【シンガポールIDN=ナディア・アミラ・ビンテ・カムサニ】
食物廃棄の問題に取り組んでいる学生を中心としたイニシアチブ「アグリーフード」を取材した記事。アグリーフード(ugly food)とは、ただ見た目が悪いというだけで、味も栄養素もきれいな野菜や果物と変わらない。シンガポールでは、年間78万8600トン(1日当たりアフリカゾウ360頭分の重さに相当)の食糧が廃棄されている。(原文へ)
INPS Japan
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【カラチIPS=ビーナ・サルワール】
インド西部のムンバイで26日に起きた大規模な同時多発テロは、米国が対テロ戦争の前線基地としているパキスタンに様々な反響をもたらした。新聞やテレビといった主要メディアの他、パキスタン人が運営するインターネット上のチャットでは同事件の話題で持ちきりだ。
今年9月20日、パキスタンの首都イスラマバードの米国系マリオット・ホテルで起きた自爆テロ事件は『パキスタンの9・11』と呼ばれた。一方、現時点で155人の命が奪われた今回のインドでの事件『インドの9・11』は、さらに大きな衝撃を全世界に与えている。
このテロ事件は印パ間で5回目となる和平協議が行われている最中に起きた。従って、今後印パ両国間および国際社会に及ぼす影響は計り知れないと予測される。
パキスタン人の専門家は印パ国境付近で頻発している暴動に対する政府の弱腰の姿勢を非難。「犯人たちが大量の武器を国内に持ち込んだこと、戦闘員によって人質事件の周到な準備が行われたことについて、インド政府の監視の未熟さが指摘される」と述べた。
テロや暴動を起こす人間には『左派過激派』、『分離独立主義者』、『宗教過激派』といった明確な特徴がある。2006年、テロ関連の暴動でインドでは2,765人、パキスタンでは1,471人が犠牲になった。
「帝国主義国家はこれまでインドネシアからモロッコに至るイスラム国家の独裁政権を支援し、その結果として民主主義の欠如が多くの人々を社会の進歩から取り残してしまった。これこそが今回の事件の背景にある真実だ」と、カラチで働くビジネスマン、Tahir SiddiquiさんはIPSとの取材に応じ語った。
パキスタンのシャー・マフムード・クレシ外相はインド・パキスタンの両国はテロの犠牲者であることを強調。両国が9月に合意した『反テロメカニズム』の強化と、安全保障政策の再検討の必要性を訴えた。
人権保護のための監視機関Human Rights Commission of Pakistan(HRCP)のIqbal Haider氏は「我々はインドの人々の苦悩や怒り、悲しみを理解し共有できる。両国は互いに非難しあうのではなく、テロリストの企みを打ち破り、武装集団の撲滅に向けて結束していかなければならない」と話した。
インドの同時テロ事件がパキスタンに残した波紋について報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩
【ニューヨークIDN-INPS】
今年の「女性に対する暴力撤廃の国際デー(11月25日)」を迎えるにあたり、国連事務総長による「団結しよう。女性への暴力を終わらせるために」キャンペーンは、暴力からのサバイバー、サバイバー・アドボケートおよび女性や女児に対する暴力の予防・撤廃のために活動している人々と団結して立ち上がるよう私たちに呼びかけています。私たちの責務は、こうした人々と連帯するだけではなく、女性と女児の命と健康に有害な影響を及ぼし、また予防が可能なこの世界的な悲劇を終わらせるための解決策や手法を見つける努力を加速させることでもあります。
昨年は、女性と女児に対する様々な暴力の形態の広がりと大きさに関する意識が高まったという意味で、特別な年でした。最近では最も拡散した強力な社会運動のひとつとなった#MeTooキャンペーンを通して、この問題にスポットライトが当たりました。この問題に対する意識は、2018年のノーベル平和賞が、紛争下で行われる女性に対する暴力を終わらせるために活動する素晴らしい2人の活動家、ナディア・ムラド氏とデニ・ムクウェゲ氏に贈られたことで、さらに高まりました。

世界の女性の3分の1以上が、生涯の中で身体的または性的暴力を経験しています。さらに、女性に対する暴力に係る損失は、年間で世界のGDPの2%近く、1.5兆米ドル相当に上るとする調査もあります。
啓蒙活動に留まらず、政府、民間セクター、芸術分野、市民社会団体、学識者、そして関心のある一般市民は、この世界的な悲劇に早急に対処する新しい方法を模索しています。
「(UN Womenが管理している)女性に対する暴力撤廃のための国連信託基金」は、これまで20年間以上にわたって、政策上の約束を確実に女性と女児が利益を得られるものにするための国レベルおよび地域レベルのイニシアティブに投資し、長期的に暴力の予防に貢献してきました。
女性と女児に対する暴力をなくすための国連と欧州連合(EU)による世界的な複数年のパートナーシップである「スポットライト・イニシアティブ」の一環として、私たちは様々なパートナー団体と協力しながら、支援の範囲を広げ、レベルを高めていこうとしています。私たちは、女性に対する暴力を削減し予防するということは、社会を変革していくことだと理解しています。それは、女性と女児の健康を改善し、HIV/エイズや性感染症に罹るリスクを減少させ、経済的な生産性や教育の達成状況を改善し、そして精神疾患や薬物乱用のリスクを減らすのです。

