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|国連|戦後最悪の難民危機に直面する中で「世界人道デー」を記念

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連は、今年の「世界人道デー」(8月19日)にあわせて、ニューヨーク・神戸等で開催される関連行事と並んで、世界各地の紛争や災害を生き延びた人々の「感動的な」ストーリーを、ソーシャルメディアを通じて拡散していくオンラインキャンペーン「ヒューマニティ:あなたを動かすチカラ#ShareHumanity)を立ち上げた。

このキャンペーンは、著名人を含むフェイスブック、ツイッター、インスタグラムのユーザーに、投稿スペースを寄付してもらい、世界が直面している深刻な人道状況とともに、そこに生きる人々のたくましさと希望を広く伝えていくことを目的としている。

U.N. spokesperson Stephane Dujarric/ UN Photo
U.N. spokesperson Stephane Dujarric/ UN Photo

国連のステファンドゥジャリク報道官は、「私たちは、国連が創設されて以来、最も人道支援を必要とする歴史的瞬間に生きています。」と指摘したうえで、「私は(報道官として)日常的に、人道支援を必要とする人々について、数を挙げて話をせざるを得ないのですが、1万人、5万人という数字は実に感覚を麻痺させてしまいます。」と嘆いた。

国連の統計によると、人道支援を必要とする人々の数は極めて憂慮すべきレベルに達している。今日トルコ、イラク、レバノンに在住するシリア難民の数は4000万人を超えている。一方、この中には故郷の戦乱を逃れて海路欧州への密航を試み、その途上で命を落としている毎週数百人に及ぶ難民の数は含まれていない。

さらに厄介なのは、少なくともさらに760万人もの人々がシリア国内で難民となっており、全員が人道支援を必要としていることである。シリアでは内戦が勃発して今年で5年目となるが、これまでに22万人を超える市民が軍事衝突に巻き込まれて命を失っている。

国連のスティーブ・オブライエン緊急援助調整官(人道問題担当事務次長)は、「世界では避難を余儀なくされた人々の数が6000万人近くに達しており、私たちは深刻な危機に直面しています。」「私たちは、お互いを大切にする責任をもっと培い、地球市民という共通の思いを実現していかなくてはなりません。」と指摘したうえで、世界各地のソーシャルネットワークのユーザーに対して「声無き人々の代弁者となって欲しい。」と訴えた。

Stephen O’Brien/ youtube

8月上旬、オブライエン事務次長は、ドナーからの援助が行きわたらない資金不足の人道状況に対応するため、国連中央緊急対応基金(CERF)から7000万ドルの資金を放出する決定を行った。

シリア、アフガニスタン、イエメン以外でも、スーダン、南スーダン、アフリカの角(ソマリア・ジブチ・エチオピア)、チャド、中央アフリカ共和国、ミャンマー、バングラデシュといった国々で人道危機が進行している。

オックスファムのノア・ゴットシャルク人道対応上級政策アドバイザーはIPSの取材に対して、「数十年前に創設された国際人道支援システムは、これまでに無数の人々の命を救ってきました。しかし、国際社会が、シリア内戦のような長期化する危機が世界各地で進行している状況に対応を迫られているなかで、自然災害が規模と頻度の双方においてますます増加する傾向にあります。こうした事態に、従来の人道支援システムは十分対応しきれておらず予算不足も深刻な状況にあります。」と語った。

ゴットシャルク氏は、「一部のドナー国は人道支援に対する資金拠出に寛大であり、私たちはこの不可欠な支援を高く評価していますが、一方で現在の財政規模では高まり続ける人道支援のニーズに十分追いついていないのが現実です。」と指摘したうえで、「国連と現在の人道支援システムは、現地で人道支援活動に携わるリーダーや人々のキャパシティビルディング、さらにはコミュニティーによる減災活動を支援するプロジェクトに資金拠出をすることにより、より効率的で現地のニーズに的確に対応できる体制へと改善する必要があります。」語った。

一方、国連は、今回新たに立ち上げたオンラインキャンペーン「ヒューマニティ:あなたを動かすチカラ(#ShareHumanity)を通じて、来年5月にトルコのイスタンブールで開催を予定している史上初の「世界人道サミット」の開催に向けて国際社会の機運を高めていきたいと考えている。

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、8月19日に始まった今年の「世界人道デー」キャンペーンは、援助コミュニティーが、自然災害、紛争、病気に冒された数百万人の人々を救済する能力をはるかに上回る人道支援ニーズが存在する今日の世界の現実を反映したものである。

ゴットシャルク氏はIPSの取材に対して、「世界人道デーは、世界各地で、想像を超える困難な環境にある人々の命を救うために日々献身的に取り組んでいる勇気ある男女に敬意を払う重要な機会です。」「危機的な状況が発生した際、しばしば真っ先に行動を起こすのが現地の人道支援活動家です。しかしこうした男女の貢献が国際社会に認められることは稀ですし、最も深刻な点は、彼らがリーダーシップを発揮して危機に対処できるような支援がなされていない現実です。」と語った。

オックスファムは、人道支援活動に対する資金財源をより安定的かつ堅固なものとするために、国連加盟国に対して人道的対応のための拠出金を義務付けるよう強く働きかけている。

「より多くの人道支援資金が実際の活動が行われている現場に直接流れるようにすべきです。また、ドナーが支援活動のインパクトを追跡評価でき、対象のコミュニティーが援助の流れを把握し地域のリーダーに説明責任を要求できるよう、資金支援の中身について透明性を高めていくべきです。」とゴットシャルク氏は指摘した。

Noah Gottschalk/ Oxfam International

ゴットシャルク氏はまた、「今日世界では、数百万人もの人々が人道支援システムに依存しており、その存続は、人道支援へのニーズの高まりに反して活動資金が減少する厳しい状況のなかで慈愛の精神からこのシステムをなんとか機能させようと献身的に奮闘している人々によって支えられています。」「改革が実現すれば、人道支援システムをより効率化し、こうした人道支援要員が厳しい状況におかれている人々の命を救い、その苦しみを和らげる活動をより後押しすることができるでしょう。」と語った。

ジュネーブに本部を置く世界保健機構(WHO)によると、現在進行している軍事紛争によって多くの医療従事者が命を落としてという。

WHOは、2014年だけでも、32か国において372件の医療従事者を狙った襲撃事件が勃発し603人が死亡、958人が負傷しており、今年になっても同様の事件が報告されている、と発表している。

「WHOは危機に際して人々の生命を救い苦しみを和らげる活動に従事しています。医療従事者や医療施設に対する攻撃は言語道断の国際人権法違反です。」とマーガレット・チャンWHO事務局長は「世界人道デー」を記念して発表した声明の中で語った。

チャン事務局長はまた、「医療従事者はあらゆる患者や負傷者を分け隔てなく治療する義務があります。すべての紛争当事者はこうした医療従事者の義務を尊重しなければなりません。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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開発への資金調達、社会事業の推進を国連が民間部門に要請

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連が開発ニーズや社会事業の推進に対する財政支援を外部に求める際、最近では例外なく民間部門に目を向けるようになってきている。

おそらく、そのなかで最大の要求は、気候変動の破滅的な影響に対処するために年間で1000億ドルの投資を民間に求めた潘基文国連事務総長の要請であろう。

しかし、協力を決定する前に、人権や公正な賃金、児童労働、環境問題への対応などの点で、これらの企業が信頼に値するのかをよく検討してみるべきだとの批判が出ている。

それでもなお、国連環境計画(UNDP)は、2009年から13年にかけて、水やエネルギー、保健、農業、金融、情報技術に関連したプロジェクトの一部に関して、小規模ながら企業部門からより1億3500万ドルを受け取っている。

南アフリカ共和国の「メディクレーブ」社は、伝染病対処のために使用された注射器や個人の保護服・手袋などの使用済み医療機器や廃棄物の汚染を除去する殺菌器材を提供した。

リベリアでは、日本企業のパナソニックがエボラ出血熱対策として国連開発計画に対して寄贈した太陽光ランタンの第一弾(240個)が首都モンロビアの医療関係者に配布され、夜間の医療従事が可能となった。

UNDP and Panasonic bring light to vulnerable communities/ UNDP

国連環境計画はガーナの自動車ディーラー「スバニ・グループ」と協力関係を結んで、ギニア、リベリア、シエラレオネ、ガーナにおける国連エボラ緊急対応ミッション(UNMEER)に派遣される装甲車8台を提供してもらった。

さらに最近では、国連広報局主導で作られた「国連アカデミック・インパクト」(UNAI)がユナイテッド・カラーズ・オブ・ベネトングループの「アンヘイト(憎しみ反対)基金」と協力して、世界中の大学、若い教師や学生を対象に、(人種的不寛容や外国人排斥などの)世界の問題を解決してより良い世界にしたいという積極的な思いや社会貢献を目的にしたプロジェクトを募集するダイバーシティー・コンテスト (多様性コンテスト)を実施している。

コンテストには31か国から100件以上の応募があり、主に不寛容や人種差別、過激主義などの幅広い問題に対応するための革新的な考え方や解決策がもたらされている。

審査員が10組の受賞者を選び、イタリアの世界的ファッションブランドであるベネトンから、それぞれに2万ユーロが授与された。

ベネトンはまた「国連ウィメン」とも組んで、世界中のジェンダー暴力をなくす集中的なキャンペーンを張っている。

UN WOMEN
UN WOMEN

「国連ウィメン」の広報・政策提言担当ナネット・ブラウン氏は、IPSの取材に対して「ベネトンの『アンヘイト基金』は、広告とソーシャルメディアのキャンペーンを通じてこの2年で女性に対する暴力を終わらせるための提言活動を支援してきました。」「パートナーシップと協力を将来的に拡大したいと考えています。」と語った。

ベネトングループ(ミラノ)の「企業の社会的責任」部門のトップであるマリアローザ・クッティロ氏は、同社がこうした国連の活動を強力に支援している理由について、「(国連の活動は)あらゆる形態の不寛容や差別に対する闘いなど、社会的問題に関して、しばしば挑発的かつ非常に進歩的な形で先頭に立ち続けてきた我が社のDNAと不可分のものと考えているからです。」と語った。

ブラウン氏はまた、「こうしたアプローチは社会的なプロジェクトや広報キャンペーンを通じて形成され、「アンヘイト基金」の設立という形に変換されました。」と語った。

2011年以来、ベネトン社の一翼を形成することになった同基金は、すべての形態のヘイト(憎しみ)と闘う社会プログラムを推進すると同時に、若者のリーダーシップを支援する試みも行ってきた。

「若者は、とりわけポスト2015年のアジェンダの達成において、違いを生み出すことができると考えています。しかし、若者の声を聴くだけでは不十分です。変化を生み出すツールをこうした新しい世代に提供することが重要です。」

UNAIや国連広報局と協力して実施された「アンヘイトニュースキャンペーン」によって、「若者を活性化し、人権や開発に関してプロジェクトを具体的に立ち上げる可能性を提供してきました。」

クッティロ氏はまた、「『アンヘイト基金』によって推進された若者への支援と活性化のもう一つの顕著な成功例は、『今年の失業者』イニチアチブであり、同基金はこれを通じて、2012年に、世界中の若者から応募され実行された100件のプロジェクトと初期的な計画に対して財政支援を行った。」

「今年の失業者」は、失業問題に対処する新たなスマートな方法を生み出す創意や創造性、能力を称賛するイニシアチブである。

FABRICA in collaboration with 72andSunny/ UnHate Foundation

一般的に、「人間を私たちの活動の中心に置くことが、ベネトングループの持続可能性戦略の主要な点の一つであり、『アンヘイト基金』はその一つの構成要素と言えます。」とクッティロ氏は語った。

「これこそが、新しい世代を活性化し、彼らが変化の指導者となる手段を与えることによって、革新的な形で機能しうる官民パートナーシップの一例と言えるでしょう。」と、クッティロ氏は語った。

国連が支援するイベントに今後関与する可能性についてクッティロ氏は、「UNAI/国連広報局とともに、今後の事業に協力する可能性を現在探っているところです。」と語った。

クッティロ氏はまた、「ベネトンは、国連とは様々な形で20年にわたる協力の実績があります。これまでにもまして、現在の持続可能性戦略への利害関係者の関与という枠組みの中で、国連が最も重要なパートナーの一つと考えています。」と指摘したうえで、「国連諸機関とのパートナーシップは、『それぞれの役割における相互の成長プロセス』であり、その中で、革新的なアプローチと真の具体的な影響をもたらしうるパートナーシップを形成することで、国連の持続的可能開発目標(SDGs)の達成に現実の寄与できるものと考えています。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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広島・長崎の原爆被害を学ぶ

【東京IDN=浅霧勝浩】

国連の潘基文事務総長は8月6日、広島への原爆投下70年を記念する平和記念式典に寄せたメッセージで、「核兵器を廃絶するための緊急の行動」を呼び掛け、核攻撃を生き延びた人々の悲願に賛同の意を表明した。

潘事務総長はまた、原爆使用への国際社会の懸念を反映した国連総会の初決議を引用しつつ「核兵器なき世界というビジョン」を実現することによって、広島・長崎の被爆者に敬意を払うよう、国際社会に強く要請した。

潘事務総長は、第二次世界大戦末期の1945年8月6日と9日に、米国が広島と長崎に原爆を投下したことを想起した。2つの都市は破壊され、20万を超える人々が核爆発に伴う放射線や爆風、熱線の影響で亡くなった。また戦争終結以来、40万を超える人々が原爆の後遺症によって命を失っている。

広島の松井一實市長と長崎の田上富久市長も、潘事務総長と見解を同じくしている。両市長は、70年前に起こった出来事の記憶を若い世代が継承していってくれることを切望している。

また、核保有国が全ての核兵器を放棄し、原爆による大惨事を経験した唯一の国である日本が、核保有国と非核保有国の間の橋渡し役として行動していくことを期待している。

田上市長は、8月9日に発表した平和宣言の中で、「戦後に生まれた世代が国民の多くを占めるようになり、戦争の記憶が私たちの社会から急速に失われつつあります。」と指摘したうえで、「長崎や広島の被爆体験だけでなく、東京をはじめ多くの街を破壊した空襲、沖縄戦、そしてアジアの多くの人々を苦しめた悲惨な戦争の記憶を忘れてはなりません。」と述べた。

そして、原爆や戦争を体験した日本や世界の人々に対して、記憶を風化させないためにも、その経験を語っていくよう呼びかけた。

そして若い世代に対しては、「若い世代の皆さん、過去の話だと切り捨てずに、未来のあなたの身に起こるかもしれない話だからこそ伝えようとする、平和への思いをしっかりと受け止めてください。」と呼びかけた。

また、「戦争の話に耳を傾け、核兵器廃絶の署名に賛同し、原爆展に足を運ぶといった一人ひとりの活動も、集まれば大きな力になります。」と述べた。

8月9日の長崎平和宣言は、若者が果たす重要な役割にも焦点を当てた。「長崎では、被爆二世、三世をはじめ、次の世代が思いを受け継ぎ、動き始めています。/私たち一人ひとりの力こそが、戦争と核兵器のない世界を実現する最大の力です。市民社会の力は、政府を動かし、世界を動かす力なのです。」

ヒバクシャ」というのは「核爆発によって影響を受けた人々」、原爆を生き延びた人々を示す日本語である。

3月の時点で、日本政府は18万3519人を被爆者として認定している。大部分が日本居住者だ。日本の被爆者援護法は、被爆者を、「(原爆投下時に)爆心地から数キロ以内にいた人びと、原爆投下から2週間以内に2キロ以内に入った人びと、降下した放射性物質にさらされた人びと、これらいずれかのカテゴリーに入る妊婦の子として産まれた人びと」と定義している。

松井市長は被爆者の置かれた状況を表現して「辛うじて生き延びた人々も人生を大きく歪められ、深刻な心身の後遺症や差別・偏見に苦しめられてきました。生きるために盗みと喧嘩を繰り返した子どもたち、幼くして原爆孤児となり今も一人で暮らす男性、被爆が分かり離婚させられた女性など―苦しみは続いたのです。」と述べた。

1945年8月 広島・長崎の原子爆弾/ Wikimedia Commons

自国中心の思考に囚われる

こうしたことを背景に、広島・長崎の両市長は、大量破壊の道具である全ての核兵器を廃絶するよう訴えた。

松井市長は、世界にいまだに1万5000発を超える核兵器が存在する中、核保有国等の為政者は、「自国中心的な考えに陥ったまま、核による威嚇にこだわる言動を繰り返しています。」と指摘した。

こうした態度は、国際社会が「核戦争や核爆発に至りかねない数多くの事件や事故がこれまでにあった」ことを認識しているにも関わらず、依然として続いている。また、テロリストによる使用も懸念されている。

「核兵器が存在する限り、いつ誰が被爆者になるか分かりません。」と松井市長は警告する。ひとたび発生した被害は国境を越え無差別に広がる。松井市長は、「世界中の皆さん、被爆者の言葉とヒロシマの心をしっかり受け止め、自らの問題として真剣に考えてください。」と訴えた。

加盟都市が6700を超えた平和首長会議の会長でもある松井市長は「2020年までの核兵器廃絶と核兵器禁止条約の交渉開始に向けた世界的な流れを加速させるために、強い決意を持って全力で取り組みます。」と宣言した。

これは、核兵器廃絶に向けた最初のステップである。次のステップは、軍事力に依存するのではなく、相互理解に基づいた幅広い安全保障の仕組みを創ることだ。

「その実現に忍耐強く取り組むことが重要であり、日本国憲法の平和主義が示す真の平和への道筋を世界へ広めることが求められます。」と松井市長は述べた。

松井市長は日本政府に対して、「核保有国と非核保有国の橋渡し役として、議論の開始を主導するよう」求めるとともに、広島をそうした議論と発信の場とすることを提案している。

未来を見据えて

Nuclear threats from Israel and Iran have triggered a potential competitor in Saudi Arabia. Credit: U.S. Air Force
Nuclear threats from Israel and Iran have triggered a potential competitor in Saudi Arabia. Credit: U.S. Air Force

田上市長は、日本政府・国会に対して、未来を見据えて、「核の傘」から「非核の傘」へと転換を検討するよう求めた。

韓国やドイツ、ほとんどのNATO加盟国と同じく、日本は、核兵器は保有していないが、米国の核の傘によって守られている。

田上市長は日本政府に対して、核兵器に依存しない安全保障政策を追求するよう訴えた。「米国、日本、韓国、中国など多くの国の研究者が提案しているように、北東アジア非核兵器地帯の設立によって、それは可能です。」

田上市長はまた、国会が「国の安全保障のあり方を決める法案の審議」を行っていることに言及し、「70年前に心に刻んだ誓いが、日本国憲法の平和の理念が、いま揺らいでいるのではないかという不安と懸念が広がっています。政府と国会には、この不安と懸念の声に耳を傾け、英知を結集し、慎重で真摯な審議を行うことを求めます。」と述べた。

長崎平和宣言は、日本国憲法における平和の理念は、こうした辛く厳しい経験と戦争の反省の中から生まれた、としている。「戦後、我が国は平和国家としての道を歩んできました。長崎にとっても、日本にとっても、戦争をしないという平和の理念は永久に変えてはならない原点です。」

田上市長は、2015年核不拡散条約(NPT)運用検討会議は、最終文書を採択できないまま閉幕しました」と遺憾の意を示す一方、「最終文書案には、核兵器を禁止しようとする国々の努力により、核軍縮について一歩踏み込んだ内容も盛り込むことができました。」と述べた。

田上市長はまた、今回の運用検討会議を「決して無駄にしないでください」とNPT加盟国に訴え、「国連総会などあらゆる機会に、核兵器禁止条約など法的枠組みを議論する努力を続けてください」と述べた。

2015年NPT運用検討会議では、被爆地である長崎・広島訪問の重要性が、多くの国々に共有されていた。こうしたことを背景に、田上市長は、「バラク・オバマ大統領、そして核保有国をはじめ各国首脳の皆さん、世界中の皆さん、70年前、原子雲の下で何があったのか、長崎や広島を訪れて確かめてください」と訴えた。

Dwight Eisenhower/ Wikimedia Commons

1945年以来、広島原爆を記念するいかなる集まりにも米国大統領が参加したことはない。ローズ・ゴットモーラー米国務次官(軍備管理・国際安全保障)が、米国の高官として8月6日の広島の式典に参列した。彼女は、核兵器は二度と使われてはならないと発言したと伝えられる。

米国での一般的な見方は、日本を屈服させ第二次世界大戦を終わらせるためには、原爆投下は必要だったというものだ。しかし、この見解には疑問が付され、批判にさらされるようになってきている。例えば、1953年から61年まで米国大統領職にあり、第二次大戦中は五つ星の将軍で欧州連合国軍司令官であったドワイト・アイゼンハワー氏からの批判がある。

アイゼンハワー氏は、ヘンリー・スティムソン陸軍長官から原爆投下の決断について聞かされた時、「日本はすでに戦争に負けており、原爆を落とすことは全く不必要だという信念を基礎にして、私自身の不安を伝えた」と回顧録に書いている。(原文へ

※浅霧勝浩は、「IDNインデプスニューズ」東京特派員で、アジア太平洋局長。

翻訳=IPS Japan

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共通の未来のためにヒロシマの被爆体験を記憶する

国連事務総長「ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキ」を訴える

【国連IPS=タリフ・ディーン

日本への原子爆弾投下70年を記念する演説で、核軍縮の必要性を声高に訴えてきた国連の潘基文事務総長は、「ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキ」という両被爆都市が世界に発信してきたスローガンに賛同を表明した。

1945年8月6日の広島と、その3日後の長崎への原爆投下により、20万人以上が放射能の影響、爆風、熱線によって亡くなったという恐るべき数字について潘事務総長は語った。

さらに、第二次世界大戦終結以来、40万人以上が、この核攻撃の影響によって亡くなり、今も亡くなり続けている。

潘事務総長はまた、「皆様が被爆の記憶を継承して下さっているように、国際社会も核兵器が廃絶されるまで尽力し続けなくてはなりません。」「国連は、70年前に創設されて以来、大量破壊兵器の廃絶を求め続けてきました。」と語った。

1946年1月に採択された国連総会の最初の決議は、すべての大量破壊兵器を廃絶するという目標を定めるものであった。

「この目標を実現するまで、核兵器の危険性に関する意識を世界中で喚起し、国際社会の緊急の対応を要請するために、あらゆる機会を利用していきます。」と潘事務総長は語った。

アボリション2000」調整委員会の委員で「核時代平和財団」ニューヨーク支部のアリス・スレイター支部長はIPSの取材に対して、「70年前のこの運命の日(8月6日)、当時現存した2発の原爆のうちの一つが広島に投下され、8月9日には2発目の破滅的な爆発が長崎の街を破壊しました。これによって、その年の末までに22万人以上が亡くなり、さらに数多くの人々が、放射線による汚染とその致命的な後遺症のためにその後も亡くなっていったのです。」と語った。

スレイター氏はまた、「こうした恐るべき事態が日本で起きたにも関わらず、現在でも地球上には1万6000発の核兵器があり、そのうち1000発以外は米国とロシアが保有しています。」と指摘したうえで、「核兵器を抑制し廃絶するための法的枠組みは貧相なものです。核不拡散条約(NPT)で認められている5つの核兵器保有国である米国・英国・ロシア・フランス・中国は、45年前の1970年に核兵器を廃絶する努力を誠実に行うと約束したにも関わらず、依然として核抑止力に固執し、『安全』のために核兵器は必要だと主張しています。」と語った。

米国が提供する、核「抑止」という形での「安全保障」は、核同盟関係にある北大西洋条約機構(NATO)加盟国や、アジア・太平洋地域の日本・オーストラリア・韓国など、多くの国に拡大されている。

ICAN
ICAN

「NPT非加盟国であるインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮(NPTを脱退)は、核兵器を製造するために、原子力の「平和」利用というファウスト的な取引を利用し、安全のための核「抑止力」への依存を同じように主張しています。」とスレイター氏は語った。

「(核兵器国以外の)世界の大半の国々は、核兵器国が、核軍縮を行うという約束を履行しないばかりか、核戦力を継続的に近代化し「改善」している現状に憤慨しています。」とスレイター氏言う。米国は、今後30年で1兆ドルかけて、新たな核兵器製造工場2か所と核運搬手段や弾頭を製造するという。つい先月には、自由落下型の核爆弾「B61-12」を使用した核バンカーバスター弾頭の実験をネバダ州で行ったばかりである。

米国が新たに改修された核兵器を製造するために多額の資金を投じているローレンス・リバモア国立研究所(カリフォルニア州北部)近くで、平和活動家らが原爆投下70周年の行事を開いた。

“Lawrence Livemore National Laboratory Aerial View” by llnl.gov. Licensed under public domain via Wikimedia Commons

ローレンス・リバモア国立研究所は、米核兵器備蓄における全ての核弾頭の設計に関与してきた2つの研究所のうちの一つである。

核軍縮を長年推進してきた西部諸州法律家財団(WSLF)は報道発表で、「米国が広島・長崎の人々に原爆を投下してから70年、核戦争の準備がローレンス・リバモア国立研究所で進行している。同研究所の2016会計年度予算の実に85%超が、核兵器向けとなっている。」と述べた。

同研究所の科学者らは、空中発射の巡航ミサイルに替わる、新型の長距離スタンドオフ兵器として(スタンドオフとは、敵の攻撃の射程圏外にある状態を指す:IPSJ)、改修型の核弾頭を開発中である。

「約1万6000発の核兵器(そのうち94%を米国とロシアで保有している)が人類に受け入れがたい脅威を与えており、核の敵対状況が生まれる可能性がある場所の一つである欧州の辺境で、核兵器の問題が再び中心的な課題になりつつあります。」とスレイター氏は語った。

核交戦が、事故、計算違い、あるいは狂気、いずれの理由で起きるのであれ、放射能汚染と煤煙は国境を超えて拡大していくことになる。

WSLFの声明はまた、「米国が今後30年間で1兆ドルをかけて、核爆弾、弾頭、運搬手段、インフラを『近代化』し、それを今後数十年維持しようと計画している。私たちの健康、環境、倫理、民主主義、平和への見通し、人類生き残りへの確証など、それが人間に及ぼすコストは計測不能である。」と指摘している。

「ここリバモア国立研究所に集った私たちは、核兵器予算を削減し、人間のニーズにそれを振り向けるよう要求する。この70周年の日に、私たちはイラン核協議の妥結を歓迎し、米国政府に対して、核兵器の普遍的な廃絶を達成すべく、時限を切ってこのプロセスを主導するよう求める。」

「発効後25年のNPTを無期限延長することと引き換えに核保有国が1995年に約束した、中東非大量破壊兵器地帯化に関する会議についてのエジプト提案を米国、英国、カナダが拒絶して、5月に行われたばかりのNPT運用検討会議は決裂に終わりました。しかしこの会議では、非核保有国が大胆なステップをとりました。」とスレイターは語った。

南アフリカ共和国は、核兵器を「持つ国」と「持たざる国」との間の現在の「安全保障」システムにおける、容認しがたい核のアパルトヘイト状態に対して怒りを表明した。これは、少数者のための安全保障ドクトリンが全世界を人質に取るようなシステムである。

ICAN
ICAN

ここ2年の間、ノルウェー、メキシコ、オーストリアで諸政府と市民社会による大きな会議が3回開かれ、今回のNPT会議の最後には100か国以上が、核兵器の禁止・廃絶に向けた法的欠落を埋めるための効果的手段を確定し追求することを謳ったオーストリア政府主導の「人道の誓約」に署名した。

世界が化学兵器や生物兵器に関してそうしたように、核の恐怖を絶対悪とみなし否定するために核兵器を禁止する条約の交渉に向かうよう、113か国が現在のところ呼びかけている(www.icanw.org参照)。

スレイター氏はまた、「核兵器の傘の下に守られている国々も、市民社会からのプレッシャーによって『核を持つ悪魔』との同盟をあきらめ、『人道の誓約』に加わってくれることを望んでいます。」と語った。

「広島・長崎で起こった恐るべき出来事を世界中で記憶し記念するこの8月こそ、核兵器禁止に踏み出すべき時です。(核兵器禁止条約締結に向けた)交渉を今こそ始めましょう!」(原文へ

翻訳=IPS Japan

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記者追記:

暗黙の、しかし脆弱なタブー

核政策に関する法律家委員会」のジョン・バローズ代表はIPSの取材に対して、「米国による広島・長崎への原爆投下は、核兵器の恐るべき性格を見せつけました。」「それこそが、核兵器がその後70年も戦争においては使用されなかった理由です。中には、核使用に関する『タブー』を口にする人もおり、ある一つの規範が生まれつつあるようです。」と語った。

国際司法裁判所赤十字国際委員会は、核兵器使用は、戦争の影響から民間人を保護する人道法と相容れないとの見解を明らかにしている。

最近開催された2015年核不拡散条約(NPT)運用検討会議では、最終文書こそ採択されなかったものの、NPT上の核保有国を含むすべての加盟国が、「核兵器が二度と使わないことが人類の利益であり、すべての人々の安全を保障するものだ」という内容に合意する用意があった。

しかし、このタブーは、ウクライナをめぐる核の対立に示されるように、脆弱なものだ。1945年以来核兵器が使用されてこなかったのには、別の理由もある。

いくつか例を挙げれば、第二次世界大戦で破壊を尽くした後の厭戦気分、戦後に創設された国連などの国際機関の積極的な役割、核兵器の配備によってたいていは、しかし常に生み出されたわけではない警戒心があるだろう。

「しかし、現状に満足するわけにはいきません。核不使用という、生起しつつある規範は、いかなる状況においても核兵器の使用を禁止し、それを廃絶することについて規定した、全ての国家が参加した世界的な条約によって法制化される必要があるのです。」とバローズ氏は語った。

広島・長崎両市長、核兵器なき世界を訴える

【ベルリン/東京IPS=ラメシュ・ジャウラ】

日本の都市、広島と長崎に対して、8月6日と9日になされた残酷で軍事的には合理性に欠ける原爆投下から70年、「核兵器なき世界」への道のりは依然として遠いままだ。

平和祈念式典で広島・長崎の両市長は、被爆者の経験に耳を傾け、核兵器の完全廃絶の必要性について世界的に意識を高めていくよう熱心に訴えた。

1945年の原爆投下で両市は一瞬にして廃墟と化し20万以上の人々が、放射線や爆風、熱線により亡くなった。しかも戦争終結から今日に至るまでに、さらに40万以上の人々が原爆による後遺症のために命を落としている。

今年3月31日の時点で、日本政府は18万3519人を被爆者として認定している。その大部分が日本居住者である。日本の被爆者援護法は、被爆者を、「(原爆投下時に)爆心地から数キロ以内にいた人々、原爆投下から2週間以内に2キロ以内に入った人々、降下した放射性物質に晒された人々、これらいずれかのカテゴリーに入る妊婦の子として産まれた人々」と定義している。

"Hiroshima Aftermath - cropped Version" by U.S. Navy Public Affairs Resources Website
“Hiroshima Aftermath – cropped Version” by U.S. Navy Public Affairs Resources Website

広島・長崎の原爆記念日に関連して配信された報道の中には、原爆投下は軍事的な合理性に欠いていたとするものも見られた。

ガー・アルベロビッツ(メリーランド大学ライオネル・R・バウマン政治経済学元教授)は『ネイション』誌に寄稿した記事の中で、米国は「広島への原爆投下以前に、既に戦争に勝っていた。そして、原爆を投下した当時の将軍たちもそのことは知っていた」と述べている。

"Gar Alperovitz" by garalperovitz.com - Licensed under CC BY-SA 4.0 via Commons
“Gar Alperovitz” by garalperovitz.com – Licensed under CC BY-SA 4.0 via Commons

アルペロビッツ元教授は、ハリー・トルーマン政権で参謀長をつとめたウィリアム・リーヒー提督の1950年の回顧録『私はそこにいた』を引用している。「広島と長崎におけるこの野蛮な兵器の使用は、日本に対する我々の戦争において何ら実質的な貢献をなさなかった。日本はすでに敗れており、降伏寸前だった……。」

1953年から61年まで米国大統領職にあったドワイト・アイゼンハワー氏も同じ見解であった。アイゼンハワー氏は、第二次大戦中は五つ星の将軍で欧州連合国軍司令官を勤めた。

アイゼンハワー氏は、ヘンリー・スティムソン陸軍長官から原爆投下の決断について聞かされた時、「日本はすでに戦争に負けており、原爆を落とすことは全く不必要だという信念を基礎にして、私自身の不安を伝えた」と回顧録に書いている。

第21爆撃司令部の司令官で有名なタカ派のカーティス・ルメイ将軍ですら、原爆投下の翌月(9月20日)の記者会見で、「(対日)戦争はソ連の参戦がなくても、原爆がなくても、二週間以内に終わっていたでしょう。原爆投下は、戦争終結とはなんら関係ありません。」と述べたとアルペロビッツ氏は書いている。

“JROppenheimer-LosAlamos” by Department of Energy, Office of Public Affairs – Taken from a Los Alamos publication (Los Alamos: Beginning of an era, 1943-1945, Los Alamos Scientific Laboratory, 1986.).. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons-

「原爆の父」として知られるロバート・オッペンハイマー博士は、「世界の人々が手を取り合わなければ、我々は絶滅する」と、政治家に対してこの恐るべき原子力の国際的な管理を呼びかける書簡の中で述べている。

オッペンハイマーの呼びかけはまだ実現されていない。

広島の松井一実市長は、8月6日の平和宣言でこう述べている。「世界には、いまだに1万5千発を超える核兵器が存在し、核保有国等の為政者は、自国中心的な考えに陥ったまま、核による威嚇にこだわる言動を繰り返しています。」

「また、核戦争や核爆発に至りかねなかった数多くの事件や事故が明らかになり、テロリストによる使用も懸念されています。」

核兵器が存在する限り、いつ誰が被爆者になるか分からない、と松井市長は警告する。ひとたび核爆発が起こった場合、被害は国境を越え無差別に広がる。「世界中の皆さん、被爆者の言葉とヒロシマの心をしっかり受け止め、自らの問題として真剣に考えてください。」と松井市長は訴えた。

加盟都市が6700を超えた平和首長会議の会長でもある松井市長は、「2020年までの核兵器廃絶と核兵器禁止条約の交渉開始に向けた世界的な流れを加速させるために、強い決意を持って全力で取り組みます。」と誓った。

「これは、核兵器廃絶への第一歩です。その次のステップは、そうして得られる信頼を基礎にした、武力に依存しない幅広い安全保障の仕組みを創り出していくことです。」「その実現に忍耐強く取り組むことが重要であり、日本国憲法の平和主義が示す真の平和への道筋を世界へ広めることが求められます。」

「日本政府には、核保有国と非核保有国の橋渡し役として、議論の開始を主導するよう期待するとともに、広島を議論と発信の場とすることを提案しています。」と松井市長は主張した。

8月9日の長崎平和宣言では、田上富久市長が、日本の政府と国会に対して「未来を見据え、“核の傘”から“非核の傘”へ転換」することを求めた。

日本は核兵器を保有していないが、韓国やドイツ、NATO加盟国のほとんどと同じく、米国の核の傘によって守られている。

田上市長は日本政府に対して、核兵器に依存しない安全保障政策を追求するよう訴えた。「米国、日本、韓国、中国など多くの国の研究者が提案しているように、北東アジア非核兵器地帯の設立によって、それは可能です。」

田上市長はまた、国会が「国の安全保障のあり方を決める法案の審議」を行っていることに言及し、「70年前に心に刻んだ誓いが、日本国憲法の平和の理念が、いま揺らいでいるのではないかという不安と懸念が広がっています。政府と国会には、この不安と懸念の声に耳を傾け、英知を結集し、慎重で真摯な審議を行うことを求めます。」と語った。

長崎平和宣言は、日本国憲法における平和の理念は、こうした辛く厳しい経験と戦争の反省のなかから生まれた、としている。「戦後、我が国は平和国家としての道を歩んできました。長崎にとっても、日本にとっても、戦争をしないという平和の理念は永久に変えてはならない原点です。」

田上市長は、今年初めに国連で開催された核不拡散条約(NPT)再検討会議が、最終文書を採択しないまま閉幕したことに遺憾の意を示す一方、「最終文書案には、核兵器を禁止しようとする国々の努力により、核軍縮について一歩踏み込んだ内容も盛り込むことができました。」と述べた。

田上市長は、今回の再検討会議を「決して無駄にしないでください」とNPT加盟国に訴え、「国連総会などあらゆる機会に、核兵器禁止条約など法的枠組みを議論する努力を続けてください」と述べた。

NPT再検討会議では、被爆地である長崎・広島訪問の重要性が、多くの国々に共有されていた。

こうしたことを背景に、田上市長は、「バラク・オバマ大統領、そして核保有国をはじめ各国首脳の皆さん、世界中の皆さん、70年前、原子雲の下で何があったのか、長崎や広島を訪れて確かめてください」と長崎市長は訴えた。

1945年以来、広島原爆を記念するいかなる集まりにも米国大統領が参加したことはない。ローズ・ゴットモーラー米国務次官(軍備管理・国際安全保障)が、米国の高官として8月6日の広島の式典に参列した。彼女は、核兵器は二度と使われてはならないと発言したと伝えられる。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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批判にさらされる国連のポスト2015年開発アジェンダ

【国連IPS=タリフ・ディーン】

まもなく国連で採択される予定の、野心的な「ポスト2015年開発アジェンダ」が、まだ始動する前から厳しい批判にさらされている。

SDGs logo
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国連メジャーグループ」(UNMG)という名の下に集った市民団体のグローバルなネットワークが、17の「持続可能な開発目標」(SDGs)を含む開発アジェンダは「緊迫性や明確な実行戦略、説明責任に欠いている」と警告している。

UNMGの構成団体であるアムネスティ・インターナショナルのサビオ・ガルバルホ氏は、IPSの取材に対して「ポスト2015年開発アジェンダは、履行とフォローアップに関して政府に責任を取らせる明白に独立したメカニズムに欠いたままの、単なる希望的な文章になってしまっています。」と語った。

「(このままでは)国家の所有、現実、能力といった名目の下に、各加盟国は全く何もせずに済ませることが可能です。(SDGsが期限を迎える)2030年になっても現状が変わらないということがないように、各国政府に対して、人権の原則と基準に従って国の優先順位を決めるよう求めていきたいと。」とガルバルホ氏は付け加えた。

9月の国連サミットで150以上の政治指導者によって承認される予定の17の開発目標からなるSDGsは、貧困、飢餓、ジェンダー平等、持続可能な開発、完全雇用、質の高い教育、グローバル・ガバナンス、人権、気候変動、すべての人々にとっての持続可能なエネルギーといった、経済社会面での課題を幅広く網羅している。

17の開発目標のすべて、とりわけ極度の貧困と飢餓の根絶という目標は、2030年までに達成することが期待されている。

現在提示されている案では、「国家主権や各国の状況、優先事項といった、SDGsを実行するという普遍的な誓約を蔑ろにする恐れがある内容に言及されており」、強力な説明責任のメカニズムを欠いている。」とUNMGは主張している。

「とりわけ、各々の国において社会の主流から取り残された立場にいる人々の生活に影響を及ぼすような決定に関して、各加盟国が民衆の参加をどれだけ真剣に実現しようとしているのか、私たちは疑問を持っています。」

「約束をする前にそれを破るな」と題された声明では、開発アジェンダの実際の履行における資金調達(予算配分)に関連した問題でも同じようなことが言える、としている。

「各国政府がこうした誓約を遵守するよう民衆がしっかりと監視して、目標が達成され、全ての人々にとって機能するものになるようにしなければならない。」とUNMGはいう。UNMGは、ポスト2015年プロセスを監視する多くの連合・ネットワーク団体(例えば、女性や子ども及び青年、人権、労働者及び労働組合、地方自治体、ボランティア、障害者等からなる市民団体)から成り立っている。

「障害を持つ人々の会」事務局のジェイミー・グラント氏は、UNMGの構成について、「UNMGは持続可能な開発の問題に関して民衆が国連とかかわる公的なチャンネルです。」と指摘したうえで、「これら全てのグループや利害関係者、ネットワークを横断して、私たちは非常に広い意味での立場を共有してはいますが、様々な能力を持ち、様々な立場や優先順位をもつ数多くの組織が、その立場の形成に関与しています。」と語った。

100か国以上、600以上の団体を代表する「女性メジャーグループ」は、反対派からの様々な声にさらに力を与える形で、現在の開発アジェンダを非難し、その欠陥を批判している。

国際女性保健連合」の政策提言担当であるシャノン・コワルスキー氏はIPSの取材に対して、「SDGsは女性や女児に対して重要な画期になるかもしれません。」と語った。

「経済機会の増加、セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルスケア、リプロダクティブ・ライツの保護、教育への機会、暴力なき生など、女性たちがSDGsによって得るものは少なくありません。」「しかし、このビジョンを現実のものにするには、ジェンダー平等がこの取り組みの中心に据えられ、それが持続可能な開発の前提条件になることを認識しなくてはなりません。」とコワルスキー氏は指摘した。

「女性メジャーグループ」には、「共通の未来を求める欧州女性の会」「子どもの公正を求める会」(メキシコ)「グローバル森林連合」「女性環境計画」「女性・法・開発に関するアジア太平洋フォーラム」「女性の環境と開発」(WEDO)「女性NGOフォーラム」(キルギスタン)などが参加している。

コワルスキー氏は、最近アジスアベバで開催された「第3回開発資金国際会議」(7月13日~16日)の成果に対して失望を表明した。

「私たちはグローバル経済の不平等の根本原因と、女性・女児の生に対する影響の問題に取り組むような進歩的で公正な最終合意を望んでいました。しかし、そのような成果は得られませんでした。」と、コワルスキー氏は語った。

「私たちは、ジェンダー平等のための資金調達や、女性が無給で担っているケアや家事労働の価値に対する認識という点で、各国の間で強力な誓約がなされること期待していました。また、国家間及び各国内の制度的な不平等の原因に対処し、公正な租税対策を打ち立て、違法な資金の流れを断ち切り、最貧国に不利な国際貿易構造の不公正を正すことを各国政府に期待していました。」

「SDGsを達成するために公共の資金を増やすための新たな誓約が何らなされなかったことは残念です。」とコワルスキー氏は語った。

アムネスティ・インターナショナルのカルバルホ氏は、「開発アジェンダの進捗状況を全てのレベルで、一般民衆の参加と透明性を確保した環境で、定期的かつ全体的に見直すことなしに、誰も置き去りにすることなく真に変革的な持続可能な開発を達成することなど不可能でしょう。」と語った。

「この開発アジェンダは、国内政策を尊重する国際金融機関の必要性を認識しているが、これらの活動が人権侵害につながらないようにするところまではいっていない。」

「全ての国が誓約と義務を果たすようにするには、開発アジェンダを普遍的なものにするような方向で議論を強化しなくてはなりません。」

「これらの問題には、政府開発援助(ODA)や租税の正義の問題も含まれます。」とカルバルホ氏は語った。

他方、ミレニアム開発目標(MDGs)の後継となる強力な目標を推進する世界的な市民社会キャンペーンである「2015年を超えて」は、IPSに対して出した声明の中で、「SDGsがあらゆる場所の民衆の人生に真の影響をもつには、民衆自身が目標の実行と進展状況の再検討に参加し、自分たちに関係ある意思決定に参加する能動的な主体にならなくてはならない」と語った。

「2015年を超えて」キャンペーンは、国連で現在協議されている草案で「包摂」と「参加」に焦点があてられていることを歓迎し、「各国政府に対して、SDGsが採択されしだい速やかに、約束を実行に移すよう期待する。」と述べている。

SDGsの実行にあたっては、「誰も置き去りにしない」という誓約を各国が尊重することが重要だ。

「このことはすなわち、さまざまな情報源からのデータや、民衆自身の関与を通じた定期的な査定を基礎として、全ての社会的・経済的集団、とりわけ、最も脆弱で最も周縁化された人々にとっての進展状況を追跡することを意味する。」と声明文は述べている。

さらに、実行段階が始まれば、全てのレベルにおいて、さらに高いレベルの参加と包摂が必要とされる。

「民衆がこの新しい開発アジェンダを意識し、真に持続可能な変化が起きるようにこの目標を自らのものにしなければならない。」

「2015年を超えて」キャンペーンはまた、複数のレベルにおける民衆の参加を基礎とした、オープンで透明性のあるフォローアップの枠組みに対するコミットメントを歓迎した。

「特定の時限を設定した誓約を含め、誓約事項の再検討のためにデータを生成するうえでの市民社会の役割を是認することによって、現在の草案がさらに改善されるものと信じている。」と声明文は述べている。

「私たちは、各国政府がSDGsを国を挙げて取り組む政策に変換していく必要性を強く訴えています。それはそうすることが、諸政府が、あらゆる場所の民衆に対して真の意味で責任を負うようになるための重要なステップとなるからです。」(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【ジュネーブIPS=グスタボ・カプデヴィラ】

広島・長崎に投下された原爆を生き延びた被爆者の証言は、核廃絶を訴える世界教会協議会WCC)加盟の教会指導者らを鼓舞することになるだろう。

ドイツ、日本、オランダ、ノルウェー、パキスタン、韓国、米国のWCC加盟教会の指導者からなるグループが、1945年の8月6日と9日のに米国が投下した原爆で壊滅的な被害を受けた日本の二都市を巡礼する予定である。

「原爆を生き延びた世代は既に80代となっており、生存者の数が少なくなってきています。」と、世界最大級の国際基督教組織であるWCC(本部ジュネーブ)のピーター・プルーブ国際問題委員会委員長は語った。

Bishop Mary Ann Swenson

「しかしこうした被爆者こそが、実際の核攻撃を体験し核兵器の使用がもたらす人道に対する影響について語れる生き証人なのです。私たちはこの機会をとらえ、彼らの声を多くの人々に伝えていく必要があります。」とプルーブ委員長はIPSの取材に対して語った。

代表団を率いるアメリカ合同メソジスト教会のメアリー=アン・スウェンソン監督(WCC中央委員会副議長)は、「私たちが広島と長崎を訪れるのは、原爆の恐怖を決して忘れないためです。」「私たちは、70年前に史上最悪の兵器により破壊されつくした土地に集いますが、一方で未だに40カ国の政府が核軍備の撤廃を公言しながら核兵器に依存し続けていることを知っています。そのうち9ヵ国が核兵器を保有しており、他の31か国が自らの代わりに米国が核兵器を使用することを認めているのです。」と語った。

プルーブ委員長はまた、「この巡礼に参加する代表の出身国については戦略的な配慮に努めた」と指摘したうえで、「まず核保有国から、米国のような第二次世界大戦以来の歴史的な保有国と、パキスタンのような最近核を保有し核不拡散条約(NPT)に未加盟の国を選びました。さらにその他の参加者は、スウェンソン監督が挙げた31か国の中から選出しました。…いわゆる『核の傘に依存する国々』、つまり自国は核兵器を保有していないが他の核保有国、とりわけこの場合、米国の核の傘による保護に依存している国々です。」と語った。

今回の広島・長崎巡礼の目的は、こうした7か国の教会指導者が、原爆投下70周年の機会をとらえて両市へ巡礼を行い、その生存者たちに耳を傾け、地元の教会と共に祈り、この2つの都市の苦境について他の宗教者たちと考える。さらに、広島と長崎から(核兵器廃絶に向けた)「行動のための呼び掛け」を持ち帰ること、としている。

World Council of Churches

「彼らは帰国後、各々の政府とコミュニティーに対して、(広島・長崎で学んだ)核兵器の人道的影響に関するメッセージを伝え、核兵器の法的禁止の必要性を訴えていきます。」「その際彼らは、大量破壊兵器として分類される他の全ての兵器(例:生物兵器化学兵器)が法的に禁止されている一方で、核兵器のみは依然として禁止の対象になっていないという『法的な隙間』があることを指摘しなければなりません。」とプルーブ委員長は語った。

プルーブ委員長はまた、「多くの国々において、教会は、自らのコミュニティーや自国の政府に対して、このような活動を行うのに最適なネットワークです。」と語った。

米国による核攻撃により広島では死傷者数の合計が135,000人(約66,000人が死亡、69000人が負傷)におよんだ。また長崎では原爆による死傷者数は合計で64,000人(39,000人が死亡、25,000人が負傷)にのぼった。

プルーブ委員長は、今回の日本巡礼ミッション後の次のステップ(世界各地で核兵器禁止を訴える)について、「WCCの強みは、ジュネーブにある国際事務局の活発な活動もさることながら、各地の加盟教会を繋ぐ世界的なネットワークの存在です。」「WCCに加盟している教会の信者は、世界のキリスト教徒人口のほぼ4分の1にあたる約5億人で、このネットワークは120ヵ国に及びます。従って、私たちの正念場は、これら世界各地の加盟教会の指導者と教会組織が、各々の政府に対してどの程度広島・長崎巡礼のフォローアップをしていけるかにかかっています。」と語った。

「ただし加盟教会がどの程度行動できるかについては、事情は国によって様々でしょう。例えばノルウェーの教会指導者は、明らかにパキスタンの教会指導者よりも、自国の政府に対する潜在的な影響力を発揮できる機会に恵まれています。」

