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混乱の中、中東非核地帯化会議が延期へ

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

フィンランドで12月に開催が予定されていた、中東非核兵器地帯化に関する長く待ち望まれている国際会議の延期が決まり、はたしてスタートが切れるのかどうか危ぶむ声が出ている。

大量破壊兵器(WMD)に強く反対してきた国連の潘基文事務総長は、来年のいずれかの時点で会議は開催できると楽観的な見通しを示した。

「平等の精神で、長期的な地域の安定・平和・安全を推進する会議の重要性を強調するために、中東諸国家のハイレベルとの接触を個人的に続けていいます。」と潘事務総長は語った。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

 しかし、アクロニム軍縮外交研究所のレベッカ・ジョンソン所長は、軍事主義が依然として市民の命を奪い続けていることは中東の人びとにとって驚きだろうと語った。

「もし最近の悲劇的な動向が原因で中東非大量破壊兵器地帯化に関する重要な会議が延期されたとするのならば、2013年の早々にも会議を招集することが重要です。」とジョンソン氏は語った。

またジョンソン氏は、延期されたことで会議自体をご破算にしてしまう必要はない―中東から核兵器などのWMDを廃絶する決意を持った建設的なプロセスを開始することが、会議の遅れによってより重要な課題になったと考えている。

「もし会合が2013年早々に効果的なプロセスを開始することができないならば、中東だけではなく核不拡散条約(NPT)の信頼性にも関わる重大な帰結が生まれるでしょう。なぜなら、重要な合意についてNPTが実行できないことを再び示してしまうことになるからです。」とジョンソン氏は警告した。

会議開催の提案は、2010年5月に国連で開かれたNPT運用検討会議において189の加盟国によって承認された。

イスラエル政府は、NPT運用検討会議の成果文書を批判する一方で、提案された会議への参加については未定としていた。

しかし、その後アラブ世界を席巻した政治的蜂起によって、イスラエルに対して融和的だったエジプトのホスニ・ムバラク大統領が追放されるなど、周囲がより敵対的な環境に変化していく中、イスラエルは自らの安全保障など、様々な懸念を表明するようになった。
 
潘事務総長は、11月26日の声明で、「ロシア、英国、米国とともに、そして、中東諸国との協議の下に、中東のすべての国々が出席した会議を招集することへの固い決意とコミットメント」を改めて表明した。

潘事務総長は、会議の焦点は、地域の諸国家が自由に結ぶ取決めを基礎として、中東に核兵器とその他の大量破壊兵器を禁止する地帯を創設することになるだろう、と語った。

イスラエルとパレスチナ双方の専門家によって制作されている季刊誌『パレスチナ・イスラエル・ジャーナル』のヒレル・シェンカー編集長は、ヘルシンキ会議が2012年に招集されなかったのは残念ではあるが、潘事務総長と共同招集国である米国・英国・ロシアが依然として会議開催への意思を持っていることが救いだ、と語った。

現在の状況を考えれば、2012年12月に会議を開催できないのは理解できる、とシェンカー氏は考えている。

しかし、会議のフィンランド人コーディネーターが「2013年のできるだけ早い段階で会議を招集することができるよう最短の時間で多国間交渉をおこなう」ことができるよう望むとした最近の潘事務総長の声明は、この意義のあるプロセスは今後も進むことを示している。

シェンカー氏は、「会議が成功するには、イランとイスラエルがテーブルに着くことが重要」と指摘したうえで、「ファシリテーターが、米国の支援を得て、このプロセスにかかわり続けることの重要性をイスラエルに対して納得させることができればいいのだが。」と語った。

またシェンカー氏は、依然として、ヘルシンキ会議は中東の非核・非WMD地帯化を含めた地域の安全保障体制の創設と、イスラエル・パレスチナおよびイスラエル・アラブの包括的平和という並行的な課題に向けて前進するための歴史的な機会となるだろう、と語った。

他方、これまではイスラエルに対して擁護的だった米国は、会議前の準備段階において、一つの条件を設定している。

2010年7月、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が米国のバラク・オバマ大統領と会談した際、中東会議においてイスラエルだけを名指しして批判することはないとの確証を得たのである。

ホワイトハウスの声明でも、「すべての国家が安心感を持って参加できるときにのみ」会議は開催されるであろうこと、「イスラエルを名指しすることで会議開催の見通しが暗くなる」であろうことを述べている。
 
グローバル・セキュリティ研究所のジョナサン・グラノフ所長は、国連で11月26日に開かれたシンポジウム「信頼、対話、統合」において、核兵器は「安全保障アパルトヘイト」の一形態だと述べた。

アパルトヘイトのように、双方が傷つけられることになる。そして、脅威を受けた方は当然にも破壊の恐怖を味わうことになり、脅威を与えている方は自らの道徳的基盤を侵食するか、自らの行為に対して否定的になる、という。
 
グラノフ氏は、「こうした恐怖の装置に頼り続けることは、現代社会にもっとも深刻で社会を分断するような皮肉を与えることになります。」と述べ、さらに、「安全保障追求のための手段が安全の破壊に寄与し、このシステムに内在的な不平等が人間の統一を引き裂くことになるのです。」と付け加えた。

カーネギー社のバルタン・グレゴリアン氏は最近、「公式の核兵器国である、米国、ロシア、英国、フランス、中国、そして最近ではインドとパキスタン(それに公式には認めていないがイスラエルも)を加えたすべて核保有国は、他者が自国に対して核兵器を使うことを抑止するという目的のためにのみ、核兵器を保有していると主張している。」と指摘している。

