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凍てついた軍縮交渉再開のために(ジョン・バローズ核政策法律家委員会(LCNP)事務局長)

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【IPSコラム=ジョン・バローズ】

2008年以来、「核兵器なき世界」を実現することがいかに望ましいか、それがいかに必要かということが、とりわけ国連の潘基文事務総長や米国のバラク・オバマ大統領など、多くの人々によって声高に語られてきた。しかし、ジュネーブ軍縮会議(CD)は、こうした明確なレトリックの変化からは超然としており、依然として行き詰まりの中にある。

全会一致ルールによって運営されるこの会議は、すべての核爆発実験を禁止する合意のテキストを1996年に生み出してからは、何の交渉も行ってこなかった。

 何の成果も生み出さないCDに対する忍耐は切れつつある。国連加盟国は、10月の間、ニューヨークの国連本部で総会第一委員会に集い、多国間軍縮をいかに再び前進させるかについて、熱を帯びた実質的な議論を繰り広げてきた。そして、第一委員会は、12月初旬には総会で正式に採択されることになる2本の決議を可決した。これらの決議は、国連の中心的な使命のひとつを追求する責任をもつ機関としてのCDの停滞がもし今後も続くようならば、総会が前面に出るということを示唆している。

可能性のある行動は、国連総会が、CDが何らかの成果を出すまで、CDの外で全会一致ルールによらないプロセスを作り出す、というものである。オーストリア、メキシコ、ノルウェーがそのような提案を第一委員会で行い、過半数ではないがかなりの国からの支持を得た。提案によれば、作業部会が以下のような問題に取り組むことになる。核軍縮と「核兵器なき世界」の実現。非核兵器国に対する核兵器不使用の保証。兵器用核分裂性物質の生産禁止条約(FMCT)の交渉。宇宙の兵器化の防止。

これらテーマのすべてはすでにCDで取り扱われているものだが、65の参加国による作業をたった1ヶ国の反対によって止めてしまえる構造のために、うまく機能しなかった。加盟国の多数―その多くは「南」の諸国だが―は、完全なる核軍縮に関する交渉を優先してきた。しかし、安全保障理事会の五大国(中国、フランス、ロシア、イギリス、アメリカ)はこれを拒否した。1990年代、多数の国々は、軍備管理の歩みを止めないために、「FMCTについては交渉に入り、他の事項については討議に留める」という西側核保有国の立場をしぶしぶ受け入れた。だが、作業は始まらなかった。

パキスタンは、自国の核戦力を拡張する時間を稼ぐために、2009年以来、FMCTの交渉入りを阻止してきた。2000年代中盤には、交渉を止めていたのは米国だった。ジョージ・W・ブッシュ政権が、FMCTは検証不可能であるとの根拠なき立場をとっていた頃のことである。それより以前には、中国とロシアが、宇宙の兵器化防止の問題に関する交渉を同時に開始すべきだと主張して、米国の反対を招いていた。

交渉に成功した多国間軍縮条約の歴史は、「全会一致の罠」にはまらないようにすることの必要性を教えている。1963年の部分的核実験禁止条約(正式名:「大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約」)と1968年の核不拡散条約(NPT)の場合は、核兵器を保有するすべての国家が交渉に参加したり、当初の条約加盟国になったわけではなかった。非参加国も遅れて参加するようになったのである。インドからの強い反対を押し切って1996年の包括的核実験禁止条約を採択したのは国連総会であり、CDではなかった。

[核戦力の]透明性と検証に関する不定期の会議を持つという初めての試みが、五大国によって2009年から始められている。これは歓迎すべき動きである。しかしこれは、将来の核軍縮交渉は、国連の場というよりも、核兵器国によってリードされる可能性を示唆している。これは望ましいことではない。なぜなら、世界的な賛同のみが生み出すことのできる正当性と実効性を欠いたゆるい合意ができるにすぎないからである。全会一致ルールによって麻痺したCDはこれまで15年間も機能してこなかったのだから、国連を中心としたプロセスこそ機能しなくてはならない。

コンセンサス形成に関する柔軟性に加え、同時にひとつ以上の多国間措置に取り組むアプローチが必要である。これが、オーストリア・メキシコ・ノルウェー提案のもうひとつのメリットである。米国とその同盟国は、「核兵器なき世界」の実現は漸進的なアプローチでなければならないとの立場を強固に保ってきた。しかし、FMCT交渉が終わらなければ他の多国間合意に取り組むことはしないと言えば、それは、核兵器の時代を終わらせる決定的な行動を無期限に先送りするということに他ならない。

FMCTの交渉には時間がかかる。発効となればなおさらである。さらに、五大国が現在考えているように、それはたんに将来の兵器用核分裂性物質の生産を禁止するに過ぎない。昔からの核大国である米国、ロシア、英国、フランスにはすでにして大量の兵器級物質の備蓄があり、FMCTの予定するような生産禁止では、これらの国々の軍事的能力にはほとんど何の現実的な効果ももたらさない。

したがって、漸進的なやり方はやめ、統合的かつ同時並行的に複数の軍縮措置に取り組むやり方を採らねばならない。諸国は、核分裂性物質の生産禁止、核兵器の不使用、核兵器の削減に関する同時交渉を行うか、あるいはその準備を進めるべきである。あるいは、それらをひとつの交渉の枠組みの中に包括することである。

もしCDが作業を再開する方途を今後も見出しえないとするならば、国連総会が責任を取り、軍縮への新たな道筋を切り開いていくべきである。(2011) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

※ジョン・バローズ氏は、ニューヨークに本拠を置く核政策法律家委員会(LCNP)の事務局長で、『核の混乱か協力的安全保障か―米国のテロ兵器、グローバル拡散の危機、平和への道筋』(2007年)の共編者。

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|中国|独身者のお見合いパーティーは益々必要となるだろう

【北京IPS=クラリッサ・セバグ・モンテフィオーレ】

1億8千万人の未婚人口を抱え、男女間格差が拡大し続けている中国では、11月11日の「独身デ

―」に合わせて、数万人の独身男女が多彩なお見合いイベントに参加した。しかしこうした活発な婚活イベントの存在自体が、かえって独身者を取り巻く環境が益々複雑で困難になっている中国社会の現状を浮き彫りにしているのかもしれない。

Singles looking for spouses at a match-making party in Shanghai. Credit: Nicola Davison/IPS
Singles looking for spouses at a match-making party in Shanghai. Credit: Nicola Davison/IPS

 中国では日付にある4つの「1」は、独身者を指す一般的な表現で、北京語では「光棍節(bare sticks day)」として知られおり、さらに今年が100年に1度の下二桁に「1」が2つ並ぶことから、特に縁起がよい「スーパー独身デー(11/11/11)」とされた。

上海中心部から西へ30キロの郊外にあるテムズタウン(富裕層向け英国風ニュータウン)では、1万人以上の独身者がお見合いパーティーに参加した。その3分の2は女性が占め、子どもの結婚を熱望する4000人の両親も会場に駆けつけていた。

このイベントを主催した上海結婚仲介協会の代表は、上海日報の取材に対して、「私たちは混乱を避けるため、登録を締め切らなければなりませんでした。」と語った。
 
また上海日報は、「参加者の大半は高学歴・高所得層で、相手にも自身に近い条件を求めたためにこれまで結婚相手を見つけられなかった女性たちである。」と報じた。

人口統計によると、中国は一人っ子政策とそれに伴う歪な出生率のために、2020年までには男性人口が2400万人も女性人口を上回るとみられている。

しかし中国の独身男性の大半は、貧しい農村に暮らしている。これは農村では、農地の労働力として、また両親の老後を世話する存在として、男児が女児よりも重視されているからである。2010年に実施された第6回国勢調査によると、出生時の男女比は女性を100とすると男性が118.6であった。

にもかかわらず、経済的に豊かな都市部においては、独身女性の数が増加している。これは、彼女たちの間で、夫探しよりも自身の職業やライフスタイルを優先する意識が強いからである。

金融の中心地上海では、独身女性の数は、成人女性人口の実に20%に及んでいる。

2010年の人口調査によると、上海における未婚女性の増加率(2.2%)はこの十年間で、未婚男性の増加率(1%)を上回っている。

モダンなライフスタイルにもかかわらず、こうした「剰女(=売れ残り)」(中国で一般に27歳以上の未婚女性を指して使われている侮蔑的な表現)達は、結婚を迫る家族からのプレッシャーに晒されている。また35歳を超える独身女性は、しばしば手に届かない存在という意味で「天高(high as heaven)」と言及されている。

富が成功の基準とされるこの国では、婚活に臨むこうした女性にのしかかるプレッシャーは益々大きなものとなっている。例えば、女性にアパートや車が提供できないような男性は、結婚相手としての候補にすらならないのである。

主催者の話によると、先述のテムズタウンのお見合いパーティーに参加していた女性で、最も多い年齢層は30歳から35歳であった。

「私は運命を信じているの。できるだけ早く私に合った運命の人と巡り合いたいわ。このイベントはそういった意味で私にとってはチャンスなの。」と劉さん(24歳の)は語った。彼女は「剰女」にならないように向こう数年で夫を探し当てたいと考えている。

「結婚へのプレッシャーは、両親からのものなの。今は、ブラインドデートが最も手っ取り早く効率的に男性に会う方法だわ。」と劉さんは語った。

一方北京では、2000人を上回る独身者が、ジェネリックシティセンター内の大きな部屋で、中国最大のオンラインデート運営会社「Jiayuan.com」(登録会員数4700万人)が主催したお見合いイベントに参加した。会場では、参加者をリラックスした雰囲気に和ませるプログラムとして『3分間スピードデート』や『ギネス世界記録、最も長いキスリレー』等が行われた。

主催者のQu Wei副社長は会場でIPSの取材に応じ、「今日では、多くの剰男・剰女が、家族や友人、社会からのプレッシャーにストレスを感じて暮らしています。参加者の多くは忙しすぎて、普段の生活の中で異性と出会う機会がないのです。そこで我々がカジュアルな雰囲気の中でこうした独身者同士が出会える機会を提供しているのです。」と語った。

粋なスタイルで参加していたキャリアウーマンの劉さん(33歳)は、来て見たもののあまり期待はしていないと語った。

「もしこれからデートするとしたら結婚を前提にしたものとなるでしょ。とりあえず参加してみたけれど、あまり過剰な期待はしていないわ。だって、悪い風評もたくさん聞いていますから。」

「私は30代の人間的に円熟した、生活が安定した男性を探しているの。最低でも専門学校を卒業していて、まともな経済基盤を備えている人。外見は気にしないわ。」

中国人民大学人口研究所長の段成荣教授は、既に2億人近くに達している中国の独身者人口は、さらに増加し続ける勢いだと指摘した上で、「将来、中国に独身者がずっと増えるというのは事実です。その最大要因は主に経済的なものといえるでしょう。今日、女性は、結婚の条件として、男性が既に家を持っていることを期待します。しかし一方で、そうしたプレッシャーには限界もあります。なぜなら、女性も、持ち家付の男性が見つからないといって永遠に独身を通すわけにもいかないわけですから。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|アフリカ|あまり報道されない恐るべき実態‐男性のレイプ被害者の声

【カンパラIPS/SNS=モーゼス・セルワギ】

ここは東アフリカのウガンダにある病院。ここでは、プライドと自尊心を喪失し、深いトラウマに苛まれている男性のレイプ被害者達が治療を受けている。彼らは、自らの身に降りかかったこの恐ろしい犯罪について、率直にその時の経験を語ってくれた。

John is one of the victims of male rape in the Democratic Republic of Congo who was brave enough to speak out about his horrifying experiences. Credit: Moses Seruwagi
John is one of the victims of male rape in the Democratic Republic of Congo who was brave enough to speak out about his horrifying experiences. Credit: Moses Seruwagi

「以前は、レイプというと被害者は女性のみだと思っていました。今となっては、私は自分自身が分からなくなってしまいました。肛門と膀胱に常に痛みを感じますし、特に膀胱は水が内部に溜まって膨れ上がっているように感じます。自分がもはや男性だとは思えないのです。自分が将来、子どもを儲けるかどうかも分からないのです。」と、コンゴ民主共和国(DRC)から逃れてきた27歳の難民男性(ジョン=仮名)は語った。彼は、内戦や部族間闘争が続くアフリカ大陸各地で数千人規模に及ぶと考えられている男性のレイプ被害者の一人である。

 2009年1月14日、ローラン・ヌクンダ司令官に忠誠を誓う反政府勢力(人民防衛国民会議:CNDP)がコンゴ民主共和国北キブ州のジョムバ村を襲撃した。そこで6人の少年を含み10人の村人を拉致し、略奪行為を強制したのち、ビルンガ国立公園のジャングルの中にある基地に連れ去った。ジョンはその際に拉致された少年の一人である。

「私たちは9日間捕らえられていました。その時、武装勢力の指揮官が私と性交渉したいと言い出したのです。私は何を言っているのか理解できませんでした。すると指揮官は私を縛り上げるように兵士に命令し私をレイプしたのです。そのあと、9人の兵士が入れ替わり立ち替わり私をレイプしました。私の下半身は血まみれになり、ショックで意識を失いました。こうした行為が9日間にわたって繰り返されたのです。他の拉致された人たちの運命も同じでした。そしてこの虐待で少年の一人は死んでしまいました。」とジョンは語った。

それから2年経過し、ジョンは数十人の男女レイプ被害者とともに、ウガンダの首都カンパラにある難民法プロジェクト(RLP)と呼ばれるトラウマカウンセリングセンターで治療を受けている。彼らは、DRC、スーダン、ソマリア、エチオピア、エリトレア、ブルンジなどアフリカ各地の紛争を抱えた国々より逃れてきたレイプ被害者である。

RLPは10年前に開始されたウガンダの名門校マケレレ大学法学部による福祉活動で、スタッフがレイプ被害者の治療と精神面のケアを行っている。トラウマカウンセリングセンターはオールドカンパラと呼ばれる市北部の丘の上にあるコロニアルスタイルの住居用建物にあるが、地元ウガンダではその存在がほとんど知られていないのがユニークな点である。

男性のレイプ被害者のケアを担当しているRLPのサロメ・アティム氏は、今年初めから受け入れた男性のレイプ被害者のケースが約30件、主に紛争地帯から逃れてきた人達だったと語った。「彼らは自らの経験について話をしてくれた数少ない人たちです。ずっと多くの被害者が重い口を閉ざしたまま苦しんでいるのです。」
 
犠牲者の多くは自分たちを助けようとしてくれている医者や医療従事者に同性愛者ではないかとのレッテルを貼られるのを恐れてレイプ体験について語ろうとはしない。例えばソマリアのようなイスラム教国におけるレイプ被害者は、社会から犯罪者としてのレッテルを貼られるのを恐れてしばしば自身の経験について語るのを拒否する傾向にある。

「多くのアフリカ社会では同性愛の問題はタブー視されているため、被害者のジレンマをより深刻にしています。しかし、カウンセリングの結果、中には自らの経験について話をしようと考える犠牲者もいるのです。」とアティム氏は語った。

「一般に同性愛に対する認識が低く、同性愛者の話は聞こうとしない傾向があります。また、男性同士の性交は一般に犠牲者が同意の上の行為だと考えられがちなのです。また彼らは病院に治療にいくと医者から『それではあなたは同性愛者なのですね。』と声をかけられさらに傷つくことになるのです。だから彼らは重い口を閉ざしてしまう。私たちは時間をかけて彼らが自らの経験について話せるようになるようにカウンセリングしているのです。」とアティム氏は語った。

アティム氏の患者(ピエール=仮名)はDRCのブカブ市の学生だった。しかし2004年のある日、彼の一家が住む地域を支配しようとしていた多くの民兵組織の内の一つが、彼の自宅を襲撃し、彼と父親、そして兄弟が民兵に輪姦された。

「兵士の制服を着た一団が私の家に入ってきました。彼らは父の手足を縛りあげました。彼らはまた、兄の服を脱がし、私に兄と性交するよう命令したのです。私は拒否しました。」とピエールは当時の状況を思い出しながら語っているうちに泣き崩れた。

アティム氏に支えられて気持ちを持ち直したピエールは、「彼らは私の服を脱がすと、私の性器を小枝の間に挟み、繰り返し叩きつけました。さらに私の両足を押し広げると兵士が一人づつ抑えつけた体勢で、残りの兵士が入れ替わり立ち替わりレイプしていきました。」と語った。

アティム氏によると、ピエールはRLPに入ったとき自殺願望が強い患者で、それ以来、専門医による精神面のケアを受けている。

男性をレイプという手法は、多くの紛争地帯において戦争遂行のための兵器として幅広く行われている。また、刑務所においても男性のレイプは行われている。しかし、女性のレイプに対する注目が注がれている影で男性へのレイプ問題はほとんど報道されていないのが現状である。知られていることは、こうした男性のレイプ被害者は、回復過程で恐ろしい諸問題に直面しているというということである。

野球帽で顔を隠して取材に応じてくれたジョンは、未だにレイプによる傷が治っていないことから歩くのに苦労しているという。「長い距離歩けば、肛門から血が流れ出してきます。また、キャッサバのような硬い食材を食べると、排せつ時に直腸が外に飛び出してくるのでトイレに行くのに苦労しています。」(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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中東非核地帯を巡る交渉の舞台はフィンランドへ

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【カイロIDN=バヘール・カーマル】

中東から核兵器を手始めに大量破壊兵器を根絶しようとする試みは、未だ解決の見通しがたたないまま、既に40年の歴史を刻んでいる。こうした中、フィンランド政府が突如、「中東非大量破壊兵器地帯創設に関する国際会議(=中東会議)」をホストする決断をしたことから、国際社会の注目は、来年フィンランドを舞台としたこの試みの行方に注がれることとなった。

