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|南米アマゾン|ヤノマミ族虐殺をめぐる謎


【カラカスIPS=ウンベルト・マルケス】

ベネズエラ南部のアマゾン奥地で7月上旬、先住民ヤノマミ族の80人がブラジルから越境してきた違法金鉱採掘業者(ガリンペイロ)らによって虐殺されたと報じられている。虐殺の生存者3人が報告した。

ベネズエラ最南部のアマソナス州(175,750平方キロ、15の先住民族グループの故郷)で活動しているカトリック教会のホセ・アンヘル・ディバソン司教によると、近年、ブラジルから金の採掘者が違法に越境し、ヤノマミ族と関係を築いて便宜を図ってもらおうとしていたという。しかし、時としてその関係が崩れることがある。同地では1989年から環境保護法が施行され鉱業が禁じられていた。

 8月27日、「オロナミ・ヤノマミ機構」は、アマゾナス州都プエルト・アヤクチョの検察に対して、7月上旬にイロタテリ部落で起こった虐殺の様子について調査するよう要請した。ホロナミの指導者ルイサ・シャチヴェ氏は、森に猟に出ていて難を逃れた3人の生存者の証言として、「ガリンペイロらはイロタテリ部落に突然ヘリコプターで現れ、爆発音と銃声が聞こえたと思うと、彼らの集落(シャボノ集落:巨大な木と藁葺きの円形の家で、中央の広場を囲む形になっており、多くの家族がその中でそれぞれのスペースを割り当てられて一緒に暮らしている:IPSJ)がもう燃えていた。集落には80人のヤノマニ族が暮らしていた。」と検察当局に報告した。

後にイロタテリ部落を訪れた隣の部落(ホコマウェ)の住民も、集落が完全に焼き払われているのを発見。ある家屋では黒こげの死体や骨を見つけた。「オロナミ・ヤノマミ機構」によると、知らせを受けたシャチヴェ氏は、7月27日に、同地域を管轄するベネズエラ陸軍第52部隊に事件の報告を行った。

ブラジル社会環境協会のマルコス・デ・オリヴェイラ氏はベネズエラの日刊紙エル・ナショナルの取材に対して、「負傷したイロタテリ事件の生存者は、国境を越えてブラジル側のヤノマミ族の村落に逃れ、手当を受けた後、親戚がいる部落に引き取られた。」と語った。

世界中の部族の人びとの権利を擁護してきた国際団体「サバイバル・インターナショナル」は9月3日付の声明の中で、「事件が報告された部落はかなりの僻地にあるため、死体を目撃した部族民が最も近い集落に悲劇を伝えるまでに数日歩かなければならなかった。」と述べている。

アマゾナス地域の13の先住民族団体も「ホロナミ・ヤノマミ機構」の告発に連帯を表明し、「オカモ川(オリノコ川の支流)上流のヤノマミ族居住地域は、ブラジルからのガリンペイロの侵入によってこの4年間被害を受けてきた。」と声明で述べている。

先住民族らは同声明の中で、「2009年以来、我々はベネズエラ政府当局に対して、採掘業者らによる暴力や脅迫、女性の搾取、水銀による環境汚染(1グラムの金を採るには通常2グラムから3グラムの水銀が必要とされる:IPSJ)などで多くのヤノマニ族が死亡していると訴えてきた。にもかかわらず、ベネズエラ当局はガリンペイロを追放する効果的な対策やこの地域への侵入を取り締まる計画を策定していない。」と述べている。

その上で先住民らは、「生命・健康・文化的統合が危機に晒されているヤノマミ族の苦境に対処するための取り組みを、ブラジル政府との二国間協力の合意のもとに実施する」よう、ベネズエラ政府に要求した。また彼らは今回の事件が、(ヤノマミ族16人が採掘者に殺された)1993年のハシム虐殺(写真はハシム虐殺の犠牲者の遺灰を収めた壷を抱く生き残ったヤノマミ族の遺族達)から20年近く経過して起こった点を強調した。

1993年の6月と7月、ガリンペイロらがブラジル‐ベネズエラ国境にあるハシムで16人のヤノマニ族を殺害した(当時ニューヨークタイムズ紙は実際の犠牲者は76人に達すると報じた)。虐殺に関与したとみられた24人のうち、5人が有罪宣告を受けブラジル国内で収監された。その後15年にわたる法手続きを経て、ベネズエラ政府は、ヤノマニ族定住地域において監察、管理、保護、ヘルスケアの提供を行うべきとする、米州人権委員会の要求に合意した。

「(今回の虐殺が)ベネズエラ史上初めて先住民の権利が憲法に明記され(ウーゴ・チャベス左派政府の下で)社会主義建設に向けた革命が進行している中で起こったことは、実に腹立たしい。」と先住民と連携して環境保全に取り組む団体の責任者であるルスビ・ポルティージョ氏はIPSの取材に応じて語った。

サバイバル・インターナショナルのスティーヴン・コリー代表は、「全てのアマゾン地域に領土を有する各国政府は、「地域に蔓延った違法採掘、違法伐採、先住民居住地域への違法入植活動を停止しなければなりません。こうした違法活動が、先住民の男女・子どもの虐殺に繋がっているのです。ベネズエラ政府当局は、迅速に犯人に裁きを受けさせ、今後は先住民を殺害すれば必ず罰せらるというメッセージを地域全体に送らなければなりません。違法採掘及び違法伐採はやめさせなければなりません。」と語った。
 
イェクアナ族出身のニシア・マルドナド先住民族相は、9月1日、国営テレビの取材に対して、軍・検察官などからなる政府の調査チームが虐殺があったとされるジャングル奥地にヘリコプターで向かったが、「いかなる殺害が行われたという証拠も発見できなかった。」と語った。

タレク・エル・アイサミ内務・司法相は、9つあるヤノマミコミュニティーのうち7つにコンタクトをとったが、暴力の痕跡は確認できなかった、と語った。また、ヘンリー・ランゲル国防相も、「いわゆる虐殺というものは確認されなかった。これはおそらく数週間前に誤って報道された暴力事件と混同したものかもしれない。」と語った。