しかし、大国が何らかの政治的目的を達するために威嚇の手段として核戦力を使うといったことが、これまでにも数多くあったし、これからも間違いなくあるであろう、とグレゴリアン氏は語った。

多数の無実の人びとの殲滅を脅しの手段に使うことは法的にも道徳的にも正当化できないし、核兵器拡散を刺激するという意味でも大きな脅威であるとグラノフ氏はいう。したがって、核兵器を使用すると脅しをかけることは現実的ではない。

「したがって、権力を求める非合理的なプライドが、この大量破壊のための戦力を保有し『改善』しつづける人びとの政策思想になっているのかと、我々は訝らざるを得えません。」とグラノフ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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米ロ核軍縮のペースが「鈍化」

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【ワシントンIPS=キャリー・L・バイロン】

米国科学者連盟(FAS)は、12月17日、米国とロシアは冷戦真っ只中の時期からは核兵器の数をかなり減らしてはいるものの、削減ペースは鈍化している、と警告した。

さらに、これら二国で世界の核兵器の90%以上を占めている。これは、他の7つの核兵器国の合計の15倍にもあたる。

FAS核情報プロジェクトのハンス・M・クリステンセン氏は17日、「核戦力削減のペースは、以前の20年に比べて鈍化しているようだ」と指摘した上で、「米国もロシアもさらなる削減には慎重で、削減された核戦力の『ヘッジ』と再構成をより重視しているようだ。これからの10年では、核戦力近代化に多大な資源が投入されることになる。」と語った。

 クリステンセン氏の手になる核軍縮の次の10年を占うFAS最新レポートによると、1991年以来、米国は核兵器を約1万9000発から4650発まで削減した。これに相応するロシアの削減数に関する公的なデータは存在しないが、FASの推定では、削減幅はより大きく、3万発から4500発にまで減ったとされる(もっとも両国では、さらに1万6000発が解体待ちとなっている)。
 
これらは8割近い減少であり、米国とロシアが非戦略(短距離)核をそれぞれ85%と93%削減したことにも表れている。

こうした数は国際交渉と関与の大きな成功ではあるが、このような動きを長期的に追うことは「あまり興味を呼ばず、意味のないもの」になりつつあるとFASの研究者は述べている。

新戦略兵器削減(START)条約というあらたな二国間条約が2011年に米ロ間で発効したものの、合意による2018年の期限までに削減される両国の配備戦略核は今日の数よりも「わずかに少ないだけ」にとどまるという。しかも、新条約はその3年後に効力が切れる。

この新しいデータから引き出されることは、あらたな核兵器削減条約を二国間で結ぶか、各国が単独で核削減を進める必要があるということだ。もしこのうちどちらも起こらないとすれば、「巨大な核戦力が将来にわたって長く保持されかねない。」

再選されたバラク・オバマ大統領に対して、クリステンセン氏は、「核軍備管理を外交政策の一部に明確に据えること」を求めている。また、米国の債務と政府支出をめぐる泥沼の議論が政治の中心を占める中、米国が一方的に核削減を進めるよい機会であるかもしれないと示唆している。
 
FASの報告書を支持するワシントンの平和・安全保障関連団体「プラウシェア財団」によると、米国は、今後10年で6400億ドルを核兵器関連に費やす予定だという。

核兵器なき世界

オバマ大統領は、第一期開始直後の2009年4月、核兵器が存在し続けることは「どの場所にいるどの人間にとっても関係のあることだ」という、力強いスピーチを行った。
 
ほんの数か月前に大統領に着任したばかりのオバマ氏は、この点において米国は特別の責任を有していると認めた。「核兵器を使用した唯一の核大国として、米国には行動する道義的責任がある……。したがって、今日、私は明確に、そして確信を持って、アメリカは核兵器なき世界の平和と安全保障を追求することを約束すると述べたい。」

その後の4年間にワシントンでこの点に関連して起きた立法的動きは限られたものだったが、中でも最重要だったのは、新STARTの批准である。しかし、クリステンセン氏らは、米議会が依然として包括的核実験禁止条約を批准できていない状態では、この成果すら「控えめ」なものにすぎないとしている。

しかし、先日の大統領選後、オバマ大統領は、軍縮の動きを新たに先に進めることに大きな関心を寄せ続けていると示唆する発言を行っている。12月初め、選挙以後としては初となる外交政策に関する演説で、過去の核削減の成功にもかかわらず、米国は「決して、何かを成し遂げたとは言えない。」と述べた。

またオバマ大統領は、「ロシアは、現在の協定は両国の変化する関係に追いついていないと主張している。それなら我々はこう言う、ならば合意をよりよいものにしようではないか」と述べた。

軍備管理協会(ワシントンの市民団体)のダリル・キンボール会長は、IPSにメールで寄せた分析で、こうしたオバマ大統領の発言は「(同大統領が)核リスク削減という未完の任務を達成するつもりであるとの重要なシグナルを、彼の国家安全保障チームや米議会、米市民、世界に対して送るものだ」と述べた。

「オバマ大統領は、大胆な措置を取ることで、世界の核の危険を大幅に削減し、包囲された核不拡散システムを強化し、永続的な核安全保障の遺産を確立することができるかもしれない。」

このところ、オバマ大統領がこうしたスタンスを取るべきだとの主張がワシントンで高まってきている。つまり、ロシアとの新協定に進むと同時に、米国が自らの核戦力を削減する一方的な動きを起こすということである。しかし、このどちらの面においても、見通しは明るくない。

