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|イエメン|「この国には建設的な未来への青写真が必要」とUAE紙

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【アブダビWAM】

最近の情勢を見る限りイエメンは混沌状態に陥る危険に直面している。今この国に必要なことは、国内のあらゆる勢力が結集して、イエメンの建設的な未来へと道を開く青写真を描くことだ。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙が報じた。 

イエメンが国造りの軌道から外れて暫くになる。国造りは膨大な時間を要するプロセスであり、全ての国内勢力の参画を確保するとともに、再び国に安定をもたらすために共通の明確な目標とそれに至るための具体的な道筋が示されなければならない。しかし、現在のイエメンでは民主化プロセスを開始できるようなアジェンダが打ち出されないまま、膠着状態が続いている。」と「ガルフ・ニュース」は2月11日付の論説の中で報じた。

 とりわけ深刻なのが、国民対話を始めとした民主化プロセスが遅々として進まない「政治空白」に付け込んで、様々な勢力(独立傾向の強い部族長ら、分離独立を志向する旧南イエメンの勢力、アルカイダ系テロ集団等)が自らの影響力を伸ばそうと暗躍している現状である。先般イエメン政府は、同国北西部の反政府勢力に送られようとしていた大量の高性能ミサイルを押収したことを発表した。 

「今日イエメンが多くの危機に直面していることは疑いの余地がない。なかでもとりわけ深刻なのが、脆弱なイエメン政情につけこんで干渉しようとするイスラム原理主義組織などの外国勢力の存在である。このことからもイエメンは、国内諸勢力が危機感を持って共通の未来のために共に前進する必要がある。」(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 

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|テロとの戦い|「妊婦が鎖につながれ飢えさせられた」―報告書が明らかにした深い闇

【ニューヨークIPS=ジョージ・ガオ】

米国による「テロとの戦い」については未だに多くが秘密のベールに包まれたままだが、「オープン・ソサエティ正義イニシアティブ」は2月5日、米中央情報局(CIA)が9.11同時多発テロのあとに行った拘束、特別拘置引渡し、拷問などの秘密作戦の対象となった136名のケースを詳細にまとめた報告書を発表し、その一端を明らかにした。

グローバル化する拷問」と題された正義イニシアティブ報告書は、CIAがテロ容疑者を「ブラックサイト」として知られる秘密刑務所に拘束したことを確認している。またCIAが行った「特別拘置引渡し」については、「抑留者を拘留または尋問を目的に外国の政府に引き渡した違法行為」と断じている。

Amrit Sigh
Amrit Sigh

また報告書は、こうしてCIAによって引渡された抑留者は世界各国の秘密刑務所で拷問や暴行を受けており、中には間違って拘留された者や、結果的に何の罪にも問うことができなかった者もいたことを明らかにしている。
 
「オープン・ソサエティ正義イニシアティブ国家安全保障・テロ対策プログラム」の上級法務官で報告書の執筆者アムリト・シン氏は、「まさにそうした(冤罪)事件が問題なのです。個々の内容は極めて憂慮すべきものです。」とIPSの取材に対して語った。

報告書が詳細に記録した136人の1人、ファティマ・ブシャールさんの場合を見てみよう。2004年、CIAとタイ当局はバンコクの空港でブシャールさんの身柄を拘束、鎖で壁に繋ぎ5日間食事を与えないまま監禁したのち、リビアに移送した。この当時、ブシャールさんは妊娠4ヶ月半だった。

「この報告書を執筆した理由の一つは、ブシャールさんのような人々の身に実際に降りかかった事実を世間に公表することが極めて重要だと思ったからです。」とシン氏は語った。

また報告書は、拷問がその違法性に加えて誤った情報を生み出す温床になっているとして、2002年に米国によってエジプトに特別拘置引渡しされたイブン・アルシェイク・アルリビさんのケースを引用している。アルリビさんは、拷問に耐えかねて、イラクやアルカイダ、さらには(イラクによる)生物・化学兵器の使用といった架空の情報を捏造して、尋問官に告白した。

2003年、コリン・パウエル国務長官(当時)は、イラクとの開戦を訴えた国連演説の中で、こうしたアルリビさんの告白内容を引用している。

この報告書は9.11同時多発テロ後に米国が推進した反テロリズム政策を検討する目的で作成されたもので、題辞には2001年に放送されたNBCの番組「Meet the Press」でのティム・ルサート記者によるディック・チェイニー副大統領(当時)のインタビュー内容が引用されている。

そのインタビューでチェイニー副大統領は、「我々は諜報の世界に潜まねばならない。そこでやるべき事の多くは、議論抜きで速やかに実行に移さねばならない。」と述べている。」

また報告書は、CIAに秘密刑務所を提供したり、容疑者の逮捕や移送、抑留者への拷問、CIAへの情報提供などを通じて、秘密工作に共謀した54カ国にのぼる「外国政府」のリストを掲載している。

「この報告書は、米国が国際社会に及ぼしている影響力を如実に物語っています。」「この場合、米国がテロ対策の名目で人権侵害の罪を犯すパートナーを募る影響力を有していることを示しています。」とシン氏は語った。

「抑制と均衡」と「超法規的殺害」

2002年、マヘール・アラールさんはジョン・F・ケネディ空港で米国当局に身柄を拘束された。その後CIAは、アラールさんをヨルダンの首都アンマンに移送、アラールさんはそこでヨルダン官憲の暴行を受けた。アラールさんは、さらにシリアに特別拘置引渡しされ、電線の鞭で殴られたり、電気ショックを使った拷問に晒されながら、墓のような独房に10ヶ月に亘って監禁された。
 
 アラールさんの弁護を担当した「憲法上の権利センター」シニアスタッフのマリア・ラフード弁護士はIPSの取材に対して「私たちはアラールさんを移送して拷問にかけた米政府関係者を訴えましたが、勝訴には至りませんでした。」と語った。

ラフード弁護士は「概ね被告側(米国政府)は、『米国政府が拷問のためにシリアに移送したという原告の主張がたとえ事実だとしても、米国政府の役人を罪に問えない』といういつもの主張を繰り返すのです。」と指摘した上で、「つまり、政府関係者による行動が『国家の安全保障』に関わる場合、『司法の手が届かない』、言い換えれば、起訴するのはほぼ不可能となるのです。」と語った。

「その結果、アラールさんの件では明らかに憲法違反(人権侵害)が認められるにもかかわらず、国からの救済措置は一切行われていません。米国内での訴訟は行き詰まり、彼に対する政府の謝罪は未だになされていません。それどころか、アラールさんは未だに政府の警戒リストに載っているのが実情です。」とラフード弁護士は付け加えた。

またラフード弁護士は、超法規的殺人を巡る事件を起訴する際にも同様の問題に直面しているとして、具体例として現在係争中の「アウラキ対パネッタ裁判」(米国政府による無人攻撃機で暗殺された米国籍の市民3人の遺族が政府を起訴した裁判)を挙げだ。

