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イラン核合意をめぐる神話

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

イランとの核合意をめぐる最大の誤解は、それが米国との二国間協定であるというものだ。

しかしそれは事実ではない。

この合意には、国連安全保障理事会の五大国、すなわち、米国、英国、フランス、中国、ロシアに加えて、ドイツ(P5+1)が関わっている。

しかし、それでもなお、右派・保守派の米議員らは、国連による対イラン制裁の段階的解除という内容を含んだ国際的合意に細かい検討を加え、その意義をなきものにしようとしている。

五大国が拒否権を持った国連安保理は来週会合を開いて決議を採択し、今回の合意を承認する見通しだ。

しかし、親イスラエル派と米議会の一部は協定を遅延させることを望み、米国が国連よりも政治的にリードすべきだと主張している。

米国務次官(政治問題)で対イラン協議に加わったウェンディ・シャーマン氏は、今週初めの記者会見でこう述べた。「ええ、国連安保理決議の構成のあり方ですけれども、米議会による検討に付するために60日から90日の暫定期間を取ることになると思います。」「『P5+1(国連安保理五大国+ドイツ)』のすべての国が、これは国連のプロセスの産物だからということで国連の承認を得ようとしたら、少し困難な事態になるでしょう。つまりそうなった場合、我が国は、『世界の皆さんには申し訳ないのですが、米議会の審議をお待ちください』としか言えないからです。」

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

アクロニム研究所の所長でプリンストン大学の「核分裂性物質に関する国際パネル」のメンバーでもあるレベッカ・ジョンソン博士は、IPSの取材に対して、「イラン核合意の真価はその結果の中で問われるでしょう。」と語った。

さらにジョンソン博士は、「私はこれまで、米国やイランの科学者、外交官、それに人権擁護活動家とも話をしてきました。まだ超えるべきハードルがあることについて、楽観視しているものは誰もいません。しかし、この合意が前向きな一歩であり、これまでの停滞と敵対よりは遥かにましなものであることは間違いありません。」と付け加えた。

「しかし、核拡散の防止と人権の擁護はそこに留まらないことは理解しておかねばなりません。私たちは、イランが、『核兵器の禁止と廃絶に向けた法的欠落を埋める』ことを訴え、オーストリア政府によって今年始められた『人道の誓約』に署名した112の核拡散防止条約(NPT)加盟国のひとつであることを歓迎しています。」

またジョンソン氏は、「もし将来的にさらなる核の拡散と核の脅威を避けようとするならば、核兵器禁止に向けた多国間交渉と、中東からすべての核兵器と大量破壊兵器(WMD)をなくすための努力を続けられねばなりません。」と語った。

Hillel Schenker
Hillel Schenker

パレスチナ・イスラエル・ジャーナル』の共同編集人であるヒレル・シェンカー氏は、イスラエルからの強い反発について、「ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、大国(=P5+1)とイランとの間の今回の合意は「世界の終わり」だと捉えているようです。」と語った。

イスラエルと米国両方の政界に影響力を持つ右派でラスベガスのカジノ経営者シェルドン・アデルソン氏から資金援助を受けているヘブライ語日刊フリーペーパー『イスラエル・ハヨム』は、イランとの合意に関して「永遠に不名誉な合意」との見出しを付けた。

他方で、イスラエル野党の指導者らは、ネタニヤフ首相がイスラエルの米オバマ大統領及び米国政府との関係を悪化させたとして、今回の合意は「悪いもの」だと主張している。

「私たちが現在目にしているものは、ネタニヤフ首相の恐怖の政策の失敗であり、オバマ大統領の希望の政策の成功です。」とシェンカー氏は語った。

シェンカー氏はまた、「ネタニヤフ氏は、父である故ベンゾン・ネタニヤフ教授が支配的な存在であった家庭に育ちました。ネタニヤフ教授は、スペインの異端審問を研究する中で、自分達、ユダヤ人、イスラエルが何をしようとも、世界全体は常に自分たちの敵であり、自分達は所詮同胞を頼みにするしかない、との結論に至った人物です。」と語った。

このアプローチは近代シオニズムの創始者たちが採ったアプローチとは正反対のものである。近代シオニズムの創始者らは、世界の大国と連携することの重要性を理解していた。

M.V.-Ramana
M.V.-Ramana

物理学者で、プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン公共国際問題学部「核未来研究所&科学・安全保障プログラム」の講師でもあるM・V・ラマナ博士氏は、IPSの取材に対して「イランとの対立は根拠をほとんど公開することなく煽られ、どんな主張でも言いたい放題の状態になっていました。」と語った。

ラマナ博士はまた、「この合意がそうしたイラン・バッシングを終わらせることを願っています。ともかく、この合意は正しい方向への重要な第一歩だと考えています。そして次のステップは、中東地域のすべての国家、とりわけイスラエルが、イランと同じような核に対する制限を受け入れることです。」と付け加えた。

「今こそ、国際社会がイスラエルに関心を向け、核戦力と、核兵器を製造可能にする核施設の廃棄をイスラエルに要求すべき時です。」とラマラ博士は言う。博士は『約束された力:インドの核エネルギーを検証する』の著者であり、『原子科学者紀要』の科学・安全保障理事、「核分裂性物質に関する国際パネル」のメンバーでもある。

ジョンソン博士は、「交渉事には、パンを焼くのに似て、科学とともに手練が必要-つまり、タイミングと適切な材料を使うことが大事です。粘り強い外交によって適切な時期にこの協議がまとめられることになりましたが、米国、イスラエル、イラン、アラブ諸国、欧州各国、そしてその他の国々が、前に進む意志を持たねばなりません。そうでなければ決して成功しないでしょう。」と語った。

「この合意によってイランが核兵器を取得できるようになるだろうとか、米議会がこの合意を拒否すれば、さらなる交渉によって(米国にとって)より良い成果が挙げられるなどと主張している米国やイスラエルの政治家・評論家には気をつけねばなりません。」とジョンソン博士は警告した。

「この核不拡散というプディングをより高熱のオーブンに戻してしまえば、すべてが焼け焦げてしまうでしょう。」

そうした誤った主張は、イラン国内の少数の強硬派(マームード・アフマディネジャド前大統領に近い残党勢力)を利するだけだという。彼らは、合意が壊れれば利益を得ることになるだろう。

「こうした評論家らが、合意に対する自分たちの批判を本気で信じているほどナイーブだとは思えません。自らの政治的理由であれ経済的理由であれ、時代遅れの対立構造にしがみつき、イランを悪者にして孤立させ続けることに既得権を持っているから、イランに対する冷遇を止めたくないのです。」

「ジョンソン博士はまた、制裁は強制の手段としては鈍く、通常は、女性や子どもなど最も脆弱な立場にある人びとを最も傷つけ、人権や民主主義を抑圧したい権威主義的な集団のいいように使われるだけです。」と語った。

「この建設的な核合意を失敗させることに米・イラン双方の強硬派が成功すれば、悲劇的な『失われた機会』となるだろう。」

シェンカー氏は、「ネタニヤフ首相の政治的キャリア全体が、恐怖を煽り、その危機と対決するための『強い指導者』の必要性を基盤としています。」と語った。

最近の選挙でもこのことが典型的に表れた。選挙戦終盤になって、「(イスラエル在住の)アラブ人が、左翼の準備したバスに乗って大挙して投票に向かうことになる」などと言いだしたのだ。

しかし、これまで3回の任期の間、恐怖の究極の源泉はイランの核兵器の脅威であった。これは、ネタニヤフ首相が2年前に国連総会で行った演説、昨年米議会で行った演説に明快に表れている。

7月17日付『マアリブ・デイリー』紙の見出しは、イスラエル軍や治安部門の指導者らの多くがイランに対する軍事作戦には反対しているにも関わらず、「(イランとの核)合意後、イスラエル国民の47%がイランに対する軍事作戦を支持」というものであった。

この調査結果は、ネタニヤフ首相とその一派、そして主流メディアの評論家らが生み出した恐怖の産物である。「しかし、それに替わる落ちついた声も聞かれるようになっています。」とシェンカー氏は語った。

たとえ米議会内の共和党勢力の助けを借りて(イランとの核合意を妨害するような)決議を出しても米大統領による拒否権発動を阻止できないことが明らかになっているにもかかわらず、ネタニヤフ首相はどうして引き続き国際社会全体を敵に回すようなことをできると考えているか、イスラエル観測筋の多くが不思議に思っている。

こうした専門家筋のネタニヤフ首相に対する困惑は、ビル・クリントン元大統領がかつて1996年に同首相との初会談後に語ったコメントによく表れている。「彼はいったい自分を何者だと考えているのか? ここで絶大な力を誇っているのはいったい誰だ?」(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【国連IPS=ノラ・ハッペル】

今年9月に国連総会で採択予定の野心的な「ポスト2015年開発アジェンダ」が果たして実行可能なものになるかどうかは、大部分が資金調達いかんにかかっている。

エチオピアのアジスアベバで開催された「第3回開発資金国際会議」(7月13日~16日)に向けた国際協議においても、旧来の政府開発援助(ODA)を補完し、世界の成長が鈍化し大半のドナー国が予算上の制約を感じている時代に資金調達の欠落を埋める安定的で予測可能な手段だと見なされている「革新的な資金調達メカニズム」が議論の中心になってきた。

ミレニアム開発目標(MDGs)採択という文脈の中で21世紀初めに考え出されたこの概念の背景にある理念は、バランスの崩れを取り戻し、極度な貧困の根絶や教育・グローバルヘルスの推進といった最も緊急を要する開発上のニーズに対する資金を提供するために、「目に見えない」形で相当の収入をあげるところにある。そのメカニズムには、政府による徴税から官民パートナーシップといったものまで、幅広い内容が含まれる。

革新的資金調達の著名な事例に、グローバルヘルスに関する取り組みであるUNITAID(ユニットエイド)がある。主たる資金的裏付けは、航空券連帯税である。集められた資金は、マラリアやHIV/AIDS、結核と闘うためのグローバルな対応策のために使われている。

なかでも最近の事例が、金融取引税(FTT)であろう。諸政府はこれを、金融投機を抑制するツールであると同時に、開発のための金融に利用し得る相当の収入をあげるメカニズムであるとみている。現在、欧州連合(EU)の11の有志国家で金融取引税を適用するという計画が進行中であり、これが革新的金融の次のステップとなるかもしれない。

元フランス外相で国連事務次官(開発のための革新的金融担当)、ユニットエイドの議長・創設者のフィリップ・ドゥスト=ブラジ氏が「第3回開発資金国際会議」の開催と今年後半の「持続可能な開発目標(SDGs)」採択を控えてIPSによるインタビューに応じ、金融取引税と革新的資金調達メカニズムに対する見解を披歴した。

Q:「ポスト2015年開発アジェンダ」に関する協議という文脈において、革新的資金調達はどのような役割を果たすでしょうか?

A:2015年は、世界の未来にとって極めて重要な3つの国際会議が開催されるという意味で歴史的な年です。1つ目はアジスアベバで開催される「第3回開発資金国際会議」、2つ目は「持続可能な開発目標(SDGs)」が発表される9月の国連総会、3つ目はパリで開催される「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議」(COP21)です。

この3つの国際会議では、シナリオは同じようなものになるでしょう。すなわち、素晴らしい政治的合意がなされるが、その裏付けとなる金融的手段に欠く、という状態です。この点に関して私は警告したいのです! 世界には史上かつてないほどお金が溢れているにもかかわらず貧富の差が継続的に拡大している現在において、もし革新的資金調達の道を見つけることができないならば、21世紀はひどい暴力に終わることになるでしょう。

Q:開発のための金融には相当な金融資源が必要となります。金融取引税は、他の革新的な資金調達手段と比較して、必要な資金を確保するのに適切なツールだと言えるでしょうか?

A:金融は、今日もっとも税金から逃れている経済部門の一つです。金融部門が2008年の経済危機で国際開発に及ぼした甚大な悪影響について知れば、非常に驚かれることでしょう。金融取引に対して取るに足らない割合の税を課すことで、世界中で数千億ドルを確保し、結果として、極度な貧困や感染症、気候変動との闘いにおいて決定的な役割を持つことができるのです。

現在私たちは、完全にグローバル化された世界に生きており、こうした脅威は世界のあらゆる市民の頭上に降りかかってきます。これに対抗するには、グローバル化された活動や交流を通じて、国際連帯に貢献すべきなのです。実はこれこそが、私がフランスのジャック・シラク大統領とブラジルのルイス・イグナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領とともに航空券連帯税を始めた際に念頭にあった思いなのです。

人々はますます旅行をするようになっていますから、航空券の価格にほんのわずかの税を課すことによって、世界中で救命治療をより多くの人々に施す機会が与えられることになります。金融取引税も同じような論理です。財政的なニーズは膨大であり、お金のあるところからそれを取ってくる必要があります。革新的資金調達手段は、競合関係にあるものではなく、むしろ相補的なものとみなされるべきです。

Q:ユニットエイドは、HIV/AIDSや結核、マラリアに対処するために世界的な連帯税という方式を使って集められた資金を投資しています。これらの疾病対応において、ユニットエイドはどのような成果を上げてきましたか?

A:第一に、ユニットエイドの投資は、[医薬品の]価格を年1500ドルから500ドルに引き下げることによって、2007年に主要な効果的HIV治療のための市場を創出しました。

第二に、ユニットエイドは、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバル・ファンド)と国際連合児童基金(ユニセフ)への支援を通じて、4億3700万ドル以上に相当する最高水準のマラリア治療を提供することに貢献し、2000年以降でマラリアによる死者数を世界で47%削減するうえで重要な役割を果たしました。

第三に、結核菌を検出するための重要な新型テストカートリッジの価格を4割下げる交渉を、米国際開発庁(USAID)や「ビル&メリンダ・ゲーツ財団」とともに、145か国を相手に行いました。これによって、世界全体で、2年間で7000万ドルの節約につながり、医薬品への耐性をもつ結核事例の把握率が年間で3割向上しました。

Q:UNITLIFEという新プロジェクトについて説明していただけますか? それはどういうもので、準備はどれくらい進んでいるのでしょうか?

A:私たちは、8億7000万人の人々が栄養不良に苦しみ、アフリカ大陸のほぼ3割の子どもたちが慢性的な栄養不良で学校の授業についていけなかったり成長が遅くなったりするという、恥ずべき世界の現実と闘わねばならないのです。

さまざまな世代を破壊し、社会を不安定化させ、諸国、とりわけアフリカの国々を激しく痛めつけてきた災難に直面した私たちには、効果と連帯を統合したような対応を想像する義務があるのです。それが、UNITLIFE(ユニットライフ)を始めようと思った理由です。

ユニットライフは、単純な原則に依っています。すなわち、連帯のグローバル化が経済のグローバル化に見合うような形で、アフリカの資源を引き出すことで得られた巨万の富のごく一部を、栄養不良問題に対処するために使おうということです。これまでに、アフリカ6か国の元首がこの原理を受け入れています。ユニットエイドが世界保健機関(WHO)によって主催されているのと同じように、ユニットライフはユニセフによって主催されています。

Q:欧州11か国で今後実施されることになる金融取引税が有益であり効果的であるためには、どのようなものである必要があるでしょうか? たとえば、フランスやイタリアの金融取引税をどのように評価されますか?

A:フランス、イタリアの金融取引税については、あまり評価できませんね。金融規制の面でも歳入の面でも、所期の成果を上げていません。両国政府は自国の金融部門を守ろうとしているだけのように思えます。

もっとも投機的な取引には課税しないという免除が課されているのです。デリバティブマーケット・メーカー、日中取引、高頻度取引は、もっとも危険なものであるにもかかわらず、この2つのモデルでは課税対象とされていません。

さらに言えば、これらの手法に対して課税することで、金融取引税はもっとも多くの資源を得ることができるのです。同じ理由で、外国株に適用されない欧州の金融取引税も、きわめて意義に欠けるものとなるでしょう。11か国の政治指導者は、金融部門からの反応を恐れるのではなく、やる気を見せて、適用対象が広く抜け道を許さない強力な金融取引税のしくみを設計すべきです。

Q:徴税されたものの特定の割合を確実に開発問題に振り向けるにはどうしたらいいでしょうか?

A:すでに、フランスの金融取引税の17%が気候問題と感染症対策に配分されています。フランソワ・オランド大統領は、欧州金融取引税の一部も同じ目的に配分すると述べています。もう少し割合を大きくすることを望みたいものです。

(スペインの)マリアーノ・ラホイ・ブレイ首相もまた、国際連帯に歳入の一部を配分すると約束していますが、それがこれまでに出された唯一の宣言です。11か国の元首が協働で国際連帯に資金を配分してくれることを望みます。「グローバル・ファンド」や世界保健機関、「グリーン気候基金」といった多国間基金に金融取引税の歳入を使うことで、徴収されたお金を確実に開発に使うことができます。

そして、いまや「世界最大の墓場」とでも言った方がよい地中海を数多くの移民が渡ろうとしている状況の中、貧困国から富裕国への大量移民を防ぐ唯一の解決策は、いわゆる「グローバル公共財」(食料、飲料水、基本的医薬品、教育、衛生)をすべての人間に提供することにあると強調しておきます。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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市民社会がポスト2015年開発アジェンダで持つ重要な役割

【国連IPS=ノラ・ハッペル】

「民間部門の行動がポスト2015年開発アジェンダの成功を左右することになるでしょう。」と、国連ハイレベル政治フォーラムという文脈で7日に開かれたサイドイベントの開会あいさつでカルメヌ・ヴェッラ欧州委員会委員(環境・海事・漁業担当)は語った。

「ポスト2015年アジェンダの実行に市民社会を関与させる」と題されたイベントは、欧州経済社会委員会、欧州連合(EU)国連代表部、国連経済社会局が主催して開かれた。

同イベントには、EUや国連の関係者、市民社会組織、経済界、労働組合などの代表が参加し、持続可能な開発政策における市民社会の影響について議論し、市民社会組織のさらなる活発な関与を促進する措置について話し合われた。

このイベントを通じて強調されたように、「組織された市民社会」がポスト2015年の開発アジェンダを実現するうえで重要な役割を持っている。

「組織された市民社会」という用語は、政府から独立したすべての集団や組織を指し、共通の利益促進のために市民が協力してことにあたる状況を示している。

パネリストたちは、今年9月に採択予定の「持続可能な開発目標」(SDGs)の策定に大きな貢献を成したのちに市民社会が果たしうるさらなる役割は、その実行プロセスに関与することであり、その再検討や監視手続きで役割を果たすことであることを明確にした。

ヴェッラ氏は、省エネを改善し、インフラへの資金を提供し、生物多様性を守るうえで、社会的責任やグリーン経済といった概念を通じて経済界が与えうる影響についても指摘した。

ヴェッラ氏によれば、「ライフスタイルや選ぶ製品に関して、十分な情報をもった決定を行うこと」によって、消費者も重要な役割を果たすという。これらの行動は、社会的保護や公正な労働条件、持続可能な開発を求める労働組合やNGOの政策提言活動によって補完され、他方で、市民社会全体も、「我々に責任を取らせる」うえで重要な機能を持っているという。

国連環境計画のイブラヒム・ソー副代表は、世界の多くの場所において政府にはSDGsを成功に導く専門能力も知識も欠いていることがあるという事実に特に注意を向けた。市民社会組織は、政策推進能力や科学、知識を提供することによって、違いを生み出すことができるという。

「市民社会組織には政策決定の権限もないし、国家レベルで決定を下す権限もないが、科学を提供し、政策決定において科学を統合するよう訴えていく点で、非常に重要な役割を担っている。」

CIVICUS(シビカス/市民社会の世界的連合組織)のジェフリー・ハフィンズ国連代表は、主要な利害関係者との関与のメカニズムに関する最近の調査結果を示しながら、国連加盟国及び国連が、周縁化された社会からの利害関係者が関連の会合に参加するよう資金支援を行い、遠隔地からの参加が可能になるようにオンラインのビデオストリーミングを継続し、関連する利害関係者の間の調整を促進し、現在の関与メカニズムが真にすべての利害関係者を代表するものであり「北(=先進国)」の巨大組織によって支配されることがないよう見直す必要性について意識を喚起した。

つづくパネル討論会では、「地球を救うために」経済界が短期的な利潤を諦める意思があるかどうかについて懐疑的な意見が出された。しかし、パネリストらは、顧客が持続可能性を期待し、政府が要求する中で、経済界も徐々にそれを受け入れ実行しつつあるという楽観論を示した。

米国国際ビジネス評議会のノリーン・ケネディ副代表(環境担当)によれば、より持続可能で、より浪費が少なく、より効率的な経済活動は同時に競争力を増すことにもつながるという。責任あるビジネスは「ユートピアではなく、実際将来的に実現する世界の姿なのです。」とケネディ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【カトマンズIPS=ロバート・ステファニキ】

チウテ・タマンさん(70歳)は、4月25日の地震(マグニチュード7.8)発生時、自分の耕作地で作業をしていたが、あまりの揺れに最寄りの木にしがみついた。彼の妻と娘はその時家の中にいたが、とっさに外に逃げ出した。家はあっという間に倒壊し瓦礫と化した。しかし彼らは運が良かったほうだ。

「人命を奪うのは地震ではなく建物。」これは震災を経験した地域では周知の事実だが、今回の地震でネパールの人々もこの教訓を痛感することとなった。犠牲者のほぼ全員が、未熟な石工が石と泥を単純に積み重ねただけの家屋の下敷きになって落命していた。レンガやセメントは費用がかかるが、石と泥はただで入手できるため、これが一般的に普及している施工方法だった。

ネパール西部のダディン郡(カトマンズの北西38キロ)の丘陵地帯に位置するチウテさん一家が暮らしてきたラムチェ村では、村内181戸のうち、168戸が倒壊し住めない状態になっている。

ネパール政府の最新の報告によると、4月25日の震災で倒壊した建物は16郡で607,212戸にのぼったが、そのうち実に63%が、タマン族が暮らしている地域だった。タマン族は、ヒマラヤ地域に居住するチベット・ビルマ語派の中で最大かつ最も貧しい部族だが、ネパール全人口に占める割合は6%に満たない(約135万人)。

このような被害状況を見ると、むしろ「人命を奪うのは地震ではなく不公正。」といった方が適切だろう。今回の震災で亡くなった8844人のうち、実に3012人がタマン族の人々だった。また犠牲者の50%以上がネパール社会の主流から取り残されたコミュニティーに属する人々であり、半数以上が女性だった。

ラムチェ村はタマン族の村である。なかには自身の耕作地を持ちトウモロコシやくるみ大のジャガイモを栽培しているものもいるが、収穫物で家族を養えるのはせいぜい2~3ヶ月に過ぎない。タマン族の人々は残りの期間を契約労働者として働いて生活している。 

ラムチェ村の人々は自分たちが大変貧しいと認めている。なぜかと尋ねると、「先祖代々貧しいから…」という回答が返ってくる。彼らは自分たちが貧しいのは運命であると受入れ差別されているとは感じていない。何世紀にも亘って組織的に搾取され続けた結果、不公正が社会の一部として蔓延っているのだ。

筋骨たくましいタマン族の人々は、歴史を通じてカトマンズの支配層に対して一定の労働力を提供してきた。しかし過去においては、タマン族出身者は政治や軍に参加する道を閉ざされていた。今日でも、末端の兵士や警察官として前線に投入されることはあっても、軍や警察機構の中で彼らが出世できる見込みはほとんどない。また、タマン族の声はネパール政府の施策に反映されていない。

また大半のタマン族は仏教徒だが、ヒンドゥー教徒である支配者層がネパール社会に浸透させてきたカースト制の支配から免れることはできない。ネパール社会で影響力を行使しているのはブラーミン(最上級カースト)に属するネワール族チェトリ族の人々であり、「良家」の出とされるこうしたエリート達はタマン族の人々を見下している。

経済的苦境から困窮化した農民が働き口を求めてカトマンズの労働市場に流入してきており、ホテルで働くポーターの約半数、テンプ―と呼ばれる三輪タクシー運転手の大半を占めるようになっている。こうしたなか、刑務所を調査した統計によると、人口規模に対して不均衡な数のタマン族出身者が刑法犯罪で収監されている。

タマン族の人々はこれまでと同様、今回の震災に際してもネパール政府の支援を当てにはしなかった。震災後、ラムチェ村の人々は互いに助け合い、料理を共にし、瓦礫と化した村の再建を村民同士の協力で進めてきた。その結果、ラムチェ村ではNGOによる限定的な支援を得ながら、震災後の混乱は落ち着きを取り戻しつつある。

震災から1週間後、ラムチェ村の被災者には、欧州委員会人道支援・市民保護局(ECHO)からの資金援助による毛布や防水シート、蚊帳が支給された。

今日、村中の人々が仮宿舎で行列を作り、現地NGOアドラのスタッフから欧州連合のロゴマークが入ったプラスチック製水タンクと衛生キット(歯磨き粉、歯ブラシ、浄水錠剤、生理用ナプキン、経口避妊薬)を受け取っている。そして若い女性活動家らが、粘り強く一人一人の村人に衛生キットの使い方を説明している。

チウテ・タマンさんの家族は、地震で家が倒壊した後、木切れを組み合わせただけの、今にも壊れそうな小屋で3日間を過ごした。その後、入手した防水シートでテントを作り、そこに家族にとって最も貴重な財産であるヤギと一緒に移り住んだ。チウテさんは、「家畜は夜間テントの外に放置してはなりません。なぜなら、虎や豹の餌になりかねないからです。」と語った。一週間後、チウテさんは借金して建築建材を運び込み、隣人の協力を得て、自身と妻、最年少の娘と夫のための家を建てた。

小屋のデザインはいたってシンプルである。木材を組み屋根と壁をトタンの波板で覆ったワンルームの床は油布が敷き詰められており、それに簡易なベッドと食器棚、ガスコンロが備え付けられている。

チウテさんは、「たとえこの小屋が倒壊しても、最悪の場合、私たちの上に覆いかぶさるものは石ではなくトタン板にすぎません。」と皮肉交じりに語った。

木材は遠方から運ばなければならなかったため小屋の建設には2週間がかかった。そして小屋が完成してしばらくしてネパール政府による支援がようやくラムチェ村にももたらされた。震災で家屋を失った家族に対する政府の支援策は15,000ルピーの低利貸付を行うというもので、チウテさんはこのローンを利用して小屋を建設するために負った借金の約半額を返済した。

チウテさんと同じくラムチェ村の住民であるディーパク・ブテルさん(29歳)は、今回の政府支援で180,000ルピーの融資を受けることができた。しかし、ブテルさんの場合不幸なことに、震災時に妻と生後18カ月になる幼い娘が倒壊した家の瓦礫の下敷きとなり亡くなっている。

これだけの資金があれば将来の地震にも耐えられる家を建設することが可能だが、今や長女が唯一の家族となったディーパクさんは、「おそらく自分も最終的にはトタン屋根の小屋に住むことになるでしょう。これまで生涯に亘ってぎりぎりの暮らししか知らない私としては、全財産を家の建設のみに費やしたくはないのです。」と語った。

