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オバマ大統領、核軍備管理のさらなる推進を表明

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【ワシントンIPS=シドニー・ハーギス】

バラク・オバマ大統領が19日にベルリンでの演説で発表した米露間のさらなる核兵器削減の呼びかけに対して、さまざまな反応が出ている。

オバマ大統領は、「我々は、もはや世界絶滅の恐怖の中で生きてはいないかもしれません。しかし、核兵器が存在し続けるかぎり、我々は本当に安全とは言えません。」「我々はテロリスト網を一網打尽にすることができるかもしれませんが、過激主義を煽る不安定と不寛容の問題を無視する限り、我々自身の自由は結果として危機にさらされることになるでしょう。」と述べた。

オバマ演説は、ジョン・F・ケネディ大統領が、冷戦真っ只中の時代に行った同じような演説から50年を記念して、ベルリンのブランデンブルク門で6000人の招待客を前に行われたものである。

オバマ大統領は、米ロ両国が配備している戦略核の総数と、欧州に配備している両国の戦術核を削減することを目指すとして、ロシアに協力を求める意向を示した。

John Burroughs/ LCNP
John Burroughs/ LCNP

ニューヨークのアドボカシー団体「核政策法律家委員会」(LCNPのジョン・バローズ事務局長は、IPSの取材に対して、「オバマ大統領は重要な多国間の(核軍縮)機会についても、さらなる機会創出についても語りませんでした。」と指摘したうえで、「今日の演説には失望したと言わざるを得ません。」と語った。

一方で、遅まきながら大統領は重要な提案をした、と評価する意見もある。

「ベルリンの壁は20年以上も前に崩壊したが、今回の削減提案は長く待ち望まれていたものです。」と19日に語ったのは、アドボカシー団体「憂慮する科学者同盟(UCS)」の主席科学者で、グローバル安全保障プログラムの共同ディレクターであるリズベス・グロンラウド氏である。

「大統領の方針は、今日の核兵器は資産ではなく重荷になっているということを暗に示したものです。」とグロンラウド氏は語った。

2010年の第四次戦略兵器削減条約(新START)は、米ロ両国が保有する大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、核弾頭搭載可能な重爆撃機の合計を800にまで削減し、配備済みの戦略核弾頭を1550発に制限するというものである。

オバマ政権の今回の提案は、米露それぞれの戦略核弾頭をさらに3分の1削減し、弾頭数が各1000をわずかに上回るレベルに抑えようというものであった。

ワシントンのアドボカシー団体「軍備管理協会」のダリル・キンボール会長は19日、「国家安全保障に関する超党派のリーダーたちは、さらなる、より大幅な核削減で米国の安全保障は高まり、予算の節約ができ、他の核兵器国に軍縮に加わる圧力をかけるのに役立つという点で、合意している」と述べた。

高価なシステム

軍備管理協会によると、米国は、配備戦略核と関連運搬システムの維持のために年間推定310億ドルを費やしているという。

もし米国が戦略核を1000発以下に削減したら、納税者にとって今後10年間で580億ドルの節約になるだろうと軍備管理協会は推定している。

テロやサイバー攻撃が近年次第に頻発するようになる中、識者らは、大規模な核戦力がこれらの脅威に対処するためのもっとも有効な手段であるかどうか再検討するよう、米国政府への要求を強めている。とりわけ、この戦力維持のために数千億ドルを費やすとすればなおさらである。

オバマ大統領は、すべての核実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBTに米国が批准するという公約を再確認している。しかし、これまでに米議会で一度批准に失敗したことがあり、上院への再提出スケジュールについて大統領は明確にしていない。

オバマ大統領はまた、世界中の核テロ防止のために2年ごとに開催している「核安全保障サミット」の4回目の会合を、2016年に米国主催で行う計画についても明らかにした。

オバマ政権は、2010年の新STARTではカバーされていない欧州に配備された戦術核の貯蔵量を削減するための具体的な提案を、北大西洋条約機構(NATO同盟国と協力して策定したいとしている。

一方、(劣勢にある通常兵力を補うため)米国や欧州よりも多くの戦術核を保有しているロシアは、これまでこうした削減案に反対してきている。

19日、オバマ大統領の呼びかけに対するロシアの最初の反応はあまり芳しいものではなかった。ウラジミール・プーチン大統領のある上級外交顧問は、ロシア政府は核兵器を削減する「参加国の輪を拡大したい」意向だと語った。

またロシアのドミトリー・ロゴジン副首相は、「米国がロシアの戦略的潜在戦力を迎撃する能力を開発している時に、戦略核の潜在戦力を削減するという案を、どうして真剣に受け取ることができるのか。」と、サンクトペテルブルクで記者団らに語った。

既存提案の焼き直し

一方、米国内では、オバマ大統領の新提案はこれまでの繰り返しに過ぎないのではないか、という意見が市民社会の中から出ている。

「核時代平和財団」ニューヨーク事務所のアリス・スレーター所長は、「オバマ大統領のベルリンでの提案は、これまで使い尽くされた米国の核政策を焼き直したものに過ぎません。つまり、漏れの多い『核の傘』の下で、核兵器とミサイル『攻撃』という米国の領域に他国を巻き込む同盟網において、米国の世界における軍事的優勢を維持することを意図したものなのです。」と語った。

他方、議会共和党は、2010年の新STARTを超えるいかなる大規模削減提案に対しても、米国の安全保障を棄損するものだとして反対する意向を明確にしている。

上院軍事委員会筆頭理事で保守派のジェイムズ・インホフ上院議員は19日、「我々の核抑止力を弱め、戦略的利益に対する脅威に対処する能力を今後弱めることにしかつながらない大統領の政策を、米国民が支持するとは思えない」と語った。

LCNPのバローズ氏によると、もし提案されたレベルの削減が条約化されたとしても、[憲法上批准に必要とされる]3分の2の支持を上院で獲得できるかどうかは不透明とのことである。一方でバローズ氏は、オバマ政権とロシア政府との間の政治的了解ならば、議会の承認は必要としない、と語った。

しかし、この方向に進むにしても厳しい反対論があるだろう、とバローズ氏は警告した。

またバローズ氏は、「オバマ大統領が提案している戦術核あるいは長距離戦略兵器に関連した措置は、米国が削減するにはロシアが同じ行動をとることを基本的条件としています。」と指摘したうえで、「その政治的理由は理解できます…しかし、米国は自ら率先して削減を行ったうえで、ロシアにも続くよう求めることはできるのではないでしょうか。たとえそうしたとしても、我々は全く安全なのです。」とバローズ氏は語った。(原文へ)

翻訳=IPS Japan

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|セーシェル共和国|マスダール支援の風力発電所が稼働

【アブダビWAM】

国営の多角的再生可能エネルギー企業「マスダール」とアブダビ開発基金(ADFD)は6月17日、セーシェル共和国の首都ヴィクトリアにおいて、同国で初めてとなる8基のタービンから成る6メガワットの風力発電所を開業した。

マスダール社が開発しADFDが資金支援したこの集合型風力発電所は、セーシェル共和国の人口の9割が暮らすマヘ島のエネルギー容量の8%をカバーする予定である。つまり、これによって、年間160万リットル(=2100世帯分の消費電力)相当の化石燃料の消費抑制と、年間5500トン相当の二酸化炭素排出量削減が可能となる。

 セーシェル共和国は、これまで高価なディーゼル発電に大きく依存しており、燃料輸入に費やされる費用は年間総輸入額の実に25%を占めている。そこで政府は、輸入燃料への依存度を軽減するため、エネルギーミックスの推進に尽力している。島嶼国として電力生成の方法が限られていることから、風力発電の推進は、同国政府の国家目標を達成するうえで、有効な方策と考えられている。
 
