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|欧州|ガス供給停止と政治的冷え込み

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【ブダペストIPS=ゾルタン・ドゥシジン】

経済危機に苦しむロシア、破綻寸前のウクライナ。中央ヨーロッパとバルカン半島を凍えあがらせる紛争の責任がどこにあるのか誰も断言できない。

ウクライナの支払い遅延、ロシア国営ガスプロムのガス供給停止という応酬は2006年以来、毎年恒例となっている。ウクライナのパイプラインに供給されるガスの80%が欧州向け。ロシアはウクライナがガスを抜き取っているとして供給を停止する。

ロシアのプーチン首相はガス供給の再開条件として、EUの監視団派遣を挙げている。「この監視団は12月に派遣すべきだった。EUは過去の教訓を活かしていない」とIPSの取材に応じたハンガリー国際関係研究所のAndrás Deák氏は言う。


ほとんどの欧州諸国が1,000立方メートルあたり400ドルでガスを購入しているのに比べ、ウクライナの購入価格は179ドル。ロシアは250ドルまでの値上げを迫っており、2009年の供給契約は成立していない。

ウクライナはガスプロムへの15億ドルの支払いに中央銀行の資金を使い、2009年にも金と外貨を使い果たして債務不履行となるおそれがあるとユーシチェンコ大統領は言う。しかし、ガスパイプラインのロシアへの売却は拒否している。

ウクライナ国内でエネルギー政策は政争の具になっていると報道機関は指摘する。「期限前議会選挙の可能性が大きくなるなか、ガスの値上がりにつながる契約にサインしようとする者はいない」とDeák氏は言う。一方、世界規模の経済危機は欧州のガス会社の買い控えという形でロシアにも及んでいる。

もっとも影響を受けているのが、備蓄施設を持たず100%をロシアのガスに頼っているバルカン諸国である。ボスニア、チェコ、スロバキア、ハンガリー、オーストリア、ブルガリア、クロアチア、マケドニア、セルビア、ギリシャにも深刻な影響が及んでいる。

このような事態は経由地としてのウクライナの地位を脅かし、信頼できる供給元としてのロシアの地位をも脅かしている。

ロシアによるウクライナへのガス供給停止問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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ロシア・ウクライナ間でガス紛争発生

|ロシア|熊(ロシア)が反撃開始

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【モスクワIPS=ケスター・ケン・クロメガー】

ソ連の専制政治終焉後の困難な18年を経て、ロシアは着実に国際舞台に戻ってきた。

「失われた10年」と言われる エリツィン政権後に起きた プーチン政権での急速な発展は、プーチン首相/ メドベージェフ大統領の政権で引き続き発展する期待を持たれている。

しかし、ロシアは、米国オバマ大統領の選任と時を同じくして起こった景気後退と、近隣共和国グルジアウクライナに代表される東欧への 北大西洋条約機構(NATO)拡大の脅威という新たな難問に直面している。

「現ロシア政権は、近隣共和国をはじめとして世界に対し、より断固たる姿勢を示そうとしている。米国主導でグルジアとウクライナをNATOに加盟させようという動きに堪忍袋の緒を切らしたロシアがグルジアで起こした最近の軍事行動は、その証であり、ロシアの威光を高めた。」と米国の軍事・外交専門家のカーペンター氏はIPSに語った。

ロシア政府高官は、世界開発プログラムへの提供資金の増額、世界最貧国への支援金増額、アジア、アフリカでの教育プログラムなどや中南米への資金提供をロシアが実施してきていることを宣伝し、NATO拡大阻止の対策のひとつとしている。

しかし、最新の世界状況はロシアの影響力を低下させるかもしれない。「より確固たる役割を果たしたいにもかかわらず、ロシアの力は、どちらかというと制約を受けている。石油、天然ガスなどの価格が急騰していたときとは違って、それらの価格が暴落した今では、ロシア政権の力は6か月前よりはるかに弱体化し、軍備増強は難しく、世界への影響力拡大は遅れるだろう。」とカーペンター氏は言う。

世界危機について、メドベージェフ大統領は、世界の国々が協力して対応する必要があり、「信用回復なしには、長期ベースで建設的な二国間外交構築の可能性を実現することはできない。」と述べた。しかし、ロシアの金と金属通貨保有量は世界第3位であり、ロシアが嵐を乗り切る助けになるだろうと付け加えた。

ロシア現政権の世界への影響力拡大戦略と世界経済危機の影響について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|国連|戦争も平和もメディア次第

【国連IPS=ナスターシャ・ホフェット】

2003年にラジオとテレビの放送局であるリブレデミルコリーヌ社の二人の記者がルワンダ大虐殺の戦争責任を問う裁判で有罪判決を受けた。紛争期間中にメディアが憎しみをあおるような内容の報道を行うことの危険性が浮き彫りになった判決である。この判決は1993年から94年にかけての同社の報道内容が「ルワンダにおける憎しみをあおり、大量虐殺につながった」ことに基づいており、ニュルンベルグ裁判における反ユダヤ主義報道に対する有罪判決以来初のメディアに対する有罪判決である。

専門家は国連開発計画(UNDP)や世界銀行や国連平和構築委員会などの国際機関が紛争当事国のメディアと協力して適切な対応を取る必要性を指摘している。

紛争を専門とするNGOであるサーチフォーコモングラウンドの代表は「紛争地域においては対話型のコミュニケーションを確立し、政治で決まったことを国民に伝え、国民のニーズ、怖れ、願いなどを政府に提案しやすくすることが有効だ。現状では予算不足で平和構築にメディアが貢献するレベルに達していない。」と述べた。

 コミュニケーションは紛争の再燃防止や治安の維持にも有効であると言う国連広報担当者の指摘もある。

国連平和維持軍は国連全体の半分近くの予算を割り当てられているにもかかわらず派遣先の国において平和維持軍が公共メディアを整備するための予算はごくわずかにとどまっている。

国連開発計画のメディア開発担当者は動員解除や和解や選挙にメディアは積極活用すべきだと指摘する。また平和構築委員会も場当たり的な緊急時だけの対策でなくメディアを視野に入れた紛争対策を考えるべきだとも述べた。

米国平和研究所の代表者は様々な機関同士の連携不足を指摘する。いろいろなプログラムの経験を機関間で共有できるような用語の統一や戦略的枠組みなどが予算不足のため整備できない状態である。

紛争後の選挙により樹立された新しい政府の認知度を高め国民の意見をフィードバックするのがメディアの役目である。たとえばボスニアの紛争後ラジオやテレビの広報活動が効を奏し国内避難民が帰還することができた。1998年に北アイルランドの国民投票で聖金曜日協定が可決されたのもメディアに負うところが大きかった。

とは言え、メディアのインフラが破壊されていたり紛争以前に存在すらしていなかった場合はメディアを活用することはできない。国際機関が全国を網羅するメディアのインフラ整備を支援するべきである。

国連平和維持軍はシエラ・レオネで2000年にRadio UNAMSILと言うラジオ局を開局した。国連は政府が独立の放送局を運営できるようになるまで平和維持軍撤退後も政府がUNAMSILの運営を続けるとの合意を取り付けた。

たいがいの紛争当事国は紛争後メディアを設立する余裕など無いのだから国連が再建戦略を行う上でメディア開発を最優先課題に据え、資金援助を取り付けるべきである。

報道内容とジャーナリズムの公正さを大切にするために研修も重視しなければならない。

紛争問題を専門とするNGO代表者は「私たちは技術支援を行うことでジャーナリストを育て、いろいろな人たちの声を世の中に訴えていきたいと思う。」と述べた。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

|米国-中東|メディア、重要な時期に「ガザに盲いて」

【ワシントンIPS=ジム・ローブ、アリ・ガリブ】

新聞・テレビを含む米主流メディアは、11月4日の米大統領選挙の報道に全精力を注ぎ、同日のイスラエルによるハマス攻撃に関する報道は極めて限られたものだった。

しかしこのイスラエルによる軍事行動は、エジプトの仲介により2008年6月19日に発効、以来およそ4カ月半にわたってほぼ維持されてきた停戦に致命的な打撃を与えたようである。

ハマスはこのイスラエル側の攻撃に報復して、翌5日イスラエル領に35発余のロケット弾を撃ち込み、イスラエルは過去17カ月間の対パレスチナ経済封鎖をさらに強化する事態となった。

 「両者ともに停戦協定を完全に遵守していたわけではないものの、イスラエルによるこの襲撃が最大の協定違反だ」とサンフランシスコ大学のスティーヴン・ズーンズ教授は指摘する。「あの襲撃は大変大きな挑発であり、今から考えればハマスの停戦破棄を誘い出すことを意図したものであったと思う」と述べている。

12月27日にイスラエルがハマス支配のガザ地区空爆を開始した際には、とりわけテレビ・新聞のコメンテーターをはじめ米主要メディアは、停戦違反の責任について、イスラエル領に対するロケット・迫撃砲攻撃を継続し、12月19日に期限が切れる停戦協定の延長を拒否したハマス批判に終始した。

こうしたメディアの論評は、政府高官が米国内のネットワークおよびケーブルテレビのニュース番組に出演するなどイスラエル側の広報戦略に一致するものである。たとえば、イスラエルのリブニ外相はNBCの日曜日政治対談番組「ミート・ザ・プレス」に出演し、ハマス側の停戦違反を主張。11月4日のイスラエル側の攻撃には一切触れずに終わるとともに、番組にはその発言に反論するパレスチナ側のゲストの出演はなかった。

メディア監視団体FAIR(公正で正確な報道)の理事ピーター・ハート氏は「11月4日の襲撃は本質的に、主流メディアの集合的記憶にほとんど存在していない」と述べ、大統領選の報道で賑わうなかイスラエル側の襲撃に関する報道は限られるだろうことをイスラエルは承知していたかもしれないと指摘している。

米主流メディアにおけるイスラエル・ガザ攻撃報道の欠落について報告する。(原文へ

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩

|アルゼンチン|暴力的な警察、「若者と貧困者」が犠牲に

【ブエノスアイレスIPS=セバスティアン・ラクンサ】

アルゼンチンでは、独裁的軍政から民政に移管された1983年からこの25年間に、警察署や刑務所における虐待、即決処刑、あるいはすぐに発砲する警察官などによる死亡者が2,557人を数えることが、弁護士を中心メンバーに警察の虐待による被害者擁護のために活動する団体「警察および制度上の抑圧に対抗する協会」(CORREPI)の最新年次報告書(2008年末発表)で明らかにされた。

CORREPIは、被害者の大半は「暴力の横行する貧困地区に暮らす浅黒い肌の若者」と説明、被害者の2分の1以上が25歳未満、3分の2が35歳未満であるとしている。 

CPRREPIのグスタヴォ・フィログラッソ氏はIPSの取材に対し「警察の虐待による犠牲者2,557人は氷山の一角。実際はもっと多い」とし、次のように語った。「これは不法な抑圧の話ではない。次々と承認されている立法改革によって合法化されつつある国家による抑圧なのだ」 

CORREPIは、2003年から2007年までのキルチネル政権そしてその夫人クリスティーナ・フェルナンデス・キルチネルが大統領に就任した現政権こそ、最大の抑圧の責任者と結論づけている。

 フィログラッソ氏によれば、この2政権は1976年から1983年までの独裁政権中における人権侵害の責任者の裁判を促進する政策で評価されているにもかかわらず、治安当局の手による死亡者が最大だという。 

ただ、このCORREPIの結論に対し、他の主要人権団体には異なる見解も見られる。訓練や武器に関してだけでなく、権限や士気に関しても、警察は不活性化されており、犯罪者の権利を擁護するための施策は間違っているとの声も聞かれる。 

