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フィンランド、中東非大量破壊兵器地帯会議の主催国に

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【国連IPS=エリザベス・ウィットマン】

フィンランドが、2012年に開かれる中東非大量破壊兵器地帯化に関する会議の主催国にようやく選ばれた。この会議の目的は、すべての中東諸国を参加させることにある。たとえばイランとイスラエルのように、長年にわたって意見が対立してきた国々があるからである。

国連の潘基文事務総長は、10月14日、フィンランドのヤッコ・ラーヤバ外務事務次官が会議のファシリテーター(取りまとめ役)となることを発表した。

 潘事務総長とロシア・英国・米国政府が共同で発表したこの会議は長く待ち望まれていたもので、エジプトが1990年にはじめてこのアイデアを提案してからすでに20年近くに及ぶ困難な道のりの中で、ひとつの前進となるものである。

軍備管理・軍縮関連の団体は、会議の開催自体と、主催国としてフィンランドが選ばれたことを歓迎しているが、主催国とファシリテーター役が指名されるまでにかなりの時間がかかってしまったことに懸念を示し、会議を開催するまでに残っている難題や、中東非大量破壊兵器地帯を最終的に創設することの難しさを指摘している。

英米安全保障情報評議会(BASIC)のプログラムディレクター、アン・ペンケス氏(ワシントン)は、IPSの取材に応じ、「ファシリテーターを指名できたことは明らかに前進です。しかし、それが10月半ばまでかかってしまったということは…このような難しい会議を2012年に開く実務作業が果たして可能なのかどうか、疑問を抱かざるを得ません。」と語った。

それでもなお、「もしイランとイスラエルが同じテーブルについて相互の安全保障問題について討論するならば、会議は非常に大きなステップとなるでしょう。」とペンケス氏は語った。

軍備管理協会のダリル・キンボール事務局長も、「会議開催の決定は非常によいことです。」と指摘したうえで、「大事なことは、会議を実際に開催し、地域のすべての主要国が建設的な議論に参加するよう努力することです。ただし、そうした成果が得られるという確証はありませんが。」と語った。

またキンボール事務局長は、「イランであろうとイスラエルであろうとシリアであろうと、核・生物・化学兵器問題について、これらの国の間での実際的な対話を始めるという点に注目しなければなりません。」と語った。

進展はやはり困難か?
 
1990年にエジプトがはじめて提案した後、中東非大量破壊兵器地帯が公的に主張されたのは、1995年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議においてである。しかし、諸国がその目標の具体的な達成手段についてようやく合意したのは、2010年のNPT運用検討会議であった。

合意されたひとつのステップは、2012年に会議を開催することであり、ロシア、英国、米国、国連がこれを主導することになった。

会議の主催国とファシリテーターが、なんとか決まったということは、少なくともこのような難題に関して諸国家をまとめる取り組みが進展したことを意味している。しかしだからといって、このこと自体が会議の成功を保証するものではない。

「主要政府が、中東地域をいかにして軍縮に向けた軌道に乗せていくかについて建設的な意見を携えてこの会議に臨むことがなによりも重要です。そうすることで、最初のいくつかのステップが出てくるでしょう。」とキンボール事務局長は語った。

「核兵器であれ生物兵器であれ、あるいは核実験禁止であれ、各国には、条約に署名しそれを履行するという点で、必ずとらねばならない手続きがあります。しかし、会議に向けた取り組みに関する外交的言辞は、疑いや前置き、前提条件に満ちています。」とキンボール事務局長は指摘した。

米国国連代表部のカーティス・クーパー副報道官は、「2012年の会議が建設的な議論の場となることを望んでいます。」とIPSの取材に応じて語った。クーパー副報道官によると、米国は「この目標達成の障害を取り除く実際的かつ建設的な措置」をとるよう諸国に促している、という。

またクーパー副報道官は、「大量破壊兵器なき中東は『達成可能な目標』ではありますが、一夜にして実現できるものではありません。」「この目標は、中東における包括的かつ持続可能な平和という文脈においてのみ、つまり、イランとシリアがそれぞれの国際合意の完全履行へと復帰することではじめて、達成できるものなのです。」と語った。

英国は、同じような声明の中で、中東非大量破壊兵器地帯の創設にコミットし続けるとしたうえで、「しかし、それは一夜にして成るものではないし、地域のすべての国家の努力や支持なくして可能なものでもない。」と述べている。

同声明は、会議について「困難になるであろうプロセスの最初の一歩であり」、「地域の国家が議論に参加する絶好の機会となる」としつつも、「そのためには地域のすべての国家と国際社会の完全なる参加が不可欠である。」と指摘している。

その他の問題

かりに、会議がどれだけ建設的なものになるかという疑いがそれほどでなかったとしても、会議の見通しに影響を与える現在の中東情勢に関する懸念はかなり深刻なものである。

ペンケス氏は、現在進行中の「アラブの春」や、イランによる駐米サウジ大使の暗殺疑惑などの「実際的な問題」が、プロセスを困難に陥れるかもしれない、と指摘した上で、「この種の会議は空白の中で開催できるものではなく、それに向けて多くの政治的に微妙な問題がうまく処理されねばなりません。」と語った。

ヘルシンキ・サノマット』によると、ラーヤバ外務事務次官は、2012年という広いスケジュールを示しただけだという。

この言葉の選び方、とくに「広く」という言葉は、「会議遅延の可能性を匂わせるものです」とペンケス氏は指摘した。

それとは別に、ラーヤバ外務事務次官が、中東問題に関する経験があるとみられていないこと自体は、「この状況では有利に働くかもしれない」とペンケス氏は見ている。「アウトサイダーとして、長年にわたって深く事態に関与したり利害を持ってしまっている人よりも、問題を鋭く指摘することができるかもしれません。」とペンケス氏は語った。

中東で唯一の核兵器国であるイスラエルは、同国が公式に所有を認めないまま核兵器を保有していることを会議で非難されるかもしれないとの懸念を示し、もしそうならば会議には参加しない、と主張している。

