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国連作業部会、核の行き詰まりの打開策を探る

【ジュネーブIDN=ジャムシェッド・バルーア】

国連総会は公開作業部会(OEWG)に対して、「核兵器なき世界」構築の青写真を描くという任務を与えた。作業部会の2度の会期(2月22~26日、5月2~13日)では草案への合意に失敗した。しかし、8月に行われる最後の3日間の会期では、国連総会への勧告を含んだ最終報告書の交渉に進むことになっている。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長が作業部会で5月13日に述べたように、「世界の大多数の国が、核兵器を禁止する新たな法的拘束力のある文書の交渉を行う用意があり、その開始を望んでいる」と最終報告書に記述することには何の問題もないだろう。そしてそこに、核兵器国の参加は必ずしも要しないのである。

2週間に亘った5月の第2会期には約100カ国の政府が参加し、さらに多くの国々が、127カ国からなる「人道の誓約」グループからの共同作業文書の形で支援を行った。

9つの核武装国(米国・ロシア・中国・フランス・英国にイスラエル・インド・パキスタン・北朝鮮)が作業部会を一貫してボイコットしているが、参加した諸政府はそれにひるむことはなかった。

Beatrice Fihn
Beatrice Fihn

ICANは、信仰を基盤とした団体を含む市民社会からの支持を活性化するうえで決定的な役割を果たした。様々な信仰を基盤とする団体が5月2日に出した共同声明は、核兵器廃絶が道徳的・倫理的に絶対必要であることを訴えている。約35の宗教を基盤とする団体・個人が賛同した同声明は5月3日、作業部会の議長を務めるタイのタニ・トーンパクディ大使に手交された。

UNFOLD ZERO」は、市民社会の主要な役割を強調して、「核軍縮に向けた多国間交渉を2017年に始める推進力は今や強まっている。これは約20年に亘って阻止されてきたものだ。」と述べている。

UNFOLD ZEROのパートナー団体には、平和首長会議ピースデポ核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)バーゼル平和事務所国際反核法律家協会(IALANA)中堅国家構想(MPI)などがあり、大きな支持を動員している。

非核兵器地帯(NWFZ)を通じて各々の地域で既に核兵器を禁止している国々のグループからも共同で作業文書「核軍縮を前進させる:核兵器地帯の視座からの提案」(WP34)が提出された。現在非核兵器地帯は、ラテンアメリカ、南太平洋、南極、東南アジア、アフリカ、中央アジアにあり115か国が加盟している。

このうち作業部会に作業文書を共同提出したのは9カ国(アルゼンチン・ブラジル・コスタリカ・エクアドル・グアテマラ・インドネシア・マレーシア・メキシコ・ザンビア)(5月9日にフィリピンが加わり共同提案国は最終的に10カ国になった:INPSJ)で、その内容は、「核兵器禁止のための法的拘束力がある文書を交渉するための、すべての国家、国際機関、市民社会に開かれた会議を2017年に招集」し、「そうした文書の交渉に関してなされた前進について、2018年までに予定されている核軍縮に関する国連ハイレベル国際会議に対して報告する」というものであった。

この提案に対しては、作業部会の会期中に、数多くのその他の非核兵器国や市民団体から支持が表明された。しかし、「核の傘」に依存する国々(北大西洋条約機構加盟の非核兵器国、日本、韓国、オーストラリア)のいずれも、この提案には賛成しなかった。また作業部会に参加していない核武装国も、この提案に反対している。

作業部会に参加していた多くの非核兵器国は、核依存国からの賛同は、条約の交渉入りに必要ないと論じている。しかし、そうした条約に核依存国の少なくとも一部を巻き込むことができなければ、核兵器政策やその運用にほとんど影響を及ぼすことができないとの見方もある。また、こうした条約ができれば、核廃絶に向けた中間的な措置を採るように核依存国にプレッシャーを与えることができなくなり、逆効果だとの主張もある。

核軍縮交渉に向けた別のオプションも提案されているが、それらは、核依存国からの支持を得られやすく、政策に直接的な影響を及ぼす可能性が高いとみられている。

ICAN
ICAN

たとえばそれは、「ブロック積み上げ型アプローチ」と言われているものであり、1992年の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に似た、核軍縮の枠組み協定と言われているものである。これは、「中堅国家構想」が作業部会に提出した作業文書「枠組み協定のオプション」で提示されている。

枠組み協定タイプの支持者は、このやり方なら「プロセスの初期においてより強力な禁止措置を含めることが可能な一方、そうした措置を当初は採ることができない国々とも関与しつづけることができる」と考えている。

しかし、多くの非核兵器国は、「ブロック積み上げ型アプローチ」や「枠組み協定」では、短期的に十分に強力な措置を推進することができないとして批判している。明確な禁止条約の方が、核依存国を巻き込むことができなくても、より望ましい、というのだ。

核武装国が作業部会に参加せず、「核の傘」に依存する国々が核兵器禁止条約を支持しない主な理由の一つは、これらの国々が依然として安全保障を核兵器に依存しているからである。

UNFOLD ZEROは「作業部会は、21世紀の核兵器の役割について、そして、核依存国間で緊張と紛争が激化している現在も含め、核兵器の役割をなくすことが可能かどうかについて、有益な議論をしている。」と分析している。

数多くの非核兵器国と市民団体が、別(=核兵器以外)の手段を通じて、安全保障を構築し、緊張を緩和し、国際紛争を解決する可能性を強調している。

たとえば、外交、国際法、調停、仲裁、判決、国連・欧州安全協力機構(OSCE)などの機関における共通安全保障メカニズムの利用などがある。最近履行の宣言が行われた、イランの核開発を巡るP5+1とイラン間の最終合意は、模倣すべき例であると強調する参加者もあった。

数多くの国々やNGOは別の問題にも焦点を当てている。それは、核兵器依存国の核軍縮に対する政治的意志とコミットメントの欠如という問題だ。「中堅国家構想」、軍備管理協会、バーゼル平和事務所、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)、UNFOLD ZEROは、そうした政治的意志を形成するための一連の「核軍縮サミット」の開催を呼びかけている。

核軍縮サミット:法的措置・法的規範の採択と履行に向けた政治的推進力を生み出す」と題された、「中堅国家構想」が作業部会に提出した作業文書における提案は、核テロ防止のための協力とコミットメントを創り出した核セキュリティー・サミットの成功に刺激を受けたものでもある。

政府首脳レベルによる、一連の二国間(米ロ)・多国間の核軍縮サミットは、この問題へのメディアと一般市民の関心を高め、核兵器依存国に対して、主要な軍縮措置を実施すべきとの圧力が強まるだろうと、この提案の支持者らはみている。

(非核兵器国の中で最も支持されている)核兵器禁止条約、あるいは、(核依存国の中で最も支持されている)ブロック積み上げ型(「漸進的」)アプローチのいずれかについてコンセンサスが形成される見通しは低いと外交筋ではみている。

ICAN
ICAN

そうした協定の内容としては、例えば、核不拡散条約第6条および慣習国際法の下での軍縮義務の再確認、核爆発の人道的帰結に関する認識、核兵器使用が国際人道法と少なくとも一般的には両立しえないことの確認、(核兵器)不使用の慣行を永久に拡張するとの一般的目標の提示などが考えられる。

