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|視点|夢がかなった―中央アジア大学第一期生卒業へ(ニサール・ケシュヴァニシンガポール大学大学教養・社会科学部広報責任者)

【シンガポールIDN=ニサール・ケシュヴァニ】

想像してみてほしい。ここは海抜2000メートルのアジアで最も辺鄙なシルクロード沿いの山間部、中国からは240キロ離れている。人口が15万人になろうかというキルギス共和国の地方都市だ。その中に、全寮制の荘厳な大学がそびえたち、実家の財政状況に関わりなく入学してきた中央アジアの次代を担う若者たちが世界クラスの教育を受けている。

6月19日、中央アジア大学(UCA)(世界で初めての国際協力による高等教育施設)は歴史に名を刻んだ。開学時の57人の学生が、コンピューター科学部、コミュニケーション・メディア学部、経済学部、地球環境科学部を卒業するのである。

UCAのキャンパスは、キルギスのナルン、タジキスタンのホログにあり、現在カザフスタンのテケリに第3キャンパスを建設中である。

University of Central Asia
University of Central Asia

大学設置の計画は1997年に始まった。ソ連崩壊後、質の高い国際標準の教育が、中央アジアの進歩のために切望されていた。単純な計画のようにも聞こえるが、ある人たちに言わせれば「不可能を可能にした」のである。

2000年、アーガー・ハーン開発ネットワークとキルギスタジキスタンカザフスタン各政府との間で条約が署名・批准され、このプロジェクトが始動した。その歩みは、あたかも流れに逆らうかのように、一歩一歩が厳しい取り組みだった。その中心にあったのはイノベーションである。

この20年、少なくとも1000人の人々がこのビジョンを実現すべく貢献してきた。最も重要なことは、多くの地元の市民らが、学び、成長し、地元に戻って、手足となり働いたことだ。キャンパス建設のために元々の住民に道路の反対側へと移ってもらい、道路を建設し、水道や電気、インターネットを引き、古代の遺跡を発掘・保存し、気候変動に配慮した計画を立て、大学の居住・学習施設を世界標準にまで引き上げた。

では、私はどうしてこの大学と出会うことになったのか?

学部生活の最終年、中央アジアに貢献したいとの強い思いが抑えきれなくなった。私が最初に大学設置計画について聞いたのは、アーガー・ハーン財団の欧州事務所で任務を終えようとしている時のことだ。それから10年、私に教育休暇の機会が持ち上がった。私はUCAの広報活動を支援するためこの大学に行くことを決め、次の8年間は広報機能を構築することが私のフルタイムの仕事となった。その後2年は、メディア関係のカリキュラムをリモートで検討するボランティアを行っている。

中央アジア大学は、良質の幼児教育や近代的な医療施設、生涯教育、市民教育、公園などによって、立地都市の変革に寄与している。このプロジェクトを通じて、雇用が創出され、ビジネスが花開き、生活の質が改善され、将来は驚くほど明るくなった。また、山間部の気候と地域に関する研究は、この分野における知識を前進させる最先端の出版物の刊行に帰結した。

入学希望者やその親から大学のパートナー、研究者、教員、政府、メディアに至るまで、最先進国から最も辺鄙な村落に至るまで、多様な面をもった利害関係者と関われたことを光栄に思っている。コミュニケーションはしばしばロシア語と、私の知らない中央アジアの諸言語で行われた。

広報の専門家に、自分の役割は何かと尋ねてみるとよい。すると、情報を送り受け取る、メッセージを作る、意見を交換する、創造的に関わり聴衆を増やす…等、十人十色の答えが返ってくるであろう。しかし、私にとっては、中央アジア大学のような未来に長く続く組織を作ること自体が、自分の役割であったと思っている。

建物を建設するかのごとく、職員を雇用し、事業を遂行する。同様に大事なのが広報だ。あらゆる書かれた言葉、映像、話し言葉が慎重に生み出される。企業の最高幹部から補助職員に至るまで、あらゆる個人が(中央アジア大学の)「大使」としての役割を担っている。ビルのあらゆる看板が、その組織のアイデンティティを示している。

私の心の奥底には1983年以来、アーガー・ハーン卿の含蓄のある言葉がいつもあった。

「世の中には貧困の中で、生きる手段と、それを改善しようという動機を奪われた世界に生きている者がいる。自らで何かを成し遂げようという精神と決意に火をつける火花でもって、こうした不幸に対処していかない限り、彼らは再び、無気力と転落、絶望の中に沈み込んでしまうであろう。より恵まれた立場にある私たちこそがその火花を散らさねばならないのだ。」

その後、2016年の開学イベントでハーン卿は、「私たちがここで成し遂げようとしていることは、この地域だけではなく、はるか遠い地域の人々にとっても役立つ国際協力の価値ある模範となることです。」と語った。

中央アジア大学は、カナダ・英国・ロシア・スウェーデン・オーストラリアの大学とパートナーシップを組んで策定したカリキュラムを用いて、地域の山岳地帯における社会的・経済的開発の触媒となるべく創設された。

私にとっての最も誇らしい瞬間は、学生たちが初めてキャンパスに到着した時のことだ。多様な民族、背景、土地から集まった学生たちが、何日もかけて、ある者は徒歩で、ある者は馬で、またある者はバスでやってきた。しかし、いったんキャンパスに着くと、教育上の目標を目指して彼らは連帯したのである。希望と熱情、学びたいという意欲に満ちていた。

その一人ひとりと知り合いになれたのは光栄なことだった。自信をもって目撃してきたことなのだが、彼ら各々が夢を実現したのである。この若者たちは(コロナ禍の中でも)今や立派に卒業して、自分たち自身に、家族に、そして自分の故国に対して、近い将来、何らかの変化をもたらすべく準備を進めている。彼らの夢が実現したのと同じく、私の夢も実現した。

