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「世界と議会」2017年夏号(第577号)

特集:世界の中の日本

■政経懇話会①
 「混迷の時代に日本政治をどう構想するか - 世界史の流れの中で」
 谷藤悦史(早稲田大学政治経済学術院教授)

■政経懇話会②
 「今後のアジア情勢と日本政治の課題」
 ペマ・ギャルポ(桐蔭横浜大学大学院法学研究科教授)

■政経懇話会③
 「モンゴル国と日本の絆 - 世界の平和と発展に向けて」
 ソドブジャムツ・フレルバータル(駐日モンゴル国特命全権大使)


■連載『尾崎行雄伝』
 第七章 政党の受難時代

■INPS
 ついに核兵器が違法化される(ジャナンタ・ダナパラ)

■財団だより

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。

国際安全保障に影響与える東アジアの核拡散

【ローマIDN=バレンティーナ・ガスバッリ】

4月28日で国連安保理決議1540(大量破壊兵器の不拡散に関する決議)の採択から10周年を迎えるのを機に、相も変わらぬ国際安全保障の現状から一歩引いて、長期的なトレンドを分析してみるのもいいかもしれない。

核兵器と弾道ミサイルの拡散による脅威は、21世紀の主要な安全保障上の問題のひとつである。ベルリンの壁崩壊と冷戦終結によって、安全保障の枠組みと安全保障に関する認識は徐々に弱まってきている。

この問題に対処し適切な解決策を生み出していくためには、正確なリスク要因分析とともに、多面的な対応を生み出せる能力が必要とされるだろう。つまり、包括的な核不拡散体制の形成を促進する一方で、いかにして持続的な経済発展のために原子力を安全に制御しえるかを探求していくという課題である。核拡散が国際関係に及ぼす影響は予測し難いが、深刻なものであることは間違いない。

第一に、核兵器と弾道ミサイルの拡散は米ソ二極体制に大きな影響を与え、最も危険な地域紛争を凍結した。これは所謂「新現実主義学派」が発展させてきた主張で、その代表格が国家主体の基本的な原理においては「『より多く』がより良い(=核保有国が十数カ国になった方が世界はより安定する)」という主張を展開した米国の国際政治学者ケネス・ウォルツ氏である。

第二に、核拡散によって戦争のやり方が変わることになるかもしれない。たしかに、冷戦期における米ソ超大国間の競争は、「他の手段をもってする政治の継続」にすぎないものであった。なぜなら、新しい技術(=核軍事技術)のあまりの破壊性ゆえに、現実の戦争は避けられたからだ。しかし他方で、これらの大量破壊兵器が、核報復の脅威をものともしないテロリストや他の非国家主体の手に落ちる恐怖が広がることとなった。

核の野望

核拡散を阻止しようとする国際的な取り組みはたいてい、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)とイランの核の野望に焦点を当てている。両国の指導者らは、依然として国際的な非難と圧力に屈していない。彼らの権力認識においては、国家安全保障と国際的な威信は核兵器に依拠するものであり、多国間外交による懲罰と制裁(安保理決議171818742087、2096および1965)よりも、こうした見方の方が説得力を持っているようだ。実際、核不拡散の包括的なアプローチにおいては、各国の指導者を説得して、国家の威信と国防戦略の源として核兵器能力を追求することを断念させようとしている。

現在の北朝鮮の核危機は、同国の歴史的な核の野望と経済的な苦境抜きには十分理解することはできない。実際、北朝鮮は依然として国際社会から孤立し、経済はほぼ崩壊状態にあり、破滅的な人道危機に直面している。北朝鮮政府が2003年に行った決定(核不拡散条約からの脱退、黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉の開発、核弾道ミサイル実験の再開)は、核拡散に対する国際社会の懸念と、目前の危機に対する近隣諸国の懸念を掻き立てた。

Yongbyon 5MWe Magnox Nucelar reacto/Wikimedia Commons
Yongbyon 5MWe Magnox Nucelar reacto/Wikimedia Commons

その後、北朝鮮による弾道ミサイル開発計画と、核兵器・弾道ミサイル関連知識及び部品が拡散する可能性に対する懸念が高まっている。米国諜報部門の推計によると、北朝鮮はすでに1つもしくは2つの核装置と、弾道ミサイル開発ではノドンミサイル及びテポドンミサイルを保持している。国際原子力機関(IAEA)は、北朝鮮の核開発には2つの段階があるとしている。つまり第一段階は1956年の旧ソ連(当時)との原子力開発に関する基本合意に始まり、第二段階は1986年に寧辺で天然ウランを燃料とする黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉の建設を開始したことに始まる。

国際社会からの非難と国連安保理決議の存在にも関わらず、北朝鮮は短距離及び長距離弾道ミサイルの発射を継続している。最も近いものが7月2日のミサイル発射で、国連による対北朝鮮ミサイル発射実験禁止決議を無視して強行された。また、その際のミサイル発射は、中国の習近平国家主席による韓国への公式訪問を数日後に控えたタイミングで行われた。

核開発問題を巡る多国間協議

北朝鮮による核兵器の追求を阻止しようとする努力は、過去25年の国際安全保障の世界において最も長く継続され、かつ、最も成功しなかったものである。この問題を多国間対話によって解決できる見通しは極めて薄かったが、北朝鮮の核危機は、近隣諸国を6か国協議へと向かわせ、共通の地域安全保障を確立するために協力し合うという興味深い効果も生んでいる。

そうしたなか、いくらか期待の持てる突破口が2005年と2008年にあった。北朝鮮が、開発援助と引き換えに、核計画を放棄することを約束したのだ。しかし、その後の検証枠組みをめぐる対立によって交渉の進展が行き詰った。北朝鮮は依然として米国のテロ支援国家リストにあり、6か国協議は2008年以来再開されていない。

とりわけ最近の2つの動きが、北朝鮮に対する融和と関与を支持する政治的機運を阻害することとなった。一つは、2007年にイスラエルの攻撃によって破壊されたシリアのアル・キバール原子炉の建設に北朝鮮の関与が判明したこと。そしてもう一つは、北朝鮮による核実験の継続である。

3月24日から25日にハーグで開催された核安全保障サミットや国連安保理常任理事国(P5)会合、G7ブリュッセル・サミットの結論では、北朝鮮の核問題は、核不拡散体制やグローバルなテロとの戦いといった世界的な意味合いのみならず、北東アジアと朝鮮半島の安全保障という地域及び局地的な意味合いも持つということが強調されていた。またこれらの会議では、世界的にいかなる核開発計画も許容しない(Global Zero Tolerance)体制と、現在の脅威に対応するための法的拘束力のある取り決めを構築する必要性も、強調されていた。

しかし、北朝鮮の核問題に取り組んでいる主要アクター、すなわち日本、中国、韓国、米国は、北朝鮮の核武装阻止という目標を共有する一方で、この危機を具体的にどう解決するかということについては各々の優先順位が異なるため、今後の展開次第では対立を生む可能性もある。

日本の安全保障上の問題と機会

日本は、東北アジア地域における安全保障提供者としての米国の核の傘の下で保護されてきたため、半世紀以上にわたって、自ら核兵器開発を行う必要性が全くなかった。たしかに、日本の非核姿勢は、1945年の広島・長崎への原爆投下1954年の第五福竜丸事件に対する日本国民の感情的な反発に基づく強固なナショナル・コンセンサス(国民的合意)に深く根差したものとみられている。

Atomic bombing on Hiroshima and Nagasaki/Wikimedia Commons

北朝鮮の攻撃の脅威から自国の領土と国民の生命を守るために、米日韓は弾道ミサイル防衛システムを配備してきた。北朝鮮が2009年から2012年にかけて長距離弾道ミサイルの実験を行っていた間、米国とその同盟国は、この地域の関連情報を収集する諜報ネットワークを構築するとともに、いくつかの弾道ミサイル防衛システムを整備し利用できるようにしたと言われている。さらに米国は2013年4月、悪化する緊張関係に対応するため、グアムに弾道ミサイル防衛システムを導入した。

日米同盟の信頼性をもってしても、北朝鮮からの核の脅威、中国が軍の近代化プロセスを進めて急速に台頭している東アジアの状況、核不拡散体制への世界的な挑戦といった近年の国際状況の変化が、日本に安全保障政策の再考を促す状況を生み出している。そうしたなかで行われた重要なステップが、7月1日の戦後平和憲法の解釈変更である。

閣議決定の形でなされた憲法の解釈変更による「集団的自衛権の一部容認」は、従来の戦後防衛政策を改正しようという歴史的な動きを代表している。今後関連法制が国会の審議を経て整備されれば、日本は特定の状況下において従来禁止されてきた「集団的自衛権」を行使できる例外規定が認められ、自衛のための軍事オプションを拡大できるようになるだろう。例えば、日本国民と、日本国民を保護する任務に従事している日本と「緊密な関係」にある国々の兵士の生命に「明白な危険」があるときは、集団的自衛権の行使が認められるが、その場合でも、自衛隊による軍事介入は必要最小限度に制限されるべきだとされている。

憲法を再解釈することで、日本の領土を防衛或いは国民を保護している同盟国とりわけ米国の兵士に対する支援を行なう上で日本はより積極的な役割を果たせるようになる。このことはさらなる帰結として、同盟の存在理由再考が正当化されることになるだろう。

