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|インド|ミサイル「アグニ5」発射成功も、「怒り」を呼び起こさず

【バンコクIDN=カリンガ・セネビラトネ】

インドが、1月18日に、核兵器搭載可能の大陸間弾道ミサイル(ICBM)である「アグニ5」の発射実験に成功したことは、アジアではほとんど注目されなかった。しかし西側メディアは、インドがいまや北京や上海などの中国主要都市を射程に収めた点に着目して報道した。

一部に賞賛する傾向さえあったこの報道ぶりは、北朝鮮が同様のミサイル(火星15)を昨年11月29日未明に発射した際の西側メディアのヒステリックな対応と際立った対照を示している。北朝鮮のミサイル発射実験が世界の非核化への脅威と見なされる一方で、インドのそれはそうなっていない。

『ハフィントン・ポスト』のエリック・マーゴリス氏が指摘するように、「インド政府はICBM開発を宇宙開発計画のオブラートに包んで」おり、北朝鮮が衛星を軌道上に打ち上げようとした際、米国は、軌道上に衛星を置く能力のあるブースターは核弾頭を運搬することもできると「厳しく指摘」した。

「現在のところ、インドは米国の緊密な同盟国であり、核戦力の構築について米国やイスラエルの支援を得ている。米国政府は、インドの核不拡散条約(NPT)参加拒否に目をつぶり、インドの核戦力の拡張を中国に対する地域的な対抗バランスになりうるとして黙認している。」とマーゴリス氏は述べている。

中国はこのような見方に対して否定的な反応を示している。中国の華春瑩外務報道官は、前回の発射実験(2016年12月26日)の成功を受けて、核弾頭で中国の諸都市を攻撃できるミサイルの能力について扱ったインド内外の報道に反論を展開した。

『ヒンドゥスタン・タイムズ』によれば、華報道官は、「核兵器を搭載した弾道ミサイルをインドが開発しうるかについて国連安保理は明確に規制している。」と指摘したうえで、「中印両国は、互いを、競い合うライバルではなく、2つの重要な開発途上国であり新興経済国として協力パートナーと見なす点で、重要な合意に達しています。」と語った。

華報道官はさらに「関連するメディアに対しては、客観的かつ理性ある報道をし、中印両国の相互信頼と地域の平和と安定に資する活動をするよう要望したい。」と語った。

1月18日の弾道ミサイル「アグニ5」の発射実験の成功は、インド洋における日本との合同海軍演習の翌日のことであった。最近、インド・日本・米国・豪州は、中国封じ込めの一環として、軍隊間での協力を強化する防衛同盟を形成すると発表した。

中国の『グローバル・タイムズ(環球時報)』が最近掲載した論説は、インドメディアに対して、中国の脅威に関するインド軍関係者の厳しいコメントを煽るようなことは慎むべきだと呼びかけた。「2018年初頭以来、インド軍は時として、中国に対する厳しいコメントをしてきた。インド陸軍のビピン・ラワット参謀総長は先週、インドは中国国境に焦点を移すべきだと発言した。」「インドメディアは軍から得た情報を増幅させ、タカ派的な軍の発言を称賛し、中国がインドを侵犯し挑発しているかのような印象を捏造している。」と1月16日の論説は述べている。

「インド軍とメディアによる連係プレーによって、インド国民の中国に対する印象は悪くなっている」と『環球時報』は述べ、インド・中国・ブータン国境のドクラム高地で2017年ににらみ合いが起こった際に、「現状を維持する」としたインド外務省の見方と矛盾していると指摘した。

同論説は、非常に率直な評価をしている。「インド社会は、中国に関する見方の形成において、予算を拡大し同国の外交関係でより大きな影響力を得ようとしている軍の利己的な願望と、目立つ報道を追求する利益重視のメディアによって惑わされてきた。結果として、中国に対する強硬な姿勢はインドにおける『政治的正しさ』となり、インドは米国・日本・豪州の側に押し出されることになった。」

中国の報道によれば、中国の核専門家は「アグニ5」が核弾頭で中国の諸都市を攻撃する能力に疑問を呈す一方で、この実験が核不拡散条約に対する挑戦になっていると指摘している。

軍事専門家でテレビのコメンテーターでもあるソン・ジョンピン氏は、『環球時報』の取材に対して、インドの核能力と地域における軍事同盟の強化によって、インド軍が近いうちに「戦う軍隊」化するかもしれず、これが中国の野心的な「一帯一路」構想の妨げになるかもしれない、と論じている。

ソン氏は、インド洋は「一帯一路」にとって「不可欠な地域」であると同時に、海洋大国を目指す中国の国家戦略の一環でもあるから、中国はインド洋における軍事的・経済的プレゼンスを高めねばならないと述べている。

現在、ICBMによる攻撃能力を保持しているのは、米・露・仏・英・中の5カ国で、これらはいずれも国連安保理の常任理事国である。従って、マーゴリス氏はインドの実験についてまた別の理由を「インドがICBMを望んでいる最大の理由はおそらく、大国としての地位と、安保理における椅子だろう。」と指摘している。

西側はアジアを核武装化と軍事的対立の温床とみているかもしれないが、インドの弾道ミサイル「アグニ5」の発射実験に対するアジアでの報道の少なさは、核によって注目を集めようとするよりも経済協力の方が望ましいとの見方の反映だ。

韓国と北朝鮮が平昌冬季オリンピックを通じた対話路線による外交を展開しようとする中、これが地域における緊張緩和につながるかもしれないとの安堵感が広がっている。アジアのほとんどの人びとは、緊張状態は米国、とりわけドナルド・トランプ大統領によって永続化されていると考えている。

『ストレート・タイムズ』(シンガポール)のラヴィ・ベロール副編集長による論説はこうした雰囲気について、「(北朝鮮の)金(正恩)最高指導者は、恐るべき抑止力を自身に与えることが計算できる全面的な核開発計画の要諦を検討したのちに、こうした動きを起こした。」と論じている。

ベロール副編集長は、「金委員長の大胆さに憤るべきか、或いは彼の決意の強さに称賛を送るべきか決めるかねるところだが」と指摘したうえで、「平和協議への彼の呼びかけは、トレードマークとなった大胆不敵さと同居している。金委員長は、ソウルを標的にはしないと述べる一方で、米国は敵とみなすとして、韓国の同胞が深慮すべき微妙だが重要な区別の線を引いてみせた。」と論じた。

ベロール副編集長はまた、「金委員長は、無謀な狂人などではなく、タイミングに関する鋭い感覚と、状況を的確に測る理性を持った聡明な指揮者であると認識すべき時だろう。より大きな核のボタンを持った敵対者とは別の部類に属する人間だ。」とみなしている。

また、「イランとの核合意を破棄するとのトランプ氏の素質は、米国と同様の非核協議を持とうと計画しているあらゆる他の国々に再考を迫ることだろう。金委員長はおそらく、彼のブリーフィングペーパーを慎重に読んでいるにちがいない。そして、もっとも真摯な保証が尊重されないとしたら、それはどういうことになるのかを問う理性を持っているにちがいない。」とベロール副編集長は論じた。

識者は、米国の伝統的な同盟国であるシンガポールがトランプ大統領の核政策について懸念を感じていることを特筆している。実際、ベロール副編集長は、朝鮮半島の永続的平和は、米中間、そしておそらくは米ロ間での協調がなければ達成できないと指摘している。

しかし、中国政府もロシア政府も、1月16日までバンクーバーで行われたカナダ政府主催の北朝鮮関連協議に招かれていない。招かれたのは、50年以上前の朝鮮戦争時の当事者である西側の同盟国だけである。

「たしかに、解決を実際に妨げているのは冷戦の名残りだと考えている人々もいる。」とベロール副編集長は指摘する。「米国は朝鮮半島から核兵器を引き上げたと主張しているが、中国は、協議を通じてこの問題の解決策を見つけることに米国が真剣でないと考えている節がある。なぜなら、そうしてしまうと、中国の周辺に強力で性能の良い兵器を配備する言い訳が成り立たなくなるからだ。」と論じた。

さらにベロール副編集長は、金委員長が新年の演説において、「韓国人とは同じ血を分かちあった同胞であり、この慶事を共に喜び、彼らを助けるのは当然のことだ。」と述べ、平昌冬季オリンピックの開催を称賛し、すべての朝鮮人にとっての重大なイベントだとして歓迎した点を指摘した。(1.21.2018) INPS Japan/ IDN-InDepth News 

ICAN事務局長、日本に袋小路からの出口を示す

【東京IDN=浅霧勝浩

「全ての国が、とりわけ日本が、核兵器禁止条約(核禁条約)に参加することを望みます。ノーモア・ヒバクシャ。」1月12日から長崎原爆資料館で始まった企画展のオープニングイベントに参加した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は、企画展のメッセージボードにこうつづった。

この企画展は、「核兵器の使用が人道上破壊的な結果をもたらすことへの関心を高め、核禁条約の制定に向け革新的な努力を尽くした。」として12月10日にオスロで行われたICANのノーベル平和賞受賞を記念したものだった。

フィン事務局長は3日後、広島の平和記念資料館において、昨年7月7日に国連総会で採択された核禁条約の早期締結を求める署名簿に記入した。また芳名録には、「広島市は人間性の最悪なるものを経験しました。しかし街を再建し、核兵器廃絶に取り組む中で、人間性の最善なるものを示してきました。広島は希望の都市であり、ICANは核兵器の終わりを見届けるため、皆様と共に力を尽くします。」と記帳した。

