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|報告書|世界経済に悪影響与える児童栄養不良

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

国際援助団体「セーブ・ザ・チルドレン」(STCが5月28日に発表した最新報告書によると、児童栄養失調は健康上の被害のみならず、患者の基本的な技能を身につける能力も奪うため、世界経済に年間数十億ドルもの被害をもたらしているという。

この追跡調査報告書(23頁)は、慢性的に栄養失調を経験した子どもたち(今日の世界では4人に1人の新生児がこのケースにあたる)の基本的な学習能力(読み書き・計算)は、そうでない子どもたちと比べて著しく劣っており、成長後の所得レベルも20%低いものであったと指摘、このことから、栄養失調に伴う認知問題がこうした子どもたちが暮らす国の経済成長にとっても大きな足枷となっていると結論づけている。

この報告書「知性を奪う食料不足:栄養不足解決で子どもの潜在能力を引き出し、繁栄をもたらす」は、この分析結果から、現在の児童が成人する2030年ごろまでには、子どもの栄養失調問題により世界経済が被る損失規模は年間1250億ドルに達するだろうと推計している。

またこの報告書は、6月17、18の両日に英国北アイルランドで開催される主要8カ国(G8)首脳会議に出席する各国首脳に対して、子どもの栄養失調問題について、援助額の大幅拡充を含むより積極的な取り組みをとるよう、強く求めている。

「幼児期における栄養失調の問題は、途上国で今日危機的な状況にある読み書き・計算能力の問題の主要原因であり、今後の幼児死亡率を引き下げる取り組みにとっても大きな障害なのです。」とSTCのキャロライン・マイルズ事務局長は語った。

「母子にとって極めて重要な最初の1000日間(妊娠から子どもが2歳の誕生日を迎えるまでの期間)に母子の栄養状態を改善できれば、子どもの成長・学習・貧困からの脱出のための能力を大きく高めることが可能になります。G8首脳はこの重要な『最初の1000日期間』に栄養失調を改善する具体的な対策をとることを公約し、子どもたちの未来に投資すべきです。」とマイルズ事務局長は付け加えた。

国連がまとめた2012年の統計によると、南アジアでは5歳以下の子供の半分近く、また、サブサハラアフリカでは同年代の子どもの39%が栄養不足による発育不良の状態に陥っている。中でも最も深刻な状況に直面しているのインド(約6000万人)とナイジェリア(1100万人)である。

またこの報告書は、2015年に期限を迎えるミレニアム開発目標(MDGsについて、国際社会が過去20年間に「幼児死亡率の削減」と「初等教育での就学率向上」の分野で、目覚ましい成果を上げてきたが、ここにきて、栄養失調の問題によりその成果も脅かされていると指摘している。

STCによると、1990年から2011年の間に、5歳以下で死亡した子どもの数は1200万人から690万人に減少したが、依然として毎年230万人の子どもたちが栄養失調を原因に命を落としている、という。

また、1999年から2011年までの間に、初等教育に通う子どもの数は32%(4000万人以上)増加したが、一方で数100万人の子どもたちが幼児期の慢性的な栄養不足が原因で認知障害を患っており、最も初歩的な学習過程さえついていけない状況に直面している。

この調査は、栄養失調が子どもたちの教育成果にどのような影響を及ぼすかを広範囲の地域を対象に把握することを試みた初の試みで、4か国(エチオピア、インド、ペルー、ベトナム)3000人の子どもを対象に人生の様々なポイントで教育上の能力や自信、願望についてのインタビューやテストを繰り返し、20年間にわたる追跡調査の結果を基にまとめたものである。

その結果、母親のお腹の中で生命を得てから2歳の誕生日を迎えるまでの1000日の間に栄養失調を経験した子どもたちは、健康的に栄養を摂取した子どもたちと比較して、学習能力の点で厳しいハンディキャップを負っていることが分かった。

具体的には、栄養不良状態にある児童は、そうでない児童に比べて、算数の能力が7%劣っていた。また、8才までに簡単な文章を読めるようになる可能性が19%低く、簡単な文章を書けるようになる可能性が12%低い。また、学校において「落第」する可能性が13%高いという結果がでた。

また報告書の基礎となった調査結果によると、栄養不良状態にある子どもたちは、そうでない子どもたちと比べて、自身の学力や自身をとりまく状況を改善する能力について自信が持てない傾向にある。

また栄養失調の子どもはそうでない子どもと比べて成長してからの所得レベルが20%低く、しかもその所得ギャップはさらに大きい可能性もあるという。

報告書はまた、この所得格差は、とりわけ体力を必要とする農業や肉体労働の分野に、幼少期に栄養不良を経験した大人が比較的少ないことからも説明ができると指摘している。

「この報告書は、栄養不良は、子どもの身体上の発達のみならず、学習能力や貧困から抜け出すための生きていく力にさえ深刻な悪影響を及ぼすという様々な証拠を改めて裏付けるものとなりました。」とルーシー・サリヴァン1000デイズ」代表は語った。同団体は、ヒラリー・クリントン前国務長官とマイケル・マーティン元外務大臣らが2010年9月に創設した、妊娠期から子どもが2歳になるまでの1000日における母子の栄養状態改善に投資することを呼びかけている団体である。

「栄養失調が世界経済にもたらすコストは、年間1250億ドルという途方もないものです。しかしこの報告書は、栄養失調の問題も、回避と解決が可能だということを物語っています。」とサリヴァン氏は付け加えた。

世界銀行は2006年の研究報告の中で、母子の栄養向上への取り組みが最も経済効率に優れた開発分野の一つであると結論づけている。しかしそれにも関らず、援助支援国は、過去3年間で栄養不良の問題に対して全支援のうち平均0.37%しか振り向けていない。その理由としては、農業関連官庁と保健関連官庁の間で役割分担がなされていないことが指摘されている。

6月8日には、英国・ブラジル政府が共催で、「成長のための栄養」という会議をG8サミットにおいて初めて開くことになっている。

また報告書は、援助国に対して、栄養支援プログラムへの支援拠出額を現在の2倍以上にあたる10億ドルに増やすよう、そして各国政府に対して、向こう10年間で栄養失調を削減するための計画と目標を策定するよう求めている。(原文

翻訳=IPS Japan

|UAE|「国際人道デー」キャンペーンが「平和」という言葉とともに閉幕

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【ドバイWAM】

2013年「国際人道デー in ドバイ」キャンペーンが、人道支援に対する幅広い支援を獲得して盛り上がりを見せるなか閉幕した。今年の問いかけ「世界が最も必要としているのは…。」に対しては、UAE全土からソーシャルメディアを通じて数万人が各々が選んだ言葉を回答した。その結果UAEで最も人気を博した言葉は「平和」であった。

「言葉を現実のものにする」をコンセプトとするこの世界共通キャンペーンは、毎年国連人道問題調整事務所(OCHAの主導で、8月19日の「国際人道デー」記念行事を皮切りに世界各地で1カ月に亘って展開されている。UAEでは、今年はドバイ人道シティ(IHC:世界最大の人道支援拠点)が国内キャンペーンを主導した。

世界全体ではキャンペーン期間中に150万人を超える人々が今年の問いかけに回答し、最も人気を博した言葉は「教育」であった。


IHCは、8月19日、国連及び民間企業のパートナーとの共催で、「国際人道デー」記念イベントをドバイモールで開催した。会場では1カ月に亘ったキャンペーン期間中、ソーシャルネットワークのインタラクティブ画面に「国際人道デー2013」キャンペーンのテーマと問いかけが映し出された。キャンペーン期間中の来場者は昨年の実績を上回る43か国11,000人で、そのうち初日の記念イベントへの訪問者数は5000人以上であった。

また、UAE全土からソーシャルネットワークを通じて32,000人(国籍は102ヵ国)が問いかけに対する言葉を選んでエントリーした。また、地元の「ドバイメディア」が、自社のネットワーク・テレビCMを通じて、キャンペーンを支援した。

閉幕に当たりIHCは、今年のキャンペーンと、ますます重要な役割を果たしつつあるUAEの人道支援活動をサポートしてきたEtisalatドバイメディア、2020年ドバイ万博招致事務局、Watani、エマール・プロパティーズ、ドバイモールを含む全ての支援団体・個人に感謝の意を表明した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|シリア|UAE紙、人道危機が深まる現状について報じる

|視点|ハイレベル会合という核軍縮へのまたとない機会(ジョナサン・グラノフ、グローバル安全保障研究所所長)

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Jonathan Granoff
Jonathan Granoff

【米ペンシルバニア州ハリスバーグIPS=ジョナサン・グラノフ】

国連総会は全ての加盟国に対して、9月26日に開催予定の「核軍縮に関する国連総会ハイレベル会合」に最も高い政治的レベルで参加するよう招請している。これは核軍縮をテーマにした会合としては、史上初めてのことである。また人類は今日ほど「危機」と「チャンス」が混在する瞬間に立ち会ったことがない。

「危機」というのは以下の構図である。つまり、世界の圧倒的多数の国々が、「核兵器禁止条約」、或いは、国連事務総長が提案している「核廃絶達成のための法的枠組み」に向けた交渉開始を支持しているにもかかわらず、世界の核兵器の95%以上を保有している米国とロシアが、こうした未来に続く合理的な道筋を支持していない現状である。このため、核軍縮に向けた動きは、予備交渉の段階から焦点を欠いてしまい、遅々として進んでいない。

他方、「チャンス」というのは、(米ソが核戦力を競って激しく対立した冷戦時代と異なり)インドとパキスタンを除いて、核兵器保有国の間で実質的な敵対関係が存在していない現状である。

近年、(核軍縮への)期待を呼び起こす美辞麗句や賞賛の声が頻繁に聞かれるようになった。しかし新たな危機が起こるごとに、核軍縮義務への関心が押し流されるという悪循環を繰り返している。その結果、すぐにでも何か実質的な進展がなされなければ、核軍縮に対する不信感が、伝染病のごとく人々の意識に蔓延しかねない危険がすぐそばまで迫っている。

実は多くの国連加盟国がこのことを良く理解している。だからこそ、各国は昨年の第67回国連総会において、「核軍縮に関するハイレベル会合」を今年の第68回総会で招集する決議A/RES/67/39を採択したのである。

中国とインドは、核兵器の普遍的禁止の交渉入り支持を表明しており、パキスタンもそれに続くとしている。一方、フランス、米国、英国、ロシアは、核兵器の法的禁止を交渉する予備的措置を採ることにすら公然と反対している。

これらの核保有国は、まずは、米ロ間で合意した第四次戦略兵器削減条約(新STARTプロセスを前進させるとともに、包括的核実験禁止条約兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約を発効させるなどの漸進的措置を採ることに、他の課題に優先して集中すべきだと主張している。さらに核兵器保有国の外交官らは、普遍的で非差別的な核兵器の禁止は、こうした漸進的措置の追求から焦点を逸らしその効果を減ずるものだとすら主張している。

しかしこうした核兵器保有国が主張する漸進的アプローチのみを採ることに伴う問題は少なくない。第一に、米国議会上院が近い将来、包括的核実験禁止条約を批准する望みはほとんど皆無に等しい。また、核実験禁止を核軍縮に向けた前進の一環とする考えは米国内では支持されておらず、それを推進する力は弱々しいと言わざるを得ない。

また、核兵器の普遍的禁止を達成することから得られる有益性を実証することなく、米軍に制約をかけるべきだと主張するのは困難だろう。結局、説得力を欠く主張は、たとえ政策に反映されたとしても一貫性のないものになりかねないのである。こうした格好の事例を、新STARTの批准に向けたオバマ政権の政策に見て取ることができる。つまり、一方では(ロシアとの核軍縮を進める)条約を支持しておきながら、他方で核戦力とインフラ「近代化」のために数千億ドルという費用を計上しているのである。

第二に、カットオフ条約の交渉が、コンセンサス原則で機能しているジュネーブ軍縮会議(65か国で構成される多国間交渉をする唯一の常設軍縮会議)で行われている問題である。つまり1か国でも反対すれば、交渉プロセスが常に頓挫するリスクがあるということだ。事実、ジュネーブ軍縮会議では10年以上にわたって議題を設定することすらできていない。この欠陥を利用する加盟国が少なくないことから、ここでの前進はないだろう。

第三に、ロシアと米国の二国間のリーダーシップに期待することは愚かだと言わざるを得ない。核弾頭を通常兵器に置き換え新兵器が旧来からの任務を満たすとされる「通常兵器による迅速なグローバル打撃(CPGS)」構想や、技術的な突破があれば矛にも盾にもなりうる「弾道ミサイル防衛」構想、さらに、ロシアが条約で禁止することを求めている宇宙空間への兵器配備といった、米軍が推進している安全保障上の争点に関して、米ロ間の見解の相違が解消されない限り、ロシアは次の新START交渉には臨まない姿勢を鮮明にしている。

しかしこうした問題は、米軍内に安全保障において米国の支配的な地位を常に確保したいと望む一勢力が存在するため、容易には解決できないだろう。ロシアが脅威を感じている限り、核軍縮で前進は望めそうにない。

しかし一方で、化学兵器禁止条約という普遍的条約を通じてロシアと米国が合意してシリア問題における前進を見、全ての関係国の安全が確保されたという事態は、核兵器禁止への前進にも示唆するところが大きい。核兵器が化学兵器の使用ほど恐ろしいものではなく、より正当なものだなどと主張する者など、きっと誰もいないだろう。

また想像してみてください。もしラテンアメリカ、アフリカ、東南アジア、中央アジア、南太平洋の5つの非核兵器地帯を構成する114か国の首脳らがこぞって「私の国は、非核兵器地帯に位置することで恩恵を享受していますが、依然として核兵器を保有する国家によって脅威を受け続けています。今こそ世界全体を非核兵器地帯とすべきです。」と主張したらどうなるだろうか。

そうすれば、軍縮問題を本来あるべき日の当たる場所へ押し上げるという必要な行為が現実のものとなるだろう。

あるいは想像してみてください。もしこのハイレベル会合の声明で「私たちは、核兵器の脅威が消えるまで、毎年『軍縮に関するハイレベル会合』を開催していく。」と述べたらどうなるだろうか。或いは、もし大多数の国連加盟国の首脳が、「ジュネーブ軍縮会議、あるいは、その他の適切かつ効果的な場において、できる限り早期に」予備交渉を開始することを支持し、「このプロセスへの完全参加を約束する」と述べたらどうなるだろうか。

こうした圧倒的多数の国連加盟国による核軍縮前進を訴える呼びかけは、大きな反響を呼び覚ますことになるだろう。なかでも世論の心情にとりわけ訴えかける声明は以下のようなものであろう。

「私たちみなの生活をより安全にするために必要な、グローバルな公共財が存在する。すなわち、テロやサイバーセキュリティ―、金融市場の安定化、移行期にある国々の平和的な民主化の問題等で世界の国々が協力し合うことは、大きな価値がありきわめて重要なことである。また、文明の生存そのものが、人類が依存している気候や海洋、森林、あらゆる生命システムを保護するという、また別のグローバルな公共財を確保するために、いかに協力していけるかという点にかかっている。」

「私たち人類には、こうした新たな諸課題に取り組んでいくために、自らの生存をかけて、これまでとは異なるダイナミックな方法で協力し合っていく責務がある。これほどまでに、平和と共通目的という精神において相違を解消していくことを強く私たちに求めるものはないだろう。何が共通のもので善であるかを真剣に述べることを考えるならば、核兵器を保有したりその使用の威嚇を行ったりすることが、非合理的で社会を機能不全に陥らせるものであり、すぐにやめなければならないことがわかるだろう。」

「私たちは同じ空気を吸っており、それを協力の精神によって浄化するか、それとも恐怖と脅威によって汚すかは、私たちの行動にかかっている。私たちは、現在および将来の世代のために協力の精神において成功をもたらす決意である。そしてこの精神は、核兵器を今こそ非難し廃棄することを私たちに呼びかけている。」(原文へ

※ジョナサン・グラノフは、グローバル安全保障研究所所長、ワイドナー大学法学部の客員教授(国際法)

翻訳=IPS Japan

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|ケニア|治安部隊がショッピングモールをほぼ制圧、テロ事件は最終局面へ

【カタールIPS=AJ特派員】

アルカイダ系イスラム過激派組織アルシャバーブが、21日以来無数の民間人を人質に立てこもっているナイロビ市内の大型の商業施設「ウエストゲート・ショッピング・モール」では、ケニア警察・軍との間で、散発的に銃撃や爆発音が続いている。

23日午後、ジョセフ・オレレンク内相が会見し、「これまでの人質救出作戦で、アルシャバーブの兵士2人が死亡、大半の人質は解放された。」と指摘したうえで、「作戦をいつ終えられるかについては、現時点で明言は避けたい。我々は作戦完遂に向けて慎重ながらもあらゆる可能な手を尽くしている。」と語った。

武装グループによる襲撃事件発生から、丸2日以上が経過したショッピングモール周辺では、数回の爆発音が鳴り響き、施設からは黒い煙が立ち上った。

オレレンク内相は、「武装グループが施設内のスーパーマーケットに火を放った」と述べる一方で、「救出作戦は順調に進んでおりまもなく火も消し止められるだろう」と語った。

さらに内相は、ショッピングモールの全てのフロアーは既にケニア警察・軍が制圧しており、「武装グループは追い詰められて一部の店舗に立て籠もっている状況です。…もはや彼らに逃げ場はありません。」と語った。

23日にテレビ放映された襲撃現場周辺の映像には、迷彩服を着た兵士が走って配置につく様子や、装甲車が位置を移動する様子が映し出されていた。

報道記者やカメラマンらは移動を余儀なくされたため、ショッピングモールの様子を直接確認できなくなったが、引き続き現場周辺の状況をモニタリングしながら取材を続けている。

ある治安当局関係者がロイター通信の取材に対して、匿名を条件に「爆発を引き起こしたのは我々の側で、現在屋上からの侵入を試みています。」と語ったが、この点について当局は公式なコメントを避けた。

モール周辺で取材にあたっているアルジャジーラのキャサリン・ソイ記者は、武装グループは徹底抗戦の構えを示していることから、商業施設内に取り残されている人質にことごとく危害を加える恐れがあると語った。

「武装グループメンバーはこれが特攻作戦であり、生還は極めて困難なことを覚悟しています。…心配なのは人質の状況です。内務省はショッピングモール内にいた人々の大半…つまり(武装グループに対する包囲作戦開始以来)1000人以上の人々を避難させることに成功したと発表していますが、心配なのは(商業施設内に依然として取り残されている)無数の人質のことです。」

一方、国際刑事裁判所(ICCは、2007年末のケニア大統領選挙後に発生した暴動に関連して(人道に対する罪を犯した或いは人道に対する罪を行うよう命令した容疑で)起訴されたウィリアム・ルト副大統領に対する裁判を延期すると発表した(HRW資料)。

ICCは今月10日に開始されたルト副大統領に対する審理は、同氏が今回のテロ事件に対処するため一時帰国するのに伴い、一週間に亘って休廷する、と発表した。

ケニア軍は22日夜、モール内のほとんどの部分を掌握し、大半の人質が救出されたと表明したが、依然として無数の人々が建物の中に取り残されていると見られている。

21日、ソマリアのイスラム過激派組織アルシャバーブに所属する武装グループが、ナイロビ市内の大型の商業施設「ウエストゲート・ショッピング・モール」を手投げ弾や自動小銃で襲撃した。赤十字の発表によると、これまでに68人が死亡、150人を超える人々が重軽傷を負ったという。

ケニア軍スポークスマンのサイラス・オグナ大佐は、作戦の状況について、正確な人数については言及しなかったものの人質の大半は既に解放されたこと、さらに、救出作戦中に4人のケニア軍兵士が負傷したことを明らかにした。また、救出された人質の大半は脱水症状にあり、精神的なショックを受けている、と付け加えた。

22日、ケニア軍は膠着状態を打開するため多数の兵士を追加投入した。これに対して武装グループ側はツイッターに「このような軽率な行動の結果、失われる人命に対する責任は全てケニア政府にある。つい先ほどショッピングモールの屋上に着地を試みたケニア軍兵士らは、人質の命を危険にさらしていることを知るべきだ。」と書き込み、ケニア軍の動きを牽制した。

アルシャバーブのスポークスマンであるアブー・オマール氏は、アリジャジーラの取材に対して、「今回の攻撃は非イスラム教徒を標的にしたものだ」と語った。ケニア赤十字によるとテロの死者は68人にのぼるとみられ、犠牲者はケニア人のほかにも、フランス人、英国人、インド人、カナダ人、中国人、著名なガーナ人詩人など様々な国籍の人が含まれている。またオマール氏は、拘束中の人質について、ケニア当局と交渉するつもりはない、と伝えてきた。

またアルシャバーブは声明で、今回の犯行はケニア軍が2011年10月に(反政府活動を展開しているアルシャバーブの掃討を目的に)ソマリア南部に進攻したことへの報復だとし、ケニア軍の撤退を求めている。

国連安全保障理事会は、このテロ攻撃を「最も強い言葉で」非難するとともに、ケニア政府に対して、事態収拾に際して国際人権法に則った対応をするよう求めた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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バルカン諸国で芽吹いた紛争の「種」

【ベオグラードIPS=ベスナ・ペリッチ・ジモニッチ

この夏温暖な天候に恵まれたバルカン半島では、豊富に収穫された多くの食べ物が食卓に並んだ。ただし人々は、「トマトの味が悪くなった」「メロンが水っぽい」「キャベツが硬くて切れない」「玉ねぎを切っても涙が出ない」等、口々に不満を漏らしている。

こうした不満の声は、セルビアの人気討論番組や交流サイトでも溢れており、セルビアの農民は、種子輸入業者の圧力に屈して、これまで人々に親しまれていた地場の作物を育てることを放棄していると非難されている。

「今日、セルビアで購入したトマトが地元産のものかどうか、見極めるのは困難です。恐らく大半は、中心部分が白くて食べられない遺伝子組み換え品種でしょう。その白い部分はトマトを固くするために組み込まれた遺伝子に起因するものです。この種のトマトは、外見は赤くなりますが、実は決して熟れることはないのです。」と語るのは、セルビア中部のスメデレヴスカ・パランカ(首都ベオグラード南東64キロの街)にある「農業研究所」のジャスミナ・ズドラフコビッチ氏である。

ズドラフコビッチ氏やベオグラード大学農学部の専門家らによると、セルビアの地場の品種・固有種は、海外の大手種子メーカーの進出によってほぼ駆逐され、今や家庭菜園かごく小規模の畑で栽培されるだけになってしまったという。

セルビアでは、コソボ紛争時に課せられた国際制裁が2000年に解除されて以来、バイオ化学メーカー大手のモンサントデュポンシンジェンタなどが開発したハイブリッド種子が堰を切ったかのように大挙して流入し、瞬く間に国内市場を席巻した。

商工会議所の最新統計によると、セルビアは、今年の最初の3カ月だけでも、81万ドル(8,068万円)分に相当する種子と繁殖材料230トンを輸入している。

「このような状況下では、地場の固有種を商業ベースで生産できる望みは全くありません。」とベオグラード農学部のジョルジェ・グラモクリジャ氏は、IPSの取材に対して語った。

一方、セルビア政府は、地元作物の遺伝子を保存する試みを始めている。政府が植物遺伝子資源(PGR)の保存と持続可能な利用のために立ち上げた国家計画は、現在最終段階にあり、主要提言の中で「国家遺伝子バンク」の拡充を訴えている。

この遺伝子バンクの代表に就任予定のミレナ・サビッチ氏は、「セルビアの植物遺伝資源は現在国内各地の農業研究所、大学施設に散在した状態にあります。」と語った。

国家遺伝バンクにはこれまでのところ、セルビア固有の273種5000サンプルが、特別に建設された保存室(種子は零下20度、植物は摂氏4度で管理)において、中期(20年)と長期(50年)に区分され保存されている。サビッチ氏は、「これらのサンプルは、現在世界的に進められている固有種の保存政策に沿って、今後構築されていく我が国の植物遺伝資源の基礎となるものです。」と語った。

セルビア政府は、これらの固有種を元に、多収性の作物との交配実験をとおしてより収穫量が期待できる高品質の種を開発したいと考えている。セルビアはまた、地域的な植物遺伝資源の保存イニシアチブである「南東欧開発ネットワーク」に加盟している。

セルビアの西に位置しているクロアチアでも、今年7月1日の欧州連合加盟を前に、海外からの輸入種子が同国市場を支配している現状に対する民衆の怒りが最高潮に達していた。

この抗議行動は夏を通じて続けられ、NGO18団体が連名で、クロアチア政府当局に対して、クロアチア食品産業の根幹を成す植物遺伝資源を脅かしている多国籍企業の野望を食い止めるよう要請した。

クロアチアにはすでに種子を製造する施設が皆無なため、100%輸入種子に依存している。クロアチア農学会によると、同国では、種子や繁殖材料の輸入に年間6000万ドル(約5億9700万円)を費やしている。

当時とりわけ懸念されたのが、欧州連合が審議していた、「種子と繁殖材料に関する新規則案」であった。それは、消費者と食の安全確保の名のもとに、全ての果物・野菜・樹木について、繁殖・販売する前に新たに登録義務を課すという内容であった。