国連がホスト国の発表を行ったのは2011年10月14日だが、この時期はちょうど、中東諸国を席巻している「アラブの春」が、主にチュニジア、エジプト、リビアにおいて新たな運動のピークを示すとともに、イエメンやシリア等において独裁政権に対する民衆蜂起が続いている最中と重なった。

またこの決定がなされた時期は、おりしもアラブ世界のいくつかの主要国において、域内で唯一の核保有国であるイスラエルに対する抗議運動の波が高まりを見せている時期と重なった。イスラエルの核弾頭の保有数は、インドとパキスタンの保有核の2倍以上にあたる210~250基以上と伝えられている。

 こうした民衆の抗議運動は、8月末から9月初旬にカイロのイスラエル大使館が襲撃されイスラエル国旗が燃やされた事件で最高潮を達した。また、反イスラエル抗議集会は、チュニジア、ヨルダン、モロッコでも開かれた。

一方、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が率いるイスラエル極右政権は、国内においても、社会政策や、食糧・サービスコストの高騰、さらには高い失業率に反対する大規模な民衆の抗議運動に直面している。

パレスチナ国家の承認を求める動き

そうした中、パレスチナ暫定自治政府は9月に国連総会に出席し、パレスチナの独立主権国家としての承認を求める国連加盟申請を行った。しかしイスラエルと米国がこの動きに断固たる反対の立場を表明し、米国は必要に迫られれば拒否権を発動することも辞さないと明言したことから、中東における緊張はさらに高まることとなった。

「緊張が高まっているこうした情勢は、中東非核地帯の実現に向けて駒をすすめようとしているフィンランド政府にとって、決して追い風となるものではありません。」と、匿名を条件に取材に応じたあるエジプトの元核問題専門家は語った。

「今や中東には新たな状況が生まれています。エジプトや(あるいはまもなく)シリアといった主要国で登場しつつある民主体制が、前任の独裁政権が長年してきたように『主人の声―米国の声』に従うと期待すべきではありません。」と、1995年、2000年、2005年、2010年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議の準備にも積極的に関与した経験を持つ同専門家は語った。

石油資源に恵まれ、動乱の中で覚醒しつつある中東地域は、世界の重要地域の中で、核兵器の配備が未だに禁止されていない唯一の地域といっても過言ではない。ちなみに大陸を含めて他の地域を見れば、ラテンアメリカ・カリブ地域、南太平洋地域、東南アジア地域、中央アジア地域、アフリカ大陸が既に非核地帯となっている。

困難なミッション

開催予定時期が「概ね2012年」とされる中東会議のファシリテーターに任命されたヤッコ・ラーヤバ外務事務次官に課せられた任務は、極めて困難なものになると思われる。

中東会議の開催は、2010年NPT運用検討会議(5月3日~28日に開催)の決定によるもので、1960年代から中東非核地帯の創設を提唱してきたエジプト政府は、アラブ諸国、トルコ、非同盟運動加盟諸国、及び北欧をはじめとするいくつかの欧州諸国の支持を背景に、この項目を最終決議に盛り込むために中心的な役割を果たした。

NPT運用検討会議に先立つ期間、エジプト政府は、様々な会合の機会を通じて、「長年紛争に苦しんできた中東地域は非大量破壊兵器地帯としなければならない」とする過去40年に亘る同国の主張を改めて繰り返した。

エジプト政府が繰り返し述べているように、歴代のエジプト政権は、1961年以来、核兵器及び全ての大量破壊兵器一般(核兵器・生物・化学兵器)に関して「明確で一貫した立場」を堅持してきた。また、消息筋によると、(ムバラク後の)エジプト暫定政権もこの方針を支持している。

カイロ文書

またエジプト政府は、NPT運用検討会議に出席予定の全ての関係国・機関宛に書簡(カイロ文書)を提出し、その中で、「(今年の)NPT運用検討会議は、従来の中東非核化決議を確認した1995年の(国連)決議について、その後全く進展がなされていないことを遺憾とすべきである。」と訴えた。

この国連決議によって、中東から核兵器と大量破壊兵器を根絶するための交渉を行い、非核地帯と宣言するための確固たる足場が確保された。2010年NPT運用検討会議直前の4月26日、エジプト外務省の報道官は、「エジプト政府は従来から国際会議の場や、考え方を共有する国々、とりわけアラブ・アフリカ諸国や欧州諸国の一部と中東非核地帯設立という目標実現に向けた協議を重ねてきました。」と強調した。

エジプト外務省は、イスラエルが中東で唯一NPTを拒否する国であることを十分認識しつつ、「全ての国がNPTに加盟するよう」呼びかけた。報道官は、「エジプト政府は、NPT運用検討会議への参加を通じて、全ての国がNPTに加盟するよう働きかけていきたい。」としたうえで、「イスラエルはNPTへの加盟を拒否することで、中東の平和と安全を危機に陥れ、実効性のないものにしてしまっています。」と強調した。

国連会議の呼びかけ

エジプト政府は、同書簡の中で、中東の全ての国が参加して中東非核化への合意を目指す国際会議を2011年までに開催すること、また、決議に法的拘束力を持たせるため、会議は国連主催とすることを呼びかけた。しかし、NPT運用検討会議は、決議内容が法的拘束力を持たない勧告にとどまる「国際会議」を開催することを決議した。「これでは2012年のフィンランドにおける中東会議の成果(=牙を抜かれた赤ちゃん虎)にあまり期待はできません。」と、あるアジアの外交官は匿名を条件に語った。

イスラエルによる拒絶

イスラエルは、欧州の多くの国々の支持と米国の力強い支援を背景に、自国の核兵器廠についていかなる国際機関にも明らかにしないという政策を堅持している。イスラエルは自国の軍事用核政策を極秘扱いすると共に、意図的にNPTへの加盟を拒否し続けている。

中東非大量破壊兵器地帯を設立する試みに、イスラエルが反対の立場にあることを知らしめる手段として、ネタニヤフ首相は、バラク・オバマ大統領が2010年4月13日・14日にワシントンで開催した核安全保障サミットへの参加を拒否した。またネタニヤフ首相は、昨年ニューヨークの国連本部で開催されたNPT運用検討会議への出席も拒否した。

重要な必要条件

中東非大量破壊兵器地帯構想の根本部分についてエジプトがどのように考えているかについては、エジプト情報省(SIS)が作成し、NPT運用検討会議開催の1週間前に配布された公文書に記されている。

その序文には「(中東)地域の平和と安定に向けたエジプトのビジョンは、パレスチナ問題の公平で公正な解決や、国際的な正当性を有する全ての決議を完全履行といった原理原則に立脚している。」と記されている。

エジプトの明白な立場:

-(中東の)いかなる国も、大量破壊兵器を保有することで安全が保障されることはない。安全保障は、公正で包括的な平和合意によってのみ確保される。

-中東非核地帯構想及びイスラエルの「軍事優勢主義」の立場に関して、イスラエルからの「前向きな対応」を引き出せなければ、アンバランスな中東の安全保障状況は一層悪化する。

-中東非大量破壊兵器地帯の設立を呼びかける中で、エジプト政府は、域内のいかなる国に対する差別的或いは不公平と考えられる措置を拒否する。

-エジプト政府は、いかなる武器や国も特別扱いすることを拒否する。また、中東域内のいかなる国に対しても特別な地位を譲許することを拒否する。

-中東における大量破壊兵器武装解除を行うプロセスは、国際社会による包括的な監督、とりわけ国連とその専門機関のもとで実施されなければならない。

-エジプト政府は、中東の非核化を求めたいくつかの国連決議、とりわけ1981年に採択された国連安保理決議487号の履行を要求する。

米国の核の傘を拒絶する

2010年NPT運用検討会議が開催される遥か前に、エジプト政府は、中東包括和平案の一部として米国政府が核攻撃から中東地域を守るとした提案を拒否した。実質的に米国の「核の傘」を提供するとしたこの提案はバラク・オバマ大統領の前任者であるジョージ・W・ブッシュ大統領によってなされたと伝えられている。

米国による「核の傘」の起源は米ソ冷戦時代に遡り、通常、日本、韓国、欧州の大半、トルコ、カナダ、オーストラリア等の核兵器を持たない国々との安全保障同盟に用いられるものである。また、こうした同盟国の一部にとって、米国の「核の傘」は、自前の核兵器取得に代わる選択肢でもあった。

事実、2009年8月18日、5年ぶりに訪米したホスニ・ムバラク大統領(当時)は、「中東が必要としているのは、平和、安全、安定と開発であり、核兵器ではありません。」と主張した。

ムバラク大統領はそうすることで、1974年以来エジプト政府が国是としている「中東非核地帯」設立構想をあくまでも推進する決意であることを改めて断言した。

またムバラク大統領は、首脳会談に先立つ8月17日、エジプトの主要日刊紙アル・アハラムとの単独インタビューに応じ、「エジプトは中東湾岸地域の防衛を想定した米国の『核の傘』には決して与しません。」と語った。

