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│ペルー│希望を見出す低所得者層の癌患者

【リマIPS=ミラグロス・サラザール】

体重わずか18キロの彼女の細い手足の爪先には、さまざまな明るい色のマニキュアが塗られていた。まだ幼い彼女がたどってきた半生とはまったく異なった色である。

現在まだ7歳に満たないクラウディア・アルバラドちゃんは、ペルー政府が提供する癌治療プログラム「希望計画(Plan Esperanza)」の支援を得て、臨床検査と、時には痛みを伴う治療に耐えながら、白血病(血液の癌)と闘っている。

癌は、他のアメリカ大陸の諸国と同様、ペルーでも循環器疾患に次ぐ死因となっている。

Map of Peru
Map of Peru

ペルー厚生省によると、人口3050万人のこの国における癌死亡率は10万人あたり157人で、毎年新たに4万5000人が癌に罹患している。

こうした高い罹患率と膨大な癌治療費を抑制するため、ペルー政府は2012年11月に「希望計画」を始動させた。このプログラムは、癌患者に対して、より包括的な治療を提供するとともに、とりわけ貧しい患者に対して、政府保証付きの癌治療を提供することを目的としている。

クラウディアちゃんは、治療を受けるために、学校に通い友達を作るといった同世代の女の子の生活とは異なり、かつて暮らしていた同国北部のラ・リベルタ県から遠く離れた首都のリマへと、病院を転々とする生活を送ってきた。

彼女の故郷は北部のサンタ・ローサという貧しいコメ農家が多いコミュニティーだった。母のイヴォン・サンチェスさんはIPSの取材に対して、「3歳の時に初めてこの子を治療に通わせた公立病院は、途中3つの廃墟と化した村を通り抜けて、バスで1時間かけてようやくたどり着けるチェペン市にありました。」と語った。

クラウディアちゃんは、まもなく専門的治療を受けるために、ランバイエケ州の州都チクラーヨ市にある公立病院に回され、そこからさらに首都リマにある「国立腫瘍病研究所(INEN)」に回送された。

同研究所では、積極的治療が行われたが、費用は全て「健康のための無形連帯基金(FISSAL)」によって賄われた。FISSALは、貧困層を中心とした国民健康保険機構(SIS)加入者(加入料1ヌエボ・ソル=約30円支払えば加入できる)を対象に癌治療のような高額治療費をカバーしている。

SISはまた、クラウディアちゃんの家庭のような、年間収入5分位階級第4位・第5位(世帯を年間収入の髙いほうから順番に並べていったときに、5等分して下から2番目と1番目のカテゴリーに属する収入世帯)の世帯には、無料で医療サービスを提供している。

2012年1月、クラウディアちゃんの病気が再発した。クラウディアちゃんの母は、この時の「再発」という宣告がもう助からない可能性を婉曲に表現しているものと知っていたので大いに狼狽したのを覚えている。

この時点で唯一の望みは骨髄移植だったが、12歳の兄レンツォ君はドナーとして不適合だったことが発覚した。「その時、すべての希望が絶たれたかに思われました。」とクラウディアちゃんの母は語った。

クラウディアちゃんの命を救ったのは、ペルー政府が2012年11月に始動した「希望計画」だった。この年SISとFISSALは、化学療法の結果が芳しくなかったり、病気が再発したりした子供を対象に骨髄移植を行う合意を米国の2つの病院と結んだのだ。

Plan Esperanza
Plan Esperanza

その結果、クラウディアちゃんは2013年9月に、マイアミ子ども病院で骨髄移植を受けることができた。手術自体は8時間かかり、移植後は、28日に亘って、40度近い熱が出た。

クラウディアちゃんは、なんとかこの難局を乗り越え、昨年12月には母親と共に飛行機でリマに帰国した。以来、彼女は家族がリマ郊外の貧しい地区に借りた家で療養生活を続けている。記者は、今回この家を訪れて取材した・

家族はクラウディアちゃんと一緒に過ごすために、リマに引っ越してきていた。父のフォルトゥナード・アルバラードさんは、農場労働者の仕事をすてて、リマでタクシー運転手をしている。

クラウディアちゃんは、手術後200日に亘る安静期間、病気をうつされるのを防ぐため他の子どもとは遊べず、また体調に負担をかけるような運動もできなかった。その結果、彼女の体重は僅か18キロにまで落ち込んだ。

それでもクラウディアちゃんは頑張った。薬の摂取についても、医師の指示をきちんと守り、最も苦い薬を飲むときは、直後にレモンドロップを食べるなど工夫してこなした。

2013年末までに、5万7531人が「希望計画」によって無料の医療支援を受け、640万ドル(約6528億円)が支出された。またこの計画では、全国規模の癌診断、予防キャンペーンも実施されている。

Plan Esperanza
Plan Esperanza

「これまでに、60万人が癌の早期発見のための集団検診を受け、300万人が専門医師のカウンセリングを受けました。」「重要なことは、人の命を救うために、患者にきちんとした治療を提供することです。」と癌専門医で「希望計画」のコーディネーターとつとめているディエゴ・ヴェネガス氏はIPSの取材に対して語った。

「希望計画」では、癌と診断された患者のうち、75%が進行癌であることが判明したため、新たに自宅療養もプログラムに含めた。

ヴェネガス氏は、「『希望計画』による無料治療は、プログラム開始時点のSIS加入者約1300万人を対象に始まりました。FISSAL基金で治療費をカバーしている癌で代表的なものは、頸癌、乳癌、直腸癌、胃癌、前立腺癌、白血病、そしてリンパ腫です。なお、その他の癌でも、SISの加盟者であれば、無料でこうした高額治療が受けられます。」と語った。

一人の癌患者あたりの治療費は、平均で26万ドル(約2650万円)である。

クラウディアちゃんの場合、マイアミの子ども病院での骨髄移植費用、彼女と母親の渡航費、半年におよんだ米国滞在費は、合計で30万ドルを上回った。さらに、米国での手術・療養前後にペルーのリマの病院で受けた化学療法の費用や薬代は別にかかった。しかしこうした費用は全て、「希望計画」によってカバーされた。

「国立腫瘍病研究所(INEN)」のブレストクラブのスサナ・ウォン会長は、「希望計画」の恩恵を受けた多くの乳がん患者を見てきた。

「癌治療は高額なことが分かっているため、かつては乳癌の告知がなされると、瞬時にしてもう自分の人生は終わったと絶望したものです。しかし、乳癌治療を支援してくれるプログラムがあることを知れば、頑張って生きようという勇気が湧いてきます。『希望計画』のお蔭で、人々は生きるチャンスを獲得したのです。」と、2006年に自身が乳癌を宣告された経験を持つウォン会長はIPSの取材に対して語った。

FISSALのミゲル・ガラヴィート所長は、「ペルーは、高額な癌治療費を無料にするこのような支援を行っている世界でも数少ない国の一つです。」と語った。

一方で、先述の「希望計画」コーディネーターのヴェネガス氏は、「現在、癌患者の統計は3大都市(リマ、アレクイパ、トルヒーリョ)のものしかないため、より広範囲の癌患者を正確に登録する計画が進められています。より人里離れた地域の患者にも医療支援を行きわたらせるためには、スタッフの増員や医師の訓練・養成、さらには運営の地方分権化をさらに進めていく必要があります。」と語った。

