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|シリア|ハマ虐殺事件の背景に怨恨の影

【アブダビWAM】

シリア中部の町ハマの近郊にあるクベイル地区で6日に起こった虐殺事件は、改めて混沌と無秩序のどん底に陥ろうとしているシリアの現状を浮き彫りにした、とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙が報じた。

のどかな郊外の村で発生した今回の虐殺では、80人を超える住民が、ナイフで刺殺されたうえに死体が焼却されるという極めて残虐な手口から、民族、宗派、パワーポリティクスを動機にした殺害者による怨恨が背景にあるのではないかとの見方が強まっている。

「明らかに言えることは、バシャール・アサド政権のバース党が主導する治安部隊とは別に、独自の利害関係と目的をもった諸集団が跋扈しており、危機に陥っているシリアがこうした集団による攻撃の標的になっているということである(犠牲者の多くが反政府派が多数を占めるスンニ派ではなく、政権関係者に近い少数派のアラウィ派や同じく少数派のキリスト教徒であることから、実際の犯行は政府軍によるものではなく、反体制派を名乗るスンニ派原理主義グループによる犯行との見方もでてきている:IPSJ)」とドバイに本拠を置く英字日刊紙「カリージ・タイムズ」紙が9日付の論説の中で報じた。

 
この虐殺事件の少し前(5月25日)にも中部の町ホムス近郊にあるホウラ地区で、村人ら約100人が同様の手口で殺される虐殺事件が起きていた(右上写真)。こうした虐殺が頻発することに、アサド政権に対する国際社会からの非難(友好国ロシアからのものも含む)が高まっているが、暴力の連鎖はいっこうに収束する気配を見せていない。

「現在の状況は、まさにシリアが国家として崩壊の危機にあることを示唆している。現在のシリア社会は根深い宗派対立に沿って分裂状態にあり、従来それを抑え込んでいた政府による命令や法秩序が行き渡らなくなっている現状では、今後こうした虐殺がさらに頻発する可能性を誰も否定することはできない。」と同紙は報じた。

さらにカリージ・タイムズ紙は、「シリア情勢をさらに複雑・かつ悪化されているのが、自称反政府組織の一部と名乗っている多くの民兵組織に、武器支援の形で介入してきている外国諸勢力の問題である。こうした大小様々な「自称反政府勢力組織」の多くが、統一反政府連合の旗の下にアサド政権打倒に邁進するという目標とは別の政治的目標に向かって活動している可能性については、だれも否定することができない。」と報じた。

同紙は、今のシリア情勢は、政府の統治能力が弱体化して内戦状態になったところに諸外国が反政府諸団体に対する支援を通じて不当な介入をおこなっている構図から、泥沼状態に陥っているアフガニスタンの再現に他ならない、と報じた(国連では、住民保護を理由にアサド政権打倒を目指して軍事介入を主張する欧米アラブ諸国と、旧ユーゴスラヴィア紛争の際のデイトン合意の前例を踏まえた現政権と反対勢力による対等な話し合いで妥結をはかるべきとするロシア・中国の主張が対立している:IPSJ)

「重要な点は、国際社会は虐殺が繰り返されているシリアの現状を単に傍観して嘆いているのではいけないということである。ホウラやハマの虐殺事件が、責任の所在を巡る非難の応酬をエスカレートさせる一方で、(コフィ・アナン国連・アラブ連盟共同特使が提示した)6項目の和平提案から注意を逸らす結果となっているように、問題打開に向けた政治・外交イニシャチブは、機能不全状態に陥っている。」

カリージ・タイムズ紙は、「国際社会は、無関心の中でこうした緊急事態が頻発する現状は改められなければならない。シリアの人々がこうした攻撃の標的にされて空しく遺体を数え続ける事態が放置されてはならない。」と結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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数は減っても近代化される核兵器は将来の脅威

【国連IPS=タリフ・ディーン】

「いかなる場所からも核の脅威を除去する最善の道は、あらゆる場所から核兵器を除去することである。」こう語るのは、最近ますます、最強の反核論者の一人とみられつつある潘基文国連事務総長である。

しかし、核の脅威を除去するという長きにわたる望みは、まだ叶えられそうもない。イランとの協議は暗礁に乗り上げ、北朝鮮は核実験を継続し、アラブ蜂起に伴う政治状況の変化によって、12月にフィンランドで予定されていた中東非核兵器地帯化に関する国際会議は開催が危ぶまれている。

しかし、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が6月4日に発表した世界の軍備動向に関する2012年の年次報告書によれば、核軍縮に関する世界の関心があらためて高まってはいるが、8つの核兵器国(米、英、仏、中、露、印、パキスタン、イスラエル)のいずれも、核戦力を放棄することに関してレトリック以上の意思を示していない。

SIPRIの軍備管理・軍縮・不拡散プログラム上席研究員のシャノン・カイル氏は、「核弾頭の全体数は減っているかもしれません。しかし、これらの国家において長期的な核近代化計画が進められていることは、核兵器が依然として国際的な地位と権力の源泉となっていることを示しています。」と述べている。

「核兵器なき世界」という長く失われた大義は追求する価値があるかという質問に対して、カイル研究員は、「私は基本的に楽観主義者ですが、核兵器なき世界を達成するのはかなり長期的な目標であることを現実的に理解する必要があります。」と語った。

またカイル氏は、「SIPRI年次報告書で述べているとおり、すべての核兵器保有国が核戦力の近代化あるいは拡張計画を進めており、無期限に核兵器を保持し続けようとしているかにみえます。」と指摘すると同時に、「政治指導者らが、これまでなら考えられなかったことを、少なくとも考えるようになり、単に核兵器の数を減らしたりその拡散を防いだりするだけではなく、究極的には完全廃絶するための長期的戦略を形成することを真剣に考え始めていることは、希望の持てる兆候です。」と語った。

さらにカイル氏は、「現在の戦力の傾向を別にすれば、『核兵器なき世界』という目標に最終的に到達するには、抑止論の呪縛とでも呼べるものをまず打破しなくてはなりません。」「そのためには、21世紀型の脅威からどうやって身を守るかということに関して、我々の発想を根本的に転換させる必要があります。」
「最終的には、そうした発想の転換こそが、『核兵器なき世界』に向けて前進していくにあたっての、もっとも難しい課題となるかもしれません。」と語った。

先月あるロンドンの日刊紙が、中東での蜂起と、イスラエルとイランの核兵器製造疑惑を巡る政治的綱引きが原因で、ヘルシンキで12月に予定されていた国際会議の開催が難しくなりつつある、と報じた。

この会議の第一目的は、中東を核兵器禁止地帯にすることである。しかし、米国とイスラエルを含む主要な数カ国が、未だに会議参加を確約していない。

米国のバラク・オバマ大統領は、昨年、この会議の隠れた目的がイスラエルを指弾することにあるのなら、米国は会議に参加しないと警告した。

チュニジア・リビア・エジプト・シリアで最近起こっている民衆蜂起は、中東の政治的環境を大きく塗り替えた。

SIPRI年次報告書は、世界の核戦力は、「数を減らしてはいるが、より近代的なものとなっている。」と分析している。

2012年の初めには、8つの核兵器国が計約4400発の核兵器を作戦配備していた。そのうち2000発は高度な警戒態勢下に置かれている。

すべての核弾頭をカウントすると、8ヶ国で合計約1万9000発になる。2011年初頭には2万530発であった。

SIPRIによれば、この減少は、米国とロシアが、「戦略的攻撃兵器のさらなる制限と削減のための措置に関する条約」(いわゆる新START)の条件に従って備蓄戦略核をさらに削減したことに加え、老朽化・陳腐化した核兵器を退役させたことによるものである。

