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世界人権宣言の精神に戻るべきとき(アイリーン・カーン)

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ムンバイで容赦ないテロ事件がおきた。ウガンダへはコンゴ東部で起こった戦闘から逃れる人びとが殺到している。イランでは10人が処刑された。スリランカでは30万人の市民が家を追われている。世界人権宣言の60年を祝うにはあまり適切なときではないように思える。 

しかし、こうした記念のときは、考えを新たにするときでもある。多くの点において、今日の人権状況は1948年よりも改善している。男女平等、子どもの権利、公正な裁判などの価値は今日定着している。しかし、同時に、今日の世界は、不正や不平等などがいまだにはびこっている社会でもある。

 政府には人びとの安全を守る義務がある。しかし、9・11テロ以後の世界では、治安を守るためにという名目で、グアンタナモ刑務所が維持され、拷問が許容され、公正な手続きが後退してきた。自由世界は、まさに自由であるという理由で、テロリストから攻撃されたのである。安全の名の下にみずから自由を放棄しては、まさにテロリストの思うつぼだ。 

また、今日の金融危機の下で、ウォールストリートやシティの貪欲な者たちのために、貧困層が傷ついている。ホーチミンシティの工場で働く女性、西アフリカ・マノ川の鉱山で働く労働者、中国の工業団地の労働者、インドへとアウトソーシングされた電話案内センターのオペレーター、こういう人たちが金融危機によってもっとも大きな被害を受けるのである。 

私たちは、貧困をなくすという意味で人権を守ることと、テロに直面して人権を守ることという2つの課題に直面している。 

1948年には、大きな課題に直面して、世界の指導者たちが世界人権宣言をうみだした。今日の指導者たちもまた、そうすべきなのである。(原文へ) 

翻訳/サンプルサマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩 

*アイリーン・カーン女史は、アムネスティインターナショナル事務局長。 

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「対テロ戦争」に対する闘い

|中東|ガザ漁民とイスラエル海軍との攻防

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【ラマラ(ウエストバンク)IPS=メル・フリクバーグ

イスラエル海兵隊は最近、ガザ沿岸7海里で操業していたパレスチナ漁船から国際平和活動家3人を連れ去った。彼らは、漁師がイスラエル海軍の銃撃や逮捕を受けずに1日の仕事に従事できるよう、パレスチナ漁師15人に付き添っていたのだ。 

パレスチナ人の権利擁護団体「国際連帯運動」(ISM)のメンバーである米国人のダーレーン・ワレック(57)、英国人のアンドリュー・マンシー(34)、イタリア人のヴィットリオ・アリッゴニ(33)の3人は、漁民に付き添っている際イスラエルの砲艦2隻と小型海軍船5隻に包囲されてしまった。 

20人の海兵隊員が漁船に乗り移り、ティーザーや銃を突きつけてISMメンバーとパレスチナ漁師を海軍船に移動させた。イスラエルの領海から遥か離れたパレスチナの領海であったにも拘わらず、連帯の活動家はテルアビブのベングリオン国際空港にある拘置所に移送され、そこから強制送還された。パレスチナの漁師たちは、取り調べの後ガザへ送り返された。 

ガサの漁師たちが、命と財産の危険をも顧みず日々の生活のためイスラエル海軍に追われながら操業しているのを知り、活動家たちは最近数カ月間、彼らの毎日の漁に付き添っていたのである。 

1994年のオスロ合意の下では、ガザの漁師は沖合20海里の出漁を認められていた。2000年の第2抵抗運動、インティファーダの勃発、イスラエル兵士の拘束、イスラム抵抗組織ハマスの領土奪取後、イスラエルは治安を理由にこれを6海里に短縮した。 

イスラエルの規制線を乗り越えたとして過去2年間に3人のパレスチナ人漁師が射殺されたが、例え制限内に留まっていても銃撃は避けられない。多くの漁師が怪我をし、漁船を没収され、返還された時には漁に必要な機材は無くなっている。 

イスラエルの人道団体「ベツレム」は、報告書の中で、イスラエル海軍は逮捕された漁師の多くに屈辱や虐待を加えていると述べている。 

国際活動家とともに逮捕された漁師の1人、カレド・アル・ハビール氏は、「通常、イスラエル兵は自動火器で漁船および漁船周辺を撃ってくる。そして高圧水砲で漁船に水をかける。逮捕すると、下着姿にして海に飛び込ませ、冬でも泳いで彼らの船まで行かせるのだ。そこで手錠されイスラエルの尋問センターに連れていかれる」と語る。 

国連は、採算性の高い大型魚群に近づくためには、ガザから少なくとも12-15海里の沖合に出る必要があると予測する。 

浅瀬の乱獲により沿岸付近の小型魚群は殆ど獲りつくされ、回復の可能性はない。更に沖に出れば、より採算性の高いマグロもいるのだが。 

1回の漁のコストは、漁船、魚網/乗組員のサイズにより125ドルから625ドルかかる。多くの漁師はコストを賄うだけの魚を獲ることができないが、漁に出る以外の選択肢はない。 

国連によれば、パレスチナの月間漁獲総量は、2000年6月の823トンから2006年後半には50トンに減少したという。 

90年代末には、ガザの漁業は年間1千万ドル、国内総生産の4パーセントの収入をあげ、魚の一部は輸出され、残りは国内市場を満たしていた。 

2001年から2006年の間に、この収入は半減した。栄養失調に苦しみ必要な医療サービスも受けられず貧困、失業に苦しむガザ市民は、現在イスラエルから魚を輸入しなければならない状態だ。 

ガザで約10年活動を行っているデンマーク国際開発支援(DANIDA)のフィン・エッベセン氏は、「市場は魚に餓えているが、彼らを養うに十分な漁獲はない」と語る。 

国連食糧機関(WFP)パレスチナ領土オペレーションのジャン・ルーク・シブロ元代表は、「これがすべてを失った人々の状況であり、彼らの食糧安全保障は極めて不安定だ」と語る。 

漁民支援のため、WFPは数年前、実施機関のDANIDAと共に漁民1,470世帯あるいは最も深刻な紛争被害を受けている8,820人を対象に「仕事のための食糧・訓練のための食糧」プロジェクトを開始した。 

シブロ氏は、「家庭にとって最も大切なのは、彼らが直面している人道危機の影響を緩和するためのクッションとなる生活費獲得の代替方法を探すことである。食糧支援物資を提供することで、WFPは彼らがそうできるよう支援していこうとしている」と語る。 

漁船と魚網の保全用にガザの漁民は、WFPから毎月小麦粉、砂糖、オリーブ油、レンズ豆の配給を受けている。 

しかし、イスラエルは、ガザに対する輸出入禁止策を取っており、2007年6月にハマスが政権を取って(2006年の選挙で合法的に政権を樹立)以来、国境を閉鎖。時々最低量の支援物資輸送のため気まぐれ的な国境開放を行うのみだ。 

最近数週間は殆ど完全封鎖状態で、1回2-3時間の開放を時々行っているだけだ。これによりガザへの人道支援物資は極度に制限され、ガザ市民生き残りのための支援プロジェクトも機能しない状況だ。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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|イスラエル-パレスチナ|古い対立をかき消す新たなメッセージ

|インド・パキスタン|メディア報道が招く一触即発の危機

【カラチIPS=ビーナ・サルワール】

ムンバイでテロが発生してから3日目の11月28日の深夜、パキスタンのザルダリ大統領にインドのムカジー外相を名乗る電話がかかった。緊急事態のため正式の手続きを経ずに直接大統領につながれた電話の相手は、「ムンバイの事件の犯人捜索に即座に応じなければ軍事行動を起こすと脅した」とパキスタンの日刊紙「ドーン」が伝えた。 

同紙は、実はその電話はいたずらで、その電話のせいで先週末にパキスタンが厳戒態勢となったことも明らかにした。この電話のニュースがパキスタンの人々を怒らせ、当初パキスタン政府が合意していた三軍統合情報部(ISI)長官のインド派遣に反対する世論が高まり、軍部と文民政府の激しいやり取りの末、結局ISIの代表の派遣に落ち着いている。

 パキスタンを非難するインドメディアによって敵対意識はすでに高まっていた。パキスタンメディアはインドの報道に憤慨してその主張の不備を暴いていた。インドの一流の日刊紙「ザ・ヒンズー」のイスラマバード特派員であるN.スブラマニアム氏は、テレビ番組でインドの過激な報道を取り上げるパキスタン側の姿勢も賢明ではないとコメントしている。 

専門家は「ジャーナリストの倫理を切り札にする『国家主義』は、印パメディアの常とう手段で、規制もない」という。米国メディアもアルカイダに関して同じ過ちを犯している。 

