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危機のなか、富者はさらに肥える

【パリIPS=A.D.マッケンジー

12月7日道路の片方にはマンション、もう片方にはスラム街が広がる。人びとが食べ物の配給の列に並ぶ横を、窓にスモークスクリーンが入った豪華なランドローバーが走り抜ける。

これは、ダニエル・ニーレンバーグ氏が世界30ヶ国を訪ね歩く中で見てきた光景である。彼女は、この調査をもとに、ワールドウォッチ研究所の報告書『2011年の世界の状態―地球を養う革新』をまとめた。

「ひとつの国の中でも、明確な違いを簡単に見て取ることができます。そしてそれは、日々目にできることなのです。アフリカでは、不況は富める者に影響を及ぼしていないようです。一番悪影響を受けたのは、貧しい人びとです。」とニーレンバーグ氏は語った。

 ニーレンバーグ氏は、今週パリで、同報告書のフランス語版『70億人をいかに食べさせるか(Comment Nourir 7 Milliards d’Hommes)』を発表した。

この報告書は主にアフリカの農業に焦点を当てたものであるが、これと同時期に、経済協力開発機構(OECD)から、同機構加盟国(34か国)において広がり続ける貧富の格差状況について分析した最新報告書『分断された社会―なぜ不平等が広がっているのか』が公表された。

両報告書とも、各国政府に対して、貧困と不平等を緩和する施策をとるとともに、先進国か途上国かに関わりなく、支援が必要な人々により多くの投資を行うよう求めている。OECD報告書によると、OECD諸国全体では、もっとも豊かな10%の収入は最貧層10%のそれの9倍であるという。

デンマーク、スェーデン、ドイツなどの「伝統的に平等主義」といわれる社会においても、所得格差は、1980年代の5対1から今日は6対1へと拡大している。同報告書によると、この所得格差は、英国、イタリア、日本、韓国で1対10、米国、イスラエル、トルコではそれを上回る(1対14)ものであった。

例えば米国では、1979年から2007年にかけて、もっとも豊かな1%の課税後収入の占める割合が2倍になる一方、もっとも貧しい20%の占める割合は7%から5%に落ちた。
 
アンヘル・グリアOECD事務総長は、(貧富の格差が広がる)一般動向とは異なる歩みを見せた国は数カ国に過ぎないと指摘した上で、「チリとメキシコにおいては、近年所得格差が狭まっています。しかしそれでも両国の場合、最も裕福な層の所得は、なおも最貧層の25倍を超えているのです。」と語った。

OECD加盟国以外を見ると、主な新興国における所得格差ははるかに深刻なものである。例えば、「ブラジル政府は富を再分配する施策を実施し、過去10年間に貧富の格差緩和に成果を挙げているが、それでも現在の所得格差は1対50で、OECD加盟国平均の5倍である。」と報告書は述べている。

「OECD非加盟国の国々ですが、堅調な経済成長を背景に数百万人を絶対貧困のレベルから引き上げることに成功した新興諸国があります。しかし、力強い経済成長から得た利益は、平等に配分されず、所得格差は一層広がりました。こうした成長著しい新興国の中で、なんとか所得格差を縮小させたのはブラジルだけです。」とグリア事務局長は記者達に語った。

OECDは、所得格差が拡大した主な原因として、賃金・給料の不平等拡大、給付金の削減、高所得者に対する減税を挙げている。

グリア事務局長とニーレンバーグ氏は、別々の機会であるが、「世界の経済危機が深刻になっている中、各国政府は緊急にこうした問題に対処することが求められています。」と語った。

「多くの国々において、先行きに対する不安や社会が衰退しているのではないかという恐怖感が中産階級の間でも広がってきています。人々は、そもそも自分たちに責任がない経済危機の付けを負わされている一方で、高所得者層はその責任からうまく逃れていると感じているのです。」とグリア事務局長は語った。

またグリア事務局長は、OECDの提案には、富裕層の限界税率引き上げを含んでいると指摘して、「最も裕福な人々については、税率を引き上げる余地があると考えています。具体的には、消費税や資産税、炭素税などの税率を増やすことを提案しています。」と語った。

しかしグリア事務局長は、多くのNGOや著名な経済学者が提唱している金融取引税(FTT)については言及しなかった。

フランスの反貧困団体「ONE」のギローム・グロッソ代表は、「単に富裕層に対する税率を引き上げるのは、格差問題解決に向けた一つの方策に過ぎません。」と語った。

「業界に課された税金は、貧困層に対する資金の再分配に使われます。明らかに金融セクターは、その収益規模に見合う貢献をしてきませんでした。しかも、今日世界が直面している様々な問題については、金融セクターに責任があるという議論もあるのです。」とグロッソ代表は語った。

「金融取引税(FTT)のしくみはきわめて簡単なもので、金融取引にわずかな税金をかけるだけなのです。これは比較的負荷が少ないものですし、公平な仕組みです。しかも私たちが金融セクターからの努力を要請するのはこれが初めてであり、我々は援助を最も必要としている国々の貧困解決にそれを使うことができるのです。」とグロッソ氏は付加えた。

また、グロッソ氏は、OECD報告書は透明性向上の問題にも触れていない、と批判した。

「私たちは基本的に、国が自国の予算をどのように使っているかを知る必要があるのです。つまり、非常に深刻な問題の一つとして、特に貧困国においてより多く見られる傾向ですが、政府がどのように予算を使っているかを把握することは極めて難しいのです。一つの例を挙げると、アフリカに赤道ギニアという国がありますが、GDP規模ではギリシャやポルトガルに近いにも関わらず、国民の3分の2が1日当たり1ドル以下の生活を強いられているのです。」

グロッソ代表は、「『ONE』は、『例えば石油・ガス会社がどこに利益を入れているのか』といったお金の流れが把握できるような法的な枠組みを、先進国の承認の下、設立するよう提唱しています。私たちはそうした企業が政府に対してどのような支払いをしているのか、そのお金の流れが明らかになるよう、透明性の確保を求めているのです。こうした要求はOECDではできないことですから。」と語った。

一方ニーレンバーグ氏もまた、透明性の向上が必要だと考えている。たとえば、富裕国がアフリカの貧困国の農地を買う(土地収奪「land grabbing」)ことによって、国によっては貧困と不平等が拡大しているが、この状況はきわめて不透明だという。

「食糧価格があまりにも高騰し、民衆の収入がとてもそれに追いつかない状況です。その結果は、見てのとおり明らかで、お腹を膨らませた子供の姿に象徴されるように、栄養失調や飢饉の兆候となるあらゆる事象が5・6年前では想像のできない深刻さで顕在化してきています。」とニーレンバーグ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|北朝鮮-チェコ共和国|「一人は王朝に生まれ、一人は民主運動の中から生まれた」とUAE紙

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【アブダビWAM】

アラブ首長国連邦の日刊紙は、先週逝去したチェコ共和国のヴァーツラフ・ハヴェル元大統領と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正日総書記を比較した興味深い考察を掲載した。

UAEの英字日刊紙「ナショナル」は、「2人とも国家を率いた指導者だったが、ステイツマン(Statesman:立派な政治家)と呼ぶにふさわしいのはその内の1人のみだった。」と報じた。

「両者とも世界が東西に分裂して対峙していた冷戦期に、(鉄のカーテン)の東側(共産圏側)で育った。また、両者とも著名で裕福な家庭の出身で、闘争に依ることなく政治権力を掌握した点や、小さな国のリーダーにも関わらず、世界的に大変な名声を得た点でも共通している。」と同紙は論説の中で述べている。

 「しかしヴァーツラフ・ハヴェル氏金正日氏の共通点は、ともに先週逝去したという点を除いては、これ以上見出すことはできない。ハヴェル元大統領は、世界から多くの名誉と賛辞を贈られながら75歳の生涯を閉じたが、69歳か70歳(この年齢すら詐称の疑いがある)で亡くなった金正日総書記に対する世界の反応は対照的なものであった。」と同紙は報じた。
 
