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|スリランカ|出稼ぎ問題|体に打ち込まれた釘は「幸運にも」24本で済んだ

【コロンボIPS=アマンタ・ペレラ】

スリランカ南部マタラ出身のラハンダプレゲ・アリヤワティさん(52)は、サウジアラビアにおける自分の体験は比較的軽く済んでよかった、と思っている。体に打ち込まれた釘が幸運にもわずか24本だけで済んだからだ。 

彼女は、2011年初めに故郷に家を建てるのを夢見てサウジアラビアに渡航し、家政婦として働いた。しかし5ヵ月後、体のあちこちに生々しい傷を負って帰国することになった。彼女は雇い主から懲罰として熱した鉄釘を皮膚に打ち込まれていたのだ。 

故郷の自宅前で取材に応じたアリヤワティさんは、「あの程度で済んだのは幸運だと思うわ。もっとひどい目にあっていた可能性は十分あるのだから。」と語った。

彼女が「幸運」だと思ったのは、もっとひどい事例もあるからだ。今年1月10日、同じスリランカ出身で、サウジアラビアで家政婦をしていたリザナ・ナフィークさん(25)が、家族やスリランカ当局への事前通知さえないまま、収監されていたサウジアラビアで斬首刑に処せられた。世話をしていた乳児を誤って死なせた罪であった。 

彼女は幼児の扱いについてなんの訓練も受けていなかったが、生後4か月の赤ちゃんの世話をさせられることとなった。そしてその幼児は、ナフィークさんが哺乳瓶でミルクを飲ませている時に誤ってのどを詰まらせ、死亡してしまったのだ。人権活動家によると、ナフィークさんは、適切な裁判や領事館の接見、さらには法的な支援も一切受けることなく有罪となり、2005年から刑務所に収監、2007年からは死刑囚として過ごしていた。 

「私も同じような目に遭っていたかもしれない。」と、未だに体内に6本の金属片が埋まっているというアリヤワティさんは語った。 

ナフィークさんは、17才の時に仕事の斡旋業者が渡した偽造パスポートでサウジアラビアに送られていた。ナフィークさんの家族や彼女の事情を知る人々によると、仕事斡旋業者が貧困に苦しんでいる家庭の事情につけこみ、若い娘たちをサウジアラビアに家政婦として送り出しているという。 

ナフィークさんの故郷スリランカ北東部(トリンコマリー地区)ムトゥール村にいる家族は、娘に起こった不幸を運命として受け入れて、あきらめているようだった。「私たちに何ができるでしょう?これ以上何もできない状況で、私たちは前に進んでいくしかないのです。」と父のアボドゥル・ムハンマド・ナフィークさんはIPSの取材に対して語った。 

研究者によると、こうした家政婦自身や家族が抱いている無力感は、辺鄙な村々を廻ってナフィークさんのような貧困家庭の娘たちを探しに来る仕事斡旋業者らによって、巧みに吹きこまれているという。 

「家政婦として出稼ぎに送り出される少女たちや家族は、娘は何の保護も無い外国にいるのだから、何か起こってもしかたがない、と信じ込まされているのです。」と、スリランカの人権擁護団体「法と社会トラスト」のミユル・グナシンゲ氏は語った。 

一方グナシンゲ氏は、同じサウジアラビアに出稼ぎ労働者を送り出す国でも、サウジアラビア政府と2国間協定を締結して労働者の権利保護を確保している事例を挙げて、スリランカは移住労働者の権利擁護について立ち遅れている点を指摘した。「フィリピンがよい事例です、同国政府はサウジアラビア政府がフィリピン人労働者の権利を保護する2国間協定の締結に同意するまで、一年近く労働者の派遣を差し止めたほどですから。」と語った。 

こうした2国間協定における合意事項は、労働者の最低賃金の保証にとどまらない。労働者の就労時間や生活環境、さらには労働者の諸権利についても規定されている。また、こうした協定は、全ての出稼ぎ労働者が特定の契約内容や受入国の部族法に縛られるのではなく、平等に処遇されることを保障するものである。スリランカ政府は、このような協定をバーレーンとヨルダンとは結んでいるが、サウジアラビアとは未締結のままである。 

ナフィークさんの斬首刑を契機に、スリランカ国内でもサウジアラビアにおける同胞の境遇に関する批判と関心が高まったが、スリランカ政府は、未だにサウジアラビア政府との2国間協定に向けた交渉を開始する意図を明らかにしていない。 

ナフィークさんの死刑執行から2週間後、ディラン・ペレラ海外雇用相からの提案によって、スリランカ政府は、サウジアラビアに送り出すメイドの年齢下限を25歳に引き上げる閣議決定を行った。その他の中東諸国への出稼ぎ年齢下限は、従来どおり23歳である。 

また出稼ぎ労働者らには3週間の合宿研修を受講して政府が発行する家政婦認定書を取得することが義務付けられている。 

しかしグナシンゲ氏は、「この措置にはあまり意味がない」と指摘したうえで、「たとえ25才になっていたとしても、それまでに十分な学校教育を受けておらず、英語も話せず、電気器具等の取り扱い方も分からない状況では、また同じような問題が起きてしまうでしょう。」と語った。 

グナシンゲ氏はそのうえで、スリランカ政府は研修をもっと重視し、職務に十分適応できる有資格労働者を、より高い賃金で送り出すべきだ、と語った。 

前出のアリヤワティさんの場合、出国前に政府が定めた語学を含む3週間の合宿研修を受けていたが、現地では雇い主とのコミュニケーションをうまくとることができず、家庭用電気製品の使い方もよくわからなかったことから、怒った雇い主によって釘を打ち込まれるという暴力を受けたのだった。 

グナシンゲ氏は、「政府は仕事斡旋業者の活動を規制する法律を厳格化するとともに、現状では労働者の海外雇用促進のみが取り扱われている海外雇用庁法を改正して、労働者の権利確保を項目に加えるべきだ。」と主張するとともに、「もしこうした数百万人の出稼ぎ労働者に投票権が与えられていたとしたら、スリランカの国会議員らは、こうした労働者のニーズにもっと注意を払うようになるだろう。」と語り、スリランカ政府の対応の鈍さを嘆いた。 

こうしたスリランカ政府の対応の鈍さの背景には、スキルの低さや低賃金の問題(家政婦の中には月給僅か100ドル程度のものもいる)を抱えながらも、こうした出稼ぎ労働者からの送金が同国で最大の黒字をもたらしている現実がる。今年は、海外からの送金総額が50億ドルにも達するとみられている。 

海外で出稼ぎ労働に従事しているスリランカ人の総数は、約200万人にのぼるとみられている。そのうち、少なくとも80万人が家政婦で、彼女たちの大半が中東湾岸諸国で働いている。サウジアラビアは、依然として最も人気ある出稼ぎ先である。 

しかし、2011年末以降、移住労働者への暴力がメディアを通じてスリランカ社会に知られるところとなり、サウジアラビアへの出稼ぎに躊躇する労働者もでてくるようになった。こうした事態に、サウジアラビアでの就労に同意する家政婦に800ドルのプレミアムを支払う仕事斡旋業者もでてきている。 

ナフィークさんの故郷ムトゥール村では、女性たちが政府に対してサウジアラビアへの家政婦派遣を禁止するよう求める署名活動を行っていた。 

「人々は、ムトゥール村の者たちは処刑されたリザナ・ラフィークさんの件について口を噤んでいると思っています。でも実際は違います。私たちはこの件について、正義がなされたと思っていません。私たちはリザナの死を単なる統計に一部にされてしまうことを決してよしとは思っていません。」と、同村の民生委員モハメド・ジハードさんは語った。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 