ICAN
ICAN

ICANのノーベル平和賞受賞から約1か月後に長崎大学の招きで初来日したフィン事務局長は、1945年に史上初めて原爆が投下された日本の2都市、長崎と広島と訪問した。

12月10日のオスロでの授賞式では、フィン事務局長は、被爆者を代表して登壇したサーロー節子さんとともに、メダルを受け取った。サーロー節子さんは受賞演説の中で被爆者について、「広島と長崎の原爆投下から奇跡的に生き延び」70年以上にわたり、核兵器の完全廃絶のために努力してきた、と語った。

核禁条約は、国連総会のマンデートを受けた「法的拘束力のある核兵器禁止条約の交渉を行うための国連会議(交渉会議)」で122カ国が賛成して採択されたが、101カ国からFBO(信仰を基盤とした団体)を含む468団体が参加したICANによる不屈の努力が、条約成立に大きな貢献をした。

Photo (left to right): The Norwegian Nobel Committee Chair Berit Reiss-Andersen; ICAN campaigner Setsuko Thurlow who survived the bombing of Hiroshima as a 13-year-old; ICAN Executive Director Beatrice Fihn. Credit: ICAN
Photo (left to right): The Norwegian Nobel Committee Chair Berit Reiss-Andersen; ICAN campaigner Setsuko Thurlow who survived the bombing of Hiroshima as a 13-year-old; ICAN Executive Director Beatrice Fihn. Credit: ICAN

日本は核兵器の戦時使用の惨害を経験した唯一の国だが、核保有国が参加しない形で核禁条約を作ることは、核兵器のない世界を遠ざけることになると主張して、交渉会議には参加しなかった。

1週間(1月12日~18日)にわたったフィン事務局長の日本訪問の趣旨は、政界のリーダーや国会議員に核禁条約への支持を訴えるとともに、安倍晋三首相に核禁条約に署名するよう説得を試みることにあった。

ICANはフィン事務局長の来日に合わせて安倍首相との面談を要請していたが、安倍首相がフィン事務局長が日本に到着した日に、欧州六カ国歴訪(エストニア、ラトビア、リトアニア、ブルガリア、セルビア、ルーマニア)に出発していたため実現しなかった。

長崎原爆資料館や広島平和記念資料館への訪問や核兵器禁止を目指して取り組んでいる活動家たちとの出会いは、明らかにフィン事務局長の心に忘れ難い印象を残した。フィン事務局長は記者団に対して、核兵器が二度と使用されないよう努めていくという「決意」が今回の訪問で一層強くなりました、と語った。

彼女のこうした決意は、東京における記者会見や国会議員との討論会でも示された。

フィン事務局長は記者団に対して、「日本の行動とリーダーシップが求められています。…日本は核軍縮の分野で道義的な権威になることができますし、それにはまずは安倍首相が、日本を核禁条約に加盟させるところから始められると思っています。」と語った。

また、「北朝鮮からの現実的な核の脅威が高まっているなかで日本国民の生命と財産を守る」ために日本には米国の核抑止が必要、という主張に反論して、「もし仮に核兵器の抑止力が平和をもたらすのであるならば、北朝鮮の核兵器を歓迎すべきという理屈になります。今やそれが平和をもたらしたと。しかし、現実にはそうはなっていません。…むしろ(核兵器が使用される)リスクが高まっています。このことは、核兵器が危機を煽る存在であることを明確に示しています。」と語った

フィン事務局長は、衆院第1議員会館で開かれた、政府と与野党9政党・会派の代表が参加した公開討論会(核兵器廃絶日本NGO連絡会主催)では、日本政府に対して核抑止に基づく現在の安全保障政策を見直し、核禁条約への加盟の可能性について議会で議論を始めるよう熱心に訴えるとともに、袋小路とも思われる現状からの出口を指し示した。

新衆議院第一議員会館の全景/ Photo by Yuukokusya
新衆議院第一議員会館の全景/ Photo by Yuukokusya

フィン事務局長は、核兵器禁止条約に参加しないことで日本は国際的な軍縮の動きのなかで「はずれもの」となるリスクがあると警告し、「日本は核禁条約に加盟しても米国のような核兵器国との軍事同盟を維持することは可能です。核禁条約は加盟国に対して、核兵器を使用、生産、保有せず、核兵器の使用を奨励或いは支援しないよう強く求めているのです。」と語った。

フィン事務局長は、「人権と人道法を尊重する全ての国々がそう(=核禁条約に加入)すべきです。」と強調したうえで、「私は(日本の国会には)是非とも核禁条約に関する調査委員会を立ち上げて、日本にどのような選択肢があるのか議論を始めてほしい。」と訴えた。

Beatrice Fihn
Beatrice Fihn

さらに、「(北朝鮮による)核戦争の脅威が増すなか、核軍縮につながるこうしたオプションを追求しないのはあまりにも危険であり、核禁条約への加入が最善の道です。」と語った。

これに関連して、フィン事務局長は、スウェーデンやスイス、また、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であるイタリアとノルウェーが、核禁条約を軍縮のオプションとして検討を開始している事例を紹介した。

しかし佐藤正久外務副大臣は、(核禁条約に対する)主要な核兵器保有国の支持がない現状を指摘し、この条約に参加すれば「日米同盟と核抑止力の正当性を損なうことになる。」と述べ、核禁条約への署名に反対する従来の日本政府の立場を繰り返した。

与党自民党の武見敬三参院政審会長もまた、「私たちは道義に基づく外交努力を行っていかなければなりませんが、同時に(北朝鮮からの)現実にある軍事的な脅威にも対処しなければなりません。」と述べ、核禁条約に対して慎重な立場を表明した。

一方、立憲民主党の福山哲郎幹事長はフィン事務局長の提案に賛意を示し、「日本が核禁条約の効果を調査していくことは非常に有効です。党としてこの問題を国会の中で議論できるように問題提起をしていきたい。」と語った。

共産党の志位和夫委員長は「(核禁条約で)核を違法化し悪の烙印を押すことが北朝鮮に核放棄を迫る大きな力になる」と述べた。希望の党の玉木雄一郎代表は、「核抑止力も維持しなければいけない私たちは、現実の脅威と核兵器のない世界という理想のギャップを埋めていきたい。」と述べたが、核禁条約への加入を支持するかどうかについては明言しなかった。

自民党と連立与党を組む公明党の山口那津男代表は、「国際的に核兵器を禁止する規範が確立されたことは画期的な意義があります。公明党も長期的、大局的な視野から条約に賛同します。」と述べた。

Beatrice Fihn, Executive Director of ICAN participating in an open forum with  representatives of nine political parties and the government on January 16, 2018./ Komei Shimbun
Beatrice Fihn, Executive Director of ICAN participating in an open forum with representatives of nine political parties and the government on January 16, 2018./ Komei Shimbun

また、日本の安全保障環境の現実を踏まえれば、「北朝鮮の核開発、保有を目前にして、核保有国と非保有国が共に協力、連携して当面の問題を解決しなければならない。」と指摘した。

山口代表は、その上で、核不拡散条約(NPT)体制下での核軍縮の重要性を力説。また、核禁条約も拡散防止に一定の効果があるとの考えを示すとともに、核軍縮の進展へ「日本は保有国にも賛同を得られる橋渡しをしたい。」と強調した。(原文へPDF

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|カザフスタン|首都アスタナを対北朝鮮軍縮協議の場に

【国連IDN=サントー・D・バネルジー】

今年は、国連が核を「持つ国」と「持たざる国」の双方を招いた核不拡散条約(NPT)の署名開放(1968年7月1日)から7月で50年周年を迎える。こうしたなか、中央アジアのカザフスタンが、国連で大量破壊兵器の不拡散を目的とした6項目の提案を行い、北朝鮮との軍縮協議の場を提供する意向を示している。

このイニシアチブは1月18日、カザフスタンが国連安全保障理事会(安保理)議長国の立場で招集した「大量破壊兵器の不拡散:信頼醸成措置」について話し合う公開会合において発表された。同日、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「冷戦終焉後、核兵器に関する世界の懸念が現在、最も大きくなっている。」との懸念を表明していた。

この会合で演説したカザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、「信頼醸成措置は歴史を通じてその効果を証明してきました。」と語った。例えば、人類が新たな大規模戦争に突入する瀬戸際にあった20世紀後半において、信頼醸成措置が、大量破壊の阻止に役立っていた。

ナザルバエフ大統領は、「国連憲章が謳うように、『戦争の惨害から将来の世代を救うことが我々共通の目的です。」と指摘したうえで、「カザフスタンは自発的に核軍縮を行うことでその目的の実現に向けて本気で取り組んでいることを証明し、国際社会から高く評価されてきました。」と語った。

Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri

旧ソ連邦の一部を構成していたカザフスタンには、当時、1410発のソ連の戦略核弾頭と、数量が公開されていない戦術核兵器が、領土内に配備されていた。ソ連の二大核実験場の一つはカザフスタン東部のセミパラチンスクにあり、少なくとも460回の核実験が行われた。ソ連が崩壊後の1991年に独立をはたすと、カザフスタンはソ連時代の核戦力を全て放棄する道を選んだ。

ナザルバエフ大統領は、「カザフスタンは、自国領内に国際原子力機関(IAEA)低濃縮ウラン(LEU)バンク映像資料)を設立することを引き受けることで、国際協力の新たなモデルを打ち立て、不拡散体制を強化しました。」と語った。

そして、自国が核兵器を放棄し隣国と相互不可侵条約を結んで独立国としての地位を一層強固にしたことや、核軍縮を通じて国際的地位を築いてきた経緯を強調したうえで、「核兵器を放棄しようとする国々にとり、カザフスタンの経験は、指針になることができます。」と語った。そして、北朝鮮指導部に対して、「私たちが歩んだこの道をたどってほしい。」と呼びかけた。