金正日氏は1945年に新たに誕生した北朝鮮を治めるべくソ連のヨシフ・スターリン書記長が擁立した金日成氏の長男として生まれた。金日成氏は国民を世界から隔離し、類稀にみる個人崇拝体制を築き上げた。そして金正日氏は1994年に北朝鮮の権力を継承するにあたり、父に対する個人崇拝の成果も自らに移行させた。」と同紙は報じた。
 
また同紙は、金正日総書記指導下の常軌を逸した経済政策、執拗な軍事優先政策、破滅的な外交政策を、数百万人もの北朝鮮国民を飢えの淵に追いやった原因と指摘した。「夜の朝鮮半島を撮影した衛星写真には、あかたも光が豊かさを象徴しているかのように韓国領土は眩いほど明るく照らされている。一方、北朝鮮は大半が漆黒の闇の中にある。」一方同紙は、ハヴェル大統領については、数十年に亘るソ連によるチェコスロヴァキア支配に民衆が立ち上がった1968年の「プラハの春」で頭角を現した知識人・劇作家として言及し、「国民と自らの良心に耳を傾けた人物」として称賛した。

「ハヴェル氏は、時期尚早だった民主化運動がワルシャワ条約機構軍の戦車によって蹂躙された際、良心的に共産主義を拒絶するチェコ人、スロヴァキア人の心情を巧みに表現した劇作品を発表し、世界的に大きな注目を浴びた。そしてハヴェル氏が記したその民衆の意志が、ついにはソ連の支配を駆逐するに至った(ビロード革命)のである。」とナショナル紙は結論付けた。

翻訳=IPS Japan

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インド、核廃絶で世界をリードへ(シャストリ・ラマチャンダランIDN-InDepth News編集委員)

【ニューデリーIDN=シャストリ・ラマチャンダラン

インド政府が、普遍的な軍縮の追求を先導する方向を模索し始めたようだ。核軍縮の基本的な考え方と目標を前進させることのできる雰囲気と環境をあらためて作り出そうとの熱意は、核兵器なき世界秩序を目指した故ラジブ・ガンジー首相の行動計画(RGAP)を実行すべく進められている数多くの取り組みを見れば、明らかである。

「RGAP88」として知られるこの行動計画は、米ソ超大国による対立的なレトリックがピークに達していた1988年当時、「6ヶ国・5大陸イニシアチブ」から、核戦争の勃発を回避するための論理的な帰結として発表され、世界的に大いに注目された。しかし、ラジブ・ガンジー首相(当時)は、国連総会にこのアイデアを受け入れさせることは、できなかった。

 それから23年経過した今、「RGAP88は」、同構想に関するインフォーマル・グループ(IG)が2011年8月に284ページに及ぶ報告書を発表するなど、再び息を吹き返している。表面上は「インフォーマル・グループ」と名づけられているが、これは誤解を招く名称で、その実態は、マンモハン・シン首相が核軍縮を推進するためにRGAPを再活性化することを企図して2010年10月に設置した首相の諮問グループにほかならない。

生前のラジブ・ガンジー首相に近く、外務官僚から政治家に転じたマニ・シャンカール・アイヤール(元大臣、国会議員)氏が委員長を務めるIGには、著名な外交官をはじめ、戦略問題や核問題の専門家、学者などが名を連ねている。

シン首相は、2009年4月に「米国は核兵器のない世界の平和と安全を追求する」と公約したバラク・オバマ大統領のプラハ演説を受けて、このIGを設置した。オバマ大統領は、「核兵器なき世界」を追求すると誓った初めての核兵器国の元首として賞賛に値する人物であるが、それ以前から核拡散の危険性について警告している。核兵器がテロリストの手に落ちる危険性は、「冷戦のもっとも危険な遺産だ」とオバマ大統領は述べている。

報告書には、普遍的な軍縮という考え方をいかに実施していくかという点について、とるべき方策を勧告している。IG報告書は、核兵器の保有が安全保障に対する安心感には結びつかなかったインドの経験を前提に作成されたものである。「核兵器なき世界に向かうべき」との主張は、冷戦期よりもむしろ現在の方が説得力あるものになっている。なぜなら、当時よりも核兵器保有国が増え、核武装の思惑を持っている国も存在するからである。従って報告書は、核紛争とテロリストによる核攻撃の危険性に対する認識をインド国内で高めるための広範な運動が必要である、としている。

報告書は、インドが、核攻撃という形であれ核テロという形であれ、最大かつ最も現実的な脅威に直面しているという事実に焦点を当て、「インドにとって安全をもたらす最善の方法は、普遍的な核軍縮を達成することにある」と論じている。諮問グループのメンバーは、1988年には存在しなかった、米国による核廃絶への支持という事態によって力を得ていると、明確に述べている。

シン首相とS・M・クリシュナ外相に提出された報告書は、RGAP88再活性化の第一のステップとして、核軍縮に関する委員会設置に向けたコンセンサス形成のための特別コーディネーターを任命することを勧告している。

7項目のロードマップ

報告書には、7項目から成るロードマップと、14項目の勧告が盛り込まれている。たとえば、インドが「普遍的、非差別的、検証可能な世界的プロセスの一環として自国の核兵器を削減する」と約すること、安全保障ドクトリン、先制不使用、法的拘束力のある消極的安全保証において核兵器の突出した役割を低減するコンセンサスを形成すること、核兵器の完全廃絶に向けて諸国を動員することを目的とした議論を活発化させるためにジュネーブ軍縮会議(CD)の「火を絶やさない」こと、そして、核兵器の使用(および使用の威嚇)を禁止する条約の策定、などである。これらは全て、「決められた時限の中で『核兵器なき世界』をめざす核兵器禁止条約の交渉」に向けて、道を切り開いていくためのものである。

報告書は、信頼できる最小限の核抑止力を保持した「核兵器を保有した国家」(State with Nuclear Weapons=SNW)としてのインドが、核兵器を保有するすべての国家と軍縮に関する二国間対話を開始すべきだと勧告している。また報告書は、核軍縮をより積極的に進めるために、市民運動による活動に参加したり、外務省軍縮局を強化したり、国連総会におけるインドの存在を際立たせるといったことも求めている。

IGは、インドが核兵器廃絶に向けて世界をリードし、60年に及ぶインドの核廃絶追求の道義性と、国際社会におけるインドの影響力の拡大を通じて、この問題の解決を図るべきだと考えている。インドが、核軍縮を主唱していたかつての役割を取り戻す機が熟した、と報告書は主張している。さらに、核兵器削減はすでに緒についており、世界全般の環境は追い風であると考えられる。

諮問グループの報告書は、インドが国連総会に2006年に提出したワーキング・ペーパーの要素を取り入れることによって、RGAP88を前進させようとした、と言えるかもしれない。

核軍縮に関する報告書や提案、委員会や集団は、内外のいたるところにある。しかし、もしこの諮問グループの報告書と提案が注目に値するとすれば、それは、問題に新しい次元を付け加えているからであり、報告書が優れた特徴を持っているからである。

第二の点から先に言うと、この報告書の独自の特徴は、その哲学や意図、言語、アプローチにあるのではなく、ましてやそのレトリックにあるのでもない。そうではなくて、核廃絶という目標を現実化するために必要な、特定の実践的なステップにあえて向き合っている点にあるのである。核廃絶という目標に向けたステップ・バイ・ステップのアプローチに示された連続的な動きが、進捗具合の―あるいは進捗の不在の―物差しとなる。それには、運動の特定のステージを指し示し、それを里程標にするという利点がある。