 ジェイムス・ミッシェル大統領は、風力発電所の建設・資金支援を行ったUAEに対して感謝の意を表するとともに、「長期的な観点から我が国の経済発展を展望した場合、クリーンで持続可能なエネルギー源へのアクセスを確保することが、極めて重要な課題です。我が国は、この風力発電所の新規稼働によって、国内エネルギー源の15%をクリーンエネルギー源とし、輸入エネルギーへの依存を軽減するという我が国の目標に向かって、大きな一歩を踏み出すことができました。私たちは、今後もさらなる風力発電開発の可能性を検討するとともに、エネルギーミックスを推進していきたい。」と語った。
 

またミッシェル大統領は、「6メガワットの風力発電所が稼働したおかげで、高まる電力需要への対応がしやすくなりましたし、(従来エネルギー輸入に使っていた)国家予算の一部を、経済・社会開発への投資に振り向けることが可能となりました。」と付け加えた。
 

近年、再生可能エネルギー技術関連のコストが低下してきていることから、風力、太陽光発電が、エネルギーの安全保障及びアクセスに従来苦慮してきた国々にとって、経済的に現実的な選択肢として新たに注目されるようになっている。また、再生可能エネルギーは、クリーンで持続可能な代替えエネルギーであるとともに、変動が激しい化石燃料の国際価格が途上国に及ぼすリスクを軽減する効果も兼ね備えている。

UAEはこれまで40年以上にわたって途上国の経済開発と社会発展の支援を行ってきた。今日、再生可能エネルギーの導入・開発支援は、被援助国の経済成長、貧困緩和、基本的な社会サービスの展開を支援するUAE援助戦略の核心部分を構成している。

マスダール社は、途上国におけるエネルギーアクセス環境を改善するための様々な再生可能エネルギープロジェクトを展開している。そうしたプロジェクトの中には、モーリタニアに建設した、同国の総発電量の10%に相当する15メガワット規模のシェイク・ザーイド太陽光発電所や、オフグリッド太陽光発電で600世帯に電力を供給する予定のアフガニスタンのプロジェクト、トンガ王国のバヌアツに建設した、500キロワット規模の太陽光発電所などがある。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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シリア内戦を「宗派間緊張」に変えるファトワ

【ロスアルトス(カリフォルニア)IPS=エマド・ミーケイ】

このところ、イランの支援を得たバシャール・アサド大統領の政府軍勢力が、シリア国民に残虐行為を行っており、反政府勢力を支援すべきと訴える声が、イスラム宗教家の間で高まっているが、中でもこうした抗議の先頭に立っているのが、サウジアラビアの聖職者らである。

6月14日、メッカ・聖モスク(Grand Mosque)のサウジ・ショレイム導師が、すべてのイスラム教徒に対して、「あらゆる手段を通じて」シリアの反体制派とシリア内戦に巻き込まれた民間人を救うべき、との異例の呼びかけを行った。

サウジアラビアで高名なモハメッド・エリファイ導師もまた、訪問先のカイロ中心部のモスクで数千人の聴衆を前に行った説話において、アサド政権と闘う者を支援し聖戦(ジハード)に馳せ参ずべし、と発言した。

その前日、主に湾岸地域からのイスラム宗教学者がカイロに集まり、シリアにおけるジハードを国際的に呼び掛ける方策について協議した。

6月4日、通常リベラルな報道で定評があるアル・アラビーヤ(サウジアラビア資本の衛星テレビ局)が、保守派のリーダー格とみられているユースフ・アル=カラダーウィー師をゲストに迎えた。現在カタールを拠点にしているカラダ―ウィ師は、シリアでアサド政権側に立って内戦に介入している「ヒズボラ」に対するジハードを呼びかけた。

聖職者らによるこうした呼びかけが相次ぐようになった背景には、イランの支援を得てレバノンで活動してきたシーア派民兵組織「ヒズボラ」が、シリア内戦への介入を強め、数週間前には、反政府勢力をシリア西部の要衝であるクサイル(Al-Qusair)の街から駆逐したという事情がある。

それまで反政府勢力はクサイルの街を数か月に亘って勢力下に置いていた。反政府勢力は2011年12月に武装蜂起して以来、この街を含む数都市を政府軍から奪取することに成功していたが、今回のクサイル陥落は、政府軍と反乱軍の勢力バランスが再び政府軍側に有利に傾く契機になったとみられている。

シリア政府系のメディアは、政府軍が反乱勢力の拠点であるホムスの街に向けて前進を続けていると報じている。またイランの通信社ファーズも、先週、政府軍がシリア各地において反乱軍を圧倒し戦闘を有利に進めている、と報じた。

紛争の国際化

米国は6月13日、アサド政権が国民に対して化学兵器を使用したと断定し、反乱勢力に対して武器供与を検討していることを明らかにした。シーア派の一派であるアラウィ派に属するアサド大統領に対するジハードを呼びかけるスンニ派聖職者らの動きは、こうした米国の動きと軌を一にしたものである。

米国とサウジアラビアは、1979年から10年間に亘ったソ連のアフガニスタン侵攻の際にも、今日と類似した役割分担を演じている。当時米国は、ソ連軍に対抗するアフガンゲリラ「ムジャヘディン」兵士に対して武器を供給、一方、サウジアラビアは、資金面の支援と並んで、ソ連侵略軍と戦う宗教的大義名分を提供した。

この数週間に亘って、アラブ系メディアは、イランの呼びかけに応じたシーア派戦闘集団がアサド政府軍を支援すべく、イラク、レバノン、イランから続々とシリアに流入いるとする目撃情報とともに、シリア内戦が次第に宗派間闘争の色合いを濃くしていると盛んに報じてきた。

先述のスンニ派聖職者らも、イランとヒズボラが、アサド独裁政権と国民の間の紛争を宗派間闘争へと変質させているとして非難している。

シリア紛争は、中東の数か国において独裁政権打倒へとつながった民主化要求運動「アラブの春」の初期段階において、デラーの街で発生した平和的な抗議運動に端を発している。抗議運動は、まもなく政府軍との衝突に発展し、国連の発表によると、これまでに93,000人のシリア人が犠牲となっている。

「女性たちは夫を奪われ、子供たちは難民になることを余儀なくされています。そして彼らの家は、暴虐な政府軍と侵略軍によって瓦礫と化しているのです。このような状況下、私たちは支援の手を差し伸べる義務があります…。」涙を流しながらシリアで犠牲になっている女性や子供の窮状を訴えるショレイム師の説話は、アラブのテレビ局数局で放映された。ショレイム師は、スンニ派イスラム諸国では、説話やコーランの朗読が、しばしば公の場や各家庭のテレビやラジオを通じて国民に親しまれるなど、広く尊敬されてている人物である。

サウジアラビア政府は、従来よりメッカやメディナを聖地とし政治とは切り離す方針を採ってきており、ショレム師もこれまで政治問題に言及することはほとんどなかった。それだけに、政治問題に直接切り込んだ今回のショレイム師の説話は、シリア情勢がいかに深刻であるかを反映するとともに、従来の方針から大きく離脱するものであった。

またカイロでは、ベストセラーの著作の数々と人気番組を持つアル=エリファイ導師が一時間に及ぶ説話の中で、(アサド政権に対する)ジハードに馳せ参じる必要性について説いていた。

エリファイ師は、「過去40年に亘ってアサド政権が行ってきた虐殺行為は、近代史上まれに見る類のものです。」と指摘したうえで、「もしイランが主導するシーア派同盟がシリアで勝利を収めれば、次は他国の『イスラム教徒の子供たち』が彼らの標的となり、『シリアの子供たちのように虐殺される恐れがあります。」と警告した。

エリファイ師、ショレイム師、カラダーウィー師によるこうした発言は、民衆に対してシリアのアサド政権に抵抗するよう強く働きかけてきた「ファトワ」として知られる(スンニ派)イスラム聖職者らによる一連の宗教的勧告の最新の動向を示すものである。

6月13日、主に湾岸地域からのイスラム宗教学者がカイロに集まり、シリアにおけるジハードを高らかに宣言するとともに、同国でアサド政権と戦う戦士たちへの支援を呼びかけた。