北朝鮮は、2003年1月10日にNPTからの脱退を表明した。脱退はすぐに発効し、それ以来、2006年、2009年、2013年、2016年に2回、2017年と、計6回の核実験を行ってきた。

Map of North Korea
Map of North Korea

ナザルバエフ大統領は、このような状況を踏まえ、6項目の提案を行った。

第一に、NPTからの脱退手続きをより難しくして、他国が北朝鮮の先例に倣って核兵器保有に走らせないようにすることである。「NPTに対する疑問を呈することなく、NPTの違反国に対する制裁や執行措置を含め、その帰結を定義するような国連安保理特別決議の起草を呼びかけたい」とナザルバエフ大統領は語った。カザフスタンは、2017~18年において、15カ国で構成される国連安保理の非常任理事国を務めている。

中央アジアの国で国連安保理の理事国に就任したのはカザフスタンが史上初めてである。そしてまた、国際の平和と安全の維持に第一義的な責任を負い影響力のある安保理の議長国になったのも、初めてのことだ。

第二の措置として、ナザルバエフ大統領は、大量破壊兵器の取得と拡散に対するより厳しい措置を適用するメカニズムの構築を呼びかけた。それはまた「別の安保理決議で強化されるべきだ。」とも語った。加えて、核兵器を自発的に放棄した国々は、核保有国からの強力な保証を受けるべきだ、と語った。

第三に、世界の安全保障体制の強化に成功するか失敗するかは、「軍事面での時代錯誤的な認識を克服する能力を持ち合わせているか否かににかかっている。」として、「挑発的で意味のない軍事ブロックに分割されている状態からは脱するべきだ。」と指摘するとともに、「国連創設100周年までに相互の信頼を確立し非核化を達成するタイムリミットを、国際社会は設定するべきだ。」と語った。ナザルバエフ大統領はこの提案を、2016年に発表した「世界:21世紀」と題するマニフェストに詳述している。

第四に、ナザルバエフ大統領は、国際問題に関して政治的信頼と体系的対話を創出する必要性を力説するとともに、イラン核合意の効果を強調して、「『イランの核問題に関する包括的共同作業計画(JCPOA)』として知られるこの合意が、困難を乗り越え、合意に変更が加えられることなく成功するよう望んでいる。」と表明した。ナザルバエフ大統領は、北朝鮮問題の解決にも、イラン核合意の場合と同様のアプローチを採用するよう提案した。

The ministers of foreign affairs of France, Germany, the European Union, Iran, the United Kingdom and the United States as well as Chinese and Russian diplomats announcing the framework for a Comprehensive agreement on the Iranian nuclear programme (Lausanne, 2 April 2015). /United States Department of State.
The ministers of foreign affairs of France, Germany, the European Union, Iran, the United Kingdom and the United States as well as Chinese and Russian diplomats announcing the framework for a Comprehensive agreement on the Iranian nuclear programme (Lausanne, 2 April 2015). /United States Department of State.

さらにナザルバエフ大統領は、「私たちは、北朝鮮が交渉の席に復帰する信頼感を醸成する重要な条件として、『核五大国』が北朝鮮に対して安全の保証を与えるよう求めます。」と強調したうえで、「カザフスタンは、必要があれば、協議の場を喜んで提供する用意があります。」と語った。この提案は、カザフスタンが、シリア内戦終結を目的とした和平協議の場(アスタナ・プロセス)を提供し、首都アスタナで開催された7回に及ぶ協議により、シリア国内における暴力が著しく減少した成果を、安保理理事国に思い起こさせた。

第五に、中央アジアにおいて非核兵器地帯を創設した国々の経験を基礎にして、ナザルバエフ大統領は、中東において核・化学・生物兵器とその運搬手段を禁止する非大量破壊兵器地帯の創設を呼びかけた。中東非大量破壊兵器地帯の創設は、1995年のNPT運用検討会議でNPTの無期限延長の結果を導いた一連の決定の一部として、予定されていたものであった。

第六に、ナザルバエフ大統領は、現代の科学的成果を国際社会が利用できることを印象付け、軍備競争の抑制を強化することを訴えた。「信頼醸成措置は、宇宙空間の軍事化を予防するための共通のアプローチを構築するうえでも、必要とされていることだ。」と強調し、「この点は別の議論の場を設けたテーマになりうる。」と付け加えた。

また、こうした取り組みや、大量破壊兵器の不拡散の問題は、核兵器国の間だけではなく、世界のその他全ての国々の間の相互理解と信頼にかかっている、と強調した。

ナザルバエフ大統領は、「グローバル社会は、力強い多様性と多元性を備えた一つのまとまりであり、地上の国々と人々の間にバランスと調和が存在してはじめて存続していくことが可能なのです。」と述べ、国連安保理の役割と歴史的任務を称賛した。

Photo: The UN General Assembly Hall. Credit: Manuel Elias/UN.
Photo: The UN General Assembly Hall. Credit: Manuel Elias/UN.

ナザルバエフ大統領は、平和的共存という正しい方向を選択する共同行動の力によって倍加されるであろう人類の信用と意思の力、そして知性に対する希望を表明して、安保理での発言を締めくくった。(原文へ

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翻訳=INPS Japan

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国連事務総長、新決議を通じて2018年が朝鮮半島にとり「転換点となる年」となることを期待

【国連IDN=J・ナストラニス】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、2018年を、朝鮮半島における持続可能な平和実現に向けて「転換点となる年」にしたいと望んでいる。

グテーレス事務総長は、北朝鮮に対する追加の制裁決議(安保理決議2397号)の採択を受けて、報道官名で出した声明のなかで、「包括的で平和的な政治解決へと前に進む唯一の道は、直ちに緊張緩和に取り組むとともに意思疎通のチャンネル作りをすることだ。」と語った。

この安保理決議は、北朝鮮が11月28日に行った大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の試験発射に対する措置として12月22日に採択されたものだ。

グテーレス事務総長は、「安保理が引き続き(対北朝鮮制裁決議に際して)一致団結していること」を歓迎するとともに、「安保理は、非核化という目標を平和裏に実現するための外交イニシアチブが機能する余地を創り出すうえで欠かせない存在です。」と語った。

Antonio Guterres/ DFID - UK Department for International Development - CC BY-SA 2.0
Antonio Guterres/ DFID – UK Department for International Development – CC BY-SA 2.0

同声明によると、事務総長は、朝鮮半島危機に対する平和的で外交的な政治解決を求め、緊張緩和に向けた一層の取り組みを呼びかけている安保理への支持を表明した。

「グテーレス事務総長は、この目的に向けて全ての関連団体と協力していくことを再確認している。事務総長はまた、全ての国連加盟国に対して、関連安保理決議の完全履行を確保するとともに、2018年を、朝鮮半島における持続可能な平和の実現に向けて『転換点となる年』とするよう、一層の努力を呼びかけている。」と声明は述べた。

安保理の新たな制裁決議は、最近の弾道ミサイル発射実験など、北朝鮮が引き続き核・ミサイルプログラムに拍車をかけている事態を受けて、それまで北朝鮮に科せられた制裁措置を一層強化することを目指したものだ。

15カ国で構成される安保理、全会一致の決議において、北朝鮮に供給できる石油精製品を年間50万バレル(2018 年1月1日から12か月間)に制限(昨年9月の制裁決議2375号で年間450万バレルから200万バレルに制限しているので、今回の制裁で90%近い削減となる:INPS)、そして原油は現行の年間400万バレルに制限する決定をした。

安保理は、「全ての加盟国が、専ら北朝鮮国民の生計目的のためであり、また、北朝鮮の核若しくは弾道ミサイル計画又は決議第1718号(2006年)、第1874号(200 9年)、第2087号(2013年)、第2094号(2013年)、第2270号(2 016年)、第2321号(2016年)、第2356号(2017年)、第2371 号(2017年)、第2375号(2017年)若しくはこの決議により禁止されているその他の活動と無関係な原油の輸送であると制裁委員会が事前に個別の案件に応じて承認する場合を除くほか、自国の領域を通じた又は自国の国民による、又は自国の旗を掲げる船舶、航空機、パイプライン、鉄道若しくは車両を用いた、北朝鮮への全ての原油(自国の領域を原産地とするものであるか否かを問わない)の直接又は間接の供給、販売又は移転を禁止することを」決定した。

安保理はさらに、「この禁止は、この決議の 採択の日から12か月間及びその後は各12か月間毎の総計が400万バレル又は525,000トンを超えない原油には適用されないことを決定するとともに、原油を提供する全ての加盟国は、北朝鮮に提供された原油の量に関する報告を、この決議の採択の日から90日毎に委員会に対して提出することを」決定した。

禁輸品目も拡大した。輸出禁止項目に食用品・農水産品・機械類・電気機械・鉱物・土石類・木材類・船舶などが追加された。輸入禁止品目には産業用機械類・運送手段・鉄鋼、その他の金属類などが追加された。また「操業権取引の禁止」も明文化した。

この制限はまた、加盟国の領域、自国の国民、さらには、(荷物の禁輸品目が自国の領域を原産地とするものであるか否かに関わりなく)自国の旗を掲げる船舶、航空機、パイプライン、鉄道、車両にも適用された。