「被告側(元CIA長官のレオン・パネッタ氏デイビッド・ペトレイアス氏他数名)は、司法当局は本件を裁けないとして、訴えを却下させようとしました。」とラフード弁護士は語った。

さらにラフード弁護士は、米国政府における行政と司法のパワーバランスについて問われ、「行政府の相対的な力が益々増大し続けています。その背景には、行政府が力を増す一方で、司法が行政の意見に従う傾向を強めている現状があります。」と語った。

ニューヨーク大学法学部教授で国連の「超法規的・略式・恣意的処刑に関する特別報告者」を務めたフィリップ・アルストン氏はIPSの取材に対して「行政府は、司法から自由裁量権を与えられているのが実態です。」と語った。

「とりわけ司法サイドは、CIAが関与する問題に関しては法の支配を維持する責任を放棄してしまっています。その結果、行政府には、連邦議会による形式的な監督(公文書を見る限りその実態は単なる追認に等しい)に従う義務を除けば、独自に判断する裁量が任されています。」

シン氏はIPSの取材に対して、「今日の国際社会には、間違いなく深刻なテロの脅威が存在しており、適切かつ法に則った対処をしていかなければなりません。しかしテロの脅威が存在するからといって、すでに確立された国内及び国際法から逸脱して良いという根拠にはならないのです。」と語った。

「米国の裁判所は、概ね、(米国政府が関与した)拷問による犠牲者に対して、補償の支払いを却下しています。本来裁判所には、行政による権力乱用を抑制する役割がありますが米国の裁判所はその使命を果たしているとは言えません。」とシン氏は語った。

一方、「憲法上の権利センター(CCR)」は、米国の世論を揺るがしている「米国に差し迫った脅威を与えるアルカイダ系と疑われる米国市民を、米政府が殺害できる法的根拠」とされる司法省の白書について、声明を発表している。

CCRのビンセント・ウォレン事務局長は、この白書について、「(ジョージ・W・)ブッシュ政権の拷問メモと多くの類似性があり戦慄を覚えます。これらの文書は、拷問や超法規的殺人を正当化するために外部の検査を受けることなく作成されたものに他ありません。」と語った。(原文へ

INPS Japan

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北朝鮮、3回目の核実験で国連に反抗

【国連IPS=タリフ・ディーン

[ニューヨーク時間で]2月11日に3回目の核実験を行った北朝鮮は、国連安保理決議を無視し国際社会に反抗している、世界で最も頑強な国のひとつであるイスラエルのたどった道をそのまま歩もうとしている。 

中東のある外交官は、「イスラエルには米国という後ろ盾があり、北朝鮮は揺るぎなき盾としての中国からの保護を受けている」と匿名を条件に語った。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

 それでもなお、北朝鮮の核開発を非難し制裁を強化した、2006年、2009年、2013年の3本の安保理決議は、拒否権を持つ常任理事国である中国の支持を受けている。 

しかし、海軍による封鎖や石油禁輸、中国からの経済援助の打ち切りなどのもっとも厳しい制裁は、これまでのところ安保理決議に盛り込まれていない。 

15の安保理理事国は12日に緊急の会合を開き、予想どおり、核実験を過去3本の決議への「重大な違反」と非難し、北朝鮮を「国際の平和と安全に対する明確な脅威」と断じる声明を発表した。 

安保理は、この1月に3本目の決議を採択した際、北朝鮮がさらなる核実験を行った場合には「重大な行動」をとるとの決意を表明していた。 

しかし、この「重大な行動」がとられるまでには、もう少し時間がかかりそうだ。 

安保理は12日、今後予定される、おそらくはトーンダウンした新決議において「適切な措置に関する作業を即時に開始するであろう」と主張した。 

現在、国連安保理の常任理事国(P5)である米国、英国、ロシア、フランス、中国が公的な核兵器国であり、インド、パキスタン、イスラエルが3つの非公式な核兵器国である。 

3つの非公式核兵器国は、5つの公式核兵器国とはちがい、核不拡散条約(NPT)への署名を拒否している。 

 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のレベッカ・ジョンソン共同代表は、IPSの取材に対して、「核抑止の論理と視点から言えば、北朝鮮の核実験は、(少なくとも)米国に対して、北朝鮮が核弾頭を製造し運搬する能力があることを示す意図でなされたものです。」と語った。 

またジョンソン氏は、「核実験を行ったり核兵器を配備したりする国家を『核兵器国』として扱うのは、まったくの逆効果です。包括的核実験禁止条約(CTBT)やNPTのような集団的安全保障に関わる世界的な条約に従わない国に地位を与えることは、核兵器と核実験を放棄し法律を遵守している180以上の大多数の国々を侮辱するようなものです。」と指摘したうえで、「NPT上の核兵器国であれ、北朝鮮のようにNPT外で核を持とうとする国であれ、核武装国の存在は世界にとって安全保障上の問題に他なりません。」と語った。 

国連が2009年に発行したCTBTに関する権威ある書物『終わらぬ任務』の著者であるジョンソン氏は、核兵器は、弱小国の指導者が自国の経済・社会政策の失敗から国民の目をそらせるために必要なものだと考えていることを、北朝鮮はあらためて示した、という。 

(正式には朝鮮民主主義人民共和国[DPRK]として知られる)北朝鮮が核武装化することを今回の実験は示しているのかという点について、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の核兵器プロジェクト、軍備管理・不拡散プログラムの研究員であるフィリップ・シェル氏は、この実験によって、北朝鮮がP5と同じような完全なる核兵器国になる瀬戸際にまで到達しているとは言えない、と語った。 

 しかし、3回の核実験(1回目は失敗に終わったと見られている)は、北朝鮮の核開発が確実に進展していることを示している、とシェル氏はいう。 

同時に、北朝鮮の最終目標は弾道ミサイルに搭載できる小型核弾頭の開発にあるとみられるが、これまでに実験した核装置の「兵器化」に実際に成功した証拠はまだない。 

またシェル氏は、北朝鮮が長距離ミサイル技術を現在保有しているかどうかは疑わしいと見ている。しかし、先般の多段ロケットの発射成功は、そうした技術習得が少しずつ進みつつあることを示唆している。 

シェル氏はまた、北朝鮮がNPTから脱退した事実を指摘した(一部の加盟国は脱退の事実を認めていないが)。さらに、北朝鮮は、CTBTには署名も批准もしていない。 

しかし、国連安保理決議1718、1874、2087は、北朝鮮に対して、さらなる核実験を行ったり、弾道ミサイル技術を含んだ発射を行ったりすることを禁じている。シェル氏によれば、これらの決議は事実上、法的拘束力があるものである。他方で、北朝鮮はこれらの国連安保理決議を差別的なものだとみている。 