キンボール事務局長は、「会議の開催国が決まったとしても、会議を建設的なものにするのは依然として困難な課題です。」と強調した上で、「関係諸国は、会議の始まる前、そして会議後に行動を起こす準備をしなくてはなりません。そうしてはじめて新たなプロセスを始めることができるのです。」「この会議が、特定の国の外交官がただ集まって帰るだけのものに終わらせないことが大事なのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|パレスチナ|ユネスコ加盟は重要な一歩

【アブダビWAM】

「国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、パレスチナを正式な加盟国として迎え入れることを決定した。このことは、ユネスコ加盟の重要性もさることながら、より広い文脈、すなわち、パレスチナに基本的権利を認めるという緊急かつ重要な観点からみても、パレスチナにとって大きな一歩となった。」とアラブ首長国連邦の日刊紙が報じた。

パレスチナは10月31日に行われた採択で、賛成107(反対14、棄権52)でユネスコの195番目の加盟国として承認された。この背景にはパレスチナ及び支援諸国による活発なキャンペーン活動があった(89年に申請した際には事実上「門前払い」された)。採択後、パレスチナ暫定自治政府のリヤド・アル-マリキ外相は、「今回の採択は、パレスチナ人民に行われてきた不当な権利の侵害を僅かながらでも正す一助となるだろう。」と語った。

しかし今回の採択は代償も伴うものであった。米国は同盟国イスラエルの敵を国家扱いするユネスコの姿勢に猛反発し、拠出金の支払いを凍結すると発表した。「今回の決定は、パレスチナに関する問題となると、米国政府の姿勢が国際社会からいかに遊離しているかを浮き彫りにするものとなった。」とガルフ・ニュースは論説の中で報じた。

「国際社会の大きな流れは、人々が自由と権利を獲得できるよう後押しするというものである。もしそのような後押しを必要とする人々があるとすれば、それは、何十年にもわたって権利を無視・侵害・差別されてきたパレスチナ人に他ならないだろう。従って、パレスチナのユネスコ加盟は、小さいながらも、独立国家として国際社会の承認を獲得するための、重要な一歩となった出来事である。」

この文脈から見れば、パレスチナのユネスコ加盟に反対した国々は偏見に基づく差別的な判断をしたと見做されてもやむを得ないだろう。パレスチナ人は未だにイスラエルの占領下、或いは難民として生きることを強いられているのが現実であり、このことを無視することはできない。

従って、パレスチナと支援諸国が目指すべき次のステップは、同様の承認を獲得すべく、引き続きこの方向性を追求していくことである。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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│東アフリカ│オバマ政権、「神の抵抗軍」征伐へ軍事支援

 【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

米国のバラク・オバマ大統領は10月14日、約100人の軍事顧問団をウガンダをはじめとする周辺諸国に派遣し、「神の抵抗軍」(LRA)征伐の支援を行うことを発表した。

ホワイトハウスが公表したオバマ大統領が議会指導部に通告した書簡には、「今回の派遣人員は緊急の場合には戦闘に対応はできるが、その任務はあくまで、「神の抵抗軍」の指導者ジョセフ・コニーと幹部の排除を目的とする現地国軍パートナーに対する情報提供や助言に限られている。」「派遣部隊は、12日のウガンダ派遣を皮切りに、南スーダン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国に対して、それぞれの国々の承認を得た上で、派遣される。」と記されている。

LRAの指導者ジョセフ・コニーとその他4人の司令官は国際刑事裁判所によって2005年に戦争犯罪と「人道に対する罪」で起訴されており、人権団体はオバマ政権の方針を歓迎している。

 1980年代末に北ウガンダに現れた「神の抵抗軍」は、ウガンダと近隣諸国において少なくとも30,000人を殺害し、約200万人の難民を生み出した元凶とされている。また、子どもを誘拐して強制的に自軍の兵士に編入したり、犠牲者の手足切断や、集団レイプを犯すなど、その残虐さで悪名が轟いている。

「軍事顧問を配置することで、オバマ大統領は、関係諸国が「神の抵抗軍」による大虐殺に最終的に終止符を打てるよう、決定的なリーダーシップを発揮しているのです。彼らは赴任地において、民間人の保護や『神の抵抗軍』指導部の捕獲作戦の向上など、従来とは異なる前向きな変化をもたらすことができるのです。」と紛争解決に取り組む団体「Resolve」のポール・ローナン代表は語った。

今回の決定は、オバマ政権内で「人道的介入」を唱道してきた人々、とりわけ国家安全保障会議メンバーで大統領上級顧問のサマンサ・パワー氏スーザン・ライス国連大使にとって再度の勝利となったようだ。彼女たちにとっての前回の勝利は、3月における米国及び北大西洋条約機構(NATO)によるリビア情勢介入の決定であった。

当時、国連安全保障理事会はムアンマール・カダフィ政権の軍及び治安部隊から民間人を保護するためにリビアに「飛行禁止区域」を設定することを承認した。しかし米国及びNATO同盟諸国はこの安保理決議を拡大解釈し、米軍及びNATO派遣軍は事実上、反乱勢力を支える空軍部門として機能し、反乱勢力がリビアのほぼ全域を掌握するうえで大きな役割を果たしている。

特殊部隊を中心として派遣される今回の軍事顧問団の規模はリビア派遣部隊と比較するとかなり小規模である。リビア情勢への介入の場合(オバマ大統領は議会と協議せず中南米訪問中に米軍の攻撃を命じた)と異なり、今回の軍事顧問団の派遣は、2009年のLRA非武装・北ウガンダ再建法案(2010年5月に民主共和両党の圧倒的支持を得て法制化)を根拠とするもので、米議会は「LRAからの民間人の保護、ジョセフ・コニーおよびLRA幹部の逮捕或いは排除、残存LRA勢力の武装解除」を目指すオバマ政権に対する支持を表明している。

