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|ペルー|アマゾン地区で環境問題への独創的な解決法

【ヘペラシオIPS=ミラグロス・サラザール】

ホセ・アントニオ・バルダレス氏(33歳)は、一見したところラッパーのようだが、ペルー北部(アマゾン地区)のサンマルティン県ヘペラシオの市長である。彼は、廃棄物処理を市の新たな収入源につなげたり、湧水を利用して住民の飲料水を確保したりするなど、独創的な手腕を発揮している。

「私は元々土木エンジニアですが、環境エンジニアだと思っている住民も多いですよ。」と話すバルダレス市長は、自ら運転しているピックアップトラックをしばしば停止させては、住民らと挨拶や冗談を交わしている。

José Antonio Bardález, Mayor of Jepelacio
José Antonio Bardález, Mayor of Jepelacio

バルダレス市長のスタイルは独特なもので、擦り切れて穴の開いたジーンズにサングラス、髪はジェルでかためている。また、窓に偏光シートを張った黒のピックアップトラックも、ここでは市長の定番イメージの一部となっている。

サンマルティン県モヨボンバ郡の主要地域であるヘペラシオ市の人口は約2万人で、70の村落から構成されている。住民のほとんどは、農業、主にコーヒー栽培によって生計を成り立たせている。このは動植物が豊富に生息している地域だが、深刻な森林破壊が進んでいる地域でもある。非政府組織AMPA(アマゾンのためのアマゾン住民の会)によると、2006年から11年にかけて、サンマルティン県における森林破壊レベルは平均して35%にまで低下したが、ヘペラシオの主要森林地帯であるゲラ谷における森林破壊レベルは依然として65%と高い。

2009年のペルー政府の統計によると、住民の半数は貧困下にあり、5才未満の子どもの26%が慢性的な栄養不良状態にある。

City of Jepelacio
City of Jepelacio

バルダレス氏は、2010年末に市長に就任すると、「市が直面している不利な条件を新たな機会に転換する」という方針を打ち出した。当時のヘペラシオ市の予算は、月93,000ドルで、住民一人当たりに換算するとおよそ4ドル程度だった。

バルダレス市長は、まもなくすると、市民を動員してゴミを収集し、それを安価な肥料に転換するプロジェクトを始動した。市長の呼びかけに応じたヘペラシオの住民は、家の周りを清掃し、有機物と無機物を分別したうえで、それらをプラスチックのバケツや頭陀袋等の容器に入れていった。

こうしてヘペラシオの街では、分別されたゴミが入った小さな容器が住民の家々の前の未舗装の道路脇に並べられている光景が見られるようになった。これを市当局が収集して廻り、有機物については市の肥料製造施設で、糖蜜や乳清等に由来する微生物を混合して発酵処理している。

「1リットルの発酵培養で、約100トンの有機物質を分解することができます。」とバルダレス市長は語った。有機ゴミは発酵プロセスを開始して5日後には摂氏70度に達し、残留物を篩いにかけると最終的に「ヘペ肥料(Jepe fertilizer)」(「ヘペ」はヘペラシオ市のスペルをもじって市長が名付けたブランド名:IPSJ)が完成する。肥料の製造期間は2週間余りである。

Mayor José Antonio Bardález at the treatment plant producing “Jepe fertiliser”, an initiative that is generating sustainable changes in his district in the Peruvian Amazon. Credit: Milagros Salazar/IPS
Mayor José Antonio Bardález at the treatment plant producing “Jepe fertiliser”, an initiative that is generating sustainable changes in his district in the Peruvian Amazon. Credit: Milagros Salazar/IPS

ヘペラシオ市では毎月、30トンの有機廃棄物を3500ドルの費用で処理しているが、この費用は肥料の売上げ(30トン当たり4290ドル)で賄われている。

バルダレス市長は、このプロジェクトを市当局と住民双方にとってメリットがある施策だと考えている。なぜなら、もしヘペラシオ当局が、(分別後の有機ゴミから肥料を製造するかわりに)ゴミを埋め立てる方策を採用していたら、市の年間予算にほぼ匹敵する約100万ドルの費用が発生し、その結果、それ以外の行政サービスの実施がほぼ不可能になってしまうからだ。

「このプロジェクトの最も良いところは、微生物が悪臭を放たない、つまり『公害ゼロ』な点と、住民自身が肥料を売って収入源にしようと有機ゴミの処理の仕方を学ぶようになった点です。」とバルダレス市長は語った。

さらにヘペラシオ市では、プロジェクトの実施エリアを広げようと、郊外の10カ村で「肥料製造設備コンテスト」を開催している。「これで、環境意識に目覚めた10カ村が新たに加わることになるでしょう。」とバルダレス市長は語った。

市内の中学校では上級学年になると生徒らが家業の農場を手伝えるように、農業の基礎的な知識とともに肥料の製造方法が教えられている。

バルダレス市長は、かつて他の自治体で肥料が無償で配布されたところ、一部の農家が現金欲しさに市価の半額で転売していた事例を挙げ、「肥料には価値があるのです。住民は無料で手入したものは大切にしませんから、ここでは安価ながら有料で提供しています。」と語った。

「市当局が(有機ゴミから)肥料を製造して安価で販売しているのは良いことだと思います。」と7人の子どもがいるマルティナ・ディアス・ヴァスケスさん(39歳)は語った。彼女はIPSの取材に対して、11歳の時にカハマルカからヘペラシオに家族で移ってきたと語った。

ヘペラシオ市の住民の8割以上が他県、主にカハマルカ県ピウラ県といったアンデス地域からの転入者が占めている。AMPAのカリーナ・ピナスコ代表はIPSの取材に対して、「この地に不馴れな他県からの転入者をいかにプロジェクトに参画させるかが課題です。」と指摘したうえで、「市当局が(ゴミ処理のような)問題を住民にとっての新たなチャンス変えるという試みは大変革新的だと思います。同じサンマルティン県中を見渡しても、ヘペラシオ市のような試みを見たことがありません。」と語った。

Asociación de Productores de la localidad de Zapatero, realizan pasantía a Jepelacio
Asociación de Productores de la localidad de Zapatero, realizan pasantía a Jepelacio

バルダレス市長の創意工夫は、市内の天然資源に関連した他のプロジェクトでも発揮されている。

パルダレス市長は、ある天然の湧水が市民の飲料水として活用できれば、汚染水に起因する下痢問題の解決につながるかもしれないと思い立ち、調査を行った。その結果、飲み水として利用できることが確認され、強力な殺菌効果がある銀のフィルターで浄水処理した飲料水「ヘペウォーター(Jepe water)」の製造を開始した。

その結果この2年間で、住民は20リットルの水を50セントもかけずに購入できるようになった。「沸かさなくても水を飲めるようになって、便利になったと思います。これで、お金も時間も節約できますから。」と3人の子どもをもつマルガリータ・デルバドさんはIPSの取材に対して語った。

現在ヘペラシオ市では、市内の学校や、家周りの清掃を心掛けゴミの処理も適切に行っている100軒の「健全なファミリー」に対して、人目を引く青色のジェリー缶(19リットル缶)入りの「ヘペウォーター」を無料で提供している。

こうした施策が評価され、2013年4月にはサンマルティン県が、ヘペラシオ市を、小児栄養改善特別プログラムの「主要協力自治体」に認定した。また昨年12月には、ペルー保健省が、健康に影響を及ぼす社会問題の克服に貢献した自治体の一つとして、ヘペラシオ市を表彰した。

さらにバルダレス市長は、廃棄物・水処理プロジェクトに続いて、市内のルミ・ヤク川の滝のたもとに天然のスイミングプールを作った。これは、川の流れを石組みで一部堰き止めて造営したシンプルなものだが、子供たちや家族にとって新たな娯楽施設になっている。

City of Jepelacio
City of Jepelacio

バルダレス市長は、「小さな舞台なら革新的な試みを実現することが可能です。次のステップは、地道に住民の参加と協力を得ながら、『ヘペウォーター』の供給とゴミ処理の体制をさらに市内全域に広げていくことです。」と今後の抱負について語った。また、政界に進出した動機を質問されると、「かつてのエンジニアの仕事では、望んでいた改革は実現できないと考えたからです。」と語った。

バルダレス市長が就任間もない頃、重機購入のための借金を提案したところ、市民から強い反発があったという。つまりそれらの内容は、「貧しいコミュニティーになぜ掘削機やトラクター、ブルドーザーや巨大ゴミ箱が必要なのか。」というものだった。

しかし、その後道路から石が取り除かれ道路網が整備されるようになると、こうした批判は鳴りを潜めていった。バルダレス市長は、市の発展のためにはリスクを取る価値はあると信じている。そして彼は、実際にそのように行動してきたのだ。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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ドバイ政府、世界最大の複合商業施設『モール・オブ・ザ・ワールド』の建設計画を発表

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙は、「UAE副大統領でドバイ首長のムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下の(ドバイの発展に懸ける)熱意に限界はなく、彼の辞書に『不可能』という文字はないことを行動で示してきた。今日ドバイは、数々の『世界一』を擁する街と国際的に知られている。そして今回発表された、世界最大の複合商業施設『モール・オブ・ザ・ワールド』(総面積445万㎡=東京ドーム95個分)建設計画は、再び国際社会の注目をドバイに集めることとなった。」とガルフ・ニュース紙は7月7日付の論説の中で報じた。

このような途方もない規模のプロジェクトに着手するには大変な勇気と並はずれた冒険心が必要だが、ムハンマド首長はかつて、「未来は躊躇するものを待ってはくれない。」と述べている。今回発表されたプロジェクトの概念を想像しただけでも、度肝を抜かれるだろう。旅行者が街を離れたり車を使ったりする必要もなく1週間の滞在を満喫できる世界最大の屋内テーマパークを想像してみるとよい。