「この会議は、必ず現場に影響を及ぼすことになるでしょう。国際社会には、アサドという暴君の前では、シリアの人々が犠牲になるのはやむを得ないと諦めかけていた風潮がありました。しかし、(この会議に出席した)聖職者たちの行動は、そのような風潮は間違いだということを証明したのです。」とアル・メスルユーン紙のガマル・スルタン編集長は語った。

残虐行為を記録する

エジプトにあるスンニ学派の最高権威アル・アズハルモスクのアハメド・アル=タイーブ師を含む会議の参加者らは、紛争地でヒズボラとシリア軍が民間人に対して行っている残虐行為を記録したドキュメンタリーフィルムを観た。

会議を主催した汎イスラム非政府組織の「国際ムスリム学者同盟」は自身のウェブサイトに掲載した声明文の中で、今回の会議の狙いは、「イラン、アサド政権、ヒズボラの本性を明らかにすること。」と記している。

会議参加者の一部は翌14日にエジプトのムハンマド・モルシ大統領と面会し、ジハードへの支援を要請した。その翌日、カイロスタジアムに集まった数千人に及ぶ支持者や聖職者らの前に現れたモルシ大統領は、シリア政府との一切の関係を断つという方策を含む、エジプト政府による一連の対シリア政策を発表した。

アラブの春で大きな役割を演じた「ソーシャルメディア」は、今や、シリア政権による虐待の実態を伝えるとともに、アサド政権に対するジハードを呼びかける活発なプラットフォームとして、活用されている。

今週初め、(報道によれば)アサド支持派に強姦され半裸の状態で道路の真ん中に横たわっている女性を数人の若者が救出しようとする生々しい映像がユーチューブで公開された。しかしその若者らは、次々とアサド側の銃弾に斃れ、その女性も助からなかったとみられている。

またフェイスブックでも、喉を切り裂かれた子供たちや、瓦礫の下敷きになった子供を含む数多くの血みどろの死体を捉えた映像等、人権侵害を告発する書き込みが相次いでいる。その中のある人は、「あなたがこうして机の前でフェイスブックを楽しんでいる間に、シリアでは子どもたちが死んでいるのです。」と書き込んでいる。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【ドバイWAM】

途上国で児童の就学支援を行っているアラブ首長国連邦(UAE)の慈善団体「ドバイケア」は、6月20日の「世界難民の日」に際して、紛争で自宅や故郷から強制的に追われた世界の4330万人に上る難民の苦境に焦点をあてた。

ドバイケアは、難民、とりわけ全体の46%を占める子どもの難民が、安全な避難場所で身体的・肉体的トラウマから回復し、将来への希望を再び持てるようになるよう、現在進行中の様々なプロジェクトを通じて、支援の手を差し伸べてきた。

そうした難民支援事業の一つに、エチオピアで25000人のソマリア難民の児童を対象に実施している給食プログラムがある。児童たちはエチオピア南部(ソマリアとケニアの国境近く)ドロ・アド難民キャンプに保護されている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCRが運営する同難民キャンプは、2012年の後半に、国連が「過去60年で最悪」と宣言した前年の食料危機の影響を受けた100,000人を上回るソマリア難民を受け入れている。

ドバイケアはまた、中東地域、とりわけ(イスラエルによる)パレスチナ占領地域、ヨルダン、レバノンにおいてパレスチナ難民に対する各種支援プログラムを実施してきた。
 

ドバイケアのプレスリリースによれば、パレスチナ占領地域では、国境なき医師団と連携して、ケマル・エドワン病院の子供を対象に緊急医療支援と行うとともに、ヨルダン川西岸地区(ウエストバンク)及びガザ地区の国連難民救済事業機関(UNRWA)が運営する学校に通う児童らを対象にした害虫駆除キャンペーンを実施した。

レバノンでは、ドバイケアは、ナハル・アルバレド・パレスチナ人難民キャンプの子どもたちに基礎教育を提供するUNRWAによる緊急教育プログラムに参加している。
 

またヨルダンでは、ドバイケアは、UNRWAと連携して、アル・ザルカー・パレスチナ人難民キャンプで、古い校舎に代わって新たに全家具付の小学校と中等学校の校舎を建設するプロジェクトを支援した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【バンコクAPIC/IPS Japan=浅霧勝浩

ここにきて、タイのメディア各紙も、エイズ対策に消極的な政府への批判を強め、エイズの流行はもはや特定のグループに限定されたものではなく、社会全体に幅広く被害が広がっている事実を大々的に報道した(注1)。

こうした状況の中で、もはや政府が観光産業や国内経済保護を理由にエイズ問題について沈黙や否定をするというオプションはなくなった。

また、エイズが社会、経済、文化、政治と多岐な分野に密接に関わる病であることから、もはやこの問題を保健衛生分野に限定して政府の担当部局を保健省内に置いておく事も現実的でないとの認識が広がった。また、従来のように静脈注射薬物使用者(IDU)、男性同性愛者、売春婦といった社会的弱者をエイズ感染の原因として非難することも、現実に起こっている状況にそぐわなくなってきた。

Mechai Viravaidya
Mechai Viravaidya


 政府は、新たにエイズ法案を作成し、タイの全家庭に親族でHIV/AIDS患者が出た場合の保健所への届出を義務付ける一方、保健当局にHIV/AIDS感染が疑わしい者を強制的にエイズ検査にかける権限を認め、さらにはエイズ患者を特定の施設に隔離することを提案した。この動きに対してタイ内外の専門家から、「エイズ患者に対する強制的な措置は科学的な根拠がなく多くの国で既に逆効果であることが証明されている」として激しい非難の声が沸きあがった(注2)。

メチャイ・ウィラワイヤ氏も同法案を痛烈に批判し、「法案はエイズ患者に相談したことがない人物によって作られたものだ。我々はエイズに苦しむ人々に同情と思いやりの気持ちをもって接するべきであり、間違っても刑務所や矯正施設に隔離するべきではない。」とコメントしている。メチャイ氏は、「性産業」を死の産業と呼び、政府がこのエイズ蔓延の元凶に対して有効な規制措置をとらないことを特に批判した。そして、タイに大挙して訪れるドイツ、日本、オーストラリアからの外国人買春観光客に言及して「色情狂どもよ、死にたかったらタイに(買春に)来るがいい!」と警告を発した。

メチャイ氏は、このままエイズの流行を放置すれば3年以内に1,000,000人以上がHIV/AIDSに感染し、特に働き盛りの若い世代に深刻な被害が出てタイ経済は破綻してしまうと警告し、1.全ての売春宿の一時強制閉鎖とエイズに関する啓蒙教育の実施、2.小学校における最後の3年と中学校3年間におけるタイ男性の性行動変容を目的とした(注3)性教育の実施を呼びかけた。

この呼びかけに対する政府の反応は鈍かったが、産業界の反応は対照的に機敏なものであった(注4)。エイズの蔓延がビジネスに及ぼす影響に危機感を募らせた100社以上から、社員へのエイズ啓蒙教育の実施に対する支援の依頼があり、中には、各々の販売/流通ネットワークを通じてエイズ予防に関する情報普及活動を実施する会社もでてきた(注5)。メチャイ氏はPDAにCorporate Education Programを設立し、各社のピア教育者と共にHIV/AIDS感染経路と予防知識の伝達に重点をおいた啓蒙活動を展開した。

メチャイ氏は続いて、PDAに経済学者、社会学者等専門家を招集し、エイズ流行に伴う具体的なタイ経済の損失規模を算出して1990年12月にバンコクで開催された国際エイズ会議で発表した。それによると、もしタイ社会が3年後の1994年をエイズ流行のピークとして抑制することに成功すれば2000年までのHIV/AIDS感染者数は2,100,000人でその内460,000人がエイズで死亡し、経済損失は約80億ドルと算出した。

また、もしエイズ流行が1996年まで拡大した場合は、2000年までのHIV/AIDS感染者数は3,400,000人でその内588,000人がエイズで死亡し、経済損失は約100億ドルと算出した。メチャイ氏はこれらの数値が具体的に観光業を含むタイ産業界やタイ社会全体にどのような悪影響を及ぼすかを次のように説明した:

1.HIV/AIDS患者が職場で増大し病気欠勤・休業状態のものが激増する。2.人手不足が深刻になると賃金及び製品の生産コストが上昇し、外国人投資家にとってタイ社会は魅力的な投資先でなくなっていく。3.タイ政府もエイズ流行拡大に伴い、国家予算をインフラ整備等の生産的なものに対する投資から、患者をケアするための社会・保健関係の分野に重点をシフトせざるを得なくなってしまう。4.タイ観光業の衰退。

1990年12月、メチャイ氏は首相にエイズ問題に関する参考人として閣議に招かれた。チャートチャーイ首相は、メチャイ氏が再度要請した国家エイズ対策委員会の設立について、首相がリーダーとなることは拒否したが、メチャイ氏を同委員会の総裁に指名し、効果的なエイズ対策の指針を策定するよう命じた。しかし、その一ヵ月後に勃発したクーデターで政権が崩壊すると、エイズ対策委員会構想も頓挫してしまった。
 
 しかし、クーデターによる混乱を収拾するため登場したアナン暫定政権の下で、タイのエイズ対策は大きな転機を迎えることになる。アナン新首相は、「エイズは医療分野に限定される問題ではなく人間の行動そのものに深く関わる問題であり、効果的なエイズ対策を実施するには、人間の行動変容に影響を及ぼすことが出来る全てのセクターが参加しなければならない。」と提唱するメチャイ氏の訴えを全面的に支持し、メチャイ氏を内閣官房(Tourisam, Public Information, Mass Communication担当大臣)に迎え、エイズ対策の責任者に任命した。

メチャイ氏はこれによって、はじめて政府の全面的な支援の下に抜本的なエイズ対策を実践に移すことが可能となった。以下、メチャイ氏がアナン政権の下で打ち出したエイズ対策の内容を紹介する。

1.首相を総責任者とする国家エイズ対策委員会の設立(政府のトップが就任したのはウガンダに次いで世界で2番目)。委員は政府、産業界、NGOの代表から構成され、政府委員には従来エイズ啓蒙対策に反対していたタイ観光局も含めた。NGOには教育界、宗教界からも参画した。また、HIV/AIDS感染者もメンバーに加え、感染者の視点を政策に反映させることとした。同時に、内閣官房にAIDS Policy and Planning Coordination Bureauを新設し、エイズ対策のプログラムの策定、予算(注6)に関する主導権を保健省から内閣官房に移した。

2.教育がエイズ対策(National AIDS Prevention and Control Plan)の骨格を形成し、主に2つの狙いがあった。一つ目は、感染防止教育で、エイズとは何か?感染経路は?もし感染した場合どうするか?の3点を重点項目とした。2つ目は、HIV/AIDS感染者に対する理解と思いやりの心を育む教育で、エイズ感染者はどこにでもいる普通の人々で日常生活を通じて他の人々に感染させる危険性はないこと、そして彼らも他の人々と同様、他人の愛情や関心、そして尊敬を受けるに値する人々であることを教育することを主眼とした(注7)。

3.全ての公共放送(488のラジオ局、15のテレビ局)を通じて毎時間30秒のエイズ教育メッセージと毎日2時間(テレビ局のみ)のエイズ特集番組を放送した。メチャイ氏は広告割合を統括するBroadcasting Commissionの副総裁として、30秒のエイズ教育メッセージの放映と引き換えに30秒分追加のコマーシャル使用を許可するインセンティブを提示し、放送界に好意的に受け入れられた。

4.各省庁に対するエイズ教育プログラムを実施し、多くの一般市民と日常的にコンタクトをとる立場にある公務員(農業省の支所、警察、社会福祉事務所等)には、エイズ関連パンフレットなどを配布させた。

5.教育界に対しては、小学校の最終2年間と中学校にエイズ教育課程を加え、生徒達にエイズに関する啓蒙指導ができるよう現場の教師を対象とした研修プログラムを実施した。

6.産業界に対しては、メチャイ氏が従来PDA Corporate Education Programで実施してきた内容をさらに徹底して、各産業セクターにおける社内エイズ教育及び産業界の流通/顧客ネットワーク(銀行窓口や営業先巡回などのビジネスコンタクト)を通じた顧客へのエイズ教育情報の配布を実施した。

7.メチャイ氏は芸能界・映画界に対しても協力を呼びかけ、エイズをテーマとした映画作品やチャリティーコンサートなどが数多く実施された。メチャイ氏はエイズに関するメッセージを含む作品に対して政府の補助金をつけインセンティブとした。また全国の映画館は、本編前の予告編上映時間に無料でエイズ防止キャンパーンメッセージを上映した。

8.売春宿に対しては、100%コンドームキャンペーンを実施し、顧客のコンドーム使用を義務付けるとともに売春婦を対象とした抜き打ちエイズ検査を実施し、違反業者は警告の後、閉鎖に追い込んだ。また、売春宿が集中している地域にはSTDクリニックに対する補助金を交付した。これらの現場サイドにおける取組みを強化する一方、全国の統計・モニタルングシステムの強化を行った。

9.メチャイ氏はAnand政権に参画と同時に、従来エイズ広報に反対してきたタイ観光局(Tourism Authority of Thailand)の総裁に就任し、抜本的な方向転換を図った。従来の総裁が観光誘致とホテル建設を最優先にしてきたの対して、”Tourism with Dignity”というスローガンを打ち出し、a)観光産業におけるエイズキャンペーンの実施、b)買春ツーリズムの根絶(注8)、c)女性観光客の積極的な誘致、d)観光資源である環境と野生動物の保護。

注1:The Nation誌は「チャートチャーイ首相、目を覚ませ!数百万人のタイ人の生命があなたの双肩にかかっている。」という記事を出した。

注2:The Nation誌は社説を掲載し、「この法案は一般市民を保護すると見せかけて、かえってタイ社会に恐怖と不信を蔓延させ、エイズの犠牲者を地下に追いやることによって、今まで以上に深く広範囲にエイズの流行を広げることになる。」と政府を批判した。

注3:メチャイ氏はHIV/AIDS感染の元凶はタイ男性の旺盛な買春需要でありタイ男性の売春宿に対する認識と性行動のありかたを根本から是正しなければエイズ蔓延是正は不可能と考えた。

注4:メチャイ氏は産業界に対しては”Dead staff don’t produce and dead customer don’t buy(your produces).”というスローガンを使用した。

注5:その結果、Avon化粧品の販売員はHIV/AIDS関連パンフレットを持って顧客先を訪問し、当時タイで最大規模のピア教育者ネットワークとなった。

注6:エイズ対策予算は、前政権下1991年予算250万ドルから新政権下で4800万ドルに引き上げられ、資金の流れは内閣官房から各関連省庁及びNGOへ直接渡る仕組みとした。

注7:メチャイ氏は、HIV/AIDS感染の問題を当事者意識を持って理解することと、女性の人格、人権を貶める買春行為の本質を青少年に理解させることの重要性を説いた。そして、タイ仏教界の中にも、言葉のみでなく実践を通じてエイズ対策に協力すべきとして、各地の僧院がHIV/AIDS感染者や孤児に対するケアを開始した。

注8:「買春目的の観光客には、タイ行きのチケットを買わずにそのお金で鼠駆除の薬を買って、自宅で飲まれることを薦めます。」と痛烈な批判を展開した。観光業界トップのこの発言はメディアを通じて世界各国に流され、タイの観光政策の大転換を印象付けた。

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|世界平和度指標|5年前より平和でなくなった世界

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

経済平和研究所(IEP)が6月11日、ワシントンDCで2013年度版の「世界平和度指標(Global Peace Index:GPI)」(101頁)を発表した。これによると、世界-とりわけ中東地域は―2008年の前回調査時よりも、より平和でなくなってしまったという。