また、清潔な水や衛生設備へのアクセス向上など、他部門に亘って癌対策を推進する委員会の設立も進められている。

中部のワヌコ県の事例から、劣悪な衛生環境と癌の相関関係が指摘されている。70%の住民に上水道が整備されていない同県では、胃癌死亡率は10万人あたり150人で、国の平均値を大幅に上回っている。

ヴェネガス氏は、「この種の癌は、飲用水の質が関係しています。」と語った。

人生の半分以上を白血病と闘いながら、お気に入りのマニキュアを爪に塗って自分を励まし続けてきた幼いクラウディアちゃんのような患者の事例に見られるように、ペルーでは、癌は公衆衛生の問題として、政府が積極的な取り組みを進めている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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IPSがSGIと新メディアプロジェクトを始動

インタープレスサービス(IPS)国際協会は、東京に本拠を置く創価学会インタナショナル(SGI)と「世界市民教育及び持続可能な開発についての問題意識を強化する」メディアプロジェクトを新たに始動した。

Mr. Hirotsugu Terasaki and Mr. Katsuhiro Asagiri/ IPS

本プロジェクトでは、地球的問題群の解決を目指して、環境、開発、平和、人権の4つの分野を軸に人類的価値を追求する「世界市民教育」のポテンシャリティーに着目しながら、まもなく期限を迎える「国連持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」及び「ミレニアム開発目標(MDG)」の後継枠組みを巡る諸議論と課題について、多様かつ客観的視点から光をあてていく予定。

4月13日、この計画を念頭に、浅霧勝浩IPS Japan理事長(写真右)がIPS国際協会を代表して東京都内のSGI本部を訪問し、寺崎広嗣創価学会副会長・SGI平和運動局長(写真左)との間で、プロジェクトドキュメントの交換を行った。

またIPSとSGIは、「核兵器廃絶についての問題意識を強化する」ことを目指したメディアプロジェクト(今年で6年目)も実施している。

プロジェクトサイトはこちらへ

INPS Japan

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│中央アフリカ共和国│住民が逃げるなか支援に入る困難さ

【国連IPS=ジョナサン・ローゼン】

「民族的宗教的浄化」、「喪失した国家構造」、「許容できない宗派間暴力」などと国連が形容している内戦によって荒廃した中央アフリカ共和国。人道支援を試みる人びとにとって、この国に入り込むのは、時として命の代償を伴う至難の業となっている。

国際連合児童基金(ユニセフ)中央アフリカ事務所のジュディス・ルベリー副代表は、「昨年だけでも9人の人道支援活動家が命を失うなど、極めて不安定かつ暴力的な状況が続いており、この国にいる全ての人々にとって、治安確保は深刻な課題となっています。」「中央アフリカ共和国は私にとって7番目の赴任地ですが、ここほど悲惨な状況を目のあたりにしたことはありません。」と語った。

Central African Republic
Central African Republic

中央アフリカ共和国の内戦は、イスラム系反政府武装勢力の連合体「セレカ」が政府に対する攻勢にでた2012年に始まった。翌年3月、セレカの指導者ミシェル・ジョトディアによる軍事独裁政権(同国初のイスラム政権)が成立したが、新政権下で行われた民衆弾圧に反発したキリスト教系の民兵組織「アンチ・バラカ」(バラカは「なた」を意味する)が反セレカ闘争を展開したため、次第に国内は無政府状態に陥るとともに、内戦は宗派間抗争(国民の約50%がキリスト教徒、15%がイスラム教徒)の様相を呈していった。

「交戦中の武装勢力による妨害に遭うため、支援を必要としている人々の元に物理的にたどり着けない状況が出てきています。」「各地の道路が武装勢力により封鎖されており、ルート変更を迫られるほか、援助物資を略奪されたり、援助要員が襲われたりするケースもでてきています。」と、国連世界食糧計画(WFP)のスティーブ・タラベラ広報官はIPSの取材に対して語った。

国連によると、首都バンギに関しては、昨年後半に軍事介入した旧宗主国フランスとアフリカ連合の治安維持部隊が増強され、(イスラム政権の崩壊に伴って)イスラム教徒が大挙して街を去ったことから、戦闘は下火になっている。

スティーブ・タラベラ広報官/WFP
スティーブ・タラベラ広報官/WFP

にもかかわらず、約220万人におよぶ人道支援を必要としている人々に援助物資を届けようとしている援助要員にとって、いつどこで民兵組織に襲撃に遭遇するか分からない現状は、深刻な治安上の問題となっている。

「ひところ、中央アフリカ共和国への援助物資の搬入ルートとして使用してきたカメルーンから首都バンギに向かう唯一の道路が完全に封鎖される事態に陥ってしまったことがありました。原因は、イスラム教徒が多いカメルーンの運転手が、国境越えを怖がったためです。」とWFPのファビアン・ポンペイ地域広報官は語った。

「現在は道路封鎖が解除され、国境越えの道路で食料を中央アフリカ共和国に運び込むことができますが、アフリカ主導中央アフリカ国際支援ミッション(MISCA)による警護が必要になっています」。

「中央アフリカ共和国では、元セレカやアンチバラカ等のグループによる市民の殺害、略奪、性的暴力、児童兵の雇用等が横行しており、人道状況が極度に悪化しています。このような状況下で車を運転して物資の輸送を行うのは困難です。また、盗難のリスクを考えると車を自宅の敷地にとめるもの複雑な問題です。」と国際赤十字委員会中央・南部アフリカ事務所のマリー・セヴァンヌ・デジョンケール広報官は、IPSの取材に対して語った。

国際治安部隊の駐留

潘基文事務総長は2月20日、安全保障理事会で演説し、①中央アフリカ共和国への人道支援を確実に実施できる環境の確保、②フランス軍及びアフリカ連合による治安維持部隊の増強など6項目からなる中央アフリカ共和国の事態への対応策の概要を提示し、国際社会に対し、同国における殺害をくい止め、危機的状況を打開するための集団行動を促した。

にも関わらず、依然として同国の治安状況は深刻で、引き続き武装勢力による援助要員への襲撃が頻発している、と国連は4月3日付で報告している。

現在のところ、中央アフリカ共和国内で活動している国際部隊はフランス派遣軍(サンガリス)の約2000人とアフリカ連合(AU)が派遣した約6000人(MISCA)のみである。国連安保理の要請で欧州連合が1000人の派遣を予定しているが、まだ実現していない。

ユニセフとWPFの援助要員は、国際治安部隊のエスコートを得ることで、治安状況が特に厳しい地域へも立ち入ることができるようになった。

「現在は、MISCAのセネガル人治安部隊の兵士のエスコートを得て、人道支援活動を実施しています。…しかし、これはあくまでも最終手段と考えています。私たち人道援助機関は、厳正な中立を堅持することが重要であり、必ずしも武装エスコートを利用したいと考えているわけではありません。」とユニセフ中央アフリカ事務所のルベリー副代表は語った。