アルゼンチンにおける警察の虐待による被害者について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

ロシア・ウクライナ間でガス紛争発生

【モスクワIPS=ケスター・ケン・クロメガー】

ロシアのガスプロム社とウクライナとの間でガスの価格をめぐる交渉が不調に終わり、1月1日、ロシアのプーチン首相は、ガスプロムに対してウクライナへのガス供給量を減らすよう命じた。

ロシアは、本来であればウクライナを経由して欧州連合(EU)各国に向かうはずのガスをウクライナが途中で抜き取っているとの疑いをかけている。ウクライナはこれを否定している。

またロシアは、ウクライナに供給したガスの代金が不払いであると主張し、同時に、今年については適正な価格を求めていくとしている。EU各国は現在1000立方メートルあたり500ドルを支払っているが、ウクライナには450ドルを要求している。

EUはガス供給の4分の1をロシアに依存しており、そのうち80%がウクライナ経由だ。ウクライナへの供給量低下は、さっそくEU各国にも影響を及ぼしている。

たとえば、ルーマニアでは33.8%、トルコでは22%、ギリシャでは15.9%、それぞれガスの供給量が減った。東欧では平均して24.7%の減少である。

欧州各国はロシア以外のエネルギー源を模索し始めている。エストニアのウルマス・パエト外相は、EUはガスプロムへの依存を低め、共通のエネルギー政策を持たねばならない、とテレビで語った。と同時に、現在のEU議長国であるチェコがこの問題に関与しない方針を採ったことに驚きを示した。

ロシアによるウクライナへのガス供給停止問題を取り上げる。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|東アフリカ|魚の頭さえ手に入らない

【ジンジャ(ウガンダ)IPS=ワンビ・マイケル】

ビクトリア湖には、英国の植民地であった1950年代に、肉食のナイル・パーチが持ち込まれた。以来、在来生態系を破壊している。ウガンダ、ケニア、タンザニアはナイル・パーチを欧州に大量に輸出し、外貨獲得という意味ではコーヒー、綿花といった換金作物をしのぐほどである。例えばウガンダからは20か所の加工工場が年間3万トンを輸出し、1億5,000万ドルを稼いでいた。

 しかし乱獲がすすみ、漁獲量が激減し、価格が高騰しているために、近隣4,000万人の生活が脅かされている。ウガンダの漁業担当官によると、2007年の輸出は1億1,730万ドルで前年より1,940万ドル減少した。輸出も2005年以来、6,000万ドルの減少である。同担当官によると、地域の加工工場は稼働率が30-50%で、輸送費と燃料費の上昇が追い打ちをかけている。 

すでに食糧危機によって、ウガンダの首都カンパラでは、1キロ0.5ドルだったナイル・パーチが3.5ドルになっていた。そのため人々は欧州向け輸出に切り身を取った後の、頭や骨を買っていた。しかしそれすら今では買えなくなっている。コンゴ民主共和国、中央アフリカ共和国、南スーダンへ輸出されるようになったのだ。 

東アフリカ共同体とウガンダ、ケニア、タンザニア3カ国によって1994年設立されたビクトリア湖漁業機構(Lake Victoria Fisheries Organization:LVFO)は、ビクトリア湖の資源管理を目的とする。LVFOのニエコ氏は、「2005年以来登録船舶数は16%増加し、加工工場の稼働を挙げるために、より遠くまででかけ、違法な漁法を用いてさえいる。」と指摘している。かつては一度に100キロの水揚げのあった漁師も、今では20-30キロしか獲れない。湖の島々で薪を集め、売るようになった人もある。 

ビクトリア湖内の領域はウガンダが43%、ケニアが6%、タンザニアが51%有する。ケニアの船舶は毎日推定300隻がウガンダ領域に入っている。逮捕され、乗組員が拘留されたこともあった。ウガンダはケニア及びタンザニアが無策で、多くの協定が無視されていると批判している。昨年10月、LIVOの大臣レベル協議では、保護区を作ることも検討された。 