しかしこのEU改定案は、クロアチアの18団体を含む欧州各地のNGOの強い反発に直面して最終的に修正が行われた。この結果、今日では、家庭菜園家でも未登録の種子を貯蔵・交換したり、従業員10人以下の零細農家が未登録の野菜の種を栽培したりできるようになった。

「種は今日と明日の豊かさを象徴した存在です。健康な地場の固有種を自力で栽培できれば、危機に直面した際に、多くの人々が救われることを意味します。都市部の住民が、小さな土地区画を借りて自家菜園に熱中したり、スペースが許せばアパートのバルコニーや庭で何かを栽培しようとするのも頷けます。」と、クロアチア人ジャーナリストで環境活動家のデニス・ローマック氏は語った。

近年の欧州経済危機はバルカン地域を直撃し、人口722万人のセルビアでは失業率が27%、人口426万人のクロアチアでは18.5%に上った。

こうした危機的状況に際して、セルビアの農家や家庭園芸家らは、最も原始的だが安全な手法、つまり、シーズンの終わりに種子を自家採取して、次のシーズンに種を蒔く手法を採用した。ミレンティエ・サボビッチさんは、IPSの取材に対して、「私は毎年種子を自家採取して庭の畑で使用しています。」と語った。サボヴィッチさんは、ベオグラード近郊に所有する数ヘクタールの土地で、様々な野菜を栽培し、収穫した野菜を市内で人気のカレニッチグリーンマーケット(場所代を払って野菜などを直売する市場)で販売している。

彼の露店では、年配者の間で若い頃よく食べた懐かしい食材として人気が高い、「牛の心臓」トマトや、「ケーキ」と呼ばれる平たい玉ねぎ、さらに小さな真珠豆や、「セロヴァカ」ドライメロンなどが売られている。

「在来種に関して言えば、明らかにここの気候、土壌、および農作物の保護方法に最も適した品種であることは疑いありません。ですから、地元に適したこうした在来種をどうして(海外から輸入した別の品種に)変える必要があるでしょうか?」とサボヴィッチ氏は語った。

しかしベオグラード農学部のグラモクリジャ氏は、この点について次のように警告した。「伝統的な或いは古くからある土着の品種を栽培することと、健康的な食材を育てることを重視する現代のトレンドを混同してはなりません。地域の土地によく適応した在来種を栽培するには、大手企業から購入するハイブリッド品種を比べて、より手間暇と適切な保護が必要となります。それを怠れば果物に殺虫剤の代わりに毒性のあるバクテリアが混入する可能性があるのです。つまり、在来種を保存する試みは、いわゆる『自然に帰る』といったような単純なものではなく、あえて例えれば、大型自動車の排気ガスに満たされた都会の繁華街を、自転車で走るようなリスクが伴うことを理解しなければなりません。」(原文へ

翻訳=IPS Japan

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イスラエルは1967年の境界線へ戻れ

【アブダビWAM】

米国とアラブ諸国、パレスチナとイスラエルが終わりなき会合を持ってカメラの前でポーズを取り、高揚感と希望を中東に生み出す光景を、中東の人々はこれまで何度も見てきた。「しかし、残念なことに、こうした会合やカメラ前でのポーズが生んできたものはほとんどない」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙『カリージ・タイムズ』は7月20日付で報じた。

米国の中東特使ジョージ・ミッチェル氏が同席してパレスチナとイスラエル、エジプトがカイロで行っている現在の非公式協議もまた、アラブ社会において疑念と冷笑をもって迎えられているのは故なきことではない。パレスチナ・イスラエル関係の長い歴史、イスラエルのパレスチナに対するいたちごっこをみるならば、こうした疑念を否定するのは難しい、と英字紙『カリージ・タイムズ』が同日付の社説で論じている。

 
オバマ大統領の登場、休止している和平プロセスを再開しようとの彼の努力をみて、パレスチナも、より広範なアラブ・ムスリム社会も、事態が打開されると期待した。しかし、平和に向けたオバマ大統領の大胆な歩みは、イスラエルの頑迷という壁にぶち当たって妨げられてしまったようだ。米国の体制内にはイスラエルへのシンパが多くいて、オバマ批判を強めている。ミッチェル特使がテルアビブやアラブ諸国の首都をいくら訪ね歩いても、事態が進展しないはずだ。ミッチェル特使が中東に戻り、ふたたびパレスチナとイスラエルの間の架け橋になろうとしているエジプトのムバラク大統領と会談を持っているのならば、何らかの具体的で意味ある成果がそこから出てくるのを期待しよう、と『カリージ・タイムズ』は述べる。

「パレスチナのアッバス大統領は、ネタニヤフ首相の前任者であるオルメルト首相と長年にわたって意味のない協議と会合を繰り返してきたが、今回は、成熟した態度と自制を見せている。同大統領は、仮にイスラエル・パレスチナが直接協議を再開しようというのならば、イスラエルが1967年中東戦争以前の両者間の境界線を容認する必要がある、と要求している」。

アラブ連盟のアムレ・ムサ事務局長は、1967年時の境界線と〔それ以降のイスラエルによる〕違法な入植に関するイスラエルからの保証を文書で取り付け、それからパレスチナ・イスラエル両者による交渉に移るべきだ、とパレスチナ指導部に要請している。パレスチナがイスラエルと行ってきた長くて成果のない交渉を考えるならば、これのみが理にかなった要求だといえよう。

1967年時の境界線に戻ることは、イスラエルと米国メディア内のイスラエルシンパにとっては大きな譲歩だと感じられるかもしれないが、実際はそうではない。すべてのパレスチナ人が、現在どこに住んでいようとも、イスラエルが彼らの土地を奪った1948年まで住んでいたふるさとに戻ることをいまだに夢見ているのである。

「1967年の中東戦争以前の現状を受け入れるべしとの提案は、パレスチナにとっては大きな譲歩である。実際、ハマスをはじめとしたパレスチナの多くの党派は、ファタハ(あるいはパレスチナ暫定自治政府)が行ったこの譲歩をまったく認めていない。なぜなら、それはパレスチナの人々に対する裏切りだからだ。したがって、1967年時の境界線を受け入れ、パレスチナの指導部、そしてアラブ世界との最終解決を目指していくことは、イスラエル自身の利益になる。つまり、もしパレスチナ、およびそのアラブの隣人との和平を本気で望むのならば、ということである。これが、現在の混乱から抜け出る唯一の道であり、全員がそのことを認識すべきときなのだ」と同紙は結論付けた。