同時に、法的に核兵器国と認められている中・仏・露・英・米は、新しい核兵器運搬システムを展開しているか、或いは、そのような計画を実施すると発表している。

これら核兵器5大国は、自らの核戦力を未来永劫保持し続けることに固執しているようだ。

他方、SIPRI年次報告書によれば、インドとパキスタンは核兵器を運搬可能な新システムの開発をつづけ、核分裂性物質を軍事目的で生産する能力も拡大させている。

これだけ大騒ぎしているにも関わらず、北朝鮮を今はともかく少なくとも将来的にも核の脅威とみなさないのはなぜか、という問いに対して、カイル氏は、「この数年のSIPRI年次報告書で指摘してきたように、作戦配備可能な核兵器(航空機あるいはミサイルで運搬可能な、軍事的に利用できる兵器)を開発し終えたという北朝鮮の主張を裏付けるような公知の情報が存在しないということです。」と語った。

カイル氏は、「したがって、(北朝鮮が主張している核兵器)それ自体は、軍事的脅威とはみなされない」としたが、同時に、北朝鮮が明確に核兵器開発に向かっていることも指摘した。

北朝鮮政府の数多くの論評や声明を読むと、米国による先制攻撃に対する最後の手段として、核兵器が安全を保証するのだと指導部が本当に考えているふしがある。

実際、北朝鮮は、核抑止力の開発を正当化するために、米国の北朝鮮敵視政策と同国を抑圧しようとする試みを非難し続けてきた。

「目下の問題は、北朝鮮が初歩的な核兵器能力を開発し、今後、小規模の核兵器開発に成功するかもしれないという現実に国際社会がどう対応するのかということです。」と、カイル氏は指摘する。

「私は、これに対するもっとも合理的な答えは、検証可能で透明性を確保した形で北朝鮮に核兵器開発を諦めさせることが現実的なオプションになりえない以上、国際社会は、北朝鮮の『核の既成事実』と共存していかざるを得ない、ということだと思います。」とカイル氏は語った。

この構図は、たとえ北朝鮮と米国との間で今後徐々に和解が進展したとしても、基本的に変わらないだろう。

カイル氏は、同時に、「国際社会は、北朝鮮の核兵器開発がもたらす不安定的な帰結を抑え込むか、少なくともそれを緩和する一貫した戦略を形成しなくてはなりません。」と語った。

こうした帰結の中でもっとも危険なものは、すでにシリアに対してそうしたと言われているように、核分裂性物質、あるいはそれを生産する能力を北朝鮮が他国に輸出する(いわゆる二次的拡散の)可能性であるという共通認識が、米政府や多くの独立の識者の間で形成されつつある。

このため、「北朝鮮の核能力を制限するための執行可能な措置や政策を実行することだけではなく、北朝鮮と国際社会全体の主要な安全保障上の懸念に対処するような、交渉を通じた解決に至るための公式を形成することへの関心も高まりつつあります。」とカイル氏は語った。

他方で、SIPRI年次報告書は、「2011年に中東と北アフリカで起こった動乱は、今日における武力紛争の性格が変化していることを浮きぼりにした」と警告するとともに、「2011年に実施された平和維持活動は、民間人保護という考え方がより受容されるようになったことを示す良い例となった。」と指摘している。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|南スーダン|石油生産停止に伴う経済危機は国民生活を直撃している

【ジュバIPS=チャールトン・ドキ】

南スーダンが経済危機を打開するためとして緊縮財政に走る中、国連は、「財政状況悪化に伴い危機的な状況に追い詰められている貧困層の命を繋ぐためには、人道援助機関による支援を強化していかざるを得ないだろう」と警告している。

「家族が生き延びられるよう必要な支援を提供することこそ、人道主義と呼ぶべきでしょう。」と、国連の南スーダン人道問題担当ライズ・グランド氏は語った。

南スーダンの経済危機は、国家歳入の98%を占める石油生産を、政府が1月から停止する措置をとったことに起因するものである。南スーダン政府は、石油パイプラインや輸出港(いずれもスーダン側のインフラに依存している)の使用料を巡る協議をスーダン政府と行っていたが、折り合いがつかず、今年に入って石油生産停止という強硬措置に踏み切った。

 それから間もなく、南スーダン政府は、投資削減、政府支出半減、借入内容の見直し(インフラ開発や税収増に資する経済刺激策に限定)等からなる緊縮財政を実施した。政府はその一方で、海外の金融機関からの借款を財政危機緩和のひとつの手段とみなしており、積極的な借り入れ交渉の末、多額の融資を取り付けた。

しかしグランド氏はIPSの取材に対して、「もし政府の国庫が底をつき、医療、教育サービスが滞るようなことになれば、国内のコミュニティーは深刻な影響を被ることになるだろう。」と語った。

「緊縮財政による痛みは、ますます各家庭を苦境に追い詰めており、この状況が今後も続くようであれば、人道支援団体が支援活動を強化せざるを得ないだろうと、憂慮しています。」とグラント氏は語った。

世界銀行などは、今年中に南スーダンの経済が完全に崩壊してしまいかねないと警告しているが、南スーダン政府は、そのような予測をきっぱり否定している。(スーダントリビューンは、5月6日付の紙面の中で、南スーダンは「破綻局面」に遭遇しかねないとする世界銀行からリークされたとされるドキュメントについて報じた。)
 
「南スーダンは、現在の政策を堅持していく方針です。私たちには、我が国のことを良く思っていない勢力が望んでいるような経済崩壊のシナリオはありませんし、南スーダンが無くなるということはあり得ません。」と、コスティ・マニベ財務・経済計画大臣はIPSの取材に応じて語った。

しかし、国家収入の大半を占めてきた石油生産を停止した影響はかなり深刻で、外貨準備高の激減という形で顕在化してきている。公式レートは1ドル=2.95南スーダンポンドだが、闇市では、1月の3.5ポンドから現在は5ポンドにまで下落している。またグラント氏も以前のIPSによる取材の中で、国境地域のコミュニティーにおける生活必需品価格について、200%高騰したと述べている。

結果的に、燃料不足が深刻になっており、ディーゼル燃料、ガソリンともに、1リットル当たりの価格は、経済危機前には6ポンドだったものが、現在では30ポンド(約6ドル)にまで高騰している。

さらに、南スーダン統計局によれば、同国のインフレ率は、2月には21.3%だったが、3月には50.9%へと急激に悪化している。

「確かに今は厳しい時期です。しかし、私たちには対応策があるので、あの戦争の困難な時期を切り抜けたように、今回も乗りきっていきます…」とマニべ財務・経済計画大臣は強調した。昨年7月までスーダンの一部であった南スーダンは、1983年から2005年にかけて内戦(第二次スーダン内戦)を経験している。

しかし、環境経済学者で世界銀行コンサルタント(南スーダン民間セクター担当)のスペンサー・ケンイ氏は、こうした政府の見解について、「長年苦境を耐え忍んできた南スーダン国民の我慢強さを、政府による経済対策の失敗の言い訳に使うのは間違っています。」と批判した。

「戦争中、南スーダン国民は苦しみましたが、それは彼らが望んだものではありません。選択肢がなかったのです。政府は、単に政策を実行するというのではなく、民衆の生活を向上させるような正しい政策も実行に移していくことで、南スーダンにあるていどの社会秩序を作り出していく必要があります。」とケンイ氏は語った。

石油生産停止措置については、多くの人々が、「事前の熟慮もその結果に対する準備策もないまま、時期尚早に行われたもの」として、政府の決定を厳しく批判してきたが、ケンイ氏もその一人である。

一方政府は、現在のところ資金源は、過去7年間蓄積してきた政府資金に依存していることを明らかにしている。政府は、この政府資金の規模を公表していないが、これで今後18ヶ月は持ちこたえられるとしている。

