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|ポルトガル|EU議長国として食料システムを主流化する議論をリード

【ブリュッセルIDN=パウロ・カルーソ・ディアス・デ・リマ】

来年は国連食糧システムサミットやCOP26で食料システムの改革が国際議論の中心になるとみられる中、2021年EU議長国(1月~6月)としてEUグループの議論をリードしていくことになるポルトガルの実績と戦略を解説した国連食糧農業機関(FAO)EUリエンゾンオフィサーによる寄稿文。新型コロナ下で世界的に飢餓が広がっているなかで、年間10億トンもの食糧が廃棄される現状を改革するには、かつてない規模の協力体制を構築できるか否かにかかっている。(原文へ

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宇宙は本当に平和目的にだけ使われているのか

【ベルリン/ニューヨークIDN=ラメシュ・ジャウラ

ソ連の宇宙船ソユーズ19号と米国の宇宙船アポロ18号が地球の周回軌道上でドッキングした1975年7月17日、米ソの飛行士が地球上のはるか高い上空で握手を交わした。

ソ連の指導層は「ソ連と米国の宇宙船の共同飛行」は、「宇宙空間の平和的な探査協力に関して多くの国に可能性を拡げた、ソ米間の科学技術協力の発展における大きな一歩」だとして、歓迎の意を示した。

Portrait of ASTP crews/ By NASARestoration by Adam Cuerden -, Public Domain

同じ日の夜、米国では、CBSのニュースキャスターであるウォルター・クロンカイト氏が「宇宙での握手は、未知なるものに向けた人類の前進における新しい時代の到来を告げるものかもしれない。」と語った。

この歴史的な瞬間を振り返って、ゲナディ・ゲラシモフ氏は、1983年10月にノーボスチ通信社に寄稿した書簡の中で、「当時私たちは、その日は忘れられない一日になるだろうと思ったが、今では、そんなことはなかったように思えてくる。」を記している。実際、この宇宙のロマンスは、束の間のものに終わった。

あれから45年。公式の核兵器5大国のうち、米国・ロシア・中国の3カ国が宇宙司令部を設置し、宇宙兵器・対宇宙兵器を保有している。他方で、1967年の宇宙条約は大量破壊兵器を宇宙空間に置くことや天体における軍事活動を禁止し、宇宙の平和的探査と使用に関する法的拘束力のあるルールを規定している。

宇宙条約は1967年10月10日に発効し、110カ国が加盟しているが、その他の89カ国が条約に署名しながらも批准手続きを済ませていない。条約は「核兵器あるいはその他のいかなる種類の大量破壊兵器」も宇宙空間に配備することを禁止している。

「軍備管理協会」のダリル・キンボール事務局長が指摘するように、「大量破壊兵器」(WMD)の語は定義されていないが、通常は、核兵器・化学兵器・生物兵器を含むものと解されている。他方で、WMDの弾頭を搭載した弾道ミサイルを宇宙空間を経由して発射することは、条約上禁じられていない。

宇宙条約は、宇宙は平和目的のために使用されるものであると繰り返し強調しているため、WMDだけではなくあらゆる種類の兵器システムが宇宙空間においては禁止されていると解釈する専門家もいるほどだ。

しかし、米州兵陸軍のティム・ローソン少将は、国防総省は宇宙を陸・海・空と並ぶ戦域として見なしているという見解だ。新型コロナ感染症対策のため今年はオンラインで開催された全米防衛産業協会の「宇宙戦争産業フォーラム」でローソン少将は、「中国は既に対衛星ミサイルを実験し、ロシアは米国の衛星に脅威を与えかねないシステムを軌道上に配備している。」と語った。

Outer Space Treaty parties/ By User:Happenstance, User:Danlaycock et al. – File:Seabed Arms Control Treaty parties.svg, CC BY-SA 2.5

ローソン少将は、朝鮮半島のような地政学的なホットスポットに展開している米軍戦闘部隊に適用されてきた合言葉を引用して、「アメリカ合衆国宇宙軍(米宇宙軍)は、今夜でも戦う用意ができていなければならない。しかし、宇宙軍が完全な作戦能力を得るまでにあと数年かかるだろう。」と語った。

しかし、米宇宙軍は他方で、中国やロシアに対抗する新たな能力を開発しつつあると報じられている。

ローソン少将は、米軍の宇宙関係プログラムの大部分は「裏予算」となっており、外部の人間が内部を伺い知ることは難しいと語る。

米宇宙軍は、米国防総省の統合軍部門の戦種の一つである。宇宙での軍事作戦、とりわけ海抜高度100キロ以上の空間における作戦を担当する。

The logo of United States Space Command/ By United States Space Command – /, Public Domain

米宇宙軍は、宇宙空間におけるあらゆる軍事力を共同で指揮・管制し、他の戦種との調整を図ることを目的に、1985年9月に創設された。米宇宙軍は2002年にアメリカ戦略軍に整理統合されたが、17年間後の2019年8月29日に再び宇宙軍が立ち上げられ、戦域としての宇宙が改めて強調されることとなった。

米宇宙軍の任務は、「紛争を抑止するために、宇宙において、宇宙から、宇宙を通じて作戦を行うこと。必要ならば、攻撃を打ち破り、統合軍に対して宇宙空間での戦闘能力を提供すること。同盟国やパートナーとともに米国の死活的な権益を守ること。」と規定されている。

ロシアで米宇宙軍に相当する組織はロシア航空宇宙軍で、2011年12月1日にそれまで宇宙関連の軍事活動を担当してきた航空宇宙防衛軍とロシア空軍の一部を統合して創設された。指揮の責任範囲には、ミサイル攻撃の警戒、宇宙監視、軍事衛星の管制が含まれる。

ロシア航空宇宙軍総司令部は、航空宇宙軍の4つのセクションの一つで、その他3つは、航空・ミサイル防衛部隊、プレセツク宇宙基地、兵器庫である。航空宇宙軍総司令部の下には、3つのセンターとその補助施設が統合された。

中華人民共和国の宇宙関連プログラムは当初、人民解放軍のとりわけ第2砲兵軍(後にロケット軍に改称)の中に組織されていた。1990年代、中国軍は防衛産業再編成の一貫として宇宙プログラムの総合的な再組織化を図り、西側の防衛調達体制と似たような組織形態になった。