この世界的な傾向は昨年においても同様で、調査報告書は、主な原因として、シリアの内戦、メキシコ・中米諸国・サハラ以南のアフリカ数か国における殺人の増加、そして多くの国における対GDP(国内総生産)軍事予算の増加などを挙げている。

欧州は、アイスランド、デンマーク、オーストリアを筆頭に、引き続き世界で最も平和な地域であった。対照的に、調査した162か国中、GPIが最も低かったアフガニスタンやパキスタン(157位)を含む南アジアは、最も平和でない地域であった。

また昨年は、中東地域も全体として急速に平和が遠のいた年であった。内戦が続くシリアが160位、宗派間紛争が悪化しているイラクが159位、内紛が続くスーダンが157位、イエメンが152位であった。また、昨年11月にガザ地区に侵攻し、その後軍事費の増強を図ったイスラエル(150位)も、中東地域の平和指標を引き下げている。

また、今回の調査は、「暴力が世界経済に与える影響をコスト化(=主に各国の防衛費と治安維持関連予算を評価)すると、2012年の実績は少なくとも9兆5000億ドルにのぼる。」と指摘している。これは、世界のGDP総計の11%、言い換えれば、世界の食料総生産量が持つ価値の2倍近くにものぼる。調査報告書は、「国際社会が暴力に費やす予算を半減させれば、その費用でもって、途上国の債務をすべて帳消し(40億7600万ドル)し、欧州安定化メカニズムに必要な資金(9000億ドル)を提供し、ミレニアム開発目標を達成するために必要な年間追加資金(600億ドル)を容易に捻出することができる。」と指摘している。

調査ではまた、2008年の世界金融危機で深刻な影響を受けた国々では、影響がそれほどではなかった国々と比べて、公共サービスの削減、失業の増大などが暴力的なデモや犯罪の増加につながり、GPIの低下を招くという知見も引き出している。

GPI(23項目)は、国内の平和(=内的状況)に関して、殺人件数、人口10万人あたりの治安・警察要員の人数、政治的不安定度、テロ活動の潜在的可能性等、さらに対外的な平和(=外的状況)に関して、軍事予算の規模、人口10万人あたりの軍人数、武器移転、対外的紛争の関与数等を数値化し、平和を評価するうえでの重要度に応じて5段階評価でまとめたものである。データは、国際平和パネル討論会のエキスパート、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)、世界銀行、アムネスティ・インターナショナルをはじめとするシンクタンクや市民社会組織、及び大学機関等が作成し、英国のエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が調整にあたっている。

先述のアイスランド、デンマーク、オーストリアに続いて、2012年度に最も平和だった10か国は、4位のニュージーランド以下、スイス、日本、フィンランド、カナダ、スウェーデン、ベルギーであった。対照的にもっとも平和でなかった10か国は、最下位から順に、アフガニスタン、ソマリア、シリア、イラク、スーダン、パキスタン、コンゴ民主共和国(DRC)、ロシア、北朝鮮、中央アフリカ共和国であった。

北米では、上位にランクインしたカナダとは対照的に、米国は中国(100位)のすぐ上にあたる99位、経済協力開発機構(OECDの中でも34か国中31位であった。これは、高い拘禁率、外国の紛争への大規模な関与、高い殺人事件発生率、小火器の蔓延、そして、莫大な軍事費のためである。米国の軍事費は、近年若干削減傾向にあるものの依然として第2位の軍事大国の予算を10倍以上上回っている。

アジア・太平洋地域では、ニュージーランド(3位)と日本(6位)を除けば、オーストラリアとシンガポールがもっとも平和的な国であった。対照的に、最も平和的でない国々は、フィリピン(129位)、タイ(130位)、ミャンマー(140位)、北朝鮮(154位)であった。とりわけ、北朝鮮の拘禁率は世界で最も高く、GDPに占める軍事費の割合も世界一で20%に及んでいた。

ラテンアメリカ・カリブ海地域では、ウルグアイ(24位)、チリ(31位)、コスタリカ(40位)が最も平和的な国だった。一方、最も平和的でない国々は、ホンジュラス(128位)、メキシコ(133位)、コロンビア(147位)であった。麻薬取引が深刻なホンジュラスでは、殺人事件発生率が昨年世界最悪であった。また、メキシコにおける昨年の殺人件数は約20,000件に達している。

アフリカ地域では、モーリシャス(21位)、ボツワナ(32位)、ナミビア(46位)が最も平和的な国であった。アフリカの2大経済大国である南アフリカ共和国とナイジェリアは、それぞれ121位、148位であった。

昨年最も平和指数を改善した(=一昨年に比べて平和になった)国は、リビア(145位)、スーダン(158位)、チャド(138位)、カザフスタン(78位)、インド(141位)、逆に最も悪化した国は、ウクライナ(111位)、ペルー(113位)、ブルキナファソ(87位)、コートジボアール(151位)、シリア(160位)であった。

2008年の前回調査時よりも平和になった国が48か国、平和でなくなった国が110か国あり、全体として平和度は下がっている。地域別に見ると、平和度が最も下がった地域は旧ソ連構成諸国と、3年前に「アラブの春」が始まった中東及び北アフリカ地域である。

過去5年間に最も平和になった国は、チャド、グルジア、ハイチであった。一方、この5年間で平和度が最も下がった国は、シリア、リビア(昨年の改善度を考慮してもなお相対的に悪化)、ルワンダ、マダガスカル、コートジボアール、イエメン、メキシコ、チュニジア、オマーン、バーレーンであった。

今回の調査は、全体的に平和度を引き下げた要因として、①アラブの春に関連して勃発した暴力、アフガニスタンとパキスタンにおける治安の悪化、リビア及びシリアにおける内戦、中米における麻薬戦争、ソマリア及びコンゴ民主共和国における暴力の蔓延、多くの欧州諸国における景気後退に伴う騒乱等を挙げている。

今年の調査報告書には、ポジティブ平和指標(Positive Peace Index:PPI)が収録されている。これは126か国について、相互に関連した8項目に分類された24の指標に基づいて、「平和な社会を築き、維持する構造、制度、姿勢の強さ」を評価したものである。

「平和の支柱」と題されたこれらの項目には、資源の公平な分配、高いレベルの人的資本、高い透明性、低い腐敗度、健全なビジネス環境、よく機能する政府、他者の権利を許容する程度、近隣諸国との良好な関係、が含まれている。

PPIでは、欧州と米国(19位)を含む北米がトップランクを占めた。なお、日本は16位、一方、日本の隣国は韓国が26位、ロシアが80位、中国が81位であった。また途上国では、チリ(25位)、ウルグアイ(32位)、コスタリカ(36位)が最も高いランクを占めた。一方、最低ランクを占めたのはコンゴ民主共和国(126位)を筆頭に、チャド、イエメン、中央アフリカ共和国、ナイジェリア、コートジボアール、ウズベキスタン、パキスタンであった。

今回の調査は、GPIとPPIの双方の指標で高いランキングを占めた国々の間には、強い相関関係があると指摘している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【バンコクAPIC=浅霧勝浩】

ここにきて、タイのメディア各紙も、エイズ対策に消極的な政府への批判を強め、エイズの流行はもはや特定のグループに限定されたものではなく、社会全体に幅広く被害が広がっている事実を大々的に報道した(注1)。

Mechai Viravaidya
Mechai Viravaidya

こうした状況の中で、もはや政府が観光産業や国内経済保護を理由にエイズ問題について沈黙や否定をするというオプションはなくなった。

また、エイズが社会、経済、文化、政治と多岐な分野に密接に関わる病であることから、もはやこの問題を保健衛生分野に限定して政府の担当部局を保健省内に置いておく事も現実的でないとの認識が広がった。また、従来のように静脈注射薬物使用者(IDU)、男性同性愛者、売春婦といった社会的弱者をエイズ感染の原因として非難することも、現実に起こっている状況にそぐわなくなってきた。