核の傘ではなく平和を

「米国の『核の傘』を受け入れることは、エジプト国内に外国軍や軍事専門家の駐留を認めることを示唆しかねず、また、中東地域における核保有国の存在について暗黙の了解を与えることになりかねない。従って、エジプトはそのどちらも受け入れるわけにはいかないのです。」とムバラク大統領は語った。

ムバラク大統領は、「中東地域には、たとえそれがイランであれイスラエルであれ、核保有国は必要ありません。中東地域に必要なものは、平和と安心であり、また、安定と開発なのです。」と断言した。「いずれにしても、米国政府からそのような提案(核の傘の提供)に関する正式な連絡は受けていません。」と付け加えた。

同日、エジプト大統領府のスレイマン・アワド報道官も、米国の「核の傘」について論評し、「『核の傘』は、米国の防衛政策の一部であり、この問題が取り沙汰されるのは今回が初めてではありません。」と語った。

イラン要因

アワド報道官は、中東地域に向けられた米国の「核の傘」疑惑についてコメントし、「そのようなものは形式においても内容においても全く承認できない。今は米国の『核の傘』疑惑について話題にするよりも、むしろイランの核開発問題について、欧米諸国・イラン双方による柔軟性を備えた対話の精神を基調として、取り組むべきです。」と語った。

アワド報道官はまた、「イランは、核開発計画が平和的利用を目的としたものであることを証明できる限り、他のNPT締結国と同様、核エネルギーの平和的利用から恩恵を受ける権利があります。」と付け加えた。

これらの背景を振り返れば、どの国も中東会議のホストを名乗り出ず、ファシリテーター役を引き受ける人物がこれまで出てこなかったことにも表れているように、フィンランドが中東会議をホストすると発表するまでの道のりには、多くの障害が立ちふさがっていた。

はたしてフィンランドは、他の国々が何十年にも亘って成しえなかった成果を得られるだろうか?(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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人権問題との闘いは「まるで地雷原」(AIイラン問題担当エリーゼ・アウアーバック氏インタビュー)

【国連IPS=クリスチャン・パペッシュ】

10月18日、国連人権委員会が、イランの人権状況を検討するための会合を開いた。一方、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル(AI)」は、イラン政府が現在及び過去に於ける人権侵害(青少年に対する死刑適用、少数派宗教、民族、同性愛者に対する差別や逮捕等)を認めない限り、これは茶番劇となりかねないと警告している。

 IPSでは、米国AIのイラン問題担当エリーゼ・アウアーバック氏に、イランの人権状況、国際社会の反応、政治的な障害、「アラブの春」のイランへの影響等について聞いた。

Q:イランが国連人権委員会に提出した報告書は10年以上も遅れて出されたものであり、しかも、重要な人権侵害に触れていません。これは茶番でしょうか?

A:茶番とまでは言いませんが、国際社会の懸念には応えていません。国連事務総長もいまやイランに関する報告書を年に2回も出しています。また、特別報告官のアフメッド・シャヒード氏も報告書を出したばかりですが、彼はイラン国内への立ち入りを禁じられています。これらの国連報告書には、イランの人権状況に関する様々な懸念が述べられています。

これに対してイラン政府は、自国の人権状況に向けられた批判は、政治的な動機に基づいて欧米諸国が仕掛けている中傷キャンペーンに過ぎないと反論しています。私が見るところ、イランが提出した報告書の内容は不十分であり、国際社会の懸念に対して真面に応えることを避ける意図で、極めて曖昧に作成されたものと言わざるを得ません。

Q:このところ中東・北アフリカ地域で、多くの革命や蜂起が起こっていますが、こうした「アラブの春」と呼ばれる変革の波はイランに到達するでしょうか?政府の人権侵害に対する蜂起がイランでおこりうるでしょうか?

A:2009年の夏に、きわめて大きな抗議活動がイランでありました。選挙結果の不正を訴えて、数百万という人々が街頭に出てきたのです。この行動こそが、この春のアラブ諸国での抗議活動の先駆けであったという人もいます。

しかし、イラン政府はこの抗議を徹底的に弾圧しました。2009年12月と、その後も散発的に大衆抗議活動がありましたが、現在のアラブ諸国での活動ほどの規模にはなりませんでした。しかし、イランの人々は、大変なリスクを冒して、彼らが見るところの不公正な政府に対して、抗議の声を上げているのは確かです。そしてイラン政府も、さらなる大規模な抗議行動がおきないよう全力で抑えこみにかかっているのです。

Q:2日前、禁固6年、映画製作20年間禁止の判決が下されていた映画監督ジャファル・パナヒ氏(Jafar Panahi)の控訴が棄却されました。彼をはじめとした批判的な人々がイラク国内で活動する余地はあるのでしょうか。アムネスティ・インターナショナルとしては、パナヒ氏のような活動家を支援するためにどんなことをやってきたのでしょうか。

A:パナヒ氏は、祖国を愛しており、イランに留まって活動したいとの意思表示を何度となく行ってきましたが、それでも告発されました。これまでに、2万1000筆の署名を集めています。中には、ショーン・ペンスティーブン・スピルバーグマーティン・スコセッシといったハリウッドの有名人もいます。これをニューヨークにあるイランの国連代表部に届けようとして最初は受け取りを拒否されたのですが、交渉の末にようやく受け取ってもらうことはできました。

芸術的な表現に対する弾圧がイランでは続いており、国内での活動は難しい状況にあります。しかし、イランの人々はきわめて勇敢であり、いかにしてイラン政府を出し抜くかを考えています。

Q:イランの人権状況を改善するにあたって、アムネスティ・インターナショナルが直面している困難は何ですか?その他の国との違いは何でしょう。

A:イランは、活動する上でもっとも難しい国のひとつです。人権状況の規模の大きさとシステムの不透明さという点もあります。それに、我々はイランへの入国を許されないのです。しかし、イラン国内には、我々に状況を報告してくれる多くの人権活動家がいます。

私たちは、私たちのアジェンダと米国政府のアジェンダは無関係であることを明確にしておきたい。私たちがイランの人権状況を批判するのは、人権活動家として発言しているのであって、私たちの関心は人権分野以外のなにものでもないのです。

イランに関する議論は、核兵器開発疑惑や、イスラエルへの敵対疑惑、中東地域への影響行使疑惑など他の問題と絡んですぐに政治化しやすいので、私たちはきわめて慎重にメッセージを発する必要があります。

イランにはきわめて多くの問題があって、まるで地雷原を歩いているかのようです。だからこそ、私たちは、人権分野のメッセージにこだわって、慎重に進まなければならないと思っています。

翻訳=山口響/IPS Japan戸田千鶴

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軍縮の美辞麗句の裏で優先される核兵器近代化の動き

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

スタンレー・キューブリック監督の映画『博士の異常な愛情または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』で描かれている異常な状況を連想させるかのように、核保有国の中で核兵器のない未来について積極的に熟考している国はない。それどころか、この恐るべき兵器を使用する可能性が大きくなっている、と新たに発表された報告書は述べている。

 同報告書は、この気がかりな世界的傾向について、「米露間で締結された新戦略兵器削減条約(新START:2011年5月発効)は、おそらくこの20年で最も成果のあった軍縮管理の枠組みと見られているが、条約の中身に関しては米露両国の間にかなりの認識の隔たりがあることから、必ずしも両国が保有する核兵器が大幅に削減されるという結果には結びつかないだろう。」と指摘している。

「核兵器保有国による軍縮を巡る美辞麗句がどのようなものであれ、さらなる大胆な軍縮或いは軍備管理に関する進展が見られない中、様々な状況証拠が示しているものは、『核兵器の近代化と拡大』という新たな時代が到来しているという現実です。」と報告書の著者であるイアン・カーンズ氏は警告している。

カーンズ氏は、この見解を立証するため、(英国以外の)世界の核兵器備蓄量に関するデータや分析を収集するとともに、核保有国の核戦力近代化傾向、宣言政策と核ドクトリン、さらには各国の核保有政策の根拠となっている安全保障上の懸念について考察を加えている。

この報告書は、英国の核政策を検討する超党派の独立委員会「トライデント委員会」のディスカッションペーパーとして作成されたもので、英米安全保障情報評議会(BASIC)から11月初めに出版された。

核兵器保有国は拡大している

1980年代半ば以来、世界の核兵器備蓄量は大幅に削減されたが、一方で核兵器保有国の数は増加している、と報告書は指摘している。「今日、核兵器の総数は20,000発余りを数えるが、世界で最も不安定で紛争が起こりやすい地域にも存在している。東北アジア、中東、南アジアでは深刻な紛争の勃発や核拡散の懸念が取りざたされており、それに伴って核兵器が使用される可能性も高まっている。」