張克倹が委員長を務める「国防科学技術工業委員会」の一部局である中国国家航天局(CNSA)が発射を担当している。ロケット「長征」は中国キャリアロケット技術研究院が製造し、衛星は中国航天科技集団有限公司が製作している。

公社の組織は国有企業だが、関係筋によれば、中国政府は、同公社の運営に国家が積極的に関わる必要はなく、独立の組織として動かす意向であるという。中国の宇宙関連事業は、中国国家航天局(CNSA)が担当している。

宇宙は、他国への優勢を見せつける場面として働くだけではなく、軍事衛星あるいは軍民両用衛星が展開する場所でもある。2018年12月時点でそうした衛星は320基あった。そのうち半分が米国のもので、それにロシア・中国・インドが続いている。

Soyuz (TMA version) Spacecraft/ By The original uploader was Thegreenj at English Wikipedia. – Transferred from en.wikipedia to Commons., Public Domain

ウィキペディアの情報によれば、宇宙にも衛星兵器はある。通信衛星も軍事通信の用途に使える。典型的な軍事衛星は、UHF、(Xバンドとしても知られる)SHF、(Kaバンドとしても知られる)EHFの周波数帯で機能する。米軍は、さまざまな大陸に配備した地上施設と組み合わせた衛星の国際ネットワークを維持している。

衛星通信にとっては、通信の遅れが大きな問題となる。そのため、地理条件や気象条件が通信ネットワーク拠点の選択する際に重要な要素となる。米軍の主要な軍事活動は国外領土で展開されていることから、米政府は、気象条件の好ましい場所にある外国のキャリアに衛星サービスを委託する必要がある。

英国もまた、スカイネット・システムを通じた軍事通信衛星を運用している。「スカイネット5」は、英国の最新の軍事通信衛星システムである。現在、4基のスカイネット衛星が軌道上を周回しており、最近では2012年12月に打ち上げに成功している。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|視点|「人種差別・経済的搾取・戦争」という害悪根絶を訴えたキング牧師の呼びかけを実行に移すとき(アリス・スレイター「核時代平和財団」ニューヨーク事務所長)

再び非大量破壊兵器地帯への軌道に乗る中東諸国(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮問題担当上級代表、パグウォッシュ会議議長)

核兵器は国際法の下で非合法となる – 国連にとって画期的な勝利(ソマール・ウィジャヤダサ国際弁護士)

EEPA(アフリカに関する欧州海外プログラム)アフリカの角地域状況報告(12月20日現在)

*エチオピア連邦政府軍による北部ティグレ州(同州政府を率いるティグレ人民解放戦線(TPLF)への軍事侵攻(11月5日)は、スーダンへの多数の難民流出(過去20年で最悪の1日当たり4000人規模の強制移動/UNHCR)やTPLFと対立関係にあるエリトリアの軍事介入を誘発しており、もはや内戦の域を超えて、「アフリカの角地域」全体に大きな影響を及ぼす国際紛争に発展しつつある。EEPA(事務局長:ミリアム・ヴァン・ライゼンINPS顧問)では、エチオピア連邦政府による厳しい情報封鎖下にある流動的な情勢の中で、国境を越えて逃れてきた難民や人道支援団体、外交筋、市民社会等から収集した最新状況報告(情勢を把握するための参考資料として、各種報道や発表と比較チェックすることを勧めている)を、11月9日以来随時IDNを通じて配信している

軍事状況

エチオピアと難民が多数流入しているスーダン間の緊張が高まっている。スーダン政府は急速支援部隊と装備をエチオピア国境地帯に派遣した。(エチオピア・エリトリア国境に近い)カッサラ州、ガダーレフ州のバニアメール族とアルハブ族が食料・資金支援を行う。現在、スーダンとエチオピア間の交渉は中断したままになっている。

Tigray Province and the map of Ethiopia/ Nationalnews.com

3人のエジプト政府関係者と欧州の外交官の証言によると、アラブ首長国連邦(UAE)がエリトリアのアッサブに保有する軍事基地からエチオピアのティグレ州に対してドローン攻撃を行ったという。ベリングキャット(ファクトチェックとオープンソースインテリジェンスを専門とする調査ジャーナリズムのウェブサイト)は、エリトリアのアッサブ基地に中国製のドローンが配備されていることを確認している。

報道によると、エジプトはトランプ政権の仲介で9月に国交樹立したUAEとイスラエル間の関係強化の動きを憂慮している。とりわけ両国がスエズ運河に代わるルートをイスラエルのハイファから建設するのではないかと危惧している。

報道によれば、エジプトはスーダンに対してティグレ州のTPLFを支援するよう働きかけている。エジプトは、同じくエチオピアの下流に位置する国として影響を受けるスーダンに対して、グランドルネッサンスダムを巡るエチオピアとの交渉で足並みを揃えられるよう関係強化を志向している。

報道によるとスーダン当局はアムハラ人特殊部隊と共にスーダン国境地帯で戦っていたアムハラ民兵の軍服を着たエリトリア兵を捕虜にした。

外交筋によると、「数千人規模の」エリトリア兵がティグレ州内で作戦に従事している。2人の外交官が、エリトリア兵がエチオピア北部国境の街ザランベッサラマバドメの3か所からエチオピアに侵入したと述べている。

Map of Eritorea

報道によると、ティグレ州の小さな街エドガ・ハムスでエリトリア兵による住民虐殺事件が起こった。犠牲となったのは聖職者と教会に避難していた女性達を含む約150人。マリエアム・デンゲラートと周辺の村々(マイメゲルタ、デンゲラート、ツァア、ハンゴダ)は、エリトリア軍の支配下にある。兵士達は家畜を殺害し、地元民らが餓死している。

ティグレ州の州都メケレの住民と情報集に当たっている2名の外交官によると、メケレ市内でエリトリア兵が確認されており、中にはエリトリア兵の制服を着ている者もいれば、エチオピア連邦軍の制服を着ている者いたが、「いずれもエリトリア語訛りでティグリニャ語を話していたほか、ライセンスプレートがないトラックを運転していた。」