「スポットライト・イニシアティブ」を通して、私たちは、暴力の根本原因とその直接的な影響の両方の問題に対処するために、多くのステークホルダーを動員しています。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に沿ったこのイニシアティブは、「誰一人取り残さない」とするその理念と完全に融合するものです。「スポットライト・イニシアティブ」はまた、既存の成功例や実証されたプログラムを元に、より速く結果を出すための新しい解決方法を取り込んでいきます。
国連ファミリーは、パートナー団体と協力して、法的枠組みと機関を強化し、サバイバーに対するサービスを改善し、社会通念や行動に立ち向かい、より広くジェンダー格差問題に対処しながら、暴力の根本原因に取り組んでいます。
女性と女児に対する暴力を終わらせるのは、短期間で成し遂げられることではありません。私たち全員が協調し持続的な努力を行うことが必要とされます。私たちが行っているこのような努力の結果を示すことが、サバイバー、サバイバー・アドボケート、そして女性の人権擁護に取り組む活動家に対して最も貢献できることだと考えます。(原文へ)
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【ニューヨーク/ナイロビIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】
史上初となる持続可能なブルーエコノミー会議(主催:ケニア外務省、共催:日本政府、カナダ政府)が、ケニアの首都ナイロビで11月26日から3日間に亘って開催される。この会議は、17の持続可能な開発目標(SDGs)で構成される持続可能な開発のための2030アジェンダや、2015年のパリ協定(気候変動)、さらに2017年の国連海洋会議「行動の呼びかけ」を通じて高まる機運を背景に開催されるものである。
ケニア政府は、この会議を「世界初」の取り組みと自負している。
ウフル・ケニヤッタ大統領がブルーエコノミー会議の開催を主導した動機は何なのだろうか。日本政府とカナダ政府が共催としての役割を果たしているのはなぜなのだろうか。また、この会議は、持続可能な開発のための世界共通目標やアフリカのアジェンダ2063にどのように貢献していくのだろうか。
ケニア政府高官のミケニ・ジャフェット・ンティバ水産・水産養殖・ブルーエコノミー総局長が、これらの質問に答えてくれた。
持続可能なブルーエコノミー会議の意義は、SDGの第14目標で強調されている。つまり、海洋は、地表の4分の3を覆い、地球の水の97%、容積に換算すると動植物の生存圏の99%を占めている。

30億人以上が、海洋と沿岸の生物多様性に依存して生活している。世界全体でみると、こうした海洋資源と関連産業の市場価値は、年間3兆ドル(全世界のGDPの約5%)に相当するとみられている。
海洋には、確認できているだけで約20万の生物種が生息しているが、未確認のものも含めると、その数は数百万を上回るとも言われている。海洋はまた、人間が作り出す二酸化炭素の約30%を吸収し、地球温暖化の影響を緩和する機能を果たしている。
海洋はまた、世界最大の動物性タンパク質の供給源となっている。世界で30億人以上が動物性タンパク質の主な供給源として海洋に依存している。海面漁業で直接・間接的に生計を立てている人々は、2億人以上にのぼる。
ケニアが打ち出している長期開発計画の目標は、力強くかつ持続可能な経済成長を実現し、SDGsが達成されることとなっている2030年までに、すべての国民に高品質な生活環境を提供することを目指すとしている。
ンティバ総局長は、「この目標を達成するため、ケニア政府は国家目標の1つとして、従来慣れ親しんできた『グリーンエコノミー』を補完する新たな基盤としてブルーエコノミーに注目していくとしています。この目標は、アフリカ連合アジェンダ2063とSDGs全般に沿うものでもあります。」と語った。

アジェンダ2063(2013年に発表された、アフリカ連合創設100周年を迎える2063年までのアフリカ開発の長期ビジョン)は、「(50年後のあるべきアフリカの姿として)アフリカの市民たちの力で前に進む、統合され、繁栄し、平和な アフリカ。国際社会でそのダイナミックな存在感を発揮するアフリカ」を描いている。またこの長期開発ビジョンは、包摂的で持続可能な開発に根差した繁栄するアフリカ。政治的に結びつき、汎アフリカ主義とアフリカ・ルネッサンスの理想に基づく、今日よりもはるかに統合されたアフリカを描いている。こうした願望には、ブルーエコノミーで明確に表明された理念が含まれている。
ンティバ総局長は、2016年の8月に史上初アフリカでの開催となった第6回アフリカ開発会議(TICAD6)をナイロビで成功裡に主催したことがケニア政府にとって、「大きな自信となった」と指摘した。同サミットでリーダーシップを発揮したケニア政府は、この実績を教訓に、持続可能なブルーエコノミー会議の主催と、とりわけこのテーマでアフリカ諸国をリードする役割を申し出た。
TICAD6には、日本の安倍晋三首相をはじめ、アフリカ52か国から35人の国家元首・首脳級の代表、その他合計で7000人以上の各方面の代表(開発パートナー諸国やアジア諸国、国際機関及び地域機関ならびに民間セクターやNGOなど市民社会の代表等)、が参加した。

「TICAD6開催中、ケニア水産・水産養殖・ブルーエコノミー総局は船舶・海事総局の支援を得てブルーエコノミーに関するサイドイベントを主催したところ、アフリカ諸国の閣僚や政府高官をはじめ、開発パートナー、国際機関、NGO、官民セクター、金融機関の代表が参加するなど大きな注目を浴びました。」と、ンティバ総局長は語った。
その際、ブルーエコノミーは、アフリカの持続可能な開発と経済成長につながる新たなフロンティアであるという認識がほぼ全会一致で示された。TICAD6の成果文書として発表されたナイロビ宣言には、中でもブルーエコノミーの推進が謳われている。
河野太郎外相は、10月7日の閉会セッションで、「…持続可能な発展のためには、経済の多角化及び価値の付加の必要性を確認した。…また、海洋安全保障や法の支配を強化すると共に、ブルーエコノミーを推進する重要性も繰り返しました。」と語った。
カナダ政府が持続可能なブルーエコノミー会議の共催を決定した理由について、ンティバ総局長は、ケニアとカナダの首脳が、最近開催された英連邦首脳会議(場所:ロンドン)に出席した機会等を通じて、ブルーエコノミーに関する話題について「幅広く相談」してきた、と説明した。両首脳は、英連邦首脳会議に出席した際、ブルーエコノミーを推進するパートナーとして経済成長に資する海洋資源を活用する方策を探ることで合意した。

