【国連IPS=オリトロ・カリム】
2026年9月3日、国連児童基金(ユニセフ)が発表した新たな報告書によると、調査対象となった子どもの約5人に1人が、1年間のうちにデジタル技術を介した性的虐待または性的搾取を経験していた。過去20年間で、デジタル技術やオンライン空間は日常生活のあらゆる側面と密接に結びつくようになった。その一方で、子どもの安全を脅かす新たなリスクも生まれており、とりわけ長期化する紛争や人道危機の中で暮らす子どもたちは、より深刻な危険にさらされている。|英語版|
テクノロジー企業や政府に根強く残る構造的な障壁、被害が十分に報告されない状況、そして被害者を守る制度や支援サービスの決定的な不足を背景に、デジタル技術を介した性的搾取は何百万人もの子どもたちに長期的な悪影響を及ぼし続けている。同時に、加害者が処罰を免れる状況を生み出す要因にもなっている。
こうした問題を詳しく検証したのが、ユニセフの新たな報告書『子どもたちの目を通して―デジタル技術はいかに子どもの性的虐待を可能にしているか』(Through Children’s Eyes: How Digital Technologies Enable Child Sexual Abuse)である。報告書は、21カ国で収集された調査結果をもとにまとめられた。
ユニセフのキャサリン・ラッセル事務局長は、次のように述べた。
「調査対象となった国々では、2000万人を超える子どもたちが、望まない露骨な性的コンテンツを見せられたり、オンライン上で性的搾取を受けたりしていました。その多くは、子どもたちが学び、遊び、友人と交流する日常的なデジタル空間で起きています。」
「こうした経験は、深刻な精神的・情緒的苦痛をもたらします。多くの子どもたちは、どこに助けを求めればよいのか分からないまま、誰にも打ち明けずに苦しんでいます。私たちは、この問題から目を背けることはできません。」
デジタル技術を介した虐待や搾取を経験した子どもは、精神的健康を損なうリスクが著しく高く、その影響は長期に及び、社会性の発達にも重大な影響を与える可能性がある。
報告書によると、被害を経験した子どもは、自傷行為や自殺念慮・自殺関連行動、強い不安を訴える可能性が約4倍高かった。
またユニセフによると、メキシコと北マケドニアでは、被害を経験した子どもが自殺念慮を抱くリスクは世界平均と比べて約8倍高く、パキスタンでは自傷行為のリスクが約7倍に達していた。
さらに、ユニセフの聞き取り調査に応じたソーシャルワーカーや心理専門家からは、被害者の間で心的外傷後ストレス障害(PTSD)がみられる事例が数多く報告された。
PTSDは、他者を信頼することや新たな人間関係を築くことの困難、学校での成績低下、薬物などの乱用、危険あるいは有害な行動などにつながる可能性がある。
ユニセフが把握した事例の約60%はソーシャルメディア上で発生し、14%はオンラインゲーム上で起きていた。
ソーシャルメディアを介した虐待の約半数はフェイスブック上で発生しており、ワッツアップ、インスタグラム、スナップチャット、ティックトックでも相当数の被害が確認された。
また、事例の57%では加害者が被害者と面識のある人物だった。調査対象となった21カ国のうち9カ国では、加害者が別の子どもであるケースも確認された。
ユニセフの専門家は、デジタル技術を介した性的搾取の実際の規模は、報告されている数字をはるかに上回ると警告している。被害の過少報告が広くみられるためだ。
警察などの法執行機関や支援サービスの担当者に報告されたケースは全体の1%未満にとどまり、約10件中4件は誰にも打ち明けられていなかった。
被害者が虐待について語ることをためらう主な理由としては、嫌がらせを受けることや真剣に受け止めてもらえないことへの恐れ、性犯罪被害者に対する根強い社会的偏見、そして子ども自身が適切な心理社会的支援や司法制度の存在を知らない、あるいは利用できないことなどが挙げられる。
こうした状況は、加害者が責任を問われない風潮を生み、さらなる搾取を助長することにもつながっている。
例えば、デジタル技術を介した性的虐待を受けた少女たちは、特に家父長的な価値観が根強い社会において、被害者であるにもかかわらず地域社会から非難されたり、社会的な恥を負わされたりすることが少なくない。
デジタル技術を介した性的虐待を経験したメキシコの若い女性は、次のように語った。
「多くの困難がありました。特に私を悩ませたのは、起きたことのあとで、社会の中でどう人と関わっていけばよいのかということでした。」