ドバイ・ホールディングが手掛けるこのプロジェクトの特徴は、世界最大のショッピングモールを中心に、同じく世界最大の屋内公園、屋内レジャー/テーマパーク、劇場/会議施設(文化地区)、医療/保養施設(ウェルネス地区)、水族館(33,000以上の動物、85種類以上の生物等)、100以上のホテルやマンションが建設され、これら全てが、温度と湿度を完全に制御した一つの屋根の下に相互に連結される予定である。

例えば、文化地区とモールを繋ぐ商業施設の遊歩道「セレブレーション・ウォーク」(全長7キロ)の屋根は、夏季はガラス屋根に覆われ、冬季には開放される予定である。

「完成すれば年間を通じて観光客を迎えられる世界最大の複合商業施設が誕生することとなり、ドバイ政府は、年間1億8000万人の来場者を見込んでいる。」と同紙は付け加えた。

ドバイは世界有数の観光地としての地域を確立してきたが、このプロジェクトが完成すれば同地の魅力を一層高めることになるだろう。またドバイは、2020年の万博開催を勝ち取った。ドバイ政府は6か月に亘る万博開催期間中の来訪者数を2500万人と見込んでおり、323億9000万ドゥルハム(約8933億円)の予算をかけて開催に向けた関連インフラの整備を進めている。

ドバイ政府は2013年、前年のUAE来訪者数1000万人を2020年までに倍増させることを目指す「観光ビジョン2020」を発表した。これに対応するためドバイのホテル数も2020年までに倍増する見込みである。

シャリジャに拠点を置くガルフ・ニュース紙は、「(万博に向けてドバイには)明確なビジョンがあり、インフラの準備も整っている、そして人材に対する信頼も高い」というムハンマド首長の言葉を引用して論説を結論付けている。UAEはこれを励みに「不可能なことは何もない」という信念を持って、目標達成に向けて一致団結して邁進していくだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|アジア防災閣僚会議|FBOが国連開発アジェンダへの協力を表明

【バンコクIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

2015年は世界的な開発アジェンダの策定にあたって分水嶺となるであろう。この年、ポスト2015年開発目標や、持続可能な開発モデル、防災(DRR)枠組みが主要な国連会議で再検討されることになっている。

こうしたなか、6月26日にタイの首都バンコクで閉幕した「第6回アジア防災閣僚会議」(バンコク会議)は、地域社会を基盤とした解決に関する議論を大いに強調するものとなった。

国連国際防災戦略事務局(UNISDR)(本部:ジュネーブ)のマルガレータ・ワルストロム国連事務総長特別代表(防災担当)は開会の挨拶の中で、「包摂的で参加型の作業モデルが必要であり、そのなかで民衆に根差した地域社会や地方政府が防災活動において中心的な役割を果たす必要があります。」と語った。

Margareta Wahlström/ UNISDR
Margareta Wahlström/ UNISDR

今年2月、38人の市民社会組織の代表が参加してジュネーブで「市民社会フォーラム」が開催され、発想の大胆な転換を呼び掛け、地域社会を基盤にしたアプローチを推奨する「2015年の以降の防災枠組みに関するポジション・ペーパー」が発表された。

同ペーパーには、「これは災害の事例から、現在の開発の道筋が持つ相対的な長所と短所を体系的に学ぶとともに、レジリエンス(社会を回復する力)を強化するための支点となるものである。」「市民社会は、防災戦略の策定・実施にあたって、市民の広範な参加を得る上で重要な役割を持っている。」と記されている。こうした考え方は、バンコク会議の公式関連行事で「信仰を基盤とした団体(FBO)」のコンソーシアムが発表した「災害リスク軽減に関する宗教コンソーシアム共同声明」にも反映された。

Harjeet Singh/ Action Aid
Harjeet Singh/ Action Aid

アクションエイド」のハルジート・シン防災・気候対応国際コーディネーターは、IDNの取材に対して、「国連は市民団体との対話をこれまでより一層重視し始めており、国連のイベントにおいて市民社会が参加できる余地を広げてきています。」と語った。

5日間(6月22日から26日)に亘ったバンコク会議の会期を通じて、多数のFBOが、国連の開発政策策定枠組みにおいてより公式な形でFBOを関与させるよう、積極的に働きかけを行った。

FBOは会期中、多くの公式関連行事を開催したほか、自然災害後に強靭なコミュニティーを形成するための支援をアジア・太平洋地域全域で行う用意があるとする共同声明を発表した。またFBOは、災害後に地域社会を再建する支援をするため、地域レベルにおいて多数に及ぶ献身的な人々のネットワークを活用することができると論じた。

シアトルに拠点を置くキリスト教系国際支援・開発団体「ワールド・コンサーン」のイ・ウィン・タン氏は、「FBOはミャンマーの至る所で災害支援を行っており、同国で最も尊敬され信頼されています。時として、有給スタッフ(を援助プロジェクトに雇うこと)は困難ですが、FBOは素早くボランティアを動員し、地元当局ともうまく協力していくことができます。」と語った。

しかし、仏教徒が人口の89%を占め、その多くがアジアの中でも最も貧しいこの国においては、開発支援を行うと称している積極的なキリスト教福音主義団体の進出には脅威を感じてしまうものだ。イ・ウィン氏は、ミャンマーではキリスト教団体に対して懐疑的な見方があることを認めつつも、同時に仏教寺院とも協力体制を取っていることを強調したが、地元のパートナーに対して示された数字には、キリスト教の教会が28か所含まれていたのに対して、仏教寺院は5か所しか入っていなかった。

Map of Myammar
Map of Myammar

シン氏は、「世界最大の非宗教的開発支援団体である『アクションエイド』は人道主義的な原則を採用しています。つまり、宗教に関連しては頑なまでに中立の立場を堅持しています。」と指摘したうえで、「私たちはニーズを基礎とした原則によって動いており、地域社会で信頼され受け入れられている現場のパートナーを探すことにしています。現場のパートナーはチャリティーの型にはまってはいけないと考えています。(災害支援の現場では)慈善的なことが必要なのではなく、(地域を)エンパワーすることが必要なのです。」とIDNの取材に対して語った。

キリスト教系の支援グループ

バンコク会議に参加していたFBOコンソーシアムの中で最も活動的なのが、カトリック教会の災害支援団体である「カリタス・アジア」や、140以上の教会や連携組織の連合体である「ACTアライアンス」等のキリスト教系支援グループである。コンソーシアム唯一の非キリスト教系メンバーは、192か国・地域に会員を擁する日本に本拠を置く仏教系NGO「創価学会インタナショナル」(SGI)である。

アジアは圧倒的に非キリスト教徒が多い地域であるため、はたしてこのようなFBO連合が、会議中にしばしば言及されていた「複数の利害関係者による協働」を推し進めていく十分な能力を備えているかどうかについては、疑問も提起された。アジアには約5億人の仏教徒と、さらに合計でほぼ同人数のヒンズー教徒とイスラム教徒がいることから、FBOコンソーシアムは、ヒンズー教徒やイスラム教徒、シーク教徒、そしてより多くの仏教徒の組織を包摂して基盤をさらに広げる必要があると指摘された。

クリスチャン・エイド」に勤めるフィリピン人のジェシカ・ダトール・ベルシラ氏は、「キリスト教徒が災害支援を行う際には、支援地域において神の存在を感じさせ、人びとに希望を与える必要があります。」と語った。しかし、「アジアでは主に非キリスト教徒のコミュニティーと協働することからそのようなスタンスではアイデンティティ対立につながりかねないのではないか」という指摘がなされると、彼女の回答は、「私たちは自らの信仰について言い訳をする必要はありません。私たちは信仰ゆえにこの活動に従事し、人々の人生に価値を与えることができるのです。」というものだった。

Mani Kumar/ Dan Church Aid
Mani Kumar/ Dan Church Aid

そうした強い宗教的信念が、災害後に強靭で調和的な社会を形成していくうえで逆効果にならないのかというIDNからの問いに対して、ミャンマーで支援活動を行っているデンマークの「ダン・チャーチ・エイド」のコーディネーター、マニ・クマール氏は、「私たちはFBOとしての役割を明確にしておく必要があります。私たちは、現地で被災者を支援するために活動しているのです。ここでより重要な点は、現地の人々の価値観(に対して思いやりの気持ちをもつ)ということであり、被災者の尊厳と命を守るということなのです。」と語った。

「どんな人にも困難を乗り越える能力が備わっています。従って、私たちのアプローチは単に被災者に『何かを施すこと』ではありません。」と語るのは、IDNの取材に応じて、災害支援における仏教徒のアプローチについて説明するSGIの浅井伸行氏(創価学会青年平和会議議長)である。「私たちは、被災者が直面している問題の解決法を生み出す内なる潜在能力を引出し活用していけるよう、励まし力づけることを心がけています。」

浅井氏は、「私たちの活動は、非宗教的な団体(がやっていること)と変わりません。」と認めたうえで、「最も重要な点は、FBOの動機の部分です。私たちの活動は、確固たる信仰心に基盤を置いたものなのです。」と語った。

Nobuyuki Asai/ SGI
Nobuyuki Asai/ SGI

浅井氏は、FBOの災害時の役割と機能は、行政によって適切に認識されていないと考えている。「FBOがなしうる貢献と、災害支援と復興の枠組みにおいてFBOをいかに位置づけるかということについて、客観的に評価する必要があります。行政とFBOは防災協定を結んで、効果的な協力を行うことができるはずです。」と浅井氏は語った。

「カリタス・アジア」のザー・ゴメス地域コーディネーターは、「土着の知識が、時として、災害救援を実施する際や、防災計画を立てる上で非常に有益なことがあります。」と指摘したうえで、「こうした知識は、バンコク会議において地域行動指針として採択される、『兵庫行動枠組2』などの国連文書へのインプットに盛り込まれる必要があります。」と語った。