安保理決議はまた、加盟国は、その国の管轄下で収入を得ている全ての北朝鮮国籍の労働者と、彼らを監視するために北朝鮮政府が派遣している安全監視官を24カ月以内に本国に送還することを義務付けた。ただし、加盟国が、適用される国内法・国際法の下で当該人物の送還が禁じられている、或いは、当該人物が加盟国の国民でもあると認定した場合には、この限りではない。

安保理はさらに、輸送船の臨検に関連して、関連国連決議に対する違反行為や禁止対象物品の輸送が疑われる北朝鮮船が領海に進入する場合、当該加盟国が港において北朝鮮船に対して拿捕、臨検、押収・凍結などの措置を取ることができる権限を付与した。

対北朝鮮海上封鎖も強化した。違法行為が疑われる北朝鮮船が加盟国の領海に進入する場合、拿捕、臨検、押収・凍結などの措置を取ることができる権限を付与した。

ニューヨーク・タイムズによれば、「今回の決議には15の理事国すべてが賛成したが、ロシアや中国の主張を反映して、制裁は弱められた。中露両国は、石油の禁輸やその他の厳しい制裁を呼びかける決議案原文に反対した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は先週、そうした追加的な制裁は逆効果であり、かえって事態を不安定化させかねないと語った。」という。

安保理は、政治面においては、北朝鮮の人々が置かれている深刻な苦難について「深い憂慮」を表明し、民衆の福利を置き去りにして核兵器や弾道ミサイル開発に邁進している北朝鮮政府を非難した。

グテーレス事務総長は以前に、「誤算の場合も含めて」、朝鮮半島における軍事対立のリスクに対する深い懸念を表明する一方で、北朝鮮の平和と安全保障情勢に関する問題を、同国の人道的ニーズとは切り離す必要性を強調していた。

北朝鮮の人口の7割が食糧不足に苦しめられており、4割が栄養不良の状態に置かれている。また、緊急のニーズを満たすために1億1400万ドルが必要とされている。しかし、「2017年北朝鮮人道的ニーズ・優先課題」アピールは必要な資金の3割しか集められなかった、とグテーレス事務総長は12月15日の安保理会合で語った。

安保理は、12月22日に採択された決議で、北朝鮮の行動を「継続的な見直し」の対象にすること、さらなる核実験やミサイルの発射実験が行われた場合にはさらに踏み込んだ「重大な措置」を取る決意があることを確認した。

Army-People Rallies Hail Success in H-bomb Test. Credit: The Rodong Sinmun.
Army-People Rallies Hail Success in H-bomb Test. Credit: The Rodong Sinmun.

米国の国連代表部は、新決議の全文発表にあたって、「安保理決議2397号は、北朝鮮による違法な密輸活動を停止すべく、北朝鮮のエネルギーや輸出入部門に加え、海洋当局に対しても強力な制裁を新たに科した。決議2397号は、北朝鮮に対する最も強力な制裁を課した決議2375(2017)号やそれ以前の諸決議を基盤としたものである。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【チャンタブリ(タイ北東部)IDN=カリンガ・セネビラトネ】

タイ北東部のこの農村地区で、熱心で社会的に意識が高いある医師が、社会から疎外された子どもたちのための学校で働いている。この学校は、2016年10月に崩御したプミポン国王の次女であるマハ・チャクリ・シリントーン王女が設立した財団が支援している。

この学校は、斬新な職業訓練カリキュラムを通じて医療の世界に送り込まれる学生を支援することを目的としており、持続可能な開発目標(SDGs)に対処する多角的な取り組みを提供している。

SDGs Goal No.4
SDGs Goal No.4

社会保健局の主任医官であるポーンチャイ・チタナンタヴィタヤ博士は、いわゆる「オフィス症候群」(コンピュータ画面の前で長時間働いた際に生じる首や肩の痛み)を治療するために自身が開発した独自のタイ式マッサージセラピーを学生たちに実演してみせたあと、IDNの取材に対して、「モン族(丘陵の部族)の青年たちがここに6人いますが、家族はみんな喜んでいます。もし彼らが丘陵地域に留まっていたならば今頃トウモロコシ畑でひたすら働いていたことでしょう。しかしここでは、知識と自尊心を得て、いつの日か医療関係者になることもできます。」と語った。

「訓練を受ければ、それだけ仕事に就けるチャンスも増えます。」と17歳の学生ナテタヤ・ジャネリンダさんはIDNの取材に対して語った。「この道を進めば、私も病気の人たちを助けることができます。」そう話すジャネリンダさんは、いつの日か医者になるのを夢見ている。

「スマート学校プログラム」の顧問であり、コミュニケーション・開発知識管理センター(CCDKM)のセンター長であるカモルラット・インタラタット教授は、このやりとりを聞きながら、「医者になりたいと言うなんて驚きました。通常、社会から疎外された子どもたちはそんなこと言わないものです。このプログラムは彼女たちに自信をつけつつあります。」と語った。

タイ式マッサージの知恵を現代知識と融合させる

ポーンチャイ博士は、独自に編み出したタイ式マッサージセラピーについて、古代からタイに伝わるマッサージの知恵を現代の医療知識と融合させたものだと説明した。とりわけ、自身がベテランの心臓専門医であることから、心臓学に関連した知識が念頭にある。

ポーンチャイ博士は、「私は多くの心臓病患者と接してきましたから、職場で緊張があると、それが過度の緊張や高いコレステロール、運動不足、果ては心臓発作につながることを知っています。しかし、患者を治療することが正しいプロセスではないと認識するにつれて、最良の対策は予防だと思うようになりました。」と語った。

こうして身体生理学を学んだポーンチャイ博士は、人間にストレスを与えるのは筋肉であり、アデニンの噴出が疲労の原因だと気付いた。「こうしたことは、ストレッチや、体の痛む場所に対するマッサージで緩和することができ、すると脳も元の働きを取り戻します。」とポーンチャイ博士は語った。

「それは言ってみれば、もしあなたが瞑想の経験を積んだ方ならば、瞑想を通じて全身をリラックスさせることができるでしょう。しかし現実には、そのようにできる人は多くありません。だから私は、このセラピーを開発して、瞑想の効果を模倣し、緊張した筋肉をほぐすことができるようにしたのです。私たちはこのセラピーを『人間メンテナンスサービス』と呼んでいます。」

不遇な子どもたちにチャンスを与える

HRH Princess Maha Chakri Sirindhorn at the Royal Thai Government House on December 7, 2009, at a gala dinner hosted by the goverment in honouBy Flickr user Abhisit Vejjajiva , CC BY 2.0
HRH Princess Maha Chakri Sirindhorn at the Royal Thai Government House on December 7, 2009, at a gala dinner hosted by the goverment in honouBy Flickr user Abhisit Vejjajiva , CC BY 2.0

若い施術者たちの訓練において、ポーンチャイ博士は生徒たちに徐々にこの医療知識を伝えていかねばならない。しかし、もっと重要なことは、こうした施術を行える屈強で健康な若者たちを必要としていることだ。「彼らのコア筋肉を鍛え上げるのに1カ月はかかります。彼らはさまざまなタイプの運動をします。寄宿舎に住んでいる彼らを早朝の5時に起こし、朝と夕に1時間ずつ運動をさせます。訓練は5時に始まって8時に終わります。」とポーンチャイ博士は説明した。

学習中のスキルを練習する学生たちのモデルになるために、土日になると人々が学校にやってくる。ときには、サービスを行うために地元の市場に出掛けていくこともある。最近は、街中で赤十字が行った9日間のフェスティバルにおいて、20人の学生を派遣してマッサージセラピーを提供した。

こうした若者たちが学ぶ「ラジャプラジャヌグロー第48校」には548人の生徒がおり、全員寄宿生活となっている。これは、(小学校1年生から高校まで学ぶ)生徒たちが不遇な社会環境から来ているからだ。多くは両親がおらず、中には麻薬中毒者やゲーム中毒者もいる。それどころか、児童売春をしていた者もいる。そのうち8割はホームレスの家庭出身者だ。

シリントーン王女の財団はタイ全土で同様の学校を85校設置・支援しており、社会から疎外された子どもたちが将来自力で収入確保ができるよう、最新の情報通信技術(ICT)を活用した教育を実施している。

2本立ての教育

インタラタット教授は、財団の方針は、教育システムを社会から疎外された子どもたちに開放して2つの道を歩ませることにあると説明した。「第一は職業教育です。多くの生徒が、高校を卒業すると働きに出るため、大学に行く機会がありません。王女は子どもたちにICTスキルを習わせ、有能な起業家に育てたいと考えています。そして第二は、大学教育に進む者を育てることです。」

インタラタット教授によると、「ICT訓練の第一歩は、簡単なE-コマースである」という。「彼らは、パッケージングからPR、宣伝広告に至るまでICTを使って製品を市場に送り出します。E-マーケティングを自分たちで担当します。株価をチェックし、カタログを最新のものにし、E-バンキングも手掛けます。また、インターネットで送金する方法も学びます。」

ポーンチャイ博士のプログラムは、「スマート学校」という考え方に向けた新しい革新だ、とインタラタット教授は指摘した。情報時代に子どもたちを備えさせるための、技術を基礎とした教育・学習機関という意味だ。

「タイ人はマッサージがうまい。それは先人から伝えられたものです。この医師は医療の知識を従来からの知識に統合し、この種のマッサージの訓練を若者に与えています。学術的、職業的な訓練を与えるものです。若い時から経験しておけば、プロのマッサージ師になることもできます。この試みが持続可能であることは疑いの余地がありません。」とポーンチャイ博士は語った。