カーネギー国際平和財団(ワシントンのシンクタンク)の最近の政策分析によれば、米国の軍備管理問題は「冷戦終焉以来もっとも党派間対立が厳しくなっている」という。分析の責任者であるジェイムズ・M・アクトン氏は、「核兵器なき世界」というオバマ大統領の中心的な目標に共和党勢力が同意していないためだとしている。

さらに、オバマ大統領が米国の対ロ政策を「リセット」しようとの有名な方針があったにもかかわらず、米国が欧州においてミサイル防衛システムを構築しようとしていることにもみられるように、米ロ関係はこの数カ月でますます停滞している。

この約40年で初めて、米議会がロシアとの貿易関係を正常化しようという大きな動きがあるが、それもまた、ロシアの人権問題を非難する懲罰的な立法の計画によって、効果が打ち消されようとしている。

ロシア政府のこれに対する反応は厳しいもので、米国への報復を口にし、法案は「二国間協力の見通しに悪影響を与えるもの」だと主張している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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|UAE|マララの夢を実現する

【アブダビWAM】

「マララ・ユスフザイさん(14歳)は女子教育に反対する民兵組織が跋扈するパキスタン北西部のスワット渓谷にあって、勇気を持って女子教育の権利を追求したとして、パキスタン政府から『第1回国家平和賞』を受賞した。しかし、パキスタンではそれまで彼女の存在は殆ど知られていなかった。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙が報じた。

「しかし、僅か14歳の少女を銃撃するというイスラム武装勢力『パキスタンのタリバン運動(TTP)」の凶行は、パキスタン国民のみならず世界中にマララさんの存在を知らしめることとなった。以来、世界各地の政治指導者や一般の人々が、学生活動家のマララさんとの無条件の連帯を表明している。」と、英字日刊紙カリージ・タイムスが12日付の論説の中で報じた。

 現在英国で療養中のマララさんは、タリバンに対する抵抗のシンボル的存在になった。国連の潘基文事務総長は、「マララさんは、ノーベル平和賞に推薦されるだろう」と語り、事実、世界各地でこれまでに何十万人もの人々が彼女をノーベル平和賞に推薦するオンライン署名を行っている(ノーベル平和賞候補は各国政府及び国会議員により推薦されるため、こうした署名は各国政府に嘆願書とともに提出される:IPSJ)。

さらに英国と世界銀行の資金援助で、パキスタンの最も貧しい地域の300万家庭を対象に、金銭的インセンティブ(動機付け)で子どもの就学を奨励する構想がスタートすることとなった。パキスタンのアシフ・アリ・ザルダリ大統領と教育問題の国連特使を務めるゴードン・ブラウン前英首相が、国連が「マララの日」と宣言した今月10日にあわせて、この構想を発表した。

「もしこの構想が適切に実行に移されれば、パキスタンにおける女子教育に、前向きな変化をもたらすだろう。パキスタンの最貧地域、とりわけマララさんの出身地域である北西部のカイバル・パクトゥンクワ州並びにバロチスタン州における女性の識字率は同国で最低レベルである。これらの地域では、女性が一家の稼ぎ手になることが期待されていないことから、両親は娘の教育を重視しない傾向がある。またこの地域で草の根教育活動に従事している市民社会組織らは、女性の教育問題になると、両親が最大の障壁になることがしばしばある。」と、カリージ・タイムス紙は報じた。

しかし、両親に対して、娘たちに教育機会を受けさせることと引き換えに、現金によるインセンティブ(動機付け)が提供されるならば、娘たちに家事の手伝いを期待するよりも、むしろ、通学させることに同意するだろう。

「こうしてマララさんは、パキスタンの何百万人もの少女たちに教育機会への道を開いた。今後マララさんの夢が、日の目を見られるか否かは、今や、各国の指導者と民衆の手にかかっている。」とカリージ・タイムズは所見を述べた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連のエイズ問題のアフリカ担当官スティーブン・ルイスは、いつもの通り、アフリカ大陸で猛威を振るうHIV/AIDSが引き起こす数々の死と惨状にまつわる話を携えてニューヨークに戻ってきた。

彼は言う、「世界的な流行から20年、エイズは今も、『女性の顔』を装っている」HIV/AIDS感染は、知らぬ間に潜行して特に女性と若い少女達の命を奪っている。世界ではHIV/AIDS感染者の半数は女性であるが、サブサハラアフリカでは57%にのぼる。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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【アシュドッド(南イスラエル)IPS=ピエール・クロシェンドラー】

空爆任務を負って、イスラエル空軍のF-16がガザに向かって飛んでゆく。ここイスラエル南部の港湾都市アシュドッドの街頭では、戦闘機の轟音は悲しげな警報にかき消されている。わずか数秒後、うなりをあげて発射されたイスラエルの迎撃ミサイル「アイアンドーム」が、ガザ地区から撃ち込まれたGRADロケットを迎撃した。

「子どもにとってここは安全な場所ではありません。でも私たちにはここ以外に住めるところがありませんから、日中は街を離れて、夜に帰ってくることにしています。」と、エリシェヴァ・ピントーさんはIPSの取材に対して語った。ピントーさんは、娘のチャバさん(13歳)と息子のアリエくん(11歳)を連れ、アシュドッド中央駅のシェルターで、エルサレム行きのバスを待っているところだった。

 学校は4日間連続で閉鎖されており、校庭には誰もいない。

17日にはこの人口20万人の産業都市の中心部、インディペンデンス通り93番地の大型アパートが、ガザ地区から飛来するロケット弾の直撃を受けた。犠牲者はなかった。

その後現場には、税務署の資産鑑定士が被害状況の調査に訪れた。ロケット弾は、アパートの4階部分の住宅を破壊していた。大きな穴が空いたバルコニー、爆弾の金属片が居間の壁一面に突き刺さっている惨状から、ロケット弾の弾道を推測することができた。

また、無数のガラスの欠片が金属の破片と混じり合って床に散乱している。さらにロケット弾が爆発した際、無数の破片が周囲に飛び散り、道端に停められていた車のボンネットも撃ち抜かれていた。

また被災現場ではロケット弾攻撃がなされた際に止まったままの生活の跡があちこちに見受けられた。食卓の上では、夫婦と2人の娘が写った家族写真がロケット弾の衝撃で飛ばされ、食べかけのご飯、レンズ豆、チキンが載った皿の上に倒されていた。

部屋の主であるエリカシヴィリさん一家は、自宅から約30キロ北方のテルアビブ郊外の街ラマト・ガンのホテルに避難している。しばらくすると被災アパートの貸主が、テルアビブもロケット弾攻撃の標的となったとのラジオの報道内容を、資産鑑定士に伝えていた。

すると再び警報が鳴り、私たちは急いで防空シェルターとなっている建物の階段まで走って逃げた。住民の中には個人の防空壕を使うことを好む者もいる。最近の建物の場合、各アパートには防護室を設置することが法で定められている。

4階から2階に下ると、アムサレグ一家(祖母のアネッテさん、母親のドゥボラさんと2人の幼児、ナタネルくんとイレイくん)が薄暗い電灯の下で肩を寄せ合っていた。「これは、人間としてあるべき生活ではないわ。」とアネッテさんは語った。

まもなく警報が解除になり、アムサレグ一家は3部屋からなる自宅に戻っていった。

一日何も食べておらずお腹を空かせていたナタネルくんは、早速食卓につき自分でクリームチーズをトーストに塗った。「ロケット弾のせいで気分が悪く、ずっと吐き気がしていたんだ。」と言うナタネルくんに、母のドゥボラさんは「ナタネル、大丈夫よ。」と、ナタネルくんの髪を撫ぜながら慰めた。

するとまた警報が鳴り響いた。ナタネルくんは慌ててトーストを食べるのをやめて、弟、母親、祖父母とともに急いで階段に戻っていった。30秒後、シェルターの階段にたどり着いた一家は、遠方に爆発音を聞いた。爆発で空気が震えている。

11月20日は国連が制定した「世界子どもの日」である。潘基文国連事務総長は、停戦努力を支援するため、現在エルサレムとウエストバンクのラマラを訪問している。国連のオフィシャルサイトには、「世界の子供たちの友愛と相互理解を記念するこの日は、祝福であり、希望である。」とのメッセージが掲げられている。

パレスチナ保健省の発表によれば、11月14日にイスラエル軍が「防御の柱」作戦をガザ地区のハマスに対して発動して以来、少なくとも1400箇所以上に爆撃と砲撃が加えられ、24人のパレスチナの子どもが殺害され、200人以上の子どもが負傷している。逆に、パレスチナ側からは約2000発のロケット弾が発射され、イスラエル人の子ども一人が負傷している。

ガザ地区から23キロのところにあるここアシュドッドも、ガザのパレスチナ民兵によるロケット弾攻撃に晒されており、イスラエル人家族らは、一日当たり平均10発程度のロケット弾による被害を恐れながら生活を営んでいる。

アシュドッドの誰も、イスラエルの子どもがガザ地区のパレスチナ人の子どもと同じような苦境に立たされているなどと考えてはいない。しかし、人々は恐怖と痛みから、他人の痛みと恐怖を忘れ、自己中心的になる傾向にある。

今日はナタネルくんの9歳の誕生日だ。ナタネルくんは、警報が鳴ると、シェルターとなっている階段の方を振り向き、ものも言わず懇願するような様子で、恐怖に打ち震えている。「これがみんな済んだら、誕生日のお祝いしようね。いい?ナタネル。」とドゥヴォラさんは、優しく声をかけて息子を慰めた。

ドゥボラさんは、「誕生日のお祝いは何にしようかね?」と尋ねたところ、ナタネルくんは、「イスラエルがパレスチナ人を全員殺せばいいんだ。みんな残らず。子どももね。」と平然と言ってのけた。

するとドゥボラさんは、「そんな恐ろしいことを言ってはいけません」とナタネルくんを叱った。「ユダヤ人もアラブ人もみんな人間なの。私たちみたいに、どうしようもない状態にあるのよ。私たちみたいに、あの人たち(=パレスチナ人)だってこんなことを望んでいるわけじゃないの。戦争は、一部の若い容赦ない人々によって行われているのよ。」

母親の忠告に耳を傾けていたナタネルちゃんは、小さく頷いた。しかし、ナタネルちゃんは母親とは異なり、「反対側(=パレスチナ人側)」の事情や境遇については殆ど想いを巡らせてはいないようだった。

再び警報が解除されて静寂が戻ると、一家はテレビをつけて地元で起こっていること(イスラエル軍によるガザ地区に対する激しい攻撃、街の郊外の丘の上に設置した『アイロンドーム』でロケット弾の迎撃状況等)を報道しているニュース番組に見入った。

そんな状況ので、ナタネルくんは退屈して「学校に行って遊べたらいいな。友達が懐かしい。」と語った。

すると再びパレスチナ側からのロケット攻撃が始まった。この1時間で3回目だ。そしてまたイスラエル軍による迎撃。海の方に目を向けると、白い煙が、雲一つない空にたなびいている。

10分後、生と死の世界に、日常が舞い戻ってきた。ナタネルくんはふたたび食卓に着き、バターを塗ったトーストを頬張る。「それで、誕生日はいつやろうかね?」ココアを準備しながらドゥヴォラさんが尋ねと、ナタネルくんは、「1か月後ぐらいかな。戦争が終わったらね…。」と呟いた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【ベオグラードIPS=ヴェスナ・ペリッチ・ジモニッチ

セルビア南部サンザックに住む少数派ボスニア人イスラム教徒は、長年にわたるセルビア人政府当局との交渉の末、先月やっとボスニア語で教育を受ける権利を勝ち取ったと述べた。
 
「言語はすなわち国民のアイデンティティですから、私たちにとって重要な問題なのです」とサンザックボスニア語全国協議会のザケリヤ・ドゥゴポリャッチ氏はIPSに語った。サンザックはボスニアと国境を接するセルビア南部の地域である。しかしここに在住する約30万人に及ぶスラブ系イスラム教徒の大半は、自らをボスニア人と考えている。

しかし、この「新言語(=ボスニア語)」は、旧ユーゴスラビアにおいて何百万人ものセルビア人、クロアチア人、ボスニア人が話していた「旧言語」とほとんど変わりはない。それでも、ドゥゴポリャッチ氏や地元のイスラム系政治家は、敢えてボスニア語を公用語として導入したことを妥当と考えている。「つまり、少数民族の権利に関わる問題なんですよ」とドゥゴポリャッチ氏は言う。

ボスニア語は、1991年の旧ユーゴスラビア崩壊後に導入された「新言語」の1つである。旧ユーゴスラビアでは、連邦崩壊に伴って6つの旧連邦構成国の間で血みどろの内戦が繰り広げられた。その結果、今ではイスラム系ボスニア人は「ボスニア語」、カトリック系クロアチア人は「クロアチア語」、ギリシャ正教徒のセルビア人及びモンテネグロ人は「セルビア語」を話すようになった。

この奇妙な言語区分は、国連がハーグに設置した旧ユーゴスラビア国際犯罪法廷においても採用されており、同法廷の全ての書類にはボスニア語、クロアチア語、セルビア語をそれぞれ意味する“B/C/S”のマークが付けられている。これらの言語は実質的には同じものであるにもかかわらずだ。

この現象について、ランコ・ブガルスキ教授は、有名な著書『平和の言語から戦争の言語へ』の中で次のように述べている。「連邦崩壊に伴う内戦の結果、それまでの言語は地域に帰属するものではなく、新たに国家に帰属するものであるとする考えが台頭してきた」。そして「戦争当事者間には歴史も言語も何一つ共通点はないという考えに基づいて、言語は他民族に対する『武器』として使われるようになった」

旧言語は19世紀に共通語として確立され、セルビア-クロアチア語と呼ばれていた。違いといえば多少のアクセントと地域的な表現程度で、旧ユーゴスラビアではどこでも容易に通じる言語であった。比較して例えるならば、イギリス英語とアメリカ英語の違いといったところだ。

旧ユーゴスラビアにおいては、地域的な違いは「方言」として認識され、様々な民族的背景を持つ人々が、各々民族特有の言語ではなく、その地域の方言を同じように話していた。一方、今日の言語区分の動きは、一部で滑稽な事態も引き起こしている。

クロアチアの映画配給会社は、今やハリウッドやフランス映画と同様、セルビア映画に対しても字幕を付けるようになっている。ザグレブ(クロアチアの首都)の映画館では、「こんにちは」といった表現に対してさえ字幕が付けられる始末で、このような字幕がスクリーンに映し出される度に、観客の失笑を買っている。

今日、クロアチアの言語学者は、クロアチア語の独自性を出すために新たな単語の導入を試みているが、ほとんどのクロアチア人に理解されていないのが現状だ。例えば、FAXは新表現では“dalekoumnozitelj(長距離コピー用機械)”となる。

このことに関して、ザグレブの銀行家ミリアナ・トンチッチ氏(36歳)は、「公的なコミュニケーションでFAXという単語を使えないとは信じられない状況です」「新しい単語を使うことにはなっているけどどうやって発音していいかさえ分からないのよ」とIPSに語った。

他にも、ヘリコプターは今では“zrakomlat (空を切る機械)”、ハードディスクは“kruzno velepamtilo (大きな記憶容量を持った円形機械)”といった具合だ。

しかし政界のエリート達は、それでも異なる民族がそれぞれの言語を持っていくべきだと主張している。

クロアチアの国営テレビは、最近スティーブン・スピルバーグ監督作品『シンドラーのリスト』の放映に際して同作品に収録されていた「セルビア語」のまま放映したことを謝罪するという出来事があった。その際、同テレビ局は、米国の映画配給会社が何年も前に(セルビア語での)翻訳を要求し、その後変更を全く認めなかった、と本件の経緯を説明した。

最近ザグレブで、著名な外交官ネヴェン・スチマッチ氏がコメントの中で「クロアチアとセルビアが欧州連合に加盟した際には、行政上の問題を緩和するため『クロアチア-セルビア語』を再導入するという示唆がブリュッセル(=EU本部)にある」と語ったことから、政治的な抗議運動へと発展した騒ぎがあった。両国の欧州連合加盟はまだまだ先の話であるが、そのような可能性が語られるだけでクロアチア民族主義者の間で公然と抗議の声が上がるのが現状だ。

一方、多くの一般市民にとって、言語の分裂も新国家も永遠に続く障壁を意味するものではない。共通言語とケーブルテレビの存在は、すなわち何百万人もの人々が、ボスニアテレビであれクロアチアテレビであれ、セルビアテレビであれ、同じ番組を見られることを意味する。