3月3日、国連安保理は1万2000人規模の平和維持部隊の派遣を提案した。国連安保理のジョイ・オグウ議長(ナイジェリア大使)は、記者会見において、「4月第2週ごろに採決に移るが、実際に派遣されるのは9月になるだろう。」と語った。

交渉でアクセスを確保する

他方で、「国境なき医師団(MSF)」や「国際赤十字委員会(IFRC)」のように、治安維持部隊のエスコートに依存せず、紛争当事者との直接交渉によって、支援を必要としている人々へのアクセスを確保しようとする動きもある。

「私たちは、紛争当事者の配慮を信頼して、武装エスコートを利用していません。紛争当事者への呼びかけや交渉に多くの時間を割いています。」とバンギに拠点を置くMSF事務所のシルヴァイン・グル―所長は語った。

「私たちは武器を携行しませんし、武装エスコートを利用することもありません。」とIFRCのベノワ・マーシャ・ルペンティエール広報官は語った。

IFRC
IFRC

「現在、政府高官レベルとボランティアレベルで、支援を必要としている人々への援助要員の安全なアクセスを保障するよう、交渉が進められています。」

IFRCには、各国内で地域に根差した活動を支援する赤十字社があり、中央アフリカ共和国の赤十字社は、IFRCや同国への人道支援を行うにあたって制約を受けている他の人道援助組織を支援するうえで、重要な役割を果たしている。

IFRCのデジョンケール広報官は、「もし現地の情勢があまりに危険な状況にある場合は、現地パートナーを通じて援助物資の提供を行っています。中央アフリカ共和国における主なパートナーは、同国の赤十字社です。同赤十字社は国中に強固なネットワークと多くのボランティアを擁しています。」と語った。

視点の転換をはかる

人道支援ができるよう被災現場へのアクセスを尊重するという考え方を広めることは、援助要員が中央アフリカ共和国で戦災に苦しむ人々への支援能力を高めるうえで、重要な要因である。

「国際人道法を尊重するという考え方を広げることは、国際赤十字の任務の一つです。私たちは長年に亘って、戦時においても尊重されるべき人道上の基本的ルールについて話し合う会合を開いてきました。そうしたルールには、人道支援要員に安全なアクセスを保障することも含まれています。」とIFRCのデジョンケール広報官は語った。

「私たちは支援を必要とする人々に食料を配給しています。私たちにとっての最優先事項は困っている人々に支援の手を差し出すことなのです。全ての紛争当事者に支援要員の通行を認めてもらうために、この点を常に訴えていくことが極めて重要です。」

既に数千人が殺害され、60万人以上が住まいを追われた中央アフリカ共和国では、深刻な人道危機に直面している人々に一刻も早く援助物資を届けることが緊急の課題となっている。ただし、それは長期的な解決策にはならない。

「最善の選択肢は、国内の諸勢力を和解に導き、内戦を政治的に解決することです。」と前出のWFPのポンペイ広報官は語った。(原文へ

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教育から始まる世界市民

【国連IPS=ジャスミン・ゴー

平和を文化や社会に根付かせるには、世界市民を創出するような教育を幼少時から始めなければならない、とあるシンポジウムで専門家らが訴えた。

元国連事務次長・高等代表のアンワルル・チョウドリ氏は、和平を実現するには、世界市民を育成していくことが重要です、と語った。

Ambassador Chowdhury/UNDPI
Ambassador Chowdhury/UNDPI

「世界市民は、子どもたちの考え方や行動を変容させ、より公正で平和で寛容な社会を構築していくことを要請しています。」「世界市民となる素地は、同情と共感を学ぶ子ども時代に形成されるのです。」とチョウドリ氏は4月3日に国連本部で開催された「国連広報局NGOブリーフィング:世界市民のための教育」で語った。

世界市民の概念は、世界はつながっており、発展のためには世界的な焦点が必要であるということを個々人が理解している、ということである。

チョウドリ氏は、「世界市民を育むために必要な4つの要素として、自己変革、世代間の次元、包括性、組織的な支援」を挙げるとともに、「自己変革とは平和の文化という概念と強く結びついています。それは人間の心に関連するものです。私たちは個々人を平和と非暴力の主体に変革しようと試みているのです。」と語った。

チョウドリ氏のリーダーシップによって、1999年には「平和の文化に関する宣言および行動計画」が国連総会で採択された。チョウドリ氏によると、それ以降(このテーマは)国際機関において大きな関心を呼び起こしてきたという。

「(1999年以来)市民社会の間では地球社会の実現に向けた活発な動きがありました。さらに2012年以来、行動計画の実施について、高いレベルの関心が寄せられています。」とチョウドリ氏はIPSの取材に対して語った。

「国連加盟国や諸政府は、依然として国策の中に世界市民教育というアジェンダを組み込んでいない等、動きが鈍いが、市民社会はその実現を強く求めており、今では国際機関からの関心が高まっていると、私はみています。」

チョウドリ氏は、国際連合、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)、国際連合児童基金(ユニセフ)を、平和や教育、持続可能性を推進している組織として挙げた。

「これ(世界市民教育)は持続可能性にとっても必要不可欠なことだという考えが強まっています。」とチョウドリ氏は付け加えた。

Vibeke_Jensen/ UNDPI
Vibeke_Jensen/ UNDPI

ユネスコ・ニューヨーク連絡事務所のビベケ・ジェンセン所長は、「世界市民教育は、安全かつ持続可能な世界において、平和や寛容、平和の文化を推進するフロントランナーになるように人びとを促すものです。」と語った。ジェンセン所長は潘基文国連事務総長が立ち上げた『グローバル・エデュケーション・ファースト』イニシアチブの事務局長もつとめている。

「世界市民教育は教育の目的を明確に示す概念です。それは、社会の相互作用を促進するために、たんなる知識やスキルの開発という次元を超えたところに教育の役割を認めています。」

ジェンセン所長は、世界市民教育の重要性を議論するだけでは十分ではなく、それを実践しモニタリングしていくことも必要だと強調した。

「これ(世界市民教育)に関して話したり、本に書いたり、知識を与えたりするだけでは不十分です。子どもや大人が世界市民を実践できるようにさらに前進しなくてはなりません。」とジェンセン所長は語った。

Millennium Development Goals
Millennium Development Goals

ジェンセン所長は、ミレニアム開発目標(MDGs)のひとつが2015年までに初等教育の完全普及を達成するというものだったが、学校に通っていなかったり、教育を受けられない子どもが依然として約5700万人いる、と指摘した。

「1億2500万人の子どもが、学校に4年以上通いながら、なおも読み書きや基本的な計算ができないという調査結果が出ています。」「普遍的な世界市民教育は、すべての子どもが教育を受けることができなければ達成できるものではありません。」とジェンセン所長は語った。

チョウドリ氏は、「平和は政府の施策だけで実現できるものではありません。永続的な平和を維持できるのは個人やコミュニティーなのです。つまり、非暴力と平等を求める個人の能力にかかっているのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|UAE|人道主義の模範的役割を担う

