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核兵器なき持続可能なグローバル社会へ

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

アイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イェイツは、1919年の有名な詩「再臨(The Second Coming)」で、第一次大戦後の混乱と無秩序についてこう書いている。「世界はバラバラになり、中心は持ちこたえられない/無秩序がこの世にぶちまかれ/いたるところに血で濁りきった潮が押し寄せ/無垢な儀式(従来の慣習を重んじる伝統的な階級)を飲み込んでしまう/すべての信念が失われ、最悪が/熱を帯びて充満している。」世界戦争こそ起きていないが、ふたたび世界がバラバラになっていくような現代、仏教哲学者で教育者の池田大作創価学会インタナショナル(SGI)会長は、希望を捨てず「グローバルな変化を引き起こすための価値を創造する」方途を示している。

東京に本拠を置く在家仏教組織で、世界に1200万人以上の会員を擁するSGIの創立記念日(1月26日)に寄せて、池田会長は「21世紀の潮流を希望と連帯と平和の方向に力強く向けながら、全ての人々が尊厳を輝かせて生きられる『持続可能な地球社会』を築くための方途についての考え」を提言している。

池田会長は、1月26日に発表された2014年の「平和提言」の中で、持続可能な地球社会を築くために肝要な3つの領域に焦点を当てた提言を行っている。3つの領域とは、①世界市民教育、②異常気象や災害による被害を減らすための地域的協力メカニズムを設置することによって、アジアやアフリカなどの地域でレジリエンス(深刻な外的ショックに対して社会を回復する力)を強化すること、③核兵器の禁止・廃絶である。

池田会長は、「近年、災害や異常気象による被害が深刻化する状況を踏まえると、国際的な支援の強化のみならず、『いかに脅威に備えるか』『危機に直面した時どう対応し、どう回復を図るのか』との観点に基づいた取り組みが急務であり、社会のレジリエンスを高める必要性が叫ばれるようになってきました。」と述べている。

つまりそれは、共通の目標に向けて協働しその目標に向けた前進を確かな手応えとして感じたいという人びとの自然な欲求に根差した、希望ある未来を実現することである。池田会長はこれを「未来を創るための人類の共同作業(それぞれの地域で誰もが関わることができる、持続可能な地球社会のかけがえのない基盤を築くプロジェクト)の一体的な側面」と呼んでいる。

世界市民教育

UN General Assembly/ Wikimedia Commons
UN General Assembly/ Wikimedia Commons

池田会長は、持続可能な地球社会を築くためには、特に青年に焦点をあてた世界市民教育が重要だと考えている。「持続可能な開発目標(SDGs)」と呼ばれるあらたなグローバル開発目標の採択が予定される2015年9月の国連サミットを念頭に置き、池田会長は、次のような内容を教育関連の目標に含めるべきだと強く呼びかけている。すなわち、「初等・中等教育の完全普及」、「すべての教育レベルでの男女格差の解消」、「世界市民教育の促進」である。

池田会長はまた、「世界市民教育プログラム」の骨格に据えることが望ましい3つの観点として、①人類が直面するさまざまな問題への理解を深めるような教育、②グローバルな危機が悪化する前に、それらの兆候が表れやすい足元の地域において、その意味を敏感に察知し、行動を起こしていくための力をエンパワーメントで引き出す教育、③自国にとって利益となる行動でも、他国にとっては悪影響や脅威を及ぼす恐れがあることを常に忘れず、他の人々の苦しみを思いやる想像力と同苦の精神を養う教育、を提起している。

さらに池田会長は、教育と並んでSDGsで焦点が当てられるべき領域として「青年」を挙げ、SDGs策定にあたって、含められるべき3つのガイドライン(①「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の確保に各国が全力を挙げること、②社会が直面する問題を解決するプロセスに「青年の積極的な参加」を図ること、③国境を越えた友情と行動の連帯を育む青年交流を拡大すること)、を提案している。

とりわけ交流を通じて育まれた友情や心の絆は、憎悪や偏見に基づく集団心理に流されない防波堤として機能するだろう。池田会長は、これらがSDGsに含まれることには大きな意義があると考えているのである。

レジリエンスのための地域協力

また2014年の「平和提言」には、アジアやアフリカをはじめとする各地域で、異常気象や災害の被害を軽減する地域協力メカニズムを立ち上げて、レジリエンスを強化すべきとの提案が含まれている。池田会長は、こうしたメカニズムは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で発展してきたグローバルな規模での対応策と並行する形で機能するだろうと、と述べている。

池田会長は、「事前の備え」「被災時の救援」「復旧・復興」を一連のプロセスとしてとらえ、近隣諸国の間で災害対応の協力体制を築いていくよう呼びかけるとともに、「レジリエンスの強化や復興支援の面で、近隣諸国が息の長い協力を積み重ねていく中で、助け合いと支え合いの精神を地域の共通化として育むことが可能なのです。」と述べている。

ARF DiREx 2013
ARF DiREx 2013

池田会長は、そうした地域協力の先鞭を、災害による被害が最も深刻であるアジアがつけ、世界の他の地域にも「レジリエンス強化と復興支援の協力の輪」を広げる流れをつくることを呼びかけている。そして、そのような基盤が、(災害救援に関する協力のあり方を定期的に)討議する枠組みを持つASEAN地域フォーラム(ARF)において既に存在している点を指摘したうえで、ARFでの実績をベースに「アジア復興レジリエンス協定」を締結することを、アジア地域の国々に訴えている。

さらに池田会長は、姉妹都市間の交流と協力を通じてレジリエンスを強化する取り組みをさらに推奨している。これによって、地域を通じた平和的共存の空間を創出する重要な基盤となるだろう。現在、日中間で354、日韓間で151、中韓間で149の姉妹都市協定がある。さらに、1999年以来、同種の交流を促進するために、日中韓地方自治体会議が毎年開催されている。

池田会長は、環境問題での協力など、この種の協力に向けた対話を開始するため、できるだけ早く日中韓サミットを開催すべきだと強く訴えるとともに、「来年3月に仙台で行われる『第3回国連防災会議』を契機に、どのような協力を具体的に進めるかについての協議を本格化させることを、呼び掛けたい。」と述べている。

核兵器なき世界に向けて

UN World Conference on Disaster Risk Reduction
UN World Conference on Disaster Risk Reduction