報告書はいくつかの新しい次元に焦点を当てている。それは、核軍縮運動に対して以前とは異なって好意的な国際環境があるということ、米国が核軍縮を支持していること、インド政府が、国内において、そして2012年1月に始まる二国間・地域・国際舞台での行動を通じて、核廃絶の大義を先導して追求するとの強い意志を示していることである。

IGのマニ・シャンカール・アイヤール委員長が提案されたロードマップに関して国内外で行動し始めたという事実は、進行中の取り組みが真摯になされているものであることを示している。

ニューヨークの会議におけるインド

国際レベルでは、今年の国連デー(10月24日)が、報告書への関心を集めるよい機会となった。グローバル・セキュリティ研究所、東西センター、ジェームズ・マーチン不拡散センターの共催のもとニューヨークで開かれた会議において、国連の潘基文事務総長やアイヤール委員長を含む発言者が、核兵器廃絶を強く訴えた。

この会議は、大演説のゆえにではなく、核廃絶に向けて新たに意識を喚起していこうという運動の再生へのステージとして、大きな意義を持っている。またハイレベル会議でも、3年前に初めて提示された核廃絶に向けた潘事務総長の包括的提案である「五項目提案」に焦点が当てられた。

会議の公式報告によれば、潘事務総長はこう述べている。「我々は、明日の世界は今日我々が行う決定によって形成されることを知っています。核兵器なき世界は、具体的に見えている可能性なのです。」潘事務総長は基調演説において、透明性と説明責任を強化し、核軍縮義務における法の支配を強化する緊急の必要があることを強調し、核兵器禁止条約策定に向けた作業を始めるべきとの彼の2008年の提案にあらためて言及した。

一方この会議でアイヤール委員長は、「近隣諸国における核軍拡の動き、核物質や場合によっては核兵器にすらアクセスするかもしれないテロリストの脅威によって、インドほど脅威を感じている国は他にありません。従って、(インドが)一方的に軍縮を進めるということは想像しがたいものがあります。核兵器の廃絶は、テロリストによって核兵器が『大量虐殺』のために使われ、或いは国家によって『大量自殺』のために使われることを防ぐ唯一の方法であり、『第3の道はない』のです。」と語った。

PTIの報告書によれば、アイヤール委員長は、一方的な核軍縮は簡単ではないが、インドは、核兵器およびその他の大量破壊兵器の普遍的な削減に向けた国際条約という枠組みの中で、「これらの兵器をなくすことができるかもしれない。」「インドは『核兵器なき世界』というビジョンを追求し続けなくてはならない。なぜなら、そのような世界は、地球にとっても、地域にとっても、インドの国家安全保障にとっても望ましいことだからである。」と論じている。

その1週間前、IGの顧問を務めたヴィドヤ・シャンカール・アイヤール博士は、列国議会同盟(IPU)会議において、「核廃絶運動の完全なる再興をIG報告書が呼びかけたことが大きな関心を呼びました。」と語った。

最新の状況

アイヤール博士は、IDNの取材に対して、首相・外相への報告書提出後の状況について、「国家安全保障補佐官のシブシャンカール・メノン氏が、報告書で提案されたイニシアチブに対してもっとも強力な支援をしてくれています。」と語った。

IGのマニ・シャンカール・アイヤール委員長は現在、外相の出席の下で外務省高官と会談を持つ段取りを進めている。これは、IGがインド世界問題評議会(ICWA)とともに2012年1月に計画している全国レベルの会議の準備作業となるものである。この会議には、戦略問題の専門家、核兵器・軍縮問題の専門家やシンクタンクから参加者を集めることが予定されている。

ヴィドヤ・シャンカール・アイヤール博士によれば、その後は、国際的枠組みの構築を目指して国連安全保障理事会の五大国(=常任理事国・核兵器保有国)をまとめにかかる前に、まずは隣国において会議を開催し、地域レベルでの一体性を作ることを提案するつもりだという。

これらすべてが、楽観主義の源泉となっている。しかし、行く先での障害を過小評価するわけにはいかない。報告書自体も、先々の課題について現実的な評価を下している。その課題とは、オバマ大統領とは異なった意見を持った米国内の強力な勢力からの抵抗、米国・ロシアなど五大国の中で欠けている熱意、総論では賛成しているが具体的なステップについては意見が割れていることなどである。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

※筆者は、ニューデリーで活動する独立の政治・国際問題評論家。『サンデー・メール』紙元編集委員で、インド、中国、デンマーク、スウェーデンの主要紙に勤める。かつて中国で『チャイナ・デーリー』、『グローバル・タイムズ』の編集主幹・記者。20年以上前には、『タイムズ・オブ・インディア』『ザ・トリビューン』紙の編集主幹。新聞、ラジオ、テレビでの評論活動の他に、書籍、モノグラフ、報告書、論文など多数。『ネパールの状況』の共編者、『メディア、紛争、平和』の共著者。現在はIDN-InDepth Newsに定期寄稿している。

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|米国|最も高い太陽発電タワー、アリゾナで建設へ

【アトランタIPS=マシュー・カーディナル】

豪州企業のエンバイロミッション(EnviroMission)が、米国南西部のアリゾナ州に新式の太陽発電タワー(the solar tower)を建設する計画を進めている。

太陽発電タワーは、太陽熱を利用する新しい発電方法である。タワーの下には、直径4.8kmの温室が広がる。ここで熱せられた空気が高さ800メートルのタワーの中に吸い込まれ、中にある冷気を押し上げる。この際の空気の動きを利用してタービンを回すのである。

環境を汚染する「汚いエネルギー」の代表格である原子力発電にしても火力発電にしても、最終的にタービンを回すという意味においては、太陽熱発電と変わるところがない。ただ、熱を発生させる方法が異なるだけである。原発に関しては、[あまりに発生するエネルギーが多いことから]反核活動家たちの間では、核技術を利用して湯を沸かすのは「チェーンソーでバターを切るようなもの」と揶揄されることもある。

 太陽発電タワーは2015年完成予定で、米国内では最も高く、世界全体でも第2の高さの建造物になる予定である。これによって15万世帯に電気を供給することが可能となる。すでに、南部カリフォルニア電力公社が200メガワットを購入する契約を結んでいる。

また建設段階で地元に1500人、その後の管理運用に30人から50人の雇用創出が見込まれている。

また太陽発電タワーは、温室効果ガスの年間100万トン削減、発電に伴う水利用の年間10億ガロン削減など、環境上の利点は少なくない。

また、温度の絶対的な高さではなく温度の差を利用するために悪天候下でも利用できること、昼間に溜め込んだ熱で夜間も発電できること、タービン関連以外にはメンテナンスの必要がほとんどないことなど、運用上の利点もさまざまに指摘されている。

エンバイロミッション社では、今後20年かけて、全米で少なくとも15棟のタワーを建設することを目指している。

太陽発電タワーという新しい発電の試みについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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2012年国連中東会議に向けた準備会合がアンマンで開催

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【エルサレムIPS=ジリアン・ケストラーダムール】

国連が目標としている中東非大量破壊兵器地帯の創設に向けた基礎固めを行うため、65の国や機関の代表が、ヨルダンの首都アンマンに集まった。

「(アンマン)会議では、11の専門分科会において協議が進められました。中でも特に重要なのが、『中東非大量破壊兵器地帯の設置における国連機関の役割』、『(同地帯設置に伴う)安全保障上の意味合い』、『核燃料サイクル構築の見通し』、『中東における核セキュリティー』です。」と主催団体の一つArab Institute for Security Studies (ACSIS:本部アンマン)のアイマン・カリル所長は語った。

 この会議は、オランダ政府とノルウェー政府が後援し、ACSISとパートナーシップ・フォー・グローバルセキュリティー(本部:ワシントンDC)が共催して開催された。

「2012年に向けて基礎を固める:核不拡散、核セキュリティーを推進する機会」と題した3日間の会議(11月29日~12月1日)では、2012年に開催が予定されている「中東非大量破壊兵器地帯創設に関する国連会議(=中東会議)」を実現するためにクリアすべき諸問題について協議が行われた。

この国連主催の中東会議は、2010年5月に開催された核不拡散条約(NPT)運用検討会議(5年毎に開催)が、2012年の開催を呼びかけたものである。今年10月、フィンランド政府がこの会議をホストし、同国のヤッコ・ラーヤバ外務事務次官がファシリテータを務めることが発表された。

「アンマン会議は、国、地域組織、及び国際機関の代表者が、意見交換し調整する場を提供するとともに、2012年プロセス(中東会議の実現に向けた)に、中東域内の全ての国々が積極的に参加、関与するためにクリアすべき課題や条件を浮き彫りにしました。」とカリル氏はIPSの取材に対して語った。

NPTの無条件、無期限延長が決定された1995年のNPT再検討延長会議は、最終文書の中で、中東の全ての国に対して、中東非大量破壊兵器(核兵器、生物・化学兵器)地帯を設立するよう呼びかけるとともに、その他の国々に対して核不拡散を推進するよう強く訴えた。

その最終文書には、「(NPTの普遍的加盟を早期に実現する重要性を強調し)、未だそれを行っていないすべての中東諸国に対し、例外なく、可能な限り早期にNPTに加盟し、自国の核施設を包括的なIAEA保障措置の下に置くよう求める。」と記されている。

1970年に発効したNPTは、核兵器及び核兵器技術の拡散を防止し、世界における核軍縮を前進させることを目的としている。現在、核兵器保有5大国である中国、ロシア、英国、フランス、米国を含む190カ国が条約に加盟している。

一方NPTに未加盟のイスラエルは、核兵器を保有していると広く考えられている。カリル氏は、「域内の全ての国々が、中東非大量破壊兵器地帯の創設を望んでいるにも関わらず、この構想は未だに実現できないままでいます。もちろん、これを妨げている最大の要因は、NPTへの加盟を頑なに拒否している国があるからです。」と語り、NPT加盟を渋るイスラエルの態度こそが、中東非大量破壊兵器地帯の創設にとって最大の障害になっていると指摘した。

「中東には、例えばアラブ-イスラエル紛争や核兵器保有・核開発計画疑惑など、依然として(中東非大量破壊兵器地帯という)目標実現を困難にしている難題が数多くあります。」とカリル氏は語った。

ここ数カ月の間に、イランは疑惑を一貫して否定しているものの、同国が核兵器開発とその技術取得を進めているとする報告書が発表され、多くの国々が、イランに対する制裁を課した。

こうした事態から、中東全体を紛争に巻き込みかねないイスラエルとイランの衝突を懸念する声が浮上している。先月、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、国際社会に対して「手遅れになる前に、核武装を目論むイランの動きを止めなければならない。」と強く訴えた。

しかしカリル氏は、イランはNPT加盟国で、これまでIAEA査察を受け入れているのに対して、イスラエルはNPT未加盟国というだけでなく、核保有について曖昧政策をとってきた点を指摘し、「イランとイスラエルを同じカテゴリーに入れて考えるのは、問題点を複雑にしかねません。」と語った。

「アンマン会議では、イスラエルの核防衛能力についても議論されました。(中東で)NPT未加盟の唯一の国でありながら、大規模とは言えない周辺諸国の通常兵力に対して、核兵器を取得して抑止力を図るというイスラエルの姿は、例えるならば、『躾の出来ていない子ども』とでも言わざるを得ません。」

「もし2012年の中東会議開催に向けたプロセスを成功させることができるとすれば、イランとイスラエル双方が積極的に会議に参加することが大前提となるでしょう。」とカリル氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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不信が曇らせるインドの中国認識

【ニューデリーIDN=シャストリ・ラマチャンダラン】

私がかつて北京にいたとき、インドに関するニュースを英字紙やテレビで見ることはほとんどなかった。二国間の会談や閣僚訪問ですら、インドにおける場合と同じ程度に報じられることはなかった。インドが中国のメディアで大きく取り上げられるのは、中国共産党や政府がなんらかのメッセージを国民に伝えたいときに限られていた。

他方で、インドのメディアの主要な関心は中国に向けられている。中国への強迫観念とすら言ってもよいかもしれない。インドのメディアが伝える中国イメージとは、中国がインドに対して日々あらゆる陰謀を巡らしており、いつの日か中国がインドに軍事的な攻撃を仕掛けてくるに違いない、というものである。

Shastri Ramachandaran
Shastri Ramachandaran

 インド外務省は、こうしたメディアによる行き過ぎた危機イメージを打ち消そうと努力しているが、思うような成果はあがっていない。むしろネガティブ報道に圧倒されている状況である。こうした背景から、インド国防相自身による不適切な発言はないものの、中国との関係について、外務省と国防省の間に見解の相違があるのではないかとの見方も一時は浮上していた。

今では、そうした中国脅威論を振りまいているのは、インドの政治的指導層というよりも、強大な力を持つ国軍内の一部の勢力という見方が濃厚になっている。さらに今日では、多くの安全保障、戦略分析の専門家がこうした風潮をさらに後押しする動きを示すようになってきており、中には、中国によってインド領土の一部が奪われた1962年の武力紛争が再来するとの予測を打ち出すものも現れている。また、中国が紛争をしかける準備を着々と進めており、インドは不意をつかれないよう警戒すべきとの論文が数多く出回っている。その中でも最もまことしやかに議論されている主張は、「中国は、紛争を予期することが最も困難で、かつ、インドが最も有事に対する準備ができていないタイミング‐すなわちインドの軍備が十分整っていない今の段階(インドは核弾頭搭載の中距離弾道弾の国境地帯配備を2012年に完了予定:IPSJ)-で攻撃をしかけてくる可能性がある。」というものである。

ある紛争のシナリオ

1962年、インドに侵入した中国人民解放軍はインド軍を圧倒し、カシミール州のアクサイチン地区を奪取した後、一方的に停戦を宣言して紛争地から撤退した(だだしアクサイチン地区はその後中国が新疆の一部として実効支配している)。現在インドで取りざたされている中国侵攻のシナリオは、50年前と同様に中国がインド国境の領土、例えば(中国が領有権を主張している)アルナチャル・プラデシュ州タワンを奪うのではないかという憶測である。

たしかに、こうしたシナリオを想起させる状況証拠には事欠かない。中国は、チベットのようなインドに接する辺境地域に空港や道路、鉄道ネットワークを着々と整備しつつあるのに対して、インドは50年前と同様に、現時点においては中国国境沿いに見るべきインフラや軍事施設を配置していない。

一方で、この段階でインドとことを構えるのは中国にとって得策ではないと主張する専門家もいる。その理由として第一に挙げられるのが、中国指導部が10年に一度の大きな交代時期(国家主席、国務院総理、さらに中国共産党の最高指導部である政治局常務委員9人のうち、5人が2012年に退任予定)を迎えており、新指導部は国内の足固め、さらに安定と継続性を最優先するだろうという分析である。そして2つ目が、経験豊かで強力なカリスマを備えた指導者が不在な過渡期に、対外的な紛争に臨むのは、結果的にリスクが大きすぎるだろうという分析である。

これに対して、好戦派の理論家たちは、インドに対して軍事的な圧力を加えるか否かの判断は、政治的な上部組織ではなく、人民解放軍が行うだろう。従って、軍事関連の深慮については、政治指導部の交代という要素は重要ではない、と述べている。

インドでは、こうした議論がこれから益々、活発になっていく勢いである。

過熱した報道合戦

中国メディアは、この狂騒を煽るかのように、あるいは自ら楽しむかのように、インド国内の中国脅威論を紹介している。中国の人民日報は、インドが中国国境地域において軍備増強を図っていることに言及して、「インドは中国を敵対国と考え始めたようだ。」と報じた。

11月10日、同紙は「インドが国境の兵力を増強しているのは、興隆する中国を狙ったものか?」というタイトルの記事を掲載し、その中で、インドと米国、日本、ベトナムといった国々との関係は、中国に対する恐怖と疑念に駆られたものだと考察をしている。しかし記事全体の基調は、両国の「友好関係」を強調するものであった。

この記事は、新華社通信が、インドは現在の東方政策を見直し、「東への歩み寄りを止めるべき」と「警告」した2日後に配信されたものである。新華社通信は、インドの動向や他国との関係について中国の視点から分析を加えたこの記事の後半部分において、「しかしながら、もしインドが、隣国を仮想敵国と見做し、その裏庭を侵害するような浅はかな行動に関与することで隣国を阻害し敵愾心を抱かせるようなことを意図しているとしたら、それは国家戦略を人質にインド自身の国益を損ないかねない選択だと言わざるを得ない。」とぶっきらぼうに指摘し、最後に「インド政府は、(東方政策という)外交政策の落とし穴について再考することが非常に望ましい。」と締めくくった。

しかし、こうした中国側の論調がまた、インドの安全保障専門家らを奮い立たせる結果になってしまっている。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

*シャストリ・ラマチャンダラン氏は、ニューデリーを拠点にする政治・外交コメンテーター。ラマチャンダラン氏は2009年4月から2010年7月末まで北京を拠点に編集者・記者、論説員としてChina Dailyとthe Global Timesに寄稿した。

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|グアテマラ|長年にわたる恐怖の警察活動記録がオンラインに

【グアテマラシティ―IPS=ダニーロ・ヴァラダレス】

1960年から96年の内戦期に行われた拷問や強制失踪、殺戮に光をあてることとなる数百万件にのぼる国家警察文書が、米国テキサス大学オースティン校の協力により、まもなくオンラインで利用可能になる。

デジタル文書は、2005年に偶然発見された約8000万件もの膨大な警察管理記録のうち、同大学が修復・整理した約1200万件の資料で、大学構内で12月2日に開催された国際会議(Politics of Memory conference)において初めて公開された。

「グアテマラ国家警察歴史アーカイブ(AHPN)のオンラインデジタル所蔵庫は、まもなく一般の人々に、無条件で利用可能となります。」とAHPNの専門家の一人でもあるアルベルト・フエンテス氏は語った。

 「このオンライン所蔵庫には2種類の情報が収められています。つまり、グアテマラにおける犯罪と暴力関連の事件を記録した資料と、社会統制やとりわけ反体制派政治家を対象とした監視活動の記録です。」とフエンテス氏は説明した。

「私たちは今まで、90万件以上の個人に関する名前や写真、指紋、政治活動を詳細に記録した調査書類を発見しています。」とフエンテス氏は語った。

2005年7月、グアテマラの人権オンブズマン組織「The Procuraduría de los Derechos Humanos」が首都グアテマラシティの北部にある兵器庫で、放棄されていた文書を偶然発見した。記録ファイルは、乱雑に束ねられた状態で、ネズミ、コウモリ、ゴキブリが巣食う何十もの部屋に天井までうず高く積み重ねられていた。そしてその多くが、既に激しく腐敗した状態であった。

この1882年から1997年にわたる警察の管理記録は、左翼反乱勢力と政府軍が36年に亘って戦い25万人の死者を出した内戦において、警察が果たした抑圧的な役割を克明に記録している。

歴史解明委員会によると、これらの資料には治安部隊によって捕えられ、強制的に失踪させられた後、墓標のない墓や秘密墓地(多くの場合、軍事基地内)に遺体を埋められた少なくとも45,000人の記録が含まれている。

国連委任の真実委員会は、内戦で殺害された犠牲者(大半は農村部のマヤ・インディアン)の総数の90%以上がグアテマラ国軍によって殺害されたものと確認した。

2005年に明るみに出た管理記録は、内戦中及び内戦前において国家警察が果たした役割について記録している。AHPNでは、厳重な管理体制を敷いたうえで、2006年から傷んだ記録のクリーニングとデジタル化に取り掛かった。

この管理記録には、逮捕状、調査報告書、身元証明書、尋問記録、無線通信の記録、抑留者とその密告者のスナップ写真、身元不明の遺体の写真、指紋ファイル、さらに日常の品々(交通違反チケット、運転免許証申請書、新制服と職員ファイルの請求書等)や写真と名前を満載した元帳が含まれている。

今までのところ、1300万件の記録がクリーニング、分類の後、デジタル加工されている。

この警察管理記録は、既に内戦中の人権侵害容疑で起訴された元軍関係者を審理しているいくつかの公判で、原則側の証拠として使用されている。

「フェルナンド・ガルシアという労働組合員で学生リーダーに関する公判では、この警察管理記録から667件もの証拠資料が提供されました。」とフエンテス氏は語った。

ガルシア氏は1984年2月18日に失踪した。しかし彼の死に責任がある2人の元警察官に強制失踪の罪で禁固40年の判決が下ったのは、彼が失踪してから実に26年も経過してからのことだった。

フエンテス氏は、AHPNアーカイブの文書はこのほかにも、1978年から85年の間に300人以上の虐殺に関与した疑いがあるエクトール・ロペス退役将軍や、ガルシア氏の失踪に関与した疑いがあるエクトール・ボル元警察署長の逮捕につながる証拠を提供した。

「アーカイブの文書は、司法制度を通じて逮捕状を発行し、容疑者に裁判を受けさせるための証拠品として使われているのです。」とフエンテス氏は語った。

正義が行われることこそが、この窮乏した中米の国に和解をもたらすうえで、極めて重要なことである。

内戦中父を暗殺されたアダ・メルガー氏はIPSの取材に対して「陸軍将校や最高司令部がこの国で行われた数千人もの虐殺や殺人に明らかに関与していたということが証明されてはじめて、私たちはある程度の平和を実感できるのです。」と語った。

虐殺には、軍部が1970年代末から80年代初頭に採用した対ゲリラ焦土作戦の一部としてグアテマラ全国で約440の先住民の村が殲滅させられた事件が含まれている。

「私たちは国を訴えました。なぜなら、父の死は治安部隊による陰謀と確信しているからです。」とメルガー氏は語った。彼女の父ウーゴ・ロナルド・メルガー氏はサン・カルロス大学の法学教授だったが、1980年5月24日にマシンガンで殺害された。

AHPNアーカイブを調べているアダ・メルガー氏は、「この中に当時捕えられて失踪した多くの男女と一致する警察に拘束された人々のリストの存在を証明する貴重な資料が眠っている」と確信している。

また法医学専門家も、AHPNアーカイブの中に失踪者と警察犯罪のミッシングリンクを繋ぐ手がかりを発見している。

「私たちが最初に見た写真は、身元不明の数体の遺体でした。しかしAHPNアーカイブを調べていくうちに、警察はこれらの遺体から採取した指紋も記録していたことが分かったのです。今ではAHPNアーカイブは、内戦中に失踪した人々を捜索する際の、一次情報源となっています。また私たちは、南部のエスクィントラの墓標のない墓に埋められた遺体を特定する多くの記録をアーカイブから発見しています。」とグアテマラ法医学人類学財団(FAFG)のシスタントディレクターであるホセ・スアンスバール氏は語った。

グアテマラ被拘束者・行方不明者家族の会(FAMDEGUA)のアウラ・エレナ・ファルファン氏は、IPSの取材に対して、「AHPNアーカイブは極めて重要な存在です。お蔭で私の家族に関する記録を見つけることができましたし、この件を法廷に訴えるうえで重要な助けとなっています。ただ私たちが心配しているのは、今や調べられる側となった内戦中に抑圧に関与した全ての人々が、このアーカイブの存在を消し去りたいと望んでいることです。」と語った。

しかしAHPNとテキサス大学オースティン校の3機関(Bernard and Audre Rapoport Center for Human Rights、Teresa Lozano Long Institute of Latin American Studies、テキサス大学図書館)の協力のお蔭で、1200万ページに及ぶアーカイブ資料が、今ではオンラインで誰でも閲覧可能になったのである。
同校で開催された国際会議(Politics of Memory conference)によると、このプロジェクトの目的は、グアテマラ国家による抑圧の歴史を既に書き換える助けとなる有力な証拠を提供し始めたこのアーカイブを、世界の研究者、人権活動家、検察官に開放することによって、この歴史的な記録を「グアテマラの歴史の記憶に資する生きたアーカイブ」とすることにある。

「このアーカイブをオンライン化することで、世界中の人々‐失踪した友人や家族を探している人から、国家による抑圧・監視機関について調べている人やグアテマラへの米国の関与について調査している人まで‐この資料を利用して調べることが可能となるのです。」と、フエンテス氏は語った。(原文へ

INPS Japan浅霧勝浩

アサド政権後を見据えるイラン

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【ワシントンIPS=バーバラ・スラヴィン】

イランは、バシャール・アサド政権が崩壊した場合でもシリアとの重要な同盟関係を維持しようと、反体制派へのアプローチを試みている。

これまでのところ、イラン政府関係者が、「民主的変革のための全国調整委員会」(NCC)のメンバーと少なくとも2度会合している。首都ダマスカスに本拠を置くNCCは、外国勢力の干渉に反対するとともに、国内改革を通じて9カ月に亘る危機を解消すべきと訴えている。

 新アメリカ財団と中東研究所に所属し、シリアとアラブの民主運動を専門とするランダ・スリム氏は、「イランは、チュニジアのイスラム指導者ラーシド・アルガンヌシ師を通じて、シリア国外に本拠を構える「国民評議会」(SNC)のメンバーにもアプローチをかけています。ただし現時点では、SNCはイランからの誘いに応じていません。」と語った。

1979年のイラン・イスラム革命後、シリアはアラブ世界で唯一同盟関係を維持してきた国であるだけに、アサド政権に対する民衆蜂起は、イランにとっても深刻な危機である。

またシリアは、イランがレバノンのヒズボラ(主なアラブ人シーア派同盟勢力)支援の中継路として、さらにはアラブ-イスラエル和平交渉に反対しイスラエルに対する武力闘争を是認する所謂「抵抗運動勢力の枢軸」の重要な構成メンバーである。

スミソニアンセンター(ワシントンDC)のレバノン・シリア専門家であるモナ・ヤコウビアン氏は、12月7日にアトランティック・カウンシルで開催されたパネルディスカッションにおいて「シリアは、枢軸に参加している唯一のアラブ国家として、地理的な意味合いに止まらず、イデオロギーの側面においても、アラブ世界との架け橋としての重要な役割を果たしてきました。」と語った。

一方、ハマス(ダマスカスに本部を置くスンニ派イスラム勢力)は、同じイスラム活動家を残虐に弾圧しているシリア政権を支援していると見られないようにするため、あえてアサド政権と距離を置いたスタンスをとっている。

もしハマスとアサド大統領が脱落するようなことがあれば、「抵抗戦線」に残るメンバーはイランとヒズボラのみということになり、彼らが従来主張してきた「全アラブ人の権利を擁護する」という看板も失われることになるだろう。

イランの策謀

イランはシリアとの関係をなんとか維持しようと、アサド政権に対して資金・武器援助や、コンピュータ・携帯電話の傍受ノウハウを提供する一方で、反体制派へのアプローチをはかり、時にはアサド大統領を批判する声明も出すなど、多方面にわたる駆け引きを展開している。

あるイラン政府関係者は、匿名を条件にIPSの取材に応じ、「イラン政府は、シリアへの欧州からの観光客が激減している状況に対応するため、シーア派巡礼者に対して、同派の重要な聖地があるダマスカスを訪問するよう、推奨している。」と語った。

それでもなお、アサド大統領が、このますます血なまぐさく、宗派対立が濃厚になってきた国内紛争を乗り越えられるか、疑問を呈する声が広まっている。

国連によると、シリア騒乱における死亡者は5000人を超えており、シリアの支配勢力であるアラウィー派(シーア派の分派)によるスンニ派市民の大量虐殺やその反対のケースが報告されている。

シリア軍の将官(大半がアラウィ-派)クラスの大規模な亡命は見られていないが、一般の兵卒に関しては、多数が持ち場を放棄し、国境を越えてトルコ側に本部をかまえる自由シリア・アラブ軍(Free Syria Army)に参画している。

12月15日、人権団体ヒューマンライツ・ウォッチは、シリア国軍の元兵士たちが、非武装のデモ参加者の射殺や拷問、非合法な逮捕を命令、許可、容認したとして74名の国軍将校や政府高官の名前を特定したと報告した。

ヒューマンライツ・ウォッチは、国連安全保障理事会に対して、犯罪に加担した者への制裁とシリアの事態を国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう強く求めている。

アサド大統領と家族に国外亡命を勧める一方で現在の体制の温存を図ろうとする動きもあるが、それでも、アサド政権後に生まれる政権はイランとある程度距離を置くだろう。

パリに本拠を構えるSNCのバーハン・ガリオン氏は最近行われたウォールストリートジャーナルの取材に対して、「もしSNCが政権を獲得したら、シリアとイランの間に特別な関係は存在しない。」と述べている。

またガリオン氏は12月6日のCNNの取材に対して、「国民に明確に拒絶され、今や自国民を拷問にかける存在となった現政権を支援すれば、将来に亘ってシリア-イラン関係を傷つけることになる点をイラン政府が十分に理解していることを望みます。」と語った。

またガリオン氏は、「シリアの人々は、過去に支援したヒズボラが、自由を求める自分たちの戦いに対して、同様の支援で応えてくれていない現実に驚いています。」と付加えた。

政権交代の可能性

SNCのワシントンのメンバーであるMurhaf Jouejati氏は、IPSの取材に対して、「アサド政権後の新政府は、イスラエルとパレスチナ・レバノン・シリア間の係争を交渉を通じて解決する方針を支持するとともに、米国との関係改善を志向するだろう。」と語った。

Jouejati氏は、イラン政府を、「シリア政府に代わってNCCに正当性を付与し支えようとしている」として批判した。また、NCCはシリア国内のデモ参加者から支持を得られていないとして、イランの試みは失敗するだろうと語った。

イランの策略は、自国が核開発プログラムを巡って、国際社会から孤立を深める一方、様々な経済制裁に晒されている中で行われている。

バラク・オバマ大統領は、イラン中央銀行との取引がある外国の金融機関に対して米国の銀行との取引を禁止する法案に署名する用意ができている。

中東の専門家達は、経済制裁の結果、シリア国内のビジネスコミュニティーによるアサド政権支持率は大きく低下しており、さらに多くの一般市民が政権による弾圧に辟易していることから、アサド政権は風前の灯であり、政権崩壊も突然訪れるといった事態も考えられるとの見方を示している。

現在米国務省の顧問をつとめるシリアの専門家フレデリック・ホフ氏は、12月14日に出席した米国議会での証言の中で、アサド政権が今後どの程度存続できるかは予測不可能と指摘したうえで、「アサド政権は、もはや『刑場に向かう死刑囚(dead man walking)も同然だ』と語った。

今後のシリア情勢は、イランのみならず、シリア国内に乱立している各種武装勢力や宗教派閥組織を各々のルートを通じて支援しているサウジアラビアやトルコの動き次第では、さらに悪化する可能性がある。

「結局のところ、これは地域覇権を巡る問題なのです。」と、レヴァント地域の軍事問題の専門家Aram Nerguizian氏は、14日にアトランティック・カウンシルで行った講演の中で語った。Nerguizian氏は、「シリアは(地域覇権を巡って干渉してくる諸国による)代理競争の場となり、従来イラクやレバノンを悩ませてきた内戦に似た国内紛争が顕在化して可能性が高い。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|気候変動|排出削減合意に向けて僅かな前進(ダーバン会合)