「もし自分に何が起きたのかを話したら、周囲の人たちがどう反応するのか分からず、それに向き合うことが怖かったのです。学校でも同じでした。特に心の健康に影響し、うつや不安を感じるようになりました。」
一方、男児がデジタル技術を介した性的虐待を経験したことを打ち明けても、その訴えが軽視され、「黙って自分で耐えるべきだ」とみなされる場合が少なくない。
また加害者が、男児の性的指向を暴露すると脅したり、実際とは異なる性的指向をほのめかして公表すると脅したりして、恐喝の手段に利用するケースもある。
デジタル技術を介した性的虐待や搾取は、地域や所得水準にかかわらず世界中の子どもたちに影響を及ぼしているが、加害者が経済的な弱みにつけ込むケースも少なくない。
紛争や危機が長期化する地域では、子どもを守る保護制度、支援サービス、司法制度そのものが深刻な負担を抱えており、子どもたちはとりわけ高いリスクにさらされている。
ユニセフの「子どもとデジタル技術」研究プログラム責任者であり、今回の報告書の筆頭著者でもあるダニエル・カルデフェルト=ウィンター氏はIPSの取材に対し、リスクの大きさは、経済状況、子どもを取り巻く人間関係、支援サービスへのアクセスなど、さまざまな要因によって左右されると説明した。
「加害者は、一部の子どもたちが直面している経済的困窮につけ込み、性的な画像や動画と引き換えに金銭や贈り物を提供することがあります」と、カルデフェルト=ウィンター氏は語った。
「経済的に困窮している子どもにとって、こうした申し出を拒否することは容易ではありません。また、金銭やその他の利益が提供されることで、子ども自身が当初、それを虐待だと認識できない場合もあります。」
さらに同氏は、デジタル技術を介した虐待の影響はオンライン空間だけにとどまらず、現実世界で何百万人もの子どもの安全を脅かす可能性があると指摘した。
例えば、オンライン上で見知らぬ人物から接触され、騙されたり強要されたりして実際に会うことになり、その場で性的虐待を受けたと証言する子どもたちもいた。
また、加害者が子どもの性的な画像を入手し、それを公表すると脅して、実際に会うよう強要するケースも確認されている。
子どもをデジタル上の被害から守るため、複数の国が未成年者によるソーシャルメディアの利用を制限する措置を導入、あるいは検討している。
オーストラリアでは2025年12月にこうした措置が導入され、2026年にはブラジル、インドネシア、マレーシア、アラブ首長国連邦でも同様の動きが進んだ。さらに、フランス、英国、ギリシャ、カナダ、デンマーク、トルコでも関連法案が審議されている。
しかし、こうした取り組みをめぐっては大きな議論が起きている。
テクノロジー企業は、こうした措置が利用者のプライバシーを損なう恐れがあると警告している。一方、若者の団体は、利用制限が表現の自由を侵害し、若者を社会的なつながりから孤立させる可能性があると主張している。
さらに人権団体は、未成年者によるソーシャルメディア利用を単に制限するだけでは問題の解決にはならず、実効性のある保護には、プラットフォームのアルゴリズムや安全対策の枠組みそのものを変える必要があると訴えている。
カルデフェルト=ウィンター氏は、いじめや性的搾取など、子どもたちがオンライン上で直面するリスクについて、各国政府が懸念を抱くのは当然だと語った。
「子どもたちは、自分たちの権利、安全、そして心身の健やかさを念頭に置いて設計されたわけではないデジタル世界の中で育っています。」
「年齢制限は、子どもの安全を守るうえで一定の役割を果たす可能性があります。しかし、それだけでは被害を生み出す根本的な要因を解決することはできません。それどころか、子どもたちをさらに規制の弱い空間へ追いやる可能性さえあります。」
さらに同氏は、次のように述べた。
「ユニセフは、より安全なプラットフォーム、より利用しやすい通報制度、メンタルヘルスサービスへの一層の支援など、子どもを守るためのより強力な対策を求めています。」
「また、解決策をつくる過程に、子どもたち自身が参加することも重要です。オンライン上で子どもを守ることは、社会全体が担うべき責任です。政府、企業、家庭、地域社会のすべてに果たすべき役割があります。」
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
関連記事:














