ホーム ブログ ページ 232

イラクのキリスト教徒、「イスラム国」の脅威に直面してヨルダンに避難

【アンマンIPS=アレージ・アブクダイリ】

イラク人のマーヴィン・ナフェ氏にとって隣国シリアでスンニ派過激組織「イスラム国」が勢力を伸ばしている様子を捉えたとされるソーシャル・メディアの映像や写真は、現実からかけ離れたものとしか思えなかった。

「あまりにも架空のものに思えて、信じられませんでした。」と27歳になるナフェ氏は語った。

しかしそれから数ヶ月後、ナフェ氏の故郷(イラク第二の都市モスル)は、「イスラム国」の攻撃により僅か2時間で陥落、彼を含む数千人のキリスト教徒は家を追われることとなった。

「平和と安全ほど大事なものはありません。」ヨルダンの首都アンマン東部のマルカ地区にあるカトリック教会でIPSの取材に応じたナフェ氏は語った。彼はヨルダンに逃れてきて以来、既にこの教会で2か月間寝起きしている。

今年7月、「イスラム国」はモスルのキリスト教徒住民に対して、イスラム教に改宗し税金を納めるか、財産を放棄して街を退去するか選択するよう命じた。そしてこの命令に従わない場合は「最終手段として」死刑が適用されるとした。

「モスルにはもうキリスト教徒はいません。私たちが知っている人々は、高齢者施設から動けずイスラム教への改宗を強制された老人たちを除いて、みんな去っていきました。」と、ナフェ氏は語った。

8月以来、数千人のイラク人難民が、クルド自治区のアルビルを経由してヨルダンに流入してきている。

カリタスのダナ・シャヒン広報官はIPSの取材に対して、「昨年の8月以来ヨルダンでは4000人のイラク人キリスト教徒がカリタス事務所に支援を求めてきており、これまでに2000人を各地の教会に割り当てています。」と語った。

首都アンマンと北部のザルカとサルトにある教会は、今や臨時の難民キャンプとなっており、難民の家族が廊下や中庭で生活をしている。

マルカ地区のカソリック教会では85人の難民が7メートル×3メートルの大きさの部屋を共有している。ここでは子どもや老人、男性、女性が、マットレスで仕切った壁て辛うじてプライバシーを確保しながら、床に寝起きしている。教会のカフェテリアでは、カリタスから寄付された食料品を使って食事が提供されている。

Andrew Harper/ UNHCR
Andrew Harper/ UNHCR

「ヨルダン政府の難民に対する寛容な支援には感謝しています。しかし今の状況が難民たちにとって理想の生活環境とは言えません。」とウム・ジョージと名乗る53歳の女性が語った。

イラク難民の大半は「イスラム国」に全財産を奪われているため、ヨルダンに到着した時には、着ている服以外はほとんど何も所持していなかった。「『イスラム国』の兵士は、金銭を奪おうと子どもでも容赦なく持ち物検査を行いました。私たちは安全と引き換えに全てを手放すしかありませんでした。」と先述のマーヴィン・ナフェ氏の弟で25歳のイハブは語った。

イスラミック慈善会センターは、教会の中庭で生活している難民の家族を対象に、移動式プレハブ住宅を供給した。一方いくつかの家族は、他の世帯と共同利用する賃貸アパートに転居している。カリタスは、基本的な食料や住まい、さらに医療サービスや衣料の提供を行っている。しかしこうした難民に対する持続的な解決策は未だに見つかっていない。

「私達は引き続き難民のニーズを見極めようと努力しているところです。彼らの多くは全財産を故郷に残したまま逃げ出してきた人々です。」と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)ヨルダン代表のアンドリュー・ハーパー氏は語った。UNHCRは、今年の8月の9月の間、毎日平均120人のイラク人難民を登録していた。難民登録に際してUNHCRが実施した聞き取り調査によると、全体の60%以上がイラクから逃れた理由として「イスラム国」に対する恐怖心を挙げている。

今年に入って約11,000人のイラク人難民がUNHCRで登録された。これにより、ヨルダンにおけるイラク人登録難民の総数は37,067人となる。

ヨルダンには2003年以来、数千人のイラク人難民がいるが、彼らに対する援助資金が枯渇する中、厳しい状況の中で生活のやりくりしている。

イラク人難民はヨルダンで合法的に就労できないため、アンマン東部やザルカ市の最も貧しい地区で暮らしている。彼らはなんとか家賃を払い、子どもたちを学校に送り出すために必死で努力をしている。

新たなイラク人難民の流入は、援助資金が不足する中で既に618,500人以上のシリア人難民を受入れているヨルダンで活動している援助機関に、新たな難題と突きつけている。

Zaatri Syrian Refugee Camp in Jordan/ Wikimedia Commons
Zaatri Syrian Refugee Camp in Jordan/ Wikimedia Commons

「ヨルダンは、第二次世界大戦以来、最も多い数の難民を受入れており、資金が切迫した状況にあります。」「私たちは毎日様々な難題に直面していますが、なんとか国際社会からの支援を得て乗り越えていきたいと考えています。」とハーパー代表は語った。

IPSが取材したイラクから到着したばかりの難民のほとんどは、欧米諸国への再定住を希望していた。「中東地域はもはや私たちにとって安住の地ではありません。私たちイラクのキリスト教徒は、(米国率いる多国籍軍がイラクに侵攻した)2003年以来、常に迫害を恐れ、苦しみ続けてきました。」と60歳になるハンナさん(苗字の名乗るのは断った)は語った。彼女はキリスト教徒なのに娘とともに頭からスカーフを被っている理由について、「嫌がらせを避けるため」と語った。

「しかし再定住申請の手続きは、現実には長いプロセスを要する複雑問題で、申請者が置かれていく状況の脆弱さの度合いに応じて優先的に審査する仕組みとなっています。ヨルダンでは既に数千人のイラク人難民が、数年に亘って第三国再定住申請の結果を待っています。」とハーパー所長は語った。

再びマルカ地区の教会では、ナフェ氏がモスルに今も住んでいるイスラム教徒の友人が送ってくれたという彼の実家の写真を見せてくれた。ナフェさんが指す指先を見ると、その家には赤いペンキで「イスラム国の資産」という文字と、アラビア語のアルファベットで「キリスト教徒(=Nasara)」を意味するN(エヌ)のアラビア文字が塀の壁に描かれていた。さらに悪いことに、送り主の友人は、次のメールの中で、ナフェさんの家は既に「イスラム国」のメンバーが接収して住んでいる旨を伝えてきた。

ナフェさんは、いつか家族とともに祖国イラクを再び一目見るという希望は失ってしまったが、彼は今でも祈りがモスルに平和を再びもたらしてくれると固く信じている。「私たちはいつも、誰もが平和的に共存していた10年前の安全なモスルが蘇りますよう、常に祈りを捧げています。」とナフェさんは語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:

|イラク|女性の人身取引が増加

内戦状態に陥りつつあるイラク

|シリア-イラク|ついに橋を架けつつあるクルドの人々

|視点|全ての少女に学籍を認めることが児童婚に歯止めをかける一つの方法(アグネス・オジャンボ『人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ』研究員)

0

【ダルエスサラームIPS=アグネス・オジャンボ】

「おまえはもう学校に行ってはいけない。この男性が既におまえの持参金を払っているので、結婚しなければならないんだよ。」と、ある日マチルダ.Tは父親に告げられた。彼女は当時14歳で、小学校(タンザニアの義務教育は小学校の7年間。中学校は義務教育ではない:IPS)の卒業試験に合格し公立中学校への入学が認められたばかりだった。彼女は父親に勉強を続けさせてほしいと懇願したが、聞き入れられなかった。

結局、マチルダ.Tは34歳になる既に妻が一人いる男性と無理やり結婚させられた。彼女の家族は既に婿側から4頭の牛と70万タンザニアシリング(約435ドル)を受け取っていたのだ。

