ニュースアーカイブ世界中の人々のための音楽(民音音楽協会)

世界中の人々のための音楽(民音音楽協会)

【東京IDN=浅霧勝浩】

そのレパートリーの奥行きの深さと次元の広がりは、美しい音楽と華麗な演技が荘厳なる融合をとげたオペラを始め、壮観で躍動的な創作をなすバレエ、魔法のような指揮捌きから紡ぎだされる、感動的なクラシック音楽の調べ、人々の心に歓喜と幸福の息吹を吹き込む、ミュージカル、ジャズ、民族音楽、舞踊、等、他に匹敵するものが無いと言うよりは、途方もなく素晴らしいものであると言える。

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 この全てが「民衆音楽」即ち「人々のための音楽」である。民主音楽協会(民音)は、「音楽が人の誇りを呼び覚ます」との理念の下に、まさにこの「民衆音楽」をもって、人々の生命(いのち)を豊かにし、国籍、人種、世代の壁を乗り越えて、人々の視野を広げてゆく事を使命として、活動を推進している。 

民音の社会的使命の基盤となる音楽文化の役割について、著名な仏教指導者であり、作家、哲学者でもある、民音創立者の池田大作博士は次のように述べている。「優れた音楽には、直接、人間の心に語りかける不思議な魅力があります。この魂と魂の共鳴には、時代を超え、距離を越え、民族を越え、人々の心と心を結びゆく力があるのです。そうした文化の交流こそ、人々が互いの偏見や過去の憎悪を乗り越え、平和な社会を創出する上で、重要な役割を果たせると確信しています。」 

民音のもう一つの使命は、世界中の良質で最上な音楽と舞台芸術を、庶民の手に届く値段で、全ての人々に対して提供することである。 
 おそらく民音は、現在世界における舞台芸術のプロモーターとしては、最大規模の民間・非営利団体であり、日本全国に、毎年500円(約5USドル) の会費を支払う120万人の「賛助会員」を擁して支えられている。一般的に公的資金給付や企業献金によって支えられている、国内外の多くの財団法人とは異なり、民音は賛助会員の会費を基金として運営されている。 

民音はまた、東京国際音楽コンクールを主催すると共に、全国の小中学校及び高等学校を対象に無料コンサートなども開催している。 

東京の行政・経済の心臓部である新宿区の中心に建つ民音文化センターには、民音音楽博物館が併設されており、図書館には12万枚以上のLPやCD、4万5千点を越える楽譜や音楽資料、約3万冊の音楽関連の書籍等を所蔵している。また、音楽博物館には世界中から収集された古典ピアノを始め、アンティークの各種オルゴールや民族楽器等が展示されている。 

民音は1963年の創設以来、世界平和を求める人々の心に具体的な形をもって応えられるように、人と人とを結ぶ架け橋を築く舞台芸術貢進の新たな機会を創り続けてきた。1965年には独立した財団法人として認可を受け、以来、日本最大級の民間文化交流機関の一つといえる程に成長を遂げている。 

「私達は、世界的な新たなるルネッサンス運動と言えるような、世界中の音楽文化の復興を願い、仕事をさせて頂いていています。そのためにも、明日を担う創造力に満ちた世代の、芸術を志向する心を触発する事を目的とした、音楽プログラムを提供できるよう心がけています。」と、民音の代表理事を務める小林啓泰氏は語る。 

こうした活動を目にしてきた人達は、民音は「東京のMETである」と表現する。「MET」とは、即ち、世界中で知られているニューヨーク市のメトロポリタン・オペラ・アソシエーションのことであり、アメリカで最大のクラシック音楽の団体として、年間220回のオペラ公演を主催している。 

しかし実際には、民音が「MET」を大きく凌ぐことは否めない事実である。 

103カ国 

民音は40年以上に渡って、102カ国・地域と共に、音楽、舞踊、舞台芸術の文化交流行事をもって、世界中に友情の輪を広げてきた、と小林氏は語る。本年秋には民音が招聘する、カメルーン国立舞踊団の公演をもって、103カ国・地域との文化交流を果たす事になる。 

民音はまた、世界各国において、日本の著名な音楽や舞台芸術のグループの公演を企画して、日本文化を海外に紹介する大きな役割を果たしてきた。こうした海外公演は、JMF(フランス青年音楽協会)やICCR(インド文化交流評議会)等の各国団体と協力関係を結びながら、海外における日本文化に対する理解を育み、相互交流を果たす目的をもって行われてきた。 