LRA非武装・北ウガンダ再建法案の起案者の一人である共和党のジェームズ・インホーフェ上院議員は、「私はLRAがもたらした惨状をこの目で見てきました。私は米軍がLRA問題を重視しこの法の規定に基づいて行動をおこしていることを称賛します。軍事顧問団派遣は、最終的には現地の子ども達や一般民衆をジョセフ・コニーの恐怖支配から保護し、アフリカの人権危機をもたらしたコニーの忌まわしい行為に終止符を打つ助けとなるでしょう。」と語った。

オバマ政権とその前のジョージ・W・ブッシュ政権は、LRA制圧に取り組むウガンダに対して、「非戦闘的」(non-lethal)で兵站的な支援のみを行ってきた。LRAのコニーが2008年に二度にわたって和平協定を拒んだ際には、援助が増やされた。2008年以来、米国は、LRAと戦闘する地域の軍隊に4000万ドルの軍事援助を提供してきた。
 
2008年12月、ウガンダ、コンゴ民主共和国、南部スーダンの軍は、新たに創設された米国アフリカ軍(AfriCom)からの諜報・兵站支援を得た合同軍事掃討作戦「Operation Lightning Thunder(稲妻作戦)」を発動しコニーとLRA残党の捕捉を試みた。

しかしこの軍事作戦はコニーをはじめとするLRAメンバーの多くを取り逃がしてしまい失敗に終わった。LRAは報復として12月下旬にコンゴ民主共和国と南部スーダンで無抵抗の村人を襲撃し1000人近くを殺害、人権擁護団体によると、この報復作戦で最大180万人の地域住民が故郷を追われた。

また米国政府は、LRA非武装・北ウガンダ再建法に基づき、LRAの被害を受けている地域に対して相当額(国務省によると2011年だけでも1800万ドルを超える)の人道支援を実施している。

オバマ大統領は議会指導部への通告した書簡の中で、LRAを掃討する試みは未だ成功していないと述べている。LRAの戦闘員数は大きく後退したものの依然として300~400だとみられている。専門家は掃討作戦の失敗の原因として、諜報活動の不十分さ、各国軍間の調整不足、そして同地域で最も有力視されているウガンダ軍の多くが掃討作戦から撤退した要因を挙げている。

「LRA掃討作戦に欠けている要因は、ジョセフ・コニー逮捕と市民の保護に専念できる有能な兵士の不足であり、こうした各国部隊の活動を成功に導く米国からの諜報及び兵站面の支援でした。今回の派遣される米軍顧問団は、こうした多国間戦略の一部として、全体の作戦を進展させるうえで触媒的な役割がはたせるでしょう。」と、東アフリカ及びアフリカの角地域における虐殺防止に取り組む人権団体「イナフプロジェクト」の共同創設者ジョン・プレンダーガスト氏は語った。

「米国政府は、米軍顧問団の配置と並行してパートナーとなる地域の各国政府、とりわけコンゴ民主共和国とウガンダ間の対立を解消し相互に協力する方向にもっていくよう外交努力を強めていくことが極めて重要です。」とローナン代表は語った。

今回の軍事懇談派遣は、いくつかの点で、9.11同時多発テロ直後に米国がフィリピン南部のゲリラ組織「アブサヤフ」を掃討するために特殊部隊からなる軍事顧問団を派遣したミッションと似通っている。ブッシュ政権は、アブサヤフをアルカイダと関係したテロ組織とみなしていた。

当時軍事顧問団のフィリピン派遣は、米国が1991年にクラーク海軍基地を閉鎖して以来、初めての兵力配置であったが、ミッションは20年後の今日まで継続している。これにもかかわらず、米政府はこのミッションをとおしてフィリピン政府との軍事的つながりを深めてきており、ミッションを高く評価している。

オバマ政権の報道官は、10月14日に開催した記者会見において、今回の東アフリカにおける作戦は数ヶ月以上続くことはないだろう語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

|視点|「恒常的な戦争状態」を作り出しているものは何か?(ガレス・ポーター:歴史家)

【IPS東京=浅霧勝浩】

米国安全保障政策専門の歴史家で、中東情勢を中心に長年IPSに分析記事を寄稿してきたガレス・ポーターによる講演「Speaking Truth to Power: a permanent state of war」の映像をご紹介します。

講演の中でポーター記者は、今日の戦争に続く戦争を作り出している構造的な問題について、歴史的な背景を紐解きながら解説するとともに、この「恒常的な戦争状態」から抜け出す方策として、1961年のドワイト・D・アイゼンハワー大統領の退任演説に言及し、アメリカ人自身が「真実を見極め、軍産複合体を油断なく警戒し続ける見識ある市民社会」を成熟させていく必要があると述べています。

 *アイゼンハワー大統領は同演説の中で、軍産複合体による「正当な権限のない影響力」について警告するとともに、「軍産複合体を油断なく警戒し続ける見識ある市民社会」こそが、民主主義国家において、安全保障と自由という度々矛盾し合う要求をバランスよく発展させていく力となると訴えた。

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|日独交流150周年|日本の運送業界団体、エコプロジェクトのパートナーを求めてドイツへ

【東京IDN=浅霧勝浩】

 日本の運送業界の代表団が、環境に配慮した円滑な物流管理を通じていかに企業の社会的責任(CSR)を果たしていくか、お互いの経験から学び、最良の方策を見出すべく、ドイツの業界団体を訪問した。

ドイツ物流業界の年間総売上高は1500億ユーロ(16兆500億円)で、国内総生産(GDP)の7.5%を占め、成長率6%の有望産業である。

この成長著しい産業は、ドイツの首都圏にあたるベルリンブランデンブルク州で17万人の雇用を生み出しており、これは首都圏総労働人口の9%に相当する。ベルリン‐ブランデンブルク州は、欧州の中央に位置することから東のロシアポーランドにとっての陸上交通のハブであるとともに、西のブリュッセル、南のミラノといった西欧の主要物流拠点にとっても極めて重要な物流中継地である。