人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の調査に対してマチルダ.Tは、「学校に行けなくなり、とても悲しかったわ。」「母はなんとか結婚をやめさせようと村の長老達に助けを求めてくれたのだけど、長老達はむしろ私が結婚すべきだとする父の決定を支持したのです。」と語った。しかしマチルダ.Tの夫は、彼女を肉体的・性的に虐待したうえに、結局彼女を養う余裕もない人物だった。

HRWの新報告書「追いつめられて:タンザニアにおける児童婚と人権侵害」は、タンザニア大陸部(同国は大陸部と島嶼部からなる連合共和国:IPSJ)における児童婚の実態を綿密に調査したものである。タンザニアでは10人に4人の少女が18歳の誕生日を迎える前に結婚している。国際連合はタンザニアを児童婚率が最も高い(=全体の3割を超える)41カ国の一つに指定している。

HRWはこの報告書の中で、児童婚がいかに少女や女性を夫の性暴力や女性器切除(FGM)といった搾取や暴力、さらには、リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)のリスクに晒しているかを記録している。とりわけ、児童婚と教育へのアクセスが制限された環境との間の因果関係に着目している。

Human Rights Watch
Human Rights Watch

タンザニアでは、少女らは教育を受けるうえでいくつかの深刻な障害に直面している。つまり、マチルダ.Tが経験したような女性に教育を与える価値に関する社会の固定観念に加えて、少女の教育へのアクセスを阻害し未成年の結婚を促進するような政府の差別的な政策や運用がまかり通っているのである。

タンザニアでは、結婚は少女にとって教育機会の終わりを意味する。また、結婚していたり妊娠していることが判明した生徒は、学校から締め出されている。

またタンザニアの学校は、定期的に妊娠検査を女生徒に義務付けており、該当者を随時退学処分にしている。HRWは妊娠が発覚して学校を追われた数人の少女に聞き取り調査を行った。また中には、女生徒が自身の妊娠を知り、学校で処罰されることを恐れて自主的に登校を止めたものもいた。

そのような経験をしたシャロン.J(19歳)は、小学校の最終学年時に退学処分になった時のことを回想して、「校長先生は私が妊娠していることを知ると校長室に呼び出し、『君は妊娠しているから今すぐこの学校から出ていきなさい。』と言いました。」と語った。

教育・職業訓練省による2013年度指導要綱は、十代の妊娠を抑制する手段として、引き続き学校に定期的な妊娠テストの実施を義務付けるよう勧告している。2014年6月に内閣の決議を得た新たな教育・職業訓練政策には、退学後の出産や「その他の理由」による復学に関する規定が設けられているが、既婚女性がそのまま通学できるか否かについては、残念ながら何も明記されていない。

現在政府が採用している初等教育修了者学力試験(PSLE)制度は、貧しい家庭出身の子どもたちに不相応な影響を及ぼし、少女らを児童婚のリスクに追いやっている。タンザニア政府は、同学力試験を評価ツールというよりもむしろ、どの生徒を中学校に進学させるかを選別するためのツールとして活用している。この試験で不合格となった生徒には再試験のチャンスは与えられず、事実上、公立中学校への進学の道が閉ざされることになる。

A village primary school in Karatu district, Tanzania/ Wikimedia Commons
A village primary school in Karatu district, Tanzania/ Wikimedia Commons

ただしこの試験に失敗しても裕福な家庭の子どもには私立の中学校への進学する選択肢が残されている。しかし不合格となった娘を私立学校に進学させる余裕がない両親は、娘の結婚を次の実行可能な代案と考えるのである。

19歳になるサリア.Jは、初等教育修了者学力試験に失敗したあと、15歳の時に無理やり結婚させられた。

「卒業試験に失敗した私は、私立の中学校に進学する以外に選択肢はないと思っていました。しかし私の家庭は貧しかったので、結局家でなにもしないでいた私を見かねた父が、ある男性と結婚させる決断をしたのです。」とサリア.JはHIRWの聞き取り調査に対して語った。

教育機会を奪われた少女らは様々な機会や、自身の人生について十分な情報を得たうえで判断する能力も制限されることになる。しかしこうした事態が放置されれば、最終的には、少女の家族やコミュニティーもその代償を払わされることになるのである。

タンザニア政府は、高い児童婚率を抑制しその影響を緩和する包括的な計画を早急に策定し実施すべきである。そして、そうした計画には、少女を児童婚のリスクに晒している教育システムの課題に取り組むための、目標を絞った政策や計画的な対策が含まれるべきである。

Agnes Odhiambo/ HRW
Agnes Odhiambo/ HRW

またタンザニア政府は、現在全ての女生徒に義務付けている妊娠検査や、婚姻や妊娠が発覚した女生徒を強制的に退学させる政策を直ちに中止すべきである。そして同政府は、少女らを学校に通わせるるとともに、既婚や妊娠した少女が学校に残れるよう地域コミュニティーに協力を促す計画を策定すべきである。

HRWが聞き取り調査した少女たちの多くは、教育課程を修了できなかったことを後悔しており、在学中に妊娠したり結婚した少女らが学校教育を拒否されないよう政府が対策を講じてほしいと願っていた。タンザニア政府は現行の教育制度の問題点を一番よく知っている者たち、つまり少女達自身の声に耳を傾けるべきだ。(原文へ

長い目で見れば、タンザニア政府は、初等教育修了者学力試験の結果に関わらず全ての子どもたちが中学校に入学できるようあらゆる手段を講じることで、初等後教育へのアクセスを増やす措置を取るべきである。

*この記事で表明されている見解は著者個人のものであり、IPSの編集方針を反映するものではない。

翻訳=IPS Japan

関連記事:

|アフリカ|児童結婚撲滅は待ったなし

|カメルーン|娘を「守る」ために胸にアイロンをかける?

|コラム|50周年を迎えたG77とIPS(ムーラッド・アフミア77ヵ国グループ事務局長)

【国連IPS=モーラッド・アフミア】

77ヵ国グループ(G77)と国際通信社インタープレスサービス(IPS)は、先般相次いで創立50周年を迎えた。

1964年に世界の開発途上国(グローバルサウス)のための通信社として創立されたIPSは、過去50年間にわたって開発途上国とG77双方の声を伝えてきた。

G77とIPSは、開発途上国の利益を擁護し代弁するという共通のコミットメントを通じて、相互につながってきた。

従ってG77とIPSの50周年は、改めて今日の国際社会における「開発途上国」の関心を前景化し推進するための両者の連携関係をさらに進化発展させる機会となるだろう。

G77 plus China
G77 plus China

IPSは半世紀にわたって、開発途上国の代表者らが共通の開発課題について国際社会に主張を訴えていくうえで、メディア独自の方法で支援を提供してきた。

G77が、経済外交と開発途上国共通の利益を促進するうえでこれまでに果たしてきた重要な役割を見れば、現在進行中の世界の開発対話において、この連合体が依然として重要な存在意義を有していることは明らかだろう。

IPSはこうしたG77の取組みを積極的に取り上げ、その声をIPSが擁するメディア・コミュニケーションインフラを通じて国連諸機関や先進国の政策責任者に伝えることで、グローバル・ガバナンスの新たな地平を切り開くという、極めて重要な貢献をしてきた。

IPSは、G77初のニュースレターである「G77ジャーナル」の発行を長年にわたって支援し、とりわけ、G77の記念日や「途上国サミット」等のさまざまな機会において、IPSの日刊紙「テラヴィヴァ(TERRAVIVA)」の特別版を発行してきた。

2006年に南アフリカ共和国が主導してG77とIPSが始めた、「南」の通信社のグローバル・ネットワークを作る試みは、現在も作業を続けているところだ。

他方で、G77にも半世紀にわたって様々な業績を成し遂げてきた歴史がある。

1964年6月15日に設立されたG77の参加国は有名な「77か国共同声明」に署名し、参加国全体の経済面での利益を明確に示しかつ促進するとともに、国連システムにおける世界経済の主要事項全般を巡る合同交渉能力の強化を図る目的で、開発途上国による最大の政府間組織を形成した。