日本の安全保障に対するアプローチと北朝鮮の核の脅威に影響を与えうるもうひとつの要素は、北朝鮮による核実験に際して国連安保理決議とともに課されていた日本独自による制裁の一部を解除するという最近の決定である。核危機に対する日本のあらたなアプローチは、7月1日に北京で開かれた日朝局長級協議の結果を受けて発表された。制裁の一部解除が実施されるためには、北朝鮮が日本人拉致被害者の再調査を誠実に行うことが条件となっている。

対立しながらの連携

北朝鮮の加速する核活動と挑発的なレトリックに対して中国政府が果たしてきた役割をみれば、地政学的な紛争仲介者として中国がますます重要な位置を占めるようになっていることが分かるだろう。実際、北朝鮮危機を超えて、朝鮮半島の将来的な枠組みが、東アジアにおける地政学的なバランスを根本的に規定するものとなるだろう。

Map of China
Map of China

中国が今後どのようなコースをとるかは、主にこれまで順調な発展をとげてきた中国経済が今後安定的に持続するか否か、顕在化してきている国内の経済・社会問題に政治体制がいかに適応していけるか、そして米国との外交関係をどのようにこなしていけるかによって、決まってくるだろう。米中は朝鮮半島に関しては大枠において共通の目標を有している。すなわち、両国とも安定的で非核の北朝鮮を望んでいるということだ。しかし、これらの目的をいかにして、どのような条件下で達成するかという点を考えてみると、米中間での優先順位や戦略的選好の違いが明らかになってくる。

6か国協議のホスト国、そして北朝鮮の主要な支援国としての中国の役割は、米国の対北朝鮮政策における中国の役割が極めて重要であることを示している。さらに中国が国連安保理常任理事国のメンバーであるということは、北朝鮮に対する国連のいかなる行動に対しても中国が影響力を行使しうるということだ。中国は、北朝鮮にとっての比類のない最大の貿易相手国というだけではなく、食糧やエネルギー支援という形で相当規模の緊急・人道支援を提供しており、これらが北朝鮮の体制を維持するための不可欠なライフラインとなっている。挑発的な核実験やミサイル実験に関して、中国政府が北朝鮮の行動を制御できないことは明白だが、たとえ一時的にでも中国が経済・エネルギー支援を停止されれば、北朝鮮は深刻なダメージを被ることになる。

中国政府はまた、北朝鮮における人道危機が中国への大規模な難民流入を引き起こしたり、北朝鮮の体制が崩壊して政治的空白が生じた場合に、他国とりわけ米国が朝鮮半島に介入してくるような不測の事態を恐れている。(原文へ

※バレンティーナ・ガスバッリは、欧州民主主義・人権機構(EIDHR)の若手専門家。東アジアの地政学的関係、開発問題、世界的な安全保障研究といった領域を得意とする。

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パプアニューギニアで暴力の矢面に立たされる女性たち

【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ

世界で最も民族的・言語的に多様な国のひとつであるパプアニューギニアの山岳地方では、暴力がもっとも火急の問題のひとつとなっている。

「軍用のM16自動小銃や自家製ショットガンのような高性能銃が容易に入手できるようになり、争いに際しての伝統的なルールが崩壊したことで、暴力が激化しています。その結果、とりわけ山岳地方においては、年間で数百とは言わないまでも数十人の死者と、数千人の難民が出る事態になっています。」「紛争地帯で見るような傷がここではみられます。」と、国際赤十字委員会(ICRC)パプアニューギニア事務所のマーク・ケスラー氏は語った。

パプアニューギニアは、山岳地方・島嶼地方・モマセ地方・パプア地方の4つの地方行政区画に分かれている。そして、20の州、ブーゲンビル自治州(ARB)、国家首都地区(NCD)の計22州から成っている。部族紛争は山岳地方において最も激しく、銃を手に入れ人々を戦いに向かわせたりすることが、比較的容易だ。

「天然資源の採取と(国の)液化天然ガスプロジェクトが好景気をもたらし、山岳地方にもカネが流れ込むようになりました。しかし、民衆が自分の資金を投資できるような豊かな経済はここには存在しません。そこで、とりわけ男性に多いケースですが、自分が力を手にした気分になれる武器を購入したり、大麻取り引きに手を染めたりする者が出てくるようになりました。」とケスラー氏は語った。

輸送手段と携帯電話が発達したために、組織的な攻撃を仕掛けることが容易になり、暴力が広がった。ICRCは、パプアニューギニアにおける現代の部族紛争が引き起こす人道上の問題を記録した短編映画『槍から半自動式の銃へ:パプアニューギニアにおける部族紛争の犠牲者』を制作し、国内外の諸団体と協力して、こうした暴力がもたらす影響を軽減する取り組みを進めている。

Mark Kessler, International Committee of the Red Cross (ICRC) chief official in PNG/ Neena Bhandari
Mark Kessler, International Committee of the Red Cross (ICRC) chief official in PNG/ Neena Bhandari

「かつては、戦闘は豚や女性、土地をめぐるものでした。しかし現在の戦闘は、例えば携帯電話をめぐる小さな諍いが原因になっていることがあります。」「片方が大刀で相手に切り付け、攻撃された方は家を焼き打ちにしてやり返す。10日後には家族が家を追われ、数百の家が焼き払われる。時には、土地紛争、資源、魔術をめぐる地域の不満、性的暴力などに関連した重大な問題も起きています。」とケスラー氏は指摘した。

さらにケスラー氏は「今日、民間人や子どもを殺すな、女性をレイプするな、学校や病院を焼き討ちするな、医療関係者を脅すな、といった伝統的な紛争時のルールは尊重されなくなってきています。一方で、性的暴力が部族紛争において増えてきています。」と強調した。

ICRCは、医療の問題として、性的暴力やレイプに対処する医療スタッフを訓練し、対応システムを改善する努力をしているという。

ICRC

「医療の普及は容易ではありません。ここでは女性が、C型肝炎やHIV/AIDS、避妊用ピルやワクチンのリスクから身を守るために医療が必要であることを必ずしも理解していないのです。女性たちがしばしば直面するリスクに妊娠があります。しかし、ほとんどの女性がそのことを語ろうとしません。しかしそんな彼女たちも、あえて警察や医療機関に被害を訴え出ることがあります。それは、自分がレイプされたという証明を入手して、加害者に賠償を請求しようとするときです。」とケスラー氏はIDNの取材に応じて語った。

「しかし、被害者が賠償を受け取ることはほとんどありません。なぜなら、加害者はおうおうにして自分の夫や兄弟、父親だったりするからです。女性は、加害者と同じ村や共同体、時には同じ家の中に住み続けているのです。」

「国境なき医師団」が2016年3月に発表した報告書虐待者の元に戻る』は、警察には要員も訓練も不足しており、加害者が処罰されることはめったにないとしている。報告書の主なメッセージは、被害者が、保護制度の建前と不十分な実態の板挟みとなって、加害者の元に残ることを強制されたり、連れ戻されたりする結果、被害者が繰り返し、よりひどい暴力を経験するようなことがあってはならない、というものだ。

選挙期間中には(最近では今年6月24日から7月8日にかけて実施された)、投票中の緊迫した情勢や開票時の不正行為、当選者の発表が、広範にわたる暴力的な異議申し立てを引きおこし、建物の焼き討ちや死亡者をだす事態へとつながることがある。

選挙期間中にとりわけ危険にさらされるのは、女性の安全だ。「立候補者の支援者は、賄賂や嫌がらせ、時にはレイプすら行うことがあります。特に山岳地方においては、一部の政党が、レイプを選挙期間中の対立候補側への武器として利用しています。」と語るのは、レイタナ・ネハン女性開発機関(LNWDA)の共同創設者で、フィジー女性危機センター(FWCC)が運営する「暴力に対抗する太平洋女性ネットワーク」のメンバーであるヘレン・サミュ・ハケナ氏だ。

Helen Hakena. Credit: 1000PeaceWomen Across the Globe

ブーゲンビル自治州ブカ島のゴゴヘ村の「女性村長」として生まれたハケナ氏は、身近なところで暴力の被害にあい、実態を目の当たりにしてきた。彼女が正義や平和構築、女性の権利の熱心な擁護者になったのはそのためだ。

ハケナ氏はまた、「植民地主義と戦争により、女性が伝統社会の中で備えていたリーダー的役割や紛争解決・保護者的な役割が損なわれています。」「家庭内暴力や性的ハラスメント、レイプ、女性に対する言葉や感情的虐待がよく起こっています。私たちは、政策提言を通じて、女性がかつて担っていた役割を復活させようとしているのです。女性を権力の地位に置くことで、この暴力の悪循環を打破できるのです。私たちはその観点から、政府で働く女性を増やすロビー活動を推進してきました。」とIDNの取材に対して語った。

パプアニューギニアには44の政党があるが、ジェンダー平等を選挙のマニフェストで掲げる政党はほとんどない。2012年の国政選挙に出た女性は135人いたが、そのうち僅か3人しか当選しなかった。

今年の選挙で女性候補は165人に増えたが、他のアジア太平洋諸国に比べると女性候補の割合は圧倒的に低い。今年の総選挙に出た女性は史上最も多かったが、女性国会議員はひとりも誕生しそうにない。

国連開発計画(UNDP)の主任選挙アドバイザーであるレイ・ケネディ氏はIDNの取材に対して、「女性は依然として多くの難題に直面しています。つまり、女性が立候補しないように脅されたり、立会演説中にやじられたりということが報告されています。選挙管理委員会は投票所の職員を訓練して、投票の際に女性と男性では別の列を作らせるようにし、女性がより安全に投票できるようにしています。」と語った。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