「私たちは、地域住民の声をこうした枠組みに反映させるため、アジア全域のネットワークから多くの地域住民を招聘しこれらのフォーラムに参加してもらいました。」とゴメス氏はIDNの取材に対して語った。

多くの仏教徒やイスラム教徒、ヒンズー教徒が、カトリック教会が異教徒の改宗を狙っているのではないかと疑っている事実をどう捉えるかという質問に対してゴメス氏は、「それは困難な課題です」と認めたうえで、「被災地の人々は、私たちが彼らを改宗させようとしているのではないかと疑いの目を向けてきます。しかし、私たちは彼らに伝道をしようとして出向いているわけではありません。従って、開発事業を始める前に地域住民の信頼を獲得する必要があるのです。そのうえで開発事業を開始すれば、地元の人々もようやく私たちの活動が開発のためであって布教のためではないということを理解するようになります。そうして初めて被災地の人々は私たちを受入れてくれるのです。」と語った。

キリスト教以前、イスラム教以前の伝統と文化

Zar Gomes/ Caritas Asia
Zar Gomes/ Caritas Asia

おそらくはこの点を証明するために、カリタス・アジアは、フィリピン・ミンダナオ島の先住民族スバノン族の3人の地域指導者をバンコクへ招いた。「フィリピン国家文化芸術委員会」によると、スバノン族は、今日のフィリピン諸島において、キリスト教とイスラム教が同地に伝播する以前の文化を保持している数少ない民族の一つであると考えられている。カリタス・アジアが開いた公式関連行事の一つで発言したスバノン族のビクトリア・カジャンディグ氏は、精神的な繋がりを持つ先祖伝来の土地で生きる権利を守るためにいかに闘ってきたかについて語った。

同じフォーラムで発言した酋長のティメイ・ホセ・アノイ氏は、部族民らが懸念してきた問題を国際社会に訴える機会をカリタスが提供してくれたことに感謝の気持ちを表明した。アノイ氏は、フィリピン政府が、どのようにして(スバノン族にとって)聖なる山であるカナチュアン山での鉱山採掘を許可したかについて解説した。「私たちには自然災害から身を守る伝統的な方策があります。しかし今日、私たちは、人災から身を守るために皆さんの助けを乞う必要があるのです。」と、アノイ氏は聴衆に語りかけた。

どんな宗教的なつながりがあるにせよ、信仰を基盤としたほとんどの地域社会は、他者、とりわけ財産を失った声なき人々を助けたいとの思いが強い。社会的公正や自立、慈悲心といった概念については、ほとんどの宗派が基本的に共通の目標を持っているものである。

カリタスが行動で示したように、スバノン族の人びとにとっての社会公正ということでいえば、彼らが信仰している宗教が(カリタスが支援する上での)問題とはなっていない。今回タイ政府は、国王が提唱してきた「足るを知る経済」概念をアジア閣僚会議のバンコク宣言に盛り込むことに成功した。これは、自身の欲望を抑え、欲望を満たすために環境にマイナスの影響を与えたり他者の資源を収奪したりすることのない持続可能なライフスタイルを生きる仏教の原則を基盤としたものである。従って、FBOそれぞれの教えの中に共通する原則を見出すことができるならば、FBO同士が協力し合える余地は十分にある。

国際シンポジウム「災害からの復元強化に向けた信仰組織の役割」/ SGI
国際シンポジウム「災害からの復元強化に向けた信仰組織の役割」/ SGI

先述の浅井氏は、FBOが世界の開発アジェンダを改革するためにいかにして協力できるかという点について、「一人一人が尊厳をもって生きることができるような方法で、基本的なニーズを満たす必要があります。外部からの支援が必要であり、これらの国における天然資源・人的資源の搾取には終止符が打たれなければなりません。そのためには、先進国の人びとが、態度を変えることが重要だと考えています。」「(FBOは)より寛容で慈悲深くならなければなりませんし、真の世界市民の視点から世界を理解しようとしなくてはなりません。そうした観点からすると、私たちができる最善の貢献は、公教育に加えて、勇気と思いやりに満ちた行動を生み出す内なる変革の推進ということになるでしょう。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【カイロIDN=バヘール・カーマル】

私たちは、半世紀前のアラブ諸国では、イスラム教徒やキリスト教徒、ユダヤ教徒の間にいかに調和と平和的共存があったかを振り返ってみるべきだ。

また2011年のエジプト民衆蜂起のさなかとその後に、数百人のイスラム教徒が集まって、教会で祈りを捧げるキリスト教徒を守ろうとした出来事や、数波に及ぶ民衆抗議の中で、コプト教徒の集団が自ら人間の盾となってタハリール広場で祈るイスラム教徒を過激主義者の攻撃から守ろうとした出来事は、未だに多くの人々の記憶に新しいだろう。

アラブ地域におけるこれら3つの一神教(イスラム教、キリスト教、ユダヤ教)の信者の間では、共存は常に当然のものと考えられてきた。かつてのエジプトやレバノン、パレスチナ、シリア、イラク、モロッコでは、住民の間で相手がどの宗派に属しているかを尋ねることなどあり得なかった。

それから、何が起こったのか?

イスラム教徒の家庭に育ったエジプト人の若いITエンジニアのアフマド・アライさんは、「政治…いつも政治が問題なのです。政治家が、国民に対する弾圧を強化する口実を得るために国内のイスラム教徒とコプト教徒の間に意図的に緊張と分断を作り出したのです。彼らはこの手口で自らの権力を永続化しようとしたのです。」と語った。

言語学者のラムシス・イシャーク教授(62)も同様の思いを次のように語った。「ここ(エジプト)では誰がイスラム教徒で誰がキリスト教徒かなんて考えたこともなかったですよ。私たちはみなエジプト人なのです。一例を挙げると、私は、イスラム教のラマダン(断食月)の伝統が大好きです。その時期になるとイスラム教徒の隣人たちが、『断食後の食事』にいつも私を招待してくれるのです。」

この点についてはアライさんも、「私たち(イスラム教徒)もキリスト教の復活祭(イースター)を祝います。我が家ではこの祝祭日になると、両親がオリーブの枝と椰子の葉をバルコニーに飾っていたのを良く覚えています。また、私と6人の兄弟姉妹は卵に色付けして楽しく過ごしたものです。そうしても何の問題もなかったのです。なぜなら(イスラム教徒もキリスト教徒も)皆兄弟なのですから。」と語った。

もし他のアラブ諸国で、この点について、イスラム教徒やキリスト教徒の意見を聞いてみても、きっと大差ない反応が返ってくることだろう。

「これ(キリスト教対イスラム教という対立構図)は、西側諸国が創り出した問題です。」「なぜだか分かりませんが、欧米の人々は私たち(イスラム教徒)すべてを、まるでオサマ・ビン・ラディンのように考えているようです。しかし私たちの99%は、平和を愛する穏やかな人達です。…私たちには平和が必要なのです。」と、電気通信の専門家ハニ・ヨーセフさんは語った。

宗教的、政治的に誘導された今日の分断の根源がたとえどのようなものであれ、多くの宗教指導者や市民社会組織が警鐘を鳴らしている。

またそうした数ある団体の中で、パリに本拠を置く国際教育科学文化機関(ユネスコ)や、ニューヨークに本拠を置く国連「文明の同盟」のような国連機関や、ウィーンに本拠を置くKAICIID(宗教間・文化間対話のためのアブドラ・ビン・アブドゥルアズィーズ国王国際センター)も、今日見られる宗派間の分断を煽る動きに警鐘を鳴らしている。

「……私たちを取り巻く世界は、紛争と騒乱に満ちています。差異がある『にも関わらず』ではなく、差異と『ともに』、人類が一つに結ばれた家族として平和的に共存するという私たちのビジョンは、未だに実現されていない理想の概念です。」と、国連「文明の同盟」上級代表のナシル・アブドゥルアジズ・アルナセル大使は今年初めに語った。

UNAOC

アルナセル上級代表は、「世界の多くの国で、なお紛争が起こっているというのが過酷な事実です。一方、いくつかの紛争地帯では、平和に向けて始められた取り組みが、対話への希望を生み出しています。場所は違えども、これらの紛争には共通した特徴があると思います。つまり、宗教に関する歪められた見方を体現した急進的な概念が、しばしは暴力行為に火をつけているのです。しかし、それはなぜなのでしょうか? 暴力を正当化するのに宗教を使うことができるという考え方は、それ自体矛盾していると言わざるを得ません。」と語った。

またアルナセル高等代表は、故ジョン・F・ケネディ米大統領の言葉である「寛容とは、自らの信仰に対する献身の欠如を意味するものではなく、むしろ、他者への抑圧や迫害を非難するものだ。」を想起するとともに、「ある特定の宗教を信仰しているか、全く信仰していないかに関わらず、暴力や破壊、加害を是認する宗教など存在しないのです。実際のところ、あらゆる主要な宗教や哲学は、『人にしてもらいたいと思うように、人にしてあげなさい』という黄金律の考え方を基盤に成り立っているのです。」と指摘した。

開かれた見識を促進する

「では、これは私たちにとってどのような意味合いを持つでしょうか? 私たちは、心を閉ざすのではなく心を開かせるような見識を促進しなくてはなりません。不寛容を拒否し、許容と理解の文化を培っていかなくてはなりません。そしてそれは、教育やコミュニケーション、政策の見直しを通じて、実行していくことが可能なのです。私たちは、過激主義の問題について、必ずしも常に宗教の問題としてではなく、経済的、社会的、政治的、人間的な側面を伴う問題として、取り組みを開始する必要があります。」とアルナセル高等代表は語った。

このような見解は、宗教間の調和を目指して活発に活動を展開している他の組織でも共有されている。実際、ユネスコは最近、この方向でさらなる一歩を踏み出した。

ユネスコのイリナ・ボコヴァ事務局長は5月25日、KAICIIDのファイサル・ビン・アブドゥルラフマン・ビン・ムアンマール事務局長と、「文化と宗教が異なる人々の間の対話を促進することへのコミットメント」を再確認する了解覚書に署名した。