Peter Prove/ WCC

「世界教会協議会自体、第二次世界大戦の経験を踏まえて戦後に発足した組織です。つまり同大戦が人類にもたらした破壊と残虐行為に衝撃を受けたことが、WCCが発足する究極の動機となったのです。」「つまりWCCは、大量虐殺、ホロコースト、原爆投下、そして世界大戦と紛争一般に対するリアクションとして組織されるに至ったのです。」とプルーブ委員長は語った。

プルーブ委員長はまた、「WCCは核軍縮と核兵器の廃絶を目指して市民社会組織との協力関係を長年に亘って構築してきました。」と指摘したうえで、「しかし依然として軍縮が進展しないのは、軍縮のための国際構造が機能障害をきたしているからです。」と主張した。

プルーブ委員長は、その具体例として、主要な軍縮交渉プロセスであるNPT運用検討会議(今年4月27日から5月22日に国連本部で開催)が決裂に終わった事例を指摘した。

「核兵器を管理し廃絶するメカニズムは機能していません。なぜなら、これらのメカニズムは核兵器を保持し続けることを意図している国々の管理下に置かれていくからです。」とプルーブ委員長は語った。

UN General Assembly/ Wikimedia Commons
UN General Assembly/ Wikimedia Commons

WCCは核兵器の法的な禁止を呼び掛ける「人道の誓約」に署名した世界の過半数にあたる113ヵ国の立場を支持している。

「私たちは、これまでに、核兵器禁止を支持する国々が世界の過半数を占めることに成功しました。そして今、これらの過半数の国々が、核兵器禁止に向けたプロセスにおいて過半数の強みを生かしていくことを期待しています。」とプルーブ委員長は付け加えた。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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核廃絶への世界的支持が頂点に(ジョナサン・フレリックスWCC平和構築、軍縮エグゼクティブ)

広島・長崎への原爆投下は避けられた(デイビッド・クリーガー核時代平和財団所長)

「核兵器なき世界」を希求する太平洋島嶼国

【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ

イラクとレバントのイスラム国(ISIL)のようなテロ組織による残虐な暴力の恐怖とともに、中東や北アフリカで政治的紛争が激化する中、ウクライナ危機は、米国及びNATO(北大西洋条約機構)同盟国と、ロシアとの間の冷戦に再び火をつけている。こうした中、核保有国と非核保有国が協力して核兵器の完全廃絶に向かうことが、絶対的に必要になっている。今日、意図的であれ事故であれ、核兵器の使用によって大惨事が起こるリスクはこれまでになく高まっているのだ。

オーストラリア、ニュージーランド、太平洋島嶼諸国は、核保有国による完全軍縮という目標に向けた唯一の拘束力ある多国間取り決めである核不拡散条約(NPT)を履行する世界的な取組みの最前線に立ってきた。しかし、今年4月27日から5月22日まで開かれた9回目のNPT運用検討会議(核不拡散、核軍縮、原子力の平和利用の三本柱をもつ)は、核保有国とその核の傘に依存する一部の同盟国の見解と利害を圧倒的に反映したものとなった。

"Pacific Culture Areas" by User:Kahuroa - Outline: File:World2Hires filled mercator.svg; Map information based on Vaka Moana: Voyages of the Ancestors - the discovery and settlement of the Pacific, ed K.R. Howe, 2008, p57.. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons
“Pacific Culture Areas” by User:Kahuroa – Outline: File:World2Hires filled mercator.svg; Map information based on Vaka Moana: Voyages of the Ancestors – the discovery and settlement of the Pacific, ed K.R. Howe, 2008, p57.. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons

2015年運用検討会議は、核保有国の軍縮への約束という点において2010年運用検討会議よりも後退したものとなったが、他方で、オーストリアが推進した「人道の誓約」への賛同集めによって非核保有国が軍縮に向けて歩みを進め、前進を示すものともなった。同誓約は、容認しがたい人道的影響をもたらす核兵器を禁止し廃絶するための新たな法的拘束力ある取り決めを求めて行動することを誓約したものであり、7月14日時点で113か国が賛同している。

「人道の誓約」には10の太平洋島嶼国が署名している。クック諸島、フィジー、キリバス、マーシャル諸島、ニウエ、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ツバル、バヌアツだが、トンガとミクロネシア連邦は署名していない。1956年から96年にかけて、太平洋島嶼国は、図らずも米国・英国フランスによる核実験による被害者となってしまった。

マーシャル諸島共和国のトニー・デブルム外相は、1954年3月当時、9才だった。彼は、リキエップ環礁近くで祖父と魚を釣っている時に、「夜明け前の空を突然光線が照らしたかと思ったら、海や魚、空が赤くなり、つづいて恐ろしい衝撃波が襲ってきた」と語っている。水爆投下地から200マイルの場所での出来事であり、デブルム氏はこの運命的な日の記憶は決して忘れることができないとう。

マーシャル諸島共和国は、核兵器使用がもたらす壊滅的な人道的影響に焦点を当て、核軍縮を強力に推進してきた。マーシャル諸島は、1946年から58年の間に、米国による67回の大気圏核実験のために甚大な被害を受け、放射能汚染された。そこで同国は、強制移住や死、継続的な健康被害に苦しんだ民衆の歴史を持ち出して、核保有国をハーグの国際司法裁判所の場に引きずり出す重要な訴訟を提起したのである。

"Operation Crossroads Baker Edit" by United States Department of Defense (either the U.S. Army or the U.S. Navy)derivative work: Victorrocha (talk) - Operation_Crossroads_Baker_(wide).jpg. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons
“Operation Crossroads Baker Edit” by United States Department of Defense (either the U.S. Army or the U.S. Navy)derivative work: Victorrocha (talk) – Operation_Crossroads_Baker_(wide).jpg. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons

デブルム外相はIDNの取材に対して、「非核保有国が協力して、核兵器を禁止・廃絶する新条約を作るべき時です。核保有国は、法的義務があるにもかかわらず、今のところ事態を主導しようとしていないことは明らかです。むしろこうした国々は、核保有や核による脅し、潜在的には核使用によって自らの安全を確保する特別の権利がある(実際にはそのようなものはないのだが)と考えているのです。そう主張することによって、これらの国々は、全ての国家と全ての民衆の共通の安全だけではなく、自らの安全をも棄損しているのです。」と語った。

核実験と太平洋地域の軍事化に反対する太平洋全体での初期の抗議活動に加わったフィジーのバネッサ・グリフェン氏は、「太平洋では、核兵器の使用が陰に陽にどのような影響をもたらすのかを私たちは目の当たりにしてきました。だから、核兵器禁止のために非核保有国が活動するのは、唯一、まともで、人間的で、責任ある行動なのです。核保有国は、全体として、無法者であり、国際人道基準をないがしろにしているとみなされねばなりません。」

グリフェン氏は、太平洋地域の女性メディア団体である「フェミリンク・パシフィック」(FemLINKPacific)の代表を務め、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)「武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップ」(GPPAC)のメンバーでもある。「太平洋島嶼国には、その歴史的な体験から核軍縮を強く訴える資格があります。国連での加盟国数も多く、核軍縮というグローバルな問題に関して、外交力を集合的かつ効果的に使うべきです。」とグリフィン氏は語った。

NPTは1995年に無期限延長された。同条約の第8条では、5年毎に条約を再検討することになっている。5年毎の再検討プロセスは核保有国に政策として核軍縮を追求させるためのものであったが、この5年間核保有国がやってきたことと言えば、核戦力近代化のために高コストの政策を実行することであった。

Map of Australia
Map of Australia

軍備や軍縮、国際安全保障の現状について評価するストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の最新年鑑によると、「全ての核保有国が新型核兵器システムの開発に取り組むか、既存の核兵器を更新しようとしている」とされている。今年初頭時点で、9か国(米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)が合計で1万5850発の核兵器を保有しており、そのうち4300発が作戦配備の状態にある。

オーストラリアは核兵器を保有していないが、米同盟の下で拡大核抑止のドクトリンを採用しており、それは同国の国家安全保障の根幹をなすと見られている。オーストラリアは「人道の誓約」に署名していない。同国外務・貿易省の報道官はIDNの取材に対して、「核保有国と核の傘に依存する国を含めて全ての国が、核兵器がない方がより安全だと感じられるような環境を作らねばなりません。」と語った。

平和・正義・環境に関わる活動家や宗教団体、市民団体、科学や医療の専門家、国連諸機関が、厳格かつ効果的な国際管理の下での核兵器の廃絶に関する交渉を早期に開始することを呼び掛けている。

きわめて非道徳的

2015年NPT運用検討会議に出席したICAN豪州支部長のティム・ライト氏は、「運用検討会議を通じて、オーストラリアは、核兵器の使用は特定の状況下では正当化されるし必要だと主張して、軍縮について消極的な態度をとりました。こうした立場は、私の見方では、きわめて非道徳的なものです。しかし、遅かれ早かれ、オーストラリアは核兵器を完全に拒絶する国際的潮流に加わってくれるものと期待しています。それこそが、オーストラリア国民が望み要求していることなのです。」と語った。

Tim Wright/ ICAN
Tim Wright/ ICAN

米国、ロシア、英国、フランス、中国、ドイツ(P5+1)がイランとの間で結んだ画期的な核合意によって、軍縮に新たな希望が生まれている。国家の自己利益がいずこにあるかを認識することで、地政学に変化を生み出すことができる。イランは、米国によってほぼ軍事的に侵攻され、不倶戴天の敵であった状態から、イラクやISILの問題に関して米国などの国々がより真剣に関与しなくてはならないと考える国に変わってきたのである。

昨年10月、オーストラリアのデイビッド・ジョンストン国防相は、ISILの勢力を止めるという共通の利益のために、オーストラリア軍がイラン軍と協力する可能性があるとまで述べている。

「核兵器は全ての人々にとっての共通の脅威であることから、敵との協力さえ可能です。」「イスラエルさえも、その核戦力が短所になることを理解すべきです。なぜならそれは、中東の他の国々が自らの核を取得しようと考える誘因となっているからです。」と、戦争防止医師会(オーストラリア)のスー・ウェアハム理事は語った。