こうした背景から、長井純一副会長を団長とする東京都トラック協会の代表団が、ベルリンに本拠を構える「ベルリン・ブランデンブルク交通・物流協会(VVL)」を2011年9月に訪問した。


VVLは、従業員総数12,000人を擁する多くの首都圏物流企業の利益を代表する業界団体で、物流業に従事している或いは就職に関心を持っている若い世代を対象とした教育啓発活動や職業訓練を実施している。

VVL Director-General, Karl-Dieter Martens/ Katsuhiro Asagiri

「当協会の会員企業は、若者たちがテクノロジーに使役されるのではなく、それを手段として使いこなせるよう、ハイテク教育とともに“気づき”や創造力を伸ばす職場環境を提供しています。」と、VVLのカール-ディーター・マルテンス事務総長は、日本からの代表団一行に説明した。

「VVL訪問は、国は違っても同じ物量業界に従事するプロフェッショナル同士の情報交換ができ、極めて有意義でした。」と長井団長は語った。彼が代表取締役を務める長井運送株式会社は、先代が第二次世界大戦後に創立した会社で、「企業の社会的責任(CSR)にコミットしています。」と長井団長は付加えた。

マルテンス事務総長は、長井団長の会社のロゴとなっているカンガルーが象徴する運送会社としての哲学を聞き、深い感銘をうけた。「カンガルーのロゴには、母カンガルーが生れた子供を自らのお腹の袋で大切に守るように、荷主様から委託された荷物を細心の注意を払って運ばせていただいているという感謝の気持ちが込められているのです。」と長井団長は語った。
 
また、マルテンス事務総長は、東京都トラック協会の遠藤啓二環境部長が紹介した「グリーン・エコプロジェクト」に深い関心を抱いた。

グリーン・エコプロジェクトが持つ重要性の背景には、アジア・太平洋地域が、既に世界最大の自動車保有数を擁しており、現在の流れが続けば、近い将来、欧州と北米の合計台数を上回る現実がある。

日本だけでも、1966年の812万台から2009年には7900万台にまで急増している。その内訳は、自家用車54%、軽自動車34%、トラックが8%で、残りがバイクとバスが占めている。

同時に、運送会社の数も伸びている。「現在日本には6万社以上の運送会社があります。この数値は1990年当時と比較すると約50%増えたことになります。」と遠藤部長は語った。

また遠藤部長は日本の運送会社の特徴として、全体の99%が100台以下のトラックしか保有しておらず、全体の76%は20台以下しか保有しない零細企業である点を指摘した。

ディーゼルエンジンに対する環境規制の一環として、日本の「自動車NOx・PM法」では、窒素酸化物(NOx)粒子状物質(PM)を抑制することを目的としている。PMとは、大気中に残存するマイクロメートル単位の固体や液体の浮遊粒子状物質を指し、通常大気汚染物質とみなされている。

このような浮遊粒子状物質の放出を避けるため、2003年以降、製造後9年を経過した大型トラックと、8年を経過した小型トラックは、それまでの総走行距離に関わらず、東京都内ではナンバー登録ができなくなった。

東京都では、より厳しい法令が施行され、製造後7年以上を経過した車両はディーゼル粒子状物質フィルター(DPF)を装着するか、新たに車両を購入するかしかなくなった。規則に違反すれば、罰則が科されることとなる。

「この法律施行後、東京都の全ての観測地点において、大気汚染のレベルが改善されたことが確認されています。東京の大気はきれいになり、空は青くなりました。」と遠藤部長は語った。

しかし中小の運送会社は、きれいな環境と引き換えに大きな代償を払うこととなった。この法制度により、値段の高いディーゼル粒子状物質フィルターを装着するか、新しいトラックを購入するか2者択一の選択を迫られたのである。その結果、東京都トラック協会の会員数は20%も減少した。また、トラックの数も2003年以降、20%以上が減少した。

また、2006年に施行された「改正省エネ法」は、環境保護のためのもう一つのツールであるが、同法は運送会社にCO2排出に関する定期的報告を義務付けている。「しかしながら、運送会社の99%が中小企業であり、こうした零細企業がそのようなデータを集めたり解析したりすることは難しいのが実情です。」と遠藤部長は、語った。

こうした背景から、東京都トラック協会では新たなプロジェクトを立ち上げることとした。

Green Eco Project
Green Eco Project

名付けて「グリーン・エコプロジェクト」である。環境にやさしい運転走行が要のこの試みは、運送会社にとってのCSRを果たすための中心的なプロジェクトとなっている。

ある調査によれば、エコドライブ開始後、窒素酸化物の排出が15%、CO2の排出が20%削減されたという。

グリーン・エコプロジェクトには、4つの重要な側面がある。すなわち、①持続可能性、②コスト削減、③収拾したデータの正確性、そしてなによりも、④ドライバーのやる気を持続する活動であるという側面である。

マルテンス事務総長は、グリーン・エコプロジェクトに参加したメンバーが互いのやる気を高めるために実際に使われているツールが、インターネットをベースとしたものではなく、ポスターやステッカーを使用していると聞いて、驚きを隠さなかった。

グリーン・エコプロジェクトに参加したドライバー達は、給油ごとにチェックリストに自らの手で記入している。なぜなら、こうすることが経済的にも優れたデータ収集の方法だからである。また参加者達は、自らのチェックシートの記録を振り返ることで、省エネと交通事故の減少が目に見えてわかるようになる。

またプロジェクトにはエコドライブ教育が組み込まれている。優良ドライバーは表彰され、やる気を引き出すよう配慮されている。またプロジェクトには上司もドライバーと同等の立場で参加し、1年間に7回のセミナーが提供されている。

Keiji Endo/ photo by Katsuhiro Asagiri

遠藤部長は、「グリーン・エコプロジェクトは大きな成果を挙げています。」と胸を張った。事実、プロジェクトへの参加企業数は増加し続け、2011年7月時点で、530社以上の企業と12,214台以上の車両が参加している。