ボコヴァ事務局長は、「文化の和解のための国連の10年(2013~22)」に向けたユネスコのリーダーシップと、この国連の10年が提供する「社会参加を促し、紛争を予防し、恒久平和の構築に資するとともに、基本的な原則としての知識の共有、人権の尊重、文化的・宗教的多様性の促進を基礎とした新たな形態の地球市民権を促進する」という好機を強調した。

ユネスコ・KAICIID合意は、「社会間の相互理解や寛容、平和共存、協力を強化する共同プログラムやアウトリーチ活動を発展させ、国連人権宣言と文化的多様性に関するユネスコ世界宣言に明記されている原則を尊重する平和の文化に貢献すること」を目的としている。

一方KAICIID側のビン・ムアンマール事務局長は、「ユネスコとKAICIIDは、多様な文化や宗教がより平和的で調和のとれた宗教間関係の構築に貢献することを可能にする『対話の文化』を強化するために協力していきます。この取り組みは、紛争の解決につながっていくことでしょう。」と語った。

両団体は、この合意に基づいて、向こう4年間にわたって以下の4つの目標にそって協力し合っていくことになっている。①公式および非公式の教育において対話の重要性を促進する。②異文化間・宗教間の平和対話を促進するための予備知識を向上させる。③若者をターゲットとした取り組みを通じて組織的協力を支援する。④対話と相互理解を育成するためのツールとしてメディアを利用する。

KAICIIDは、「世界中のさまざまな宗教や文化の信奉者の間の対話を可能とし、力を付与し、奨励すること」を目的として2013年に設立された。創設国(サウジアラビア、オーストリア、スペイン)が「加盟国評議会」を構成し、センターの活動を監督している。また、ローマ教皇庁は、センター創設時からのオブザーバーとして認識されている。

KAICIIDの理事会は、世界の主要宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、ヒンズー教、仏教)や文化からの高等代表から成り立っている。そしてセンターは事務局長が統括している。

数ある活動の中でも、今年4月にKAICIIDが国際新聞編集者協会(IPI)世界会議(表現とメディア倫理の問題が今年のテーマ)に合わせて開催した公開パネル討論会「宗教のイメージ:認識の衝突?―信者がメディア報道の仲居に自らのイメージを見たとき、それを認識できるか?」は注目に値する。

今年4月15日に南アフリカ共和国のケープタウンで開催されたこの公開パネル討論会は、宗教の多様性に関する正確な報道のあり方について、IPI世界大会の参加者を交えて協議することが目的だった。

この公開パネル討論会に先立って、宗教と取材テーマとした実践例に注目した作業会合が4月12日(IPI世界会議初日)に終日に亘って開かれた。ジャーナリスト、テレビプロデューサー、編集委員らが、パネリストとして、リベリア、カタール、サウジアラビア、インドネシアから参加した。

参加者は、宗教間の対話、宗教に関する報道に際して考慮すべき複雑かつ膨大な意味群、中東での様々な報道における宗教の役割、対話と宗教の肯定的なイメージを促進するチャンネルとしてのメディアの役割といった話題に焦点を当てた。

KAICIIDのピーター・カイザー報道部長は、質の高い報道を確保するうえでの「報道の自由」の重要性を強調した。

またKAICIIDは、平和と社会的一体性の実現に向けた活動の第一歩として、教育における「他者のイメージ」に注目している。

SGIと池田大作会長

その意味で、全世界で会員1200万人以上を擁する在家仏教運動である「創価学会インタナショナル」(SGI)の池田大作会長は、「異文化の架け橋・人類が直面する地球的問題群解決の方途としての対話の先駆の闘士」と評されてきた。

Dr. Daisaku Ikeda/ Seikyo Shimbun
Dr. Daisaku Ikeda/ Seikyo Shimbun

実際、池田会長は、教育や文化、政治、科学、芸術などの分野の著名人と数多くの対話を行い、その多くは出版されている。

「対話は私たち共通の人間性を再確認させ、再活性化する」と池田会長は述べている。

SGI会長は「生まれた時から、悪い人間などいない。どんな人にも、善に伸びゆく『心の種子』が宿っている。その『心の種子』をどう育み、いかなる実りをもたらすかは、ひとえに教育にかかっているといってよい。」と述べている。

「真の教育とは、単なる知識の伝授でもない。才能の開発だけでもない。人格や知性も含んだ全人性の陶冶を目指すものである。過去から現在へ、そして未来へ向かって「ヒューマニティ(人間性)」を確実に継承し、発展させゆく聖業である。」

他方、SGI各国組織は、さまざまな宗教の人びとの間の理解を形成することを目的とした宗教間対話や取り組みに積極的に参加している。さらに、SGIは世界宗教議会の定期的な参加団体であり、また、欧州科学芸術アカデミーと一連の宗教間シンポジウムを開いている。

社会問題や教育、対話に熱心な宗教間組織はいたるところにある。例えばその一つが、国際赤十字(キリスト教)・赤新月(イスラム教)連盟である。

また、その他の国際組織の例をいくつか挙げれば、世界宗教会議、欧州諸宗教指導者評議会、宗教間対話研究所、宗教間協力国際評議会、世界平和超宗教超国家連合、世界宗教連合、教皇庁諸宗教対話評議会、世界宗教者平和会議、世界宗派会議、世界教会協議会宗教間関係に関するチーム等がある。

他方、数多くのさまざまな宗教指導者の会合が、世界各地でほぼ毎週開かれている。

ならば、寛容と共存のメッセージを広げるという目標達成がこれまでのところ成功していないのはなぜだろうか?

この点について、元教師のモハメド・モスタファ(69)は、「二つの重要な条件が満たされない限り、平和は訪れないでしょう。一つ目は、至る所にある軍事組織の権力と影響力の問題です。…彼らの関心は専ら新兵器や軍事計画を実験することにあります。…そして宗教や文化の分断は、彼らにとっては格好の利用材料となっているのです。」「そして第二の条件は、イスラム教社会と欧米キリスト教社会の両方で新しい意識を創り出すことです。私たち(イスラム教徒)には、欧米諸国からくるものなら何でも拒否するという、歴史に根差した伝統があります…。彼らが私たちの土地を占領し、民衆を抑圧し、資源を収奪したという思いがあるからです。…ただし私たちの拒否反応は、欧米諸国による支配に対してであって、彼らの宗教(キリスト教)に対してではないのです。」と語った。

※バヘール・カーマルは、ジャーナリストとして約40年のキャリアを持つ、エジプト生まれのスペイン人。スペインで「ヒューマン・ロング・ウォッチ」(Human Wrong Watch)を発行・主宰。

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【ペシャワール(パキスタン)IPS=アシュファク・ユスフザイ

ラメーラ・ビビさん(39歳)には生後一か月になる男の赤ちゃんがいたが、6月28日、彼女の腕の中で息を引き取った。空爆を逃れて北ワジリスタン管区にある自宅を退避した際に罹った肺感染症が死因だった。同県では6月中旬に始まったパキスタン軍による対パキスタン・タリバン運動(TTP)掃討作戦により、50万人近い住民が避難を余儀なくされている。

ビビさんはこみ上げる涙を必死に抑えながら、彼女の一家に起こった出来事について話してくれた。

「息子は6月2日に我が家で生まれたのよ。元気で美しい子だったわ。もし家を追われさえしなかったら今でも生きていたはずなのよ…。」

しかし今のビビさんに、亡くなった子どものことをいつまでも悲しんでいられる余裕はない。

ビビさんには、涙を拭って自身と幼い2人の娘の命を繋ぐために、なんとしてでも食料を確保しなければならないという厳しい現実が待ち構えている。北ワジリスタン管区は、アフガニスタンと国境を接する山岳地域で、地域に跋扈するTTP民兵を標的にしたパキスタン軍の空爆から逃れるため、約468,000人が国内避難民となっている。

パキスタン軍が6月15日に軍事作戦を発動した動機の一部として、同月8日に18人の死者を出したTTPらによるカラチ(ジナ)国際空港テロ襲撃事件が指摘されている。

パキスタン政府は2005年以来、連邦直轄部族地域(FATA)において民兵組織に対する掃討作戦を断続的に行ってきたが、失敗に終わっている。とりわけ北ワジリスタン管区では米軍の占領下にあるアフガニスタンから逃れて越境してきた反政府民兵グループが長らく支配的な影響力を維持してきたことから、今回パキスタン軍はもてる火力を総動員して11,585㎡に亘る同県の完全制圧に踏み出したのである。

政治評論家の一部は、政府のテロリストに対する「強硬路線」を称賛しているが、長年にわたる紛争で疲弊しきっている県内の一般住民にとって、この軍事作戦がもたらすものは、家の喪失、飢え、病気といった悲惨以外のなにものでもない。

Ashfaq Yusufzai/IPS
Ashfaq Yusufzai/IPS

北ワジリスタン管区を逃れた難民は、カイバル・パクトゥンクワ州の古都バンヌにある大規模な難民キャンプへ続々と流入してきているが、彼らの大半は、摂氏45度にもなる炎天下の砂利道を何時間の歩いてきたため極度の疲労で倒れこんでいる。

しかしカイバル・パクトゥンクワ州は、既にこの9年間で100万人近くの難民を受け入れ対処能力の限界に達しつつあることから、今般の北ワジリスタン県から流入してくる避難民の事態に対して全く準備ができていない。

ここでの一時収容施設はテントで室内の気温が非常に高くなるうえに、難民らは医師の診察をうけるにも、野外で長蛇の列に並ばなければならない。うだるような夏の暑さが今後数週間でさらに厳しくなることが予想される中、医療専門家らは、本格的な健康危機の発生を警告している。