サバイバル・インターナショナルは、こうした政府側発表について「私たちは、政府の調査チームが、虐殺が行われた地域に到達さえしていないと考えています。このような状況下では、事実関係が分別を持って立証されるまでに(もし立証されればだが)長い時間がかかるのは、当たり前のことです。」と述べている。

オカモ川上流域で活動している宣教師のように虐殺の起こった地域に詳しい人々は、イロタテリ部落に到達するには歩いて数日を要すると述べている。

報道によればガリンペイロスらは、こうしたジャングルの奥地に到達する手段としてヘリコプターを使っており、上空から発見されないよう、森の木々を伐採せず、隠れ蓑にして採掘活動を行っているという。

ヤノマミ族は狩猟・採集を主な手段として生活しているラテンアメリカ最古の先住民の一つで、ベネズエラ南部の一部とブラジルのロライマ州とアマゾナス州が接する地域に、約20,000人が暮らしている。彼らがここアマゾン熱帯雨林地域に暮らし始めたのは約25000年前に遡るといわれている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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「国際食糧価格が再び歴史的な高騰」と世銀が警告

【ワシントンIPS=キャリー・バイロン】

世界銀行が8月30日に発表した統計によると、ここ数か月下落傾向にあった世界の食糧価格が一転して再び高騰している。7月の価格は前月より10%高く、世界で取引されている食料品価格の動きを示す世銀の食料価格指数も7月は前年同期比で6%の増となっている。

ジム・ヨン・キム世界銀行総裁は、「食料価格の高騰で数百万の人々の健康と生活が脅かされている」とし、「特に影響を受けやすいのはアフリカや中東だが、穀物価格が高騰している他の国々の人々への影響も大きい」と懸念を示した。

この統計(世銀の四半期報告書「フードプライスウォッチ」)によると、7月は前月よりも、トウモロコシと小麦の価格は25%、大豆は17%上昇した。その結果、穀物価格全体では、最近の価格ピーク時である2011年2月よりも1%上回っている。

 キム総裁は、世銀がこの状況を受けて過去20年で最大レベルの農業支援体制をとっている点を指摘したうえで、「この歴史的な食糧高騰に直面して、多くの家庭が子ども達の通学を控えさせ、栄養価のより低い食糧の摂取を余儀なくされています。危機的な状況を回避するためにも、世界各国の政府は、最も影響を受けやすい人々を保護するための政策やシステムを強化しなければなりません。」と語った。

ここ数か月間、食料問題に関するNGOなどは、ほぼ危機的レベルに達した食糧価格の再高騰問題に対する国際機関や各国政府の反応の鈍さを批判していた。「オックスファム」のコリン・ローチ氏は、「今回の世銀レポートは、食糧価格の急激な変動に対する行動が緊急に求められているという警鐘を各国政府に鳴らしたものといえるが、彼らが聞く耳を持つかどうかはわからない」と語った。

8月27日、国連食糧農業機関(FAO)のジョゼ・グラジアノ・ダ・シルバ事務局長は、G20に対して、食糧価格高騰に対する協調行動を求めたが、G20は、米国の9月の作物統計が発表されるまでは様子見の姿勢を取ることを決めた。

これに対してローチ氏は、「G20は、食料価格の上昇が制御不能となり、より多くの人々が飢餓に追い込まれる前に、今こそ行動を起こさなければなりません。とりわけ世銀報告書が、食料価格が引き続き変動しやすく高止まりになると警告している中で、G20がこのような様子見の態度を示している現状は、全く受け入れられるものではありません。」と警告した。

持続可能な農業政策の復活が鍵

今日、米国と欧州の一部を席巻している旱魃に対する懸念が高まっている。米国はトウモロコシと大豆の世界最大の供給国であることから、米国一国の旱魃状況の結果によっても、世界の穀物備蓄や食糧価格は、壊滅的な影響を受ける可能性がある。

8月中旬現在で、米国政府は国内1800近くの郡を、厳しい旱魃による被災地と分類した。今年の旱魃は、たとえ間もなく収束したとしても、多くの穀物について既に今年の収穫分を台無しにしてしまっている。

7月下旬までに、米国産トウモロコシの4分の3近くが、公式に極不良(Very Poor)から普通(Fair)と評価された。5月の時点では記録的なトウモロコシの豊作が予想され、多くの人々が、その余剰穀物で枯渇した諸外国の食糧庫を支援できると期待していただけに、6月以降の不作は思わぬ展開であった。

最新の世銀報告は、食料価格が2008年以降高止まり傾向を示す一方で、今年も昨年に引き続き作況が不安定な状況が続いている深刻な現状を浮き彫りにしている。

2008年には複合的な要素が重なり合って、突如歴史的な食糧価格の高騰と食糧不足が発生し、世界的に深刻な状況に陥った。当時、突然の展開に驚いた政策責任者も多く、これが契機となって、それまで20年に亘った農業部門に対する世界的な投資削減傾向が逆転されることとなった。

「2008年に現出した食糧価格高騰の問題は、とりわけ開発途上国を悩ませ続けています。その後、農業に対する投資の必要性が見直されてきましたが、それらは高度な技術を中心とした長期的な研究に偏っており、180度の発想転換が必要です。」と、ワシントンDCに本拠を置く「ワールドウォッチ研究所」のNourishing the Planet(地球を養う)プロジェクト責任者であるダニエル・ニーレンバーグ氏は語った。

ニーレンバーグ氏は、2008年危機後に復活した農業政策において見過ごされているものは、「機能すると既に私たちが知っていること」だと言う。つまり、雨水や自然の肥料を使った持続可能な農業に目を向けることである。また、ニーレンバーグ氏は、近年軽視されてきた、各国ごとの穀物及びその他食糧の備蓄政策を復活すべきだと指摘した。

「今回の旱魃経験から希望の兆しを見出すとすれば、それはおそらく、欧米諸国が多くのアフリカ農民が旱魃と闘う知恵として実践してきた持続可能な知恵に改めて着目できるのではないかという点です。今こそ、欧米諸国が開発途上国に関心を向ける良い機会です。途上国の農民には多くの学ぶべきものがあるのです。」とニーレンバーグ氏は語った。

変わりゆく農業

ニーレンバーグ氏は、現在進行している状況の全貌が理解されるまでに、少なくとも1年はかかるだろうと見ている。一方、専門家の中には、今日の状況はおそらく新たな日常になるのではないかと示唆する者もいる。

地球政策研究所のレスター・ブラウン氏は、IPSの取材に対し、「私たちは豊かな時代から欠乏の時代への過渡期に差し掛かっているのではないかと感じている。」と語った。

ブラウン氏は、その背景として、世界の人口が急激に増えていることだけではなく、人びとがより豊かな食生活を目指すようになっているという事実にあると指摘した。この10年間だけでも、世界の穀物需要は年間2100万トンから4100万トンにまで伸びた。

近年、とりわけ2008年の経済危機に向けて、バイオ燃料需要が穀物備蓄に及ぼす影響が幅広く感じられたものだが、ブラウン氏によると、バイオ燃料需要は既に下落傾向にあるという。

「最も一般的なバイオ燃料であるエタノール問題を別に考えたとしても、私たちが直面している大きな問題は、世界中で30億もの人々の食糧需要、とりわけ中国において肉需要が急速に伸びるてきている現実である。」とブラウン氏は語った。

一方、長年に亘って、肥沃な土地が世界各地で益々不足してきている実態が明らかになってきている。さらに今日では、世界3大穀物製造国である中国、インド、米国をはじめ、世界各地で灌漑用水の不足が顕在化してきている。

ブラウン氏は、「私たちが知っている形態の農業は、1万1千年にも亘って驚くほど気候が安定した時期に発達したもの、すなわち、気候体系の中で最大の収穫を挙げるようデザインされたシステムだということを理解する必要があります。」と指摘した上で、「しかし今日、この気候体系が変化しつつあります。つまり気候が常に不安定な時代に突入しており、年を経るごとに気候体系と農業体系が、お互いに少しずつ調和を保てなくなってきているのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|イエメン|「ドローン攻撃は効果があるというよりもむしろ害となっている。」とUAE紙

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【アブダビWAM】

「テログループを追跡し国際テロ組織アルカイダその他の武装反乱勢力を撲滅する行為は正当なものである。しかしだからといって、その過程で無辜の人々の命が奪われることは決して許されることではない。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙が報じた。

「このまま民間人の死者が増え続けると、政情不安は益々深刻化し、アルカイダに対する戦争の目的そのものが頓挫しかねないことになるだろう。犠牲者の多くは、米軍が反政府武装テロリストを抹殺する手段として採用した作戦上の手法(ドローン攻撃=無人攻撃機による攻撃)が実施に移された状況の中で命を落としているのだ。」とガルフ・ニュース紙は9月7日付の論説の中で報じた。

 「米軍はテロリストと認定された個人を追跡・抹殺する手段として、イエメンを含む様々な国で無人攻撃機を利用する方針を打ち出している。しかし、ドローン攻撃は、一方で効果が確認されているものの、誤爆・巻き添えなど、ターゲットを捕捉・殲滅する過程で、周りの無関係な住民を無差別に巻き込んできたことから、厳しい批判に晒されている。」と同紙は付加えた。

9月2日、アルカイダのメンバーを狙ったとみられるドローン攻撃が行われ、女性を含む13人の市民が殺害される事件が発生(イエメン中部ラッダ地区で、無人機が車列を空爆し、アルカイダメンバーとみられる10人と、同乗していた女性3人が死亡。標的であったとされるアルカイダ幹部アブドゥラフ・ダハブ容疑者は生きているという:IPSJ)し、イエメン各地で抗議の声が上がっている。アブド・ラッボ・マンスール・アル=ハーディー大統領(右下写真参照)も、この事態を受けて、事態を究明するための調査を命じた。イエメンでドローン攻撃を実施しているのは米軍のみである。

「イエメンをアルカイダをはじめとした武装テロ組織の拠点にさせないためにも、アルカイダとの戦いは重要である。しかしこの戦争は戦いの性質からいっても、長期に亘るものであるとともに、各関係諸機関間の密接な連携が不可欠である。そして何よりも、民間人の安全確保を最優先することが重要である。そしてそれは(同国で唯一ドローン攻撃を実施している)米国の責任なのである。」とガルフ・ニュース紙は強調した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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母になることを強いられるニカラグアの少女妊婦たち

【マナグアIPS=ホセ・アダン・シルバ】

13歳で妊娠したカルラ(仮名)はすべてを失った…1年目の中学生活も、家族も、恋人も、そして自分の幸せも。彼女は、ニカラグアの首都マナグアの路上で1年間物乞いの生活をした末に、若い母親のためのシェルターに保護された。

彼女の生活が一変したのは2006年12月のこと。小学校の教員にレイプされたカルラが妊娠3か月であることを母親が発見したのだ。母はカルラをベルトで打ちすえ、家族をもう一人養う余裕はまったくないと言って、家から追い出した。

 身重のカルラは隣人の家に身を寄せたが、食事を与えられず、街頭でお菓子を売ったり、バスの停留所で物乞いをしてしのいだ。お金やドラッグ、食べ物と引き換えに体を売ることを求める男たちからの嫌がらせに悩まされる日々だった。カルラはやがて出産したが、赤ちゃんは呼吸器不全による死産だった。

カルラは当初、国際的な子ども支援団体「コブナント・ハウス」(本部:ニューヨーク)のラテンアメリカ支部である「カーサ・アリアンザ(Casa Alianza)」によって保護された。その後15才で学校併設のシェルターに移り、そこで美容術を学んだ。現在19才のカルラは、美容部門で働きながら、彼女が「私の命を救ってくれ、私にも人権があることを教えてくれた所」と呼ぶシェルターで、今度はボランティアとして、かつての自分と同じような境遇にある若い母親たちに支援の手を差し伸べている。

カルラには、危険に晒されている子供や青少年への支援を行っているNGOの紹介で取材を行ったが、彼女のような事例は、事情に関わらず中絶を一切認めていないニカラグアで、大きな割合を占めるようになっている。
 
人口580万人のニカラグアでこの10年間に公的な医療体制の中で生まれた子どもは130万人だが、このうち36万7095件は少女によるものであり、さらに17万2535件は14才以下の少女によるものである。つまり、出生のうち13%が14才以下の母によるものだということになる。

世界的な子ども支援団体「プラン・インターナショナル」ニカラグア支部のオスマニー・アルタミラーノ博士によれば、ニカラグアにおける若年妊娠の問題は依然として深刻だが、改善しつつあるという。

「2000年現在、出産全体に占める思春期の少女の割合は31%でした。ニカラグアにおける十代妊娠の割合は、依然としてラテンアメリカ最悪であると同時に世界最悪レベルではあるものの、以前より改善してきています。」とアルタミラーノ博士は語った。

ラテンアメリカ・カリブ地域人口センターが2007年に発表した報告書によると、ニカラグアにおける十代の妊娠率はラテンアメリカで最悪の数値であった。

ニカラグアにおける出産年齢(10歳~49歳)人口は女性人口全体の65%を占めており、そのうち37%が10歳から19歳の少女である。

アルタミラーノ博士は、ニカラグアにおける10代の妊娠問題の背景には、貧困の再生産サイクルがあるという。貧困下にある少女たちは子どもを産むのに必要な身体が十分出来上がっておらず、赤ちゃんも低体重であることが多い。また博士は、そうした少女達の47%が義務教育を終えておらず、事実上教育を受ける権利を失った状態に置かれている現状を指摘した。

「彼女たちの多くは、専門的な訓練や経験を一切受けていないため、不利な条件の仕事を探さざるを得な立場に追い込まれます。一方、家族に見放されて通りに投げ出され、結果的に性的搾取の犠牲者になるケースも少なくありません。」とアルタミラーノ博士は語った。

世界保健機関(WHO)が2009年に発表した統計によると、毎年15歳から19歳の1600万人の少女が出産しており、この数値は世界における総出産数の11%を占めているという。

マナグアでストリート・チルドレンの保護に取り組む団体「キンチョー・バリレーテ協会」のカルラ・ニカラグア氏によれば、2011年に行われたある調査で、マナグアの十代の妊婦のうち60%が、親せきや同級生、隣人、さらには父親によって性行為を強要されたと答えたという。

ニカラグア社会では、妊娠・出産することは当然だという考えがあり、女性は出産を法的に強要されるという背景があるという。同国では、依然として、いかなる理由があっても妊娠中絶は法的に禁止されている。

ニカラグアでは、14才未満の子どもと性的関係を持つことは、たとえ本人の同意があったとしても、レイプとみなされ、12~15年の懲役を科すと法定している。しかし、2011年に発表された報告書「ニカラグアにおける性暴力に関する統計」によると、レイプ被害者の約40%は、司法制度を利用できる状態にはなかった。

この報告書では、政府の法医学研究所(IML)と国家警察婦人・子供課(the Comisaría de la Mujer y la Niñez)の記録が比較検討された。

同報告書は、IMLが2011年におけるレイプ被害者の法医学検査データとして総計4409件を報告しているのに対して、国家警察婦人・子供課は、検察官に取り上げられた僅か2047件しか記録していなかった。

IMLの記録によると、法医学検査が行われた少女達の85%が未成年の少女であった。そのうち、36.5%が、13歳から17歳の少女達、49%が12歳以下の少女達であった。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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核軍縮論議再活性化に努力するドイツ

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【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ

ジュネーブ軍縮会議(CD)は、わずか数か国の強国の既得権益のためにただのおしゃべりの場と化してしまった。これらの国の同意がなければ、核兵器廃絶は言うに及ばず、真の核軍縮は現実のものとして見えてこない。

ドイツのヘルムート・ホフマン大使が、すべての核兵器国を含めた[CD参加国の]64か国に対して、核兵器を世界からなくすためにCDを大いに利用しようと熱意をもって呼びかけたのは、こういう背景があってのことである。ドイツは、8月20日からCD議長国をフランスから引き継いた。

ホフマン大使は、CDが核軍縮・不拡散問題に関する新協定を交渉する唯一の常設多国間機関であるべきかという(近年慣例となってきた)論争を行うだけでは実りがない、という的確な指摘を行っている。

 ホフマン大使は、「国連ラジオ」の取材に応じて、「私は、CDがその能力を積極的に利用する、すなわち、その任務を果たすような場であれば、議長として我々の作業を司ることを光栄だと感じることができるだろうと申し上げておきたい。しかし残念ながら、我々が皆わかっているように、CDはこの10年以上、多くの理由によってそのような状態ではありませんでした。」と語った。

また、ベルリンではドイツ外務省が、議長国期間の4週間(8月20日~9月14日)を、「CDの作業に新しい命を吹き込むこと、とりわけ、核分裂性物質の生産と移転を禁止する条約(FMCT)の交渉を速やかに開始する可能性を探ることに使いたい」との意向を明らかにしている。

FMCTは、核兵器あるいはその他の爆発装置のために核分裂性物質をさらに生産することを禁止する国際条約の提案である。しかし交渉は未だに開始されておらず、条文の中身は定義されていない。

世界の二大核兵器国である米国とロシアは、核分裂性物質の定義で意見を異にしている。米国は、核分裂性物質には高濃縮ウランとプルトニウムを含み、Pu-238の割合が80%を超すプルトニウムを含まないとしている。

他方、ロシアの提案では、核分裂性物質とは、兵器級のウラン(U-235の割合が90%以上)と、プルトニウム(Pu-239の割合が90%以上)に限られる。

しかし、どちらの提案でも、民生用や軍艦の原子炉など、非兵器用途で核分裂性物質を生産することは禁止されないことになっている。

したがって、CDで近年新しい条約交渉を始めることができなかったのは驚きに値しない。この一つの理由は、CDの決定は多数決方式ではなく全会一致方式によるためである。各参加国に拒否権があるため、CDの活動は1996年以来機能不全に陥っている。

結果として、4つの主要課題(FMCT、宇宙空間における軍拡競争の防止、核軍縮、非核兵器国に対する消極的安全保証)には大きな進展がみられていない。

CD議長国フランスのジャン=ユーグ・サイモン=ミシェル大使が、CDが作業計画に関する意見の一致に到ることができなかったことを遺憾に思うとの見解を表明したのは、これを念頭に置いてのことである。しかし一方で、テーマ別討議においては、多くの参加国が「相互作用的なやり方で」見解を表明した点も、大使は付加えた。
 
ジュネーブ軍縮会議は、1979年、軍縮に関する国連の中心的な常設機関として創設された。10か国軍縮委員会(1960年~61)、18か国軍縮委員会(1962~68)、軍縮委員会会議(1969~78)など、ジュネーブにあった交渉枠組みを引き継いだ。

CDは、軍縮・軍備管理・不拡散問題を取り扱う世界で唯一の多国間交渉枠組みであり、年間に24週間開催され、会期は3回に分かれている(加盟国がアルファベット順に4週間交代で議長国を務める:IPSJ)。ドイツが議長国となるのは10年ぶりのことで、2012年の第3会期(7月30日~9月14日)の最後の議長国を務めることになっている。

ドイツ外務省筋は、「我が国は、軍縮と軍備管理を積極的に進めてきた。パートナーとともに、CDの行き詰まりを打開すべく、さまざまな取り組みを行ってきた。最近では、オランダと共同で、FMCTに関する技術的準備作業に関するイベントを開催した。」と述べている。

ギド・ヴェスターヴェレ外相は、核軍縮の必要性を繰り返し指摘し、核分裂性物質生産禁止条約を主唱してきた。この点で、ジュネーブでの協議は重要な役割を果たしている。

「ドイツを含む10か国で構成される『軍縮・不拡散友のグループ』は、ジュネーブ軍縮会議の再活性化と核分裂性物質生産禁止条約の交渉開始を繰り返し呼び掛けてきた。しかし、今日に到るまで、一部のCD参加国の妨害的な態度により、この取り組みは功を奏していない。」

行き詰まる交渉

会議の参加者は、何が問題なのかをよくわかっている。しかし、既得権益が交渉を妨げてきた。

CDの今会期では、放射性物質兵器など、新しいタイプの大量破壊兵器やそうした兵器の新しいシステムに関する、国連軍縮研究所(UNIDIR)の準備した背景説明資料を討論の素材としてきた。

この問題は1969年にマルタによって初めて国連総会に提起され、CDはその後、レーザー技術の軍事的応用の可能性の持つ意味について検討することを任務としてきた。

1975年、当時のソビエト連邦が、新型大量破壊兵器・新システムの開発と製造を禁止する国際協定案を国連総会に提出した。

しかし、西側諸国は、特定の大量破壊兵器の禁止に賛同しながらも、将来開発される兵器を特定せずに禁止する包括条約を締結することには反対した。1980年代、放射性物質兵器に関する付属機関がいくつかの作業文書を検討したが、コンセンサスは得られなかった。

議長職を終えるフランスのサイモン=ミシェル大使が指摘したように、1993年以来、付属機関は設置されていない。2002年、ドイツは、新しい脅威という文脈において、この問題を再検討する討議文書を提出した。しかし、その後も、討論はまとまっていない。

包括的プログラム

またサイモン=ミシェル大使は、1980年以降CDの議題であり続けながら、1989年以降は付属機関を要するような問題ではないと見なされてきた、軍縮に関する包括的プログラムの歴史についても概略を述べている。

核軍縮を、放射性物質兵器や生物兵器化学兵器のような他の分野における軍縮の進展と同時並行的に行うべきものとすべきかどうかということについて、各国の意見は割れている。核軍縮は、他の分野における交渉を前提とすべきではないとの意見の国もある。

CDの文書によれば、一部の国は、大量破壊兵器が非国家主体やテロリストの手に渡ることで破滅的な危険がもたらされることを今会期において強調し、ある(匿名の)国は、大量破壊兵器と同じように、安定と安全保障を脅かす能力を持つ新型の情報通信技術に焦点を当てている。

核不拡散条約(NPT)未加盟で核兵器国であるインドは、核軍縮だけではなく、国際の平和と安全を維持するのに重要なその他の兵器および兵器システムも併せて検討する「包括的軍縮プログラム」を志向している。こうしたプログラムの原則は、普遍的に適用可能かつ関連性を持つものでなければならず、この点において、CDは世界で唯一の多国間軍縮枠組みとして主導的な役割を果たすだろうというのがインドの立場である。

しかし、南アジアの核兵器国でライバル関係にあるインドとパキスタンは、コンセンサスを獲得するという点では、激しく対立している。

フランスは、効果的な国際的管理の下での全面的かつ完全な軍縮はCDの究極目標であり、国連総会がしばしば用いてきた議題であると論じている。核兵器不拡散条約は、フランスがとくに重要だと見なしたものである。

しかし、フランスの代表は、CDの今会期において、核軍縮は、放射性物質兵器や生物兵器、化学兵器などの他の分野における並行的な軍縮や、戦略的文脈の全体的な相互依存関係を抜きにして考えられるものではないと主張した。

また同フランス代表は、「我が国は、30年以上に亘って、人道的な軍縮―人間に特定の害を与えるような兵器の生産を防止あるいは中止することを目的とした条約―に向けた取り組みを行ってきた。フランスはまた、『弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(HCOC)』の普遍化を呼び掛け、弾道ミサイルの透明化を促進する上でのこの規範の重要性を強調してきた。」と付加えた。

翻訳=IPS Japan
 
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【アンマンWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)のシェイク・ハムダン・ビン・サイード・アル・ナヒヤン赤新月社(RCA)総裁は9月3日、「UAEはヨルダンのマフラクにシリア難民のためのキャンプを設営する。」と発表した。