エチオピア連邦政府軍がスール社(エチオピアの建設会社)を略奪し略奪品をアジスアベパに運んでいるとする複数の報告がなされている。

アディグラトでは、アディス薬品工場を略奪から守ろうとした助祭と15人の民間人がエリトリア軍の兵士とエチオピア連邦政府軍の兵士に殺害された。

国際的な動き

コリー・ブッカー上院議員(ニュージャージー州/民主党)とトッド・ヤング上院議員(インディアナ州/共和党)は、共同声明を発表しその中で、「アビー・アハメド首相は軍事作戦は完了したと主張しているが、エチオピア紛争は未だに終結からは程遠い状態にある。我々は、ティグレ州内のエリトリア難民(難民キャンプ4か所に約96,000人が暮らしていた)がエリトリア軍によって殺害、拉致、強制送還されているという報告や、より安全な地域に逃れようとする人々が足止めされているとする痛ましい報告に、深く憂慮している。」と述べた。両上院議員はまた、「紛争の国際化は米国の利益を脅かすもの」と指摘したうえで、エチオピアに対して公約を順守するよう求めた。」

米国家安全保障会議のキャメロン・ハドソン元アフリカ担当ディレクターは、「ティグレ州におけるエリトリアの関与を公に語ることについては、戦略・戦術面の配慮から、米国政府内で意見が分かれている。」述べた。

エリトリアのイサイアス・アフェウェルキ大統領の力は弱まっており、TPLFの排除に成功すれば、将軍たちはイサイアス大統領を排除してエリトリアとエチオピアの「統合」(エチオピアに紅海の港へのアクセスを確保)に動くと分析する専門家の見方が報じられている。

欧州連合(EU)は、ティグレ州は周辺地域を不安定化する人道的大惨事の瀬戸際にあると述べた。EUはこの地域に向けた人道支援資金を12月19日に2370万ユーロ増資した。EUの人道支援はエチオピア、ケニア、スーダンに対して実施される。

アントニオ・グテーレス国連事務総長の副報道官は、ティグレ州では多くの民衆が全く支援を受けられておらず、いくつかの援助団体による支援も制限を受けていると述べた。国連は引き続き、民衆が戦闘の影響を受けているあらゆる地域に「迅速かつ自由なアクセスが確保されるよう求めている。」

ティグレ州の状況に関する報道

ティグレ州の首都メケレは、警察とTPLF不在により無法地帯と化している。特に若者らがエチオピア連邦政府軍兵士らの標的となっている。

メケレでは、電気と電話線が断続的に繋がるものの、ティグレ州の大半の地域では繋がらない。インターネットは依然として使えない状況が続いている。

公務員はティグレ州の臨時政府により職場に戻るよう指示されているが、出勤するものはほとんどいない。

ティグレ州の住民の多くが、食料、水、現金、電気、電話へのアクセスができていないと指摘する国連報告書が公開された。

アディグラトのテスファセラシエ・メディン司教は、自宅で安全が確保されていることが報じられた。駐エチオピア教皇大使であるアントワーヌ・カミレリ大司教は、教区における戦闘が激しくなったために集会を欠席していたメディン司教との連帯を表明していた。

エチオピア情勢(ティグレ州以外)に関する報道

引き続き、ティグレ人を対象にした人種選別が行われている。首都アジスアベバ在住の著名なティグレ人活動家や弁護士が19日にエチオピア警察に逮捕された。また、ティグレテレビ局の元職員やティグレ系聖職者らも逮捕されたと報じられた。先週、エチオピア航空に勤務するティグレ人1名も逮捕された。(原文へ

INPSの顧問を務めるミリアム・ヴァン・ライゼン 欧州政策アドバイザーが率いるEEPA(Europe External Programme with Africa) はベルギーを拠点とするシンクタンク。エチオピア、エリトリア、ケニア、ジブチ、ソマリア、スーダン、南スーダン、ウガンダを含むアフリカ諸国の専門家、大学、市民社会組織と協力して、アフリカの角地域における平和構築、難民保護、レジリエンス強化に取組んでいる。また、アフリカの角地域及び地球海中部ルートにおける難民の移動及び人身売買問題に関する報告書を出版している。

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EEPAアフリカの角地域状況報告特集ページ

グローバルサミットでバイオエコノミーへの移行を提唱

*「バイオエコノミー」とは、生物資源(バイオマス)やバイオテクノロジーを活用して、天然資源枯渇、気候変動、少子高齢化、食料安全保障など、人類が直面する地球規模の諸問題を解決し、長期的に持続可能な成長を目指す概念であり、第5次産業革命とも言われる社会構造改革の原動力である。そのアウトプットは2030アジェンダ(SDGs)のほぼ全ての項目を網羅している。

【ベルリンIDN=リタ・ジョシ】

グローバル・バイオエコノミー・サミット2020」(11月16~20日)がベルリンで開催され、参加者らは、危機的な脅威に直面している地球環境の現状や、科学の進歩が可能にした様々な機会、さらには新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的な大流行(パンデミック)がもたらした甚大な影響を踏まえて、バイオエコノミーへの移行の必要性を訴えるコミュニケ(共同声明)を発表した。同サミットは、世界各地から参画した約40人の先導的なバイオエコノミーの専門家から成る「国際諮問委員会」(IACGB)が開催したものだ。声明は、「(移行時期について)これほど緊急性を帯びている時はない。」と指摘している。

3回目となる今年のサミットは、COVID-19の影響でオンライン開催(1000人以上が視聴した)となったが、政府・産業界・学術界などから主要な利害関係者が参加した。サミットの目的は、世界中で持続可能なバイオエコノミー政策を展開していくために、忌憚なく話し合いができるプラットフォームを構築することにあった。4日間の会期中、参加者らはバイオエコノミー政策と、世界の持続可能な開発や気候問題との密接な関連について協議した。

国際諮問委員会は当初、2015年の「第1回グローバル・バイオエコノミー・サミット」を支援するために発足し、サミットのプログラム作りを担当してきた。諮問委員会のメンバーは、帰属する政府や組織を代表するのではなく、専門家として個人資格で活動している。現在は非公式なメカニズムだが、専門家のシンクタンクとして信頼性と正当性を獲得しており、さらなる発展に向けて積極的な取り組みを行っている。

Global Bioeconomy Summit 2020

今回の声明は、「バイオエコノミーは、供給サイドでは産業や製造部門で、また、需要サイドでは消費の変革や廃棄物の削減といった分野において、影響力が強い変革の力として頭角を現してきた。」と強調している。実際、近年、世界各国において、地域の実情に応じてバイオエコノミーの実現に向けた産業育成が政策的取り組みとして進められている。