「『ブルーエコノミー』を論理的に分析すると、結局のところ、ケニヤッタ大統領が次の5年間の主要課題として今年発表した『ビッグ・フォー(the Big 4)』アジェンダに行きつきます。」と、ンティバ総局長は語った。このアジェンダの4つの柱とは、とは、(1)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、(2)食料・栄養の保障、(3)製造業の推進、(4)手ごろな住宅の確保である。
「例えば製造業の推進についていえば、アジェンダが対象とする範囲は、ブルーエコノミーに直接関連して生じる機会を十分に利用できるよう、エンジニアリングに投資したり、新技術や科学的基礎に基づくアイデアを活用するなど、かなり幅広いものとなっています。」と、ンティバ総局長は語った。
こうした機会には、船舶、運送、国際海洋貿易全般が含まれる。海上輸送は、造船、船の修繕、船舶登録、船乗り業、港湾の運用、保険業、陸上を基地とする補助支援や金融サービスなど、従来ケニアがほとんど活用してこなかった数多くの就業機会を創出する。
漁業は、世界の食と栄養の安全保障に貢献する主要な構成要素である。海洋漁業部門だけでも、毎年世界全体のGDPに2700億ドル貢献している。
ケニアの世界経済への寄与度は現時点ではかなり低いレベルに留まっているが、ブルーエコノミーが生み出す機会を活かして将来的には寄与度を高めていきたいとしている。

世界銀行の試算では、ブルーエコノミーは世界全体で年間(世界全体のGDPの3%にあたる)1兆5000億ドルの経済規模を生み出し、漁業、水産養殖、沿岸および海洋観光、研究活動等の分野で約3億5000万人に雇用機会を提供すると予想されている。
この内、西インド洋諸国(コモロ、レユニオン、ケニア、マダガスカル、モーリシャス、モザンビーク、セイシェル、ソマリア、南アフリカ共和国、タンザニア)がブルーエコノミーから恩恵を受ける経済規模は2200億ドルだが、ケニアが占める割合はその20%にとどまっており、しかも主に観光収入によるものである。「このことは、観光以外のセクターにおいても、ブルーエコノミーから利益を得られる余地が十分にあることを示唆しています。」とンティバ総局長は指摘した。
「全体的に言えば、ブルーエコノミー会議は、『持続可能性』と『生産性』という2つの柱を前提としています。」とンティバ総局長は語った。この会議を契機に始まる世界的な対話やパートナーシップは、多くの国々にとって国民の生活を一変させるものになると確信しているンティバ総局長は、「はっきり言えることは、(ブルーエコノミーの推進により)『ビッグ・フォー』アジェンダが実現に向けて大きく前進し、とりわけここケニアで主要な問題となっている、国民の暮らしが良くなっていくということです。」と語った。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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【ニューヨークIDN-INPS】
今年の「女性に対する暴力撤廃の国際デー(11月25日)」を迎えるにあたり、国連事務総長による「団結しよう。女性への暴力を終わらせるために」キャンペーンは、暴力からのサバイバー、サバイバー・アドボケートおよび女性や女児に対する暴力の予防・撤廃のために活動している人々と団結して立ち上がるよう私たちに呼びかけています。私たちの責務は、こうした人々と連帯するだけではなく、女性と女児の命と健康に有害な影響を及ぼし、また予防が可能なこの世界的な悲劇を終わらせるための解決策や手法を見つける努力を加速させることでもあります。
昨年は、女性と女児に対する様々な暴力の形態の広がりと大きさに関する意識が高まったという意味で、特別な年でした。最近では最も拡散した強力な社会運動のひとつとなった#MeTooキャンペーンを通して、この問題にスポットライトが当たりました。この問題に対する意識は、2018年のノーベル平和賞が、紛争下で行われる女性に対する暴力を終わらせるために活動する素晴らしい2人の活動家、ナディア・ムラド氏とデニ・ムクウェゲ氏に贈られたことで、さらに高まりました。

世界の女性の3分の1以上が、生涯の中で身体的または性的暴力を経験しています。さらに、女性に対する暴力に係る損失は、年間で世界のGDPの2%近く、1.5兆米ドル相当に上るとする調査もあります。
啓蒙活動に留まらず、政府、民間セクター、芸術分野、市民社会団体、学識者、そして関心のある一般市民は、この世界的な悲劇に早急に対処する新しい方法を模索しています。
「(UN Womenが管理している)女性に対する暴力撤廃のための国連信託基金」は、これまで20年間以上にわたって、政策上の約束を確実に女性と女児が利益を得られるものにするための国レベルおよび地域レベルのイニシアティブに投資し、長期的に暴力の予防に貢献してきました。