初のG77閣僚会議が1967年10月にアルジェリアで開催され「アルジェ憲章(Charter of Algiers)」が採択されて以来、G77は、この50年間、国際的な開発問題に関する議論を方向付け、世界の開発途上国が置かれている現状を変革していくことに貢献する組織的メカニズムと構造を構築してきた。

長年にわたってG77は、主要な南北問題や開発問題をめぐる世界的な交渉を通じて、国際関係の形成と行動においてますます大きな役割を果たすようになっている。

G77は、ニューヨークやジュネーブ(UNCTAD)、ナイロビ(UNEP)、パリ(UNESCO)、ローマ(FAO/IFAD)、ウィーン(UNIDO)、ワシントンDC(G24 at IMF, World Bank)の国連機関に創設した支部や組織を拠点に世界的な存在感をみせ、気候変動や貧困削減、移住、貿易、海洋法などの幅広い世界的課題に関する交渉に積極的に関与している。

今日G77は、国連システム内部における多国間経済外交において唯一、現在も発展し機能しているメカニズムである。G77が依然として影響力を保持している証拠に、その加盟国は増え続けている。

加盟国は1964年の創設時の77か国に始まり、2014年には134か国になっている。開発問題を取り扱っている開発途上国の政府間組織としては、世界最大のものである。

G77は、政治的独立を意味のあるものにするためには南北間の経済関係を変革する必要性が明らかになった時期に、世界の舞台において開発途上国の役割と影響力を集合的に強化するという目的をもって創設された。

つまり当時独立間もない開発途上国にとって、真の政治的独立を実現するには、国際経済秩序の変革という究極的な目標を掲げた経済外交を推進していく必要があったのである。

今日、G77は国連の枠内において、多国間経済外交を進め、開発のための国際協力を通じた国際平和と正義の実現を図るための不可欠な交渉枠組みとなっている。

これが、創設以来の開発途上国間の連帯(=南南連帯)を一貫して標榜してきたG77の推進力であり、その集合的な声は、人類の大多数の希望と念願を代表するあらゆる機関や国際組織に広がってきた。

G77は、小規模の事務局が持つ限定的な資源で、開発パートナーと協力して問題を分析し開発課題に対する異なった解決策を提案することに成功してきた。

50年にわたって、G77は数多くの国連決議や企画、行動計画の策定や形成に貢献してきた。そのほとんどが、開発の中心的な問題に対処したものである。開発問題に関するグローバルなコンセンサス形成におけるG77の役割は、世界の指導者や外交官、国会議員、学者、研究者、メディア、市民社会によって広く認知されてきた。

それは、時代の試練に耐えてきたG77の存立基盤や目的、その活動が歴史的に意義のあるものであったことの証明である。

G77の本質的な存在意義は、グローバルな経済的意思決定において開発途上国のより広範な参加を実現し、国連システムの枠組みの中で国際機関や政策に開発の側面を持ち込むことであったし、現在でもそうである。

G77には現在134の加盟国があり、世界の人口の約8割、国連加盟国のおよそ3分の2を占めている。

G77は、加盟国193の国連に次いで世界で2番目に大きい国際組織であり、新興国から最貧国や島嶼途上国に至るまでの数多くの国々が、その議長国を務めてきた(アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、およびカリブ海地域ベースで交代制となっており、任期は1年)。

2014年は、創設50周年を祝うG77にとって一里塚となる年である。この50年間にG77は加盟国を倍増させて南南協力の成果を挙げる一方、開発のための南北対話を促進するうえで開発途上国の連合として機能しつづけてきた。

このような多様な加盟国を抱えた緩やかな連合体であるにもかかわらず、G77がこの半世紀に亘る世界の政治的・経済的激動を乗り越え、なおかつ、国連の開発目標を促進するという当初の使命に今も忠実であり続けているのは注目に値する。

50th Anniversary Summit of the Group of 77 and China/ G77
50th Anniversary Summit of the Group of 77 and China/ G77

G77はこの50年間、世界の発展の達成のために専念し、大国であれ小国であれ世界の問題には同じ発言権があるという原則を堅持してきた。

今日、G77加盟国は共通の地理によって互いに結びつき、解放と自由、南南連帯に向けた闘争という共通の歴史を有している。

G77はその50年間において、世界の開発途上国を国家連合として結束させ、平和と開発に向けたグローバル・パートナーシップになろうとしてきた。

今日、G77は、豊かで平和な世界に向けた国際開発協力を促進するその取り組みによって、認知されている。

世界の問題に献身的に取り組むG77の努力と貢献は、世界中の数十億人の生活に利益をもたらし、50周年を迎えたG77の重要な貢献に対する認知は、きわめて適切なものだと言えよう。

G77とIPS、創立50周年おめでとう!(原文へ

翻訳=IPS Japan

エイズの最終章を書く

【ナイロビIPS=ミリアム・ガシガー】

この30年間でアフリカにおいて数百万人を死に追いやってきたエイズ。しかし、HIVの専門家らが、人々の健康に脅威を及ぼしてきたエイズを、向こう15年で終息させるマジックナンバーを見つけたようである。

その数字とは臨床実験結果から導いた90-90-90という公式で、具体的には、2020年までに、①HIV感染者の90%がウイルス量検査診断を受け、②そのうち90%が抗レトロウィルス療法(ART)を受け、③そのうち90%がウイルスの抑制に成功する、というものである。

国連合同エイズ計画(UNAIDS)が今年初めに発表した90-90-90計画は、2020年までにHIVの拡散を止め、2030年までにエイズ流行を終結させる*ことを目指すというものである。

これはこれまでで最も野心的なエイズ根絶計画であるが、「エリザベス・グレイサー小児エイズ財団」のルーシー・マトゥ博士は、「達成することは可能です。」と語った。

マトゥ博士はIPSの取材に対して、「ケニアでは今年4月までにHIV感染者の72%がウイルス量検査を受け、HIV陽性と判定された成人・児童合計88万人のうち76%が抗レトロウィルス療法を受けました。さらに同国では、(抗レトロウィルス療法を必要とするCD4リンパ球数の下限を350個から500個に引き上げた)世界保健機構(WHO)の2013年ガイドラインを新たに実施しており、その結果、新たに抗レトロウィルス療法を施せる患者を25万人から30万人拡大できる見込みです。つまりこれによってHIV感染者の少なくとも90%が抗レトロウィルス療法を受けられることになり、90-90-90計画の目標をほぼ達成するでしょう。」と語った。

達成可能な目標

このWHOガイドラインを適用して抗レトロウィルス療法を早期に開始することで、HIV感染者は、肺炎髄膜炎結核といった感染症に罹りにくくなる。

90-90-90計画の目標を達成する軌道上にあるのはケニアだけではない。世界で2番目に成人のHIV感染率が高いボツワナでも(1位はスワジランド)、感染者の7割以上がすでに抗レトロウィルス療法を受けている。

「すべての東部・南部アフリカ諸国がこのWHOガイドラインを採用しつつあります。つまり、ルワンダウガンダザンビアマラウィ、スワジランドでは、国家ガイドラインのとりまとめ段階にあり、一方、南アフリカ共和国といった国々では、来年にも新ガイドラインを実施に移す予定です。」とUNAIDSのエレノア・ゴーズ‐ウィリアムズ上席戦略情報アドバイザーは語った。

ゴーズ‐ウィリアムズ氏は、90-90-90計画は十分達成可能だと考えている。

診断を受けさせることが第一歩

UNAIDSによると、サハラ以南地域ではHIV感染者のうちウイルス量検査を受けた人は未だ半分程度にとどまっていることから、検査を受けさせることがまずは最重要課題となっている。

調査によればケニアとウガンダでは、複数の疾病対策キャンペーンにHIVウイルス量検査を入れ込む形で、検査率をそれぞれ86%と72%までひろげた実績がある。

他方、専門家らは、単に患者に抗レトロウィルス療法を受けさせるだけではなく、ウイルスを抑制することが肝要だと指摘している。

「ルワンダでは抗レトロウィルス療法を18カ月受けたHIV感染者の83%について、ウイルスの抑制が確認されています。」と、ゴーズ‐ウィリアムズ氏は語った。

エリザベス・グレイザー小児科エイズ財団地域部長のアグネス・マホンヤ博士は、「90-90-90計画は、ジンバブエでは必ずしも野心過ぎる計画ではありません。」「(ジンバブエでは)既にHIVに感染した全ての妊産婦並びに同じく感染した全ての5歳未満の幼児に対して、CD4リンパ球数の数に関わらず、抗レトロウィルス療法を受ける資格を認めています。」と語った。

多くの専門家が90-90-90計画の成功について楽観的な見方を示す中で、ウガンダのHIV活動家アナベル・ヌクンダ氏はIPSの取材に対して、「HIV感染者の多くは、差別を恐れて治療を受けようとはしません。」と指摘したうえで、「差別の問題を軽減する具体的な取り組みがなされなければ、いくら治療介入してもHIVの流行を根絶することはできません。」と語った。

これに対して、上記のマトゥ博士は、「診断結果を知れば、人々はより治療を受けようという気になるはずです。つまりもし抗レトロウィルス療法が受けられれば、治療を受け続ける選択をするはずです。」と反論した。

資金確保が課題

90-90-90計画を実行するために各国がどれほどの資金を拠出することになるか見積るのは時期尚早だろう。ただ確かなことは、多くの資金が必要とされるだろうということだ。既にいくつかのアフリカの国々では、エイズ課税や国家エイズ信託基金など革新的な資金調達方法を検討している。

たしかに、たとえばマラウィでは、必要な抗レトロウィルス療法を受けるのにかかる費用が1人あたり年間100ドル以下にまで下がるなど、一般の人々にも手が届く治療になってきてはいる。

ゴーズ‐ウィリアムズ氏は、抗レトロウィルス療法にかかる費用が以前と比べて大幅に手頃な価格になった点を指摘した。マラウィでは、一人のHIV感染者の一年分の治療費が100ドルを下回るところまで下がっている。

にもかかわらず、とりわけHIV治療コストがGDPの5%を上回っているマラウィ、レソト、ジンバブエ、モザンビークブルンジといった国々に対しては依然として援助国による支援が極めて重要である。

マトゥ博士は、90-90-90計画を達成するには、しっかりとした保険制度、充実した研究体制、より安価なHIVウイルス量検査実施体制、そして保健衛生に従事する職員の充実といった様々な要因の組み合わせが必要と語った。

さらにマホンヤ氏は、「さらにコミュニティーが重要な役割を果たすことになります。なぜならHIV感染者の治療継続の妨げとなる差別問題はコミュニティーで発生するからです。」と付加えた。前途には様々な困難が予想されるが、関係者の多くは、90-90-90計画が、エイズ流行の最終章に位置づけられるものになるだろうと楽観的な見方をしている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

*エイズ流行の終結の定義:

エイズの流行の終結とは、HIV感染の拡大が制御または封じ込められ、社会及び個人の生命に対するウイルスの影響が非常に小さくなり、結果として健康障害や偏見、死亡、孤児などが大きく減少する状態を意味する。また、エイズの影響が低下することにより、平均余命が長くなり、人々の多様なあり方や権利が無条件に受け入れられ、生産性が向上し、コストが下がることも意味している。

関連記事:

教育と経済面がカギを握る先住民族のHIV/AIDS患者支援

ジンバブエで10代の妊娠が増加

ジェネリック医薬品で数百万人の命を救った現代のロビン・フッド

2015年―核軍縮の成否を決める年

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連の潘基文事務総長は先月、本人が言うところの「現代科学最大の皮肉の一つ」について触れた。それは、人類が他の惑星の生命体を探査する一方で、世界の核保有国が地球上のあらゆる生命体を破壊するような兵器を保持し近代化を進めているという現実だ。

「国際社会は、そうした兵器の追求に根拠を与える軍国主義に対抗していかなくてはなりません。」と潘事務総長は警告した。

来年4月には数多くの軍縮関連行事が予定されているが、2015年は、核軍縮の成否(核廃絶に向けた成功の兆候が見出されるか、或いは、紛れもない失敗に終わるか)が決まる重要な年になるだろう。

なかでも5年毎に開催される核不拡散条約(NPT)運用検討会議がその最たるものであり、来年4月から5月に予定されている。

その時期には、ニューヨークで平和、正義、環境に関する国際市民社会会議(4月24・25日)や平和活動家らによる大規模な国際集会・国連本部までの市民デモ行進(4月26日)が予定されているほか、世界各国の首都で非暴力的な抗議活動が展開される予定である。

Photo credit: Hiroshima Peace Memorial Museum, Shigeo Hayashi - RA119-RA134
Photo credit: Hiroshima Peace Memorial Museum, Shigeo Hayashi – RA119-RA134

2015年は、米国による広島・長崎への原爆投下からちょうど70周年にあたり、過ぎ去った時代の「核の悪夢」の記憶が呼び覚まされる年でもある。

さらに2015年は、米・英・仏・中・露の5大核保有国が、NPT第6条において、核兵器廃絶に向けて誠実な交渉を行うことを約束してから45周年にもあたる。

さらに、反核活動家らは、2010年NPT運用検討会議で合意されたにもかかわらず長らく延期されてきた、「中東非核兵器地帯化に関する国際会議」が2015年に実施されることを期待している。

また来年の反核イベントを主導する国際NGOのネットワークが、核兵器廃絶を求める何百万筆もの署名を提出予定だ。

このネットワーク「2015年NPT運用検討会議行動に向けた国際連携グループ:核廃絶、気候、正義のために」には、アボリション2000、アメリカ・フレンズ奉仕委員会(AFSC)、核廃絶キャンペーン、地球アクション、平和首長会議、西部諸州法律財団、日本原水協ピースボート、核戦争防止国際医師会議、世界教会協議会など多くの団体が参加している。

2015年NPT運用検討会議で核廃絶に向けた協議の開始に合意できないとすれば、「条約の存在意義そのものが危殆に瀕し、核拡散を加速して破滅的な核戦争の可能性が高まることになりかねない。」と同ネットワークは警告している。

Joseph Gerson
Joseph Gerson

世界の核保有国の頑なな態度に直面する中で(核軍縮に向けた交渉に)前進がもたらされるか、という問いに対して、同ネットワークのジョセフ・ガーソン共同呼びかけ人は、「だからといって私たちはどうすればよいというのでしょう? 結論を先送りにして、狂った現実主義者たちが私たちを地獄に導くのを許すしかないということでしょうか?私はそうは思いません。」と語った

「確かに2015年NPT運用検討会議の見通しは明るいとは言えません。」「しかし、数ある中でもとりわけ、昨年の『核軍縮に関するハイレベル会合』での議論や、『核兵器の人道的影響に関する国際会議』での各国政府代表の反応を見れば、私たち市民社会の運動が核廃絶に向けて孤立して闘っているのではないことが分かり、今後の展開に大いに希望を持っています。」と、AFSC北東地域支部平和・経済安全保障プログラムの責任者でもあるガーソン氏は語った。

同国際ネットワークは、2010年NPT運用検討会議では「核軍縮につながるような核戦力の完全廃棄を達成するために核保有国が行った明確な約束」が再確認されている、と指摘している。

それから5年が経過し、次の運用検討会議が開催される時期が巡ってきている。にもかかわらず、依然として「文明を破壊してしまうような」規模の核備蓄が存在しており、核軍縮に関する限定的な進展にすらブレーキがかけられている。

同ネットワークによると、1万6000発以上の核兵器が依然として存在し、うち1万発が軍事使用可能な状態にあり、1800発が高度警戒態勢下にあるという。また同ネットワークは、「すべての核保有国が自国の核戦力の近代化を進めており、今後数十年に亘ってその方針を維持する意図を明らかにしている。」と指摘している。

同ネットワークはまた、核保有国は核兵器や関連の事業に毎年1000億ドル以上も費やしていると指摘している。さらにこれらの費用は、核保有国が核弾頭や運搬手段を近代化するにつれ、将来的に増加していくと見込まれている。

ICAN
ICAN

ハイテク兵器への支出は、一部の政府の核戦力への依存を深めるばかりではなく、貧富の差をさらに拡大してもいる。

2013年、1兆7500億ドルが軍事・兵器のために使われた。これは世界の人口の下位3分の1の収入総額よりも大きい。

西部諸州法律財団に所属し上記の国際ネットワークの共同呼びかけ人でもあるジャッキー・カバッソ氏は、核保有国は「核兵器を禁止し自国の核戦力を完全廃棄するための交渉を開始するという法的・道徳的義務を尊重することを拒絶しています。」と指摘した上で、「『核軍縮に関する国連ハイレベル会合』や、オスロやナヤリットでの『核兵器の非人道的影響に関する国際会議』(非人道性会議)でも見られたように、世界の諸政府の圧倒的多数はNPTの履行を求めています。」「私たちは米国その他の国々におけるパートナー組織と協力して、2015年NPT運用検討会議に圧力をかけるべく国際的行動を起こしていきたい。」と語った。

Jackie Cabasso
Jackie Cabasso

カバッソ氏は、2015年の行動は、核戦争の準備や核戦争や核燃サイクルが環境に与える影響と、基本的な人間のニーズを犠牲にして拠出されている軍事支出の間の密接に絡んだ関係について明らかにするものになるだろう、と語った。

ガーソン氏はIPSの取材に対して、「私は生涯の中で、様々な困難に直面しながらも、ジム・クロウ法(黒人差別法)の廃止やベトナム戦争の終結、南アフリカ共和国のアパルトヘイトの終結を目撃し、多少なりともこれらの実現に貢献するという恩恵に浴してきました。こうした制度や政治力学は、歴史の1頁となる以前は、とても乗り越えられないと考えられていたことばかりです。」と語った。

「戦争を終わらせるために私たちが力を尽くしていたにもかかわらず、1971年と1972年のクリスマス爆撃ではベトナムで多くの命が犠牲となり、世界が真っ暗に見えていた当時の気持が、今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。」

こうした事件のそれぞれにおいて、「予想もつかない展開や強力な人間の意志が、私たちが犠牲を払い闘ってきた変化をもたらしたのです。」と国際平和ビューローの理事で、「北大西洋条約機構(NATO)にノー、戦争にノー」ネットワークの運営委員でもあるガーソン氏は語った。

またガーソン氏は、「すべての核保有国が核戦力を近代化しているという現実も、こうした暗いシナリオに含まれます。」と語った。

それに加えて、NPT第6条の誓約を順守するよう求める世界の大多数の国々による要求に核兵器5大国が強調して抵抗しているほか、NATOおよび欧州連合(EU)の東への拡大がロシアのウラジミール・プーチン大統領による一連の対抗策を招く事態となり、双方が核使用の威嚇をほのめかす新たな対立の時代が生まれている。

ガーソン氏はまた、「東アジアのダイナミズムは、第一次世界大戦前夜の欧州の状況を彷彿とさせる。」と指摘するとともに「これらすべてに、壊滅的な戦争と破滅の威嚇が伴っています。」と語った。

さらにガーソン氏は、「私は『意図しない帰結の法則』の意味(自らの行動の帰結がどのようなものになるのか本当のところはわからないということ)を理解しています。とはいえ、私たちの行動が道徳的なバックボーンを鍛え、私たちの連携相手になりうる多くの外交官や政府関係者に力を与えるであろうと確信しています。」「そして願わくば、私たちの行動が、(反核)運動の指導者や活動家らが、核兵器廃絶の必要性に対する民衆の理解を改めて得るために、主流メディアやソーシャル・メディアを通じてともに考え計画する場と機会を提供するものになってほしいと考えています。」と語った。

またガーソン氏は、核兵器廃絶運動が、気候変動や経済、社会正義運動との連携を強めるなど、長期的に拡大することが望ましいと考えている。

「核戦争の危険に向って私たちは時間との闘いを繰り広げているが、学生や若者らとの活動を通じて、次の世代の反核活動家が生まれるよう努力していきたい。」とガ―ソン氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:

核兵器ゼロを待ちわびて

依然不透明な中東非核地帯化への道

国連記者クラブで核軍縮の主唱者に「IPS国際貢献賞」授与式を開催

Filmed by Katsuhiro Asagiri, President of IPS Japan
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

IPSは国連記者クラブ(国連本部内)で「創価学会インタナショナル(SGI)」が後援した「核軍縮国際貢献賞」公式セレモニー(授与式・レセプション)を開催した。受賞者の、ジャヤンタ・ダナパラ氏は2003年まで国連事務次長(軍縮担当)を務めた。職を辞してからも核兵器のない世界という目標に向けて取り組みを続け、2007年以降は、ノーベル賞を受賞した「科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議」の会長も務めている。

授与式には、サム・カハンバ・クテサ第69回国連総会議長包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会ラッシーナ・ゼルボ事務局長をはじめ各国の国連大使やジャーナリスト、市民社会の代表など約100名が参加した。クテサ議長は、「ダナパラ氏が会長を務める『科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議』、今夜の授与式の主催団体であるIPS、そしてこの賞のスポンサーであるSGIは、核兵器の危険性に対する世界の人々の意識を高め、その完全廃絶を主唱することに貢献しています。」と語った。

IPS International Achievement Ceremony Credit: Katsuhiro Asagiri/IPS Japan
IPS International Achievement Ceremony Credit: Katsuhiro Asagiri/IPS Japan

INPS Japan

関連記事:|国際貢献賞|IPSが核廃絶の主唱者を表彰

毎年数百万人もの人々が飢える一方で、数億トンの食品が捨てられている。

【ナポリIPS=A.D. マッケンジー.】

米国の風刺家で歌手のウィアード・アル・ヤンコビック氏が制作したマイケルジャクソンのヒット曲「ビート・イット」のパロディー版「イート・イット」の中に、好き嫌いが激しい息子に両親が「日本の子どもたちは飢えているのよ」* と言って皿の上のものを残さず食べるよう言い聞かせるくだりがある。

このパロディー曲は、30年前にリリースされた当時、聴衆の笑いを誘ったが、大量の食糧廃棄問題が世界中で緊急の懸案事項となり、もはや笑い事ではなくなって今日では、「イート・イット(残さず食べなさい)」というタイトルは、むしろこの問題に取組んでいる活動家らのスローガンに相応しいかもしれない。

We need a transformative change in our food and agricultural policies to have sustainability” – Ren Wang, FAO’s Agriculture and Consumer Protection Department. Credit: A.D. McKenzie/IPS
We need a transformative change in our food and agricultural policies to have sustainability” – Ren Wang, FAO’s Agriculture and Consumer Protection Department. Credit: A.D. McKenzie/IPS

国際連合食料農業機関(FAO)は、毎年世界で13億トンの食糧が廃棄されていると推定している。その一方で、「世界では依然として8億500万の人々が慢性的な栄養失調や飢餓を経験しています。」とFAO農業消費者保護局のレン・ウォン副局長は、「第11回自然保護に関する国際メディアフォーラム」で行った演説の中で語った。

「持続可能性を維持するには従来の食料・農業政策を抜本的に変革する必要があります。」とウォン副局長は語った。

「地球を養う:食料、農業と環境」と題して10月8日から11日にかけてナポリ市主催で開催された「第11回自然保護に関する国際メディアフォーラム」には、専門家、ジャーナリスト、政策立案者が参加した。