「スマート学校」の概念に新しい次元を

校長であるスパポーン・パパクディー博士も、このマッサージ訓練によって、「スマート学校プログラム」に新しい次元が付け加わったと考えている。パパクディー博士はIDNの取材に対して、「私たちは、当校の学生達の潜在能力を見出してくれた専門医師の支援を得ることができて幸運に思っています。」「お蔭で生徒たちは医学的なバックグラウンドを得て訓練を受け、自分や家族のためにすぐにでも収入に結び付けることができるようになりました。希望を失っていた子どもたちが、こうして収入を得る……彼らの家族は誇らしく思うことでしょう。」と語った。

「いつもは自信がなかったのだけど、他の人を助けるようになって自信が出てきました。」と、17歳のティダラット・シントンさんは語った。「海軍で看護師になりたい」と彼女は言う。

ポーンチャイ博士は、学生たちに学ばせているのは、移転可能な収入モデルである、と語った。例えば、都市の駅構内や地元の空港に店を設け、10分間でできる治療を行うこともできるでしょう。8時間のシフトなら40人の治療ができるが、これは相当な収入を生みます。

ポーンチャイ博士は「オフィス症候群はグローバルな問題であり、いつの日か国連開発計画(UNDP)に専門的なセラピストを送り込むのが私の夢です。」と、決意に満ちた顔で語った。

自身を「貧しい医者」だと称するポーンチャイ博士は、金持ちになるためにこれをやっているのではなく、プロジェクトで得た収入を、[自身が教えている]タイ各地の若者たちの出身地で直面している生態学的な惨事に対処するために使いたいのだという。

CCDKM

「私は、農業のために土地を焼くトウモロコシ生産農家の出身者に(マッサージ療法士として)私と一緒に働いてもらうつもりです。彼らがお金を手にしたら、森を焼くことはなくなるでしょうし、その結果、新しい森はより高い付加価値を持ち、人間に与える害も少なくなるでしょう。」と語るポーンチャイ博士は、おそらく、持続可能な開発に新たな多面的アプローチを導入しようとしているのだろう。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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国連が米国の貧困に関する衝撃的な事実を暴露

【トロントIDN=J・C・スレシュ】

米国国民の8人に1人(約4000万人、全人口の12.7%に相当)が貧困下にあり、そのうち約半数にあたる1850万人が極度の貧困状況にあるとの報告書が出された。

米国は世界で最も豊かで、影響力があり、技術革新の進んでいる国の一つだが、「その富も権力も技術も、この状況に対処するために利用されていない。」とフィリップ・アルストン教授は語った。アルストン教授は「極度の貧困と人権に関する国連特別報告官」であり、この発言は全米における2週間の実情調査の任務を遂行した後の調査結果発表においてなされた。

Philip Alston/David Shankbone, CC BY-SA 3.0

国際法学者であり人権活動家もでもあるアルストン氏は、ニューヨーク大学法科大学院ジョン・ノートン・ポメロイ記念教授であり、同大学校の人権・グローバル正義センターの共同センター長を務めている。

国連人権高等弁務官事務所が12月15日に発表したアルストン教授の報告書は、米国における若者の貧困率は経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも最も高く、米国も現加盟国であるOECDの平均14%以下に対して、米国の若者の25%(4人に1人)は貧困下にあるという。

米国における貧困の程度については多くの議論があるが、アルストン教授は、今回の実情調査に際して、主に米国勢調査局が作成した政府の公式統計を利用している。米国勢調査局は、国内における貧困を定義し数値化するために、貧困閾値 (しきいち)あるいは公的貧困率(OPM)を利用している。この報告書で言及されている数値は2017年9月現在のものだ。

OECD加盟国の中では、貧困と不平等の点で米国は37カ国中35位にランクしている。「スタンフォード貧困と不平等研究センター」は米国の現状について、「児童貧困を比較するカテゴリーにおいても、明確かつ継続的に異常値を示している」と指摘している。米国の児童貧困率は、カナダ・英国・アイルランド・スウェーデン・ノルウェー・米国のうち、もっとも高い。

報告書は、米国において衝撃的なほど多くの子どもたちが貧困下に生きている現状を明らかにした。2016年、児童の18%(約1330万人)が貧困下にあり、貧困下にあるすべての人々のうち児童は32.6%を占める。児童貧困率は南部諸州で高く、ミシシッピー州・ニューメキシコ州で30%、ルイジアナ州で29%であった。

UN Human Rights
UN Human Rights

ステレオタイプな見方には反して、貧しい子どもの31%が白人であり、24%が黒人、36%がヒスパニック、1%が先住民となっている。乳幼児の場合では、黒人の42%が貧しく、ヒスパニックは32%、先住民は37%となっている。白人の場合の数値は14%であった。

アルストン教授はまた、米国の貧しい子どもたちが、住宅ローン危機後の賃貸の急騰によっても大いに影響を受けている事実を指摘した。ホームレスを経験した人々の約21%が児童だ。「報告によると、こうした子供たちのほとんどが保護施設で雨露をしのげているとされるが、経済面の不安定さ、高い強制退去率、頻繁な移動等により、教育や心身の健康面で悪影響を被っている。」

アルストン教授は、貧困の「人種的」側面について、「アフリカ系米国人であれ、ヒスパニック系の『移民』であれ、従来、貧困は圧倒的に有色人種の問題だとみなされてきました。しかし、現実には黒人よりも白人の貧困者の方が800万人も多いのが現状です。」と語った。

Map of USA
Map of USA

アルストン教授は、今回の実情調査の期間中に聞き取りをした一部の政治家や行政官が「(公的支援の対象になっているのは)フカフカのソファに座って、カラーテレビを見、スマートフォンをいじりながら、そのすべてが福祉によって賄われている詐欺師のような連中、という見方に完全に囚われていた。」と回想している。

しかし、アルストン教授が米国各地で出会った、「貧困下に暮らす4000万人」に属する人々は、同教授いわく「圧倒的に」貧しい環境で生まれたか、或いは、身体・精神障害や、離婚、家庭崩壊、病気、老齢、低賃金、労働市場における差別などの、自らではどうしようもない状況によって貧困に追い込まれた人々であった。

アルストン教授は、「現在の米国における貧困の顔は、黒人やヒスパニックだけではなく、白人やアジア人、その他多くの有色人種も含まれる。」と語った。また貧困層は「特定の年齢集団に限られたものではない。」と指摘したうえで、「自動化とロボット化により、多くの中年層の労働者が、かつては安全だと思っていた雇用から投げ出されている。」と語った。

21世紀型経済においては、自らどうしようもない不運の結果として貧困に陥る可能性から逃れられるのはごく一部の人々に限られている。「米国がどの豊かな国よりも社会的流動性が低くなっている中で、アメリカンドリームはアメリカン・イリュージョン(幻想)と化しています。」とアルストン教授は語った

アルストン教授はまた、「多くの統計が、貧困層の中でもとりわけ女性が、大きな負担を強いられている現状を浮き彫りにしている。例えば、彼女たちはより頻繁に暴力や性的嫌がらせに晒されており、労働市場においても差別されている。」と語った。

アルストン教授は、ミシガン大学ソーシャルワーク大学校のルーク・シェーファー氏とハーバード大学ケネディスクールのキャスリン・エディン氏による調査を引用して、「シングルマザー世帯で年間を通じて極度の貧困状況にある児童の数は、1995年には10万人弱であったものが、2011年には89万5000人、2012年には70万4000人へと急拡大している。」と語った。

「しかし、恐らく最も認識されていない問題は、国が提供するサービスを縮小する緊縮政策の当然の結果として、家族の面倒を見る世帯主の双肩にその負担のしわ寄せがかかるということであり、それは圧倒的に女性であるということだ。男性優位の立法府は、自らが決めた福祉削減の結果にほとんど注意を払うことをしない。」とアルストン教授は語った。

この国連専門家は、もっぱら貧困層にのみ影響を及ぼす問題についても指摘している。それは、裁判を待つ間に身柄の拘束を解かれることを望む被疑者に対して巨額の保釈金が設定されている問題である。

「米国では年間で約1100万人が地方の拘置所に収監されており、1日あたりでは73万人以上が身柄を拘束されている。そのうち約3分の2が公判待ち、つまり推定無罪(被告は、法廷で有罪と証明されるまで推定無罪と見なされる)の人びとだ」。

「しかし、裁判官は次第に巨額の保釈金を課すようになってきている。つまり、裕福な被疑者は(保釈金を払って)自由を得る一方で、貧しい被疑者は拘置所に留まり続けるということだ。その結果、彼らは仕事を失い、子どもの面倒を見続けることができず、家賃が支払えず、さらなる貧困に落ち込むことになる。」とアルストン教授は記している。

しかし、唯一の救いは、保釈金の廃止を訴える大きな運動が盛り上がっていることだ。司法制度が貧困層に対してきわめて不相応な影響を及ぼしていることを懸念するすべての人々がこの運動に加わる必要がある。

この国連専門家はまた、たとえば罰金支払いの遅延など、幅広い非交通犯罪に関して自動車運転免許の停止処分が広く行われている事実を指摘した。「これは、深刻な状況にある公共交通への投資を頑なに拒否している自治体に住む貧しい人々に、債務を返済するための生計の手段を失わせる完ぺきなやり方です。(免許証を停止された人に)残された道は2つしかありません。つまり、極度な貧困に甘んじるか、或いは、より厳しい刑罰を受けるリスクを冒して無免許運転をするかです。」とアルストン教授は語った。

SDGs Goal No. 1
SDGs Goal No. 1

アルストン教授はまた、「貧しい人々を悪者と見なすやり方は様々です。」「多くの貧しい人々が、そうした観点を踏まえたうえで、本来の権利があるはずの国の支援を申請することを潔しとせず、見通しの暗い生存への闘いに果敢に挑んでいるのです。」と語った。