ムンバイ後には、欧米のBBCやCNNといった権威あるメディアも、パキスタンを非難して戦争の可能性を取りざたすなど敵意を煽っていると非難されている。また、事件を実況中継したインドの24時間ニュースの各局は視聴率を180%上げたが、この実況により犯人が情報を得て犠牲者が増えたという批判もある。 

インド政府もこれについて憂慮し、情報省はテロ事件の報道に関してテレビ各局にテロが成功したような印象を与えないよう勧告するガイドラインを送った。選挙年の今年、政治的圧力の中で、インド政府は国民の怒りを抑えられるだろうか。 

「ザ・ヒンズー」紙のS.バラダラジャン副編集長は「両国の関係が急激に悪化することはないだろう」といい、この5年間のかつてない印パ関係の進展の結果、インド当局はパキスタン政府に対して慎重な姿勢を取ると考えている。「国民も悲劇を政治に利用することには反対するだろう。国際的な圧力もパキスタンの協力的な姿勢を促すだろう」 

メディアの影響を受ける、ムンバイのテロ事件後の印パ関係について報告する。 (原文へ



翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|米国|ムンバイ事件は地域戦略にとって大きな痛手

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

170人を超える死亡者を出したムンバイ・テロ事件から1週間、米担当官は核武装国インドとパキスタンの全面対決を避けようと動き出した。 

ライス国務長官は12月3日、ニューデリーを訪れ、インド指導者に対して如何なる報復も思わぬ結果、困難をもたらすと警告。時を同じくして、マイケル・マレン米統合参謀部議長はイスラマバードでパキスタン政府および軍に対し如何なる調査にも協力するよう、また同事件に関係したグループに対する厳重な取り締まりを行うよう圧力をかけた。 

ライス長官は翌日パキスタンのザルダリ大統領およびカヤニ軍最高司令官と会談するためインドを後にしたが、直前の記者会見で、パキスタン政府の対応は協力的、行動的でなければならないと厳しい口調で語った。

 米政府およびワシントンの専門家は、同テロはカシミールの反乱グループ「ラシュカ・エ・タイバ」(LeT)の仕業と見ている。専門家は、パキスタン軍統合情報局(ISI)が、インドのカシミール領有を阻止する道具として過去20年に亘り、同グループおよび他のイスラム過激派グループの支援を行ってきたとしている。ブルッキングス研究所の南アジア専門家ブルース・リーデル氏は、「ISIとLeTの関係の程度が問題だ。両者の関係が無くなったとは信じ難い」と語る。 

ザルダリ大統領は最近、印パ信頼回復および両国がそれぞれに領有するカシミール地域の通商再開、ISIの監視強化など、米国を勇気づける発言を行ってきた。しかし、この発言が国内、特に軍部内に強い反感をもたらした可能性は高い。 

ブルッキングス研究所の南アジア研究者で昨年米国の印パ仲介努力に関する本を出版したステファン・コーエン氏は、「ISIが、ザルダリ大統領および文民政権の権威失墜と緊張緩和プロセスを阻止するためムンバイ攻撃の背後にいた可能性もある」と語る。また、ランド・コーポレーションのパキスタン専門家クリスティーン・フェア氏は、攻撃はオバマ政権のアフガニスタン戦略に対する警告でもあると指摘する。 

リーデル氏は、今回の攻撃には戦略的意味があると指摘する。2001年米軍および同盟軍が過激タリバンおよび過激アルカイダ幹部のトラボラ掃討作戦を行っていたとき、ISIが支援していた「ジャイシュ・エ・ムハンマド」によるインド議会爆破事件が起き両国の緊張が一気に高まったため、パキスタンはアフガン国境に配備されていた部隊をインド国境へ移動。これによりタリバンのムラー・オマール、ビン・ラディンの逃亡が容易になったというのだ。 

パキスタンは現在米国の強い圧力によりアフガン国境で国内タリバン勢力と激しい戦いを展開しており、パキスタン軍が東方へ移動するようなことになれば、米国としては地域戦略の大きな痛手となるだろう。 

ムンバイ事件と米国の地域戦略との関係について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

│移民│カリブ海諸国の二重国籍問題

【キングストン(ジャマイカ)IPS=ピーター・リチャーズ】

昨年4月にジャマイカの裁判所がダリル・ヴァス議員には議員適格がないと判示して以来、二重国籍問題がジャマイカにおいて大きな問題になってきた。 

与党・ジャマイカ労働党のヴァス議員が議員資格を剥奪されたのは、彼がジャマイカと米国の二重国籍を持つからであり、自発的に米国のパスポートを更新し、それを使って海外渡航していたためである。