今回のメディアフォーラムは、国際家族農業年が終わりに近づき、食料価格の高騰が引き続き社会的弱者の生活を直撃する中で開催された。

ウォン副局長は、「世界の食料生産量は1946年と比較して3倍に増加し、過去20年に亘って栄養不良に苦しむ人口は全人口の18.7%から11.3%にまで減少させたにもかかわらず、食料安全保障は引き続き極めで重要な課題です。」と語った。

破棄されている食料は現在世界で生産されている量の3分の1に相当する。このため現在の農業生産高を引き上げることが必ずしも解決策とはならない。事実、科学者らによると、現在でも地球上の全て人類が一人当たり毎日2800カロリーを摂取できるだけの食料を生産できているという。しかし現実には、食料を破棄できる人々がいる一方で、十分な食料を得られない人々がいるのである。

「たとえ、食料の廃棄問題と飢餓問題が直接的に関連していなかったとしても、世界の食品系には議論の余地のない不平等が存在します。」と持続可能な政策に関する研究とアウトリーチ活動を行っているワールドウォッチ研究所のゲーリー・ガードナー研究部長は語った。

Gary Gardner, a senior fellow with the Worldwatch Institute
Gary Gardner, a senior fellow with the Worldwatch Institute

「豊かな国々では、食料廃棄はしばしば小売店か消費者のレベルで発生しています。すなわちスーパーやコンビニあるいは消費者の自宅で多くの食料が廃棄されているのです。」とガードナー氏はIPSの取材に対して語った。

「それとは対照的に、発展途上国では、食料廃棄は主に農場か加工施設のレベルで発生しています。それは通常、農産物を農地から加工施設、さらには消費者まで効率的に届ける流通体制が整っていないため、途中で腐り廃棄せざるを得なくなるからです。」とガードナー氏は語った。

セーブ・フード・イニシアチブ(FAO、国連環境計画及びドイツの民間企業メッセ・デュッセルドルフ社の協力による世界的な食糧損失削減を呼びかけるプロジェクト)によると、廃棄・損失される食料の価値は先進工業国で約6800億ドル、開発途上国で3100億ドルにのぼるという。

さらに同イニシアチブは、「富裕国の消費者が廃棄している食料の量(2億2200万トン)は、サブサハラアフリカ全体の食料純生産量(2億3000万トン)にほぼ相当しており、現在の廃棄・損失量を4分の1削減できれば、その分で8億7000万人の空腹を十分満たすことができるだろう。」と報告している。

欧州では、スーパーマーケットから廃棄される膨大な量の食糧が、時折国民の激しい怒りを掻き立てている。とりわけ、廃棄対象とされる規格外・売れ残り商品を食べることが法律で禁止されている国においてこの傾向が強い。

報道によると、米国のスーパーマーケットチェーン「テスコ」は2013年の上半期だけで28,500トンの食品を廃棄処分したことを認めた。英国全体では、年間の食品廃棄量は約1500万トンと見積もられている(ちなみに日本では2008年時点で年間1900万トンが廃棄され、その半分以上が一般家庭で廃棄されていた:IPSJ)。

米国では、関連政府機関の推定によると、生産された食料の約40%が埋め立て処分地に破棄されており、その大半をスーパーマーケットからの廃棄食料が占めている。

しかし、米国と欧州では、ゴミ収集器から食品をとる行為は違法とされ起訴される可能性がある。このことは、廃棄された食品を料理して提供する形態のキャンペーンを組織している一部の活動家にとっては活動上のリスクとなっている。

ナポリで開催された今回の国際メディアフォーラムでは、多くの専門家が、食料廃棄がもたらす社会及び環境への影響等について協議したが、中でもワールドウォッチ研究所のガードナー研究部長は、ゴミ収集器からの食品のみで食いつなぎながら全米を自転車で横断したロブ・グリーンフィールドという活動家の体験談を紹介した。

Greenfield Adventures.org
Greenfield Adventures.org

「多くの場合、グリーンフィールド氏がゴミ収集器の中で見つけた食料はパッケージに入っていて、一度も開けられていないシリアルの箱やソーダの缶といったものでした。何らかの理由で破棄されたものですが、彼から見れば十分にまともな食品だったそうです。」とガードナー氏はIPSの取材に対して語った。

「もちろん、これが食料廃棄の無駄をなくす最善の方法ではありません。これより良い方法は、そもそも食料を廃棄するようなことをしないことです。」とガードナー氏は付け加えた。

いくつかの解決策

英国のテスコといくつかのスーパーマーケットチェーンは、食料廃棄量を削減するプログラムへの参加を同意した。また欧州数カ国のレストランも食料廃棄量を削減するのみならず、廃棄食料をバイオガスに転換してエネルギーとして利用するための措置を講じている。

ガードナー氏は、「スーパーマーケットは、もちろん食料を廃棄しなくてもすむようにすることが一番ですが、売れ残りを廃棄するのではなく、その分をスープキッチン等の地元の慈善団体に寄付することにも目を向けるべきだと思います。」と語った。

また一部の参加者から、食料の廃棄を防ぐことが最良の策という前提を踏まえたうえで、各家庭が廃棄食料を処理してバイオガスをエネルギー源として活用するようになれば、環境問題に対する一つの貢献になるだろうという意見も出された。

International media forum on the protection of nature
International media forum on the protection of nature

「食料の安全保障と気候変動には、特定の共通の課題があります。」と社会奉仕機関の連盟「国際カリタス」国際アドバカシー担当(食料の安全保障と気候変動)のアドリアナ・オプロモロ氏は語った。

「たしかに地域レベルでは、廃棄食料や家庭ごみを活用した成功例を見てきました。しかし、各々の事情に合わせた解決策を模索してくことが重要です。」とアプロモロ氏はIPSの取材に対して語った。

廃棄食料を削減する方法は、簡単に始めることができる。米国ではいくつかのフードサービス会社が学校の食堂がトレーを廃止してお皿のみを学生に渡し、本当に食べきれるだけ食べ物を盛り付けるよう推奨する実験を行ったところ、廃棄ゴミの量が25%削減されるという結果がでた。

おそらく、学校は昼食時間に放送する「イート・イット」の新バージョンをレコーディングすべきではないだろうか。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

よりよい世界を築く、ブロック一つずつ積み上げて

2015年以後の開発問題―飢餓に苦しむ者の声に耳は傾けられるだろうか?

飢餓との闘いより重視される軍事予算

編集後記:一段落目の 「日本の子どもたちは飢えているのよ」* という記述に違和感を感じた読者もいると思うので捕捉すると、これはヤンコビック氏が子どもの頃に母親から聞かされていた決まり文句。つまり彼の母の子ども時代は第二次世界大戦直後で豊かなアメリカとは対照的に敗戦国日本の子どもたちは飢えていたというイメージが一般的だった。もちろん「イート・イット」がリリースされた1984年は日本がバブル経済に突入する直前で、日本の実態は歌詞が指した「貧しい日本」とはかけ離れていた。

国連エコドライブカンファレンスを取材

INPSは、10月17日に国連本部で開催された「国連エコドライブカンファレンス」(主催:国連WAFUNIF、株式会社アスア、ルーマニア国連代表部。協力:日本自動車工業会、米国自動車工業会。特別協力:環境省)を取材した。INPS Japanからは浅霧勝浩マルチメディアディレクターが日本代表団に同行し、ニューヨークで合流したバレンティーナ・ガスバッリ記者と共に取材に従事した。

関連記事:

|エコドライブ|国連の課題の中心に立つ持続可能な解決策

「第1回低炭素地球サミット」(中国大連市)を取材

ベルリン・ブランデンブルグ交通・物流協会を取材

グローバルパスペクティブ誌(2014年4thQuarterlyに掲載)

|アフガニスタン|ボールペン1本で生きるカブールの代書屋

【カブールIPS=カルロス・ズルトゥザ】

モハマド・アリフさんは、70才になる今もカブールの街頭で生計を立てている。人口3050万人のアフガニスタンで未だに過半数を占める読み書きができない人々に代わって、様々な書類を用意する代書屋の仕事だ。