【アブダビWAM】

経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)が8日、2013年の政府開発援助(ODA)実績を公表し、アラブ首長国連邦(UAE)の援助実績(総額53億ドル)が、国民総所得(GNI)比(1.25%)でOECD加盟34か国中で一位であることが明らかになった。これは2012年の19位から大きな前進であり、UAE国民及び住民にとって誇るべき実績である。」と英字日刊紙「ガルフ・ニュース」が4月10日の論説の中で報じた。

ドバイ首長のムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム副大統領兼首相は、この結果について早速自身のソーシャルネットワークのサイトに「OECDによると、2013年におけるUAEの援助実績が50億ドルを超え(NGI比で)世界ナンバーワンの人道主義キャピタルになった。施しの文化は私たちの社会に深く根ざしたものであり、UAE建国以来歴代指導者が常に育んできた価値観である。」とツウィートした。

さらに「UAEは多くの国々に対して積極的に寛大な援助パッケージを提供してきた。(ムハンマド・モルシ政権崩壊後の)エジプト新政府と、多くのプロジェクトを通じて同国民の生活状況の改善、人間開発を目指す49億ドル規模の開発計画支援枠組合意に真っ先に署名したのもUAEであった。」とツウィートした。

「シリア危機への対応を呼びかけた国連計画に対しては、総額2億2000万ドゥルハム(約60億7200万円)を拠出し、その内、1億8300万ドゥルハム(約50億5080万円)をシリア国内の国連プログラムに、3700万ドゥルハム(約10億2120万円)を国連のヨルダン国内におけるシリア難民支援プログラムに充てた。」

「UAE指導者の寛大な姿勢に感銘を受けた、ワシントン・ポストのコラムニスト兼作家で政治アナリストのディビッド・イグナチウス氏は、『UAEの賢明なリーダーシップは、世界における人道主義の模範である。』と述べている。」

故ザイード・ビン・スルタン・アール・ナヒヤーン首長(UAE初代大統領)は、施しの文化について「神からの恩恵で手にした富は広く同胞や友人と分かち合うべき。」という見解を示している。

ザイード首長の跡を継いだハリーファ・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン大統領は、この路線を引き継ぎ、「人道外交はUAE外交の基軸の一つであり、UAEは今後も引き続き災害に対する国際的な取り組みを支援するとともに、様々な救援要請に積極的に応えていく。」との自身の信念を表明している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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世界の死刑執行件数が増加

【国連IPS=サミュエル・オークフォード】

人権擁護団体「アムネスティ・インターナショナル」が3月27日に発表した報告書によると、2013年の世界における(公式に記録された)死刑執行件数は、前年より14%増加し、その内、厳格な反テロ法を施行しているイラクと、厳しい麻薬取締を実施しているイランが全体の半数以上を占めていることが判明した。

アムネスティによると、2013年に22か国で少なくとも778人に対する死刑が執行されたという。しかしこの報告書には、死刑に関する公式発表を行っていない中国は含まれていない。中国は、死刑執行数では他国を圧倒する数千人規模を毎年銃殺で処刑しているとみられているが、依然として死刑についての情報は国家機密とされている。

「中国は独自のケースと考えるべきです。実際の死刑執行数ではこの国に匹敵する国はありません。しかし中国に関して一縷の望みがないわけではありません。近年、中国共産党エリートの間で死刑に関する疑念の声が上がっており、私たちはこうした内部議論の行方を見守りたいと考えています。」と、アムネスティ・インターナショナルの死刑問題アドバイザーであるヤン・ヴェッツェル氏は語った。

中国を除けば、世界の死刑執行数全体の8割が、中東の3カ国、つまり、イラン、イラク、サウジアラビアに集中している。

宗派間闘争が激化し、政府による取締も強化されたイラクでは死刑執行数が前年比で30%増加した。昨年少なくとも169人が処刑され、その大部分が米軍によるイラク侵攻後の2005年に制定された厳格な「反テロ法」によるものである。アムネスティは今回の報告書の中で、この法律全体を覆っている曖昧な法律表現(例:テロ行為を挑発、計画、資金支援、実施する行為、或いは他者がテロ行為を行うのを支援する行為を処罰対象とする)について懸念を表明している。

ヴェッツェル氏は、「イラクにおける死刑執行数が急増している背景には、イラクの治安状況が急速に悪化している現実を理解する必要があります。つまり(スンニ派)反政府勢力による武装蜂起が頻発する中、(シーア派主導の)イラク政府は手っ取り早い対抗手段として『反テロ法』による死刑を適用することで、テロと戦う強い政府を演出しているのです。しかし、死刑執行数が増えても宗派闘争の勢いが収まらないことから、死刑の効果そのものを疑問視せざるを得ない状況にあります。」と指摘したうえで、「私たちは、死刑は長期禁固刑ほど犯罪抑止効果がないことを知っています。」と語った。

またアムネスティは、エジプトとシリアに関しては司法の判断に基づく死刑が執行されたか否かについて特定できなかったとしている。悲惨な内戦が繰り広げられているシリアの場合、仮に処刑執行数が明らかにされたとしても、その法的根拠に対する疑問が生じる。一方エジプトでは、3月24日、昨年失脚したムハンマド・モルシ大統領(当時)の支持者528人に対して、警官殺害等に関する容疑で死刑判決が下されている。

イランでは2013年に少なくとも369人が処刑された。しかし、アムネスティによると、公式には発表されていない処刑が他に数百件あるという。

Mahmood Amiry-Moghaddam
Mahmood Amiry-Moghaddam

イランは、北朝鮮、サウジアラビア、ソマリアと並んで、公開で処刑を行う数少ない国のひとつである。権利擁護団体「イランの人権」の共同創設者であるマフムード・アミリー=モガダム氏は、「イラン当局は恐怖を市民の頭の中に植え付ける政治的手段として公開処刑を用いています。過去10年における公開処刑のタイミングをみると、政府当局が民主化要求のデモが発生することを恐れている時期か、デモが行われた直後に死刑執行数が増加するなど、慎重に時期を見計らっているのが分かります。一方、イランの人権問題に対する国際社会の厳しい目が向けられた時期には、死刑執行数も低く抑えられています。」とIPSの取材に対して語った。

イランで処刑された死刑囚の大半は麻薬関係事犯として収監されていた人々で、大麻やヘロインの密輸に関与しているとして警察当局の標的になることが少なくないアフガン難民出身者などイラン社会の底辺に生きる人々が占めている。アミリー=モガダム氏によると、昨年59件が執行された公開の絞首刑は「死刑の執行であると同時にある種の拷問でもある」という。

「死刑囚は、クレーンで吊し上げられますが、死に至るまでに10分以上かかることも少なくないことから、ある種の拷問でもあるのです。」とアミリー=モガダム氏は語った。

今年になって、そのような事例を示す凄惨な公開絞首刑の様子を写した映像が流出した。その映像には、「おかあさん」を叫びながらクレーンに吊るされ、中刷りになった足をバタバタとさせている死刑囚に、「私の子ども、私の子ども」と悲痛な声を上げている母親の姿が映っていた。

3月初め、国連薬物犯罪事務所(UNODC)のユーリ・フェドートフ事務局長がイラン政府による国境地帯における麻薬取締を賞賛する発言をしたが、死刑に批判的な欧州諸国からの反発を招き、イランにおける国連麻薬対策プログラムへの拠出金を一部欧州諸国が拒否する事態に発展した。