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政治的に悪化する核をめぐる国際環境

【国連IPS=タリフ・ディーン

核をめぐる国際政治環境はますます悪化しつつあり、脅しと非難、国連安保理決議への明白な反抗であふれている。 

長く待ち望まれている、フィンランドが主催予定の中東非核兵器地帯化に関する国際会議の実現は、未だ程遠い状況にある。大量破壊兵器の廃絶を目的とした核兵器禁止条約(NWC)にしても然りである。 

そして2月12日、北朝鮮が国連の警告を公然と無視して3回目の核実験を強行した。一方、イランの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師は、イスラエルの核戦力が西側世界の暗黙の承認を得ている中東において、イランは核兵器を保有する権利を留保している、との認識を示した。

ハメネイ師は、「核兵器は廃絶されなければならない。我々は、核爆弾の製造を望んでいない。しかし、もし我々がそう考えず、それを持とうと決めたならば、いかなる勢力も我々を止める事は出来ないだろう。」と警告した。 

「核兵器なき世界」という究極の目標が遠ざかる中、東京に本部を置く在家仏教組織のリーダーが先週、2015年に国連や他の核保有国、非核地帯の代表などが一堂に会する「核サミット」の開催を開催を呼びかけた。 

Photo: SGI president Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun
Photo: Dr. Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.

創価学会インタナショナル(SGI)池田大作会長は、広島・長崎への原爆投下から70周年にあたる2015年に開催予定のG8サミット(主要国首脳会議)に続いて、「核兵器なき世界」に焦点を当てた「拡大首脳会合」を開催するよう提案している。 

「2015年のG8サミットは、こうした核サミット開催に向けて適切な機会となるでしょう。」と池田会長は述べている。 

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のティム・ライト氏は、IPSの取材に対して、ICANは池田会長らの提案を支持し、核兵器を禁止する条約の締結に向けたプロセスを今年中に開始すると語った。 

「我々は、核同盟の一翼を担う国も含め、すべての国に対して、こうしたプロセスに建設的に関わるよう強く求めます。」とライト氏は語った。 

またライト氏は、このプロセスには市民社会組織の関与が不可欠と指摘したうえで、「核兵器を世界的に禁止することは、可能かつ必要であり、また、緊急の課題なのです。」と語った。 

さらにライト氏は、「このような兵器が存在する限り、偶発的であろうと意図的であろうと使用される可能性は現実に存在します。そしてひとたび使用されれば、それが人間や環境に与える被害は甚大なものになるでしょう。」と主張した。 

池田会長は、1月26日に発表した平和提言「2030年へ 平和と共生の大潮流」の中で、3つの具体的な提案をしている。 

第一に、2015年以後に国連が掲げる「持続可能な開発目標」(SDGs)などのアジェンダの主要テーマの一つに、軍縮を当てることを提案している。 

とくに、世界全体の軍事費を2010年の軍事費を基準として半減させるとともに、核兵器の廃絶と、国際法の下で非人道的とみなされるその他のあらゆる兵器を全廃することを提案している。 

そしてこれらの目標は、2030年までに達成すべき、と池田会長は主張している。 

第二に、核兵器禁止条約(NWC)の交渉プロセスをスタートさせ、2015年を目標に条約案の合意を進めることを提案している。そして、日本は、核による被害を経験した国として、NWC実現に向けて積極的な役割を担うべき、と池田会長は主張している。 

さらに、北東アジアに「非核兵器地帯」を設置するための信頼醸成に努める中で、日本は、グローバルな核廃絶の実現に向けての環境づくりに貢献すべきだとしている。 

「この目的を達成するために、我々は、核兵器の非人道性を柱としつつ、核兵器にまつわる多様な角度からの議論を活発化させながら、国際世論を幅広く喚起していかなければなりません。」 

「例えば、2015年のホスト国であるドイツと交代する形で、2016年の担当国である日本がホスト役を務め、広島や長崎での開催を目指す案もあるのではないか」と池田会長は述べている。 

第3に、2015年のG8サミットに合わせて、国連や他の核保有国、非核兵器地帯の代表などが一堂に会する「『核兵器のない世界』のための拡大首脳会合(核廃絶サミット)」とするよう提案している。 

池田会長は、過去の平和提言においては、核廃絶サミットを実現する手段として、2015年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議の広島や長崎での開催を提唱してきた。 

しかし今回の平和提言では、190か国もの代表を集める実務面の問題を考えると、慣例通り、ニューヨークの国連本部でNPT運用検討会議を開くことになるかもしれない、と指摘したうえで、「その場合、NPT運用検討会議の数カ月後に行われるG8サミットの場が、世界の指導者がこの重大な問題に取り組む絶好の機会を提供することになるだろう。」と述べている。 

また池田会長は、SGIが長年に亘って核兵器の問題に取り組んできた理由について、核兵器の存在自体が「生命の尊厳」に対する究極の否定であるという認識に基づいている、と指摘するとともに、その目的について次のように述べている。 

「核兵器の問題というプリズムに、生態系の健全性や、経済開発、人権等さまざまな観点から光を当てることで、『現代の世界で何が蔑にされているのか』を浮き彫りにし、世界の構造をリデザイン(再設計)すること―そして、全ての人々が尊厳ある生を送ることができる『持続可能な地球社会』を創出することにあります。」(原文へ) 

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC. 

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|UAE|科学者グループ「蜂蜜が癌細胞の増殖を抑制する」と発表

【アブダビWAM】

アル・アインを拠点とするUAE大学の研究グループが、マヌカ蜂蜜が乳房、皮膚、大腸にできた癌性腫瘍の増殖を効果的に抑制することを発見した。 

研究者らは動物の癌腫瘍を対象にした臨床研究(5年以上行なっている)において、化学療法と並行してマヌカ蜂蜜を静脈投与した結果、概ね被験動物の生存率に改善が見られた。」と2月25日、地元英字日刊紙が報じた。

 蜂蜜には、従来から薬効効果(とりわけ抗菌作用や傷を治癒する作用、様々な肌のトラブルを緩和する作用等)があることが知られている。「マヌカ蜂蜜にはかなり以前から、抗菌作用に加えて抗炎症作用や創傷治癒促進作用があることが知られています。しかし、癌細胞に対する潜在的な効果については、詳細な研究はされてきませんでした。」とUAE大学医療保健学部医微生物学・免疫学科長のバゼル・アル・ハマディ教授は語った。 

 アル・ハマディ教授は、「チームは研究に3種類の異なる癌細胞(乳癌、皮膚癌、大腸癌)使用し、僅かな量のマヌカ蜂蜜(最少で1%程度)を投与するだけで癌細胞の成長を最大70%阻止することができることを立証しました。」と語った。 

同教授によると、研究者らは、この臨床結果を受けて、癌抑制機能に関するマヌカ蜂蜜の分子基盤を解明すべく、様々な実験に着手してきたという。「私たちはこの臨床研究の結果から、マヌカ蜂蜜は癌細胞に直接的に働きかけてアポトーシス(プログラムされた細胞死)を引き起こす決定的な証拠を得ました。」とアル・ハマディ教授は語った。 

アポトーシスとは、多細胞生物の体を構成する細胞の死に方の一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺すなわちプログラムされた細胞死のことである。 

「マヌカ蜂蜜がもつ効能は、非常に魅力的な研究分野といえます。私たちはこの研究成果が、特定の種類の癌に対して新たな治療方法を開拓する可能性を感じています。」とアル・ラマディ教授は語った。 