北ワジリスタン管区に住んでいたムスリム・シャーさんは、妻と子どもたちを連れて45キロにおよぶ未舗装の道を歩きとおしてバンヌ難民キャンプに到着したばかりである。

彼は難民キャンプの粗末な診療所で深刻な脱水症の治療を受けている。避難の途上で口にした汚染水が原因で発症したウィルス性胃腸炎のほうは回復に向かっている。

シャーさんはIPSの取材に対して、「不衛生な環境の中で、家族の健康が心配です。」と語った。彼が弱々しく指差した先には、近くの汚い運河があり、そこでは一群のバッファローに交じって沐浴している彼の子どもたちの姿があった。

Seeking some relief from the 41-degree heat, displaced children in Bannu join a herd of buffalos for a bath in a filthy canal. Credit: Ashfaq Yusufzai/IPS
Seeking some relief from the 41-degree heat, displaced children in Bannu join a herd of buffalos for a bath in a filthy canal. Credit: Ashfaq Yusufzai/IPS

バンヌ県立病院副院長のサブズ・アリ医師はIPSの取材に対して、「これまでに約28,000の避難民を診察してきました。そのうち25,000人の患者は長時間に及ぶ日光露出、栄養不足、汚れた水を口にしたこと等を原因とする予防可能な病気で苦しんでいます。」と語った。

6月29日、パキスタン政府は、民間人が(北ワジリスタン管区を)脱出できるよう、翌日の空爆再開まで期間限定で外出禁止令を一時的に解除した。

アリ医師は、「その間に脱出した人々が、まもなくバンヌに殺到してくるでしょう。気温が急上昇しているなか、ポリオや麻疹といったワクチンで予防可能な幼児疾患や胃腸炎や下痢といった水や生物を媒介とした伝染病が発生する恐れがあります。私たちは病気の蔓延を防ぐべく、協力し合って対策を講じていかなければなりません。」と語った。

4人家族で避難してきたアハメド・マスードさん(59歳)のケースが、次々に明らかになる危機を体現しているかもしれない。

マスードさん自身は、うだるような暑さの中を40キロも歩いた結果、熱射病に罹り寝たきりの状態にある。14歳、15歳、20歳になる3人の息子たちは6月22日に難民キャンプに到着して以来、下痢、発熱、頭痛に苦しんでいる。

マスードさん一家は一週間近くに亘って清潔な水にアクセスできなかったことが明らかになっており、このことが病状をさらに悪化させた原因とみられている。

カイバル・パクトゥンクワ州保健局から派遣されてきた公衆衛生の専門家であるアジマン・シャー氏によると、避難民の中には極度の疲労困憊から心不全を引き起こしたケースもあるという。シャー氏はIPSの取材に対して、「砂漠では、家族が蛇やサソリに咬まれて命を落とすリスクにもさらされます。そうした経験がトラウマとなり、長期に亘って精神的なストレスになることもあります。」と語った。

北ワジリスタン管区からバンヌに流入してきた難民の約9割は、10年以上に亘ってテロ活動の影響で疲弊した地元経済の下で貧困ラインを遥かに下回る生活を余儀なくされてきた極貧層の人々である。個人で診療費を支払える人はほとんどなく、巨大な難民キャンプに数少ない医師の診察を受けるためには、長蛇の列でただひたすら自分の番を待つしかないのが現状である。

しかし北ワジリスタン管区のミル・アリ市から逃れてきたジャラル・バカールさん(30歳)のような人々にとっては、その余裕すらない。バカールさんは、「妻は2週間以内に出産の予定です。しかし医師によると、ここに逃れてくるまでの無理がたたって子どもは早産児になるとのことです。妻にはベッドで充分な休養をとらせてやりたいのですが、ここではまともな宿泊施設さえ見つけられていないのです。」と語った。

バカールさんは、現在の状況が続けば生まれくる子どもの命も諦めることになるのではないかと不安に駆られている。

またバンヌ難民キャンプでは、難民らの苦境をさらに追い詰めかねない、深刻な食料不足の問題が現実味を帯びてきている。

国連人道問題調整事務所(OCHA)が6月30日に発表した評価報告書によると、「パキスタン軍は110キロの配給パッケージ30,000袋を配布したほか、国際連合世界食糧計画(WFP)は、8,000家族分の食料供給を行っている。また多くの非政府組織や慈善組織が救援活動を行っている。」

それでも難民キャンプに避難した族長のイクラム・マスードさんをはじめとする避難民の中には、これから最悪の事態を迎えるのではないかと恐れている。マスードさんは、「ここには、まともな食料やトイレなどの公衆衛生施設がないうえに、洗剤、石鹸といった生活必需品さえありません。このままでは、難民がさらに厳しい状況に陥るのは目に見えています。当局に清潔な水と公衆衛生施設の設置を陳情しましたが、無視されました。」とIPSの取材に対して語った。

Ashfaq Yusufzai/IPS
Ashfaq Yusufzai/IPS

現在、国内避難民の75%を女性や子どもが占めていることから、世界保健機関(WHO)は、6月30日に発表した報告書の中で、女性を対象に、安全な飲料水の利用と衛生的な食品の調理と保管を促す、大規模な啓蒙活動を早急に実施する必要性を訴えている。

また同報告書には、「食事や調理の前に手洗いをする利点を積極的に説いて回るとともに、虫刺されによるマラリアの発生を防ぐために防虫加工を施した蚊帳の使用を勧める必要がある。」と指摘している。

WHOはバンヌ難民キャンプに90,000人分の医薬品を送ったとしているが、地元の医療専門家らは、急速に事態が切迫するなかで、それでは不十分だとみている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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宗教が防災と出会うとき

【バンコクIPS=カリンガ・セレヴィラトネ】

「信仰を基盤とした団体(FBO)」でつくるコンソーシアムが、6月25日、「第6回アジア防災閣僚会議」(バンコク会議)の公式関連行事において、自然災害後に強靭なコミュニティーを形成するための支援をアジア・太平洋地域全域で行う用意があると国連に対して意思を伝える共同声明を発表した。

同閣僚会議は、国連国際防災戦略事務局(UNISDR)の協力のもと、気候変動が急速に進むなかでアジア・太平洋地域が直面している具体的な諸課題について地域の利害関係者を集めて2年に1度開催しているもので、今年はタイ政府が主催し、6月22日から26日にかけてバンコクで開催された。

UNISDRがバンコク会議のために準備した報告書は、「アジア・太平洋地域は過去3年、フィリピンの台風被害から、中国・インド・タイでの大水害、パキスタンや日本での大地震にいたるまで、数多くの災害に見舞われた。」と指摘している。

2011年だけでも、異常気象による激甚災害で国際社会が蒙った経済的損失は3660億ドルにものぼり、そのうち8割がアジア・太平洋地域で発生している。

アジア・太平洋地域は地球上の陸地の39%、世界の全人口の60%を占める地域だが、世界の富の29%しか有しておらず、災害への準備と緊急対応に関して諸政府は大きな課題に直面している。

FBOは、困難な時に人びとに希望を与えることでこのギャップを埋めることができると考えている。

クリスチャン・エイド」に勤めるフィリピン人のジェシカ・ダトール・ベルシラ氏は、「私たちがもたらす物資や私たちが建てる大きな家が最も重要な点ではありません。FBOができる最大の貢献は、災害後の生活再建に向けた長い道のりの中で被災者に対して『あなたは一人ではない』と精神的に寄り添うことができる点にあるのです。」と語った。

この共同声明を起草した「カリタス・アジア」、創価学会インタナショナル(SGI)、「ACTアライアンス」などのFBOのコンソーシアムは、災害救援をおこない被災者を支援するためにFBOが越えなければならない多くのハードルについて協議する事前会合を22日に開催し、さまざまな宗派からの50人の参加者があった。

国際シンポジウム「災害からの復元強化に向けた信仰組織の役割」/ SGI
国際シンポジウム「災害からの復元強化に向けた信仰組織の役割」/ SGI

最終版の「災害リスク軽減に関する宗教コンソーシアム共同声明」は、地域共同体と緊密に連携してレジリエンス(社会を回復する力)」を強化し平和を構築するFBO特有の能力に着目している。

人類の8人に1人が何らかの組織的な宗派に属していると推測され、全てのFBOをあわせれば、世界で最大のサービス提供ネットワークを構成していることから、FBOは災害リスク軽減(DDR)分野で、必然的なパートナーと目されている。

共同声明の中にある提言では、「第3回国連防災世界会議(2015年3月に仙台で開催)」に提出される予定の「災害リスク軽減に関するポスト2015年枠組み(ポスト兵庫行動枠組)」における関係諸団体の1つとしてFBOを認識するよう、国連に強く求めている。

同声明はまた、各国政府や地方政府に対して、関連諸団体とDDRに関する定期協議を行う際にはFBOも含めるよう要請した。なぜなら、FBOは国際NGOが不在の場合でも、開発プログラムを維持していることが少なくないからである。

例えば、「カリタス・インドネシア」は2012年以来、過去22年間で海岸の土地200メートルを失ったインドネシアの東ヌサトゥンガラ州にあるファタ集落と協力して、潮位の上昇に対するコミュニティーの対応力を養う努力を続けている。

同団体は、潮が海岸線に到達する前に竹で作った構造物をすり抜けさせる天然の建築技術を用いて、潮位を下げつつマングローブを保護する活動に従事している「ファタ環境愛好グループ」のメンバーを支援している。

共同声明の起草に参加したパートナー3者による活動範囲は、併せるとアジア・太平洋の多くの地域をカバーしている。

Caritas Asia
Caritas Asia

「カリタス・アジア」は、世界200か国で活動を展開しているカトリック教会の災害支援団体である「カリタス・インターナショナル」を構成する7つの地域オフィスのひとつである。SGIは日本に本拠を置く在家仏教運動で、192か国に組織のネットワークがある。ACTアライアンスはキリスト教教会の連合で、連携組織が140か国以上で活動している。