ジョンソン氏は、P5がこれまで行ってきたすべての核実験に比べれば、自国が行った核実験など取るに足らないものだという北朝鮮の主張について、「もっともらしく聞こえるがナンセンスです。連続殺人犯やその他の犯罪者が行ってきた大量殺人と比べると、自分がしていることは、時々人を殺しているに過ぎないと主張する殺人者を許すことがあるでしょうか?もちろんそんなことはありません。」と語った。 

ジョンソン氏は、「それぞれの殺人行為が犯罪であるように、それぞれの核実験もまた、国際条約や国際法、また、世界の安全保障を確立するために集団的になされた合意に違反するものなのです。」と語った。 

「国際社会が核実験禁止条約を制定できていない段階で他国が行った犯罪行為(=核実験)が免罪になっているからといって、同じことを繰り返してよいという言い訳にはなりません。」とジョンソン氏は語った。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 
 
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|UAE|「アル・アイン事故は大型トラックの安全対策を促す警鐘とすべき」とUAE紙

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【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙が、先日アブダビ郊外のアル・アインで発生した事故のような悲劇を今後繰り返さないためにも、大型トラック運転手に対する適切な訓練の実施と車輌の定期点検を徹底するよう呼びかけた。

 UAE紙「ナショナル」は、2月4日にアル・アインで起きたコンクリートミキサー車とバスの衝突事故(バスに乗っていたアジア系労働者ら46人のうち、22が死亡、24人が負傷)について、6日付の論説の中で、「大型トラック運転手に対する適切な教育訓練と車輌に対する定期点検がなされていれば事故は防ぐことができていたはずだ。」と報じた。

また同紙は、「交通安全キャンペーンは、危険運転行為に対する罰則を含む、道路交通法の執行をはじめ、輸送インフラの拡充、そして最終的にはドライビング文化を変えることを目指した多面的な取り組みである。これら全ての分野においてUAEの取り組みは成果を上げてきたが、今回の事故で大型車輌と乗用車輌の安全基準の向上については、対策が十分でないことが明らかになった。」と報じた。

一方、「ガルフ・ニュース」は、「今回の惨事を契機に全ての人々が事故の原因をよく振り返り、教訓を学ばなければならない。とりわけ運送業に携わる人々は、安全運転を心がけるとともに労働者を職場に輸送する車輌に対して専門的かつ定期的なメンテナンスを行う必要性を改めて認識する必要がある。乗客の安全は優先事項であり、ドライバーは、どんなに予防策を講じても十分すぎることは決してない。自身のみならず他者に対しても強い責任感を持って車輌の整備と安全運転の徹底を心がける運転手のプロ意識が、不可欠である。」と報じた。

翻訳=IPS Japan

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制裁でアジアの核廃絶は達成できない

【シンガポールIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

1月22日の国連安全保障理事会による対北朝鮮制裁拡大決議に対して、北朝鮮が核実験再開の脅しをもって応えたことと、東南アジア諸国連合(ASEAN)が昨年11月のサミットにおいて、核兵器5大国を東南アジア非核兵器地帯条約(SEANWFZ)の付属議定書へ署名させることに失敗したことは、グローバル経済の中心として急速に台頭しているアジア地域が直面している「核の脅威」を象徴する出来事だった。

 こうした動きの中心に位置づけられるのが、バラク・オバマ政権によるアジア・太平洋地域への「ピボット(軸足)」政策あるいは「リバランス(再均衡)」政策である。アジア地域では、これは経済あるいは政治的な再関与というよりも、むしろ安全保障問題であるとの見方が強まってきている。

この政策が2年前に発表されて以来、南シナ海での中国の領有権主張に関して同地域では緊張が高まっている。アジアの一部の専門家のあいだでは、米国が日本やフィリピン、ベトナムといったアジア諸国をけしかけて、中国と対立させようとしているのではないかと疑問を投げかける向きもある。

北朝鮮の最近の動きに関しては、数世紀に亘った欧米諸国への経済的従属から立ち上がってきたアジアにとっては、核の対立の脅威の方が(すぐに起きるわけではないとはいえ)よほど心配である。

2012年11月にカンボジアで開催された第21回ASEANサミットで、予定されていたSEANWFZへの署名にロシア・フランス・英国の3核兵器国が同意しなかったのは、アジアにおける対中対立の激化が主要な原因であったかもしれない。フランスは自衛権に関して、英国は「新たな脅威と展開」に関して、ロシアは外国船・航空機が非核地帯を通航する権利について、それぞれ留保を述べた。米国もロシアと同じような懸念を表明した。
 
SEANWFZの概念は、ASEANの当初の5加盟国(タイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシア)がクアラルンプールでASEAN平和・自由・中立地帯(ZOPFAN)宣言に署名した1971年11月27日にさかのぼる。ASEANが追求したZOPFANの最初の主要な要素が、SEANWFZの創設であった。

しかし、当時は東南地域における政治環境が整わなかったことから、そうした地帯の創設が公式に提案されたのは、1980年代も半ばになってからのことであった。ZOPFANに関するASEAN作業部会で10年にわたって交渉と草案作りが行われたのち、SEANWFZ条約は、ASEANの全10加盟国が1995年12月15日にバンコクで署名し、2年後に発効した。同条約の付属議定書に関する協議がASEANと核兵器5大国との間で2001年5月から行われていたが、何の進展もみられなかった。

条約が提示した規則と条件のうち主要な要素は、核兵器を開発、製造、受領、保有、管理しないこと、核兵器を配備しないこと、条約地帯内外のいずれにおいても核兵器を実験あるいは使用しないという署名国の義務である。

さらに議定書は、核兵器国に対しても、条約の条項に従い、加盟国に対して核兵器を使用したり使用の威嚇を行ったりしないよう義務づけている。中国はかねてより議定書批准の意思を示していたが、他の4核兵器国は条約の地理的範囲を批准への障害として挙げていた。条約地帯は地帯内の加盟国の領土、大陸棚、排他的経済水域をカバーしている。

マレーシアの政治学者で「公正な世界に向けた国際運動」の代表であるチャンドラ・ムザファ博士は、SEANWFZを起草・署名したASEAN諸国は賞賛されるべきだが、一方で、「核兵器5大国はいずれも、自国の核の優位を何としてでも保持しようとしており、『自衛権』を巡る主張は、たんなるカモフラージュに過ぎない。」と述べている。

「英国とフランスは米国の同盟国であり、米国は、さまざまな軍事的・外交的動きを通じて、中国封じ込めという課題を強化しています。したがって、この欧州の2つの米同盟国がアジアにおける米国の地位を支えようとしているとしても、驚くには値しません。」とムザファ博士はIDN-InDepthNewsの取材に対して語った。

非政府のアクター

アジア諸国が自国市場への米国のアクセスの条件として、核兵器5大国による非核兵器地帯条約の付属議定書への署名を求めるべきか否かという点に関して、ムザファ博士は、「ASEANとその他のアジア諸国は、外部の大国に対して要求をする前に、核兵器の制御と廃絶に向けた強い集団的な誓約をまず示すべきです。しかし現時点ではそのような誓約は存在しません。これが、アジア諸国が、拡大しつづけるアジア市場へのアクセスの条件としてバンコク条約への署名を核兵器5大国に求めようとはしていない理由です。」と語った。

