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テロ防止の鍵を握る持続可能な開発

【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

核物質がテロリストの手に渡らないようにするための方法を検討した第4回核セキュリティーサミット(ワシントンDC)から数日後、ジュネーブの国連会議では、暴力的過激主義予防の手法に焦点が当てられた。

「暴力的過激主義の防止に関するジュネーブ会議」は、イラク・レバントのイスラム国(ISIL)アルカイダボコハラムのようなテロ集団が暴力的過激主義を体現する象徴となり、この脅威にどう立ち向かうかが議論される中、4月7日・8日両日に開催された。

国連の潘基文事務総長によれば、あらゆる種類のテロリズムに対抗する計画の重要な要素のひとつは、持続可能な開発目標(SDGs)の完全履行でなければならないという。というのも、これらの目標を達成することで、暴力的過激主義の社会経済的要因の多くに対処することができるからだ。SDGsは女性のエンパワーメントと若者の関与に焦点を当てているが、これは、平等と包摂の度合いが高い社会は、暴力的過激主義に対して強いからである。

「暴力的過激主義者らの標的は必ずしも私たちではありません。彼らは、私たちが互いに敵対するように仕向けるのです。また彼らの最大の使命はアクションではなく、リアクションなのです。つまり、社会を分断し、恐怖に支配させることが彼らの目的なのです。」と潘事務総長は付け加えた。

潘事務総長は、「こうした破綻した戦略に断固ノーを突きつける」よう呼び掛けるとともに、「暴力的過激主義は国連憲章世界人権宣言への直接的な脅威です。」と訴えた。潘事務総長は、広範で互いに関係ある様々な課題に触れ、「過激主義は、私たちの共同の取組み、すなわち、平和と安全を守り、持続可能な開発を推進し、人権の尊重を促進し、必要とされる人道支援を提供しようとする取組みを阻害するものです。」と語った。

潘事務総長はまた、国際社会が暴力的過激主義に立ち向かう際に「欠かせない要素」と事務総長が見ている「若者のエネルギー」を発揮させることが重要だと訴えた。「世界で18億人にのぼる若者の理想主義と創造性、エネルギーを涵養できないかぎり、私たちは成功しないでしょう。若者らは私たちに、ビジョンや勇気、リーダーシップを発揮するよう期待しているのです。」

潘事務総長は、「暴力的過激主義は、緊急に国際協力が求められる国境を越えた脅威です。」と強調した。なぜなら、(ISILの例にあるように)テロ集団は領域や資源、人口を支配するからだ。テロ集団は、紛争を長引かせ、主権国家間の国境を曖昧にする。テロにつながる暴力的過激主義が拡がるなか、地域を超えて広がる前例なき人道上の危機をさらに悪化させている。

「最も高い犠牲を強いられているのは地元の人々です。数多くの人々が恐怖におびえ、家族の安住の地を求めて故郷を後にしているのです。」「こうした課題を解決する必要性は、化学兵器、生物兵器、放射能兵器、あるいは核兵器ですら、暴力的過激主義者が入手したり使用したりする可能性が高まっていることを背景に、ますます強まっています。これは今そこにある危機であり、国連はこうした複雑な緊急事態を予防するための取り組みを進めています。」と潘事務総長は語った。

この文脈で潘事務総長が言及したのが、国連総会が2016年2月12日に全会一致で採択した(事務総長提出による)「暴力的過激主義予防のための行動計画」である。潘事務総長はこのイニシアチブはテロにつながるような暴力的過激主義による脅威に対処するために必要な取り組みであると強調した。行動計画は、暴力的過激主義は特定の宗教や国籍、文明、民族集団に限られたものではないし、そのように考えられてはならないとの認識を示している。

行動計画は、それぞれが関連している5つのポイントに基づき、地球規模、地域、国家レベルで包括的かつバランスのとれたアプロ―チと(70項目以上の共同行動)を提案している。

ポイント1:予防を最優先に。安全保障や軍事的な対応だけでは、テロに打ち克つことはできないということは、これまでの結果から明らかである。実際、時としてそのような対応が逆効果になることが証明されている。「例えば、法の支配を無視し基本的人権を侵害する取り組みがなされれば、掲げている価値そのものに反するばかりか、暴力的過激主義を逆に煽る結果になることもあります。」と潘事務総長は語った。

「人々を相互に対立させ、すでに差別されている人々をさらに阻害するような政策を実施すれば、まさに対処しようとしている暴力的過激主義の術中に陥ることになるのです。」と潘事務総長は付け加えた。

潘事務総長はまた、「暴力的過激主義の原因に速やかに取り組み、対処する必要がありますが、何が人々を暴力的過激主義に走らせているかという謎を解く簡単な方策やアルゴリズム(算法)が存在するわけではありません。」と指摘したうえで、「しかし、私たちは、人権が侵害されたり、政治的な自由が萎縮したり、多様性受け入れへの願望が無視されたり、あまりに多くの人々、特に若者が人生の展望や生きる意味を見失ったときに、暴力的過激主義が蔓延することを知っています。」と語った。

この行動計画は、人々の正当な要求に耳を傾け応答することを基礎とした、紛争予防、紛争解決、政治的解決を強調している。長期的な紛争を解決し、抑圧に耐える人々に希望を与えることは、テロにつながる暴力的過激主義の温床を絶つことになるだろう。」と潘事務総長は付け加えた。

ポイント2:国の主導。この行動計画は、国が主導した各国ごとの行動計画を策定するよう加盟国に勧告している。こうした国家行動計画は「政府を挙げた包括的な」アプローチを採用し、「社会全体」を実効的に巻き込んだものでなくてはならない。

暴力的過激主義を予防するには、宗教指導者や地域のリーダー、女性指導者、青年グループの指導者、芸術・音楽・スポーツのリーダー、メディアや民間部門からの支援を必要とする。「私たちは、地球規模、地域、国家レベルにおいて、平和と安全、持続可能な開発、人権と人道支援に関与する主体の間の壁を打ち破らねばなりません。」と、潘事務総長は語った。

ポイント3:暴力的過激主義の予防には国際協力の強化が必要。ある国や地域が単独で暴力的過激主義の脅威に立ち向かうことはできない。国際社会全体からのダイナミックで、一貫性があり、多次元的な対応が望まれる。「私は、各国・地域・グローバルなレベルにおいてさらに国際協力を強化するために、国連の結集力を高めることを誓います。」と潘事務総長は付け加えた。

テロにつながりやすい暴力的過激主義の現象は、特定の宗教や地域、国籍、民族集団のみに起源を持ったり、それに限定されるわけではない。潘事務総長は、世界の被害者の圧倒的多数は実はイスラム教徒であると、的確な指摘をしている。

SDGs for All Logo
SDGs for All Logo

ポイント4:国連からの支援。「国連グローバル・テロ対策戦略」の第1・第4の柱の枠組みの下で、国連は、加盟国間で専門的能力を共有し、「国連を挙げた」アプローチを通じて暴力的過激主義の原因に対処するうえでそれらを支援する用意がある。地球規模、地域、国家レベルにおいてこれらの柱を実行するために国連はすでに行動を起こしている。

潘事務総長は、「今年6月に予定されているグローバル・テロ対策戦略の見直しは、暴力的過激主義の防止という概念を、加盟国の支援を得て国連の活動の主流にすることを目指します。」と語った。

「私は、本部と現場の両方のレベルにおいて行動計画の実行を先導する、国連システム全体にわたるハイレベルの『暴力的過激主義予防アクショングループ』を設置することを計画しています。このアクショングループは、6月にこれらの勧告を再検討することになります。」と潘事務総長は付け加えた。

ポイント5:行動計画は、連帯と行動に向けた緊急の呼びかけ。「暴力的過激主義の予防には数多くの側面があるが、青年層の保護とエンパワーほど、緊急に取組みが求められているものはありません。青年層は二重の意味で被害者と言えます。彼らは、暴力的過激主義に引き寄せられるだけではなく、公園や学校、大学において暴力的過激主義の犠牲者にもなっているのです。」と潘事務総長は付け加えた。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC

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非核世界実現への堅い決意から逃げた広島宣言

【広島IDN=ロドニー・レイノルズ】

G7諸国(カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・日本・英国・米国)の外相らが2日間の会合を締めくくって4月11日に「広島宣言」を採択したが、核兵器の完全廃絶に向けた具体的な約束をすることはなかった。

宣言は、見せかけだけの意図や、大量破壊兵器(WMD)の危険性に関する新鮮味のない言葉にあふれているが、「核兵器なき世界」の実現には踏み込んでいない。

Tariq Rauf
Tariq Rauf

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)軍縮・軍備管理・不拡散プログラムの責任者タリク・ラウフ氏はIDNの取材に対して、「宣言には非常に失望した」と述べ、「広島・長崎への原爆投下から71年にあたって核軍縮と核兵器廃絶を約束するという重要な機会をみすみす逃した。」と語った。

G7外相が「国際社会の安定を推進する形で、全ての人にとってより安全な世界を追求し、核兵器のない世界に向けた環境を醸成するとのコミットメント」を打ち出したのは残念なことであった。

ラウフ氏は、「G7外相は、このコミットメントを、シリアやウクライナの混乱、北朝鮮の核開発に結び付けてしまっています。」と指摘したうえで、「(ISISとしても知られる)ダーイシュとの闘いや、ウクライナ不安定化への対処において、核兵器はまったく意味をなしません。」と主張した。

「そして、北朝鮮を武力あるいは核兵器で威嚇することは逆効果であり、朝鮮半島の安全保障環境を改善することにつながらない」と、国際原子力機関(IAEA)核検証・政策調整局長を務めた経験を持つラウフ氏は語った。

首都圏広島・長崎平和委員会」の創設メンバーであるジョン・スタインバック氏も同様に懐疑的だ。

ジョン・ケリー米国務長官は(原爆資料館)訪問で『とても心を動かされた』と述べ、『(この資料館は)われわれに核兵器の脅威を終わらせる責務だけでなく、戦争そのものを避けるため全力を注ぐ義務があることをあからさまに、厳しく、切実に思い出させる』と芳名帳に書き記しています。」「私たちはこうした感情に賛同します。現在の米国の政策がこうしたことを優先してくれればよいのですが。」とスタインバック氏は語った。

スタインバック氏はまた、「しかし実際には、米国は前例のない規模の核戦力強化を進めています。」「米国は核戦力『近代化』のために今後30年間で1兆ドルを費やす予定です。これには、小規模で、『より使用が容易な』兵器の開発も含まれているのです。」と指摘したうえで、「オバマ政権は、核兵器を廃絶するという公約に明白に反する行為をしています。」と語った。

Hiroshima peace memorial museum/ CC BY-SA 2.5
Hiroshima peace memorial museum/ CC BY-SA 2.5

スタインバック氏は、米ロの核戦力は削減されているものの、依然として約1万5000発の核兵器が存在し、その大部分は米国とロシアによって保有されていると語った。

「さらに、北大西洋条約機構(NATO)は拡大し、ロシアと直接衝突する危険性が高まっています。米国は中東での戦争を継続しています。さらに気候変動はさらなる政情の不安定化を招き、天然資源を巡る戦争が、さらなる紛争につながるだろう。」

「そして、『原子科学者紀要』の「世界終末時計」は、依然として「3分前」を指した状態にあるのです。」とスタインバック氏は語った。

Image credit: Bulletin of the Atomic Scientists
Image credit: Bulletin of the Atomic Scientists

4月11日に広島平和公園を訪問したケリー氏は、71年前に米国が投下した原爆で破壊された都市を訪問した初の米国務長官であり、最も高位の米外交官ということになる。

ケリー長官は、聖書の一節(ソドムとゴモラの街が天からの火と硫黄によって滅ぼされたとする記述)を想起させるような自国の戦争犯罪は認めない一方で、自身の訪問を「胸がえぐられるような体験」と劇的に表現したのである。

ケリー長官は広島で記者団に対して、「原爆の遺産はひどく衝撃的なもので、核兵器のない世界をつくり実行していくため、公職にある者すべてが持つ義務の深さを再認識させるものだった。」と語った。

しかし、ケリー長官が回答を避けた問題がある。つまり、2009年4月のプラハ演説で「核兵器なき世界」の実現を呼びかけた米国のバラク・オバマ大統領は、5月26~27日に伊勢志摩G7サミットに出席するため来日する際に、広島への歴史的訪問を果たすかどうかという質問である。

President Barak Obama
President Barak Obama

ケリー長官は、オバマ大統領が広島訪を望んでいると記者団に述べつつも、「大領領のスケジュールは立て込んでおり、サミットで来日した際に広島訪問がかなうかどうかはわからない。」と語った。

「(オバマ氏が)大統領として(広島に)来ることができるかどうかは、分かりません。」とケリー長官は語った。

もしオバマ氏が本当に広島を訪問すれば、核兵器を使用した戦争で今後、人間にどのような破壊がもたらされるかという厳しい現実に直面することになるだろう。

広島で発表された声明で日本の岸田文雄外務大臣は、「G7外相による初の広島平和公園への訪問は、核兵器なき世界に向けた動きを復活させる歴史的な第一歩となった。」と語った。

『ニューヨーク・タイムズ』によると、米国のジミー・カーター元大統領が1984年に平和公園を訪問したことはあったが、退任4年後のことであった。また、米下院のナンシー・ペロシ議長が2008年に訪問している。

「しかし、現役の閣僚クラス以上が(広島平和公園を)訪問したことはない」と『ニューヨーク・タイムズ』は報じている。

外相らは11日、「広島宣言」を採択して2日間の会合を終えた。宣言では、G7諸国が「核兵器が二度と使われてはならないという広島・長崎の人々の深い願いを共有した」。

声明は核不拡散条約(NPT)の重要性を強調しただけではなく、核爆発実験の禁止を呼びかけ、包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名・批准を速やかにかつ無条件で行うよう、すべての国に訴えた。

5月のサミットでは、先進7カ国の指導者に加え、加盟28カ国の欧州連合(EU)からも代表が送られる。開催地は、日本の三重県志摩市賢島である。

広島宣言は、世界に未曾有の恐怖をもたらした第二次世界大戦から71年を経て広島でG7会合が開かれたことの重要性を強調した。

「広島及び長崎の人々は、原子爆弾投下による極めて甚大な壊滅と人間にもたらされた苦難を経験し、そして自らの街をこれほどまでに目覚ましく復興させた。この歴史的会合において、我々は、国際社会の安定を推進する形で、全ての人にとりより安全な世界を追求し、核兵器のない世界に向けた環境を醸成するとのコミットメントを再確認する。この任務は、シリアやウクライナ、そしてとりわけ北朝鮮による度重なる挑発行為といった、多くの地域における悪化する安全保障環境によって一層複雑なものとなっている。」

Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.
Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.

SIPRIのラウフ氏はIDNの取材に対して、「G7外相は核不拡散条約(NPT)への支持を表明し、インド・イスラエル・パキスタンに対してNPT加盟を呼びかけてはいるものの、核戦力を削減する核保有国の法的拘束力ある義務については軽視しています。」と指摘したうえで、「G7外相は、3つの核保有国(フランス・英国・米国)と、核兵器に固く結びつけられた安全保障体制の下に安住しているその同盟国(カナダ・ドイツ・イタリア・日本)を代表しているのだから、これは驚くべきことではありません。」と語った。

ラウフ氏はまた、「G7外相が、核兵器が人間や環境に及ぼす恐るべき帰結を認識し、ジュネーブ軍縮会議での多国間協議を通じて核兵器の完全廃絶をめざすことを約束していたら、そして、フランス・英国・米国が、(5月にジュネーブで第2会期が開かれる)国連総会によって設置された『軍縮の多国間協議に向けた公開作業部会(OEWG)』への反対から転換し、核軍縮を前進させるための道を探る話し合いに参加すると表明していればよかったのだが。」と語った。