3者ともに開発や災害支援の分野における貢献で評価されている。例えば「カリタス・インターナショナル」は毎年100万ユーロ(約1億3800万円)以上を、世界の人道支援の調整や能力育成、HIV/AIDSプログラムに振り向けている。

「私たちは、災害リスク軽減政策の導入に関して主要プレーヤーの一員でありたいと考えています。私たちは関与する用意ができています。」とACTアライアンスアジア太平洋地域緊急支援オフィスの小美野剛部長は、IPSの取材に対して語った。

「この共同声明が指摘しているのは、私たちの関与は信仰を基盤としたものであり、それだけ強いということです。私たちは長期にわたって、救援や復興活動に関与できるのです。」と、SGIの浅井伸行氏(創価学会青年平和会議議長)は語った。

Mr. Nobuyuki Asai at the symposium/ SGI
Mr. Nobuyuki Asai at the symposium/ SGI

専門家らは、アジア・太平洋地域は、FBOの防災への貢献の効果を図るうえで素晴らしい実験場になる、と指摘している。

独立世論調査機関ピュー・リサーチセンター(本部:ワシントンDC)の調査によると、アジア・太平洋地域には、世界の仏教徒の99%、ヒンズー教徒の99%、イスラム教徒の62%が住んでいるという。

また同地域ではカトリック教徒の数も着実に増加している。100年前には1400万人だったのが、2013年には1億3100万人にまでなった。

スリランカやミャンマーのような国では仏教の急進主義が跋扈し、パキスタンでは強い反カトリック感情があり、中国やインドでは宗教的マイノリティが攻撃されるなど、宗教やコミュニティー間の紛争が絶えないアジア・太平洋地域で、宗派間の連携を創り出すのは、「言うは易し、行うは難し」という側面がある。

しかし、専門家の中には、自然災害の脅威がさまざまな共同体を結びつける、と指摘する者もいる。

The Global Religious Landscape/Pew Research Center
The Global Religious Landscape/Pew Research Center

インド国立災害管理研究所のアニル・クマール・グプタ政策策定部長は、「人々は災害に直面した時は、お互いの違いなど忘れてしまうのです。」「災害の直後に、ヒンズー教やシーク教の寺院やイスラム組織からの指導者やボランティアが、まるで生まれながらの兄弟のように協力し合っているのを私は見てきました。」と語り、最近の事例として、インド北部のウッタラーカンドカシミール両州で起きた大水害の後でそうした協力があったことを挙げた。

ミャンマーを拠点とする災害救済コンサルタントのロイ・レゴ氏は、IPSの取材に対して、「今日発表された共同声明は、災害リスク軽減において非常に重要な画期的出来事です。」「FBOは、ポスト兵庫行動枠組の発表において、それを担う構成員の一つとして、人々の目にもっと留まる存在となる必要があります。」と指摘したうえで、「FBOが災害リスク軽減になしうる最大の貢献は、さまざまな共同体の間に平和な暮らしを生み出すことにあると考えています。」「他宗教に対する尊重は、非宗教的な形でなされる必要はありません。それは、FBOが他のFBOと宗派横断的な環境の中で協力し合うなかで、自然と生ずるものなのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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各国の災害リスク軽減(DDR)枠組みにFBOを含むことに対して異議が存在する背景には、FBOが援助・開発事業の提供者としての立場を利用して、各々の宗教活動を展開するではないかという懸念がある。

例えば、2004年のスマトラ沖地震・津波のあと、スリランカとタイの仏教徒のコミュニティーやインドネシアのイスラム教徒のコミュニティーでは、FBOが被災者に対して各々の信仰を押し付けようとしているとの苦情の声が噴出したという。

IPSの記者が今回の会合においてこの問題を提起したところ、参加者の間で盛んな議論が行われた。

多くの参加者は、そのような懸念はFBOの本質を見誤ったものと考えている。なぜならFBOは、信仰を持っていない人や他宗教の信者を改宗させるというよりも、むしろ人生に価値を与えたいという願望に突き動かされて活動を展開しているからである。

「もし信条が発展を阻害するものだとしたら、そうした価値観を疑わなければなりません。」と、ムニールとのみ名乗ったミャンマーからの参加者は語った。

カリタス・インドネシアのヴィンセンティア・ウィドヤサン・カリナ氏も同意し、こう続けた。「2004年のスマトラ沖地震後・津波のあと、カリタスはインドネシア北部のアチェ地域の復興支援のため、イスラム教徒のコミュニティーに入って活動しました。そして、礼拝施設を必要とするイスラム教徒のコミュニティーのニーズを支援したのです。」

SGIのようなFBOはさらに一歩進んで、一切衆生を同時に救済することを説く法華経の教えを実践している。

浅井氏は、「法華経では、生まれながらにして全ての人に仏性(仏が有する特質)が備わっており、この仏性が他の多くの人々を幸福や啓発へと導く手助けをしている、と説いています。」と指摘したうえで、「私たちは、仏教徒が少数派の国では他の関連諸団体と協力し合っています。こうしたネットワークを構築した方が、支援活動がしやすくなるからです。」と語った。

宗教紛争から宗派横断共同体へ

【国連IPS=カニャ・ダルメイダ】

聖なる人間とその聖なる書物は、人類史に血と涙の痕跡を刻みつけてきた。平和な寺院の奥からは燃え盛るたいまつを手にした群衆が送り出され、聳え立つ教会の尖塔やミナレットからは、祈りに跪く敬虔な信者の頭上に憎しみのメッセージが流されてきた。あまりにも長きにわたって、宗教は暴力を誘発し、紛争を煽ってきた。

しかし新しい連合が、さまざまな宗教の信者を糾合してこの流れを変えようとしている。つまり、真に宗教の違いを超えた国際社会の構築を求めて、「あなたの神」と「私の神」の間にある亀裂を、対話を通じて乗り越えようとしているのである。

「宗教紛争などというものはありません。なぜなら、宗教は紛争を拒絶するものだからです。つまり、宗教の名のもとに行われる暴力は、宗教そのものに対する暴力でもあるのです。」と、政府間組織KAICIIDのファイサル・ビン・アブドゥルラフマン・ビン・ムアンマール事務局長は、ニューヨークで11日に開かれた記者会見の中で語った。

ウィーンに本拠を置くKAICIID(宗教間・文化間対話のためのアブドラ・ビン・アブドゥルアズィーズ国王国際センター)は、オーストリア、スペイン、サウジアラビアの各国政府と、(創設時からのオブザーバーとしての)ローマ教皇庁から成る評議会によって構成されている。

KAICIIDの理事には、世界の主要な5つの宗教(キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、ヒンズー教、仏教)からの宗教的指導者が含まれ、平和維持や紛争予防、開発に地域の宗教組織や指導者を関与させエンパワーする積み上げ(ボトムアップ方式の)プロセスを強化しようとしている。

KAICIIDは、世界の10人のうち8人が何らかの形の組織的な宗教を信じ、そのほとんどの人々が、自らを「平和を愛する人間(peace-loving individuals)」に分類する傾向にある、と推定している。

ビン・ムアンマール事務局長は、「悲しむべきことに、政治家や過激主義者が、本来的には寛容で平和的な性格を持つ宗教的慣習を、自らの(しばしば暴力的で社会に分断をもたらすような)目的のために、乗っ取ってきた歴史があります。」と指摘したうえで、「従って、(他宗教間の)持続的な対話を通じてのみ、人びとは『他者』への恐怖を乗り越えて、より包摂的で寛容な世界に向けて努力する力を身に着けることができるのです。」と語った。

KAICIIDが世界的な舞台に乗り出したことは、きわめて時宜を得ている。独立世論調査機関ピュー・リサーチセンター(本部:ワシントンDC)が、世界の人口の99.5%を占める198ヵ国をカバーして実施した最新の調査報告書によると、アメリカ大陸を除く全ての大陸において、宗教の絡んだ社会的敵対状況が悪化しているという。

報告書は、「世界において宗教関連のテロ暴力が発生した国の数は、2007年には9%だったものが、2012年には5ヵ国に1ヵ国(=20%)へと、この6年間で倍増している。」と述べている。

とりわけ中東・北アフリカ地域では、全体の半分にあたる国々が2012年に宗派間暴力を経験したことから、宗派間暴力に直面した国の世界平均値は2007年の8%から2012年には18%へと急増した。

2011年から12年までの1年間で、きわめて高いレベルの宗派間対立を経験した国の数は14ヵ国から20ヵ国に増加した。そのうち6ヵ国(シリア、レバノン、バングラデシュ、タイ、スリランカ、ビルマ)は、2012年に比べて2011年には比較的低レベルの対立しか見られていなかった。

また同調査によると、宗教的マイノリティにとっての状況も悪化している。2012年には全調査対象国の47%にあたる国々でマイノリティを標的にした襲撃事件が発生していたが、前年の38%から9%も増加している。

「例えば仏教徒が多数派を占めるスリランカでは、仏僧がイスラム教徒やキリスト教徒の礼拝場を襲撃している。2012年4月にはダンブラのモスクが襲われ、2012年8月には、ダニヤヤのセブンスデー・アドベンチスト教会が占拠されて強制的に仏寺に変えられる事件が発生している。」と報告書の著者は記している。

しかしKAICIIDによると、このような暗い状況も、転換することは可能だという。KAICIIDのムアンマール事務局長は、先週国連の潘基文事務総長と面会し、宗教間暴力を減らすという目標に向けて国連とKAICIID間の協力の可能性について検討した。

文書の上では、国連はすでに、対話を通じた宗教間理解と平和の問題に尽力していくことを公約している。国連「文明の同盟」(UNAOC)のような機関は、「紛争を予防し社会の調和を促進することをめざし、諸国家あるいは同一アイデンティティを持つ諸集団の間の理解を促進する」との目標をミッション・ステートメントに掲げている。