また、「希望的な時間枠」の中での核兵器の削減・廃絶達成という、法的拘束力のない目的の設定や、さらなる交渉や報告メカニズムなどを通じた、この目的達成のためのプロセスの提示も考えられるところだ。さらに、検証や信頼構築に関するさらなる作業に対する支持や、核兵器なき安全保障の確立に合意する、という内容もあるだろう。

もし枠組み面での提案に合意が得られなければ、「非核兵器国のグループは、核依存国が参加するか否かに関わらず、核兵器禁止条約に関する交渉を2017年にも始める可能性がますます濃厚になってきている。」と外交筋は述べた。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ジュネーブIDN=ジャムシェッド・バルーア】

核兵器廃絶を呼びかけるさまざまな宗教団体による共同声明の強力なメッセージは、バラク・オバマ大統領が5月27日に広島を訪問するとの決定に対する国連の潘基文事務総長の反応によって、強く支持されている。

オバマ氏は、1945年8月6日に米国が投下した史上初の原子爆弾で壊滅したこの日本の都市を先進7カ国首脳会議(G7)参加の機会を捉えて訪問する初の米国の現役大統領となる。広島への原爆投下の3日後には長崎を壊滅させた第2の原爆投下が続き、合計で20万人以上が犠牲となった。

Stéphane Dujarric/ UN Photo/Evan Schneider
Stéphane Dujarric/ UN Photo/Evan Schneider

「潘基文事務総長はオバマ大統領の広島訪問の決定を大いに歓迎しています。事務総長にとって、広島(の被爆経験から)学ぶべき普遍の教訓の一つは、核兵器は完全に廃絶しなければならないというものです。」と国連ステファンドゥジャリク報道官は語った。

「この訪問が、改めて核軍縮の必要性を訴える世界的なメッセージとなることを願っています。そしてそれは、潘事務総長が呼びかけていることでもあります。」とドゥジャリク報道官は語った。

潘事務総長に関連したこの発言は、「核兵器なき世界」への潘氏の強いコミットメントを背景としている。同時にそれは、世界から核兵器をなくすことを誓った2009年4月の歴史的なオバマ大統領のプラハ演説を想起させるものだ。オバマ大統領はこの演説の中で、オバマ政権は「核兵器のない平和で安全な世界を追求するとアメリカの約束」を果たすと宣言した。

2016年公開作業部会(OEWG)第2会期(5月2日~13日)の開幕にあたって発表された共同声明は、核兵器廃絶が道徳的・倫理的責務であることを強調している。作業部会は、多国間の核軍縮交渉を前進させることを目的に設置されたものだ。

作業部会は、核兵器のない世界の達成と維持のために必要な具体的かつ効果的な法的措置・条項・規範について実質的に協議するために、2015年12月に国連総会が採択した決議により招集されている。第一会期は2月に開かれた。

共同声明は、信仰を基盤とした団体からおよそ35の個人が賛同しており、5月3日、作業部会の議長を務めるタイのタニ・トーンパクディ大使に手交された。1945年に広島と長崎が核攻撃を受けて以来、人類は核兵器による「黙示録的な破壊の影のもとで暮らし続けることを余儀なく」されているという事実を指摘している点に、その重要性がある。

ひとたび核兵器が使用されれば、人類文明のこれまでの成果が破壊されるだけでなく、現世代は傷つき、将来の世代も悲惨な運命へと追いやられる、と共同声明は訴えている。

The Hiroshima Peace Memorial, commonly called the Atomic Bomb Dome or A-Bomb Dome is part of the Hiroshima Peace Memorial Park in Hiroshima, Japan and was designated a UNESCO World Heritage Site in 1996. /Tim Wright.
The Hiroshima Peace Memorial, commonly called the Atomic Bomb Dome or A-Bomb Dome is part of the Hiroshima Peace Memorial Park in Hiroshima, Japan and was designated a UNESCO World Heritage Site in 1996. /Tim Wright.

共同声明はまた、「安全と尊厳の中で人類が生きる権利、良心と正義の要請、弱き者を守る義務、未来の世代のために地球を守る責任感といった、私たちの信仰が掲げる価値観は、核兵器と相容れるものではありません。」と述べている。

共同声明は、以下3点に焦点をあて、作業部会に重要な課題として取り組むよう求めている。

1)人類に同じ経験を二度とさせてはならないと、核兵器廃絶を訴え続けている世界中のヒバクシャの声に耳を傾け心に刻み、核兵器の人道的影響が全ての核軍縮に関する努力の中心に据え置かれるべきであることを再確認する。

2)核軍縮に導く交渉を誠実に行いかつ完結させる義務を果たすよう、全ての国が国連公開作業部会ならびにその後のプロセスに参加するよう呼びかけ続ける。

3)国連総会に提出する報告書で、厳格な国際管理のもとでの、核兵器の禁止と廃絶を促進する法的枠組みを詳細に示すこと。それは、全ての国々に開かれたいかなる国も阻止できない場で、遅滞のない交渉がなされなければならない。

関係筋によると、3つの主要な宗教団体―PAX創価学会インタナショナル(SGI)世界教会協議会(WCC)―が主導して、核兵器の非人道性を憂慮する宗教コミュニティーによる共同声明を起草した。

SGIの寺崎広嗣平和運動局長は、「公開作業部会での議論が、核時代の“終焉の始まり”への具体的な道筋を開くことを期待しています。」と語った。

ICAN
ICAN

PAXのスージー・スナイダー核軍縮プログラム・マネージャーは、「全ての参加者が、道徳的で、倫理的で、人道的な観点の根幹から(議論を)始めるよう促したい。核兵器への反対は言葉よりも大きなものでなくてはならないし、核兵器を完全に禁止する新たな法的枠組みを通じて拘束力をもたせなくてはなりません。」と語った。

WCC国際問題委員会の委員長代理であるエミリー・ウェルティ博士は、WCCの立場について、「私たちは心からの信念と信仰心から、核兵器の脅威に依存した安全保障を拒絶するものです。核兵器は、私たちの資源を罪深い形で乱用するものとみなすべきです。」と語った。

この共同声明は、ワシントンDC(2014年4月)およびウィーン(2014年12月)で開催した宗教間会議と、ニューヨークで開催された「核不拡散条約(NPT)運用検討会議」(2015年4月)の際に、それぞれ発表してきた「宗教コミュニティーの共同声明」の実績を踏まえたものである。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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強まる核兵器廃絶運動

【ジュネーブIDN=ラヴィ・カントゥ・デヴァラコンダ】

核兵器がテロリストの手に落ちるリスクの高まりに国際社会が取り組む中、核兵器国(米国・ロシア・中国・フランス・英国・イスラエル・インド・パキスタン、北朝鮮)は、恐るべき核弾頭が存在しない世界を作り出すための勧告を準備しているジュネーブでの多国間核軍縮協議に背を向けている。

核兵器禁止条約を実現するための取組みを強化するため、「核廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の呼び掛けに信仰を基盤とする団体を含む約130人の運動家が集結した。ICANの会合は核軍縮に向けた国連公開作業部会(OEWG)第二会期(5月2日~13日)に先だって開催された。OEWGの第一会期は2月22日から26日にかけてジュネーブで開催されている。

OEWGの任務は、核兵器のない世界の達成と維持のために締結される必要のある具体的で効果的な法的措置、法的条項および規範を起草することである。2015年12月に国連総会によって設置されOEWGは、核兵器の廃絶や、「偶発的、間違い、未承認、あるいは意図的な核兵器爆発のリスクを低減し除去する措置」を含め、核軍縮に向けた新たな世界的ルールを交渉することになっている。

Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.
Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.