翻訳/サマリー=IPS Japan


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【ブエノスアイレスIPS=マルセラ・バレンテ

消費主義の波が社会を覆う中、アルゼンチンには、モノやサービスを買うのではなく共有するという新しい社会のあり方を発見しつつある人たちがいる。個人主義と際限のない消費を促す現行の経済モデルに幻滅した何千もの人々が、路上マーケットで不用品を譲り合ったり、他人同士が車を共同利用する仕組みを作ったり、さらには、海外からの旅行客に無料で家を開放したりしているのである。

こうした動きはアルゼンチンでは近年始まったばかりだが、ソーシャルメディアをプラットフォームに急速な広がりを見せている。彼らはそこで、現行経済モデルが引き起こしている環境破壊を憂い、消費主義に対する嫌悪感を共有するとともに、方向性を同じくする者同士の共同体意識と信頼を育んでいきたいと考えている。

「私たちは必要を遥かに上回る多くのものを消費しています。この路上マーケットのコンセプトは『離脱』、つまり、これまで囚われてきた『個人所有』という概念から、私たち自身を解放する必要性を訴え、実践しているのです。」とアリエル・ロドリゲスさんは語った。ロドリゲスさんは「(よろしければ)好きなものを持ってきて、好きなものを持って帰ってください」というスローガンを掲げて「ラ・グラティフェリア(La Gratiferia)」(「フリー・マーケット」の意)という新しい形態の路上マーケットを立ち上げた人物である。

ロドリゲスさんは2010年にこのマーケット方式を初めて実践に移したが、当初の会場は路上ではなく、ブエノスアイレスの自宅だった。彼は友人や近所の人々に自宅を開放し、本やCD、衣服、家具など、自身が要らなくなったモノを「(よろしければ)自由に持ち帰ってください」と呼びかけた。そして、このイベントを訪ねてきた人々に、食事や飲み物も振る舞った。

まもなく、ロドリゲスさんのマーケット方式を多くの人々が模倣するようになった。「あれは13回目のイベントでした。会場を路上に移したのですが、ソーシャルネットワークで噂が広まり、大盛況でした。このマーケットは、これまでの伝統的な固定観念とは一線を画すものです。」とロドリゲスさんは当時を振り返って語った。当初来場者のなかには、自分が何も持ってこないのに自由にモノを持ち帰ったりしてほんとうにいいのか懐疑的だった人も少なくなかったという。

しかし「ラ・グラティフェリア」では、誰でも要らなくなったものを気軽に持ち寄り、それを誰かが引き取ってくれるかどうかを気にする必要はない。つまりこのマーケットの基礎にある発想は、「ある人には価値のないモノでも、新しいモノをわざわざ買うよりはそれを有効活用して耐用年数を引き延ばしたいという人がきっと現れるだろう」というものである。

「こうして物品の流れを(処分から再利用できるように)変えることで、このマーケットに集う人々の間に共同体意識とユニークな交流が育まれるのです。」とロドリゲスさんは語った。

「ラ・グラティフェリア」は、今ではアルゼンチンのいくつかの地方都市や、チリやメキシコなどの海外にも広がっている。

またロドリゲスさんは、「こうした無料で物品を譲り合う動きは、アルゼンチンが2001年から02年にかけて直面した経済危機・社会混乱下の状況では生まれてきませんでした。」と指摘したうえで、「私たちの活動は、人類とモノとの関係において進行しているより長期にわたる危機に対処していこうとする試みなのです。」と語った。

この手法は他の分野でも広がりを見せている。ブエノスアイレス大学では、工学部の学生らが講義ノートや勉強道具を提供するフリー・マーケットを今月開催予定だ。

「この催しは『ラ・グラティフェリア』の精神に則ったもので、本来ならばもっと多くの学部に広がってほしいと思っていますが、まずは工学部でこの運動を根付かせたいと考えています。」と主催学生の一人であるサンチアゴ・トレホさんは語った。

この手法は、米国で生まれた、電化製品、本、衣服、靴、楽器、家具、自転車、さらには車までシェア(共有)したり交換する新たな動き「共同消費(collaborative consumption)」の流れを汲むものである。

『タイム』誌は2011年に、「共同消費」を、世界を変える可能性のある10のアイディアのうちのひとつに選んでいる。

また「共同消費」の発想は、こうしたモノの交換にとどまらず、旅行を単に外国に行くという行為ではなく、そこに住む人々との触れ合いや交流も含むものと考える人々の間で、新たなサービスを生み出している。

「私は以前に欧州に旅行した際、ホテルに宿泊しました。しかし帰国後、訪問先の国の人々の日常の営みや私の国の人々に対する彼らの認識など、滞在中に何も学んでいなかったということに気づいたのです。 」と働きながら映画の勉強をしているアランザズ・ドバントンさん(24歳)は語った。

ドバントンさんは4年前、旅人に自宅を無料で貸すことに関心を持つ人々と、旅行を計画中の人々を繋げるオンラインプラットフォーム「コーチサーフィングCouchsurfing」に自身のプロフィールを登録した。このサイトには、今では10万の都市から600万人が登録している(アルゼンチンからの登録者は約5000人)。

Couch Serfing

「これまでに、デンマーク人を中心にメキシコ人、フィリピン人、フランス人、ドイツ在住のトルコ人など、世界各地からきた15人の旅人に宿を提供してきました。」と言うドバントンさんは、旅人を自宅に受入れるにあたってある条件を課している。それは、彼女がその宿泊予定者と事前に電子メールで連絡をとりあうこと、そして、旅人がブエノスアイレスに到着したら、先ずは公共の場所で直接面談することである。

「ゲストの方々は大変協力的です。私は時々料理を振る舞いますが、そうした折は彼らが食材を用意してくれます。彼らは私が働きながら旅人の世話までするのは大変なことだと理解しているのです。我が家を訪ねる旅人の国籍は様々ですが、日常生活に伴う様々な懸念について私の気持ちがわかる、ごく普通の人々なのです。」と、ドバントンさんは語った。

宿泊者は、帰国後「コーチサーフィング」のウェブサイトにドバントンさん宅に宿泊した感想を書き込み、他のユーザーはこうした感想文を将来の訪問先を検討するうえでの参考にしている。また宿を無料提供しているドバントンさんも、旅をするときには、このプラットフォームを利用して、他の登録者の家に宿泊することができる。ドバントンさんは、これまでのところ、このプラットフォームを使って隣国のウルグアイを旅している。

