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|インタビュー|紙媒体は墓場に向かっているのか?(シェルトン・グナラトネ博士・ミネソタ州立大学名誉教授)

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【ニューヨークINPS=タリフ・ディーン】

デジタル革命がコントロールを失って久しい中、米国の新聞の中には、発行をやめたりオンライン版に移行したりするところが出てきている。

149年の歴史を持つ『シアトル・ポスト・インテリジェンサー』紙(ワシントン州)は、2009年3月、プリント版の発行を停止し、オンライン版のみに移行した。その4か月後、174年間発行を続けた『アンアーバー・ニュース』紙(ミシガン州)もプリント版をやめ、オンライン版に移行した。

2006年に公共サービスに関する報道でピューリッツァー賞を受賞した日刊紙『ニューオーリンズ・タイムズ・ピカユーン』(ルイジアナ州)は、今年9月、発行を週3回に減らした。また同じくピューリッツァー受賞紙『パトリオット・ニュース』(ペンシルバニア州ハリスバーグ)も、来年1月から週3回発行となる。

 
そして昨月、世界で最も有名なニュース雑誌の一つである『ニューズウィーク』も、1991年の発行部数330万部から昨年6月には150万部と減少する中、79年の印刷版の歴史に終止符を打ち、デジタル版に完全移行することになった。

こうした状況を見ると、紙媒体は墓場に向かっているのかと考えたくなる。

シェルトン・グナラトネ博士(ミネソタ州立大学名誉教授/マスコミ学)は、インターネットは、誰もがジャーナリストになれる状況を作り出すことで、寡占的な報道産業に革命をもたらした、と述べている。

また、インターネット革命は、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナル、ロサンゼルス・タイムズ、USAトゥデイの「傲慢な虚勢を叩きのめした」と博士はいう。これらの新聞も、遅かれ早かれ、『シアトル・ポスト・インテリジェンサー』のたどった道をゆくことになるだろうと博士は考えている。

『シアトル・ポスト・インテリジェンサー』紙と『ロッキー・マウンテン・ニュース』紙が倒産した後、『アンアーバー・ニュース』が、印刷版を週2回発行しながら基本的にはオンライン版とする「ハイブリッド」型になった、とグナラトネ氏は述べている。同氏には、『40年代の村落生活――あるスリランカ人海外居住者の記憶』(アイユニバース、2012年)、『村の少年からグローバル市民へ 第1巻――あるジャーナリストの人生』『同第2巻――あるジャーナリストの旅』(エックスリブリス、2012年)の3部作がある。

INPSのタリフ・ディーン記者とのインタビューで、グナラトネ氏は、米国の多くの新聞がハイブリッドに移行している要因について語った。以下がインタビューの抜粋である。

Q:プリントメディアが苦境に陥っている理由は何でしょうか?

A:ウェブサイトやブログ、ポッドキャストなどで多くの人が雑誌タイプの記事に触れるようになったことが原因です。さらに、ニュースを読むためにスマートフォンやワイヤレスタブレットを使うようになってきているという事情もあります。

Q:広告の減少が新聞に影響を与えているでしょうか?

A:米国の新聞の製作・配布コストのおよそ8割を広告収入がカバーしています。しかし、1980年代のデジタル革命で、広告産業は、オンラインメディアの拡散によって特定の商品やサービスの対象となる消費者により低コストで情報を届けることができることに気づいたのです。

Q:ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の役割はどういうものでしょうか。

A:1990年代に情報化時代が始まり、インターネットの一部としてWWWが一般にも利用できるようになりました。ウェブは、マスメディア、メディアの消費者、広告産業にとって恵みとなったのです。三者はいずれもサイバースペースに救いを見出し、彼らの共存にとってより適した環境であることを発見するのです。

ニューヨーク・タイムズの標語「印刷に適したすべてのニュース」よりも多くのものをウェブは抱えていくことになるでしょう。先進国においては、急速に減少する広告収入は新聞雑誌ジャーナリズムを脅かす中心的な問題になっています。

Q:若い世代がますますデジタル情報に傾く中、今後25年でこの状況はどう動くと思いますか?印刷版の新聞の終わりの始まりとなるでしょうか?

A:米国の若い世代は、デジタル革命がプリントメディアを貶めるようになってのちに生まれた世代です。私のクラスには、スポーツ面以外には新聞を読まない子が多いですよ。課題にした本の章ですら読まないんですから。デジタル革命で彼らの関心は電子メディア、バーチャルメディアで読み書きすることに移ってしまいました。

アナログの機械・電子技術をデジタル技術に移行させるこの革命は、情報時代の始まりにおいて歓迎されたデジタルチップによって可能となりました。

2000年代に入って、最初は先進国で、次に途上国で急速に広まった携帯電話もまた、印刷版の新聞の経済性を奪っていきました。

世界のインターネット利用者は加速度的に増えています。現在、インドネシアには人口よりも多い台数の携帯電話があります。2010年代初めには、クラウド・コンピューティングが主流になっています。2015年までには、インターネット利用においてタブレット型のコンピューターや電話がパソコンを凌駕するであろうと見られています。

Q:この現象は米国(と西側社会)だけに限られたものでしょうか。それとも、途上国にも同じく影響をあたえそうでしょうか。

A:『ニューズウィーク』の発行者であるティナ・ブラウン氏は、同誌印刷版(デジタル版ではない)の発行ライセンスは、日本やメキシコ、パキスタン、ポーランド、韓国のような国では「きわめて強い」と語ったとされています。

国際電気通信連合(ITU)のデータによると、2006年の世界のインターネット利用者は人口の18%、2011年には約35%(20億人)になったということです。この速度だと、先進国と途上国との間のデジタル格差は、米国が崩壊する前に消えてしまいそうです。私は、米国崩壊は2043年までに起こると書いたことがあるのですが。

ティナ・ブラウン氏が挙げた5か国のうち、印刷媒体に対する儒教的影響が依然として強い日本と韓国、それからポーランドでは、『ニューズウィーク』印刷版を含めた伝統的な新聞・雑誌が、しばらくは勢力を保つでしょう。

ニュースが商品のひとつでしかない米国と違って、他の多くの国では、ニュースは社会的な財だと考えられています。

カナダ、英国、米国における有料紙の60年間にわたる発行部数を調査し、部数が減少していることを明らかにしたコミュニケーション・コンサルタントのケン・ゴールドスタイン氏は、新聞はいつの日か消えてなくなるものだと述べています。(原文へ

INPS Japan 

「性産業」犠牲者の声なき声:Chantha(仮名)の場合

【INPSメコン地域HIV/AIDS研究事業現地取材からの抜粋】

プノンペン近郊のこの売春街(Svay Park)では、売春婦のほとんどが私も含めてヴェトナムからの貧しい移民とその子孫です。私は建設現場の季節労働者の父と専業主婦の母、そして兄弟姉妹6人の大家族の中で育ちました。その他、叔母が私たちと同居してましたが、実は私はその叔母に売春婦として売られました。

当時、私の家は多額の借金を抱えており、17歳になった私を売ることで借金を返済しようと勧める叔母に、両親は反対できなかったのです。私は叔母に売春宿へ連れていかれた日のことを今でもよく覚えています。売られていく先への道中、『これから自分がどんな目にあうのだろうか』という恐怖心で頭がいっぱいで体の震えがとまりませんでした。

売春宿に到着すると、そこには私よりさらに幼い14、15歳位の少女達がいるのを見て驚きました。尋ねてみると、私と同じ境遇で、借金のかたに売られてきたとのことでした。叔母は、私を売春宿に残して去るにあたって、『売春宿のオーナーのいうことに歯向かわず、おとなしく何でも言うことをよく聞くように』と諭していきました。私は到着した日に早速オーナーから接客を命じられましたが、それまで性経験がなかった私は、顧客にどのように接しればよいのかわかりませんでした。それが、私の売春婦としての新たな人生の始まりでした。

その後半年間、私はその売春宿で連日男性の相手をさせられました。しかし、ある日病に倒れ、とても接客ができる状態ではなくなってしまいました。すると売春宿のオーナーは、これでは借金が返済できないと言って私の実家に連絡をとり、叔母が私を引き取りにきました。

残りの多額の借金を返済する手段のない両親は、再び叔母の勧めで、今度は私に代わって16歳の妹が売春宿に差し出されることになりました。私は愛する妹に私と同じような地獄を経験させたくなかった。できればそのまま私が犠牲になれればと思ったけれど、自分の体がいうことをきかないし、他の多くの兄弟姉妹を食べさせていくためにはどうしようもない決断でした。

後で知ったことですが、私たちのような処女を売春宿に売ると、50ドルから100ドル程になるとのことです。叔母は多分、男性経験のない私たちを売って余計に稼いでいたのではないかと思います。その後、妹はずっと売春宿で働かされています。

一方、私は国境なき医師団(国際NGO)のピア教育者として働くことになり、他の売春婦たちの中に入って、STD/HIV/AIDSや健康に関する諸問題について彼女達に語りかけています。また、一時は売春婦としての生活から脱皮しようと、あるNGOが提供する職業訓練プログラム(裁縫)を受講しながら、プノンペン市内で民家の掃除婦としてがんばってみました。

しかし、市街まで毎日通うための交通費は大きな負担で、一方、ピア教育者活動と掃除婦としての収入では、私と家族を養うには到底足らないのが現実でした。結局、現実的な選択として、家に接客用の小部屋を設けてそこで売春(Indirect Commercial Sex)をして、家計の足しにしていくしか生きていく道はなかったのです。売春婦として家計を助けながらなんとか貯金して将来的には他の選択肢を持てるようになりたいです」

Svay Park:カンボディア市内から北へ車で20分程のところにあるヴェトナム人移民が居住する売春村で、100メートルほどの村のメインストリート沿いに「置屋」が林立し、その中から16歳から20歳までのヴェトナム人少女が道行く男性客に声をかけている。

カンボディアは今や世界的に有名なぺドファイル(子供性虐待者)のメッカと言われるほど、「性産業」によって年少者の性的搾取が盛んに行われている国であるが、ここSway Parkも例外ではない。「置屋」の向かいは全て簡素なバーとなっており、男性顧客はここでビールを飲みながら売春婦の「品定め」をできる仕組みになっており、幼い少年が「もっと若い娘がよければ案内する」と声をかけてくる。

取材班が潜入取材を実施した際には最低年齢の売春婦は9歳であった。料金は、14歳から20歳が5ドル、10歳までが30ドル、9歳未満はさらに年齢が下がるほど値段が高くなり、処女の少女には数百ドルの値段がつけられていた。

村の入口の看板には「コンドームをつけましょう」という日本語の表記があるのには驚いたが、この売春村を訪れる外国人顧客の主要な一角を日本人が占めている。日本では1999年に「児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護に関する法律」が施行され、18歳未満の児童を買春した日本人が罰則の対象となったが、現地専門家、NGOによると、多くの欧米人犯罪者と同様、逮捕されても多額の賄賂を渡して国外逃亡してしまうケースが少なくなく、現地官憲の腐敗の問題を含めて、今後の再発を防止するための効果的な対策を検討していく必要がある。

カンボジア取材班:浅霧勝浩、ロサリオ・リクイシア)

ハリケーン「サンディ」対応で文化の壁を乗り越える人々

【国連IPS=ベッキー・バーグダール】

ハリケーン「サンディ」は、一夜にして米東海岸の広大な地域に深刻な被害をもたらした。しかし、長期的に見れば、様々な宗派の人々が、被災後の試練にともに立ち向かい行動することを学ぶなど、プラスの効果ももたらされたかもしれない。

「異なる宗派の人々が寄り合って対等な立場で議論を尽くすのは時に難しいことです。しかし、ここでは誰もが率先して協力し合っています。」と「ニューヨーク災害救援宗教横断奉仕会(NYDIS)」のピーター・グダイティスさんは語った。

 NYDISは、ニューヨークを拠点に災害救済に取り組んでいる「信仰を基盤とした団体(FBO)」の連合組織で、現在ハリケーン「サンディ」への対応で、ニューヨーク市南東部のロッカウェイズや南西部のスタテン島などで被災者支援にあたっている。

グダイティスさんは、「人びとは、災害支援というと連邦政府や赤十字がやるものだと思っています。しかし、実際には様々な宗教団体による支援活動が実は最大のものなんです―もっとも、それは財政面ではなく人間の参画という意味においてですが。」と語った。

NYDISには80以上の様々な宗派の団体が加盟しており、多様性に富むニューヨーク市の団体の中でも、宗教的に最も多様な災害支援団体である。メンバーには、仏教徒、シーク教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、様々な宗派に属するキリスト教徒など、多数を抱えている。グダイティスさんは、「全ての宗教団体が団結して被災支援に参画しています。こうした信仰を基盤にしたコミュニティーは、危機に際して、人々の心に希望をもたらす存在になるのです。」と語った。

とはいえ、異なる宗派に属する様々な団体を調整して協力させるのは、決して容易な仕事ではない。「9・11同時多発テロを契機に設立されたNYDISも、それなりの内部対立を経験してきた経緯があります。」とグダイティスさんは、指摘した。

「いくつかの宗教間には、歴史的な背景から互いに協力しにくい状況があります。そうした明らかな例の一つにユダヤ教徒とイスラム教徒の対立構図があります。従来中東地域におけるイスラエルとアラブ諸国間の対立が、ここニューヨークにおいても両教徒間の対立構図に反映されてきたのです。しかし米国で大災害が起こると、彼らは一転して協力し合う傾向があります。」「また従来は、いくつかのキリスト教徒のコミュニティーの協力を得るのも、容易ではありませんでした。」とグダイティスさんは付け加えた。

グダイティスさんは、(ニューヨークを直撃した)ハリケーン「サンディ」後の災害支援を経験して、こうした異なる宗教コミュニティー間の絆が強まるのではないかと感じている。

ニューヨークのイスラム教徒コミュニティーの連絡調整組織であるムスリム協議ネットワークのデビー・アルモンテイサー代表も、グダイティスさんとほぼ同様の見解を持っている。

「私たちのネットワークに属する学生団体をボランティアに行かせています。避難所や地域の公民館にユダヤ教徒やキリスト教徒のボランティアとともに向かうのです。2001年の9.11同時多発テロに際しては、宗教間協力が活発に行われました。今回のハリケーン被害に対しても、人々は再び宗教の違いを乗り越えて、ともに立ち上がり協力し合っているのです。」

またアルモンテイサー代表は、災害支援にイスラム教徒が参加することは在米イスラムコミュニティー全体にとって利益になると指摘した上で、「米国内にイスラム排斥の風潮があるなかで、実際にイスラム教徒が被災者を支援している姿が伝えられれば、彼らに対するネガティブなステレオタイプを変えることにつながるのです。」と語った。
 
現在「ムスリム協議ネットワーク」は、電子メールで被災者支援に参画するボランティアを募るようメンバーに呼びかける一方、被災者に食事を提供する調理施設の設置についてスタテン島のイスラム礼拝所と連絡調整をおこなっている。

「ニューヨーク市民に今必要なものは助け合いの精神です。つまり黄金律の実践なのです。私たちは、9・11同時多発テロ以来、これほどの大災害に直面しませんでした…今が一番厳しい時期ですが、今後も復興までには長い時間を要します。私は、今後様々なコミュニティー間で、息の長い協力がなされていくものと考えています。」

また現在ハリケーン「サンディ」の救援活動に熱心に取り組んでいる「信仰を基盤とした団体(FBO)」に「ユダヤ災害対応隊」という復興支援活動を全米で展開している団体がある。

「今現在は、被災地コミュニティーの支援に全力を尽くしています。このような試練の時に、人々に生きる力を与えられる信仰の力には、計り知れないものがあります。」と、この団体の創設者で代表のエリー・ローウェンフェルドさんはIPSの取材に対して語った。

「ユダヤ災害対応隊」は以前にも大災害後の救援事業で他宗教団体との協力を行ったことがある。昨年4月に米国に嵐が襲った際には、「北米イスラムサークル」という団体と協力して被災者支援を行った。

ローウェンフェルドさんによると、この経験が宗派間の対話を加速し、今後ハリケーン「サンディ」の対応でも有益になるであろう連帯が強まったという。「今や私たちは、(宗教の壁を乗り越えて)手を取り合っています。」とローウェンフェルドさんは語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|バーレーン|GCC外相会議、テロ事件を非難

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|マナマWAM|

6日からバーレーンの首都マナマで開催していた第125回湾岸協力会議(GCC)外相会議は、11月5日に同地で発生した連続爆破テロ事件(5ヵ所で爆弾が爆発し外国人労働者2名が死亡、インド人一人一名が重傷)について、犯人を最も厳しい口調で非難する声明を発した。