また、バイオエコノミーが人間や地球にもたらす全般的な貢献を3つ指摘している。第一は、コロナ禍、さらにポストコロナの時代において社会を復活させるための主たる要素として、人間の健康や幸福に貢献するバイオエコノミーの側面。第二に、持続可能なバイオエコノミーを前進させる科学的・技術的なブレイクスルー(躍進)。第三に、持続可能なバイオエコノミーに伴い、それをめざす気候関連の行動や生態系、生物多様性の保護である。

さらに声明には、「グローバルで持続可能なバイオエコノミーへのビジョン」という文書が付属している。ビジョンでは、「バイオエコノミーは、持続可能な経済成長を基盤とした経済システムを追求し、資源の消費を減らし、生態系を保護し再生することで、人間や地球の状態をよりよいものにする。生物資源や生物学的プロセスに価値を与えるべく科学を利用することで、バイオエコノミーは、再生可能性や循環性といった原則を取り込む。」と強調している。

さらに、バイオエコノミーは、人間と自然のニーズを調和させることも目的としており、今日の経済システムよりも遥かに優れたシステムを追求する。すなわち、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」や17項目の持続可能な開発目標の達成を目指すシステムであり、人間の幸福や社会的不平等を改善し、資源消費を減らして生態系の回復を図ることを目的とした、持続可能な経済成長を基盤とするシステムである。

「ビジョン」は、バイオエコノミーの活動は経済・社会・生態系のレジリエンスを高め、都市と農村社会がたとえ経済危機に見舞われても、苦境を切り抜けることを可能にする、と明言している。グローバルで持続可能なバイオエコノミーは社会のあらゆるレベルを包含し、全ての人々の生活の質を向上させる一方、経済成長に対する生物物理的な限界を尊重するものである。

Sustainable Development Goals affected by bioeconomy activities. Blue arrow: socioeconomic targets; green arrow: ecological targets; red arrow: clean industry and economic targets./ by Tobias Heimann

また、自然はバイオエコノミーにおける最大のインスピレーション源であると指摘している。生物は、貴重な再生可能な物質であり、エネルギー源となるだけではなく、自然のサイクルやシステム、プロセスに関する重要なノウハウを提供する。生命科学は、新たな高価値の解決策や応用策を生み出すために、自然界の生物のこうした特徴や能力、機能を探求する学問である。

「現在、多くのバイオイノベーションが依然として初期段階にあるが、すでに、社会や健康、生態系に明確な利益をもたらす前途有望な解決策を示しつつある」とビジョンは指摘している。

ヘルスケア部門における先進的な事例としては、例えば、がん免疫療法や生分解性インプラントやセンサー、バイオプリンティング器官など、生物学的療法がなされている。

繊維・ファッション業界では、バイオイノベーションが持続可能な素材とプロセスに貢献している。例えば、バイオ技術を用いて大量生産が可能となったクモ由来の新素材「スパイダーシルク(柔らかくしなやかで、鋼のように強い)」や、バイオ技術による防水加工、染色、洗濯プロセスなどである。

IT部門では、高度に効率的なデータ貯蔵のためのDNAテスト(DNAストレージ)がすでに成功しているし、大気汚染を測定する装置に培養細胞が組み込まれるようになった。食料・飼料産業におけるバイオイノベーションは、善玉菌を含んだ健康食品や、菜食主義者向けに開発されたタンパク質オプション(大豆由来の代替肉等)、廃棄食品から生まれた高価値の産品(農業廃棄物由来のバイオプラスチック)を生み出している。さらに、微生物を使った肥料のように、農業に対する解決策、動物の飼料となり人間の健康にも貢献することを目的とした、肥満と非感染性疾患対策の解決策も開発されている。

産業部門では、合成生物学や微生物工学がプラスチックや鉄に替わる生体材料につながるだけではなく、より持続可能な製造プロセスを刺激してきた。バイオテクノロジーとそれに関連した技術の収斂が、持続可能な開発を推し進め、革新的なスタートアップ企業の立ち上げや、グローバルなパートナーシップを通じた雇用創出を加速する潜在能力を大いに発揮している。

今回のサミットでは、ドイツのアンヤ・カルリツェク教育・研究相が冒頭で登壇し、同じくドイツのユリア・クロックナー食料農業相が、持続可能なバイオエコノミーにおける農業と食料システムの重要な役割を強調した。

国連食糧農業機関(FAO)屈冬玉事務局長は、技術と社会的インパクト、倫理を結びつける必要性と、複数の利害関係者から構成されるプラットフォームとしての「グローバル・バイオエコノミー・サミット」の意義を強調した。

Joachim von Braun/ Global Bioeconomy Summit 2020

ドイツ政府がサミットを主催・支援し、東アフリカ、ASEAN(タイが代表)、EU委員会、ラテンアメリカ・カリブ海地域、日本が公的パートナーとなった。これらの地域や国々の同サミットへの貢献は、この動きがいかに世界的なものであるかということ、そしてバイオエコノミーがいかに多様なものであるかを示していた。

「バイオエコノミーは、地域で応用され、グローバルにつながっているものです。人々がバイオエコノミーを地域のニーズと状況に応用していることには感心させられます。」と国際諮問委員会の共同議長であるホアキム・フォン・ブラウン教授は語った。

バイオエコノミーが持つ多様な側面は、サミットのサイドイベントとして開催された「バイオエコノミー若者大使ワークショップ」にもよく表れていた。このワークショップは、若い世代がそれぞれの国で地域のバイオエコノミーの概念をいかにして形成するか、それを成功に導くのに必要な前提条件は何かについて活発に話し合う出発点となった。

8人の「バイオエコノミー若者大使」の一人である米国のロニット・ランガー氏は「より良い未来を実現するために優れた政策が必要であることを若い参加者が深く理解していること、そして、今日我々がいる場所から未来へ向かってどう進んでいくかについて人々がビジョンを持ち寄ったことに感銘を受けました。」と語った。(原文へ)|フランス語 |

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【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

世界各地のメディアは、イスラエルとモロッコ間の外交関係樹立をトランプ政権の外交努力による「歴史的な快挙」として喧伝しているが、両国は数十年に亘って密接な関係を築いており、協力分野は、諜報・軍事分野から野党指導者の暗殺まで含むものだった。