女性と女児に対する暴力をなくすための国連と欧州連合(EU)による世界的な複数年のパートナーシップである「スポットライト・イニシアティブ」の一環として、私たちは様々なパートナー団体と協力しながら、支援の範囲を広げ、レベルを高めていこうとしています。私たちは、女性に対する暴力を削減し予防するということは、社会を変革していくことだと理解しています。それは、女性と女児の健康を改善し、HIV/エイズや性感染症に罹るリスクを減少させ、経済的な生産性や教育の達成状況を改善し、そして精神疾患や薬物乱用のリスクを減らすのです。
「スポットライト・イニシアティブ」を通して、私たちは、暴力の根本原因とその直接的な影響の両方の問題に対処するために、多くのステークホルダーを動員しています。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に沿ったこのイニシアティブは、「誰一人取り残さない」とするその理念と完全に融合するものです。「スポットライト・イニシアティブ」はまた、既存の成功例や実証されたプログラムを元に、より速く結果を出すための新しい解決方法を取り込んでいきます。
国連ファミリーは、パートナー団体と協力して、法的枠組みと機関を強化し、サバイバーに対するサービスを改善し、社会通念や行動に立ち向かい、より広くジェンダー格差問題に対処しながら、暴力の根本原因に取り組んでいます。
女性と女児に対する暴力を終わらせるのは、短期間で成し遂げられることではありません。私たち全員が協調し持続的な努力を行うことが必要とされます。私たちが行っているこのような努力の結果を示すことが、サバイバー、サバイバー・アドボケート、そして女性の人権擁護に取り組む活動家に対して最も貢献できることだと考えます。(原文へ)
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【ニューヨークIDN=サントー・D・バネルジー】
ハイチ系アメリカ人で建築家のロドニー・レオン氏の作品「帰還の方舟」がニューヨークの国連本部に展示されている。奴隷制度と、400年以上にわたって続いた大西洋奴隷貿易の犠牲者を悼むものだ。
この記念碑は、「奴隷および大西洋間奴隷貿易犠牲者追悼国際デー」にあたる2015年3月25日に建立された。この日はまた、一部の欧州諸国や米国のポピュリストにより顕在化してきている人種差別と偏見の危険に対する意識を喚起することをめざした日でもあった。
それから3年が経過し、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、大西洋奴隷貿易の廃止200周年記念のフォローアップとして、「大西洋奴隷貿易・奴隷制度に関する教育展開プログラム」に関する報告書(2015年8月1日~18年7月31日)を国連総会に提出した。同報告書によると、国連広報局はこの3年間、毎年記念日に併せて以下のテーマ(「アフリカ系ディアスポラの遺産と文化」「アフリカ系の人々の遺産と貢献」「自由・平等を求める勝利と闘争」)を設けた記念イベントを実施している。
マリア・フェルナンダ・エスピノサ・ガルーセ国連総会議長は11月21日、報告書の紹介にあたって、奴隷貿易によって数百万人のアフリカ人が搾取されたと語った。議長は、「この大規模な悲劇の影響はいまだに続いています」と指摘したうえで、加盟国に対して、奴隷貿易に関する理解促進に努めるよう強く訴えた。また、「人種差別に対抗する最大限の努力をしなければなりません。」と述べ、教育プログラムと啓発活動に取り組む重要性を強調した。
エクアドルの国連大使であるエスピノサ議長は、奴隷制度の犠牲者を悼むためには、奴隷の子孫に影響を与えている問題を国際社会が理解しなくてはならない、と述べた。彼女は、世界の4000万人が現代の奴隷制の犠牲者であり、実行3年目にある持続可能な開発目標(SDGs)に沿ってこうした慣行に即座に終止符が打たれねばならないと加盟国に呼びかけた。「搾取と不平等を終わらせよう」と議長は訴えた。

カリブ共同体(CARICOM)を代表して、バハマのシーラ・カーリー大使は、400年以上続いた大西洋奴隷貿易の犠牲者1500~1800万人(推定)のことを決して忘れてはならない、と指摘したうえで、「これは人類の歴史においてもっとも暗いチャプター(一章)です。つまり、人間が単なる商品に貶められ、植民地事業者の富を増やし現状維持をはかるための手段として搾取されたのです。」と述べた。
奴隷の子孫が人口の多数を占めるCARICOMは、奴隷貿易の教訓に着目するあらゆるレベルの取り組みを支持するとカーリー大使は述べ、奴隷貿易の原因と帰結を将来世代に理解させるために教育機関と市民社会に協力してもらうプログラムの立ち上げについて言及した。
「世界は、この筆舌に尽くしがたい悪が社会に再び蔓延ることのないように決してこのことを忘れてはなりません。」とカーリー大使は述べた。国際社会は人種差別と偏見の危険について教育し意識を喚起しなくてはならない。「奴隷貿易の犠牲者に対する追悼の気持ちは、現代的な形態の奴隷制や児童労働、人身売買を打倒する決意を強化する推進力とならねばなりません。」と、カーリー大使は訴えた。

リヒテンシュタインの代表ゲオルグ・ヘルムート・エルンスト・シュパルベル氏は、奴隷制は今も存続しており、「実のところ、今日の世界には、大西洋奴隷貿易が最も激しかった時期よりも多くの奴隷が存在しています。」と述べた。
シュパルベル氏はまた、「現代的な意味での奴隷制と見なしうる状況下に推定4000万人が生きています。」と指摘し、同国の取り組みを紹介した。これは、世界の金融セクターが参考にできる実行可能な措置を創出することを目指したものだ。シュパルベル氏の見解では、戦争犯罪や人類に対する罪のカテゴリーで奴隷制を訴追できる国際司法裁判所(ICC)を巻き込むことが必要だと考えている。
キューバのアナヤンシ・ロドリゲス・カメホ国連大使は、かつての植民地宗主国は、西半球に奴隷貿易を導入することによって「人類に対する罪」を犯したと指摘した。

カメホ大使は、「征服と植民地化、奴隷制、奴隷貿易から利益を得た者には責任があり、これらの恐るべき犯罪に対する責任をとり、賠償をしなくてはなりません。」と強調した。また、キューバの人々は自身のアフリカ系ルーツを大変誇りに思っていると指摘しつつ、現代の奴隷制を廃絶するための努力を一層強化するよう訴えた。
シエラレオネのフランシス・ムスタファ・カイカイ大使は、奴隷貿易の遺産に対抗し、犠牲者の尊厳を回復することの重要性を強調した。カイカイ大使は、教育の役割を強調して、制度的な人種差別、差別一般や偏見のような今日の難題は、奴隷貿易というルーツを知ることなしに理解することができない、と述べた。
大西洋奴隷貿易について、小学校から大学に到るあらゆるレベルで教えられねばならない。「シエラレオネは、記念イベントの隠された真価は、(奴隷貿易で)失われた命や逞しく生きる子孫たちを称えることだけではなく、アフリカ出身者の子孫とアフリカとの間を架橋することにあると考えています。」とカイカイ大使は述べた。
カタールのアラノード・カシム・M・A・アルテミミ大使は、各加盟国は、奴隷貿易の残酷さと人種主義や不寛容の危険を次世代に伝えるための努力を推し進めなければならない、と述べた。民族的・宗教的背景に関わりなくあらゆる人間が保護されねばならないと呼びかけ、カタール政府はあらゆる形態の奴隷制を拒絶すると述べた。同国は、寛容と理解を促進するカリキュラムを採用しており、全国レベル・国際レベルにおいて人身売買と闘うために履行される取り組みについても言及した。
インドのパウロミ・トリパティ大使は、大西洋奴隷貿易は「記録のある人類の歴史上、もっとも悲劇的で非人道的なもののひとつであることは疑いの余地もありません。」と述べた。それは、強欲と、利益の反道徳的な追求の成せる技であった。数多くの人々の人生を破壊し、アフリカや南米、カリブ海地域社会の社会経済的な成り立ちを変えてしまった。「ガバナンスが存在しない無法地帯のグローバル化がもたらしたものの一例だ。」と、トリパティ大使は述べた。
トリパティ大使は、根無し草になったアフリカ出身者たちが人種差別と抑圧に直面した事実に触れ、国連広報局と国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が行っている意識喚起プログラムへの支持を表明した。