「イランは違法薬物の取締に活発に取組んでおり、素晴らしい業績をあげている。」とフェドートフ事務局長は語っていた。

国際法では、死刑そのものは禁じられていないが、拷問は禁止している。この問題が改めて浮き彫りになった事例が最近米国で相次いで起こった。

今年1月、オハイオ州において試験的に開発された新型混合薬物(毒薬に鎮静剤と鎮痛剤を混入したもの)の投与による死刑が執行されたが、囚人が息絶えるまでに15分以上を要する異常事態が発生した。これらの新型薬物は、殺人への使用に反対する立場を打ち出した欧州の製薬会社が提供を拒否した従来の薬物の代わりとして使用されたものだった。また、オクラホマ州で執行された死刑の現場では、死刑囚が別種の混合薬物を注入された際、「身体中が焼けるようだ」と叫んだとされ、人道的観点から物議を醸しだした。

南北アメリカでは、アメリカ合衆国が唯一の死刑執行国である。2013年の米国全体における死刑執行数(43件)は、前年より10%減少したが、その内、南部9州で39件を占めた。また、テキサス州では、前年比3割増の16人の処刑が執行されている。

他方で、世界全体を見れば5大陸の全ての地域において、死刑廃止への流れができつつあり、アムネスティによると、この20年で死刑執行国の数は半分になったという。

2013年には、インドネシア、クウェート、ナイジェリア、ヴェトナムが死刑を再開したが、過去5年間で死刑を執行した国は、バングラデシュ、中国、イラン、イラク、北朝鮮、サウジアラビア、スーダン、米国、イエメンにとどまっている。また、欧州と中央アジアでは死刑が執行されていない。

しかしサウジアラビアでは、犯行がなされたとされた時点で18歳未満だった少なくとも3人の囚人が、国際法の規定に反して、死刑に処せられている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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ナイル川をめぐる激しいエジプト・エチオピアの対立

【カイロINPS=キャム・マグレイス】

昨年6月、エジプトのムハンマド・モルシ大統領(当時)が、エチオピアがナイル川上流で続けているダム建設に対抗して、「交渉のテーブルには全ての選択肢が用意されている」と述べた際、軍事介入まで示唆するのはジェスチャーに過ぎないと見られていた。しかし専門家の間では、エジプトは自国への歴史的な割当水量を巡る権益確保については本気であり、もしエチオピアがアフリカ最大規模になることが確実視されている水力発電ダムの建設を継続するならば、軍事介入のオプションもあながち排除できないだろう、との見方も出てきている。

エジプトとエチオピアの関係は、エチオピアが2011年に42億ドルをかけた水力発電用のグランド・ルネッサンス・ダム(貯水量:740億立方メートル)の建設に着手して以来、急速に悪化してきている。

エジプト政府は、8500万人の国民の水需要の100%をナイル川に依存しているため、上流に位置するエチオピアでこのダムが2017年に稼働し始めると下流への水供給量が減らされるのではないかと危惧している。エジプト水資源・灌漑省の当局者は、このダム建設によってエジプトはナイル川の水資源の2~3割を失うとともに、(自国のナセル湖の貯水量が減少するため)アスワンハイダムによる発電量の3分の1を失うことになると主張している。

一方エチオピア政府は、グランド・ルネッサンス・ダムの建設は、エジプトの割当水量に関してなんら悪影響はないと主張している。エチオピア政府は、このダムの優れた発電能力(概算で6000メガワット)により、ゆくゆくはエネルギーの自給を達成し、電力輸出で経済苦境から脱却することを企図している。

Grand Ethiopian Renaissance Dam/Wikimedia Commons
Grand Ethiopian Renaissance Dam/Wikimedia Commons

「エジプト政府は、ナイル川からの割当水量は、安全保障にかかわる問題だと見ています。一方でエチオピアにとって、建設中のダムは国家の威信の源(とりわけ1980~90年代に同国を襲った大飢饉からの再生の象徴)であり、これからの経済発展に不可欠なものなのです。」と戦略アナリストのアハメド・アブデル・ハリム氏はIPSの取材に対して語った。

エチオピアは昨年5月に水流の方向事業転換を開始し、エジプトの怒りを掻き立てることになった。エジプト国内では、一部の国会議員から、エチオピアが工事を中止しなければ、軍隊を派遣するかエチオピア現地の反体制勢力を支援するなどの策を取るべきだとの声も出てきている。

これに対してエチオピアは先月、軍関係者がダム建設予定地を訪れ、建設事業を守るために「代償を払う覚悟がある」と国営テレビに対して語るなど、事態はエスカレートの兆しを見せている。

エジプト政府は、大英帝国時代に締結された条約を根拠に、エジプトには少なくともナイル川の流量の3分の2を使用する権利があり、ダムや灌漑用水路の建設といった開発プロジェクトをナイル川上流地域で行うことに関して、拒否権を持っていると主張している。

英国が1929年に作成したエジプトとスーダン間のナイル川の割当水量に関する合意(1959年に改訂)は、ナイル川の上流地域にあたる国々に相談することなく締結された。

Caricature of Cecil John Rhodes, after he announced plans for a telegraph line and railroad from Cape Town to Cairo.
Caricature of Cecil John Rhodes, after he announced plans for a telegraph line and railroad from Cape Town to Cairo.

1959年の合意では、ナイル川の年間平均水量840億立方メートルのうち、エジプトが555億立方メートル、スーダンが185億立方メートルを利用できると定めている。残りの100億立方メートルは、エジプトが1970年代に建設したアスワンハイダムによってできたナセル湖で蒸発してしまう。他方で、ナイル川に接する他の9か国には何の権利も与えられなかった。

この取り決めは、ナイル川上流の国々に対して不公平な内容に見えるが、ナイル川以外にも水源として降雨を期待できる上流の赤道地帯に位置する山岳国家とは異なり、砂漠気候に位置するエジプトとスーダンは、ほぼすべての水需要をナイル川に依存している。

「ここまで危機感が高まっている理由の一つとして、このダムの建設によってエジプトの取水量が実際どの程度影響を受けるのか誰も知らないという現状があります。エジプトは全くナイル川に依存した国です。ナイル川がなければ、エジプトは存在しないと言っても過言はないのです。」とカイロにあるアメリカン大学(AUC)のリチャード・タットワイラー氏はIPSの取材に対して語った。

エジプトの懸念には正当な根拠がある。同国の「人口一人当たりの最大利用可能水資源量」は僅か660立方メートル(1700立方メートルが最低基準とされ、これを下回る場合は「水ストレス下にある」状態、1000立方メートルを下回る場合は「水不足」の状態、500立方メートルを下回る場合は「絶対的な水不足」の状態を表す:IPSJ)で、既に世界最低レベルにあるが、これから50年の間に人口が倍増しさらなる水不足が予想されている。

一方、ナイル川上流域の国々も人口増加の問題に直面しており、それに伴う農業用水や飲み水の需要をナイル川からの取水で賄おうという考えが魅力的な選択肢として浮上してきている。