ある友人が私に「光栄なこととは何か」と尋ねた。

ある人にとっては資産を相続して生活を安定させること、ある人にとってはアイビー・リーグでの教育、またある人にとっては家族や友人からの支援を十分に得ていることであったりするだろう。私にとっては、来たる世代の、一人ではなく多くの生活が今後変わっていくし、永遠に変わり続けるという信念を持ちながら、伝説の組織の誕生に立ち会ってささやかな役割を果たす機会を得ることである。(原文へ

※著者のニサール・ケシュヴァニはシンガポール生まれ。同地に戻るまで5つの大陸で生活し働いた世界市民である。中央アジアでは8年間生活し、現在はシンガポール大学教養・社会科学部で広報の責任者。中央アジア大学はINPS東南アジア総局がコミュニケーション・メディア学部の学生を対象に研修プログラムを実施した。

INPS Japan

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アフリカはロシア外交の優先課題、とプーチン大統領

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

アフリカがロシア外交の優先地域として存在感を高める一方で、チャドや中央アフリカ共和国などにおけるロシア人傭兵による人権侵害疑惑があらためて国際的な注目を集めている。国連調査官は、ニューヨーク・タイムズ紙が入手した国連安全保障理事会向け報告書に記された残虐行為の疑惑について調査を進めている。

問題の報告書は、鉱物資源に恵まれる一方、ほぼ10年にわたり内戦が続く中央アフリカ共和国で、ロシア人傭兵によって行われたとされる虐待行為の詳細を記している。

調査官によれば、ロシア人傭兵とそれに同調する政府軍による行為には、「過剰な武力行使、無差別殺害、学校の占拠、人道支援機関に対するものを含む大規模な略奪」が含まれていた。これらの認定は、写真資料や証人、地元当局者による秘密証言に基づいているという。

2017年、ロシア政府は現地軍の訓練支援を目的として、非武装の軍事教官を派遣することを提案した。この任務は国連の承認を受けたものであり、2013年以来中央アフリカ共和国に課されていた武器禁輸措置の例外として認められた。

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、ロシアは中央アフリカ共和国の政治と安全保障において、年々その影響力を強めている。ロシア人ボディーガードがフォスタン=アルシャンジュ・トゥアデラ大統領の警護に当たり、元ロシア情報要員が同大統領の安全保障顧問を務めてきたとされる。

国連報告書は今週公表される予定であり、新たに形成された反政府勢力連合が選挙を妨害し、その後、首都バンギに対する軍事攻勢をかけた混乱期に発生した人権侵害を扱っている。

一方で報告書は、反政府勢力連合の構成員についても、子ども兵士の強制徴募、援助団体の略奪、女性に対する性的暴行を行ったと指摘している。

昨年には、数百人規模のロシア人傭兵の存在が、国連の報告書草案によってすでに記録されていた。

ロシアの民間軍事会社ワグネルは、アフリカ大陸各地で活動しているとされ、モスクワの高官らと強い結びつきを有しているとみられている。

また、2017年から2018年にかけて、ロシアはアンゴラ、ナイジェリア、スーダン、マリ、ブルキナファソ、赤道ギニアとの間で武器取引を進めた。対象には、戦闘機、戦闘・輸送ヘリコプター、対戦車ミサイル、戦闘機用エンジンなどが含まれていた。

もっとも、BBCによれば、米国は引き続き世界最大の武器輸出国であり、過去5年間で世界の武器輸出に占めるシェアを37%まで拡大している。一方、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の研究者によれば、ロシアは武器市場でのシェアを22%失い、ほぼすべての地域で米国との厳しい競争に直面しているという。[IDN-InDepthNews=2021年6月30日](原文へ

INPS Japan

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Annual Compilations of Two SGI-Supported Project Articles

‘Toward A Nuclear Free World’

This Report is a compilation of independent and in-depth news and analyses by IDN from April 2020 to March 2021. 2020-2021 was the fifth year of the INPS-IDN media project with the SGI, a lay Buddhist organization with headquarters in Tokyo.

But IDN has been a party to the joint project, first launched in 2009 in the wake of an agreement between the precursor of the International Press Syndicate (INPS) Japan and the SGI.

We are pleased that meanwhile, we are in the sixth year of the INPS-IDN’s joint media project with the SGI. This compilation comprises 33 articles analysing the developments related to proliferation and non-proliferation of nuclear weapons at multiple levels – governmental, intergovernmental and non-governmental. All articles have been translated into Japanese. Some have been translated into different languages, including Arabic, Bahasa, Chinese, German, Italian, Hindi, Korean, Malay, Norwegian, Swedish and Thai. 

The backdrop to these articles is that nuclear-weapon states have been fiercely opposing the Nuclear Ban Treaty (TPNW), which has meanwhile entered into force. The nuclear weapons states argue that TPNW ignores the reality of vital security considerations. At the same time, the complete elimination of nuclear weapons is increasingly becoming a global collaborative effort calling for relentless commitment and robust solidarity between States, international organisations and civil society.

This compilation also includes an in-depth analysis of eminent Buddhist philosopher, educator, author, and nuclear disarmament advocate Dr. Daisaku Ikeda, who released his latest 39th annual peace proposal, titled “Value Creation in a Time of Crisis”, released on January 26. Dr Ikeda calls for further global cooperation to address the key issues of our time: extreme weather events that reflect the worsening problem of climate change and the onslaught of the novel coronavirus (COVID-19) pandemic which continues to threaten social and economic stability throughout the world.