核軍縮への方法と道筋について討論すべきとの国連加盟国の大多数の願いにこれら核兵器国が反発していることは、核武装国の本音を示すものだ、とラウフ氏は指摘した。

3月末、約52カ国の世界の指導者がワシントンで開催された核セキュリティーサミットに集い、民生利用核物質のセキュリティーを強化する方法について議論したが、核兵器に使用可能な世界の核分裂性物質(高濃縮ウランとプルトニウム)1800トンのうち83%は、1万5000発の核兵器とともに、協議の対象からは外されている。

「G7外相は、G7首脳が5月26~27日に日本で42回目のサミットを開く際に、真摯になって、次のことを約束すべきです。すなわち、他の核武装国とともに核兵器と兵器級核分裂性物質の削減と廃絶を図ること、そして、1996年に署名開放され、すべての核爆発実験を禁止しているCTBTを今年末までに発効させることの2点です。」「課題は大きいが、残された時間は少ない。G7首脳はその責任を果たすべく、立ち上がるべきです。」とラウフ氏は主張した。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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国連と広島市民が核なき世界の実現を強く求める

|NATO・ロシア|危険な核陣営間の言論戦

|視点|核時代の“終焉の始まり”となるか?(池田大作 創価学会インタナショナル会長)

「世界と議会」2016年春号(第573号)

特集:日本の課題 ― 国政と地方政治のこれから


■政経懇話会
「拉致問題の解決に向けて」/中山恭子

■咢堂塾講義録
「地方政治と日本の未来」/北川 正恭

■特別寄稿
「咢堂塾を終えて」/木村圭花

■INPS JAPAN
2016年・核セキュリティサミット ― オバマ最後の努力

■連載『尾崎行雄伝』
第四章 明治の大政変

■財団だより

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。

国連と広島市民が核なき世界の実現を強く求める

【国連IDN=ラメシュ・ジャウラ】

ニューヨークの国連本部で国連軍縮委員会の2週目の審議が翌日に始まろうとする中、核兵器廃絶日本NGO市民連絡会と核兵器廃絶をめざすヒロシマの会が広島で発表した共同声明は、「核のない世界への展望は未だに開けていない」と断じている。

4月10日午後、ニューヨークから約7000マイル(11230キロ)離れた被爆地広島で開催された市民シンポジウムにおいて発表されたこの共同声明「核のない世界のための行動を求める市民の声明」は、「地球上には今なお1万5000発以上の核弾頭が人類の生存を脅かしており、核のない世界への展望は開けていません。むしろ核拡散の波は広がり、貧困、不平等、環境破壊と暴力の連鎖が世界中でさまざまな人道上の危機をもたらしています。」と述べている。この声明は、広島でG7外相会合に参加している各国政府および国連軍縮局に対して発表と同時に送付された。

共同声明はG7各国政府に対して「(今回の外相会合での議論は)『核と人類は共存できない』という、70年前の核兵器の使用によってもたらされた未曾有の非人間的体験からヒロシマ・ナガサキが得た教訓を踏まえたものでなくてはなりません。」と強く訴えた。

Ambassador Odo Tevi, Chairperson of UNDC/ UN Photo
Ambassador Odo Tevi, Chairperson of UNDC/ UN Photo

こうした心情や見方は、国連軍縮委員会の一般討論演説におけるいくつかの発言にも反映されていた。同委員会のオド・テヴィ委員長(バヌアツ国連大使)は、「諸国間の論争と対立が続く中、テロやサイバー攻撃といった新たな地球規模の難題が深刻化しています。」と指摘したうえで、「多国間軍縮会議においても、各国が実質的な議論を避けるなか、衰退と低迷の兆候が表れています。」と語った。2015年核不拡散条約(NPT)運用検討会議は実質的な最終文書を採択できないまま閉幕した。こうした状況を背景に、全ての国連加盟国が参加できる(総会補助機関である)国連軍縮委員会は、2016年の委員会会期(4月4日~22日)を通じて加盟国間の信頼関係を再構築するうえで、重要な役割を果たすことが期待されている。

キム・ウォンス国連軍縮担当上級代表代行は、「国連軍縮委員会は、多国間軍縮交渉機関の麻痺状態と意見対立が深刻化するなか、本年度の会期も中盤にさしかかろうとしています。」と語った。

キム上級代表代行は、包括的核実験禁止条約(CTBT)が(依然として8カ国が署名・批准しないために)発効に至らない問題や、ジュネーブ軍縮会議における議論が長年停滞している問題を引き合いに出しながら、「昨年のNPT運用検討会議では、こうした現状に対する(非核保有国の)失望感は誰の目にも明らかになりました。」と語った。

Mr. Kim Won-soo , Under Secretary-General and High Representative for Disarmament Affairs/ UN Photo
Mr. Kim Won-soo , Under Secretary-General and High Representative for Disarmament Affairs/ UN Photo

キム上級代表代行はまた、「核軍縮と核不拡散に関して成すべきことはたくさんあります。この11カ月の間、(核軍縮の進め方に関する)各国の見解は二極化し平行線をたどってきました。にもかかわらず、来月にはジュネーブ軍縮会議の第二会期(5月16日~7月1日)が開幕し、効果的な法的措置に関する交渉開始を目指した取り組みが再開されます。」と指摘したうえで、「(現在会期中の)国連軍縮委員会は引き続き比類ない独自の役割を維持しています。各加盟国には、この委員会の場を活用して、核兵器なき世界の実現に向けた建設的な議論を大いに行ってほしい。」と語った。

キム上級代表代行の指摘は、1999年以来、ジュネーブ軍縮会議における議論の停滞を打破し、この世界唯一の多国間軍縮交渉機関の有効性を復活させる必要性を訴えてきた、カイラト・アブラフマノフ・カザフスタン国連大使の狙いと合致するものである。アブラフマノフ大使は、「ジュネーブ軍縮会議は、残念ながらこの20年にわたって、本来の任務を遂行してこなかった。」と指摘するとともに、「より安全・安心な世界実現を目指す大胆かつ革新的な措置を通じて、現在の停滞状況が間もなく変化していくことを期待しています。」と語った。

核兵器が国や非国家主体によって使用される脅威が、今日人類が直面している最大の課題であることを考えると、核兵器のない世界を実現するために、あらゆる機会を利用しなければならない。その際、国際的核セキュリティー構造の強化及び国際指針の作成における国際原子力機関(IAEA)の重要な責任と中心的役割を認識する必要がある。

IAEAが核セキュリティーを確保しようとする国際的な努力を取りまとめてきた功績は、評価されるべきである。一方、一連の核セキュリティーサミットは、IAEAの活動を支援しつつ、この共通の目的を達成するために大きく貢献している。カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、こうした考えを念頭に、初回から4回までの全てのサミット(ワシントン、ハーグ、ソウル、そして3月31日から4月1日にかけて再びワシントン)に参加してきた。同大統領は、一連のサミットで採択された共同声明を実行に移すことで世界の核セキュリティーを大幅に強化できると確信している。

アブラフマノフ大使は、「ナザルバエフ大統領が第4回サミットで出した声明の中で最も重要なものの一つに、『一連の核セキュリティーサミットの開催によりかなりの前進が見られたが、共同声明で打ち出された諸目的については、十分に実行されてきたとは言えない。』という見解があります。」と語った。

Official photography of the 2016 Nuclear Security Summit.
Official photography of the 2016 Nuclear Security Summit.