また、この研究からマヌカ蜂蜜には、癌患者に化学療法が適用された際に問題となる副作用を軽減する特性が備わっていることが明らかになっている。 

ラマディ教授率いる研究チームの成果は、最近著名な国際科学雑誌「Plos」に掲載された。チームは、タワン病院腫瘍科及び外科との協力のもと、引き続き研究を進めている。 

タワン病院は、国内で最も包括的な腫瘍治療施設を備えた医療機関で、癌患者の最大8割が登録している。 

マヌカ蜂蜜は、ミツバチがニュージーランドの大部分とオーストラリア南東部に自生するマヌカの木(学名:Leptospermum Scoparium)から採集した花の蜜を巣の中で加工・貯蔵したものである。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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|イラク|子ども達は実験用マウスだったのか

|米国|民間シンクタンク「イラン核武装化でもサウジアラビアは追随しない」

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【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

著名なシンクタンクが19日にワシントンで発表した報告書で、米国政界の一般通念に反して、イランの近隣諸国、とくにサウジアラビアは、イランが核兵器を取得してもそれに追随することはないだろうとの見通しを示した。 

『核の王国:もしイランが核兵器を作ったら、サウジアラビアはそれに続くか?』と題された49ページの報告書は、サウジアラビア政府は「イランの核兵器に対抗するために、何らかの形の核抑止力を取得することに強い動機を持っている」と述べている。 

しかし、自ら核開発に走ったり、あるいは、(パキスタン政府との緊密な関係にもかかわらず)同国から核を取得したりするよりも、はるかに高い確率で米国の核の傘の下での庇護を求めることになるだろうという。報告書を出したのは「新アメリカ安全保障センター」(CNAS)で、バラク・オバマ政権の国防総省や国務省に多くの人材を輩出している団体である。

 
主著者のコリン・カール氏(オバマ政権第1期で中東政策担当のトップを務める)は、「サウジアラビア政府は、パキスタンあるいは米国という外国から提供される核による安全の保証を求める一方で、現在の通常兵器による防衛のさらなる攻撃的な強化と、原子力の民生利用というヘッジ戦略を追求することになろう」と言う。 

「そして最終的には、パキスタンの核よりも米国の核の保証の方が、サウジアラビアにとってより確実で魅力的なものになるだろう」と報告書は述べている。報告書の著者にはメリッサ・ダルトンとマシュー・アーバインも名を連ねている。 

イランが核兵器かあるいは「最後の一線を越える能力」を取得した場合には中東の他の諸国も核武装化に走るという、イスラエルや歴代の米国政権が固く信じていた通念に挑戦したこの新しい報告書が出された今、私たちは重要な局面にいる。 

7か月の中断を経て、イランといわゆる「P5+1」(米国、イギリス、フランス、ロシア、中国にドイツ)は2月27日にカザフスタンでイランの核問題に関する協議を再開する。ただ、6月にイランの大統領が交代になるため、大きな進展があるとは考えづらく、事態が打開される見通しは薄いと多くの識者はみている。 

しかし、もし今回の交渉で進展が見られないようであれば、イランに対する強硬策を求める圧力がオバマ政権にかかるであろう。さらなる制裁措置と、軍事力行使の脅しの信ぴょう性を増すことで、イランが核兵器を取得することを「防止」するという既存の方針によってそれが正当化される可能性が高い。 

強力な「米イスラエル公共問題委員会」(AIPAC)がワシントンで3月3日から5日にかけて開催予定の年次政策会議では、これが中心的なメッセージになりそうだ。米議会のほとんどの政治家は会議に参加するとみられている。 

イスラエルと米国は、核武装したイランは「容認できない」と長らく主張してきた。なぜなら、彼らの見方では、ソ連に対して適用された封じ込め戦略の中心的要素であった「抑止」が、イランに対しては効きそうもないからだ。 

イスラエルの指導者の中には(とくにベンヤミン・ネタニヤフ首相)、イランはその宗教的な「メシア信仰」によって抑止不可能な存在になっていると考える向きもある。 

イスラエルと米国政府はまた、イランが核兵器を取得すれば連鎖反応を引き起こすと考えてきた。中東におけるイランのライバル国であるトルコ、エジプト、そしてとりわけサウジアラビアが、イランを追いかける火急の必要性を感じ、世界でもっとも紛争含みでエネルギー資源の豊かなこの地域において一触即発の「核の火種」が生まれる、というのである。 

イスラエル・ロビーやネオコンのシンクタンク・識者、不拡散タカ派がとくに主唱してきたこの議論は、ここワシントンでは常識になりつつある。しかし、前述のCNAS報告書は、これは「おそらく間違い」だと指摘している。 

CNASのこの最新の研究では、オバマ政権の見方と同じく、「中東に核兵器国が複数生まれるリスクはどんな小さなものであっても避けるべき」であるから、イランの核武装防止を政策目標にしつづけるべきであると強調されている。 

しかし、「同時に、(場合によっては軍事力行使も含む)予防措置が失敗した場合に備えて、サウジアラビアに核による安全の保証を供与することも含め、抑止と封じ込めの仕組みを作る準備を密かに開始すべきだ」と報告書は言う。 

カール氏とCNASによるこの勧告は、口では「予防を図る」と言っておきながら、実際はムスリム世界でのあらたな戦争に米国を引きずり込みかねない行動をオバマは避けようとしているのではないかとの疑いをネオコンやイスラエル・ロビーの間に広げることになろう。 

報告書はもっぱらサウジアラビアに焦点を当てているが、エジプトとトルコについても、イランの核兵器取得に対して自前の核兵器計画によって対応するとは見られない、と論じている。エジプトの場合は、イランを「生存上の脅威」とみなしておらず、他に対応すべき問題が多いためであり、トルコの場合は、とりわけ、北大西洋条約機構(NATO)加盟国として信頼性の高い核抑止力をすでに手にしているためである。 

他方で、サウジアラビア政府の場合は(すでに一部の指導者は、イランの核武装化に対して同様の行動をとると示唆しているが)、イランが、核の盾に隠れて、直接あるいは代理集団を通じて、サウジアラビアに対してより攻撃的に出てくるのではないかという不安が実際に存在する。 

しかし、報告書は、これらの恐怖があっても、核武装化への主要な「逆インセンティブ」を乗り越えることにはならないだろう、と結論している。「逆インセンティブ」とは例えば、イスラエルからの攻撃を誘発するリスク、米国との重要な安全保障上の関係が断絶する可能性、自国の国際的な評判が低下したり、国際的な経済制裁の対象になる可能性などである。 

米国も、サウジアラビアがイランの後を追わないように積極的なインセンティブを与える可能性がある。サウジアラビアに対して核の安全保証を供与するだけではなく、核計画に厳格な制限を課すことを条件に民生核協力を強化する用意もある。 

米国はまた、マイナス・プラス双方のインセンティブを通じて、エジプトと同じようにイランを生存の脅威とみなしていないパキスタンに対して、サウジアラビアに兵器を移転しないよう圧力をかけるかもしれない。 


CNAS報告書によれば、地域のある一国が核兵器を取得した場合にその隣国が同じ反応を示すことで核が拡散するという予想は、たいてい誤っている。 

また報告書では、中国が核兵器を実験してからの50年間に核兵器を取得したのはイスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮の4か国だけであり、他の7か国が、サウジアラビアがおそらく直面するであろう「逆インセンティブ」を一部の理由として、核武装化を放棄するか、あるいは高度に発展した計画を中止している。 

核軍縮を求める団体「プラウシェアズ財団」のジョー・シリンシオーネ代表は、IPSの取材に対して、「私は以前、北朝鮮やイランが核武装化したらドミノ的な拡散が起こると考えていました、歴史的証拠を無視することはできません。」と指摘したうえで、 