資源の枯渇が地域経済を圧迫し、近隣国との間で紛争の種ともなりかねないビクトリア湖の漁業について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩 

|米国|米3大ネットワークの2008年海外報道、最低を記録

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

権威あるティンドール・レポートが発表した最新の報道年次報告によると、米兵20万人強が関係する2つの戦争およびグローバル経済危機にも拘わらず、米3大テレビ局による2008年外国関連ニュースは最低を記録した。

大統領選および石油高騰、その後の金融危機の国内影響報道に押され、米市民の殆どが国内/国際ニュースの第1情報源としている3大ネットワークの夜30分のニュース番組が取り上げた国際/海外問題は、同報告が始まった1988年以来最も少なかった。

ティンドールの創設者で発行人のアンドリュー・ティンドール氏は、IPSに対し「2008年は国内ニュースにとって特別な年であったので、1年後には、国内ニュースが比較的少なければ外国報道がもり返すのか、あるいは2008年の傾向が大手メディアの真の転換期であったのかを検証する」としている。

 「大きな選挙がなく、経済問題も解決されれば国際ニュースは復活するだろう。あるいは、世界のニュースに関心のある人は、インターネットを更に活用することになるかも知れない。そしてテレビ・ネットワークは‘国際問題に関心のある個人はどうぞインターネットへ’と言うかも知れない」と同氏は語る。

約2,300万人の米国居住者は、平日夜の3大ネットワーク・ニュース番組を22分見ている。CNN、フォックス・ニューズ、MSNBCを含むケーブル・ニュースを見ている視聴者の数は大幅に増加しているが、ネットワーク・ニュースの視聴者は依然10倍に上る。

ピュー・リサーチ・センターが先月発表したピープル&ザ・プレスのための最新調査では、2008年には約70パーセントの人がテレビを国内/国際ニュースの主要情報源にしていたという。また、インターネットが、国内/国際ニュースの主要情報源として、特に若者の情報源として日刊紙を上回ったという。

ABC、CBS、NBCの3大ネットワークは国内/国際ニュースに年間合計約15,000分を、あるいは夜の30分ニュース番組のうち約22分を費やしている。

同報告書によれば、2008年に最も多く取り上げられた話題は大統領選で、放送時間は約3,700分。少なくとも1988年後のどの大統領選よりも多く報道された。

住宅市場低迷、ガソリン価格高騰から9月中旬の金融危機とその後の救済策といった経済関連報道は約2,800分と過去21年間で最も多く、1990年および2001年の2回の不況時と比べ放送時間は約1,000分多かった。

ティンドール氏によれば、国際関係報道は約1,900分で、共和党議会がビル・クリントン大統領の国際課題、特に国連および他の多国参加フォーラムへのコミットメント抑制に成功した1990年代中頃のレベルに近かったという。

同氏は、「9・11後に皆が、国内問題に没頭する余り90年代にグローバルな展望を持たなかったことは大きな誤りだったと言った。ネットワーク・メディアは、世界、特にイスラム世界の報道に大きな努力を払ったが、それは、2001年以来最低の国際報道となった昨年のレベルにまで落ち込んでしまった」と語る。

3大ネットワークの2008年報道トップ20では、未だ13万人を超える米兵が派遣されているイラク戦争が放送時間244分で、海外トピックの第1位。オバマ次期大統領、ジョン・マケイン氏、ヒラリー・クリントン氏の選挙戦、金融安定化策、石油/ガソリン価格、株の暴落に次いで7位にランクされた。

しかし、244分は、合計約1,200分の2007年イラク戦争報道と比べればほんの僅かである。7月に発表された特別報告書の中で、ティンドール氏は当時のイラク米司令官デイビッド・ペトレイアス大将が議会公聴会において「拡大」戦略を首尾よく擁護してから2007年9月までのイラク報道急減を追った。