加えて、燃料消費もこの4年間で減少した。それは、546台の大型タンクローリーに積載できる量に匹敵し、金額に換算すると1,440万ドル(1,000万ユーロ)に相当する。
 
この省エネで、22,888トンのCO2排出削減がなされた。これは杉の植樹に換算すると1,635,000本に相当する。また交通事故も4年間で4割減少している。

「このプロジェクトは、国民経済の面だけでなく、社会全体に対しても大きな成果を上げています。そして次のステップは、各車両タイプ毎に省エネデータベースを構築することです。」と遠藤部長はマルテンス事務総長に語った。

「日本では、デジタルタコグラフドライブレコーダーのように、エコドライブをサポートする多くの先進的な装置があります。」と遠藤部長は言う。

しかし、グリーン・エコプロジェクトの最大の特徴は、巨額の投資も高度な技術も必要としない点にある。必要なのは、「運転管理シート」と呼ばれる1枚の紙と鉛筆だけである。これだけで、環境を守り、燃料コストを削減し、交通事故を減らし、従業員間での意思疎通の円滑化を図れるのである。

遠藤部長は、このプロジェクトを日本全体に広げたいと考えている。また今回のドイツ訪問に際して、「東京都で蓄積してきたグリーン・エコプロジェクトの経験を生かしたいと関心を持つパートナーをドイツに見出だせれば嬉しい。今年は日独交流150周年の記念すべき年。今回の訪問が新たな日独物流業界の交流の契機になればと考えています。」と抱負を語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

グリーン・エコプロジェクトと持続可能な開発目標(SDGs)

SDGs for All
SDGs for All

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グローバルパスペクティブ誌(2011.9-10号に掲載)

|労働|世界中で、労働者たちはまともな仕事を要求している

【ワシントンIPS=特派員】

現代英語の単語「Economy(=経済)」は、ギリシャ語の「Oikonomia(=家庭のための資源の管理)」に由来している。

しかし皮肉なことに、政府の財政削減と緊縮政策により一般家庭が厳しい局面に追い込まれている今日のギリシャでは、数千の失業者が反政府抗議活動に街を埋め尽くすなど、現在の経済体制に対する不満が高まっている。

 ギリシャだけでなく、世界各地の労働者が、彼らが言うところの「平均的な労働者の労働を搾取することで、富裕層に利益をもたらしている今日の経済のあり方」に異議を唱えている。現在も続いている「アラブの春」に鼓舞された世界的な抗議の波は、チュニスから、マドリッド、ニューヨーク、北京と世界各地の首都を席巻している。

今日、世界の失業者が大恐慌時代のピーク時に近い過去最高の2億人となる中、100カ国以上において数百万人の労働者が「ディーセント・ワーク世界行動デー(10月7日)」に合わせて、各国政府に対して、経済復興にもっと力を入れるよう強く要求した。

「151カ国・地域に301の全国組織を擁する国際労働組合総連合(ITUC)は、4回目となる『ディーセント・ワーク世界行動デー』を通じて、『世界経済を今日の停滞と景気後退から脱却させ、世界的な貧困を削減するための安定雇用を創出し、質の高い公共サービスを維持するための資金を捻出するために、金融取引税の導入を含む効果的な金融規制を実施するよう訴えています。』とITUCキャンペーン担当のクリンティン・ブロム氏は語った。
 
「2008年に現在の経済危機が始まって以来、世界の失業者数は2億人を超えました。毎年数千万人の若者が労働市場に流入してきますが、各国政府は既に数百万人の失業者が溢れている状況の中で、若者達の将来を安定させるための職場を提供できないでいるのです。」とシャラン・バロウITUC委員長は語った。

「ウォール街の金融大手や米国商工会議所、世界の提携組織は、各国政府に対して、労働者の賃金カットや金融保護を一層強化するよう圧力をかけています。」とバロウ委員長は付加えた。

「失業者数が急増する一方で、数百万人の労働者が不安定かつ低賃金で危険な仕事に追いやられています。」とバロウ委員長はIPSの取材に応じて語った。

例えば2008年の世界的な金融危機から未だに脱却していないメキシコの場合、金融危機以来失業者が増加し、インフォーマル部門(家庭内の労働・路上販売・農業など、監督や統計の対象となっていない部門。労働法の対象から外れている場合が多い:IPSJ)の雇用が激増した。

メキシコの政府統計局(INEGI)によると、今年の失業率は5.79%で、これはメキシコの総人口1.12億人に占める経済活動人口4900万人の内、実に260万人が働いていないことを意味する。さらに1340万人がインフォーマル部門で働いている現状を考慮すると状況はさらに深刻である。

一方、失業率が低下してきているアルゼンチンのような国においても、インフォーマル部門の危険な仕事に従事する労働者が急増するという深刻な危機に直面している。現在労働人口の34.5%がインフォーマル部門に従事しているとみられているが、この統計には同部門が大半を占める農村部の統計が含まれていない。

南米諸国が失業問題に苦しむ一方、欧州では中・東欧諸国が欧州連合(EU)の中でも最悪の失業率を記録している。EUの統計機関Eurosatによると、スロバキアの失業率は13.4%、ハンガリーは10.3%、バルト諸国のリトアニアは15.6%、ラトビアは16.2%である。

こうした中、様々な部門の労働者が欧州各地で、政府の財政カット、賃金削減、労働政策に抗議する、ストライキや集団辞職等の一連の争議行動を起こしている。

今月初め、ハンガリーでは、労働組合の活動家らが国会議事堂前に集結し、ヴィクトル・オルバーン政権の政策は、富裕層に利益をもたらす一方で低賃金労働者を差別するものだとして抗議の声を上げた。

さらに隣国のスロバキアでは、数千人の国立病院に勤務する医師達が、低賃金の原因となっている政府による少ない予算配分や、労働基準法を破る不当に長い勤務シフトの強制等の過酷な労働条件に抗議して、集団で辞表を提出した。また医師達は、政府が国立病院をより収益重視の運営体制に改革するとして物議を醸している病院医療改革を止めるよう、政府に要求している。