同声明は、バーレーン国王、政府と国民、および犠牲者の遺族に対して哀悼の意を表するとともに、重傷を負った犠牲者の早期回復を祈念した。

また同声明は、バーレーン治安当局のテロ事件への対応を賞賛するとともに、国民及び在留者の生命と財産を保護するため国家の結束と安全・安定維持に努力するバーレーン王国及びその国民と連帯していくことを再確認した。

 また同声明は、バーレーン王国の安全は、GCC加盟国全体の安全保障と不可分であり、同国への脅威は湾岸地域全体への脅威と見做されると強調した。また、あらゆるテロ活動を断固として拒否し、これまで国際社会が取り決めたあらゆるテロ対策を発動して協力して対処していくことを呼びかけた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

再生可能エネルギーの導入を図る太平洋諸国

【ブリスベンIPS=キャサリン・ウィルソン】

南太平洋のトケラウ諸島(ニュージーランド領)では、化石燃料から太陽光発電を中心とする再生可能エネルギーへの大胆な転換政策が実施され、国際社会に対して、持続可能な開発政策として成し遂げられる新たな基準が示されている。

トケラウ諸島は3つの環礁(アタフ島・ヌクノノ島・ファカオフォ島)から成っており、人口は1411人である。また、標高はいずれも海抜3メートルから5メートルで、総面積は12平方キロである。

 「地球市民としての私たちのコミットメントは、気候変動の影響緩和に向けて貢献していくことです。私たちは今回の成果(再生エネルギー150%)を誇りに思っていますし、他の太平洋島嶼国の国々も同様の政策をとるよう、励ましていきたいと思います。」と、トケラウ連絡事務所(サモア)のジュビリシ・スベイナカマ部長は語った。

これまでトケラウ諸島では、エネルギー源の多くを化石燃料の輸入に頼っており、年間コストは81万9500ドルにも及んでいた。

2004年、トケラウ政府は、再生可能エネルギーを中心に、省エネとエネルギー自給のための戦略を策定した。

そして今年、ニュージーランド政府の経済援助を受けて実施に移された世界最大の太陽光発電を用いた独立電源システムを擁する「トケラウ再生可能エネルギープロジェクト」がようやく実現の運びとなった。

この3ヶ月の間に、アタフ、ヌクノヌ、ファカオフォの3つの環礁に、4032枚の太陽光発電モジュール、392機のインバータ、および1344機のバッテリーが設置された。また、悪天候に備えて設置された発電機の燃料には、トケラウ諸島内で生産されるココナッツバイオ燃料が用いられる予定である。

システムの導入を担当したニュージーランドのパワースマート社は、公式発表の中で、「当初の入札仕様では、トケラウの電力需要90%をカバーする太陽光発電システムが求められていましたが、実際に設置されたシステムの発電能力は、従来の電力需要の150%を生成する能力を有しており、その結果、トケラウ諸島の住民は、ディーゼル燃料の消費を増やすことなく、電力使用量を上げることが可能になりました。」と述べた。

スヴェイナカマ部長は、「燃料の節約で浮いた費用は、開発の重点分野である医療や教育分野への投資、及び、本プロジェクト実施のためにこれまでの受けてきた借金の返済に充当していきます。」と説明した。

太平洋島嶼地域で再生可能エネルギー利用のポテンシャルが高いのは、トケラウ諸島だけではない。全ての島嶼国において、太陽光は非常に強く、フィジー、パプアニューギニア、ソロモン諸島バヌアツでは、太陽光の他に、風力、水力、地熱にも大きな可能性がある。

またこの地域には、クリーン開発への移行を加速化せざるを得ない、経済的、社会的に逼迫した事情がある。これらの島嶼国は、温室効果ガスの総排出量が世界全体の1%未満に過ぎないにも関わらず、気候変動が及ぼす厳しい悪影響に晒されている。多くの農村人口、とりわけ、最も人口が集中しこれ以上の送電システムの拡張が望めないメラネシア地域の農村人口は、十分な保健、輸送、教育サービスが届かない最も不利な状況に置かれている。

太平洋諸国における電化率は、サモアの98%からパプアニューギニアのように13%まで様々であるが、平均すると約1000万の域内人口の内、電力を利用できているのは僅かに30%にとどまっている。こうした中、化石燃料への依存からいかに脱却していけるかが、域内各国にとって重要な課題となっている。

南太平洋大学(フィジー)で物理学を教えているアニルダ・シン助教授は、IPSの取材に対して、「太平洋島嶼国は、主に国内の電力及び輸送需要を賄うために、化石燃料を輸入し続けなければならない深刻な問題を抱えています。これは少数の島民が各地に孤立し散らばって定住しているためです。化石燃料の輸入にかかる費用は莫大なものになっているため、エネルギー源の転換をいかに図るかということが、各国にとっての最重要課題となっているのです。」と語った。

エネルギー供給のための対外依存も大きい。石油が総輸入に占める割合は、フィジーで32%、トンガで23%にのぼるなどエネルギー供給のための体外依存度が髙い。事実、フィジー、バヌアツ、ソロモン諸島は、世界でも石油の価格変動に最も影響を受ける国となっている。さらに、二次離島の場合、輸送コストが20%から40%増になることも大きな負担となっている。

持続可能なエネルギーに関する国際会議が、今年5月にバルバドスで開催された際、小島嶼開発途上国の閣僚らは、いくつかの太平洋島嶼国による野心的な再生可能エネルギー目標を組み込んだ「バルバドス宣言」を採択した。

例えば、フィジーは2013年までに、また、クック諸島、ニウエ、ツバルは2020年までに。再生可能エネルギー100%を目指している。現在フィジーは、一次エネルギーの33.6%、電気の58.9%を再生可能エネルギー源に依っているが、クック諸島の場合、一次エネルギーで1.6%、電気で0.3%を再生可能エネルギーに依存しているに過ぎない。またソロモン諸島とミクロネシア連邦はそれぞれ2015年と2020年までに再生可能エネルギーで電力需要を賄うようにするという目標を発表している。

シドニーに本拠を置く太平洋諸島再生可能エネルギー産業協会(SEIAPI)のジェフ・ステープルトン氏は、「クック諸島は、2018年までに再生可能エネルギーの80%を達成できると自信を持っている。」と語った。

一方この地域の国々は、再生可能エネルギープロジェクトの導入に際して、インフラの未発達、脆弱な組織運営能力、財政不足など様々な共通の問題を抱えている。

ステープルトン氏はこの点について、「(再生可能エネルギー導入に際して)本当に難しい側面は、遠方の島々にいかに機材を運ぶかという点です。輸送コストは高く、運航が不安定なため、施設設置やその維持、修理に問題を引き起こすことになるのです。」と語った。

シン助教授は、この地域の人材の知識面における能力開発にも取り組まなければならないと指摘した。南太平洋大学は、小島嶼開発再生可能エネルギー知識・技術移転ネットワーク(DIRECT)のパートナー組織である。DIRECTは、ドイツ、フィジー、モーリシャス、トリニダード・トバゴの大学が共同して立ち上げったネットワークで、アフリカ・カリブ地域・太平洋地域の小島嶼開発途上国における科学的専門知識の向上に取り組んでいる。

また最近のイニシアチブの事例として、日本政府が6600万ドルを拠出し、太平洋諸島フォーラムが運営する太平洋環境共同体基金(PEC)がある。ここ一年で、フォーラム加盟国は、PECを活用して(最高4000万ドルまで利用可能)太陽光エネルギープロジェクトや農村部の電化事業を実施することができた。

ソロモン諸島では、PEC資金を活用したプロジェクトを通じて、1万人以上が新たに電化の恩恵を享受した。またサモアでは、年間135,000リットルの燃料が節約されることとなるだろう。さらにミクロネシア連邦では、500トンの炭素放出が抑制され、年間486,000ドル相当の燃料費の節約が見込まれている。

シン助教授は、今後の見通しとして、「小島嶼国はおそらく2050年までには電力供給の面で、自給自足を達成できるでしょう。その背景には、すぐに利用できる援助資金があり、近年太陽電池パネルの価格が大幅に下落したことで、近い将来、太陽光発電による送電システムの導入がより手頃な費用で、しかも、費用対効果も向上することが期待できるからです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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核廃絶を求める広島・長崎

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【ベルリン/東京IDN=浅霧勝浩】

 「核兵器なき世界」をめざして粘り強い闘いを続けている日本内外の数百万の人々にとっては非常に残念なことに、日本政府は、米国の「核の傘」の下における安全保障取り決めに影響を与えるという懸念から、核兵器を違法化する努力の呼びかけに加わることを拒否した。しかし、長崎・広島両市の市長、広島県知事は、核兵器廃絶に情熱をもって取り組むという点で揺るぎがない。