ニューヨークタイムズ紙の最近の報道によると、モロッコは少なくとも過去60年間に亘ってイスラエルから高性能兵器や諜報活動機器の提供及び使用訓練を受けてきた。モロッコはそれと引き換えに、1967年の6日戦争(第3次中東戦争)ではイスラエルの勝利に貢献したとされている。また、アメリカ同時多発テロ前の時点で、失敗に終わったものの、イスラエルの諜報機関(モサド)によるオサマ・ビンラディン暗殺の試みを支援したと報じられている。

Map of Morocco

イスラエルで最大の発行部数を持つ日刊紙「イェディオト・アハロノト」のルポライターであるローネン・ベーグマン氏は、このようにイスラエルが共通の利益や敵が存在する場合にアラブの政権とも秘密裏の繋がりを構築する協力関係を「周辺戦略(periphery strategy)」と説明している。

1961年にハッサン2世がモロッコ国王に即位するとイスラエルとの2国間関係はまもなく好転した。国王は国内ユダヤ人のイスラエル移住を禁じた従来の政策を転換。イスラエルはその見返りに、諜報員を通じて野党党首メフディー・ベン・バルカ氏による国王追放の陰謀を伝えた。ベン・バルカ氏はフランスでモサド工作員により殺害されたとみられているが、遺体が発見されることはなかった。

1965年、ハッサン国王は、モサドが来訪中のアラブ指導者との会議や宿泊先に盗聴することを許可した。これにより、イスラエル政府は極めて重要な情報を入手することが可能となり、2年後に6日戦争が勃発した際には、こうした情報がアラブ軍の侵攻を回避し撃破するうえで役立ったとされている。

イスラエルとモロッコは長年に亘って同盟関係を維持してきたが、1999年に即位したムハンマド6世は、未解決の西サハラ問題(1975年に旧宗主国のスペインが去ったあと、モロッコが軍事侵攻して西3分の2を実効支配中。東部の砂漠地帯に追われた地元住民は亡命政権サハラ・アラブ民主共和国を樹立して抵抗中。亡命政権は国連には加盟してはいないが、アフリカ・中南米諸国を中心に承認されており、アフリカ連合にも加盟してる。一方、欧米や日本などの先進諸国は、モロッコとの関係上からサハラ・アラブ民主共和国を国家としては承認していない。)に不満を露わにしていた。国王は国際社会の反対を押し切って領地奪回を決意し、今年11月にモロッコと亡命政権による実効支配地の中間に国連が設けた緩衝地帯に軍を侵攻させた。これにより停戦の終了が宣言される局面もあったが、現在のところ本格的な戦争には至っていない。

Map of states which have recognized independence of Sahrawi Arab Democratic Republic. The information is taken from en:International recognition of the Sahrawi Arab Democratic Republic

(上記地図:青色:サハラ・アラブ民主共和国の実効支配地域。緑色:サハラ・アラブ民主共和国を承認している国。赤色:承認を撤回した、もしくは凍結している国。灰色:未承認の国。)

Photo: U.S. Secretary of State Mike Pompeo speaks with Benjamin Netanyahu, the Prime Minister of Israel, in Tel Aviv, on 29 April 2018. (State Department photo by Ron Przysucha / Public Domain).

国連決議が、西サハラ人民の「民族自決権」を認め、モロッコによる占領状態に「深い懸念」を表明しているにもかかわらず、トランプ政権は12月10日、モロッコ政府がイスラエルを「承認」することと引き換えに、西サハラにおけるモロッコの領有権と認める宣言に署名した。退任直前になされたトランプ大統領のこの「業績」は、物議を醸している。

戦略国際問題研究所アフリカ所長のジャッド・デヴァーモント氏は、トランプ大統領が発表したいわゆる「歴史的な快挙」に異議を唱えている。「米国はイスラエル政策で短期的な勝利を優先するあまり、アフリカ諸国に対して公正さを欠く外交を進めている。今回の決定は、早速多くのアフリカ諸国に問題をもたらすことになるだろう。」とデヴァーモント所長は語った。(原文へ

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「世界と議会」2020年秋冬号(第586号)

特集:咢堂塾・特別講義録

◇「咢堂塾」発足22年を迎えて
◇「渋沢栄一と論語」/長峯基
◇「地方政治と日本の未来」/北川正恭
◇「地方自治を取り戻すただ一つの道」/高橋富代

■歴史資料から見た尾崎行雄
 第4回「尾崎行雄日記と「唐様で売家と書く三代目」」/高島笙

■連載『尾崎行雄伝』
 第十六章 東京市長

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 軍縮に向けた議会の行動に関する新たなハンドブック発行

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。

ジスカールデスタン大統領とボカサ一世のダイヤモンド

【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】

12/2に逝去した故ヴァレリー・ジスカールデスタン元フランス大統領と中央アフリカ帝国(現中央アフリカ共和国)のボカサ一世の黒い関係に焦点を当てたジョナサン・パワー(INPSコラムニスト)による視点。冷戦の最中、ジスカールデスタン大統領は反共産主義を掲げていたボカサ独裁政権を支持し、個人的な友好関係(ダイヤモンド等の収賄やボカサが用意した個人的な狩場での休日等)も育んでいたが、国際人権擁護団体により人権侵害(デモに参加した約100名の子どもを含む400名を虐殺)の実態が明るみに出て国際世論から批判を受けると、態度を一変して軍事介入し、ボカサ政権を崩壊させた。(原文へ

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国連事務総長が警鐘:「自然に対する戦争」は「自殺的」

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=フォルカー・ベーゲ 】

「地球の状態は壊れている」。これは、人類が今日陥っている状況を端的にまとめた国連事務総長の言葉である。12月2日、世界の気候変動非常事態と環境の劇的劣化についての講演の中で、気候と環境が現在直面する危機の深刻さを示す最も重要な事実をいくつか挙げている。「この10年間は、人類の歴史上最も暑い10年間だった」、「二酸化炭素濃度は依然として記録的に高く、さらに上昇している」、「今世紀、われわれは摂氏3~5度という途方もない気温上昇に突き進んでいる」、「いつものことだが、最も深刻な影響を受けるのは世界で最も脆弱な人々である。問題を引き起こすようなことを最もしていない人々が最も苦しんでいる」。「われわれが気候の大惨事にいかに近づいているか」を示すこれらの事実に注意を引くことによって、グテーレス事務総長は国連加盟国がより断固とした行動を起こす必要があることを強調するとともに、パリ協定5周年の日である12月12日に国連、英国、フランスがオンラインで共同開催した「気候野心サミット」への布石を打とうとしたのである。このサミットで事務総長は、世界中のすべてのリーダーに気候非常事態を宣言するよう求めた。(原文へ 