米国が民間人の居住地域で大量破壊兵器を爆発させることを選択した70年以上前の広島・長崎への原爆投下で引き起こされた計り知れない悲惨と混乱、そして、30年前のチェルノブイリ原発事故と5年前の福島原発事故に起因する今も続く悲劇を考えるならば、核兵器国がOEWGでリーダーシップを発揮することを期待するのが当然だろう。

核兵器の拡散を止めるために公式の核兵器国(米・露・中・仏・英)が成した「グランド・バーゲン」(包括的妥協)である核不拡散条約が具体的なロードマップを提示しえない中、非核兵器国が具体的な核軍縮に向けた世界的取り組みを加速することが絶対的な要請となっている。

米国などの国々がスマート核兵器(=B61 Model 12:標的の種類や大きさなどに応じて核爆発エネルギーを制御できる小型ミサイル形式の核爆弾等)の開発に数兆ドルもの投資を行っている一方で、米国科学者連盟(FAS)は、2016年初頭現在の世界の核弾頭数を15350発と見積もっている。米国の核備蓄は4700発で、これに、ロシア(4500発)、フランス(300発)、中国(260発)、英国(215発)、イスラエル(80発)、インド(120発)、パキスタン(130発)、北朝鮮(10発)が続く。

最近、『原子科学者紀要』(BAS)は、「世界終末時計」を「真夜中まで3分前」から動かさないと発表したばかりだが、このことは、気候変動や核兵器使用の可能性などのリスクを考慮に入れると、破滅的な惨事に世界がそれほど近づいているとBASがみなしていることを反映している。

しかし、皮肉なことに、国連安保理の常任理事国(=公式の核兵器5大国)も、新興の核兵器国(イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮)も、OEWGの論議には加わっていない。ICANのベアトリス・フィン代表はIDN-INPSの取材に対して、「私たちの前にある課題は決して容易なものではありません。」と語った。

Doomsday Clock graph, 1947-2015/By Fastfission 15:00, 14 April 2008 (UTC) - Own work, Public Domain
Doomsday Clock graph, 1947-2015/By Fastfission 15:00, 14 April 2008 (UTC) – Own work, Public Domain

「核兵器は巨大な兵器です。これまで存在してきた併記の中で最大のもので、政治的なモンスターといえます。核兵器は権力の究極的象徴で、(保有することが)安保理常任理事国入りの窓口となるとの見方も急速に広がっています。」とフィン氏は主張した。

核兵器国の不在にもかかわらず、非核兵器国やICAN、及び他の市民社会団体は、OEWGで徹底的に核兵器に関する調査を行い、国連総会において(核廃絶に向けた)強い説得力を持つ勧告をつくろうとしている。

Beatrice Fihn
Beatrice Fihn

ジュネーブでの会合では、ICANのパートナー組織である「ラテンアメリカ・カリブ海の人間の安全保障」(SEHLAC)は5月2日、「公開作業部会の今日と以前の会期で示された目の覚めるような証拠は、偶発的であれ意図的なものであれ、核兵器爆発のリスクが高まっていることを示しています。」と語った。

「私たちは、核武装国とその同盟国の間での近年の緊張の高まりが、核軍縮に向けた進展をより重要で緊急のものにしていると考えいます。」と、SEHLACの代表は続けた。

非核兵器国も、ICANやその多くの協力団体も、核兵器禁止という共通の目標に向かってどう前進すればよいのかについて具体的な提案を挙げた。

核兵器を絶対悪とみなし、禁止し、廃絶する「人道の誓約」にすでに127カ国が賛同している。この誓約は、核兵器という大量破壊兵器が未だに国際法によって明確に禁止されていない「法的欠落」を埋めることを目的としている。

この誓約は、ウィーンで開催された「核兵器の非人道性に関する国際会議」の閉会にあたって2014年12月9日に発表されたもので、核兵器を禁止する包括的条約の交渉開始を賛同国に容認するものである。

5か月前に国連総会で採択された「人道の誓約」は、核兵器を禁止する条約の妥結に向けた交渉に加わるよう諸国に呼びかけている。

非核兵器地帯条約(NWFZ)の加盟国であるアルゼンチン・ブラジル・コスタリカ・エクアドル・グアテマラ・インドネシア・マレーシア・メキシコ・ザンビアは5月2日、多国間の核軍縮協議を前進させる方法に関する4ページの提案を提出した。

NWFZ加盟9カ国による提案は「核兵器を禁止する法的拘束力のある文書」の策定を呼びかけている。すべての国家や国際組織、市民社会が集まる会議を2017年に招集し、「核兵器を禁止する法的拘束力のある文書の交渉を行う」との重要な勧告をなすように、OEWGに対して求めている。

ICANのフィン代表は、「9カ国によるこの提案は明確に重要なターニングポイントとなるでしょう。これは、政府が核廃絶へむけたプロセスへむけて、スタートを切る用意ができたことを示しているます。」と語った。

ラテンアメリカ・カリブ海諸国共同体、メキシコ、ニカラグア、フィジー・ナウル・パラオ・サモア・ツバルの5太平洋諸国は、核兵器を禁止する新たな条約を交渉すべきとの別の提案を出している。

形成されつつある広範なコンセンサスは、核兵器国・非核兵器国の双方が世界の市民社会と協力して、意義のある効果的な法的条約の実現に努力しなければならない、というもののようだ。

「もし私たちの最終目標が核兵器の廃絶であれば、核保有国の参加なしにそれを物理的になくすことはできません。」と創価学会インタナショナル(SGI)の河合公明平和運動局部長は語った。SGIは、192カ国に1200万人以上の会員を擁する日本に本拠を置く仏教団体である。

SGIはOEWGに対して提出した作業文書「人間の安全保障と核兵器」(A/AC.286/NGO/17)の中で、「核保有国だけでなく、全ての国家を含みつつ、市民社会の十分な関与を得た上での、地球的な共同作業でなければならない。」「すべての国家には、核軍縮の交渉を誠実に行ないかつ完結させる義務がある。」と論じている。

ICAN
ICAN

「私は、核兵器国と非核兵器国が一貫した議論を行えるような、本当の努力を開始するべきであり、両者の間にある問題と、その問題を解決するためにどのような行動がとれるかを見出さなければならないと強く思います。」と、寺崎広嗣SGI平和運動局長は語った。

寺崎氏はまた、IDN-INPSの取材に対して、「もし共通の目標が、普遍的な目標である『核兵器のない世界』を築くことにあるのならば、市民社会ネットワークは、(両者間において)そうした方向に議論が進むよう支援しなくてはなりません。」また、「安全保障あるいは経済的な観点から見て、核兵器が本当に保有国にとって有益なのかどうか、といった点も検討することが重要です。」と語った。

「様々な側面から見ても、核兵器という存在が人類を守るものではないことは、きわめて明白です。」「したがって、核による抑止は幻想であり、私たちはそこから抜け出さなければなりません。国家が依然として(多額の資金を)核兵器に投じていることは好ましいことではありません。」と寺崎氏は語った。