「北朝鮮は2006年に核実験を行ったが、それに追随する隣国はありませんでした。つまり、核兵器の使用は抑止可能であり、その拡散は封じ込められるのです。こうして世界的な[核不拡散]体制は、重大な衝撃を受けつつも生き延びてきたのです。」と語った。 

|カンボジア|疲労困憊してもマッサージ嬢らに休息なし

【プノンペンINPS=ミシェル・トルソン】

人口の3割以上が貧困線(一日当たりの所得が1ドル)以下の生活を送るこの東南アジアの国(人口1400万人)では、労働者は厳しい現実に直面している。正規雇用を見つけるのは難しく、多くの人々が、最低賃金の規定もなく労働法もほとんど遵守されない「インフォーマルセクター」での就労を余儀なくされている。 

先日、高級スパのマッサージ嬢らが起こした労働争議をきっかけに、労働者の人権が最も侵害されやすい分野のひとつとみられている「娯楽産業」の実態に光があてられることになった。

 それまでカンボジアの「娯楽産業」は、秘密のヴェールに包まれていたが、昨年10月にノロドム・シアヌーク国王が崩御した際に、「『アジアデースパ』に勤務する5人のマッサージ嬢が、国王に最後の別れをするために休憩をとりたいと申し出でたところ拒否された」との報道を契機に、急遽この産業の実態にスポットライトがあてられることとなった。 

「マッサージ嬢らは、2012年10月15日に国王崩御を伝えるニュース報道に接して、『亡き国王を悼むために数時間の休憩時間をほしい。』と申し出ました。彼女らは、週6日、朝10時から夜10時までの12時間勤務に従事しているのです。」と娯楽産業に従事する労働者団体「カンボジア食品・サービス労働組合連盟(CFSWF)」のモラ・サル理事長は語った。 

しかしスパのオーナーはこれを拒否。亡き国王を追悼するために数百万人の国民がカンボジア各地から首都プノンペンに続々と集まる中、結局、彼女らは群集に加わることにした。ところが、翌日彼女らが出勤してみると、既に解雇されており、最後の月に働いた分の支払いも行われないと知らされた。 

労働争議を調停する任務を負った政府機関「仲裁評議会」が、スパオーナーによるカンボジア労働法違反を認める判決を下したにも関わらず、スパ側はこの判決に従う意向を示さなかった。 

 そこで解雇されたマッサージ嬢らと、CFSWF、その他の娯楽産業に従事する労働者らは、1月11日から18日にかけて、拡声器、看板、チラシ(英語及びクメール語)などを持ち寄り、外国人顧客を対象とした高級スパとして有名な問題の施設の前で抗議集会を開いた。そしてこの集会は、この事件に対する地元メディアの注目を集めることとなった。その結果、5人のマッサージ嬢には、前月分の給与、年次休暇分の取り分、及び解雇手当(勤続年数に応じて300ドルから1000ドル)が支払われた。 

これはマッサージ嬢が勝ち取った判決としては画期的なものだが、サル理事長によると、「まだまだ始まりに過ぎない。」という。CFSWFでは、この最新の訴訟に加えて、カンボジア北西部シエムリアップ州にある大型マッサージパーラー「アラスカマッサージ」で働く15名のマッサージ嬢が起こした訴訟も支援している。この韓国人所有のマッサージパーラーでは、約200人の従業員が1月あたり僅か50ドル(日当2ドル程度)の低賃金で労働に従事しているという。 

商業的性労働と「娯楽産業」の違いは紙一重 

カンボジアのマッサージ嬢らをとりまく労働環境についてはほとんど知られていない。メディアは長らく、ビール販売員、ホステス、カラオケ店の歌手やダンサーなど、カンボジアの娯楽産業に関する報道を行ってきたが、そうした記事の大半は、マッサージパーラーではなくむしろ地方のナイトクラブやビアガーデンで働く女性を取材したものだった。 

しかし実際のところ、カンボジアには、女性が性労働者として搾取されてきた長い歴史がある。そして性産業に取り込まれる女性たち(大半が正規の教育を受けていない女性たち)は、男らしさと女性の貞操観念を重視するこの国の文化が生み出した二重基準の被害者でもある。 

グエルフ大学(カナダ)の研究者イアン・ルーベック氏は、カンボジアの若い男性が性産業に安らぎを求める傾向にある一因として、1975年から79年のポルポト時代に、生きていれば子どものために見合い縁組をしたであろう両親を殺害された影響を指摘している。ポルポト時代に殺害された犠牲者は75万人~300万人と推計されている。 

また一方でルーベック氏は、独身・既婚男性の性産業における買春経験(全体の25%)を調査した政府統計を引用して、既婚男性も売春宿に頻繁に通っている点を指摘した。 

カンボジアでは2007年12月に議論を呼んだ「人身取引・商業的性的搾取取締法」が議会を通過し、2008年には国内各地の売春宿が閉鎖された。しかし行き場を失った性労働者らが、大挙して娯楽産業に移っていったため、影の多い娯楽セクターが急成長することとなった。国際労働機関(ILO)の調査報告書によると、プノンペンで売春を行っていたマッサージ嬢の数は2008人には推計494人であったのが、翌年末には2424人と390%の増加を示している。また同報告書によると、ビアガーデンやビールの売り子として働いている人々の人数も、マッサージ嬢の場合と並行した動きを記録している。 

この調査結果は、娯楽産業の仕事は性労働とは区別されるものだが、両者の間に重複している部分があることを明白に示している。そして、娯楽産業の女性たちを性労働に押しやる背景には、正規労働から得られる所得が極めて低い(低賃金)問題と、顧客や雇用主が性的なサービスを求める職場のプレッシャーが存在する。結局、生活費の不足分を埋める必要性から多くの女性従業員がこのプレッシャーに屈することになるのである。 

記者が取材した女性たちの多くが、低賃金に加えて、農村部の親戚を支援する必要性から、結果的に自らの基本的な必要を満たすことさえままならない経済状態におかれていることを告白している。 

ルーベック氏はIPSの取材に対して、「ビールの売り子、ホステス、マッサージ嬢、カラオケ店の歌手など1800人に取材をした結果、雇用主が地元娯楽施設の所長か世界的なビール会社か地元の代理店かの違いに関わりなく、常に極めて低い賃金しか支払われていない実態が分かりました。」と語った。 

またルーベック氏は、2002年から1012年までの調査結果を網羅した最新の報告書を示しながら、娯楽産業の労働者に払われている平均賃金は、彼女たちの基本的な必要を満たす最低資金の半額程度に過ぎないため、常に残りの40%から60%の収入を顧客からのチップに頼らざるを得ない構造になっている、と説明した。このルーベック氏の研究結果は、売春宿が閉鎖される前から、こうした労働者達に性的サービスを迫る圧力が既に存在してきたことを物語っている。 

性労働者の共同体「連帯のための女性ネットワーク(WNU)」のピセイ・リー代表は、IPSの取材に対して、「カンボジア人男性を顧客にする農村部の低価格帯のマッサージパーラーにおける通常のマッサージサービス料金は7000~10000リエル(1.75~2.5ドル)です。もしマッサージ嬢が場所を店外移して性的サービスを提供する場合、追加料金として5ドルを請求します。」と語った。 

リー氏によると、性労働者らは、売春行為が違法とされたため、このようなマッサージパーラーのような娯楽施設を顧客獲得の窓口として利用しているという。「ちなみに、こうした娯楽施設を利用するのは大半がカンボジア人男性で、一方、外国人の場合は、マッサージパーラーよりも、バーやナイトクラブでフリーランスの売春婦を誘って買春しています。」とリー氏は語った。 

一方、高級スパの場合、外国人の顧客を対象にする傾向があり、サービスも専ら治療的なマッサージサービスに限定されている。従って、このような施設で働くマッサージ嬢をとりまく労働環境は比較的恵まれているといえる。 

サル理事長は、「(5人のマッサージ嬢が労働争議を起こした)アジアデースパの場合、マッサージサービスの料金は1回につき8ドルから18ドルで、マッサージ嬢らはチップを含めて各顧客から直接支払いを受けることができます。つまりこの店の月収70ドルは賃金レベルでは最高級のカテゴリーになるのです。」と語った。(原文へ) 

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩 

2030年までに世界的な軍縮の実現を目指して

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【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】 

著名な仏教指導者である池田大作氏は、2015年に「拡大首脳会合」を実現させ、「核兵器のない世界」への潮流を決定づけるとともに、2030年に向けて世界的な軍縮の流れを巻き起こす出発点にすることを呼びかけています。 

そのうえで、池田氏は、NGO(非政府組織)と有志国による「核兵器禁止条約のための行動グループ」を発足させ、非人道的であり、毎年1,050億ドルをも費やす核兵器を禁止する条約づくりのプロセスを年内に開始させることを求めています。 

「そこで今後、重要なカギを握るのが、核保有国による“核の傘”に自国の安全保障を依存してきた国々の動向です」と、東京に拠点を置く世界的な仏教団体である、創価学会インタナショナル(SGI)の池田会長は、記しています。

 大量破壊兵器である核兵器の不拡散と廃絶を求める共同声明には、「非核兵器地帯に属する国々や、非保有国で核廃絶を求める国々などと並んで、NATO(北太平洋条約機構)の加盟国として“核の傘”の下にあるノルウェーデンマークも加わっています。しかも両国は、声明づくりにも関わってきました。」と、池田SGI会長は歓迎しています。 

一方、米国の“核の傘”の下にある日本は、この重要な共同声明の署名を拒否しています。それに対し池田氏は、「非人道性の観点から核兵器の禁止を求めるグループに一日も早く加わり、他の国々と力を合わせて『核兵器のない世界』を現実のものとするための行動に踏み出すべきである」と訴えています。 

2030年へ平和と共生の大潮流」と題する2013年の平和提言の中で、池田氏は、「平和と共生の地球社会の建設に向けた2030年へのビジョン」を展望しています。 

1957年に発表された、創価学会・戸田城聖第二代会長の「原水爆禁止宣言」を原点に、池田氏は、1983年以来毎年平和提言を発表しており、平和と人間の安全保障の実現に向けて地球社会が直面する様々な挑戦と、仏教の基本概念との相互の関係性に焦点を当てています。これまでの平和提言のなかで、池田氏は、教育改革、環境問題、国連の在り方、核兵器の廃絶についても言及してきました。 

核兵器の人道的な影響に関する国際会議が、ノルウェー外務省の主催で、本年3月4、5日の両日、オスロで開催されます。(これに先立ち、世界的な核兵器の禁止を求める市民社会フォーラムも開催されます。)さらに9月の国連総会では、「核軍縮に関するハイレベル会合」が開催されます。池田氏の2013年の平和提言は、これら二つの重要な行事に至る過程で発表されています。 

池田氏の2013年の平和提言では、世界全体の核兵器関連予算が「保有と維持だけでも重大な負荷を世界に与え続けている」ことに言及されており、「その莫大な資金が各国の福祉・教育・保健予算に使われ、他国の開発を支援するODA(政府開発援助)に充当されれば、どれだけ多くの人々の生命と尊厳が守られるか計り知れません。」と記しています。 

背景 

この最新の平和提言の背景には、2010年のNPT(核不拡散条約)運用検討会議を契機に、非人道性に基づいて核兵器を禁止しようとする動きが芽生えていることがあります。 

NPT再検討会議では、「核兵器のいかなる使用も破壊的な人道的結果をもたらすことに深い懸念を表明し、すべての加盟国がいかなる時も、国際人道法を含め、適用可能な国際法を遵守する必要性を再確認する」との一文が最終文書に盛り込まれました。 

以来、2011年11月に国際赤十字・赤新月運動の代表者会議で、「すべての国家に対し、法的拘束力を持つ国際条約によって、核兵器の使用禁止と完全廃棄を目指す、誠実かつ緊急で断固たる条約の交渉」を求める決議が採択されました。 

その後、2012年5月には、次回2015年のNPT再検討会議に向けて行われた準備委員会の場で、ノルウェーやスイスを中心とした16カ国による「核軍縮の人道的側面に関する共同声明」が発表されました。この共同声明では、「冷戦の終結後においてすら、核による絶滅の脅威が、21世紀における国際的な安全保障の状況の一部であり続けていることは、深刻な懸念」との認識が示されています。 

またこの声明では、「もっとも重要なことは、このような兵器が、いかなる状況の下においても二度と使用されないことであり、すべての国家は、核兵器を非合法化し、核兵器のない世界を実現するための努力を強めなければならない」と強調しています。2012年10月には、この共同声明に若干の調整を加えたものが国連総会第1委員会で発表され、賛同の輪はオブザーバー国を含めて35カ国にまで拡大しています。 

さらに池田氏は、2012年4月に発表された核戦争が及ぼす環境への影響について重要な研究結果をまとめた報告書「核の飢餓」に言及しています。これはIPPNW(核戦争防止国際医師会議)PSR(社会的責任を求める医師の会)が作成したもので、比較的に小規模な核戦力が対峠する地域で核戦争が起きた場合でも、重大な気候上の変動を引き起こす可能性があり、遠く離れた場所にも影響を与える結果、大規模な飢餓が発生して10億人もの人が苦しむことになると予測しています。 

SGIがこれまで核兵器の問題に取り組んできた理由を、池田氏は次のように述べています。「核兵器の存在自体が『生命の尊厳』に対する究極の否定であり、その禁止と廃絶を実現させる中で、“国家として必要ならば、大多数の人命や地球の生態系を犠牲にすることも厭わない”との非道な思想の根を断つことにありますが、理由はそれだけにとどまりません。」 

「もう一つの大きな目的は、核兵器の問題というプリズムに、環境や人権といった、さまざまな観点から光をあてることで、“現代の世界で何が蔑ろにされているのか”を浮き彫りにし、世界の構造をリデザイン(再設計)すること—そして、将来の世代を含め、全ての人々が尊厳ある生を送ることができる『持続可能な地球社会』の創出にあります。」 

三つの提言 

上記を踏まえて、池田SGI会長は、三つの提案をしています。 

第一に、「持続可能な開発目標」の主要テーマの一つに軍縮を当て、2030年までに達成すべき目標として「世界全体の軍事費の半減(2010年の軍事費を基準とした比較)」と「核兵器の廃絶と、非人道性などに基づき国際法で禁じられた兵器の全廃」の項目を盛り込むことを提案しています。また、池田氏が2012年6月に発表した環境提言で、「持続可能な開発目標」の対象分野にグリーン経済や再生可能エネルギー、防災・減災などを含めるべきとの提案について、さらに軍縮も対象分野に含めるべきであると提案しています。 

さらに、国際平和ビューローと政策研究所の二つのNGOが中心となって軍事費の削減を呼びかけており、SGIとしても「人道的活動としての軍縮」を重視する立場から、その運動に参加していきたい、とも池田氏は記しています。 

第二に、池田氏は、核兵器禁止条約の交渉プロセスをスタートさせ、2015年を目標に条約案のとりまとめを進めることを挙げ、「核兵器の非人道性を柱としつつ、核兵器にまつわる多様な角度からの議論を活発化させながら、国際世論を幅広く喚起していくこと」を提案しています。 

第三に、広島と長崎への原爆投下から70年となる2015年にG8サミット(主要国首脳会議)を開催する際に、国連や他の核保有国、5つの非核兵器地帯条約署名国(NWFZ) —南極条約、ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約(トラテロルコ条約)、南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)、東南アジア非核兵器地帯条約(バンコク条約)、アフリカ非核兵器地帯条約(ぺリンダバ条約)— さらに核兵器廃絶に積極的に取り組む諸国の代表が一堂に会する「核兵器のない世界のための拡大首脳会合」を行うことをSGI会長は提案しています。 

さらに、「2015年のホスト国であるドイツと交代する形で、2016年の担当国である日本がホスト役を務め、広島や長崎での開催を目指す案もあるのではないか」と池田氏は付け加えています。 

これまで発表された平和提言の中で、池田氏は、核兵器廃絶のための首脳会合を実現にむけ、2015年のNPT運用検討会議を広島や長崎で開催することを提唱しており、その実現を切望しています。 

「190近くの国が参加する大規模な会議であることなどの理由から、慣例通り、国連本部での開催が決まった場合には、運用検討会議の数カ月後に行われるG8サミットの場で論議を引き継ぐ形で、『拡大首脳会合』を行い、この重要な問題に取り組む絶好の機会を設けてはどうか」とも池田氏は主張しています。 

その意味から、池田氏は、2012年3月26日に韓国外国語大学における講演でバラク・オバマ大統領が述べた次の言葉が心強いと述べています。 

「我が政権の核態勢は、冷戦時代から受け継いだ重厚長大な核兵器体系では、核テロを含め今日の脅威に対応できないとの認識に立つ. . . 米国には、行動する特別な責務がある。それは道徳的な責務であると私は確信する。私は、かつて核兵器を使用した唯一の国家の大統領としてこのことを言っている。」 

これは当然、2009年4月のプラハ演説で述べた信念をあらためて表明したものですが、オバマ大統領はこう続けています。 

「何にもまして、二人の娘が、自分たちが知り、愛するすべてのものが瞬時に奪い去られることがない世界で成長してゆくことを願う一人の父親として言っているのだ」と。 

さらに池田氏は、「この後者の言葉、すなわち、国や立場の違いを超えて一人の人間として発した言葉に、あらゆる政治的要素や安全保障上の要請を十二分に踏まえてもなお、かき消すことのできない “本来あるべき世界の姿”への切実な思いが脈打っている気がしてなりません。私はここに、『国家の安全保障』と『核兵器保有』という長年にわたって固く結びつき、がんじがらめの状態が続いてきた “ゴルディアスの結び目”を解く契機があるのではないかと考えるのです。」と述べています。 

そして池田氏は、次のように付け加えています。「核時代に生きる一人の人間として思いをはせる上で、広島や長崎ほどふさわしい場所はありません。2008年に広島で行われたG8下院議長サミットに続いて、各国首脳による『拡大首脳会合』を実現させ、『核兵器のない世界』への潮流を決定づけるとともに、2030年に向けて世界的な軍縮の流れを巻き起こす出発点にしようではありませんか。」と。 (原文へ

IPS Japan 

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.


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|マリ|キリスト教徒もイスラム教徒も―「私たちは皆、テロリストの被害者だ」

【モプティ(マリ)IPS=マルク-アンドレ・ボワベール】

マリ中部のモプティにある福音教会の入り口では、ルーク・サガラ神父が日曜の集会を執り行う中、兵士らが戸口の両脇を固めていた。

こうしたマリ政府軍兵士の存在は、この街が僅か3週間程前まで、シャーリア法を適用しようとする反政府イスラム過激派集団によって占領されていたという事実を物語っている。

サガラ神父はIPSの取材に対して「今は安全です。フランスが介入したので、もうイスラム教徒が私たちを攻撃することはないと思っています。」と述べた。

 モプティの北東60キロにあるコンナに過激派勢力が迫り、マリのディオンクンダ・トラオレ暫定大統領の要請によって、フランス軍が1月11日に軍事介入を行った。当時イスラム過激派は、首都バマコ奪取を目指して勢力を拡大しており、途中の町を次々と占領し、シャーリア法を適用し、キリスト教徒と穏健なイスラム教徒を迫害した。

2012年4月以来、マリ北部では、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQUIM)」、「西アフリカ統一聖戦運動(MUJWA)」、さらに、マリ南東部一帯に住むトゥアレグ人から成るイスラム教集団「アルサン・ディーン」の連合による反政府武力闘争が激しくなってきていた。

伝えられるところでは、これらの反政府勢力は、各地の(イスラム教以外の)宗教施設や教会を破壊し、占領地に極端に厳格なシャーリア法を適用して、公開鞭打ち刑、処刑、手足切断などを行った。

国際人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は、これらの集団が略奪や、少年兵の徴発、女性や若い少女への性的暴行を行っているとして、非難している。HRWのアフリカ上級調査員のコリン・ドゥフカ氏は、2012年4月に取材した際、「この数週間、マリ北部を支配している武装勢力は、誘拐や病院の略奪を行って住民を恐怖に陥れています。」と語っていた。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、この間の混乱によってマリでは国内避難民が25万人に達しているという。モプティは、北部各地から武装勢力の支配を逃れた難民が目指す主要な避難先の一つとなっていた。

マリの人口(1580万人)の5%を占めるキリスト教徒については、ある者はモプティを逃れ、ある者はイスラム過激派の勢力の支配を恐れながらも街に留まった。

モプティのイスラム教導師であるアブドライェ=マイガ師は、IPSの取材に対して、「どの宗教に属していても、過激派から危害を加えられる危険性がありました。私たちは皆、あのテロリストらの被害者なのです。私たちは皆、マリの国民であり、みんな一緒に逃げてきたのです。」と語った。

マイガ師の家族は、反政府勢力の支配下にあった北部最大の街ガオから逃れてきていた。「私の家族は、ガオからモプティに避難してきた際、キリスト教徒の家族を伴っていました。そこで私たちは、このキリスト教徒の家族が過激派の監視を逃れて移動ができるよう、伝統的な(イスラム教徒の)衣装を貸してあげました。」とマイガ師は語った。

すでに解放されたマリ中部の街ディアバリーでは、ダニエル・コナテ神父が、過激派勢力が街から駆逐されてから初めてとなる、礼拝の準備を進めていた。教会の壁に書かれた「アラーこそ唯一の神」という落書きや、床に散乱した銃弾が、つい最近までイスラム過激派勢力がこの地を占領していた事実を生々しく物語っていた。

「過激派らはこの教会を軍事拠点として使用しました。」とコナテ神父は語った。モプティが占領されている間、コナテ神父は家族とともに街から20キロ離れた村に身を隠し、マリ政府軍とフランス軍が過激派勢力を街から駆逐した1月21日以後に、再び戻ってきた。

しかしコナテ神父は、その建物は外観からは礼拝所であることが分らない造りなのに、なぜ過激派が教会だと気づいて襲ってきたか、訝しがっている。

教会に30人の信徒が集まり、「人を裏切るのは神ではなく、神を裏切るのが人」という讃美歌の声とともに礼拝の儀式が始まる中、コナテ神父は「私たちは、この地域の人々の中に、ここが教会だということを過激派勢力に教えた人がいるかもしれないと考えています。」と語った。

