から約1,000人が応募した。57人の審査員による二段階審査を経て、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に革新的な取り組みで貢献した19人のファイナリストが選出された。

そしてアイノムギシャ氏は、その中から最高賞である「2026年コモンウェルス年間最優秀青年」にも選ばれた。

Shifra Ainomugisha poses beside a solar-powered irrigation system in Uganda. She was named the 2026 Commonwealth Young Person of the Year. Her contribution includes combining renewable energy and AI-enabled agricultural support to help smallholder farmers increase productivity and reduce post-harvest losses. Credit: Solafam, Uganda
ウガンダで、太陽光発電を利用した灌漑システムのそばに立つシフラ・アイノムギシャ氏。彼女は2026年の「コモンウェルス・ヤング・パーソン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。再生可能エネルギーとAIを活用した農業支援を組み合わせ、小規模農家の生産性向上と収穫後損失の削減に貢献している。写真提供:Solafam, Uganda

授賞式では、コモンウェルス事務総長のシャーリー・ボッチウェイ氏が賞を授与した。

ボッチウェイ事務総長は、ファイナリスト全員を称え、次のように語った。

「皆さんはすでに勝者です。56か国の中から選ばれたこと自体が、皆さんの勇気と創造性を物語っています。皆さんはコモンウェルスの誇りであり、困難に直面しても粘り強く挑戦し、制約の中でも革新を生み出してきました。」

さらに、

「今日は単なる表彰の日ではありません。新たな前進の出発点です。個人の卓越性を称えるだけではなく、共に前進する日でもあります。私たちは今後も、コモンウェルス青年プログラムを若者育成の中核事業としてさらに発展させていきます。」

と述べた。

「誰も飢えで命を落としてはならない」

SDGs Goal No. 2
SDGs Goal No. 2

しかし、アイノムギシャ氏にとって、この歩みは賞を目指したものではなかった。

すべては、幼い頃から抱き続けてきた一つの疑問から始まった。

「なぜ食べ物を育てる人たちが、なお飢えているのか。」

「誰も飢えで命を落としてはなりません。」

彼女はIPSにそう語る。

「私たちはそのために活動しています。農家が農業を続けられ、食品ロスを減らせれば、飢餓との闘いにつながります。それが私たちが取り組むSDGsなのです。」

現在、アイノムギシャ氏は社会的企業ソラファム・ウガンダ(Solafam Uganda Ltd)の共同創業者兼最高経営責任者(CEO)を務めている。

同社は、太陽光発電と人工知能を活用し、小規模農家の収穫後損失を減らし、生産性と所得の向上を支援している。

事業の柱は三つある。

太陽光発電による低温貯蔵施設、太陽光灌漑システム、そしてLean AIと呼ばれるAI農業アドバイザーである。

Lean AIはWhatsApp上で利用できるチャットボットで、播種時期、灌漑、病害虫対策、収穫後管理、市場情報などについて助言を提供する。

これらの技術は、アフリカ農業が抱える大きな矛盾―「食料は生産しているのに、消費者へ届く前に大量に失われてしまう。」という問題の解決を目指している。

サハラ以南アフリカでは、収穫後損失が依然として農産物の大きな割合を占め、農家の所得や栄養状態、地域経済の回復力を損なっている。

特に、小規模農家は貯蔵施設や灌漑設備、農業指導サービスへのアクセスが限られており、その影響を最も受けやすい。

しかし、アイノムギシャ氏にとって、それは単なる統計ではない。

そこには母の顔がある。

父の顔がある。

近所の人々の顔がある。

そして、自分自身の姿がある。

「私はトマト農家の家庭で育ちました。」

「一生懸命働いても、食品ロスが多く、十分な収入は得られませんでした。」

父から受け継いだ挑戦

最初に問題解決へ挑戦したのは父だった。

父は学校教育を受ける機会に恵まれなかったが、何とか現状を変えようと試行錯誤を続けた。

ディーゼル式灌漑ポンプを購入し、生産量を増やそうとした。

「私たちの地域では本格的な農繁期は年に一度しかありません。その時期に十分な収入を得られなければ、その一年は非常に苦しくなるのです。」

父は簡易な貯蔵施設も作った。

しかし、トマトは腐り続けた。

その後、教育を受け、テクノロジーに触れたアイノムギシャ氏は、父とは異なる解決策を考えるようになった。

「これは私一人の決断ではありません。」

「始まりは父でした。父には教育を受ける機会がありませんでしたが、私は大学へ進学できました。だからこそ、父よりも問題を解決できる可能性があると思ったのです。」

その思いを胸に、大学在学中、仲間とともにソラファムを設立した。

Shifra Ainomugisha (centre, in reflective vest), co-founder and CEO of Solafam, Uganda Ltd, stands with farmers and community members beside a solar panel installation that supports climate-smart agriculture initiatives. Through renewable energy and farmer-centred innovation, the project seeks to reduce food loss and improve rural incomes. Credit: Solafam, Uganda
ウガンダのSolafam Uganda Ltd共同創業者兼CEOであるシフラ・アイノムギシャ氏(中央、反射ベスト着用)が、気候スマート農業の取り組みを支える太陽光パネル設備のそばで、農家や地域住民とともに立っている。再生可能エネルギーと農家中心のイノベーションを通じて、このプロジェクトは食品ロスの削減と農村部の所得向上を目指している。写真提供:Solafam, Uganda