ムザファ博士の見解は、アジア地域の諸政府は核大国に条約署名を迫ることができず、それを実現する協調的なキャンペーンを起こすのは非政府の主体でなければならないというものだ。「究極的に言えば、アジアの大陸から現在および将来の核兵器を除去できるのは強力な市民運動だけです。」とムザファ博士は語った。

オーストラリアの元外相で、「核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク(APLN)」の座長を務めるギャレス・エバンス氏は、2012年10月にアイスランド大学で行った講演の中で、「核軍縮がアジア太平洋地域で達成可能であるという約3年前の楽観論は消えてしまった。」と嘆いた。
 
 「もし、現在の核兵器国が、彼らの主張通り不拡散に真剣に取り組んでおり、他国が核クラブに加入してくることを真面目に阻止しようというのならば、とりわけ生物兵器のような他の大量破壊兵器や通常兵器に対して自らやその同盟国を守るための手段として核兵器の保有を正当化し続けることなどできないはずです。」「世界中が偽善を嫌っています。人生全般と同じように軍備管理の分野においても、他人に自分の言うようにやれと要求することは、自分が率先して実行していることをやるよう依頼する場合と比べると、説得力に欠けるものなのです。」とエバンス氏は論じた。

エバンス氏はまた、「テロリストは、核兵器の標的となるような領土や産業、人口、常備軍を通常は持っていません。」と述べ、多くの核兵器国が主張するようなテロリストに対する核兵器の抑止効果はないと指摘した。

2012年9月13日、APLNは、その前年には明らかに、核軍縮に向けた世界的・地域的取り組みの中に見られた政治的意思が消えてなくなってしまったことへの深い失望を表明した。この声明には、アジア太平洋地域14か国の政治、外交、軍事、科学のリーダー25人が署名した。

オーストラリア国立大学核不拡散軍縮センターのラメシュ・タクール所長は、『ジャパン・タイムズ』への寄稿で、「すべての核兵器国による核戦力の更新、近代化改修、規模や破壊力の増強に向けた計画は、どの核兵器国も核軍縮に真剣に取り組んでいないことを示している。」と指摘した上で、「核兵器を所有している、または所有しようとしている国家、あるいは、核戦力の規模を拡大しその質を向上させようとしている国家は、国際的な非難にさらされるべきだ。」と記している。

戦術核

しかし、核兵器を国際的な非難の対象にするどころか、一部の論者は、この数ヶ月の間に出版されたアジア地域の刊行物の中で、北朝鮮の脅威に対応するために、ジョージ・H・W・ブッシュ政権が1991年に撤退させた朝鮮半島への戦術核の再配備を検討するよう米国に求めるべきだという主張を表明している。

「韓国領土の戦術核は、北朝鮮に対する米国の核の傘の信頼性を高め、韓国民衆に米国の安全保障上のコミットメント再確認させることになるだろう。」と『グローバルアジア』に寄せた評論で主張したのは、韓国統一研究院のチョン・ソンフン上級研究員である。

チョン氏は、「北朝鮮が長距離ミサイルの開発を継続するにつれ、北東アジアの同盟のダイナミクスは、1950年代末の欧州のそれに似てくることになろう。」そして、「ソ連が最初にスプートニク・ミサイルを打ち上げ、大陸間弾道ミサイル時代の幕が開かれた時、西欧の同盟国は、米国が、米本土へのソ連の攻撃を恐れて、同盟の安全保障から米国の安全保障を切り離すのではないか、と恐れた。同じような切り離しへの懸念が韓国で広がり、日本にも波紋を広げるだろうと考えられる。そうした強まる懸念を打ち消すためにも、韓国に戦術核を再配備することは不可欠である。」と論じている。

しかしアジアの緊張緩和にあたって、中国が重要な役割を果たすかもしれない。新しい政権の下で、中韓関係は改善するものと期待されている。最近選出された韓国の朴槿恵大統領はすでに北京に特使を送り、中国共産党の新しい総書記を務める習近平氏は、北朝鮮に関する6か国協議の再開を呼び掛けている。

朴大統領は、よりタカ派的だった前任者よりも北朝鮮に対して融和的な姿勢を取るとしているし、『コリアン・タイムズ』によれば、中国の習総書記は北朝鮮の核兵器開発に反対すると述べたという。

上海の復旦大学アメリカ研究センターのシェン・ディンリ所長は、もし米国がアジア太平洋地域における安定と平和を望んでいるのならば、その実現のために中国と協力しなくてはならない、と述べている。

シェン氏は『チャイナ・デイリー』の評論の中で、「集団で中国を攻撃することでバランスを回復しようとすれば、東アジアの安定は崩れ、最終的には反撃を食らって米国自身の国益にも損害が及ぶかもしれない。」「これまでのところ、米国は事実を無視し、正誤を取り違え、米国と直接の関係にない紛争に首を突っ込んでいる。」と論じている。

またシェン氏は、二期目に入ったオバマ政権に対して、「アジア太平洋地域の権力シフトはもはや止めることができず、米国はただその流れに身を任せ、新興勢力の正当かつ合理的な要求を尊重することができるだけであり、地域の主要紛争の公正かつ適切な解決策を探る支援ができるに過ぎない」ことを理解すべきだと述べている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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すべてが不明瞭な原子力計画

【ニューデリーIPS=ランジット・デブラジ】

約5年前にインドが世界の原子力産業に迎え入れられたとき、経済成長のエンジンとなる石炭などの化石燃料への依存からこの国はすぐに脱却することになるだろうと多くの人々が考えた。

インドには、19基の原子炉から4000メガワットを発電する国産の原子力産業があり、1974年にインドが核実験を行って以来、米国が主導してきた(軍事目的に使用される可能性のある原子力関係設備やその構成要素)禁輸措置に対抗していた。

 また、189か国が加盟する核不拡散条約(NPT)への署名を拒否していることも、インドの国際的孤立の原因であった。しかし、2008年9月、47か国から成る原子力供給国グループ(NSG)がインドに特別の免除を与え、原子力取引に参加できるようになった。

禁輸を解かれたインドの原発推進派は、長いインド亜大陸の海岸線に沿って海外からの投資で一連の「原子力工業団地」を造成し、2020年までには新たに40ギガワットの発電能力を追加できると予想した。

しかし、彼らが見落としていたのは、(原子力発電所の建設によって)伝統的な暮らしが奪われることを恐れる農民や漁民からの激しい反発や、地震が原子力発電所施設に及ぼす可能性、そして、著名な知識人らによる最高裁を巻き込んだ原子力計画への挑戦であった。