ユネスコは1994年、ベナンのキダで「奴隷ルートプロジェクト」を正式に立ち上げた。これは、大きな歴史的出来事を無視したり隠蔽したりすることは、人々の間の相互理解や和解、協力の妨げになるというユネスコの組織理念に発しているものである。(原文へ)
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【IDN東京=石田尊昭】

1858年に生まれ、1954年に没した尾崎行雄。今年12月24日に、生誕160年を迎えます。
去る10月19日、当・尾崎財団主催による「憲政の父・尾崎行雄生誕160年の集い」を憲政記念館にて開催しました。(当日の映像はこちらへ)
全国から120名超の関係者・協力者の方々にお越し頂き、当財団会長の大島理森衆議院議長、理事長の高村正彦元外務大臣出席のもと、盛大に執り行うことができました。
特に、尾崎の選挙区であった伊勢から、NPO法人咢堂香風の皆様20名がお越し下さり、同団体理事長の土井孝子さんからは大変貴重な講演をして頂きました。また、途上国・被災地支援に取り組むNPO法人一冊の会の皆様も団体でお越し下さいました。
さらに、衆参両議院から代理を含む多くの国会議員の皆様、そして当・咢堂塾出身の地方議会議員の皆様も多数ご参加頂きました。
祝電・メッセージも多数寄せられ、当日はその中から、安倍晋三内閣総理大臣、枝野幸男衆議院議員(立憲民主党代表)、鈴木健一伊勢市長のメッセージを披露させて頂きました。
当日ご参加頂いた皆様、メッセージをお寄せ頂いた皆様、また当日は出席できなくても財団をいつも応援して下さっている皆様に、改めて心より感謝申し上げます。
尾崎生誕160年にあたり、新聞でも尾崎が取り上げられています。
去る7月には、中国新聞セレクトのコラムを書かせて頂きましたが、その中国新聞10月25日付け第1面「天風録」でも尾崎が取り上げられました。
執筆されたのは、中国新聞東京支社編集部長兼論説委員の長田浩昌さんです。
紙面を通じて多くの皆様に尾崎を知って頂き、これからの民主政治・議会政治発展の一助となれば幸いです。
INPS Japan
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【ニューヨークIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】
「リーチング・クリティカル・ウィル」のレイ・アチソン代表は、『第一委員会モニター2018(11月5日号)』の中で、「もし今年の第一委員会を表す単語をひとつ選べと言われたら、『Contentious(争い・論争)』が候補の上位に挙がってくるだろう。言葉のあらゆる意味において、非難と拒絶の度合いが増し、外交の場におけるただの罵りあいに近くなってきている」と述べている。
アチソン氏が語っているのは、10月8日から11月9日にかけて開かれた第73回国連総会第一委員会(軍縮・安全保障問題)のことである。

アチソン氏の見方は、国連総会が出している非公式の会議記録を詳細に読むことで確認できる。また、「核兵器なき世界」の実現に向けて国連に焦点をあてたイニチアチブや行動のためのプラットフォームであるUNFOLD ZEROも、国連総会の議論に深い分断が見られたとの見方で一致している。
第一委員会のイオン・ジンガ議長(ルーマニア国連大使)は閉会の挨拶で、「加盟国の行為が、我々皆が向き合わなくてはならない結果をもたらすことから、軍縮と国際安全保障は、あなた方(=各加盟国)の行動にかかっているのです。」「つまり、この委員会を通じて我々がいかに共通の目標を達成できるかは、各加盟国の委員会に対するアプローチの仕方にかかっているのです。」と語った。
ジンガ議長は、4週間にわたった審議の成果について、第一委員会は総会に対して68本の決議・決定案を送ったと述べた。その多くが投票によって可決されたものである。そのうち、26本は無投票によるものだった。これは、第72回国連総会の時の全会一致可決率48%よりも低い割合である。

一部の代表は、投票後に自らの立場を説明する中でこうした傾向について触れ、以前なら全会一致で可決されていたような内容の多くの決議案が、今会期では記録投票に付されたと述べた。実際、一部の代表は、サイバー空間における責任ある行動を加盟国に求める規範設定的な指針作りを目的とした同じような内容の2本の決議案が記録投票に付されたことは遺憾である、と述べた。
そううちの一つが、ロシアが提案した決議案「国際安全保障分野における情報及び電気通信分野の進展」(A/C.1/73/L.27.Rev.1)で、委員会は賛成109、反対45、棄権16で可決した。これにしたがって総会は、2019年に公開作業部会を開くかどうかを、加盟国の責任ある行動に関する規則・規範・原則を全会一致で策定することを含め、決定することになる。
そしてもう一つが、米国が提案した決議案「国際安全保障の文脈におけるサイバー空間での責任ある国家行動」(A/C.1/73/L.37)で、委員会は、賛成139、反対11、棄権18で可決した。この決議の文言によって、総会は、2019年に設置される予定の政府専門家グループの支援を得ながら、情報安全保障の分野における現在および将来の脅威に対処する協力措置について研究を継続するよう事務総長に要求することになるだろう。ここには、加盟国の責任ある行動に関する規則・規範・原則を決定することが含まれる。