データ分析の専門家が明らかにしたところによると、長期的な核戦力近代化・品質向上プログラムが全ての核保有国において進行している。つまり、米国やロシアのみならず、中国、インド、パキスタン、その他の核保有国においても、向こう10年間に亘って、数千億ドルにも及ぶ予算が核兵器近代化のために計上されている。

近代化された核兵器

ほとんど全ての核兵器保有国が引き続き新型或いは近代化された核兵器を生産し続けている。そして中にはパキスタンやインドのように、従来より小型で軽量の核弾頭を開発することにより、核ミサイルの射程距離を延ばしたり、短距離の攻撃対象に絞ったより戦術的な運用を目指していると見られる国々もある。

また報告書は、核弾頭の戦略的運搬手段について、「ロシア及び米国は戦略核戦力の三本柱である陸・海・空軍戦力(ICBM・SLBM・戦略爆撃機)を長期にわたって維持する立場を改めて表明している。一方、中国、インド、イスラエルは、独自の三本柱を構築しようとしている。中国、インドの場合、射程距離の向上と、地上発射基地の機能向上、並びに核弾頭搭載の原子力潜水艦の建造を主眼とした、大規模な弾道ミサイル開発プログラムが進められている。」

「イスラエルの場合、核巡航ミサイルが搭載可能な潜水艦艦隊(ドルフィン級潜水艦)の増強が図られており、人工衛星打ち上げロケットプログラムと相まって、将来的に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発する道のりを歩んでいるとみられている。」

「パキスタンは急速に核弾頭の備蓄数を拡充するのみならず、新たにプルトニウム生産炉を建設して核分裂性物質の備蓄を進めている。また北朝鮮のように、ミサイル技術の飛躍的な向上を図ろうとしている。」

「最近弾道ミサイル搭載の潜水艦隊の近代化を完了したフランスは、全体の機数は縮小するものの、新型でより機能が向上した戦略爆撃機を空軍核戦力に導入しようとしている。また、潜水艦及び戦略爆撃機に搭載する新型でより強力な核弾頭の導入も進めている。」

こうした調査結果は、バラク・オバマ大統領が、彼の生存中には成しえないだろうとしながらも、核兵器なき世界の実現に思いを巡らせた2009年4月の歴史的なプラハ演説から、3年も経過していない中で公表された。

必要不可欠とみなされている核兵器

とりわけ衝撃的なのは、全ての核兵器保有国において、「核兵器は安全保障上、必要不可欠とみなされており、中には核攻撃に対する抑止という範疇を遥かに超えた役割(=核の先制使用)を安全保障戦略の中に組み込んでいる国もある」という事実である。

そうした国とは、カーンズ氏によれば、ロシア、パキスタン、イスラエル、フランス、並びに、「ほぼ間違いなく」北朝鮮である。一方、インドの場合、生物・化学兵器による攻撃を受けた場合には、報復手段として核兵器を使用する権利を保持するとしている。

事実、核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)が指摘しているように、「他国からの核兵器の使用や威嚇に対して核兵器の役割を抑止に限定(核兵器の先制不使用)しているのは中国のみで、他の全ての核保有国は、程度の差こそあれ、核兵器以外の脅威に対しても、核兵器を使用する選択肢を保持する立場をとっている。」

非難の応酬

また報告書は、「いずれの核兵器保有国も、他国の核兵器及び通常戦力の開発状況と比べて自国の戦略的、潜在的脆弱性を指摘することで、自らの核兵器近代化・品質向上計画を正当化している。」と述べている。

ロシアは、自国の核兵器開発プログラムは、中国が通常兵力においてロシアより優位にある現状に対する懸念に加えて、米国の弾道ミサイル防衛構想(BMD)や「通常兵器による迅速なグローバル打撃(CPGS)」構想に対する懸念に対処するためのものであると主張している。

中国は、自国が進めている核兵器近代化・品質向上計画について、米国が同様の計画を推進しており、インドにも同様の計画があるとして、正当化する立場をとっている。一方、インドは核開発計画を推進する動機の一部として、パキスタンと中国の軍事的脅威に対する恐れがあると主張している。パキスタンは自国の核兵器開発計画を擁護する理由として、インドが通常兵力においてパキスタンを圧倒している現状を挙げている。そして南アジアから遠く離れたフランスは、世界で「増え続ける」核備蓄に対する対抗策として核兵器の近代化政策を是認する立場を表明している。

非戦略核兵器

また報告書は、核保有国の中に、仮想敵国より通常戦力で劣っている部分を補完する戦力として、非戦略核(=戦術核)兵器を重視している国々もある点を指摘している。

「戦術核兵器は、通常兵力で劣勢にある国に、敵対国に対して全面的な核攻撃に至らない程度で緊張を高めさせ、抑止力を発揮する選択肢を提供する軍事カードと考えられている。」と報告書は述べている。この状況は、冷戦期の北太平洋条約機構(NATO)による核ドクトリンの諸相を反映している。

従ってロシアやパキスタンのような国においては、核兵器は軍事計画の中で実践に使用する役割が割り当てられている。ロシアでは、これは核デスカレーションドクトリンという形をとっている。またパキスタンでは、核武装をほのめかしつつも、敵対国、主としてインドの軍事立案者を混乱させる意図から、あえてその点を曖昧にしている。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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【ベルリンIDN=ザンテ・ホール】

原子力エネルギーの放棄や核兵器の廃絶が語られているが、それだけでは十分ではありません。それらは私たちを結びつけている『核の連鎖』とも言うべき大きな生産の連鎖の中の、目に見える生産物に過ぎないのです。そしてこの核の連鎖は、私たちが一般に認識しているよりも遥かに深刻な危害をもたらすものなのです。

核の連鎖の入口は、原子力エネルギーと核兵器共通の原料である「ウランの採掘」です。

そして次の連鎖は「ウラン濃縮」です。遠心分離技術でウラン濃縮が行われますが、ウランが発電に使われるか核兵器開発に使われるかを規定するものは、単に濃縮段階の問題にすぎないのが実態です。

 
私たちが何を信じようが、ウランが何の目的に使用されるかについて100%確信を持つことは不可能です。例えば、イランの核開発疑惑をめぐる問題は、核技術の使用を巡って不信がいかに緊張関係を高めるかを示している事例です。ウラン濃縮の動きを巡る政治的な対立が高まれば、戦争さえ引き起こしかねないのが現実です。

ウラン濃縮の副産物は、濃縮ウランを得た後に残される「劣化ウラン」から製造されるウラン兵器です。ウラン兵器は、例えば、ボスニアイラクアフガニスタンといった紛争地で使用され、人々の健康や環境に深刻な被害を及ぼしました。

核連鎖の次にくるのが「原子炉」です。核原子炉は電気を製造するのみならず、使用済核燃料棒を再処理することでプルトニウムを分離することが可能です。

核兵器は、高濃縮ウラン或いはプルトニウムを原料に製造されているのです。

核兵器が存在する限り、広島・長崎への原爆投下や核実験の事例にみられるように、常に使用されるリスクが存在するのです。

そして、核の連鎖の最後に来るのが「核廃棄物或いは放射性降下物」です。

核の連鎖は私たちの暮らしと密接に繋がっている

核の連鎖に連なるこれらの要素は、いずれも放射能を排出することから健康と環境にとって極めて危険な存在です。いずれの生産過程からも自然界に数百年から数千年にわたって残存する放射性廃棄物や降下物が排出されているのです。このように核連鎖のもたらす現実は、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーであるという議論とは大きくかけ離れたものであり、核エネルギーが気候変動問題の解決策となるという議論は真っ赤な嘘だと言わざるを得ません。

電離放射線は健康に深刻な被害を及ぼす

―ヒロシマ、チェルノブイリセミパラチンスク―原爆の投下、炉心溶融、大気圏核実験の違いはあっても、放出されたアイソトープ(同位体)の種類によって被爆した人々には似通った臨床症例が報告されています。

具体的には、甲状腺癌、癌種、結腸癌、肺癌、骨癌、白血病(特に子供の症例が多い)、肝臓癌、遺伝子異常などですが、その他にも多くの症例があります。福島第一原発事故の影響を長期的な観点から見た場合、こうした症例の全てが顕在化してくる可能性は高いと言わざるを得ません。

私たちの処方箋

ドイツは米軍の戦術核兵器の国外退去を目指していますが、戦術核兵器加盟国としての同盟義務が障害となり交渉が難航しています。またドイツ国内における核エネルギーの放棄も決定しましたが、放射能は国境を選ばないことから、この決定も不十分なままと言わざるを得ません。

こうしたことから、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)では、全体論的な治療法を処方しました。今こそ、全地球的な規模で物事を考え、核連鎖についてもその一部のみを対象とするのではなく、核連鎖全体を対象に取り組むべき時にきているのです。そこで私たちは、地球規模のウラン採掘禁止を呼びかけています。

ウラン採掘の被害に最も晒されているのは世界各地の先住民の人々です。彼らの人権は踏みにじられ、生活環境が破壊されているのです。ウランは、採掘せず、地中に留めるべきなのです。