 議論になった呼びかけは、10月22日、スイスのベンノ・ラグネル大使が34か国及びオブザーバー国のバチカンを代表して国連総会第一委員会(軍縮・国際安全保障問題)において発表した。34か国のうち、主導したスウェーデン、スイス以外の国は、アルジェリア、アルゼンチン、オーストリア、バングラデシュ、ベラルーシ、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、デンマーク、エクアドル、エジプト、アイスランド、インドネシア、アイルランド、カザフスタン、リヒテンシュタイン、マレーシア、マルタ、マーシャル諸島、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、ノルウェー、ペルー、フィリピン、サモア、シエラレオネ、南アフリカ、スワジランド、タイ、ウルグアイである。

 共同声明は、「全ての国は、核兵器を非合法化し、核兵器のない世界に到達する努力を強めなければならない」としたうえで、「核兵器の使用がもたらす破滅的な人道的帰結への深い憂慮」を表明した。

また共同声明は、1945年の広島、長崎への原爆投下がもたらした「恐るべき帰結」にも触れ、核の不使用を保証する唯一の道筋は、「完全で不可逆的で検証可能な核兵器廃絶」だと述べている。

この動きは、国連の16の加盟国によって始められた(オーストリア、チリ、コスタリカ、デンマーク、バチカン市国、エジプト、インドネシア、アイルランド、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、ノルウェー、フィリピン、南アフリカ、スイス)。

この16カ国は、5月2日、ウィーンで開かれた核不拡散条約(NPT)運用検討会議準備委員会会合において、同種の声明を発表している。しかし、今回とは違い、この時は日本に決議への参加を求めていなかった。

榛葉賀津也外務副大臣は、10月22日、日本政府の決定に関して記者会見で、「我々は(決議への)参加を控えることを決定した……決議は、必ずしも我が国の安全保障政策の考え方と合致しない内容が含まれていた。」と語った。

日本政府決定への批判
 
10月19日に日本政府の意向に関する報道がなされてまもなく、長崎市の田上富久市長は外務省を訪れ、核兵器の非人道性を身を持って知る唯一の被爆国として、日本は共同声明を支持する道義的責任があるとの意見を伝えた。

2007年に市長に就任した田上氏は、平和市長会議の副会長でもある。同会議は、1982年、米国による1945年8月の原爆投下で20万人以上の主に女性・子供・老人が犠牲となった長崎・広島両市の市長の呼びかけによって創設された。歴史上初の原爆投下の生存者―「被爆者」として知られる―は、現在でもなお、放射線の後障害に苦しめられている。

報道によると、外務省は、日本が米国による核抑止力に依存している中で、核兵器の非合法化を進めることは両立し難い、と田上市長に説明したという。

田上市長は、外務省との面談の後、ユーチューブにもアップされている長崎放送(NBC)によるインタビュー(10月19日)で、「共同声明は核兵器の違法化に向けた努力をしていくよう各国に呼びかけているのであって、日本は賛同する姿勢を見せるべきではないか。」と語っている。

田上氏が生まれたのは、広島・長崎が原爆で灰燼に帰してから11年後の1956年である。しかし、被爆者の証言に強く心を打たれ、「核兵器なき世界」を熱心に追求するようになった。

田上市長の(核廃絶にかける)熱意は、NPT運用検討会議準備委員会での市民社会プレゼンテーションに参加した際にも明確に示されていた。田上市長は、各国代表らを前に、「2010年における実績が示しているように世界全体で1兆6300億ドルもの巨額な資金が安全保障という名目で軍事支出に費やされており、しかもその結果、世界はより危険な場所になってしまっています。これは、極めて馬鹿げたことではないでしょうか。今こそ、私たちはこの危険な状況から自らを解放する強い意志を示す時ではないでしょうか。」と訴えかけた。
 
田上市長と同じく、広島の松井一實市長(被爆者の父をもち、1953年に生まれる)も、核廃絶の主張を先導してきた。松井市長は、従来から2015年のNPT運用検討会議の広島誘致の可能性を模索している。

また松井市長は、今年8月6日の平和宣言の中で、「世界中の皆さん、とりわけ核兵器を保有する国の為政者の皆さん、被爆地で平和について考えるため、是非とも広島を訪れてください。」と語りかけた。

9月に(筆者を含む)記者らと行った懇談会で、松井市長は、「平和市長会議創設30周年となる今年、2020年までの核兵器完全廃絶を呼びかける都市の数は5300を超え、その居住人口は10億人を超えました。」と指摘したうえで、「来年8月には、平和市長会議の総会を広島で開催する予定です。」と語った。

「来年の広島総会は、国際社会に対して、世界の市民の圧倒的多数が核兵器禁止条約と核兵器廃絶を求めていると示すことになるでしょう。また広島は、2014年の春には、日本を含めた10の非核兵器国から成る『不拡散・軍縮イニシアチブ』の閣僚会合の開催地となります。私は、核兵器からの解放という要求が広島から広がって世界を覆い、真の世界平和に導いてくれるものと固く信じています。」と、松井市長は語った。

「国際平和拠点ひろしま構想」計画

松井市長と、2011年11月4日に「国際平和拠点ひろしま構想」を発表した湯崎英彦知事は、核兵器なき世界に向けて粘り強い闘いをつづける「ヒロシマ・ツインズ」と言ってよいだろう。この構想の下で、広島県は、多国間の核軍縮交渉と、平和構築のための人的資源の開発に積極的に関与し、核兵器廃絶の取り組みを加速することを目指している。
 
9月にお会いした際、湯崎知事は、今後50~60年にわたって広島県が平和構築に向けて活動できる新たなアプローチを考案したとして、「広島はこれまで、被爆者の体験談などの方法を通じて世界に影響力を持ってきました。この構想によって、広島は世界に影響力を発揮し続けますが、それは新たな形をとっていくことになるでしょう。」と語った。

計画全体の中心となる「行動計画」は次の5つの要素からなっている。(1)核兵器廃絶のロードマップへの支援、(2)核テロの脅威の削減、(3)平和な国際社会構築のための人材育成、(4)核軍縮、紛争解決、及び平和構築のための研究集積、(5)持続可能な平和支援のメカニズムの構築。

とくに、計画の目標のひとつが多国間の核軍縮交渉の開始に置かれており、核兵器国の政府高官が個人の立場で参加できる「広島円卓会議」の開催を提案している。

またこの計画では、2010年NPT運用討会議の最終文書の履行のような、軍縮取り組みの評価と「点数付け」のためのメカニズムを創設することになる。また、地域紛争解決に責任を負う専門家の養成と研究のためのセンター創設も提案している。

日本政府の決定に困惑

こうした「核兵器なき世界」の実現に向けた長崎と広島の努力が背景にあるなか、日本の外務省の発表は、公明党の核廃絶推進委員会のメンバーにとって心配の種となっている。同委員会所属の4人の国会議員(衆議院・参議院)は、玄葉光一郎外相(当時)に対して、核兵器の非人道的な側面について強調した。

議員らは、国連総会第一委員会での議論に言及して、ノルウェーが来年3月に主催する「核兵器の人道上の結果」に関する国際会議(オスロ会議)で、核爆発がもたらす人道上の結果やそうした惨事に確実かつ効果的に対応する能力について議論が行われる予定であることを強調した。ノルウェー外務省軍縮・不拡散・輸出管理局のインガ・M・W・ニハマール局長は、10月18日、「オスロ会議では核爆発がもたらす人道上の結果についての知見と、事実に基づいた理解を広げることになるだろう。」と語った。

34か国が署名した今回の共同声明に加わらないとの日本政府の決定は、また別の理由によっても、奇妙なことに思える。日本政府は、9月26日に開かれた、日豪が主導している「軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)」第5回閣僚会議で、次のような共同声明に署名している。

「我々、オーストラリア、カナダ、チリ、ドイツ、日本、メキシコ、オランダ、ポーランド、トルコ及びアラブ首長国連邦の外相は、2010年NPT運用検討会議の行動計画の履行を促進するための実践的なステップをさらに前進させ、そして『核兵器のない世界』という目標を追求する決意である。我々は、これらの目的達成に向け多くの国々が取り組んでいることを認めるが、さらに多くのことがなされる必要があると考えている。」

ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部の天野万利大使は、10月17日の国連総会第一委員会で、「核兵器使用の悲劇的な帰結は、二度と繰り返してはなりません。」、「日本は、唯一の被爆国として、『核兵器なき世界』に向けた現実的かつ漸進的な取り組みを続けてまいりました。現在の取り組みの一つとして、日本は、『核兵器完全廃絶に向けた統一行動』と題する核軍縮に関する決議案を委員会に提出する予定でおります。」と述べた。
 