「もしこの政府資金が底をつけば、国家経済が破綻するのは火を見るよりも明らかです。例えば、ガソリンスタンドから燃料が無くなるなど、既に破綻の兆候が表れてきています。燃料不足は、国民の生活のあらゆる側面に影響を及ぼすものですから、なにか抜本的な対策を講じない限り、経済破綻はまもなく現実のものとなるでしょう。」とケンイ氏は語った。

元財政経済計画相のアーサー・アクアイン・チョル氏は、「なぜ徴税先を石油以外の分野に多様化しておかなかったのか」と、現政府の従来の政策を批判している。チョル氏は、南スーダン政府が、向こう6カ月で非石油分門からの税収を3倍にするとして5月に開始した徴税強化キャンペーンについて、「大幅な税収増は見込めないだろう」と語った。

しかし、マニベ財務・経済計画大臣は、「政府の税収は過去3カ月で4倍になりました。」と語った。

さらにマニベ大臣は、「今後政府は、従来徴税対象としてこなかった部門へも課税を開始します。そうした分野には、各種許認可など、かつてスーダン政府の管轄下にあったが、現在では南スーダン政府が執行しているものがあります。例えば、通信事業や石油探査・開発、鉱山採掘に関する許認可に際して、課税するというものです。」と説明した。

5月には、南スーダン政府は、燃料、食料、医薬品を含む必需品・サービスの費用を賄う資金として、カタール国立銀行からの1億ドルの融資を受けた。さらに、スタンビック銀行から1億ドル、名前不詳の機関から5億ドル規模の融資をまとめつつある。

また4月には、中国が80億ドルの融資に合意している。南スーダン政府は、この資金をインフラ開発に充てるとしている。

これらの融資に関する詳細な内容は公表されていないが、南スーダン政府は将来における石油収入から支払いをおこなうこととなっている。

ケンイ氏は、「南スーダン政府は、こうした借款に走るのではなく、世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった国際金融機関や、2国間無償資金協力が見込める援助国へのアプローチをすべきだったと思います。」と語った。

ケイン氏は、「せっかく復興しつつある経済も、このままでは大変なことになるでしょう。」と、独立まもない南スーダンが、民主主義が未発達な段階で諸外国からの借款に依存しようとしていることに警鐘を鳴らしている。

国際的企業の汚職、不正などの情報を集めている国際組織Global Witness(グローバルウィットネス)は5月17日に発表したレポートの中で、南スーダン政府に対して、石油を担保にした融資獲得を進めるにあたっては、慎重に透明性を確保するよう呼びかけている。

グローバルウィットネスは、南スーダン政府に対して、同国に対する直接的な利益を阻害しかねない搾取的な条項や、汚職、財務不正を防止する観点から、全ての借款協定について、詳細を公表するよう求めた。

一方、グランデ氏は、国連は食糧不足の影響を受けている人々の支援に最善をつくす、と語った。

グランド氏は、「これから作物が少なくなる時期を迎え、緊縮財政の痛みがますます家庭を直撃しますので、私たちは食糧援助が困窮した人々に届くよう活動を強化していきます。」「世界食糧計画(WFP)は、南スーダンで食糧支援を必要としている人口470万人のうち、270万人への食糧支援を予定しています。」と語った。

しかしケンイ氏は、「人道援助団体が、南スーダンの全ての人々に対して支援を行うということは到底不可能です。」と指摘したうえで、「国連やその他援助機関にできることはせいぜい難民や国内避難民に対する支援までです。国連機関が、(南スーダンという国の)全人口を対象に食糧、衣服、医療サービスを提供するということは考えられません。」と警告した。

しかし、南スーダンに対して多くの国が援助を申し出るという動きもみられない。ケイン氏はこの点について、「欧州も大きな経済問題を抱えており、南スーダンで住民を支援しているNGOに今後も十分な支援をし続けるとは考えにくい。」と指摘した。(原文へ

INPS Japan

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|オプエド|リオ+20はみんなの会議(沙祖康国連経済社会問題担当事務次長)

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【国連IPS=沙祖康】

沙祖康
沙祖康

国連持続可能な開発会議、いわゆる「リオ+20」は、数十年に一度という貴重な機会です。

6月20日に開会するこの会議には、135以上の国々から、元首・政府首脳、産業界や市民社会の代表など5万人が参加予定で、潘基文国連事務総長は、「リオ+20」を「国連の歴史の中でもっとも重要な会議のひとつ」と呼んでいます。

リオ+20」には国際社会の熱い眼差しが注がれています。かつてないほど相互依存が進んだ70億の人類が暮らす今日の世界では、持続可能な開発のみが、複雑に絡み合いながら地球の存続を脅かしている経済・社会・環境問題に取り組む、唯一の方法なのです。

 持続可能な開発に関する前進とは、飢えに苦しむ数百万の人々の食卓に食事が並ぶことであり、適切な仕事の機会であり、清潔な水へのアクセスであり、きれいな空気を胸いっぱい吸い込むことであり、生命に満ちた森の中で歩くことができるようになるということです。

さらに、持続可能な開発とは、すべての女性が男性と平等な機会を得ることであり、すべての子どもが学校に行く機会を得ることであり、基本的衛生であり、社会的包摂の環境の中で生きることであり、前途ある将来を見据えることができる、ということなのです。

こうした「持続可能な開発」への基礎については、多くの人々が、当たり前のように感じているかもしれません。しかし、現実はどうでしょうか?そのように感じることができるのは、実は恵まれた一部の人々であって、現実には、負担過剰となった世界は、数多くの難題(世界的な経済不況の影響、エネルギー不安、水不足、食料価格の高騰、気候変動や益々頻繁且つ大規模になる自然災害に対する脆弱性等)に直面しているのです。

こうした深刻な現状から、私たちは互いが密接につながった世界に生きているという重要な真実に気づかされるのです。こうした難題は、特定の国や地域だけの問題ではなく、本質的に全ての人類に影響を及ぼすグローバルな問題なのです。

今日の世界では、ある場所で起こった出来事が容易に他の場所に波及します。人類は、あたかも地球が5つあるかのような勢いで資源を消費し、将来の世代のことを考えない生活を送ってきましたが、もはやこうした旧態依然とした生活スタイルを続けていく余裕はなくなっているのです。

「リオ+20」は、他の国連会議とは異なるものです。この会議は、人々の生活の質を犠牲にして新たな規則や法令を施行しようとしているものではありません。むしろ、個人、地域コミュニティー、産業界、政府が、より良い賢明な選択ができるよう、励まし手助けする機会なのです。

私たちの経済、地球、社会の繁栄は、そうした一つ一つの選択が組み合わさって実行されることで、はじめて確保することができるのです。「リオ+20」は、世界の指導者を持続可能な世界(経済・社会・環境面において)に向けてコミットさせつづけるとともに、彼らに人類や地球の福祉を第一義においた選択をさせる、重要な機会を提供しているのです。

多くの支持を集めつつある提案のひとつに、ミレニアム開発目標(MDGs)を補完・強化するものとして、持続可能な開発目標(SDGs)を策定しようという動きがあります。実施可能で計測可能なSDGsは、持続可能な開発に向けたハイレベルな政治的コミットメントを具体的に表現するものとなるでしょう。

私自身は、「リオ+20」では、持続可能な開発と貧困削減という文脈において、グリーン経済を前進させたいと考えています。今日、実に幅広い分野(まともな仕事―とりわけ毎年労働人口に加わる8000万人近くの若者の就労問題、社会保護政策、〈社会的弱者の〉社会への受入れ、エネルギー確保の問題、効率・持続可能性の問題、適切な水管理の問題、持続可能な都市問題対策、海洋の保護と管理の問題、自然災害への備え等)においてアクションが求められているのです。

各国政府は、この会議で、持続可能な開発という目標をもっとも前進させることができる制度的枠組みについて合意する必要があります。またその際、市民社会と営利部門についても役割を与えることが重要です。