スロバキアの医師達による行動は、数か月前にチェコ共和国の医師達が政府に医療労働環境の改善を約束させた抗議行動に倣ったものであり、今後スロバキアの看護婦組合がこの流れに続くとみられている。

また、欧州最貧国で経済危機後の国際通貨基金(IMF)による支援条件として政府に課せられた緊縮財政のもとで厳しい経済運営を強いられているルーマニアでは、今年になって労働組合による大規模な争議が起こっている。3月には8000人を超える労働者が、政府による労働法改正案は実質的に新規労働組合の結成を不可能にし、集団交渉権を企業単位に引き下げることを目論んでいるとして、デモ行進を行った。

ITUCによると、10月7日に世界各地で実施された「ディーセント・ワーク世界行動デー」関連の抗議行動の中には、東日本大震災・津波後の復興活動に従事する日本人労働者や2014年FIFAワールドカップ及び2016年のオリンピック関連の施設建設に従事するブラジル人労働者によるものも含まれていた。

「ディーセント・ワークとは、人並みの生活を送るための最低限の条件が満たされた、まともかつ安定した雇用のことであり、今、緊急に必要とされているものなのです。」とメキシコの労働リサーチ・組合相談センターのアレハンドロ・ヴェガ氏はIPSの取材に応じて語った。
 
「メキシコの賃金水準は下落したまま回復していません。実質賃金は1982年を基準にすると70%下落しており、とりわけ女性と若者が、経済不況の影響を直接的に受けています。最近の労働統計によると、3000万人にのぼる14歳から29歳の若者の内、150万人が働いていない状況にあります。」

ITUCによるとディーセント・ワーク課題は、1999年から国際労働機関(ILO)の構成主体(各国政府、労働者、使用者)による議論が行われその最終文書は2005年の国連世界サミットにおいて発表され150カ国の指導者の支持を得た。各国政府はこの最終文書を通じて、国内及び国際政治においてディーセント・ワークと生産的な雇用を中心課題に据えることを公約した。

しかしディーセント・ワーク課題は、その後の重要な開発協力政策の大半に含まれていない。さらに2005年の「援助の効果にかかるパリ宣言」や、2008年の「アクラ行動計画」のような重要合意にも、ディーセント・ワークに関する条項は全く欠落しているのである。

「韓国のプサンで開催予定の『第4回援助効果向上に関するハイレベルフォーラム(HLF4)』を2か月後に控えて、このディーセント・ワークという重要課題を国際開発のアジェンダに盛り込む機会がやっと訪れたのです。」と、国際開発協力ネットワーク(TUDCN)のコーディネーターであるジャン・デレイメーカー氏は語った。

「益々多くの人々が、自らや子孫の幸福が人質とされることを拒否しているなか、私たちは労働者のディーセント・ワーク確保のための反撃の準備を着々と進めています。」とITUCのバロウ委員長は語った。(原文へ

INPS Japan

核実験禁止に重要な市民社会の役割

【トロントIDN=J・C・スレシュ】

160ヶ国の外務大臣と高官が、すべての核実験を禁止する「包括的核実験禁止条約」(CTBT)へのコミットメントを確認し、「国際組織、非政府組織、市民社会との連携を図っていく」ことに合意した。

彼らは、国連でのCTBT発効促進会議に集った。こうした協力は、「条約とその目的、さらに早期発効の必要性への意識と支持を喚起する」ことに目的がある、と9月23日にニューヨークで採択された最終宣言は述べている。

最終宣言は、CTBT未加盟諸国に対して、最も高いレベルでのCTBTへのコミットメント、すなわちCTBT加盟を促し、「とりわけ、その署名と批准が条約発効の要件とされている国に対して、条約を早期に発効させるために、遅滞なく署名・批准をする努力を各自で行うよう」求めた。要件になっている国とは、中国、エジプト、インド、インドネシア、イラン、イスラエル、北朝鮮、パキスタン、米国の9ヶ国である。

 
CTBTは、1996年9月24日に署名開放された。それ以来、182ヶ国が署名、155ヶ国が批准した。うち、発効要件国は35ヶ国である。

署名開放から15年、条約批准国は、署名国とともに、「世界からすべての核爆発実験をなくすため、可能な限り早く条約を発効させるような具体的な措置」について議論した。

最終宣言は、「CTBTの発効は、国際的な核軍縮・不拡散体制の中核的な要素としてきわめて重要な意味を持っている。普遍的で、実効的な検証体制を持った本条約は、核軍縮・核不拡散分野での基本的な枠組みを成すものであることをここで繰り返しておきたい。」と述べている。

しかし、条約が正式に履行される前に批准が必要とされる国々、すなわち、中国、エジプト、インドネシア、イラン、イスラエル、米国が、予見しうる将来において批准する可能性はほとんどない、と「グローバル・セキュリティ・ニューズワイア」のエレーン・M・グロスマン氏は記している。インド、北朝鮮、パキスタンの3ヶ国もまた、条約発効のために署名・批准が必要とされている。

ヘンリー・L・スチムソン・センター」の共同創設者マイケル・クレポン氏は、9月22日にワシントンDCで行われたイベントで、この9ヶ国について、「なかなか難しいリストだ」と語った。またクレポン氏は、「これらすべての国家が条約を批准するまでには、まだ相当の時間がかかるだろう。」とブログに記している。

1992年以来核爆発実験の非公式モラトリアムを続けている米国政府においてすら、とりわけ2012年の次の大統領選挙までにバラク・オバマ大統領が上院の共和党議員を説得して3分の2の多数を取る見通しは暗いとみられている。

オバマ大統領はCTBTを推奨してきたが、グロスマン氏によると、「いつ上院に条約案を提出することになるのかわからない。」という。
 
 軍備管理協会のダリル・キンボール事務局長は、「もし中国と米国が条約を批准するようであれば、批准を検討する主要国が出てくるだろう。」と語った。しかし一方で、米中両国がすぐにそうする動きはないという。