核物質の輸送を止めるべき

ニジェール、オーストラリアやインドから欧州へのイエローケーキ(濃縮した加工ウラニウム酸化物)であろうが、ドイツからロシアへの核廃棄物であろうが、核物質の輸送そのものを止めるべきです。

核分裂性物質の生産に終止符を打つべき

私たちは、多くの国々が要求している核分裂性物質の軍事目的とする生産の停止を求めるにとどまらず、民生用の使用を目的とした生産も停止するよう求めています。欧州では、私たちは英国のセラフィールド原子力施設の閉鎖決定を歓迎するとともに、フランスのラアーグ核廃棄物再処理工場の閉鎖を求めています。

包括的核実験禁止条約(CTBT)は、最終的に発効すべき。

米国とカナダを含む9カ国が依然として加盟に抵抗しています。

核兵器禁止条約(NWC)

NWC発効に向けた議論が一刻も早く開始されるべきです。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)に参加してください。

地球規模のエネルギーシフトが必要

地域内でエネルギー自給ができるよう地球規模のエネルギーシフトを目指していく必要があります。再生可能エネルギーにより重点を置き、省エネ効率を高めるとともに、消費を減らしていくことで、私たちはエネルギー自給を達成することが可能です。

よいエネルギー政策は、平和を希求する政策でもあるのです。-将来においても太陽や風を巡る戦争は起こりえないのですから。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩


*ザンテ・ホール氏は、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)ドイツ支部が事務所を構えるベルリンを拠点に核軍縮専門家として18年に亘って勤務している。スコットランド生まれ、英国育ちで、バーミンガム大学で演劇を専攻した。1980年代初頭ウェストミッドランド核軍縮キャンペーンエグゼクティブコミッテ委員を務めた後、1985年に西ベルリンに活動拠点を移した。1995年、『アボリション2000』を創設する一方、ドイツ核廃絶ネットワーク『Atomwaffen abschaffen』の設立にも尽力した。またホール氏は、ミドル・パワーズ・イニシアティブ(MPI)とアボリション・グローバルカウンシルのエグゼクティブコミッテメンバー。核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)欧州コーディネーター、平和市長会議2020ビジョンキャンペーンドイツ代表を務める。

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ベルリンIDN=ザンテ・ホール】

原子力エネルギーの放棄や核兵器の廃絶が語られているが、それだけでは十分ではありません。それらは私たちを結びつけている『核の連鎖』とも言うべき大きな生産の連鎖の中の、目に見える生産物に過ぎないのです。そしてこの核の連鎖は、私たちが一般に認識しているよりも遥かに深刻な危害をもたらすものなのです。

核の連鎖の入口は、原子力エネルギーと核兵器共通の原料である「ウランの採掘」です。

そして次の連鎖は「ウラン濃縮」です。遠心分離技術でウラン濃縮が行われますが、ウランが発電に使われるか核兵器開発に使われるかを規定するものは、単に濃縮段階の問題にすぎないのが実態です。

Xanthe Hall
Xanthe Hall

私たちが何を信じようが、ウランが何の目的に使用されるかについて100%確信を持つことは不可能です。例えば、イランの核開発疑惑をめぐる問題は、核技術の使用を巡って不信がいかに緊張関係を高めるかを示している事例です。ウラン濃縮の動きを巡る政治的な対立が高まれば、戦争さえ引き起こしかねないのが現実です。

ウラン濃縮の副産物は、濃縮ウランを得た後に残される「劣化ウラン」から製造されるウラン兵器です。ウラン兵器は、例えば、ボスニアイラクアフガニスタンといった紛争地で使用され、人々の健康や環境に深刻な被害を及ぼしました。

核連鎖の次にくるのが「原子炉」です。核原子炉は電気を製造するのみならず、使用済核燃料棒を再処理することでプルトニウムを分離することが可能です。

核兵器は、高濃縮ウラン或いはプルトニウムを原料に製造されているのです。

核兵器が存在する限り、広島・長崎への原爆投下や核実験の事例にみられるように、常に使用されるリスクが存在するのです。

そして、核の連鎖の最後に来るのが「核廃棄物或いは放射性降下物」です。

核の連鎖は私たちの暮らしと密接に繋がっている

核の連鎖に連なるこれらの要素は、いずれも放射能を排出することから健康と環境にとって極めて危険な存在です。いずれの生産過程からも自然界に数百年から数千年にわたって残存する放射性廃棄物や降下物が排出されているのです。このように核連鎖のもたらす現実は、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーであるという議論とは大きくかけ離れたものであり、核エネルギーが気候変動問題の解決策となるという議論は真っ赤な嘘だと言わざるを得ません。

電離放射線は健康に深刻な被害を及ぼす

―ヒロシマ、チェルノブイリセミパラチンスク―原爆の投下、炉心溶融、大気圏核実験の違いはあっても、放出されたアイソトープ(同位体)の種類によって被爆した人々には似通った臨床症例が報告されています。

具体的には、甲状腺癌、癌種、結腸癌、肺癌、骨癌、白血病(特に子供の症例が多い)、肝臓癌、遺伝子異常などですが、その他にも多くの症例があります。福島第一原発事故の影響を長期的な観点から見た場合、こうした症例の全てが顕在化してくる可能性は高いと言わざるを得ません。

私たちの処方箋

ドイツは米軍の戦術核兵器の国外退去を目指していますが、戦術核兵器加盟国としての同盟義務が障害となり交渉が難航しています。またドイツ国内における核エネルギーの放棄も決定しましたが、放射能は国境を選ばないことから、この決定も不十分なままと言わざるを得ません。

こうしたことから、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)では、全体論的な治療法を処方しました。今こそ、全地球的な規模で物事を考え、核連鎖についてもその一部のみを対象とするのではなく、核連鎖全体を対象に取り組むべき時にきているのです。そこで私たちは、地球規模のウラン採掘禁止を呼びかけています。

ウラン採掘の被害に最も晒されているのは世界各地の先住民の人々です。彼らの人権は踏みにじられ、生活環境が破壊されているのです。ウランは、採掘せず、地中に留めるべきなのです。

核物質の輸送を止めるべき

ニジェール、オーストラリアやインドから欧州へのイエローケーキ(濃縮した加工ウラニウム酸化物)であろうが、ドイツからロシアへの核廃棄物であろうが、核物質の輸送そのものを止めるべきです。

核分裂性物質の生産に終止符を打つべき

私たちは、多くの国々が要求している核分裂性物質の軍事目的とする生産の停止を求めるにとどまらず、民生用の使用を目的とした生産も停止するよう求めています。欧州では、私たちは英国のセラフィールド原子力施設の閉鎖決定を歓迎するとともに、フランスのラアーグ核廃棄物再処理工場の閉鎖を求めています。

包括的核実験禁止条約(CTBT)は、最終的に発効すべき。

米国とカナダを含む9カ国が依然として加盟に抵抗しています。

核兵器禁止条約(NWC)

NWC発効に向けた議論が一刻も早く開始されるべきです。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)に参加してください。

地球規模のエネルギーシフトが必要

地域内でエネルギー自給ができるよう地球規模のエネルギーシフトを目指していく必要があります。再生可能エネルギーにより重点を置き、省エネ効率を高めるとともに、消費を減らしていくことで、私たちはエネルギー自給を達成することが可能です。

よいエネルギー政策は、平和を希求する政策でもあるのです。-将来においても太陽や風を巡る戦争は起こりえないのですから。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩


*ザンテ・ホール氏は、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)ドイツ支部が事務所を構えるベルリンを拠点に核軍縮専門家として18年に亘って勤務している。スコットランド生まれ、英国育ちで、バーミンガム大学で演劇を専攻した。1980年代初頭ウェストミッドランド核軍縮キャンペーンエグゼクティブコミッテ委員を務めた後、1985年に西ベルリンに活動拠点を移した。1995年、『アボリション2000』を創設する一方、ドイツ核廃絶ネットワーク『Atomwaffen abschaffen』の設立にも尽力した。またホール氏は、ミドル・パワーズ・イニシアティブ(MPI)とアボリション・グローバルカウンシルのエグゼクティブコミッテメンバー。核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)欧州コーディネーター、平和市長会議2020ビジョンキャンペーンドイツ代表を務める。

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核なき世界という「理想郷」を現実に

【IDNベルリン=ラメシュ・ジャウラ】

それは、理想のように聞こえる。しかし、それは、まさにエルンスト・ブロッホの哲学の精神の中にあるものであり、日蓮仏法の教えにある「具体的な理想」である。前者の考えは、すべての形の抑圧と搾取の排除を描いている一方で、後者は、平和の文化が暴力の文化を凌駕することを可能にし、核兵器やその他の大量破壊兵器のない世界を含む、持続可能な人間の安全保障実現への道を開くための、人間精神の変革を描いている。

 創価学会インタナショナル(SGI)が主催する「暴力の文化から平和の文化へ―核兵器廃絶への挑戦展」は、その目的の実現に向けたツールである。SGIは、13世紀の日本の僧侶・日蓮の教えで、人生を肯定する仏法を信奉する団体であり、東京に本部を置き、世界中に1200万人の会員を擁している。

 
この展示は、2007年、SGIが、創価学会第2代戸田城聖会長による原水爆禁止宣言50周年を記念して制作したものである。特に青年への意識喚起を目的として、2007年9月8日、平和市民フォーラムの際に、「核兵器廃絶のための民衆行動の10年」の開幕行事として、初めて公開された。これまで、ジュネーブの国連欧州本部、ウェリントン市の国会議事堂(ニュージーランド)、オスロ市庁舎、国連ウィーン本部等27か国地域、220都市以上で開催。最近では10月7日-10月16日、オープニングに出席した池田SGI副会長が「平和の都市」と称えたベルリン(ドイツ)にて開催された。

Photo: Dr. Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.