まさに、社会の全ての分野が持続可能な開発に向けた実践をしていくことができますし、そうしなければなりません。例えば、ビジネス・産業界は、世界をより良い方向に変革する手助けとなる技術を開発し、環境に優しい職業を創出し、企業の社会的責任(CSR)を通じて、社会に前向きな影響を及ぼすことができます。

また市民社会は、最も弱い立場にある人々の声が政策に反映されるよう政府の責任を追及することができます。さらに科学者は、持続可能性に関わる難題に対して、革新的な解決策を生み出すことが可能です。そして私たち一人一人が、日々の生活の中で、そうした情報に基づいた選択肢を実践することで、持続可能な開発に参画することができるのです。

まさに「リオ+20」は、地球がみんなのものであるのと同様に、みんなの会議なのです。従って、この会議で掲げられる目標、大望やその結果は、全て私たち一人ひとりが共有すべきものなのです。

最後に、「リオ+20」は、将来世代のための会議でもある点を指摘しておきたい。アメリカ先住民の間には、「私たちの土地は、先祖から相続したものではなく、子孫から借りているものなのです。」という有名な格言が伝えられています。

私たちは、創造的な思考を働かせ、前向きなイニシャチブに参画し、自発的なコミットメントを行うことで、将来の世代が誇りに思うような世界の実現に向けたコンセンサスを形成し、共に努力していくことができるのです。そのような未来を創造するために、共に取り組んでいこうではありませんか。(原文へ

※沙祖康(Sha Zukang)氏は、国連事務次長(経済社会問題局長)で、持続可能な開発に関する国連会議(Rio+20)の事務局長。

翻訳=IPS Japan

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核の飢餓の脅威に焦点を当てる科学者

【ワシントンIDN=アーネスト・コレア】

核軍縮・不拡散の進展にとってマイナスとなる事態が発生した。米共和党のリチャード・ルーガー上院議員が5月8日にインディアナ州で行われた予備選挙で敗北したのである。ルーガー氏は、保守派運動「ティーパーティー(茶会)」の支持を集める対抗候補に敗れ、11月の上院選で共和党候補として出馬することができなくなった。ルーガー氏は敗北後、無所属候補として出馬する予定もないことを明らかにした。

こうして、他の大半の議員が関与を避けがちな核軍縮関連問題に正面から取り組んだことで広く知られ、尊敬されていたルーガー議員が、連邦議会から去ることになった。こうした政治的に微妙な「核軍縮関連問題」といえば、ちょうど、核による飢餓の重大なリスクに関する警告が発せられたばかりであった。

安全保障や安定、生存に影響を及ぼす決定に焦点を当て、良識ある判断ができる人が少なくなってしまった。

 核の警告

国際的に問題になっていることと言えば、北大西洋条約機構(NATO)による抑止・防衛態勢見直しの議論や、米下院で、第四次戦略兵器削減条約(新START)合意の履行に制限をかける立法が試みられているということ等が挙げられる。

そのなかでもトップにくるであろうことは、地域的な核戦争でさえも(例として挙げられているのはインド-パキスタン間の紛争)、紛争地からかなり離れた国々で生産された農作物にも深刻な影響を与える可能性があるという科学的証拠を示し分析した新しい報告書であろう。

核戦争に直接的に巻き込まれた国では、核爆発の直接かつ広範に影響を受け、苦労して向上させてきた生産性は失われ、作物や農地は放射性物質の塵と化してしまう。今回の報告書が明らかにした警告は、戦闘当事国における帰結に加えて、その他の場所でも広範にわたって悪影響があり、農業の主要生産国も多大な影響を受けるという点である。
 
この報告書『核の飢餓:10億人が危機にさらされる―限定的核戦争が農業、食料供給、人類の栄養に与えるグローバルな影響』は、「核戦争防止国際医師の会(IPPNW)」とその米国支部である「社会的責任を求める医師の会(PSR)」によって作成された。

IPPNWは、核による絶滅の脅威のない平和で安全な世界を作るという共通の目標を持った、世界63ヶ国に支部を持つ無党派組織の連合体である。PSRは、核戦争・核拡散を予防し、地球温暖化を減速・停止・反転させることを目指した、医師を中心とする米国最大の組織である。報告書の著者であるアイラ・ヘルファンドは、IPPNWの北米副代表であり、PSRの元代表である。)

ヘルファンド氏は、「核による飢餓の暗い見通しは、核兵器に関する我々の見方に根本的な変化をもたらすものです。インドやパキスタンのような比較的小さな核戦力を有する国ですら、地球規模の生態系に長きにわたる悪影響を引き起こし、数億人を10年以上にわたって栄養不良に陥れるという新しい分析結果が出たのです。これは人類史の中でも、前例のない大惨事と言えるでしょう。」と語った。

報告書の著者と報告書作成に関与した機関の信頼性、そしてもちろん報告書の内容が、この報告書を説得力あるものにしている。では、世界の食料安全保障の現在、あるいは、国連食糧農業機関(FAO)が好んで使う言葉でいえば、「食料不安」の現在について考えてみよう。

食料不安

食料不安とは、通常、予測不可能な状況によって、ある特定の年にまとまって、世界の富裕国と貧困国との間で不均等に人間の健康や生命への脅威が広がることである。したがって、食料安全保障および食糧不安に影響を与えたり与えられたりする事柄へのアプローチはさまざまに異なっている。富裕国の人々が肥満が健康に及ぼす影響に取り組んでいる一方で、貧困国の人々は、飢えと、隠された飢え、すなわち栄養不良という難題に直面しているのである。

さらに、気候変動の初期的兆候を含めた気候のパターンや生産性、生産、インフラ、歪められた貿易慣行や投資、これらすべての要素が、直接的、間接的に食料不安に影響を及ぼしているのである。

完全な統計が利用できる最新の2011年には、2006年から08年にかけて経験されたような危機はなかった。しかし、ローマに本部を持つ3つの食料関連機関、すなわち、FAO、IFAD(国際農業開発基金)、世界食料計画(WFP)の長らは、その当時の経験の後遺症が、「2015年までに飢えに苦しむ人々の人数を半分にするというミレニアム開発目標(MDG)達成に向けた取り組みに影響を及ぼしている。」と述べている。

また、「かりにMDGが2015年までに達成されたとしても、途上国で普段から6億人が飢えているという状態は容認できない。」とも警告している。

もし、このように既に蔓延している食料不安が容認されないとしたら、核戦争によって引き起こされるより深刻な食糧危険に対して、国際社会はどのように対処すべきなのだろうか?