事実、SGIの作業文書が指摘しているように、核兵器の維持および近代化を継続すること自体、「世界の人的及び経済的資源を軍備のために転用することを最も少なくして」いくことを求めた国連憲章第26条の精神に反するものである。

「『核兵器のない世界』は世界で支持を集めつつあります。世界の大多数の政府が核兵器を禁止する新たな条約の交渉を望んでいます。核保有国が誠実な姿勢で(核兵器を廃絶する)議論に参加することを望んでいます。」と寺崎氏は語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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|視点|核時代の“終焉の始まり”となるか?(池田大作 創価学会インタナショナル会長)

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「学ぶ権利」を求めるバングラデシュの若い女性たち

【コックスバザール(バングラデシュ)IDN=ナイムル・ハク

バングラデシュでは、若い女性の多くが、主に貧困や貧困関連の理由で学校に通えなくなっている。しかし、学校に通い続けたいという強い気持ちが、この数年間でこうした状況に変化をもたらしつつある。

家父長制の慣行と、農村地帯の概して貧しい家庭では女の子が学校に通ったり仕事に出たりする必要はないとの旧来からの考え方があるにもかかわらず、バングラデシュの多くの地域で、若い女性たちが、そうした伝統に抗することが実際にはいかに自分たちの生活のためになるのかを証明してきた。

能力構築や職業技能の開発を呼びかけ、社会の主流から取り残された集団に属する人々によりよい生活の機会を提供する対話を意味する「ショングラップ」(Shonglap)によって、こうした若い女性たちに学習を促すよい効果が挙がっている。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

極度の貧困のために2011年に学校を辞めたウメイ・サルマさんは、コックスバザール県クルシュクルにある南デルパラでショングラップに加わっている。父親を2009年に失ったウメイさんは、ここで29人の少女たちのまとめ役を務めている。ショングラップにおける授業は週に6日、郊外のデルパラにある賃貸の藁ぶき家屋で行われている。

7人兄弟姉妹の末っ子で弁護士になることを夢見ているウメイさんはIDNの取材に対して、「父を亡くした母が、私にも家計を助けることを望んだため、学校を辞めざるを得ませんでした。9年生の時に退学し、家事を手伝うようになったのです。」と語った。

ウメイさんが家事を助け、兄らが海で獲った魚を売って家計の足しにしているが、母親の稼ぎは月に僅か31米ドルと、8人の家族を支えるには全く十分とはいえない。

ウメイさんは、「その後、家具工場で作業補助スタッフとして1年ほど働きましたが、ある日ふと、『もし私が中等学校(6年~10年生)を卒業していたら、きっと家族全員の収入を合わせた以上の稼ぎを得られていたはず』と思い至ったのです。そこで私は学校に戻る決意をし、教育を受ける傍ら、生活を支える技能も身につけようと思ったのです。」と語った。

ウメイさんは、コックスバザール県において、(ショングラップが提供する)ライフスキルや技能訓練に関するインフォーマルな指導を受け学校に復帰した約3000人の生徒のうちのひとりである。技能訓練には、裁縫、電気製品の修理、家畜の飼育、小さな喫茶店の経営、製陶、木工など、収入を生む様々な活動が含まれている。

同県でショングラップ・プログラムを実施している「COAST」の責任者ジャハンギル・アラム氏は、「卒業生には、事業を始めるための無利子の融資が提供されます。こうして、これまでに1500人以上の女性たちが、家族を支える稼ぎ手になることができました。」と語った。

デルパラ・ショングラップの参加メンバーの中でリーダーを務めるルクサナ・アクタールさんは、「ショングラップは、基本的に、恵まれない境遇にある少女らが共通の対話を通じて連帯し、生活力を身につけるためのプラットフォームとなっています。12カ月にわたる授業・研修プログラムをとおして、彼女たちは、それまでの境遇を唯一の道だと諦めていた希望を取り戻す力を得るのです。」と語った。

12才のロジーナ・アクタールさんは学校に通ったことがない。彼女はデルパラでショングラップの少女たちの集団に加わり、5カ月を経て、教育と所得創出のための訓練が人生に活力を与えてくれたと確信している。

孤児であるロジーナは、涙を流しながらIDNの取材に対して、「私が一緒に住んでいた伯父が貧しく、制服代と入学金(12米ドル)が払えなかったために、学校に通えませんでした。しかし、ショングラップが、公立学校である『シクホン』への私の入学を手配してくれて、入学金を払わなくてよくなったのです。」と語った。

教育アクセス・移行・平等に関する研究コンソーシアム(CREATE)が作成した調査報告書『バングラデシュにおける退学:長期調査からの新知見』によると、中等学校の女生徒の推定45%が、97%という高い入学率にも関わらず、中途退学しているという。

School Drop Out in Bangladesh: New Insights from Longitudinal Evidence/ CREATE Pathways to Access
School Drop Out in Bangladesh: New Insights from Longitudinal Evidence/ CREATE Pathways to Access

2007~09年に行われた同調査によると、体調不良や衛生環境の悪さ、教師の職務怠慢、適切なケアの欠如、繰り返しの多い授業、自宅からの距離の遠さ等のよくある理由を別にしても、貧困がやはり女生徒が退学する理由のトップを占めている。

子どもの教育を推進するバングラデシュ有数のシンクタンクである「民衆教育キャンペーン」(CAMPE)代表のラシェッド・K・チョウドリ氏はIDNの取材に対して、「少女らを教育から排除することは、バングラデシュの社会文化的な文脈の下では特に大きな問題といえます。女性は依然として、厳しい法律があるにも関わらず、幼くして結婚させられています。若い女性は思春期になると『安全を守るため』として、家を出ないように促されます。しかし本当の理由は、多くの場合、若い女性は家族の収入を補う稼ぎ手であるとみなされているのです。」と語った。

チョウドリ氏はまた、「学校に通い続けたい貧しい少女らに、(収入を生むための)起業の機会を与えるというアプローチは、彼女たちの暮らしを大きく変える可能性があります。」と語った。

ロジーナは、2006年以降、時には数年、ある時には数か月のブランクを経て学校に復帰した11万6000人の成功例のひとりである。「ショングラップは私に新しい人生を与えてくれました。」と、収入を創出するための裁縫教室を最近終えたばかりのロジーナは語った。

ショングラップは、参加者個々人のニーズに合わせてプログラム内容を調整できる仕組みになっている。学校に復帰した生徒たちは、9カ月間のライフスキル課程で学び、次に、集団の同輩のリーダーによって運営される3カ月の収入創出活動(IGA)を学ぶ。そうした一時限が2時間のライフスキルコースは週に6回開かれる。

COASTのレザウル・カリム・チョウドリ代表はIDNの取材に対して、「研修プログラムを始めた当初は決して順調ではありませんでした。というのも、コックスバザール県はきわめて宗教色が強い伝統的な社会で、若い女性が外に出ることを制限しているからです。だから、学校をやめてしまった少女らを集めるのは容易なことではありませんでした。」と語った。

チョウドリ代表はさらに、「当初の課題は、私たちのアプローチに反対している両親や宗教指導者らをいかに説得するかということでした。しかし彼らも次第に、若い女性をエンパワーしていくことには大きな利益があることを分かってくれるようになりました。」と語った。