パプアニューギニアの一院制国会には111議席あり、そのうち89人が小選挙区から選ばれる。他に20人が州の選挙区から、1人がARBから、1人がNCDから選ばれる。限定的な選考投票制度の下で、有権者は自らの望む候補の名を3人挙げる。

「立候補者の数は、2012年の3443人から2017年には3324人に減っている。山岳地域と南部地域では候補者の数が減っているが、島嶼部ではほぼ横ばい、モマセ地方では増えています。」とオーストリア国立大学クロファード公共政策大学校のテレンス・ウッド研究員は語った。

「有権者の数の減少の大半は、一部の選挙区によって引き起こされているが、その中には、2012年には最も多く立候補者がいた選挙区もある。立候補者の減少の理由としては、立候補者の登録費の上昇のうわさ(結局上がらなかった)や、現職が選挙区で潤沢な資金を使っていることから、新人が現職に勝つ可能性が非常に低いと見られたことが挙げられる。

今年の選挙では、UNDPが100人以上の国際的な選挙監視人を支援した。オーストラリア国立大学が派遣した270人のパプアニューギニア人、トランスペアレンシー・インターナショナルのパプアニューギニア支部が送った400人の同国民に加え、オーストラリア国立大学、英連邦事務局、オーストラリア、英国、ソロモン諸島・ニュージーランド高等委員会、米国、フランス、イスラエル、日本、韓国、メラネシア先端グループ(MSG)、太平洋諸島フォーラム事務局が、選挙監視団を送ることになっている。

ケネディ氏によれば、「選挙監視は、選挙プロセスにおける違法行為を排除するまでにはいかないが、その抑止にはなる」という。実際、英連邦の監視人の中間報告は、選挙人名簿における不正が「広範」にあり、エンガ州の州都において4人が選挙関連の暴力により死亡したとしている。(原文へ

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クリーンエネルギーがケニアのカクマ難民キャンプへ

【カクマ(ケニア)IDN=ジュスタス・ワンザラ】

真っ赤な夕日が、水平線の向こうに徐々に消えていく。ケニア北西部トゥルカナ地区にあるカクマ難民キャンプでは、人びとが慌ただしく夕方の日課に追われていた。遅く買い物に出る人は食料品店に走り、子どもたちは教科書を抱え、母親たちはこの日最後の食事の準備を始めていた。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が管理するこの難民キャンプを急速に闇が包みこむ。ディーゼル発電機や太陽光発電、灯油ランプなどで明かりを確保できる恵まれた立場にいるのは、ほんのわずかな企業と農家だけだ。ケニア北部のほとんどの場所と同じく、主に隣接する南スーダンやブルンジ、ソマリア、コンゴから約17万人の人びとが流れ込んでいるカクマ難民キャンプには電気が通っていない。つまり、明かりやその他の目的のための電気利用は、ディーゼルや太陽光による発電装置へのアクセスが可能な人々に限られている、ということなのだ。

国連の持続可能な開発目標(SDGs)について聞いたことがある難民にとっても、その目標7(すべての人に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する)は、はるか彼方の夢のような話だ。

実際、電気のない生活は、ルワンダ出身のダイアナ・ビュルウェセンゲさんのような難民が5年前にここに来てから学んだことだ。調理や明かりのために彼女が使っている灯油は煙を出し、自身や子どもの健康にとって安全なエネルギー源とはいえない、と彼女は不満に思っている。

太陽光エネルギーは歓迎だが、心配なのは値段だ。「UNHCRから受け取っているお金では、家族を食べさせるのがやっと。調理のために薪や練炭、石炭を使っています。」とビュルウェセンゲさんは語った。

別の難民、ナジマ・ハッサンさん(上の写真の人物)は、自家用の電気のためにディーゼル発電機を使っているが、値段が高いので用途を照明に限っている、という。調理のためには石炭を買わざるを得ない。

The Moving Energy Initiative/ UNHCR
The Moving Energy Initiative/ UNHCR

しかし、ビュルウェセンゲさんとハッサンさんは、この難民キャンプのために安価でクリーンなエネルギーを提供しようとするプロジェクトの恩恵を受けようとしている。このエネルギーは、家庭用と小規模ビジネスの使用には十分な量になるはずだ。

「動くエネルギー構想」(MEI)は、カクマの難民に恩恵をもたらすプロジェクト内容を明らかにした。その中には、カクマ難民キャンプ内に、太陽光発電による情報通信技術(ICT)ハブや難民と地元コミュニティーに奉仕する診療所の建設が含まれている。

MEIは、王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)、エナジー4インパクト、「実践的行動」、UNHCR、ノルウェー難民評議会といった複数の組織によるパートナーシップだ。英国国際開発省が資金を提供し、主なパートナーは、ケニア政府と緊密に協力しているUNHCRである。

このプロジェクトの下で、太陽光発電は、教育と、地元起業家向けの機会創出のために利用される。例えば、携帯電話を充電するビジネスや小規模店舗などだ。難民や地元民は、クリーンエネルギー技術の利用やメンテナンスに関する訓練を受ける。

このコンソーシアムはすでに、難民や難民を受け入れる人々のエネルギー需要に持続可能な形で対処することを目的とした同様のプロジェクトをブルキナファソやヨルダンで進めている。

「キューブ・エナジー」「クラウン・エージェンツ」というケニアの2社がカクマ難民キャンプ事業の実施主体として選ばれている。キューブ・エナジーは、同難民キャンプで活動する「国際救助委員会」(IRC)が運営する2カ所の診療所に太陽光システムを設置し、クラウン・エージェンツは、キャンプに住む難民らと地元コミュニティーのために、太陽光を使ったICT・学習ハブを構築する。ここでは、職業訓練と、地元起業家向けの商業サービスが提供される予定だ。

プロジェクトでは、学習ハブを、地元住民に対して従量制の家庭用太陽光システムを販売する場所として利用する計画だ。この1年間のプロジェクトの重要な側面は、CO2排出の減少や、サービスや生計を立てる機会へのアクセスが向上するとみられることだ。

MEIのプログラム・マネージャーであるジョー・アトウッド氏は、「MEIの目標は、安価で安全なエネルギーを難民に提供するうえで、人道支援関係者が直面する問題に対処することにあります。これまでに多くの試みがなされ失敗に終わってきましたが、私たちは民間部門のスキルと経験を難民キャンプの人びとへのエネルギー供給に活かす新しいアプローチを採用しています。」と語った。

Kakuma Refugee Camp/ Mr.matija.kovac - Own work, CC BY-SA 3.0
Kakuma Refugee Camp/ Mr.matija.kovac – Own work, CC BY-SA 3.0

アトウッド氏はプロジェクトのコストは明らかにしなかったものの、複数の持続可能なエネルギーの解決策が提供されると語った。例えば、カクマの診療所や教育/地域ハブに電力を供給する太陽光パネルの設置などである。

アトウッド氏は、「プロジェクトは最終的に資金面での独立採算を目指しています。」「難民キャンプではエネルギー事業の多くが失敗に終わっています。これは、システムを動かし続けるための資金調達を行う長期的な思考がなかったからです。私たちは、民間部門のスキルを活用して収益をあげ、それを必要経費に使用する仕組みを組み込むことで、この事態を変えていきたいと思っています。」と語った。

アトウッド氏はまた、この構想では、調理のための木材への依存を減らすことで人びとの健康を向上させ森林破壊も抑制する一方、社会開発の面でも生活の向上につながるだろうと強調した。

「私たちの教育・地域ハブは、難民や地元民たちに職業スキルの訓練を提供するうえで役立つでしょう。このプロジェクトの特徴の一つは、実施団体がいずれも難民が置かれている脆弱な立場を熟知しており、難民が搾取されないよう自立を支援する仕組みになっている点です。」とアトウッド氏は語った。

クラウン・エージェンツ財団のケイト・ハーグリーブス代表は、「難民や地元民が利用可能なインターネットやコンピューター機器、職業訓練、社会的イベントのために、カクマに太陽光発電の『ワンストップ型の店舗』を設置することを目指しています。」と語った。

彼女もアトウッド氏と同じく、難民と地元民の双方が施設を安価に利用できるよう配慮している点を指摘するとともに、「私たちが利用している技術ゆえに、コストを低く抑えられるのです。」と語った。

ハーグリーブス氏は、このプロジェクトは家庭内空気汚染を削減し、カクマ難民キャンプにおけるCO2排出を抑制する効果を期待している。

プロジェクトのことを知らされたビュルウェセンゲさんとハッサンさんは小躍りした。ビュルウェセンゲさんは、「MEIが、照明と調理目的に使用できる多目的型の太陽光発電器機を導入してくれることを祈っています。」と語った(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|視点|核兵器禁止条約のあとに来るもの(スージー・スナイダーPAX核軍縮プログラム・マネージャー)

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【ユトレヒト(オランダ)IDN=スージー・スナイダー】

ついに核兵器が禁止され、違法化された。ほとんど信じられない思いだ。核兵器は、それが元々あった場所へ、つまり歴史のゴミ箱送りになったのだ。2017年7月7日からは、新しい現実が生まれた。核兵器を製造し、保有し、取得し、使用することを違法化する条約ができたのだ。しかし、核兵器禁止に向けた次のステップは何だろうか?