10億人が危険に

ヘルファンド医師と農業・栄養問題の専門家チームは、インド-パキスタン間の核戦争を仮定して、それが気候に及ぼす影響を分析した科学者によって作成されたデータを基に研究を行った。「社会的責任を求める医師の会(PSR)」によれば、研究チームは結論として「複数回の核爆発によって大気中に排出された煤(すす)や煙によって多大な影響を受ける農業地帯では、気温の低下や降水量の減少が見られ、それによって食物生産が阻害され、世界的に食料供給が減少、農産物価格に深刻な影響を及ぼすだろう。」と述べている。

より具体的にいうと、ヘルファンド医師らはRSP報告書の中で以下の知見を述べている。

・米国では、トウモロコシ生産が10年にわたって10%低下する。5年目で最大幅の20%減となる。大豆生産は7%低下し、5年目には最大の20%の損失となるだろう。

・中国は中期のコメ生産がかなり減少する。最初の4年間では平均して21%減、次の6年では平均10%減となるだろう。

・その結果として食料価格が高騰し、世界の貧困層数億人が食料を手に入れることができなくなるだろう。
 
中国と米国がこれらの農作物の生産を世界的にリードしていることを考えれば、この明確な判定において、これ以上の想像力を働かせる必要はないだろう。

報告書自体にはこう記されている。

「慢性的な栄養不良状態にある世界9億2500万人の1日あたりの食糧消費量は1750カロリー以下である。つまり、核が引き起こす飢餓により食料消費が10%減るだけでも、この人口集団全体が危機的な状況に陥ることとなる。」

「さらに、予想される穀物生産国からの輸出停止によって、現在は適切な栄養状態にあるが、食料輸入に過度に依存している国々に住む数億人への食料供給が危機に晒されることとなる。核戦争によって引き起こされる飢餓によって影響を受ける人の数は、10億人をはるかに超すことだろう。」

シンガポールの雄弁なる外相であり、先見の明を持った政治戦略家であった故S・ラジャラトナム氏なら、「人はパンのみで生きることはできないが、パンがなければまったく生きることはできない」と言うだろう。言葉としては軽く言われているが、その意味合いは実に重い。

農業は、工業国においてすら、開発と継続的な進歩の源泉となっている。それこそが、ヘルファンド医師らが示した次元において食料生産・流通が破壊されることが、想像を絶する人的被害につながると言って差し支えない理由なのである。つまり、この仮想的な地域紛争とは関係のない多くの国において、長期にわたって死が、そしてその帰結として、社会の崩壊がもたらされるということなのである。

こう考えたらどうか

打ち鳴らされた警告に対して手早く簡単に導き出せる反応は、こんなものだろう。「そう、たしかに危険は存在する。でもそれは、インドとパキスタンが本当に核戦争を行ったら、という話だ。不幸にも両国はインド亜大陸を核の隣国関係に変えてしまったが、これまでのところ、両国とも自制心と責任感を働かせて、核の破壊行為に地域を陥らせないようにしている。必要なのは、国際社会があらゆる手段を使って、両国間の平和を保つことだろう。」

そのとおり。しかし、将来いつか、いずれかに軍事政権が誕生しても、果たしてその政権が自制の絆を打ち棄てるのを思いとどまらせることができるだろうか?さらに、インドとパキスタンは、核能力を持った唯一の地域大国ではない。たとえば、イスラエルも核兵器国だと一般に考えられている。また、世界の紛争地域には、その他にも核を持とうと狙う国々があるのが現状である。

中東を核の危険から解放された地域にするために協議のテーブルにつかせようという試みがなされているが、中東諸国は聞き入れようとしていない。2012年12月に(フィンランドで)予定されている中東非核地帯創設のための国連会議は、延期されそうな情勢である。

核の飢餓から人類を守る真の防護策とは、耳に心地よい歌をキャンプファイヤーを囲んで歌うような、行き当たりばったりの「みんなで平和を守っていこう」式のプロセスではなく、核軍縮に対して世界があらためて正面から向き合うことであろう。

元国連事務次長(軍縮担当)でパグウォッシュ科学・世界問題会議の現議長であるスリランカの外交官ジャヤンタ・ダナパラ氏は、彼の外交生活のほとんどを、核軍縮のメッセージを世界に広めるために費やしてきた。彼は、今日の状況をこのように的確にまとめている。

「科学的証拠は、我々がすでに知っていることを実証的に示しています。つまり、核兵器はこれまでに発明された、遺伝的・生態学的にも無理の影響をもたらす史上最も破壊的な大量破壊兵器である。しかし核兵器は、生物兵器や化学兵器とは異なり、既得権ゆえに依然として違法化されていないのです。」

「9ヶ国が2万530発の核兵器を保有し、なかでも米国とロシアが全体の95%を占めている。この兵器が存在し続けるかぎり、テロリストも含め、核兵器の入手を企図する者は後を絶たないだろう。核兵器が存在するかぎり、意図的であろうと偶発的であろうと、あるいは国家によるものであろうと、非国家主体によるものであろうと、その使用は不可避である。従って、核兵器禁止条約(NWC)を通じて核兵器を完全廃絶することが、唯一の解決策なのである。」

この解決策を国際社会に売り込むのは難しいだろうか?確かに難しいだろう。しかし、こう考えたらどうだろうか?つまり、「もしこれが売れれば、人類にとってものすごい成果が待っている」と。(原文へ)

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
 

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|世論調査|イランの核武装に対する反対世論が広がる

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【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

イランの核開発疑惑について、軍事攻撃オプションに対する支持はこの2年の間にいくつかの主要国において低下してきているものの、イランが核兵器を取得することには反対する世論が広がっていることが、5月18日にワシントンで発表されたピュー国際意識調査プロジェクト(Global Attitudes Project-GAP)の最新調査結果によって明らかになった。

21カ国で実施されたこの世論調査報告書は、イランが核開発プログラムの今後についてP5+1(米国、英国、フランス、中国、ロシア、ドイツ)と交渉に臨む5日前に発表された。ただし今回の調査に際しては、一部の質問項目について専門家から、内容が偏っているとの厳しい指摘がなされていた。

 イランとP5+1は、4月14日にトルコのイスタンブールで1年3か月ぶりとなる協議に臨み、(交渉決裂ではなく)バグダッドにおける継続協議に合意したことから、今回の協議では、イランによる20%高度濃縮ウランの停止の可能性など、両者の間である程度の信頼醸成措置が合意されるのではないかとの期待が高まってきている。

また5月20日に天野之弥事務局長がテヘランを訪問する(明らかに、核関連の実験施設があると疑われている軍の施設へのIAEA査察チームの立ち入りに向けた条件交渉が目的である)とした国際原子力機関(IAEA)の発表は、こうした期待感をさらに裏打ちするものとなった。

今年の3月中旬から4月中旬にかけて実施された調査は、ピュー・リサーチセンターが過去12年にわたって毎年実施している国際意識調査プロジェクトの一部である。

今回の調査は、21カ国の26,000人以上を対象に実施されたもので、質問内容はイランやイラン核問題に限らず、幅広いトピックを網羅したものであった。調査結果は数週間から数か月後の発表が見込まれているが、今回ピュー・リサーチセンターは、イランとP5+1によるバグダッド協議に対する国際社会の関心が高いことから、イラン関連部分の調査結果のみを先駆けて公開することとした。

今回の調査対象国はP5+1の6か国に加えて、欧州5カ国(スペイン、チェコ共和国、イタリア、ポーランド、ギリシャ)、イスラム教徒が大半の人口を占める6か国(トルコ、ヨルダン、エジプト、レバノン、チュニジア、パキスタン)、さらに日本、インド、ブラジル、メキシコである。
 
今回の調査内容について批判する人々は、「イランの核計画についてと、それにどう対処すべきかについて尋ねた項目に、証拠がないまま事実と決めつけている部分が含まれている。」と主張している。例えば、イランの核計画は核兵器の開発を意図している(この主張自体が疑わしいのだが)と決めつけている点である。

イラン政府(ごく最近ではイランの最高指導者ハメネイ師による発言も含む)は、同国の核プログラムは、民生使用のみを意図したものであると一貫して主張している。また、米国及びイスラエルの諜報コミュニティーも、もしイラン指導部が核兵器の製造を決断した場合、核開発プログラムの側面(とりわけウラン濃縮の程度)が問題となるが、現時点でイラン指導部は、核兵器の製造に関して判断をしていないとみている。

調査結果を見ると、21カ国中18カ国において、調査対象者の大半にあたる54%(中国、トルコ)から96%(ドイツ、フランス)が、イランの「核兵器入手」に反対していた。例外は3か国で、パキスタンでは、反対意見は僅か11%であった。インドでは、34%がイランの核武装に反対した一方で、51%が意見を明らかにしなかった。チュニジアでは賛否両論がちょうど半々に分かれた。