すでに大きい人種間の格差が、多くの文脈において固定化され、さらに悪化している、とアルストン教授は指摘する。彼がアラバマ州の地方で実地調査を行った際、下水処理システムが崩壊したか、或いはそもそも存在しないために未処理の汚水が流れ出た水溜りに囲まれて生活している様々な世帯を見たという。州保健局は、深刻な健康上の問題があるにも関わらず、どれくらいの世帯がそうした状況で生活しているか把握していなかった。しかも、その状況に対処するための計画を検討したり策定したりする予定もなかった。

「しかし、白人の圧倒的多数は、政府が設置・管理している下水システムを利用できる都市部に住んでいる。ローンデス郡のような地域の住民は黒人であるために、問題が政治や政府のレーダースクリーンに現れる(=関心を引く)ことはない」と国連報告書は述べている。(原文へ

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【ボンIDN=ファビオラ・オルティス】

森林破壊と生物多様性の喪失は、気候と人々の生活に多大な犠牲をもたらしている。森林の回復は、気候変動に対する柔軟性を育み、将来世代のための健全な環境を守るうえで、重要である。これが、森林保全に向けたより持続可能な道程を議論するために12月19・20両日にボンに集った専門家や地域のリーダーらが発した重要なメッセージだ。

「私たちは、先住民族や天然資源、森林を問題と見なすのではなく、むしろ、解決策だとみるべきです。」と「国際森林研究センター」(CIFOR)のロバート・ナシ事務局長は語った。同センターは、持続可能な土地利用に関する科学を基盤とした大規模なプラットフォームである「グローバル景観フォーラム」の主催団体である。

Robert-Nasi/ Global Landscapes Forum

国連気候変動会議(COP23)で世界の指導者らが協議してからひと月後、政策責任者や専門家、民間部門の代表、科学者、市民社会組織の代表が再びボンに集い、景観を全体として捉えようとする試み(ランドスケープアプローチ)の一環として、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、太平洋で進められている、最先端の研究と革新的なプロジェクトについて話し合った。

ナシ事務局長は、「景観管理は選択の問題ではなく、火急の問題です。」と指摘したうえで、「知識を通じた変革を促進すること、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を促進する科学を基盤とした証拠をよりよく提供するために『景観の理解の仕方』を変えることが必要だ。」と説いた。

国連環境計画(UNEP)のエリック・ソルハイム事務局長は、国際社会が取り組むことができる気候変動対策の3分の1は、生物多様性を保護する景観政策を通じて達成できる、との見方を示した。

ソルハイム事務局長は、「2017年は、ハリケーンの『イルマ』が激しい勢いでカリブ地域を襲い、同時に、インドやバングラデシュでは洪水、シエラレオネでは地滑り、ソマリアでは干ばつと、気候や環境面での災害が相次ぐなど、2017年は母なる地球が逆襲に転じた年でした。」と語った。

Erik Solheim. Photo by Harry Wad
Erik Solheim. Photo by Harry Wad

ソルハイム事務局長はまた、「一方で、本当に望むなら、私たちには変化をもたらす能力があることも示された年でもありました。」と指摘したうえで、具体的な事例として、英国とカナダによる脱石炭連合の立ち上げ、中国の習近平国家主席が共産党大会でかつてないほどに環境問題に多く言及したこと、そして、インドがエネルギーミックスにおいて太陽光や風力の割合を高めたことを挙げた。そして、「民間部門を関与させる必要があります。この力強い推進力を財源に転換しなくてはなりません。」と訴えた。

世界銀行で環境・天然資源グローバル実践部門のディレクターを務めるカリン・ケンパー氏は、森林破壊と土地使用の変化は温暖効果ガスの排出に大幅に寄与しており、「状況は急速に悪化している。」と警告した。

毎年、約240億トンの肥沃な土壌が喪失し、1200万ヘクタールの土地が劣化している。「森林の喪失をくい止め、劣化した土地を回復することにより経済的発展が見込まれます。持続可能な林産品には、地元の雇用を大量に創出し、グリーン成長を加速させる力があります。」とケンパー氏は強調した。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

ボン・チャレンジ」において2030年までに3億5000万ヘクタールの土地を回復する世界的な取り組みでは、15億ギガトンのCO2を削減し、1070億ドル相当の経済便益に変換する計画だ。

ケンパー氏は、「見通しは暗いが、希望を持てる理由もあります。つまり、水の供給など、森がもたらす経済的価値に対する理解が進み、新たな森林経済が興りつつあるのです。」と語った。

アフリカは、温室効果ガス(GHG)の排出が最も少ない大陸であるにもかかわらず、極端な気候事象によって最も影響を受けている地域でもある。「アフリカの景観の問題に対処することは、選択の問題ではなく、私たちの生存そのものに関わってくる問題です。長期にわたっての景観に対するアプローチを必要としています。」とモーリシャス共和国のアメーナ・グリブ・ファキム大統領は語った。

ファキム大統領は、「アフリカほど、生物多様性への脅威が深刻なところはありません。」と指摘したうえで、「アフリカの在来種は世界の2倍の速さで消失しており、これを加速しているのが、生息地の喪失と人間の進出です。これは、密猟や森林伐採、採取、略奪農業のような害のあるプロセスであり、アフリカの水生態系に脅威を及ぼしています。そしてこの状況は気候変動によってさらに悪化しているのです。」と語った。

African Continent/ Wikimedia Commons
African Continent/ Wikimedia Commons

アフリカの気候変動による影響に関する経済モデルによれば、仮に2040年までに気温が1.5度上昇した場合、その経済的影響はアフリカ全体のGDPの1.7%分にあたるという。今世紀末までに4.1度上昇した場合、気候変動による経済的コストはアフリカのGDPの10%にあたる。

「森林の消失に対処する唯一の方法は、地域コミュニティーをエンパワーすることです。地域による森林管理の議論を前進させる必要があります。」とブラジルの森林活動家マリア・マルガリーダ・リベイロ・ダシルバ氏は語った。彼女は、地域による森林管理を前進させた功績によって、2017年のワンガリ・マータイ森林チャンピオンアワードを受賞している。

この賞は、世界で森林保護に尽力したケニアのノーベル賞受賞者ワンガリ・マータイ女史を記念して創設されたものだ。森林の保全、回復、持続可能な管理に尽力し、地域コミュニティーや農村の生活、女性、環境を支援するうえで森林の果たす重要な役割に関する意識喚起に功績のあった顕著な個人を表彰している。

「私はアマゾンの保全区域の出身です。」とリベイロ・ダシルバ氏は説明した。「私たちの生活は常に小規模な農業や採取を基盤としてきました。私たちは集団的な協同組織を作って代表を送り出すとともに、自分達の土地に対する権利を要求し、土地を地域コミュニティーのやり方で管理できるよう要求してきました。」

1998年以来、リベイロ・ダシルバ氏は、地域コミュニティーの土地の権利を擁護し、森林と川を守る闘いを続けてきた。「私たちは、地域コミュニティーが保護区域において森林資源を管理することを認める法的枠組みの創設に尽力してきました。私たちのこうした取り組みは、他の地域でもモデルとなっています。私たちはまた、ブラジルにおける森林法制の改革も支援しました。」(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ニューヨークIDN=ジャムシェッド・バルーア】

国連総会で2017年7月7日に核兵器の全面廃止と根絶を求める核兵器禁止条約が採択されて以来、核兵器の解体と検証の問題が特に重要になってきた。なぜなら(核軍縮検証の分野には)適切な技術を開発するか再構築する必要のある領域がいくつかあるからだ。

過去40年にわたって、米国とソ連(およびその継承国であるロシア)は、一連の二国間協定やその他の措置を通じて、核弾頭や戦略ミサイル、戦略爆撃機を相当程度制限し削減してきた。

米ロ両国は、その過程で次のような問題に直面してきた。つまり、核兵器保有国か非保有国かにかかわらず、どうすれば全ての国々が、核兵器が実際に解体されたと確信することができるか。核兵器保有国が、信頼を提供するプロセスに関して、いかにして十分な情報を提供しつつ、同時に核拡散につながりかねない機微な情報の伝播を防ぐことができるか。 核兵器の確実な削減を検証するツールは利用可能なのか、といった懸念である。

Components of a U.S. B83 thermonuclear weapon./ Public Domain

米国務省と非政府組織(NPO)「核脅威イニシアチブ(NTI)」及び(核兵器保有国と非保有国を含む)世界の25カ国以上から成る独自の官民連合である「核軍縮検証のための国際パートナーシップ」(IPNDV)は、とりわけ2014年以来、米ロ両国のこうした懸念に対処してきた。

米国務省軍備管理・検証・遵守局(AVC)は、将来および既存の核軍備管理・軍縮協定や公約において監視や検証資源の適性を査定し、検証技術の確定・開発・履行を促進する取り組みをリードしている。

NTIは米国に本拠を置く非営利シンクタンクで、核兵器・生物兵器・放射能兵器・化学兵器・サイバー兵器から成る大量破壊・妨害兵器(WMDD)による壊滅的な攻撃を予防するために活動している。

IPNDVは、2015年3月の第1回全体会合(ワシントン会合)以来、核軍縮検証のための多様な国際プログラムを構築して新境地を開いてきた。IPNDVの構成国・団体は互いに協力して、核軍縮検証に伴う問題点とそれに対処する方途や技術を特定するうえで、貴重な成果をあげてきた。