ショングラップの各センターには、親、地域のリーダー、地方自治体から成る「ショングラップ・サポート・チーム」(SST)が組織されている。

地域レベルでは、SSTと若い女性たちが主な役割を担い、例えば、児童婚姻や持参金支払いへの抗議などの社会活動を主導している。地域の人々を巻き込むことによって、彼らは、プログラムの享受者(少女ら)に備わっている可能性を理解し、保守的な社会であっても少女らを支援し守ることに積極的になれるのだ。

バングラデシュの「ストローム財団」事業責任者のミザヌール・ラーマン氏はIDNの取材に対して、「ショングラップはとりわけ、少女への暴力や女性に対するあらゆる形態の差別などの社会的な困難に、立ち向かうための知識と情報で、少女らを啓発する役割を果たしています。はたして、多くの厳格な親たちも、少女らの結婚時期を遅らせ、人権侵害と暴力から子どもたちを守るショングラップの活動に、より積極的に支援を与えるようになってきています。」と語った。

UN Photo
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4600以上のネットワークを通じてバングラデシュの(64県中)33県以上に広がっているショングラップは、社会から無視されてきた少女らに声を与え、生きていくために自らの権利について交渉できるスキルを身につけさせることを目的としている。この事業は、ノルウェーの「ストローム財団」からの資金を得て、COASTなどのNGOが実施している。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

 

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次なる最重要開発課題としての森林投資

【ワシントンDC・IDN=ファビオラ・オルティス】

目的が気候変動に関する目標を満たすためであれ、極端な気候に対処するためであれ、生活を向上させるためであれ、サプライチェーンを環境に優しいものにするためであれ、或いは、CO2の吸収対策のためであれ、森林への投資が、開発上の問題解決の重要な部分として次なる大きな課題となっている。世界では過去20年に亘って、連日1分毎にサッカー場50個分の広さの森林が失われてきた。

Sri Mulyani Indrawati, Managing Director of the World Bank/ International Monetary Fund -, Public Domain

「これはとんでもない悲劇です。」と話すのは、50カ国以上で活動している研究機関「世界資源研究所WRI)」の所長兼CEOのアンドリュー・ステアー氏である。「森林管理は困難なものになってきています。」とステアー氏は付け加えた。現在、世界人口のおよそ5分の1にあたる13億人が森林に依存した生活を送っている。

世界銀行によれば、約3億5000万人が深い森林の内部あるいはその近くで生活し、生きていくために森林に直接依存している。そのうち約6000万人(とりわけ先住民族社会)が森林に完全に依存している。

「森林はまた、この地球の生態系を安定・維持していくうえで極めて重要な要素です。森林は、水供給を調整し、農業生産を維持し、インフラを守っていくうえで重要な役割を果たしています。また、大気からのCO2を吸収し、気候変動の衝撃に対する自然の耐性を高めることで、気候変動の影響に地球が対処するのを助けているのです。」と世界銀行グループのスリ・ムリヤニ・インドラワティ専務理事は語った。

4月14~17日にワシントンDCで開催された国際通貨基金(IMF)/世界銀行の2016年春合同会議の特別セッションにおいて、森林問題に焦点が当てられた。

インドワラティ氏によると、持続可能な開発を支え民衆を貧困から脱却させる上で森林が果たしている重要な役割に対する認識が世界的に高まっているという。世界銀行は、森林問題に対して世界で最も投資している国際開発金融機関である。2002年から15年の間に、世銀は、300件の森林関連事業に157億米ドルを支援してきた。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

「森林が、持続可能な開発目標(SDGs)に含まれているのはまさにこのためです。世界銀行は、『森林の持続可能な管理』をグローバルな課題の不可欠の一部とみなしており、今や森林対策が、新たな気候変動行動計画の重要な柱となっています。森林にとって新たなより良い道筋を見出す機運が高まっています。」とインドラワティ氏は語った。

世界の指導者と諸政府は4月22日、国連気候変動協定に署名した(同日175か国が署名した:INPS)。同協定は、森林などの生物的なCO2吸収源を保全し強化することを諸国に呼び掛けている。世界の年間CO2排出量の少なくとも55%を占める55カ国が批准書を寄託してから30日後にパリ協定は発効することとなっている。

現在のところ、同協定での「各国が自主的に決定する約束草案」(INDC)において諸国がこれまでに公約したCO2の全排出削減量のうち、森林や土地利用が占める割合は僅か25%に過ぎない。

4月21日に公表されたデータによると、森林の貢献余地ははるかに大きい。CO2吸収体としての潜在能力は非常に大きく、排出されたCO2を大気中から安全に吸収することができる。

気候変動の原因と効果を調査して、自然の保全・回復・経済開発の機会を探り実行することをめざした独立研究機関である「ウッズホール研究センター」が出した調査報告書「森林―化石燃料なき将来への架橋」では、適切な管理がなされれば、森林、とりわけ熱帯の森林は、相当量のCO2を大気から吸収し、地球温暖化を2度に留めるとの目標達成をより容易にするという。

熱帯雨林の「積極的な管理」シナリオを実行すれば、化石燃料使用脱却までに必要な時間を10~15年ほど伸ばせそうだ。

Amazon Rainforest in South America | Credit: Wikimedia Commons - Phil P Harris - Own work 2016
Amazon Rainforest in South America | Credit: Wikimedia Commons – Phil P Harris – Own work 2016

「熱帯雨林の破壊を食い止めないかぎり、地球温暖化への対処は成功しないでしょう。森林の保護・管理は気候の観点から意味があるだけではなく、経済にとっても意義のあることです。森林は主要な経済的資源であり、その保護は気候変動への耐性を増し、貧困を削減し、貴重な生物多様性を守ることにもつながるのです。」とノルウェーのトネ・スコゲン外相は語った。ノルウェーは毎年4億ドルを熱帯雨林のために投資している。

コスゲン外相の見解では、熱帯雨林の喪失に対処するグローバルで野心的な行動なしには、「2度」の目標は達成できない。今世紀後半までには、地球は温室効果ガスの排出と削減のバランスを達成しなくてはならない。

森林破壊を食い止めることで、「2度」の目標範囲内に収めるために、2030年までの温室効果ガス排出量を3分の1削減することが可能性である。コロンビアのような国は、2020年までに森林破壊をゼロに食い止め、数百万ヘクタールを回復する目標に深くコミットしている。

コロンビア国土の半分は森林で覆われており、そのうち3分の2がアマゾン流域である。過去の森林破壊のデータは、毎年30万ヘクタールという急速なペースを示しているが、これは主に同国内での武力紛争のためであった。

「50年にも及んだ紛争が、多くの意味で森林破壊につながり、違法な麻薬生産、違法な採鉱、住民の強制移住につながってきました。私たちは紛争を終わらせることを強調してきましたが、それは環境や森林にとってもよいことです。」と、コロンビアのマウリシオ・カルデナス財務・公債大臣は語り、「コロンビアはCO2排出削減と森林の保護に関する世界的な議論をリードする存在です。」と付け加えた。

Location of Colombia/ Addicted04 - Own work, CC BY-SA 3.0
Location of Colombia/ Addicted04 – Own work, CC BY-SA 3.0