「私はアフガン空軍の大佐でしたが、年金だけではとても生活をしていけず、働き続けるしかありませんでした。そこで10年前からこの仕事をしています。」とアリフさんは語った。

大学に通う息子が2人いるアリフさんは、イスラム教徒の祝日である金曜日以外は、毎日朝から晩まで、カブール市内の州政府庁舎前に座って仕事をしている。アリフさんのような代書屋の職場は、庁舎を防護するコンクリート壁から道路を隔てたところに、傘を立て机と椅子を置いただけの簡素なもので、道路に沿ってずらりと一列に並んでいる。

「顧客からの依頼内容は、親戚への手紙の代筆から、時には刑務所にいる親族や知人宛のものまで様々です。しかし依頼の大半は、行政に提出する様々な書類の代筆です。」とここでは最もベテランのアリフさんは、この日の最後の仕事(相続申請に関する書類の代筆で代金約80セント)を終えたところで記者の取材に応じて語ってくれた。

Roughly 82 percent of Afghan girls drop out of school before the sixth grade, partly due to early child marriages. Credit: Najibullah Musafer/Killid
Roughly 82 percent of Afghan girls drop out of school before the sixth grade, partly due to early child marriages. Credit: Najibullah Musafer/Killid

アフガニスタンの識字の現状は、教育省の統計資料「国家識字行動計画」によると、国民の非識字率は66%、女性に限定すれば82%にのぼっている

カリム・ギュルさんも、読み書きができないため、行政手続きが必要なときには、止む無く代書屋の助けを求めている顧客の一人だ。今回ギュルさんが抱えていた問題は、車を売却したものの代金が未払いのままにされたため行政に訴えるというものだった。

「私は子どものときに両親に連れられて東北部のバダフシャーン州からカブールに移ってきましたが、両親は『地元の子どもたちにバカにされるだけだ』と言って、学校には行かせてくれませんでした。」とギュルさんは当時を回想して語った。タジク人のギュルさんはまだ32歳にも関わらず、読み書きを覚えるには「すでに年を取りすぎている」と思い込んでいる。

ギュルさんのような顧客は、通常2~3分も待てば自分の順番が回ってくる。ここでは15人の代書屋が店を構えているが、皆その道の専門家だ。中でもグラム・ヘイダー(65)さんはかつて州庁舎に数十年勤務していたベテランだ。

‘Copyists’ (transcribers) in Afghanistan can earn up to one dollar for each letter or document they prepare for their illiterate customers. Credit: Karlos Zurutuza/IPS
‘Copyists’ (transcribers) in Afghanistan can earn up to one dollar for each letter or document they prepare for their illiterate customers. Credit: Karlos Zurutuza/IPS

「私は8年前に定年を迎えたのですが、生活のために働き続けるしかありませんでした。この年では肉体労働はきついので、公務員時代の技術を生かせるこの仕事は自分にとっては『天職』です。」とカブール出身のヘイダーさんは語った。

「ここでの代書屋の収入は、依頼内容にもよりますが、だいたい1回あたりの報酬は20~100アフガニ(0.3~1.7ドル)です。従って月収には波があります。しかしそれでも、読み書きができない同胞の手助けをして得られる収入は、公務員の平均的な月収203ドルよりは「遥かに良いもの」です。」とヘイダーさんは語った。

すると隣に座っていたシャハブ・シャム(46歳)さんが頷いて、次のように語った。

「私はこの13年間、この代筆業でなんとか生活を維持し、子どもたちを学校に通わせています。アフガニスタンでは全ての人が働けるほど十分な仕事はありません。それに加えて、深刻な汚職の問題があります。つまり、パスポートをはじめとする公的な証明書の申請から、子どもの学校入学、病院やあらゆる政府機関での申請手続きまで、常に賄賂が要求されるのです。」とカブール大学工学部で学位を取得しているシャムさんは語った。

ゼロから取り組んだ非識字問題

Map of Afghanistan
Map of Afghanistan

アフガン監視・汚職対策高等事務所(HOOAC)と国連薬物犯罪事務所(UNODC)の共同調査によると、2012年、アフガン国民の半数が行政への各種申請等に際して賄賂を払ったという。また同調査報告書には、「ほとんどのアフガン国民が、国が直面している最大の難題として、貧困、外的な影響、政府の政策遂行能力といった問題よりも、汚職と不安定さの問題を挙げていた。」と記されている。

しかも興味深いことに、このところ国民の賄賂に対する容認度が、上昇傾向にある。2012年の調査では、68%の回答者が、行政の利用に際して公務員に少額の賄賂を支払うことは容認できると答えている(2009年調査では42%)。

また同様に、回答者の67%が、政府などへの人事採用に際して親族や知人などの「コネ」を使うことは「たまには認められる。」としている(2009年調査では42%)。

レイラ・モハマドさんは、公務員になる機会など想像もできない境遇を生きてきた人物だ。今日のアフガニスタンでは女性の行政職員に出くわすことは、もはや不思議なことではなくなったが、多くのアフガン女性にとって、非識字の問題は依然として乗り越え難い障壁となっている。ブルカを身に纏ったモハマドさんは、日中に3人の子ども(年長の子どもが10歳)を連れて外出した際に暴行をうけた件について、犯人を告発したいと、代筆者に要件を説明した。

アブドゥルラーマン・シェルザイさんは、モハマドさんの訴訟手続き書類への記入を終えると、「連日、こうした訴えを数件耳にします。」と記者の取材に応じて語った。さらにモハマドさんから書類作成料を受け取ると、「問題だらけの大統領選挙プロセスにあまりにも多くの時間が浪費され、国内の多くの企業やビジネスが政府の補助金に依存してきた結果、経済も行き詰ってしまっています。ついには絶望した輩の中には、社会で最も弱い立場にある人々を襲う者もでてきているのです。」と語った。

13年間に亘ったハーミド・カルザイ大統領の任期満了を受けて実施された大統領選挙では、4月5日の第一回投票に続いて6月にはアシュラフ・ガニ元財務相アブドラ・アブドラ元外相の間で、決選投票が実施されたが、大規模な不正疑惑が浮上し、800万票に及ぶ全ての票を再集計する事態となった。

Najibullah Musafer/Killid
Najibullah Musafer/Killid

しかし9月21日には両候補が挙国一致政府の樹立に合意したため、ガニ氏の新大統領就任と、アブドラ氏の(首相職に相当する新設ポストの)行政長官就任が決定した。しかし一方で、独立選挙管理委員会による票の再集計・調査結果が公表されることはなかった。

グラーム・ファルーク・ワルダック教育大臣は、大統領選の経緯について、「アフガニスタンの非識字の問題がなかったら、こうした混乱は起こらなかっただろう。」と指摘したうえで、「しかし一方で留意しておいていただきたいのは、アフガン政府は非識字も問題にゼロから取り組んできたという事実です。僅か12年前、この国の非識字率は実に95%にのぼっていたのですから。」と語った。

またワルダック教育相は、「統計結果を見て将来に楽観的な希望がもてるようになりました。つまり12年前に学校に通っていた子どもはわずか100万人だったのが、現在では1300万人近くに、教員の数も12年前の2万人から20万人に拡大しているのです。2015年には完全就学が達成されるでしょうし、2020年にはアフガニスタンでの完全識字が現実のものとなると見ています。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事

|アフガニスタン|「国の安定を最優先に議論すべき」とUAE紙

世界各地で攻撃にさらされる教育現場

|パキスタン|「天国」に拾われるのは貧しい若者だけ

世界市民育成を阻害する子ども向けメディアの商業化

【クアラルンプールIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

専門家らによると、子ども向けメディア、とりわけテレビ番組の行き過ぎた商業化が、世界の多様性に対する子どもたちの意識を高め世界市民を育成するための教育と能力構築を目的とした取り組みを阻害しているという。