TOWARD a Nuclear Free World メディアプロジェクトニュースレター(2020.4 – 2021.3)

‘Striving for People, Planet and Peace’

This Report is a compilation of independent and in-depth news and analyses by IDN from April 2020 to March 2021. 2020-2021 is the fifth year of the INPS Group’s media project with the SGI, a lay Buddhist organization with headquarters in Tokyo.

But IDN has been a party to the previous joint projects on ‘Education for Global Citizenship’ and ‘Fostering Global Citizenship’ respectively—as the result of an agreement between the precursor of the International Press Syndicate (INPS) Japan and the SGI.

We are pleased that at the time of writing these lines, we are already in the sixth year of the INPS Group’s ‘SDGs for All’ joint media project with the SGI.

This compilation comprises 33 articles analysing developments and events related to a sustainable world, peace and security on the whole and its 17 Goals with 169 targets at multiple levels—governmental, intergovernmental and non-governmental. Some of the articles have been translated into several European and non-European languages. The 17 Sustainable Development Goals (SDGs) of the 2030 Agenda for Sustainable Development—adopted by world leaders in September 2015 at a historic UN Summit—officially came into force in January 2016.

The SDGs, also known as Global Goals, are unique in that they call for action by all countries, poor, rich and middle-income to promote prosperity while protecting the planet. They recognize that ending poverty must go hand-in-hand with strategies that build economic growth and address a range of social needs including education, health, social protection, and job opportunities while tackling climate change and environmental protection.

SDGs for All メディアプロジェクトニュースレター(2020.4 – 2021.3)

on https://www.sdgsforall.net/documents/Striving_for_People_Planet_and_Peace_2021.pdf

Top image: Collage by Katsuhiro Asagiri, INPS Japan President

|視点|国連のグローバルな目標を達成するには脱中央集権が必要だ(ヨセフ・ベン・メイル ハイアトラス財団理事長)

【マラケシュIDN=ヨセフ・ベン・メイル】

国連の持続可能な開発目標(SDGs)は、きわめて大胆な普遍性を持っており、誠実な目標とともに世界的に関連ある問題に対処しようとするものである。根本的に良いものを提供しているが目標には根本的な問題がある。目標は処方箋を欠いている。地元の人々の参加という、持続可能性の実現にとって必要不可欠だと思われるような内容すら、明確には盛り込めていない。

関連して言えば、17項目のSDGsが選ばれたプロセス自体が、世界の地域社会が表明したニーズ全体を反映したものではなかった。結果として、SDGsが生活改善を支援する対象となる人々は、ほとんどSDGsの存在そのものを知ることがなく、同時に、17項目を行動のための有益なガイドとして利用するために、彼らは力を与えられる必要があるのである。

SDGsのもつ性格は、部分的には、パンデミックを含め、非常に広い文脈において世界的に適用可能なところにある。我々の文化が無限のバリエーションを持っていることを考えれば、あらゆる状況において適切かつ効果的なアプローチを処方することなど不可能だ。しかし、達成の手段に関する何らかの指示がない限り、SDGsは、行動可能な目標ではなく、人心から離れたビジョンと堕してしまうかもしれない。

Yossef Ben-Meir, High Altas Foundation

SDGsの履行を進めるために、各国は、地域の特性や個別の目標を超えるようなアプローチを考え出さねばならない。SDGsはグローバルかつ普遍的なものである一方で、地域レベルで実行されるものだ。したがって、意思決定と、受益者に対する管理を脱中央集権化することで、持続可能な発展につながる文化横断的な主要な要素を後押しすることになるのだ。すなわち、人々の参加ということである。

SDGsは、地域が主導した研究やデータ取集を含め、地域の実情に適応可能なものでなければいけない。これが、文化や政治、環境の多様さを認めることになる。そうした民族的な方法論や参加型研究は、人々自身の観点から地域の状況を浮き彫りにすることになる。この集団的分析プロセスを通じて、地域の人々は、自らが主張する直接的なニーズを超える実行可能なプロジェクトを見出すために、より強力な立場を得ることになる。

この目標のもつ普遍性は、一般的に言ってポジティブなものだ。人々は、生活の全ての側面に触れ、地域のもつ理想を反映させることができるのだから、自分たちの声がSDGsに盛り込まれていると見ることができるのである。しかし、だからと言って、SDGsによってやる気が出たり、あるいは、SDGsは行動可能な枠組みであると人々が積極的に考えることを意味しない。彼らが、SDGsの実行のために一肌脱ごうとやる気を出せるかどうかは、目標のデザインと策定そのものにどの程度参加できたかにかかっているからだ。

要するに、人々が自分自身の原則がそこに反映されていることを見て取ることができるように、ある程度までは、幅広い目標が採択されているのである。しかし、また別の人々にとっては、概念の立て方が問題となる。目標への感情的なつながりが欠けていることで、応用された指標としてSDGsを使うことが妨げられるのだ。SDGsは、世界全体で公的にそれを受け入れさせようとするのであれば、地元の参加によってその概念が実行され、さらには「概念の読み替え」が行われたときに、最も深い意味で受け止められたということができる。

Photo: High Atlas Foundation works in rural areas of Morocco to target the most marginalized communities. Credit: High Atlas Foundation.