「長い海岸線沿いに多くの原子力発電所を建設するという計画が問題にぶち当たっているのは、疑問の余地がありません。」と語るのは、米プリンストン大学の「核将来研究所」と「科学及び世界安全保障プログラム(PSGS)」のメンバーに指名されている物理学者M・V・ラマナ氏である。

「資源をめぐる紛争が激しさを増しているなか、原子力発電所の新規建設の動きに対する反対運動は将来的にますます強まるばかりだろう。たとえば、水不足は毎年厳しさを増しています。」とラマナ氏はIPSのメール取材に対して語った。

「漁師はすでに、多くの開発計画によって暮らしを脅かされています。たとえば、工場や発電所から海に流れ込む排水は重要な問題です。」とラマラ氏は語った。
 
現在、フランスの原子力企業「アレバSA」が9900メガワットの原発を建設している西部マハラシュトラ州ジャイタプールや、ロシア製原発が完成間近の南部タミル・ナドゥ州クダンクラムで、激しい抗議活動が起こっている。

ラマナ氏は、「すでに稼働した核施設によって立ち退きを迫られた人々への取り扱いは、きわめて不十分なものです。」と指摘し、立ち退きが大きな問題となっていると語った。

それでは、原子力推進派の人々は、高まる国内の反対に対してどう対処すればよいのだろうか?

ラマナ氏は、「まず、原子力推進派の人々は、インド国民には、彼らの野心的な計画と民主主義との間の選択があることを理解しなくてはなりません。」「クダンクラムとジャイタプールでこれだけ長い期間に亘って激しい抗議行動が起こっているということは、声を上げるその他すべての方法が人々に閉ざされていることを意味しているのです。」と語った。

さらに最近懸念が持ち上がってきているより大きな問題は、著名な地震学者らが地震活動に弱いと指摘しているジャイタプールにおいて、福島原発型の事故が起こる可能性である。

インドの著名な地震学者であり、バンガロールにあるインド天体物理学研究所の教授であるビノッド・クマール・ガウル氏は、ジャイタプール周辺の土地調査には重大な欠陥があると指摘している。

ガウル氏によると、ジャイタプールの立地は、1967年に起こったマグニチュード6.4のコイナガル地震で大きなヒビが入ったコイナダムからわずか110キロしか離れていないという事実がきわめて重要であるという。

また、1524年には、ジャイタプールから北100キロの西岸を巨大津波が襲っている。しかし外海の断層や遠隔地の地震によって津波が起きる可能性は、現在の研究では検討されていない。
 
 ガウル氏は、「ジャイタプール原発の地震に対する安全性を図るにあたっては、科学的調査を通じた判定を行うことが重要です。最近日本で起こった地震(=東日本大震災)は、原子力発電所を設計するにあたっては、あらゆる可能性を考慮に入れなくてはならないことを示しています。」「そして同じように重要なことは、周辺住民の懸念を和らげるために、その科学的調査の結果を公にすることです。」とIPSの取材に対して語った。

ラマナ氏は、秘密主義的な核エネルギー省(DAE)は、国の原発計画について、国民全体と、とりわけ、原発の建設予定地周辺の住民との誠実かつオープンな議論を行う時期に来ています、と語った。

「DAEは、原子炉は『100%安全』だとか、原発事故の可能性は限りなくゼロに近いなどといった、科学的に妥当でない立場を捨て去る必要があります。どの原子炉でも、たとえ小さなものではあっても、事故が起こる可能性はゼロではないのです。」「また、原子炉を建設すれば、放射性汚染物質や温水の排出により、環境に影響が及びます。つまり、議論のテーマは、環境への影響が存在するか否かではなくそれがどの程度のものなのかということなのです。」とラマナ氏は語った。

またラマナ氏は、「もし地元住民が原発施設を拒否するなら、DAEは建設計画を取り消すべきなのです。」と付け加えた。

DAEは、クダンクラムでの抵抗を主導している「反原子力国民運動」(PMANE)が呼びかけている公開協議に入ることを避け続けている。

PMANEを1988年以来率いてきたS・P・ウダヤクマール氏は、「反原発を訴える私たちの運動にとって、福島第一原発事故は、大いに追い風になりました。原発の危険性に対する人々の理解は着実に高まっています。」と指摘した上で、「公の議論を行うことの重要性は、福島第一原発事故以降、とくに増しています。」と語った。

「市民社会が公開討論を繰り返し求めているのだから、首相が介入して、危険で費用の高いエネルギーオプションの意義と役割について国中で議論を起こすべきです。」とグリーンピース・インド支部で原発反対運動を進めてきたクルナ・ライナ氏は語った。

インドの野心的な原子力計画に対する最大の挑戦は、2011年10月、原発の安全審査と費用対効果分析が行われるまではすべての原発建設を凍結するよう求めて、著名人らがインド最高裁に嘆願書を提出したことでもたらされた。

彼らは、裁判所への訴えで、原子力計画はインド憲法で保証されている「生命への基本的権利」に反していると主張している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|中東|「シリアにおけるイスラエルの軍事行動は危険だ」とUAE紙

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【アブダビWAM】

シリア内戦は周辺地域を巻き込む地域戦争へと発展する兆候を示していたが、1月29日のイスラエル空軍によるシリア領内への爆撃によって、事態は一気に極めて危険な水域に突入した。 

イスラエルの軍事行動は、明らかに国連憲章に違反する侵略行為にほかならない。現時点で爆撃対象が何だったか不明だが、シリア政府は軍事研究施設が破壊されたとしている。また、西側外交筋、反乱軍情報によると、レバノンのヒズボラ勢力向けに武器(地対空ミサイル)を運搬していた車列が爆撃されたという。

 「爆撃対象の真相が明らかになる前の段階でも言えることは、イスラエルは、このような越境攻撃で、極めて危険な一歩を踏み出したということだ。今回の一方的な爆撃は、改めて、イスラエルが中東地域で傑出した軍事大国であり、機が熟したと判断すれば、いかなる法律や道徳の規範も顧みず武力の行使を躊躇しないという現実を、シリア政府並びに反乱勢力双方に突きつけた形となった。」と、アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙「ガルフ・ニュース」紙が2月1日付けの論説の中で報じた。 

また同紙は、「内戦が混迷の度合いを深める中、シリア政府側にはイランの派遣部隊が参戦するようになった。一方、反政府勢力側にも、多種多様な外人部隊が独自の指揮系統を保持、或いは反政府軍連合の指揮下に組み込まれる形で参戦している。そしてそうした反政府軍勢力の中には、様々なイスラム原理主義組織も含まれている。」 

また同紙は、「クルド人勢力も数千人規模の民兵組織をシリア北東部に結成した。しかしこれもシリア各地で多数生まれているとされる反政府戦闘集団のほんの一部に過ぎない。ただし、こうした集団の全容については依然として明らかになっていない。」と報じた。 

