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|報告書|イランが核を保有しても地域のパワー・バランスは崩れない

【ワシントンIPS=ジム・ローブ、ジョー・ヒッチョン】

米国のシンクタンク「ランド研究所」が5月17日に発表した新しい報告書によれば、イランが核兵器を保有した場合でも、米国や米国の中東における同盟国(イスラエルや湾岸地域のアラブ君主国家)にとって重大な脅威にはならない、という。

『核保有後のイラン:核武装したイラン政府はどう行動するか?』と題された報告書は、もしイランが核兵器を取得することがあったとしても、それは、攻撃的な目的ではなく、おそらくはイスラエルや米国などの敵対国からの攻撃を抑止することを目的としている、と断定している。

この50ページの報告書は、イランが核保有すれば、スンニ派が支配する近隣諸国との間に緊張が高まることになるだろうが、イランが他のイスラム教国に対して核兵器を使用する可能性は低いだろうと結論づけている。また、ランド研究所の国際政策アナリストで報告書の著者であるアリレザ・ネイダー氏によれば、イランは「アラブの春」や内戦状態にあるシリアバシャール・アサド政権を支援した結果、中東における影響力が低下してきているが、核武装でこの流れを止めることはできないだろう、と結論付けている。

「イランの核兵器開発は外敵からの攻撃を抑止する能力を強化することにはなるが、中東の地政学的秩序をイランにとって有利な方向に変えることにはつながらないでしょう。」「中東地域の覇権を目指すイランの挑戦は、国際的な信用力の低下、経済の弱体化、限定的な通常軍事能力のために制約されています。つまりイランは、たとえ核武装したしても、衰退国家であることに変わりないのです。」とネイダー氏はIPSの取材に対して語った。

報告書はいくつかの結論を導き出しているが、その全てにおいて、イランが概して国際関係においては合理的アクターであると想定している。

ネイダー氏はイランについて、中東における(イランが見るところの)米国支配の秩序を弱体化させようとする「修正主義国家」と呼んでいるが、「イランには領土奪取の野望はなく、他国を侵略、征服、占領しようとはしていない。」と強調している。

さらに報告書は、イランの軍事ドクトリンは基本的に防衛的な性質のものだとみている。この背景には、イランが位置する中東地域が対立含みで不安定なものであることに加えて、スンニ派とアラブ人が多数を占める同地域において、イランがシーア派とペルシア人が多数を占める国家であるという事情が影響している。

イランはまた、イラクとの8年にわたった凄惨な戦争(1980年~88年)で100万人もの国民が命を落としており、未だにこの痛手から回復できていない。

この新しい報告書は、核武装化したイランは果たして米国とその同盟国によって「封じ込め」うるのか、中東で攻撃的な政策にでたり、核兵器を実際に敵に対して使用するのを抑止しうるのか、という論争が米国内で高まっている中で発表された。

イラン自体は、核兵器開発疑惑を激しく否定しており、米国の諜報当局もこの6年間、イランの指導層は核開発の決断を下していない、と一貫して主張してきた。ただし、もしそうした決断が下されたならば、[既存の]核計画の進展度合いとインフラ状況からして、1発の核兵器を速やかに製造することは可能だと、としている。

バラク・オバマ大統領をはじめとした米政府首脳部が繰り返し明言してきたとおり、米国の公式政策は、イランによる核兵器取得を「予防」することであり、現在の外交的手段や深刻な影響を伴う経済制裁をもってしても、なおイランに核兵器計画の相当部分を抑制させることに失敗したならは、軍事行動も辞さない、というものである。

米政権は、核を保有したイランは、イスラエル国家に対する「存続上の脅威」とみなしている。さらにこのような見方は、イスラエル・ロビーが最大の影響力を持っている米議会で、より熱心に支持されている。

さらに米政権によると、イランの核保有はイラン自身やその同盟集団、とりわけレバノンのヒズボラを増長させ、敵に対してこれまでより攻撃的な行動を活発化される恐れがあり、その結果、とりわけサウジアラビアやトルコ、エジプトといった中東の他の大国に独自の核兵器計画開始を余儀なくさせるような「連鎖効果」を引き起こしかねない。

しかし、イランに対する「予防戦略」(とりわけ、軍事行動に頼るという部分)に対して批判が徐々に強まり、イランが核武装化しても、現在の支配的な見方が想定するほど、危険な存在とはならないだろう、との論が出てきている。

例えば1年前、国家諜報官(中東・南アジア担当)を2000年から05年まで務めたCIAの元分析官、ポール・ピラー氏が、『ワシントン・マンスリー』誌に長い文章を寄稿したが、その題名は「核保有したイランとは共存可能:イランの手に核が渡るという恐怖は大げさであり、それを予防する戦争など問題外だ」というものであった。

より最近では、オバマ政権第一期で国防総省中東政策部門のトップを務めたコリン・コール氏(「新アメリカ安全保障センター(CNASアナリスト」)が、2本の報告書を発表している。ひとつは、中東における「連鎖効果」を疑問視するものであり、もうひとつは、5月13日に発表された『すべてが失敗したとしても:核兵器国イラン封じ込めという難題』と題された報告書である。コール氏はこの中で、例えば、イランの核に脅威を感じる国家に対して米国の核の傘を提供するなどの「封じ込め戦略」について詳述している。これによって米国は、イランが核兵器を使用したり、ヒズボラのような非国家主体に核を移転することを抑止でき、中東各国に自前の核能力開発を思いとどまらせることができる、というのである。

さらに、2002年の著書『迫りくる嵐:イラク侵略に賛成する理由』でリベラル派や民主党支持者ら多数をイラク侵略賛成に回らせたケネス・ポラック氏(元CIA分析官、現ブルッキングズ研究所)は、出版予定の新著『考えられないこと:イラン、核兵器、米国の戦略』の中で、イランが核を保有した場合の封じ込め戦略について同じく論じることになっている。

ブルッキングズ研究所もCNASも現政権に近いと見られているため、ネオコン論者の一部は、これらの報告書は、オバマ政権が「予防戦略」を捨て、別の名による「封じ込め」に走るための舞台を設定する「観測気球」だと警戒する論陣を張っている。

歴史的にペンタゴンと緊密な関係を保ってきたとみられるランド研究所からネイダー氏の先述の報告書が出たことは、同じような見方を招くであろう。

ネイダー氏の報告書は、イランが核兵器を取得すれば湾岸のアラブ君主国家との緊張が高まり、中東の不安定性が増すであろうことは認めている。さらに、イスラエル・イラン間における、不注意による、あるいは偶発的な核交戦は「危険な可能性」として残るという。報告書の検討対象外としつつも、「連鎖効果」についても「十分な考慮」を払うべきだとしている。

報告書は、イランがイスラエルに対して強力なイデオロギー的嫌悪を抱いているにも関わらず、イスラエルを核攻撃すれば自国の体制崩壊をほぼ確実に招くことから、攻撃には踏み切らないだろう、と論じている。

ネイダー氏の見方では、イスラエルは、イランが核能力を獲得することで、イスラエル軍のパレスチナやレヴァーント地方、或いはより広い地域での軍事作戦を大幅に抑制することになるイランの同盟相手に対する「核の傘」になるのでないかと恐れている。

しかし報告書は、ヒズボラなどの同盟に対して核抑止力を拡大することはないだろうとしている。なぜなら、これらの集団の利害は、イランのそれと常に、あるいは時々であっても、一致するとは限らないからだ。またイランは、それらの集団に対して核兵器を移転することもなさそうだと同報告書は見ている。(原文へ)

翻訳=IPS Japan

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