SDGsの国別の実施を支援すべく国連が促進できるかもしれないもうひとつの導きの糸は、単一の開発プロジェクトによって複数の目標を促進することだ。そうした例をモロッコに見ることができるが、同時にまたそれは、世界全体の社会経済や環境の現状を示すものでもある。

多くの社会や文化においては、果樹農業は伝統的に男性の生産領域だとされてきた。残念なことに、農業が女性の完全な参加なしになされた際は、収入と利益が男性の手にのみ握られ、女性識字率や成長機会の向上などの間接的な利益は満たされないままになる。

従って、自信や自尊心をつけさせ、変化に向けた農業に関する考えを発展させるなどの能力強化を含め、女性を初めからプロセスに統合することで、ジェンダー平等(SDGs第5目標)だけではなく、強化された食料安全保障(第2目標)、適用可能な水・環境管理システム(第6目標)、教育(第4目標)、人間らしい労働と経済成長(第8目標)、責任感のある消費と生産(第12目標)、貧困の削減(第1目標)にも資することになる。

実際、持続可能な開発は、複数のニーズや関心が満たされ、民衆を生きながらえさせ利益を与えるイニシアチブをバランスよく促進する程度に依存している。国連はしたがって、どの地元や地域におけるプロジェクトによっても、広範な成果を達成するために多面的な開発を常に是認し、そのことによって、単にSDGsを達成するだけではなく、成功の基礎そのものを構築しなくてはならない。

Sustainable Development Goals

17項目のSDGsが、地球上のどの社会や国においても意味をもつのと同じく、その履行に向けた原則についてもそうである。SDGsの達成が求められる際にはいつでも、開発への人々の参加が強調されねばならない。世界の民衆が成長の道筋を決める。従って、脱中央集権化が、なんらかの形や程度において、全ての場所で必要となってくる。

最後に、地域のニーズを満たすパートナーシップが成長を促進するならば、より大きな利益がもたらされるであろうし、より多くの集団がその継続を強く望むことであろう。SDGsとその象徴あるいは前文がものを言うことであろう。そうすることで、SDGsは、私たちが集団的に向かうべき方向だけではなく、そこに向かう方法をいかにして考えるべきかを体現するものとなろう。それはSDGsそのものの指標となるもの、あるいは、SDGsに即応するものとなろう。しかし、どこへ行くか、何をするかだけでは十分ではない。それぞれの人間集団にとって意義のある形で「どうやるか」ということがなければ、エネルギーは湧いてこないのである。(原文へ

INPS Japan

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カナダ・フランスの核兵器政策、「生命への権利」違反を問われる

【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

市民団体に促されて、カナダとフランスの核兵器政策が「市民的及び政治的権利に関する国際規約の第6条に規定された『生命への権利』に違反している」と国連自由権規約人権委員会が主張した。これらの権利は、人間の固有の尊厳に由来するものである。

カナダ・フランスに加えて、市民団体はアイスランド・北朝鮮・ロシア・米国の核政策に対して異議を申し立てている。デンマークの核兵器政策もまた、女子差別撤廃条約の下での義務の定期的見直しの一環として、異議を受けている。

国連自由権規約人権委員会でこの問題が取り上げられることの重要性は、たった一発の核兵器でも数十万人を殺戮し、人間や環境に永続的で破壊的な影響をもたらすであろうという事実の中にある。

UN Human Rights

ロシア・米国・英国・フランス・中国・インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮が合計で1万4000発近い核兵器を保有しており、そのほとんどが広島に投下された核兵器よりも遥かに強力なものだ。その他31カ国もまた、この問題の一部を成している。

加えて、ベルギー・ドイツ・イタリア・オランダ・トルコが米国の核兵器を配備している。米国は、これらの核の運用面での管理を握っているが、こうした国々に配備することで米国の戦争計画に有益であるとしている。

26カ国(プラス米核兵器を配備する5カ国)もまた、北大西洋条約機構(NATO)や集団的安全保障条約機構(CSTO)などの防衛同盟の一環として、自らに代わって核兵器を使用する可能性を認めることで、核兵器の保有・使用を「是認」している。

国連人権委員会での追及は、市民団体からなされた。カナダとフランスが市民権規約の下でもつ義務に関する定期的見直しの一環としてなされた申立てにおいて、市民団体は両政府に対して、核兵器の使用及び使用の威嚇から「生命への権利」を守るために両政府が取ることのできる措置を勧告したのである。

カナダは自ら核兵器を保有していない。しかし、カナダの核兵器政策と「生命への権利」に関して、申立ては「カナダがNATOの政策に参与し、核兵器使用の威嚇を実行していること、核戦争開始のオプションを保有していることを含め、核兵器使用の可能性がNATOによって準備されていることは、カナダが市民権規約の下でもつ『生命への権利』擁護の責任に違反するものだ。」と述べている。

国連人権委員会に申し立てを行ったのは、「平和を求めるアオテアロアの弁護士」「バーゼル平和オフィス」「平和を求めるカナダ女性の声」「平和カナダを求める宗教人の会」「世界連邦運動カナダ支部」「世界未来評議会」「若者フュージョン」である。

NATO Member States

国連人権委員会は2018年10月に「一般コメント36号」を採択し、核兵器の使用及び使用の威嚇は、「生命への権利の尊重と両立せず、国際法の下の犯罪を構成することになるかもしれない。」と確認している。

コメントはさらに、自由権規約の締約国は「そのすべてが国際的な義務に従って、核兵器を開発・製造・実験・取得・備蓄・販売・移転・使用することを控え、既存の備蓄を廃棄し、偶発的な使用に対する適切な防護措置を採らねばならない。」と指摘している。

人権委員会の声明は、締約国は「厳格かつ効果的な国際管理の下での核軍縮の目的を達するために誠実に交渉を追求し、この大量破壊兵器の実験あるいは使用によって、その生命への権利が悪影響を受けた、あるいは現に受けつつある人々に対して適切な賠償をなすという国際的義務を尊重しなくてはならない。」と述べている。

フランスは290発の核兵器を保有している。申立人らは、フランスは、核兵器の開発・実験・製造・維持によって、そして、(武力紛争における核兵器の先制使用も含め)安全保障上の広範なシナリオにおける核兵器の配備、使用の威嚇、使用の準備によって、自由権規約の下での生命への権利を擁護する義務に違反している、と主張している。