池田会長はまた、「先に論じた地震や津波などの被害は、事前の備えで被害の軽減は図れても発生自体は止められないものであるのに対し、その災害以上に取り返しのつかない惨劇をもたらす核兵器の脅威は、大多数の国々の明確な政治的意思を結集することができれば、防ぐことのみならず、なくすことさえ可能なものであります。」と論じている。

この点に照らして、池田会長は、核兵器の禁止と廃絶が持続可能な地球社会の背骨であると考えている。そして、2010年核不拡散条約(NPT)運用検討会議の最終文書、および、ノルウェーのオスロで昨年3月に開催された「核兵器の非人道性に関する国際会議」は、核軍縮・不拡散をめぐるすべての協議の中心に「核兵器の人道的影響」を据えることを求めるますます多くの国々の努力を後押しするものだった、と述べている。

2012年5月以来、これらの政府はこの問題に関する共同声明を繰り返し発し、4回目となった昨年10月の声明の際には、賛同国が「核の傘」の下にある日本などを含めた125か国に拡大した。

池田会長は、核兵器は他の兵器とは決定的な違いがあること、核兵器は決して超えてはならないラインの向こう側に存在すること、核兵器がもたらす惨劇を誰にも味わわせてはならないこと、などの共通認識を強調したうえで、「この認識は、核兵器が国家安全保障上の目的を実現するために使用されうるという考え方そのものを超えるために極めて重要だ。」と論じている。

池田会長は、被爆70周年にあたる2015年に広島・長崎で核廃絶サミットを開くべきとの提案を繰り返した。とりわけ、「核兵器の人道的影響に関する共同声明」の署名国に加え、地球市民社会の代表、特に世界中からの若者たちが「世界青年核廃絶サミット」に集い、核時代に終止符を打つ誓いの宣言を採択するよう望む、と記している。

Photo: The remains of the Prefectural Industry Promotion Building, after the dropping of the atomic bomb, in Hiroshima, Japan. This site was later preserved as a monument. UN Photo/DB
Photo: The remains of the Prefectural Industry Promotion Building, after the dropping of the atomic bomb, in Hiroshima, Japan. This site was later preserved as a monument. UN Photo/DB

これに並行して池田会長は2つの提案を行っている。ひとつは、核兵器不使用協定の締結である。池田会長の見方では、これは、核兵器の人道的影響の問題を2015年NPT運用検討会議の議論の中心に置いた当然の帰結であり、核兵器国が核軍縮を誠実に追求することを約束したNPT第6条の履行を促進する方法でもある。

池田会長は、核兵器国が、NPTの中心的精神に根差した義務のひとつとして、条約加盟国に対して核兵器を使用しないと誓う不使用協定の締結は、同盟国の核の傘に依存している国々に対して物理的・心理的安心を高め、核兵器に依存しない安全保障取り決めへの道を開くことになる、と論じている。

池田会長の第2の具体的提案は、「核兵器の人道的影響に関する共同声明」の取り組みを軸としながら、国際世論を広く喚起し、核兵器の全面禁止に向けた交渉を開始することである。

「『不使用協定』も最終目的にいたる橋頭堡にすぎないだけに、核兵器の禁止と廃絶に向けた挑戦を加速させることが急務であり、市民社会の連帯で後押しすることが欠かせません。」 

ICAN
ICAN

池田会長は、「『深刻な対立が存在した』からこそ危険だった時代から、深刻な対立が抜け落ち、『核兵器が存在しつづけている』からこそ危険という時代へと移り変わった」と指摘したうえで、「冷戦時代には『抜き差しならない対立』が互いの危機意識を高め、抑止政策によって核兵器が角突き合せる対峙を招いていたのに対し、現在では、『世界に核兵器が存在している状況』が常に不安を生むために、新たに保有を望む国が出てきたり、どの保有国も核兵器を手放せない心理が働いているとは言えまいか。」と述べている。

さらに、核兵器をなくすためのもうひとつの冷静な議論は、6年前に始まった世界経済危機が、世界ほぼすべての国々の財政的基盤を揺るがしたということである。にもかかわらず、このますます有用性が低くなる兵器を維持するために、全核保有国で毎年1000億ドルもの資金が費やされている。

結果として、核兵器は「国の威信を高める資産」というよりも、「国の財政を傾ける重荷」になりつつあるとの声が人びとの間で高まりつつある。池田会長は、「こうした状況に鑑みて、保有国は核兵器の存在がもたらす脅威を削減するための行動に踏み出すべきだ。」と述べている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ドバイWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙は、22日から2日連続で日本海に向けて短距離ミサイル(計46発)を発射した北朝鮮の行動について、国際社会ののけ者国家(pariah state)の現政権は「危険なほど予測不能」であることから「全ての国にとっての最良の策」として、これを無視するよう各国に呼びかけている。

同紙は3月24日付の論説の中で、「北朝鮮によるミサイル発射は、韓国が毎年米国と実施している共同軍事演習(野外機動訓練「フォール・イーグル」)を牽制する象徴的な意味合いがある。国際社会が北朝鮮包囲網を形成しているという妄想にとらわれている同国は、この米韓軍事演習を侵略行為と見なすとともに、外国からの侵略に備えて常に警戒態勢を維持する大義名分にしている。」とドバイに本拠を置くガルフ・ニュース紙が報じた。

「しかし、60年前にこの国が危険な個人崇拝に基づく国づくりに乗り出して以来、国民を洗脳し恐怖と拷問で支配する専制国家に成り下がったというが現実である。」

「その結果、北朝鮮は恐怖を梃に行動を繰り返し、南の隣国(韓国)の安定と北東アジアの平和を脅かしてきた。抑制のきかない核開発にせよ、虚偽発表が絶えない大陸弾道ミサイル技術にせよ、国家による数世代に及ぶ人権侵害にせよ、現政権の動向は危険なほど予測不能である。」と同紙は報じた。

「一つ明らかなことは、北朝鮮は国際社会からの譲歩と栄養失調に苦しむ国民のための食糧援助を獲得するために、あえて危険な行動に出る『瀬戸際外交』に熟達した国になっているということである。」とガルフ・ニュース紙は結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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「核兵器なき世界」に焦点あてた3つの会議

【ベルリンIDN=ジャムシェッド・バルーア】

ウクライナをめぐる米露間の緊張が高まり、核問題にも悪影響が出てくると予想される中、核不拡散・軍縮に向けた取り組みを強化するうえで、今年4月に予定されている3つの国際会議の重要性がますます高まっている。

その一つ目は、メキシコで行われた「第2回核兵器の非人道性に関する国際会議」から2か月後に広島で開催予定の「軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)第8回外相会合」(4月11~12日)である。これに、東京に本拠を置く創価学会インタナショナル(SGI)が主催する「核兵器の非人道性に関する宗教間シンポジウム」(ワシントン、4月24日)と、国連本部で開催される「2015年核不拡散条約(NPT)運用検討会議第3回準備委員会」(ニューヨーク、4月28日~5月9日)が続く予定である。

準備委員会は、NPT各条項の履行状況を確認し、運用検討会議に向けて勧告を行うことを念頭に加盟国間の議論を促すことを目的としている。1970年に発効し1995年に無期限延長されたNPTは、5年ごとに運用検討会議を開催することを義務づけている。同条約は、世界の核不拡散体制の要石だとみなされている。

NPDI

UN General Assembly/ Wikimedia Commons
UN General Assembly/ Wikimedia Commons

「核兵器なき世界」の促進は、不拡散・軍縮イニシアチブ(NPDI)の一環として広島で開催される外相会合の目的でもある。NPDIは日本とオーストラリアが主導する国家連合で、全会一致で採択された2010年NPT運用検討会議最終文書の履行を支援するために結成された。

オーストラリア、カナダ、チリ、ドイツ、日本、メキシコ、オランダ、ナイジェリア、フィリピン、ポーランド、トルコ、アラブ首長国連邦からなるNPDIは、NPT交渉のペースや、不拡散・軍縮の両面において速やかに行動に移る必要性に関連した多くの宣言を発してきた。

NPDIは2013年4月にハーグで開催した(第6回)外相会合の共同ステートメントの中で、「全ての条約加盟国による更なる検討のために、核兵器の役割低減、非戦略核兵器、包括的核実験禁止条約(CTBT)、核兵器国への保障措置拡大、非核兵器地帯及び輸出管理に関する作業文書に加え、昨年の軍縮・不拡散教育に関する作業文書を更新したものを提出する等、準備委員会の作業に積極的に貢献する」と決意を表明している。

さらに「我々は、CTBTの普遍化及び早期発効は核軍縮の達成に必須なステップであると確信する。今年のブルネイ及びチャドによる批准により批准国数の合計が159カ国となったことを歓迎する。…我々は全ての非締約国、中でも残りの未署名・未批准の発効要件国8カ国に対し、これ以上の遅滞なくCTBTを署名・批准するよう緊急に求める。」「CTBT批准を促進する特別な責任を持つ核兵器国に対し、この分野において主導的な役割を果たすよう求める。条約の発効まで、全ての国に対し核実験やその他のいかなる核爆発も控えるよう求める。」と述べている。

3つの「阻止」と3つの「低減

広島外相会合の重要性は、1月20日に岸田文雄外相が長崎大学で行った演説でも強調されている。岸田外相は、核兵器が初めて実戦に使用されて犠牲となった広島の出身である。

岸田外相は、「3つの阻止」と「3つの低減」が、「核兵器なき世界にむけた(日本の)基本的な考え方の中心だ、と語った。「3つの阻止」とは、(1)新たな核兵器国出現の阻止、(2)核開発に寄与し得る物資、技術の拡散の阻止、(3)核テロの阻止であり、「3つの低減」とは、(1)核兵器の数の低減、(2)核兵器の役割の低減、(3)核兵器を保有する動機の低減である。

宗教間シンポジウム

Dr. Daisaku Ikeda/ Seikyo Shimbun
Dr. Daisaku Ikeda/ Seikyo Shimbun

SGIの池田大作会長は、「こうした措置の実現には、グローバル市民社会の積極的な参加が必要」として、(2011年の「平和提言」の中で)「国際政治のリーダーシップが欠けているならば、市民社会がその隙間を埋め、世界を新しくより良い方向へ動かすエネルギーの供給源になっていけばよいのです。」「つまり、民衆一人一人がそれぞれの場所で自分にしかできない役割を担うこと自体が、リーダーシップの本旨であるとの発想の転換こそが必要なのです。」と述べている。

池田会長はまた、2013年の「平和提言」の中で、「国家として必要ならば大多数の人命や地球の生態系を犠牲にすることも厭わないとの非道な思想の根を断つ挑戦をしていく必要があります。同時に、核兵器の問題というプリズムに、生態系の健全性や、経済開発、人権等さまざまな観点から光を当てることで、『現代の世界で何が蔑にされているのか』を浮き彫りにし、世界の構造をリデザイン(再設計)すること―そして、全ての人々が尊厳ある生を送ることができる『持続可能な地球社会』を創出できると考えています。」と述べている。

こうした背景に照らせば、米国政府と連邦議会の本拠であるワシントンDCにおいてSGIが主導して開催される宗教間シンポジウムは、きわめて重要なものである。

第3回準備委員会

そして2015年NPT運用検討会議第3回準備委員会も極めて重要な会合である。広島・長崎は、2015年に原爆投下から70年を迎える。SGIの池田会長は、「この会合と2016年の主要国首脳会議(G8サミット)が、核兵器なき世界に向けた拡大サミットへの適切な機会となるだろう。」と指摘したうえで、「この拡大サミットには、国連や核兵器を保有する非G8諸国、5つの非核兵器地帯(南極条約、ラテンアメリカ非核兵器地帯[トラテロルコ条約]、南太平洋非核兵器地帯[ラロトンガ条約]、東南アジア非核兵器地帯[バンコク条約]、アフリカ非核兵器地帯[ペリンダバ条約])、それに、核廃絶に向けて主導的役割を果たしてきた他の諸国からの参加を含めるべきだ。」と提案している。

1月21日にジュネーブ軍縮会議(CD)の2014年会期の開始にあたって演説した国連の潘基文事務総長は、長らく膠着状態が続いているCDの現状に言及し「会議全体に広がってきている悲観論は打破されなければなりません。さもなくば、CDは時流に取り残されることになってしまうでしょう。」と述べ、国際社会の期待に応え、実質的な活動を再開するよう訴えた。

潘事務総長は、事態打開のための方策として、CDが引き続き軍縮交渉再開に向けた道筋を模索し続ける一方で、(有識者パネルや国連総会アドホック委員会の創設など)新たにCD枠外における議論を通じて条約の枠組みと提案を深めていくことも重要だとの持論を披露した。潘事務総長は「将来の交渉に向けたこうした基礎作業を行うことは、CDの意義を改めて示す具体的な第一歩となるでしょう。」と指摘したうえで、「この春に2015年NPT運用検討会議第3回準備委員会が開催されるまでに、CDにおいて大きな進展が見られることを願っています。」と付け加えた。