一部の代表らは、ロシア提出の決議案の内容には昨年までの決議案とは異なった点があり、「政府専門家グループ」による報告書の内容が意味を捻じ曲げる形で引用されていることから決議案を変容させてしまうような部分があったと指摘した。他の代表らは、米国案は新たに別の政府専門家グループの設置を呼びかけているが、任務も従前のものと同じであり、メンバー構成についても従来と同じような選択基準であると語った。
議論が続く中、ロシア代表は、[国連の]ホスト国である米国の意見と合わない国の代表の一部が国連入りを米国によって拒まれている、と語った。この政府間フォーラム(=国連)に誰を出席させるかは各国政府の裁量に委ねられており、選ばれた代表には無条件で入国許可が与えられるべきだ、とロシア代表は語った。
ロシアの批判は、第一委員会を担当するロシア連邦外務省の局長が、ホスト国である米国によってビザ発給を拒まれた件に絡んでいる。驚くべき事態であった。
「審議と採決は、核兵器国の間で高まる緊張と、非核兵器国と核兵器に安全保障を依存している国々との間の深まる分断という環境の中で行われた。」とUNFOLD ZEROは見ている。
UNFOLD ZEROは、国連創設を記念して始まった「国連軍縮ウィーク」(10月24~30日)の間、「分裂した国連総会」が核軍縮関連の決議案の投票を行っていた、と指摘した。

「核の脅威を低減する」と題されたインド提出の決議案は、賛成票127(そのほとんどが非同盟諸国)を得た。核武装国や欧州諸国からの支持は得られなかったが、それは、この決議が中国・フランス・ロシア・英国・米国による核リスク低減策だけを呼びかけていて、インド・パキスタン・北朝鮮・イスラエルを対象から外していたからだ。
非核兵器国のグループが提出した決議案「核兵器システムの作戦態勢の低減」は、これよりも多い173カ国の賛成を得た。北大西洋条約機構(NATO)諸国や、4つの核兵器国(中国・北朝鮮・インド・パキスタン)も賛成している。
核兵器禁止条約(核禁条約)に関する決議案には、2017年7月に122カ国が賛成した。これは、核禁条約に署名した国の数よりも多い。核禁条約にはこれまでに68カ国が署名しているが、そのうち批准を済ませているのはわずか19カ国である。投票結果からすれば、署名国はもっと増えてくるだろう。
しかし、核兵器国や、NATO・オーストラリア・日本・韓国のように核の傘に依存している国々はこの決議には賛成しなかった。核保有国やその同盟国の反対は、これらの国々が核禁条約に参加する意思がないことを示している。
一般的には、これらの国々は核禁条約の義務に拘束されることはない。しかし、同条約が再確認しているように、核兵器使用を違法とする慣習国際法が、核禁条約に加入するか否かに関わらず、すべての国々に適用されることになる。
インドが提出した決議案「核兵器使用の禁止」は、インドに加えた3つの核兵器国(中国・北朝鮮・パキスタン)を含め、120カ国の賛成を得た。
一部の非核兵器国は、インドが1998年に核実験を行って核保有国となったことから、同決議案に例年反対している。インドは、核兵器の人道的影響に関する国際会議にインドが参加したこと、同会議が核兵器の使用を予防する重要性に焦点を当てていたことから、同決議案への反対姿勢を考え直すように諸国に呼びかけている。
UNFOLD ZEROはさらに、「核軍縮に関する国連ハイレベル会議」に関する以前の国連の決定を確認する決議案(賛成143カ国)にも触れている。「核軍縮に関する2013年の国連総会ハイレベル会議へのフォローアップ」と題されたこの決議案はまた、包括的な核兵器禁止条約(NWC)の交渉入りも訴えている。これは、(核保有国が含まれていない核禁条約とは異なり)核保有国も含めて核兵器を禁止する条約案である。
ハイレベル会議は、一部の核保有国も含めて力強い支持を得てはいるが、まだ十分な政治的推進力を得ていない。同決議案は、ハイレベル会議の実施期日には触れなかった。
国連総会はさらに、核兵器やその他の大量破壊兵器のない地帯を中東に創設することに関する会議を2019年までに招集する決定も採択した。
中東非大量破壊兵器地帯という目的自体は別の決議(賛成174)によって国連加盟国のほとんどによって支持されているにも関わらず、「法的拘束力のある条約を作成するため」に2019年の会議招集を求めるこの決議案にはわずか103カ国の賛成しか集まらなかった。
決議案にあまり多くの国々が賛成しなかった理由は、中東に非大量破壊兵器地帯を創設する条約を具体的に策定し交渉入りするには、中東のすべての国々の参加が必要だと考えているためだ。しかし、今のところ、少なくとも1つの国(イスラエル)が、そうした地域条約の作業に入る予定がないとしている。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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【ニューヨークIDN=ラドヴァン・アキーム】
「世界最悪の環境災害一つ」に数えられるアラル海の縮小により被害を受けた地域は、中央アジア諸国の国境を越えて広範囲に及んでおり、国際社会による早急な対策が求められている。
アラル海の干上がった湖底から舞い散る塩分と有害物質を含んだ埃は、風に運ばれてアジアや欧州に暮らす人々や、遠くは人口が疎らな北極圏にまで達する事態となっている。

縮小が始まる前のアラル海は、カスピ海、北米の五大湖、アフリカのチャド湖に次ぐ、世界第4位の湖水面積(日本の東北地方とほぼ同じ:INPS)を誇り、中央アジアの砂漠地帯に位置するオアシスとして近隣の諸都市を潤していた。当時のアラル海は豊かな漁場であり、沿岸諸都市はリゾート地としても恩恵を受けていた。しかし1960年代以降、湖面が急速に縮小しはじめた。この主な原因は、当時のソ連中央政府が、アラル海に流入するアムダリヤ川とシルダリア川の水量を綿花栽培と稲作の灌漑用水として大規模に流用するプロジェクトを開始したためである。その結果80年代末には、かつての豊かなオアシスは、塩分を含む白いひび割れた湖底が露出し、錆びついたかつての漁船が島々のように点在する砂漠地帯に変貌してしまった。
以来、大きく縮小したアラル海の救済を目指すプロジェクトが着手されるようになった。かつてのアラル海の北部に残った湖面地帯(=小アラル海)では、(1991年にソ連から独立した)カザフスタンが救済プロジェクトを展開し、成果を見せている。当初は、シルダリア川から流入する水が砂漠に流出するのを防ごうと、地元住民が土盛りの堤防を建設するところから始まった。(2005年にはカザフスタン政府が本格的なコカラル堤防を建設:INPS)
堤防で南端を堰き止め水位が回復してくると、動植物がこの地に戻れるよう生物学者らが専門的な支援を行った。こうした努力が実り、小アラル海の水位は50センチにまで回復、1リットル当たりの塩分濃度も低下し、再び魚が生息できる環境が整いつつある。現時点で約20数種類の魚が再び生息するようになっている。