【ダーバンIPS=クリスティン・パリッツァ】

中国、南アフリカ、ブラジルの新興諸国は、南アフリカのダーバンで開催中の国連気候変動サミット(国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議:COP17)において、2020年からの法的拘束力がある温室効果ガスの削減義務を受け入れる可能性を示唆した。

気候変動の専門家は、3か国が法的拘束力がある義務を負う可能性を積極的に考慮すると表明したことは、たとえそれがすぐに効果をもたらすものでなかったとしても、今年の気候変動枠組交渉における主要な政治課題の一つの克服に向けた「大きな一歩」となる可能性があると見ている。

 しかしインドは引き続きそのような義務にコミットすることを拒否している。

欧州連合(EU)は先週、京都議定書が現在削減義務を課している先進国(議定書に批准していない世界第二位の排出国〈19%〉である米国を除く)だけではなく、南アフリカ、ブラジル、インド、中国の新興国(BASICグループ)を含む全ての主要排出国が、法的拘束力がある削減指標を担う協定に調印し2020年に発効させるという趣旨の「ロードマップ」を提案した。

BASIC諸国はいずれも様々な開発課題に直面しているが、同時に温室効果ガス排出の重要な排出元でもある。主な新興国とその他の開発途上国が排出する温室効果ガスの総量は54%と、既に全体の半分を上回っている(一方、京都議定書が削減を義務づけている先進国の総排出量は全体の27%にすぎない:IPSJ)。そして向こう20年で、新興国・発展途上国による排出量は、全体の3分の2に達すると推定されている。

194カ国が参加したCOP17は12月9日まで開催予定だが、新興国がこのEUロードマップに合意するかどうかという憶測でもちきりである。
 
11月28日に始まった今回の会合では、各国間の要求や期待の間にある深い溝が浮き彫りとなった。そうした中、中国(世界最大の排出国:22.3%)は、自主的に設定している排出削減目標が期限を迎える2020年以降について、法的拘束力を持つ地球温暖化対策枠組みに参加する意思表示を初めて行い、各国の注目を浴びた。中国は当初、EUロードマップはハードルが高すぎると主張していたが、今ではとりわけEUとの間に妥協点を模索し始めているようだ。

中国代表団の団長を務める解振華・国家発展改革委員会副主任は、「しかし中国の参加には前提条件があります。先進国は(2012年末に第一約束期間が切れる)京都議定書の第二約束期間に合意しなければなりません。そして(第二約束期間終了後)各国の約束実行・行動状況の評価を行い、その結果に基づいて中国は2020年以降の合意内容について交渉を開始する用意があります。」と語った。

中国は法的拘束力がある枠組みへの参加に関して、5つの前提条件を提示した。この中には、先進国による京都議定書と第二約束期間への合意のほか、途上国が気候変動問題に対処していくための300億ドルの早期資金と2020年までの毎年1000億ドルの長期資金の支援約束を実行に移すべきとの要求が含まれている。

また中国は、本会合でグリーン気候基金(GCF)の始動に合意すること、また、2009年のコペンハーゲン会合で合意され昨年のカンクン会合で気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCC)に組み込まれた一連の合意事項(技術移転、気候変動への適応、排出コミットメントを検証する新ルール等のイニシアチブ)を実行に移すよう求めている。

農業と生物多様性の分野で地球温暖化の深刻な被害に晒されている南アフリカとブラジルも、EUロードマップに関心を示した。

南アフリカのエドナ・モレワ水環境問題大臣は、「EUロードマップについては好意的に見ています。しかし、我が国は中国と同じく、法的拘束力をもついかなる合意に関しても、参加するかどうかを検討する際には前提条件を設けたい。」と語った。

南アフリカの次席交渉担当のXolisa Ngwadla氏は、「我が国は法的拘束力をもつ合意に向けて努力していきたい。我が国が国際舞台において可能な範囲内でいかに真剣に取り組もうとしているかは、UNFCCの第4条1項及び第2条の文脈の中で理解されているものと認識しています。」と語った。

UNFCCの第4条1項は、各国の国内総生産(GDP)規模に基づく「共通だが差異ある責任」に言及する一方で、第2条は、「生態系が気候変動に自然に適応し、食糧の生産が脅かされず、かつ、経済開発が持続可能な態様で進行することができるような水準で大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」-つまり、気候変動による深刻な悪影響に晒されている国々にとって重要な点に言及している

「また我が国の将来におけるコミットメントは、先進国が今後、資金支援、技術移転、キャパシティビルディングにおいてどの程度実行するかを見て判断することとなります。」とNgwadla氏は付加えた。

一方南アフリカとは対照的に、ブラジルは、法的拘束力をもつ枠組みでも、それが科学的な根拠に基づく地球温暖化対策に有効なものであるならば、参加を検討するに当たり前提条件は設けないと語った。

ブラジルの首席交渉代表のルイス・アルベルト・フィグエイレド大使は、「我が国は今日にでも国際的に法的拘束力が伴う文書に合意する用意があります。しかし、それに値する文書がないのです。合意文書は、気候変動対策として科学的根拠に基づく有効なものでなければなりません。つまり我々は、採択そのものを目的とするような法的拘束力をもつ文書には同意できないのです。」と語った。

現在ブラジルは、国内で独自の排出削減目標を設定し法制化している。フィグエイレド大使は、こうした独自のコミットメントはいずれ深化させていかなければならないと指摘した上で、「我々はこうした試みをより積極的に打ち出していかなければならないと理解しています。こうした自主的な活動のみでは、通常、科学的根拠に基づく国際的な対応レベルには及ばないと考えています。ブラジルは将来における気候変動と戦う国際的な取り組みに積極的に参加して役割を果たす方針です。」と語った。

世界132カ国からなるG77/中国交渉ブロックの一員として、ブラジルはダーバン会合が12月9日に閉幕する前に京都議定書の第二約束期間を採択するよう後押しをしている。またブラジルは、途上国が気候変動に対応できるよう先進国が早期資金及び長期資金を支援するグリーン気候基金(GCF)の始動に同意するよう働きかけている。

BASIC4カ国の交渉団は、南南協力は経済的な側面のみならず、気候変動サミットにおいて決定をしていくためにも重要であること、そして新興国同士相互の立場を支持していくと繰り返し指摘している。

しかしBASICの4番目のメンバーであるインド(世界第4の排出国:4.9%)は他の3か国と足並みを揃えていないようだ。インドは法的拘束力を伴う排出削減枠組みへの署名は考えていないとしてEUロードマップにも反対の意思を繰り返し表明している。

インドは、2020年までにGDP 当たりの排出量を2005年比20%から25%削減するとしている独自の目標を実施することで十分との立場を表明している。インドの首席交渉代表のJ.M.マウスカール氏は、「一人当たりの二酸化炭素排出量が世界で最少レベルの我が国としては、さらなる厳しい排出制限目標は必要ないのです。インドは主要排出国ではないのですから。」と語った。

またマウスカール氏は、「インドは『相互保障』の部分について交渉する用意があります。カンクン合意における緩和プレッジでは、2020年までの途上国による自主的な削減行動プレッジの方が先進国による削減目標プレッジよりも絶対量で上回っていました。つまり途上国や新興国ではなく、先進国こそが自らのコミットメントについて一層の努力を行うべきなのです。」と語った。

インドは、工業先進国、とりわけ米国が温室効果ガス排出削減について明確なコミットメントをおこなっていない点について批判した。「我々は京都議定書の第二約束期間についてほとんど進展が見られていないことについて深く憂慮しています。」とムスカール氏は語った。