条約そのものがまずもって答えを与えてくれる。9月20日、核兵器禁止条約はニューヨークの国連本部で署名開放され、諸国は国別の批准手続きに入る。そして50番目の国が批准してから3カ月後に条約は発効し、批准したすべての国に関して法的拘束力を持つことになる。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

原則的には、条約が発効する前の段階でも規範的な効果はもちうる。包括的核実験禁止条約(CTBT)のことを考えてみるとよい。署名開放されてから既に20年以上経過したが、CTBTは未だに発効していない。それでも、いついかなる国が核実験を計画したり、(北朝鮮の場合のように)核実験を実施したりしようものなら、国際社会はそれに反応し、非難し、制裁を科すようになっている。すなわち、核兵器禁止条約の禁止対象項目に関する規範を構築していくことが、次のステップだ。

数十年にわたって、核兵器をめぐる言説を変える(核兵器を非道徳的で正当化できないものだという烙印を押す)試みがなされてきた。そして今や、核兵器を法的に非合法化する新しいツール(=禁止条約)が登場したことで、こうした努力は裏づけを得たことになる。今日、私たちが核兵器活動について語る際、それは国際条約によって禁止されているものだと指摘できるようになった。

それでは、この新たな禁止条約ははたしてどのような影響力を持ちうるのだろうか? また、核兵器を地球上から除去するために、この条約をどのようにテコとして用いることができるのだろうか?

国内における法制化

締結国には、核兵器禁止条約を批准するために国内において法制化を進める義務がある。条約第5条は、条約で禁止された活動を予防・抑止するために、罰則の設置を含む、法的、行政的、その他の措置を採るように義務づけている。締結国はまた、国内における法制化を進めるにあたって、核兵器を悪とみなす規範を基礎として、条約の諸条項をさらに深め、条約に関する理解を発展させ法制化するための要素を取り入れていく可能性がある。例えば、核兵器製造企業への資金供給を禁止するといったことである。

国内における法制化にあたって、核兵器製造企業への資金供給を明確に禁止する条項を含めることで、条約第1条の「援助」条項について、金融部門がいかに対応すべきかが明確になってくるだろう。条約が持つ、こうした「シグナルを送る」機能は、金融機関にとって重要なものだ。金融部門の多くは現在のところ、核不拡散条約(NPT)を、核兵器の主要部品を生産する企業への投資を継続する理由として利用している。こうした企業は、一部の国が核兵器を保有することは問題ないと主張するが、新しい現実の中でこれは全く通用しないものとなった。

金融機関は、企業が核兵器の主要部品を生産できるよう不可欠かつ必要な支援を与えている。ほとんどの核保有国は、核兵器の生産・維持・近代化について、民間企業に依存している。公表された文書によれば、少なくとも、フランス・インド・イスラエル・英国・米国においては、核戦力の維持に民間企業が関与している。

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金融機関が核兵器の生産に関与している企業に投資する場合、核兵器が使用される可能性と殺傷能力を一層高めるプロジェクトに必要な融資を行うことになる。これを違法化することは可能であり、新条約の批准手続きは、それを実施する最高の機会を与えている。

過去の経験を見ると、各国政府は一般的な資金調達を、自国の文脈において効果的に禁止できる立場にある。例えばPAXの調査によると、クラスター爆弾への投資を禁ずる国内法を整備した国は10カ国にのぼっている。これは、クラスター爆弾禁止条約における「援助」条項によって禁止されていると理解されたものだ。

一部の国は、核兵器に対する投資に関しても既に同じ措置を採っている。オーストラリアとニュージーランドでは、世界のどこであれ、個人あるいは企業が核兵器の製造に加担することを犯罪としている。両国では、資金の貸与も含めて、何らかのサービスの提供が大量破壊兵器プログラムに寄与するとの合理的な疑いがある場合には、そうしたサービスを行うことを企業に禁止している。スイスでは、戦争資材法により、核兵器生産者への直接投資を禁止している。リヒテンシュタインでも同じような法律が施行されている。

核兵器禁止条約の「援助」条項を深めるものとして、条約批准プロセスにおいて資金供給の禁止を実行することで、締約国は、国連安保理決議1540から、テロ資金供与防止条約に至るまで、資金供給に関する既存の禁止や制限の下での義務をより強化することができるだろう。さらに、こうした実践例は締約国会議で共有することが可能であるし、もし各国がそれを選択するのであれば、履行措置に関する支援を要請したり提供したりすることも可能であろう。

違法な兵器から利益を得ない

資金供給に対する既存の禁止措置は、禁止行為への関与が疑われる企業が生産する他の製品の購入まで制限するものではないことを認識することが重要だ。実際的な言い方をするならば、資金供給の禁止は、あらゆる種類の投資と融資に適用される。例えば、民間融資、投資銀行サービス(債券の引き受けや株式の発行)、株式保有などの資産管理活動が含まれる。

「資金供給の禁止」は、核兵器製造企業をボイコットすることまでも要求しているのではない。単に、核兵器への投資を禁じるだけだ。融資と投資は、利益を生む目的でなされるものだ。従って、核兵器製造企業に投資するということは、核兵器製造を支援する一形態であるにとどまらず、非人道的な帰結ゆえに禁止されている行為から利益を得ることを意味するのだ。

次の動きは?

核兵器禁止条約に関して次の動きはどうなるのかを考えた時、条約の発効と各国の批准促進が、道筋として明確に浮かび上がってくる。この中で、禁止行為が「違法なもの」であると明確に名指し語っていくこと、金融機関が核兵器製造から利益を得ないようにさせるべく「援助」条項を発展させていくことが必要だ。世界の諸国の過半数は、明白に核兵器を拒絶している。今こそ、その拒絶にさらなる力を与えるために努力が必要な時だ。(原文へ

翻訳=INPS Japan

スージー・スナイダーは、PAX(オランダ)の核軍縮プログラム責任者。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員。2016年の核のない未来賞受賞者。以前には、婦人国際平和自由連盟(WILPF)の事務局長も務めたことがある。

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中東和平を目指す諸宗教連合

【ニューヨークIDN=ジョアン・エラキート】

兄弟間の不幸なつながりについて暗示した旧約聖書のある有名な一節がある。(アダムとイブの)子供であるカインが、神から弟の行方について問われた。その時点で既に弟を殺害していたカインは、「知りません。私は弟の監視者なのですか?」と答えて神への忠誠を拒んだ一節だ。

カインとアベルの寓話はこのように解釈されるかもしれない。人間として、私たちは生まれながらにして、互いをいたわるべく運命づけられた兄弟である。しかし、互いに敵対せざるをえない状況が生まれる。そこで最後には、様々な背景やものの見方を持った人々に調和をもたらし、互いの絆を強める宗教が求められる。

政治の舞台において、宗教はしばしば複雑なテーマであるが、中東の平和構築プロセスにおける宗教指導者の役割を巡る政治パネルディスカッションという形で、ニューヨークの国連本部での開催が実現した。

国連「文明の同盟」(UNAOC)がスペイン政府の後援を得て7月18日に開催したこのパネルディスカッション「中東の平和構築における宗教指導者の役割 」には、聖地エルサレムを代表する3つの宗教(キリスト教、イスラム教、ユダヤ教)の指導者らが参加した。パネリストらは、国連に対して、イスラエル・パレスチナ紛争の解決に、もはや宗教の関与を外すことができないことを正式に認めるよう強く促すとともに、平和構築交渉のテーブルに宗教指導者が加わる必要性を訴えた。主催者を代表してUNAOCからはナシル・アブドゥルアジズ・アルナセル上級代表、スペイン政府からは、アルフォンゾ・マリア・ダスティス外務・協力大臣が参加した。

この会合にはまた、国連のアントニオ・グテーレス事務総長も参加し、会場を埋め尽くした聴衆に語りかけた。なお壇上には、ラエド・バディール師(パレスチナ・ウラマー協会会員)、セオフィロス三世(ギリシア正教会エルサレム総主教)、アディナ・バー・シャローム博士(ハレディ大学[エルサレム]の創始者・学長)、アブラハム・ギーセル師(オフラ入植地のラビ、イスラエルの国家宗教教育制度評議議長)、マイケル・メルキオール師(エルサレム地域のラビ、モザイカ宗教平和イニシアチブの代表)といった著名なパネリストが並んだ。

Photo: António Guterres, United Nations Secretary-General, at the Security Council meeting on Non-proliferation/Democratic People's Republic of Korea on December 15, 2017. Credit: UN Photo/Manuel Elias.
Photo: António Guterres, United Nations Secretary-General, at the Security Council meeting on Non-proliferation/Democratic People’s Republic of Korea on December 15, 2017. Credit: UN Photo/Manuel Elias.