今後の復興過程において、はたしてネパール政府が、この機会を活かしてタマン族がどうして自然災害にかくも脆弱なのか、そして将来災害からタマン族の人々を保護するには何ができるかについて、その答えを導き出すか否かは、時間が経過すれば明らかになるだろう。

ネパールタイムズによると、国家計画委員会前副会長のジャグディシュ・チャンドラ・ポクレール氏は、「過去の失敗を繰り返してはなりません。かつて1980年代初等、マクワンプールに貯水池が建設された際、その地域に居住するタマン族の一家約500戸がネパール政府の命令で移転を余儀なくされたことがあります。その際、タマン族の人々は現金による補償ではなく、他の土地への再定住を希望しました。」「しかし政府は現金補償を実施しました。その結果、補償金で土地を購入した者はごく一部で、大半の立ち退き家族は、まもなく補償金を使い果たし再び困窮したのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【カイロIDN=イスマイル・セラジェルディン】

エジプトの民衆は、またもや独自のやり方で変革の歩みを進めようとしている。数百万人の民衆が街頭に繰り出し、18日間でホスニ・ムバラク政権の30年に及ぶ支配を終わらせた2年前の出来事は世界を驚嘆させたが、彼らはふたたびエジプトの街頭や広場に舞い戻り、就任後1年が経過したばかりのムハンマド・モルシ大統領の治世を終わらせたのである。

モルシ博士は、ムバラク追放後18か月に亘ってエジプトを統治した軍事暫定政権が組織した、自由で公正な選挙において選出された、初の民間人大統領である。当時人々は、選挙の実施と、2012年7月1日に軍からモルシ大統領への権力移譲がなされたことを喜んだ。

しかしまもなくして、モルシ政権の一連の政策が明らかになると、ほとんどのエジプト国民にとって、モルシ政権は国をまとめるよりも(支持母体の)ムスリム同胞団の利益に奉仕するものだと映るようになっていった。同胞団とそれが創設した与党「自由と公正党」は、エジプトのあらゆる政治勢力を阻害した。そしてその中には、エジプトのイスラム国家化というビジョンを大枠で共有するサラフィ運動のイスラム主義者も含まれていた。

エジプトの方向性を変えたいという願いを、狭量な課題を追及する同胞団と与党のエリートに打ち砕かれ、中には裏切られたとさえ考えた民衆は、署名を集め、抗議活動に平和的に集うという、民主的でもっぱら平和的な戦術に再び訴えねばならないと考えた。短期的に見れば、暴力沙汰も噴出し、紛争も継続すると思われるが、エジプトの民衆は、包括的で適切に機能する本物の民主主義を作り上げ、祖国と国民のための新時代を切り開いていくことを望んでいる。

歴史的前例

約100年前の1918年末、サアド・ザグルール氏率いるエジプトの民族主義指導者らは、第一次世界大戦終結に際して開かれたパリ講和会議において、英国の占領からエジプトを独立させる必要性を訴えることを望んでいた。彼らは、個人で声明に署名した数十万人を代理してエジプトを代表することで、英国に対して自らの正統性を証明したのである。そこにはエジプトの民衆の意思が、明瞭かつ民主的に示されていた。しかし英国はこの意思を無視し、サアド・ザグルール氏と彼の仲間をマルタ島に追放した。この暴挙に、エジプトの民衆は街頭に繰り出し、広範な範囲で(英国占領当局に対する)市民的不服従が展開された。その結果、英国は処分を撤回し、ザグルール氏とその仲間をエジプトに呼び戻すとともに、エジプトの独立を1922年に承認した。エジプトは、1923年憲法をもって、その後30年にわたる自由主義的な多党制民主主義を開始したのだった。

第二の風を受けた革命

2011年1月25日の革命は美しく平和的なものだった。しかし、それに参加した多くの人々にとって、革命後の事態の進展は期待を裏切るものだった。今回彼らは、「中道的な修正」をなすことを決意し、革命精神に第二の風を吹き込んだ。

イスラム主義者らは、6月28日の大規模デモや、モルシ大統領に反する者は背教者であり抹殺されるべきと警告するテレビ放送など、様々な脅迫戦術を展開したが、民衆は動揺せず、連日数百万人が街に繰り出してきた。それは「怒りの日々」ではなく概して「平和的抗議の日々」であり、国民が一体化し確かな道徳的壮大さを見せつけた場であった。

偶然にも、モルシ大統領が任命したイスラム主義者の文化大臣は、芸術家や知識人に対する全面戦争を仕掛けている最中であった。これに対して彼らは、文化省の建物を閉鎖し、街頭演劇から詩の朗読に至る街頭パフォーマンスを繰り広げることで反撃した。すでに、オペラは閉鎖され、バレーは禁止され、国立図書館・史料館・音楽保存館長や文化高等評議会議長が解任され、これら組織の職員が(大臣に対して)ストライキに打って出ていた。アレクサンドリア図書館はおそらく、多かれ少なかれ普通どおりに、妨害を受けずに開館し機能していた唯一の公的文化機関であった。そしてまた、それを取り囲む人間の鎖がなくても、図書館に投石する者はいなかったのである。

実際今回は、警察署や公共の建物が標的になったのではなかった。この数か月間、標的となったのは、ムスリム同胞団やその政治政党である「自由と公正党」の本部だった。多くの建物が暴動参加者によって襲撃され、焼き打たれた。のちに警察が「自由と公正党」や同胞団自体の中央本部に隠し置かれた武器を発見したが、同胞団などは自衛のためだったと主張している。

国軍は、共通の土台を真剣に探るよう何度も大統領に要請したが、「妥協しない」「ボスは私だ」という回答しか得られなかった。一方、普通の市民たちが個人で署名した声明に表現された民衆の意思と、エジプト全土で2000万人にも及ぶと推定される巨大な群衆の出現を目の当たりにし、大統領の「妥協しない」姿勢を拒絶し、これら国内諸勢力の指導者らと協力して大統領を失墜させたのであった。つまり、国軍はそれを単独で成したのではなかった。

エジプト最高憲法裁判所長官コプト教会の教皇シェイク・アズハール(スンニ派法学最高権威者)、ヌール・サラフィ党、モハメド・エルバラダイ元国際原子力機関(IAEA)事務局長、その他の運動の代表らが、国軍の指導者らとともに、モルシ大統領を追放するコミュニケを起草し、コミュニケ読み上げにあたっては全員がその場に同席したのである。そして、テレビでコミュニケを読み上げた直後、声を上げたのである。

これはクーデターではない

モルシ大統領の支持者らは、これは民主的に選ばれた指導者に対する軍のクーデターだと主張し、諸外国に対してその認識の下に対応するよう要請している。しかし、これはクーデターではない。少数の共謀集団がこれを仕掛けたわけではないし、そこには、何ら秘密めいたものはなかった。国軍は単に、同胞団や与党「自由と公正党」の脅威に屈せず、6月30日を指定して街頭に繰り出した圧倒的大多数の民衆の意思と連携しただけだった。

これがクーデターの定義である:

「政治において突如として決定的な物理的力が行使されること。とりわけ、既存の政府が小集団によって暴力的に転覆されたり転換させられること」―メリアム・ウェブスター

「(フランス語で「国家に対する一撃」)共謀集団による既存の政府の、しばしば暴力的な突然の転覆のこと。その成功は計画の秘匿とスピードに依存する」―コンサイス・エンサイクロペディア

この定義がエジプトで起こった事態にほんのわずかでも引っかかっていると言えるだろうか?「タマルード」(反乱)というスローガンの下、若い活動家らによるキャンペーンとともに数か月前に始まり、数千万人の人々が、現在の支配者の下野を主張し、エジプトの個人による約2200万もの署名を集めることで平和的に自らを表現し、そのことを証明するために、6月30日に(タハリール広場だけではなく)エジプト各地の公共の場所に集う、と訴えてきたのである。はたして彼らはそれを実現し、数百万人が集ったのである。

サバ缶……

私はデモ参加者の一人一人に、モルシ博士が合法的で公正な選挙を通じて大統領になり、いまなお任期中にあることについてどう思っているか尋ねてみた。すると1人目は、力強い民衆の知恵が詰まったシンプルかつ直接的な表現でこう答えてくれた。「仮に私がサバの缶詰を買ったとしましょう。ところが開けてみると中のサバが腐っていた。あなたはそれでも、私がそのサバを食べるべきだと思いますか?」さらに2人目は、「彼らが1年間でエジプトに与えた被害は十分なものでした。あと3年でどれだけの被害が発生することになるか、黙って傍観しているわけにはいかないでしょう。」と語った。