最近クアラルンプールで開催された「世界子どものためのメディアサミット」の発言者の多くが、子ども向け番組の大多数が商業的な観点から制作されており、教育的なものではないという、「オーストラリア児童テレビ財団」のパトリシア・エドガー元会長の意見に賛同した。

エドガー氏は、9月8日から10日まで開催されたサミットの参加者に向かって「これらの想像性に乏しく低コストで作られたテレビ番組は、商品を売込むことを目的に制作された娯楽にほかなりません。」と指摘したうえで、「効果的な教育番組とは、良い価値観や建設的なメッセージを伝えるものであり、もっとも重要なことは、子どもの社会的・情緒的な発達を促す地元の要素を含んでいることです。」と語った。

エドガー博士は、「子どもを過剰に保護し『空想的な世界』に住まわせるのではなく、子どもが『現実の世界』を理解し、問題に適切に対処する方法を教えることが重要です。」と語った。

マレーシアのナジブ・ラザク首相夫人であるロスマー・マンソール氏は、子ども向けの番組は、多民族・多宗教社会で生きていくための「信条や態度、行動を形成するような価値のある教訓を教える」内容でなければなりません、と語った。

子ども向けのメディアは、営利目的の商品ではなく教育ツールと見なされるべきというのがマンソール氏の考え方だ。教育者は、子どもたちの反省的で批判的な思考を養い、好奇心を引き起こすための教育ツールとしてメディアを使う技術を習得する必要がある。一方、政府の規制当局や政策立案者は、規制を緩和するよりも、教育・情報番組の質と量を向上させる効果的なツールとして法整備やインセンティブを駆使しながら、メディアコンテンツの充実に取り組んでいく必要がある。

「子どもは、ステレオタイプ化ヘイトスピーチいじめを通じて紛争を生み出している負の側面だけではなく、人間の取組みの最良の部分も見る必要があります。よい番組制作を進めていくことで、子どもたちがメディアの内容に対して自身の心に不快な情緒反応が生じた際の対処能力や、テレビやCMの暴力表現に関して批判的な判断をする能力を育てていくことができるのです。」とマンソール氏は語った。

国連は世界市民育成のための3つの重要な政策領域を指定しており、これらすべてが子どもの教育的・知的発達と関係している。すなわち、①全ての子どもを学校に通わせること、②学習の質を高めること、そして③教育を、「共有の価値」に命を吹き込む変革的なプロセスにすること、である。

今日の子ども向けメディアに対しては、特にテレビ番組について、そうした「共有された価値」こそが、欠けているという批判がある。ただし、子ども向けに作り出す「空想的な世界」の副産物である商品を番組制作者が売るために趣向を凝らすということが「共有された価値」と考える場合は別だが。

「もし良き世界市民であるための素養が、グローバルな正義への情熱と他者への思いやりを意味するのであるならば、幼いころから子どもたちに正しい価値観を教え込むような童話を、漫画や短編映像の形で開発していかなければなりません。」と非政府組織「公正な世界を目指す国際運動」のチャンドラ・ムザファ代表は語った。

ムザファ氏は、世界市民は普遍的な価値観に立脚しなければならないと考えている。ムザファ氏は、「全ての西洋の価値観が必ずしも普遍的という訳ではありません。また同じように、全ての非西洋の価値観が偏狭という訳でもないのです。」「それどころか、私たち自身の宗教や倫理の伝統の中にも普遍的なものが多く含まれています。私たちはこうした普遍的な要素を、地元の言語や芸術形態を通じて再認識し、つなぎ合わせていかなくてはなりません。このプロセスを通して、私たちは地元の文化的アイデンティティを強化していくことになるのです。」と指摘した。

地元の文化的アイデンティティを強化する

地元の文化的アイデンティティを強化するということが、必ずしも国粋主義的になるとか内向きになるということを意味しない。「実際はそれとは全く逆です」と語るのは、アルゼンチンの「IDIEMメディア研究所」のプロジェクト企画者であるアルダナ・ドゥハルデ氏だ。彼女のテレビ制作チームは、国境を越えた共通のアイデンティティに焦点をあてた番組企画を手掛けてきた。これは彼女が「社会的な種類のアイデンティティ」と呼ぶもので、地元の自然や風景に自分を重ね合わせたり、経済成長をとげて後進地域と見られたくないという願望を抱いたり、問題を自分達独自のやり方で解決するといった地元の人々の営みに焦点を当てている。

「物質的なものはそんなに重要ではありません。」「互いの言うことに耳を傾け、自分の感情を隠すことなくオープンな空間で多様なものの見方を扱うような議論を活発に展開する…つまり、真摯な気持ちを表現することが、とても重要なことなのです。」とドゥハルデ氏はIDNの取材に対して語った。

ドゥハルデ氏は、新しいメディア技術とソーシャル・メディアの広がりが、よりよい理解を促進し、若者が平和的な世界市民になるよう教育するような子ども向け番組を制作する多くの機会を与えることになるだろうと考えている。「私たちのプロジェクトは非商業的で非営利なものです。」「番組制作にそれほど費用はかかりませんが、もし子どもたちを信じれば、子どもたちはお互いを信じ、(私たちと一緒に)番組を制作してくれることでしょう。」とドゥハルデ氏は語った。

映画制作者フリードリク・ホルムベルク氏(スウェーデン)はIDNの取材に対して、公共放送の価値を再興させる世界的なキャンペーンを立ち上げる必要があると語った。「異なる声があり、もっと多様性が必要です。メディアは外に目を向けるだけではなくて、内面を見つめなくてはなりません。私たちはグローバルな視野を持つと同時に、地域の特性も考慮して行動できる人間でなくてはならないのです。」と語った。

ホルムベルク氏は、子ども向けメディアは公共投資だと見なされねばならないと考えている。「私たちは、子どもたちを消費者だと考えてはいけません。子ども向けの番組制作には多額の費用が掛かりますが、(国庫から)資金を出す必要があります。」

これは、クアラルンプールのサミットで世界各国からの発言者がしばしば支持した議論である。しかし、公的資金とりわけ、めったに使用されることがない武器を購入するために割り当てられている巨大な予算に政府が比重を置いていることにあえて疑問を呈そうとする人はいないようだった。

IDNはこの疑問を、「公的メディア同盟」(旧コモンウェルス放送協会)のモネーザ・ハスミ代表(パキスタン)に投げかけてみた。するとハスミ代表は、防衛予算の1%を子ども向けの公的放送に振り向けるだけでも、おそらく大きな違いを生み出すだろうと認めた。

ハスミ氏は、「より高度なバランス感覚と教養を身に着け、平和への意識が高い世代を作り出していくためにも、市民のための公共放送を推進することについて語っていかなければなりません。」そして「新しい世代は、より寛容になり、世界には(貧しいがために)自分達より恵まれていない人々がいるという事実を認識するようにならなければなりません。」と語った。

ハスミ氏はまた、パキスタンに住んでいることから、なぜ良き世界市民を作り出す必要があるのかについては、直接見聞きした経験を通して理解できるという。「現在は、生きること自体が非常に困難な時代であり、自分たちが育ってきた世界とは別の世界です。ふとこのことを思うと、怒りがこみあげてきます。」というハスミ氏は、「ありとあらゆるものが商業化されたことによって、私たちの価値観は破壊されてきました。」と語った。

「世の中は商業的な経済、つまり、ひたすら金儲けをし続けること自体を目的とするような経済になってしまいました。ここにはもはや、なされるべきことをするなどというものはありません。私たちは、政府がより多くの武器を作りより多くの人々を殺すのを許容してきました。(しかし)世界には正気でバランス感覚のある人たちがいます。彼らは、(教養があり寛容な)世界市民を育んで行けるような子ども向け番組を制作できるよう、前に進み出て公的メディアに出資しなければなりません。」とハスミ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:

世界市民教育を通じた人権の推進