2010年、エチオピア、ケニア、ウガンダ、タンザニア、ルワンダのナイル上流域5か国はエンテベ協定を結び、これまでの協定に代わって、他のナイル川流域の国の水の安全保障に「重大な」影響を与えないかぎり、ナイル川に関するあらゆる活動を認めると取り決めた。ブルンジも翌年、この協定に署名した。

The six African presidents who signed the Entebbe Agreement/Newscast Media
The six African presidents who signed the Entebbe Agreement/Newscast Media

エジプトは、この新協定を断固拒否した。しかし、これまで数十年に亘って貧しいナイル川上流域諸国に対する影響力を駆使して水利開発を抑え込んできたエジプト政府も、今やナイル川の水資源に対する支配権が失われていっている現実に直面している。

「エチオピア政府の行動は前代未聞です。かつてナイル川上流域の国が下流域の国の承諾を得ることなく一方的にダム建設に踏み切ったことはありません。もし、他の上流域の国がエチオピアの前例に続いた場合、エジプトは深刻な水不足に陥ることになるでしょう。」とカイロに本拠を置くアフリカ研究所(Institute for Africa Studies)のアイマン・シャバーナ氏は、昨年6月にIPSの取材に対して語っている。

エジプト政府はこの協定を「挑発的だ」として、グランド・ルネッサンス・ダムの建設が下流地域に及ぼす影響が明らかになるまでエチオピアに建設作業を停止させるよう国際機関に提訴した。エジプトの政府関係者は外交的手段による危機回避を切望する旨を表明しているが、治安当局筋によるとエジプト軍当局はナイル川に関する国益を守るためには軍事力を行使する用意ができているという。

ウィキリークスに掲載された軍事情報機関「ストラトフォー」からの漏洩された電子メールによると、2010年、ホスニ・ムバラク大統領(当時)はエチオピアによるダム建設を空爆で阻止する計画を打ち出し、スーダン南東部に出撃拠点となる空港を建設していた。

しかし、ナイルの問題に関してはエジプトの同盟国だったスーダンが2012年にグランド・ルネッサンス・ダムに対する反対を取り下げ逆に支援に回ったことで、エジプトは窮地に追い込まれている。

AUCのタットワイラー氏によると、ダム建設による自国への影響が最小限に止まると判断したスーダン政府は、むしろこの巨大プロジェクトがもたらす恩恵に着目しはじめたのだろうという。グランド・ルネッサンス・ダムが稼働すれば、下流地域の洪水制御や灌漑という点でもメリットが発生するうえに、エチオピアの電力需要を満たしたあとの余剰電力を、国境をまたぐ送電線を通じて電力事情が切迫しているスーダンに引き込めるメリットも期待できる。

また研究の中には、エチオピアにおける水力発電ダムを適切に制御すれば、洪水被害を軽減できるのみならず、エジプトが取得する全体的な取水量を増やすことも可能だとするものも出てきている。砂漠地帯にあるエジプトのアスワンハイダムよりもより涼しい気候のエチオピアのダムで貯水することで、太陽熱に奪われる河川の水量を大幅に抑制できるのである。

しかし、エジプト政府はグランド・ルネッサンス・ダムの貯水にかかる5年とも10年ともいわれる期間に、自国への水量割り当てが少なくなることに深い懸念を示している。この点についてタットワイラー氏は、「エチオピアが必要なのは電力です。水力発電ダムは堰き止めた水を通過させて初めて発電ができるのです。」と述べ、エチオピア政府がその期間に下流への流れを大幅に制限したり停止したりする可能性は低いと指摘している。

翻訳=INPS Japan

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水不足は国境を越える

ハーグ核安全保障サミットの話題となった非核国ウクライナ

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

前評判が高かった「核安全保障サミット」(NSS)は、3月25日まで2日間にわたりオランダのハーグで開催されたが、ウクライナ騒乱をめぐる問題に政治的に終始してしまった。旧ソ連のウクライナは、1994年に約1800発の核兵器を廃棄し、世界でも最も成功した軍縮の取り組みだと評価されていた。

しかし、ここには答えが出ていない問題が残っていた。ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、もしウクライナが今でも米国とロシアに続く世界第3位の核保有国であり続けていたとしても、果たして軍事介入を行っただろうか、という疑問である。

John Loretz/IPPNW
John Loretz/IPPNW

核戦争防止国際医師会議」(IPPNW)のプログラム・ディレクターであるジョン・ロレツ氏は、ウクライナが仮にソ連崩壊後も核兵器を保有し続けたとして、この紛争の経緯が今と違った形であるとすれば、唯一考えられる状況は、「2つの核兵器国が、政治的危機のさなかで、互いに考えられないことをする(=核兵器を使用する)意思を試し合っているというものになるだろう。」と指摘したうえで、「核抑止は機能し、従ってウクライナは核兵器を保有していればより安全だっただろうとする主張は、安直であり、とても支持することはできません。」と語った。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』紙は3月19日付の社説で、ウクライナが核兵器を保有していたとするならば、プーチン大統領がこれほど素早くクリミア(自治共和国)を侵略したかどうかはわからない。しかし、少なくともプーチン大統領はもう少し躊躇したであろう。」と指摘したうえで、ウクライナの運命は「イランや北朝鮮といった世界のならず者国家に、核施設あるいは核兵器を放棄する意志を弱めさせたのではないか。」と論じた。

さらに同紙は、「そして、サウジアラビア、そしておそらくはエジプトを含めた一部の中東諸国は、もしイランが核武装化すれば、自らも核オプションを検討することになるだろう。ウクライナの運命は、米国からの保証を信用していない国々の意志を固めるだけの結果に終わるのではないか。」と論じた。

グローバル安全保障研究所」のジョナサン・グラノフ所長は、こうした議論を否定して、「WSJ紙の論理が正しいと仮定してみましょう。そうすると、核兵器の拡散を押しとどめている核不拡散条約(NPT)の中心的な前提が、条約に従って核という恐ろしい兵器を保持せずにきた180ヵ国を超える国々の安全保障上の利益に反しているということを意味してしまいます。」「大多数の国の安全保障上の利益に反するような条約は長持ちしません。」と語った。

Jonathan Granoff
Jonathan Granoff

米国法曹協会(ABA)軍備管理・安全保障委員会の上級顧問でもあるグラノフ氏は、「より問うべき問題は、核兵器を保有する国が増えることで世界はよくなるのか、それとも、NPTが要求するように核兵器を普遍的に廃絶することがより安全な道なのか、ということです。」と指摘したうえで、「もし核兵器が普遍的に禁止され、核兵器が生み出す恐怖や敵意が減少すれば、より安全な世界における私たち共通の利益をより冷静に見極めることができるのではないだろうか?」と問いかけた。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)欧州安全保障プログラムの責任者イアン・アンソニー博士は、「核兵器による安全保障の未来を、そもそも達成不可能な完全なるリスク不在の上に構築していくことはできません。つまり、世界的な核による安全保障は、達成してからそれを永続的に保てるようなものでなく最終的な状態ではありえないのです。」とIPSの取材に対して語った。

アンソニー博士はまた、「核の保安上のリスクを低減するために必要な道具立ては、変化する政治的、経済的、技術的条件に沿うように、継続的に作り替えられなくてはなりません。」「核保安の取り組みを長期的に維持していけるかどうかは、このプロセスをいかに多国間化できるかに結局のところかかっています。」と指摘した。