最も人気があるドラマの1つにクロアチアの『ヴィラ・マリア』という番組があるが、その内の多くのエピソードはベオグラードの有名な作家スタンコ・クルノブリニャ氏の手によるものである。クルノブリニャ氏は言う「これはやり易い仕事ですよ。なぜならザグレブの古い友人でプロデューサーのゼリコ・サブリッチ氏が私に監督をしないかと声をかけてくれて引受けた仕事だからだ。私たちは今でもお互いを完全に理解しあえる間柄だ」(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

国連がインターネットに望むもの(シャシ・タルール)

2003年の末にジュネーブで開かれた「世界情報社会サミット」の第1段階においては、サミットが報道の自由を抑圧する方向へ進むのではないかとの懸念の声が一部のメディアから聞かれた。彼らによれば、情報の自由な流れを制限する内容を一部の国がサミットの最終文書に押し込もうとしている、というのである。

しかし、実際にジュネーブで確認されたことは、国際社会が、インターネットの世界を含めて、報道と情報の自由を守るということであった。

にもかかわらず、2005年11月にチュニスで開かれるサミット第2段階において、表現の自由を制限する国々に、インターネット管理権の一部が与えられることになるのではないかと心配する意見が出ている。

 
しかし、心配するには及ばない。国連は、インターネットの管理権を奪うことには関心を持っていない。むしろ国連は、インターネットの運用に関してすべての利害関係者が討論を行うことのできる場を提供することを目的としている。

他方で、報道の自由への脅威は現実のものである。「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ)によると、今年は、これまですでに29人のジャーナリストが殺害されている。

「テロとの闘い」の中で、報道の自由を制限しようともくろむ一部の国々がある。国家安全保障と独立した批判的報道との間に適切なバランスが保たれねばならないというのが我々の立場だ。メディアが重要な役割を果たして、情報を手にした世界の人びとが参加できるようでなければ、「テロとの闘い」に勝つことは難しいだろう。

また、報道の自由は社会経済的発展の前提条件にもなる。環境を守り、教育を発展させ、HIV/AIDSのような健康問題を解決するためにも、報道の自由は重要なのである。

翻訳/サンプルサマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

*シャシ・タルール氏は、作家で前国連広報担当事務次長(2007年2月まで在任)。

核なき世界へ向けた次のステップ(モハメド・エルバラダイ)

50年前、世界の指導者たちは、いまだかつて経験したことのないような危機に対処しようとしていた。

核兵器の脅威である。広島・長崎で恐るべき惨禍をもたらした原子の力をさらに多くの国々が手に入れようとしていた。

[米国のアイゼンハワー大統領による]「平和のための原子力」構想が生まれ、国際原子力機関(IAEA)が創設されたのはこうした状況下においてであった。

さらに、1970年、核不拡散条約(NPT)が発効した。この条約の内容は以下の3つである。まず、非核兵器国は核兵器保有を断念すること。それと引き換えに、当時の5つの核兵器保有国は完全核軍縮に向かって努力すること。最後に、核技術を保有している国家は、他の条約加盟国と核の平和利用技術を共有することである。


途上国は、非核兵器地帯創設に努力することでこのNPT体制を強化している。これまでに、ラテンアメリカ・カリブ海地帯、南太平洋、東南アジア、アフリカの4ヶ所に非核兵器地帯ができている。

他方、1990年初頭にイラクの秘密核兵器計画が露見して以来、IAEAは保障措置を強化するための創造的手法の開発に努力してきた。これらの手法は、多くの意味において成功を証明してきている。イラクやイラン、リビアにおける最近のIAEA活動の経験は、きわめて難しい状況下においても、IAEAの検証措置が有効であることを示してくれた。もっとも、我々に適切な権限が与えられていること、あらゆる入手可能な情報を利用できること、信頼できる遵守メカニズムに裏付けられていること、国際的なコンセンサスの支援があることなどの条件が必要ではあるが。

21世紀は、核兵器をなくすという使命に対して新たな難題を投げかけている。我々は、子供たちにどんな遺産を残そうとしているのだろうか。

翻訳/サンプルサマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

モハメド・エルバラダイ氏は、国際原子力機関(IAEA)事務局長で2005年ノーベル平和賞受賞者。IPSコラム=モハメド・エルバラダイ

|ボリビア|峻険な山河を超えて学校へ

【ミスカマユ(ボリビア)IPS=マリザベル・ベジード】

14才になるレイナルドは、まだ暗いうちから家を出発し、小さな先住民の部落にある学校まで片道2時間かけて登校する。峡谷を抜ける通学路は急峻で狭く、途中にはいくつも川を渡らなければならない。

また放課後、教科書やノートでいっぱいのリュックを背負って、石と荊棘だらけの道のりをサンダル履きでとぼとぼと歩いて帰宅することには、もう暗くなっている。

 しかし、ボリビア高地の先住民族居住地帯で遠距離通学している子どもたちにとって、レイナルドのように過酷な通学条件をこなしているケースは珍しいことではない。

 レイナルドの学校は最も近い街から7キロ離れたところにあるが、道らしき道は整備されていない。記者はこの学校に取材で2日間過ごしたが、朝になると、この粗末な施設で勉強する決意にあふれた生徒たちが岩だらけの道を乗り越えて各地から登校してきた。

彼の通うミスカマユ統合学校は、ボリビア各地に散らばる辺鄙な土地にある学校のひとつで、他の多くの学校と同じように、殆どの場合、連邦政府や地方政府からの支援を得ていない。