3人目(知識人)の人は、「だから何だ?アドルフ・ヒトラーは自由選挙で政権に就いたではないか。もしドイツ国民がヒトラーと国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)を1年で追放していたら、世界はもっとよい場所になっていたに違いない。」さらに4人目はこういう。「私たちはモルシ博士に投票したけれども、今は『野に下れ』と言っている。」一方5人目(知識人)はこう言う。「定義上、統治者の正統性とは、被統治者の同意によるものです。つまり、定期的に選挙をやるのは、同意を定期的に表明できるようにするためのものなのです。モルシ博士は被統治者の同意を失った。人々は圧倒的に自らの意思を示したのですから、モルシはただ辞めるべきなのです。」さらに6人目は、「そう、選挙だ。しかし、たった1人の人間、たった1票、たった1度かぎりではなくてね。」と語った。

抗議参加者のメッセージは明瞭であり、私は「サバの缶詰の話」がそれをもっともよく表していると思う。

概観

これは、誰も―繰り返すが誰も―まだ見たことのない見事な革命であった。名もなき若者のリーダーたちによって(ふたたび!)組織されたこの運動は、ムバラク政権を終わらせた群衆よりも巨大であり、エジプト全体を揺るがした。運動は、圧倒的多数の個人の署名(推定2200万人の個人署名)によって正統性を与えられた。集結を約束した日である6月30日には、群衆はあらゆる都市に集った。それに対してムスリム同胞団とその支持者は、参加者を全土からバス輸送しながらも、カイロの2か所の広場においてわずか2団の(比較的)小規模なデモ隊を集めることができただけだった。

これは、国旗を掲げ自由と民主主義を要求する、概して平和的なデモにおいて「民衆の力」が示された前例のない出来事だった。今日、ムバラク追放後に言われていた、あの時の巨大な群衆はイスラム主義者が革命に加わったから可能だったのだという主張は誰も言うことができない。

これは「クーデター」ではない。裁判官や弁護士、国軍、警察、(コプト教会)教皇やシェイク・アズハール(スンニ派イスラム法最高権威者)を含めた宗教的指導者、市民社会、ムスリム同胞団系の政党を除くほとんどの政党、芸術家に知識人、そして、メディアの圧倒的多数の記者らが、イスラム主義者とエジプトを「イスラム共和国」にしようという彼らの理念をきっぱりと否定したのであり、エジプトの民衆が、3年後にそれを主張するまで待つことはできないと表明したのである。

またもや、軍は民衆に銃を向けることを拒否し、今回は、民間の武装集団にそれを認めることもしなかった。これはクーデターではない。これは、第二の風を受けたエジプトの革命であり、その道を正し、この歴史ある土地に自由を新たに誕生させようとするものであった。

我々は今回、現在の憲法とそれが「押し付けられて」きたやり方に異議申し立てをしつつ新たな選挙に向かうのではなく、まずは正しい憲法を十分な時間をかけて起草し、その憲法に照らして次の選挙に向かうことだけを望んでいる。我々は、追放された大統領の支持者らが、時計の針を巻き戻すべく暴力に訴えることがないようにとだけ願っている。

そしてまた、すべてのエジプト国民が、国民的和解を行い、よりよい未来に向けて協力すべき時である。しかし、自らの手に2度までも事態を掌握したエジプトの民衆は、何が起きようとも、自らの希望を誰にも無視させないと誓っている。これらの群衆のうちにあるあらゆるエジプト国民の行動が今日、ウィリアム・アーネスト・ヘンリーの『不屈(インビクタス)』の言葉を具現している。(原文へ

門がいかに狭かろうと

いかなる罰に苦しめられようと

私が我が運命の支配者

私が私の魂の指揮官なのだ

翻訳=IPS Japan

※筆者はエジプトの文化的中心のひとつであるアレクサンドリア図書館長で、IDN編集諮問委員会の委員。世界銀行元副総裁、国際農業研究諮問グループ議長。さまざまなテーマに関して、60冊以上の書籍・研究論文、200本以上のペーパーがある。カイロ大学理学士、ハーバード大学修士・博士、その他、33の名誉博士号を受ける。

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【国連IPS=カニャ・ダルメイダ】

今年1月時点で22万人の命を奪い84万人を傷つけた紛争では、時として死者統計以上のことを見ることが困難である。

シリア内戦は、民主派の活動家とバシャール・アサド大統領下の堅固な独裁制との間の対立として始まったが、現在は世界で最も厳しい紛争のひとつとなった。4つの別個の武装集団がこれに加わり、地域のその他の国々も巻き込んでいる。

数百万人が飢餓の危機にあり、シリア難民の数はいまやパレスチナ難民に続いて世界で2番目に多くなっている。こうした中、これまではあまり知られてこなかった戦争関連の惨状が、新聞の見出しに競って現れてきている。

7月2日、国際連合児童基金(ユニセフ)と「セーブ・ザ・チルドレン」は共同で、シリア危機の隠された一面、すなわち、地域における児童労働の拡大に関する報告書を発表した。

ヨルダンの首都アンマンで発表されたプレスリリースでユニセフは、「シリアの子どもたちは、世界が紛争を終わらせることができないために多大の犠牲を払わされている。」と述べた。

「この報告書は、シリアの子どもたちが、調査した世帯の4分の3以上において家計に貢献していることを明らかにした。ヨルダンでは、すべてのシリア人の難民児童の半数近くが共同あるいは単独で家族の稼ぎ手となっており、レバノンの一部では、たった6才の子どもが働いているという」。

「すべての労働児童のうちもっとも脆弱な子どもたちは、武力紛争や性的搾取、集団での物乞いや児童人身売買のような違法行為に関わっている子どもたちである」とプレスリリースは述べている。

ユニセフのデータによると、紛争が勃発する4年前以前には、シリアは中所得国であった。民衆は通常の生活水準を享受し、識字率は9割を誇っていた。

しかし、今年半ばまでには、シリア国民の5人に4人が貧困線以下の暮らしをしており、760万人が国内避難民と分類されている。

すべての都市や町から住民がいなくなり、経済活動が崩壊して、失業率は2011年の14.9%から今年は57.7%まで急上昇した。

国連難民機関は、約330万人が国外に逃亡し、近隣諸国の難民キャンプや一時的なシェルターで暮らしていると推計している。女性と子どもが難民の半分以上を占める。

シリア国内にとどまっている住民の大部分(64.7%以上)が、「極度の貧困」生活を送っていると分類され、もっとも基本的な食べ物や衛生上の必要も満たすことができていない。

専門家によれば、だとすれば、子どもたちが主たる稼ぎ手になり、家族の生計を支えるために街頭に出てさまざまな産業に従事することは不思議ではないという。

ヨルダンに逃げたシリア人難民で12才のアフメドは、ユニセフからの聞き取りにこう答えている。「私には家族への責任があります。自分はまだ子どもだと思うし学校にも行きたいけど、家族に食べ物を持ってくるには自分が働くしかありません。」

『小さな手、重い負担:シリア紛争がいかにして子どもたちを労働に追いやっているか』と題された報告書は、推定270万人のシリア人の子どもが学校に通っていない、としている。

教育機会がなく、人道支援の配給も少なくなる中、この子どもたちは、児童労働の真の部隊を構成しているか、あるいは今後そこに加わる危険性がある。

「ヨルダンでは、避難先で働く子どもの大多数が週に6~7日は働いている。3分の1の子どもは1日8時間以上働いている。」「1日あたりの収入は4~7ドルである。」と報告書は述べている。

児童労働の広がりは、教育や認知の発達への後戻りできない阻害であり、人生の後の段階においてよい職に就ける機会を制限するというだけではなく、若い人々の身体をも傷つける。

「セーブ・ザ・チルドレン」は、「ヨルダンのザータリ難民キャンプの労働児童のうち約75%が健康問題を抱え、約40%がけが・病気・不健康を抱え、レバノンのベッカー高原で働く児童の35.8%が、読み書きができなかった」と推定している。

数多くの世帯を飢餓が捉えてしまうようなこうした紛争の状況下では、あらゆる産業がまともなものに見えてしまう。

たとえばベッカー高原では、移住農業動労者にかつて日給10ドルを与えた地主らが、しばしば親と一緒に同じような仕事をしている児童に日給4ドルしか与えていない。

Syrian refugee children learn to survive at a camp in north Lebanon. Credit: Zak Brophy/IPS.
Syrian refugee children learn to survive at a camp in north Lebanon. Credit: Zak Brophy/IPS.