緊急提言を提出した4人の国会議員(赤松正雄浜田昌良谷合正明秋野公造)は、玄葉外相に宛てた緊急提言の中で、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)が昨年11月26日に可決した決議について言及した。決議では、「核兵器の破壊力が筆舌に尽くしがたい被害を及ぼし、時間的・空間的な効果が制御困難であり、その脅威が環境や将来の世代に及び、危険性が拡大することを深く憂慮する」と述べられている。

また同議員らは、公明党は、核兵器国の首脳を招いて2015年に広島・長崎で核廃絶サミットを招集する構想を支持していると語った。

さらに同議員らは提言の中で、「(核廃絶)サミット実現への一歩として、既に決定している広島での2014年NPDI広島外務大臣会合を成功させなくてはならない。日本は、議長国として、NPDI作業項目6項目の中に位置づけられた『核兵器の役割低減』の議論において『核兵器の非人道性』に特化したNPDIとしての明確なメッセージを打ち出せるよう、議長国として主導的役割を果たすべきである。」と述べている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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核廃絶にはオーストラリアとニュージーランドの協定では不十分

【IDNシドニー=ニーナ・バンダリ

Steven Leeper, Hiroshima Peace Culture Foundation

オーストラリアとニュージーランドは、国際的な包括的核実験禁止条約(CTBT)の枠組みの下で核爆発の検知強化と核実験の永久的かつ効果的な禁止の推進協力を行うための科学技術協力協定を締結した。

オーストラリアのボブ・カー外務大臣CTBTをサポートする新たな枠組みを歓迎して、「国際協力は、核実験が行われたかどうかに関して両国政府に助言を行う科学専門家の技能を強化するものです。このオーストラリアとニュージーランドの協力は、世界の他国に対するモデルとしての役割を果すことができ、CTBTの強化を図るものとなります。」と語った。

 二国間協力の枠組みは、オーストラリア外務貿易省保障措置・不拡散局(ASNO)とニュージーランド外務省間の合意覚書において定めたものである。そこでは、CTBTの検証に関するデータと情報について、オーストラリアとニュージーランドの担当部局による健全な科学技術分析を支援し、地域諸国の同様な能力開発を促進し、そしてCTBTの効果的な検証手段と方法論の開発を促進することが主要点として明記されている。

こうした動向の中で、オーストラリア放射能保護・原子力安全庁及びオーストラリア地球科学局は核爆発検知の能力を高めるために、ニュージーランドの環境科学研究所(ESR)と密接に協力していくことになるだろう。

カー外務大臣は声明の中で、「オーストラリアは、CTBTの早期発効を強く主張しており、我々はその時期に向けて技術的な準備を進めています。」と語った。オーストラリアとニュージーランドは2012年9月28日に科学技術協力協定を締結している。

しかし、公益財団法人広島平和文化センターのスティーブン・リーパー理事長は、CTBTに署名、批准を行ったオーストラリアのような国は、新たな枠組みに関する協議以上のことを行うべきだと感じている。 

「両国は核兵器の問題について何らかの対策を行っているように見えますが、実際のところは核兵器禁止条約への支持を拒否しているのです。両国が本来すべきことは、米国が(CTBTへの)条約批准を行うよう、本気で外交上かつ経済的な圧力をかけることなのです。」とリーパー氏はIDNの取材に対して語った。 

リーパー氏は、それを行う1つの方法として、米国及びその他の(CTBT)未批准国に対し、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会が構築した国際監視システム(IMS)が収集した地震活動、放射線放出及び実験に関する極めて貴重な情報の提供を拒否するという戦略を提案している。 

CTBTは、関係国が互いに協力し合って、核爆発が発生したかどうかを検証するための監視システムの活用能力を強化するよう求めている。 

CTBTO準備委員会は、核爆発から発せられる音波と放射性核種微粒子及びガスを把握するために環境を監視している300以上の施設からなるIMSの構築を完了している。こうした施設で収集されたデータは、どの事象(年間およそ3万件)が核爆発であるかを判断する最終的な責任を持つCTBT関係国に提供されている。

リーパー氏は、「CTBTはいわゆる段階的なアプローチの一部であり、それは、核兵器保有国が引き続き永遠に核保有の優位性を保持する一方で、核兵器非保有国に対して核不拡散条約の履行義務に従い続けるよう欺く取り組み以外の何物でもありません。日本とオーストラリアは、核保有国を刺激したくないために、この段階的なアプローチに献身的に取り組んでいます。我々は、CTBTを越えた核兵器禁止条約へと一刻も早く進む必要があるし、我々はこの包括的なアプローチの後ろ盾としてオーストラリアとニュージーランドを必要としています。」と語った。

CTBTは、1996年9月24日に署名開放され、183カ国が署名しているが、それが発効する前に発効要件国(いわゆる「付属書2諸国」44カ国)の批准待ちという状態である。今年(2012年)初旬に批准したインドネシアは36カ国目にあたり、あと8カ国(中国、韓国、エジプト、インド、イラン、イスラエル、パキスタン及び米国)が批准しなければならない。

「付属書2諸国」とは、1994年から1996年までCTBTの交渉に参加していた「核保有の能力を有する」と指定され、当時、原発あるいは研究用の原子炉を保有していた44カ国である。過去16年間において、地球上のどこかで行われている核爆発の可能性を検知し、調査する検証システムと分析技術の開発は進展してきている。

「核兵器の全面禁止」

オーストラリア外務貿易省の報道官によれば、「CTBTを通じた核実験の永久かつ検証可能な禁止は、不拡散と軍縮に不可欠となる構成要素であり、オーストラリアは引き続きCTBTの早期発効を迫っていく。」としている。

しかしながら、世界では益々多くの国家、組織、著名人らが、核実験だけでなく、核兵器を完全に禁止する条約に着手する交渉を求めている。近年、多くの政府は核兵器の無い世界への支援の声を挙げているが、その目標に到達するための具体的な行動は殆どなされてこなかった。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)オーストラリアのディレクターであるティム・ライト氏は、「CTBTは確かに、ある程度の核開発を抑制する上で役立ちましたが、核兵器の完全廃絶を達成することは言うまでもなく、核兵器の近代化を止め、核兵器不拡散を防止する必要な法的枠組みを提供してきておらず、また、提供する意図が全く無いものでもありました。」と語った。

「これは政府が外交努力を集中すべき点です。交渉はCTBTの施行を待つ必要がなく、待たなければならないものではないのです。我々は、核武装した国々が行動するのを単に待つのではなく、むしろ主要な役割を果す核兵器非保有国を必要としているのです。これは緊急な人道的必要性です。」とライト氏はIDNの取材に対して語った。

オーストラリア赤十字は、フリンダース大学南オーストラリア大学のボブ・ホーク首相記念センターと連携して、2012年11月の第1週にアデレードで国際会議を共催する予定である。そこでは、核兵器を禁止し、最終的には廃絶するための法的に拘束力のある手段を作るための緊急なニーズについて討議を深めることとなっている。 

国際赤十字・赤新月運動は、当初から核兵器を巡る議論の中心にあった。1945年から2011年まで、両組織は一貫して、こうした大量殺戮兵器に対する深い懸念とその使用禁止の必要性を訴えてきた。

2011年11月、国際赤十字と赤新月運動は、全ての国に対し、「法的に拘束力のある国際的な協定を通じて、核兵器の使用を禁じ、その全廃を行う交渉を誠意を持って行い、緊急性と決意を持って合意に達するよう」求める決議を採択した。この決議はその後、オーストラリア議会の支持を含む、世界の注目を集めた。

今日、少なくとも世界中に2万発の核兵器があり、その内3千発は発射可能な状態にある。この核兵器の潜在的威力は、広島型の原爆約15万発分に相当するとみられている。 

ICANオーストラリア諮問委員会メンバーのカトリオーナ・スタンフィールド氏は、「核兵器禁止の運動に最初に火を付けたのは市民社会であり、核兵器保有国が何もしようとしない中にあって、市民社会は、軍縮や核不拡散を最も声高々にサポートし続けているのです。」と語った。

「市民社会は私のような若者が核兵器禁止を推進する運動に関わる主たる舞台で在り続けています。私の世代では、市民社会が、通信と技術の急速な変化を追い風に、『核兵器のない世界』を求めて行動をおこすグローバルな連帯を構築することになると確信しています。」とスタンフィールド氏はIDNの取材に対して語った。 