校舎の中には、かつて古い大農場(ハシエンダ)の建物を学校用に改装したものなどがある。多くの場合、基本的な設備さえ整っておらず、中にはドアがないものや、窓にガラスが入っていないもの、ひどいものになると屋根がなく教室が雨ざらしになるものもある。また電気が通っている施設はほとんどない。

ミスカマユ統合学校も例外ではない。何年も前、この学校がボリビアで著名な民族音楽グループ「ロス・マシス」による資金援助を得ていた当時は、この地域でも有数の有名校だったが、今ではボリビア政府の管轄下におかれている。しかし政府が管理義務を怠っているのは、荒れ果てた校舎を一目見れば明らかである。

レイナルドは義務教育の最後の年を終えようとしている。彼の家族はミスカマユから12キロ離れたモレ・ウアタに住んでおり、この地域の大半の家族と同様、農業と世界的に有名なハンドメイドの織物で生計を立てている。

両村落とも、ボリビア南東部チュキサカ県(県都はスクレ)タラブコ市郊外の標高約3300メートルの山間に位置している。

スクレ市(ボリビアの憲法上の首都で最高裁判所の所在地)とタラブコ市間の距離は65キロメートルだが移動には車で2時間を要する。また、ミスカマユ村にたどり着くには、タラブコ市から徒歩でさらに2時間歩かなければならない。

貧困に伴う未就学の問題(学校に全く通ったことがないか、通っても1年以内に退学)も、先住民族の子どもたちにとって、重くのしかかっている。レイナルドの場合、8人の兄弟姉妹のうち、5人しか学校に行っていない。国際連合児童基金(ユニセフ)が今年発表した調査によると、ボリビア先住民の子どもの平均12.3%が、未就学児童である。

農村地帯では、この数値が17.5%にまで跳ね上がる。ボリビアでは人口の35%が農村部に居住しており、貧困率が最も高いのも農村部である。公式統計によると農村人口の75%が貧困層で、その内64%が1日あたり1ドル以下の生活を送っている。

ユニセフ他の国際機関が指摘しているように、ボリビアの義務教育制度は8年制で授業料も無料である。さらに文部省も就学率100%に向けた努力を行っているが、依然として学校に通わない先住民の子供たちがあとを絶たない。

ミスカマユ統合学校で教師をしているカルメン・ローザ・サンチェス氏は、ボリビアの先住民の間でドロップアウト率が高い原因として、農村部における3つの要因(インフラの問題、人口流出も問題、高い貧困レベル)を挙げた。

またサンチェス氏は、中でも農村部の先住民の子ども達が直面している最大の障壁として、言語の問題を挙げた。ボリビアでは、1060万人の人口のうち6割以上が、36の先住民族に属している。

ミスカマユ統合学校では120人の児童のほとんどがヤンパラ・スユ族であり、すべての児童の母語がケチュア語である。しかし、教室では彼らにとっての第2言語であるスペイン語で授業が行われている。

初等教育の最初の3年間では母語を使っているが、中等教育に近づくにつれ、スペイン語を使う頻度が高くなってくる。教員たちにはスペイン語しか理解できない者や農村部の生徒やコミュニティーに対する理解が低い者も少なくなく、次第に教員と児童との間のコミュニケーションが難しくなってくる。他方、スペイン語を母語とする児童が多い都市部では、あまりこのような問題は生じていない。

もうひとつの問題は、農村部の生徒たちは母語に流暢だが、一般的に母語で書かないため、スペイン語を加えた2カ国語で読み書きを覚えるのが至難の技となっている。

文部省は農村部における教育環境を改善し、ドロップアウト率を抑えるため、全ての教師がスペイン語に加えて先住民の言語を扱えるよう訓練するプログラムを導入した。しかし、ミスカマユ統合学校の教師らによると、いまのところその効果は限定的だという。

また、8人の子どもを持つニコラス・フェルナンデス氏によると、農村部の生徒たちが直面している今一つの大きな問題は、如何に進学して中等教育や大学教育を受けるかだという。

「うちの子供たちは、当初はここで学校に通わせましたが、中等教育レベルで教えられる先生方は5人しかおらず、やむを得ずスクレの学校に入れました。その他は、高校卒業後に就職したり大学に進学しています。」とフェルナンデス氏は語った。しかしこの地域よりももっと僻地に行けば、一人の先生が全ての学年と教科を教えている一教室しかない学校もある。

また、レイナルドのケースのように、農村部では小学校や中学校が、生徒たちの自宅から遠く、10キロメートルを超える場合も少なくないという問題がある。この問題に対応するために、学校によっては宿泊施設を備えているものもある。そうした宿泊施設を併設した学校は、ケチュア語で「yachaywasis(知識の家)」と呼ばれて

「yachaywasisは自宅が遠い生徒に宿泊先を提供しています。そうした生徒たちは、日曜日の夜に施設に来訪し、金曜日の午後に自宅に向けて帰ります。そして学校では、講師が生徒たちの支援をしています。」とセラート・ミランダ氏は語った。

また文部省は、ボリビアが多民族国家であり、教育制度も多文化・多言語に基づくものでなくてはならないとした2009年の憲法改正の内容を実施に移すべく、取り組んでいる。

具体的には、ボリビア国内の先住民のニーズを最優先し、レイナルドのような多くの先住民の若者らが直面してきた障害を克服するような新たな教育法の実施に取り組んでいる。

14才の苦学少年レイナルドは、「あなたは英雄だ」と言われて首を横に振った。「僕は単にもっと勉強をして卒業し、いつか大学に行きたいだけなのです。」――彼は静かに、しかし決然とそう言った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【アックスブリッジ(カナダ)IPS=スティーブン・リーヒ