パネリストとしてパレスチナからの参加を予定していたイマド・アベド・アルハミド・アルファルージ氏(アダム文明の対話センター長、メルキオール牧師の協力者)は、米国へのビザを取得できず、入国を断念するという不測の事態もあったが、急遽ビデオ会議を通じて議論に参加した。

グテーレス事務総長は、「聖地(エルサレム)は世界中の数多くの人々の心の中で、特別な地位を占めています。」と述べたうえで、「日時が経過するごとに、不満が高まり、希望が失われ、イスラエル・パレスチナ紛争の平和的解決の見通しは遠ざかっているかにみえます。」と発言した。

グテーレス事務総長の言葉は、パネリストらにしっかりと受け止められた。というのも、彼らは、2016年11月にスペイン政府とUNAOCが主催した「中東の宗教的平和を求める」サミットにおいて共に時間を過ごし、アリカンテ宣言を発していたからだ。

アリカンテ宣言は、3宗教の指導者らが互いに協力しあい信者間の平和的共存を創出する責任を引き受けることに合意した証として策定されたものだ。宣言は特にこう述べている。「私たちは、他者や隣人のイメージを煽ったり、偽ったり、歪めたりすることをやめるよう強く呼びかける。私たちは、互いを尊重するよう未来の世代を教育することにコミットする。宗教的伝統と、私たちのコミュニティーと民衆にとってなにが最善なのかという理解を基礎にして、2つの民族(ユダヤ人とパレスチナ人)が尊厳をもって共存する権利を認めた解決策を呼びかける。」

Central Israel next to the Palestinian National Authority in the West Bank and the Gaza Strip, 2007/ Public Domain
Central Israel next to the Palestinian National Authority in the West Bank and the Gaza Strip, 2007/ Public Domain

イスラエル・パレスチナ紛争が、長年にわたって、中東とひいては世界全体を不安定にしかねない火種となってきた。そうした中で、イスラエル・パレスチナ双方の団体や個人が解決策を導こうとして数多くの試みがなされたが、ほとんどが失敗に終わってきたことは否定できない事実だ。

同時に、宗教が、その中核において、民衆に影響を与える力を持っていることも否定できない。アルナセル上級代表は、「宗教が問題の原因ではないと固く信じています。むしろそれとは逆に、宗教は問題解決の一翼を担えるのです。」と語った。

UNAOCでは、こうした認識から、イスラエル・パレスチナ紛争に対するこれまでのアプローチを転換し、新たな調停の道筋を模索すべく、紛争当事者の両サイドの宗教指導者らとの協力を推進しており、将来的には、平和構築の交渉テーブルに宗教指導者の席を確保したいと考えている。

「『文明の同盟』は、様々な宗教や文化間の対話を促進する国連の主導的な組織のひとつです。私たちは、平和というものは、政治家だけの取り組みで実現できるものではないと考えています。そのために、市民社会や民間部門、学者、そしてなによりも、宗教指導者や宗教を基盤とした組織(FBO)とのパートナーシップと関与を重視しています。」とアルナセル上級代表は語った。

癒しと理解を求める人々に導きを提供するために宗教指導者らが存在し、社会における彼らの地位がきわめて高いことを考えれば、とりわけ紛争に関していえば、人類のスピリチュアルな旅を形成するうえで宗教指導者らが重要な役割を果たすにふさわしいと言えよう。

宗教の違いを越えて活動する個人的経験をビデオ会議で披露したアルファルージ氏の熱烈な言葉であれ、エルサレムはユダヤ教徒・キリスト教徒・イスラム教徒の共通の故郷であると自信を持って考えているテオフィロス大司教であれ、ひとつの確実なことは、宗教は政治的な手段であり、この場合、歴史的に悲惨な対立が続いてきたイスラエルとパレスチナの間に平和の橋を架けようとするものなのである。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

「私が一貫して強調してきたように、「Two-state solution」(2国共存解決案)のみが、パレスチナ人とイスラエル人が自らの国家的・歴史的希望を認識し、平和と安全、尊重のうちに生きるための唯一の道筋です。違法な入植地の拡大、あるいは暴力、煽動は、この見通しを曇らせるものにほかなりません。」とグテーレス事務総長は語った。

さらにグテーレス事務総長は、会場の宗教指導者らに対して、「一部の宗教的過激主義者や急進主義者によって歪められてきたそれぞれの信仰に関する言説を変える機会を逸してはなりません。」と指摘したうえで、「そうではなく、地元の、そして地域の宗教指導者らが、信者間の平和と解決、共通性のメッセージを強化するように影響力を発揮してほしい。」と率直に訴えた。

グテーレス事務総長は、「宗教平和イニシアチブ」を通じて、紛争のどちらの側にいるかに関係なく、3つのすべての宗教の中核的な価値に訴えかけることで、少なくとも対話を始めることが可能だと確信している。

これは、理論的には、まさにグテーレス事務総長が望んでいるような成果をあげる可能性を秘めた期待の持てるイニシアチブである。実際には、地域の宗教指導者らにアリカンテ宣言に則した責任ある行動を求める具体的な行動計画を必要とするだろう。また、信者間の対話を始めるための能力構築や、手段、空間も提供していかなくてはならない。

「宗教が問題の原因ではないと固く信じています。むしろそれとは逆に、宗教は問題解決の一翼を担えるのです。」とアルナセル上級代表は結論付けた。

UNAOC
UNAOC

国連本部の会場にいた誰もが、平和構築プロセスへの関与を強く望む、パネリストらの危機意識をひしひしと感じただろう。いずれの宗教指導者も、メルキオール師が「夢」という言葉で表現した「紛争のない中東での暮らし」の実現をいかに切望しているかを、熱烈な言葉で語りかけていた。

昨年スペインのアリカンテで開催した実り多いサミットと、今回の国連での生産的な会合を受けて、イスラム教徒やキリスト教徒、ユダヤ教徒をまとめあげる決意をした宗教指導者の連合は、統一されたメッセージを発するだけではなく、3つのすべての宗教の人々が、互いを敵ではなく兄弟だと見れる形で訴えかける対話の方法を作り上げていかねばならない。(原文へ

INPS Japan

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【キャンディ(スリランカ)IDN=ジャヤンタ・ダナパラ】

2017年7月7日、最も非人道的で破壊的な兵器が発明され、不運にも広島・長崎で使用されてから72年目にして、国連加盟国の多数が参加する会議で、賛成122・棄権1・反対1で、核兵器を禁止する条約が採択された。

ロンドンに仮の所在地を置いていた創設されたばかりの国連が1946年1月に核軍縮を求める初の決議を採択し、この問題の明白な重要性を示してから、長い道のりであった。それ以来、国連総会のすべての会期において、核軍縮に関するさまざまな意味合いを含んだ決議が、それぞれ過半数によって採択されてきた。

The atomic bomb dome at the Hiroshima Peace Memorial Park in Japan was designated a UNESCO World Heritage Site in 1996. Credit: Freedom II Andres_Imahinasyon/CC-BY-2.0
The atomic bomb dome at the Hiroshima Peace Memorial Park in Japan was designated a UNESCO World Heritage Site in 1996. Credit: Freedom II Andres_Imahinasyon/CC-BY-2.0

他方で、核兵器保有国の数は9つにまで増えた。そのうち、1968年の核不拡散条約(NPT)で(保持を許された)核兵器保有国と認定されているのは5カ国しかない。その他多くの国々が、核の傘の下で身を寄せ合っている。主なものとしては、北大西洋条約機構(NATO)がある。

これらの国々、そして、抑止と拡大抑止の概念を念頭に置いて、新条約には他国が保有する核兵器を自国の領土に配備することを禁止する条項が盛り込まれている。NPT全体に関しては、反対派の恐れに根拠がないことを示すために、不拡散の規範が新条約において格段に強化されている。

7月7日の条約文言の採択に向けた最終段階において、3つの明確に異なる核軍縮運動の潮流が合わさった。すなわち、(a)献身的な一群の国家が率いてきた、国連自体による70年以上のプロセス、(b)市民社会の活動、(c)軍縮分野に忘れられない足跡を残し、とりわけ、7月7日採択の核兵器禁止条約の前文に影響を及ぼした「人道イニシアチブ」、の3つの潮流である。

一里塚

国連における歴史的局面としては、1978年の第1回国連総会軍縮特別会議(SSODI)を挙げるべきだろう。その最終文書は、核兵器の廃絶という目標を明確に優先事項として掲げた、軍縮に関して達成された国際的コンセンサスの高い水準を示している。

その後締結された、様々なグローバル条約及び地域条約が、同じ目標を掲げている。こうした条約には、最も締約国が多い軍縮条約が含まれる。たとえば、第6条の下で、未だ効果を発揮してはいないが、核軍縮に向けた交渉を「誠実に」行うことを規定した核不拡散条約(NPT、1968年)、その発効に向けて依然として8カ国の批准が待たれる包括的核実験禁止条約(CTBT)が含まれる。

また、地域レベルでも多数の核兵器禁止地帯条約(無人の南極地域をカバーする南極条約、ラテンアメリカ・カリブ海地域に関するトラテロルコ条約、南太平洋に関するラロトンガ条約、アフリカに関するペリンダバ条約、東南アジアに関するバンコク条約)が発効し、広大な地域において核兵器の配備ができなくなっている。これらの条約のほとんどが、核兵器禁止地帯化を尊重するNPT上の核兵器保有国(=5大国)が署名した議定書によって補完され、非核兵器保有国による自発的な「アファーマティブ・アクション」として、大きな進展が見られた。

国際法の側面では、国際司法裁判所による1996年の勧告的意見は、核兵器の保有・使用の違法性を宣言した点で大きな成功ではあったが、その実効性は疑問に付されている。キャンベラ委員会などの一連の国際委員会もまた、説得力のある議論を展開した報告書を通じて核兵器の廃絶を呼びかけており、世界の世論に大きな影響を及ぼしてきた。

Nuclear Weapon Free Zones
Nuclear Weapon Free Zones

論争

広い意味では、核兵器保有国とその同盟国を片方、非核兵器保有国を他方に置いた論争は、「核兵器なき世界」という一見したところ共通の目標を達成するための英知を巡るものである。前者の主張は、まずは安全保障を確保したうえで、「ステップ・バイ・ステップ(段階的な前進)」で核軍縮を進めていくべきというものであるのに対し、後者の主張は、まずは核兵器の全面禁止に合意し、そのうえで信頼性のある国際検証手続きの下で核軍縮を徐々に進めていくというものである。