この点は、核兵器全廃への前兆となるものである。
翻訳=IPS Japan

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【パリIPS=A・D・マッケンジー

昨月、フランス警察が、ナイジェリア人女性を取引して売春婦として使っていたとされる犯罪ネットワークを摘発したところ、ここフランスのみならず欧州全体に蔓延っている当局が呼ぶところの「現在の奴隷制」の実態に光が当てられることとなった。

警察当局は、「犠牲者の多くは、違法渡航を世話した者たちによって、数千ユーロの借金を負わされたナイジェリア人女性らで、イタリア経由でフランスに連れてこられていたのち、借金返済の名目で売春を強要されていた。」と発表した。

国際労働機関(ILO)によると、こうした女性たちは、欧州連合(EU)を含めた先進国において約150万人にのぼるとみられている人身売買の被害者の一部である。同機関は、全世界における被害者は2100万人近くにのぼると見ている。

 またILOは、欧州における人身売買の犠牲者の総数は、世界的な経済危機と各地で勃発している紛争を背景に増加傾向にあり、各国政府に対して人身売買と売春への取り組みを強化するよう働きかけていると述べた。

ジェンダー平等を目指す団体「欧州女性ロビー」(EWL、本部:ブリュッセル)は、この夏のロンドンオリンピックを前に売春反対のキャンペーンを開始し、欧州議会に対して売春防止に取り組むよう訴えかけた。

EWLは、「(ロンドン)オリンピック大会や2012年欧州選手権ポーランド・ウクライナ大会のような大規模なスポーツイベントが開催された影には、数千人の若い少女や女性が、売春需要を満たすために、人身売買や性的搾取に引き込まれるリスクに直面していた。」と語った。

なかでも経済的に不安定な立場にある移民女性は、ますます強制売春に引き込まれる危険に直面しているという。

「女性に対する様々な暴力形態の中でも、女性の人権を広範に侵害する強制売春が引き続き最も蔓延しています。」と、EWLのピエレット・パペ(プロジェクトコーディネーター)氏はIPSの取材に対して語った。


EWLは「売春のない欧州をともに目指そう」というキャンペーンを2010年に開始しました。EU最大の女性人権協会のアンブレラ組織として、EWLには欧州各地のメンバー団体からの情報提供や支援が集まっており、その多くが12月4日にブリュッセルで開催されるEWL欧州会議に参加する予定である。
 
「売春は女性の人権を根本から侵害するものであり、男性による女性に対する暴力の一形態です。また、欧州における現代の奴隷貿易、すなわち人身売買の主な牽引要因でもあります。もし私たちが、売春や女性や少女の性的搾取のない社会を実現することができれば、欧州連合域内における人身売買の大部分を取り除くことになるのです。」と、このキャンパーンを支持しているアンナ・ヘド欧州議会議員(スウェーデン)は語った。
 
EWLの友誼団体である「アイルランド移民評議会」で人身売買反対キャンペーンに取り組むヌシャ・ヨンコヴァ氏によれば、性取引に関与するようになった移民女性は、さまざまな問題に直面しているという。

たとえば、売春関連法に加えて移民法制への違反など移民としての不安定な地位、国家による犯罪化、友人の不在と孤立、各地の売春宿への頻繁な移動による方向感覚の喪失、強要や脅迫、売春業者による支配、医療サービスの欠如などである。

EWLによると、移民女性たちは、書類不足や亡命申請中であるなどの理由によってしばしば正規の労働市場から弾かれることが多いという。またそうした理由から長期に亘って就労の権利を拒否された場合、将来的にますます労働市場への参入が難しくなることも明らかになっている。

ヨンコヴァ氏によれば、数世代に亘って多くの移民を送り出してきたアイルランドにおいても、(外国からアイルランドへの)移民女性は「極めて不安定な状況」に置かれているという。

「労働許可を取得するには多額の費用が必要ですし、なによりも申請できる職種は全て、現時点で欧州連合内の国籍保持者以外は不適格とされるため、取得はほとんど不可能なのが実態です。」とヨンコヴァ氏は語った。

ヨンコヴァ氏によると、アイルランドでは売春業に従事している女性の大半は学生としての地位を確保しようと努力するという。しかし、実際には、授業料が高かったり、授業への出席を要求されたりして、この地位を維持することは容易ではない。その結果、多くの女性が「移民コンサルタント」と称する大学の偽IDや書類を手配するブローカーの餌食になっているという。

「アイルランド移民評議会」によると、アイルランドでは1日あたり平均1000人の女性が性産業で働いているという。ただし、その内のどの程度の女性が他人からの脅迫のもとで売春行為をしているのか、またどの程度の未成年者が含まれているのかといった内訳については把握できていないという。

活動家らは、「女性たちが売春でいくらかの現金を手に入れたとしても、生活をまかなうには到底及ばない程度のものです。」と語った。

「アイルランドには、移民の人権擁護を謳いながら売春を『生計の手段』として認めない移民団体があります。こうした団体は、生活のために体を売らざるを得ない貧しい移民の人権擁護を訴えますが、一方でそうした移民らに就労の可能性を提供しようとはしていません。ここには本質的に人種差別が見て取れます。」とヨンコヴァ氏は語った。

欧州で性産業に従事する移民女性の出身地は多岐にわたる。「アイルランド移民評議会」によると、アイルランドの場合、主な出身地はラテンアメリカ、東欧の最も貧しい国々等で、例えばブラジル、ルーマニア、そしてナイジェリアが挙げられるという。

EWLが本拠を構えるベルギーでは、性産業労働者の主な出身地は、ブルガリア、アルバニア、ルーマニアである。「最近では、新たにハンガリー、ギリシャ、イタリアからの移民売春婦を多く見かけるようになりました。ここにも、売春産業が、最も弱いところを搾取する構図が如実に現れています。」とEWLはINPSの取材に対して語った。

例えば、ギリシャとイタリアは両国とも近年の経済危機の影響で、前例のない規模の緊縮財政政策の導入を余儀なくされている。

他方、フランスでは、売春自体は違法行為ではない(ポン引き行為や売春宿の保有は違法)。国内2万人の売春婦のうち、約70%が外国人と推定されている。こうした外国人売春婦の出身地は主に中・東欧及びサブサハラアフリカ地域である。

こうした中、フランス議会では多くの国会議員が売春を非合法化する動きを見せており、性労働者らが反発を強めている。

この7月、性労働者や彼女たちの人権を求める活動家が、パリでデモを行った。新たに就任したナジャット・ヴァロー=ベルカセム女性権利大臣が、街頭における売春勧誘行為を犯罪化するという提案を行っており、これに反対する人々が集ったのである。

性労働者らは、売春を犯罪化すれば売春は地下化し、ただでさえ貧しい生活の糧を奪うことになってしまうと苦境を訴えた。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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中東非核化会議へのいばらの道

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【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

中東非核・非大量破壊兵器地帯の創設に関する会議の開催地がフィンランドに決まったとの発表が国連によって2011年10月14日になされて以来、沈黙と秘密のベールが会議の運命に覆いかぶさっているかのようだ。ベールの陰から少しずつ姿を現したものはイスラエルの「沈黙の壁」だが、同国の反核活動家シャロン・ドレフ氏が執拗に突き崩そうとしているのが、まさにこの壁であり、一定の成果を収めている。

ベルリン、ロンドン、ヘルシンキの確かな筋によると、中東会議は、フィンランドのベテラン外交官・政治家であるヤッコ・ラーヤバ氏をファシリテーターとして、12月14日から16日の日程で開催される。しかし、この会議に熱心に取り組んでいる人物はほとんど見当たらない。

 「核兵器廃絶キャンペーン」(CND)の事務局長で反核・反戦運動のリーダーであるケイト・ハドソン氏は、「この提案は絵空事だと多くの人が見ています。」「もちろん、この会議が成功する前に重大な障害を乗り越えなければなりません。しかし中東にとっての最大の脅威は、間違いなく、会議そのものが開催できないという事態でしょう。」と語った

2015年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議に向けて5月初めにウィーンで開催された第1回準備委員会において[中東会議実現への]障害について報告したラーヤバ氏は、中東の内外ですでに100回以上の会合をこなしているが、すべての関係国からの参加表明は未だに得られていない、と語った。

「『何の報告もない』というラーヤバ氏の報告を受けて、再び、失望や非難が噴出してきた。イスラエルとイランはどうやら参加を見合わせるようで、これによって、シリアの参加にも大きな疑問符が付されるようになってきた。」と書いているのは、『原子科学紀要(Bulletin of Atomic Scientists)』誌のマーティン・B・マリン氏である。