この活動はまた、米ロによる監視・検証の経験、「不拡散・軍備管理技術に関する米英プログラム」、「核弾頭解体検証に関する英・ノルウェーイニシアチブ」の積み重ねの上に成り立っている。

United Nations General Assembly Hall in the UN Headquarters, New York, NY/ Basil D Soufi
United Nations General Assembly Hall in the UN Headquarters, New York, NY/ Basil D Soufi

アルゼンチン外務省が主催しブエノスアイレスで開かれたIPNDVの第5回全体会合(ブエノスアイレス会合:11月29日~12月1日)では、これまでの活動範囲を拡大すべく、「第2フェーズの作業プログラム」(2017年11月~2年間)を発表した。パートナーシップ関係者によると、この第2フェーズの作業は、2020年核不拡散条約(NPT)運用検討会議に向けて核軍縮検証の重要性を強化するためのものであるという。

とりわけ、作業部会は、申告と備蓄核の目録、核兵器削減、検証技術に関連した検証の問題に対処することになる。第2フェーズの最初の会合は今年3月にスウェーデンで開催される予定だ。

アルゼンチンのダニエル・ライモンディ外務副大臣は、ブエノスアイレス会合の開会挨拶で、「核軍縮検証に含まれる技術的側面に対処することによって、この取り組みは、NPT第6条に盛り込まれた核兵器国の第一義的義務(=軍縮の義務)を実現するための重要な一歩となっている。」と指摘した。

ライモンディ副大臣はさらに、「私たちはまた、核兵器国と非核兵器国との間の対話と信頼醸成措置を促進する必要があると信じています。そういう意味で、(核保有国と非核保有国双方の専門家が参画している)この取り組みは、様々な協議を通じて互いに協力し合えば共通の理解に到達できる明白な手本となるだろう。」と語った。

この取り組みに参加している国々は、アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、チリ、中国(オブザーバー)、欧州連合、フィンランド、フランス、ドイツ、バチカン、インドネシア、イタリア、日本、ヨルダン、カザフスタン、メキシコ、オランダ、ノルウェー、フィリピン、ポーランド、ロシア連邦(オブザーバー)、韓国、スウェーデン、スイス、トルコ、アラブ首長国連邦、英国、米国である。

Opening Remarks by Deputy Foreign Minister of Argentina, Ambassador Daniel Raimondi/ IPNDV
Opening Remarks by Deputy Foreign Minister of Argentina, Ambassador Daniel Raimondi/ IPNDV

IPNDVの第1フェーズ(2015年~17年の2年間)では、核兵器のライフサイクル(核物質の生産・管理,核弾頭の製造・配備・保管,削減・解体・廃棄等)のうちそれまで行われていなかった「核弾頭の解体及び核弾頭解体に由来する核物質」の検証の方途や技術に焦点を当てた検討が行われた。第1フェーズの成果文書は、基本的に、将来の監視を伴う核解体プロセスに信頼性を提供する技術や手続の概要を整理したツールキットになっている。(例:検証可能な核軍縮の手続きを14ステップにまとめた解説画像

IPNDVのウェブサイトには、第1フェーズで設立された3つの作業部会が発表した「成果文書」が掲載されている。これら3つの作業部会がそれぞれ検討した主なテーマは、第1作業部会が、監視と検証の目的(議長国:オランダ・英国)、第2作業部会が、現地査察のあり方(議長国:オーストラリア・ポーランド)、そして第3作業部会が、検証の技術的課題と解決策(議長国:スウェーデン・米国)であった。

核兵器のライフサイクル概念図/ Nuclear Threat Initiative

提出された文書には、考えられる監視・検証上の要件に関する詳細な評価や、この分野において各国が現時点で有する能力に対する評価が含まれている。

IPNDVの第3作業部会が提示した兵器の認証に関する技術的要件を基盤として、とりわけこの種の活動のために技術が開発されるか、あるいは再構築される必要がある領域がいくつかある。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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単独行動主義の傾向を強める米国政治

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【ニューヨークIDN=ロドニー・レイノルズ】

トランプ政権の政治が、単独行動主義と孤立主義という2つの傾向をますます強めている。

ドナルド・トランプ氏は、2016年11月の大統領選出後、195カ国が署名した2016年の歴史的なパリ(気候変動)協定からの離脱を表明した。署名国のなかで離脱を表明したのは米国が唯一だ。

Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

さらに2017年には、国連安保理の5つの常任理事国(米国・英国・フランス・中国・ロシア)とドイツ、欧州連合(EU、28カ国)が署名した2015年のイラン核合意の存立を揺るがしかねない計画を、他の全ての署名国からの警告を無視して発表した。

最近の単独主義的行動は、イスラエルの首都を正式にエルサレムと認定するとともに、最終的には米国大使館を現在のテルアビブから論争の的となっているエルサレムに移転する意向を表明した12月6日の発表である。それまでにこうした行動に出たのは米国だけだ。

そして12月18日、米国は、イスラム協力機構(OIC、56のイスラム諸国とパレスチナ自治政府で構成)が策定しエジプトが提出した国連安保理決議案に拒否権を発動した。この決議案は、いかなる国もエルサレムに大使館を設置すべきではなく、エルサレムの最終的な地位はパレスチナ・イスラエル間の交渉により解決されるべきとの安保理の従来からの立場を再確認する内容であった。

米国のニッキー・ヘイリー国連大使は、拒否権行使に先立って行った声明の中で、「私はこの1年近く、国連で誇りある米国の代表をつとめてまいりました。安保理決議を拒否する米国の権利を発動するのは今回が初めてとなります。拒否権発動は、米国がめったに行うことではありません。これまで6年以上にわたって行使してきませんでした。私たちは喜んで拒否権を発動するのではありませんが、躊躇はありません。」と語った。

さらにヘイリー大使は、「この拒否権が米国の主権と、中東和平プロセスにおける米国の役割を守るために行使されたという事実に恥じる点はありません。むしろ、他の安保理理事国こそ恥じるべきです。」と付け加えた。

Nikki Haley/Office of the President-elect -, CC BY 4.0

安保理を構成する15カ国のうち、米国以外の4常任理事国(英国・フランス・中国・ロシア)と非常任理事国10カ国が決議案に賛成したため、米国が国際社会、とりわけ国連においていかに孤立しているかが改めて浮き彫りとなった。今回の場合、それは14対1という票決に表れている。

米国の決定とヘイリー大使の発言に関して、アルシャバカ(パレスチナ政策ネットワーク)のナディア・ヒジャブ事務局長はIDNの取材に対して、「もしこれが深刻な問題でなかったなら、ニッキー・ヘイリー氏の発言はドタバタ喜劇のネタになっていただろう」と語った。

「どうして米国の主権が中東の解決策を擁護する必要があるのか? そして、トランプ大統領が国際法に違反してエルサレムをイスラエルの首都と認定することがどうしてその主権を守ることになるのか?」とヒジャブ氏は指摘した。

実際、今回の安保理での出来事により、パレスチナの土地の占領を合法化しようとするイスラエルの企図の最初のステップは妨げられることになった、とヒジャブ氏は付け加えた。

他の4常任理事国と、世界のすべての地域を代表した10非常任理事国は、イスラエルの植民地主義的な欲望を満たすために、戦争によって領土を取得することは認められないという国際システムの基礎を揺るがす用意はないことを示した、とヒジャブ氏は語った。

安保理常任理事国2カ国(英国・フランス)をドイツ・イタリア・スウェーデンの欧州5カ国が12月8日に発した共同声明はいくぶん婉曲的なものとの懸念があった、とヒジャブ氏は指摘した。

これらの国々は、国際法の意義を謳いながらも、トランプ大統領による(エルサレムの首都)認定を非難するのではなく、単に「同意できない」と述べるにとどまりました。しかも、二国家解決策へのコミットメントを指摘することで、そうした姿勢さえ軟化させました、とヒジャブ氏は語った。

米国の西側最大の同盟国である英国は、明確な立場を示した。

英国のマシュー・ライクロフト国連大使は各国の代表団に対して、「エルサレムの地位は、イスラエル・パレスチナ間の交渉によって解決されるべきであり、最終的にはイスラエルとパレスチナ両国家によって共有された首都とされるべきだ。」と語った。

Matthew Rycroft/ UK Government

ライクロフト国連大使はまた、過去の安保理決議を引用し、この同じ諸決議の線に沿って「私たちは、東エルサレムはパレスチナ占領地域の一部であると考える」と語った。

「過去にも述べたように、私たちは、最終的な地位に関する協定がなされる前にエルサレムをイスラエルの首都と認定し、米大使館をエルサレムに移動させるという米国の単独決定に同意できない。この地域の最近の動きが示すように、安保理のすべての国々がコミットしている目的であるこの地域の和平の見通しにとって、こうした決定はマイナスに作用する。」

「英国の駐イスラエル大使館はテルアビブにあり、それを移設する計画はありません。」とライクロフト大使は言明した。

パレスチナのリヤド・マンスール国連代表(オブザーバー)は各国代表らに「米国が国際法を軽視し、将来の和平プロセスにおける自らの役割を傷つけたことは、理解しがたい」と語った。

マンスール氏は、東エルサレムが世界の大多数の国に承認されたパレスチナ国家の首都であることを確認し、すべての平和愛好的な国々に対して、この問題に関して法の支配に厳格に従い、イスラエルの移住政策を拒否するよう促した。

パレスチナの人々は占領を永続的な現実として決して受け入れることはないと述べ、「平和を望む者は違法な行為と措置を認めず、国際法に盛り込まれたパレスチナ人民の権利を認めるのみだ。」と指摘した。