しかし、KAICIIDの活動が焦点を当ててきたように、草の根レベルで人々を関与させる集中的な努力がなければ、せっかくの高尚なビジョンも現実にはなりえない。KAICIIDは活動開始からわずか2年で、2012年の紛争勃発以来、数百人が殺害され50万人が住む場所を追われた中央アフリカ共和国において宗教間対話を成功させるなど、目覚ましい成果をみせている。

「5月8、9日から、私たちは同じような活動をしている他の諸団体との連携を確保する一方で、中央アフリカ共和国の宗教指導者と協力して、彼らが他のアフリカ諸国の宗教指導者と連絡を取り合えるよう仲介を図ってきました。」と、KAICIIDのプログラム責任者ヒラリー・ウィーズナー氏は語った。

「私たちは、世俗的な団体として外から関与するのではなく、内側から宗教共同体に関わるようにしています。そうすることで、KAICIIDと地域の宗教指導者の間の信頼感を醸成することができるからです。また、宗教を基盤にした団体は、全て合わせると世界最大の市民社会活動になるわけですから、こうしたアプローチは極めて重要だと考えています。」とウィーズナー氏は語った。

宗教と世俗的な開発の間のギャップ解消に取組んでいる「世界宗教対話開発機構」(WFDD)のキャサリン・マーシャル代表は、「サハラ以南のアフリカでは、保健サービスの7~70%が宗教関連の組織によって提供されています。」「こうした宗教関連組織は、世界最大のサービス提供システムを構成しており、国連の全加盟国にあたる193ヵ国が2000年に合意した貧困削減目標である『ミレニアム開発目標』(MDGs)を達成するうえで不可欠な存在なのです。」とIPSの取材に対して語った。

世界銀行が2008年に行った調査によると、アフリカ大陸各地の宗教団体が、政府が残した隙間を埋める役割を果たしていた。例えば、福音派の慈善・開発団体「ワールド・ビジョン」は、2002年に対アフリカ支援予算として12億5000万ドル(約1271億円)を組んでいた。

マラウィでは、「教会キリスト教奉仕団(CSC)」が、同国政府の開発予算全体を上回る規模の年間予算で活動していた。

また南アフリカ共和国では、カトリック教会が2012年、同国政府よりも多くの抗レトロウィルス(ARV)療法をHIV/AIDS患者に提供していた。

しかしこうした宗教団体が持っている大きな潜在力は、世界のメディア報道の見出しを頻繁に飾っている(宗教に関する)否定的なストーリーによって、往々にしてかき消されてしまっている。

「(現在メディアのヘッドラインを飾っている)宗教の負の側面に関する最悪の事例と言えば、中央アフリカ共和国やマリでの宗教紛争は言うに及ばず、ウガンダやナイジェリアにおける反同性愛法案のような問題が含まれます。」とマーシャル代表は語った。

「まず最初に知識が必要であり、そして次に宗教リテラシー(宗教的識字率/宗教知識の展開能力)が必要なのは、まさにこのためなのです。開発分野に従事している人々の中で、例えば、カトリック司教会議がどこで開かれているのかとか、スンニ派シーア派ムスリムの違いは何かといったような、宗教生活の複雑さに関する教育を受けている人があまりにも少ないのが現状です。」とマーシャル代表は語った。

またマーシャル代表は、「もう一つの忘れられている問題は、平和維持における信仰に生きる女性の役割です。宗教とのつながりがある女性は、修道女であれイスラム教徒であれ、公式の地位を持たないために、目に見えない傾向にあります。…しかし、彼女たちの活動の多くは、平和のための最も重要な活動なのです。」と語った。

ウィーズナー氏が言及しているように、「宗教は文化の一部分に還元できるわけではない。個人や社会の生活における宗教的・精神的側面はそれよりも遥かに奥深いものである。私たちは、全ての人々のよりよき生のために、こうした信仰に生きる責任ある道を推進する必要がある。」(原文へ

翻訳=IPS Japan

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2015年以後の開発問題―飢餓に苦しむ者の声に耳は傾けられるだろうか?

【ローマIPS=ジェネビーブ・L・マシュー】

ミレニアム開発目標(MDGs)は2015年に期限が切れ、持続的可能な開発目標(SDGs)がその後を受け継ぐ。SDGsは、貧困と飢餓撲滅への国際社会の関与を強化するものだ。

David Taylor/ Oxfam
David Taylor/ Oxfam

SDGs策定にあたっては、全ての人に食料安全保障及び栄養を確保することが極めて重要である。「全ての人を食べさせるのに十分な食料を生産している世界において、飢餓に苦しむ者がいる現状については弁解の余地はありません。」と「オックスファム・インターナショナル」のデイビッド・テイラー政策アドバイザー(経済的公正)はIPSの取材に対して語った。

しかし、世界食糧計画(WFP)は、依然として、世界の8人に1人にあたる8億4200万人が栄養不良状態にあるとしている。

テイラー氏は、「『2015年までに極端な貧困と飢餓に苦しむ人口を半減させる』というMDGの第一目標は、達成される見込みとされていますが、とりわけサブサハラ地域をはじめとする多くの地域において慢性的な飢餓が発生しており、進展具合には大きな差があります。つまり、食料・農業問題に関しては依然として大きな課題が残っているのです。」と指摘したうえで、「従って、2015年以後の後継枠組みにおいては、飢餓ゼロを目標とする新しい道筋が示されなくてはなりません。」と語った。

「MSGsの後継枠組みとしてのSDGsに関する議論は、2012年6月の『リオ+20会議』で始まり、その結果、『SDGsに関するオープンワーキンググループ(OWG)』が2013年1月に設置されました。」と、国連食糧農業機関(FAO)のドリアン・カラムブレゾス・ナバロ調整官(ポスト2015SDGs担当)はIPSの取材に対して語った。

OWG/ Sustainable Development Knowledge Platform
OWG/ Sustainable Development Knowledge Platform

6月2日、5大陸から96ヵ国が参加しているOWGは、2030年までに達成すべき目標を17項目掲げた「SDGsゼロドラフト」を発表した。またOWGは、国連の40機関から成る「国連システム技術チーム」の支援を受けている。

「オックスファムは、『SDGsゼロドラフト』の内容については、飢餓を削減することに止まらず終わらせるとの目標を掲げたことや、小規模生産者や女性、その他の社会的に排除されてきたグループを支援することを強調している点など、多くの目標を歓迎しています。」とテイラー氏は語った。

「効果的な枠組みを作ろうとするならば、適用可能な指標を設定する必要があります。これは非常に難しいプロセスです。」と、FAO経済社会開発局長で、ポスト2015年の問題に携わるジョモ・クワメ・スンダラム氏は語った。

Jomo Kwame Sundaram, the assistant secretary-general for economic development/ UN Photo/Mark Garten
Jomo Kwame Sundaram, the assistant secretary-general for economic development/ UN Photo/Mark Garten

以前MDGsの18の目標は、「食の権利に関する国連特別報告者」オリビエ・デシューター氏といった人々から「最も容易に入手可能なデータを基礎にして策定されており、貧困や飢餓の背後にあるより根本的な原因を無視している」と批判されていた。

スンダラム局長は、「国際社会は、SDGs策定にあたっては、適切な目標や目的を特定する必要があります。つまり、開発効果の測定が容易かつデータが入手可能であり、そしてもちろん有意義なものでなければなりません。」と指摘した。

またスンダラム局長は、「不平等と気候変動という2つの主要な不正義が、貧困と飢餓を逃れようとする数多くの人びとの努力を台無しにし続けていることを考えると、(『SDGsゼロドラフト』に)不平等の削減、気候変動、そしてもちろん(FAOが取組んでいる)食料安全保障に関する目標が含まれていることは、極めて重要であり、歓迎すべき第一歩だと考えています。」「しかし、加盟国が次のドラフトを検討し、目標および目的の数値を絞り込む中で、不平等と気候変動の目標が削除される危険があります。」と指摘した。

「MDGsは、開発効果を支持する国際世論を喚起し、政治的弾みをつけることに成功してきましたが、ポスト2015年の課題設定の目的は、こうした機運にさらに弾みをつけることにあります。」とナバロ調整官は語った。

政府開発援助(ODA)の水準が急落していることを考えると、この問題は重要である。経済協力開発機構(OECD)によると、ODAは2011年に実額で2%減少したのに続き、2012年には4%減少している。

さらに、FAOの報告によれば「食料安全保障」と「貧困削減」の間には正の相関関係があることが示されているにもかかわらず、途上国における農業投資は、この数十年で劇的に減少している。

SDGsに込められた「責任を共有していく」という考え方は、開発効果を支持する国際世論と政治的な支持を維持していくうえで役立つだろう。「MDGsは基本的に途上国および後発開発途上国のみをターゲットとしたものでしたが、SDGsは、世界的な課題の中に位置づけられた普遍的な性格をもつものとなるでしょう。」とナバロ調整官はIPSの取材に対して語った。

MDGsの策定プロセスが当事者を十分に巻き込んだものではなかったとの批判の中、「あらゆる分野の利害関係者がより関与した形で参加し、効果的なパートナーシップを組むことが、ポスト2015年の枠組みにおける重要要素として位置づけられてきました」とナバロ調整官は語った。

例えば、すべての当事者間のギャップを埋め、世界的交流と対話を促進するため、「国連開発グループ(UNDG)が各国および地域レベルで一連の利害関係者協議を開き、11の世界的なテーマ別の協議を持っています。」とナバロ調整官は語った。

世界資源研究所(WRI)のマニッシュ・バプナ代表は、「このプロセスは極めて重要です。」と指摘したうえで、「変動する気候や加速する都市化、移りゆく人口動態を考えると、ポスト2015年の開発課題は「誰も置去りにしない共有された普遍的なもの、そして、先進国および途上国双方から行動を引き出すようなものでなくてはなりません。」とIPSの取材に対して語った。