「イランの核兵器入手に反対」と回答した人々に「それにどう対処すべきか」について尋ねたところ、回答はさらに賛否両論に分かれた。

さらに「核兵器開発を阻止するためにイランに対する国際的な経済制裁を強化する」という対処策について、18カ国において、調査対象者の大半にあたる56%(インド)から80%(米国、ドイツ)が、「賛成する」と回答している。しかし、チュニジア、トルコ、パキスタンにおいては大半が「反対する」と回答している。一方、中国は半数を少し上回る54%が経済制裁強化に賛成、対照的にロシアでは、半数を少し下回る回答者が「反対する」と回答している。

とりわけ注目すべきは、一昨年行った全く同じ質問に対する回答と比較すると、イランへの経済制裁に対する支持が全般的に低下している点である。中でも最も支持が低下したのがロシア(67%→46%)、中国(58%→38%)である。また、トルコはこの1年でイランとの二国間関係が悪化しているにも関わらず、中国に次ぐ3位(44%→34%)となっている。

また、予想通り、「イランの核兵器入手に反対」と回答した人々の間で、「核兵器入手を阻止するための軍事攻撃」への支持率は、経済制裁支持率よりも低いことが明らかになった。

「軍事攻撃をしてでもイランの核兵器入手阻止を優先するか、或いは、イランの核武装というリスクを冒しても軍事衝突回避を優先するか」という選択肢に対して、メキシコ、エジプト、ヨルダン、さらにロシアを除く欧州諸国を含む14カ国において、調査対象者の総体多数或いは過半数にあたる46%(レバノン)から55%(ブラジル)が、軍事攻撃オプションを支持していた。この質問項目の回答については、米国の調査対象者が最も強硬で、他国より圧倒的に多い63%が軍事攻撃オプションを支持していた。

一方、チュニジアでは過半数の69%が、さらに、パキスタン(29%)、中国(39%)、トルコ(42%)、日本(49%)においても総体多数が「軍事衝突回避を重視すべき」と回答していた。

また驚くべきことに、2010年の調査で同じ質問を行った大半の国々において、軍事攻撃オプションに対する支持が低下していた。とりわけこの傾向は、P5+1の6カ国のうち、ロシア(32%→24%)、中国(35%→30%)、フランス(59%→51%)、米国(66%→63%)の4カ国において顕著に表れた。

しかしこの質問項目は、「イランの核武装を防止する軍事行動か核武装したイランと共存するか」という誤った二者択一を調査対象者に迫るものだとして、米国でも多くの専門家の非難を呼んだ。

「イランの核武装を防止する方策には、軍事攻撃オプションに依らないものもあります。」と、「軍備管理協会」のダリル・キンボール事務局長は語った。

またキンボール氏は、「この質問は、軍事攻撃によってイランの核武装を阻止できるという推測に基づいて設けられているが、米国、欧州、イスラエルの軍事専門家の間では、たとえイランの核施設に対する軍事攻撃が行われたとしても、その効果はイランの核プログラムの進行をせいぜい数年遅らせるだけで、イランの核武装そのものを防ぐことはできないという見解で一致している。」点を指摘した。

同様に、メリーランド大学国際政策指向プログラム(PIPA)代表のスティーブン・カル氏は、問題の質問項目について、「外交、経済制裁事案を含む(イラン核開発プログラムに関して)選択肢を提示する世論調査(PIPAが実施したものを含む)の結果をみると、いずれも、軍事攻撃オプションを選択している回答者はごく少数派にすぎない」点を指摘して、批判した。

さらにカル氏は、「核兵器開発を阻止するために、イランに対する国際的な経済制裁を強化することを承認するか否か」と問いかけている対イラン経済制裁に関する質問項目について、「これでは、あたかもイランが実際に核兵器を開発していると示唆しているようなものです。事実、米国の諜報専門家の間で、イランによる核開発の証拠はないという結論が導きだされています。つまりこの質問項目は、そうした専門家の結論に反して、イランの意図を暗黙に示唆するような意見を述べてしまっているのです。」と語った。

こうした批判について、ピュー国際意識調査プロジェクト副ディレクターのリチャード・ワイク氏は、IPSの取材に応じ、「私たちが実施している他の世論調査の場合と同じく、この調査で採用した質問項目は、話題となっている諸問題についての人々の意見を調査することを目的としたものであり、質問の中身についても、世論の推移を把握し分析するために、過去の質問と似たものになっています。」と説明した。(原文へ

INPS Japan

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|NPT準備会合|長崎市長、核なき世界の実現を訴える

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【ベルリン/ウィーンIDN=ジャムシェド・バルアー】

「皆さん、一人の人間として、核兵器の非人道性について改めて考えてみてください。」長崎市長で平和市長会議副会長の田上富久氏は、2015年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議に向けてウィーンで開かれた第1回準備委員会のNGOセッションで各国代表らを前に、こう呼びかけた。

平和市長会議は、1945年8月の米国による原爆投下で20万人以上の女性・子供・老人が犠牲となった長崎市及び広島市の市長によって1982年に設立された国際機構で、現在では世界5000の都市(域内人口50億人)が加盟している。当時の原爆攻撃を生き延びた被爆者は、今でも放射能による様々な後遺症に苦しんでいる。

また第1回準備委員会(4月30日~5月11日)に先立ち、4月28日、29日の両日には「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」会議が開催され、関連諸団体の代表が2015年NPT運用検討会議に向けた戦略作りや各々が準備している計画等について意見交換を行った。オーストリア外交アカデミーで開催されたこのNGO国際会議は、「核兵器なき世界」という目標を共に支持するオーストリアノルウェー両政府と、東京に本拠を構える仏教組織創価学会インタナショナル(SGI)が後援した。

Tomihisa Taue/ IAEA ImagebankPhoto Credit: Yamagishi Hisashi / Ciy of MatsumotoIAEA Imagebank - 01890127 | Flickr - Photo Sharing!, CC BY-SA 2.0
Tomihisa Taue/ IAEA ImagebankPhoto Credit: Yamagishi Hisashi / Ciy of MatsumotoIAEA Imagebank – 01890127 | Flickr – Photo Sharing!, CC BY-SA 2.0

 事実、広島市の松井一実市長は、2015年NPT運用検討会議の広島誘致の可能性を、従来から模索してきた(帰国報告)。広島誘致案のメリットは、核兵器保有国の首脳を世界で初めて原爆が投下された都市に招聘して核廃絶へ向けた議論ができる点にある。田上長崎市長は、第一回準備委員会に参加した各国代表らを前に行った演説の中で、この広島市のイニシャチブを支持して、「…核兵器の脅威に完全な終止符を打ち、核兵器なき世界を作り出すために協議する場として、被爆地広島よりも適切な場所があるでしょうか?」と語りかけた。

また田上市長は、5月2日に開かれたNGOセッションで各国代表らを前に、「2010年における実績が示しているように世界全体で1兆6300億ドルもの巨額な資金が安全保障という名目で軍事支出に費やされており、しかもその結果、世界はより危険な場所になってしまっています。これは、極めて馬鹿げたことではないでしょうか。今こそ、私たちはこの危険な状況から自らを解放する強い意志を示す時ではないでしょうか。」と訴えかけた。

田上市長は美辞麗句を並べていたのではない。事実、2010年NPT運用検討会議において全会一致で採択された最終文書には、核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果を引き起こすとして深い懸念が表明されており、全ての加盟国が国際人道法を含む国際法を順守する必要性を再確認している。
 
しかし核兵器を巡る議論は、引き続き、いわゆる国家利益や軍事力の均衡、軍事技術の有効性に関する議論に終始している。田上市長はこの点を批判して、「核保有国の代表が核兵器の真の恐ろしさを認識しているのか疑問に思っています。」と語った。