国連を舞台に非同盟運動(NAM)諸国や非政府組織(NGO)、市民社会によって政治的に支援されたこの後者のグループは、核兵器保有国とその支持勢力による妨害工作に直面して苛立ちを募らせてきた。その背景には、3つある大量破壊兵器のカテゴリーの中で、生物兵器化学兵器については、既に1972年と1993年に全面的な禁止条約が法的規範として確立されている先例があるにもかかわらず、核兵器のみが依然として禁止されていなかった事情がある。

ICAN
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化学兵器禁止条約の場合、規範は査察実施機関と実効的な検証体制によって支えられている。現在も続くシリア紛争において、アサド政権やこの代理戦争に介入した大国の支援を得た非正規武装集団による違反行為が報告されているが、だからと言って検証体制が無効化したわけではない。

長らくの間、NPT第6条が、非核兵器保有国が核軍縮を求めて闘う際の旗印であった。1995年にNPTが無期限延長されて以降、不満は高まっているかに見える。1995年、2000年、2010年のNPT運用検討会議において全会一致でなされた合意が、核兵器保有国によって恥知らずにも破られているからだ。NPTに参加していないインドとパキスタンによる核兵器拡散に対しては、友好的な核兵器保有国から報奨を与えられているかに見える一方、朝鮮民主主義人民共和国は国連安保理において核兵器保有国との緊迫した対立の中でますます厳しい制裁がかけられている。

この文脈の中で、オーストリアとスイスが、人道対応で申し分のない経歴を持つ国際赤十字委員会(ICRC)の支援を受けて「人道イニシアチブ」を開始した。これはNPTの内部から起こったもので、核兵器使用がもたらす壊滅的な人道被害に焦点をあてた一連の決議によって、国連での支持を高めてきた。この流れは、オスロ(2013年3月)、ナヤリット(2014年2月)、ウィーン(2014年12月)で開催された一連の「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議)を通じて大規模なうねりとなり、その当然の帰結として、2017年中に核兵器禁止条約交渉会議の開催を呼びかけた2016年の国連総会決議につながったのである。

大胆なイニシアチブ

NPT運用検討会議で合意文書が採択できず公約が履行されないことへの不満が高まる中で、市民社会は強力かつ大胆な要求をするようになっていった。NGOが主導した国際地雷禁止キャンペーン(ICBL)やクラスター爆弾を廃絶する運動は、当初は国連の枠外での条約採択につながった。それが国連に持ち込まれて、その正統性が確認され、次第に支持の輪が広がっていったのである。

ICAN
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より問題が大きく、保有国からの反対もより強い核兵器については、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が精力的にNGO連合を率いて、まずは2016年の国連総会決議の採択に漕ぎ着け、続いて2017年の核兵器禁止条約交渉会議の実現に成功した。

交渉会議開催については、核兵器保有国やオーストラリアなどの同盟国、さらに驚くべきことにカナダも交渉会議をボイコットした。NATOからは唯一オランダだけが交渉会議に参加したが、結果としては、核兵器禁止条約の文言を採択する最終決議に反対した。

コスタリカの有能な女性外交官であるエレイン・ホワイト=ゴメス大使を交渉会議の議長として選出したことには、大きな意義があった。常備軍を持たない世界でも極めて珍しい国であり、ノーベル賞を受賞したオスカル・アリアス元大統領を輩出したコスタリカは、ホワイト大使の外交的手腕とは別に、賞賛すべき実績を有している。

交渉会議の閉幕は、ちょうどハンブルクで開催されていたG20サミットと重なっていた。G20サミットは激しい抗議デモに直面し、メディアは、初のトランプ・プーチン会談と、トランプ大統領の気候変動政策が他のG20との間に生み出す不協和音に注目していた。核軍縮の問題に関して世界のメディアの注目度は、いつも不十分なものであった。交渉会議のクライマックスである7月7日の報道ですら例外ではなかったのである。

核兵器禁止条約にプラスの要因

数少ない論評を見ると、概して、9月に採択のために国連総会に提示される今回の条約の実効性に対して懐疑的なようだ。しかし、条約の将来にプラスになるいくつかの要因が存在している。

ひとつは、米国を含む44もの発効要件国による批准を要するCTBTとは異なって、今回の条約は発効のために50カ国という穏健な目標を置いていることだ。第二に、似たような条約の歴史を振り返ると、各国が署名する第一の波と、条約が完全に包摂的な性格を持つまでの間には長い時間がかかるかもしれないが、国際法としての条約の妥当性は揺るぎないものになる。

核不拡散条約(NPT)の条約案を承認した1968年の国連決議2373の場合は、投票は賛成95・反対4・棄権21であった。核兵器禁止条約の採択に賛成票を投じた122カ国はしたがって、安全保障上の懸念を人道的な関心と結びつける大胆かつエキサイティングな道を切り開いたパイオニアということになるだろう。

私たちは今、変革の時にいる。過激なイデオロギーが引き起こす暴力や紛争と、大国間の軍拡競争は、2016年には合計で1兆6760億ドルもの軍事支出に結びついている。9つの核兵器保有国は合計で1万5395発の核兵器を保有し、そのうち4120発は作戦配備されている。これらは、意図的なものであれ、あるいは、コンピューターのエラーやハッキングなどによる偶発的なものであれ、核戦争の大惨事を引き起こす脅威となっている。また、核戦力は常に近代化され、無謀な核ドクトリンによって実際に使用される危険性が増している。

民主主義の海賊版とでもいえるポピュリズムが欧米諸国や他の地域に広がっている。一方、故郷を追われ新天地を求める難民の波は第二次世界大戦以来最大規模となっており、ホスト国における経済格差の拡大や、マイノリティーに対する非寛容や差別が悪化する引き金ともなっている。こうした状況とは対照的に、核兵器禁止条約は、こうした困難な時代あって一筋の希望とも言えるものだ。(原文へ

※ジャナンタ・ダナパラは、元国連事務次長(軍縮問題担当、1998~2003)、元スリランカ駐米大使(1995~97)、元欧州国連大使(駐ジュネーブ、1984~87)。現在は、「科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議」の会長。本稿の見解は、ダナパラ氏個人のものである。

翻訳=INPS Japan

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【国連IDN=セルジオ・ドゥアルテ】

国際社会の圧倒的多数が、諸政府や非政府組織と共に画期的な核兵器禁止条約に合意することで、軍縮問題の取り扱いにおける重要な一歩を刻んだ。核兵器禁止条約は2017年7月7日、賛成122、反対1(オランダ)、棄権1(シンガポール)で採択された。

国連では、昨年12月23日に採択された国連総会決議71/258に盛り込まれたマンデートに従って3月15日~31日と、6月17日~7月7日の二会期にわたって、「核兵器を禁止し、その完全廃絶に導くための法的拘束力ある文書を交渉する会議」(交渉会議)が開かれた。参加者らは、核兵器の完全廃絶を実現する方法に関して各国政府や学術機関、市民団体が数年にわたり取り組んできた研究成果や諸提案の内容を生かした。

交渉会議で議長を務めたエレイン・ホワイト・ゴメス駐ジュネーブ軍縮大使(コスタリカ)は、概ねその能力と外交手腕を賞賛された。交渉会議で採択された報告書は、次の国連総会会期に提出され、そこで次に進むべき方向が決められることになる。国連総会は72回会期において、核兵器禁止条約を歓迎し、2017年9月20日から同条約を署名開放する決議を採択するとみられている。交渉会議の参加者らが、核兵器禁止条約の早期発効に向けて、必要な数の国が速やかに署名・批准するものと考えているのは至極当然だろう。

ホワイト議長は3月22日に第一草案を提示し、交渉会議の議論が進展すると、6月27日と7月3日にも草案を示した。また7月7日には、7月5日の会合で参加各国から出された意見を基に第7条、8条、13条に修正を加えたものが、ホワイト議長によって文書A/Conf.229/2017.CRP.3の形で示された。条約の最終文面は7月7日に採択され、文書A/CONF.229/2017/L.3/Rev.1に記載されている。

活発な議論

核兵器禁止条約の主な側面に関しては、かなりのレベルの収束が見られた。にもかかわらず、議論はきわめて活発で、とりわけ3週間にわたった第2会期では数多くの示唆や提案が示された。これらの示唆や提案は実際上、条約のあらゆる側面に亘っていたが、とりわけ、禁止の範囲、検証の手段、締約国による宣言、締約国会議、他の協定との関係、平和利用、脱退の期間と条件が問題となっていた。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

決議71/258の起草と採択を推進したオーストリア、ブラジル、アイルランド、メキシコ、ナイジェリア、南アフリカ共和国の諸国は、交渉会議の作業に積極的に参加した。実際には、参加した全ての国の代表が、建設的な見解と提案でもって議論に加わったが、とりわけ、アルジェリア、アルゼンチン、チリ、キューバ、エクアドル、エジプト、バチカン、グアテマラ、リヒテンシュタイン、インドネシア、イラン、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、スウェーデン、スイス、タイを挙げることができる。

核兵器保有国とその同盟国の中では、オランダだけが唯一、会議に代表を送った。作業の開始にあたって、同国の代表は、北大西洋条約機構(NATO)の下でのオランダの義務、あるいは、核兵器不拡散条約(NPT)の下での公約と矛盾するいかなる文言にも合意することはできない、と述べ、審議とその後の反対投票に際して、自らの立場を説明した。

一部の代表らは、賛成票を投じた説明として、条約案の文言には欠陥があると指摘しつつも、国際法において核兵器に対する明確な拒絶を成文化することがまずもって重要であることから、条約案を支持することに決めた、と述べた。