さらに「ガルフ・ニュース」紙は、「イラン、イスラエル、クルド人勢力、イスラム原理主義勢力など、様々な勢力がシリア内戦に介入しているが、いずれの勢力も、シリアのために戦っているのではないという点を理解しておくことが重要である。シリア内戦の混乱に乗じて戦闘に参画した各勢力には、内戦の混乱に乗じて影響力を拡大し、事態を収拾する段階で、戦略的に有利な条件を引き出そうという独自の思惑がある。」「こうした外部諸勢力による露骨なご都合主義は、アサド政権との交渉を通じた事態の打開を目指しているシリアの政治家らにとっては深刻な弊害となっている。」と報じた。 

そして「この弊害は、反政府勢力の指導者モアズ・アル・カティブ氏が、1月30日に、条件が整えば(①拘留者を開放すること。②追放されたシリア国民のパスポートを更新すること)アサド政権との対話をする用意があると発表したところ、自らの支援諸勢力からの反発に直面したことによく表れている。」と結論づけた。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 

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議論の俎上から外れたイランの核計画

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【エルサレムIPS=ピエール・クロシェンドラー】

イランと「P5+1」(国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国)の協議が、1月末にトルコのイスタンブールで開催されることが予定されているが、これがイランのウラン濃縮計画に関する妥協を巡るリトマス試験紙の役割を果たす機会となるかもしれない。ところが奇妙なことに、現在イスラエルでは、イランの核開発問題は、議論の俎上にのぼらなくなっている。

イランの核開発を巡って、イランと「P5+1」との間の協議が前回行われたのは、昨年6月モスクワにおいてであった。

次回の協議では、双方の妥協がどのような形をとるにせよ、イランに対する制裁を段階的に解除することと引き換えに、イランの主張するウラン濃縮の権利を認め、高濃縮ウランを製造しないとイランが誓約し、中部コム近郊フォルドゥの地下核施設のような閉鎖された施設への国際原子力機関(IAEA)の立ち入りを認める、といった内容が中心になるだろう。

その一方で、米国の「科学国際安全保障研究所(ISIS)」は1月14日、イランは2014年半ばまでに少なくとも核爆弾1発分の物質を製造できるとの見解を明らかにした。

 さらに1月16日には、IAEAが、核兵器関連の実験を秘匿したと疑われているパルチン軍事基地への立ち入りと、核開発計画に関与したイラン政府当局関係者に対する聞き取りについて、イラン当局と会合を行った。

しかしイスラエルでは、1月22日に行われる大統領総選挙に先立つ選挙戦でこの問題はほとんど取り上げられなかった。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相(イスラエル国民は彼のことを「ビビ」と呼んでいる)は、自身の任期中の最大の成果として、イランに対して妥協しない姿勢を貫いたことを誇りとしている。さらに自身の対イラン外交について、(イランに対する)開戦の脅しをかけたことでむしろ戦争が回避され、さらに国際社会がイランに対して圧力をかける動きにもつながった、とみている。

一方ネタニヤフ氏に批判的な人々は、彼は、本当はイランの核施設を攻撃する意図などない「はったり屋」に過ぎないとみている。しかし、「はったり」も、選挙戦における正当な戦術なのである。

ネタニヤフ氏が昨年9月の国連年次総会で行った、イラン核問題について「レッドライン(越えてはならない一線)」を設定すべきだと訴えた演説は、彼の首相としての任期のグランド・フィナーレを飾るものだった。

ネタニヤフ氏は、イランのウラン濃縮のレベルを示した「ルーニー・チューンズ」の導火線付きの球体の爆弾を描いた漫画フリップを示しながら、「(イランは)来春か、遅くとも来夏までには必要なウラン濃縮を終え、数週間もあれば最初の核爆弾を完成できる段階に達する」と警告した。しかしその一方で、イスラエル自身の「レッドライン(=核兵器の有無)」や、レッドラインをイランが守らなかった場合にイスラエルが単独攻撃するか否かについては明言を避けた。

ネタニヤフ氏は、この国連演説のあとにイスラエル本国における人気が急上昇したことを受けて、翌年10月までに予定されていた総選挙の前倒しに打って出た。これにはイランとの対決が予想される二期目を、自ら決める政治日程で再選をめざすというネタニヤフ氏の目論見があった。

1月上旬、イスラエルのチャンネル2は、大統領選挙の政見放送開始にあたって、現職首相(ネタニヤフ氏)に関する1時間の紹介番組を放送した。しかし、非常に奇妙なことに、ネタニヤフ氏はこの際の談話の中で、イランについては僅かに1回、しかも遠まわしにしか言及しなかった。

その該当箇所は、ユバル・ディスキン元イスラエル総保安庁長官が、イランに関するハイレベル会合について、煙草やアルコール、高級料理でもてなしての「退廃」だと『イエディオス・アハロノス』紙に述べたのしい批判に対して、ネタニヤフ氏が、「私は真剣な会合を重ねてきたつもりだ。」と言葉少なに反論した場面である。

選挙を前にイラン問題に一旦終止符を打つ

さらにネタニヤフ氏の大統領選挙における宣伝広告を見ると、国連演説の再現さながらに、(爆弾を描いた漫画に代わって)中東の地図を描いたフリップを手にし、「私は当面イランの核開発を防ぐことに成功した。」と落ち着き払って述べるネタニヤフ氏の姿が描かれている。

それでは、ネタニヤフ氏自身が「(イスラエルのみならず世界全体にとっての)最大の生存上の脅威」とまで主張していたイランの核脅威論が、あたかも元から存在しなかったかのように、突如として公の議論から消えてしまったのはなぜなのだろうか。

エジプトとシリアにおけるイスラム主義者の脅威に関するネタニヤフ氏の選挙戦での発言は、今後に向けて何ら新しい戦略的なビジョンを示しているわけではない。しかし、容易に掻き立てられたイスラエル国民の懸念要素は、選挙に際しては、伝統的にイスラエル右派政党に有利に作用してきた。

つまり、「アラブの春」を背景に「ジャングルの中の村(イスラエルを周囲の野蛮な国家に取り囲まれた民主主義の砦に例えたエフード・バラク首相による比喩表現)」に住まねばならないという、「漠然とした不安」や、「パレスチナ人によるテロ」に対する恐怖といった懸念材料がイスラエル有権者の間に十分広まっていたのである。

このようにネタニヤフ氏の再選が既定路線として十分予想された状況下においては、(イラン核問題に関連した)放射性物質の降下や核のリスクといった、さらなる懸念材料をあえて持ち出して、熱気に欠けた選挙戦をことさら盛り上げる必要はなかったのである。

ネタニヤフ氏は、外交のボールが自分の側に投げられると、それを避けてしまうことで知られている。ネタニヤフ政権第一期と同じように、第二期においても、リスクのある和平構想や危険な軍事的企図を引き延ばしたりつぶしたりするものと見られている。この点は、多くのイスラエル国民にとってはむしろ安心材料ではある。