 政府は、新たにエイズ法案を作成し、タイの全家庭に親族でHIV/AIDS患者が出た場合の保健所への届出を義務付ける一方、保健当局にHIV/AIDS感染が疑わしい者を強制的にエイズ検査にかける権限を認め、さらにはエイズ患者を特定の施設に隔離することを提案した。この動きに対してタイ内外の専門家から、「エイズ患者に対する強制的な措置は科学的な根拠がなく多くの国で既に逆効果であることが証明されている」として激しい非難の声が沸きあがった(注2)。

メチャイ・ウィラワイヤ氏も同法案を痛烈に批判し、「法案はエイズ患者に相談したことがない人物によって作られたものだ。我々はエイズに苦しむ人々に同情と思いやりの気持ちをもって接するべきであり、間違っても刑務所や矯正施設に隔離するべきではない。」とコメントしている。メチャイ氏は、「性産業」を死の産業と呼び、政府がこのエイズ蔓延の元凶に対して有効な規制措置をとらないことを特に批判した。そして、タイに大挙して訪れるドイツ、日本、オーストラリアからの外国人買春観光客に言及して「色情狂どもよ、死にたかったらタイに(買春に)来るがいい!」と警告を発した。

メチャイ氏は、このままエイズの流行を放置すれば3年以内に1,000,000人以上がHIV/AIDSに感染し、特に働き盛りの若い世代に深刻な被害が出てタイ経済は破綻してしまうと警告し、1.全ての売春宿の一時強制閉鎖とエイズに関する啓蒙教育の実施、2.小学校における最後の3年と中学校3年間におけるタイ男性の性行動変容を目的とした(注3)性教育の実施を呼びかけた。

この呼びかけに対する政府の反応は鈍かったが、産業界の反応は対照的に機敏なものであった(注4)。エイズの蔓延がビジネスに及ぼす影響に危機感を募らせた100社以上から、社員へのエイズ啓蒙教育の実施に対する支援の依頼があり、中には、各々の販売/流通ネットワークを通じてエイズ予防に関する情報普及活動を実施する会社もでてきた(注5)。メチャイ氏はPDAにCorporate Education Programを設立し、各社のピア教育者と共にHIV/AIDS感染経路と予防知識の伝達に重点をおいた啓蒙活動を展開した。

メチャイ氏は続いて、PDAに経済学者、社会学者等専門家を招集し、エイズ流行に伴う具体的なタイ経済の損失規模を算出して1990年12月にバンコクで開催された国際エイズ会議で発表した。それによると、もしタイ社会が3年後の1994年をエイズ流行のピークとして抑制することに成功すれば2000年までのHIV/AIDS感染者数は2,100,000人でその内460,000人がエイズで死亡し、経済損失は約80億ドルと算出した。

また、もしエイズ流行が1996年まで拡大した場合は、2000年までのHIV/AIDS感染者数は3,400,000人でその内588,000人がエイズで死亡し、経済損失は約100億ドルと算出した。メチャイ氏はこれらの数値が具体的に観光業を含むタイ産業界やタイ社会全体にどのような悪影響を及ぼすかを次のように説明した:

1.HIV/AIDS患者が職場で増大し病気欠勤・休業状態のものが激増する。2.人手不足が深刻になると賃金及び製品の生産コストが上昇し、外国人投資家にとってタイ社会は魅力的な投資先でなくなっていく。3.タイ政府もエイズ流行拡大に伴い、国家予算をインフラ整備等の生産的なものに対する投資から、患者をケアするための社会・保健関係の分野に重点をシフトせざるを得なくなってしまう。4.タイ観光業の衰退。

1990年12月、メチャイ氏は首相にエイズ問題に関する参考人として閣議に招かれた。チャートチャーイ首相は、メチャイ氏が再度要請した国家エイズ対策委員会の設立について、首相がリーダーとなることは拒否したが、メチャイ氏を同委員会の総裁に指名し、効果的なエイズ対策の指針を策定するよう命じた。しかし、その一ヵ月後に勃発したクーデターで政権が崩壊すると、エイズ対策委員会構想も頓挫してしまった。
 
 しかし、クーデターによる混乱を収拾するため登場したアナン暫定政権の下で、タイのエイズ対策は大きな転機を迎えることになる。アナン新首相は、「エイズは医療分野に限定される問題ではなく人間の行動そのものに深く関わる問題であり、効果的なエイズ対策を実施するには、人間の行動変容に影響を及ぼすことが出来る全てのセクターが参加しなければならない。」と提唱するメチャイ氏の訴えを全面的に支持し、メチャイ氏を内閣官房(Tourisam, Public Information, Mass Communication担当大臣)に迎え、エイズ対策の責任者に任命した。

メチャイ氏はこれによって、はじめて政府の全面的な支援の下に抜本的なエイズ対策を実践に移すことが可能となった。以下、メチャイ氏がアナン政権の下で打ち出したエイズ対策の内容を紹介する。

1.首相を総責任者とする国家エイズ対策委員会の設立(政府のトップが就任したのはウガンダに次いで世界で2番目)。委員は政府、産業界、NGOの代表から構成され、政府委員には従来エイズ啓蒙対策に反対していたタイ観光局も含めた。NGOには教育界、宗教界からも参画した。また、HIV/AIDS感染者もメンバーに加え、感染者の視点を政策に反映させることとした。同時に、内閣官房にAIDS Policy and Planning Coordination Bureauを新設し、エイズ対策のプログラムの策定、予算(注6)に関する主導権を保健省から内閣官房に移した。

2.教育がエイズ対策(National AIDS Prevention and Control Plan)の骨格を形成し、主に2つの狙いがあった。一つ目は、感染防止教育で、エイズとは何か?感染経路は?もし感染した場合どうするか?の3点を重点項目とした。2つ目は、HIV/AIDS感染者に対する理解と思いやりの心を育む教育で、エイズ感染者はどこにでもいる普通の人々で日常生活を通じて他の人々に感染させる危険性はないこと、そして彼らも他の人々と同様、他人の愛情や関心、そして尊敬を受けるに値する人々であることを教育することを主眼とした(注7)。

3.全ての公共放送(488のラジオ局、15のテレビ局)を通じて毎時間30秒のエイズ教育メッセージと毎日2時間(テレビ局のみ)のエイズ特集番組を放送した。メチャイ氏は広告割合を統括するBroadcasting Commissionの副総裁として、30秒のエイズ教育メッセージの放映と引き換えに30秒分追加のコマーシャル使用を許可するインセンティブを提示し、放送界に好意的に受け入れられた。

4.各省庁に対するエイズ教育プログラムを実施し、多くの一般市民と日常的にコンタクトをとる立場にある公務員(農業省の支所、警察、社会福祉事務所等)には、エイズ関連パンフレットなどを配布させた。

5.教育界に対しては、小学校の最終2年間と中学校にエイズ教育課程を加え、生徒達にエイズに関する啓蒙指導ができるよう現場の教師を対象とした研修プログラムを実施した。

6.産業界に対しては、メチャイ氏が従来PDA Corporate Education Programで実施してきた内容をさらに徹底して、各産業セクターにおける社内エイズ教育及び産業界の流通/顧客ネットワーク(銀行窓口や営業先巡回などのビジネスコンタクト)を通じた顧客へのエイズ教育情報の配布を実施した。

7.メチャイ氏は芸能界・映画界に対しても協力を呼びかけ、エイズをテーマとした映画作品やチャリティーコンサートなどが数多く実施された。メチャイ氏はエイズに関するメッセージを含む作品に対して政府の補助金をつけインセンティブとした。また全国の映画館は、本編前の予告編上映時間に無料でエイズ防止キャンパーンメッセージを上映した。

8.売春宿に対しては、100%コンドームキャンペーンを実施し、顧客のコンドーム使用を義務付けるとともに売春婦を対象とした抜き打ちエイズ検査を実施し、違反業者は警告の後、閉鎖に追い込んだ。また、売春宿が集中している地域にはSTDクリニックに対する補助金を交付した。これらの現場サイドにおける取組みを強化する一方、全国の統計・モニタルングシステムの強化を行った。