民音が、1979年に開始した「シルクロード音楽の旅」と題する公演シリーズは、10回に渡り、イラク、インド、中国、旧ソビエト連邦、モンゴル、トルコ、エジプト、シリアといった国々のアーティストを招聘して開催された。2007年に一旦シリーズを終了したが、その後2009年には、同シリーズが再開され、エジプト、ギリシャ、ウズベキスタンの芸術家による合同公演が行われている。日本においては、一般的に民族音楽・民族舞踊等に対する関心は薄く、総人口の1パーセント以下の人々しか興味を示さないという現状の中で、こうした公演を開催する事は、真に大志を抱いた試みであったと言えよう。 

民音はまた1981年に、ヨーロッパからミラノ・スカラ座の全キャストを日本に招聘して、日本で初の試みとなる世界第一級の正真正銘のオペラ公演を実現した。また、1999年には、ケニア、ナイジェリア、南アフリカ等のアフリカ諸国から音楽家・舞踊家を招聘して、エチオピアの舞踊団の25回公演ツアーをもって、「アフリカ音楽紀行」と題するシリーズが開始された。その後もこのシリーズは継続されて、2001年にはザンビアからのグループ、そして、2003年にはモロッコからのグループの公演が行われている。 

民主音楽協会は、日本における世界の民族音楽のレコード制作の第一人者としても知られており、世界からアーティストが日本公演に訪れる際に、録音スタジオにおいてレコーディングを行っている。 

また、世界中の若き指揮者の登竜門となる音楽コンクールを開催し、過去30年以上に渡り、海外から招聘したアーティストによる無料の学校コンサートを行って、120万人を越える日本の子供達がその恩恵をこうむってきた。 

民音音楽図書館は、日本国内では最大級の所蔵を有して、一般市民に開放されている。 

1991年に民音が主催して開始された東京国際振付コンクールは、この種のものとしては世界でも指折りの存在であり、世界中から十数名の振付師と舞踊団の参加をもって開催され、将来活躍が期待される若い芸術家のための貴重な舞台を提供している。 

前代未聞の存在 

「日本において、民音のような大変に幅広く各種の音楽を網羅した活動を展開している団体は、他に類を見ない。」と、音楽評論家であり日本作曲家協会会長を務める石田一志氏は語り、「実際には、全世界を見渡しても同等の団体は存在しないのではないか」と言葉を継いだ。 

民音の小林啓泰代表理事はIDNのインタービューに対して「私共は、現在まで102カ国・地域からアーティストを招聘してまいりましたが、一般的な多くの日本人にとっては、それらの国々の中でも、レバノンやヨルダンなど、世界地図の上で何処にあるかを指し示せない国が、少なくとも50カ国くらいはあると思います。」と、語った。 

そして、「中東のある国から芸術家を招聘した際、チケット販売を委託している業者から、苦情が寄せられたことがありました。彼らは、『その国について知っている人はあまりいないし、知っていたとしても内戦が起こっている国であると言う事だけで、そのような国に音楽文化と言えるものがあるとは思えないというのが普通です』と言って、『民音は、そんな国から招聘した芸術・文化の公演を見るために、チケットを購入する人がいると思っているのですか』と、疑問を投げかけられたこともありました。」と、実例を紹介してくれた。 

民音に勤めた過去34年間の経験をふり返って、小林氏は多くの実例をあげながら、「民音では通常約二時間の公演を行っていますが、少々疑問視されるようなアーティストのグループであっても、2時間の公演を見てくださるうちに、お客様の心の中に何かが変化してゆくのを、今まで何度も実際に見てきました。」「実際に、公演終了後にお客様に書き込んでいただいているアンケートの中には、『今日、私は人生で初めて、この国にもこんなに素晴らしい芸術文化があるという事を、学ばせてもらいました。』とか、『いつかこの国に行ってみたいという気持ちになりました。』との声を寄せて下さっています。」と語ってくれた。 