地元の人々は、イスラム過激派勢力の中に、かつてディアバリーに駐在した2人の元マリ政府軍の高官を見つけて以来、過激派勢力は一部地元住民の支援を得ていたに違いないと考えている。その結果、かつて平和的に共存してきたモプティの住民は、近隣者同士が互いに疑心暗鬼となっている。

ディアバリーの街が占領されている間、キリスト教徒でカソリック教師のパスカル・トゥレ氏は、街の郊外にある4ベッドルームの自宅に、イスラム過激派勢力に見つかって迫害されることを恐れる27人のキリスト教徒を匿った。

「街では全ての住民がお互いに顔なじみだから、(イスラム過激派勢力に)キリスト教徒の居場所を通報したのが地元住民なのは明白なことのように思えます。」とトゥレ氏はIPSの取材に対して語った。

しかし、トゥレ氏は、裏切り者に対する復讐は解決策にならないと確信している。

自宅に匿っていた人々は、ディアバリーの各々の自宅に帰って行った。「でも、キリスト教徒にとって、街での生活はかつてと同じようにはいかないでしょう。」とトゥレ氏は語った。

一方、紛争前の平和な時代の記憶を頼りに、またかつてのように地域住民が共存して生きていける時代がやってくるとの希望的観測を信じている人々もいる。イスラム教徒の元教師バカリー・トラオレ氏もその一人である。

「イスラム過激派がこの街を占領した際、たしかに標的にされたのはキリスト教徒でしたが、ディアバリーの住民全体が被害者なのです。幸い、過激派らは(間もなく政府軍とフランス軍に駆逐されたため)シャーリア法を適用する時間がありませんでした。もし適用していたら、街の皆が苦しむことになっていたでしょう。しかし彼らは成功しなかった。だから今、私たちは、以前と同じように、同じマリ人として、共存して生きていくことができるのです。」とトラオレ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|エジプト|新体制下でも変わらない警察の虐待

【カイロIPS=キャム・マグレイス】

カイロでの抗議行動の中、エジプト人男性が裸のまま武装警察に通りを引きずり回され殴られる生々しい様子を撮影した映像が公開され、エジプト全土に警察に対する怒りと、改めて警察改革を求める声が高まった。奇しくも、警察改革は、ホスニ・ムバラク前大統領を権力の座から引きずり下ろした2011年の民衆蜂起における主要な要求のひとつであった。

映像に写っていたのは塗装工のハマダ・サベルさん(48歳)で、通りに倒れ、ズボンが足首まで引き下ろされた状態のまま、武装警官らに顔面を殴られたり、棍棒で体をメッタ打ちにされていた。サベルさんが動かなくなると、警官らは、うつ伏せのサベルさんを引きずってアスファルトの通りを横切り、装甲車に投げ入れようとした。

 この事件に、野党と人権団体は強く反発し、反対派の弾圧に前任者(=ムバラク前大統領)と同様の残虐な手法に頼っているとして、モハメド・モルシ大統領の責任を追求した。

「確かにショッキングな映像ですが、驚くには当たりません。今の警察はムバラク独裁時代の人々と同じなのですから。警察改革について、真剣な取り組みがなされていないということですよ。」と活動家のモハメド・ファティ氏は語った。

2月1日、大統領府付近で発生した警察と反モルシ派デモ隊との衝突は、周辺の通りに広がり、被害者のサベルさんは、家族と買い物をしていたところを巻き込まれたのである。エジプトではこの事件の一週間前から全国各地で騒乱が相次いでおり、60人近くの死者と数百人を負傷者が出ていた。
 
また、多くのエジプト国民が、警察病院に入院中のサベルさんに嘘の供述をさせたとして内務省を批判している。テレビインタビューの映像に写ったサベルさんは、武装警察は、彼の服を脱がして暴行を加えたデモ隊から救出してくれた。」と主張したが、この供述内容は、今回各テレビ局から公開された暴行の様子を収録したビデオや近くで暴行を目撃した家族の証言内容とは矛盾するものだった。

この事件については、人権弁護士のナセル・アミン氏は自身のツイッターに、「(警察当局が)一市民を公共の場で引きずり回すのは人道に反する犯罪であり、さらに公式な証言として、虚偽の供述を強要するのは暴政にほかなりません。」と書き込んでいる。

サベルさんは、後に自らの証言を撤回し、実際に彼を虐待したのは武装警察であったことを打ち明けている。また、息子のアハメド君は、地元の独立系新聞社「アル・ショロク」紙の取材に対して、「父から電話があり、警察当局が偽りの証言をするよう脅迫したと泣きながら訴えていた。」と語った。

サベルさんに対する暴行を巡る抗議の声は、1月27日にタハリール広場で行われた抗議行動に参加して逮捕された28歳の少年が死亡したニュースが流れたのを契機に、さらに高まりを見せている。検死報告によると、モハメド・エルギンディさんの遺体には、電気ショックと絞殺を加えられた跡のほか、肋骨3本骨折、頭蓋骨陥没、脳内出血が確認された。

モルシ政権は、警察による拷問と暴行疑惑に関する事実関係を調査すると約束した。同大統領は自身のフェイスブックに、「市民の人権と自由を踏み躙ったムバラク時代に回帰することはない。」とのメッセージを掲載した。

しかし人権擁護諸団体は、エルギンディさんの殴打された遺体の顔写真や、サベルさんを暴行する警察当局の映像から、政府の意図は疑わしいとの見方を示している。

エジプト人権擁護の会」(EIPR)は、ムバラク退陣2周年を記念した報告書の中で、「エジプト警察は今なお組織的に暴力や拷問を行使し、時には殺人も犯している。」と指摘している。

また同報告書は、「警察機構の管理体制、意思決定や業務監督のあり方、また拷問、殺人に関与した警察幹部や一般の警察官の更生や更迭など、どの項目を見ても、徹底的な警察改革が行われた形跡はなく、むしろ表面的に改善されたような対応がなされている。」と指摘している。

EIPRによると、モルシ政権発足からこの7か月の間に、エジプトでは警察によって少なくとも十数人の人々が殺害され、11人が警察署内で拷問を受けている。同報告書は、「警察当局の責任が問われることはほとんどない。」と記している。

800人以上が殺害された2011年の革命後に有罪になって刑務所に収監された警察官はわずか2人で、100人以上は無罪判決を受けている。

モルシ大統領の出身母体であるイスラム主義団体「ムスリム同胞団」は、最近の警察による暴行・拷問疑惑と大統領の間の距離を置こうとしている。同胞団の報道官は、「大統領が警察機構から、囚人に対する拷問、虐待や武器の過剰行使、さらに日常的に賄賂を受取る慣習を許容する文化を取り除くには、今しばらく時間が必要だ。」と主張している。

「ムスリム同胞団」法律委員会の委員であるヤセル・ハムザ氏は、昨年12月に俄かに纏められ、賛否両論を呼んだ国民投票で採択されたエジプトの新憲法では、警察当局による暴行事件が生じた場合、「大統領の責任は問えないことになっている。」と語った。

この点は、独立系新聞社アル・マスリ・アル・ヨウム」紙が「新憲法によれば、モルシ大統領は、抗議行動の参加者に対して警察が加えた拷問や殺人に関して何の責任もない。つまり、内政に関して責任を負うのは内閣であり、大統領の責任範囲については、外交問題にのみに限定されると規定している。」とのハムザ氏の解説を掲載した。
 
 しかし、活動家らはこうした議論を受入れていない。中にはモルシ大統領が脆弱な権力基盤を維持するために警察当局の力を必要としていることから、既に警察改革を諦めているのではないかと非難する者もいる。