平和研究者および平和構築者の観点から見ると、グテーレス事務総長が気候危機を紛争と平和に明確に関連付け、気候危機は「平和のための取り組みをいっそう困難にする。なぜなら、この混乱が不安定化、避難民化、紛争に拍車をかけるからである」と述べている点が興味深い。これにより彼は、気候変動は“脅威の増幅要因”という主流的見解を追認している。すなわち気候変動に関連する(暴力的な)紛争は、国内レベルから国際レベルまでさまざまな規模で、平和と安全保障上の重要な課題となっているということである。実際、気候変動に起因する避難民化は、特に避難民と受け入れ側のコミュニティーの対立のような紛争を引き起こしやすいことが分かっている。

しかし平和研究者および平和構築者の観点から見てさらに興味深く、また、気候変動/平和/安全保障をめぐる言説に新たな視点をもたらす要素は、事務総長が目の前の問題を人間と自然の関における戦争と平和という枠組みで捉えたことである。「人間は自然に対して戦争を仕掛けており」、それは「自殺的」だと述べた。それに基づき「自然と和解することは、21世紀を決定付ける課題である」と宣言した。このような自然との和解は「すべての人、すべての場所にとって最優先課題」でなければならないとグテーレス事務総長は述べた。目標は、「自然と調和して生きる道筋に世界を導くこと」でなければならない。

国連事務総長が、「自然」、そして自然と「調和して」生きる必要性を議論の中心に置いたことは、もちろん大いに称賛に値する。真剣に受け止めれば、これは、そもそもわれわれを気候の大惨事に向かわせた世界観や考え方からの根本的な転換である。しかしその一方で、上に引用した言葉に表れている思考の流れは、依然として“世界”や“人間”を“自然”と切り離しており、“自然”を人間に尽くすものとして捉えている。「自然は、われわれに食料を与え、衣服を与え、渇きを癒し、酸素を作り、われわれの文化や信仰を形成し、まさにわれわれのアイデンティティーを作り上げている」。確かにそれは真実であるが、同時に、二元論的、人間中心主義的世界観を具象化している。それは、過去何世紀にもわたって圧倒的に支配的で、また、国連システムの根底にあり、気候危機の原因の根底にもある世界観である。

これ以外にも、世界における在り方、世界に関する考え方はある。それらは今日、世界規模できわめて周縁化されているが、それでもなお、気候危機を脱する道を模索するにあたって検討するだけの価値があるものだ。グテーレス事務総長は講演の中で、気候危機という文脈においては先住民族と在来知が重要であると強調し、正しい方向性を示した。「先住民族が住んでいる土地は、気候変動と環境劣化に対して最も脆弱な土地に含まれていることを考えると、今こそ彼らの声に耳を傾け、彼らの知識に報い、彼らの権利を尊重するべきである」。そして「何千年にもわたって自然と密接かつ直接的に接触する中で集約されてきた在来知は、道を指し示すために役立つだろう」

実際世界各地の先住民族は、グテーレス事務総長の講演に今なお染み込んでいる、世界中で支配的な世界観に対して異議を唱えている。彼らは人間を自然から切り離された存在とも、自然を支配する存在とも考えておらず、関係性に応じて自然に組み込まれる存在と考えている。このような考え方に基づけば、気候危機に対する人間中心のアプローチを克服し、人間と人間社会を関係性に応じて理解するアプローチを推進することができるだろう。それは他の人間との関係性だけでなく、人間以外の存在(「自然」)との関係性である。“人類”を脱中心化することによって、「自然と和解する」新たな道筋を切り開くことができるだろう。それは、国連の文脈において非常に影響力を持っている“人間の安全保障”という進歩的概念さえも超越していく道である。“人間の安全保障”はなおも区分を作り、自然と社会の分断を具象化し、人間を創造物の頂点として概念化している。

最後に、国連事務総長は「体系的な適応支援は……特に存続の脅威に直面している小島嶼開発途上国にとって緊急に必要である」と表明した。実際、ツバル、キリバス、マーシャル諸島のような小さな太平洋島嶼国を見ると、上記の問題すべてが合体している状況である。これらの国々は気候非常事態の原因となることをほとんど何もしていないにもかかわらず、海面上昇、自然災害、食料と水の不安定など気候変動による影響に際立って脆弱であり、深刻な影響を受けている。これらの国々の国民にとって気候変動に起因する避難民化は緊急の問題となっており、気候変動の経済的、社会的影響に起因する暴力的な紛争は、生計、福利、安全を脅かしている。同時に、太平洋諸島の人々は豊かな在来知を持っている。それは彼らの世界における在り方や世界観に根差したものであり、人間と自然の分断や、気候非常事態への取り組みにおける世界的に支配的なアプローチに内在する人間中心主義を超越するものである。彼らの脱人間中心主義的な、関係性に基づく振る舞い方や考え方はまさに「道を指し示すために役立つだろう」。

そのため、太平洋島嶼国における平和研究や平和実践に焦点を当てるだけの多くの十分な理由がある。

フォルカー・ベーゲは、戸田記念国際平和研究所の「気候変動と紛争」プログラムを担当する上級研究員である。ベーゲ博士は太平洋地域の平和構築とレジリエンス(回復力)について幅広く研究を行ってきた。彼の研究は、紛争後の平和構築、混成的な政治秩序と国家の形成、非西洋型の紛争転換に向けたアプローチ、オセアニア地域における環境劣化と紛争に焦点を当てている。

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョージ・パーコビッチ 】

核兵器禁止条約(TPNW)を批判する者も支持する者もほとんど注意を払っていないが、この条約には過去および将来起こり得る核兵器の爆発に対する法的責任を定める条項がある。条約は個々の締約国に対し、特に「核兵器の使用または実験により被害を受けた締約国に、技術的、物質的、財政的支援を提供する」こと、そして「核兵器または他の核爆発装置の使用または実験の被害者に支援を提供する」ことを求めている(第7条)。ここに述べられている被害者とは、核保有国の決定に対する発言権も、決定による利益もない非交戦国かもしれない。(原文へ 