「従って、核セキュリティー上の脅威をさらに減らしていくために、サミットの継続を考えていくことが必要です。そこでカザフスタンは、第4回サミットにおいて、『マニフェスト:世界。21世紀』と題した全く新しい文書を発表しました。」とナザルバエフ大統領は語った。カザフスタンはこの文書の中で、戦争と平和の問題に関する重大な見解(戦争に勝者はなく、もし国際社会が核兵器の完全廃絶に向けた協力で前進できなければ、いずれ核兵器が使用され人類が滅亡する)とともに、全ての国が参加して核と戦争のない世界を実現するための方策を記している。

ナザルバエフ大統領は、昨年9月の第70回国連総会で演説した際、各国に対して、21世紀の人類の最大の目標として、核兵器のない世界を構築していくよう訴えた。そしてカザフスタンが35カ国と共同提出した「核兵器なき世界の達成に関する普遍的宣言」に関する決議案(70/57号)は、133か国からの支持を得て昨年12月8日に採択された。これには、核軍縮に関する基本原則と目的が記されており、全ての核兵器を禁止し廃棄するための法的拘束力を持つ国際文書の採択や、核軍縮を目的とした世界的な反核運動の確立など、大胆な措置をとるよう勧告している。

H.E. Mr. Kairat Abdrakhmanov. Permanent Mission of the Republic of Kazakhstan to the United Nations/ UNIS

カザフスタンは、核軍縮に関する多国間交渉プロセスを前進させるために公開作業部会(OEWG)の設立を支持してきた。「私たちにとって、OEWGはジュネーブ軍縮会議や国連軍縮委員会に取って代わるものではありません。しかし、OEWGには国連加盟国の圧倒的多数の支持があり、その可能性は無視できないだろう。私たちは核保有国に対してもOEWGにおける対話プロセス(第二会期は5月2日~13日)に参加するよう呼びかけています。」とアブラフマノフ大使は語った。

こうしたカザフスタンと同様の見解は、現在会期中の国連軍縮委員会における数カ国の代表者発言の中にも認めることができた。在ジュネーブ国際機関インド政府代表部のヴェンカテーシュ・ヴァルマ氏は、自らの立場を非同盟運動と重ねたうえで、「(国連)軍縮委員会が現在直面している難題は、多国間協議に努力を注ぎ込む『政治的な意思』が各国に欠けていることに起因しています。』と語った。第4回核セキュリティーサミットにおいて、インドのナレンドラ・モディ首相は、インドが核軍縮に関してコミットしている点を強調した。

「事実、核セキュリティーは引き続きインド政府の優先課題となっていくでしょう。インドはまた、核軍縮に関して例外を設けず期限を定めて達成するという方法を支持しています。」とヴァルマ大使は語った。

ヴァルマ大使は、核軍縮に向けた交渉における議論の隔たりを埋める必要性を強調しつつ、来たるジュネーブ軍縮会議の第二会期では、核軍縮条約に関する実質的な交渉が始まることを期待している。これに関して、ヴァルマ大使は、核兵器の完全廃絶に向け段階的なプロセスを踏んでいく合意を作り上げることや、カザフスタンが提案した「核兵器なき世界の達成に関する普遍的宣言」等の国際的な努力を支持している、

H.E. Mr. Kairat Abdrakhmanov. Permanent Mission of the Republic of Kazakhstan to the United Nations/ UNIS
H.E. Mr. Kairat Abdrakhmanov. Permanent Mission of the Republic of Kazakhstan to the United Nations/ UNIS

ヴァルマ大使はまた、信頼醸成策について、「段階的なプロセスとは、全ての当事者が受け入れ可能なペースで展開していかなければなりません。」と指摘するとおもに、「インド政府にとってプライオリティーは核軍縮に関する(国連軍縮)委員会の議題項目ですが、もし国際社会が新たな脅威に対処していくことに資する第三の議題があるとすれば、それに関する議論を妨げることはありません。」と語った。

アブラフマノフ大使はまた、非核兵器地帯の重要性を強調した。現在非核兵器地帯は南半球のすべてを網羅しており、非核兵器地帯に加盟している国々は116カ国にのぼり国連加盟国の大半を占めている。

「私たちはこれからも非核兵器地帯の拡大、とりわけ中東非大量破壊兵器地帯の創出を支持します。」「私たちは全ての非核兵器地帯の代表が集う年次会合をニューヨークで開催するという提案を支持します。...核保有5大国が2014年に署名した中央アジア非核兵器地帯条約(CANWFZ)の議定書については、英国、中国、ロシア、フランスは既に批准手続きを終えており、米国による早期の批准手続き完了を期待しています。」とアブラフマノフ大使は語った。(原文へ) 

翻訳=INPS Japan

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「核兵器なき世界」推進のカギを握る2016年

|国連|核軍縮のための新たなオープン参加国作業グループの設置を計画

Off to the UN in New York

In April 2016 INPS-IDN Director-General travelled to New York to make arrangements for an office close to the UN Headquarters, met several UN officials and correspondents.

2016年核セキュリティサミット:オバマ最後の努力(ジャヤンタ・ダナパラ元軍縮問題担当国連事務次長)

【キャンディ(スリランカ)IDN=ジャヤンタ・ダナパラ】

一般的な診療実務において、「偽薬」とは、患者の心理面にプラスに働くようにということで処方される薬や処置のことだと定義される。つまり、生理学上、或いは治療上の効果というよりも、患者の気持ちに合わせたり、沈静させる効果を狙っているのである。米国のバラク・オバマ大統領が2009年4月にプラハで示したレトリックは、世界に対して、「核兵器なき世界」という希望を掻き立てるビジョンを示した。「何千もの核兵器の存在は冷戦の最も危険な遺産です。……私は明白に、信念とともに、米国が核兵器のない平和で安全な世界を追求すると約束します。」

それ以来、期待外れに終わった4回の核セキュリティサミットがあり、核テロに関する警告が繰り返されたにも関わらず、実質的な核軍縮は達成されなかった。

Jayantha Dhanapala/ Photo by Katsuhiro Asagiri
Jayantha Dhanapala/ Photo by Katsuhiro Asagiri

オバマ大統領は、時期尚早に授与されたノーベル平和賞を手にしながら、世界最大の軍産複合体のありきたりの主導者の地位に舞い戻ってしまった。この軍産複合体は、世界の軍事支出1.8兆ドルのうちおよそ6100億ドルを消費し、核兵器近代化のために今後10年で実に3550億ドルを費やす予定である。

オバマ大統領は2010年にロシアとの間で(発効から7年以内に配備核を3割削減することを約束した)新戦略兵器削減条約(新START)を結んだものの、引き続き、核抑止と積極的なNATOの拡大、ミサイル防衛システム構築の方針を採り続けた。ウラジミール・プーチン大統領が率いるロシア連邦との和解は、ロシアがクリミアを併合して、ウクライナに対する敵対的な政策を採ってからは、ますます難しいものとなった。

きわめて敵対的な共和党が米議会を支配するなか、オバマ大統領は、合同包括的行動計画を通じてイランとようやく核協議の最終合意に至った。しかしこれは欧州連合(EU)が原則的な立場を貫き、リベラルなハッサン・ロウハニ大統領の下でイラン指導部が忍耐力を発揮したことでかろうじて成立した合意だった。

その他の外交政策上の「成功」としては、未だに履行されていないグアンタナモ収容所閉鎖の決定と、キューバとの国交回復とそれに続くキューバ訪問がある。この2つの成果は、オバマの通知表では「未完」のものとして記録されねばならない。というのも、米議会は、グアンタナモ閉鎖とそこでの人権侵害(ジュネーブの人権理事会では他国の同様の行為に対して米政府が頻繁に非難しているような類の人権侵害)の停止に反対しており、数十年を経て米・キューバ両国の大使館が華々しくオープンする一方でキューバに対する禁輸措置も依然として続いているからだ。

オバマ政権最後の期待外れの出来事の中で、4回目の、そして最後となる核セキュリティサミットがワシントンで開かれ、4月1日に最終コミュニケが発表された。ロシアが意図的に欠席したにも関わらず、世界の二大国であり、合わせると世界人口の3割を占め、しかも核兵器国でもある中国とインドが積極的に参加したことは、サミットを救うひとつの成果だと見なされている。

代理戦争と紛争が多発している中東諸国からの難民の流れが欧州の統一とその道徳的な価値基盤を揺るがせる一方、イスラム過激派組織ISISによるテロが欧州諸都市を恐怖に陥れている。国連安保理決議1540や、オバマ大統領が主導した2010年のワシントン、2012年のソウル、2014年のハーグでの各々の核セキュリティサミットの合意事項履行のために多くのことがなされたにも関わらず、突如として、核テロは以前にもまして現実的な脅威となった。

重要な事実は、「人道の誓約」と「核兵器禁止条約」への世界の支持の高まりにも関わらず、核兵器廃絶に向けた措置は何ら取られていないということだ。

核兵器が存在するかぎり、その保有はそれをすでに保有している9カ国に限られないというのが自然の流れだ。他の諸国や非国家主体もその保有を望むことだろう。もし核兵器がなければ、テロリストや誰の手にも核兵器が拡散されることはない。「グローバル・ゼロ」キャンペーンはこの点について端的に、「核兵器が存在する限り、『核セキュリティー』などというものはない。」と指摘している。