 この問題を裁判所に持ち込んでいたのは、2007年の総選挙でヴァス議員と戦って敗れていた野党・人民国家党のアベ・ダブドゥーブ氏であった。判決を受けて、ブルース・ゴールディング首相は、ヴァス議員の敗訴によって与党の議席数が60議席中わずか31にまで減少したため、解散総選挙に打って出ると示唆している。 

カリブ政策研究所は今回、『ジャマイカにおける二重国籍と政治代表』という報告書を発表した。それによれば、上記のような問題が生じているのはジャマイカだけではない。トリニダード・トバゴ、セントクリストファー・ネイビス、ガイアナ、グレナダなどでもそうである。 

たとえば、トリニダード・トバゴでは、2001年の総選挙で勝利しのちに副大臣になった2人の議員が、それぞれ米国と英国の国籍も保有しているとの理由で、議員資格を剥奪されている。 

報告書の著者のひとりキム・マリー・スペンス氏は、この問題は概して政局がらみで取り上げられることが多く、憲法上の権利の問題として考えられることは少ない、と指摘する。 

報告書は、他国の国籍を持っているからといってその人物の貢献度が少ないことには必ずしもならないと主張し、海外経験・国籍を持つ人間を政治代表とすることは、むしろ全体として政治の質を高めることにつながるであろう、としている。 

カリブ海諸国の二重国籍問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリ=山口響/IPS Japan 浅霧勝浩

|ラテンアメリカ|『ジャーナリズム』と『アクティビズム』、2つの視点から見た先住民問題

【ラパスIPS=ディアナ・カリボニ】

「我々は当事者であると同時に報道する立場にもある」。コロンビアの先住民Kankuamo族で、自らも先住民運動を指揮するSilsa Arias氏は先週、ラパスで開催された先住民を取り巻く問題について話し合うワークショップ『Journalistic Minga: Developing Indigenous Reporting』で語った。 

コロンビア先住民族機構(ONIC)に属する同氏をはじめ多くの参加者は、ジャーナリズムとアクティビズムとの間に生まれる障壁について懸念を示す。その1つがデジタル・ギャップの問題である。1週間あるいは隔週に一度電子メールを利用できるのはワークショップ参加者のうちでも一部の人々に限られている。先住民の間でさえ情報の格差が生じているのだ。

 また、言語の問題もある。ワークショップに参加した先住民たちは協議に参加するためスペイン語の習得を余儀なくされる。しかし、実際には先住民言語しか話せない参加者もいる。このため、例えばラパスから300キロ離れたLoripataの山岳地帯で暮らすAymara族の女性には、インタビュアーが録音を取り(同ワークショップを計画した)フランツ・チャベスIPS特派員に翻訳を依頼するなどの対応を行った。 

一部のワークショップ参加者からは他にも次のような疑問が寄せられた。「汚染や土地収奪の問題でなぜ企業や政府の考えをわざわざ取り上げねばならないのか」、「大手メディアでは行っていない情報の公平性・正確性をなぜ我々が尊重しなければならないのか」。 

単なる抗議記事とは異なり、ジャーナリスティックな辛口の記事内容は多くの人々を惹きつけ、行動に駆り立て、真意を伝えることができる。今回のワークショップでも多くの先住民の代表が必要に迫られて、様々な議論を展開し、同時に技術支援を受けるなど積極的に活動した。先住民問題をめぐるアクティビズムとジャーナリズムについて報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩 


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先住民族出身のジャーナリストが立ち上がる

|紅海|アラブ安全保障を脅かす海賊監視戦隊

【カイロIPS=アダム・モロー&カレド・ムッサ・アルオムラニ】

11月20日カイロにおいて、エジプトおよびイエメン主催による海賊取り締まり会議が行われた。同会議には、両国の他にサウジアラビア、スーダン、ヨルダン、ソマリア、エリトリア、ジブチ代表が参加。特にエジプトは、紅海と地中海を繋ぐスエズ運河の使用料を主要外貨源としているため、この問題を深刻に受け止めている。 