都市の中心部や自動車修理工場、各種作業場、建設現場などが「人気」のある職場だ。10才のシリア人男児が、レバノン中の街で、大工仕事や金属加工、自動車修理などの仕事にフルタイムで従事している。

街頭での労働は子どもたちにとってもっとも危険な職のひとつである。最近、レバノンの2つの主要都市を調査したところでは、1500人以上の児童のストリート労働者がおり、そのうち73%がシリア難民であったという。

子どもたちは、物乞いや行商などで1日平均11ドルを稼ぐ。他方で、売春のような違法行為に従事すれば、小さい子どもでもたった1日の労働で36ドルものお金を手にすることが可能だという。

ユニセフによれば、児童労働の問題は、子どもの人権と教育をシリア危機への人道的対応の中心に置く目的で2013年に立ち上げられた「ロスト・ジェネレーションをなくすキャンペーン」の「達成にとって中心的な課題である」という。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|2015年科学技術会議|核実験探知を極める

【ウィーンIPS=ラメシュ・ジャウラ

ある国際会議が開かれ、核実験の探知、暴風雨や火山灰による雲の追跡、地震の震源の確定、巨大氷山の流れの監視、海洋生物の移動の観察、飛行機の墜落地点の確定能力に関する進展について話し合われた。

6月26日まで5日間にわたって開かれた「2015年科学技術会議」は、オーストリアの首都ウィーンを1997年以来本拠としている包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会が主催している学際的な会議(2年に1度開催)で、今年で5回目となる。

会議には、世界各地の科学者や専門家、政策立案者、国家機関の代表、独立の学術研究機関、市民団体などから、1100人以上が集まった。

「2015年科学技術会議」は、CTBTO監視ネットワークのセンサーが探知した重要な知見に着目した。つまり、2013年にロシア・チェリャビンスク上空で爆発した、少なくともこの100年間で地球に落下した最大の流星のことである。

また、ブルキナファソ・アルジェリア間を飛行予定であったエア・アルジェリア航空機がマリで2014年7月に墜落した際に、墜落地から960キロも離れたコートジボワールにあるCTBTOの監視ステーションで事故が探知されたことも報告された。

「2015年科学技術会議」の重要性は、CTBTOが、いかなる主体であれ、地球上のどこであれ(大気圏、水中、地下)核爆発実験を行うことを違法化する包括的核実験禁止条約(CTBT)を履行させるという任務を持っているという点にある。また、核爆発実験が探知されることなく実施されることがないように信頼のおけるツールを開発するという目的も持っている。

CTBTO

それは例えば、地震、水中音響、超低周波音(低すぎて人間の耳では聞き取れない周波数の音)、放射性核種のセンサーである。会議に参加した科学者や専門家らは、この4つの最先端技術が実際にどのように利用されているのかについて、プレゼンテ―ションやポスター発表で説明した。

170の地震監視ステーションが、主に地震によって引き起こされる地球の衝撃波を探知する。しかし同監視ネットワークは、鉱山爆発や、北朝鮮が2006年、09年、13年に行った核実験のような人為的な爆発も探知する。

CTBTOの11の水中音響監視ステーションは、海洋における音波を「聴く」。爆発による音波は深海でも伝わる。世界中の地表にある60の超低周波音監視ステーションも、巨大な爆発によって引き起こされる極度に低い周波数帯の音を聞き分ける。

CTBTOの80の放射性核種探知局は、大気中の放射性分子を測定する。そのうち40局は、地下核実験の「確証」となりうる希ガスを探知することもできる。この測定結果だけが、他の方法によって探知された爆発が実際に核実験によるものであったかどうかを明確に示すものとなる。

CTBTOの国際監視システム(IMS)は、完成時には337施設となり、地球上で行われる核爆発実験の証拠を監視することになる。

CTBTO国際データセンター(IDC)のW・ランディ・ベル局長によれば、今回の科学技術会議の重要なテーマは、「IMSとIDCを今後維持し活用していく際に益々重要となる活動成果を最適化することにある」という。

この20年間、国際社会はCTBTOの世界的な監視システムに10億ドル以上を投資してきた。データは同機構の加盟国が利用できるが、その用途は核実験の検証目的に限定されていない。全ての監視ステーションは、ウィーンのIDCと衛星回線でつながれている。

CTBTOのトーマス・ミュツェルブルク報道官は、「私たちの監視ステーションは、探知すべき事象が起きた国と同じ国にある必要はありません。実際には、監視ステーションの設置場所からずっと離れたところで起きた事象も探知することができるのです。例えば、北朝鮮の最後の核実験は、遥か遠いペルーでも探知されました。」「条約の183の加盟国は、生のデータと分析結果の両方にアクセスすることができます。各国のデータセンターを通じて、加盟各国はそのデータを分析し、探知された事象の性格についてそれぞれの結論を導き出しているのです。」と語った。パプアニューギニアやアルゼンチンの科学者は、データは「きわめて有益なもの」だと語った。

CTBTOのラッシーナ・ゼルボ事務局長は、『ネイチャー』誌のインタビューに対してデータ共有の重要性を強調して、「自己のデータを他に提供することで、外部の科学者コミュニティとつながり、進展めまぐるしい科学技術の変化に対応していくことができるのです。CTBTOはこれによって組織の存在感を高めるだけではなく、自らも創意工夫することができます。データが別の目的に奉仕しうることが理解できれば、一歩引いてみて、より広い状況に目を向け、どうすれば探知能力を高めることができるかが理解できるようになるのです。」と語った。

ゼルボ事務局長は開会の挨拶のなかで、「私がこの組織に対して情熱を注いでいることを皆さんは何度も聞かされていることと思います。今日私は、情熱を持っているというだけではなく、平和に奉仕する科学への情熱を同じくする皆さんとお会いできて非常に嬉しく思っています。現代の最も優秀な科学者が、核兵器を完璧なものにするために働くのではなく、核実験の探知を完璧なものにするためにこうして集っているということが、まさに子どもたちの将来への希望なのです。」と語った。

また国連の潘基文事務総長は、次のようなメッセージを送って、会議の流れを方向づけた。「CTBTOの強力な検証体制と最先端の技術を考えれば、CTBTの発効をさらに遅らせることは許されません。」

南アフリカ共和国のナレディ・パンドー科学技術相は、「我が国はCTBTOを一貫して支持してきた」と指摘したうえで、「南アフリカ共和国は20年以上にわたってアフリカにおける核不拡散の先頭に立ってきました。私たちは核開発を放棄して1996年にペリンダバ条約に署名しました。これはアフリカに非核地帯を創設したもので、2009年7月にようやく発効しました。」と語った。

参加者は科学者による発表とは別に、パネル討論においてCTBTの監視コミュニティが現在特に関心を寄せている様々なトピックについて話し合った。CTBT発効後に実施される現地査察における科学の役割に言及したものもあった。

この議論は、2014年にヨルダンで行われた「統合現地訓練」(IFE14)の経験から多くを得ている。IDCのベル局長は、「IFE14は、CTBTOの現地査察能力の構築において、これまでで最大かつ最も包括的な訓練だ」と述べた。

参加者はまた、核保安という問題を乗り越える際に最新の技術が果たしうる機会についても話し合う機会を持った。「グローバル安全保障のための技術グループ」(Tech4GS)のメンバーは、「市民のネットワーク:技術革新の将来」というパネル討論でウィリアム・ペリー元米国防長官と議論を行った。

ペリー元長官は、「私たちは核軍拡競争の瀬戸際にいます。」「しかしこの流れを巻き戻せないとは思いません。今はまさにこの動きを止め、反省し、この問題を討論して、『何もしない』ことと『新たな軍拡競争』に替わる第三の選択や代替策がないかどうか考える時期にきています。」

「2015年科学技術会議」の一つのハイライトは、「学術界の関与を通じたCTBTの強化」に焦点を当てたCTBTアカデミックフォーラムであった。フォーラムでは、エミー賞受賞プロデューサーでドキュメンタリーやネットワークニュースの監督でもあるボブ・フライ氏が、核実験と大量破壊兵器である核兵器のない世界をもたらす「次世代の批判的なものの見方をする人々」を育成していく必要を強調した。

William Perry speaking during the Tech4GS panel/ CTBTO

フォーラムでは、オーストリア、カナダ、中国、コスタリカ、パキスタン、ロシアの教師や教授の観点から、印象的なCTBTのオンライン教材やCTBTに関する教育の経験についての意見が交わされた。

科学と政策の橋渡しとなることを見据えて、フォーラムでは、専門家を招いて、「政策決定者に対する技術教育と科学者に対する政策教育」について話し合われた。参加したのは、レベッカ・ジョンソン氏(アクロニム軍縮外交研究所)、ニコライ・ソコフ氏(ジェイムズ・マーチン不拡散研究センター)、フェレンス・ダルノキ-ベレス氏(ミドルベリー国際問題研究所)、エドワード・イフト氏(ジョージタウン大学安全保障研究センター)、マット・エドリン氏(ブリティシュ・コロンビア大学科学学部)などである。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

CTBTの技術的問題を外交官やその他の政策決定者の訓練と統合し、CTBTや広範な核不拡散・軍縮に関する政策的問題に対する意識を科学者の間で高める必要性について広く合意がなされた。

他方で、ジャン・ドゥペレス氏(CTBTO渉外・議定書・国際協力担当)、ピース・コードン氏(米国科学発展協会)、トーマス・ブレイク氏(ダブリン先進科学研究所)、ジェニファー・マックビー氏(米国科学者連盟)がパネリストとなった別の討論では、学者の間の、さらには学者を超える新たなつながりを生み出し、市民社会と若者、メディアを効果的につなげることを視野に入れて、さらに先を見据える議論があった。

あるパネリストは、「進歩は漸進的なものです。しかし、進歩は自動的に訪れるものではありません。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

世界の核大国なら国連安保理の決議を妨害したり国連総会による非難を避けたりすることができるかもしれないが、重要な国際的監視機関である包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)からの監視の目を免れることはできない。

文字どおり、その監視ネットワークは秘密の核実験を探り当てるために耳を澄ましている。また、地震や火山の噴火をほぼリアルタイムで探知し、大規模な暴風雨や氷山の崩壊を追跡している。