Joe Cirincione/ Ploughshares Fund

プラウシェアズ財団」のジョー・シリンシオーネ代表は、「ハフィントン・ポスト」への寄稿のなかで、「オバマ大統領は正しいビジョンを持っているが、彼の期待は自身の官僚機構、とりわけ、時代遅れの核戦力を大統領の政策以上に擁護する国防総省(ペンタゴン)の役人たちによって裏切られてきた。オバマ大統領は、(来月の伊勢志摩サミット出席に伴う来日の機会を利用して広島を訪問し)広島でのスピーチを利用して自身の主張を再び前面に押し出し、ホワイトハウス主導による新たな行動を起こすことが可能だ。例えば、ウィリアム・ペリー元国防長官が主張しているように、オバマ大統領は、新型の核巡航ミサイルと大陸間弾道ミサイルという、自身が既に製造を命じた最も危険で不安定化を招く新システムの構築をキャンセルしたり、遅らせたりすることを発表できるはずだ。」「少なくともオバマ大統領は、無意味で時代遅れな警戒即発射態勢を解除することができるはずだ。あるいは、トルコやベルギーの危険な基地から、冷戦期から配備されたままになっている米軍の核兵器を引き上げることも、専門家が既に勧告しているその他多くの行動も実行に移すことができるはずだ。つまりオバマ大統領は、人類が発明した最も恐るべき兵器からアメリカを守るために、あらゆる機会を捉えて手を尽くした誇りつつ、大統領職を離れることができるはずだ。」と述べている。

上記のような課題からすれば、先日閉幕した第4回核セキュリティサミットは実際のところ「偽薬」に過ぎない。サミットの最終コミュニケは、既に達成されたことを明確にするために次のように読み替えられるべきだ。

ICAN
ICAN

1.コミュニケは、核・放射線テロの脅威は依然として国際社会の安全保障に対する最大の挑戦の一つでありその脅威は継続的に増大し続けている、と繰り返している。

2.コミュニケは、核セキュリティー強化のための措置が、平和的目的のために原子力を開発し利用する国家の権利を妨げないことを再確認しているが、イランは必ずしも好ましい模範ではないとしている。専門家グループから度重なる勧告があったにも関わらず、プルトニウムの民生用再処理の禁止や、低濃度ウラン原子炉への移行の必要性については言及されていない。

3.コミュニケは、核兵器に使われているものを含む全ての核物質及びその他の放射性物質並びに各国の管理下にある原子力関連施設のセキュリティーを、あらゆる段階において効果的に維持する国家の基本的責任について繰り返している。それにもかかわらず、数多くの事故や盗難、サイバー攻撃が生じている。

4.各国の国内法や国内手続きにのっとって、情報共有などの国際協力を行うことが約束された。これは、全ての国の共通利益と安全確保のための、より包摂的で、調整され、持続可能で、強力な国際的核セキュリティー構造の構築に向けたものである。

5.国際的核セキュリティー構造の強化及び国際指針の作成における国際原子力機関(IAEA)の重要な責任と中心的な役割が支持された。

コミュニケは「2016年サミットをもって現行の形式による核セキュリティサミットは終了する。」と述べて終わっており、米国の次期政権が新たな形式を探ることになる。

しかし、テロ非難の嵐の中で行われている米大統領選を見てみると、選挙戦を争うどの候補者も、核戦力の廃絶はおろか、その削減や保全を行う用意を持っていないようだ。

実際、共和党の有力候補者であるドナルド・トランプ氏は、日本と韓国に自ら核武装させ、核不拡散条約(NPT)とその189の締約国については気にするな、という立場を表明している。オバマ氏が大統領に就任しプラハ演説を行うずっと以前の2007年と08年に『ウォール・ストリート・ジャーナル』への有名な寄稿で核軍縮への攻勢を主導した「反黙示録の四騎士」、すなわち、ジョージ・シュルツ氏、ヘンリー・キッシンジャー氏、サム・ナン氏、ウィリアム・ペリー氏の4人が奇妙な沈黙を保つ中で、このようなことが起きているのである。

従って私たちは、オバマ大統領がプラハ演説に忍び込ませた逃げ道の但し書きに戻ってみなければならない。つまりオバマ大統領は同演説の中で、「ゴールはすぐには到達できないでしょう。私が生きている間には恐らく(難しいでしょう)。忍耐と粘り強さが必要です。しかし今、私たちは世界は変わることは出来ないという声を無視しなければいけません。私たちは主張しなければいけません、『イエス・ウィー・キャン』と。」と語った。

核兵器を廃絶することなしに核テロを本当に廃絶することなどできるのだろうか? いや、そんなことは不可能だ(=ノー・ウィ―・キャント)。(原文へ

※ジャナンタ・ダナパラは、元国連事務次長(軍縮問題担当、1998~2003)、元スリランカ駐米大使(1995~97)、元欧州国連大使(駐ジュネーブ、ウィーン、1987~92)。現在は、ノーベル賞を受賞したこともある「科学および世界問題に関するパグウォッシュ会議」の議長、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の特別客員研究員。本稿の見解は、ダナパラ氏個人のものである。

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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オバマ大統領、日本・カザフスタンとともにCTBT発効促進へ

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オバマ大統領、日本・カザフスタンとともにCTBT発効促進へ

【ベルリン/ウィーンIDN=キャサリン・バウマン】

「世界の安全保障は、米国を含めた諸国による包括的核実験禁止条約の批准と、核兵器用の核分裂性物質の生産を完全に禁止する新条約の締結を必要としている。」これは、米国のバラク・オバマ大統領が、ワシントンで開催された第4回核セキュリティーサミット開催直前の3月30日付『ワシントン・ポスト』に寄せた文章である。

オバマ大統領の呼びかけに呼応して、包括的核実験禁止条約機構CTBTO、本部ウィーン)のラッシーナ・ゼルボ事務局長は、「核実験禁止を法制化し、北朝鮮のような国による核兵器開発を阻止するためのCTBTサミットの開催が必要」とツイートした。

任期終了まであと9カ月のオバマ大統領が、いかなる場所においても核実験を禁止するCTBTの批准を明確に呼び掛けたことは、きわめて重要な意味を持つ。

President Barak Obama
President Barak Obama

条約が署名開放されてから20年、核技術を持つ特定44カ国が、CTBT発効のために条約に署名・批准しなくてはならない。このうち、中国・エジプト・インド・イラン・イスラエル・北朝鮮・パキスタン・米国の8カ国が未締約国である。インド・北朝鮮・パキスタンについては、署名すらしていない。

3月24日に開催されたウィーン軍縮不拡散センター(VCDNP)主催のパネルディスカッション「CTBT20周年:世界的な議論の再活性化」で演説したゼルボ事務局長は、44カ国の発効要件国(「附属書Ⅱ」諸国)に対して、「(CTBT)批准に向けて『何をなすべきか』明確にすべきだ。」と訴えた。このイベントは、若い外交官らに対して提供された不拡散・軍縮に関する短期集中コースに合わせて、在ウィーン国際機関日本政府代表部において開催されたものである。

「附属書Ⅱ」諸国とは、1994~96年のCTBT交渉に加わり、その当時原子炉あるいは研究炉を保有していた国々である。

ゼルボ事務局長は、若い外交官らを前に、「CTBTOは、条約を実施するための技術的なツールを提供してきました。皆さんには是非(CTBTが発効に至らない)問題の核心を指摘してほしい。」と要請するとともに、問題を克服するための新たな解決法を見出すよう訴えた。

ゼルボ事務局長はまた、「若い外交官や学生と話していると大いに勇気づけられます。なぜなら、若い人々は、(CTBT)発効に向けた私たちの取組みに新しい息吹をもたらしてくれるからです。」「若い外交官や学生は、いかに条約交渉を前進させるかについて素晴らしい考えを持っています。将来的に、今ここにいる皆さんの中からCTBTOの次のリーダーが出てきてくれればと期待しています。」と語った。