「共同消費」が急速に広がっている米国では、証券会社ConvergExが、共同消費の動きは経済に破滅的な波及効果を及ぼす恐れがあると警告する論文を発表している。

一方アルゼンチンでは、「共同消費」の中でも車の共同利用が最も急速に広がっている。交通費の削減、大気汚染の抑制、渋滞の軽減を目的に、車と旅路と費用をシェアしたい人向けに多くの相乗りプラットフォームが立ち上がっている。

「Vayamous juntos」と「En Camello」はそうした相乗りネットワークの例だが、ユーザーは自分が車に乗りたい場所と降りたい場所を登録し、希望に合う人が車に乗せてくれるという仕組みである。具体的には、自宅から職場に車で通勤する道すがら同乗者と相乗りしてもよいというものから、州をまたがった長距離移動に利用したいというものや、コンサートやサッカー試合の観戦に外出する際に利用したいというものまで実に様々である。

またメキシコでは「車の複数ユーザー方式」という異なった運用形態が行われている。登録者は必要な時に、使用時間単位或いは月や年単位の予約で車を使用できる。さらに車は、貸自転車の場合と同じく、ある駐車場でピックアップ或いは乗り捨てができる仕組みになっている。

アルゼンチンでは、こうした様々な「共同消費」サービスにそれぞれ数千人が登録をしている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|UAE|5つのUAE施設がギネスブックに登録される

【ドバイWAM】

「『ギネス世界記録2014』(9月12日発売)に掲載された最新の世界記録に、ブルジュ・ハイファやフェラーリ・ワールドなど、アラブ首長国連邦(UAE)から5つが選ばれた。」と地元の英字日刊紙が報じた。

「記録破りの業績を証明する世界的権威である『ギネス世界記録』は、ブルジュ・ハリファ(地上828メートル)を『史上最も高い人口建造物』として、また、同建物の122階(地上441.3メートル)にあるラウンジ・グリル、『アト・モスフィア(At.mosphere)』を『世界で最も高い地点にあるレストラン』と認定した。」とドバイに本拠を置く「ガルフ・ニュース」が報じた。

また同紙は、「ドバイ市内のドバイモール映像)が、世界最大面積のショッピングセンター(総面積約112.4万平方メートル)として、さらに、メトロ(2路線合計で全長74.694キロ)が世界最長の無人自動運行システム

として認定された。」と報じた。

さらに「世界最速の鉄製ジェットコースター」として認定されたフォーミュラ・ロッサもUAEのアブダビにあるフェラーリ・ワールドのアトラクションである。このジェットコースターは4人乗りで、52メートルの下り坂を4.9秒で最高時速239.9キロに達する。そして「世界で最も環境にやさしい街」としてギネス世界記録2014年に認定されたUAE施設が、世界最初のゼロカーボン・ゴミゼロを目指してアブダビに建設中のマスダールシティー(2015年完成予定)である。

このスマートシティーでは、あらゆるゴミはリサイクルされ、電力は全て再生可能エネルギーでまかなっている。自動車の市内への乗り入れは禁止されており、代わりに市内各地に張り巡らされた高速用個人輸送機関(無人の自動電気軌道システム)が利用できる。つまり想定されている約50,000人の住民は、「カーボン・フットプリント(炭素の足跡)」を全く残さずに生活できるよう都市設計がなされている。


この5年間でUAEからのギネス世界新記録申請回数は130%伸び、世界記録保持者も171%増加している。これまで「ギネス世界記録」は、UAEに対して100以上の世界記録認定を行っている。(全文へ

翻訳=IPS Japan

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|エジプト|途方もない任務に挑む

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙は9月7日、エジプトは史上最も困難な局面に立たされている、と報じた。抗議デモ、殺人事件、先行き不透明な経済等、現在のエジプトが直面している難題は跡を絶たない。

9月5日、カイロのナセルシティー地区にある自宅から内務省に向かうムハンマド・イブラヒム内相の車列を狙った爆弾テロが発生し、内務省によると、警官10人と外国人・子どもを含む民間人11人が負傷した。イブラヒム内相に怪我はなかった。この暗殺未遂事件をうけて、エジプト暫定政権は、「テロに対して武力をもって決然と立ち向かう政府の方針が、このような犯罪行為によって挫かれることはない。」と宣言したうえで、改めてテロ勢力を徹底的に取り締まると明言した。アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙「ガルフ・トゥデイ」は、このようにテロと立ち向かうエジプト政府の動向を伝え、「エジプトは国際社会の惜しみない支援を受けるに値する。」と報じた。

また同紙は「まさかの時の友こそ真の友」と題して、事件直後に出されたUAE外務省による声明を紹介した。UAE外務省は、声明の中で、「あらゆる形態のテロに立ち向かうエジプト政府を全面的に支持する」と強調するとともに、犠牲者の一刻も早い回復を望むと表明した。

この暗殺未遂事件は、治安当局が7月3日の政変で失脚したムハンマド・モルシ前大統領の支持派に対する締め付けを強めるなかで発生した。600人近くの死者を出した暫定政府によるムルシ支持派の強制排除以降、治安部隊側も100人近くの犠牲者をだしている。軍と警察当局は東部のシナイ半島においても、7月以来、反政府武装勢力に対する掃討作戦を実施している。一方、反政府武装勢力による軍・警察に対する攻撃は、人口が密集したナイルデルタ地域や首都カイロでも発生している。


ガルフ・トゥディ紙は、紛争が長引き先行きが不透明な状況は、一般庶民の生活を直撃しており、首都カイロでも若者の大半は失業と食料の高騰に苦しんでいる。AP通信によると、現在エジプト国民の半数近くが、貧困線をかろうじて上回るかそれ以下の厳しい生活を余儀なくされている。

633以上の銘柄を擁するエジプト証券取引所は中東で最も古い歴史を持ち最も発達した市場(2005年には総額が472億ドルから935億ドルに倍増)であったが、最近の政治情勢の悪化により低迷している。

オサマ・サレハ投資相は、「暫定政府はエジプト経済を救済し、海外投資を引き付けて経済成長へと舵をきるべく緊急経済復興計画の策定に取り組んでいます。」と語った。エジプト経済の原動力は(1)天然ガスや原油の輸出拡大、(2)古代遺跡と紅海沿岸のリゾート地を目玉とした観光収入のアップ、(3)湾岸諸国への労働力提供、(4)原油の荷動き活発化に伴うスエズ運河通航料の増加などである。