クレポン氏はブログの中で、「さんざん批判されてきたこの発効条項は、中国とロシア、フランスによる産物である。これらの国々は、条約に署名しなくてはならないと感じてはいたが、核実験を永久に禁止することには及び腰だった。そこで、この難題を頑強な姿勢をとっている他の国家に条約発効への拒否権を与えることによって解決しようとしたのである。」と記している。

クレポン、キンボール両氏は、「条約は将来にわたっても制約されたものでありつづけるが、CTBT機構準備委員会と暫定技術事務局を恒久的なものにすることによって、核爆発実験を禁止する国際体制に象徴的な意味づけを与えることができるだろう。」と語った。

CTBT準備委員会(正式名称では「包括的核実験禁止条約機関準備委員会」)は、70ヶ国以上で施設を運用し、260人以上のスタッフを抱えている。委員会の役割は、条約を推進し、条約発効の際に機能する検証体制を整えることにある。

暫定技術事務局は、「国際監視システム」(IMS)や、入ってくるデータを分析する「国際データセンター」の運営などを通じて、準備委員会を支援している。

「CTBT本部は、おおよそ1.2億ドルの年間予算を擁しており、250のモニタリング局、10の実験室を含めた世界的な監視システムの建設は8割完了しました。また、クレポン氏など核専門家によれば、国際的な監視システムなしには見逃していたであろう、例えば2006年10月に北朝鮮が行ったきわめて小さい出力の核実験時のものを含む、地震動の観測にも成功しています。」とグロスマン氏は語った。

CTBTは、軍事目的であろうと平和目的であろうと、すべての核爆発実験を禁じている。まだ条約は発効していないため、条約推進と検証体制構築のために新設された組織は、はじめから、暫定的なものであるとされた。

「私たちは、『暫定的』とか『準備』という言葉を、CTBT関連組織のレターヘッドと、国際的な用語から取り除くべきだと提案しています。なぜなら、そうすることで、ウィーンを本拠とするCTBT機関の国際的な地震動監視、放射性物質探知業務の利点が保たれることになるからです。」とクレポン氏は語った。条約機構はまた、津波の探知と警戒情報の発出でも役割を果たしている。

9月23日の最終宣言は、条約批准国と署名国がともに、条約の早期批准と普遍化に向けた具体的な措置をとる決意を確認し、この目的のために、国際組織、非政府組織、その他の市民社会の代表と連携することを含め、次のような措置を採択した。

・条約が果たしている重要な役割への意識を喚起するため、地域セミナーや地域会合を奨励する。

・CTBT機関準備委員会に対して、国際協力活動と、法的・技術的分野におけるワークショップやセミナー、訓練プログラムを継続するよう求める。

・「たとえば、教育・訓練の機会を通じて条約への理解促進を図ること、なかんずく、環境、地球科学技術、津波警報システム、放射性粒子・ガスの偶発的放出の検地、その他の災害警報システムなどの分野における検証技術に関して、暫定的に、そして条約で予定されている目的と特定の任務に鑑みて、その民生的、科学的応用の利益を示すこと」を準備委員会に対して要請する。

・暫定技術事務局に対し、批准プロセスや履行措置に関する加盟国への法的支援を引き続き提供するよう要請する。また、これらの活動を強化し、それが目に見えるものになるように、関連情報や資料の交換・普及のための連絡拠点の機能を維持するよう要請する。

・暫定技術事務局に対し、批准国・署名国による対外活動で収集された情報を集約し、この目的でこれらの国々から提供されたデータに基づく最新情報の概要を公開ウェブサイト上に管理し、よって条約の早期発効を支援する「フォーカル・ポイント」としての役割を引き続き要請する。

今回のCTBT発効促進会議について特筆すべきは、この国連会議が市民団体に対して開かれていたことである。全部で次の12の団体が参加した:軍備管理協会(ACA)、カーネギー国際平和財団、キリスト教核軍縮キャンペーンケニア支部、グローバル安全保障研究所(GSI)、国際反核法律家協会、国際人権監視団(IHRO)、マサチューセッツ工科大学(MIT)、グローバル正義のためのパートナーシップ、パックスクリスティ・インターナショナル、元国連インターン・研究員世界協会、ニューヨーク国連協会、婦人国際平和自由連盟。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

|リビア|「国の将来のためには和解が鍵」とUAE紙

【アブダビWAM】

「リビアの新政権作りを目指す暫定国民評議会は、自由で民主的な選挙を8カ月以内に行うとしたタイムテーブルを発表した。」

「この発表は、前政権最後の拠点であるシルトが20日陥落した際にムアンマール・カダフィ大佐が殺害された状況について真相解明を求める国際社会からの要求が高まっている中で行われた。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙が報じた。

「今のタイミングでカダフィ大佐の死に関する調査を要求するのは少しナイーブであろう。この不可避の末路に至るまでには、多くの段階を経てきており、カダフィ大佐はいつでも退陣或いは国際社会に身柄を預けることで、この血なまぐさい紛争に終止符を打つことができたはずである。しかし大佐はその選択肢を選ばず、最後の瞬間までシルトに身を隠していた。その結果、8カ月という長きにわたる血なまぐさい内戦が現出し、暴力と憎しみに満ちた争いがついには彼の死へとつながったのである。」とガルフ・ニュース紙は10月24日付の論説の中で報じた。

 従って、国際社会は、今日のリビアに起こっていることに、注目を移すべきである。過去40年に亘ってカダフィ大佐は、自らに従わない全ての人々を残虐に弾圧し排除してきた。その結果、暫定国民評議会の諸勢力は、この独裁者と政権に対する反抗で統一戦線を形成してきた訳である。

「総選挙が行われる8か月後までに、暫定国民評議会は、全ての政治勢力や部族が受け入れることができる新たなフレームワークを作らなければならない。そしてそれはこれからのリビアのあり方について存在する様々な政治的な意見を広く尊重するオープンなものでなければならない。」と同紙は指摘した。