京都議定書締結国のロシア(世界第三の排出国:5.4%)は、南アフリカ、中国、ブラジル、インドとBRICS経済ブロックを形成しているが、(カナダ、日本と同様に)同議定書の第二約束期間の議論に関しては明白に拒否する意向を示している。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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大多数のイスラエル人は核兵器のない中東を支持

【ワシントンIPS=ミッチェル・プリトニク】

イスラエルのユダヤ人の大多数は、たとえそのために自国の核兵器を放棄するということになっても、核兵器のない中東を支持するだろう。

これは、イスラエルのユダヤ系とパレスチナ系市民を対象に別々に実施した世論調査から明らかになった、最も驚くべき結果である。

12月1日にブルッキングス研究所から発表されたこの世論調査は、メリーランド大学のシブリー・テルハミ教授が11月に実施したもので、質問内容は、「アラブの春」から、米国に対する認識やイスラエル‐パレスチナ紛争の今後への希望など多岐にわたっている。

これによると、ユダヤ系イスラエル人の90%が、「イランは核兵器を開発すると思う」と回答した。もし選択肢が2つしかない(イスラエルとイラン双方が核武装か、核放棄か)ならばどちらを選択するかとの問いに対して、63%が「双方とも核兵器を保有しない方が望ましい」と回答した一方で、「双方が核武装したほうがよい」と回答したのは僅か19%だった。

 イランの核関連施設を攻撃するという考えについて、ユダヤ系イスラエル人回答者の43%が「支持する」と回答し、「反対する」と回答した41%を僅かに上回った。一方、アラブ系イスラエル人で攻撃を「支持する」と回答したのは僅か4%で、実に68%が攻撃に「反対する」と回答した。

また今回の世論調査で、ユダヤ系イスラエル人の大半は、「アラブの春」はアラブ世界に民主主義をもたらさず、従ってイスラエルに悪影響を及ぼすだろうと考えていることが明らかになった。

「アラブの春」がイスラエルにどのような影響をもたらすかという質問に対して、「事態は好転するだろう」との回答が僅か15%だったのに対して、「概ね悪影響を及ぼすだろう」との回答が51%にのぼった。一方、21%が「影響はない」と回答している。

しかし、「もし『アラブの春』がアラブ世界に民主化をもたらしたとしたら…」との仮定を付加えた質問に対しては、44%が「事態は好転するだろう」と回答した一方で、22%が「概ね悪影響を及ぼすだろう」と回答した。なお、「影響はない」との回答は28%だった。

イスラエル人コラムニストのナフン・バルネア氏は、テルハミ教授の世論調査の結果について、「イスラエルの人々は、『アラブの春』がイスラエルへの敵意を増幅させるものだと警告する政府発表やメディア報道に接して、恐怖心を抱いているのです。」と指摘した。

イスラエルのパレスチナ市民に対して行われた世論調査の結果は、いくつかの重要な問題について、1年前の結果とは大きな変化を示している。
 
現在イスラエルの管理下にあるアラブ/パレスチナ人の街を新パレスチナ国家に引き渡すことに賛成するかとの質問に対しては、「認める」との回答が17%にとどまったのに対して、78%が引き渡しを「認めない」と回答した。これは、58%が「認めない」、36%が「認める」と回答した2010年の調査結果と比べると明らかな変化が見てとれる。

また、パレスチナ難民がかつて追われた土地に帰還する権利の問題についても、今回の調査結果から、妥協に向けた明らかな変化が見られた。2010年の調査では、57%のアラブ系イスラエル市民が帰還の権利について「妥協の余地はない」、28%が『重要な問題だが妥協点を模索すべき』、11%が「あまり重要な問題ではない」と回答していた。

しかし今回の調査では、過半数が入替り、57%が妥協することに「賛成」、34%が「反対」、そして「あまり重要でない」との回答は、僅か5%にとどまった。

テルハミ教授は、この問題について、アラブ系イスラエル市民の世論がどうして大きくシフトしたかについては分からないとしつつ、「家族の中に土地を追われ難民となった経験を持つ者がいる家庭では、そうでない家庭と比べて、はるかに強く妥協に反対する傾向が見られた。」とコメントした。

また今回の調査で、イスラエル在住のアラブ系市民の地位に関しては、アラブ系市民とユダヤ系市民で対照的な見方をしていることが明らかになった。双方とも過半数の回答者(アラブ系:52%、ユダヤ系57%)が、「アラブ系市民は、法的にはユダヤ系市民と対等とされているが、構造的、社会的差別が存在する」と考えていたのに対して、36%のアラブ系市民が、実態は「アパルトヘイト下の(白人と黒人の)関係」と同じだと回答している。

ユダヤ系市民でそのような見解を持っていたのは僅か7%で、33%のユダヤ系市民は、アラブ系とユダヤ系市民の関係は平等との見方を示した。なお、アラブ系市民でそのような見解を示したのは3%にすぎない。

また大半のユダヤ系市民は、パレスチナ紛争が近い将来に解決するとは期待していないことが明らかとなった。向こう5年以内に紛争が解決すると回答したユダヤ系市民は僅か6%にとどまっており、49%が「決して解決しない」、42%が「最終的には解決するだろうが5年以上かかる」と回答している。

またユダヤ系市民の間では、イスラエルが「ユダヤ人の国家」として承認されるべきという点で幅広いコンセンサスが存在する。しかしこの点は、パレスチナ暫定自治政府が従来から断固として拒否している点でもある。今回の調査では、ユダヤ系市民の39%が、「ユダヤ人の国家」としての承認を、和平交渉やユダヤ人入植活動停止の前提条件だと回答している。また、40%が「ユダヤ人の国家」としての承認を、パレスチナとの最終和平合意の一部として受け入れると回答している。一方、「ユダヤ人の国家」として承認を要求する考えに賛同しないと回答したユダヤ系市民は僅か17%であった。

しかし「イスラエルを『ユダヤ人並びに全てのイスラエル市民の祖国』と定義することを受け入れるか否か」との質問に対しては、ユダヤ系市民の25%が反対したものの、71%が「受け入れる」と回答した。

またユダヤ人市民の66%が、現政権が1967年当時の国境と合意済の妥協点に沿ってパレスチナ側との包括的な和平を達成すべく、「もっと努力すべき」(その反対意見は31%)と回答している。この結果は、ベンヤミン・ネタニヤフ政権のこの問題に関する対応について、ユダヤ系市民の間で不満が高まっていることを示している。

さらに47%のユダヤ系市民が、イスラエルとパレスチナの「2国共存案(通称2国間解決案)が崩壊したら、「殆ど変化なく現状が続くことになる」と回答した。一方、34%は、「長期にわたる紛争につながるだろう」と回答した。

テルハミ教授は、「アラブ世界では、大半の人々が2国間解決案が崩壊すれば、何年にも亘る激しい紛争がおこると考えている。」と指摘した。

また今回の調査により、イスラエルのアラブ系市民は、「アラブの春」に対する態度や、トルコのエルドアン首相をアラブ世界のニューリーダーのモデルと見ている点で、他のアラブ世界の人々と概ね見解を同じくしていることが明らかとなった。

一方、アラブ系イスラエル人とアラブ諸国のアラブ人の間で、大きく意見が分かれたのが、最近の中東における米国の役割に対する認識である。ここ数カ月で中東地域に最も建設的な役割を果たした国を2つ挙げるよう求める質問に対して、アラブ諸国の回答者の間では、米国は3番目(24%)にランクされたのに対して、アラブ系イスラエル人の間では、米国は1番(45%)にランクされた。

次期大統領選挙が近づく中、バラク・オバマ大統領にとって、ユダヤ系イスラエル人からの支持率が昨年の41%から今回54%に上昇したのは心強いニュースだったかもしれない。しかし、オバマ政権の中東政策に対する評価は、「希望が持てる」という回答が22%だったのに対して「がっかりさせられた」という回答が39%にのぼるなど、概して低いままであった。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