そうしたものとして「食料安全保障は、社会的、環境的、経済的側面を統合することで、普遍的に関連性があり、(ポスト2015年の課題に向けた)『トリプル・ウィン』になる領域の好例と言えるでしょう。」とナバロ調整官は語った。

さらにナバロ調整官は、世界的な食料安全保障を達成するために、「新たなグローバル・パートナーシップは三角協力あるいは南南協力を強調し、組織的なものであってもそうでなくても、よい実践例の交流に焦点を当てるものでなくてはなりません。」と語った。

そうしたパートナーシップの一例が、オックスファム・インターナショナルも一員である「2015年を超えて」連合である。「2015年を超えて」は、環境の持続可能性や人権、公正、グローバルな責任といった共通の価値をベースとしたポスト2015年の強力かつ正統性を得た枠組みを推進する、先進国と途上国双方の市民団体から主に構成される世界的キャンペーンである。

国連事務総長は、このプロセスの中でなされたさまざまな貢献を考慮に入れながら、2014年末に向かってポスト2015年の課題を提示することになるとみられている。2015年9月の ハイレベルサミットにつながる予定の、ポスト2015年開発課題に関する政府間交渉は、SDGs最終版の発表と同時期になるものと考えられている。(原文へ

INPS Japan

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|UAE|シェイク・ザイード・グランド・モスクが2014年「トラベラーズ・チョイス」ランキング第二位に

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビにあるシェイク・ザイード・グランド・モスクが、世界最大の旅行サイト『トリップアドバイザー』(月刊訪問数約2億6千万件)が6月17日に発表した『2014年読者が選んだ世界の観光ベストアトラクション25』の第二位にランクインした。

同サイトは、シェイク・ザイ―ド・グランドモスクについて「グランド(壮大な)という言葉はむしろ控えめな表現だ。建築構造、白い大理石と美しく手入れが行き届いた緑あふれる庭園は想像を超える美しさだ。」と紹介している。

過去1年に寄せられた読者投稿を解析した今年の『世界観光ベストアトラクション25』によると、シェイク・ザイ―ド・グランドモスクが、「愛の寺院」としても世界的に有名なインドのタージ・マハル(3位)を抑えて2位にランクインした。

第1位に選らばれたのはペルーのマチュ・ピチュ遺跡、4位以下は、スペインのメスキータ(4位)、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂(5位)、カンボジアのアンコールワット(6位)、同国のバイヨン寺院遺跡(7位)などである。

Sheikh Zayed Grand Mosque/Trip Advisor
Sheikh Zayed Grand Mosque/Trip Advisor

同サイトによると、シェイク・ザイード・グランド・モスクは、UAE国内で挙げられた70のアトラクションの中では一位だった。

トリップアドバイザーの読者が選ぶベストランキングは今年が2年目。929の観光アトラクションがトラベラーズ・チョイス(Travellers Choice)に選ばれ、上記の『世界の観光ベストアトラクショントップ25』のほか、アジア日本、オーストラリア、カナダ、欧州、インド、メキシコ、南米、南太平洋、英国、米国に限定したランキングも公開している。

トラベラーズ・チョイスは、数百万件に及ぶ旅行者が投稿した感想や意見をもとに、最も人気の観光スポットをウェブサイト上で表彰するもので、1年間に亘って投稿された観光施設や遊園地のアトラクションに関する感想・意見の量と質を考慮したアルゴリズムを使用してベストランキングを割り出している。

バレレと名乗る旅行者は、シェイク・ザイード・グランド・モスクについて、「巨大で豪勢だ!」「確かにアブダビで一番の景勝地だ。建物・敷地内を歩いて回り写真撮影を楽しみました。建物があまりにも白いので時々目が眩むほどでした!…至る所に職人芸の粋が見て取れました。特に大理石張りの象嵌細工と色鮮やかなシャンデリアが気に入りました。また、礼拝ホールのカーペットも世界一大きな手織りカーペットだそうです。アブダビを訪問する人は、ここは外せないスポットです!女性の旅行者もご心配なく。モスクの入口でアバヤを無料で貸してくれます!」と書き込んでいる。

翻訳=IPS Japan

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途上国では疾病よりも死の原因となる公害

【アックスブリッジ(カナダ)IPS=スティーブン・リーヒー

途上国では疾病ではなく公害こそが最大の死亡原因であり、毎年840万人以上が公害が原因で亡くなっているとの分析調査結果が明らかになった。この数値は、マラリアによる死者数の3倍、HIV/AIDSによる死者数の14倍である。にもかかわらず、公害問題は依然として国際社会からほとんど注目されていないのが現状である。

Richard Fuller/ Blacksmith Institute
Richard Fuller/ Blacksmith Institute

公害と健康に関するグローバルアライアンス(GAHP)」のメンバーとしてこの分析調査を実施した「ピュア・アース/ブラックスミス研究所」のリチャード・フラー所長は、「汚染地域は、大気汚染、水質汚染を引き起こし途上国の保健システムに多大な負担を及ぼしています。」と語った。GAHPは、中・低所得国における化学物質・廃棄物・毒性汚染の除去をめざす国際協力組織(2国間・多国間国際組織、政府、学会、市民社会組織が加盟)である。

「大気汚染や化学物質による環境汚染が途上国で急速に広がっています。地域住民が晒されている健康被害を考えると、今後の影響は極めて深刻です。」とフラー所長はIPSの取材に対して語った。

「しかし、途上国が直面しているこうした深刻な未来は、先進国が概ね自国の公害問題の解決に成功していることからも明らかなように、支援の手さえ差し伸べれば、十分防ぐことが可能なのです。ところが、公害問題は、現在策定中の持続的可能な開発目標(SDGs)からは外れているのが現状です。」とフラー所長は語った。

UNDESA
UNDESA

SDGsは(2015年以降の)向こう15年間にわたって国連開発援助計画を規定する「ポストミレニアム開発目標(MDGs)」に組込まれる重要な要素で、援助機関や世界の援助供与国は、2015年9月に発表されるこの新開発目標に沿って、資金拠出や援助を実施していくことになっている。

「公害はしばしば『見えない殺し屋(Invisible Killer)』と呼ばれています。…保健統計は公害ではなく疾病関連のデータを計測するため、公害がもたらしているインパクトは把握しづらいのです。」「その結果、公害問題は、実際には早急に真剣な対策が必要であるにもかかわらず、しばしば比較的小さな問題として誤って扱われてしまう傾向にあるのです。」とフラー氏は語った。

GAHPの分析は、世界保健機関(WHO)などによる最新のデータを利用して行われたもので、年間740万人の死因が、大気汚染、水質汚染、及び衛生状態の不良によるもの、さらに約100万人の死因が、貧しい国々の中小規模の製造業が垂れ流している毒性化学物質や産業廃棄物が大気中や、水、土壌、食物を汚染したことによるもの、と結論付けている。

「こうした国々においては、環境汚染が及ぼす健康被害が感染症や喫煙による被害を上回っています。」と、ニューヨーク市立大学環境衛生学の教授でブラックスミス研究所の技術アドバイザーを務めているジャック・カラバノス氏は語った。

「鉛、水銀、六価クロム、旧式の農薬で汚染された何千何万という汚染地域で起こっている健康被害を評価するのは極めて至難の業です。」とカラバノス氏はIPSの取材に対して語った。

しかし、この問題に関する調査はまだ緒に就いたばかりであることを考えると、100万人という数値は過小評価である可能性がある。「私たちはつい最近も、東ヨーロッパで、極めて毒性が強い化学物質を含む旧式の農薬が大量に投棄されていた場所を発見しました。」とカラバノス氏は言う。

Blacksmith Institute
Blacksmith Institute

「こうした化学物質はひとところに留まるというわけではありません。雨で地中や河川に押し流されたり、風で遠くまで飛散して農作物に付着することも少なくないのです。」とカラバノス氏は語った。ブラックスミス研究所の2012年の調査では、鉱山からの廃棄物や鉛溶鉱炉、産業廃棄物などのために、49か国で1億2500万人の健康が侵されているという。

「私たちはこれまでに、周辺の大気、土壌、水を汚染している200ヵ所以上のホットスポットを特定してきました。健康被害を被ってきた周辺人口の数は約600万人にのぼります。」「そしてそうしたホットスポットの中には、鉛酸蓄電池や中古車バッテリーのリサイクル過程で流出した鉱毒が周辺に鉛中毒を引き起こした事例や、電子廃棄物解体施設で焼却されたケーブル類から発生した毒性の強い煤煙が周辺地域を汚染した例などが含まれます。」とガーナ環境保護庁のジョン・オウワマン氏は語った。

「また近年次々と発表されている科学的証拠から、癌、心臓病、糖尿病、肥満、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、自閉症、アルツハイマー病、鬱病など多くの疾病が、体内に増え続けている有害化学物質と関係していることが明らかになってきています。」と新書『毒された惑星:いかにして化学物質への恒常的露出が命を危険に晒しているか』の著者であるジュリアン・クリッブ氏は語った。

またクリッブ氏は、「これまでに14万3000種類の人工的化学物質が作られ、それとほぼ同種類の化学物質が採鉱活動や化石燃料の燃焼、ゴミの廃棄によって自然界に放出されてきました。」と指摘したうえで、「国連によると、人体や環境への影響が未確認の新しい産業化学物質約1000種類が、毎年新たに自然界に排出されています。」と語った。

世界各地のGAHPメンバー(支援団体リスト)は、国連に対してSDGs策定過程において公害問題を重視するよう強く働きかける一方で、立場表明文書と独自のSDG改訂版テキストを作成した。これらの文書は、来週ニューヨークで開催される「SDGsに関するオープンワーキンググループ」に提出される予定である。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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