血塗られた独裁者の側についていたと見做されているリビア国民に対する憎悪が国中を覆っている今日の状況を考えれば、国民的和解がなされる必要がある。

「セイフ・アル・イスラム氏(カダフィ大佐の二男)が依然逃亡している中、旧サダフィ支持勢力からの反攻勢の危険性は依然として存在するが、今日リビア全土を覆っている反カダフィ感情を考慮すればその可能性は低いだろう。暫定国民評議会がまず着手すべきは、国内各地の民兵を解散し武器を回収することである。そして一刻も早く法の統治を回復するとともに、教育やヘルスケアに対する施策に着手べきである。8カ月に及ぶ内戦で破壊されたインフラも直ちに立て直さなければならない。そして、暫定国民評議会は、カダフィ大佐が海外の各地に隠匿した考えられている個人資産2000億ドルへのアクセスを確保しなければならない。」と、ガルフ・ニュース紙は結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

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「第1回低炭素地球サミット」(中国大連市)を取材

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of IPS Japan.

中国遼寧省大連市で2011年10月19日から26日にかけて開催された「第1回低炭素地球サミット」において、東京都の環境対策事例を紹介した日本からの代表団(遠藤啓二東京都トラック協会環境部部長)に取材同行した際の映像資料。

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経済情勢悪化で移民への見方厳しく(IPS年次会合2011)

【ヘルシンキIPS=ルナス・アタラー】

Nasser Abdulaziz Al-Nasser photo by Katsuhiro Asagiri

「経済危機以降、移民はますます人種差別と外国人迫害にさらされるようになってきています。」―そう語るのは、国連総会のナシル・アブドルアジズ・アルナセル議長である。13日にヘルシンキで開かれた移民とコミュニケーションに関する会議でのことだ。

国際移住機関(IOM)フィンランド外務省インター・プレス・サービス(IPS)が共催した情報の流れと対話のバランス配分に関する会議で発言したナセル氏は、移民に関する議論の力点をどう変えるか考えるためには、「事実を見つめ、根拠のない社会通念(Myth)を終わらせる必要があります。今日、南北移民とともに多いのが南南移民です。ほとんどの移住は、近隣諸国や同一地域内での短距離で起こっているのです。」と語った。

南から北への移民の流れに対する嫌悪感が増す状況下、アルナセル氏は、「アラブ・湾岸諸国では、労働力人口の半分以上を移民が占めています。彼らは出身国の家族に対して送金しますが、2010年にはその総額が約3250億ドルにものぼりました。この数年間送金にかかる手数料が安くなってきているので、多くの家族が貧困から救われているのです。」と語った。

またアルナセル議長は、「移住が最適の条件下で最適の結果をめざしてなされるよう、国際協力が必要です。国際組織は、移住によって移民の出身国を利するようにしなくてはなりません。」と語った。

こうした必要性と事実が知らされ、よく理解される必要があるという点で、会議の発言者らは一致した。移民が労働している国の経済にもたらす利益と、出身国の発展にもたらす寄与について事実が知られなければならない。

IOMのウィリアム・レイシー・スウィング事務局長は、「移民が社会に敵対心を引き起こしている状況の下では、こうしたことが緊急に求められています。今日、反移民的な感情が世界を席巻していますが、移民に関する正しい見方を作りあげていくことが必要です。」と語った。

またスウィング事務局長は、「政策に影響を及ぼしているのは、事実よりもメディアの作り出す言説や世論であり、しかもその影響は概してマイナスのものなのです。その結果、外国人嫌いが社会に再来しており、(移民の)圧倒的多数による圧倒的にプラスの貢献が、あっさりと忘れ去られているのです。」と語った。

「移民に関する根拠ない社会通念には、今日多くの共通点が確認されていることから、こうした誤った通念を解消していく必要があります。その典型的な事例として『ほとんどの移住は国境を越えて行われる』というものがあります。しかし事実は、同一国内の移住はが国境を越えたものより3倍もあるのです。最近の報告では、中国における、国内移住は2億1000万人にも上り、これは、世界の移住の2億1400万人とほぼ同じ数字なのです。」とスウィング事務局長は語った。

「経済格差のある状況では移住は不可避」だとスウィング氏は考えている。フィンランドのハイディ・ハウタラ国際開発相は、「多くの人は、逃亡したり、難民になったり、よその地域でまともな暮らしと仕事を見つける必要性に迫られているということを私たちは知っておかねばなりません。こういう人々を保護する必要性があるということに私たちはもっと敏感であらねばなりません。フィンランド政府は、将来の開発政策の策定にあたって、移民の問題も念頭に置くことになります。」と語った。

またハウタラ大臣は、「女性と子どもの権利に特別の地位を与えること、その権利は移住のすべての段階における中心的な問題であることを強調しておきたい。」と語った。

移住に関してより多くの知識が必要であることは、衆目の一致する点である。「私たちはみな移住の影響を受けているし、それは実際私たちの社会で起きていることなのです。しかし、議論に際して情報は十分得られているでしょうか?メディアと国際組織の役割が問われるのは、まさにこの点にあります。」と国際移住機関(IOM)幹部のピーター・シャッツアー氏は語った。

Katsuhiro Asagiri

またシャツァー氏は、「世界は、移住の影響があらゆる面においてあることを次第に理解するようになってきています。2000年のミレニアム開発目標(MDGs)では、目標のうち7つまでもが移住との関係があるにもかかわらず、移住についてまったく触れられていなせんでした。しかし現在の議論は、移住問題を取り込む方向に進みつつあります。」と語った。

IPSのマリオ・ルベトキン事務総長は、「将来的には移住問題の比重は増してくるでしょう。移住を、環境問題、気候変動、災害問題、水や雇用、人権、女性、子どもの問題と関連づけねばなりません。移住問題に関連して実際に何が起きているのかについて、われわれはもっとよく伝えなければならない。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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