12月13日のOIC緊急首脳会議でパレスチナ自治政府の代表が「パレスチナ・イスラエル間の将来の和平交渉で米国の役割を認めない。」と発言したのを受けて、中東カルテット(国連・米国・EU・ロシアで構成)の役割について尋ねられた国連のファルハン・ハク副報道官は、同日記者団に対して、「米国は今も中東カルテットの一員であり、カルテットは中東における二国家解決策の追求に関与し続けていきます。」と語った。

「私たちの関心事は、当事者同士が協議を継続する姿勢を保つようにすることです。国連はこの方針に沿って、独立の立場或いは中東カルテットを通じて、イスラエルとパレスチナを交渉のテーブルに戻せるよう努力を続けていきます。」とハク副報道官は付け加えた。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「私は常々、イスラエルとパレスチナの和平への道を脅かすようなあらゆる一方的措置には、一貫して反対してきた。」と語った。

Antonio Guterres/ DFID - UK Department for International Development - CC BY-SA 2.0
Antonio Guterres/ DFID – UK Department for International Development – CC BY-SA 2.0

グテーレス事務総長は、「エルサレムの帰属問題は、これまでの国連安保理と総会の関連決議を基礎として、パレスチナ・イスラエル両側の正当な懸念を考慮に入れたうえで、直接交渉で解決されなければならない。」と指摘したうえで、「私は、多くの人が何世紀にもわたってエルサレムを心のよりどころにしてきたし、今後もそうだということを理解しています。現在の非常に不安な情勢において、二国家共存案以外に代替案はないと明言したい。つまり、プランBは存在しません。」と語った。

「両国が平和的に付き合い、互いに認め合い、エルサレムをイスラエルとパレスチナの首都にしてこそ、交渉による最終地位問題の解決ができ、両国民の願いもかなうことができるのです。」とグテーレス事務総長は付け加えた。

アジアのある外交筋はIDNの取材に対して、エルサレムに関するトランプ大統領の「挑発的で危険な動き」は中東に暴力を誘発するのみならず紛争につながりかねない、と指摘した。

皮肉なことに、この挑発はグテーレス事務総長が「予防外交」を目指す中で起こっている。グテーレス事務総長は2017年9月に「調停に関するハイレベル諮問委員会」を任命して、今後の指針を求めているところだ。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

ハイレベル諮問委員会の主な任務は、予防(外交)は治療(紛争後の平和維持)よりもはるかに望ましいとする長年の原則に則ったものだ。

同時に、グテーレス事務総長は、2030年までに17項目の持続可能な開発目標を達成しようと意気込んでいる。このうち、第16目標は、平和と正義の推進によって暴力的紛争を減らすことを目指したものだ。

国連は、一部の激しい武力紛争が数多くの民間の犠牲者を出してきたし、現在も犠牲者を生み続けている、と警告してきた。

しかし、効果的かつ民主的で包摂的な組織を伴った平和と正義の促進は、地域によっても、或いは地域内においても不均等なままに留まっている、と国連は指摘している。

エルサレムを巡る危機は、次の武力紛争の火種を生む可能性がある。(原文へ

INPS Japan

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国連、改革を約束するも、急激な財源の削減に警戒感

世界経済の好転で持続可能な成長への見通しを期待できる

【国連IDN=J・ナストラニス】

国連の最新の報告書によれば、世界経済は2011年以来最高の3%成長と好調であるものの、後発開発途上国(LDCs)のほとんどが、持続可能な開発目標[SDGs]の項目8.1にうたわれている「少なくとも7%成長」を達成できそうにない。

17分野、169項目から成り、2015年9月に国際社会が採択した「持続可能な開発目標」の第8目標は、「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の推進」をうたっている。その目標8.1は、「各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。」必要性を強調している。|アラビア語 | 英語 | トルコ語

WORLD ECONOMIC SITUATION AND PROSPECTS 2018/ United Nations
WORLD ECONOMIC SITUATION AND PROSPECTS 2018/ United Nations

国連が12月11日に発表した報告書「世界経済の情勢と展望2018」は、LDCsが持続可能な開発に向けて前進するには、制度上の欠陥、不十分な基礎インフラ、高い頻度で起こる自然災害、安全保障上の試練や政治不安等の難題が引き続き障害となっている、と指摘している。

報告書はまた、政策の力点は、LDCsの投資ニーズを満たすための財源の動員に加えて、紛争予防と、LDCsの経済発展を妨げている障壁の除去に置かれるべき、と指摘している。

しかし、世界的に堅調な経済成長を背景に、気候変動への対処や既存の不平等問題への対応、開発の制度的障壁の除去といった長期的な問題に向けて政策を方向転換する道が開くことになるはずだ。

報告書によれば、危機に関連した不安定状況と、その他の最近の衝撃によるマイナス要因が落ち着くにつれて、世界経済は改善基調に転じ、2017年にはおおよそ3分の2の国々が前年よりも高い成長を見せることになりそうだという。世界的な経済成長は、2018年・19年にも3%と堅調であることが予測される。

こうした状況を踏まえ国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、報告書の序文に「『世界経済の情勢と展望2018』は、現在のマクロ経済的な状況から、持続可能な開発目標の達成に向けた前進を阻害し続けている根深い問題の一部に、政策責任者らがこれまで以上に対処できる余地があることを示している。」と記した。

Mr. Liu Zhenmin, Under-Secretary-General/ UN Photo

国連の劉振民・事務次長(経済・社会問題担当)は12月11日の報告書発表の記者会見で、「世界経済の好転は、経済が堅調であることを示す喜ばしい兆候ですが、これが環境を犠牲にしたものであるかもしれないことを忘れてはなりません。したがって、先月(11月6日~17日)にボンで開催された国連気候変動会議(COP23)でも強調されたように、環境を犠牲にして成長を目指すことがないように努力を重ねる必要があります。」と語った。

報告書は、国連経済社会局国連貿易開発会議(UNCTAD)、国連の5つの地域委員会(アフリカ経済委員会[ECA]、欧州経済委員会[ECE]、ラテンアメリカ・カリブ海地域経済委員会[ECLAC]、アジア太平洋地域経済社会委員会[ESCAP]、西アジア経済社会委員会[ESCWA])の共同作業によるものだ。

同報告書によると、近年のグローバル経済の成長は、専ら一部の先進国の堅調な成長によるものだが、東アジアや南アジアは引き続き世界で最も経済の活力を備えた地域であり続けている。2017年、東アジアと南アジアの世界経済成長率への寄与率は約50%に上った。このうち、過去6年間で最も高い成長(6.8%)を見せた中国の寄与率は、実に世界全体の3分の1を占めた。

アルゼンチン、ブラジル、ナイジェリア、ロシア連邦なども相次いで景気後退局面から抜け出し、2016年~17年に世界の経済成長率向上に寄与した。この好調は、世界貿易の復活と投資環境の改善によって支えられている。しかし、報告書は、中期的に見ても、この流れを生産的な投資を継続的に加速する動きにつなげられるかどうかが今後の課題だと警告している。

短期的にはこのように改善の動きがみられるとしても、グローバル経済は引き続きリスクに直面している。例として報告書が挙げるのが、貿易政策の変更、グローバルな金融状況の突然の悪化、地政学的緊張の強まりなどである。

Map of China
Map of China

世界経済は長期的な問題にも直面している。報告書は、堅調なマクロ経済を背景に、政策を通じて長期的な問題に対処する道筋が開かれた分野として、4つの領域(経済の多様性の加速、不平等の緩和、長期的投資の支援、制度上の欠陥への対処)を指摘している。

報告書は、こうした問題に対応するように政策の方向性を再設定することで、より強力な投資と生産性、より高い雇用の創出、より持続可能な中期的経済成長が生み出しうると指摘している。

しかし、最近における経済の改善状況は、国や地域で偏りがある。2017年~19年、アフリカや西アジア、ラテンアメリカ・カリブ海地域の一部では、一人当たりの国民所得の成長率が、きわめて低いレベルにとどまると予想されている。

この影響を受ける地域には、極度な貧困下に生きる人びとが2億7500万人もいる。このことは、中期的な成長の見通しを加速させ、収入と機会の両面で不平等の問題に対処する政策を通じて、貧困問題に取り組む環境を育てることが緊急に必要であることを明確に示している。

予備的な推計によると、2017年の世界におけるエネルギー関連CO2の排出量は、昨年まで3年連続で横ばいであったものが、初めて増加に転じたと見られている。気候関連の災害は頻発する傾向が続いており、このことは、気候変動に対するレジリエンス(回復力)を構築し、環境保護を優先する緊急の必要性を示している。

UNDESA
UNDESA
SDGs Goal No. 8
SDGs Goal No. 8

報告書はさらに、短期的な利益から長期的な価値創出へと焦点を移した「2030アジェンダ」や「アディスアベバ行動目標」と整合する「持続可能な財政のための新たな金融枠組み」が必要になる、と警告している。通貨・金融・外国為替政策とよく調整された金融システム規制政策が、安定的なグローバル金融環境を促進することでこの枠組みを支えるべきだ、と付け加えている。

報告書はまた、パリ協定の対象外となっている国際的な航空と海運分野のCO2排出量について、陸上輸送分野のCO2排出量よりもむしろ高いレベルで伸び続けていることから、この分野を対象とする政策を強化する必要がある、と指摘している。また、多くの途上国や経済移行国が、依然として、リスク回避や突然の資本引き揚げ、世界の流動性供給の突然の引き締めに対して脆弱であり、負債の増加がグローバル金融の問題となっている、と警告している。(原文へ

INPS Japan

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