核兵器使用による被害の補償を軽視することにより、各国政府は核兵器がもたらす危険という問題から安易に逃げ続けている。このような姿勢は、多くの国が抱いている「核抑止に依存する国は、そうでない国に対して共感を持っていない、他国の指導者の罪なき人質として生きることがどういうことか分かっていない」という感覚を裏付けるものである。そのような共感性の欠如は、世界の核秩序の根底にある不正義にさらに追い打ちをかける。1970年の核不拡散条約の下では、5カ国が核兵器の保有を認められ、それ以外の国は認められていない。

核軍縮は、これらの問題を解決する一つの方法である。しかし、たとえ核兵器保有9カ国すべてが核兵器を放棄することに同意したとしても(今のところそのような気配はまったくないが)、核軍縮を実施するには長い年月を要する。核兵器が廃絶されるまでの間も、武力衝突が大量の犠牲者を出す核戦争へとエスカレートするという大惨事を防ぐために何らかの核抑止を維持する必要が出てくるだろう。法的責任の問題がより大きく注目されれば、核兵器保有国の間で自制と抑止が強化され、TPNWの擁護派からも批判派からも評価が得られるはずである(これらの問題について詳しくは、Journal for Peace and Nuclear Disarmament(「平和と核軍縮」)に掲載された筆者の論文を参照されたい)。

使用後責任に目を向けることを批判する人々は、核兵器保有国がTPNWに署名および批准することはないのだから、結局、義務も生じないと主張するかもしれない。しかし、この点は、核兵器禁止条約の考え方の欠点ではなく、目玉である。核兵器保有国が核兵器を放棄したくないというのであれば、少なくとも、彼らが国民や環境に害を及ぼすかもしれない国々を支援する気があるかどうかを明言するべきである。核兵器保有国は、自らを防衛主体の責任ある国家であると表明し、少なくともそのうちの一部の国は核兵器の使用は限定的なものにできると主張している。それならば、彼らはなぜ、非交戦国に与え得る害を是正することに反対しなければならないのだろうか?

これらの国々が自国の核兵器使用による被害者に技術的、物質的、財政的支援を提供する責任を拒めば、核軍縮を求める世界の声はますます大きくなる。また、核兵器の使用は限定的なものにとどめられるという自国や他国の国民への主張も揺らぐことになる。核兵器使用の影響は必ずしもそれほどひどくないというのなら、なぜその使用した結果を受け止めようとしないのか?

責任を受け入れるという国々は、誓約した支援をどのように実行するかを説明し、そのために用意した人的、財政的資源を示すよう(繰り返し)求められるかもしれない。生じ得る損害の大きさと、その結果必要となる支援の規模は、使用する核兵器の想定される数、爆発出力、標的によって決まる。また、核兵器の種類や数、および標的設定計画に伴うリスクについて国際的に議論することで、最も高いリスクの低減に注力することができるだろう。

使用後責任という概念に対するもうひとつの反応は、「馬鹿げている、どうせみんな死ぬんだから」である。核軍縮論者も核抑止論者も、同じようにこれを言う。軍縮論者は、ある標的に対して、ある数、あるタイプの核兵器を使用すれば、人道的、環境的大惨事をもたらさずに済むという考え方を信じていない、あるいは認めることができないからである。抑止論者は、限定核戦争を想定することは核兵器使用に対する自制を緩め、ひいては抑止力を弱める、あるいは、国家を核による反撃戦というきわめて高コストで不安定な道に進ませると考える人々がいるからである。国際的責任、外国人への支援、環境修復のための支出、という考え方が概して好きではないという人々もいる。

核爆発がもたらし得る破滅的な影響に焦点をあてることは、多くの非核兵器保有国、さらには核兵器保有国の一部同盟国においても市民社会の注目を集めている。しかし、核兵器保有国が国民に対し、核兵器はそれを使わなくても済むように戦争を抑止するものなのだ、と言い聞かせて軍縮(そしてTPNW)への圧力をそらすことはあまりにも容易である。抑止は機能するのか、核兵器のあらゆる使用が人道的大惨事をもたらすのかについて勝者なき論争を展開するよりも、保有国がその核行動の結果を(もし生き残っていれば)修復することに責任を取るつもりがあるか否かを知るほうが、国際社会にとっては明確さが得られるだろう。

この問題について(可能な国では国内で、すべての国にとっては世界で)議論することは、多くの人にとって、核兵器そのものに関する論争より包括的で興味深いものとなるだろう。また、核使用の影響に対する責任を問い続けることによって、各国の指導者たちは核軍縮が進捗しない責任は自国と敵対国のどちらが重いかを議論するよりも、真剣さと自制を示さざるをえなくなるだろう。たとえTPNWの核軍縮目標が達成されなくても、条約にある責任を定める条項がそれにふさわしい大きな注目を集めるのであれば、十分に役立っているといえるだろう。

ジョージ・パーコビッチは、ワシントンDCのカーネギー国際平和基金でケン・オリビエおよびアンジェラ・ノメリーニ寄付講座教授および研究担当副所長である。彼は、Abolishing Nuclear Weapons: A Debate (2009)の共同編集者であり、直近では “Toward Accountable Nuclear Deterrents: How Much is Too Much?” という論文を執筆した。

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【ダルエスサラームIDN=キジト・マコエ】

注いだカップから豊饒な香りが立ちのぼるジンジャーミントティーの味ほど、素晴らしいものはない。ダルエスサラームにある「ソルト・レストラン」の客なら誰でもわかることだが、この美味な飲物はお金で買える最高の楽しみと言えるだろう。

緑豊かな高級住宅地オイスターベイに佇むしっとりとした雰囲気の外観と荘厳なフランス風建築を誇るこのレストランは、多くの紅茶愛好家を引き寄せている。

絶妙な味付けをしたジンジャーティーは、ミルクや砂糖、あるいはレモンを加えても、プレーンのままでも、絶品だ。

Map of Tanzania

茶葉の育て方や加工の仕方によって味が変わるこの濃い色の飲み物は、街の一流ホテルからショッピングプラザ、田舎のスーパーマーケットに至るまで、人々の生活に浸透してきている。