池田SGI会長は同展に寄せたメッセージの中で、ノーベル賞を受賞した核戦争防止国際医師会議の支部であるIPPNWドイツと、国際協力評議会(GCC)との共催で開催された10月のこの展示の重要性に触れながら、「東西冷戦の対立を乗り越えて、新たな歴史を刻み続けておられるベルリン」と呼びかけた。

SGIは、IPPNWとICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)と共に、展示開催の目的である、核廃絶の運動をリードする団体である。今回の展示は、1961年10月、池田会長がベルリンを訪問し、ドイツ分断の象徴であり、市を二分したブランデンブルク門の前に立ってより、50年後に開催されることになった。

氏の訪問の2か月前に建設されたベルリンの壁は、東西冷戦の対立の最前線を象徴するものであり、兵士や戦車が居並ぶ風景は、心を深くかき乱す忘れられない光景であった。

その壁は長い間、撤去は不可能と考えられていた。しかしながら重要なことに、一般の民衆の力によって、それはついにとり壊されたのであった。池田氏は、全廃不可能であると信じられている核兵器も同様に、目覚めた民衆の力によって必ずや取り払われると確信している。

ヨーロッパの安定と平和的な統合の推進を担ってきたドイツが果たすべき役割は大きいと、氏は展示のオープニングメッセージで述べている。氏は、ドイツが、未来の挑戦において重要な役割を担うと確信している。

ゲッティンゲン宣言

池田氏は、「世界の政治的状況は、真の意味での平和の秩序が生じるよう、根本的に変革されねばなりません」との、冷戦時代に核兵器の脅威を訴え抜いたカール・フリードリヒ・フォン・ヴァイツゼッカー氏の言葉に言及した。

ゲッティンゲン市のマックス・プランク医学研究所の部長でもあったヴァイツセッカー氏が中心となって推進されたゲッティンゲン宣言は、2012年に55周年を迎える。

18人の核物理学者によって署名されたこの宣言は、核兵器を保有しようとするドイツ軍の計画に強い懸念を表したものだ。彼らは、専門家に知られている事実が一般の人々に十分に知られておらず、公に指摘せざるをえないと感じていた。

宣言は次のように述べている。「(ドイツ軍が得ようと計画した)戦略核兵器は、通常の核兵器と同じ破壊力を持つものである。戦略的という意味は、人間の居住地だけでなく、水上における軍隊との戦闘に対しても使用されることを示している。すべての戦略核兵器一つ一つは、広島を破壊した最初の原爆と同様の効果をもつ。」

大量に使用することが可能な戦略核兵器は、全体としてはるかに大きな破壊力を有することになると物理学者たちは指摘した。これらの戦略核兵器は、近年開発された「戦術的核兵器」や水素爆弾と比べるとその破壊力が小さいというに過ぎなかった。

同宣言はさらに続けて、「財産や生命に対する戦略核兵器の破壊効果がどれほど甚大になりうるかについて、想像することはできない。今日、戦略核兵器は小さな町を破壊することができる。水素爆弾は、ルール市の産業地区規模の地域を、人間が住めない状況にすることが可能である。水素爆弾による放射能によって、ドイツ連邦の全人口を、今日にも死滅させることができる。私たちには、この脅威から多くの人々を守ることが実質的に可能であるかどうかはわからない。」としていた。

戦略核兵器

同宣言にもかかわらず、米国は「核兵器共有政策」の一環として、ドイツや他のヨーロッパ諸国に戦略核兵器を配備した。これは、独自の核兵器開発プログラムを中止させて米国の核の傘の庇護の下に置こうと同盟諸国を説得するために、1950年代に始まったものである。

ドイツに加えて、米国の戦略核はベルギー、英国、イタリア、オランダといった国に配備された。7千発以上がヨーロッパに設置された70年代をピークに、その後は劇的に減少している。確かな情報筋によれば、2007年の終わりにはわずか350発が残るのみとなっている。

この戦略核の減少は、先代ブッシュ大統領とゴルバチョフ大統領が91年に発表した、「冷戦後の大統領核イニシアチヴ」に起因している。このイニシアチヴは、ヨーロッパにおける両国の戦略核の大幅な削減を求めていた。

07年1月には、米空軍は、定期的に核兵器の査察を受ける基地のリストから、ラムスタイン米軍基地(ドイツ)を除外した。アメリカ科学者連盟の核情報プロジェクト代表のハンス・クリステンセン氏は、冷戦中同基地に配備されていた130の戦略核が、恒久的に取り除かれたかもしれないとしている。

もしそうであるなら、ドイツは現在、ビュッヘル空軍基地のみを米国の核兵器配備基地として有していることになる。NATOおよび米国は、何発の核兵器が配備されているかについて一切の情報公開を行なっていないので、ドイツにおける戦略核の正確な数は確認されていない。しかし、ビュッヘルには現在20発があると見られている。

戦略核兵器の撤去の問題は、ドイツ政府内で何年も議論されてきた。しかし2009年10月、新任のギド・ヴェスターヴェレ外相(連邦民主党)は、ドイツから核を撤去するとの決意について疑いの余地を残さなかった。外相は、ドイツの新政権は米国のバラク・オバマ大統領の核兵器なき世界を目指すとのビジョンを支持すると述べた。

同時に、「オバマ大統領の言葉を信じて、冷戦の遺物ともいうべき、ドイツに残存している核兵器が最終的に撤去されるよう、同盟諸国との協議に入る」とも述べた。この考えはアンゲラ・メルケル首相(キリスト教民主同盟)によっても確認された。しかし核兵器はドイツ国内に存在し続けている。


「私たちは暴力の文化を打倒できる」

こうした逆行ともいうべき現状に対抗する意味で、ドイツ連邦議会議員のウタ・ツァープフ氏(社会民主党)は、今回の展示のタイトルが「私たちは暴力の文化を打倒できる」とのメッセージを示そうとしていることが「素晴らしい」と評している。ツァープフ議員は、議会の軍縮・軍備管理・不拡散小委員会の議長を務めている。

核兵器なき世界は確かにまだすぐには実現しない。また、新しいNATOの戦略にも明らかなように、平和は人間精神の中に根をおろすこともできていない。それにもかかわらず、「核兵器という非人道的な存在を廃絶するために、この展示が示すようなことに取り組むのはもっともなことである」と彼女は語った。

「事実、この展示が示すような楽観主義が必要です。なぜなら、世界はいまだ武器や核兵器にあふれているからです。確かに核軍縮が進み、冷戦の間も核兵器の数は減少しました。今ようやく、STARTⅡによる一歩が進んでいます。」

「2010年5月のNPT再検討会議の好ましい結果も、楽観主義の理由となっています。事実、その行動計画は核兵器を完全に廃絶するための道を示しています。(中略)包括的核実験禁止条約が発効することも重要です。米国、ロシア、中国といった核大国の実験停止だけでは十分ではありません。超大国によって批准された条約だけが、将来核兵器がこれ以上製造されないことへの確証を与えるのです。」しかし、この目的が達成されるまでには多くの道のりが残っている。

2010年11月、リスボンでのサミットにおいて、NATO諸国は今後の10年間のロードマップとなるであろう新戦略コンセプトに合意した。米国のオバマ大統領が、核兵器なき世界へのビジョンと核兵器への依存を減少させることの必要性を明らかにした後、NATOを形成するドイツ、ベルギー、オランダは、ヨーロッパから米国の戦略核兵器を撤去することを求めた。

しかし、新戦略コンセプト発表に続く多くの議論にもかかわらず、新文書については前進がなく、いたずらに時間が経過する中、かえって次のように述べるに至った。「NATOは核兵器なき世界の条件を生み出すというゴールを目指す。しかし、核兵器が世界に存在する限り、NATOは核の同盟であることを再確認する。」

しかし、ヨーロッパの市民社会やいくつかの政府から、欧州における米国の核兵器の未来について、NATOの防衛・抑止見直しの一環として討議を行なうべきとの圧力が強まっている。この見直しは新戦略コンセプトの改定についての議論に続いて行なうとされており、2012年5月までに終了の予定となっている。