太陽光からAIへ

当初の事業は低温貯蔵施設だけだった。

LEAP Africaなど起業支援プログラムの支援を受け、事業化に成功した。

しかし利用者との対話から、新たな課題が見えてきた。

貯蔵する農産物そのものが十分に収穫できていないのである。

そこで、太陽光灌漑システムを導入した。

高価なディーゼル燃料への依存を減らし、一年を通じて栽培できるようにするためだった。

農家は費用の20%を頭金として支払い、その後は週約1・6ドルずつ分割払いを続けることで設備を所有できる。

「農家が本当に利用できる価格にしたかったのです。」

そして次の革新がAIだった。

多くの農家には農業指導を受ける機会がなく、その知識不足が収穫後損失を生み出していた。

「農業をしていても、必ずしも正しい方法で栽培しているとは限りません。」

「例えばトマトは夕方に灌漑した方がよいのに、朝に水をやっている農家もいます。」

そこで開発されたのがLean AIである。

WhatsAppで質問すると、農法、病害虫対策、灌漑方法、収穫後管理についてリアルタイムで助言が得られる。

さらに現在は、スマートフォンを持たない農家でも利用できるよう、USSD(携帯電話の対話型通信サービス)への対応も進めている。

「私たちはAIを活用し、現場にいなくても農家への研修を続けています。」

「これによって収穫量が増え、所得が向上し、『農業は貧しい人の仕事だ』という考え方を変えたいのです。」

ウガンダで、太陽光発電を利用した灌漑システムのそばに立つシフラ・アイノムギシャ氏。彼女は、再生可能エネルギーとAIを活用した農業支援を組み合わせ、小規模農家の生産性向上と収穫後損失の削減を後押ししている。写真提供:Solafam, Uganda

農業のイメージを変える

その固定観念こそ、彼女が最も変えたいものだった。

「ウガンダでは、『農業は貧しい人の仕事』という考え方があります。」

「それは本当に悲しいことです。」

彼女は少し言葉を止める。

「どれだけ働いても貧困から抜け出せないから、人々はそう信じてしまうのです。」

転機は2023年に訪れた。

地域の市場に最初の低温貯蔵施設を設置することが難しかったため、まず実家に設置した。

最初の利用者は母だった。

続いて近所の農家が利用し始めた。

当初は無料だった。

まず効果を実感してもらう必要があったからだ。

母の友人で野菜や果物を販売する女性は、1か月間利用した。

それまで数日で傷んでいた野菜は約2週間鮮度を保てるようになった。

急いで安値で売る必要がなくなり、価格が上がるまで待てるようになった。

「彼女はその効果を実感しました。」

「今では以前より農業収入が増えています。」

その後、ソラファムは従量課金制へ移行した。

成果は数字にも表れている。

「私たちが最も誇りに思うのは、農家の所得を28%増やしたことです。」

「さらに収穫後損失を約30%削減することができました。」

Commonwealth Deputy Secretary-General (Programmes), Tanmaya Lal, Commonwealth Secretary-General, Shirley Botchwey, and Commonwealth Deputy Secretary-General (Corporate), Tania Baumann, pose with the 2026 Commonwealth Young Person of the Year and Africa Regional Winner, Shifra Ainomugisha, at the Commonwealth Youth Awards ceremony in London. Credit: Commonwealth Secretariat
ロンドンで開催されたコモンウェルス青年賞授賞式で、2026年の「コモンウェルス・ヤング・パーソン・オブ・ザ・イヤー」およびアフリカ地域最優秀賞を受賞したシフラ・アイノムギシャ氏とともに写真に納まる、コモンウェルス副事務総長(プログラム担当)のタンマヤ・ラル氏、コモンウェルス事務総長のシャーリー・ボッチウェイ氏、コモンウェルス副事務総長(法人業務担当)のタニア・バウマン氏。写真提供:コモンウェルス事務局

女性のための技術

こうした成果が評価され、ソラファムはコモンウェルス青年賞へとつながった。

受賞に際し、アイノムギシャ氏は次のように語った。

「2026年コモンウェルス年間最優秀青年に選ばれたことを大変光栄に思います。この賞は私個人だけのものではなく、私たちが支援してきたウガンダの農家や地域社会の皆さんのものでもあります。自らの体験から生まれた解決策が社会を変えられることを証明できました。」

彼女は、受賞につながった理由として三つを挙げる。

持続可能性。

社会へのインパクト。

そして利用しやすさである。

「私たちの事業は2022年から継続しています。」

「実際に社会へ成果を生み出しています。」

「そして、小規模農家でも利用できる価格なのです。」

しかし何より重要なのは、この事業が女性を中心に据えていることだ。

「この問題は私自身の人生そのものだからです。」

「誰かの話を聞いて始めたわけではありません。」

「私は女性です。そして、毎日懸命に働く母の姿を見ながら育ちました。それでも暮らしは良くなりませんでした。」

アフリカでは農業労働力の多くを女性が担っている一方、土地や融資、技術、農業指導へのアクセスでは依然として不利な立場に置かれている。

「女性を中心に据えることは戦略ではありません。」

「私自身の人生経験なのです。」

もちろん男性農家も支援している。

しかし受益者の多くは女性である。

世界でAIへの期待が高まる中、彼女のメッセージは明快だ。

テクノロジーだけでは十分ではない。

誰もが利用できること。

手頃な価格であること。

そして人々の現実に寄り添って設計されていること。

彼女の次なる目標は、スマートフォンを持たない農家にも農業AIを届けることだ。

目指しているのは、単なる農業のデジタル化ではない。

農業に誇りと尊厳を取り戻すことである。

腐ったトマトの記憶は今も残っている。

学費が払えず苦しんだ日々も忘れてはいない。

しかし今、それらの記憶は失敗を意味しない。

新しい収穫の始まりを意味している。

そこでは、イノベーションはアルゴリズムや太陽光パネルの数ではなく、食料を育てる家族が、ようやく十分に食べ、学び、夢を見ることができるようになったかどうかによって測られる。

そしてアイノムギシャ氏にとって、その未来はすでに始まっている。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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