これら市民団体は、生命への権利を擁護する義務は、フランスの核実験によって影響を受けた人々に適切な賠償を提供していないことや、多国間核軍縮の構想やプロセスに反対していることによっても、蔑ろにされていると述べている。

Test nucléaire Gerboise bleue/ By Unknown author – Archive CEA, CC BY-SA 4.0

「カナダ核兵器廃絶ネットワーク」や「カナダパグウォッシュグループ&リドゥー研究所」の申立書は、「カナダは核抑止政策を放棄し、NATO内外においてそうした政策やそれに伴う核戦力を支持する活動をやめる方向へと全国的に進まねばならない」と述べている。

「平和を求めるアオテアロアの弁護士」「バーゼル平和オフィス」「平和を求めるカナダ女性の声」「平和カナダを求める宗教人の会」「世界連邦運動カナダ支部」「世界未来評議会」「若者フュージョン」が提出したより詳細な申立書は、カナダは核兵器禁止条約の趣旨に賛同し、同条約の第1回締約国会議にオブザーバーとして参加することを勧告した。会議は来年1月12日~14日の日程でウィーンで開催されることになっている。

さらに申立書は、カナダに対して、①全ての核兵器国による先制不使用政策の採用を支持すること、②この政策を次のNATOサミットで採用し今後10年以内に安全保障政策から核抑止の要素を除去すること、をNATOの方針とするよう提案することを求めた。

これら市民団体はさらに、「核戦争に勝者はなく、戦われてはならない」という1985年のレーガン・ゴルバチョフ共同声明を再確認し、核不拡散条約(NPT)の締約国もまたこの方針に沿い、NPT発効75年と国連発足100年にあたる2045年までの核兵器の世界的禁止と廃絶を目指して、先制核不使用などの措置を取るよう提案している。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC on 21 May 2022.

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【ニューデリーIDN=アルジュン・クマール】

アフリカがロシア外交の重要な優先地域として浮上する一方で、チャドや中央アフリカ共和国などで活動するロシア人傭兵による人権侵害の実態に厳しい視線が注がれている。

国連調査官らは、ニューヨーク・タイムズが入手した国連安全保障理事会向け報告書に記された残虐行為の疑惑について調査を進めている。

この報告書は、鉱物資源が豊富で、過去およそ10年にわたり内戦状態が続く中央アフリカ共和国において、ロシア人傭兵らが関与したとされる人権侵害の詳細を記録したものである。

調査官らによれば、写真証拠や証人、地元当局者による非公開証言に基づき、ロシア人傭兵と政府軍部隊による侵害には、過剰な武力行使、無差別殺害、学校の占拠、人道支援機関を含む大規模な略奪が含まれていた。

2017年、ロシア政府は、国連が承認した任務の一環として、現地軍の訓練支援を目的に非武装の軍事教官を派遣することを提案した。これは、2013年以降同国に課されていた武器禁輸措置の例外として認められたものであった。

ニューヨーク・タイムズによれば、ロシアは中央アフリカ共和国の政治と安全保障において、ますます大きな影響力を及ぼしている。ロシア人警護要員がファウスタン=アルシャンジュ・トゥアデラ大統領を警護し、元ロシア人スパイが同大統領の安全保障顧問を務めているという。

この国連報告書は今週公表される見通しである。対象となっているのは、新たに結成された反政府勢力連合が選挙妨害を試み、その後、首都バンギへの軍事攻勢を仕掛けた混乱期に発生した人権侵害である。

報告書によると、反政府勢力連合の構成員についても、子ども兵の強制徴用、支援団体への略奪、女性に対する性的暴行に関与した疑いが持たれている。

昨年には、数百人規模のロシア人傭兵の存在が、国連の流出報告書によって記録されていた。

ロシアの民間軍事会社ワグネルは、アフリカ大陸各地で活動しているとされ、モスクワの高官らと強い結びつきを持つとも指摘されている。

また、2017年から2018年にかけて、ロシアはアンゴラ、ナイジェリア、スーダン、マリ、ブルキナファソ、赤道ギニアとの間で武器取引を行った。取引内容には、戦闘機、戦闘・輸送ヘリコプター、対戦車ミサイル、戦闘機用エンジンなどが含まれていた。

もっとも、BBCによれば、米国は依然として世界最大の武器輸出国であり、過去5年間で世界の武器輸出に占めるシェアを37%にまで拡大している。一方、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の研究者によれば、ロシアは武器市場におけるシェアを22%失い、多くの地域で米国との厳しい競争に直面している。
原文へ

INPS Japan

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SDGs意識を高めるための学界・大学の役割(カハ・シェンゲリア世界大学総長協会会長、コーカサス大学学長)

【トビリシ、ジョージアIDN=カハ・シェンゲリア】

世界中で人々の生活を改善するために2030年までに達成すべき17項目の具体的目標を定めたのは、2015年のことだった。社会的不平等の問題から、私たちが暮らしている地球に関することまで、人間という存在のあらゆる側面に関連したものだ。しかし、そうした共通の問題が存在するという認識や、それを定義する専門知識、その解決を計画する知識は、数世紀にもわたる活動や知識、認識の集積によるものであった。

持続可能性の重要性を十分理解するには、長期にわたる歴史的感覚を必要とした。すなわち、人間と私たちが住む環境の双方に配慮する形で社会を調整する火急の必要性である。これは、一つの種として私たち人類が継続的に成功を収めるべき、困難ではあるが必要な行動なのである。世界中の学界や大学、その他のナレッジセンターなど、いわゆる教育産業の取り組みなしにこのことは不可能であった。一般論から具体論まで、根本的なレベルで学界がSDGsに関与できる多くの方法がある。