そのうえで田上市長は、「核兵器使用の壊滅的な人道的結果について、国益の視点ではなく人間の視点に立ち戻らせてくれる被爆者の声に耳を澄ましてほしい。被爆者がどうして核兵器のない世界の実現を必死で訴えているのか理解する必要があります。」と訴えた。

2015年のNPT運用検討会議に向けて開かれた第1回準備委員会に合わせて、日本から数名の被爆者がウィーンを訪れた。また、準備委員会の会場となった国連ウィーン本部(ウィーン国際センター)と市庁舎で原爆展が開催された。

田上長崎市長が、「私たちには、核兵器なき世界を将来の世代に引き継ぐ責任があります。」と熱烈に訴えた背景にはもう一つの切実な理由がある。2010年NPT運用検討会議において、第1委員会(核軍縮)から議長に提出された最初の原案には、核兵器国に対して、核兵器なき世界を実現するために具体的な努力を行うことを義務付け、その上で潘基文国連事務総長に核廃絶のための法的仕組みも含めた行程表(ロードマップ)を作るための国際会議を2014年に開催する権限を委ねるという画期的な方策が含まれていた。

この原案は、潘事務総長が2008年に発表した核兵器禁止条約(NWC)への言及を含む「核不拡散・軍縮に関する5項目の提案」に触発されたもので、審議のテーブルに上程された際には、世界は核廃絶という目標にようやく近づいているように思われた。

しかし、最終文書にはNWCへの言及はあるものの、国連事務総長による2014年の「核兵器廃絶ロードマップ会議」の開催を求めた部分は削除された。結局、最終文書には、核兵器なき世界の実現を望むという明白な意思が全会一致で示されたにも関わらず、それを実現するためのいかなる具体的な時間的枠組みも方策も、記載されなかったのである。

ロードマップ会議

平和市長会議は、直ちに準備作業に着手し、このロードマップ会議を早期に開催するよう求めている。2012年2月、ラテンアメリカとカリブ地域の33カ国の政府代表団は、特定の時間枠の中で核廃絶に向けた措置を段階的に進めていくプログラムを協議するハイレベル国際会議を招集するために、努力していく方針を表明している。

また田上長崎市長は、核兵器国の指導者らに、市民社会及び国際社会の声に耳を傾けるよう呼びかけるとともに、「2015年のNPT運用検討会議が(核廃絶に向けた)ロードマップ会議実現に向けて動き出すきっかけとなり、NWCを妥結するコンセンサスを得る場となるよう、今回の準備委員会で努力してほしい。」と強く訴えた。田上市長はさらに、「2015年のNPT運用検討会議では、『核兵器のない世界』がどのような時間的枠組みの中でいかにして実現されるか明確に示されると確信しています。」と語った。

そのような時間的な枠組みは、実に現実性を帯びたものである。これまでも各国は条約締結を通じて、核兵器の配備、生産、取得、保有、及び管理を禁止する核兵器禁止地帯を創設してきた。政治的な意志さえあれば、こうした核兵器禁止地帯を増やしていくことも、核兵器のない世界実現に向けた具体的な方策なのである。

今年は、そのような核兵器禁止地帯を中東地域に創設することをテーマにした国連会議が開催されることになっている。また北東アジアでも、北朝鮮による核開発問題に直面して、核兵器禁止地帯を創設する重要性に対する認識が国際社会に広がってきている。田上市長は、世界の政治指導者らに対して、「このような核兵器禁止地帯を共に広げていき、核兵器のない世界という目標に近づいていこうではありませんか。」と呼びかけるとともに、彼らがNPT第6条に規定されている軍縮履行義務について、一層努力するよう求めた。

2010年NPT運用検討会議では、日本を含む42カ国が軍縮と核不拡散教育の重要性を強調した。こうした経緯から、日本政府は今年8月に長崎市において国際会議「軍縮・不拡散教育グローバル・フォーラム」を開催する予定である。同フォーラムには世界各地から多くの市民社会組織、政府代表、専門家が集い、活発な議論が展開される見込みである。(原文へ


翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

米政府、マリ軍事政権に政治から手を引くよう求める

【ダカールIPS=ソウレマネ・ガノ】

ジョニー・カールソン米国務省アフリカ副長官(右上写真)は、「3月22日に政府を打倒したマリ軍兵士達には、政権を掌握する権利も、同国が現在直面している人道危機や安全保障問題に対処できる力もありません。」と語った。

またカールソン副長官は、「マリ共和国で21年間続いた民主政体が、祖国や人民の福祉よりも自らの利益を優先する少数の反乱兵士達により、打倒されてしまいまいました。このクーデターにより、マリの領土的一体性が危機に瀕し、結果的に国土の半分にあたる北部を(トゥアレグ族等による)反乱勢力に奪われてしまいました。さらに経済は後退し、深刻な旱魃に見舞われている北部への政府の対処能力も低下しています。」と語った。

さらに副長官は、「反乱軍を指揮しているアマドゥ・サノゴ大尉と彼が率いる『民主主義制定のための全国員会(NCRDS)』のメンバーは、兵舎に引き上げるとともに、憲法に基づく統治政体を復帰させなければなりません。」と、5月16日に行われたアフリカ全土を網羅した遠隔地間会議(テレ会議)において語った。

 「民主政体への復帰プロセスが早ければ早いほど、マリは地域及び国際社会における同盟諸国の支援を得て、クーデター以降被ったダメージを早期に修復することができるでしょう。」

またカールソン副長官は、条件が整いさえすれば、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が計画しているロジスティクス面での支援、及び、ECOWAS軍のマリ国内における展開について、米国政府として支持する意向である旨を明言した。

さらに副長官は、「米政府は、ECOWAS事務局(ナイジェリアのアブジャ)の役割を高く評価しており、現議長のアラサン・ワタラ(コートジボワール大統領)氏とダニエル・カブラン・ダンカン(同国外相)氏がこれまでECOWASを統率してきた手腕に大いに信頼を寄せています。」と語った。

一方ワシントンDCではビクトリア・ヌーランド国務省報道官が、「米国政府は、もしECOWASによるマリの民主政体と憲法に基づく法の支配の復活が遅れるようなことになれば、問題は同国一国の問題にとどまらず、地域全体に悪影響が及びかねないと懸念している。」と語った。
 
報道官はさらに、「もし憲法により正当と認められた政府と治安部隊が(対話を通じ、国民の納得も得、さらに軍の協力も確保する形で)再び一つになれなければ、北部(アザワド)を実効支配している(イスラム)過激派やテロリストと戦うなど到底おぼつかないと言わざるを得ません。」と語った。

こうした米高官の一連の発言について、ダカールに本拠を置くムリムム・アフリカコンサルティング(コミュニケーション・政治戦略コンサル企業)のアブドゥ・ロー所長は、「米国がマリの政治状況を打開していくうえで、ECOWASが主要な役割を担うことを期待している様子が窺えます。」と語った。

「要するに、カールソン副長官は、ECOWASに指導的役割を担わせることで、同組織の機能強化を図りたいのです。米政府はこうした態度を示す背景には、ECOWASがその信頼性を高める必要に迫られている事情があるのです。」

ロー所長は、この点について、「ECOWASは、多くの弱小国家を加盟国に抱えている事情に加えて、加盟国各国の軍が近年政治への発言力を強化しており、さらにイスラム原理主義勢力が域内各地に台頭していることから、近年影響力が徐々に弱体化しているのです。」と説明した。

「今日の混乱を招いた原因は、マリの政治指導者に戦略的なビジョンが欠けていたことに他なりません。今日マリでは、軍事政権とATT支持勢力(アマドゥ・トウマニ・トゥーレ前大統領支持派)、政界リーダーたちが三つ巴となって政治主導権を争っていますが、現在マリにとって最も重要な課題は、国土の領土的一体性をいかに確保するかということなのです。」