複雑な核燃料サイクルを持つ一部の国は、核安全保障サミットに参加しなかった。「しかし、これらの国もどこかの時点で関与し、プロセスに入ってこなければならないだろう。」とアンソニー博士は付け加えた。

ハーグサミットは、非国家主体やテロリストが核兵器あるいは核物質を入手することを予防するのが目的であった。

ハーグ核安全保障サミットは3回目で、1回目は2010年にワシントンDCで、2回目は2012年に韓国ソウルで開かれた。

先述のウクライナの運命に関するWSJの仮定の議論について、グラノフ氏は、「WSJ紙の近視眼的な見方は、経験的に定義可能な脅威を歪めるものです。その脅威の中でもとりわけこれ以上無視することができないのは、核兵器には引き続き、偶発的、意図的、あるいは狂気によって使用されうる現実的なリスクがあるということです。」と語った。

そのうえでグラノフ氏は、「(私たちは核兵器で威嚇し合うよりも)ロシアや米国、英国、中国、インド、イスラエル、パキスタン、フランス、北朝鮮、ウクライナの全ての市民が等しく直面している人類の存亡に関わる脅威、例えば、気候変動や熱帯雨林の破壊や海洋汚染、さらには感染病やサイバー安全保障、テロ、金融市場のようなきわめて重要なグローバルな脅威に関して協力し合う方がよいのではないでしょうか?」と語った。

ロレツ氏はIPSの取材に対して、「核抑止が機能するとの証拠はなく、単にこれまで失敗していないにすぎないのです。もし『核抑止が失敗することはありえず、100%機能すると信じている者がいるとすれば、単に空想の世界を生きているのです。』と指摘したうえで、「1962年のキューバ危機を思い起こしてみるとよいでしょう。単純でばかばかしいような幸運が(核戦争勃発という)大惨事の回避と関係しただけで、合理的な意思決定があったわけではないのです。事実、そんなものは殆どなかったのです。」と語った。

さらにロレツ氏は、「より多くの国が核兵器を取得するようになると、抑止が破れて核兵器が使用される日が単に近づくことになります。ほとんどの国がこの避けがたい結論に数十年前に到達しているのです。だからこそ我々にはNPTがあり、世界から核兵器を完全になくすまでの間、その重要性を失わせないよう懸命になっているのです。」と指摘した。

ロレツ氏は、(核兵器の人道的影響に関する国際会議/非人道性会議)2013年のオスロ会議、2014年のナヤリット会議から生まれた近年の「人道的アプローチ」は、誰が保有していようと核兵器の存在そのものが問題であり、核の使用を予防する唯一の確実な方法はその非合法化と廃絶だという理解を基礎にしています、と語った。

「この人道的な観点は、核兵器の政治的な有用性に関するあらゆる主張を無効にします。

Second conference on the humanitarian impact of nuclear weapons
Second conference on the humanitarian impact of nuclear weapons

なぜなら核兵器の政治的有用性を訴えるいかなる主張も、結局のところは核兵器を使うと脅しをかければ相手方か引き下がるだろうというギャンブルに帰着するからです。」とロレツ氏は強く主張した。

「現在の危機においては、そのようなギャンブルは、誰もやるべきではないロシアン・ルーレットのゲームになってしまうだろう。」とロレツ氏は語った。

「議論の便宜上、ソ連が崩壊したときに残された戦略核兵器をウクライナが保持していたと仮定してみましょう。」とロレツ氏は語った。

「はたしてそれによって、地域に長くあった違いが対処しやすいものになったでしょうか? あるいは、ロシアが、大きな政治的・経済的野望を持つ地域において、力を誇示することを控えようとするでしょうか? あるいは、ウクライナの欧州との関係、特に北大西洋条約機構(NATO)との関係が、今よりも単純なものになり、ロシアにとって挑発的なものでなくなっていたでしょうか?」

「そんなことは断じてあり得ないというのが答えです。」とロレツ氏は主張した。(原文へ

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核兵器のない世界への道筋(池田大作創価学会インタナショナル会長)

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【IPSコラム=池田大作】

「核兵器の人道的影響」をテーマにした国際会議が、昨年のオスロでの会議に続いて、2月にメキシコで行われた。

科学的検証に基づき、そこで出されたのが次の結論である。

「核兵器爆発の場合に、適切に対処し、または必要とされる短期的、長期的人道支援と保護を提供できる能力を持つ国や国際機関は存在しない」広島と長崎への原爆投下から来年で70年を迎えるが、今もって、核兵器の使用がもたらす壊滅的な結果から、人々の生命と尊厳を守る手段など、世界のどこにもありはしないのだ。

2012年5月以来、「核兵器の人道的影響に関する共同声明」の発表が4回にわたって重ねられる中、共同声明に賛同する国々の輪が広がりをみせている。

だがメキシコの会議には、国連安保理の常任理事国である核保有5カ国は参加しなかった。今、最も必要なのは、共同声明に賛同する国々と保有国とをつなぐ、“共通言語”を見出すことだと言えよう。

共同声明の背景には、「核兵器がもたらす惨劇を誰にも味わわせてはならない」と訴え続けてきた広島と長崎の被爆者をはじめ、核兵器廃絶を求める人々の力強い支持があった。

146カ国の代表が出席したメキシコ会議でも、議長総括において、人間の尊厳に反する核兵器を禁じる法的枠組みが必要であるとし、「この目標に資する外交プロセスを立ち上げる時が到来した」との認識が示された。国連加盟国の4分の3にあたる国々が、核兵器のない世界を求める意思を共有した意義は大きい。

一方で保有国の間でも、他の兵器とは異なる核兵器の性質を、多くの指導者が核のボタンの責任を背負う中で感じ取ってきたことが、〝核不使用の楔〟になってきたのではないかと思われる。

その意味で、双方をつなぎうるものは、「誰も核兵器がもたらす壊滅的な人道的結果を望んでいない」との思いではないだろうか。

私はかねてより、原爆投下から70年となる来年に「核廃絶サミット」を広島と長崎で開催することを提唱してきた。

その参加者として、共同声明に賛同する国々や、NGOの代表をはじめ、保有国を含む各国の青年たちを主軸に据えることで、「世界青年核廃絶サミット」と銘打って開催してはどうだろうか。

そこで、核時代に終止符を打つ誓いの宣言を青年が中心となって取りまとめ、核兵器に安全保障を依存する状況からの脱却を図る出発点とすることを呼び掛けたい。

さらに関連して、私は二つの提案を行いたい。

第一の提案は、来年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議で「核兵器の壊滅的な人道的結果」を中心議題の一つに取り上げ、核軍縮の誠実な追求を定めたNPT第6条の履行を確保する措置として、「核兵器の不使用協定」の制定に向けた協議を立ち上げることである。

そして、この協議を突破口に、北東アジアや中東など非核兵器地帯が実現していない地域で、その前段階としての「核不使用地帯」の設置を目指すべきではないだろうか。“核の傘”の下にありながら共同声明に賛同した日本は、被爆国としての原点に立ち返って、「不使用協定」の成立とともに、「核不使用地帯」の設置に向け、積極的に貢献することを強く望みたい。