また、音楽博物館の館長代行を勤める上妻重之氏は、「私共は、イラン・イラク戦争の最中に、中東の国々からアーティストのグループを招いて公演を行った事がありました。」と、過去の思い出を語りながら、民音の公演が、お互いに紛争状態にある国々から招いた芸術家の間にも、より良い相互理解を生む手助けとなってきた事実を紹介してくれた。 

「その時、各国のアーティスト達は、各政府機関の間の取り決めをもって来日していた事から、初対面の時はお互いにあまり友好的ではありませんでした。しかし、日本各地を旅して、公演を繰り返して共に過ごす時間が長くなるに連れて、お互いの心の中で少しずつ何かが変ってゆくのが見えて、とても嬉しく思いました。公演旅行の終盤には、同じ舞台に立って演技する彼等の間に、国家間の敵意や憎悪を乗り越えて、お互いに尊敬しあう友情の絆が、ありありと見て取れました。」と、しみじみと語ってくれた。 

また、上妻氏は、中米四カ国からアーティストを招いた際、地理的に隣接する国々でありながら、互いの国を訪れたことが無いという事を知り、大変に驚いたと言う。遠い日本まで来て初めてお互いに出合う機会を得て、お互いに芸術家として尊敬しあい、友情を育むことが出来たことについてふれて「この機会が、其々の国に帰った後も継続される、相互交流と友情の始まりになった事は明らかです。」と語った。 

民音は紛争に苦しむ国々からもアーティストを招聘してきた。「そうした国々からのアーティストの公演には、日本の一般的な市民、特に青少年にとって、大変に素晴らしい側面あり、公演を見た学生達から、民音に対して『何をしたら、あのような国々の人達を支援できるか、是非教えてください』といった手紙が寄せられることがあります。」と、小林代表理事は語る。 

子供達は、学校に来て演奏してくれる音楽家達を通して、そうした紛争に苦しむ国がある事を学び、その国や其処に住む人達についてもっと知りたいとの思いを募らせる。子供達の心に、その芸術家達の音楽に対する敬意が芽生え、テレビでその国の紛争の悲惨な状況を見れば、その芸術家達に対して、個人的な友情や同情さえ感じるようになるのである。 

痛みを共有する 

もう一つの実例として、エチオピアの国立舞踊団のメンバーが、愛媛県の学校の生徒達と会って交流した後に、一人の女子高校生が書いたものを紹介してくれた。「今日まで私は、エチオピアについて殆んど何も知らないという程、本当に無知であった事を白状します。でも今日からは、この国で何が起こっているかを、もっと身近に見ていこうと思い、ニュース等をしっかりと追ってゆく事にしました。いいニュースであれば、あの人達のためにも幸せに感じるでしょう。でもそれが、飢饉とか戦争とかで、あの人達が苦しむような悪いニュースだったら、あの人達の痛みが私自身の痛みに感じられると思います。」 

小林氏は、民音の試みが観客の心の中に、他者に対する関心の思いを喚起している事実を誇りに思っている、と語ってくれた。 

民音が公演の度に配るアンケートに対する回答を見れば、日本の観客は一般的に、外来の文化に触れる事により、感銘を受け感動している事が明らかである。また、開発途上国から来たアーティスト達にとっても、いつものように他よりも劣る立場にいる人々として見られるのではなく、豊かな美しい彼等の文化を演じ示してゆける事が、彼等にとって誇りの源泉となっている事は明らかである。 

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「このような文化交流は、相互に尊敬し感謝しあう心を基盤にした、大変に貴重なものであると言えます。」と、民音広報宣伝部の山口幸雄氏は語る。そして、「文化交流は、どの様な国であれ他国より優れた文化や他国より劣った文化などありえない、という大変に重要な認識を生むことになります。また、文化交流には、他の国々の人々や、彼等の文化に対して、偏見や偏狭な思いを持つ事を諫止する働きがあります。」とも語った。 

民音は今後も、その活動の範囲を更に拡げ続けてゆく事を志向しながら、現代の世界において重要な役割を果たしてゆく事を確信している。「文化交流は、漸進的で、賛美されることの無い、遠回りに思えるような活動ですが、実は、相互理解と平和に向かう最も確実な道であります。」と、小林氏は結論して、「なぜなら、今までこの道を進んで来て、私達自身が成し遂げた事を実際にこの目で見て来たからです。そして、私達はこれからも弛むことなくこの仕事に精一杯取り組んでまいります。」と語ってくれた。

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This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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