この5年間、核兵器がもたらす人道的影響の問題が、軍縮外交において最も前進のみられた領域であった。「新アジェンダ連合」(NAC)の議長国であるニュージーランドは、NPT第6条における核軍縮義務を履行する法的メカニズムを前進させる道筋について提示した「作業文書9」の起草に深く関わった。

オークランド大学の国際関係学の博士課程院生であるリンドン・バーフォード氏は、「ニュージーランドは、そうした議論が肝要で緊急に求められているが、その議論を行う前に特定の法的枠組みを選択してしまうことは時期尚早だと主張しています。しかし、NGOは、ニュージーランドがなぜ『人道の誓約』に賛同しないのかと訝っています。新アジェンダ連合の他の構成国はすべて同誓約に賛同しており、ニュージーランドが『核兵器の人道的影響』問題について主導的な役割を果たしてきているだけに、誓約に賛同しないのが不可解なのです。」と語った。

核兵器の完全禁止・廃絶における大きな障害となってきたのは、核保有国の2つのルール(一つは自らに課した「軍縮」義務、もう一つはその他全てのNPT加盟国に課した「核不拡散」義務)である。ウェアハム氏は、「しかし、あまり認識されていない障害は、オーストラリアのような米国の同盟国が果たしている役割です。これらの国々は、米国に対してその核戦力の維持をひそかに求める一方で、軍縮の最前線に立っているかのような外観を作り出そうとしています。もし米国の緊密な同盟国が米国と袂を分かち、核兵器による『保護』を拒絶したならば、そのインパクトは甚大なものになるでしょう。」と語った。

Ramesh Takur/ ANU
Ramesh Takur/ ANU

NPT発効から約40年が経過した現在、およそ1800発の核兵器がわずかな事前通告時間で使用可能な即発射態勢に置かれている。ラメシュ・タクール教授(オーストラリア国立大学クロフォード公共政策校核不拡散軍縮センター長)は、「NPTはその耐用期限が切れ、恐らく国際社会は、NPTに強固に結び付けられている既存のグローバルな核秩序を危機に陥らせることなくポストNPT時代への移行を図る必要に迫られているのだと思います。NPTの下では、核不拡散の義務には拘束力があり、検証可能、執行可能なものであるのに対し、軍縮義務についてはそうなっていません。「核兵器の人道的影響」に関してこれまで3回の国際会議が開催されてきましたが、これは、いまや159か国によって支持された、ポストNPTの非核秩序への道筋を指し示したものかもしれません。」と語った。

タクール教授は3つのオプションがあると語る。「第一は、国際人道法の核心に違反する核兵器のあらゆる使用を禁止するというもの。第二は、圧倒的多数の非核保有国が、核兵器の使用だけでなく保有も禁止するために自ら動くというもの。そして第三は、最善だが最も難しいオプションである、生物兵器や化学兵器を禁止したのと同じような線で核兵器禁止条約(NWC)を交渉するというものである。」(原文へ

翻訳=INPS Japan

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「中立性」を拒絶して人権の側に立つ博物館

【リバプール(英国)IPS=A・D・マッケンジー

このイングランド北部の都市にある「国際奴隷制博物館」の現代版奴隷制度の展示は、人権に光を当て、そのテーマを「全面に出す」ことを選択した博物館のひとつの例だ。

「社会正義はそれ自体では実現されません。それには積極行動主義(アクティビズム)と、リスクを取ることをいとわない民衆の存在が不可欠です。」と語るのは、国際奴隷制博物館(ISM)を運営している国立リバプール博物館の館長を務めるデイビッド・フレミング博士である。

この博物館は、過去および現代の奴隷制の様々な側面に焦点をあてると同時に、「人権問題に関する資料の国際拠点になることを目指している。

Dr David Fleming, director of National Museums Liverpool, which includes the city’s International Slavery Museum. Credit: National Museums Liverpool

2013年に発足し、現在では世界全体で80以上の博物館が加盟している「社会正義を求める博物館連合」(SJAM)の会員であり、2010年には「国際人権博物館連盟」(FIHRM)の立ち上げでも中心的な役割を果たした。

FIHRMの目的は、「センシティブで対立含みの人権問題に関わっている」博物館同士の協力を促し、「好意的な環境で新たな思考と取組み」を共有することにある。フレミング氏はIPSの取材に対して、「いずれの組織も、博物館が変容していくあり様を反映しています。」「博物館は私情を挟まない主体というわけではありません。それは記憶を保護する役割を担っているのです。博物館の役割に目を向け、それがいかにして人生に変化をもたらせるかを見ていかねばなりません。」と語った。

国際奴隷制博物館で来年4月まで展示予定の「壊された人生」と題された特別展示は、現代世界の奴隷制の被害者について取り扱っている。その半分がインドにおり、大部分が「ダリット」、かつては「不可触民」として知られていた人々だとみられている。

学芸員によれば、この特別展示は「インドの現代奴隷制を通じて搾取され人権を侵害されているダリットなどの人々の経験を知る機会を提供するもの」だという。

「ダリットは依然として、社会的疎外と偏見に晒されながら極度の貧困下に生きることを強いられており、人身売買や債務労働の犠牲になりやすいのです。」と学芸員は付け加えた。

ダリット解放ネットワーク」との協力で開催されているこの特別展示は、写真や映画、個人の証言等の手段を用いて、性奴隷や児童奴隷状態に置かれている人々の「苦難の物語」を紹介している。また、こうした人々の「壊された人生」を何とかしようと活動している人々についてもスポットライトをあてている。

この展示は国立リバプール博物館の特別展室にて行われているが、常設展では、大西洋奴隷貿易人種差別主義の遺産の惨禍に関する展示がなされている。

フランスの都市ナントにある「奴隷制廃止記念碑」や最近開館したばかりのグアドループにある「メモリアルACTe」と並んで、リバプールのこの博物館は、奴隷制に関する意識喚起を目的とした数少ない国立機関の一つであると識者らは言う。

「しかし、(フランス南西部)ボルドーのような場所での奴隷貿易に関する常設展にとっても、この特別展は『重要なインスピレーションの源』となっています。」とアラン・ジュペ市長は語った。ボルドー市では、「ボルドー、大西洋横断貿易と奴隷制」と題された包括的な展示がアキテーヌ博物館で開かれ、詳細で明晰な情報が提供されている。

Wikimedia Commons
Wikimedia Commons

これらの博物館は、世界市民性を涵養する役割を果たし、民衆を教育し、人権の尊重や社会正義、多様性、平等、持続可能性などに関してこれまでとは違う発想を来訪者に提供しようとしている。

フレミング氏はIPSの取材に対して、「私たちは人権への闘いに公然と人々を巻き込もうと試みています。」「人種差別主義と戦うとの意志に燃えながらこの博物館を後にしてほしいと、いつも国際奴隷制博物館で話しています。」「何を考えたらいいのか、どう反応したらいいのかについて、他人に指示することはできません。しかし、ある雰囲気を創り出すことはできます。そして、この奴隷制博物館における雰囲気とは、明確に反人種差別主義的なものです。観覧者には『こんな酷いことがあったとは知らなかったが、もう考え方が変わった』と思いながら、博物館を後にしてくれたらと期待しています。」

リバプールが18世紀に主要な奴隷貿易港であったという否定しがたい歴史を持っているにもかかわらず、誰もがその歴史の事実を受け入れているわけではない。かつて、偏見を持つ人間が、博物館の目的を否定しようとして、博物館の壁にカギ十字を描いたこともあった。

「既に何らかの知識や一定の態度をもってここに訪れる人もいます。そういう人々を変えることができるとは思いません。しかし、展示のテーマについてこれまであまり考えを持ち合わせなかった中間地帯にある人々を、私たちは念頭に置いています。」とフレミング氏は語った。

植民者によって腕を切り落とされた若いアフリカ人たちを写した写真について最初は理解できない英国の児童らの集団が博物館を見学したときのことについて、フレミング氏は語った。

“MutilatedChildrenFromCongo” by Alice Harris – King Leopold’s Soliloquy: A Defense of His Congo Rule, By Mark Twain, Boston: The P. R. Warren Co., 1905, Second Edition.. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons

写真に関する説明を受けると、児童たちは「民族だけを基準に人間がこれほど恐ろしい行動をとりえるということを理解するようになるのです。」とフレミング氏は語った。

フレミング氏は、世界各地で社会正義に関する展示を見学し、自身の博物館の展示についての情報を広めているという。最近彼は、「記憶を動員する:アフリカの大西洋アイデンティティの創出」という、リバプールで行われた会議において、博物館の役割に関する基調講演を行った。

アフリカ系アメリカ人研究コレギウム(CAAR)」と最近英国で発足した「ブラック・アトランティック研究所」の共催によるこの会議は、6月末にリバプール・ホープ大学で開催された。

この会議は、米ノースカロライナ州の歴史あるエマニュエル・アフリカン・メソジスト・監督教会で白人青年が9人の黒人信者を射殺した事件から数日後に開かれた。

今回の乱射事件は、この数年間にアフリカ系アメリカ人を対象に起こった数多くの暴力的な事件の一つとなった。会議参加者はこの事件から問題の切迫感を痛感するとともに、アクティビズムに関する議論を活発化させた。とりわけ、社会正義や人権をめざす闘いにおいて記憶を保存し「活性化」する点で、作家やアーティスト、学者が果たせる役割についての活発な議論が行われた。

メリーランド大学(ボルチモア郡)のジェームズ・スモールズ教授(美術史・博物館研究)は、「芸術家、さらに言えば博物館は、一部の人々が呼ぶところの『表象の責任』を負っており、それに向き合わねばなりません。」と指摘したうえで、「芸術家は自分の属する民族集団やコミュニティのために自動的に語るものだと考えられています。しかしそうした考えに従おうとする人もいれば、そこから距離を取ろうとする人もいるのが現実です。」と語った。

コロラド大学のクレア・ガルシア教授は、多くの学者にとって、学者の領分と考えられる領域において、「学問とアクティビズムとの間には必ずしもつながりはありません。」、と語った。