第二の提案は、このNPTに基づく枠組みと並行させる形で、共同声明の取り組みなどを軸としながら、国際世論を幅広く喚起し、核兵器の全面禁止に向けての条約交渉を開始することである。

例えば、条約には「核兵器による壊滅的な人道的結果に鑑み、安全保障の手段として核兵器に依存することを将来にわたって放棄する」との趣旨の条文だけを設けて、具体的な禁止事項や廃棄と検証に関する内容は議定書で定めるという方式も考えられよう。

かりに議定書の発効に時間がかかったとしても、条約の締結をもって、“核兵器は世界にあるべき存在ではない”との国際社会の意思を決定づけることが何よりも重要だと思われる。

4月11日から12日に、軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)の12ヵ国外相会議が広島市で行われる。また4月28日からは、ニューヨークの国連本部でNPT再検討会議の第3回準備委員会も始まる。

この機を逃さず、市民社会の力強い後押しで世論を喚起し、核兵器の禁止と廃絶に向けた挑戦を加速させることが急務である。

「核兵器のない世界」の建設は、核兵器の脅威を取り除くことだけが目標ではない。平和と共生に基づく時代への道を、民衆自身の手で切り開く挑戦に他ならない。そしてそれは、将来の世代を含めて、すべての人々が尊厳を輝かせて生きていくことのできる「持続可能な地球社会」の必須の前提となるものだ。(原文へ

※池田大作氏は日本の仏教哲学者・平和活動家で、創価学会インタナショナル(SGI)会長。池田会長による寄稿記事一覧はこちらへ。

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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ジンバブエで10代の妊娠が増加

【ブラワヨIPS=タンデカ・モヨ】

プリティ・ニャティ(仮名:17歳)は、無理やりベッドから体を起こすと、子どもに授乳してから背中に紐でくくり、ブラワヨ市内の街頭で売るための野菜を調達しに急いで市場へと向かう。彼女は毎朝目覚めるたびに「人生こんなはずではなかったのに…」というやり場のない喪失感に苛まれている。

「10代で母親やっているなんて何も面白いことなんてないわ。」「時計の針を戻して、再び学校に通って他の女の子たちみたいにできたら、どんなにいいことか。」とニャティはIPSの取材に対して語った。

ニャティの母親は5年前に他界し、ブラワヨジンバブエ第二の都市)の北東116キロのトショロットで酒場(shebeen)を営む祖母と暮らすようになった。

14才の時、ニャティは酒場の客にレイプされた。「おばあさんに助けを求めたけど、追い出すぞって脅されて、どうしようもなかった…。」

まもなく祖母は、ニャティに売春婦として客を取らせるようになった。「たくさんの男と寝たけど、避妊はしなかったわ。」とニャティは語った。

2012年、彼女は祖母のもとを逃げ出し、ブラワヨで路上生活を始めた。街中で客を引いていたが2か月後に妊娠が発覚、しかも病院からはHIV陽性だと告げられた。その後ニャティは、ある牧師に助けられて保護施設で暮らせるようになり、ムピロ病院で抗レトロウィルス薬による治療も受けられることになった。幸い、子どもはHIV陰性だった。

「神のご加護で、この子はHIV陰性だったわ。」とニャティは語った。

ニャティは今では親戚宅に身を寄せて、抗レトロウィルス薬による治療を受けながら、「少なくともこの子が学校に行くまで見届けたい。」として、エイズの進行を抑える効果があるとされるバランスダイエットに挑戦している。

「ジンバブエ人口保健調査(ZDHS)」によると、15~19歳の女子の出産率は2006年には1000人中99人だったが、2011年には112人に上がっている。

「これは大幅な上昇です。」と国連人口基金(UNFPA)ハラレ事務所のスチュワート・ムチャペラ氏はIPSの取材に対して語った。

ニャティのように農村部に暮らす少女は都会で暮らす少女よりも10代で妊娠する確率が2倍も高くなっている(都市部の1000人中70人に対して農村部では144人)

危険な妊娠

「思春期は身体に急速な変化が生ずる時期にあたるため、若者がこの発達段階を安全に乗り切るためには大人たちによる適切な指導が必要です。」とムチャペラ氏は語った。

ムチャペラ氏は、十代の妊娠率を引き上げている要因として、思春期に関する適切で正確な情報が不足している現状を挙げ、「そのために、若者が不十分な知識しかない同世代の友人が提供する情報や無軌道なインターネット検索情報に頼らざるを得ないでいる。」と指摘した。

また、『児童婚』のような文化的・宗教的規範によるものや、異世代間の性交渉(intergenerational sex)、金品と引き替えに要求される性交渉(transactional sex)のような社会問題による要因を挙げた。

先述の「ジンバブエ人口保健調査」によると、15~19歳の性的に活発な女性のうち9割が何らかの婚姻状態にあり、そのなかで15歳になる前に性的関係を持った女性の3分の2が、意思に反した性交渉を経験していた。

さらに、近年の政治経済危機で貧困層が拡大した一方で、保健・教育サービスが途絶した。こうした中、少女らは食料、衣服、通学、安全を確保する手段として、危険な性交渉をするようになった。

ブラワヨで助産師をしているシマンガ・ンコモは、IPSの取材に対して、「年を追うごとに主産する少女の低年齢化が進んでいて心配です。中には14歳やもっと若い子もいましたよ。彼女たちの大半は妊産婦の健康について十分な知識を持ち合わせておらず、妊産婦死亡に繋がるリスクが高いのです。」と語った。

15~19歳の妊婦の死亡率が20代女性の2倍なのに対して、妊婦がさらに若い10~14歳の場合は5倍に跳ね上がる。

シフォ・ニクベもブラワヨ在住の十代の母親である。ニクベは高校での成績は優秀だったが、男の子の妊娠・出産を契機に勉強を止めてしまった。子どもは今では生後7カ月である。

「一時的なつきあいで始めたものが、いろいろなことが重なって気が付けば妊娠していました。避妊具の知識はありましたが、なぜか使いませんでした。」とニクベは語った。ニクベの場合、母子ともにHIVには感染していなかった。しかしジンバブエの労働人口(15~49歳)のHIV罹患率が15%近いことを考えると、結果が異なっていたとしても不思議ではない。

国連児童基金によると、2012年現在、ジンバブエの15~19歳の青年のうちHIV陽性が12万人おり、そのうち6万3000人が女性である。

ニクベは、ブラワヨ郊外の人口密集地ムポポマ地区に2部屋の家を借りて2人の兄弟(13歳と7歳)の面倒を見ている。彼女の両親は南アフリカ共和国に出稼ぎに行っており、年に3回帰ってくるが、普段は僅かな仕送りがあるだけである。子どもの父親はジンバブエ西部のヴィクトリア・フォールスで働いており、余裕のある時は仕送りをしてくれている。

「今は全てを後悔しているわ。でも自分がしでかした馬鹿げた選択と共に生きていくしかないのよ。今は高校に復学してこの子を育てることができたらいいなと思っています。」とニクベはIPSの取材に対して語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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