シェイク・ハムダン総裁は、4段階からなる難民キャンプ設立計画の第1段階では、2700人のシリア難民を受け入れること、キャンプの運営はUAEの赤新月社とヨルダンのパートナー組織が共同運営する予定である旨を発表した。

「ヨルダンのシリア難民を取り巻く環境は悪化してきており、私たちは人道的な観点から、とりわけ女性と子どもに対して、適切な食料、医療、及び救援活動を速やかに提供しなければなりません。」と、現在ヨルダン国内をURE・ヨルダン移動巡回病院で移動中のシェイク・ハムダン総裁は語った。

 「シリアは私たちにとっても大切な隣人であり、早期の事態正常化とさらなる発展を希望しています。また、難民の方々が、早く祖国に復帰でき、身の安全が保証されるようになることを願ってやみません。」と語った。
 
またシェイク・ハムダン総裁は、UAEの人道支援の方針はこの分野の国際協力を一貫して支持してきた現UAE大統領の意向に基づくもので、人道的危機に直面した際には、支援枠を設けず、あらゆる国を支援対象としている。」と語った。

URE・ヨルダン移動巡回病院は、もともとマフラクを拠点としていたが、シリア難民が直面している窮状を緩和するため、ヨルダン国内各地の難民キャンプを巡回している。(原文へ

翻訳=IPS Japan 

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小島をめぐる対立で日韓関係が悪化(シャムシャッド・A・カーン防衛問題研究所研究員)

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【ニューデリーIDN=シャムシャッド・A・カーン】

韓国の李明博大統領の島根県竹島(韓国名・独島)への突然の訪問が、日韓の外交関係を悪化させている。

李大統領が竹島を8月10日に訪問した数時間後、日本政府は駐韓国大使を召喚する措置を取った。また、日韓首脳が毎年行っている「シャトル外交」を延期し、国際司法裁判所(ICJ)に領土問題をめぐる提訴を検討している。

竹島は、島根県隠岐諸島の北西157キロの日本海(韓国名・東海)に浮かぶ島で、日韓双方が領有権を主張している。韓国側は、新羅王朝時代の512年に独島が韓国に併合されたと主張し、1954年から同島を実効支配している。

 他方、日本側は、竹島は1905年(日本政府は当時無人の同島を、島根県隠岐島司の所管の竹島と閣議決定:IPSJ)から島根県の一部であったと主張している。この岩礁の領有権を巡る論争は、度々日韓外交関係が行き詰まる原因となってきた。最近では、2006年に島根県が2月22日を「竹島の日」と制定したことから、同島を巡る日韓の対立が再燃してきている。

過去において竹島は、日露戦争(1904年~05年)では日本政府のための、そして朝鮮戦争(1950年~1953年)中は米国政府のための一時的な観測所として利用された。そうしたことから、竹島が占める戦略的な位置が、日韓両国の領有論争の火種となっているのかも知れない。竹島の面積は僅か0.08㎡に過ぎないが、領有権を取得することで同島の周り200カイリに排他的経済水域を設定し、同域内の資源を管理することができるようになる。

近年、韓国政府は、竹島を含む近辺の島嶼周辺地域の防衛態勢強化を目的とした鬱陵島の海軍施設拡充をはじめ、竹島近辺の実効支配を強化するための一連の措置を講じている。日本のメディアは、韓国筋の情報として、「韓国政府は鬱陵島の海軍基地拡張について、2017年までの完了を目指している」と報じた。この拡張工事が完成すれば、韓国政府は係争中の竹島周辺の領土・領海の支配に関して、日本政府よりも優位な立場に立つことになる。

前代未聞の行動

李明博大統領
は2008年の就任以来、日韓関係を強化しようとし、「日本は韓国にとってもっとも親密な同盟国」とまで語っていた人物だけに、大統領自身による突然の竹島訪問という前代未聞の行動は、日韓両国の多くの政治アナリストからも驚きをもって迎えられた。李大統領は、今年6月にも、結果的には国内世論の反発で延期を余儀なくされたものの、軍事分野を軸とした日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の署名に尽力したばかりであった。

日韓双方の識者らは、今回の竹島訪問は、概して李大統領の国内政治上の計算からなされたものだと見ている。朝日新聞は社説の中で、「…李大統領の竹島訪問は、竹島問題をはじめとする外交問題ではなく、むしろ韓国の国内政治に対する関心を動機としたもののようだ。」と報じている。また同紙は、「李大統領が来年2月末の任期満了に向けた準備に取り掛かる中、実兄や側近らがスキャンダルで相次いで逮捕される事態が発生した。また、韓国国内には、ますます広がりつつある所得格差に対する不満が広がっている。」と付加えた。

一方、韓国日報も社説の中で、「野党各党は、李大統領の独島訪問は、近親と側近が関与した不祥事を受けて厳しくなった国内世論をなだめるために行った『政治ショー』に過ぎないとして、冷ややかに見ている。」と報じた。そして、「我々は、李大統領の独島訪問が政治的動機に基づいているどうかは分からない。大統領は、『我が国領土』のどこにでも自由に訪問できるのだから。」と付加えた。

愛憎併存

日韓関係を過去20年に亘る長期的な視点から見ると、李大統領の竹島訪問という行動も必ずしも驚くには当たらない。日韓関係は、多くの蜜月と疎遠を経ながら、歴代韓国大統領の任期最後の年には、決まって関係が冷え込むパターンを繰り返してきた。韓国の評論家オ・テキュ氏は、1990年代の金泳三大統領時代からの日韓間の「愛憎」関係を分析し、韓国大統領任期の最終年に日韓関係が悪化する「最終年シンドローム」の存在を指摘している。デキュ氏は、李明博大統領についても、今回の竹島訪問のずっと前から、同様の現象が起こることを指摘していた。
 
しかし、今回の「最終年シンドローム」が及ぼした影響は長期に亘りそうだ。日本政府は、竹島問題を国際司法裁判所(ICJ)に提訴する決意を固めたようだ。日本政府は過去にも1954年と62年に竹島問題をICJに共同で付託するよう韓国側に提案したが、韓国政府が拒否した経緯がある。