Ban Ki-moon/ UN Photo
Ban Ki-moon/ UN Photo

第3回準備委員会がきわめて重要な意義を持っていることは、中東非核兵器地帯創設に関する1995年の決議履行に「運用検討会議が一貫して失敗している」ことに抗議して、エジプトが2013年4月の第2回準備会合から途中退出したという事実からも明らかである。エジプト外務省は、2012年中に行われる予定だった「中東非核兵器地帯創設に関する会議」が延期されたのは、2010年NPT運用検討会議の決定に対する違反だと強調するとともに、これによって「NPT体制の信頼性に影響が出てくるかもしれない」と述べている。

中東会議はもともと2012年に開催される予定だったが、中東の全ての国家(とりわけイスラエル)からの会議出席の回答が得られないとして、会議を主催する四者(国連、米、露、英)が延期を決めた。

エジプト外務省は声明で、「NPT加盟国の一部、さらには一部の非加盟国」が会議の開催を妨げていると非難した。また声明は、「エジプトは、1974年に国連で構想を発表して以来、非核兵器地帯の設立に向けて努力してきた。」と指摘したうえで、NPT加盟国、国連、国際原子力機関(IAEA)、国際社会に対して、決議履行に関して責任を果たすよう求めている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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政情不安と難民危機が続く西アフリカ

【アビジャンIPS=マーク・アンドレ・ボワヴェール

西アフリカでは、マリコートジボワールにおける政治危機が最悪の難民危機を引き起こしている。武装勢力が各地で跋扈し政情不安が続く中、難民の帰還問題も長期化する様相を呈している。

ナイジェリアではイスラム過激派組織が民間人を標的にしたテロ行為を繰り返してきたが、今では隣国のニジェールカメルーンに潜伏している。マリでは、国連部隊が政府への軍事支援を行っているが、イスラム過激派武装勢力「西アフリカ統一聖戦運動(MUJWA)」は依然として、各地で爆弾テロを展開するなど脅威であり続けている。

コートジボワールもまた、深刻な政情不安に直面している。同国は3000人に及ぶ犠牲者を出した2010年末の大統領選挙に端を発した内戦のダメージから回復したが、内戦中に隣国のガーナトーゴ、リベリアに避難した難民の帰還は遅々として進んでいない。

Map of Cotegibor
Map of Cotegibor

UNHCRによると、同近隣3か国を中心に国外に暮らすコートジボワール難民は93,738人、さらに国内避難民は24,000人にのぼるという。

しかし内戦中に多くの殺戮が行われた同国西部の低サッサンドラ州では、この数週間の間に再び武装勢力による襲撃事件が再発するなど、政情は不安定なままである。

スウェーデンのウプサラ大学平和・紛争研究学部博士課程の学生イルマキ・カイコ氏は、リベリア東部のコートジボワール難民が多数居住する地域において詳細な実態調査を行っている。

カイコ氏はIPSの取材に対して、「コートジボワール難民の多くは2015年の大統領選挙の結果を見据えてから帰還するかどうかを決めようとしているのです。」「彼らは現職の(アサラン)ワタラ氏が次回大統領選で敗れると予想していますが、もし選挙結果で勝利するようなことになると、再び騒乱が起こりかねないと考えているのです。」と語った。

ワタラ政権は、隣国に逃れた難民コミュニティーに、本国への帰還を歓迎するという政府のメッセージを携えた特使を派遣するなど、難民問題の解決に努力している。

この政策は、最近になってマルセル・ゴシオ元アビジャン港湾局長や1300人を超える元兵士を含む旧ローレン・バボ支持派(先の内戦の敵対勢力)の人々の帰還が実現するなど、ある程度成果を生み出しつつある。

先のコートジボワール内戦で拘束され失脚したバボ前大統領は、内戦期に人道に対する罪を犯したとして逮捕され、国際刑事裁判所の審理にかけられる予定である。

カイコ氏はまた、「難民の安全な帰還を実現するにはコートジボワール西部における土地所有権の問題解決が重要」と指摘したうえで、「現地の緊張状態はいまでも続いており、このまま難民が帰還すれば、暴力的な衝突が再燃するリスクは依然として高い。」と語った。

International Cocoa Organization
International Cocoa Organization

リベリアにおけるコートジボワール難民の大半は同国西部の世界有数のカカオ生産地から逃れてきた人々である。彼らは、コートジボワール政府の「土地は、実際にその土地を耕しているものに属する」という政策に則って、土地を開墾しカカオ栽培に従事してきたが、一方で先住のゲレ族との間に土地の所有権を巡る軋轢が生まれていた。内戦によって彼らが農地から離れたため、もはや土地の所有権は望めないと考えているのである。

カイコ氏は、リベリアに暮らしているコートジボワール難民の多くが本国帰還に消極的な最大の理由は、もはや戻るべき土地がないという土地所有権を巡る問題にあると見ている。

また、ナイジェリアでも政情不安が続いている。

ナイジェリア北部では、イスラム過激派武装組織「ボコ・ハラム」による一連の襲撃事件により、この数か月間で、1,500人が北に隣接するニジェール南部のディッファ地域に、さらに4,000人以上がカメルーンに難民として流出している。

ボコ・ハラムは、学校、病院など、欧米起源と見なされる施設を標的に襲撃を繰り返しており、治安の悪化とともに、近隣諸国や国内避難民が増加し続けるなか、難民への支援活動が困難になってきている。

ただし、治安悪化が原因で人道支援活動が困難になっているのはナイジェリアだけではない。

西アフリカ全域を通じて、援助活動に従事する要員が誘拐や襲撃を受ける事件が頻発しているほか、帰還難民も襲撃の標的になってきている。2月8日にはマリのキダルからガオに移動中の4輪駆動車がMUJAOに襲撃され、国際赤十字委員会のマリ人職員4人と他の援助団体の獣医師1名が拉致されている。

襲撃事件が頻発する中、多くの人道支援団体は、支援活動のため危険地帯に赴かざるを得ない職員のための治安対策を強化することを余儀なくされている。

「この地域では、武装勢力から職員を拉致されないように武装兵士によるエスコートが欠かせません。」とUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)ブルキナファソ事務所のムハンマド・バー広報官はIPSの取材に対して語った。