コロンビア革命軍(FARC)との和平協議の多くの側面のひとつは、森林破壊を食い止め、元戦闘員を森林作業員に転換させることであった。「この違法集団を再び社会に受け入れるひとつの手法は、彼らに森林を保護する役目を与え『緑のガード』として給料を与えるというものです。」とカルデナス氏は語った。

このプロセスに関与すべきもうひとつの重要な主体は先住民族社会である。ラテンアメリカでは、森林の4割が先住民族によって管理されている。

ニカラグアの先住民族の人権擁護活動家で「先住民族自律・発展センター」(CADPI)のルナ・ケイ・カニンガム・カイン議長によれば、世界で先住民族が管理する森林や土地の面積は2030年までに2倍になるという。

「もし諸政府と民間部門が先住民族とこの問題で協力しないのなら、目標を達成することはできないだろう。先住民が参加せず、情報が十分に提供された自由な事前の協議がなされず、先住民の指導者が犯罪者扱いされるとき、紛争は起きるものです。」とカイン議長は明言した。

カイン議長は、ニカラグア・ワンギ川沿岸にあるワスパム地区に住む先住民ミスキート族に属している。「私たちにとって森林は住処であり、そこで祈りを捧げる、精神的、文化的価値を有する場所なのです。先住民族にとって森が意味するものには、様々な見方があります。私達には、自分たちの領域を保有し利用する権利があり、それは国際法にも定められていることです。」とカイン議長は語った。

先住民族と地域社会によって所有・管理されている森林は、CO2をおよそ377億トン吸収することが可能だが、これは世界の乗用車が1年間に排出するCO2の29倍にあたる。「先住民族や地域社会が保有する土地への権利を擁護することで森林が守られ、大規模な見返りを期待できる。」と「権利・資源イニシアチブ」(RRI)が4月21日に公表した新たな報告書に記されている。

162件のINDC申請のうち、わずか21件(これがカバーする熱帯・亜熱帯森林は世界全体の13%)しか、気候変動の軽減計画あるいは適応行動の一環として、地域を基盤にした土地保有あるいは天然資源管理戦略の実行を明確に約束していない。

上記の報告書によると、これは、先住民族と地域社会の土地への権利を擁護することが持続可能な開発と気候変動の目標を達成するために根本的に重要だとの認識と、必要な改革を実行する諸国の意志との間に、「大きなギャップ」があることを示しているという。

国際自然保護連合IUCN)「土地回復に関する知識・ツール・能力」のシニアマネージャーであるミグエル・カルモン氏はIDNの取材に対して、「今日、森林を管理しながら同時に農業のニーズを調整し、劣化した土地の回復を図るいわゆる『ランドスケープ・アプローチ』という新しいビジョンが注目されています。」と語った。

「森林に投資するのはよいことです。世界には、かつての森林が劣化した土地が20億ヘクタール以上もあり、社会に何の利益ももたらしていません。この荒廃した土地を、環境サービスを生み出す生産的なものに転換する必要があります。今日、(全ての利害関係者が)より統合的な手法で協力し合うことで共通の目標を達成できるということについては、誰もが合意していると思います。」とカルモン氏は付け加えた。(原文へ

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メコン地域6カ国、薬物撲滅戦略を強化

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

法執行や刑事司法、オルタナティブな開発、保健対策などを統合した枠組みである「薬物対策に関するメコン覚書(MOU)」が署名されてから25年以上経過したが、依然として、東アジア・東南アジアの6カ国にとって重要な意味を持っている。

大メコン圏(GMS)を構成するMOU署名6カ国(カンボジア・中国・ラオス・ミャンマー・タイ・ベトナム)は、同圏内、および、圏内に流入或いは圏外に流出する違法麻薬とその前駆化学物質の流れを止めるという難題に引き続き直面している。

Seedhead of Opium Poppy/ Public Domain

違法なケシ栽培は2006年までの10年間は減少しつづけていたが、同年を境に再び増加の一途をたどっている。今日、ケシの栽培はミャンマーラオスに集中している。合成ドラッグ、とりわけ、錠剤・結晶の形でのメタンフェタミンが、同地域での最大の麻薬の脅威として登場している。前駆化学物質の流用とそれに続く密輸、それに新たな向精神剤の登場は、メコン川流域諸国に引き続き深刻な影響を及ぼしている。

こうした問題は、「世界の薬物問題に関する国連特別総会」(UNGASS)に合わせてメコン川流域諸国と国連薬物犯罪事務所(UNODC、本部ウィーン)が合同で4月19日に開催したハイレベル説明会で明らかにされたことである。国連特別総会は、国際社会に対して、「黄金の三角地帯」としてよく知られるこの地域における薬物問題の現状を改めて知らしめる機会となった。

1995年に3年の時限付きで合意されたMOUは97年に改定され、時限なしの定期的な行動計画となった。新たに台頭している薬物取締上の問題に対処するために、一定の期間ごとに見直されることになったのである。

メコンMOUは他方で、違法薬物の国境を越えた脅威と闘う上で、一定の成果を挙げる効果的な枠組みだとみなされてきた。

UNGASS(4月19~21日)の期間中、ユーリ・フェドトフ氏(UNODC事務局長)、ルクイ・ヴォン氏(ベトナム治安副大臣)、郭声琨氏(中国公安部部長)、ミント・フエ氏(ミャンマー保健大臣)、パイブーン・クーンチャヤ氏(タイ司法大臣)、コウ・チャンシーナ氏(ラオス薬物取締委員会委員長)、ライ・トゥイ氏(カンボジア国連大使)が参加したハイレベルな「私的会合」において、メコンMOUの将来について議論が交わされた。

Yuri Fedotov/Bundesministerium für Europa, Integration und Äusseres -, CC BY 2.0
Yuri Fedotov/Bundesministerium für Europa, Integration und Äusseres -, CC BY 2.0

「薬物取締協力に向けたメコンMOUの包括的ビジョンは、バランスの取れたアプローチの必要性に関する議論に重要かつ実践的な貢献をしてきました。」「MOU署名6カ国からの意見を受けて地域の薬物問題に対処する将来に向けた共通の方向性が示されました。これは、究極的には国際社会全体の利益にもなるでしょう。」とフェドトフ氏は語った。

密輸されている違法薬物の多岐にわたる種類と莫大な量は、メコン地域が直面している麻薬問題の深刻さを示している。「メコン地域は顕著な薬物市場となっており、様々な次元の解決策を必要とする様々な難題に直面しています。」とUNODCのジェレミー・ダグラス東南アジア・太平洋地域事務所代表は語った。

また国連情報サービス(UNIS)によるとダグラス氏は「政策決定者を巻き込むのは好ましいことです。彼らは、過去の計画がどの程度機能したか、データを検討し、反応を定式化しながら振り返ることができるのです。」と語った。

重要なことは、メコンMOUが薬物の脅威に対処するバランスの取れたアプローチを促進していることだ。法執行協力、法的・司法的協力、持続可能なオルタナティブ開発、薬物・保健・HIVといった複数のテーマ領域を包含する計画的な戦略を利用しようとしている。

Jeremy Douglas/ UNODC

MOU参加国とUNODCが新たに台頭する問題を把握することができるように、再検討プロセスもメカニズムとして組み込まれた。「これによって、地域の薬物市場の変化する動向に適応・対応できるようになった。再検討プロセスは、前進し続けるメコンMOUの不可欠の要素となっている。」と国連情報サービス(UNIS)は指摘している。