サノゴ大尉は依然としてマリの暫定政権の任期(憲法の規定により5月22日に期限を迎える)を1年延長するというECOWASの提案に反対し続けており、対案として、全国会議を開催して移行期の政権を率いる新大統領を指名することを提案している。

この提案について、5月16日にアビジャンを訪問したディオンクンダ・トラオレ暫定大統領(前国会議長)は、「それでは問題の解決にはなりません。そもそも全国大会の開催など、4月6日にバマコでECOWASと軍事政権が調印した枠組合意に含まれていなかったのです。」と語った。

トラオレ暫定大統領は、憲法の規定通り、40日期限が切れる際に、ECOWASと軍事政権は再度会合し、次のステップを話し合わなければなりません。」と語った。アビジャンの外交筋によるとECOWASの閣僚級使節団が5月21日か22日にバマコを訪問予定とのことである。

マリのトゥーレ前大統領は、3月22日に起こったクーデターにより政権の座を追われた。当時トゥーレ政権は、トゥアレグ族が1月にマリ北部で開始した反乱鎮圧に苦慮していた。クーデターに参加した兵士たちは、このトゥアレグ族による反乱に終止符が打てない政府の不手際をクーデター決行の動機の一つとしている。しかし皮肉なことに、トゥアレグ反乱勢力は、様々なイスラム過激派組織とともに、クーデターによって生じた中央政府の政治空白の隙を利用して、マリ北部の制圧に成功した。

クーデター後、ECOWASと軍事政権の合意に基づき、トラオレ前国会議長が暫定政権の大統領に任命された。トラオレ氏は暫定政権を率いて、憲法による統治を完全復活させる任務を担っている。

しかし軍事政権はECOWASとの合意に署名したにもかかわらず、暫定政権樹立後も政治の実権を手放そうとせず、ECOWAWの一部の決定に対して強く抵抗している。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

|UAE|来月、第2回海賊対策国際会議がドバイで開催

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【ドバイWAM】

6月27日、28日両日にドバイで開催予定の第2回海賊対策国際会議(アラブ首長国連邦主催)には世界各地から政府高官、安全対策専門家、国連、国際海事機関、その他の関連諸機関の代表が参加する予定である。

今回の会議では、「海賊行為に対する地域の対応:官民連携と国際的な取り組みを強化する」というテーマの下、海賊による船舶襲撃の被害(船員の人質問題を含む)に対するこれまでのグローバルな取り組みをいかに発展させるか、また、ソマリア沖などで海賊行為が発生する根本原因に対する緩和策をいかに強化するか等が協議される予定だ。

 UAE外務省とドバイ・ポーツ・ワールド共催によるこの会議は、海賊行為が地域の平和、安全、繁栄に及ぼしている脅威により良く対処していくために、官民連携のあり方を強化していくことを企図している。

会議の公式ウェブサイト(www.counterpiracy.ae)がアップデートされたので、招待客及び参加者はここでオンライン登録ができる他、全ての関連情報を入手することができる。

またこのサイトには、講演予定者をはじめ、海賊行為対策分野の学識経験者や専門家がこの会議のために作成した研究報告書や論文が掲載されるので、参加者は事前に会議当日の議論に備えることができる。

今回の会議は昨年UAEのイニシャチブで開催された第1回海賊対策国際会議の成果を踏まえたものである。第1回会議では、世界各国の政府及び産業界双方から、海上・陸上において、海賊対策に具体的に取り組んでいくという前例のないコミットメントを引き出すことに成功した。

国際海事局(IMB)によると、2012年の第1四半期における海賊被害は、ソマリア人海賊によるものだけでも43件にもぼっており、140人を超える船員が(その多くが過酷な環境の下で)引き続き海賊によって捕らわれた状態にある。また、IMBの試算では、海賊行為が国際貿易にもたらしている被害は、年間120億ドルにのぼると見られている。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

│金融│デモ参加者がロビンフッド金融課税を要求

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【国連IPS=ジョアンナ・トレブリン】

5月18日、数多くの人々が金融取引に対する課税(FTT=いわゆる「トービン税」或いは「ロビンフッド税」)を求めて、シカゴでデモを行った。18日、19日にワシントンDCの郊外キャンプ・デービッドで開かれた主要国首脳会議(G8サミット)にあわせて行われたもので、参加者はG8首脳に対して、米国及び世界の経済を回復する手段として年間数千億ドルもの税収が見込めるFTT税を導入するよう要求した。

さらに運動側はG8サミットに続く5月18日から22日までの期間を「ロビンフッド税グローバル行動週間」と位置づけ、世界各地でFTT導入を求めるロビー活動を展開した。FTTの導入については、食料への権利に関する国連特別報道官のオリヴィエ・ドシュッテル氏(Olivier De Schutter)をはじめとする多くの国連人道専門家が支持を表明している。 

 米国では、労組やシンクタンク、環境・保健・消費者保護などの団体、金融改革ロビー団体などが、「ウォール・ストリート(金融エリート)はメイン・ストリート(世間一般)に利益を還元せよ」というロビー活動を各地で展開している。FTTを求める声は1930年代からあり、当時は著名な経済学者のジョン・メイナード・ケインズ氏もFTTの導入を積極的に訴えた一人であった。

同名のスローガンを掲げた活動団体のウェブサイトには「米国政府は、銀行を救済したことで、膨大な財政赤字への対処と、経済援助や地球温暖化対策へのコミットメントを果たすために、多額の資金を必要としている。」と記されている。

金融取引税(FTT)は、株式や債券、商品、投資信託、デリバティブなどの売買に対して課税し、教育や保健、環境などのグローバルな公共財のために使おうという構想で、課税率が異なるいくつかバリエーションが提案されている。中でも、もっとも有力なものは、株式や債券取引に対して0.1%、デリバティブ取引に対して0.01%の税金をかけるという案である。

FTTによってG20諸国からあがる税金は、もっとも低い税率でも480億ドル、税率を上げれば2500億ドルにも達すると見込まれており、これだけの税収があれば、長引く経済、金融、燃料、気候変動、食料危機に対処するための費用さえ相殺することが可能となる。

FTTはNGOだけが主唱しているのではない。昨年11月にフランスのカンヌで開かれた主要20か国・地域(G20)会合では、ドイツ、フランス、スペイン、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ、エチオピア、アフリカ連合がFTT支持を表明した。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、FTT導入には欧州連合(EU)27ヶ国の合意が必要であると1月に表明したが、フランスのニコラ・サルコジ大統領は、「我が国がまず他国によるFTT導入を見極める姿勢を採ったならば、金融取引に対する課税はいつまでたっても実現しないだろう。」と語り、EU及びG20による合意を待つことなくフランス一国だけでも導入する意思を示していた。(もっとも、サルコジ氏はその公約を果たさないまま先週大統領任期を終えた。次期のフランソワ・オランド大統領もFTT支持である)。

また国連の人権専門家も、FTTを、各国政府が国内在住の人々の人権を保護していくための実際的な手段と考えている。

極度の貧困と人権に関する国連特別報告官のマグダレナ・セパルヴェダ氏(Magdalena Sepulveda)は、「各国政府は、富裕層や金融部門が身分相応な税負担を担うよう、富の再分配に果たす税制度の役割を再考する時にきています。」「金融部門が相応な税負担ができない限り、残りの社会全体がその付けを払い続けることになるのですから。」と語った。

またドシュッテル国連報道官は、「食糧価格は過去5年間に2度も危険なほど高騰し、現在その事態がいつ再発してもおかしくない状況にあります。」と警告したうえで、「FTTには、投機に拍車をかけて食糧価格の安定を脅かし世界的な危機を引き起こす元凶となってきた短期資金の流れを抑制する効果が期待できるのです。」と語った。

世界の金融取引課税論議について報告する。(原文へ

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