マリと国境を接するブルキナファソの情勢は比較的安定しているが、バー広報官は、「(マリに近い)北部遠隔地域、とりわけドーリやディーボ地域では厳格な安全措置を講じてスタッフの活動の範囲を制限せざるをえなくなっています。」と語った。

これにより人道援助活動や帰還難民の支援活動に支障がでてきている。

UNHCRマリ事務所のアリヴィエ・ビーア氏はIPSの取材に対して、「政情不安により、マリ国内で帰還難民へのアクセスが困難になっており、NGOの中には帰還難民が暮らす地域における活動を制限するところも出てきています。私たちがそうした地域に出向いて帰還難民に対する支援活動を行うには、国連マリ多元統合安定化ミッション(MINUSMA)の支援が必要なのです。」と語った。

UNHCR
UNHCR

2012年12月にフランス軍がイスラム過激派武装組織の拠点に対する空爆を開始する数週間前の段階で、隣国に逃れたマリ人難民及び国内避難民の数は50万人に上っていた。

その後、MINUSMAが徐々に軍事作戦に取って代わり国内治安の安定化作業を進めるなか、隣国のブルキナファソ、ニジェール、アルジェリア、モーリタニアの各地に点在する難民キャンプに暮らすマリ人難民の数は167,000人に減少している。現在、マリ国内の避難民の数は約20万人である。

なお、UNHCRは現時点で難民の帰還を積極的に勧めていない。

「UNHCRが難民の帰還を支援する際には、難民の安全と尊厳が守られるよう一定の保護基準が満たされていなければなりません。」とビーア氏は語った。しかしマリでは、住宅や学校の不足、政情不安、司法へのアクセスの不在等の諸要因から、難民の帰還プロセスが遅れている。

しかしたとえ治安問題が解消されたとしても、難民の帰郷にはさらに多くの時間を要するかもしれない。いくつかの国連諸機関およびNGOが、現在西アフリカ地域は深刻な食糧危機に直面していると警告している。

英国に拠点を置く人道支援団体「オックスファム・インターナショナル」は、現在食料支援を必要としているマリ難民の総数は80万人以上に及んでおり、作物の収穫が少なくなる5月中旬以降には、さらに危機的な事態に発展する可能性があると予測している。

コートジボワール難民も同様に厳しい状況に直面している。UNHCRリベリア事務所のカシム・ディアニュ代表は、「もし難民に対する食糧供給量が2か月以内に増やされない場合、52,000人以上のコートジボワール人難民が餓死するだろう。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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クリミア問題で綱渡りを強いられるトルコ

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【イスタンブールIPS=ドリアン・ジョーンズ】

クリミア半島(自治共和国)をめぐるロシア・ウクライナ危機が、トルコに微妙な対応を強いている。トルコとしては、クリミアの少数派民族タタール人の擁護者として振る舞う必要がある一方、ロシアのウラジミール・プーチン大統領に対して強硬な態度に出ることで、トルコ‐ロシア間の経済関係を悪化させたくない思惑があるからだ。

トルコがクリミア情勢に関心を持つのには十分な理由がある。クリミアは1475年から1783年までオスマン・トルコ帝国を宗主国とする独立国(クリミア・ハン国)であった。またトルコ人は、クリミア人口の約15%を占めるクリミア・タタール人と文化的に強いつながりを持っている。

トルコ国内には現在数十万人のタタール人が少数民族として暮らしているが、そのほとんどが1783年にクリミア・ハン国がエカテリーナ2世治世期(1762年~96年)のロシア帝国に併合された際にトルコに移住してきたタタール人の末裔である。

こうした歴史的・文化的要因もさることながら、クリミア・タタール人問題に関するトルコ政府の姿勢を形作っている最大の要因は国内の政治情勢であろう。

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、側近や家族に大規模な汚職疑惑が持ち上がって、このところ政治的立場が危うくなっている。現在エルドアン首相は、スキャンダル発覚後初となる統一地方選挙を3月30日に控えて、政権基盤の立て直しに躍起となっている。

エルドアン首相が率いる与党公正発展党は、草の根の国粋主義的勢力をひとつの支持基盤としているため、党内首脳陣は、ロシア軍占領下にあるクリミア半島(1954年以来ウクライナ領)のタタール人の利益を擁護するトルコの政府姿勢を喧伝している。

トルコのアフメット・ダーヴトオール外相は、3月3日にトルコ在住のタタール人協会の代表者らと会見し、「我が国の首相や大統領がクリミア半島や世界各地の兄弟(タタール人)に影響を及ぼす問題について、よもや無関心だなどとは決して思わないでください。」と明言した。

この外相のコメントが出された前日、クリミアのタタール人同胞に対してトルコ政府が十分な対応をしていないと批判する抗議集会が、数百人が参加した首都アンカラをはじめ、多くのタタール人が住む国内各地の都市で繰り広げられた。

CNNのトルコ語放送は、クリミアに本拠を置くクリミア・タタール国会のトルコ代表ザフェル・カラタイ氏が「私たちは今日クリミアで起こっている現実に戦慄を覚えています。」と語る様子を報じた。

昨年夏に勃発したゲジ公園(イスタンブール中心部のタクシムに唯一残った緑地)再開発に端を発した反政府デモの余波に加えて、新たに噴出した不正疑惑で窮地に追い詰められているエルドアン政権にとって、海外の同胞クリミア・タタール人問題で、国内で弱腰だと見られることは、政治的に致命的な打撃を被ることになりかねない。

カーネギー国際平和財団欧州センター(ブリュッセル)のシナン・ウルゲン客員研究員は、「彼ら(与党公正発展党の首脳陣)は、国内の国粋主義支持層から、(クリミア半島の)タタール人同胞を守れなかったと批判されたくないのです。中東で虐げられた人々の擁護者を自認してきたトルコ政府が、自らの同胞であるクリミア・タタール人の運命に無関心であったと見られる訳にはいかないのです。」と語った。

トルコ政府は3月上旬にダーヴトオール外相をウクライナに派遣し、クリミア・タタールコミュニティーの代表と会見するなど、タタール人コミュニティを支援する意思を強く打ち出しているが、一方で国内では、国粋的な熱気を抑え込むことに躍起となっている。

その理由は、近年深化を遂げてきたロシアとの経済関係である。トルコは天然ガスの半分以上をロシアに依存している。またロシアは、トルコからの輸出先としては世界第6位(2013年の統計で72億ドル)であり、トルコ経済省の統計によれば、2012年末現在でトルコの対ロシア直接投資額は90億ドルとなっている。