最近数カ月、特にソマリア沖アデン湾の海賊行為が増加している。国際海事局の統計によれば、今年だけで既に80隻を超える船舶が攻撃されている。11月15日には、サウジアラビアのスーパー・タンカー「MVシリウス」がソマリアの海賊にハイジャックされ、海賊は引き渡しの条件として巨額の身代金を要求している。その3日後には、インドの小型駆逐艦が、激しい銃撃戦の後同じアデン湾で海賊の母船を破壊したと報じられたが、後にそれはハイジャックされたタイの船舶であったことが明らかとなった。最近では、11月25日に鉄鋼を積んだイエメンの船がハイジャックされている。

 同問題に対処するため、インド、米国、ロシア、南アフリカ、NATOは、海運保護を目的に同地域に軍艦を配備。EUは11月半ばにソマリア沖の海賊行為を取り締まるため初のミッションを開始した。報道によれば、これには駆逐艦だけでなく偵察機、ヘリコプターも参加するという。 

会議後の共同声明で、参加国は「ソマリア沿岸の海賊行為は、同国の政治、治安、社会情勢の悪化がもたらしたものの1つである」と述べた上で、アラブ諸国による共同海軍オペレーションおよびイエメンを拠とする海賊監視センターの設立を提案した。参加代表は外国の戦艦配備を歓迎しながらも、地域諸国の主権尊重を主張している。 

イエメンのアル・クルビ外務大臣は11月10日、外国戦艦の存在はアラブ諸国の安全保障にとって脅威となり、紅海の国際化に繋がると警告した。 

エジプトの軍事専門家ガマル・マズロウム氏は、同大臣の発言は根拠の無いことではないと言う。同氏は、1980年代にイスラエルは紅海への戦艦配備を提案したが、アラブ諸国は直ちにこれを拒否。それ以来同問題は議論されていないが、海賊問題出現によりイスラエルが商船保護を理由に戦艦配備を再び主張するのではとの見方もある」と指摘する。 

同氏はまた、船隊の海賊行為阻止能力にも疑問を呈している。「これまでにも米国第5艦隊やNATOの150戦隊が地域に配備されていたが、海賊行為防止にはならなかった。最近の配備増強にも拘わらず海賊事件は増加しており、効果の程に疑問が残る」と語っている。 

エジプト/イエメン主催のアラブ諸国海賊対策会議について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|ラテンアメリカ|先住民族出身のジャーナリストが立ち上がる

【ラパスIPS=フランツ・チャベス】

国際農業開発基金(IFAD)とインタープレスサービス(Inter Press Service: IPS)が共催する社会開発ワークショップ『Journalistic Minga: Development Indigenous Reporting in Latin America』が11月25日、26日に開催された。Mingaとは伝統的先住民たちによる集会を指している。 

コロンビア・エクアドル・ベネズエラ・ペルー・グアテマラ・ボリビアの先住民族社会出身のジャーナリスト20数名がラパスに集結。各国を代表する記者たちは社会開発促進に向けた共通の利害の確認と各国間の情報交換の必要性について協議した。 

IFADのFarhana Haque-Rahman氏は「ワークショップの目的は、先住民が抱える様々な問題をジャーナリストが詳細かつ正確に報道できるようにすることである」と説明した。世界にはおよそ3億7,000万人の先住民が暮らしているが、(世界人口の5%を占める)彼らの殆どは貧困層である。

 「メディアにおける先住民問題への関心の低さも深刻だ。現地の人々の置かれた危機的状況を世界に発信し、ジャーナリスト同士で包括的な情報ネットワークを構築していくべきである」と、IPSラテンアメリカ総局長のJoaquin Costanzo氏は述べた。 

2日間にわたるワークショップでは、情報伝達の観点や(権利・機会の平等を求める)先住民社会が果たす役割の視点から、彼らの現状について詳しい報告と分析が行われた。 

先住民族ジャーナリストたちの取り組みについて報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩 

|カンボジア|裁かれるクメール・ルージュ幹部は増えるのか

【プノンペンIPS=アンドリュー・ネット】

2009年初めまで初公判が延期されているクメール・ルージュ裁判に、新たな問題が起きている。裁判の独立性を示すために逮捕者の追加を求める圧力にどう対処するか、である。戦犯法廷で誰を起訴するかは複雑な問題で、特にカンボジアでは歴史的な事情と国内外の司法官からなる法廷システムの構造によりさらに込み入っており、合意を得るのが困難な状況だ。 