2003年から2007年末まで、3大ネットワークは同戦争を毎週平均31分放送したが、昨年は平均僅か6分となった。ニューヨーク・タイムズは先週、3大ネットワークはバグダッドへの正規雇用特派員派遣を停止した旨明らかにした。実際、昨年の244分ののうちイラクからの中継は僅か88分であった。

海外トッピック第2位、全体第9位は、放送時間236分の北京オリンピックであった。しかし放送のほとんどは米国選手のメダル獲得に集中していた。更に、そのスポーツ部局が米国への独占放送権を所有していたNBCの北京放送は他の2社を大幅に上回っていた。

同報告書のトップ20にランクされていた他の外国トピックはアフガン戦争で、放送時間126分、第17位。米国を襲った竜巻の報道と同位であった。2008年は、米国およびNATOの7年に及ぶ戦闘の最悪の年であった。そして、米政府が今後約6か月間で兵士35,000人を派遣し約6万人とすれば、同戦争は2009年の海外トピック第1位となろう。

他の海外トピックには、オリンピック直前の中国四川大地震(119分。うち94分は中国からの報道)、先月のムンバイ同時多発テロ(70分。うち40分はインドからの報告)、ミャンマーのサイクロン・ナルギス(65分)、ロシア・グルジア紛争(53分。うち44分は外国通信)、イスラエル・パレスチナ紛争(47分)、ジンバブエ情勢(47分。うち26分は市域からの報道)などが含まれる。

フォーリン・ポリシー・マガジンの編集者モーゼス・ナイムはネットワークの国際報道激減を憂慮している。「国際的性質の金融危機に直面している時に、この国が2つの戦争を行っているとは、また国民の運命が米国の国境を越えて起こる事柄にこれまでになく深く関係している時にネットワークが外国報道の削減を決定するとは、皮肉かつ矛盾している」と同氏は語る。

ナイム氏は、過去2年間急激に発行部数、広告収入が減っている新聞は、海外支局を閉鎖していると指摘する。(しかし)「これは国民にとっては残念なことだが、我々のような雑誌には良いことだ」という。

実際、ピューのジャーナリスム向上プロジェクト(Project for Excellence in Journalism)が7月に発表した報告書によれば、米新聞の2/3が海外ニュースの報道紙面を縮小したという。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩


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|キューバ|孤立から中南米諸国仲間入りへ

【ハバナIPS=パトリシア・グロッグ】

2008年キューバは活発な外交政策を展開し、実り多い成果を得た。2月にキューバの大統領に就任した前大統領フィデル・カストロ氏の弟ラウル・カストロ氏は初の公式訪問国としてベネズエラとブラジルを選び、ラテン・アメリカ諸国やカリブ海諸国と統合する意思を表明する一方で中国やロシアとの外交関係も維持する構えを見せた。 

12月16日から17日にかけてブラジルで開かれた初の統合と開発に関するラテン・アメリカおよびカリブ海諸国首脳会議においてキューバは地域の21カ国が加盟する政治討議と調整フォーラムであるリオグループに正式加盟を認められた。

 この地域が完全に統合を全うするにはキューバを排除している米州機構を解体し、米国の介入を受けないラテン・アメリカの組織を設立することが必要だと考えられている。1962年に米国の圧力を受けた米州機構はキューバが共産主義国であることを理由に同国の排除を決定した。メキシコ以外の中南米地域の政府はすべてキューバとの外交関係を断交した。 

その後の50年間は1998年に当時大統領だったフィデル・カストロ氏が認めているようにキューバはメキシコを除いた地域の全ての国における武装革命運動を支援してきた。1975年に米州機構は加盟国にキューバとの外交、通商、領事関係を断行するよう求めた1962年の決議を修正した。これによりエルサルバドル以外の国々との関係は次第に正常化に向かうことになる。 