顧客はしばしば、微かに謎めいた感覚に捕らえられながら、驚きをもってお茶を嗜む。タンザニアのティーブレンダーが作った最高級ティーブランドがどんな味なのか、想像もつかないからだ。

スワヒリ語で「私たちの仕事」を意味する「カジ・エトゥ」(Kazi Yetu)は、タンザニア産茶葉に価値を付加することで、巨大な農産物バリュー・チェーンの中で、女性に仕事と経済的機会を与えている新興企業だ。

この会社は、フェアトレードで調達した茶葉を加工・調合・包装・輸出する企業で、タンザニア経済に貢献している。

アフリカの農産品は海外で加工・調合・包装されることが多いが、タンザニアを含めた原産国が必ずしもスケール・メリットを享受できているわけではない。

起業家のタヒラ・ニザリ氏(32)と、彼女のビジネス・パートナーであり夫でもあるヘンドリック・ブールマン氏は、こうした現状を覆す取り組みに挑戦している。

アフリカ東部と南アジアで非営利開発部門を経済的に包摂する開発機関で働くなど、申し分のない学歴と豊かなビジネスの経験をもつニザリ氏は2018年、意欲的なビジョンを持って「カジ・エトゥ」を立ち上げ、付加価値を通じてアグリビジネスの経済的潜在能力を引き出すべく奔走してきた。

Tahira Nizari/ Kazi Yetu

ニザリ氏が言うところの「追跡可能な製品」を生産する女性従業員だけの「カジ・エトゥ」の工場は、ダルエスサラームにあり、いわば活動の中心拠点になっている。

ニザリ氏は、地域と世界両方のレベルで綿密な市場調査を行って機会を把握し、タンザニアの農民のネットワークと関係を築くことで、地元の味のアクセントを利かせた主力商品「タンザニア・ティー・コレクション」の7つのブレンド商品を提供している。また、持ち前の鋭い感性で、同胞の多くが気づいていないような農業分野に多くのチャンスがあるとみている。

「タンザニアの若い人は農業で起業することにあまり魅力を感じていないようだけど、私たちは、利益も上がる農業のバリューチェーンに沿って新しい機会を創出しています。」とニザリ氏は語った。

そして、その優れたコミュニケーション能力と、官民両部門の地元のパートナーとの垣根を越えた交流によって、女性を貧困の苦しみから救い出す収入創出の機会を生み出そうと努力している。

「カジ・エトゥ」は、社会的企業として、新興のアグリビジネスとパートナーを組み、パッケージやブランディング、マーケティングを通じて価値を付与し、機会を創出して、国際市場とつながっている。

小規模農家や女性起業家の生活を変革し、収入向上をはかるニザリ氏とブールマン氏の仕事は、事業を始めた時から、将来に向けての明確なビジョンを持っていた。

「私たちは、投資と成長を持続可能な形で加速するような社会的企業を作りたかった。」とニザリ氏は振り返る。

「カジ・エトゥ」は、消費者の幅広い需要を満たすために、タンザニア全土の農家から倫理的に調達(エシカルソーシング)した茶葉にハーブを配合した様々なブレンド茶を製造している。

「世界の消費者は、商品がどのように作られ、サプライチェーンの中で商品が人々にどのように影響を与えているのかを知りたがっています。」とニザリ氏は語った。

彼女によれば、今年初め発生した新型コロナウィルス感染症の拡大で、会社や物流、消費者、施設が悪影響を被り、ほとんど倒産寸前まで追い込まれた。2020年度はほとんどの期間で、観光客がタンザニア行きの旅行をキャンセルしたからだ。

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

「4月には、工場を一時的に閉鎖して、安全を確保するために従業員たちを自宅待機にせざるを得ませんでした。また、ほとんどの国の政府が渡航制限とロックダウンをかけていたため、空路と海路で商品を輸出することが物流面で困難になりました。」とニザリ氏は語った。

資金繰りが悪化し、物流面で困難をきたしたにも関わらず、その後「カジ・エトゥ」の活動は徐々に回復した。

会社は現在、欧州市場を主に念頭に置いて、ドイツでオンラインストアを経営している。ニザリ氏は、オンライン消費者の反応はきわめて良好と感じており、オンライン販売に期待を寄せている。

「欧州の消費者を開拓できるのは嬉しいし、事業は北米や中東にも拡大しつつあります。」と彼女は語った。

「カジ・エトゥ」は、ドイツにある支社を通じて、同じような意志を持つ社会的企業と連携し、価値を創出してアフリカのマーケットに進出しようとしている。

彼女のビジネスパートナーやサプライヤーの間で高まるニーズを把握し、それに応えるために、「カジ・エトゥ」は、協力者に対して、有機農業の原則にこだわった教育訓練を提供している。

「私たちは農家と協力して、彼らの特定のニーズを把握し、ビジネスの拡大に寄与しています。」と語った。

彼女の会社は、例えば、食用ハーブの乾燥に太陽光をエネルギー源とする乾燥機を必要とする北部キリマンジャロ地域の小規模農家を支援している。

「私たちは太陽光乾燥機の設置を支援し、相手は分割で返済しています。」とニザリ氏は語った。

「カジ・エトゥ」は、ダルエスサラーム市内に貯蔵・製造・包装のための施設を複数持ち、12人の女性従業員を雇っている。

「お茶の包装機械を導入して、農家からの購入量を増やし、女性にもっと職を与えたいと考えています。工場では2022年までに女性を65人雇い、取引先の農家も7500戸まで拡大したい。」とニザリ氏は抱負を述べた。

会社は、公正に生産された、オーガニックで自然志向の商品を求めるお茶好きの消費者をターゲットとしている。

「オーガニック商品を扱うスーパーや商店を狙っています。」と彼女は語った。

カナダ生まれ、ドバイ育ちのニザリ氏は、タンザニアに深く刻まれた彼女の家族のルーツゆえに成功を収めたといえる。彼女の母は、キリマンジャロ山麓のモシで育った。

「私の祖父は農場と、街の中心部に店を構えていました…私は、自分のルーツがあるここに戻りたいといつも思っていました。」と、夫がアフリカ東部・西部において多くのアグリビジネスに関わっているニザリ氏は話してくれた。

子どものいないニザリ氏は、「ピリピリ」と名付けた、元は野犬だった愛犬と一緒にインド洋沿いの海岸を散歩するのを楽しんでいる。(原文へ

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