「メコンMOUが効果的な多国間協力・調整枠組みに発展した背景には、微妙な地理的考慮を伴った解決策が必要との認識が基盤にあります。」「例えば、効果的な解決をもたらすには、法執行における越境協力にとどまらず、司法・開発・保健上の考慮も統合する必要があるという認識が挙げられます。」とダグラス氏は語った。

「私たちは対応策を改善する取組みを進めています。」「重要なことは、こうした改善は、一貫して、さらに継続的に、地域と個別的な保健上の考慮を統合し、取締りだけでは期待される結果を生み出すことはできないという観点を基礎にしなくてはなりません。」とUNODCのタン・ネイ・ソー東南アジア・太平洋地域事務所薬物分析・プログラム局長は語った。

Map showing the Mekong River and tributaries/ Shannon1, GFDL

UNODCによれば、準地域行動計画(SAP)がMOUプロセスを推進する原動力であるという。これは、MOU署名国の協力に対して戦略的な概要を提供し、加盟諸政府が、個別的に、及び集合的に、違法薬物の生産・密輸・乱用に対処する際の支援を提供する行動志向のプログラムを実践に移している。

SAPは、①法執行における越境協力、②司法問題に関する国際協力、③薬物需要の削減、④薬物とHIV、⑤持続可能なオルタナティブ開発という5つのテーマ領域をカバーしている。

上記の5つのテーマ領域には個別の行動計画があり、これらの活動やイニシアチブの概要を示し履行に移している。究極的には、これらの活動が、加盟諸政府の法律・組織・運用面での能力構築に役立つことになる。

SAPは、主に、特定の問題と運用上の弱点に対処する、明確に定義された活動とイニシアチブを通じて履行されることになる、とUNODCは指摘している。(原文へ

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人道的危機の打開策探るイスタンブールサミット

【ベルリン/ニューヨークIDN=ラメシュ・ジャウラ】

トルコ最大の都市であり、同国の経済・文化・政治の中心地であるイスタンブールで5月23日と24に史上初めて開催される「世界人道サミット」に国連の潘基文事務総長が一方ならぬ情熱を注いでいるのは、公然の秘密だ。

サミットが成功裏に終われば、潘事務総長の功績として長く歴史に名を留めることになるだろう。なぜなら、このサミットは、仙台防災枠組みアジスアベバ行動目標(AAAA)持続可能な開発のための2030アジェンダパリ気候合意の4本柱に支えられた丸天井を象徴するものだからだ。

世界の指導者らが169のターゲットをもつ17項目の「持続可能な開発目標」に合意した2015年9月以来の潘事務総長の中心的なメッセージは次のようなものだ。「私は、世界の指導者に対して、すべての政策や戦略、意思決定の中心に、市民の尊厳や安全、幸福への関心という意味での人間性(人道理念)を、置くよう求めます。『世界人道サミット』は、人道の瀬戸際で生きる人々のために開催されなければなりません。彼らは私たちが頼りなのであり、失望させることなど、できないのです。」

実際、人間性は、現代にあって最大の問題に直面しているからだ。2015年、1億2500万人が人道支援を必要とした。6000万人が居住地を追われ、37カ国が影響を受けた。人道支援に推計200億ドルが必要とされている。

潘事務総長は2月9日、世界人道サミットに向けて作成された報告書「人道理念は一つ、責任の共有を (One humanity, Shared Responsibility) 」をニューヨークの国連本部で発表するにあたって、同サミットの重要性を詳しく述べた。

Infographic#1/ UN News Center
Infographic#1/ UN News Center

「私たちは、深刻で、緊急で、重大化しつつあるグローバルな課題に直面しています……。残虐で一見して手におえない紛争が、数多くの人々の生活を破壊し、地域全体を不安定化しています。暴力的過激主義やテロリズム、越境犯罪が、継続して不安定な状況を生み出しているのです。」と潘事務総長は加盟国を前に語った。

「貧富の差の拡大が、社会で最も脆弱な立場に置かれている人々を周縁化し阻害しています。気候変動は、ますます頻度を増し規模を増す暴風や洪水、干ばつを伴って、重大な影響を及ぼしています。人道支援のニーズは過去最大の水準となっているが、彼らを救う政治的解決策は見つかっていません。今日の複雑な課題は、国境を超え、ある国家や組織が単独で対応できる能力を超えています。」と潘事務総長は付け加えた。

こうしたことを背景に、潘事務総長は、「私たちは、グローバル秩序と、これらの課題に効果的に対応する各国および各地域の機関の能力に対する信頼を取り戻す必要があります。慢性的なニーズと終わりなき恐怖の中を生きている数多くの紛争下の人々に対して、彼らが期待し本来得るべき連帯を示す必要があります。」と主張した。

こうした課題の緊急性と苦難の大きさは、国際社会がその共通の責任を受け入れ、共感と決意を持って力強く行動すべきであることを意味している。

「世界人道サミットは、私たちが、人間性へのコミットメントと、危機を予防し収束させ人々の苦しみと脆弱性を減らすために必要な連帯と協力へのコミットメントを再確認する機会となります。」と潘事務総長は訴えた。

国連事務総長の「人道への課題」は世界の指導者に対して、共通の人間性の名において「5つの核となる責任」を取るよう求めている。

中核的責任1:紛争を予防し収束させるグローバルなリーダーシップ。紛争を予防し、紛争を解決する政治的手段を見つけることは、人間性への最大の責任である。というのも、紛争はすべての人道的ニーズの8割を食いつぶすからだ。

中核的責任2:人道規範を護持する。連日のように、民間人が戦争において意図的にあるいは無差別に殺されている。私たちは、国際人道法150年の歴史が衰退するのを目の当たりにしている。しかし、戦争にすら限度がある。指導者は、人間性を守る規則の遵守をあらためて誓うべきだ。というのも、人口過密地域で爆発兵器の使用により殺傷される人々の9割が民間人だからだ。

中核的責任3:誰も置き去りにしない。世界人道サミットは、見捨てられるリスクが最も高い人々の生活を変革することへのコミットメントが試される最初の試金石となる。

このことは、すべての人々と関わりを持ち、すべての女性、男性、女児、男児を積極的な変革主体としてエンパワーすることを意味する。強制的な移住を減らし、難民・移民を支援し、教育格差をなくし、性的暴力やジェンダーを基盤とした暴力の根絶のために闘うことを意味する。

中核的責任4:人々の暮らしを変える―届ける支援から、人道ニーズ解消に向けた取り組みへ。今や、成功とは、毎年いかにして人々のニーズが満たされたかによってではなく、人々の脆弱性とリスクがいかに縮小されたかによって測られるべきだ。ニーズそのものをなくすには、私たちの活動の仕方を3つの根本的な意味において変えなくてはならない。まず、国家のしくみを変えてしまうのではなく補強すること。次に、危機を待つのではなく先回りすること。最後に、人道/開発の分断を乗り越えること。今日、43%の人々が脆弱な状況下に生きていることを考えると、これはきわめて重要なことだ。2030年までに、この数値は62%まで上昇すると見られている。