Ambassador Mitsuru Kitano/ Permanent Mission of Japan to the International Organizations in Vienna

このパネルディスカッションには、ゼルボ事務局長の他に、2015年の第9回CTBT発効促進会議(14条会議)の最終宣言の協議と調整を務めた北野充在ウィーン国際機関日本政府代表部大使と同カザフスタン政府代表部のカイラート・サリベイ大使がパネリストとして参加した。両大使は、14条会議をいかにしてCTBTへの支持強化につなげるかについて見解を披露した。

その他、メラブ・ザファリ=オディス(イスラエル政府代表部大使)、モハメド・フセイン・H・ザロウグ(スーダン政府代表部大使)、アンドリュー・ショファー(米国政府代表部臨時代理大使)、モハマド・オマリ(ヨルダン政府代表部科学参事官)、アンゲラ・ケイン(VCDNP上級研究員、CTBTO賢人グループメンバー)がパネリストとして参加し、ローラ・ロックウッドVCDNP事務局長がモデレーターをつとめた。

パネルディスカッションでは、条約発効に向けた前進を促進するために既存のハードルを乗り越える信頼醸成措置の必要性が指摘された。さらに、登壇者のうち「附属書Ⅱ」諸国のイスラエルと米国からの参加者は、なぜCTBTを未だに批准していないかについての見解を述べた。

パネルディスカッションには、ミドルベリー国際大学院モントレー校(CNS)の創設時の所長であり、同研究所の「サム・ナン、リチャード・ルーガー不拡散研究」教授でもあるウィリアム・ポッター氏も加わり、不拡散の目的を促進するために若い才能を育成する利点について、自身の信念を表明した。

ポッター氏は、「CNSとVCDNPは、不拡散・軍縮に関する『次の世代の専門家を訓練する』という使命を共有しています。」「この点において、私たちの任務と、軍縮・不拡散問題で世界中の若者を巻き込んでいくというCTBTOの取組みには密接な関係があるのです。」と語った。

ポッター氏はまた、「とりわけ若い人々と関与していくメリットは、彼らが、理想を高く持ち、エネルギーに満ち溢れ、どんなことでも可能であると信じている点です。つまりこれらは、経験豊かな外交官や政府関係者には大抵失われてしまっている特性なのです。」と語った。

CTBTOは市民社会や教育機関と協力して、明日の政策決定者に関与し情報を提供しようとしている。2016年1月、CTBTOはCTBT20周年イベントの第一弾として開催した平和と安全のための科学と外交に関するシンポジウム:CTBTの20年」において、CTBTO青年グループを立ち上げた。

CTBTOによれば、本青年グループへの参加資格は、世界の平和と安全に貢献するキャリアをめざし、CTBTとその検証体制の推進に積極的に関与しようとするすべての学生と若い卒業生に開かれているという。

The CTBTO Youth Group/ CTBTO
The CTBTO Youth Group/ CTBTO

ゼルボ事務局長はまた、3月21日に訪問したモロッコでも、政府関係者との面談に続いて「モロッコ外交研究アカデミー」において若い外交官らと面談し、CTBT発効に向けた取り組みへの支持を訴えた。

ゼルボ事務局長は、35人の若い外交官らに対して、「より安全な世界の実現を目指す動きと見合った政治プロセスを作り出す機会を求めていってください。」と強く要請するとともに、「外交に奉仕するために科学を援用するという意味において、CTBTOの活動に並び立つものはありません。」と語った。

「科学と技術の新境地を開拓することで、私は、科学者として個人的に、将来世代のために世界をより安全な場所にするCTBTO国際監視制度(IMS)の寄与を評価しています。」とゼルボ事務局長は付け加えた。

ゼルボ事務局長はまた、エジプト・イラン・イスラエルによるCTBT批准を前提として、非核実験地帯の創設を通じた対話と信頼醸成のためのあらたな道筋を中東は見つけることができるとの信念も表明した。

核実験の禁止は、諸国による核兵器開発をまずもって防ぎ、すでに核兵器を保有している国に対してはさらに強力な核兵器の開発を妨げるカギを握っている。1996年の包括的核兵器禁止条約はすべての核実験を禁止している。

CTBTO検証体制の一環として、モロッコのミデルトにはCTBTO国際監視制度の地震監視局が設置されている。国際の平和と安全への貢献に加えて、IMSの民生上、科学上の利益が世界中で実現されている。たとえば、アフリカの科学者らは、CTBTOのデータを用いて、地震や火山の害を研究し、ダイナマイトを使った違法漁業の探知すら行っている。

ゼルボ事務局長は、モロッコのナセル・ボーリタ外務・協力副大臣とも会談して、CTBTや不拡散、CTBT20周年関連イベントについて意見交換を行った。さらに、ラーセン・ドウディ高等教育・科学研究・訓練大臣や、国営科学技術研究センターのドリス・アボウタディーン所長とも会談して、協力、キャパシティビルディング、科学、教育について議論した。

IMSのデータは気候変動の分析や台風の予測能力向上のためにも使うことができる。CTBTOとモロッコの間の緊密な協力で、モロッコの科学者によるIMSデータ利用が進むように能力を構築することが可能だろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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ジェンダーに敏感な「2030アジェンダ」の履行を求める声

【トロント/ニューヨークIDN=J・C・スレシュ】

国連加盟国は、ジェンダーに敏感な「2030アジェンダ」の履行を約束している。そうした中、3月14日から24日まで開かれた第60回「国連女性の地位委員会」(CSW60)は、いくつかの結論に合意し、より強力な法制や政策、制度、質の良いデータ、強化された資金調達を呼び掛けた。

同委員会は、女性に開発の主体として極めて重要な役割を認めている。「2030アジェンダ」の中核を担う「持続可能な開発目標」の進展は、ジェンダー平等と女性・女児のエンパワメントなくしては不可能であると認識している。

CSW60で合意された結論では、17の「持続可能な開発目標」(SDGs)と169のターゲットのすべてを、政府のあらゆる政策と事業を通じてジェンダー視点を統合することを通じて履行するための包括的なアプローチを推奨した。ジェンダーを基盤にしたあらゆる形態の差別の廃絶は、効果的な法・政策と、依然として差別を認容している法律の廃止にかかっている。暫定的な特別措置が、女性・女児が人権侵害に対する正義を獲得するために必要とされるかもしれない。

SDGs第5目標の5つのターゲットは次のようなものである。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

5.1 あらゆる場所におけるすべての女性および女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する。

5.2 人身売買や性的、その他の種類の搾取など、すべての女性および女児に対する、公共・私的空間におけるあらゆる形態の暴力を排除する。

5.3 未成年者の結婚、早期結婚、強制結婚および女性器切除など、あらゆる有害な慣行を撤廃する。

5.4 公共のサービス、インフラおよび社会保障政策の提供、ならびに各国の状況に応じた世帯・家族内における責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価する。

5.5 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画および平等なリーダーシップの機会を確保する。

5.6 国際人口開発会議(ICPD)の行動計画および北京行動綱領、ならびにこれらの検証会議の成果文書に従い、性と生殖に関する健康および権利への普遍的アクセスを確保する。

5.a 女性に対し、経済的資源に対する同等の権利、ならびに各国法に従い、オーナーシップおよび土地その他の財産、金融サービス、相続財産、天然資源に対するアクセスを与えるための改革に着手する。

5.b 女性の能力強化促進のため、ICTをはじめとする実現技術の活用を強化する。

5.c ジェンダー平等の促進、ならびにすべての女性および女子のあらゆるレベルでの能力強化のための適正な政策および拘束力のある法規を導入・強化する。

「女性の地位委員会」は、ジェンダー平等とすべての女性・女児のエンパワメントを達成するための資源の格差を縮小する投資の大幅な拡大を支持した。政府開発援助(ODA)の充足から、ジェンダー平等向けの公的資金を奪う違法な資金の流れと闘うことまで、国内・国際の両レベルですべての資金源から資金が調達されてこなければならない、と同委員会は決議した。