ガルフ・トゥデイ紙は、こうした暫定政府の取り組みについて、「エジプトが直面している困難な状況を考慮すれば、これは途方もない任務にほかならない。エジプトの一般庶民も、世界の各地の一般庶民と同様に、平和な環境のもとで幸福と繁栄を追求する資格がある。いかに困難な状況にあっても、その方向を目指す暫定政府の挑戦を歓迎しようではないか。」と報じた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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国連事務総長、核実験禁止条約未参加8か国への働きかけを強める

【国連IPS=タリフ・ディーン

約20人の「賢人」が、包括的核実験禁止条約(CTBTへの参加を頑強に拒んできた8か国の説得にあたるという、極めて困難な任務に挑むことになりそうだ。

その8か国とは、中国・エジプト・インド・イラン・イスラエル・北朝鮮・パキスタン・米国(上の世界地図の矢印を参照:IPSJ)で、批准の可能性すら示しておらず、CTBTは行き詰まっている。

CTBTの条項によると、この条約はこれら残りの主要8か国の参加なしには発効しないことになっている。

Lassina Zervo/ Katsuhiro Asagiri
Lassina Zervo/ Katsuhiro Asagiri

包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)準備委員会のラッシーナ・ゼルボ事務局長は4日、「我々は、昼夜を分かたず、条約発効に向けた努力を継続している。」と記者団に語った。

ゼルボ事務局長は、CTBT未締結国(未署名国および署名したが未批准の国)に対して、この条約への批准は世界の安全保障だけではなく自国の安全保障向上にもつながると強く訴えた。

セルボ事務局長はまた、CTBT締結国と未締結国の双方から元首相や著名人などを招いて新たにグループを作り、9月27日にニューヨークで開催される第8回CTBT発効促進会議で立ち上げる意向を表明した。

さらにセルボ事務局長は、CTBTの最新状況について、これまで183か国が署名を終え、そのうち159か国が批准も済ませている、と報告した。

しかしCTBTは、第14条の規定により、附属書2に掲げられている上記8か国を含む発行要件国(原子炉を有するなど、潜在的な核開発能力を有すると見られる44か国:IPSJ)の全てが批准しなければ、発効しないことになっている。

国連総会では9月5日に「核実験に反対する国際デー(8月29日)」を記念する非公式会合が開催され、潘基文事務総長は、ジュネーブ軍縮会議がCTBTに関する交渉を開始してからすでに20年が経過しているにも関わらず、未だに条約が発効していない現状を嘆いた。

「核実験に反対する国際デー」は、8月29日に世界各地で記念行事が催されたが、(国連では例年9月5日に記念セミナーや展示などの関連行事を開催する慣例があることから)この国連総会は5日に開催された。

潘事務総長は、この総会へのメッセージの中で、「50年前、国際社会は部分的核実験禁止条約を採択して、核爆発実験全面禁止という目標に向けて第一歩を踏み出しました。」と指摘したうえで、「しかしながらこの目標は、依然今日においても、軍縮課題における未解決の重要問題であり続けています。」と語った。

潘事務総長は、CTBTをすみやかに署名・批准するようすべての国に強く求めるとともに、とりわけ上記の発効要件国8か国(インド・パキスタン・北朝鮮の3か国は未署名、中国・エジプト・イラン・イスラエル・米国の5か国は署名しているが未批准)は、特別の責任を持っていると強調した。

また潘事務総長は、「他の国がまず行動するのを待っていてはいけません。一方すべての国が、核実験モラトリアム(一時停止)を継続しなければなりません。」と各国に訴えた。

核戦争防止国際医師会議」のプログラム・ディレクターであるジョン・ロレツ氏はIPSの取材対して、「ほとんどの核兵器国が1990年代以来、モラトリアムを尊重してきました。1998年に核実験を行ったインドとパキスタンはその例外ですが、両国はその後実験を行っておらず、あとは北朝鮮が2006年以来3度にわたって非常に小規模な実験を行ったぐらいです。」と語った。

北朝鮮が今年2月に3度目の核実験を行った際、15か国から成る国連安全保障理事会は、実験は過去の安保理決議に対する「重大な違反」であり、北朝鮮は「国際の平和と安全に対する明白な脅威」であると断じた。

Hirotsugu Terasaki/ SGI
Hirotsugu Terasaki/ SGI

東京に本拠を構え、長年にわたって核兵器の完全廃絶を訴えるキャンペーンを展開してきた創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動局長は、IPSの取材に対して、「核実験の禁止に向けて、大きな貢献をしているCTBTO準備委員会の活動に注目したい。」と語った。

寺崎局長は、2006年の北朝鮮の最初の核実験後に、新たに23か国がCTBTを批准している点を指摘したうえで、「すでに世界の国の95%が批准しているということを踏まえれば、圧倒的多数の国が条約発効のもたらす大きな政治的効果を理解していると考えられます。」と語った。

1998年に核実験を行ったインドやパキスタンも、その後核実験のモラトリアムを宣言し続けている。その意味で、CTBTは核実験禁止に向けてすでに重要な役割を担っている、と寺崎局長は指摘した。

「国際社会はCTBTを前向きな一歩ととらえています。」と寺崎氏は付け加えた。

今後の課題について尋ねると、寺崎局長は、「CTBT発効の大きな鍵を握るのは、米国と中国の批准です。」と語った。

米国は、核戦力の実効性検証のため、ニューメキシコ州のサンディア国立研究所で4月から6月の間に「Zマシン」プルトニウム実験を行ったと明らかにした。

にもかかわらず、バラク・オバマ大統領は6月のベルリン演説において、米国のCTBT批准への決意を新たにした。

寺崎局長は、「このオバマ声明は、重要なもので歓迎すべきですが、米上院でCTBT批准に可能な支持を得るには相当の努力を必要とするでしょう。」と指摘した。

従ってオバマ政権は国際社会からの強力な支持を必要とすることになるだろう。寺崎局長はこの点について、米国の政策決定者に公約を実現させる圧力をかけるうえでも、「市民社会の果たすべき役割には大きなものがあると感じています。」と語った。

また寺崎局長は、8月7日に中国を訪問したCTBTOのゼルボ事務局長が、王毅外交部長会談した件について言及した。その際ゼルボ事務局長は、中国がリーダーシップを発揮して、残り8か国のCTBT批准に向けて指導的枠割を果たしてほしいと要請した。これに対して王外交部長は、中国はCTBTに引き続きコミットし続けると強調するとともに、CTBT早期批准の重要性を再確認した。

寺崎局長は「国際社会は、中国が条約批准に向けて立ちふさがっている様々な技術的・政治的障害を乗り越えられるよう、力を合わせて支援する必要があります。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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