教育産業は、多くの形において、世界全体の科学・産業機構を運営するのに必要な技術的・技能的ノウハウを訓練し、研究し、打ち立てていくことに責任がある。研究大学や学界を通じて、SDGsを評価し、それを達成する科学的方法を策定するために必要なデータを定着させ分析することがここには含まれる。この関連で、私は、一般市民と大学との間のコミュニケーション・チャンネルの重要性をさらに強調したい。

インデプスニュース(IDN)のようなメディアは、2009年以来、利害関係者間で情報を伝える重要なプラットフォームとなってきた。IDNはこの産業の重要なプレイヤーであり、この情報時代において重要なサービスを提供している。

さらに、実に数多くのSDGsの項目が教育産業に関連している。例えば、第4目標「すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」がそれである。教育の質は、世界中の教育機関が直接的に責任を負う部分だ。官民双方の教育機関が、最高の結果を提供できるように日夜努力している。

その後、学習のコストを押し下げ、世界中で知識へのアクセスを飛躍的に拡大させた「e教育」とオンライン技術の進歩によって、変化に勢いがもたらされるようになった。「e学習」の採用において一部の国は他国に後れを取っているものの、コロナ危機は将来の教育のあるべき姿について明確に示した。教育産業は、オンライン教育法のおかげで、パンデミックに伴う制約下にあっても機能を果たすことのできた数少ない部門のひとつであり、多くの大学や教育センターが凄まじい速さでこの技術を採用しつつある。

教育産業が直接的に責任を負うSDG第4目標を超えて、SDGsはさまざまな措置において教育との関連性を持っている。定式化された教育は世界中で私たちの日常生活において普遍的な意義をもたらしているが、情報やスキル、ノウハウの提供は学校や大学の責務となりつつある。大学や学界は、産業界や統計機関とも協力して、SDGsの発展をモニターし、その達成方法を描いてきていることも忘れてはならない。たとえば、以下のような例がある。

Image credit: UN

第3目標(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)は、医学教育や医学系大学の成否にかかっている。医師・看護士の教育や、研究開発の相当の部分は、医学系大学・学界の肩にかかっている。

第6目標(すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する)は、工学や技術イノベーションや発展に加え、専門的な水管理教育コースの発展にも依っている。

第7目標(すべての人に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する)は、電気工学や化学、物理学、その他の科学領域が大学で強化され研究されていることに依っている。

第8目標は、「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用および働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を推進する」である。ソ連崩壊後のジョージアにあるコーカサス経営大学校のような経営系の大学が途上国のバックボーンとなる一方、コーカサス大学の「C10起業支援センター」のような革新的な起業支援センターが新しいアイディアと若い起業家を育てている。

第9目標(強靱なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る)は、適切な設計と利用される技術に関する建築・工学教育に依存している。大学や専門家が管理する複雑なサプライチェーンや建設作業の役割は言うまでもない。

第12目標(持続可能な消費と生産のパターンを確保する)は、適切なサプライチェーンの設計や環境調査、それに適切な研究を行い、専門家を育てる多くの農業系・環境系・経営系・工学系の大学によって支えられている。

第13目標は「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」である。気候変動の測定やモニタリングは、概して、世界中の研究大学や学者らに支えられている。

第16目標(持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する)は、法学系大学や行政大学校、平和研究のセンターが直接に責任を持つ部分である。これらの全てがコーカサス大学にはあり、維持・発展している。

まとめると、大学や学界は世界全体でSDGsを達成する上できわめて重要な役割をもっている。目標がどんなものであれ、信頼性のある情報を持ち、訓練された専門家を確保するには、教育や研究が必要だ。大学は、知識産業の活力であり、あらゆる知的労働の基盤となる部分である。若者の関心を高め方向付けるという、きわめて大きいがあまり評価されていない仕事も、世界中の大学が担っているのである。(原文へ

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|視点|メディアはアフリカの持続可能な開発を刺激できる(シッダルタ・チャタジー国連ケニア常駐調整官)

*この記事は、国連SDGメディアコンパクトの正式加盟通信社IDN-InDepthNewsを主幹メディアに持つInternational Press SyndicateがSoka Gakkai Internationalと推進しているSDGs for Allメディアプロジェクトの最新レポートの序文としてカハ・シェンゲリア氏から寄稿されたものである。

|ガーナ|カカオから新植民地主義貿易のしがらみに終止符を打つ

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

新植民地的な貿易慣行からの脱却に向けて動き出した西アフリカのガーナの試みに焦点を当てた記事。ガーナが隣国コートジボワールと合わせて世界のカカオ生産の7割を占めるが、チョコレートに対する(アフリカを含む)世界の需要が伸びている(1500億㌦)にも関らず、利益の大半(実に96%)は欧州や米国の企業に留まり、原産地の両国は国内需要に宛てるチョコレートを輸入するという貿易慣行に甘んじてきた。ガーナのアクフォ=アド大統領は昨年スイスを公式訪問した際に、現在の貿易慣行が続き、ガーナ国民が将来的わたって貧困の罠に囚われたままになるのであれば、今後カカオ原料をスイスに輸出しないと発表した。こうした時流の変化に対応してガーナ国内で国産のミルクチョコレートを生産して輸出する動きが出てきており、地元の雇用とディーセントワーク、公正なサプライチェーンに敏感な先進国のミレニアム世代に販路を広げている。また、こうした動きは、今年初めに発効したアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が追い風になることが期待されている。(原文へ