そしてそのネットワークは眠らない。供用開始以来18年、主に地上・地下の核実験を探知するために24時間の監視を続けているのだ。

CTBTOの監視網は、世界中の大気圏・水上・地下で行われる核爆発実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)への違反を予防する手段である。

「CTBTOの国際監視システムは、創設者が予想していたよりも遥かに多くの任務を抱えることになりました。つまり、現在および将来の地球の様子を監視するという任務です。地球の異常を見、聴き、感じ、嗅ぐ巨大な聴診器にこの監視システムをなぞらえる人もいます。」とラッシーナ・ゼルボCTBTO事務局長はIPSの取材に対して語った。

それは、人間が聞くことのできない大気圏の放射性物質と音波を探知する世界唯一のネットワークであるという。

この監視システムには現在300の拠点があり、その一部は、地上・海上の遠隔地にある。

監視網は、地震(地球の衝撃波)、水中音響(水を通じて音を測定する)、超低周波音、放射性核種の4種類のデータをとらえる。ネットワークは現在9割が完成している。

IMS/ CTBTO
IMS/ CTBTO

この監視システムが完成した暁には、地球の隅々まで効率的に監視する337の拠点ができることになる。

「CTBTは、まだ発効していないうちから命を救っています。」と国連の潘基文事務総長は言う。

現在、この監視ネットワークは毎日15ギガバイトのデータを収集し、オーストリアのウィーンにあるCTBTOのデータ分析センターにリアルタイムで送っている。

そこから、毎日の分析レポートが183の加盟国に送られて、それぞれの利用や分析に供される。

地球を見、聴き、嗅ぐこの普遍的な監視システムの運用がCTBTOの任務である。

CTBTOは2年に一度、科学・技術に関する会議を開いているが、今年の会議は6月22日から26日にオーストリアの首都ウィーンのホーブルク宮殿で開催された。

CTBTOの監視ネットワークは驚異的な成果を残している。2013年2月12日、94の地震監視局と2つの超低周波音監視局が、北朝鮮による核実験実施の発表から1時間以上も前に、核爆発を探知し、条約加盟国に通知していたのである。

その3日後の2月15日、CTBTOの超低周波音監視局が、大気圏に突入しロシア・チェリャビンスクの上空で分解した流星からのシグナルを探知した。

超低周波音を探知できる世界で唯一のシステムだと言われるCTBTOの監視ネットワークは、その際、爆発する火球によって引き起こされた衝撃波を記録した。

このデータによって、科学者らは、流星の位置を把握し、エネルギーの放出や緯度、大きさを測定することができた。

そしてこの監視システムの大気サンプリングは、2011年3月の福島第一原発事故で放出された目に見えない放射性物質のプルーム(汚染源から立ち上る汚染物質)が世界中に拡散する様子をとらえた

それによれば、日本国外での放射性物質は害を与えるレベルよりも下であった。CTBTOによれば、この情報によって、世界各国の安全当局がどのような方針を採ればよいのか決めることができたという。

またこの監視ネットワークによって、大地震の後に各地の津波センターがリアルタイムで早期警戒を発することができる。さらには、より正確な気象予報のための気象モデルを改善し、火山爆発に関する知見をもたらしている。

加えて、害を及ぼす火山からの塵に関する警告をリアルタイムでパイロットに発するために民間航空当局が利用する警戒情報を発し、気候変動に関するより正確な情報を出し、地球の核の構造に関する理解を増進し、気候変動が海洋生物の移動習性に及ぼす効果を追っている。

データにアクセスするために、CTBTOはヴァーチャル・データ利用センターをつくり、さまざまな分野の科学者や研究者に研究のためのデータを提供し、新たな知見を導く手助けをしている。

好意的な意見が多くの学者からは寄せられている。

「国際監視システムは、地球の核、大気、海洋、環境を監視する素晴らしいツールです。」と語るのは、カリフォルニア大学バークレー校のレイモンド・ジーンロズ教授(地球物理学・天文学)である。

ハーバード大学地球惑星科学部の石井水晶教授は「私たちは、CTBTOのデータによって、そこで何が起こっているのか、地球の歴史がどう進化してきたのかといった地球内部の奥深くを観察することができます。」と語った。

CTBTO国際データセンターのランディ・ベル局長は、「グローバルなデータは、数十年単位に及び、高品質で精度も高いので、極めて貴重なものです。データは、地方、地域、全世界的な出来事を分析するのに利用できます。」と語った。

ランディ局長は、自身の第一の任務は核実験を探知することであるとしつつも、「データを科学のためにも利用することで、データ利用を求める専門家が増えています。」と語った。

「自分にとってはノイズとしか見えないものが、他人にとってはシグナルになるかもしれないのです。」とランディ局長は指摘した。

他方、CTBTO国際データセンターは、厳格な基準を満たす出来事を把握するために、一日に3万回以上の地震のシグナルを分析している。

CTBTOは、多くの国がそれぞれの地震監視システムを備えているが、CTBTOのそれは「グローバルで、恒久的なもので、精度が高く、データが平等に利用できる特徴がある」としている。

その地震ネットワークは、サブサハラアフリカ、東部・南部アフリカ、インドネシア、南極にまで広がった超低周波音の監視ネットワークとなっている。

CTBTOはまた、世界で最も遠隔地にある海洋で、アンデス山脈や太平洋北部周辺で起こった地震を探知する地下監視ポストのネットワークを持っている。

そのデータは、インド洋におけるクジラの特定の種の移動習性を追うために使われてもいる。

「世界の国々がこの『世界の耳』を作るために10億ドルを投資してきました。」とゼルボ事務局長は語った。

「国際社会は、核実験禁止条約への違反を探知するという元々の目的のためにこの監視システムが使わなくても済むように願いつつ、このシステムへの投資を続けています。データが民間や科学目的に転用されることは、世界が今すぐに手にできる見返りであり、ひるがえって、核実験禁止条約への支持を増やすことにもつながるのです。」

「科学者らや諸組織によるデータ利用が増えるにつれ、その価値はより明白になってきています。」とゼルボ事務局長は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【国連IPS=カニャ・ダルメイダ】

今年1月時点で22万人の命を奪い84万人を傷つけた紛争では、時として死者統計以上のことを見ることが困難である。

シリア内戦は、民主派の活動家とバシャール・アサド大統領下の堅固な独裁制との間の対立として始まったが、現在は世界で最も厳しい紛争のひとつとなった。4つの別個の武装集団がこれに加わり、地域のその他の国々も巻き込んでいる。

数百万人が飢餓の危機にあり、シリア難民の数はいまやパレスチナ難民に続いて世界で2番目に多くなっている。こうした中、これまではあまり知られてこなかった戦争関連の惨状が、新聞の見出しに競って現れてきている。

7月2日、国際連合児童基金(ユニセフ)と「セーブ・ザ・チルドレン」は共同で、シリア危機の隠された一面、すなわち、地域における児童労働の拡大に関する報告書を発表した。

ヨルダンの首都アンマンで発表されたプレスリリースでユニセフは、「シリアの子どもたちは、世界が紛争を終わらせることができないために多大の犠牲を払わされている。」と述べた。

「この報告書は、シリアの子どもたちが、調査した世帯の4分の3以上において家計に貢献していることを明らかにした。ヨルダンでは、すべてのシリア人の難民児童の半数近くが共同あるいは単独で家族の稼ぎ手となっており、レバノンの一部では、たった6才の子どもが働いているという」。

「すべての労働児童のうちもっとも脆弱な子どもたちは、武力紛争や性的搾取、集団での物乞いや児童人身売買のような違法行為に関わっている子どもたちである」とプレスリリースは述べている。

ユニセフのデータによると、紛争が勃発する4年前以前には、シリアは中所得国であった。民衆は通常の生活水準を享受し、識字率は9割を誇っていた。

しかし、今年半ばまでには、シリア国民の5人に4人が貧困線以下の暮らしをしており、760万人が国内避難民と分類されている。

すべての都市や町から住民がいなくなり、経済活動が崩壊して、失業率は2011年の14.9%から今年は57.7%まで急上昇した。

国連難民機関は、約330万人が国外に逃亡し、近隣諸国の難民キャンプや一時的なシェルターで暮らしていると推計している。女性と子どもが難民の半分以上を占める。

シリア国内にとどまっている住民の大部分(64.7%以上)が、「極度の貧困」生活を送っていると分類され、もっとも基本的な食べ物や衛生上の必要も満たすことができていない。

専門家によれば、だとすれば、子どもたちが主たる稼ぎ手になり、家族の生計を支えるために街頭に出てさまざまな産業に従事することは不思議ではないという。

ヨルダンに逃げたシリア人難民で12才のアフメドは、ユニセフからの聞き取りにこう答えている。「私には家族への責任があります。自分はまだ子どもだと思うし学校にも行きたいけど、家族に食べ物を持ってくるには自分が働くしかありません。」

『小さな手、重い負担:シリア紛争がいかにして子どもたちを労働に追いやっているか』と題された報告書は、推定270万人のシリア人の子どもが学校に通っていない、としている。

教育機会がなく、人道支援の配給も少なくなる中、この子どもたちは、児童労働の真の部隊を構成しているか、あるいは今後そこに加わる危険性がある。

「ヨルダンでは、避難先で働く子どもの大多数が週に6~7日は働いている。3分の1の子どもは1日8時間以上働いている。」「1日あたりの収入は4~7ドルである。」と報告書は述べている。

児童労働の広がりは、教育や認知の発達への後戻りできない阻害であり、人生の後の段階においてよい職に就ける機会を制限するというだけではなく、若い人々の身体をも傷つける。

「セーブ・ザ・チルドレン」は、「ヨルダンのザータリ難民キャンプの労働児童のうち約75%が健康問題を抱え、約40%がけが・病気・不健康を抱え、レバノンのベッカー高原で働く児童の35.8%が、読み書きができなかった」と推定している。

数多くの世帯を飢餓が捉えてしまうようなこうした紛争の状況下では、あらゆる産業がまともなものに見えてしまう。

たとえばベッカー高原では、移住農業動労者にかつて日給10ドルを与えた地主らが、しばしば親と一緒に同じような仕事をしている児童に日給4ドルしか与えていない。

Syrian refugee children learn to survive at a camp in north Lebanon. Credit: Zak Brophy/IPS.