当時、日本政府は日韓関係への悪影響に配慮して、IDJへの単独提訴は思いとどまった。しかし、今回の李大統領による竹島訪問を受けた玄葉光一郎外務大臣の一連の発言から、日本政府はICJへの単独提訴を行い、韓国に対して国際的な調停を受け入れるよう、外交圧力をかけていく決意のようだ。ICJ規定では、領土問題に関する審理を行うには、紛争当事国双方がICJにおける審理に同意していることが条件となっている

影響

李大統領の竹島訪問に続く日韓間の外交的睨み合いは、両国間はもとより東アジア地域全体の協力関係にも影響を及ぼすだろう。今後短期的には、日韓間の経済関係に悪影響が出るだろう。中断したままの日韓EPA(経済連携協定)についても、近年交渉再開に向けた協議が進められていたが、今回の問題で見通しは不透明になった。

また、中国を含めた三国間での自由貿易協定の交渉についても、日本政府が韓国との「シャトル外交」延期を示唆していることから両国間の高官レベルの交渉がなくなる可能性があるため、影響があるだろう。

また、安全保障関係では、日韓両国が2011年1月より下地作りを進めてきた2つの軍事協定-日韓物品役務相互提供協定(ACSA)と軍事情報包括保護協定(GSOMIA)-の締結の行く末にも影響を与えそうだ。

日韓両国は、「慰安婦問題」など歴史認識をめぐる対立によって、緊張関係が高まってきていた。そこに李大統領による竹島訪問で領土紛争が新たに加わってきた。今後日韓間の歴史問題や領土紛争がどのようになるかは不透明な状況である。

しかしこうした問題を巡る日韓間の対立が長引けば、共通の安全保障上の脅威に対応するために想定されてきた安保協力を含む幅広い分野に影響がでてくるだろう。日韓両国は、従来より平和と安定という共通の目標を持つとたびたび表明してきたが、両国間の歴史問題と領土問題がエスカレートするようなことになれば、そうした目標は妨げられ、東アジア全体の安全保障環境にも影響が及ぶことになるだろう。

翻訳=IPS Japan

※シャムシャッド・A・カーンは、防衛問題研究所(IDSA、ニューデリー)研究員。

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|イスラム協力機構|UAE国連大使、ロヒンギャの人権保護を訴える

【ジュネーブWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)のオバイド・サレム・アル・ザービ大使(ジュネーブ国連常駐代表)は、「UAE政府は、ミャンマーで進行しているロヒンギャに対する人権侵害(殺人、脅迫、強制退去、家屋や村の放火)を非難する。」と語った。

ビルマにおける人権状況について協議するために28日にジュネーブで開催されたイスラム協力機構(OIC:1969年設立。イスラム諸国57カ国で構成)大使級会合に出席したザービ大使は、「UAEは、OICのイニシャチブ支援を通じてミャンマーにおけるロヒンギャ迫害を止めさせ、彼らの権利を保護するための措置を講じるよう、率先して国際社会に対し強く訴えかけてきました。また、UAEは、国連人権委員会に対してロヒンギャが直面している人権状況を協議する臨時会合の開催を呼びかけています。」と語った。

 同OIC大使級会合では、アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官が、ビルマにおけるロヒンギャの人道的状況に関するプレゼンテーションを行った。

またザービ大使は、ビルマにおけるロヒンギャ迫害問題について調査する委員会を設置し、同国に特使を派遣するとしたOIC第4回臨時首脳会合(8月14日~15日:メッカ)の決定を支持すると語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|南アフリカ|「パレスチナ占領地」製品の表記義務付けを決定

【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙は、南アフリカ共和国が新たに導入した輸入政策について、「イスラエル占領下にあるパレスチナの人々の苦難に光をあてる重要な政策」と賞賛した。

パレスチナの人々は、依然としてイスラエルの占領下での暮らしを強いられているが、全ての基本的人権を享有している。イスラエル政府が彼らの権利の多くを奪ったからといって、パレスチナの人々が今日の窮状から脱する希望までもが閉ざされてしまっている訳ではない。」と英字日刊紙「ガルフ・ニュース」は8月24日付の社説の中で強調した。

 同紙は、南アフリカ政府による今回の決定は、おそらく非常に長期に亘って、パレスチナ人に大きな影響を及ぼすことになるだろう、と指摘した。

南アフリカ政府は22日、イスラエル占領下のパレスチナから輸入された全ての製品に「パレスチナ占領地(Occupied Palestinian Territory)」と書かれた商品タグを付けることを承認した。ガルフ・ニュース紙の説明によると、この政府の決定は、商品の製造国がイスラエルではないことを、消費者が認識できるようにするためだという。

ジミー・マニ報道官は記者会見で、「商品タグの義務付け措置は、国連が1948年に(イスラエル、パレスチナの境界として)画定したラインを支持し、この国境を越えたいかなる占領地もイスラエル国家の領土として認めない我が国、南アフリカ共和国の立場と一致するものだ。」と語った。

「南アフリカ共和国の決定は、何が合法で何が非合法なのかを明確に区別した極めて重要な措置である。つまり、この措置によって、農産物の輸出に従事するパレスチナ人の活動は合法である一方、彼らの土地を占領し生活手段を奪う(イスラエル政府の)行為は非合法だということが、示されることになるのである。」とガルフ・ニュース紙は報じた。

南アフリカ共和国が導入した今回の措置は、イスラエル占領下にあるパレスチナ人の苦境に改めて焦点をあてることになることから、極めて重要である。

「この措置は、犠牲者の苦境を決して忘れないというメッセージを消費者が共有できる効果を期待できることから、今後同様の措置が採られるようグローバルな取り組みがなされるべきだ。」とガルフ・ニュース紙は強く訴えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|米国|干ばつで明らかになる「非論理的な」水管理