「警察が得意なことと言えば一つしかありません。エジプト人を殴って辱めることだけです。」と4月6日青年運動のメンバーである先述のモハメド・ファティ氏は語った。

モルシ大統領は、先週テレビ放送された演説の中で、スエズ運河地区で起こった抗議行動を鎮圧した治安部隊を称賛した。そして、「抗議参加者は民主的に選ばれたモルシ政権の転覆を目論む凶悪なムバラク支持者らであった。」と語った。しかし、このデモ鎮圧では、警察の狙撃で殺害されたとみられる見物人を含む数十人が死亡している。

また大統領は、スエズ運河地区に30日間の厳戒令を発し、事実上、治安部隊が恣意的に市民を拘束したり逮捕したりできる広範な権限を認めている。こうした権限は、警察当局がムバラク独裁時代に謳歌していたものである。

ファティ氏は、「モルシ大統領は、警察当局に対して、抗議運動参加者には無制限の武力行使を認める許可を与えてしまっているのです。」と語った。ファティ氏が、サベルさんの事件を記録した映像を見ても、「ショッキングな映像ですが、驚くには当たりません。」答えた背景には、まさにこのような認識があったのである。(原文へ

INPS Japan

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|UAE|北朝鮮の第三回核実験強行を非難

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)外務省は、北朝鮮が3回目の核実験を強行したことについて、「核実験を繰り返す北朝鮮の行動は、朝鮮半島の平和と安定に向けた努力を台無しにするものだ」と強く非難した。

 UAE外務省は、2月13日に声明を発表し、「北朝鮮は、国連が同国に対してさらなる核実験を行ったり、弾道ミサイル技術を含んだ発射を行ったりすることを禁じた国連安保理決議1718、1874、2087に違反した。北朝鮮は国連安保理決議や核不拡散原則を尊重し、朝鮮半島における緊張関係を高めるような行動は慎まなければならない。北朝鮮政府が推し進めている政策は、結果的に同国の孤立を深めるだけである。」と警告した。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 

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「地球破滅の日」を回避する努力

【イスタンブールIPS=ジャック・クーバス

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が、市民や政治家をより積極的に巻き込んで核兵器の世界的禁止をめざす新しい戦略を採用した。

その戦略は、1月26日にイスタンブールで開かれたICANの会議で強調されたものである。

核兵器の拡散に反対し究極的にはその禁止をめざす、68か国・286の非政府組織による共同のキャンペーンであるICANは、核爆発がもたらす帰結について、世論と国家当局の双方により敏感になってもらうことを目指している。

ICANは、言葉だけにとどまらず、この問題に敏感な諸国家を巻き込み、核惨事に対処する具体的な措置を提案する予定である。3月2~3日にはオスロで、ノルウェー政府が他の16か国からの支援を得て開催する軍事的な核の脅威に関する専門家会議に先だって、市民社会によるフォーラムをICANが主催する。

 ICANの欧州・中東・アフリカ地区コーディネーターであるアリエル・デニス氏はIPSの取材に対して、「核不拡散条約(NPT)を実効的にするのは不可能であり、現実的に見て考えられないことだという核兵器国当局の発言を我々は繰り返し聞いてきました。これに対して私たちの立場は、これまでにも他の殺傷兵器を禁止に導いた国際条約があるというものです。つまり国際社会は地雷やクラスター弾の禁止に成功したのだから、核兵器の所有についても確実に禁止できるはずだというものです。」と語った。

ICANは、新しい地政学的環境の下では、いかなる国、核兵器国でさえも核攻撃の標的にされる恐れがあり、それがならず者国家やテロ組織への拡散を促す、と主張している。「1945年以来核兵器は使用されていないが、今日のサイバーテロで核弾頭の爆発は現実的なものになっています。」とデニス氏は語った。

この戦略の中心にあるのは、たった一発であっても核兵器が爆発した場合に人間にどのような影響を及ぼすか、という点である。

ICANは2012年、爆心地域の人口にもたらす短期的・長期的被害に関する報告書を発表した。毎時数百キロメートルの速さに達する爆風は、爆心地の近くにいるすべての人にとって致命的なものであり、通常は、激しい圧力と熱により、瞬間的に蒸発してしまう。それより遠い地点では、被爆者は酸素不足と一酸化炭素の過剰に見舞われ、肺と耳に被害を受け、内出血する。

しかし、放射線被ばくによる影響はより遠い場所でも現れる。身体のほとんどの器官に対して数十年にわたる影響を及ぼし、被爆者とその子孫の遺伝子を損壊する。

こうした主張は、1970年代からこの10年ほどの間に米国政府や研究機関によってなされた調査によって真実であることが裏付けられてきた。米北部の中西部に広がる「穀倉地帯」にある大陸間弾道ミサイル基地に対して中規模の核弾頭3発が撃ち込まれたというシナリオの場合、死者が750~1500万人、重傷者が1000~2000万人と推定された。

生存者に及ぼす影響に対しては、現実的には対処することが困難である。放射能の存在によって4000万人ができるだけ遠方に避難することを余儀なくされるからだ。避難には数週間から数年かかるとみられる。

米国の「穀倉地帯」は農村地帯である。欧州の人口密度は米国の3倍であり、核爆発が起これば人道的により壊滅的な被害が予想される。

2007年に結成されたICANは、核兵器の専門家などから成る運営委員会とジュネーブにある小さな事務局から構成され、国際的な運動やイベントを取り仕切っている。そしてメンバーのNGOは地域における活動を支援している。

ICANの活動は、1968年7月1日にニューヨークで署名された核不拡散条約(NPT)を主張の基礎としている。NPTの批准国は徐々に拡大して189か国になったが、インドやパキスタン、イスラエルは加盟していない。1995年5月には条約が無期限延長された。

NPTの署名国は、核兵器国と非核兵器国に区別される。核兵器国は英国、中国、フランス、ロシア、米国であり、国連安保理の構成国と同じである。

NPT第6条は、「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき」、ならびに、「厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約に向けて誠実な交渉を追求する」と義務づけている。

「軍縮は全面的かつ完全なものでなくてはなりません。1990年代にはこの点に関して条約の文言に多少の曖昧さがありました。しかし、この問題は国際法の中で明確にされたのです。つまり、すべての核兵器国は、あらゆる核兵器を解体するための交渉を開始しなくてはならないのです。」とデニス氏は語った。

米国はこれまで、条約第6条は加盟国に何らの義務も課していないとの解釈を採ってきた。しかし、国際司法裁判所(ICJ)は、1996年7月8日の勧告的意見で、「厳重かつ効果的な国際管理の下ですべての点で核軍縮につながるような交渉を誠実に追求し妥結をもたらす義務が存在する」と述べている。

核兵器国が交渉を始めようとの明確な意思を示さないことから、NGOの決意は確固たるものになった。彼らはICANを結成し、世界中の市民と政治家に核兵器を維持することの脅威を体系的に訴え始めた。

核弾頭の数は冷戦終結時の1990年代初頭の6万発から現在は1万9000発にまで大幅に削減されたが、ICANは、核兵器国による技術近代化が継続的に行われていることを懸念している。

米国の2011年の核兵器関連予算は、前年比10%増の613億ドルに達している。同年における、核兵器を保有している、あるいは保有を疑われる9か国の核兵器予算は、15%増えて1050億ドルとなった。イスラエルは、1958年以来、核保有を肯定も否定もしない「曖昧政策」を採っている。

「この支出レベルは、核兵器を保有する国々が、すぐには核兵器を廃絶する意図がないことを強く示すものです。こうした国の政府は、他の核兵器国が核備蓄を減らせばすぐにでも自国の備蓄分を減らすといいます。しかしこれは、終わりなき悪循環だと言わざるを得ません。」とデニス氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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