条約案の多くの側面について綿密な議論が積み重ねられた。全てを網羅したわけではないが、次に挙げる例は、交渉会議における議論の幅と実質的な深さについての感覚を把握するには十分であろう。

a) 一部の国が「平和目的をもって核エネルギーの研究、生産、使用を進める不可譲の権利」に言及することについて疑問を呈したが、最終案には残された。

b)核兵器の準備、通過、資金提供を明確に禁止する条項を含むよう要求する国々もあれば、これらは、「禁止されている活動への関与を『援助し、奨励し、または勧誘する』ことの禁止」として条約案に既に含まれているとみなす国々もあった。

c) 追加議定書のような、より厳格な検証基準を主張する国もあった。また、一部の見方では、「核兵器計画」の表現には定義が必要だとされた。

d) 核兵器を保有する国家や、領土内にその配備を認めている国による加盟については、条約第4条に比較的詳細に書きこまれているが、これが長い議論の対象になり、最終的には、「加盟してから核を廃棄する」オプションを一般的に容認するとの見方から、必要な条項だとされた。

e) 他国の領土に配備されている核兵器の除去に明確な時限が設けられなかったこと(第4条4項)に失望する向きもあったが、「可及的速やかに」との表現には満足が得られたようだ。しかし、この要件の遵守を検証する独立した仕組みは存在しない。

f) 他の協定との関係の問題も、議論が重ねられた。包括的核実験禁止条約(CTBT)が未発効であることへの言及を含めるべきとの提案は一定の支持を集めたが、支配的にはならなかった。

g) 一部の国は、有効期間および脱退に関する第17条の最終草案を批判し、国家の「至高の利益」を危うくしている「異常な事態」への言及を明確に削除するよう要求した。また、この問題に関する条約法に関するウィーン条約に照らして、脱退に関する言及を削除することが望ましいとの意見もあった。最終的には、第17条3項に採択された形で意見の一致に達した。それによれば、寄託者が脱退の通告を受領した後、12カ月で効力を生ずるが、12カ月の期間が満了した時点において、当該締約国が武力紛争の当事国である場合、その紛争当事国でなくなるまで、この条約およびあらゆる追加議定書の義務に引き続き拘束されるとの但し書きが付いた。

交渉会議の最終結果が示す通り、参加者の圧倒的多数が、核兵器禁止条約の採択につながったこのプロセスの結果に間違いなく満足している。ひとたびこの条約が発効すれば、化学兵器生物兵器、核兵器という同一区分として一般に認められている3つすべての大量破壊兵器が、国際法の下で禁止された状態になる。多くの参加者が、国連総会が1946年1月1日に決議第1号を採択した70年前に、核軍縮実現に向けた取り組みが始まったと指摘している。

核兵器の絶対的拒絶

交渉会議のほとんどの参加者が、条約には欠陥や欠点があるものの、国際社会の大多数が、道徳的な立場及び核兵器の使用が人間や環境に与える影響の点から、核兵器に対する絶対的拒絶を実定国際法において初めて明確に表現したものであると認めている。また、核兵器禁止条約が、軍縮や不拡散、国際安全保障に関連した国際法の総体に対して加えられた歓迎すべきものであるという点でも一致している。

前例がないという特質もそうだが、核兵器禁止条約という主題の複雑さは、交渉に参加した国々が多くの困難を克服しなければならなかった点によく表れている。国連総会が2016年12月23年に採択した歴史的な国連総会決議71/258によるマンデートに従い、各国政府や非政府組織からの支援と実質的な貢献を受けて、核兵器の完全廃絶に導く禁止を定めた多国間の法的拘束力ある文書を妥結しようという圧倒的な意思が働いたことが、交渉会議の成功と、文案の採択にあたって決定的な要素となった。

全会一致にはならなかったが、唯一の反対票は核兵器保有国と軍事同盟を組むある一国によるものであった。この国は、会議のすべての会合に出席し、起草時の特定の提案も含めて、条約に関する見解を詳細に説明した。

Moment of UN nuclear ban treaty adoption 7th July 2017. Credit: Clare Conboy | ICAN.
Moment of UN nuclear ban treaty adoption 7th July 2017. Credit: Clare Conboy | ICAN.

このことは、核兵器を保有する国々や核兵器を使用する可能性を含む防衛協定を結んでいる国々も含めて、核軍縮関連の問題に対して世論の関心があるということを証明していると考えるべきである。また、関連する諸政府や市民団体が、取り組みを強化して核軍縮の必要性を世界の世論に示す必要性を改めて思い起こさせるものと言ってもよいだろう。

核兵器禁止条約が幅広く受け入れられるという望ましい目標を達成するには、まだ多くのことがなされねばならない。この歴史的な取り組みに参加した全ての人々は、この条約だけで一夜にして核軍縮が実現されることはないが、その方向に向かう、重要かつ必要であり、意義ある具体的な第一歩であると考えている。

核兵器禁止条約の起草と採択に協力した政府組織や非政府組織・機関とともに、市民社会には、今回の成果に関する知識を広げ、核兵器の存在がもたらすリスクと、その使用がもたらす壊滅的かつ受け入れがたい帰結について世界的に意識を高める上で、不可欠の役割を担っている。この条約の目的と目標を完全に実現するためには、安全保障のために核兵器に依然として依存している国々を含め、あらゆる場所で世論の支持を得ることが、必要不可欠である。(原文へ

※セルジオ・ドゥアルテは、国連軍縮問題担当上級代表(2007~12)。核不拡散条約第7回締約国運用検討会議(2005年)議長。職業外交官としてブラジル外務省に48年間勤務。オーストリア、クロアチア、スロバキア及びスロベニア、中国、カナダ、ニカラグアでブラジル大使を務める。また、スイス、米国、アルゼンチン、ローマにも駐在した。

翻訳=INPS Japan

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核時代終焉の幕開けとなる新条約に市民社会が歓喜

【国連IDN=ラメシュ・ジャウラ】

2017年7月7日、核兵器を禁止し関連するあらゆる内容の活動を禁ずる、法的拘束力のある条約が国連加盟国によって採択された。これは、交渉会議の議長をつとめたエレイン・ホワイト・ゴメス駐ジュネーブ軍縮大使(コスタリカ)にとっても、歴史的で感極まる瞬間であったが、多様な市民社会組織(CSO)にとっても、大きな歓喜をもたらす瞬間だった。

ブトロス・ブトロス=ガリ国連事務総長が、環境と開発との強固なつながりを強調した1992年6月の地球サミットの成功に貢献すべく、CSOやその他の非政府組織(NGO)に門戸を開いてから25年、CSOはその「ソフトパワー」をうまく活かして、「核兵器なき世界」に導く動きを支援してきた。

従って、国連が核兵器禁止条約を採択し、その究極的な廃絶に向けた重要なステップを踏むうえで市民社会が決定的な役割を果たしたことを、ホワイト議長や各国の政府代表らが次々と賞賛したのは、当然といえよう。

Beatrice Fihn
Beatrice Fihn

この10年間、「核兵器なき世界」の実現に向けて主導的な役割を果たしてきたCSOの一つが、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)だ。ベアトリス・フィン事務局長は「今日が核時代終焉の幕開けとなることを願っています。核兵器は戦争法に違反し、世界の安全保障にとって明確に危険であることは疑問の余地がありません。」と語った。

核兵器は、意図的な使用であれ偶発的な爆発であれ、広範かつ壊滅的な人道上の被害をもたらすにもかかわらず、今日まで禁止条約を持たない唯一の大量破壊兵器だった。生物兵器は1972年、化学兵器は1992年に禁止条約が採択されている。「今こそ、世界中の指導者らは、核兵器廃絶に向けた最初のステップとしてこの条約に署名・批准することで、自らの価値観や言葉と行動を一致させるべきです。」とフィン事務局長は語った。

条約はまた、核兵器の使用または実験によって影響を受けた被害者を支援し、核兵器によって汚染された地域の環境改善に取り組むことを義務付けている。

フィン事務局長は、「過去の禁止条約の例にも見られたように、国際規範が変化することで、条約非締約国においても、具体的な政策や行動に変化が生じてきます。」と指摘したうえで、「核保有国が、執拗に繰り返し条約に反対してきたことは、この条約が、真に永続的な影響力を持つことを認めたに等しいと言えます。」と語った。

米国カリフォルニア州サンタバーバーラを拠点とする核時代平和財団のデイビッド・クリーガー会長は条約採択について、「『核兵器なき世界』のために活動してきた私たちにとっては心躍る日であり、世界にとって重要な日です。…これが意味するものは、核時代に入って72年が経過し、人類がやっと正気を擁護し、自らの生存のために立ち上がったということです。」と語った。

クリーガー会長はまた、「核兵器を禁止するこの取り組みは、核兵器廃絶国際キャンペーンがリードしてきました。…この運動は、世界各地で協力し合う、人道問題、環境問題、核不拡散問題、軍縮問題に取り組む国際的な組織から広範な支援を得てきました。」と語った。

クリーガー会長は、「米国は交渉に参加しないことを選択しましたが、同国が繰り返し条約に反対していることは、核兵器問題に関する米国の行動にこの条約が大きな影響を及ぼす可能性を持っていることを示しています。」と指摘したうえで、「化学兵器禁止条約や対人地雷禁止条約のような過去の兵器禁止条約は、国際規範が変化することで、条約非締約国においても、政策や行動に具体的な変化を生じさせることを示してきました。」と語った。