現在拘束されているクメール・ルージュ幹部は5人で、トゥール・スレン虐殺の首謀者、カン・ケック・イウ別名ドゥック、クメール・ルージュNo2のヌオン・チャ、元民主カンプチア国家主席キュー・サムファン、元外相イエン・サリとその妻イエン・シリト。

 逮捕者追加の憶測が強まったのは、6月半ばに外国人のR.プチ司法官が他のクメール・ルージュ幹部の

捜査を明らかにしたときだった。国連で裁判の予算を話し合う会議の直前のことだった。それ以来、この追加問題についてカンボジア人と外国人の司法官の間で話し合いが続いている。公式情報ではないが、2~6人の名前が挙がっていると言われている。 

10月の裁判公報では、問題については検討中とされ、その後の報告はない。個々の司法官はコメントを拒否している。追加決定に関しては法廷の規則により外国人司法官の方が優位な立場にある。起訴の基準は、1975年4月17日~79年1月6日のクメール・ルージュ支配下で起きた犯罪の「幹部」であり「重大な責任がある」というものだ。 

裁判はカンボジアで行われ、政府の要職にある旧クメール・ルージュのメンバーも多数いることから、ほとんどの観測筋が追加はないとみている。一方で、正義と平和を原則として、追加を求める市民の声もある。カンボジア政府は、政府での要職を交換条件にクメール・ルージュからの離脱を進めた経緯もあり、追加逮捕は回避したいし、資金の問題もある。 

誰を追加逮捕するかも明確ではない。すでに死亡している幹部も多い。ジャーナリストや学者がクメール・ルージュの戦犯について資料を提供し、特に2人の名が戦犯として挙がっているが、この2人を含めるとさらに範囲は拡大していく。クメール・ルージュの旧施設から収集される資料は各地に散らばっている。だがこうした施設の犠牲者を援助しているNGOは、証言や証拠を多数収集していると主張している。 

逮捕者の追加が憶測されているクメール・ルージュ裁判について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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『民主カンプチア時代』の真実とは

|Q&A|「支援資金が減ればエイズによる死者が増大する」

【国連IPS=タリフ・ディーン】

世界規模の経済危機により、国連が掲げる重要な開発目標の一つ「2015年までに今なお世界中で数百万の人々を苦しめているエイズの蔓延を阻止する」もまた脅かされている。 

ジュネーブに本部のある、国連エイズ合同計画(UNAIDS)事務局長のピーター・ピオット博士は、「エイズの支援金は潤沢だ」と繰り返し指摘されるのは誤解を招きかねないという。エイズ対策資金はなお不足しているというのが「厳然たる事実」なのである。

 昨年、世界的なHIV/エイズとの戦いの資金は大幅に増え、総計100億ドルに上り、2006年と比べて12%の増加となり、10年足らずで10倍に増えた。 

しかしそれでも昨年の不足額は81億ドルを超えていた。2008年にはその不足額がさらに拡大するおそれがある。 

12月1日の世界エイズデーを前にピオット事務局長は、「世界的な金融危機が支援の縮小という事態を招く懸念があり、そうなると途上国世界全般に、特にエイズ対策において、有害な影響をもたらすだろう」と語った。 

先週の時点で世界のHIV感染者は3,300万人。2007年の新たな感染者は全世界で270万人で、エイズによる死亡者は200万人だった。 

 「この疫病はいまだに対策を上回る勢いで広まっている」と、UNAIDS ニューヨーク事務所のバーティル・リンドブラード所長はタリフ・ディーン国連総局長の取材に応じて語った。 

「この病との戦いは延々と続いており、対策にも持続性が必要だ」とリンドブラード所長は続けた。 

「現在の新たな局面は、重大な課題も提示している。現在の気運を将来に持続させ、それを踏まえて今日の人々だけでなく今後20年30年後の人々のためにできる限り最善の成果を確実にもたらす体制を整えるという課題である」 

リンドブラード(BL)UNAIDS ニューヨーク事務所長とのインタビューの抜粋を以下に記す。 

IPS:低中所得国のHIVプログラムに対する支援資金は6倍に増えたにもかかわらず、世界では3,300万人がいまだにHIV感染者であり、昨年は270万人の新たな感染者が生じた。今日の世界的な状況をどのように考えるか。 