私は、私の先般の訪米がバラク・オバマ大統領の再選を手助けすることになったということを知っています。私のような巨大な嵐は、政治には関与しないものですが、あなたがたが地球温暖化問題にきちんと取り組まなかったことで、深刻な結果が生まれていることは今や明らかです。海面の上昇、私のような巨大嵐の発生は、そうした結果の一部に過ぎません。

残念ながら、石炭や石油、天然ガスを燃やすことと引き換えに支払わなければならない代償は極めて大きいものだと申し上げねばなりません。何億トンにも及ぶ二酸化炭素(CO2)を大気中に放出し続ければ、ますます多くの太陽の熱エネルギーが地球に吸収されることになります。CO2は地球にとって天然の毛布のような役割を果たしていますが、こうした数億トンに及ぶ過剰CO2は、この毛布をさらに厚いものにしており、しかも年を追ってますますその層は分厚くなっているのです。

 私がジャマイカからカナダまでを10日間で通過する間に、200人近くが亡くなりましたが、そのほとんどは米国通過時の犠牲者です。その米国は、引き続き圧倒的に世界最大のCO2排出国であり続けています。1860年から2009年における世界のCO2総排出量の実に約30%を、米国が一国で占めているのです。また一人当たりのCO2排出量でも、米国市民は世界最大レベルです。

みなさんの中には、CO2の危険性について長年認識してきた人々もいるでしょう。石炭、石油、天然ガスの燃焼が気候に及ぼす悪影響について話し合った最初の国際会議(大気変動に関する国際会議、G7トロントサミットの直後にカナダ政府が主催。46カ国と国連から科学者、官僚、政治家、産業界、環境NGOなど300人以上が参加:IPSJ)が開催されたのは、24年前のことでした。その際参加者らは、「変化する地球大気:地球規模の安全保障に対する密接な関係」と題されたその会議の決議声明の中で、「人類は、意図しない抑制不能の地球大の実験を行っている。その実験が招く最終的な結果の重大さを上回るものは,世界的な核戦争だけであろう。」と結論づけています。

また彼らは、二酸化炭素排出量を削減する努力をしなければ、生態系にとって極めて危険な地球温暖化が進行することになるだろう、と的確な警告を発しています。

しかし各国政府はこのことを知りながら、石油・石炭・ガス産業を世界でもっとも強力かつ利益の上がる産業に育ててきました。そして地球を住みづらい場所にしてしまっているこうした企業に対して、数十億ドルの税金を補助金として投入し続けているのです。

その結果、今日における大気中のCO2の量は増し、地球全体の気温は0.8度上昇してしまいました。また、こうしたCO2が捉える熱は、1日当たり、広島型原発40万発分のエネルギーを持っています。そのエネルギーが、破壊的で極端な天候を生むのです。そしてこの「新しい日常」でさえも、さらなるCO2の排出によって、一層悪化していくのです。

人類が、これまで地球温暖化問題にまともに取り組んでこなかったために、毎年40万人近い人々の命が犠牲となっているほか、主に気候変動に伴う極端な気象や食糧生産への被害等により、1.2兆ドルの損失が生じています。また、化石燃料の使用による大気汚染だけでも、年間少なくとも450万人の死亡原因になっています。こうした犠牲者数と損失額は、CO2の排出量が1トン増加する毎に確実に上昇していくのです。

人類にとってCO2排出量の問題は、時空を超えて遠い将来に深刻な影響を及ぼす問題です。つまり今日ある国で排出されるCO2は、ただちにどこかに影響を及ぼすものではなく、数年後或いは数十年後の子ども、孫、曾孫の時代の気候に害を及ぼすものなのです。もし人類が、将来における洪水、旱魃、破壊的な嵐、穀物の不作などの被害を最小限に抑えるとすれば、向こう数十年の間にCO2排出量を減少させ、最終的には代替エネルギー等への転換によりゼロに持っていく必要があります。

近年、米国におけるCO2排出量は減少傾向にあります。その背景には、長引く経済不況、老朽化した石炭火力発電所の相次ぐ閉鎖と天然ガスへの転換等が挙げられます。その他の国々においてもCO2排出量の削減努力が進められています。英国は、1990年比で18%の排出量削減に成功しており、さらに2020年までに34%に削減する目標をたてています。しかし、米国の場合、CO2排出量は依然として1990年レベルをはるかに上回っており、積極的にCO2削減努力を行おうとしないこれまでの姿勢に対して、「世界のリーダーとして相応しくない」という厳しい批判が国際社会から向けられています。

ある研究によると、米国は2030年までに再生可能エネルギーを100%導入した21世紀型の先進低炭素社会を実現することが可能とのことです。また、2050年までには、地球全体を再生可能エネルギー源のみでまかなうことも可能との研究報告もあります。

しかし、国際社会はそうした道を選びとろうとはしていないようです。化石燃料産業の力はあまりにも強大で、既得権益を守るため多くの消費者に対して変化に対する恐れを醸成してきました。しかし今日人々が本当に恐れなくてはならないのは、ますます強大化して人命を容赦なく奪う嵐や、甚大な破壊をもたらす洪水、そして、次代を担う子どもたちやその子供たちに飢餓をもたらす旱魃なのです。

人類が未来をそのような事態から救うには、自ら蒔いた種は自ら刈り取るしかないのです。(原文へ

翻訳=IPS Japan