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【ニューデリーIDN=シャストリ・ラマチャンドラン】

インドで新型コロナウィルスがもたらしている津波のような感染と死は、弱まることなく続いている。中央・各州政府や民衆は、病床や医薬品、人工呼吸器、そしてこの危機を乗り越えるために必要な物資不足と闘い続けている。恐るべき死と、死に逝く者たちの窮状を目の当たりにして、人々の心に恐怖が蔓延している。人々は、新型コロナウィルスが、いつ、どこで、誰にどんな形で襲いかかるのか、もし身近な人が罹ってしまったらどう対処すればいいのかわからず、慄いている。

私は、ジャーナリストとして、いくつかのメッセージ・グループに属している。記者室や省庁、仲間内のグループから、1時間に100件以上のメッセージがまるで紙テープのように飛び交っている。そのほとんどが新型コロナウィルスに関するもので、インド内外で何人亡くなったか、インドを支援するために各国からどれほどの支援物資が寄せられているか、といったものだ。この国は、1947年の分離独立以来で最も暗い、大量死の時代を迎えている。

私は、1350軒から成る集合住宅に住んでいて、いくつかの「ワッツアップ」(WhatsApp)のグループに属しているが、流れてくるメッセージは新型コロナ関連ばかりだ。誰が亡くなった、亡くなりかけている、必死で酸素吸入器を探している、ICUの内・外どちらでも、人工呼吸器のある、あるいはない病床を探している、救急車はどこだ、特定の薬はどこだ、あるいは、食料やお金、物理的な支援、医薬品、オキシメーターはどこだ、死体の埋葬を手伝ってくれるものはあるか、といったメッセージばかりだ。

Image credit: The German Medical Association

「ワッツアップ」「テレグラム」「シグナル」といったOTTグループは、専門家によるものであれ、あるいは、社交・文化団体・クラブ・地域・組織・職場によるものであれ、私の加わるグループすべてで、心を痛めるようなニュースや緊急アピール、新型コロナの攻撃から生き残るために闘っている個人や家族、集団、NGO、独立のワーカーや機関からの必死の呼びかけで溢れている。ツイッターのようなSNSもまた、SOSのメッセージと支援の申し出で埋めつくされている。

ロックダウン、あるいは夜間外出禁止の下での隔離生活においては、食料品や乳製品、果物や野菜、あるいはその他の生活必需品を誰かが戸口まで届けてくれることでホッとできる。幸いなことに、それは、数週間とは言わずとも数日は会っていない隣人ではない。普通の生活を送っていれば、日に何度も出会うような人たちだ。戸口で隣人や友達の誰にも会わないということは、ニュースが、とりわけ良いニュースがもたらされないということだ。

外の世界との接触は、誰かが何か大事なものを私に届ける束の間の冒険の間に直接的な形でなされるか、あるいは、新聞やテレビ、SNSや私の電話に流れてくる大量の動画や画像を通じてなされる。今回のパンデミック下の生活は、スペイン風邪の時代や、インドが1947年に分離独立した際の多数の死傷者や、私が読んだり映画で見たりしたのよりも、はるかに劣悪なものだ。

「インドが分離独立して以来最悪の、これほどの規模の災害にいかにして夢遊状態のまま至ったのだろうか。」と元外交官のラケシュ・スード氏は問うている。彼は、2013年にインド首相の軍縮・不拡散問題特別大使であった人物だ。1947年にインドとパキスタンが英領インド帝国から分離独立した際、ヒンズー教徒とイスラム教徒の対立が深まり、数十万人の血が流された。

多くの人々が、分離独立時の暴動とパンデミックの比較に対して眉をひそめるかもしれない。かたや自然災害であり、かたや人為的な紛争だ。しかし、大量死の状況に共通するものは、政府と国家機関の失敗である。これが災害に拍車をかけ、秩序をさらに悪化させて、死者の数が増えることになる。インドを新型コロナの第二波が襲う中、死者の数が増え続けているのは、ウィルス感染のためなのか、無作為のためなのか、或いは、必須の医療サービスが得られないためか、酸素ボンベや吸入器のような生命を救う支援を得られないためか、それとも単に、何らかの医療行為を得られる病床が足りていないせいか、断定することは難しい。

デリーでは、1時間当たり少なくとも10~15人というペースで人が亡くなっている。都市全体が死者と死にゆく者たちのディストピアと化し、歩道や車道にまで、死体を休むことなく燃やし続けるための薪があふれている。テレビやSNS、新聞は、大小を問わずインドの他の都市で人々が経験している同じような悪夢を繰り返し報じている。火葬は一日中続き、濃い煙が薪から立ち昇って、町全体に黒い雲がかかっている。煙を通す鉄のパイプは、しばしば熱で溶けてしまっている。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

デリーでもその他の都市でも、火葬場の外には死体の長蛇の列ができている。あらゆる都市において、火葬場が発表する死体数は、ただでさえ恐るべき数の公式発表の死者数よりもはるかに多い。5月5日、インドの新型コロナによる死者数は24時間で4000人近くにのぼり、世界の半数を占め、感染者数は38万2000人に達した。医療専門家らは、実際の死者・感染者数は公式発表の5~10倍であると述べている。英国の『ファイナンシャル・タイムズ』紙は、死者・感染者数は公式発表の8倍に達するとの推計を発表した。しかし、ある線を越えれば数字は問題ではなくなる。なぜなら、時間によって統計に変換されるそうした数字では、家族や友人、人々の喪失の真実を感じ取ることはできないからだ。

病院の光景は火葬場のそれと同等に凄惨なものだ。人々が病院に集まり、数百台とは言わないまでも数多くの救急車や車両が、病床や酸素吸入器、緊急支援を求めて列を成している。この危機にあって、ほとんどの病院やその関係者にとって、対処不可能な状況だ。昨年に始まった新型コロナの第一波では、死者の最大数は、医師や看護師、医療従事者が占めていた。