9.メチャイ氏はAnand政権に参画と同時に、従来エイズ広報に反対してきたタイ観光局(Tourism Authority of Thailand)の総裁に就任し、抜本的な方向転換を図った。従来の総裁が観光誘致とホテル建設を最優先にしてきたの対して、”Tourism with Dignity”というスローガンを打ち出し、a)観光産業におけるエイズキャンペーンの実施、b)買春ツーリズムの根絶(注8)、c)女性観光客の積極的な誘致、d)観光資源である環境と野生動物の保護。

注1:The Nation誌は「チャートチャーイ首相、目を覚ませ!数百万人のタイ人の生命があなたの双肩にかかっている。」という記事を出した。

注2:The Nation誌は社説を掲載し、「この法案は一般市民を保護すると見せかけて、かえってタイ社会に恐怖と不信を蔓延させ、エイズの犠牲者を地下に追いやることによって、今まで以上に深く広範囲にエイズの流行を広げることになる。」と政府を批判した。

注3:メチャイ氏はHIV/AIDS感染の元凶はタイ男性の旺盛な買春需要でありタイ男性の売春宿に対する認識と性行動のありかたを根本から是正しなければエイズ蔓延是正は不可能と考えた。

注4:メチャイ氏は産業界に対しては”Dead staff don’t produce and dead customer don’t buy(your produces).”というスローガンを使用した。

注5:その結果、Avon化粧品の販売員はHIV/AIDS関連パンフレットを持って顧客先を訪問し、当時タイで最大規模のピア教育者ネットワークとなった。

注6:エイズ対策予算は、前政権下1991年予算250万ドルから新政権下で4800万ドルに引き上げられ、資金の流れは内閣官房から各関連省庁及びNGOへ直接渡る仕組みとした。

注7:メチャイ氏は、HIV/AIDS感染の問題を当事者意識を持って理解することと、女性の人格、人権を貶める買春行為の本質を青少年に理解させることの重要性を説いた。そして、タイ仏教界の中にも、言葉のみでなく実践を通じてエイズ対策に協力すべきとして、各地の僧院がHIV/AIDS感染者や孤児に対するケアを開始した。

注8:「買春目的の観光客には、タイ行きのチケットを買わずにそのお金で鼠駆除の薬を買って、自宅で飲まれることを薦めます。」と痛烈な批判を展開した。観光業界トップのこの発言はメディアを通じて世界各国に流され、タイの観光政策の大転換を印象付けた。

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【アブダビWAM】

「14日に投票が行われたイラン大統領選挙では、反体制派や改革派政党の支持を受けた聖職者で穏健保守派のハサン・ロウハニ師(69歳:元最高安全保障委員会事務局長)が地滑り的勝利で当選した。これによって、イラン新政権は、アフマディネジャド前政権下で悪化した米国と近隣諸国との関係と修復する貴重な機会を得ることになるだろう。」とアラブ首長国連邦(UAE)の地元英字紙が報じた。

「選挙期間中、ロウハニ師は、モハンマド・ハタミ前政権で核開発問題をめぐる交渉の責任者として英仏独と交渉を進めた実績をもとに、米国およびサウジアラビアとの関係改善をはじめ制裁緩和に向けた建設的協議を進める必要性を訴えた。これは良いスタートであり、少なくともロウハニ師は、現在の(欧米や近隣諸国との)冷え切った関係は、イランにとってチャンスではなく問題だという点を理解していることを示している。」と、ガルフ・ニュース紙は6月15日付の論説の中で報じた。

行き詰まったイランの核開発疑惑を巡る対立を打開できるかどうかは、イランが核計画の内容について完全な形で透明性を確保すると提案できるかどうかにかかっている。しかし真の難題は、如何にして米国とイラン双方が勝利を宣言できるような出口を見出せるかであり、重い負担が両国の外交当局にのしかかっている。

とはいえ、米国も国際社会も イランが核技術の平和利用を進める権利を否定していないことから、もしイランが国際社会に対して、濃縮プログラムはあくまでも核の平和利用の一環であり、濃縮レベルも原発用途に必要なレベルを決して超えることはないという点を証明することができれば、行き詰まりを打開することは可能である。

「ロウハニ師は、アラブ諸国に対して、マフムード・アフマディネジャド前政権からの方針転換を示して関係修復を図る必要がある。」とガルフ・ニュース紙は報じた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【ナイロビIPS=ミリアム・ガシガー

リフトバレー地区(ケニア北西部)キプシング平原に住むサンブル族のジェーン・メリワスは、9才の時、父親から何の役にも立たない人間だと思われていた。父に託されて世話をしていた9頭のヤギが、ある日彼女の目の前で、ハイエナに食べられてしまうという失態を演じたことがあるからだ。

しかしそのような彼女にも、年長者の第二、第三、或いは第四夫人になり、かつてハイエナに食われたより多くの羊を父親のために手に入れることで、名誉挽回を果たすという道は残されていた。

「学校に通うことになったのは全くの偶然なのです。羊飼いとしては失格と判断した父が、嫁にやるまでの間、厄介払いする場所として学校を選んだのです。」「もちろん、学校といっても生徒たちが木の下で座って学ぶというスタイルで、費用はカソリック教会の神父が負担してくれたので、父にとっての負担がゼロだったのです。」とメリワスはIPSの取材に対して語った。

メリワスは自身の家庭について、「私の家は、牧畜コミュニティーの中では、一風変わっていました。両親には2人しか子供がおらず、しかも両方が娘でした。しかし父は母が亡くなったあとも、再婚せず独身をとおしたのです。」と語った。

サンブル族は北アフリカから南下してきたナイロ系遊牧民で、マサイ族とルーツを同じくするが独自の文化を形成してきた。サンブル族がケニアの全人口(4160万人)に占める割合は僅か1.6%に過ぎないが、少女たちの体を傷つける強制堕胎をはじめとした数々の風習により悪名を馳せてきた一面がある。

この放牧コミュニティーにおける女性性器切除(FGMの風習に反対してきたサンブル族活動家のロロンジュ・レクカティはIPSの取材に対して、「助けを求めるサンブル族の少女たちの声は、あまりにも長い間見過ごさせてきました。子供たちに害を及ぼす文化的慣習の根絶を呼びかける『アフリカ子供の日』(6月16日)の趣旨に沿うならば、ケニア社会は彼女たちの声に注意を払わなければなりません。」と語った。

またレクカティは、「今の時代に、サンブル族のコミュニティーに生まれたというだけで、少女たちが、FGMの儀式や、早期の婚姻、強制的な堕胎、18歳以前の複数回の妊娠等、過酷な運命からほとんど逃れられない状態に置かれているのは、残念でなりません。」と語った。

メリワスも12歳のときにFGMの儀式を受ける運命から逃れることができなかった。それもそのはずで、最新のケニア保健人口統計調査によれば、サンブル族のFGM率は実に100%(ケニアでは2010年にFGMが違法化されたにも関わらず)であった。

しかしメリワスは学校に通えたために、早期の婚姻を逃れることができた。彼女は10年前に大学を卒業すると、就職する代わりにあえて故郷に戻り、サンブル族の慣習の中にある弊害について村人の意識を喚起する活動を開始した。とりわけ少女らを傷つけてきた慣習をなくすよう粘り強く訴えてきた。

こうした活動を通じて地域の活動家としての名声を確立したメリワスは、少女らを救う団体「サンブル教育環境開発女性機構」を立ち上げた。この団体は、早期の婚姻やFGMを辛うじて逃れた少女らに対する教育支援を行っている。

レルカティは、「伝統的なコミュニティーからの命の危険さえ伴う激しい反発を受けながらも、力強く、勇気と弾力性を持って立ち向かってきたメリワティの努力は、一部の人々に意識に変化をもたらすところまできています。」と語った。

サンブルにはまた「ビーズ付け(Beading)」という独自の通過儀礼があるが、メリワスらによる啓蒙活動のお陰で、この少女たちに有害な慣習にも変化の兆しが見えてきている。