中核的責任5:人道への投資。人間性への共通の責任を受け入れそれを基に行動するためには、政治的、組織的、金融的投資が必要となる。

地方の能力に投資し、リスクを考慮に入れ、脆弱な状況において投資し、集合的な成果にインセンティブを与えるような資金調達を行うことが必要とされている。私たちはまた、人道的ニーズのための資金調達格差を縮小しなくてはならない。2014年、政府開発援助のわずか0.4%しか防災のために利用されていない。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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ジェンダーに敏感な「2030アジェンダ」の履行を求める声

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アジア諸国の防災力強化及び連携への提言(北里敏明元内閣府防災担当審議官)

国連の開発支援目標達成の道は遠く

【パリ/ニューヨークIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

グローバル・パートナーシップの再活性化は、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」目標17として掲げられている。このアジェンダは2015年9月、ニューヨークの国連本部で開かれた歴史的な「持続可能な開発に関するサミット」(世界160か国以上の首脳が出席)において採択された。

「2030アジェンダ」は、政府開発援助(ODA)に関する公約を完全履行するよう、先進国に求めている。国民総所得(GNI)の0.7%をODAとして途上国に提供すること、とりわけ、0.15~0.20%を後発開発途上国に対して提供することが求められている。

SDG Goal No. 17
SDG Goal No. 17

世界の指導者らが承認した「目標17」は、「先進国は、後発開発途上国に対するODAをGNI比で少なくとも0.20%にすることを検討するよう求められる」と述べている。

「2030アジェンダ」は今年1月1日に発効した。しかし、経済協力開発機構(OECD、34カ国加盟)開発援助委員会(DAC)が発表した2015年の数値をみると、今後15年で重要な「目標17」を達成するのは、難しい課題であることがわかる。

インフレと、ドルに対して大きく価値を下げているDAC諸国通貨を考慮に入れた実質額で測ると、ミレニアム開発目標が合意された2000年以来、ODAは83%伸びている。

しかし、2015年に、ODAをGNI比0.7%以上にするとの国連の目標を達成したのは、DAC28カ国のうち6カ国(デンマーク・ルクセンブルク・オランダ・ノルウェー・スウェーデン・英国)のみである。ODAの対GNI比は0.30%であり、2014年と変わらない。

OECDの開発援助委員会が集めた公式データによると、2015年に22カ国でODAの額が増えた。大きく伸ばしたのはギリシャ・スウェーデン・ドイツ。減らしたのは6カ国で、特に減額幅が大きいのがポルトガルとオーストラリアである。

OECD log
OECD log

OECDに対して開発援助を報告している非DAC7カ国では、アラブ首長国連邦が対GNI比1.09%と、最大の比率を示している(2015年)。

2015年のODAは1316億米ドルで、実質額で2014年度から6.9%増。他方で、ホスト国での難民に対する支援は2倍以上になり、実質額で120億ドルである。難民への支援をのぞけば、援助は実質額で1.7%増である。

ドナー国での難民受け入れあるいはその手続きにかかる費用が2015年のODAに占める割合は9.1%で、ドナー国内での難民にかかるコストが66億ドルだった2014年の4.8%から上昇している。難民にかかるコストの上昇が開発予算を食いつぶしているというわけではない。というのも、DACによれば、ドナー国の約半分は、難民関連のコストを援助予算以外のところから引き出しているからだという。

「欧州における歴史的な難民危機のコストをカバーするために諸国は多額の費用支出を迫られているが、ほとんどの国が開発予算から資金を転用することを避けてきています。今後もこうした選択をすべきです。私たちはまた、最も貧しい国々への援助が増加していることを歓迎します。」とOECDのアンヘル・グリア事務局長は語った。

「各国は開発援助を増額し続けなければならなりません。難民にかかる将来的なコストと難民の社会統合に関する長期的なオプションの策定にも取り組む必要があります。同時に、ODAがそれを最も必要とする国々と人々に届くようにもしなくてはなりません。」とグリア氏は語った。

Official portrait of the SG of OECD Angel Gurría/ OECD
Official portrait of the SG of OECD Angel Gurría/ OECD

2015年にOECD諸国では前代未聞の150万人が難民申請を行なったが、そのうち100万人が欧州諸国であった。DACの規則では、難民の到着から1年間については、特定の難民関連費用をODAとカウントしてもよいことになっている。

オーストラリア・韓国・ルクセンブルクの3カ国は、難民関連費用をODAとカウントしていない。一方、オーストリア・ギリシャ・イタリア・オランダ・スウェーデンでは、2015年のODAの2割以上が難民関連費用であった。

2015年のデータは、最貧国への二国間援助が実質額で4%上昇したことを示している。これは、近年の減少傾向を逆転させるようDAC諸国が公約したことに応じている。ODAの約3分の2を占める二国間援助は、ある国から別の国に対して提供される援助である。2019年までのドナーによる支出計画を調査したところ、最貧国への資金フローは拡大し続ける見通しだ。

2015年、人道支援は実質額で11%増加して136億ドルとなった。債務免除は実質額で36%減少し、2015年のODA純額の0.2%を占めている。イラクとナイジェリアに対する特別措置のために債務免除が最高レベルに達していた2005・06両年には、20%を占めていた。

暫定的な推計では、二国間援助の中で贈与は実質額で2014年から9%増加したが、ドナー国内での難民関連コストをのぞくと、上昇率は0.4%となった。非贈与は実質額で26%増加した。

後発開発途上国に対する二国間援助は250億米ドルで、2014年と比較して実質額で4%増加し、この数年の援助減少の傾向を若干反転させることになった。

サブサハラ地域への二国間ODAは240億ドルで、2014年から実質額で2%増となった。また、アフリカ大陸全体へは実質額1%増の270億ドルだった。

Erik Solheim/By Magnus Fröderberg - Nordic Council
Erik Solheim/By Magnus Fröderberg – Nordic Council

ODAが増えたのは22カ国で、オーストリア・カナダ・チェコ共和国・ドイツ・ギリシャ・アイスランド・イタリア・日本・オランダ・ポーランド・スロバキア共和国・スロベニア・スウェーデンでは大幅な増額となった。このうち一部は、ドナー国内での難民関連コストの増加によるものだった。これらの費用を除いても、ODAの純増は20カ国に上る。他方で、ODAを減らしたのは6カ国で、中でもオーストラリアとポルトガルでは大幅に削減している。

G7諸国(英国・カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・日本・米国)は、DAC諸国による2015年のODA全体の72%を占め、DACのEU諸国は56%を占めた。

「持続可能な開発目標を達成し、将来難民危機を避ける最善の方法は、現在の援助資金の流れを継続すること、とりわけそれをもっとも必要とし、もっとも脆弱な国に援助し続けることだということを忘れてはなりません。」とDACのエリック・ソルハイム議長は語った。

ODAは後発開発途上国の外部からの資金調達の3分の2以上を占め、DACは、貧困国における民間投資や国内税収入の増加を刺激する材料としてODAを用いたいと考えている。DACはまた、難民関連コストをODAとカウントする際の基準を明確化することを検討している。

「最貧国への援助額が減少し続けていた近年の傾向を反転させたこと、そして多くの国が巨額のODA予算を難民支援に用いているわけではない事実を歓迎したい。」とソルハイム議長は語った。(原文へ

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