カザフスタン領内のこうした取り組みにより、小アラル海は徐々に回復しつつある。しかし、その範囲は、かつてのアラル海の水域の20分の1に過ぎず、残りの地域の大半は、今でも生物が生息できない砂漠のままである。
カザフスタン政府は行動計画の策定に続いて世界銀行から「シルダリア川流路管理及び北アラル海プロジェクト」(2フェーズ、総額20億ドル)に対する融資を獲得することに成功している。小アラル海の再生が成し遂げられたことにより、科学者等の間では、アラル海そのものの再生も可能ではないかとの期待が高まっている。しかし、それを実現するには、十分な資金と科学的なアプローチを伴う政治的な意思がなければならない。
そのためにはまず最初に、ウズベキスタンとトルクメニスタンで長年使用してきた運河を改善する必要がある。第2に、アムダリヤ河口デルタに作られている人口湖(毎年夏季には干上がってしまう)の使用をやめ、湖面が残っている大アラル海西部に水の流れを再誘導する必要がある。そして第3に、深刻な生態系上の危機にも関わらず、ウズベキスタンとトルクメニスタンで引き続き産業規模で生産されている大量の水を必要とする綿花や稲作栽培を放棄する必要がある。
もしこのまま有効な対策が講じられず、アラル海が消滅することになれば、その悪影響は長期にわたり世界中に及ぶ大惨事となることを誰もが認識している。アラル海の縮小により、これまでに影響を受けた人々の数は既に500万人を上回っている。これらの人々は、この環境上の大惨事に直面して、呼吸器疾患、食道疾患、喉頭がんと診断されたり、中には失明した人々もいる。

こうした状況を背景に、アラル海救済国際基金の設立国5か国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)は、2018年8月24日に実に9年ぶりとなるサミットをトルクメニスタンで開いた。この間、各国はアラル海について真剣な交渉を必要とする様々な課題を抱えていたが、様々な対立から機会を逸していた。
ところが現在は、全体的な議題のなかでも最も問題含みの課題についてさえ合意していく意向を表明するなど、これら中央アジアの5か国は、このところ目に見えて関係改善の方向で推移している。こうしたことから、アラル海を巡る協力関係についても、同様の前向きな動きがみられるのではないかと期待されている。
大アラル海を救うためにかかるプロジェクト費用は、小アラル海対策のものを遥かに上回ると見られている。しかし、国際社会が抱えている懸念と、国際調査チームが導き出した、アラル海が完全に消滅した場合に予想される恐るべき結果に鑑みれば、大アラル海救済のための十分な資金支援を集めることは問題ないだろう。消滅しつつある湖とそこに水を供給する一本の水系によって繋がっている5か国の間には、アラル海の救済に向けて政治的意思を喚起せざるを得ない十分な理由がある。
したがって、もしウズベキスタンが、大アラル海を救済する用意があることを宣言するならば、関連当局は、干上がった湖底で石油・ガスの採掘・生産をするプロジェクトを断念する必要があることを覚悟しなければならない。つまり、一方では自然環境と住民の健康、そして他方では炭化水素(=石油や天然ガスの主成分)の生成からあがる架空の収入の、どちらかを選択するよう迫られることになる。

トルクメニスタンでサミットを開いた主催者らは、この点を念頭に、環境保護の利点を訴えて、主要な金融機関や国際機関、外資系企業、ビジネス界全般の関心を喚起しようとしている。
アラル海救済国際基金の設立国5か国の首脳がおよそ10年ぶりに集って今年8月に開催した歴史的なサミットが契機となり、大アラル海救済に向けた新たな歴史が開かれ、中央アジアにおける地域間パートナーシップが力強く促進されていくことが望まれる。(原文へ)
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【レイキャビクIDN=ロワナ・ヴィール】
米ロ間の(さらには米ロとその他の国々との間での)緊張が高まる中、今回で14回目となる北大西洋条約機構(NATO)による大量破壊兵器に関する年次会合(アイスランド会合)にあわせて軍縮に関するセミナーが開催されたのは、時宜を得たものであった。
「不確実性の時代における軍縮への実践的なアプローチ」と題されたこのセミナーの構想は、アイスランドのカトリン・ヤコブスドッティル首相が7月にブリュッセルで開催されたNATO首脳会議に出席した際に生まれた。ヤコブスドッティル首相はNATO関係者をレイキャビクに招くにあたり、セミナーの主要議題は軍縮になるだろうと語った。首相はIDNの取材に対して、その理由として「NATO首脳会議では、軍縮が十分に議論されてこなかった。」と語った。