しかし、ハーバード大学ケネディ行政大学院科学・国際問題ベルファーセンターで「原子力管理プロジェクト」代表を務めるマリン氏は一方で、「イスラエルは、中東で大量破壊兵器の保有を制限するルールを策定するための近隣諸国との交渉は、比較的に最も受け入れやすいオプションだと考え、最終的には交渉のテーブルでその手腕を発揮するかもしれない。」との楽観的な見方を示した。

マリン氏はその根拠として、「非大量破壊兵器地帯化の協議を進めることで、イスラエルは、核兵器と大量破壊兵器のない中東への移行の条件について交渉する間、ほぼ批判を受けることなく、核兵器を独占している現状を引き伸ばすことが可能となります。また、地域の軍備管理に関するフォーラムを、中東の別の場所における拡散に関するイスラエルの懸念を伝える場として利用することもできるのです。」と語った。

またマリン氏は、「イランにも非大量破壊兵器地帯を追求せずにはおれない安全保障上の利益がある。」と指摘した上で、「イランには、イスラエルを非核化するという長期的な安全保障上の戦略目標があるため、イランの指導層にとっていかに不快に思えようとも、地域の安全保障と大量破壊兵器の禁止に関してイスラエルと直接協議を行うことが、そのための唯一の方法なのです。」と現状を分析した。

イランの通信社「ファーズ」によれば、ファシリテーターのラーヤバ氏は、イラン政府に対して、フィンランドで予定されている会議に参加するよう正式に要請したという。彼は、イランのメフディ・アクホンザデフ外務副大臣と9月10日にテヘランで会談した際に参加要請を行った。

予定の会議日程が急速に近づく中、ラーヤバ氏や市民団体は、非核兵器地帯が世界の多くの地域において大きな成功を収めてきた集団的安全保障の形態であることを主要参加者に納得させるという大きな課題に直面している。現在、115か国・18地域が、5つの[非核兵器地帯]条約に加盟しており、南半球のほとんどを含め、地球上の大部分が非核兵器地帯化されている。

構想はイランから始まった

中東地域にそうした地帯(非核兵器地帯)を創設することを1974年に初めて提案したのは、奇しくも今では核兵器開発疑惑のために国際社会で孤立状態にあるイランであった。エジプトは、1990年、中東地域に化学兵器・生物兵器を使用した戦争に関する重大な懸念があることを反映して、イランの提案にその他の大量破壊兵器(WMD)を含める拡大提案を行った。そして1995年には、核不拡散条約(NPT)運用検討会議において、中東非大量破壊兵器地帯化に関する決議が採択された。

その15年後、2010年のNPT運用検討会議では、中東非大量破壊兵器地帯創設の目標に向けて必要な5つのステップが確認され、その中に2012年に中東非大量破壊兵器地帯創設に関する国際会議(=中東会議)を開催し、そのためのファシリテーターを指名することが含まれていた。

「中東非大量破壊兵器地帯の創設に向けて前進できなければ、それはつまり、今後起こりうる紛争において失うものがより大きいものとなるということを意味します。しかもその『失われるもの』とは、常に人的な損失を意味するのです。」とCNDのハドソン事務局長は語った。

ハドソン氏は、非核兵器地帯は、こうした危険な状況とその後の紛争激化の問題にまさに対処するための根本的なメカニズムであると、いみじくも指摘した。トラテロルコ条約(ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約)には、核兵器を開発する能力を持つ巨大な原発産業を擁するライバル国であるアルゼンチンとブラジルが、いずれも含まれている。条約には信頼醸成措置の枠組みがあり、核兵器システムを追求する能力と必要性を失わせる不拡散の規範が埋め込まれている。

エジプト外務省は、一般的な懸念を反映して、2012年5月の2015年NPT再検討会議準備委員会の会合に対して、アラブ連盟はフィンランドにおける会議を核政策に関する重要な岐路だと考えている旨を記した文書を提出した。エジプトは、大量破壊兵器軍縮に向けての現実的かつ実際的な措置に合意できない場合、核兵器の拡散が中東地域における危険な現実になりかねないとしている。従って国際社会は、そうした事態を避けるために最大限の努力を傾けなければならない。

中東非大量破壊兵器地帯の創設を成功させるために不可欠な安全保障上の懸念と兵器化の能力に関して、忌憚ない議論を行うことが火急である。そしてそれは、平和と真の安全保障の構成要素であるコミュニケーションの通路を開くことから始まる。

ICAN
ICAN

これこそが、前出のドレフ氏が、グリーンピースの名の下に、さらには、とりわけ核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)との協力の下で、多くの活動家とともに行ってきたことである。

「イスラエルが会議に参加するかどうか不確実な現在の状況では、トラテロルコ条約の進化が、フィンランドでの中東会議のロール・モデルとして役立つでしょう。」とベルリン訪問中のドレフ氏は語った。

かつてのアルゼンチンのように、イスラエル(とイラン)が当初はいかなる合意にも署名しないという可能性は否定できない。しかし、中東会議は、中東非大量破壊兵器地帯の創設にとって必要不可欠な歴史的な協力と協議の引き金になる可能性があり、地域内関係にとってポジティブな意味を持つことになるだろう。

「こうしたアプローチに警戒感を示す国もあるかもしれないが、これが平和共存にとっての重要な枠組みであると確信をもてるようになれば、もちろん支持するようになるでしょう。こうした警戒心は、強力で透明性を確保した検証措置と、強制力を持った法的拘束力のあるメカニズムを通じて、徐々に信頼へと変化していくことが可能だろう。」とハドソン氏は語った。

イスラエルへの直言が必要
 
ノーベル賞を受賞した「核戦争防止国際医師会議」(IPPNW)ドイツ支部で核軍縮キャンペーンを行っているザンテ・ホール氏は、ドイツはイスラエルの緊密なパートナーとして、イスラエルを真剣に説得して会議に参加させる最善の努力をしなければならない、と語った。

そのためには、イスラエルは核保有国であり、冷戦思考にこだわることでそれを抑止力として正当化していると直言することが必要になってくる。

ドレフ氏は、IPPNWドイツ支部が企画した「報道陣と語る」において、「世界ではイスラエルと核能力について始終議論していますが、イスラエル国内ではあいまいさが支配しており、この『問題』はタブー化されています。」「もし我々がひとつの社会として核問題を考えようとした場合、対象は未だに現実化していないイランの核兵器ということになってしまいます。もし中東における核兵器という課題が我々の間であがったならば、即座に(イスラエルと違ってNPT加盟国である)イランを名指すことになるのです。」と語った。

ドレフ氏は、今日支配的な状況について「自分の背中を見ることができない猫背の人と同じく、私たちは、自らの兵器について見聞きし、考えることをやめてしまっています。いつでもイランに対して核攻撃を仕掛けることができると時々口にすること以上に、核兵器の必要性について疑問を呈することをしていないのです。またそのような発言をする際、イスラエルが核兵器国であるという事実は一顧だにされていないのです。」と語った。

イスラエルの人びとは、大抵の話題についてはオープンに議論をするのだが、こと核の問題となると、タブー扱いしたり、反対意見を述べるにはあまりに複雑な問題だと考えたりする傾向にある。その結果、大多数のイスラエル人にとって、核の問題は、政治や軍のトップにある人間だけが、閉じられたサークルの中で議論すべき話題なのである。

「ヘブライ語で関連の情報が出されることは稀であり、一方、英語の関連情報なら豊富にあるが、分析するのは難しいのが実情です。」「議論するのが難しい雰囲気は、イスラエルが1950年代末に核開発を開始して以来、核兵器の保有について肯定も否定のしない『あいまい政策』に固執してきたことにも由来している。つまり、(イスラエルは)中東で最初に核兵器を導入する国にはならないというのが、この国の公式な建前なのである。」とジャーナリストのピエール・クロシェンドラー氏は述べている。

従って、イスラエルの「あいまい政策」の意味するところとは、イスラエル核開発の中心地だとみなされているディモナを国際社会が無視し、イラン核開発の中枢だと見られているナタンツにばかり注目し続けさせるということである。
 
イスラエル政府関係者は、その「あいまい政策」が大量破壊兵器と同等にイスラエルの安全を高めるものだとして、高く評価している。核軍縮活動家は、そうした政策の必要性を認めた上で、イスラエルの核能力を暴露しないという制約を尊重するような議論をオープンにすべきだと提案している。こうした議論が実現すれば、かえってイスラエル社会の民主的な性格を強化することになるだろう。
 