ナレンドラ・モディ首相が率いる政府は、無策のままこのような状況を招いたとして厳しく非難されている。また同時に、モディ首相の過剰な自信や、公的医療の軽視、第二波を警告した人々への軽蔑から生じた結果でもある。インドを第二波が襲うほんの数日前、モディ首相と保健大臣は、新型コロナウィルスへの勝利宣言を出していたのである。モディ首相は、「世界経済フォーラム」において、新型コロナとの闘いでインドは世界の模範になるであろうとぶち上げた。インドの世界最大のワクチン製造業者が製造した新型コロナワクチンが、インドは「世界の薬局」と高らかに宣言される中、多くの国に輸出されていた。

モディ政権ははうした楽観的な予想に基づいて、商店街や映画館、クラブ、バー、ホテル、レストラン、公共交通機関、職場などあらゆる場所を開け、形式的に繰り返されるコロナ対策は実際には無視された。新型コロナの感染を抑え込んだと自信を深めたモディ首相やその閣僚、党幹部らは選挙戦に突入していった。健康を守る公的な警告は、無視されるだけではなく、打ち棄てられたのである。新型コロナの爆発的感染に対処するために必要な酸素吸入器や病床、病院の能力強化のために始められた対策は放棄された。人工呼吸器を作り、酸素吸入や濃縮の能力を強化する必要性は忘れさられた。病院の能力を強化し病床を増やすのではなく、とりあえず仮に作られていた病床ですら、解体されていった。

政府はまた、ガンジス川河畔で執り行われる宗教的祝祭「クンブ・メーラ」の開催(3月~4月)を許可し、約500~700万人がコロナ対策なしに参加する結果を招いてしまった。クンブ・メーラがスーパースプレッダーになり、数か月かけて感染が広がっていったのではないかと見られている。この状況の中、政府は、特定の時期を示さないまま、第三波の到来を警告している。そして、デリーなどの都市で仮病院が急造される中、医師や医療従事者、医療機器や資材が不足している。世界中から届けられている緊急支援品は、理由が説明されないまま、空港に山積みにされている。

ブラウン大学公衆保健校の学部長であり、グローバル・ヘルスの専門家であるアシシュ・ジャ教授は、『ワイヤー』誌の取材に応じて「自らが任命した科学顧問からの助言を無視したモディ政権こそが、インドが直面している現在の新型コロナウィルス危機をもたらした主な原因の一つである。」と語った。

病院が生存のためのライフラインにはもはやなりえないように、ジャーナリストを含めた前線の労働者にとって、保険というものも実用的なものではなくなりつつある。保険に加入していたとしても、デリーなどの感染拡大地域で感染してしまれば、どこにも行くところはなく、なす術がないままただ横たわって死を待つのみだからだ。患者が必要とする医療品や医療従事者、病床や病院の施設、酸素吸入器、必要な医薬品が何もないからだ。これまでにデリーでは少なくとも52人、インド全土では100人以上のジャーナリストが亡くなった。

第二波によって中央政府はワクチン投与を急いでいるが、ほとんどの州には、予定開始日の5月1日になってもワクチンのストックがなかった。公式説明は現実とはずいぶん違っている。インドが世界最大のワクチン製造国とは言っても、保健省の説明によれば、この国の全人口13億5000万人の1割にあたるわずか1億4160万人しか、ワクチン1回分を受けていない。完全な投与[訳注:2回分の投与]を受けたのは、全人口の2.9%にあたる4000万人超のみである。このペースでは人口全体がワクチンを受けるまでに2年はかかる計算だ。ワクチンの供給は早くて8月、おそらくは12月近くまでかかる。その時までには、コロナが収束しているか、あるいは、破壊と死の限りを尽くした第二波はもう終わっているだろう。

いわゆるワクチンの大量投与計画は、感染予防対策や医療品の供給、インフラ整備、治療対策がそうであるように、まったく混乱している。そしてそのすべてが、需要に全く追いついていない。かずかずの大規模な失策に加えて、中央政府や各州はまた、実際の死者数を隠し、問い合わせに答えず、科学者や医療専門家からのアドバイスを無視し、こうした危機にあって望ましいレベルの対応からあまりにもかけ離れているということで、非難されている。

Shastri Ramachandran

新型コロナウィルスの変異株を発見するために政府が設置した専門家委員会から著名なウィルス学者のシャヒッド・ジャミールが5月16日に辞任したことが、このことを裏書きしている。彼の辞任は、政府のコロナ対応について彼が疑問を呈してから数日後に起こった。ジャミール博士は最近、インドの科学者は「エビデンスを基にした政策決定に対する頑強な抵抗」にあっていると『ニューヨーク・タイムズ』への寄稿で述べていた。低レベルの治験、ペースの上がらないワクチン投与、ワクチン不足、医療従事者増員の必要性など、彼はインドのコロナ対策の問題を指摘していた。「あらゆる措置が、私の知るインドの科学者から支持を得ている。しかし彼らは、エビデンスを基にした政策決定に対する頑強な抵抗にあっている。」と博士は記した。

死者と死にゆく者たちのディストピアのイメージを浮かび上がらせる小説や映画には枚挙にいとまがない。しかし、インドの現実は、フィクションや映画で想像されたり視覚化されたどんなものよりも、筆舌に尽くしがたく暗いものである。欧州における疫病やスペイン風邪がもたらした破滅的な事態に関する最も真正な説明でさえも、新型コロナウィルスの第二波がインドで引き起こした悪夢に対応するための教訓をもたらしてはくれないのである。(原文へ

※著者は、ニューデリーのジャーナリストで、「WION TV」の編集コンサルタント、IDNの上級編集コンサルタント。

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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