1990年代には国連人権委員会でキューバを非難する姿勢がとられたため再び中南米諸国との対立が表面化した。メキシコとの関係においては2000年から2006年までのフォックス氏のメキシコ大統領在任期間中は険悪であった両国関係も後任のカルデロン氏が大統領に着任してからは親交が深まり、2009年には相互の公式訪問が予定されている。 

キューバは現在ではエルサルバドルとコスタリカの2カ国とは領事関係を持つのみにとどまっているものの他の全ての中南米諸国との関係は良好である。また2008年の国連総会では米国による禁輸解除措置に対して多くの賛成票を(賛成185カ国、反対3カ国)得ている。 

1990年代以来、キューバは医療や教育の分野で中南米、カリブ海諸国と協力を強化している。1999年に創設されたキューバの医大には中央アメリカの27カ国から集まった学生が学び、2005年には1612人の医師が卒業し、母国で非営利の活動を行うことを志している。このような姿勢はキューバによる地域貢献の証であるとして評価されている。フィデル・カストロ自身も武装蜂起は革命の目的を果たすのに、もはや現実的手段ではないと1993年に述べている。現在84歳のフィデルしは大統領職を辞し、与党共産党の第一書記を務めている。 

ラテン・アメリカ諸国やカリブ海諸国と統合する意思を見せたキューバ現政権について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|ラテンアメリカ|老齢者のエイズ感染リスク高まる

【ブエノスアイレスIPS=マルセラ・ヴァレンテ】

エイズ予防キャンペーンは、感染者の大半を占める若者を対象とする傾向があるが、ラテンアメリカの専門家は、性生活の活発化傾向にある年配者のリスクが見落とされていると警告する。 

7月に発表された国連エイズ合同計画(UNAIDS)の2008年報告書によれば、ラテンアメリカ/カリビアンのHIV感染者は190万人で、前年に比べ16万人増加したという。但し、同統計には50歳以上は含まれていない。

 しかし、ブラジル保健省によれば、2000年から2007年の間に50歳から59歳の女性感染者数は2倍に増加。60歳から69歳の女性については88パーセント、70歳以上は190パーセント増加しているという。男性も、女性程ではないが増加の傾向にある。NGO「ブラジル学際エイズ協会」(ABIA)のヴェリアノ・テルト会長は、「これが新たな感染か、過去の感染がたまたま発見されたのかは分からない」としているが、アフリカ系女性組織「マリア・ムリェール」のマリア・ルイザ・ペレイラ氏は、年配女性のエイズ感染は急増していると語る。「既婚カップルの性行為は安全と思われているが、婚外性交もあり得る。しかし、既婚女性が夫にコンドーム使用を説得するのは難しい。また、年をとると妊娠のリスクが減ることからコンドームを使用しなくなり、女性の感染リスクは一層高くなる」と同氏は言う。 

メキシコのHIV/エイズ予防管理センター(CENSIDA)によれば、同国のHIV陽性者の11.7パーセントは45歳以上という。老人学の専門家アグスティン・ポランコ氏は、バイアグラの出現で老齢者の性生活が活発になっており、今後さらに感染者数が増加するだろうと語っている。 

ブエノスアイレス州ルハン大学のリリアナ・ガストロン氏は、「閉経後は膣組織が弱くなり、体内へのビールス侵入リスクは一層高まる」という。 

最近アルゼンチンで開催された「退職者および年金生活者のための社会サービス研究所」主催の専門家会議で、ガストロン氏は年配女性の感染リスクについて説明したが、参加者の反応は驚きばかりで現象把握は不十分であったという。ガストロン氏は、「国際機関でさえ、老齢者は中性化し、特定の年齢に達すると性的欲求は無くなるとの先入観を持っている。バイアグラの出現で老人の性行為も増えている。禁欲主義を唱える訳ではないが、バイアグラを処方する際に、予防カウンセリングをする必要があるだろう」と語っている。 

メキシコの「HIV/エイズ感染者戦線」は、年配者のための特別キャンペーンの必要を訴えている。 

見落とされている年配者のエイズ感染リスクについて報告する。(原文へ


翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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