さらにネタニヤフ氏は、イスラエルがガザ地区のパレスチナ人イスラム原理主義勢力ハマスに対して攻撃を仕掛けた昨年11月に、ハマスがイスラエルの都市や村々に対して行ったロケット攻撃の恐怖を、イスラエル国民に改めて思い出させる必要がなかった。

そこでネタニヤフ陣営は、今回の選挙戦に際しては、迎撃ミサイル防衛システム「アイアンドーム」などの防衛手段でイスラエルの防衛能力を強化してきたこと、エジプト国境に沿って建設してきた壁がほぼ完成に近づいていること、さらに、イスラエル軍が占領しているシリアのゴラン高原における防衛線を強化していることなど、イスラエル市民の懸念材料として大きな幅を占めている身近な国境防衛に対する成果に焦点をあてた。

従って、今回の選挙では、戦争と平和をめぐる中核的な課題、とりわけイラン脅威論のような政治スローガンや見せかけの討論は、ネタニヤフ陣営にとって何の意味も持たなかったのである。

それでもなお、イスラエルの選挙戦は、各候補者の政治意図をめぐる煽情的な宣言の応酬で彩られることが少なくない。

それ故、昨年11月にパレスチナの国連における地位を非加盟のオブザーバー扱いに格上げしたことに対して、ネタニヤフ氏がすぐに「懲罰的措置」―激しく物議を醸し出しているヨルダン川西岸「E1」地区のユダヤ人入植地を拡大する計画の復活―を口にしたことは、十分に挑発的なものだと考えられる。

しかし、慎重なネタニヤフ氏が、さらにあえて危険を犯して、イランに対する単独軍事攻撃の脅しまでかけることは、現時点ではありえない。

その理由として第一に考えられることは、再選を果たしたバラク・オバマ大統領の2期目が、予想されるネタニヤフ氏再選の前夜にスタートするという国際政治状況である。ネタニヤフ氏としては、お互いの勝利と第二期の開始という絶好の機会を無駄にしたくはないだろう。

オバマ大統領が(イランやハマスとの直接対話を提唱してきた)チャック・ヘーゲル元上院議員(共和党中道穏健派)を新たな国防長官に選んだことは、(一期目にイランに対する対応を巡って)悪化した[ネタニヤフ氏と]オバマ氏との関係に新しいページを切り開くためには、あまり幸先の良い出来事ではない。しかし、ネタニヤフ氏は、米国大統領の専権事項である国防長官指名人事について敢えて公然と異議を唱えることはしないだろう。

またネタニヤフ氏は、自身の再選後、膨張した米国防予算の再構築に取り組むヘーゲル国防長官が、イスラエルへの軍事援助を削減しないよう要望することになる。

従ってネタニヤフ氏としては、「P5+1」とIAEAによるダブルトラックの対イラン協議の行方を、交渉が妥結しないことを切望しつつ、見守っていかざるを得ない立場にある。しかし、両交渉においてイランとの外交的妥結が失敗に終わった際には、イスラエル単独による戦略策定という事態を回避するためにも、来春を前に、オバマ大統領との間で、対イラン協調戦略について合意することを望んでいる。

またネタニヤフ氏は、彼のイランに対する強硬姿勢の真相が、はたして「はったり」なのか否かという疑問については、彼の功績を著した歴史書の中のオープンクエスチョン(答えのない問い)のままにしておきたいと望んでいる。

翻訳=IPS Japan

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「国の将来はマリ国民に決めさせるべき」とUAE紙

【アブダビWAM】

昨年の4月以降マリ北部を実質的に支配下に置いていた武装イスラム過激派集団が、フランス軍の武力介入によってほぼ一掃された今、国際社会が今後マリ情勢にどのように対処するかが、同国のこれからの方向性のみならず、将来類似の危機が発生した際の対処のあり方を決めることになるだろう。 

「マリ危機の背景には国内の多くの当事者が複雑に絡んでいることから、国際社会がこれ以上マリ情勢への関与を激化させていくことは、長期的観点に立てば、マリの再建にとって弊害となるだろう。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙「ガルフ・ニュース」が2月2日付の論説の中で報じた。

 フランス軍は、武装イスラム過激派が完全支配していたキダルの空港を奪取後、マリ国軍と協力して、北部の主要都市のトンブクトゥガオの奪還に成功、反政府軍はアルジェリア国境の山岳地帯に逃げ込んだと見られている。ローラン・ファビウス外相は、マリ政府の要請で先月11日以来展開してきた軍事作戦が成功した、と宣言するとともに、「今後はアフリカ諸国が派遣する多国籍軍に(解放した地域の治安維持を)委ねることになります。フランス政府は、マリ政府の要請に応じてこの軍事作戦を成功させるために必要な人員と装備を動員し、反政府軍に対して激しい攻撃を加えました。しかしフランス軍をマリに進駐させる意図は当初からなく、掃討作戦が終了次第、早期に撤退します。」と語った。 

また同紙は、「このような危機の再発を防止するには、国家の統合と統一を維持できるような国の仕組みを作り上げるための長期計画がなければならない。全てのマリ人が国づくりに参加できるような適切な仕組みと財源が確立されない限り、常に内戦の可能性を含んだ反対勢力からの脅威に晒されることになるだろう。」と報じ、一部の過激派組織が国を乗っ取りかねない状況にまで発展した今回のマリ危機から教訓を学ぶべきだと訴えた。 

また同紙は、国連安保理がマリへの平和維持部隊派遣について検討を開始する中、「長期的な観点に立った取り組みが検討されなければならない。外国軍の駐留はあくまでも暫定的な解決策に過ぎず、マリ自身が自国の将来を決めることが急務である。」と報じた。 

「ガルフ・ニュース」紙は、今後も過激派組織が弱小国の混乱に乗じて国を乗っ取ろうとするリスクが十分に存在することから、そのような事態を断固阻止するためにも、アフリカ連合(AU)及び国際社会は、マリに支援の手を差し伸べるべきだ、と結論付けた。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 

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情報不足で困難に陥る難民支援

【ベルリンIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が、情報不足からくる2つの問題に悩んでいる。ひとつは、難民発生国における活動の困難であり、もうひとつは、先進国に難民が集まりやすいという幅広く信じられている「誤解」の問題である。

UNHCRでは、近年のソマリア情勢の悪化により、今年に入って32万人がソマリアから避難したとみている。UNHCRのアンドレイ・マヘチッチ報道官が10月21日に語ったところによると、難民の多くはケニアやエチオピアといった隣国にも向かっているが、アデン湾を超えて対岸のアラビア半島に渡るという危険な行為に出る難民も少なくないという。

今年に入ってからすでに2万人のソマリア難民が対岸のイエメンに到着している。「イエメンの難民受入センター(Reception Center)に新たに到着した難民がUNHCR職員に語ったところによると、旱魃、飢饉、内戦、兵士への強制徴用が、ソマリアを逃れてきた主な原因です。」とマヘチッチ報道官は語った。