「そうした考えの人々にとっては、学問とは『理論的』かつ『普遍的』なものであって、政治的であったり、『特定集団の窮状』に焦点を当てるようなものであってはならないのです。」とガルシア氏は指摘した。しかし、こうした立場は、ある民族集団の「問題を数多く抱えた人間的状況から切り離された時」、さらなる問題を生み出すという。

「社会正義」のために立ちあがる博物館という考え方は、この問題が世界の様々な場所で様々に考えられているために、物議を醸すこととなる。「客観化することと教育すること」との間の線引きもまた、議論を生む課題である。

フレミング氏は、「例えばリバプール国立博物館は、「人間動物園」で展示された黒人演者に焦点をあて物議を醸した「展示B」をやることなどなかっただろう。」と語った。この展示企画は明らかに、人種差別と奴隷制を非難することを目的としたものであったが、逆に、ロンドンやパリなどの都市で2014年に抗議活動を招くことになった。

"Humanzoogermany". Licensed under public domain via Wikimedia Commons
“Humanzoogermany”. Licensed under public domain via Wikimedia Commons

「個人的には私はこうしたことが大嫌いです。今後同じような企画が浮上すれば、私は『反対』に票を投じるでしょう。それは、このテーマが物議を醸し難しい問題だからというのではなく、それが人間の品格を貶め侮辱するものだからです。ここにはあらゆる問題が含まれており、私はこれについてずっと考えてきました。」

フレミング氏や他の学者らは、歴史を「物語る」のは誰かということを深く意識していると語ったが、これは博物館に影響を与える問題でもある。

「アフリカ系アメリカ人研究コレギウム」による会議の一部参加者は、国際奴隷制博物館の一部展示内容について批判を展開した。いったい誰を観客として想定しているのか、誰が展示を選んだのか、などが疑問として出された。

アフリカ大陸に祖先をもつ著名人に焦点を当てた展示セクションは、米国の人気トークショー司会者オプラ・ウィンフリー氏や、著名なアスリート、エンターテイナーで占められており表面的な構成に思えた。

フレミング氏は、「博物館というものは、『やりすぎだ』とか、『まだ不十分だ』とか、両方の批判をしばしば受けるものです。しかし、そこから距離を取ることが答えではありません。なぜなら世界には依然として『エセ中立』博物館が溢れているからです。」と語った。

「最も意義があり興味を呼び起こす博物館は、『道徳的な指針』を示すような施設ですが、そうした博物館が『独力でできることは少ない』ことから、助けを必要としています。」とフレミング氏はIPSの取材に対して語った。彼が代表を務める博物館では、独自の専門能力と観点を展示にもたらしてくれるような非政府組織としばしば協働している、という。

奴隷制のほかにも、世界各地の博物館が、アパルトヘイトカンボジアなどの国における大量虐殺、ラテンアメリカなどの地域で軍事独裁政権期になされた残虐行為等について焦点をあてた取り組みを行っている。

「世界には博物館に変化を求めない国もあります。しかし、リバプールでは、私たちは単に観光目的で博物館を運営しているのではないのです。」とフレミング氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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国連安保理、イラン核合意承認で米議会を牽制

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連安全保障理事会の全15か国は、最近合意されたばかりのイランとの核合意を全会一致で承認して団結力を見せることで、米国の右派・保守派政治家の陰謀的な計画に抵抗する意志を示した。これらの政治家は、米議会自身がこの合意に関する決定を下すまでは採決を延長することを国連安保理に望んでいた。

国連安保理は7月20日、国連の基準でいえば比較的早い午前9時に、数か月の長きにわたった交渉の末に7月14日にウィーンでまとまった五大国(米国、英国、フランス、中国、ロシア)にドイツを加えた「いわゆるP5+1」による国際合意を是認した。

サンフランシスコ大学で政治学・中東研究学教授を務めるスティーブン・ズーヌス氏は、IPSの取材に対して、「米国は、協定当事者である7か国(P5+1+イラン)のうちで、協定に対する強い反対論がある唯一の国です。世界の戦略分析家の中では、この協定はもっとも現実的に実現可能なものだとの評価がかなり広くなされています。」と指摘したうえで、「いつでもどこでも米国が自分の意思を押し付けることがもはやできないような多元的で複雑な世界になってきているという事実を受け入れられない人々がいるようです。」と語った。

安保理における政治についての著作も多いズーヌス氏は、協議が成功するには、どちらかが一方的に勝利するのではなく、双方の妥協が必要だと語る。

協定の主要な交渉人の一人であるジョン・ケリー米国務長官は、二国間ではなく国際的な協定に関してさえ、米国の意向が政治的・外交的に国連よりも優先されるべきだという一部の米議員からの要求に対して、テレビのインタビューを通じて反応した。

「(米)議会が望むようなことをフランスやロシア、中国、ドイツ、英国に要求すべきだというのは、傲慢です。」とケリー長官はあるテレビ番組のインタビューの中で語った。

「これらの国々には投票に参加する権利があります。しかし、我々は、米議会のことを考慮に入れ、これらの国々を説得して投票の実施を遅らせたのです。従って、いまさらこれらの国々の意志を妨害するつもりはありません。」とケリー長官は付け加えた。

『ニューヨーク・タイムズ』によると、上院外交委員会ボブ・コーカー委員長(テネシー州選出、共和党)と同委員会のベンジャミン・カーディン筆頭理事(メリーランド州選出、民主党)が先週、バラク・オバマ大統領に共同書簡を送り、米議会が決定を下すまでは安保理の投票を延期するよう要請した。

公共情報精度向上研究所」(本部:ワシントンDC)のノーマン・ソロモン所長はIPSの取材に対して、「米議会の多くの議員に理解させるにはしばしば困難な概念だが、米国政府が世界を仕切ることができるわけではないし、時には米国政府でも国連安保理を仕切ることさえできないこともあるのです。」と語った。

「『覇権』という言葉を使うわけではないが、米国は全ての国々を導き照らす存在であり、その能力を国際法という怪しいものの陰に隠すべきではないと信じる議会の共和党や数多くの民主党議員にとって、これは衝撃であり、少なくとも侮辱的なものでしょう。」とソロモン氏は指摘した。

「この場合、イランとの核合意を壊そうとする米議会の危険な横暴に対して、一笑に付せばいいのか抗議すればいいのかは、難しいところです。」と、60万人にのぼる活発な支援者を擁するオンライン行動グループ「RootsAction.org」の創始者でコーディネーターでもあるソロモン氏は語った。

ソロモン氏はまた、「歴史的にみれば、米国政府の政策によって核拡散の大部分が引き起こされてきました。」と指摘したうえで、「米政府はイスラエルが核兵器を保有していることを今後も公的には認めないだろうし、米国の指導者らは、中東の非核兵器地帯化を目指すいかなる提案、あらゆる提案に対して、背を向けてきました。」と語った。

20日には、加盟28か国の欧州連合(EU)もイランとの核合意を承認し、欧州による対イラン経済制裁解除への道を開いた。

「イランの核兵器取得を不可能にするバランスのとれた合意であり、重要な政治合意です。」とフランスのローラン・ファビウス外相は語った。

英国のマシュー・ライクロフト国連大使も20日、「イランがもはや核兵器を製造できないということで、世界はより安全な場所になりました。」と述べ、ファビウス外相と同様の認識を示した。

ソロモン氏はIPSの取材に対して、「米国は数多くの国々に原子力の商業利用を拡散させてきた主要な国ですが、発電のための核エネルギーが核兵器開発のための主要な入口になるという現実を一貫して否定してきました。」と指摘したうえで、「米政府高官のレベルで、こうした事実を認めたことはないし、ましてや、そうした危険な原子力の大盤振る舞いから世界を遠ざけようと努力をしたこともありません。」と語った。

ソロモン氏はまた、「現在交渉中のイランとの核合意は、オバマ政権が自身の成果であると主張できる数少ない大きな外交的成果の一つと言えます。しかし、米国の多くの愛国主義的な勢力が、この合意を壊そうと躍起になっているのです。」と指摘した。

「国連の文脈では、そして米国の政治的舞台という文脈では、この動きはそれそのものとして認識されねばなりません。つまり、率直に言って、平和的解決という悪い冗談からイランに対する戦争遂行という(彼らの)希望を救い出そうとする米議会内の好戦主義者たちによる恥知らずな企てとして認識される必要があるのです。」

20日に安保理決議2231が採択されたのち、国連の潘基文事務総長は、同決議はイランとの核合意に関する「包括的共同行動計画」(JCPOA)の実行を確実にするものだと述べた。

潘事務総長は、「この決議によって、JCPOAの履行を促進する手順が確立され、全ての国が合意に含まれた義務を履行することが可能になりました。」と指摘したうえで、「この決議によって、イランに対する全ての核関連制裁は結果的に解除されることになるでしょう。国際原子力機関がJCPOAに従ってイランが核関連の義務を遵守しているか検証し続けていくことになります。」「国連は、決議に実効性を持たせるために必要なあらゆる支援を行う用意があります。」と語った。

ズーヌス氏はIPSの取材に対して、「米ソ間で締結された核関連諸条約の事例が示しているように、地政学的な敵対国であり他方の政体に対して強く反対しながらも、軍備管理に関しては、お互いに有利なウィン・ウィンの解決策があると考えることもできるのです。」と語った。

「核兵器に関するほとんどの取り決めは相互主義を採っているが、イラン近隣の核武装国であるイスラエル、パキスタン、インドは、核兵器に関する国連安保理決議に違反し続けているにも関わらず、核兵器を廃絶あるいは削減したり、査察を受け入れたりすることさえ義務づけられていないのです。」とズーヌス氏は付け加えた。

そして、今回の協議に加わった6か国のうち5か国(=ドイツを除く安保理5大国)までをも含む他の核兵器国も、その核戦力を削減するようには求められていない。

「イランがこの協定を通じて不当な利益を得ているという考えは、全くばかばかしいと言わざるを得ません。」と、ズーヌス氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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