「核兵器の必要性や、それが中東および世界に及ぼしている危険、軍縮のさまざまな可能性について真剣な議論を行うことは、今でも可能なだけではなく、むしろ義務でもあるのです。」とドレフ氏は語った。
 
ドレフ氏の活動と彼女の支持者を貫く創造性は、広島の被爆者4人をイスラエルに招き、ホロコーストを生き延びた人々を含めて、幅広くイスラエルの人々と交流させたということにも現れている。こうした訪問は、核兵器の破滅的な性格に世間の注目を集めることに貢献した。

ドレフ氏の活動は、「あいまい性という壁の向こうに隠れるイスラエルのやり方は、むしろ脅威だと見なされており、(イスラエル政府が望む)非暴力のジェスチャーだとか、脅威を与える意図が存在しないものとはみなされていない。」という信念に導かれたものである。

「他方で、イスラエル国内外で自国の核政策にメディアの注目を集めようとするイスラエルの反核運動は、もっとオープンなイスラエル、話ができるイスラエル、さらに、多様な意見が存在し表現できる一枚岩的でない民主社会としてのイスラエルを世界に示すことになるでしょう。」とドレフ氏は語った。(原文へ

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|エジプト|貧困問題が新たな社会騒乱の導火線となる

【カイロIPS=カム・マックグラ

アハメド・ハサネインさん(37歳)は、カイロ西部の工業団地にある近代的な工場で勤務している。彼はきれいにアイロンがけしたユニフォームを着て、外国ブランドの乗用車用部品を製造するラインで精密機械を操作している。シフトが終わると、家族が待つ簡素なアパート(2部屋、風呂なし、水道と電気が時折とまる)に帰宅する。彼の寝室はベッドがやっと入るくらいの大きさで、2人の子供はかつてバルコニーだったスペースに備え付けた折りたたみ式ベッドを共有している。

  ハサネインさんは、現在の給料で、家賃、公共料金、食費(食卓に時折肉か魚が並ぶ程度)をなんとか賄っている。しかし事務のパートタイムに出ている妻の収入を合わせても、月末には現金収入の殆どを使い果たしているのが現状である。

ハサネインさんのケースは、工場で骨折って働いても、賃金があまりにも低いために、自らが生産に携わっている工業製品にはとても手が届かない、無数のエジプト人労働者の一例に過ぎない。

「父はフィアット(イタリア製自動車)を所有していたので、若い頃、私はその車が壊れるまで長年乗ったものです。しかし、私の代になって車を買ったことはありません。」と言うハサネインさんは、大半の同僚と同じくバスで通勤している。

ハサネインさんは貧しい家庭に生まれたわけではない。彼は、購買力の低下に伴い生活レベルを落とさざるを得なかった何百万ものエジプト中産階級世帯とともに、貧困に陥ったのである。
 
アンワール・サダト大統領(当時)が「Infitah(門戸開放)」政策を打ち出してから過去40年の間、政府による投資企業優遇政策(安価な土地、労働者の低賃金、エネルギー経費の補填等)に惹かれて諸外国から民間資本が殺到した。一方でエジプト政府は労働組合活動を抑圧し、労働基準を骨抜きにしていった。

政治経済学者のアミール・アドリィ氏は、「エジプト政府が導入した、市場開放と新自由主義政策は、海外からの進出企業と国内の富裕層にとっては大きな恩恵となりました。しかし、その結果生じた失業、腐敗、富の不平等な配分といった弊害が、ホスニ・ムバラク大統領(当時)を失脚に追いやった民衆蜂起の主要要因となったのです。」と語った。

またアドリィ氏は、「革命前、エジプト経済は7%から8%の経済成長を遂げていました。つまりトリクルダウン効果(社会の上層部に富が集まると、その波及効果で社会の下部層も潤うというもの:IPSJ)など全く機能していなかったのです。その結果、多くの産業分野が急激なインフレに全く追いつけない事態に陥ったのです。」と語った。

ムバラク時代の遺産は、人口8300万人の実に4分の1のエジプト国民が国連が定めた貧困ライン(一日あたりの収入が2ドル)以下の生活を余儀なくされている今日のエジプト社会の現状である。エジプトの労働人口2600万人のうち、13%が失業状態にあり、多くの人々がなんら職務保証を望めない巨大なインフォーマルセクターで生計を繋がざるを得ない状況に置かれている。

エジプトの賃金水準は世界でも最低水準に位置している。国が定めた月当りの最低賃金は、昨年新たに700エジプトポンド(115ドル)に改正されるまで、20年以上にわたって35エジプトポンド(約6ドル)に抑えられていた。

「私たちは賃金が上がることを望んでいますが、それを実現する具体的な道筋は全て塞がれているのが現実です。結局は、提示された賃金を受け取って、少なくとも自分には仕事があるのだと神に感謝するしかないのです。」とフサネインさんは語った。

ムバラク政権の下では、労働者は組合活動をしないよう様々な圧力を受けた。それでも組合活動をする場合は、エジプト労働組合総連合(ETUF)傘下の24組合の一つに加入しなければならなかった。活動家らによれば、この巨大な官製労働団体は、労働者によるストライキや集団交渉を阻止することで、政府と工場主の利益に奉仕したという。

ETUFの執行委員会は2011年の民衆蜂起の後に解散したが、不正選挙によりムバラク政権への忠誠を基準に選出された組合長の多くが今でも残っている。ETUFの会員は350万人を数えるが組合費が徴収される一方で組合からの支援や見返りはほとんど期待できないのが現状である。

織物工のカリム・エル・ベヘイリさんが賃金引き上げを求めるストライキに参加したとき、それを阻止しようとしたのが、国営工場の支配人と組んだ彼自身の労働組合だったのである。

「国の肝いりで作られた組合は、労働者の権利なんて尊重しようとはしませんでした。」と、今では労働者の組合活動を支援するNGOでプロジェクトマネージャーとして働いているエル・ベヘイリさんは語った。「労働者は毎月組合費の支払いを余儀なくされましたが、官製組合の関心は、常に政府と経営者の利益のみに向けられていたのです。」

エル・ベヘイリさんは、2006年12月にボーナス未払を巡って見せかけばかりの組合代表らを相手に立ち上がったエジプト北部のマハラ・エル・コブラの織物工場の労働者24000名のうちの一人である。このストライキがその後全国各地で相次いだ非合法ストライキを誘発したことから、今日では、昨年ムバラク支配に終止符を打った民衆蜂起の出発点になったと広く見られている。

このストライキの波は経済セクターをまたがってエジプト各地で今日も続いている。エジプトの人権擁護団体「Sons of Land」によると、昨年は過去最多となる1400件の労働争議が発生した。

こうして労働運動か高まった結果、意気盛んな労働者らが、労働組合活動を巡るETUFの支配に異議を唱えるようになっており、政府の利益ではなく自らの利益を擁護するための独立系組合を自主的に組織する動きが加速している。2011年の民衆蜂起以前に労働者が自主的に設立した独立系組合は4団体に過ぎなかったが、革命後の18ヶ月の間に800以上の独立系組合が設立され、加盟人数も約300万人と見られている。

エジプト独立労働連盟(EFITU)のカマール・アブ・エイタ代表は、「私たちは労働者の権利を守り、彼らに対して説明責任を負う民主的かつ独立した組合を構築しています。」と語った。

一方、ムハンマド・ムルシ新大統領の出身母体であるイスラム系団体「ムスリム同胞団」は、ビジネス分野に幅広い権益を有しており、労働運動には反対の立場をとってきた長い歴史がある。すでにモルシ政権内部のムスリム同胞団関係者から、前政権による経済政策を継続すべきと示唆する動きもでてきている。これに対して、批評家の間からは、そのような決定がなされれば、必然的に労働者の賃金と保障が犠牲にされることになると警戒する声が上がっている。

「ムスリム同胞団は強力な労働組合を望んでいません。彼らはストライキに参加する労働者をならず者呼ばわりしており、労働組合の増加を押さえ込みたいと考えているのです。」と地元の労働問題ジャーナリストのハデール・ハッサン氏は語った。

著名なムスリム同胞団メンバーで元ETUF幹部の新労働大臣は、労働者らが自らを代弁する労働組合を業種ごとに一つに限るよう義務付ける法案を提出している。労働者の人権問題に取り組んでいる活動家らによると、もしこの法案が議会で採択されれば、ETUFと並立してきた独立系労働組合の大半が排除されることになるという。

「そうなれば、私たちはムバラク時代に立ち戻ってしまうことになるでしょう。」とハッサン氏は語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩 

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