 「到着した難民の大半は、イエメンの状況や到着後に直面する現実を認識しておらず、イエメンで職を見つけたり、他の湾岸諸国を目指すつもりでソマリアを後にしていました。」とUNHCRはプレスリリースの中で、情報不足が障害となっている点を指摘している。

UNHCRによると、2011年1月から7月の間、イエメンに到着したソマリア難民の数は月平均1600人であった。しかし、イエメンの国内情勢が不安定になっているにもかかわらず、難民の到着数はその後急増し、8月には4500人、9月には3290人となった。現在、イエメン国内には推定19万6000人のソマリア難民がおり、UNHCRにとって41万5000人を上回ると見られるイエメンの国内難民への対応とともに大きな負担となっている。

「治安の悪化により私たちの救援活動もますます危険かつ複雑なものになってきています。」とマヘチッチ報道官は語った。現在アビヤン県でアルカイダと政府軍の交戦が激化しているため、新たに到着した難民をアデン湾沿いの難民受入センターからカラズ(Kharaz)難民キャンプに輸送する作業が益々困難になっている。このため、UNHCRのイエメン側パートナーであるSociety for Humanitarian Solidarity(SHS)も、交戦地を迂回する遠回りのルートをとったり輸送回数を減らす対応を余儀なくされている。UNHCRは、難民受入センターやトランジットセンターに新たな到着した難民に対して、イエメン情勢と難民キャンプへの移動に伴うリスクについて説明を行っている。

こうしたことから難民の中にはソマリアへの帰国を検討するものもでてきている。UNHCRは自発的に帰国を希望する難民に対して支援するプログラムを持っているが、ソマリアの場合、この支援が適用されるのは比較的政情がおちついている北部のプントランドとソマリランド出身者に限られている。しかしUNHCRの発表によると、イエメンに到着しているソマリア難民の大半は政情が不安定な南部及び中部ソマリア出身者が占めている。また、主にエチオピア人を中心に、ソマリア以外の周辺国からイエメンに到着する数も増加してきている。

さらに、イエメンの情勢不安を利用して、紅海沿岸の一帯では、難民をだましたり強制したりして売り飛ばす輩があとをたたない。こうした人身売買のターゲットは主に湾岸地域での職を求めて入国してくるエチオピア人だが、ソマリア難民が拉致される事件もでてきている。「イエメンの治安悪化により、人道支援チームのパトロール活動が困難になっており、結果的にそうした非合法集団が到着したばかりの難民を先に発見するケースが増えています。また、イエメンに逃れる航海の途中で難民や出稼ぎの女性が性的暴力に晒される被害も幅広く報告されています。UNHCRでは、イエメン側のパートナーと犠牲者に対する医療支援を行うとともにイエメン警察と情報共有してフォローアップにつとめています。」とマヘチッチ報道官は語った。

「難民の多くが先進国に集まりやすい」という誤解

さて、UNHCRの直面するもうひとつの問題は、先述の先進国における「誤解」である。「難民の多くが先進国に集まりやすい」というこの誤った認識が先進国で幅広く信じられている背景には、既存の情報と主流メディアが支配する現在のコミュニケーションの仕組みの問題がある。

アントニオ・グテーレス難民高等弁務官は、2011年6月に「2010年世界の動向レポート」を発表した際、「今日の難民の動向と国際保護の状況について憂慮すべき誤解が広がっています。難民の殺到を恐れる先進国に広がる感情は大げさに誇張されたものか、移民の流入問題と混同したものなのです。一方で現実はずっと貧しい国々が実質的に負担を負わざるを得ない事態に置かれているのです。」と語った。

同レポートは、難民受け入れの負担を受けているのは、富裕国ではなく、難民の絶対数からも、また、ホスト国の経済規模から見ても、圧倒的に貧困国(全世界の難民の8割が居住)である実態を明らかにしている。具体的には、パキスタン(190万人)、イラン(110万人)、シリア(100万人)がもっとも多くの難民を抱えた国なのである。

一人当たりの国内総生産に占める受入難民数でみても、パキスタンが最大の受入国で1ドル当たり710人である。これにケニアの475人、コンゴ民主共和国の247人が続いている。一方、先進国で国内に最も多い難民人口を抱えるドイツ(59万4000人)でさえ、一人当たりの国内総生産に占める受入難民数は17人である。

また同レポートは、UNHCRが設立された60年前とは大きく変化した移民を取り巻く環境を描いている。UNHCR設立当時の取り扱い件数は、210万人で、第二次世界大戦の結果発生した欧州の難民が対象であった。今日UNHCRが受持つ国地域は120カ国を超え、保護対象者も国外への移転を余儀なくされた人々に止まらず国内難民も含まれている。

グテーレス氏は、2011年上半期の先進国における難民申請の動向をまとめた報告書に言及して、「2011年は私が難民高等弁務官に就任して以来、かつてない難民危機の年となっています。しかし難民の大半が近隣諸国に逃れたことから、今までのところ難民申請が先進国に及ぼす影響は予想を下回っています。」と語った。

10月18日に発表された同報告書によると、今年1月から6月までの期間における難民申請者数は19万8300人で、昨年の同時期16万9300人を上回った。しかし難民申請数は通常下半期にピークを迎えるため、UNHCRでは2011年の難民総数を、過去8年で最高となる42万人と予想している。

UNHCRのプレスリリースには、「今年は西アフリカ、北アフリカ、東アフリカで深刻な難民危機が発生し、チュニジア(4600人)、コートジボアール(3300人)、リビア(2000人)等の難民申請数が増加しました。しかし、全体で見れば、先進国への難民申請の割合は限定的なものとなっています。」と記されている。

今回のUNHCR報告書で難民の出身国として上位にランクされている国々は、アフガニスタン(1万5300件)、中国(1万1700件)、セルビア(1万300件)、イラク(1万100件)、イラン(7600件)で、以前の調査結果と比較して概ね変わっていない。

難民申請を受けた先進国を地域別にみると欧州が最大の受入れ地域で全体の73%を占めている。また、難民申請数が大きく減少したのはオーストラレーシア(オーストラリア、ニュージーランドおよびその付近の南太平洋諸島の総称)のみで、昨年の6300件に対して今年は5100件にとどまった。

一方国別にみると、先進国の中でもっとも難民受け入れが多いのが米国で、2011年上半期の実績が3万6400件となっており、これにフランス(2万6100件)、ドイツ(2万100件)、スウェーデン(1万2600件)、英国(1万2200件)が続いている。なお、欧州で難民申請数が減少したのは北欧諸国のみであった。一方、北東アジア(日本と韓国)においては、難民申請数が昨年前期実績の600件から今年前期には1300件と2倍以上に伸びている。

「上半期の先進国における難民申請の動向」は、UNHCRが「国際難民デー」(6月20日)に合わせて発表する「世界の動向レポート」の内容を補完するものであり、2011年版の内容は、世界の80%の難民を受け入れているのが途上国である現実を伝えている。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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