ヤコブスドッティル首相はまた、ブリュッセルで「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の代表らと会う機会を持ち、NATO年次会合のサイドイベントとして開催される今回のセミナーに招待した。
ICANは「核兵器がもたらす破滅的な人道上の結末への注目を集め、核兵器を条約によって禁止するための革新的な努力をしてきたこと」が評価され、2017年にノーベル平和賞を受賞した。
10月29・30両日に開かれたNATO年次会合には、加盟諸国をはじめ、NATO加盟が取り沙汰されているウクライナなどの国々、さらに国連及び包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)などの国際機関から140の代表者が参加し、過去最大規模となった。
NATOのローズ・ガテマラー事務次長は基調講演で、NATOは「あくまでも核不拡散条約(NPT)の枠内にとどまり、核兵器国を置き去りにしたり、これまで積み重ねてきた国際的公約を無視したりするような近道を取ろうとする誘惑と闘わなければなりません。NATOの同盟国は、グローバルな安全保障環境を無視したり、NPTを損なうような軍縮へのアプローチを支持したりしないと明確に主張してきました。」と語った。
最近、ロナルド・レーガン政権で国務長官を務めたジョージ・シュルツ氏や、ソ連の元大統領であるミハイル・ゴルバチョフ氏が『ニューヨーク・タイムズ』に寄稿している。その中でシュルツ氏は、1987年にレーガン大統領(当時)とゴルバチョフ書記長(当時)が署名した中距離核戦力(INF)全廃条約は保持されるべきであると述べ、ゴルバチョフ氏は、対話と交渉に戻るには遅すぎるのだろうかと問いかけた。両者の意見は、今回の軍縮セミナーにおけるパネル討論のたたき台となるものだった。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI、スウェーデン)のタイティ・エラソ氏は、ミサイル防衛が核軍備管理への障害の一つとなっていることと、レーガン大統領とゴルバチョフ書記長が当時協議したのは、中距離ミサイルだけではなく核兵器全般についてであった点を指摘したうえで、しかし「(現在は)軍備管理への政治的意思が存在していません。」と語った。
ICANのベアトリス・フィン事務局長の代理でセミナーに参加したレオ・ホフマン=アクセルム氏は、セミナーの参加者に「現在のところ、核兵器国には軍縮のプランというものが何もないのです。ですからまず、一般的な目標について合意し、兵器を禁止する必要があります。そうしてようやく、圧力をかけ、その目標に向けたすべての必要な措置がとれるようになるのです。」と語った。
アクセルム氏はまた、「留意すべき重要なポイントは、核兵器に依存する国々は、核兵器を違法と宣言する考え方そのものに抵抗しているのです。」と指摘したうえで、「NATOの核抑止力に依存しているアイスランドは現在、核兵器禁止条約に参加せず、核抑止に依存しつづけています。アイスランド国民はこのことを知るべきです!」と語った。

中満泉・国連軍縮問題上級代表は、NATO年次会合だけではなく、このセミナーにも参加し、アントニオ・グテーレス事務局長が新たに5月に発表した軍縮のための国連アジェンダの概要を以下のように説明した。
「軍縮アジェンダの第一の柱は、人類を守るための軍縮です。それは、核兵器とその他の大量破壊兵器の廃絶に加えて、新しい分野で戦略兵器の軍拡競争が勃発するのを防ぐことに焦点を当てたものです。第二の柱は、通常兵器の規制に焦点を当てた「人命を救うための軍縮」であり、第三の柱は、軍縮のためのパートナーシップの強化です。」
中満上級代表はこの機会を利用して、軍縮に関する神話を否定した。「武器の破棄を『安全保障』や『防衛』の真逆と誤って考える一般的な誤解があるにもかかわらず、軍縮はそれほど単純で一枚岩的なものではない。むしろ、それは、さまざまな状況や文脈において応用可能な実践的なツールから成る戦略的資源を政策決定者に提供するものだ。たとえば、廃棄、禁止、軍備管理、制限、削減、不拡散、規制、透明性、信頼構築などに関する措置である。」

他方、日本のピースボートが運航する「オーシャン・ドリーム」号がレイキャビクに短期停泊している。1991年12月の冷戦終結以来で最大規模となったNATO演習「トライデント・ジャンクチャー2018」に参加するためにアイスランドを10隻の艦船が出発してから24時間以内のことである。「オーシャン・ドリーム」号には、1945年の広島・長崎への原爆投下を生き延びた被爆者も搭乗しており、レイキャビク滞在中にアイスランドの学生らに対して被爆体験を語った。
「この被爆者の方々は、『ヒバクシャ地球一周 証言の航海 おりづるプロジェクト2018』の一環として『オーシャン・ドリーム』号に乗船し、彼らの悲劇的な経験を共有し、核兵器が人体に及ぼす壊滅的な影響について人々に教え、政策決定者らと関与し、核兵器なき世界を実現するための世論を喚起する取組みを行っています。」と、ピースボート・ICANのセリーン・ナホリー氏は語った。
アイスランドには軍隊が存在しない事実を前提に、アイスランドがNATO年次会合の主催国になったり、トライデント・ジャンクチャーの実施を容認したりすること以上に、核兵器禁止条約に署名することを求めることが重要なのではないか、との問いに対して、ナホリー氏はこう答えた。「ピースボートやICANではアイスランド政府に対して、すみやかに核兵器禁止条約に参加するように求めています。たとえアイスランドが核兵器禁止条約に加わっても、核兵器国との軍事同盟が維持できなくなるわけではないのです。」
ナホリー氏は「NATOの条約文を見ても、核兵器については何も触れていません。」と指摘したうえで、「NATOの加盟国は拡大核抑止の政策を是認するよう法的に義務づけられているわけではありません。米国と同盟関係にある一部の国はすでに核兵器禁止条約に署名・批准しています。」と語った。
ICANは今年3月、アイスランド議会の核兵器禁止についての決議に関連して、同議会外務委員会に対する意見書を提出しており、その一部にはこう記されている。「核兵器禁止条約は、核軍縮に関して誠実に交渉することを、アイスランドを含むすべての加盟国に義務づけている核不拡散条約の履行に資するものである。そうした交渉は、昨年までの間に既に20年以上にわたって停滞している。NPT自体が、核兵器なき世界に向けた追加的な法的枠組みの創設を想定している。」

加えて、意見書にはこう記されている。「核兵器保有国は、法的拘束力があり、時限を定めた計画に従って核兵器を廃棄することに合意する限りにおいて、核兵器禁止条約に加盟することができる。同様に、他国の核兵器を自国領土に配備することを認めている国も、ある期限までにそれを撤去させることに同意する限りにおいて、核兵器禁止条約に加盟することができる。」
NPTについては2020年に次回の運用検討会議が開催される。2020年NPT運用検討会議の第1回準備委員会会合は、2017年5月2日~12日にウィーン国際センターで、第2回会合は国連欧州本部(ジュネーブ)で2018年4月23日~5月4日まで開かれた。最後の準備会合となる第3回会合はニューヨークの国連本部で2019年4月29日~5月10日まで開かれることになっている。(原文へ)
INPS Japan
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