都市の中心部や自動車修理工場、各種作業場、建設現場などが「人気」のある職場だ。10才のシリア人男児が、レバノン中の街で、大工仕事や金属加工、自動車修理などの仕事にフルタイムで従事している。

街頭での労働は子どもたちにとってもっとも危険な職のひとつである。最近、レバノンの2つの主要都市を調査したところでは、1500人以上の児童のストリート労働者がおり、そのうち73%がシリア難民であったという。

子どもたちは、物乞いや行商などで1日平均11ドルを稼ぐ。他方で、売春のような違法行為に従事すれば、小さい子どもでもたった1日の労働で36ドルものお金を手にすることが可能だという。

ユニセフによれば、児童労働の問題は、子どもの人権と教育をシリア危機への人道的対応の中心に置く目的で2013年に立ち上げられた「ロスト・ジェネレーションをなくすキャンペーン」の「達成にとって中心的な課題である」という。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【国連IPS=バレンティーナ・イエリ】

社会的・宗教的不寛容、紛争、暴力的な過激主義、環境破壊が益々正義と平和を脅かしている世界において、国連が世界秩序を保ち持続可能な開発を推進する方策を見いだそうとしている。

今年、今後15年間の開発目標(SDGs)を設定する「ポスト2015開発アジェンダの策定」は、世界各地で持続可能な開発を実現するためのターニング・ポイントになるだろう。

21世紀の難題に対する解決策を見つけるには、普遍的、包括的、変革的なパラダイムを創り出さねばならない。このパラダイムへのカギを握るのが、世界市民教育である。

Global Education First Initiative
Global Education First Initiative

国連の潘基文事務総長が、世界市民教育を主要原則の一つに掲げた「グローバル・エデュケーション・ファースト・イニシアチブ(GEFI)」を2012年に立ち上げて以来、教育の役割が非常に強調されてきた。

今年、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)で世界市民教育に関する政策を概念化し実行する必要性に関する決議が採択され、5月19日~22日に韓国の仁川(インチョン)で開催された「世界教育フォーラム」で「教育の未来に関するインチョン宣言」が採択されて以降、世界市民教育に関して多くの措置が実施されてきた。

次のステップは、9月の国連総会でSDGsが採択される際に教育関連目標の中に世界市民教育を入れ込むことだと活動家らは言う。

6月15日、韓国の国連代表部が、米国、フランス、ナイジェリア、カタールの国連代表部、欧州の2600以上のNGO連合体である「コンコルド」のような市民団体や、1200万人の会員を擁する創価学会インタナショナル(SGI)、インター・プレス・サービス(IPS)と協力して、世界市民教育概念に対する意識を高めるためのセミナーを開催した。(セミナーの模様は下のバナーをクリックして見ることができます。)

韓国のハン ジョンヒ国連代表部次席大使がIPSのインタビューに答え、世界市民教育と、平和な世界をつくりだす上での同概念の意義について語った。

Q:世界市民教育とは何でしょうか?

A:一般的に言って、教育は機能的な面から定義されます。学校へのアクセスとか、職業準備における教育の質とかいったことです。しかし、世界市民教育の新しい枠組みは、教育の方向性に関するものです。

世界市民教育が推進すべき3つの主要な側面があります。第一に「存在している感覚」。早い段階から、どのような市民になるべきかを生徒に教えていくのです。子どもたちは、気候変動や不寛容、暴力的過激主義といった将来の問題に関する感覚を養うべきなのです。

Wikimedia Commons
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第二に「世界市民になる責任と特権の感覚」。世界市民教育は、基本的な人権の価値、尊厳、民主主義の真の意味を理解することによって、多文化的な多様性と相互の尊重を含むものです。

第三に「同情と共感」。世界市民教育の革命的な側面は、教育の次の段階への移行、あるいは職業探究ということではなくて、教育に対して全体的なアプローチを行う点にあります。これは、私たちの世紀の複雑な問題に対処するための最適なアプローチです。

世界市民教育のもう一つの重要な概念は、包摂性です。

憎悪と暴力は、孤立の感覚やつながりの欠如に由来します。包摂性を教えるとは、異なった社会的、政治的、経済的側面を受け入れるということです。こうして、人間は尊重されていると感じ、社会において能動的な役割を果たすことができるのです。

Q:なぜ韓国が世界市民教育を主導しているのですか?

A:この数十年で韓国が急速な発展を経験してきたからです。韓国の歴史を振り返ってみると、ひどい貧困の歴史がありました。しかし、教育に投資し、民主的価値を推進することを通じて、発展を達成したのです。

今日の韓国は、人権の尊重に基礎を置く多文化、多民族、多宗教な社会です。キリスト教徒、イスラム教徒、儒教徒、仏教徒が隣り合って生活しています。韓国は、教育と寛容、平和の積極的な例なのです。一つのロール・モデルとして、私たちは、偏見や先入観なく、世界市民教育に貢献し、意識を喚起したいのです。

Q:なぜ世界市民教育を国連のポスト2015年開発アジェンダに持ち込んだのですか?

A:国連がいかにして、そしてなぜ新しい「持続可能な開発目標」(SDGs)を追求しているのか今こそ考えてみるべきでしょう。国連がまず優先すべきは、正義や繁栄に加えて、人間とこの地球の尊重でしょう。これらは、価値重視の目標であり目的です。国連のアジェンダは、「平和と安全」、「持続可能な開発」、「人権」という三本柱を基盤としています。これらの問題はすべて教育と結びあわされており、世界市民教育は、寛容と責任を促進することによって「平和と安全」の、包摂性と公正を通じて「持続可能な開発」の、そして、人間であることの特権と民主的価値を理解することを通じて「人権」の、それぞれ解決策となるのです。

Q:世界市民教育の方法論について教えてください。

A:世界市民教育は、複数のステークホールダー(利害関係者)の参加を基盤としていなくてはなりません。つまり、教師や学生だけではなく、世界中の社会・経済・文化の専門家、NGO、若者グループなどの参加が必要です。

世界市民教育は、教科書ではなくひとつの方法論的なパラダイムに則って行われるべきもので、教室の全ての生徒による討論と参加を基礎とすべきものです。新たなAV機器を利用した方法論や、参加型の討論、フィールドワークや交換プログラムもいいでしょう。教室を再活性化し、平和と安全に実質的に貢献する新しいシステムが必要です。

世界市民教育は、「啓蒙と西洋の」価値のパラダイムを繰り返すものではありません。逆に、包摂性を強調することによって、先進国と途上国との間の最大公約数を見つけようとするものです。

しかし、多くの子どもたちがいまだに学校に行けない現状を考えると、世界市民教育には、予算と、その実行のための具体的な方法が必要です。世界市民教育はまた、参加型で、成果を共有するようなものでなくてはなりません。

そうするためには、民間部門の協力も得ながら、地球上のどんな遠い場所においても、インターネットやコンピューター、携帯電話の利用を通じたICTを発展させることが重要です。例えば韓国では、サムソンのような民間企業といくつかの教育プロジェクトを進めています。

Q:世界市民教育が直面する主な課題は何でしょうか。

A:残念なことに、資金の調達に依然として難があり、国ごとの不平等が大きいのです。

最近、教育のためのグローバル基金が提案されましたが、開発や「グリーン気候基金」のような他の多くの基金の例に見られるように、これは容易なことではありません。

すべての子どもを学校に送るために途上国を支援することを目指した既存の世界的基金として、「教育のためのグローバル・パートナーシップ」があります。

しかし、より多くの資金、改善された能力開発、途上国で利用するより多くのICT機器などが必要です。

もう一つの問題は、多くの国の政策において、教育が依然として最重要課題とみなされていないことです。これは本当に問題です。それぞれの国が教育に十分な投資をしないかぎり、世界市民教育は達成できません。従って、倫理的な「企業の社会的責任」(CSR)を発展させるうえで、民間部門の協力は欠かせないのです。(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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