「真の安全保障」

NATOでの議論の結果が懸念されるが、今日、人類は圧倒的に深刻な挑戦に直面していることは議論の余地がない。貧困や環境破壊から、深刻な失業や経済的不安定といった問題であり、全ての国々の協調が必要とされる。

池田SGI会長は、展示のオープニングメッセージの中で、「(人類共通の課題に立ち向かうために)必要な人的・経済的資源を犠牲にしてまで核兵器を維持することの愚かさが、今、一層明らかになっております。あくまで必要とされるのは、『安全保障』であって、『核兵器の保有』ではありません」と述べた。池田SGI会長は、1983年以来毎年、平和・軍縮などを目的とした提言を発表してきている。

2011年の国連への提言で池田SGI会長は、核のない世界へ、以下3つの挑戦を進めることを呼びかけた。

一、われら民衆は、核兵器の脅威に対する唯一の保証は廃絶以外にないとの認識に基づき、すべての保有国が全面廃棄を前提とした軍縮を速やかに進める体制を確保する。

一、われら民衆は、どの国の行動であろうと「核兵器のない世界」という目的に反する行為を許さず、一切の核兵器開発を禁止し防止する制度を確立する。

一、われら民衆は、核兵器は人類に壊滅的な結果をもたらす非人道的兵器の最たるものであるとの認識に基づき、核兵器禁止条約を早期に成立させる。

さらに「第1の柱となる『全面廃棄を前提とした核軍縮の推進』については、全保有国の参加による国連での対話や交渉の枠組みを定着させる必要があると思います」と訴えた。

国連の潘基文事務総長の「核不拡散・核軍縮に関する国連安保理サミット」を定例化させることを呼びかけた提案について、池田SGI会長は、「安保理サミットの定例化にあたり、『安保理の理事国メンバーに限らず、非核の道を選択してきた国々の代表が討議に参加できるようにすること』と、『核問題に関する専門家やNGOの代表が意見表明する場を確保すること』を求めたいと思います」と述べた。

そして、「2015年のNPT再検討会議を広島と長崎で行い、各国の首脳や市民社会の代表が一堂に会して核時代に終止符を打つ『核廃絶サミット』の意義を込めて開催することを検討すべきであると訴えたいのです。」と訴えた。

もしこれが現実となれば、これまで理想郷であった核廃絶が、現実味を帯びてくるであろう。

IPS Japan

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ただの抗議行動ではなく、小さなユートピア

【ニューヨークIPS=ベン・ケイス】

ウォール街占拠」(OWS)運動は、政治的な圧力、悪天候、警察の暴力、数千人にも及ぶ逮捕者などに耐え、開始後1ヶ月を経てもなお、拡大する勢いを見せている。

運動は全米100以上の都市に広がり、欧州やアラブの民衆運動や長い歴史を持つコミュニティ組織ともつながり始めている。

占拠運動を、それが政治に与える影響という観点から分析したものは少なくない。しかし、その内部構造という視点からみてみることも、意味があることだろう。

 本記事はOWS運動の中心地であるズコッティ広場(通称:自由広場)の占拠に焦点をあてているが、この地の運動と他の占拠運動拠点の間には多くの共通点があり、類似した構造が見られるのである。もちろん、それぞれの占拠運動が自然発生的なもので、各々の地域、問題意識、人口構成、地域を取り巻く事情に基づいて独自に運営されているのはいうまでもない。

OWS運動における占拠の特徴は、その開放性であり、自発性である。自由広場には、運動のメッセージ-「米国の経済システムには根本的な欠陥があり、大胆な変革を必要としている。」或いは「自分たちはこの欠陥あるシステムの犠牲者であり、他の場所でやり直すにも自信がない。」に賛同する人々が自由に集まり抗議活動に参加している。

占拠活動の組織にはじめから加わっているウルジ・シェイク氏は、「OWSの構造はオープンで、誰でも入れて参加することができます。参画方法は、会場に来て自分の役割を見つけること、つまり、どの既存の委員会に参加してもいいし、自ら発案してそこに仲間を集めてもいいのです。」と語った。

お金のかからない経済

そしてこの運動のユニークな一面は、参加にあたってお金が一切要らない仕組みとなっている点である。現在のシステムは、食べ物、医療、居住空間、リラックスする空間、通信手段、教育、娯楽など、生きていくため、人生を楽しむために何かを獲得、利用しようとしても、お金なしには何も手に入らない仕組みとなっている。このお金がかからないという仕組みは、一見重要でないように思えるが、お金が偏在した現在のシステムに対する活動家たちの批判がおそらくその背景にあるのだろう。

OWSでは、寄付以外にはお金というものが存在しない。お金の心配なく、飲み、食べ、リラックスし、音楽を聴き、本を読み、政治を語り、睡眠し、応急処置を受けることもできる。OWSの活動家にとって、平等とは、みなが同じだけのお金を持っていることではなく、まずもってお金を必要としない社会のことである。

医療委員会を立ち上げた救急医療技術者のリリー・ホワイトさんは、「私は運動が始まって2日目、まだ参加者は数人で、医療備品もごみ袋にまちまちのものが入っているという状態で医療テントを開設しました。しかし今では、テントも2つになり、医者と看護婦が常駐し外来急患に対応できるレベルの医療器具を備えるまでになりました。これまでのところここで処置した患者の大半は、警察によるこん棒やペッパースプレーによる傷を負った人々でしたが、その他の病気や怪我に対する処置もおこなっています。最近は気温がだいぶ下がってきたので、低体温症を防ぐ努力をしています。」とIPSの取材に応じて語った。

OWSの組織構成と意思決定の仕組みにも平等主義が貫かれており、誰もが発言する機会を与えられ、参加者の声が無視されることがないようになっている。

協同組合的な民主主義を構築する

OWSの意思決定は、毎日1度は開かれる「総会」で行われているが、実質的な活動は、誰もが組織し参加できる多くの委員会によってなされている。こうした委員会の会合時間や場所はまちまちだが、毎朝掲示板で公表されている。食料、衛生、医療、慰安、安全、ファシリテーションなどの内部的な委員会に分かれている。

「当初、OWSにはあまりにも参加者が多く、運営は大変な状況にあるのではないかと思いました。しかしまもなくすると、きちんと機能している仕組みがあることに気付いたのです。命令されることに慣らされた世界に育った者が突然こんなにも自主的な参加が尊重される世界に飛び込むわけですから、当惑するのは無理ありません。しかし、当惑と言っても、開放感に満ちたものです!」とトロントから参加したショロモ・ロスさんは語った。

またロスさんは、「私は、家族と旅行していて、どちらかというと偶然OWS運動に足を踏み込み、活動の趣旨に賛同して、何ができるか尋ねたのが運動に関わるようになったきっかけです。すると彼らは私に何ができるか尋ね、私でもできそうな職種を紹介してくれたのです。つまりこの運動は大変開かれたもので、誰でも参加できるのです。」と語った。

委員会には、食糧委員会(食糧の収拾、仕入れ、蓄積、配分を担当する)、公衆衛生委員会(会場の衛生管理、清掃を担当する)、医療委員会(医療品の仕入れ、患者の治療、精神面のケア、医療技術の訓練を担当する)、慰問委員会(寄付された衣服、毛布、寝袋、枕等を取りまとめ配布する)、運営委員会(総会のファシリテーター等を訓練する)等がある。

中でも重要なのが、食料委員会と医療委員会である。なぜなら、これらが、OWS運動における参加者の生活を文字通り維持する役割を果たしているだけでなく、米国社会が全体として人々に与えないものを提供し、今後同国の社会が向かうべきもう一つの社会のありかたを示しているからである。

「これこそ、我が国が、国民に提供すべきヘルスケアの在り方の好例といえます。しかも私たちはこの仕組みを路上で1っカ月もかからない期間で実現したのです。」とホワイト氏は語った。

また、外向けの委員会として、メディア関連や、地域・労働団体との連携を担当するものなどがある。その他、芸術、音楽、瞑想、路上演劇、ヨガ教室など、OWS運動に参加している人々の生活全般を潤す様々な文化活動を担当しているグループがある。

ひと月以上が経過し、OWS運動はまるで、誰もが共感する平等主義の原理に基づいて開設した機関や活動によって意図的に運営されている独自の町のような雰囲気になってきた。抗議行動としては、こうした占拠戦術が、常に人々を惹きつけ行動を組織化する源泉となっていることからかなりの成功を収めている。

少なくともOWS運動の魅力は、占拠地が参加者達にとって暮らしたいと思うような小世界を現出する機会を提供していることだろう。明らかなことは、この運動が拡大し続ける中で、現実の社会に不満を抱いている多くの人々が、そこで体現されている新たな社会に共感するだろうということである。

「私たちはここで、資本主義を解体し、より良いものを作り上げているのです。」とシェイク氏は語った。(原文へ

INPS Japan浅霧勝浩

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