David Krieger/ Nuclear Age Peace Foundation
David Krieger/ Nuclear Age Peace Foundation

核時代平和財団の事業責任者リック・ウェイマン氏は、「核兵器禁止条約は、まさに、世界の大多数の国々と多くの献身的な非政府組織による共同の取り組みです。」と語った。

創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動総局長も、同様の考え方を示し、「長年にわたり核兵器の廃絶を求めてきたSGIは、この条約実現に向けてこれまで尽力してきた世界の被爆者、各国政府、国連、国際機関、NGOなど全ての関係者に深い敬意を表します。」と語った。SGIは、東京を本拠にした仏教系NGOである。

寺崎氏は、「禁止条約の採択は、人類共通の願いである『核兵器のない世界』への実現に向けての、具体的な一歩であります。」と指摘したうえで、「この条約の意義を普及させ、その支持をいかに幅広く堅固なものとしていけるのかが、次なる挑戦です。今回の会議に参加しなかった核兵器保有国、核兵器依存国が、『核兵器のない世界』という地球的な取り組みへの歩みを共にするよう強く願うものです。」と語った。

寺崎氏は、池田大作SGI会長が2009年9月に、核兵器廃絶に向けての世界的な民衆の大連帯を構築していく必要性を強く訴えていた点を指摘した。今年は、1957年9月、創価学会の戸田城聖第2代会長が核兵器を「絶対悪」と断じた原水爆禁止宣言を発表してから60周年にあたる。「この重要な節目と時を同じくして核兵器禁止条約が現実のものとなったことに、深い意義を感じます。」と寺崎氏は語った。

By International Committee of the Red Cross (ICRC) from Switzerland – ICRC president Peter Maurer in Syria, CC BY-SA 3.0

ニューヨーク国連本部で交渉会議の最終会期に参加していたSGIの河合公明平和・人権部長は、「この条約が採択されたのは、非常に大きな前進の一歩だと感じます。核兵器保有国とほとんどの核兵器依存国が参加していなくても、世界中の人々の意志が一丸となって、倫理的規範が明確に宣言されました。誰の手にあっても核兵器は悪いものなのです。」と語った。

また、国際赤十字委員会(ICRC)も、ニューヨーク国連本部での協議に積極的に参加していた主要な組織である。「今日、世界は、この無差別的で非人道的な兵器の非合法化に向けて歴史的な一歩を踏み出しました。これは、将来の核廃絶に向けて重要な基盤となります。」とICRCのペーター・マウラー総裁はジュネーブで語った。

マウラー総裁はまた、「この合意は、私たちが共有する人間性にとって重要な勝利です。」「核兵器は、あまりにも長きにわたって、国際法において明確に禁止されてこなかった唯一の大量破壊兵器であり続けました。今日採択された条約は、この欠落を埋めるものでした。」と語った。

ICRCのキャスリーン・ラワンド法務局武器関連部長は協議の場で発言し、合意に達した各国を称賛した。ラワンド部長は、「条約は、核兵器使用に対するスティグマ(社会的な烙印)を強化することになるでしょう。他方で私たちは、条約の採択そのものによって核兵器が一夜にしてなくなるわけではないこともわかっています。私たちの共同作業は、依然として完成には程遠いのです。」と語った。

軍備管理協会のダリル・G・キンボール会長は「核兵器を禁止する新条約は、核戦争を防止する70年にわたる取り組みにおいて新しい局面を切り開くものです。…条約はまた、核兵器の使用や実験によって影響を受ける人々に支援を提供することを各国に義務づけています。」と語った。

「条約そのものがすぐに核兵器を廃絶することはありませんが、時間の経過と共に、核兵器をさらに非合法化し、その使用に反対する法的・政治的規範を強化することができます。」とキンボール会長は指摘した。

キンボール会長の見方では、新条約は、190カ国以上に対して「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置について誠実に交渉を行う」ことを義務づけた1968年の核不拡散条約(NPT)の核軍縮に関する部分(第6条)を補強することを目的としたものだ。

新条約の下では、諸国は核兵器やその他の核爆発装置を「実験」することが認められない。キンボール会長は、「これは、『いかなる核兵器爆発実験やその他の核爆発を禁止』し、米国・ロシア・英国・フランス・中国など183カ国が既に署名を終えている1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)を補強することにもなります。」と語った。(原文へ

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原子力供給国グループの新ルールに動じないインド

【ニューデリーIPS=ランジット・デブラジ】

インドは、世界の原子力供給国に対して自らが提供できる巨大なマーケットに自信たっぷりである。軍事用に転用されかねないウラン濃縮と使用済み燃料再処理の技術移転に関して、46ヶ国のグループが定めた新しい規則を無視することにしたことにそれは現れている。

差別的だという理由で核不拡散条約(NPT)への署名を拒否してきたインドは、2008年、46ヶ国から成る原子力供給国グループ(NSG)からの特別措置を勝ち取るという外交的クーデターを成し遂げた。

公的に認められた5つの核兵器国以外は、すべての国家が、国連の核監視機関である国際原子力機関(IAEA)の保障措置下に核施設を置くことが義務づけられている。

 NSGは6月24日、オランダ・ノールドワイクでの総会で、「機微の濃縮・再処理技術の移転に関するガイドラインを強化する」ことを決定し、インドをフルスコープ保障措置の例外扱いにすることを認めた従前の決定の効力は弱められることになった。

インドの原子力専門家は、IPSの取材に応じて「NSGの動きは、福島第一原発事故を受けて急速にしぼむ市場の中でインドになんとか原子力器機を購入させようという商業的な関心から出たものであるかもしれない。」と語った。

「福島第一原発事故以前から、インドと中国は原子力発電を拡大しようという大きな計画を持つ唯一の国でした。しかし今では中国は再生可能エネルギーに目を向けるようになり、結果としてインドだけが唯一残った主要なバイヤーなのです。」と語るのは、プラフル・ビドワイ氏。「拡散に反対する技術者・科学者国際ネットワーク」のメンバーでもある。

ビドワイ氏は、「最近CEOのアンヌ・ロベルジョン氏が退任したばかりのフランスのアレバ社が多くの失敗を積み重ねているにも関わらず、インドは、6基の欧州加圧水型炉(EPR)を世界最大のジャイタプール原子力施設(マハラシュトラ州:今年着工し2018年稼働予定)用に購入する交渉を進めている。しかし、インドのためにアレバは業務停止に追い込まれるかもしれない。」と語った。

「核分裂性物質ワーキンググループ」の国際パートナーであり、インド国立防衛分析研究所(IDSA、ニューデリー)の上級研究員でもあるラジブ・ナヤン氏によると、NSGによる新たな拘束はアレバとの取引を危うくする可能性がある、という。

「国際的な原子力ガバナンス・管理の利益に奉仕するようにインドを導くのがNSGの使命です。また、原子力をめぐる現在の情勢からすると、インドとすでに商業的取り決めを結んでいるフランスやロシア、米国のような国が後退することはないでしょう。」とナヤン氏は語った。

インドは、2020年までに原子力による発電量を現在の4.7ギガワットから20ギガワットまで増やす野心的な計画を描いている。アレバ以外には、ロシアのロスアトム(Rosatom)、米国のGE(General Electric)が、1000億ドル以上にも上るインドとの契約獲得をめぐって競争している。
 
インドのニルパマ・ラオ外相は7月3日、テレビのインタビューに答えて、「インドとの取引に入ることに消極的な国に使えるような『テコ』を我々は持っている。」と語った。これは明らかに、NSGに対する警告だった。

ラオ外務次官は、「NSGが新政策を発表して以来、米国もロシアもフランスもインドとの協力を続ける意図を明確にしています。」と語った。

フランスのジェローム・ボナフォン駐インド大使は、7月1日の報道発表で、「このNSGの決定によってわれわれの二国間協力が制限されることはなく、フランスは2008年9月30日に署名された原子力の平和利用開発に関する協力協定の完全なる利用に向けて努力していく。」と語った。

さらに発表では、「フルスコープ保障措置条項からインドを免除するという2008年9月の決定があったのだから、これ[今回のNSG決定]はこの免除の原則からはずれるものではない」としている。

インドは、30年間の国際的孤立を経て、世界との原子力取引を再開した。自国の核兵器開発を続けることを容認した米国との2008年の民生核取引がまとまったことがきっかけである。

ナヤン氏は、「米印原子力協力協定とNSGによる例外扱いは、米印両国内での平和運動や反核運動からの強いプレッシャーにも関わらず推し進められました。」と語った。

NSG内では、オーストリアやアイルランド、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スイスが、インドとの濃縮・再処理技術貿易は認められないとの論陣を張ったが、不成功に終わった。

ナヤン氏は、「しかし、NSGは濃縮・再処理技術をインドに移転することを明示的に保証したわけではありません。」と語った。

さらに、インド議会は2010年8月、いくつかの二国間協定がすでに結ばれていたにもかかわらず、原子力事故に関する厳格な責任を規定した法律を制定した。国際的な原子力供給主体にとってはマイナスの影響がある。

インドが、NPTに署名しないまま核保有を宣言した国として、NPT加盟国から核技術・核器機の移転を受けることは、いかなる場合においても困難であろう。

インドは、譲り受けた施設や技術を戦略的目的のために利用しないとの保証を一度も与えたことはない。実際、米印原子力協力協定では、軍事用だと申告された施設に対して国際的な監視や保障措置を適用する必要はない、とされている。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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