BL:エイズは時代を特徴づける問題であり、今日でもそうだが、21世紀を通じてずっと優先課題であり続けるだろう。というのもエイズは気候変動と同じように長期的で地球規模の影響を持つ地政学的な事象だからである。私たちは今、エイズ対策の新たな局面に入りつつある。初めて、エイズ対策が現実に成果を生み出している。 

特に深刻な影響を受けている国々で、HIVの予防と治療に関して大きな進展が見られた。低中所得国では今日、300万人以上が延命効果のあるHIV治療薬を利用できている。 

UNAIDSの2008年版エイズ報告書によると、2007年の新たな感染者は、前年の300万人から270万人へと減少した。原因の一つとして、多くの国で人々が、安易に性行為をしない、性行為の相手を減らす、性行為の時には避妊具を使用する、など性行動を変化させ始めたことがあげられる。HIVに感染して生まれる子どもの数も減った。子どもへのHIV感染を防ぐための医療サービスが必要な女性の33%は、そうしたサービスを利用できている。 

こうした事実は端緒に過ぎない。この世界規模の疫病は感染者の割合(有病率)については横ばいとなったが、それでもHIV感染者の総数は世界で3,300万人に増えており、毎日7,500人近くが新たに感染している。 

エイズ禍は世界のどの地域でも終焉を迎えていない。新たに治療を受ける2人ごとに、5人の新たな感染者がいる。さらに、ドイツ、英国、オーストラリアなどで報告されているように、流行が収まったと思われている地域で新たなHIV感染者の数が増えている。 

IPS:国連の最優先課題の一つであるミレニアム開発目標(MDGs)は2015年までにエイズの蔓延を阻止すると提唱している。潘基文国連事務総長は現在の金融危機が全てのMDGsを揺るがせる可能性があると懸念している。今回の経済危機には、エイズとの戦いへの影響もあるだろうか。 

BL:何の手だてもなく資金不足の犠牲になるのは承服できない。この先数年間の死者が数百万単位で増えることになり、一方で予防が後手になれば感染者がさらに増えてその後のコストがいっそう増大する。支援国および各国政府はエイズ対策を持続し拡大するために全力を尽くし続けることが不可欠である。それができないと、数百万の人々が悲惨な状況に陥る。これまでの膨大な投資もまったく無効になってしまうし、2015年という期限までにMDGsを実現するという気運をそぐことになる。 

資金拠出が制約される時期においては、プログラムのいっそうの効率化および実施の強化もかつてないほど重要になってくる。援助国および被援助国政府双方による、2005年の援助効果向上に関するパリ宣言の完全な実施が必須である。 

IPS:過去数年にわたり、世界の全HIV患者の半数を女性が占めている。改善が遅れているのはなぜか。経済的な問題か、それとも政治的な、或いは、文化的な問題か。 

BL:HIVは、特に女性の間で蔓延し、影響が強まるという状態が続いている。これは男女の不平等、婦女子に対する執拗な汚名や差別、HIVに対する女性の脆弱性を緩和するための権利拡大の欠如などの、根深い要素による。 

女性をHIVに対して脆弱にし、病の影響(特に看護の分野)を過度に負わせている社会的、文化的、経済的な要素は、各国のエイズ対策にとって大きな障害となっている。 

IPS:国連の積極的な運動にもかかわらず、多くの国がHIV患者を保護する法律を持たないことから、エイズに押された社会的烙印ははびこっている。世界には反差別法の成否の例はあるのか。 

BL:67%もの多数の国がHIV感染者を差別から保護する法律を備えていると報告している。たとえばナミビア議会は2007年に可決されたナミビアの労働法案でHIVを差別の禁止基準に含めた。 

バハマ、マラウィ、南アフリカ、ジンバブエの法律は民間企業の雇用の条件としてHIVテストの強制を認可していない。カンボジア、ガイアナ、その他では、質の高い医療を平等に受けるHIV患者の権利を法律で明記している。 

けれどもこうした法律の実施レベルはこれまで実証されていない。さらに、2008年6月のエイズに関するハイレベル会議の際、国連事務総長等が国連加盟国にHIV感染者に課せられた旅行規制を解除するよう求めたが、63カ国がいまだにHIV患者というだけで入国、滞在、居住を何らかの形で規制している。 

いかなる理由があろうといかなる期間であろうとすべてのHIV患者の入国を認めないと宣言している国が8カ国あり、さらに短期滞在ビザの発券さえ拒否している国が5カ国ある。28カ国はHIV陽性と判明した時点で患者を国外退去させている。(原文へ) 
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