ビーズ付けとは、伝統的に、サンブル族の戦士が10キログラムものビーズを購入してネックレスを作り、気に入った女性に与えるという風習である。ネックレスをつけられた女性はたいてい9歳~15歳の少女で、その戦死の「彼女」になったとみなされる。

メリワスは「ビーズ付け」という通過儀礼がもたらす問題として「若い少女と戦士の性交では、通常避妊対策が考えられていないので、ある時点で少女が妊娠してしまいます。しかし、両者の性交渉は文化的に許容されている一方で、戦士とその少女は同じ氏族の出身であるために近親相姦だとみなされ、あらゆる手段で子どもの出生が阻止されることになるのです。」と語った。

メリワスは、さらにその具体的な方法について、「部族の老女が妊娠したとみられる少女を見つけると、森に連れて行き、体内の胎児が死んで出血と共に対外に出るまで少女のお腹を押し続けるのです。そして、もしこれが失敗した場合でも、少女は出産時に生まれた子どもを毒殺するよう強制されます。もし彼女がそれを拒否した場合、子供は取り上げられ、森に置き去りにされてハイエナの餌になるか、或いはサンブル族以外の部族(近隣のトゥルカナ族の場合が多い)に引き渡すことになります。」と指摘したうえで、「こうした強制的な堕胎措置が原因で命を失った少女は少なくありません。しかしコミュニティー内ではこのことはタブーとされ、誰も口にしないのです。」と語った。

しかしメリワスらの活動によって、この慣行にも徐々に変化の兆しが出てきている。「つまり、少女たちが、戦士達の誘いによって『ビーズのネックレスをつける』のではなく、自発的に自らつけ始めたのです。」とメリワスは語った。

またレルカティは、「変化は徐々にですが起こっています。この『ビーズ付け』という通過儀礼は、従来サンブル族のコミュニティー外では、ほとんど知られていませんでした。しかし、メリワティは、自分に降りかかる危険を顧みず、この弊害について社会に警鐘を鳴らしたのです。」と語った。

放牧コミュニティーでFGMの問題に携わってきたグレース・カキのような活動家らは、とりわけ「アフリカ子供の日」を祝う理由があるという。「15歳から19歳の年齢の少女でFGMの儀式を施された人数が近年顕著に少なくなっています。この背景には、少女たちの就学率が向上したという要因が大きく作用しています。しかしそれに加えて、メリワスのようにFGMを実際に経験した人たちが、この少女の体を傷つける慣習を変えさせようと地道に取り組んできたという要因こそが、この顕著な変化をもたらす原動力になっていると思います。」とカキは語った。

ケニア保健人口統計調査によると、ケニアの15歳から19歳の少女人口に対して、FGMの儀式を執り行われた少女が占める割合は、1998年には38%であったものが、2003年には32%、さらに2008年には27%にまで低下してきている。

「メリワスのような活動家は、こうした伝統文化に伴う弊害を自らの経験を通じて理解しており、だからこそ内から社会変革をもたらす原動力となりえているのです。」とカキは付け加えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【フリータウンIPS=トミー・トレンチャード】

12才になるカイタは、シエラレオーネの首都フリータウンの街頭で、ぼろぼろになった鉄のレールの上に座り、静まり返った通りを行き交うバイクを友達と眺めていた。すでに真夜中を過ぎており、戸口の前や歩道のあちらこちらに、動きを止めた人たちが眠りについている。カイタは、もうこんな暮らしを6年も続けている。

カイタは、学校へ行けるという話を信じて、親元を離れて街に出てきたものの、結局は路上で生活することになってしまった数千人におよぶシエラレオネの子供たちの中の一人にすぎない。

社会福祉・ジェンダー・児童問題省のジョイス・カマラ児童問題局次長 は、IPSの取材に対して、「児童人身売買は、まったくの他人によって行われることもあれば、友人や親戚の子どもを狙うケースもあります。子どもたちはしばしば、都会で学校に行かせてもらえると騙されて連れてこられるのです。」と語った。

シエラレオネでは11年にも及んだ内戦が2002年に終結して以来、復興の途上にあるが、依然として世界最貧国の一つであり、今も農村部では多くの家庭が全ての子どもの教育にまでは、十分に手が回らないのが現実である。

「残念ながら、街へ連れてこられた子どもたちは、児童労働者として搾取されたり、ひどい場合には性奴隷にされたり儀式に供されることもあります。」とカマラ次長は語った。

カイタは、当初は叔父の元に身を寄せたが、学校に行かせてもらえないばかりか、食事もまともに与えられなかったため、まもなくして逃げだした。カイタは、今の路上生活について「食べものにありついても、残飯しかないし。とにかく寒いよ…。」と語った。

ホームレスの子どもを支援する現地のNGO団体「ドン・ボスコ・ファンブル」のロタール・ワグナー代表は、IPSの取材に対して、「多くの子供たちが路上生活をしている背景には、人身売買の問題があります。暫く搾取を強いられた子どもたちは、苦境から抜け出すには逃亡するしか選択肢がないと感じるのです。」と語った。

2010年の調査によると、フリータウンだけでも、約2500人のストリートチルドレンがいるという。しかし、実際にはもっと多いとする推計もある。

14歳のムハンマドもそうしたストリートチルドレンの一人だ。 彼は12歳の時から路上で生活している。彼の唯一の持ち物は、ボロボロになった英国プレミアリーグ、チェルシーのロゴが入ったシャツと、寝るときに下敷きにする薄い段ボール、そして葦で編んだゴミかごだ。彼は清掃の仕事で、かろうじて僅かな食料を買う現金を得ている。

子どもたちは犯罪に対して脆弱な立場に置かれているが、取材に応じた子どもたちは皆口をそろえて、路上で起こっている搾取や暴力に対する恐怖について語った。ストリートチルドレンが被害にあう事件についてはほとんど捜査されることがなく、中には彼らを助けるはずの警官すらも子どもたちを搾取することがあるという。 

「警官たちは子供を守るために路上にいるのではありません。子供たちを搾取するためにいるのです。」とワグナー氏は語った。

警察に逮捕されたのちに署内で暴力を受けたとされるあるストリートチルドレンの医療診断書には、棍棒や電極棒で腕につけられたとされる生々しい傷が記録されていた。 

 これについて、警察当局の広報担当官が電話取材に応じ、「(その子供の主張は)全くのウソであり、シエラレオーネ警察の評判を貶めようとする意図的な試みにほかなりません。警察署には普段電気がとおっていない状況なのに、いったいどのようにしたら、電極の棒で痛めつけることができたということになるのでしょう。」と語った。

こうした中、シエラレオーネにおける人身売買の拡散を抑え、犠牲となった子供たちと家族との再会を支援するNGOが出てきている。 

The Faith Alliance Against Slavery and Trafficking(FAAST)は、人身売買の問題に対する一般市民の認識を高めるための啓蒙活動と、このテーマを警察当局の訓練プログラムに組み込む活動を展開している。ジャネット・ニッケル代表は、「今では、全ての新人警察官が、人身売買とは何か、そしてこの問題にどのように取り組むかについての訓練を受けているはずです。」と語った。またFAASTも、最近、人身売買の犠牲となった子供たちを対象とするシェルターを開設した。

同様に「ドン・ボスコ・ファンブル」も、ストリートチルドレンを支援するための各種シェルター及びプログラムを実施している。ワグナー氏は、「シエラレオーネ政府にとって、児童保護は優先事項にないのです。また政府は、子供たちを保護する能力も予算も持ち合わせていません。」と批判した。

これに対して、社会福祉・ジェンダー・児童問題省のジョイス・カマラ次長は、2005年以来、児童人身売買の容疑者13人を有罪(最長で22年を宣告済)にするなど、児童保護に熱心に取り組んでいる、と指摘したうえで、「政府は、シエラレオーネにおける人身売買を根絶しようと全力で取り組んでいる。」と反論した。

米国務省が4月に発表した国別人権状況報告書は、「シエラレオーネ政府は全力で取り組んでいるが、人身売買防止に関わる全ての義務を果たしているわけではない。」と結論付けている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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