トルコとロシアの外交関係はシリア政策を巡る相違から既に緊張状態にあり、トルコ政府としては、今回のクリミア問題でロシアに対して強硬な態度をとることはなるべく控えたいようだ。トルコ大統領府の公式声明によると、3月5日にプーチン大統領と電話会談を行ったエルドアン首相は、「今日のクリミア危機を招いた『最大の』責任は、ウクライナの現政権にある。」と指摘したうえで、「(ウクライナの)政情不安は、地域全体に悪影響を及ぼすでしょう。」と語ったという。

3月6日、国営放送のテレビ番組に登場したタネル・ユルドゥズ・エネルギー天然資源大臣は、ロシアからの天然ガス供給が滞るのではないかとする国内の不安を懸命に打ち消すとともに、「アゼルバイジャン等他国から新たに天然ガスの供給を得る方策を探る必要はありません。」と明言した。

しかし、こうした外交上のバランス政策をこなしていくことは、今後数週間から数か月、エルドアン政権にとって、ますます困難になっていくだろう。先述のウルゲン客員研究員はこの点について、「クリミアで最近実施された住民投票の結果が、ロシアへの編入を支持するものであったことから、エルドアン政権は難しいジレンマに直面することになるだろう。」と指摘している。

さらにウルゲン氏は、「トルコ政府は、これまでウクライナの領土保全とソ連・ロシア支配下のクリミア・タタール人に対する迫害を問題視する主張を展開してきた経緯から、もしクリミア半島がウクライナからロシアに割譲される事態になれば、トルコ政府はロシアに対してこれまでよりも遥かに厳しい態度を取らざるを得なくなるだろう。」と語った。

クリミアの首都シンフェロポリで6日に記者会見したタタール民族運動の指導者ムスタファ・ジェミリエフ氏は、トルコのダーヴトオール外相が、もしクリミアのタタール人が危険にさらされたらトルコは「直ちに関与する」と約束した、と述べた。

もしクリミア半島でタタール人とロシア系住民の間に衝突が生じれば、トルコ国内で愛国主義が再燃し、トルコ政府に対して、タタール人救済になんらかの行動をおこすよう求める圧力が強まるだろう。

イスタンブール工科大学のトルコ民族とトルコナショナリズムの専門家ウムト・ウゼル氏は、「(トルコ国内には)率先して現地(クリミア半島)に出向いて戦う用意ができている国粋主義者がいます。」と語った。

しかし、これ以上ロシアへの対決姿勢を強めれば、国内の保守勢力を満足させられたとしても、ロシアとの貿易関係が決定的になるリスクを避けられないことから、エルドアン政権としては、慎重にならざるを得ないだろう。

「とりわけエルドアン首相はプーチン大統領との間に良好な関係を構築してきたと思われることから、トルコ政府としては、ロシアとの二国間関係を危機に晒したくないというのが本音です。従って、エルドアン首相が今以上の対決的な姿勢をロシアに対してとることは極めて難しいと考えられます。」とウルゲン氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【アブダビWAM】

飢饉が発生し人道危機に陥っているパキスタン最大の砂漠地帯であるシンド州タルパールカル地区に対して、アラブ首長国連邦(UAE)政府は大統領の指示に基づいて緊急の食糧・医療支援を含む多次元に亘る支援を実施している。

「UAEは中東地域有数の人道支援提供国であるとともに、昨年台風第30号(ハイエン)で甚大な被害を被ったフィリピンに10億ドル規模の支援を行った例にも明らかなように、伝統的に世界中の支援を必要としている人々を人道主義の観点から援助する方針を堅持している。とりわけ大洪水・地震・飢饉などの大規模災害に頻繁に襲われているパキスタンに対して、一貫して多方面に亘る支援の手を差し伸べている。」とUAEの英字日刊紙「カリージ・タイムス」は3月14日付の論説の中で報じた。

また同紙は、「今回の飢饉に対してUAEパキスタン支援プログラム(UAE PAP)を通じて動員した基本食料品は1500トンにのぼり、1月に実施した食糧援助の規模(1600トン)に迫りつつある。UAEは1月にも洪水と対テロ掃討作戦で国内難民化した人々が寒波で飢餓に喘いでいる事態を緩和するため大規模な援助を実施した。」と報じた。

「またUAE PAPは、災害時の緊急支援とは別に、2011年からパキスタンの民衆の生活向上を目的とした開発援助(道路・橋梁建設、教育・保健支援・水供給向上支援等)を行っている。」

また同紙は、「UAEのパキスタンに対する援助については、少し前に、パキスタンがUAEではなく、他の2020年万博開催候補国を推していたとして非難する『全く不必要な』議論が取り沙汰された(パキスタン政府はそれはUAEのドバイが立候補する以前の約束だったと説明)。」点を指摘したうえで、「UAE政府の現実の行動が示している通り、UAEはパキスタンを兄弟国・友好国と見なしており、かかる噂や議論でUAE指導者層の寛大な人道支援の方針が影響をうけることは全くない。」と結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【ベルリンIDN=ジュリオ・ゴドイ】

米国政府は、(ロシア政府が)2段式の地上発射巡航ミサイル「RS-26」の発射実験を行ったことは1987年の中距離核戦力(INF)全廃条約違反だとして、非公式にロシアを非難している。

INF条約は両国に対して、弾道および巡航ミサイル、地上発射の中距離(1000~5500km)および短距離(500~1000km)ミサイルの生産・実験・配備を禁止しているが、米国はロシアのINF条約違反疑惑について、これまでのところ公式には言及していない。しかし、米国政府高官らは、(ウクライナ情勢を背景に)ロシアとの関係がとりわけ緊張感を増すさなか、米メディアに対するリークを始めている。

1987年、数年間の協議を経て、北大西洋条約機構(NATO)と当時のソ連は、米国の「パーシングIb」や「パーシングII」、「BGM-109Gグリフォン」など、すべてのミサイルや関連兵器を破壊し生産停止することに合意した。この際ソ連側は、1987年時点で核弾頭を搭載した最新型地上発射巡航ミサイル「SSC-X-4」を含むすべてのSSシリーズのミサイルを廃棄した。

中距離核戦力全廃条約/Wikimedia Commons
中距離核戦力全廃条約/Wikimedia Commons

『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、「INF条約による制限の結果としてロシアのミサイル能力に残されたギャップ」を埋めるために、地上発射巡航ミサイル「RS-26」(ロシアはこれを「ミサイル防衛キラー」と形容している:IPSJ)の実験が行われたという。また同記事は、米国のローズ・ゴットモーラー国務次官補代理が1月中旬にNATOに対して米国のデータを提供したとしている。

アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のダン・ブルーメンタール氏やマーク・ストークス氏などの軍事専門家によれば、ロシアにとってのINF条約最大の問題は、同条約に縛られない中国が自前の中距離核戦力を整備しつづけている点にあるという。両氏は『ワシントン・ポスト』への寄稿の中で、「ロシアは、もし中国が同条約に署名しないなら条約から脱退するとすでに脅しをかけている」と述べている。

もしこの米国での報道が真実なら、ロシアの実験は、NATO・ロシアが軍縮協議を継続している裏で、既に新たな核軍拡競争を始めているではないかという、数多くの平和・反核活動家の警告を証明するものとなるだろう。

というのも、NATOも、とりわけ西欧諸国に配備している「B61」核弾頭を「近代化」する計画を保持しつづけることで、(ロシアと同じく)核能力の「ギャップを埋め」ようとしているからだ。

さらに、インドやイスラエル、北朝鮮、パキスタンを含めた実質上のすべての核兵器国が、このところ少なくとも1度は中距離ロケットや核兵器の能力を向上させている。

欧州に配備されている恐るべきB61は冷戦の遺物である。この大量破壊兵器が実際にどれだけ配備されているかは軍の極秘事項であるが、約20発がドイツ南西部の村ブエッヘル近くにある軍事基地、さらに、数は不明だが最大200発のB61が、NATO加盟国のベルギーイタリアオランダトルコに配備されている。

B61核爆弾/Wikimedia Commons
B61核爆弾/Wikimedia Commons

NATO、というよりもむしろ米国政府によると、B61はその旧式な性格を考えると近代化のための改修は必要なことだという。米上院での公聴会によると、これらは「無能兵器」(dumb weapons)あるいは「重力」爆弾と呼ばれており、目標地帯に対して軍用機から投下され、レーダーによって誘導される仕組みだが、このレーダーはそもそも「耐用年数5年」を想定して1960年代に作られたものであることが明らかになっている。

こうした「無能核兵器」を航空機から投下することは、それが想定どおり爆発した場合、広大な地域が地表から消し去られてしまうことを意味する。

さらなる危険

古い核爆弾B61には、とりわけNATO軍や欧州市民にとってさらなる危険な面もある。2005年に行われた米空軍のある調査では、欧州の核兵器維持に係る手続きはリスクを抱えており、雷の落下によって核爆発を起こす危険性があると判明している。

FAS
FAS

また2008年に行われた別の米空軍調査では、欧州における「ほとんどの」核兵器配備地は、米国の安全指針を満たしておらず、これを標準並みに引き上げるためには「相当の追加資源を必要とする」と結論づけている。

これらすべてのリスクが昨年末に米議会が開いた公聴会の場で確認されており、この公聴会で米軍関係者は、B61について予定される近代化改修の内容について説明している。

マデリン・R・クリードン国防次官補(グローバル戦略問題担当)が米下院小委員会で昨年10月に述べたように、米政府は公的にはこの近代化改修を「全面的耐用年数延長プログラム」(LEP)と称している。

この審議においてクリードン次官補は、B61は「米国の核備蓄の中で最も古い弾頭の設計であり、その部品の一部は1960年代にまで遡ります。」と指摘したうえで、その近代化改修は「軍事的な要請に合致し、より手頃なメンテナンス費用で耐用年数の延長を可能にするものです。また、米核安全保障局(NNSA)が、安全・確実で効果的な核備蓄を提供するために不可欠としている更新要件も満たしています。」と証言した。

同じ公聴会で証言に立った米戦略軍のC・R・ケーラー司令官は、多くの平和活動家らが長年指摘してきたにも関わらずNATOが最近まで一貫して否定してきた内容について語った。ケーラー司令官は、「平均的なB61は、配備開始から25年ほど経過しているため旧式の技術を含んでおり、性能を維持するには頻繁に手を入れねばなりません。」と指摘したうえで、「この陳腐化しつつある兵器を、もともと想定されていた耐用年数をはるかに超えて、安全・確実、かつ効果的な状態に保つには、非常措置をとる以外に方法はありません。」と証言した。

Gen. C. Robert Kehler
Gen. C. Robert Kehler

もし近代化のスケジュールが守られるとすれば、新型の「B61-12」は2020年までに運用可能となる。NNSAの現在の推計ではこれには少なくとも80億ドルの費用が掛かる。

しかし、ワシントンに本拠を置く「軍備管理不拡散センター」は、国防総省の第三者評価では実際のコストが100億ドルを超えることもありうるとされたことを指摘している。この費用だと、LEPは爆弾1発ごとに2500万ドルを要することになる。また同センターは、「プラウシェア財団」がこの価格では改修されたB61は同じ重さの金よりも高価になると批判していることを紹介した。

LEPに批判的な人びとによれば、近代化はたんに「耐用年数延長」だけを意味するのではなく、兵器の能力を格段に向上させる意味合いもあるという。

米科学者連盟」核情報プロジェクトの責任者で核兵器に関するもっとも著名な民間専門家のひとりであるハンス・M・クリステンセン氏は、LEPは「新しい軍事的任務を支援したり、新しい軍事能力を付与したりするものではない」という米政府当局の当初の誓約内容と、この兵器の新しい特徴とは矛盾している、と指摘している。

Hans Kristensen/ FAS
Hans Kristensen/ FAS

LEPに関する新情報は[米政府の主張とは]まったく逆の状況を示している。

クリステンセン氏は、「誘導尾翼を取り付けたことで、B61-12の命中精度が他の兵器と比較して向上し、新たな戦闘能力が付与されることになります。」「米軍当局は、50キロトンのB61-12が(再利用されたB61-4弾頭とセットで)360キロトンのB61-7弾頭と同じ標的をたたく能力を得るには、誘導尾翼が必要だと説明しています。しかしB61-7が配備されたことがない欧州では、誘導尾翼が付くことで(B61-12の)軍事能力が格段に向上することになるのです。これは核兵器の役割を低減させるという公約には見合わない改善措置と言わざるを得ません。」と語った。

比較のために言えば、米国が1945年8月6日に日本の広島市を破壊するために投下した原爆「リトル・ボーイ」の爆発力は13~18キロトン、その3日後に長崎市を破壊した「ファット・マン」の爆発力は22キロトンだった。