【ニューヨークIPS=カルロタ・コルテス】

この夏米国の大半を見舞っている大干ばつは、都市化の進展や人口増加等により、ますます大きな負荷がかかっている水資源を、よりよく管理する必要性を物語っている。

8月10日、米農務省は、世界全体の4割を占める米国のトウモロコシ生産は、今年は予想より17%減になり、来年の食料価格全体は3~4%押し上げられるであろうと発表した。

 しかし、ミズーリ大学エクステンション校(ブルームフィールド郡)の農業・農村開発専門家ヴァン・エアーズ氏は、今後も灌漑システムは拡張され続けるだろうとして、次のように語った。「私は20年前にミズーリ州南東部に移り住んだ当時、灌漑農地はおよそ30万エーカー程度でした。しかし今では灌漑農地は100万エーカーを超えています。今後もこの傾向は変わらないでしょう。」

 
しかし今年の場合、主な問題は、ミズーリ州南東部の農家は、干ばつのため予想以上に多くの水を田畑に引き入れなければならなかった点である。その結果、灌漑システムの一部は機能不全に陥った。

「作物の生育期を通じてこんなにも深刻な干ばつに見舞われるとは、誰も予想できなかったと思います。」とエアーズ氏は語った。

今年7月の米国は歴史上もっとも暑く、平均気温は20世紀全体の平均より華氏3.3度高い華氏77.6度(摂氏25.3)であった。このため、米海洋大気局(NOAA)の米国立気候データセンター(NCDC)が7月に行った発表によると、短期間でも中程度以上の干ばつに見舞われた地域は全米の約55%に上った(これは1956年12月に記録した58%以来最悪の数字)。中でも深刻あるいは極度の干ばつに見舞われた地域は、6月には33%に拡大した。

この状況に対して、米下院は8月2日に総額3.83億ドルに及ぶ畜産業・農業緊急旱魃支援パッケージを可決した。2012年度農業災害支援法では、農家による旱魃への取り組みを支援するため、期限切れの緊急畜産支援等のプログラムを延長する予定である。

また、バラク・オバマ大統領は8月7日、旱魃の被害に晒されている地域に対する新たな支援策(約3000万ドル規模)を発表した。また州レベルでも対策の動きが出てきている。ミズーリ州ではジェイ・ニクソン知事が、農家や家畜生産者に水を供給するための緊急のコスト分担事業を立ち上げ、これまでに3712件の支援要請が受理され、約1870万ドル相当の支援が行われた。

しかし、こうした緊急支援は、引き続き今後も予測しうる将来にわたって水不足に影響を及ぼしていくであろう気候変動や異常気象といったより大きな問題に対する、あくまでも一時しのぎの対処療法にすぎない、と環境保護者らは見ている。

アメリカン・リバーズ」の南東地域代表ゲリット・ジョブシス氏は、「水供給不足の問題に対する私たちのアプローチが非論理的である」という意味を込めて、これを「非論理的サイクル」(hydro-illogical cycle)と呼んでいる[IPSJ注:「hydrological」(水文学/水理学上の)という言葉の後半にある「logical」(論理的な)という部分を「illogical」(非論理的な)に変えた造語]。

これは、干ばつが起こるとパニックを起こし、(緊急支援を行うだけで)将来の水不足に備えた予防措置をとらない。そして再び雨が降れば、次の干ばつが起こるまで杜撰な水管理を旧態依然と続けてしまう、という事態を指している。

「このような非論理的なアプローチは、非効率のサイクルそのものであり、これに終止符をうたなければなりません。」とジョブシス氏はIPSの取材に応じて語った。

ジョブシス氏は、「水の効率的利用」と「水の保全」を分けて考える必要があると力説する。前者は水の無駄遣いを減らすことに主眼を置いた概念なのに対して、後者は水使用そのものに制限をかけようとするものである。

またジョブシス氏は、「米南東地域では、歴史を通じて長い間、水があるのが当然と考えられてきたが、この40年の間に、都市化の進展と人口増加により、水資源への負荷が益々大きなものとなっている。」と指摘した上で、この地域では、水の効率的利用に焦点を当てる方が、問題の根本的解決に繋がると語った。

ジョージア州アトランタでは、まさにこの点(水の効率的利用)に焦点をあてた取り組みが行われている。「アメリカン・リバーズ」の南東地域水供給ディレクター補佐のベン・エマニュエル氏は、「私たちは、まず地域のコミュニティーが今ある水供給量の中で、水の効率的利用やその他の手段を通じて最大限の節水努力がなされるようになるまでは、原則として新たな貯水池の建設に同意しないことにしています。」と語った。

この地域の人口は約400万人で、一日当たり約6億5200万ガロンの水が消費されている。「アメリカン・リバーズ」は、様々な節水対策を通じてアトランタ都市圏全体で3億から4億ドル相当の節約が可能であり、新たなダム建設は必要ない、と推定している。

またエアーズ氏も、同じく深刻な干ばつに見舞われた米中南部においても、より効率的な水の供給管理を行う必要性があると考えている。主に灌漑システムに着目しているエアーズ氏は、「既存の灌漑システムを効率的に運用することが最も重要です。」と語った。

しかし今回干ばつの被害がそれほど深刻でない地域においても、水の供給管理体制を向上される必要がある。ワシントン州ヤキマ盆地における試みが良い例だろう。

この地では、2009年以来全ての利害関係者(環境保護論者、農家、ヤキマ先住民居留区、ワシントン州、連邦政府)が参加して協議を重ねた結果、総合開発計画に関する一般合意に漕ぎ着けた。

「アメリカン・リバーズ」のワシントン州自然保護ディレクターのマイケル・ガリティ氏は、IPSの取材に対して、「水保全と水の効率的利用は、ヤキマ盆地総合開発計画(Yakima Basin Integrated Plan)の重要な部分です。」と語った。

しかし目標を達成するには、(水保全と水の効率的利用以外にも)地下水管理の向上や既存ダムの修復といった、総合計画に組み込まれているその他の要素も実施に移られなければならない。

環境保護者らは、こうしたさまざまな措置に共通するものは、シンプルだと考えている。つまり、「干ばつを予測することはできないが、それに対する準備をすることはできる。」ということである。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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