人道的危機やその他の緊急事態は女性・女児に対してより大きな悪影響を及ぼしているが、「女性の地位委員会」は、危機への対応と危機からの復興のすべての側面において、リーダーシップと意思決定の点で女性をエンパワーすることが絶対的に必要だと強調した。イスタンブールで開かれる「世界人道サミット」(5月23・24両日)を前にして、同委員会は、人道的危機において女性・女児のニーズを優先することと、すべての緊急事態において女性の権利を擁護することを強調した。あらゆる人道的危機への対応は、性的暴力、ジェンダーを基盤とした暴力に対処する措置を伴っていなくてはならない。

国連の潘基文事務総長は、「世界人道サミット」への報告書『人道理念は一つ、責任の共有を』の発表に寄せた2月9日の挨拶の中で、「女性・女児をエンパワーすると同時に保護しなくてはなりません……長期にわたる危機に見舞われた地域における教育もまた、優先されなくてはなりません。危機の状況にあるからといって、また、資金が足りないからといって、児童や青少年が教育を否定されることがあってはなりません。」と語った。

UN Secretary-General Ban Ki-moon | Credit: Fabiola Ortiz - IDN
UN Secretary-General Ban Ki-moon | Credit: Fabiola Ortiz – IDN

「女性の地位委員会」の委員は、政府から民間企業、その他の機関を含め、また、持続可能な開発のあらゆる領域を横断して、公的・私的領域のすべての意思決定のレベルにおいて女性が平等に参加してリーダーシップを果たすようにしなくてはならない、という点で一致している。さまざまな状況によって、暫定的な特別措置の確立、具体的指標の設定と達成、女性参加への障壁の除去といったことがここには含まれるであろう。

UNウィメン」のプムズィレ・ムランボ‐ヌクカ事務局長は、この合意と、2015年9月に採択された「2030アジェンダ」を現実のものにしようという国連加盟国の公約を歓迎し、「国々は、ジェンダー不平等問題の解決に2030年という期限を設けました。今こそ動き出すべき時です。これらの合意された結論によって、ジェンダーに敏感な「2030アジェンダ」の履行が固められ、その開始を促すことになります。それによって『誰も置き去りにしない』方針実現の可能性が非常に高まりました。」と語った。

「女性の地位委員会」に全世界から史上最多の80人以上の閣僚が参加したことをもってしても、世界的に運動が活発化していることは明白だ、とUNウィメンは報道発表で述べている。非政府組織についても、540団体以上から4100人が参加し、委員会の年次会合としては最多となった。

UNWOMEN
UNWOMEN

女性団体や地域を基盤とする組織、フェミニスト集団、人権擁護団体、女児・青年組織など、市民社会が「2030アジェンダ」形成に大きく寄与したことを受け、同委員会は、ジェンダーに敏感な政策の履行において市民社会と関与し協力していくことを歓迎した。また、変化の主体として、女性・女児に対するあらゆる形態の暴力や差別を廃絶する同盟者として、男性・男児が十分に関与していくことを強調した。

「2030アジェンダ」を通じてジェンダー平等と女性のエンパワメントに向けた系統的前進を導くために、同委員会は、各国ごとの統計処理能力や体系的なデザイン、すなわち、性別・年齢・収入ごとに集計された、良質で信頼性があり、タイムリーなデータを収集・共有することの重要性を強調した。また、加盟国は、女性の平等とエンパワメントを図るうえで、女性・女児のための各国ごとのメカニズムの役割を下支えしていくことにも合意した。

UNウィメンは、ジェンダー平等と女性のエンパワメントに奉仕する国連機関である。女性・女児の権利擁護の世界的機関として、世界全体で女性のニーズを充足しその地位向上と前進を加速するために設立された。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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エクアドルの世界市民:原則と実態のギャップ

【キトIDN=ネルシー・リザラーゾ】

普遍的市民権或いは世界市民権とは、「人道行動事典」によると、世界のあらゆる場所で、誰もが、権利を持った主体とみなされる原則、カテゴリー、あるいは条件である。

これは、少なくとも国際的な領域においては、確立され、受け入れられた概念であり、人権の普遍性と直接に結びついている。普遍的市民権の概念は、根本的に、人権というものは、ある個人がどの国家出身であるかに関わりがなく、どこにいても守られ、尊重されなくてはならないことを意味する。

2008年に国民の多数の支持を得て承認されたエクアドル憲法は、同国の国際関係の基本指針の一つとして、普遍的市民権を次のような形で定めている。

「憲法は、普遍的市民権の原則、世界の全ての住民の自由な移動を支持する。また、国家間の、とりわけ『北』と『南』との間の不平等な関係を転換する要素としての異邦人あるいは外国人の地位を漸進的に廃絶することを支持する。」

エクアドルは、この原則を憲法に持ち込んだことで、人間の自由な移動と国境の廃絶を求める、世界の旗振り役となった。別の言葉で言えば、エクアドルは、移民の地位を理由に誰も不法滞在者とはみなされてないことを理解する、移民をめぐる政治と立法に全く新しい焦点を当てた先駆的な存在となった。これは間違いなく、国民と外国人との間の差別を行く行くは廃絶しうる完全に統合的な視点であった。

Rafael Correa/ Fernanda LeMarie - Cancillería del Ecuador, CC BY-SA 2.0
Rafael Correa/ Fernanda LeMarie – Cancillería del Ecuador, CC BY-SA 2.0

人権擁護団体からの広範な支持がある一方で、国内保守層による直接的な批判や、外国人排斥と人種差別に駆られた一部市民による反対の声が上がっていたが、ラファエル・コレア大統領は、エクアドルに来訪するすべての外国人に対する観光ビザを廃止し、90日間の滞在を可能とする決定を公にした。

しかしそれから1年も経たずして、「市民革命」政府(コレア大統領が自らの政権を指して使っている用語)は、この措置を再検討し、まずは中国籍の来訪者に対して、さらに数カ月後には、バングラデシュやアフガニスタン、ナイジェリアなどの国から入国する来訪者に対して観光ビザを再導入した。この時点で「市民革命」政府は、観光ビザ廃止により、自国がブラジルや米国へ向かう旅客の単なる通過点になっているという現実と、国境開放措置が南米全体を「不安定化」させ地域の緊張を高めることになったことを理解したのである。

その後2年の間に、エクアドルは、キューバやハイチから流入する人口が急増する事態に直面した。しかし「普遍的市民権」の原則にはその裏付けとなる適用可能な法律を欠いていたため、内務大臣と警察当局が既存の移民関連法に基づく権限を行使する形で介入することになった。

実際、2010年にエクアドル政府は、「非正規な滞在状況にある」と見なされた外国籍の市民や警察の取り締まりによって身柄を拘束された人々を収監する不法滞在者収容所を設置した。この場所はかつてホテルであり、今も「カリオン・ホテル」として知られている。不法移民は、強制送還されるか、何らかのビザを取得して状況を打開できないかぎり、ここに収容され続けることになる。

人権団体や、移民・難民支援団体は、こうして非正規な滞在状態にある外国籍の市民が人権侵害に晒されているとしてエクアドル政府を非難している。これに対してエクアドル当局は、市民の安全を守るために移民を取り締まる必要があり、収容所では収容者の尊厳が守られるよう当初から必要な措置が取られている、と主張している。

こうして、自由に移動する権利に関連した先進的な原則としての「普遍的市民権」は、今日、国内および国際的な文脈において、数多くの障害に直面し続けている。

Map of Equador
Map of Equador

国内レベルで言えば、この原則に従って移民関連法が改正されていないために、「普遍的市民権」の意味に逆行するような形で警察当局や関連組織の運用の多くがなされていること。さらに、労働市場や安全面を憂慮する国内議論を背景に、他国からの移民の流入や移住に対して反発的な空気が生まれていること。

国際レベルで言えば、南米地域は統合が進んでいるにも関わらず、未だに様々な国の間で移住政策の調整がなされておらず、ましてや「普遍的市民権」への関連付けなどはなされていない地域であること。また今日の世界では、様々な動機を背景により良い生活を求めて他の地域に移動しようとする人々のニーズが、ビジネスの対象になり、人権が侵害されやすくなっていること。