昨年10月に米下院が開いた公聴会で、B61-12は、1997年に導入された旧型で400キロトン規模の地中貫通型核兵器「B61-11」と、最大1200キロトンで様々な爆発力を持つ戦略核弾頭「B83-1」の代替となることが明らかになった。

クリステンセン氏は、「これによってB61-12の軍事能力は、B61-4(0.3キロトン)からB83-1(1200キロトン)に至る、重力爆弾の軍事的標的任務の全範囲と、B61-11の地中貫通能力までカバーするものとなります。」「つまり、そのような破壊能力の更新がなされれば、新戦力は『重力爆弾のあらゆる任務を包含した、共通の能力を持つ全対応型の核爆弾』となるでしょう。」と語った。

もっとも問題なのは

B61の大量破壊能力を極度に向上させる計画には多くの問題が内包している。なぜなら、欧州各国政府、とりわけドイツが、少なくとも2009年以降、この兵器の解体を希望する旨を明確にしてきているからだ。

世界中に拡散する核兵器を「冷戦の最も危険な遺産」だとした、2009年4月のバラク・オバマ大統領の歴史的なプラハ演説に対して、当時のドイツ政府は、国内に配備されている旧型のB61を解体するよう主張したのであった。

社会民主党出身の当時のフランク・ウォルター・シュタインマイヤー外相は、自ら「前例がない」と称する声明において、ドイツ領に配備されている米核兵器の撤去を要求した。2009年4月、オバマ大統領のプラハ演説からわずか数日後、シュタインマイヤー外相は独『シュピーゲル』誌に対して、「(B61核)兵器は今日軍事的に陳腐化している」と述べ、依然として配備されている米核兵器を「ドイツから撤去させる」ための措置をとると約束した。

それから2年、次の保守政権のギド・ヴェスターヴェレ外相も、B61解体の主張を続けた。キリスト教民主同盟・自由民主党連立政権のヴェスターヴェレ外相は、前任のシュタインマイヤー氏と同じく、反核活動家と同じような主張を行い、こうした核戦力は多くの意味において陳腐化していると訴えている。具体的にはその論拠として、B61はすでに使用されていない他の軍備とセットで使用することが想定されており、さらに、現在は存在しない旧ソ連圏という敵をターゲットとしている点を指摘している。

2010年3月、ドイツ連邦議会ブンデスターク)では圧倒的多数の支持で、「米国の核兵器をドイツ領土から」撤去するよう明確に要求する決議が採択された。

しかし、シュタインマイヤー氏もヴェスターヴェレ氏もNATO全体、そしてとりわけ米国を説得することに失敗している。それどころか、ワシントンで決定された既成事実、すなわち、B61が近代化改修されて(ハンス・クリステンセン氏の巧みな表現を再び用いれば)「共通の能力を持つ全対応型の核爆弾」となるにまかせざるを得なくなっている。

その後シュタインマイヤー氏は再び外相に就任したが、核撤去問題を公に論じることをとうに止めてしまっている。クリステンセン氏がヴェスターヴェレ前外相についてコメントしたように、シュタインマイヤー氏も「NATOにおける古い核の番人らからの猛烈な巻き返しに身を固くして」いるのかもしれない。

しかしシュタインマイヤー氏は、すべての政党が参加して米国の核兵器をドイツから撤去すべきと主張した「ドイツ国会議員宣言」に、少なくとも2年も経たない以前に署名しているのである。当時(野党の)社会民主党議員団のリーダーであったシュタインマイヤー氏らはこの宣言において、当時の与党保守連立政権(キリスト教民主同盟・自由民主党)がこの同じ目標を達成できないでいることについて「残念なことに、我が国の政府は、すでにこの目標に別れを告げてしまったかのようだ。」と痛烈に非難していた。

この同じ非難を、再度外相となったシュタインマイヤー氏に対して投げかけることができるだろう。彼は、NATOの核兵器を欧州領土から撤去すべきだという自身の信念に従っていない。ウクライナ動乱によって引き起こされた新たなNATO・ロシア危機は、シュタインマイヤー氏が自身の心変わりに疑問を付すような機会を確実に提供することだろう。(原文へ

※ジュリオ・ゴドイは、調査ジャーナリストでIDNの副編集長。共著の『殺人の実行―戦争というビジネス』『水を売り歩く者たち―水の民営化』に関して、ヘルマン・ハメット人権賞、米職業ジャーナリスト協会による「オンライン調査報道シグマ・デルタ・キー賞」、オンラインニュース協会および南カリフォルニア大学アネンバーグ・コミュニケーション学部による「起業的ジャーナリズムのためのオンラインジャーナリズム賞」等によって、国際的な評価を得ている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【ドバイWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)ドバイの国際空港では、3月29日のアースアワー(世界約150か国の人々が、同じ日の同じ時間に電気を消すアクションを通じて、「地球の環境を守りたい!」という思いをわかちあう国際的なイベント)に向けて、空港施設内の不必要なライトを毎日1時間消灯するキャンペーンを、通常よりも早く開始した。

キャンペーンはアースアワーの24日前に当たる3月6日午後7時に開始されたが、一部消灯措置による空港の安全な運営への影響はない。

ドバイ国際空港最高経営責任者のポール・グリフィス氏は、「当施設は2009年以来、1時間一部の電灯を消すことで毎年アースアワーに参画してきましたが、この活動を通じて、環境問題への意識を新たにするとともに、国際社会に対して、良い先例を率先して示すことができる機会だと考えています。またこの経験から、アースアワーの当日に限らず、この慣行を前倒しに行うことで、更なる波及効果を期待できるのではないかと思うようになりました。」と語った。

さらにグリフィス氏は、「ドバイ国際空港は毎月世界125ヵ国以上の国々から600万人近い搭乗客を迎える施設ですから、このキャンペーンを通じて、この環境保護メッセージを利用客に幅広くアピールするには理想的な舞台です。」と付け加えた。

24時間時間の消灯(1日1時間×24日)で節約できる電力量は約30万キロワット時で、二酸化炭素排出量に換算すると129トン、ガソリン換算で23,729ガロン、或いは5,427本分の樹齢10年の木を植樹したのに相当する。

3月6日から28日までの毎日午後7時から8時の間、そしてアースアワー当日3月29日の午後8時半から9時半の間、ドバイ国際空港の第1~第3ターミナル、及びアール・マクトゥーム国際空港の乗客ターミナルにおいて、全ての装飾的な照明のスイッチが切られる予定である。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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