にも関わらず、エクアドル憲法において「普遍的市民権」原則に期待することは、移動の自由を一つの権利であり、人間の自由の行使であると見なす人々の観点からすれば、大きな前進である。それは、長く困難ではあるが、決して不可能ではない道を指し示す模範的な決定なのである。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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女性国連事務総長求めるキャンペーンが加速

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

潘基文国連事務総長の後継者選びプロセスが4月12・14両日に始まり、国連加盟国と部分的には一般市民も参加する。こうした中、もし女性が今年、事務総長に選ばれなければ、次の機会は2026年まで訪れないかもしれない、と新たなイニシアチブが警告している。なぜなら国連事務総長は任期5年で、2期連続で執務することが可能だからだ。

1946年以来、国連事務総長は8人いるが、すべて男性である。トリグブ・リー(ノルウェー)、ダグ・ハマーショルド(スウェーデン)、ウ・タント(ビルマ)、クルト・ヴァルトハイム(オーストリア)、ハビエル・ペレス・デクレヤル(ペルー)、ブトロス・ブトロス=ガリ(エジプト)、コフィ・アナン(ガーナ)、そして現職の潘基文(韓国)と8人男性が続いた後、運を天に任せるのではなく、女性をトップに就けて、この世界的機関の70年の歴史の分水嶺とすべきだと訴えているのは、「私のような国連事務総長」(UNSG LIKE ME)キャンペーンである。

活動家らは、女性は戦争の悪影響をより受けているにもかかわらず、依然として和平協議や国際外交の場に女性の姿が少ないと論じている。国連安保理は15年前、紛争解決と和平プロセスに関する全ての意思決定レベルにおいて、女性の参加を促進するよう、加盟国と国連自身に求める決議を全会一致で採択した。しかし、1992年から2011年の間で、和平協議の参加者のうち女性はわずか9%であった。

国連は、紛争の予防と平和構築において女性の参加は欠かせないと認識している。近年における様々な和平協議を分析したある研究によれば、「女性が証言者や署名者、調停人、交渉人として参加した和平協議は、(そうでない和平協議と比べて)和平協定が少なくとも2年は続く蓋然性が20%アップすることが判明している。

同キャンペーンは、国連は自らの活動においてジェンダー平等を促進する責任があると強調している。「国連事務総長職を担えると信頼できるような女性候補がもしいないとすれば、国連はいったい女性に対して実際どのような責任を果たしているのかという深刻な疑問を投げかけなければならなくなるだろう。」

アルゼンチンからウクライナ、バングラデシュからブルンジ、ペルーからポーランドに到るまで、あらゆる大陸で、女性が大統領や首相に選出されてきた。国連はこうした民主的な世界に追い付き、初の女性トップを選出すべき時に来ている。

「私のような国連事務総長」キャンペーンは、国連総会の72人の歴代議長のうち、女性は僅か3人で、全体に占める女性の比率が4%であったことを明らかにしている。現在の国連安保理を構成する15人の大使のうち、女性は、米国のサマンサ・パワー氏ただ1人だけである。

外交協議の場において女性の不在が顕著なのは、「南」の国々(=途上国)だけの問題ではない。欧州諸国間の協議の場においても、多くの場合、女性の参加者は少ないのが現実だ。女性署名者のいない和平協議には例えば、ボスニア・ヘルツェゴビナを巡って協議された1995年のデイトン合意、さらには、マケドニアを巡って協議された2001年のオフリド合意がある。

7人の候補者

国連総会のモーエンス・リュッケトフト議長と、国連安保理のサマンサ・パワー議長に各々の加盟国が申請した7人の立候補者のうち、男性は4人、女性は3人である。潘基文氏の後継者は、2017年1月1日付けで就任することになる。

男性候補者は、マケドニア共和国(旧ユーゴ)のスルジャン・ケリム氏、モンテネグロのイゴール・ルクジッチ氏、スロベニアのダニロ・トゥルク氏、そして、元国連難民高等弁務官で、ポルトガルの元首相アントニオ・グテーレス氏である。

公的に確認されている女性候補者は、ユネスコのイリナ・ボコヴァ事務局長(ブルガリア)、クロアチアのヴェスナ・ピュジッチ元外相、モルドバ共和国のナタリア・ゲルマン元外相である。

「その他に国連ではヘレン・クラーク(元ニュージーランド首相、国連開発計画事務局長)、ミシェル・バチェレ(チリ大統領)、スザーナ・マルコッラ(アルゼンチン外相)女性候補者の名前も挙がってはいるが、この中で政府から指名を受けた候補はいない。」とCBSニュースは報じている。

潘氏の前任者コフィ・アナン氏が主宰している「エルダーズ」[Elders、年配者たちの意]の副議長を務め、かつてノルウェー首相も務めたグロ・ハーレム・ブルントラント氏も、女性の国連事務総長誕生を熱心に訴えている人物である。

ブルントラント氏は、「アカウンタビリティ、一貫性、透明性」(ACT)グループが昨年9月26日にニューヨークの国連本部で開催した討論会において、「国連事務総長には8人続けて男性が就任しましたが、今こそ女性が選ばれるときです。従って各加盟国は、女性候補者を出すべきです。ただし、こうした重要な決定がなされる場合は、特定の候補者をあらかじめ排除することは許されません。また、各候補者の資質こそが第一の検討要素とされるべきです。」と語った。

ブルントラント氏は、政府の側からは、「国連事務総長に女性を求める新たな友人グループ」と呼ばれるグループによって支持されている。グループの創始者であるコロンビアのマリア・エマ・メヒア国連大使は、53カ国がこれに署名したと述べている。

CBSニュースのパメラ・フォーク氏によると、国連分担金の二大拠出国である日本とドイツは、女性事務総長を求めるイニシアチブに加わっているとのことだ。日独両国は、インド・ブラジルとともに、安保理の5常任理事国の拡大を含めた国連改革を主張している。

他方、英国は、「安保理5常任理事国のうち、潘氏の後継に女性を就けることに関心を示している唯一の国」であると報じられている。

潘事務総長は3月8日の国際女性デーに寄せて声明を発表したが、その内容から事務総長職に女性を就けることに熱心であるように見受けられた。

潘事務総長は同声明の中で、「私たちがこうした問題に取り組める方法は、変化をもたらす主体としての女性のエンパワーメントを置いて他にありません。私はこれまで9年以上にわたり、国連でこの理念を実践してきました。私たちが多くのガラスの天井を突き破った結果、一面にその破片が広がりました。そして今、私たちは女性が新たなフロンティアを越えられるよう、過去の仮定や偏見を一掃しようとしています。」

潘氏は、国連部隊で初の女性司令官を任命するとともに、「国連上層部に女性職員が占める割合を歴史的な水準にまで高めた。」と指摘した。女性は現在、かつて男性の独壇場であった平和と安全という領域で、中心的なリーダーの地位を占めている。「私が国連事務総長に就任した時、フィールドで平和ミッションを率いる女性はいませんでした。今では、国連ミッション全体のほぼ4分の1は女性を最高責任者としています。これでもまったく不十分であるとはいえ、大きな改善が見られたことは確かです。」

潘氏は、「事務次長補または事務次長のポストに女性を起用する任命状に150回近く署名しました。」と指摘したうえで、そうした女性の中には、「国際的に著名なトップレベルの政府高官もいれば、母国に戻ってリーダーの地位に上り詰めた女性もいます。私は彼女たちのおかげで、女性が適任である仕事がいかに多いかを証明することができました。」と語った。

潘氏はさらに、「この実質的な前進の継続を確保するため、私たちは、国連システム全体に責任を問う新たな枠組みを構築しました。かつてはジェンダーの平等が賞賛に値するアイデアだと思われていた職場で、それは確固たる方針へと進化しています。かつては選択項目だったジェンダーへの配慮に関する研修が、今ではますます多くの国連職員にとって必修項目となっています。以前の国連予算のうち、ジェンダーの平等と女性のエンパワーメントに割り当てられる資金を追跡していた項目は一握りにすぎませんでしたが、現在ではこれがほぼ3項目に1項目の割合に達し、しかも増大を続けています。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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